特許第6394780号(P6394780)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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6394780燃料電池内部状態検出システム及び状態検出方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6394780
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】燃料電池内部状態検出システム及び状態検出方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04 20160101AFI20180913BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20180913BHJP
   G01N 27/02 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   H01M8/04 Z
   H01M8/10
   G01N27/02 Z
   G01N27/02 C
【請求項の数】11
【全頁数】43
(21)【出願番号】特願2017-503261(P2017-503261)
(86)(22)【出願日】2015年3月3日
(86)【国際出願番号】JP2015056266
(87)【国際公開番号】WO2016139761
(87)【国際公開日】20160909
【審査請求日】2017年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小高 敏和
(72)【発明者】
【氏名】青木 哲也
【審査官】 橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/088463(WO,A1)
【文献】 特開2012−78339(JP,A)
【文献】 特開2013−258042(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/057868(WO,A1)
【文献】 特開2013−191362(JP,A)
【文献】 特開2002−367650(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N27/00−27/10
27/14−27/24
H01M8/00−8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池のインピーダンス値に基づいて前記燃料電池の内部状態を検出する燃料電池内部状態検出システムであって、
前記内部状態の指標として推定対象状態量を設定する推定対象状態量設定手段と、
前記燃料電池のインピーダンス値を取得するインピーダンス値取得手段と、
前記取得されたインピーダンス値が前記推定対象状態量の算出に使用可能であるか否かを判断するインピーダンス使用可否判断手段と、
前記インピーダンス使用可否判断手段により前記インピーダンス値が前記推定対象状態量の算出に使用可能であると判断されると、前記取得されたインピーダンス値に基づいて、前記推定対象状態量設定手段により設定された推定対象状態量を算出する推定対象状態量算出手段と、
前記インピーダンス使用可否判断手段により前記インピーダンス値が前記推定対象状態量の算出に使用可能ではないと判断されると、使用不可能時処理を行う使用不可能時処理実行手段と、を有し、
前記インピーダンス値取得手段は、3つ以上の周波数に基づくインピーダンス値を取得し、
前記インピーダンス使用可否判断手段は、取得された3つ以上のインピーダンス値の少なくとも一つが、複素平面上のインピーダンス線における円弧領域に属するか、又は非円弧領域に属するかを判定し、該判定結果に応じて、前記インピーダンス値が使用可能であるか否かを判断する燃料電池内部状態検出システム。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池内部状態検出システムであって、
前記インピーダンス使用可否判断手段は、
前記3つ以上の周波数にて取得されたインピーダンス値から選択された2つ以上のインピーダンス値から求められる2以上の線と実軸との交点の値を相互に比較することで、前記3つ以上の周波数にて取得されたインピーダンス値の少なくとも1つが、前記インピーダンス線における円弧領域に属するか、又は非円弧領域に属するかを判定する燃料電池内部状態検出システム。
【請求項3】
請求項1に記載の燃料電池内部状態検出システムであって、
前記インピーダンス使用可否判断手段は、
前記3つ以上の周波数にて取得されたインピーダンス値から選択された2つ以上のインピーダンス値から求められる2つ以上の電気二重層容量値を相互に比較することで、前記3つ以上の周波数にて取得されたインピーダンス値の少なくとも1つが、前記インピーダンス線における円弧領域に属するか、又は非円弧領域に属するかを判定する燃料電池内部状態検出システム。
【請求項4】
請求項1に記載の燃料電池内部状態検出システムであって、
前記インピーダンス使用可否判断手段は、
前記3つ以上の周波数にて取得されたインピーダンス値から選択された2つ以上のインピーダンス値から推定される2つ以上の反応抵抗値を相互に比較することで、前記3つ以上のインピーダンス値の内の少なくとも1つが、前記インピーダンス線における円弧領域に属するか、又は非円弧領域に属するかを判定する燃料電池内部状態検出システム。
【請求項5】
請求項1に記載の燃料電池内部状態検出システムであって、
前記インピーダンス使用可否判断手段は、
前記3つ以上の周波数にて取得されたインピーダンス値から選択された2つ以上のインピーダンス値から求められる線と実軸との交点の値と、高周波数帯における周波数にて取得された高周波数インピーダンス値と、を相互に比較することで前記3つ以上のインピーダンス値の内の少なくとも1つが、前記インピーダンス線における円弧領域に属するか、又は非円弧領域に属するかを判定する燃料電池内部状態検出システム。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の燃料電池内部状態検出システムであって、
前記使用不可能時処理実行手段は、
前記インピーダンス値を取得すべき周波数を再探索し、再探索された周波数に対応するインピーダンス値を再取得するか、
又は前記インピーダンス値取得手段の取得感度を向上させて該インピーダンス値を再取得する燃料電池内部状態検出システム。
【請求項7】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の燃料電池内部状態検出システムであって、
前記使用不可能時処理実行手段は、前記推定対象状態量算出手段に対し、前記推定対象状態量として粗推定値を算出させる燃料電池内部状態検出システム。
【請求項8】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の燃料電池内部状態検出システムであって、
前記使用不可能時処理実行手段は、前記内部状態の検出を断念する燃料電池内部状態検出システム。
【請求項9】
請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の燃料電池内部状態検出システムであって、
前記推定対象状態量設定手段は、
前記検出する内部状態が水素量である場合に、前記推定対象状態量としてアノード極の反応抵抗値及び電気二重層容量値の少なくともいずれか一方を設定するか、
前記検出する内部状態が湿潤度である場合に、前記推定対象状態量として電解質膜抵抗値及びアイオノマ抵抗値の少なくともいずれか一方を設定するか、又は
前記検出する内部状態が酸素量である場合に、前記推定対象状態量としてカソード極の反応抵抗値を設定する燃料電池内部状態検出システム。
【請求項10】
請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の燃料電池内部状態検出システムにおいて、
前記燃料電池が積層電池として構成され、
前記積層電池に接続されて該積層電池に交流電流を出力する交流電源部と、
前記積層電池の正極側の電位から該積層電池の中途部分の電位を引いて求めた電位差である正極側交流電位差と、前記燃料電池の負極側の電位から前記中途部分の電位を引いて求めた電位差である負極側交流電位差と、に基づいて交流電流を調整する交流調整部と、
前記調整された交流電流並びに前記正極側交流電位差及び前記負極側交流電位差に基づいて前記燃料電池の前記インピーダンス値を演算するインピーダンス演算部と、
を有する燃料電池内部状態検出システム。
【請求項11】
燃料電池のインピーダンス値に基づいて前記燃料電池の内部状態を検出する燃料電池内部状態検出方法であって、
前記内部状態の指標として適切な推定対象状態量を設定する推定対象状態量設定工程と、
前記燃料電池のインピーダンス値を取得するインピーダンス値取得工程と、
前記取得されたインピーダンス値が前記推定対象状態量の算出に使用可能であるか否かを判断するインピーダンス使用可否判断工程と、
前記インピーダンス使用可否判断工程により前記インピーダンス値が前記推定対象状態量の算出に使用可能であると判断されると、前記取得されたインピーダンス値に基づいて、前記推定対象状態量設定工程により設定された推定対象状態量を算出する推定対象状態量算出工程と、
前記インピーダンス使用可否判断工程により、前記インピーダンス値が前記推定対象状態量の算出に使用可能ではないと判断されると、使用不可能時処理を行う使用不可能時処理実行工程と、
を有し、
前記インピーダンス値取得工程は、3つ以上の周波数に基づくインピーダンス値を取得し、
前記インピーダンス使用可否判断工程は、取得された3つ以上のインピーダンス値の少なくとも一つが、複素平面上のインピーダンス線における円弧領域に属するか、又は非円弧領域に属するかを判定し、該判定結果に応じて、前記インピーダンス値が使用可能であるか否かを判断する燃料電池内部状態検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池内部状態検出システム及び内部状態検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池において、水素の過不足、酸素の過不足、及び電解質膜の湿潤度等の種々の内部状態を検出することが知られている。例えば、水素の過不足を検出するには、当該検出の指標として水素極(アノード極)の反応抵抗値を用いることが知られている。また、電解質膜の湿潤状態を検出するために、電解質膜抵抗値やアイオノマ抵抗値等の状態量を指標として用いることもある。
【0003】
そして、上記状態量を推定・算出するにあたり、インピーダンス値を計測して用いることが知られている。
【0004】
例えば、特開2013−258042号公報には、計測されたインピーダンスの虚数部から予め仮定された式に基づいてアイオノマ抵抗値を算出し、このアイオノマ抵抗値を燃料電池の湿潤状態を検出するための指標として用いることが提案されている。
【発明の概要】
【0005】
しかし、特開2013−258042号公報においてアイオノマ抵抗値を算出するための予め仮定された式は、計測されたインピーダンス値が、いわゆるナイキスト線図におけるインピーダンス線の直線部に属することを前提としたものである。
【0006】
したがって、インピーダンス値が、ナイキスト線図の円弧部に属する場合には、算出されるアイオノマ抵抗値における現実の値との誤差が大きくなり、結果として電解質膜の湿潤状態の検出精度が低下することが考えられる。
【0007】
本発明は、このような問題点に着目してなされたものであり、燃料電池の内部状態の検出を高精度に行うことのできる燃料電池内部状態検出システム及び内部状態検出方法を提供することを目的とする。
【0008】
本発明のある態様によれば、燃料電池のインピーダンス値に基づいて燃料電池の内部状態を検出する燃料電池内部状態検出システムが提供される。そして、この燃料電池内部状態検出システムは、内部状態の指標として推定対象状態量を設定する推定対象状態量設定手段と、燃料電池のインピーダンス値を取得するインピーダンス値取得手段と、取得されたインピーダンス値が推定対象状態量の算出に使用可能であるか否かを判断するインピーダンス使用可否判断手段と、インピーダンス使用可否判断手段によりインピーダンス値が推定対象状態量の算出に使用可能であると判断されると、取得されたインピーダンス値に基づいて、推定対象状態量設定手段により設定された推定対象状態量を算出する推定対象状態量算出手段と、インピーダンス使用可否判断手段によりインピーダンス値が推定対象状態量の算出に使用可能ではないと判断されると、使用不可能時処理を行う使用不可能時処理実行手段と、を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の一実施形態による燃料電池の斜視図である。
図2図2は、図1の燃料電池のII−II断面図である。
図3図3は、本発明の一実施形態による燃料電池システムの概略構成図である。
図4図4は、一実施形態による燃料電池内部状態検出システムの流れを示すフローチャートである。
図5図5は、一実施形態による燃料電池の内部状態-状態量テーブルを示す図である。
図6図6は、一実施形態によるインピーダンス値を取得する流れを示すフローチャートである。
図7図7は、一実施形態において、インピーダンス値が円弧領域に属するものか、又は非円弧領域に属するかを判定する流れを示すフローチャートである。
図8図8は、燃料電池の等価回路を示す図である。
図9図9は、一実施形態においてインピーダンス値が円弧領域に属すると判定される態様を説明する図である。
図10図10は、一実施形態において少なくとも1つのインピーダンス値が非円弧領域に属すると判定される態様を説明する図である。
図11図11は、虚数成分インピーダンス値の周波数特性を示すグラフである。
図12図12は、一実施形態において、インピーダンス値がインピーダンス線の円弧領域に属するものか、又は非円弧領域に属するかを判定する流れを示すフローチャートである。
図13図13は、一実施形態においてインピーダンス値が円弧領域に属すると判定される態様を説明する図である。
図14図14は、一実施形態において少なくとも1つのインピーダンス値が非円弧領域に属すると判定される態様を説明する図である。
図15図15は、一実施形態において、インピーダンス値がインピーダンス線の円弧領域に属するものか、又は非円弧領域に属するかを判定する流れを示すフローチャートである。
