(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記単量体成分が、該単量体成分の総量に基づいてα,β−不飽和カルボン酸単量体を50〜100重量%、その他の単官能重合性単量体を0〜50重量%含む請求項1に記載の水溶性重合体の製造方法。
前記単量体成分が、前記α,β−不飽和カルボン酸単量体及び前記その他の単官能重合性単量体成分の総量に対し、さらに多官能重合性単量体を0.01〜3.0重量%含む請求項2に記載の水溶性重合体の製造方法。
前記単量体成分の残部の供給終了時点において、反応液全体に占める単量体成分の全使用量の割合が、25〜40質量%の範囲である請求項1〜5のいずれかに記載の水溶性重合体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳しく説明する。尚、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味する。また、「(メタ)アクリロイル基」とは、アクリロイル基及び/又はメタクリロイル基を意味する。
【0012】
本発明の製造方法は、初期仕込み工程及び重合工程を必須の工程として備えるものである。本発明の初期仕込み工程及び重合工程を備えた製造方法によれば、単量体濃度の高い重合条件下であっても、増粘又はゲル化等を生じることなく、安定にカルボキシル基含有水溶性重合体を製造することができる。また、必要に応じてこれらの工程の後、更に脱溶媒工程を備えるものであってもよい。
以下、各工程について詳細に説明する。
【0013】
1.初期仕込み工程
初期仕込み工程は、反応溶媒の全量若しくは一部、又は、該反応溶媒の全量若しくは一部及び重合原料として用いる単量体成分の一部を含む初期仕込み液を予め反応器に仕込む工程を含む。すなわち、初期仕込み液において反応溶媒及び単量体成分を仕込む組合せについては、以下の4通りが挙げられる。
i)反応溶媒の全量を仕込み、単量体成分を仕込まない。
ii)反応溶媒の全量及び単量体成分の一部を仕込む。
iii)反応溶媒の一部を仕込み、単量体成分を仕込まない。
iv)反応溶媒の一部及び単量体成分の一部を仕込む。
重合条件等に応じて、上記初期仕込み液は、反応器内で攪拌混合されてもよいし静置されてもよく、所定の温度に加熱又は冷却されてもよい。また、反応器内の圧力を所定の条件に加圧または減圧してもよい。
【0014】
1−1.反応溶媒
反応溶媒は、重合方法に応じて水及び各種有機溶剤等から選択される溶媒を使用することができる。有機溶剤としては、テトラヒドロフラン及びジオキサン等の環状エーテル類;ベンゼン、トルエン及びキシレン等の芳香族炭化水素化合物;n−ヘキサン、イソヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサン及びメチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素化合物;酢酸エチル、酢酸ブチル及び酢酸イソブチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン及びシクロヘキサノン等のケトン類;メタノール、エタノール、イソプロパノール及びtert−ブタノール等のアルコール類;アセトニトリル等のニトリル化合物が例示される。これらの反応溶媒は、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記の中でも高分子量の重合体を安定的に製造し易い点から、酢酸エチル、n−ヘキサン及びシクロヘキサンが好ましい。
【0015】
初期仕込み工程では、反応溶媒の全量を反応器に仕込んでもよいし、一部のみを仕込んでもよい。反応溶媒は、重合工程で供給される各原料の希釈液として用いられる場合もあることから、通常は反応溶媒の一部が初期仕込み液に用いられる。初期仕込みに用いられる反応溶媒は、良好な増粘性能及び製造安定性の観点から、一般には反応溶媒全量の10〜100重量%の範囲であり、20〜80重量%の範囲であることが好ましく、30〜60重量%の範囲であることがより好ましい。
【0016】
1−2.単量体成分
単量体成分としては、分子中に1つの不飽和基を有する単官能重合性単量体であるα,β−不飽和カルボン酸単量体を含む単量体成分が用いられる。α,β−不飽和カルボン酸単量体としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、イタコン酸モノアルキルエステル、マレイン酸、マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸、フマル酸モノアルキルエステル、シトラコン酸、シトラコン酸モノアルキルエステル、桂皮酸等のカルボキシル基含有化合物及びこれらの塩(アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩)、無水イタコン酸、無水マレイン酸等の酸無水物等が挙げられる。これらの単量体は、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記の中でも重合速度が良好である点から、(メタ)アクリル酸及びこれらの塩が好ましい。
【0017】
また、本発明の効果を損なわない範囲であれば、単量体成分として上記α,β−不飽和カルボン酸単量体以外の他の単官能重合性単量体を併用することも可能である。他の単官能重合性単量体としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物、芳香族ビニル化合物、アミノ基含有ビニル化合物、アミド基含有ビニル化合物、スルホン酸基含有ビニル化合物、ポリオキシアルキレン基含有ビニル化合物、アルコキシル基含有ビニル化合物、シアノ基含有ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、ビニルエーテル化合物、ビニルエステル化合物等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ペンチル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−メチルペンチル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−デシル、(メタ)アクリル酸n−ドデシル、(メタ)アクリル酸n−オクタデシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。
