特許第6394752号(P6394752)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6394752-電線およびその製造方法 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6394752
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】電線およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/04 20060101AFI20180913BHJP
   H01B 7/02 20060101ALI20180913BHJP
   H01B 3/44 20060101ALI20180913BHJP
   H01B 13/14 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   H01B7/04
   H01B7/02 Z
   H01B3/44 B
   H01B3/44 P
   H01B13/14 Z
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-126344(P2017-126344)
(22)【出願日】2017年6月28日
(65)【公開番号】特開2018-63935(P2018-63935A)
(43)【公開日】2018年4月19日
【審査請求日】2017年7月11日
(31)【優先権主張番号】特願2016-202062(P2016-202062)
(32)【優先日】2016年10月13日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 仁
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 明美
(72)【発明者】
【氏名】花房 幸司
【審査官】 神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−225837(JP,A)
【文献】 特開2010−129405(JP,A)
【文献】 特開2010−055925(JP,A)
【文献】 特開2002−212378(JP,A)
【文献】 特開2012−146409(JP,A)
【文献】 特開2002−100239(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/04
H01B 3/44
H01B 7/02
H01B 13/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、前記導体を覆うポリ塩化ビニル樹脂を含有する絶縁体と、を備え、
前記導体が、複数本の導体素線を3段階以上に撚り合わせた撚線からなり、
前記導体素線の素線径が0.15mmより小さく、
前記導体の断面積が20mm以上であり、
前記導体を前記絶縁体から引き抜く力が8N以上12N以下であり、
前記絶縁体が、可塑剤をポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して、60質量部以上90質量部以下で含有し、
前記導体と前記絶縁体との間に、前記絶縁体の引き落とし成型による隙間が形成された、電線。
【請求項2】
前記絶縁体が、可塑剤をポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して、70質量部以上90質量部以下で含有する、請求項1に記載の電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、導体と該導体の外周を被覆する絶縁体とを有しており、上記絶縁体は、塩素化塩化ビニル系樹脂と塩化ビニル系熱可塑性エラストマーとを含有することを特徴とする絶縁電線を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−225837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
太物の電線において、フェライトコアに数回容易に巻きつけることができるような柔軟性が求められている。
【0005】
本発明は、太物で柔軟な電線およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電線は、
導体と、前記導体を覆うポリ塩化ビニル樹脂を含有する絶縁体と、を備え、
前記導体が、複数本の導体素線を3段階以上に撚り合わせた撚線からなり、
前記導体の断面積が20mm以上であり、
前記導体を前記絶縁体から引き抜く力が2N以上20N以下である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、太物で柔軟な電線を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係る電線の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本願発明の実施形態の内容を列記して説明する。