図16図16は、一実施形態においてインピーダンス値が円弧領域に属すると判定される態様を説明する図である。
図17図17は、一実施形態において少なくとも1つのインピーダンス値が非円弧領域に属すると判定される態様を説明する図である。
図18図18は、一実施形態において、インピーダンス値がインピーダンス線の円弧領域に属するものか、又は非円弧領域に属するかを判定する流れを示すフローチャートである。
図19図19は、一実施形態においてインピーダンス値が非円弧領域に属すると判定される態様を説明する図である。
図20図20は、一実施形態において、一つのインピーダンス値が円弧領域に属し、もう一つのインピーダンス値が非円弧領域に属すると判定される態様を説明する図である。
図21図21は、一実施形態において、インピーダンス値が円弧領域に属すると判定される態様を説明する図である。
図22図22は、一実施形態に係る燃料電池内部状態検出システムの流れを示すフローチャートである。
図23図23は、周波数の再探索及びインピーダンス値の再取得について説明する図である。
図24図24は、一実施形態に係る燃料電池内部状態検出システムの流れを示すフローチャートである。
図25図25は、インピーダンス値の計測誤差の程度を説明する図である。
図26図26は、一実施形態に係る燃料電池内部状態検出システムの流れを示すフローチャートである。
図27図27は、一実施形態にかかる燃料電池のナイキスト線図である。
図28図28は、一実施形態に係る燃料電池内部状態検出システムの流れを示すフローチャートである。
図29図29は、一実施形態に係る燃料電池内部状態検出システムの流れを示すフローチャートである。
図30図30は、一実施形態に係る燃料電池内部状態検出システムの流れを示すフローチャートである。
図31図31は、一実施形態にかかる燃料電池システムにおいて、いわゆる励起電流印加法によるインピーダンス計測を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面等を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0011】
燃料電池のセルは、燃料極としてのアノード極と酸化剤極としてのカソード極とによって電解質膜を挟んで構成されている。燃料電池のセルでは、水素を含有するアノードガスがアノード極に供給される一方で、酸素を含有するカソードガスがカソード極に供給されて、これらガスを用いることで発電が行われる。アノード極及びカソード極の両電極において進行する電極反応は、以下の通りである。
【0012】
アノード極: 2H2→4H++4e- ・・・(1)
カソード極: 4H++4e-+O2 → 2H2O ・・・(2)
これら(1)、(2)の電極反応によって、燃料電池のセルは1V(ボルト)程度の起電力を生じる。
【0013】
図1及び図2は、本発明の一実施形態による燃料電池セル10の構成を説明するための図である。図1は燃料電池セル10の斜視図であり、図2図1の燃料電池セル10のII−II断面図である。
【0014】
図1及び図2に示すように、燃料電池セル10は、膜電極接合体(MEA)11と、MEA11を挟むように配置されるアノードセパレータ12及びカソードセパレータ13と、を備える。
【0015】
MEA11は、電解質膜111と、アノード極112と、カソード極113とから構成されている。MEA11は、電解質膜111の一方の面側にアノード極112を有しており、他方の面側にカソード極113を有している。
【0016】
電解質膜111は、フッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜である。電解質膜111は、湿潤状態で良好な電気伝導性を示す。なお、電解質膜111としては、想定される燃料電池の対応に応じて、例えばリン酸(H3PO4)を所定のマトリックスに含浸させたものなどの他の材料を用いるようにしても良い。
【0017】
アノード極112は、触媒層112Aとガス拡散層112Bとを備える。触媒層112Aは、Pt又はPt等が担持されたカーボンブラック粒子により形成された部材であって、電解質膜111と接するように設けられる。ガス拡散層112Bは、触媒層112Aの外側に配置される。ガス拡散層112Bは、例えばガス拡散性及び導電性を有するカーボンクロスやカーボンペーパーで形成された部材であって、触媒層112A及びアノードセパレータ12と接するように設けられる。
【0018】
アノード極112と同様に、カソード極113も触媒層113Aとガス拡散層113Bとを備える。触媒層113Aは電解質膜111とガス拡散層113Bとの間に配置され、ガス拡散層113Bは触媒層113Aとカソードセパレータ13との間に配置される。
【0019】
アノードセパレータ12は、ガス拡散層112Bの外側に配置される。アノードセパレータ12は、アノード極112にアノードガス(水素ガス)を供給するための複数のアノードガス流路121を備えている。アノードガス流路121は、溝状通路として形成されている。
【0020】
カソードセパレータ13は、ガス拡散層113Bの外側に配置される。カソードセパレータ13は、カソード極113にカソードガス(空気)を供給するための複数のカソードガス流路131を備えている。カソードガス流路131は、溝状通路として形成されている。
【0021】
アノードセパレータ12及びカソードセパレータ13は、アノードガス流路121を流れるアノードガスの流れ方向とカソードガス流路131を流れるカソードガスの流れ方向とが互いに逆向きとなるように構成されている。なお、アノードセパレータ12及びカソードセパレータ13は、これらガスの流れ方向が同じ向きに流れるように構成されてもよい。
【0022】
このような燃料電池セル10を自動車用電源として使用する場合には、要求される電力が大きいため、数百枚の燃料電池セル10を積層した燃料電池スタックとして使用する。そして、燃料電池スタックにアノードガス及びカソードガスを供給する燃料電池システムを構成して、車両を駆動させるための電力を取り出す。
【0023】
図3は、本発明の一実施形態による燃料電池システム100の概略図である。
【0024】
燃料電池システム100は、燃料電池1と、カソードガス給排装置2と、アノードガス給排装置3と、電力システム5と、コントローラ6と、を備える。
【0025】
燃料電池1は、上述のように複数枚の燃料電池セル10(単位セル)を積層した積層電池である。燃料電池1は、アノードガス及びカソードガスの供給を受けて、車両の走行に必要な電力を発電する。燃料電池1は、電力を取り出す出力端子として、アノード極側端子1Aと、カソード極側端子1Bと、を有している。
【0026】
カソードガス給排装置2は、燃料電池1にカソードガスを供給するとともに、燃料電池1から排出されるカソードオフガスを外部に排出する。カソードガス給排装置2は、カソードガス供給通路21と、カソードガス排出通路22と、フィルタ23と、エアフローセンサ24と、カソードコンプレッサ25と、カソード圧力センサ26と、水分回収装置(WRD;Water Recovery Device)27と、カソード調圧弁28と、を備える。
【0027】
カソードガス供給通路21は、燃料電池1に供給されるカソードガスが流れる通路である。カソードガス供給通路21の一端はフィルタ23に接続され、他端は燃料電池1のカソードガス入口部に接続される。
【0028】
カソードガス排出通路22は、燃料電池1から排出されるカソードオフガスが流れる通路である。カソードガス排出通路22の一端は燃料電池1のカソードガス出口部に接続され、他端は開口端として形成される。カソードオフガスは、カソードガスや電極反応によって生じた水蒸気等を含む混合ガスである。
【0029】
フィルタ23は、カソードガス供給通路21に取り込まれるカソードガスに含まれる塵や埃等を除去する部材である。
【0030】
カソードコンプレッサ25は、フィルタ23よりも下流側のカソードガス供給通路21に設けられる。カソードコンプレッサ25は、カソードガス供給通路21内のカソードガスを圧送して燃料電池1に供給する。
【0031】
エアフローセンサ24は、フィルタ23とカソードコンプレッサ25との間のカソードガス供給通路21に設けられる。エアフローセンサ24は、燃料電池1に供給されるカソードガスの流量を検出する。
【0032】
カソード圧力センサ26は、カソードコンプレッサ25とWRD27との間のカソードガス供給通路21に設けられる。カソード圧力センサ26は、燃料電池1に供給されるカソードガスの圧力を検出する。カソード圧力センサ26で検出されたカソードガス圧力は、燃料電池1のカソードガス流路等を含むカソード系全体の圧力を代表する。
【0033】
WRD27は、カソードガス供給通路21とカソードガス排出通路22とに跨って接続される。WRD27は、カソードガス排出通路22を流れるカソードオフガス中の水分を回収し、その回収した水分を用いてカソードガス供給通路21を流れるカソードガスを加湿する装置である。
【0034】
カソード調圧弁28は、WRD27よりも下流のカソードガス排出通路22に設けられる。カソード調圧弁28は、コントローラ6によって開閉制御され、燃料電池1に供給されるカソードガスの圧力を調整する。
【0035】
次に、アノードガス給排装置3について説明する。
【0036】
アノードガス給排装置3は、燃料電池1にアノードガスを供給するとともに、燃料電池1から排出されるアノードオフガスをカソードガス排出通路22に排出する。アノードガス給排装置3は、高圧タンク31と、アノードガス供給通路32と、アノード調圧弁33と、アノード圧力センサ34と、アノードガス排出通路35と、バッファタンク36と、パージ通路37と、パージ弁38と、を備える。
【0037】
高圧タンク31は、燃料電池1に供給するアノードガスを高圧状態に保って貯蔵する容器である。
【0038】
アノードガス供給通路32は、高圧タンク31から排出されるアノードガスを燃料電池1に供給する通路である。アノードガス供給通路32の一端は高圧タンク31に接続され、他端は燃料電池1のアノードガス入口部に接続される。
【0039】
アノード調圧弁33は、高圧タンク31よりも下流のアノードガス供給通路32に設けられる。アノード調圧弁33は、コントローラ6によって開閉制御され、燃料電池1に供給されるアノードガスの圧力を調整する。
【0040】
アノード圧力センサ34は、アノード調圧弁33よりも下流のアノードガス供給通路32に設けられる。アノード圧力センサ34は、燃料電池1に供給されるアノードガスの圧力を検出する。アノード圧力センサ34で検出されたアノードガス圧力は、バッファタンク36や燃料電池1のアノードガス流路等を含むアノード系全体の圧力を代表する。
【0041】
アノードガス排出通路35は、燃料電池1から排出されたアノードオフガスを流す通路である。アノードガス排出通路35の一端は燃料電池1のアノードガス出口部に接続され、他端はバッファタンク36に接続される。アノードオフガスには、電極反応で使用されなかったアノードガスや、カソードガス流路131からアノードガス流路121へとリークしてきた窒素等の不純物ガスや水分等が含まれる。
【0042】
バッファタンク36は、アノードガス排出通路35を流れてきたアノードオフガスを一時的に蓄える容器である。バッファタンク36に溜められたアノードオフガスは、パージ弁38が開かれる時に、パージ通路37を通ってカソードガス排出通路22に排出される。
【0043】
パージ通路37は、アノードオフガスを排出するための通路である。パージ通路37の一端はアノードガス排出通路35に接続され、他端はカソード調圧弁28よりも下流のカソードガス排出通路22に接続される。
【0044】
パージ弁38は、パージ通路37に設けられる。パージ弁38は、コントローラ6によって開閉制御され、アノードガス排出通路35からカソードガス排出通路22に排出するアノードオフガスのパージ流量を制御する。
【0045】
パージ弁38が開弁状態となるパージ制御が実行されると、アノードオフガスは、パージ通路37及びカソードガス排出通路22を通じて外部に排出される。この時、アノードオフガスは、カソードガス排出通路22内でカソードオフガスと混合される。このようにアノードオフガスとカソードオフガスとを混合させて外部に排出することで、混合ガス中のアノードガス濃度(水素濃度)が排出許容濃度以下の値に決定される。
【0046】
電力システム5は、電流センサ51と、電圧センサ52と、走行モータ53と、インバータ54と、バッテリ55と、DC/DCコンバータ56と、を備える。
【0047】
電流センサ51は、燃料電池1から取り出される出力電流を検出する。電圧センサ52は、燃料電池1の出力電圧、つまりアノード極側端子1Aとカソード極側端子1Bの間の端子間電圧を検出する。なお、電圧センサ52は、燃料電池セル10の1枚ごとの電圧を検出するように構成されてもよいし、燃料電池セル10の複数枚ごとの電圧を検出するように構成されてもよい。
【0048】
走行モータ53は、三相交流同期モータであって、車輪を駆動するため駆動源である。走行モータ53は、燃料電池1及びバッテリ55から電力の供給を受けて回転駆動する電動機としての機能と、外力によって回転駆動されることで発電する発電機としての機能と、を有する。
【0049】
インバータ54は、IGBT等の複数の半導体スイッチから構成される。インバータ54の半導体スイッチは、コントローラ6によってスイッチング制御され、これにより直流電力が交流電力に、又は交流電力が直流電力に変換される。走行モータ53を電動機として機能させる場合、インバータ54は、燃料電池1の出力電力とバッテリ55の出力電力との合成直流電力を三相交流電力に変換し、走行モータ53に供給する。これに対して、走行モータ53を発電機として機能させる場合、インバータ54は、走行モータ53の回生電力(三相交流電力)を直流電力に変換し、バッテリ55に供給する。
【0050】
バッテリ55は、燃料電池1の出力電力の余剰分及び走行モータ53の回生電力が充電されるように構成されている。バッテリ55に充電された電力は、必要に応じてカソードコンプレッサ25等の補機類や走行モータ53に供給される。
【0051】
DC/DCコンバータ56は、燃料電池1の出力電圧を昇降圧させる双方向性の電圧変換機である。DC/DCコンバータ56によって燃料電池1の出力電圧を制御することで、燃料電池1の出力電流等が調整される。
【0052】