【0019】
上記芳香族ビニル化合物としては、スチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、α−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレン、4−tert−ブチルスチレン、tert−ブトキシスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン、ハロゲン化スチレン、スチレンスルホン酸、α−メチルスチレンスルホン酸等が挙げられる。
【0020】
上記アミノ基含有ビニル化合物としては、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノメチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノメチル、(メタ)アクリル酸2−ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2−ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2−(ジ−n−プロピルアミノ)エチル、(メタ)アクリル酸2−ジメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸2−ジエチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ジ−n−プロピルアミノ)プロピル、(メタ)アクリル酸3−ジメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸3−ジエチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸3−(ジ−n−プロピルアミノ)プロピル等が挙げられる。
【0021】
上記アミド基含有ビニル化合物としては、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0022】
上記スルホン酸基含有ビニル化合物としては、メタリルスルホン酸、(メタ)アクリルアミド−2−メチル−2−プロパンスルホン酸等が挙げられる。
【0023】
上記ポリオキシアルキレン基含有ビニル化合物としては、ポリオキシエチレン基、及び/又は、ポリオキシプロピレン基を有するアルコールの(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。
【0024】
上記アルコキシル基含有ビニル化合物としては、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−(n−プロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(n−ブトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸3−メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−エトキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−(n−プロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(n−ブトキシ)プロピル等が挙げられる。
【0025】
上記シアノ基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、(メタ)アクリル酸シアノメチル、(メタ)アクリル酸1−シアノエチル、(メタ)アクリル酸2−シアノエチル、(メタ)アクリル酸1−シアノプロピル、(メタ)アクリル酸2−シアノプロピル、(メタ)アクリル酸3−シアノプロピル、(メタ)アクリル酸4−シアノブチル、(メタ)アクリル酸6−シアノヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチル−6−シアノヘキシル、(メタ)アクリル酸8−シアノオクチル等が挙げられる。
【0026】
上記シアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル等が挙げられる。
【0027】
上記ビニルエーテル化合物としては、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニル−n−ブチルエーテル、ビニルフェニルエーテル、ビニルシクロヘキシルエーテル等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
ビニルエステル単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等が挙げられる。
【0028】
その他、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系化合物;マレイン酸エステル化合物;イタコン酸エステル化合物;ビニルピリジン等のN−ビニル複素環化合物等が挙げられる。
【0029】