本願発明の実施形態に係る電線は、
(1)導体と、前記導体を覆うポリ塩化ビニル樹脂を含有する絶縁体と、を備え、
前記導体が、複数本の導体素線を3段階以上に撚り合わせた撚線からなり、
前記導体の断面積が20mm以上であり、
前記導体を前記絶縁体から引き抜く力が2N以上20N以下である。
この構成によれば、太物で柔軟な電線を提供することができる。
【0010】
(2)また、(1)の電線は、
前記導体素線の素線径が0.15mmより小さい。
この構成によれば、より柔軟な電線を提供することができる。
【0011】
(3)また、(1)又は(2)の電線は、前記絶縁体が、可塑剤をポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して、60質量部以上120質量部以下で含有する。
この構成によれば、さらに柔軟な電線を提供することができる。
【0012】
(4)また、(1)又は(2)の電線は、前記絶縁体が、可塑剤をポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して、70質量部以上120質量部以下で含有する。
この構成によれば、さらに一層柔軟な電線を提供することができる。
【0013】
(5)また、(1)〜(4)のいずれかの電線の製造方法は、
前記絶縁体を、引き落とし成型により前記導体に被覆する製造方法である。
この構成によれば、特に柔軟な電線を提供することができる。
【0014】
[本発明の実施形態の詳細]
続いて、添付図面を参照しながら、本発明の電線およびその製造方法に係る実施の形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る電線の一例を示す断面図である。図中、1は電線、2は導体、21は第一撚線、22は第二撚線、23は第三撚線、3は絶縁体、を示す。本実施形態の電線1は、導体2と、導体2を覆う絶縁体3とを備える。
【0015】
導体2は、断面積が20mm以上であり、第二撚線22が7本撚り合されて構成される第三撚線23からなる。第二撚線22は、第一撚線21が7本撚り合されて構成される。第一撚線21は、金属からなる複数本の導体素線が撚り合されて構成される。このような3段階に撚り合わせた構成とすることで、導体間に隙間ができるため、柔軟性を確保することができる。
【0016】
導体素線は、特に限定されないが、例えば、銅、銅合金、錫メッキ銅、アルミニウム、アルミニウム合金等から構成される。また、導体素線の径は0.15mmより小さいことが好ましい。細径の導体素線を用いると、素線自体が柔軟なためより柔軟な電線を得ることができる。導体素線の径は0.1mm以上であってもよい。
【0017】
第一撚線21は、導体素線を複数本撚り合わせたもの(第一段階撚り)である。第一撚線21を構成する導体素線の本数、第一段階撚りの撚り方向及び撚りピッチは、本願の作用効果を損なわない範囲であれば特に限定されないが、AWG1やAWG1/0の電線であれば表1に示す範囲とすることが好ましい。
【0018】
第二撚線22は、第一撚線21を7本撚り合わせたもの(第二段階撚り)である。第二段階撚りの撚り方向及び撚りピッチも、第一段階撚りの場合と同様に、本願の作用効果を損なわない範囲であれば特に限定されないが、AWG1やAWG1/0の電線であれば表1に示す範囲とすることが好ましい。
【0019】
第三撚線23は、第二撚線22を7本撚り合わせたもの(第三段階撚り)である。第三段階撚りの撚り方向及び撚りピッチも、第一、第二段階撚りの場合と同様に、本願の作用効果を損なわない範囲であれば特に限定されないが、AWG1やAWG1/0の電線であれば表1に示す範囲とすることが好ましい。
【0020】
【表1】
【0021】
絶縁体3は、ポリ塩化ビニル樹脂を含有する。ポリ塩化ビニル樹脂の含有割合としては、特に限定されないが、例えば20〜80質量%、好ましくは20〜58質量%であるとよい。また、絶縁体3は、可塑剤をポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して、60質量部以上120質量部以下で含有してもよく、70質量部以上120質量部以下で含有するのが好ましく、70質量部以上90質量部以下で含有するのがさらに好ましい。これにより、絶縁体3のさらなる柔軟性を確保することができる。可塑剤としては、一般的に電線の絶縁体に用いられるものであれば特に限定されないが、例えば、トリメリット酸エステル(トリメリット酸トリス(2−エチルヘキシル)、トリメリット酸トリノルマルアルキル、トリメリット酸トリイソノニル、トリメリット酸トリイソデシル、トリメリット酸トリノルマルオクチル等)やポリエステル系可塑剤が挙げられる。