コントローラ6は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。コントローラ6には、電流センサ51や電圧センサ52等の各種センサからの信号の他、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルストロークセンサ(図示せず)等のセンサからの信号が入力される。
【0053】
コントローラ6は、燃料電池システム100の運転状態に応じて、アノード調圧弁33やカソード調圧弁28、カソードコンプレッサ25等を制御し、燃料電池1に供給されるアノードガスやカソードガスの圧力や流量を調整する。
【0054】
また、コントローラ6は、燃料電池システム100の運転状態に基づいて、燃料電池1の目標出力電力を算出する。さらに、コントローラ6は、走行モータ53の要求電力やカソードコンプレッサ25等の補機類の要求電力、バッテリ55の充放電要求等に基づいて、目標出力電力を算出する。
【0055】
さらに、コントローラ6は、上述の算出された目標出力電力に基づいて、予め定められた燃料電池1のIV特性(電流電圧特性)を参照して燃料電池1の目標出力電流を算出する。そして、コントローラ6は、燃料電池1の出力電流が目標出力電流となるように、DC/DCコンバータ56によって燃料電池1の出力電圧を制御し、走行モータ53や補機類に必要な電流を供給する制御を行う。
【0056】
また、コントローラ6は、燃料電池1の各電解質膜111や触媒層112A、113Aの湿潤度(含水量)が発電に適した状態となるように、カソードコンプレッサ25等を制御する。
【0057】
さらに、本実施形態においてコントローラ6は、燃料電池1のインピーダンス計測にあたり、燃料電池1の出力電流及び出力電圧に所定周波数の交流信号を重畳する。
【0058】
そして、このコントローラ6は、燃料電池1の制御電圧に所定周波数の交流信号を重畳した値に対してフーリエ変換を施した電圧値を、その応答である出力電流値に対してフーリエ変換を施した電流値にて除して、所定周波数における燃料電池1のインピーダンス値Zを算出する。
【0059】
また、本実施形態において、コントローラ6の図示しないメモリに、湿潤状態、水素欠乏状態、及び酸素欠乏状態等の燃料電池1の内部状態と、これらの内部状態の指標である反応抵抗や電気二重層容量等の状態量と、の関係を示す内部状態-状態量テーブルが記憶されている。
【0060】
なお、「周波数f」と「角周波数ω」との間にはω=2πfの関係があることは知られており、これらの間には無次元の定数2πを乗じた差異しかないため、以下では説明の簡略化のため、「周波数」と「角周波数」を同一視し、いずれを表す場合にも「ω」の記号を用いる。また、下記の第1〜第11実施形態における各ステップの処理は、特に明記した場合を除き、コントローラ6により実行される。
【0061】
(第1実施形態)
図4は、本実施形態に係る燃料電池内部状態検出システムの流れを示すフローチャートである。
【0062】
ステップS101において、図示のように、本実施の形態では、燃料電池1の内部状態の指標として適切な推定対象状態量が設定される。具体的に、この推定対象状態量の設定では、所望の燃料電池1の内部状態に基づき、上述した内部状態-状態量テーブルから当該燃料電池1の内部状態に対応する状態量が抽出され、この抽出された状態量が推定対象状態量として設定される。
【0063】
図5は、内部状態-状態量テーブルの一例を示している。図では、検出すべき燃料電池1の内部状態の例として、湿潤状態(湿潤度)、水素量、及び酸素量が示されている。ここで、湿潤状態とは電解質膜111や触媒層112A、113Aにどの程度の水分が含まれているかを示す数値である湿潤度wを意味し、当該湿潤状態の指標となる状態量として電解質膜抵抗及びアイオノマ抵抗の少なくともいずれか一方が定められている。
【0064】
水素量は、燃料であるアノードガスの過不足状態を表す数値であり、当該水素量の指標となる状態量として電気二重層容量及びアノード極112の反応抵抗値が定められている。さらに、酸素量はカソードガスの過不足状態を表す数値であり、当該酸素量の指標となる状態量としてカソード極113の反応抵抗値が定められている。
【0065】
なお、このように検出すべき内部状態の指標としてどの状態量が適切であるかを規定することは、実験データなどに基づいて適宜設定されるものであるので、上記内部状態-状態量テーブルに限定されるものではない。
【0066】
次に、ステップS102において、燃料電池1のインピーダンス値Zが取得される。本実施形態では、特に、それぞれ3点の周波数ω1、ω2、ω3(数Hz〜数万Hz、ω1<ω2<ω3)において、3つのインピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、Z(ω3)を取得する。以下、その詳細について説明する。
【0067】
図6は、インピーダンス値を計測する流れを示すフローチャートである。本実施形態に係るインピーダンス値の計測は、図に示すステップS1021〜ステップS1024にしたがい行われる。
【0068】
先ず、ステップS1021において、インピーダンス測定タイミングにおいて、燃料電池1から出力される出力電流及び出力電圧のいずれか一方に3つの周波数ω1、ω2、ω3の信号がそれぞれ重畳されるようにDC/DCコンバータ56が制御される。
【0069】
ステップS1022において、周波数ω1、ω2、ω3の交流信号が重畳された場合に電流センサ51で測定されるそれぞれの出力電流値Ioutにフーリエ変換処理が施され、電流振幅値Iout(ω1)、Iout(ω2)、Iout(ω3)が算出される。
【0070】
ステップS1023において、周波数ω1、ω2、ω3の交流信号がそれぞれ重畳された場合に電圧センサ52で測定される出力電圧の値Voutにフーリエ変換処理が施され、電圧振幅値Vout(ω1)、Vout(ω2)、Vout(ω3)が算出される。
【0071】
ステップS1024において、電圧振幅値Vout(ω1)、Vout(ω2)、Vout(ω3)がそれぞれ電流振幅値Iout(ω1)、Iout(ω2)、Iout(ω3)により除されて、インピーダンスZ(ω1)、Z(ω2)、Z(ω3)が算出される。
【0072】
次に、図4に戻り、ステップS103において、インピーダンス値の使用可能性が判断される。
【0073】
ここで、算出されたインピーダンス値が使用可能であるとは、当該インピーダンス値に基づいて算出される推定対象状態量が、現実の値に対して許容される程度の誤差に収まるように一定の精度を有することを意味する。なお、許容される程度の誤差の大きさは、種々の状況に応じて定まるものであるので、一概にその値が決まるものではないが、例えば算出される推定対象状態量が、現実の値に対して数%以下のズレとなるような大きさであることが想定される。
【0074】
特に、本実施形態においては、複素平面上にて特定される燃料電池1のインピーダンス線が、低周波数側の円弧領域Lcと高周波数側の非円弧領域Lnc(略直線状領域)と、を形成することが知られているので、上記推定対象状態量が使用可能であるどうかを、取得されたインピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、Z(ω3)がそれぞれ、低周波数側の円弧領域Lc上に存在するのか、高周波数側の非円弧領域Lnc上に存在するのかにより判断する。
【0075】
以下では、本実施形態において、取得されたインピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、Z(ω3)がそれぞれ、円弧領域Lc或いは非円弧領域Lncに属するかの判定を行う態様について説明する。
【0076】
図7は、本実施形態において、インピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、及びZ(ω3)が、インピーダンス線の円弧領域に属するものか、又は非円弧領域に属するかを判定する流れを示すフローチャートである。
【0077】
ステップS1031において、複素平面上でインピーダンス値Z(ω1)及びZ(ω2)を結ぶ円CY1(図9等参照)を設定する。この具体的方法を説明する。
【0078】
図8は、燃料電池セル10の簡易等価回路を示す模式図である。この簡易等価回路とは、実際の燃料電池1における電子輸送抵抗や接触抵抗等の回路要素を省略したものであって、特に、燃料電池1の主たる回路要素として電解質膜抵抗、アノード極112又はカソード極113の反応抵抗のうちのいずれか一方、及びこれら両極の電気二重層容量の内のいずれか一方のみを考慮して、モデルの簡略化を図った回路である。
【0079】
ここで、図8の等価回路モデルに基づく燃料電池1のインピーダンス(以下では簡易回路インピーダンスとも記載する)Zの式は、
【数1】
で与えられる。
【0080】
この式(1)の実数成分をとって変形すると、電解質膜抵抗値Rmは、
【数2】
と表される。また式(1)の虚数成分をとれば、
【数3】
が得られる。
【0081】
ただし、Zre、Zimはそれぞれ燃料電池1のインピーダンスの実数成分と虚数成分、ωは交流信号の角周波数、Ractはアノード極112又はカソード極113の反応抵抗値、及びCdlはアノード極112又はカソード極113の電気二重層容量値を意味する。
【0082】
したがって、上述の取得された2つのインピーダンス値Z(ω1)及びZ(ω2)における実数成分と虚数成分の組(Zre1(ω1),Zim1(ω1))、(Zre2(ω2),Zim2(ω2))が得られれば、式(2)及び式(3)に基づいて、未知数Cdl及びRactを求めることができるので、求められた未知数Cdl及びRactを式(1)に適用すれば円CY1が定まることとなる。すなわち、円CY1は、2つのインピーダンス値Z(ω1)及びZ(ω2)により一意に決定することができる。
【0083】
ステップS1032において、複素平面上でインピーダンス値Z(ω2)及びZ(ω3)を結ぶ円CY2(図9等参照)を設定する。なお、円CY2の具体的な定め方も円CY1の場合と同様であり、円CY2もこれら2つのインピーダンス値Z(ω2)及びZ(ω3)により一意に決定することができる。
【0084】
ステップS1033において、円CY1の実軸との交点の座標α1と、円CY2の実軸との交点の座標α2との大きさの比較が行われる。
【0085】
ステップS1034において、座標α1と座標α2が相互に実質的に一致すると判定されると、ステップS1035に進み、インピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、及びZ(ω3)がすべて、円弧領域Lcに属すると判定される。なお、本実施形態において座標α1と座標α2が相互に実質的に一致するとは、差|α1−α2|が、計測系の誤差等を考慮にいれつつ実質的に0であるとみなすことができる程度の所定値以下(例えば、α1又はα2の値に対して数%以下)であることを意味する。
【0086】
図9には、座標α1と座標α2が相互に一致する態様が示されている。
【0087】
図から明らかなように、座標α1と座標α2が相互に一致する場合には、円CY1と円CY2が相互に一致することを意味するので、インピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、及びZ(ω3)がすべて、低周波数側の円弧領域Lcに属することとなる。
【0088】
一方、上記ステップS1034において座標α1と座標α2が相互に実質的に一致していないと判定されると、ステップS1036に進み、少なくとも最も高い周波数ω3に基づき取得されたZ(ω3)が非円弧領域Lncに属すると判定される。
【0089】
図10には、座標α1と座標α2が相互に一致しない態様が示されている。図からも明らかなように、この場合、少なくともZ(ω3)が高周波数側の非円弧領域Lncに属している。一方で、図においてZ(ω2)は円弧領域Lc上にあるが、例えば座標α2がより小さくなると、Z(ω2)が非円弧領域Lncに存在する場合も想定される。
【0090】
そして、上述のように、取得された各インピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、及びZ(ω3)が、すべて円弧領域Lcに属するのか(ステップS1035)、又は少なくともインピーダンス値Z(ω3)が非円弧領域Lncに属するのか(ステップS1036)に応じて、各インピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、及びZ(ω3)の使用可能性が判定されることとなる。
【0091】
ここで、取得されたインピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、Z(ω3)がそれぞれ、どのように円弧領域Lc又は非円弧領域Lncに属すれば、当該インピーダンス値に基づき算出された推定対象状態量が使用可能であるかについては、推定対象状態量の種類や燃料電池1の動作状況に応じて変わってくる。
【0092】
例えば、水素量を判定するために推定対象状態量としてアノード極112の反応抵抗値や電気二重層容量が設定される場合には、円弧領域Lcに属するインピーダンス値が使用可能であり、非円弧領域Lncに属するインピーダンス値が使用不可能である。
【0093】
したがって、上述のステップS1035のように各インピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、及びZ(ω3)が、すべて円弧領域Lcに属する場合に、これら各インピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、及びZ(ω3)が全て使用可能であると判断される。一方で、上述のようにステップS1036のように、少なくともインピーダンス値Z(ω3)が非円弧領域Lncに属する場合には、インピーダンス値Z(ω3)は使用不可能であると判断される。
【0094】
図4に戻り、ステップS104においてインピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、及びZ(ω3)の少なくともいずれかが使用可能であると判定されると、ステップS106において、取得されたインピーダンス値に基づいて、推定対象状態量が算出される。
【0095】
そして、ステップS107において、算出された推定対象状態量に基づいて燃料電池1の内部状態の検出が行われる。一方で、ステップS104においてインピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、及びZ(ω3)のいずれも使用不可能であると判定されると、ステップS105に進み、使用不可能時処理が行われる。