単官能重合性単量体の総量に占めるα,β−不飽和カルボン酸単量体の割合は、良好な増粘性能及び水溶性、並びに、製造安定性等の観点から、50〜100重量%の範囲が好ましく、70〜100重量%の範囲がより好ましく、90〜100重量%の範囲がさらに好ましく、95〜100重量%の範囲が最も好ましい。
また、単官能重合性単量体の総量に占めるα,β−不飽和カルボン酸単量体以外の他の単官能重合性単量体の割合は、0〜50重量%の範囲が好ましく、0〜30重量%の範囲がより好ましく、0〜10重量%の範囲がさらに好ましく、0〜5重量%の範囲が最も好ましい。
【0030】
単量体成分としては、上記単官能重合性単量体以外に多官能重合性単量体を使用してもよい。多官能重合性単量体の具体的な例としては、多官能(メタ)アクリレート化合物、多官能アリル化合物、メチレンビスアクリルアミド、ヒドロキシエチレンビスアクリルアミド、ジビニルベンゼン等が好ましく用いられる。これらの化合物は、1種のみを用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの内でも、製造安定性の観点で多官能アリル化合物が好ましい。
【0031】
多官能(メタ)アクリレート化合物としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等の2価アルコールのジ(メタ)アクリレート類;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド変性体のトリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の3価以上の多価アルコールのトリ(メタ)アクリレート、テトラ(メタ)アクリレート等のポリ(メタ)アクリレートを挙げることができる。これらの化合物は、単独で用いてよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
多官能アリル化合物としては、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、ペンタエリスリトールジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、テトラアリルオキシエタン、アリルサッカロース、(メタ)アクリル酸アリル、ジアリルフタレート等を挙げることができる。これらの化合物は、単独で用いてよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
単量体成分として多官能重合性単量体を少量使用した場合、増粘性の良好な水溶性重合体を得ることができる。多官能重合性単量体の使用量は、上記単官能重合性単量体の総量に対し、好ましくは0.01〜3.0重量%であり、より好ましくは0.1〜1.0重量%である。
【0034】
本発明では、初期仕込み液は、単量体成分を含まないものであってもよいし、単量体成分の一部を含むものであってもよい。これらのうちでも、初期仕込み液が単量体成分の一部を含む場合は、重合反応を円滑に進めやすく、分子量の高い重合体を得やすいため、好ましい。
初期仕込み液が単量体成分の一部を含む場合、該初期仕込み液中の単量体成分は、使用する単量体成分の総量に対して通常は50重量%以下であり、40重量%以下が好ましく、30重量%以下がより好ましく、20重量%以下がさらに好ましい。単量体成分の下限については特に限定されるものではないが、一般的には0.01重量%以上であり、0.1重量%以上が好ましく、1重量%以上がより好ましい。
【0035】
また、初期仕込み液が単量体成分の一部を含む場合、該初期仕込み液全体における単量体成分の濃度は20重量%以下とする必要がある。単量体成分の好ましい濃度は15重量%以下であり、より好ましくは12重量%以下である。単量体成分の濃度が20重量%を超える場合、重合中の反応液が増粘又はゲル化し、安定に製造できないことがある。単量体成分の下限については特に限定されるものではないが、一般的には0.01重量%以上である。増粘剤等の用途に適した分子量の高い重合体を所望する場合は、1重量%以上が好ましく、4重量%以上がより好ましく、7重量%以上がさらに好ましく、10重量%以上が最も好ましい。
【0036】
2.重合工程
重合工程は、以下に示す第1重合工程及び第2重合工程を含んでいてもよい。第1重合工程は、上記初期仕込み液に重合開始剤を添加する工程を含むものであり、該初期仕込み液に単量体成分の一部が含まれている場合には、重合開始剤を添加することにより初期仕込み液中で重合反応が開始される。また、第2重合工程では、単量体成分の残部が供給されるとともに重合反応が行われる。
重合方法としては、溶液重合、沈殿重合、懸濁重合及び乳化重合等の公知の重合方法を使用することが可能であるが、分子量の高い増粘性の良い重合体を比較的高濃度で得ることができる点で、沈殿重合が好ましい。
【0037】
2−1.第1重合工程
上記の通り、第1重合工程では、初期仕込み液に重合開始剤が添加される工程を含むものであり、重合開始剤を添加することにより第1重合工程が開始する。
重合開始剤は、アゾ系化合物、有機過酸化物、無機過酸化物等の公知の重合開始剤を用いることができるが、特に限定されるものではない。公知の酸化剤及び還元剤からなるレドックス型重合開始剤を用いても良い。これらの中でも、低温で重合反応を開始することが可能であり、分子量の高い重合体を製造し易い点から、開始剤としてはレドックス型開始剤が好ましい。重合開始剤は、そのまま添加してもよいし、適当な溶媒に溶解した形態で添加してもよい。また、重合開始剤は一括して添加してもよいし、分割して又は連続的に滴下してもよい。
【0038】
上記アゾ系化合物としては、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2−(tert−ブチルアゾ)−2−シアノプロパン、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロパン)等が挙げられ、これらの内の1種又は2種以上を用いることができる。