なお、絶縁体3には上記以外に、フィラー、難燃剤、酸化防止剤、安定剤、顔料等の各種の添加剤が1種又は2種以上添加されていてもよい。
【0022】
電線1は、3段階に撚り合わせた撚線からなる導体2を、引き落とし成型により絶縁体3で覆うことにより製造される。引き落とし成型により製造されると、導体2と絶縁体3との間に隙間ができて電線1の優れた柔軟性を得ることができて好ましい。絶縁体の厚さは0.6mm〜3.0mmとすることができる。
【0023】
電線1は、導体2を絶縁体3から引き抜く力(以下、引抜力とする。)が2N以上20N以下である。ここで、上述の引抜力は、電線の柔軟性と相関性があり、引抜力が小さいほど、電線の柔軟性が高くなる。引抜力が20N以下であると、フェライトコアへの巻き付けが容易となる。電線が柔軟性の点で引抜力が8.5N以下が好ましく、引抜力が8.3N以下がさらに好ましい。一方で、引抜力が2Nより小さいと、柔軟であるが、絶縁層に対して導体が動きやすく、絶縁体を除去するときに導体の露出長が一定にならないという問題が生じる。当該構成により、太物で柔軟な電線を得ることができる。
【0024】
上述の引抜力の評価は、次のように行う。まず、電線の絶縁体に切れ目を入れ、絶縁体を長さ方向に動かして剥がし、長さ22mmの被覆部と、長さ20mmの導体部に分かれた電線を作成する。そして、導体部を把持して、導体部を200mm/minの速度で引き抜き、22mm引き抜く間の最大値を引抜力(N)とする。
【0025】
図1を参考に本発明の実施の形態について説明したが、本発明の別の実施形態として、第三撚線23の外周に第二撚線22をさらに12本撚り合わせた第四撚線からなる導体、すなわち、複数本の導体素線を4段階撚り合わせた導体を備える電線としてもよい。この場合、第一〜第四段階撚りの撚り方向及び撚りピッチは、本願の作用効果を損なわない範囲であれば特に限定されないが、AWG2/0、AWG3/0やAWG4/0の電線であれば表2に示す範囲とすることが好ましい。
【0026】
【表2】
【実施例】
【0027】
次に発明を実施するための形態を実施例により説明する。実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0028】
表3及び表4に示す例1〜例7の構成の電線を引き落とし成型により作成し、例1〜例5の電線の引抜力及び柔軟性を評価した。すべての電線の絶縁体は、ポリ塩化ビニル樹脂100質量部、トリメリット酸トリス(2−エチルヘキシル)90質量部、安定剤10質量部、フィラー10質量部、難燃剤5質量部を含有するものを使用した。なお、例5〜7の第四段階撚りの「第二撚線本数」は、第三撚線の外周に撚られた第二撚線の本数を表す。
【0029】
引抜力
電線の絶縁体に切れ目を入れ、絶縁体を長さ方向に動かして剥がし、長さ22mmの被覆部と、長さ50mmの導体部に分かれた電線を作成する。そして、被覆部の一部分を把持して、導体部を200mm/minの速度で引き抜き、ロードセルで引抜力を測定し、22mm引き抜く間の最大値を引抜力とした。
【0030】
柔軟性
所定の長さの電線を曲率半径が100mmとなるようにU字状に曲げて、一組の板材の間に挟み、一方の板材を他方の板材に向けて接近させて、さらに曲率半径が50mmになるまで電線を折り曲げ、その際の反発力を柔軟性の指標とした。板の接近速度は100mm/min、評価の開始時の電線と板材との接触長さの合計を300mmとした。
なお、柔軟性と引抜力には相関が見られ、引抜力が20N以下であれば柔軟な電線であった。
【0031】
表3の結果から、導体の断面積が20mm以上であり、導体が複数本の導体素線を3段階以上に撚り合わせた撚線からなり、引抜力が2N以上20N以下である太物の電線が、柔軟であることがわかる。
【0032】
【表3】
【0033】
【表4】
【0034】
また、表3に示す例1の構成と同様である例8の電線と、絶縁体の組成が異なる以外は表3に示す例1の構成と同様である例9〜例12の電線と、を引き落とし成型により作成し、それぞれの電線の引抜力を評価した。例8〜例12の電線それぞれの絶縁体の組成及び引抜力を表5に示す。
【0035】
【表5】
【0036】
表5に示すように、絶縁体がトリメリット酸トリス(2−エチルヘキシル)をポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して、60質量部以上120質量部以下で含有する例8〜例11の電線は、引抜力が20N以下、より具体的には12N以下である。また、表5に示すように、絶縁体がトリメリット酸トリス(2−エチルヘキシル)をポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して、50質量部で含有する例12の電線は、引抜力が20Nよりも大きい。
【符号の説明】
【0037】
1:電線、2:導体、21:第一撚線、22:第二撚線、23:第三撚線、3:絶縁体
図1