【0096】
このステップS105における使用不可能時処理では、インピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、及びZ(ω3)が燃料電池1の内部状態の検出に使用することができないと判定されたことにより、当該インピーダンス値を破棄して再取得する指令や検出を断念する指令を発する等の処理が行われる。
【0097】
上記した本実施形態に係る燃料電池1の状態検出システムによれば、以下の効果を得ることができる。
【0098】
本実施形態に係る状態検出システムでは、コントローラ6が、内部状態の指標として推定対象状態量を設定する推定対象状態量設定手段(ステップS101)と、燃料電池1のインピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、Z(ω3)を取得するインピーダンス値取得手段(ステップS102)と、取得されたインピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、Z(ω3)が推定対象状態量の算出に使用可能であるか否かを判断するインピーダンス使用可否判断手段(ステップS103)と、して機能する。さらに、コントローラ6は、インピーダンス使用可否判断手段によりインピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、Z(ω3)が推定対象状態量の算出に使用可能であると判断されると、取得されたインピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、Z(ω3)に基づいて、推定対象状態量設定手段により設定された推定対象状態量を算出する推定対象状態量算出手段(ステップS106)と、インピーダンス使用可否判断手段により、インピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、Z(ω3)が推定対象状態量の算出に使用可能ではないと判断されると、使用不可能時処理を行う使用不可能時処理実行手段(ステップS105)と、して機能する。
【0099】
これによれば、燃料電池1の動作環境等の要因によって所望の内部状態の指標として適切な推定対象状態量を設定し、取得されたインピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、Z(ω3)が当該推定対象状態量の算出に使用可能であるかどうかを確認して判断することができる。したがって、インピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、Z(ω3)に基づいた推定対象状態量の算出が精度を保っているかどうかを確実に把握することができ、結果として燃料電池1の内部状態の検出精度が向上することとなる。
【0100】
特に、本実施形態では、コントローラ6は、3つの周波数ω1、ω2、ω3に基づくインピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、Z(ω3)を取得するインピーダンス値取得手段、及びインピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、Z(ω3)の少なくとも一つが、複素平面上のインピーダンス線における円弧領域Lcに属するか、又は非円弧領域Lncに属するかを判定し、該判定結果に応じて、そのインピーダンス値が使用可能であるか否かを判断するインピーダンス使用可否判断手段として機能する。
【0101】
例えば、全てのインピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、及びZ(ω3)が、円弧領域Lc上に存在すると判定される場合には、これらインピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、及びZ(ω3)の内の少なくとも2つから求められる電気二重層容量Cdl、アノード極112の反応抵抗値、及びカソード極113の反応抵抗値が高い精度を有することとなる。
【0102】
したがって、例えば燃料電池1の水素量や酸素量が検出すべき内部状態とされる場合であって、電気二重層容量Cdl、アノード極112の反応抵抗値Ra、及びカソード極113の反応抵抗値Rcを推定対象状態量と設定した場合には、インピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、及びZ(ω3)は、使用可能であると判断される。
【0103】
一方で、少なくともZ(ω3)が非円弧領域Lncに属すると判定される場合には、例えばインピーダンス値Z(ω3)をHFRインピーダンス値の代わりに用いるなどすれば、インピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、及びZ(ω3)から求められる電解質膜抵抗Rmem及びアイオノマ抵抗Rionが一定以上の精度を有することとなり、したがってこれらは使用可能であると判断される。
【0104】
これによれば、所望の燃料電池1の内部状態に対して対応する推定対象状態量が使用可能であるかどうかを、各インピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、Z(ω3)が、それぞれ、インピーダンス線における円弧領域Lcに属するか、又は非円弧領域Lncに属するかを判定するという簡易な手法により判断することができる。
【0105】
さらに、本実施形態では、コントローラ6は、3つの周波数ω1、ω2、ω3にて取得されたインピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、Z(ω3)から選択された2つ以上のインピーダンス値から求められる線CY1、CY2と実軸との交点の値を相互に比較することで、前記3つ以上の周波数にて取得されたインピーダンス値の少なくとも1つが、前記インピーダンス線における円弧領域Lcに属するか、又は非円弧領域Lncに属するかを判定するインピーダンス使用可否判断手段として機能する(ステップS1031〜ステップS1036)。
【0106】
具体的に、コントローラ6は、3つの周波数ω1、ω2、ω3にて取得されたインピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、Z(ω3)から選択されたインピーダンス値Z(ω1)及びZ(ω2)から求められる線CY1と実軸との交点の値α1、並びにインピーダンス値Z(ω2)及びZ(ω3)から求められる線CY2と実軸との交点の値α2を相互に比較することで、3つの周波数ω1、ω2、ω3にて取得されたインピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、Z(ω3)のすべてが円弧領域Lcに属するか、又はそれらのうちの一つであるインピーダンス値Z(ω3)が非円弧領域Lncに属するかを判定することができる。
【0107】
これにより、取得されたインピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、Z(ω3)の内の少なくとも1つが、円弧領域Lcに属するか、又は非円弧領域Lncに属するかという判定を、インピーダンス値Z(ω1)及びZ(ω2)から求められる線CY1と実軸との交点の値α1、並びにインピーダンス値Z(ω2)及びZ(ω3)から求められる線CY2と実軸との交点の値α2を相互に比較するという簡易な手法で行うことができる。
【0108】
特に、本実施形態においては、線CY1は取得したインピーダンス値Z(ω1)及びZ(ω2)に基づき、線CY2は取得したインピーダンス値Z(ω2)及びZ(ω3)に基づいて、図8に示す簡易的な等価回路に基づく式(1)から定めることができるので、その計算が容易であり、コントローラ6に対する演算負担も軽減することができる。
【0109】
(第2実施形態)
以下では、第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。本実施形態では、特に、インピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、Z(ω3)が、円弧領域Lcに属するか、又は非円弧領域Lncに属するかの判定を、縦軸−1/(ωZim)且つ横軸1/ω2とする平面上における虚数成分インピーダンス値の周波数特性から得られる電気二重層容量値Cdlに基づいて行う。
【0110】
図11は、本実施形態において虚数成分インピーダンス値の周波数特性を示すグラフである。ここでは、図に一点鎖線で示す直線は、上述の簡易等価回路に基づく式(3)を図示したものである。
【0111】
一方で図に示す曲線CRは、燃料電池1において予め複数の周波数ωで計測した虚数成分インピーダンス計測値Zim(ω)をプロットして描かれた曲線である。
【0112】
図示のように、実測に基づく曲線CRは、上述の簡易等価回路に基づく直線に対して相対的に低い周波数領域(円弧領域Lc)では一致しているものの、高い周波数領域(非円弧領域Lnc)では一致しておらず、急速に値が減少して乖離している。
【0113】
これはつまり、図8に示す簡易等価回路は、円弧領域Lcでは現実の燃料電池を良好にモデル化しているものの、非円弧領域Lncでは良好なモデル化となっていないことを意味する。
【0114】
したがって、本実施形態では、この事実を利用して3つのインピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、Z(ω3)が、円弧領域Lcに属するか、又は非円弧領域Lncに属するかの判定を行う。
【0115】
図12は、本実施形態において、インピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、及びZ(ω3)が、インピーダンス線の円弧領域Lcに属するものか、又は非円弧領域Lncに属するかを判定する流れを示すフローチャートである。
【0116】
ステップS2031において、縦軸−1/(ωZim)且つ横軸1/ω2とする平面上においてインピーダンス値Z(ω1)の虚数成分Zim1(ω1)、及びインピーダンス値Z(ω2)の虚数成分Zim2(ω2)を結ぶ直線L2を設定する。
【0117】
ステップS2032において、縦軸−1/(ωZim)且つ横軸1/ωとする平面上においてインピーダンス値Z(ω)及びZ(ω)を結ぶ直線L3を、上記直線L2の場合と同様の方法で設定する。
【0118】
ステップS2033において、直線L2の縦軸との交点である電気二重層容量値Cdl1と、直線L3の縦軸との交点である電気二重層容量値Cdl2との大きさの比較が行われる。
【0119】
ステップS2034において、電気二重層容量値Cdl1と電気二重層容量値Cdl2が相互に実質的に一致すると判定されると、ステップS2035に進み、インピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、及びZ(ω3)がすべて、円弧領域Lcに属すると判定される。なお、本実施形態において電気二重層容量値Cdl1と電気二重層容量値Cdl2が相互に実質的に一致するとは、差|Cdl1−Cdl2|が、計測系の誤差等を考慮にいれつつ実質的に0であるとみなすことができる程度の所定値以下(例えば、Cdl1又はCdl2の値に対して数%以下)であることを意味する。
【0120】
図13には、電気二重層容量値Cdl1と電気二重層容量値Cdl2が相互に一致する態様を説明するインピーダンス虚数成分周波数特性曲線が示されている。
【0121】
ここで、図からも理解されるが、直線L2及び直線L3はどちらも、図13に示す平面上において周波数ω2に対応する点を通るので、直線L2の切片である電気二重層容量値Cdl1と直線L3の切片である電気二重層容量値Cdl2が相互に一致する場合には、それらの傾きも一致しなければならず、直線L2と直線L3が相互に一致することとなる。したがって、インピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、及びZ(ω3)がすべて、円弧領域Lcに属することとなる。
【0122】
一方、上記ステップS2034において電気二重層容量値Cdl1と電気二重層容量値Cdl2が相互に実質的に一致していないと判定されると、ステップS2036に進み、少なくとも最も高い周波数ω3で取得されたZ(ω3)が非円弧領域Lncに属すると判定される。
【0123】
図14には、電気二重層容量値Cdl1と電気二重層容量値Cdl2が相互に一致しない態様が示されている。図を参照すれば、周波数ω3が低周波数側にあり少なくともZ(ω3)が非円弧領域Lncに属すると判定されることが妥当である。一方で、図においてインピーダンス値Z(ω2)は円弧領域Lc上に属するものの、例えば電気二重層容量値Cdl2がより小さい値として得られた場合には、インピーダンス値Z(ω2)が非円弧領域Lncに存在すると判定されることが妥当である場合も想定される。
【0124】
そして、上述のように、取得された各インピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、及びZ(ω3)が、円弧領域Lc上に存在するのか、又は非円弧領域Lncが判定された後、第1実施形態と同様に、その判定結果に応じてステップS104においてインピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、及びZ(ω3)の使用可否が判断され、上述の図4におけるステップS105〜ステップS107の処理が行われることとなる。
【0125】
上記した本実施形態に係る燃料電池1の状態検出システムによれば、以下の効果を得ることができる。
【0126】
本実施形態に係る燃料電池1の状態検出システムでは、コントローラ6が、3つの周波数ω1、ω2、及びω3にて取得されたインピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、及びZ(ω3)から選択された2つ以上のインピーダンス値から求められる2つ以上の電気二重層容量値Cdl1、Cdl2を相互に比較することで、3つの周波数ω1、ω2、及びω3にて取得されたインピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、及びZ(ω3)の少なくとも1つが、インピーダンス線における円弧領域Lcに属するか、又は非円弧領域Lncに属するかを判定するとして機能する(ステップS2031〜ステップS2036)。