【0039】
上記有機過酸化物としては、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン(日油社製、商品名「パーテトラA」)、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン(同「パーヘキサHC」)、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン(同「パーヘキサC」)、n−ブチル−4,4−ジ(t−ブチルパーオキシ)バレレート(同「パーヘキサV」)、2,2−ジ(t−ブチルパーオキシ)ブタン(同「パーヘキサ22」)、t−ブチルハイドロパーオキサイド(同「パーブチルH」)、クメンハイドロパーオキサイド(日油社製、商品名「パークミルH」)、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド(同「パーオクタH」)、t−ブチルクミルパーオキサイド(同「パーブチルC」)、ジ−t−ブチルパーオキサイド(同「パーブチルD」)、ジ−t−ヘキシルパーオキサイド(同「パーヘキシルD」)、ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド(同「パーロイル355」)、ジラウロイルパーオキサイド(同「パーロイルL」)、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート(同「パーロイルTCP」)、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート(同「パーロイルOPP」)、ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート(同「パーロイルSBP」)、クミルパーオキシネオデカノエート(同「パークミルND」)、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート(同「パーオクタND」)、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート(同「パーヘキシルND」)、t−ブチルパーオキシネオデカノエート(同「パーブチルND」)、t−ブチルパーオキシネオヘプタノエート(同「パーブチルNHP」)、t−ヘキシルパーオキシピバレート(同「パーヘキシルPV」)、t−ブチルパーオキシピバレート(同「パーブチルPV」)、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイル)ヘキサン(同「パーヘキサ250」)、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(同「パーオクタO」)、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(同「パーヘキシルO」)、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(同「パーブチルO」)、t−ブチルパーオキシラウレート(同「パーブチルL」)、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート(同「パーブチル355」)、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(同「パーヘキシルI」)、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(同「パーブチルI」)、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート(同「パーブチルE」)、t−ブチルパーオキシアセテート(同「パーブチルA」)、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート(同「パーヘキシルZ」)及びt−ブチルパーオキシベンゾエート(同「パーブチルZ」)等が挙げられ、これらの内の1種又は2種以上を用いることができる。
【0040】
上記無機過酸化物としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等が挙げられる。
また、レドックス型重合開始剤としては、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、アスコルビン酸、亜硫酸ガス(SO
2)、硫酸第一鉄等を還元剤とし、ペルオキソ二硫酸カリウム、過酸化水素、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等を酸化剤としたものを用いることができる。
【0041】
第1重合工程において用いられる重合開始剤の好ましい使用量は、用いる単量体成分の総量を100重量部としたときに、0.001〜10重量部であり、より好ましくは0.005〜5重量部であり、さらに好ましくは0.01〜1重量部である。
重合開始剤は、第1重合工程において全量を添加してもよいし、第1重合工程及び第2重合工程以降において分割して添加してもよい。第1重合工程において重合開始剤の一部を添加する場合、添加量は単量体成分の種類及び初期仕込み液中の単量体成分の濃度等の各種条件により適宜調整されるものであるが、重合工程全体で使用する重合開始剤の全量に対し、10〜95重量%が好ましく、50〜90重量%がより好ましい。
【0042】
上記の通り、初期仕込み液に単量体成分の一部が含まれている場合には、重合開始剤を添加することにより初期仕込み液中で重合反応が開始される。第1重合工程では、単量体成分が新たに供給されることはなく、初期仕込み液に含まれる上記単量体成分の一部が重合により消費され、未反応の単量体の濃度が所定の範囲となるまで重合反応が継続される。