【0127】
具体的には、インピーダンス値Z(ω1)及びZ(ω2)を選択して求めた電気二重層容量値Cdl1と、インピーダンス値Z(ω2)及びZ(ω3)を選択して求めた電気二重層容量値Cdl2と、を相互に比較して、3つのインピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、Z(ω3)のすべてが円弧領域Lcに属するか、又はそれらのうちの一つであるインピーダンス値Z(ω3)が非円弧領域Lncに属するかを判定することができる。
【0128】
これにより、燃料電池1の状態検出に用いる推定対象状態量の一種でもある電気二重層容量値Cdlを、3つのインピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、Z(ω3)が、円弧領域Lcに属するか、又は非円弧領域Lncに属するかの判定に用いることができ、ひいてはこれらインピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、Z(ω3)の使用可能判断に資することになる。
【0129】
したがって、例えばインピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、Z(ω3)の少なくとも1つが使用可能であると判断された場合であって、水素量等の電気二重層容量値Cdlを推定状態量に設定すべき内部状態の検出の際には、上記インピーダンスの使用可否判断及び推定対象状態量の演算工程にかかる処理を軽減することができ、コントローラ6に対する演算負担も軽減することができる。
【0130】
(第3実施形態)
以下では、第3実施形態について説明する。なお、第1実施形態又は第2実施形態と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。本実施形態では、特に、インピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、Z(ω3)が、円弧領域Lcに属するか、又は非円弧領域Lncに属するかの判定を、縦軸−1/(ωZim)且つ横軸1/ω2とする平面上における虚数成分インピーダンス値の周波数特性から得られる反応抵抗値Ractに基づいて行う。
【0131】
図15は、本実施形態において、インピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、及びZ(ω3)が、インピーダンス線の円弧領域に属するものか、又は非円弧領域に属するかを判定する流れを示すフローチャートである。
【0132】
ステップS3031においては、上記図12のステップS2031と同様に、縦軸−1/(ωZim)且つ横軸1/ω2とする平面上においてインピーダンス値Z(ω1)の虚数成分Zim1(ω1)、及びインピーダンス値Z(ω2)の虚数成分Zim2(ω2)を結ぶ直線L2を設定する。
【0133】
さらに、ステップS3032においても、上記図12のステップS2032と同様に、縦軸−1/(ωZim)且つ横軸1/ωとする平面上においてインピーダンス値Z(ω)及びZ(ω)を結ぶ直線L3を、上記直線L2の場合と同様の方法で設定する。
【0134】
ステップS3033において、直線L2に基づく反応抵抗値Ract1と、直線L3に基づく反応抵抗値Ract2との大きさの比較が行われる。
【0135】
ここで、反応抵抗値Ract1は、例えば、上記式(3)に、周波数ω1及びω2、並びに取得したインピーダンス値の虚数成分Zim1(ω1)及びZim2(ω2)を代入し、未知数をCdl1及びRact1とする方程式を得て、これを解くことにより得られる。
【0136】
特に、上記式(3)が表す方程式の直線は、直線L2に一致するはずである。したがって、上述のステップS3031において得られた直線L2の傾き及び切片の値とこの式(3)の方程式から得られる直線の傾き1/(Cdl1・Ract12)及び切片Cdl1を比較することで、反応抵抗値Ract1を容易に算出することができる。また、反応抵抗値Ract2も同様の方法で算出することができる。
【0137】
なお、反応抵抗値Ract1や反応抵抗値Ract2を求めるに際して、インピーダンス値の虚数成分Zimに基づく式(3)に代えて、インピーダンス値の実数成分Zreに基づく下記の式
【0138】
【数4】
から得られた方程式を用いるようにしても良い。
【0139】
ただし、この場合、上記式(3)に基づく方程式に対して未知数として電解質膜抵抗値Rmemが増えているので、当該電解質膜抵抗値Rmemを別途、HFR等により定めておく必要がある。
【0140】
次に、ステップS3034において、反応抵抗値Ract1と反応抵抗値Ract2が相互に実質的に一致すると判定されると、ステップS3035に進み、インピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、及びZ(ω3)がすべて、円弧領域Lcに属すると判定される。なお、本実施形態において反応抵抗値Ract1と反応抵抗値Ract2が相互に実質的に一致するとは、差|Ract1−Ract2|が、計測系の誤差等を考慮にいれつつ実質的に0であるとみなすことができる程度の所定値以下(例えば、Ract1又はRact2の値に対して数%以下)であることを意味する。
【0141】
図16には、反応抵抗値Ract1と反応抵抗値Ract2が相互に一致する態様を説明するインピーダンス虚数成分周波数特性曲線が示されている。
【0142】
ここで、直線L2及び直線L3はどちらも、図16に示す平面上において周波数ω2に対応する点を通る。したがって、反応抵抗値Ract1及び電気二重層容量Cdl1が式(3)に適用された場合と、反応抵抗値Ract2及び電気二重層容量Cdl2が式(3)に適用された場合と、の双方において、既知の周波数ω2及びインピーダンス値の虚数成分Zim(ω2)を当該式(3)に共通して代入することができる。これを前提として反応抵抗値Ract1と反応抵抗値Ract2が相互に一致する(Ract1=Ract2)という条件が課されれば、直線L2及び直線L3の傾き及び切片が相互に一致し、両直線は完全に一致することとなる。
【0143】
したがって、この場合、図16からも明らかなように、インピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、及びZ(ω3)がすべて、円弧領域Lcに属すると判定されることが妥当である。
【0144】
一方、上記ステップS3034において反応抵抗値Ract1と反応抵抗値Ract2が相互に実質的に一致していないと判定されると、ステップS3036に進み、少なくとも最も高い周波数ω3で取得されたZ(ω3)が非円弧領域Lncに属すると判定される。
【0145】
図17には、反応抵抗値Ract1と反応抵抗値Ract2が相互に一致しない態様が示されている。この場合、図を参照すれば、周波数ω3が低周波数側にあり少なくともZ(ω3)が非円弧領域Lncに属すると判定されることが妥当である。一方で、図においてインピーダンス値Z(ω2)は円弧領域Lc上に属するものの、例えば反応抵抗値Ract2がより小さい値として得られた場合には、直線L3の傾き1/(Cdl2・Ract22)が大きくなり、インピーダンス値Z(ω2)が非円弧領域Lncに存在すると判定されることが妥当である場合も想定される。
【0146】
上述のように、取得された各インピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、及びZ(ω3)が、円弧領域Lc上に存在するのか、又は非円弧領域Lncが判定された後、上述の図4におけるステップS105〜ステップS107の処理が行われることとなる。
【0147】
上記した本実施形態に係る燃料電池1の状態検出システムによれば、以下の効果を得ることができる。
【0148】
本実施形態に係る燃料電池1の状態検出システムでは、コントローラ6が、3つの周波数ω1、ω2、ω3にて取得されたインピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、及びZ(ω3)から選択された2つ以上のインピーダンス値から推定される2つ以上の反応抵抗値Ract1、Ract2を相互に比較することで上記2つ以上のインピーダンス値の内の少なくとも1つが、インピーダンス線における円弧領域Lcに属するか、又は非円弧領域Lncに属するかを判定するインピーダンス使用可否判断手段として機能する(ステップS3031〜ステップS3036)。
【0149】
具体的には、インピーダンス値Z(ω1)及びZ(ω2)を選択して求めた反応抵抗値Ract1と、インピーダンス値Z(ω2)及びZ(ω3)を選択して求めた反応抵抗値Ract2と、を相互に比較して、3つのインピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、Z(ω3)のすべてが円弧領域Lcに属するか、又はそれらのうちの一つであるインピーダンス値Z(ω3)が非円弧領域Lncに属するかを判定することができる。
【0150】
これにより、燃料電池1の状態検出に用いる推定対象状態量の一種でもある反応抵抗値Ract1を、3つのインピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、Z(ω3)が、円弧領域Lcに属するか、又は非円弧領域Lncに属するかの判定に用いることができ、ひいてはこれらインピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、Z(ω3)の使用可能判断に資することになる。
【0151】
したがって、例えばインピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、Z(ω3)の少なくとも1つが使用可能であると判断された場合であって、水素量や酸素量等の反応抵抗値Ract1、Ract2を推定状態量に設定すべき内部状態の検出の際には、上記インピーダンスの使用可否判断及び推定対象状態量の演算工程にかかる処理を軽減することができ、コントローラ6に対する演算負担も軽減することができる。
【0152】
(第4実施形態)
以下では、第4実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。第1実施形態では、複素平面上における円CY1(インピーダンス値Z(ω1)及びZ(ω2)に基づく)の実軸との交点の座標α1と円CY2(インピーダンス値Z(ω2)及びZ(ω3)に基づく)の実軸との交点の座標α2が一致するかどうかに基づいて、推定対象状態量が使用可能であるかを判定した。これに代えて、本実施形態では、インピーダンス値Z(ω1)及びZ(ω2)に基づく直線と実軸との交点及びインピーダンス値Z(ω2)及びZ(ω3)に基づく直線と実軸との交点の比較結果に基づいて、推定対象状態量が使用可能であるかを判定する。
【0153】
図18は、本実施形態において、インピーダンス値が、インピーダンス線の円弧領域に属するものか、又は非円弧領域に属するかを判定する流れを示すフローチャートである。
【0154】
なお、本実施形態において、一番高い周波数ω3としては、いわゆるHFRに相当する周波数ωHが用いられる。したがって、この周波数ωHにおけるインピーダンス値Z(ωH)が予め測定され、本実施形態ではインピーダンス値Z(ω1)及びZ(ω2)が、インピーダンス線における円弧領域Lcに属するのか、又は非円弧領域Lncに属するのかを判定する。
【0155】
先ず、ステップS4031において、複素平面上でインピーダンス値Z(ω1)及びZ(ω2)を結ぶ直線L4が設定される。なお、この2点のインピーダンス値における実数成分と虚数成分の組(Zre1(ω1),Zim1(ω1))、(Zre2(ω2),Zim2(ω2))が得られれば、これを結ぶ直線L4が定まることとなる。
【0156】
ステップS4032において、直線L4と実軸との交点の座標α3と、HFRインピーダンス値Z(ωH)との大きさの比較が行われる。
【0157】
ステップS4033において、座標α3の値とHFRインピーダンス値Z(ωH)が相互に実質的に一致すると判定されると、ステップS4034に進み、インピーダンス値Z(ω1)及びZ(ω2)が双方とも、非円弧領域Lncに属すると判定される。
【0158】
なお、本実施形態において座標α3の値とHFRインピーダンス値Z(ωH)が相互に実質的に一致するとは、差|α3−Z(ωH)|が、計測系の誤差等を考慮にいれつつ実質的に0であるとみなすことができる程度の所定値以下(例えば、α3又はZ(ωH)の値に対して数%以下)であることを意味する。
【0159】
図19には、座標α3の値とHFRインピーダンス値Z(ωH)が相互に一致する態様が示されている。なお、図においては説明の便宜のため、仮想的にインピーダンス線の非円弧領域Lncを破線で示しているが、実際に燃料電池1のインピーダンス値の計測時においてこのように非円弧領域Lncの態様が明確に定まっているわけではない。また、後述する図20及び図21についても同様に非円弧領域Lncを破線で示す。
【0160】
図から理解されるように、計測に基づく2つのインピーダンスZ(ω1)及びZ(ω2)を結ぶ直線L4と実軸との交点の座標α3が、複素平面上において非円弧領域Lncと実軸との交点となるHFRインピーダンス値Z(ωH)と実質的に一致する場合には、当該直線L4はインピーダンス線の非円弧領域Lncに略一致すると判定することが妥当である。そして、この場合、仮に直線L4上のインピーダンス値Z(ω1)及びZ(ω2)のいずれかが円弧領域Lcに属すると仮定すると、非円弧領域Lncと直線L4が一致しなくなってしまうので、インピーダンス値Z(ω1)及びZ(ω2)がともに非円弧領域Lncに属すると判定されることが妥当である。
【0161】
一方、上記ステップS4033において座標α3の値とHFRインピーダンス値Z(ωH)が相互に一致していないと判定されると、ステップS4035に進み、座標α3の値がHFRインピーダンス値Z(ωH)より大きいかどうかが判定される。
【0162】
そして、交点の座標α3がHFRインピーダンス値Z(ωH)より大きいと判定されると、ステップS4036に進み、相対的に小さい値の周波数ω1に対応するインピーダンス値Z(ω1)が少なくとも円弧領域Lcに属すると判定される。
【0163】