上記の重合反応により初期仕込み液中の単量体成分が消費され、反応液中の未反応単量体の濃度が7重量%以下となった後に単量体成分の残部が供給され、後記する第2重合工程が開始される。上記単量体成分の残部が供給される時点(第2重合工程開始時点)における反応液中の未反応単量体の濃度は、6重量%以下であることが好ましく、5重量%以下であることがより好ましい。
【0043】
一方、初期仕込み液に単量体成分が含まれていない場合は、第1重合工程を省略してもよい。仮に第1重合工程を備えた場合、初期仕込み液に重合開始剤を添加しても重合反応は起こらない。この場合、第2重合工程において単量体成分が供給されることにより重合反応が開始される。
【0044】
第1重合工程の重合温度は、使用する単量体の種類及び濃度等の条件にもよるが、20〜150℃が好ましく、40〜100℃がより好ましい。重合温度は一定であってもよいし、第1重合工程の期間において変化するものであってもよい。また、重合時間は1分間〜10時間が好ましく、10分間〜5時間がより好ましく、30分間〜2時間がさらに好ましい。
第1重合工程は、後記の第2重合工程が開始した時点を以って終了する。
【0045】
2−2.第2重合工程
上記の通り、第2重合工程では、反応器中の反応液(初期仕込み液)に単量体成分の残部が供給されるとともに、重合反応が行われる。初期仕込み液に単量体成分が含まれていない場合、第2重合工程において単量体成分の全量が供給される。
第2重合工程における単量体成分の供給は、α,β−不飽和カルボン酸単量体を含む単量体成分自体をそのまま供給してもよいし、適当な溶媒に希釈した形態で供給してもよいが、上記単量体成分の供給が行われる期間全体を通じて反応液中の未反応単量体の濃度を7重量%以下に維持するように行う必要がある。反応液中の未反応単量体の濃度が7重量%を超える条件下で単量体成分の供給を行った場合、重合中の反応液が増粘又はゲル化して安定に製造できないことがある。反応液中の未反応単量体の濃度は、6重量%以下に維持されることが好ましく、5重量%以下に維持されることがより好ましい。
【0046】
反応液中の未反応単量体の濃度は、反応中の反応液サンプルを適宜採取し、ガスクロマトグラフィ等の公知の分析方法により測定することができる。上記未反応単量体の濃度は、例えば単量体成分の供給速度を調整することによって制御することができる。通常、単量体成分の供給速度を低くすることにより未反応単量体の濃度は低減され、供給速度を高くすると未反応単量体の濃度は増加する。また、未反応単量体の濃度は、単量体成分の供給速度以外にも、重合温度、開始剤の種類及び量、並びに、固形分等の各種重合条件によっても調整することができる。
【0047】
また、上記の反応液中の未反応単量体の濃度条件が維持される限り、第2重合工程における単量体成分の供給は連続的であってもよいし、複数回に分けて分割添加されてもよい。また、第2重合工程を開始する際に一括して添加してもよい。連続的に供給される場合には、供給速度は一定であってもよいし、1回若しくは2回以上又は連続的に変化するものであってもよい。
【0048】
第2重合工程では、上記の通り単量体成分の全量又は残部が供給されるが、当該工程において重合開始剤を供給してもよい。重合開始剤は、上記第1重合工程において記載した重合開始剤を第2重合工程においても適用することができる。また、第1重合工程において使用する重合開始剤と第2重合工程において使用する重合開始剤は、同一であってもよいし異なっていてもよい。第1重合工程において使用する重合開始剤の全量が添加されている場合には、第2重合工程では重合開始剤は供給されない。
第2重合工程において重合開始剤を添加する場合、当該重合開始剤は一括して添加してもよいし、分割して又は連続的に滴下してもよい。重合開始剤の添加が完了する時期は、単量体の供給が完了する前でもよいし、単量体の供給完了と同時でもよいし、単量体の供給が完了した後でもよい。
第2重合工程において用いられる重合開始剤の好ましい使用量は、単量体成分の総量を100重量部としたときに、0.001〜10重量部であり、より好ましくは0.005〜5重量部であり、さらに好ましくは0.01〜1重量部である。
【0049】
第2重合工程の重合温度は、使用する単量体の種類及び濃度等の条件にもよるが、重合安定性の観点から30〜50℃が好ましく、35〜45℃がより好ましい。重合温度は一定であってもよいし、第2重合工程の期間において変化するものであってもよい。また、重合時間には特段の制限はないが、1〜20時間が好ましく、2〜10時間がより好ましく、3〜8時間がさらに好ましい。
【0050】
第2重合工程では、エチレン性不飽和基を有する重合体であるマクロモノマー存在下、単量体成分の重合が行われる。本発明では、上記マクロモノマーを用いることにより重合反応が安定化される。このため、単量体濃度が高い条件下であっても増粘又はゲル化等を生じることなく重合反応を円滑に行うことができる。
【0051】
上記マクロモノマーは、エチレン性不飽和基を有する基を備えた重合体であり、該エチレン性不飽和基を有する基としては、(メタ)アクリロイル基、アリル基、イソプロペニル基、スチリル基等が挙げられ、これらの基の1種又は2種以上を有することができる。これらの内でも、重合安定性の観点から、エチレン性不飽和基を有する基としては、(メタ)アクリロイル基が好ましい。
また、上記エチレン性不飽和基は、マクロモノマーの分子鎖の途中に直接結合していてもよいし、マクロモノマーの分子鎖の途中に所定の結合基を介して懸垂状態で結合してもよい。更には、これら2つの結合形式が混在していてもよい。
【0052】