図20には、直線L4と実軸との交点の座標α3がHFRインピーダンス値Z(ωH)より大きい場合の態様が示されている。この場合、図からも明らかなように、相対的に小さい周波数ω1(図上右側)に対応するインピーダンス値Z(ω1)が円弧領域Lcに属し、相対的に大きい周波数ω2(図上左側)に対応するインピーダンス値Z(ω2)は非円弧領域Lnc上に属すると判定されることが妥当である。
【0164】
一方で、上記ステップS4035において交点の座標α3がHFRインピーダンス値Z(ωH)より小さいと判定されると、ステップS4037に進み、インピーダンス値Z(ω1)及びインピーダンス値Z(ω2)の双方がともに、円弧領域Lcに属すると判定される。
【0165】
図21には、直線L4と実軸との交点の座標α3がHFRインピーダンス値Z(ωH)より小さい態様が示されている。図からも明らかなように、相対的大きい周波数ω2(図上左側)に対応するインピーダンス値Z(ω2)が円弧領域Lcに属し、相対的に小さい周波数ω1(図上右側)に対応するインピーダンス値Z(ω1)も円弧領域Lcに属すると判定されることが妥当である。
【0166】
そして、上述のように、各インピーダンス値Z(ω1)及びZ(ω2)が、円弧領域Lc上に存在するのか、又は非円弧領域Lncが判定された後、上述の図4におけるステップS105〜ステップS107の処理が行われることとなる。
【0167】
上記した本実施形態に係る燃料電池1の状態検出システムによれば、以下の効果を得ることができる。
【0168】
本実施形態に係る状態検出システムでは、コントローラ6は、3つの周波数ω1、ω2、ωHにて取得されたインピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、Z(ωH)から選択された2つのインピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)から求められる線L4と実軸との交点の値α3と、高周波数帯における周波数ωHにて取得された高周波数インピーダンス値Z(ωH)と、を相互に比較することで、2つのインピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)が、インピーダンス線における円弧領域Lcに属するか、又は非円弧領域Lncに属するかを判定するインピーダンス使用可否判断手段として機能する。
【0169】
したがって、本実施形態によれば、インピーダンス値Z(ω1)及びZ(ω2)が、それぞれ円弧領域Lcに属するのか、或いは非円弧領域Lncに属するのかをより詳細に把握することができ、当該インピーダンス値Z(ω1)及びZ(ω2)に基づく推定対象状態量のさらなる精度向上に寄与することとなる。
【0170】
(第5実施形態)
以下では、第5実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0171】
本実施形態では、特に、第1実施形態において説明した図4のステップS105における使用不可能時処理において、周波数ωが再探索され、使用可能であるインピーダンス値Z(ω)を探し出して再取得される。なお、本実施形態では説明の簡略化のため、一つの周波数ωにおいて取得されたインピーダンス値(ω)が非円弧領域Lncに属すると使用不可能であると判断され、円弧領域Lに属すると使用可能であると判断するケースについて説明する。しかしながら、本実施形態の範囲はこれに限定されるものではない。
【0172】
図22は、本実施形態に係る使用不可能時処理の具体的処理の流れを示すフローチャートである。特に図22において図4と比して特徴的な工程は、ステップS1051及びステップS1052である。
【0173】
すなわち、ステップS1051では、上述のように周波数ω1に対応するインピーダンス値Z(ω1)が、非円弧領域Lncに属するために使用不可能であると判断されたステップS104の後において、周波数ω1よりも段階的に小さくなる新たな周波数ω1―2、周波数ω1―3、及び周波数ω1―4が探索される。
【0174】
そして、ステップS1052において、上記周波数ω1―2、周波数ω1―3、及び周波数ω1―4にそれぞれ対応するインピーダンス値Z(ω1―2)、Z(ω1―3)、及びZ(ω1―4)が取得される。なお、インピーダンス値の取得方法は、例えば図6で説明した方法と同様の方法により行われる。
【0175】
図23は、周波数の再探索及びインピーダンス値の再取得について説明する図である。なお、当図においても説明の便宜のため、仮想的にインピーダンス線の非円弧領域Lncを破線で示している。
【0176】
図示のように、本実施形態では、周波数ω1に対応するインピーダンス値Z(ω1)が非円弧領域Lncに属するので、段階的に小さくなる(すなわち、図上において漸次左側に向かう)新たな周波数ω1―2、周波数ω1―3、及び周波数ω1―4において対応するインピーダンス値Z(ω1―2)、Z(ω1―3)、及びZ(ω1―4)が取得される。
【0177】
そして、ステップS103に戻り、再取得したインピーダンス値Z(ω1―2)、Z(ω1―3)、及びZ(ω1―4)が、円弧領域Lcに属するかどうかが判定されることで、インピーダンス使用可能性が判断される。
【0178】
ここで、円弧領域Lcに属するかどうかの判定については、例えば、これら3つのインピーダンス値Z(ω1―2)、Z(ω1―3)、及びZ(ω1―4)から2つのインピーダンス値を任意に選択して、当該2つのインピーダンス値に対して、図7に示すステップS1031〜ステップS1036の処理、図12に示すステップS2031〜ステップS2036の処理、図15に示すステップS3031〜ステップS3036の処理、又はステップS4031〜ステップS4037の処理のいずれか一つ、又はこれらを組み合わせることで実行することができる。
【0179】
本実施形態では、図23に示すようにインピーダンス値Z(ω1―4)が円弧領域Lcに属しているので、インピーダンス値Z(ω1―4)が円弧領域Lcに属すると判定されることとなり、結果として図22のステップS104においてインピーダンス値Z(ω1―4)が使用可能であると判断される。したがって、ステップS106以降の処理が行われることとなる。
【0180】
一方で、ステップS103において再取得されたインピーダンス値Z(ω1―2)、Z(ω1―3)、及びZ(ω1―4)のいずれも弧領域Lに属さないと判定されてステップS104において使用不可能であると判断された場合には、上記ステップS1051に戻り、再び周波数を探索する処理が行われる。このような周波数探索処理は、使用可能であるインピーダンス値が取得されるまで繰り返すことができる。
【0181】
上記した本実施形態に係る燃料電池1の状態検出システムによれば、以下の効果を得ることができる。
【0182】
本実施形態に係る状態検出システムでは、コントローラ6は、インピーダンス値を取得すべき周波数を再探索し、再探索された周波数ω1―2、ω1―3、ω1―4に対応するインピーダンス値Z(ω1―2)、Z(ω1―3)、及びZ(ω1―4)を取得する使用不可能時処理実行手段として機能する。
【0183】
これにより、使用不可能と判断されたインピーダンス値Z(ω1)を用いて、燃料電池1の内部状態を誤って推定することをより確実に防止することができる。
【0184】
特に、再取得して使用可能と判断されたインピーダンス値Z(ω1―4)に基づいて推定対象状態量を算出することで当該推定対象状態量の精度が向上し、より良好な燃料電池1の動作制御に資することとなる。
【0185】
なお、本実施形態では、上記ステップS1052において再取得されたインピーダンス値Z(ω1―2)、Z(ω1―3)、及びZ(ω1―4)について、再度、ステップS103において使用可能性が判断されるようにしている。
【0186】
しかしながら、これに限られず、例えば、元の周波数に対してその値を大きく変更した再探索周波数を用いて、再取得されたインピーダンス値が使用可能となり得る可能性を高めることで、上記ステップS103に係る再度の使用可能性の判断工程を省略して、処理を軽減するようにしても良い。
【0187】
(第6実施形態)
以下では、第6実施形態について説明する。なお、第1〜第5実施形態と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0188】
本実施形態では、特に、図4のステップS105における使用不可能時処理において、周波数ω1に対応するインピーダンス値Z(ω1)が、非円弧領域Lncに属するために使用不可能であると判断された場合、インピーダンス値Z(ω1)の計測にかかる電流センサ51及び電圧センサ52の感度向上処理が行われた後に、インピーダンス値が再計測される。
【0189】
図24は、本実施形態に係る燃料電池内部状態検出システムの流れを示すフローチャートである。図24において図4と比して特徴的な工程は、ステップS1061〜ステップS1063である。
【0190】
先ず、ステップS1061において、周波数ω1に対応するインピーダンス値Z(ω1)が、非円弧領域Lncに属するために使用不可能であると判断されたステップS104の後に、インピーダンス値Z(ω1)の計測の感度を向上させる処理が行われる。
【0191】
ここでインピーダンス値Z(ω1)の計測の感度を向上させる処理の例は、電流センサ51及び電圧センサ52の検出値信号のS/N比を向上させる処理等である。このS/N比を向上させる処理としては、例えば、燃料電池1に実際に印加される電圧振幅値又は電流振幅値を増加させる処理が挙げられる。
【0192】
図25は、本実施形態にかかるインピーダンス値Z(ω1)の計測誤差の程度を説明する図である。なお、当図においても説明の便宜のため、仮想的にインピーダンス線の非円弧領域Lncを破線で示している。
【0193】
図示のように、インピーダンス値Z(ω1)は実際には、円弧領域Lcに属している。しかしながら、本実施形態では、電流センサ51及び電圧センサ52の感度が低い等の要因で図の矢印で示す範囲で計測誤差が生じることが想定される。この場合、図の矢印の先端近傍は、非円弧領域Lnc側に進出していることからわかるように、インピーダンス値Z(ω1)、誤って非円弧領域Lncに属すると判定される可能性がある。すなわち、本実施形態においては、上記感度向上処理はこのような誤判定の可能性を低減させることを意図として行われるものである。
【0194】
そして、ステップS1062において、感度向上処理が行われた後においてインピーダンス値Z(ω1)が再計測される。ここで、インピーダンス値Z(ω1)の計測は、例えば図6で説明した方法と同様の方法により行われる。
【0195】
次に、ステップS1063において、再計測されたインピーダンス値Z(ω1)が使用可能であるかどうかが判断される。すなわち、インピーダンス値Z(ω1)が円弧領域Lcに属するかどうかが判定される。
【0196】
なお、この判定については、例えば、これら3つのインピーダンス値Z(ω1―2)、Z(ω1―3)、及びZ(ω1―4)から2つのインピーダンス値を任意に選択して、当該2つのインピーダンス値に対して、図7に示すステップS1031〜ステップS1036の処理、図12に示すステップS2031〜ステップS2036の処理、図15に示すステップS3031〜ステップS3036の処理、又はステップS4031〜ステップS4037の処理のいずれか一つ、又はこれらを組み合わせることで実行することができる。
【0197】
そして、ステップS1063において、再計測したインピーダンス値Z(ω1)が円弧領域Lcに属するかどうか判定されることで、インピーダンス値Z(ω1)が使用可能であるかどうか判断される。ここで、再計測したインピーダンス値Z(ω1)が使用可能であると判断されると、図4で説明したステップS106へ進み、以降の処理が行われる。
【0198】
一方で、ステップS1063において、再計測されたにもかかわらずインピーダンス値Z(ω1)が非円弧領域Lncに属すると判定された場合には、処理を終了する。すなわち、感度向上処理が行われて計測精度が向上されたにもかかわらず、使用不可能と判断されたインピーダンス値Z(ω1)は、ステップS101において設定された推定対象状態量の算出にはふさわしくないと判断され、推定対象状態量の算出を断念してそのまま処理を終了する。
【0199】
なお、インピーダンス値Z(ω1)が使用不可能と判断された場合において推定対象状態量の算出を断念した場合であってもステップS107に進み、事前に設定された他の値を代用して当該値に基づいて各推定対象状態量を算出するようにしても良い。さらに、インピーダンス値Z(ω1)が使用不可能と判断された後に、上記第5実施形態にかかる周波数再探索処理を行うようにしても良い。また、インピーダンス値Z(ω1)の取得精度を向上させる処理を行い、インピーダンス値を再計測するようにしても良い。
【0200】
上記した本実施形態に係る燃料電池1の状態検出システムによれば、以下の効果を得ることができる。
【0201】
本実施形態に係る状態検出システムでは、コントローラ6は、インピーダンス値取得手段の取得感度を向上させて該インピーダンス値Z(ω1)を再取得する使用不可能時処理実行手段として機能する。
【0202】
すなわち、電流センサ51及び電圧センサ52の検出値信号のS/N比を向上させるなどのインピーダンス計測系の感度を上げることでインピーダンス値Z(ω1)の取得精度を向上させて、計測系の誤差の影響を低減し、インピーダンス値Z(ω1)が使用可能であるにもかかわらず、誤って使用不可能であると判断されることを防止することができる。結果として、インピーダンス値Z(ω1)に基づいて算出される推定対象状態量の精度が向上し、より良好な燃料電池1の内部状態の検出精度がより向上することとなる。
【0203】
(第7実施形態)
以下では、第7実施形態について説明する。なお、第1実施形態〜第6実施形態と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0204】
本実施形態では、特に、第1実施形態において説明した図4のステップS105における使用不可能時処理において、周波数ω1に対応するインピーダンス値Z(ω1)が、非円弧領域Lncに属するために使用不可能であると判断された場合、設定された推定対象状態量の粗推定値を設定し、推定対象状態量として粗推定値を算出され、図4におけるステップS106の処理が行われる。
【0205】
図26は、本実施形態に係る燃料電池内部状態検出システムの流れを示すフローチャートである。特に、図26において図4と比して特徴的な工程は、ステップS1071である。
【0206】
すなわち、上述のように周波数ω1に対応するインピーダンス値Z(ω1)が、非円弧領域Lncに属するために使用不可能であると判断されたステップS104の後に、ステップS1071において、所望の状態量の粗推定値が算出される。
【0207】
ここで、粗推定値の算出方法としては種々の方法が選択可能である。一例としては、敢えて、上述のように使用不可能と判断されたインピーダンス値Z(ω1)に基づいて、燃料電池1の推定対象状態量を粗推定値として算出することである。
【0208】
この場合、算出された燃料電池1の状態量は、勿論、実際の値に対して誤差が大きく、精度としては不十分である。しかしながら、推定対象状態量の値を概算し燃料電池1の大まかな内部状態を見積もることができるという点について一定の有用性がある。
【0209】
一方で、上記使用不可能と判断されたインピーダンス値Z(ω1)を用いずに、他の方法で粗推定値を算出することもできる。このような粗推定値の算出の一例を、推定対象状態量として。燃料電池1の触媒層112A、113A等に起因するアイオノマ抵抗値Rionが設定される場合について説明する。
【0210】
図27は、少なくとも2つのインピーダンス値の実測値を適用して上記式(1)から求めた理想的なインピーダンス曲線(等価回路インピーダンス曲線C1とも記載する)、及び予め所定条件の下で測定されたインピーダンスの実測値に基づくインピーダンス曲線(実測インピーダンス曲線C2とも記載する)を示す。
【0211】
そして、本発明者らの鋭意研鑽の結果、等価回路インピーダンス線C1と実軸との交点の値である電解質膜抵抗値Rmemと、実測インピーダンス線C2と実軸との交点の値であるHFRインピーダンス値Z(ωH)との差が、アイオノマ抵抗値Rionの1/3に相当することがわかっている。したがって、本実施形態では3×(Rmem−Z(ωH))をアイオノマ抵抗値Rionと粗推定する。
【0212】
ここで、上記式(1)においてRmem、Ract、及びCdlが未知数であるところ、低周波数領域における周波数2点におけるインピーダンス値を用いれば、当該Rmemを算出することができる。なお、他の方法によりアイオノマ抵抗値Rionを推定しても良い。
【0213】
そして、粗推定値が算出されるとステップS106以降の処理が行われる。
【0214】
上記した本実施形態に係る燃料電池1の状態検出システムによれば、以下の効果を得ることができる。
【0215】
本実施形態に係る状態検出システムでは、コントローラ6は、推定対象状態量算出手段に対し、推定対象状態量として粗推定値Rionを算出させる使用不可能時処理実行手段として機能する。
【0216】
これにより、推定対象状態量を概算し燃料電池1の大まかな内部状態を見積もることができる。したがって、本実施形態に係る状態検出システムは、大まかな内部状態の把握で十分であるような制御系において有用である。
【0217】
なお、上記実施の形態におけるステップS1071の粗推定値の算出に代えて、取得したインピーダンス値の使用が不可能であると判断された場合には、内部状態の検出を断念するようにしても良い。これにより、精度の低い推定対象状態量を用いることを確実に防止しして、内部状態の推定精度をより向上させることができる。
【0218】
(第8実施形態)
以下、第8実施形態について説明する。なお、第1〜第7実施形態と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。本実施形態では、把握すべき燃料電池1の内部状態が水素量である場合について説明する。
【0219】
図28は、本実施形態に係る燃料電池内部状態検出システムの流れを示すフローチャートである。
【0220】
ステップS´101において、燃料電池1の水素量を検出するための指標としてアノード極112の反応抵抗値Ra及び電気二重層容量Cdlが推定対象状態量として設定される。なお、この推定対象状態量であるアノード極112の反応抵抗値Ra及び電気二重層容量Cdlは、燃料電池1の水素量に対応するものとして図5に示した内部状態-状態量テーブルから抽出されたものである。
【0221】
ステップS´102において、3点の周波数ω1、ω2、ω3(ω1<ω2<ω3)におけるインピーダンス値が取得される。この周波数ω1、ω2、ω3は、アノード極112の反応抵抗値Raを算出するために適する後述の所定の周波数帯に含まれる。なお、インピーダンス値の具体的な取得方法については、図6のステップS1021〜ステップS1024で示した方法と同様である。
【0222】
そして、ステップS´103において、周波数ω1、ω2、ω3におけるインピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、Z(ω3)の内、少なくとも2つのインピーダンス値、特にインピーダンス値Z(ω1)及びZ(ω2)が円弧領域Lcに属するかどうかが判定される。
【0223】
そして、ステップS´104において、インピーダンス値Z(ω1)及びインピーダンス値Z(ω2)の双方が円弧領域Lcに属すれば使用可能であると判断し、インピーダンス値Z(ω1)及びインピーダンス値Z(ω2)のいずれかが円弧領域Lcに属さないと判定されると使用可能ではないと判断される。すなわち、本実施形態では、インピーダンス値Z(ω1)及びインピーダンス値Z(ω2)がともに円弧領域Lcに属する場合に、インピーダンス値が使用可能と判断されることとなる。
【0224】
なお、インピーダンス値Z(ω1)及びインピーダンス値Z(ω2)がそれぞれ円弧領域Lcに属するかどうかの判定は、例えば図7に示すステップS1031〜ステップS1036の処理、図12に示すステップS2031〜ステップS2036の処理、図15に示すステップS3031〜ステップS3036の処理、又はステップS4031〜ステップS4037の処理のいずれか一つ、又はこれらを組み合わせることで実行することができる。
【0225】
そして、ステップS´106では、ステップS´104において使用可能であると判断されたインピーダンス値Z(ω1)及びインピーダンス値Z(ω2)に基づいて、アノード極112の反応抵抗値Ra及び電気二重層容量値Cdlが算出される。この算出法の一例を説明する。
【0226】
先ず、周波数ω1及びω2、並びに算出したインピーダンス値Z(ω1)及びZ(ω2)の虚数成分Zim(ω1)及びZim(ω2)を上記式(3)に代入し、未知数をRact及びCdlとする方程式を得てこれを解くことでRact及びCdlが求められる。
【0227】
特に、上記式(3)について、縦軸に(−1/ωZim)、横軸に(1/ω2)と取って2つの周波数ω1、及びω2で当該座標上の2点をプロットして直線を描き、この直線の傾き及び切片を求めれば、この傾きが(1/(Cdl・Ract2))に等しくなり、切片が(Cdl)に等しくなることから、反応抵抗値Ractを容易に算出することができる。そして、本実施形態ではこの反応抵抗値Ractをアノード極112の反応抵抗値Raとみなすことができる。
【0228】
なお、本来であれば上記式(3)に基づき求めた反応抵抗値Ractには、アノード極112の反応抵抗値Raの成分だけでなく、カソード極113の反応抵抗値Rcの成分が含まれていると考えられるので、反応抵抗値Ractをアノード極112の反応抵抗値Raとする推定が必ずしも適当であるとはいえない。
【0229】
しかしながら、本発明者らの鋭意研鑽の結果、上記式(3)に基づいて得られた反応抵抗値Ractをアノード極112の反応抵抗値Raとしても、水素量の検出に際しては一定の信頼性のある値を得られるような所定の周波数帯が存在することがわかっている。
【0230】
すなわち、この周波数帯とは、水素量が比較的少ない水素欠乏時において上記式(3)に基づき求めた反応抵抗値Ractと、酸素量が比較的少ない酸素欠乏時において上記式(3)に基づき求めた反応抵抗値Ractとの差が一定値以上離れている周波数である。概して言えば、水素ガスの過不足に対してのみ反応抵抗値Ractが高精度に相関して変動する周波数帯である。そして、この周波数帯は、例えば10Hz〜100Hz、より好ましくは20Hz〜50Hz、もっとも好ましくは30Hz近傍である。したがって、このような周波数帯においてインピーダンス値Z(ω1)及びインピーダンス値Z(ω2)の計測を行えば、式(3)から求められる反応抵抗値Ractをアノード極112の反応抵抗値Raとみても高精度に水素量の検出を行うことができる。
【0231】
そして、ステップS´107において、算出されたアノード極112の反応抵抗値Ra及び電気二重層容量値Cdlにより、燃料電池1の水素量が検出される。当該検出の具体的な方法としては、例えば予め実験等により反応抵抗値Ra及び電気二重層容量値Cdlと、燃料電池1の水素量との関係をテーブルとして記憶しておき、算出されたアノード極112の反応抵抗値Ra及び電気二重層容量値Cdlに応じて当該テーブルを参照し、実際の燃料電池1の水素量を検出するようにすることができる。
【0232】
また、水素量の不足により水素欠乏状態と検出される基準となるアノード極112の反応抵抗値Raや電気二重層容量値Cdlの閾値を定めておき、反応抵抗値Raや電気二重層容量値Cdlの算出値が上記閾値を超えた場合に水素欠乏と検出し、そうでない場合には水素が十分であると検出するなどの二値的な検出態様を採用するようにしても良い。
【0233】
一方、上記ステップS´104において、インピーダンス値Z(ω1)及びインピーダンス値Z(ω2)のいずれかが円弧領域Lcに属さないと判断されると、ステップS105に進み、第5実施形態〜第7実施形態で説明した使用不可能時処理が行われる。
【0234】
上記した本実施形態に係る燃料電池1の状態検出システムによれば、以下の効果を得ることができる。
【0235】
本実施形態に係る状態検出システムでは、コントローラ6は、検出する内部状態が水素量である場合に、推定対象状態量としてアノード極112の反応抵抗値Ra及び電気二重層容量値Cdlを設定する推定対象状態量設定手段として機能する。
【0236】
これによれば、燃料電池1の水素量の指標として適切な状態量である反応抵抗値Ract及び電気二重層容量値Cdlを設定することができ、取得したインピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)が反応抵抗値Ract及び電気二重層容量値Cdlの算出に使用可能であるかどうかを判断することができる。結果として燃料電池1の水素量の高精度な検出に資することとなる。
【0237】
なお、本実施形態では、アノード極112の反応抵抗値Ra及び電気二重層容量値Cdlの双方を、内部状態としての水素量に対応する推定対象状態量として設定しているが、反応抵抗値Ra及び電気二重層容量値Cdlのいずれか一方のみを推定対象状態量として設定するようにしても良い。
【0238】
(第9実施形態)
以下、第9実施形態について説明する。なお、第1〜第8実施形態と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。本実施形態では、把握すべき燃料電池1の内部状態が湿潤状態(湿潤度)である場合について説明する。すなわち、本実施形態では、燃料電池1が乾燥状態であるのかそうではないのかを検出することができる。
【0239】
図29は、本実施形態に係る燃料電池内部状態検出システムの流れを示すフローチャートである。
【0240】
ステップS´´101において、燃料電池1湿潤度を検出する指標としてアイオノマ抵抗値Rionが推定対象状態量として設定される。なお、この推定対象状態量であるアイオノマ抵抗値Rionは、湿潤度に対応するものとして図5に示した内部状態-状態量テーブルから抽出されたものである。
【0241】
次に、ステップS´´102において、3点の周波数ω、ω、及びωにおけるインピーダンス値が取得される。なお、インピーダンス値の具体的な取得方法については、図6のステップS1021〜ステップS1024で示した方法と同様である。
【0242】
そして、ステップS´´103において、複数点の周波数ω1、ω2、ω3におけるインピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、Z(ω3)の内、少なくとも2つのインピーダンス値、特にインピーダンス値Z(ω1)及びZ(ω2)が円弧領域Lcに属するかどうかが判定される。なお、インピーダンス値Z(ω1)及びインピーダンス値Z(ω2)がそれぞれ円弧領域Lcに属するかどうかの判定は、例えば図7に示すステップS1031〜ステップS1036の処理、図12に示すステップS2031〜ステップS2036の処理、図15に示すステップS3031〜ステップS3036の処理、又はステップS4031〜ステップS4037の処理のいずれか一つ、又はこれらを組み合わせることで実行することができる。
【0243】
そして、ステップS´´104において、インピーダンス値Z(ω)及びインピーダンス値Z(ω)の双方が円弧領域Lに属すれば使用可能であると判断されステップS´´106に進み、インピーダンス値Z(ω)及びインピーダンス値Z(ω)のいずれかが円弧領域Lに属さないと判定されると使用可能ではないと判断されステップS105に進む。
【0244】
そして、ステップS´´106では、ステップS´´104において使用可能であると判断されたインピーダンス値Z(ω1)及びインピーダンス値Z(ω2)に基づいて、及び予め計測されたHFRインピーダンス値Z(ωH)に基づいて、アイオノマ抵抗値Rionが算出される。
【0245】
なお、本実施形態においては、アイオノマ抵抗値Rionは、インピーダンス値Z(ω1)及びインピーダンス値Z(ω2)に基づきえられた電解質膜抵抗値RmemからHFRインピーダンス値Z(ωH)を減じた値の3倍として与えられる(図27参照)。
【0246】
そして、ステップS´´107において、算出されたアイオノマ抵抗値Rionにより、燃料電池1の湿潤度が検出される。当該検出の具体的な方法としては、例えば予め実験等によりアイオノマ抵抗値Rionと、燃料電池1の湿潤状態の指標である湿潤度の関係をテーブルとして記憶しておき、算出されたアイオノマ抵抗値Rionに応じて当該テーブルを参照し、実際の燃料電池1の湿潤度を検出するようにすることができる。
【0247】
また、燃料電池1が過乾燥状態や過湿潤状態であると検出される基準となる特定のアイオノマ抵抗値Rionを閾値として定めておき、アイオノマ抵抗値Rionの算出値が当該閾値を超えた場合に過乾燥状態や過湿潤状態を検出するなどの二値的な検出態様を採用するようにしても良い。
【0248】