上記マクロモノマーは、カルボキシル基を有するものであることが好ましい。マクロモノマーがカルボキシル基を有する場合は得られる水溶性重合体への親和性が高まり、重合反応が安定化される傾向がある。カルボキシル基はカルボキシル基を有するビニル単量体を構成単量体単位として用いることにより導入することができる。カルボキシル基を有するビニル単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸;アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和カルボン酸のマイケル付加反応生成物である2量体以上のオリゴマー;ω−カルボキシポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、フタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、コハク酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等のカルボキシル基含有(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらの化合物は、単独で用いてよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
マクロモノマーに含まれるカルボキシル基の含有量は、60〜600mgKOH/gの範囲が好ましく、65〜260.0mgKOH/gの範囲がより好ましい。
【0053】
上記マクロモノマーの構成単量体単位としては、カルボキシル基を有さないビニル単量体を使用することができる。
カルボキシル基を有さないビニル単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルへキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸デシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物;(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル等の(メタ)アクリル酸脂環式アルキルエステル化合物;(メタ)アクリル酸ベンジル等の芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物;ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコール(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート化合物;アクリロニトリル、α−メチルアクリロニトリル等の不飽和ニトリル単量体;スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン系単量体;酢酸ビニル等のカルボン酸のビニルエステル;塩化ビニル、塩化ビニリデン等の不飽和ハロゲン化合物;エチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン類等を挙げることができる。これらの化合物は、単独で用いてよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。これらの内でも、重合安定性向上の効果が高い点で、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物及びポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート化合物がこのましく、炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物及びポリエチレングリコール(メタ)アクリレート化合物が好ましい。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物を使用した場合は、マクロモノマーには対応するアルキル単位が導入される。また、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート化合物を使用した場合には、オキシエチレン単位及びオキシプロピレン単位等のオキシアルキレン単位を有するマクロモノマーが得られる。
【0054】
上記マクロモノマーの数平均分子量(Mn)は、重合安定化性能及び取扱い性等の観点から、好ましくは1,000〜10,000、より好ましくは2,000〜5,000である。また、マクロモノマーの分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは2.3以下であり、より好ましくは2.0以下である。
【0055】
第2重合工程は上記マクロモノマーの存在下に行われる。該マクロモノマーの供給は、初期仕込み工程及び/又は第1重合工程において全量又は一部を供給し、残部を第2重合工程において供給してもよいし、全量を第2重合工程において供給してもよい。重合安定性の観点から、初期仕込み工程において、使用するマクロモノマーの一部を仕込むことが好ましい。初期仕込み工程に仕込むマクロモノマーの量は、使用するマクロモノマーの総量に対して1〜99重量%が好ましく、10〜70重量%がより好ましい。この場合、第2重合工程に供給するマクロモノマーの量は、使用するマクロモノマーの総量に対して1〜99重量%が好ましく、30〜90重量%がより好ましい。
【0056】
上記の通り、本発明では、マクロモノマー存在下においてα,β−不飽和カルボン酸単量体を含む単量体成分の重合を行うとともに、反応液中の未反応単量体の濃度を制御することにより、高濃度条件下であっても目的とする水溶性重合体を安定に製造することができる。この理由については明確ではないが、以下の機構を推定している。すなわち、重合反応の過程では生成した重合体と未反応の状態の単量体とが共存しているが、未反応単量体は生成した重合体に親和して可塑化する作用を有すると考えられる。これにより、生成した重合体の凝集が進むため、反応液の増粘又はゲル化を引き起こすものと思われる。本発明の製造方法では、反応液中の未反応単量体の濃度が一定値以下に制御されるため、高濃度条件下であっても上記増粘又はゲル化等が抑制され、安定に重合を行うことができる。本発明では、生産性の観点から、単量体成分の供給終了時点において、反応液全体に占める用いた単量体成分の全量の割合が、25〜40重量%の範囲であることが好ましく、30〜40重量%の範囲であることがより好ましく、34〜40重量%の範囲であることがさらに好ましい。