一方、上記ステップS´´104において、インピーダンス値Z(ω1)及びインピーダンス値Z(ω2)のいずれかが円弧領域Lcに属さないと判断されると、ステップS105に進み、第5実施形態〜第7実施形態で説明した使用不可能時処理が行われる。
【0249】
上記した本実施形態に係る燃料電池1の状態検出システムによれば、以下の効果を得ることができる。
【0250】
本実施形態に係る状態検出システムでは、コントローラ6が、検出する内部状態が湿潤度である場合に、前記推定対象状態量としてアイオノマ抵抗値Rionを設定する推定対象状態量設定手段として機能する。
【0251】
これによれば、燃料電池1の湿潤状態の指標として適切な状態量であるアイオノマ抵抗値Rionを設定することができ、取得したインピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)がアイオノマ抵抗値Rionの算出に使用可能であるかどうか判断することができる。結果として燃料電池1の湿潤状態の高精度な検出に資することとなる。
【0252】
なお、本実施形態では、燃料電池1の湿潤状態の指標である適切な状態量としてアイオノマ抵抗値Rionを設定したが、燃料電池1の湿潤状態の指標である状態量として、電解質膜抵抗値Rmemを設定するようにしても良い。この場合、特にHFRインピーダンス値Z(ωH)を近似的に電解質膜抵抗値Rmemに相当するものとして用いても良い。
【0253】
このように、電解質膜抵抗値Rmemに相当するものとして算出が比較的容易であるHFRインピーダンス値Z(ωH)を用いることで、コントローラ6の演算量を低下させてその負担を軽減することができる。
【0254】
(第10実施形態)
以下、第10実施形態について説明する。なお、第1〜9実施形態と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。本実施形態では、把握すべき燃料電池1の内部状態が酸素欠乏状態である場合について説明する。すなわち、本実施形態では、燃料電池1が酸素欠乏状態であるのかそうではないのかを検出することができる。
【0255】
図30は、本実施形態に係る燃料電池内部状態検出システムの流れを示すフローチャートである。
【0256】
ステップS´´´101において、燃料電池1の酸素量を検出するための指標としてカソード極113の反応抵抗値Rcが推定対象状態量として設定される。なお、このカソード極113の反応抵抗値Rcは、燃料電池1の酸素量に対応するものとして図5に示した内部状態-状態量テーブルから抽出されたものである。
【0257】
次に、ステップS´´´102において、3点の周波数ω1、ω2、ω3におけるインピーダンス値が取得される。この周波数ω1、ω2、ω3は、カソード極113の反応抵抗値Rcを算出するために適する後述の所定の周波数帯に含まれる。なお、インピーダンス値の具体的な取得方法については、図6のステップS1021〜ステップS1024で示した方法と同様である。
【0258】
そして、ステップS´´´103において、周波数ω1、ω2、ω3におけるインピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)、Z(ω3)の内、少なくとも2つのインピーダンス値、特にインピーダンス値Z(ω1)及びZ(ω2)が円弧領域Lcに属するかどうかが判定される。なお、インピーダンス値Z(ω1)及びインピーダンス値Z(ω2)がそれぞれ円弧領域Lcに属するかどうかの判定は、例えば図7に示すステップS1031〜ステップS1036の処理、図12に示すステップS2031〜ステップS2036の処理、図15に示すステップS3031〜ステップS3036の処理、又はステップS4031〜ステップS4037の処理のいずれか一つ、又はこれらを組み合わせることで実行することができる。
【0259】
そして、ステップS´´´104において、インピーダンス値Z(ω1)及びインピーダンス値Z(ω2)の双方が円弧領域Lcに属すれば使用可能であると判断し、インピーダンス値Z(ω1)及びインピーダンス値Z(ω2)のいずれかが円弧領域Lcに属さないと判断されると使用可能ではないと判断される。
【0260】
そして、ステップS´´´106では、ステップS´´´104において使用可能であると判断されたインピーダンス値Z(ω1)及びインピーダンス値Z(ω2)に基づいて、カソード極113の反応抵抗値Rcが算出される。この算出法の一例を説明する。
【0261】
先ず、周波数ω1及びω2、並びに算出したインピーダンス値Z(ω1)及びZ(ω2)の虚数成分Zim(ω1)及びZim(ω2)を上記式(3)に代入し、未知数をRact及びCdlとする方程式を得てこれを解くことでRact及びCdlが求められる。
【0262】
特に、上記式(3)について、縦軸に(−1/ωZim)、横軸に(1/ω2)と取って2つの周波数ω1及びω2で当該座標上の2点をプロットして直線を描き、この直線の傾き及び切片を求めれば、この傾きが(1/(Cdl・Ract2))に等しくなり、切片が(Cdl)に等しくなることから、反応抵抗値Ractを容易に算出することができる。そして、本実施形態ではこの反応抵抗値Ractをカソード極113の反応抵抗値Rcとみなすことができる。
【0263】
なお、本来であれば上記式(3)に基づき求めた反応抵抗値Ractには、カソード極113の反応抵抗値Rcの成分だけでなく、アノード極112の反応抵抗値の成分が含まれていると考えられるので、反応抵抗値Ractをカソード極113の反応抵抗値Rcとする推定が必ずしも適当であるとはいえない。
【0264】
しかしながら、本発明者らの鋭意研鑽の結果、上記式(3)に基づいて得られた反応抵抗値Ractをカソード極113の反応抵抗値Rcとみなしても、酸素量の検出に際しては一定の信頼性が得られるような所定の周波数帯が存在することがわかっている。
【0265】
すなわち、この周波数帯とは、酸素量が比較的少ない酸素欠乏時において上記式(3)に基づき求めた反応抵抗値Ractと、水素量が比較的少ない水素欠乏時において上記式(3)に基づき求めた反応抵抗値Ractとの差が一定値以上離れている周波数である。概して言えば、酸素の過不足に対してのみ反応抵抗値Ractが高精度に相関して変動する周波数帯である。そして、この周波数帯は、例えば1Hz〜10Hz、より好ましくは5Hz近傍である。したがって、このような周波数帯においてインピーダンス値Z(ω1)及びインピーダンス値Z(ω2)の計測を行えば、式(3)から求められる反応抵抗値Ractをカソード極113の反応抵抗値Rcとみても高精度に酸素量の検出を行うことができる。
【0266】
そして、ステップS´´´107において、算出されたカソード極113の反応抵抗値Rcにより、燃料電池1の酸素量が検出される。当該検出の具体的な方法としては、例えば予め実験等により反応抵抗値Rcと、燃料電池1の酸素量との関係をテーブルとして記憶しておき、算出されたカソード極113の反応抵抗値Rcに応じて当該テーブルを参照し、実際の燃料電池1の酸素量を検出するようにすることができる。
【0267】
また、酸素量の不足により酸素欠乏状態と検出される基準となるカソード極113の反応抵抗値Rcの閾値を定めておき、反応抵抗値Rcの算出値が上記閾値を超えた場合に酸素欠乏し、そうでない場合には酸素が十分であると検出するなどの二値的な検出態様を採用するようにしても良い。
【0268】
一方、上記ステップS´´´104において、インピーダンス値Z(ω1)及びインピーダンス値Z(ω2)のいずれかが円弧領域Lcに属さないと判断されると、ステップS105に進み、第5実施形態〜第7実施形態で説明した使用不可能時処理が行われる。
【0269】
上記した本実施形態に係る燃料電池1の状態検出システムによれば、以下の効果を得ることができる。
【0270】
本実施形態に係る状態検出システムでは、コントローラ6が、検出する内部状態が酸素量である場合に、推定対象状態量としてカソード極113の反応抵抗値Rcを設定する推定対象状態量設定手段として機能する。
【0271】
これによれば、燃料電池1の酸素量の指標として適切な状態量である反応抵抗値Rcを設定することができ、取得したインピーダンス値Z(ω1)、Z(ω2)が反応抵抗値Rcの算出に使用可能であるかどうかを判断することができる。結果として燃料電池1の酸素量の高精度な検出に資することとなる。
【0272】
(第11の実施形態)
以下、第11の実施形態について説明する。なお、第1〜第10の実施形態と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。本実施形態では、インピーダンス計測にあたり、燃料電池1の出力電流及び出力電圧に交流信号を重畳する構成に代えて、燃料電池1に測定用電流源から電流Iを供給し、当該供給電流Iと出力される電圧Vとに基づいてインピーダンスZ=V/Iを計測するいわゆる励起電流印加法を行う。
【0273】
本実施形態では、第1実施形態等において行われる燃料電池1のインピーダンスの計測にあたり、交流信号を重畳した出力電流I及び出力電圧Vを測定する構成に代えて、燃料電池1に所定の測定用電流源から電流Iを供給し、当該供給電流Iと出力される電圧Vとに基づいてインピーダンスZ=V/Iを算出するいわゆる励起電流印加法が行われる。
【0274】
図31は、本実施形態の燃料電池システム100において、インピーダンス計測に係る要部を概略的に示したシステム図である。
【0275】
図示のように、本実施形態に係る燃料電池システム100では、燃料電池1に交流電流を調整しつつ印加する印加交流電流調整部200が設けられている。
【0276】
印加交流電流調整部200は、スタックとして構成された燃料電池1の正極端子(カソード極側端子)1B及び負極端子(アノード極側端子)1Aの他に、中途端子1Cに接続されている。なお、中途端子1Cに接続された部分は図に示すようにアースされている。
【0277】
そして、印加交流電流調整部200は、中途端子1Cに対する正極端子1Bの正極側交流電位差V1を測定する正極側電圧測定センサ210と、中途端子1Cに対する負極端子1Aの負極側交流電位差V2を測定する負極側電圧測定センサ212と、を有している。
【0278】
さらに、印加交流電流調整部200は、正極端子1Bと中途端子1Cからなる回路に交流電流I1を印加する正極側交流電源部214と、負極端子1Aと中途端子1Cからなる回路に交流電流I2を印加する負極側交流電源部216と、これら交流電流I1及び交流電流I2の振幅や位相を調整するコントローラ6と、正極側交流電位差V1、負極側交流電位差V2及び交流電流I1、I2に基づいて燃料電池1のインピーダンスZの演算を行う演算部220と、を有している。
【0279】
本実施形態では、コントローラ6は、正極側交流電位差V1と負極側交流電位差V2が等しくなるように、交流電流I1と交流電流I2の振幅及び位相を調節する。
【0280】
また、演算部220は、図示しないAD変換器やマイコンチップ等のハードウェア、及びインピーダンスを算出するプログラム等のソフトウェア構成を含み、正極側交流電位差V1を交流電流I1で除して、中途端子1Cから正極端子1BまでのインピーダンスZ1を算出し、負極側交流電位差V2を交流電流I2で除して、中途端子1Cから負極端子1AまでのインピーダンスZ2を算出する。さらに、演算部220は、インピーダンスZ1とインピーダンスZ2の和をとることで、燃料電池1の全インピーダンスZを算出する。
【0281】
上記した本実施形態に係る燃料電池1の状態検出装置によれば、以下の効果を得ることができる。
【0282】
本実施形態に係る燃料電池内部状態検出システムは、燃料電池1に接続されて、該燃料電池1に交流電流I1,I2を出力する交流電源部214,216と、燃料電池1の正極側1Bの電位から中途部分1Cの電位を引いて求めた電位差である正極側交流電位差V1と、燃料電池1の負極側1Aの電位から中途部分1Cの電位を引いて求めた電位差である負極側交流電位差V2と、に基づいて交流電流I1,I2を調整する交流調整部としてのコントローラ6と、調整された交流電流I1,I2並びに正極側交流電位差V1及び負極側交流電位差V2に基づいて燃料電池1のインピーダンスZを演算するインピーダンス演算部220と、を有する。
【0283】
コントローラ6は、燃料電池1の正極側の正極側交流電位差V1が負極側の負極側交流電位差V2と実質的に一致するように、正極側交流電源部214により印加される交流電流I1及び負極側交流電源部216により印加される交流電流I2の振幅及び位相を調節する。これにより、正極側交流電位差V1の振幅と負極側交流電位差V2の振幅とが等しくなるので、正極端子1Bと負極端子1Aが実質的に等電位となる。したがって、インピーダンス計測のための交流電流I1、I2が走行モータ53に流れることが防止されるので、燃料電池1による発電に影響を与えることが防止される。
【0284】
また、本実施形態にかかるインピーダンス計測において、燃料電池1が発電状態の場合に計測を実行する場合、当該発電により生じた電圧に計測用交流電位が重畳されることとなるので、正極側交流電位差V1及び負極側交流電位差V2の値自体が大きくなるが、正極側交流電位差V1及び負極側交流電位差V2の位相や振幅自体が変わるわけではないので、燃料電池1が発電状態ではない場合と同様に高精度なインピーダンス計測を実行することができる。
【0285】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0286】
例えば、上記第1〜第11の実施形態の要素を任意に組み合わせることは、本発明の要旨の範囲内に含まれる。
【0287】
また、上記各実施形態では、説明の簡略化を図るために、3つの周波数にてインピーダンス値を取得する場合について説明しているが、これに限られるものではなく、4つ以上の周波数についてインピーダンス値を取得し、適宜、これらインピーダンス値の中から、使用可能であるかどうかを判断する対象であるインピーダンス値を選択して、上記実施形態に係る各工程を行うようにしても良い。
【0288】
さらに、上記実施形態では、複素平面上において、直線L2〜直線L4、円CY1、及び円CY2を2つのインピーダンス値に基づいて描く場合について説明したが、これに限られず、これら直線L2〜L4や円CY1、CY2を3つ以上のインピーダンス値に基づいて描くようにしても良い。この場合、3つ以上のインピーダンス値に基づいて、最小二乗法等の近似法を適用し最適な直線や円を定めるようにしても良い。
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