ただし、本発明は、上記で推定した機構に制限されるものではない。
【0057】
また、未反応単量体と同様、反応液中の水分も生成した重合体を可塑化する作用を有すると推定される。このため、初期仕込み工程及び重合工程を通じて、反応液中の水分量が多い場合には、重合安定性に悪影響を及ぼす虞がある。重合安定性を確保する観点から、反応液の水分量は1000重量ppm以下であることが好ましく、800重量ppm以下であることがより好ましく、500重量ppm以下であることがさらに好ましい。
上記水分量は、初期仕込み液、並びに、重合工程において反応液に供給される単量体及び希釈用溶媒等の水分量を管理し、所望の水分量以下のものを用いることにより制御することができる。
【0058】
2−3.その他の成分
本発明では、上記した反応溶媒、単量体成分、重合開始剤及びマクロモノマー以外に、必要に応じて連鎖移動剤、酸化防止剤、紫外性吸収剤、消泡剤等を使用することもできる。これらの成分を使用する場合、初期仕込み工程及び重合工程のいずれにおいて用いてもよい。
【0059】
3.脱溶媒工程
上記初期仕込み工程及び重合工程を経て得られた水溶性重合体はそのまま溶液の状態で使用することも可能であるが、その後必要に応じて脱溶媒工程を設け、溶剤を留去することにより水溶性重合体の粉末とすることもできる。
脱溶媒工程では、水溶性重合体溶液を加熱及び/又は減圧処理し、溶媒を留去することにより該水溶性重合体の乾燥粉末を得る。加熱条件は留去する溶媒の種類や用いる装置等により異なるが、一般に40〜200℃程度であり、60〜150℃程度が好ましい。また、減圧する場合は、1〜100kPa程度の条件を採用することができ、好ましくは10〜70kPaである。
【0060】
上記脱溶媒工程を経て得られた水溶性重合体の乾燥粉末は、適当な中和剤を用いて中和して水に溶解することにより、水溶液の形態とすることができる。中和剤としては、アンモニア、モノエタノールアミン等の各種有機アミンの他、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物等を使用することができる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。尚、本発明は、これらの実施例により限定されるものではない。尚、以下において「部」、「%」及び「ppm」は、特に断らない限り重量部、重量%及び重量ppmを意味する。
【0062】
各実施例及び比較例で得られた水溶性重合体スラリー及び水溶性重合体(粉末)の評価条件の詳細について以下に記載する。
【0063】
1.重合体スラリーの流動性
重合工程終了後に得られた重合体スラリー500mLを内径11cmのポリカップに投入し、4枚パドル型攪拌翼(翼径10.5cm、ピッチ角15°)を用いて撹拌する。攪拌数を変更しながら、スラリー全体が流動する最低撹拌数を評価し、以下の基準に基づき5段階で判定した。(数値が小さい程、流動性が良好。)
1:200rpm未満
2:200rpm以上、300ppm未満
3:300rpm以上、400ppm未満
4:400rpm以上、500ppm未満
5:500rpm以上
【0064】
2.0.2%中和液粘度
100gの純水に0.2gの水溶性重合体粉末を添加し、スターラーを用いて500rpmで120分間撹拌することにより分散液を得た。該分散液に48%水酸化ナトリウム水溶液を0.2g滴下してさらに3時間撹拌することにより上記水溶性重合体が水溶化した中和液を調製した。液温25℃でB型粘度計を用いて12rpmの粘度を測定した。
【0065】
3.なめらかさ
上記0.2%中和液粘度測定用に調製した中和液を厚み200μmとなるようにガラス板上に塗布した。得られた塗膜表面の目視評価を行い、以下の基準に基づき3段階で判定した。(数値が小さい方が良好。)
1:塗膜表面全体が平滑である。
2:塗膜表面に軽度な凹凸が認められる。
3:塗膜表面に明らかな凹凸が認められる。
【0066】
○マクロモノマーの合成
合成例1:マクロモノマー1の製造
攪拌機、還流冷却器、温度計、窒素導入管、および送液配管連結部を備えたガラス製反応容器に、酢酸エチル60部、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(日油社製、商品名「ブレンマー(登録商標)PME−400」、以下「PME−400」)32部、メタクリル酸(以下、「MAA」)8部、ドデシルメルカプタン(以下、「DM」)2.8部を仕込んだ。攪拌、および窒素ガスの吹き込みを行いながら、反応器内温を75℃に調整した。定量ポンプによる送液配管を取り付けたガラス製容器に、PME−400を48部、MAA12部、およびドデシルメルカプタン4.2部を仕込み、攪拌して単量体混合液を調整した。内温が75℃で安定したことを確認した後、反応器に2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬社製、商品名「V−65」)1.2部を酢酸エチル3.0部に溶解した開始剤溶液を添加し、その5分後に上記単量体混合液の反応器への供給を開始した。定量ポンプを使用し、単量体混合液を一定速度で240分かけて反応器に供給した。供給完了後も反応器内温を75℃に4時間維持し、プレポリマーの溶液を得た。サンプリングしたプレポリマー溶液を乾燥した後、GPC測定により測定した分子量は、数平均分子量(Mn)は3,700であり、重量平均分子量(Mw)は5,400であった。
上記で得られたプレポリマー溶液への吹込みを窒素ガスから空気に変更し、直ちにメトキシハイドロキノン0.03部を添加した。メトキシハイドロキノン添加60分後にメタクリル酸グリシジル(以下、「GMA」)6.5部を供給し、内温75℃で12時間加熱してプレポリマーのカルボキシル基にGMAを付加させ、マクロモノマー1の溶液を得た。マクロモノマー1の数平均分子量(Mn)は3,700であり、重量平均分子量(Mw)は5,400であった。また、上記マクロモノマー1の溶液の固形分は41重量%であった。
【0067】
合成例2:マクロモノマー2の製造
合成例1において、PME−400をアクリル酸ブチルに変更した以外は、合成例1と同様の操作を行いマクロモノマー2を得た。マクロモノマー2の数平均分子量(Mn)は3,300であり、重量平均分子量(Mw)は5,200であった。また、上記マクロモノマー2の溶液の固形分は41重量%であった。
【0068】
実施例1
(1)初期仕込み工程
攪拌機、還流冷却器、温度計、窒素導入管、および送液配管連結部を備えたガラス製反応容器に初期仕込み液として酢酸エチル472g、アクリル酸53g(0.74モル)、合成例1で得たマクロモノマー1の溶液を8.48g、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル0.244g及びクメンハイドロパーオキサイド(日油社製、商品名「パークミルH」、純度82%)1.28g(0.0064モル)を仕込んだ。初期仕込み液中の単量体濃度は10重量%である。上記初期仕込み液の攪拌を開始し、該初期仕込み液中及び反応容器空間部の酸素を除去するために上記初期仕込み液に窒素ガスを吹き込みながら、内温を42℃に昇温した。上記初期仕込み液の水分量は500ppm以下に厳密に管理した(実測値:421ppm)。
(2)重合工程
(第1重合工程)
別容器に亜硫酸ガス(SO
2ガス)を酢酸エチルに2重量%溶解させた還元剤溶液を5.39mL仕込み、0.66mL/時の速度で滴下を開始した。滴下開始後、1分以内に反応液に白濁が認められ、重合反応が開始されたことが確認された。上記還元剤溶液の滴下開始後30分経過するまでを第1重合工程とし、後記する第2重合工程へ移行した。第1重合工程終了時における反応容器内の反応液中の未反応アクリル酸の濃度は3.5%であった。
(第2重合工程)
さらに別の容器に酢酸エチル198g、アクリル酸228g(3.16モル)、合成例1で得たマクロモノマー1の溶液を36.5g、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル1.04gを混合した単量体溶液を仕込んだ。該単量体溶液の水分量は500ppm以下に厳密に管理した(実測値:325ppm)。
上記の通り、上記還元剤溶液の滴下開始から30分経過した後、引き続き、上記還元剤溶液を0.66mL/時の速度で滴下するとともに、上記反応容器へ上記単量体溶液の滴下を開始することにより第2重合工程に移行した。上記単量体溶液の滴下は66.2g/時の速度で行い、7時間掛けて滴下を完了した。この間、適宜サンプルを採り、反応液中の未反応アクリル酸の濃度を確認した。上記単量体溶液の滴下開始後、2.5時間および4.5時間経過後の未反応アクリル酸の濃度は、各々3.2%及び3.1%であった。単量体溶液の滴下完了後、40分経過した時点で上記還元剤溶液の滴下が完了した。還元剤溶液の滴下完了後、メトキシハイドロキノン0.1gを添加することにより反応を終了し、重合体スラリー(SA−1)を得た。反応終了時における重合転化率は97.5%であった。尚、重合工程の期間中、反応液の液温は42℃に制御した。重合体スラリー(SA−1)についての流動性を評価し、評価結果を表1に示した。
重合工程の全工程を通じて反応液の流動性は良好であり、増粘又はゲル化等の不具合は観察されなかった。また、反応液全量に対する使用した単量体全量の割合(最終製品中の重合体濃度)は、35重量%である。
(3)脱溶媒工程
重合工程終了後に得られた重合体スラリー(SA−1)を別の容器に移し、80℃加熱下、26kPa(絶対圧)で4時間減圧乾燥し、酢酸エチルを留去することにより、白色微粉末状のカルボキシル基含有水溶性重合体(PA−1)を得た。得られた重合体(PA−1)に含まれる酢酸エチルの含有量は0.2重量%であった。
(4)増粘性能評価
上記重合体(PA−1)を用いて、0.2重量%中和液粘度及び滑らかさの評価を行い、評価結果を表1に示した。
【0069】
実施例2
マクロモノマーとしてマクロモノマー2の溶液を用いた以外は、実施例1と同様の操作により初期仕込み工程及び重合工程を行い、重合体スラリー(SA−2)を得た。重合工程の全工程を通じて反応液の流動性は良好であり、増粘又はゲル化等の不具合は観察されなかった。重合体スラリー(SA−2)についての流動性を評価し、評価結果を表1に示した。
重合体スラリー(SA−2)を別の容器に移し、実施例1と同様の操作により脱溶剤工程を行い、白色微粉末状のカルボキシル基含有水溶性重合体(PA−2)を得た。重合体(PA−2)を用いて、0.2重量%中和液粘度及び滑らかさの評価を行い、評価結果を表1に示した。
【0070】
実施例3
重合温度を50℃に変更した以外は、実施例1と同様の操作により初期仕込み工程及び重合工程を行い、重合体スラリー(SA−3)を得た。重合工程の全工程を通じて反応液の流動性は良好であり、増粘又はゲル化等の不具合は観察されなかった。重合体スラリー(SA−3)についての流動性を評価し、評価結果を表1に示した。
重合体スラリー(SA−3)を別の容器に移し、実施例1と同様の操作により脱溶剤工程を行い、白色微粉末状のカルボキシル基含有水溶性重合体(PA−3)を得た。重合体(PA−3)を用いて、0.2重量%中和液粘度及び滑らかさの評価を行い、評価結果を表1に示した。
【0071】
実施例4
重合温度を30℃に変更した以外は、実施例1と同様の操作により初期仕込み工程及び重合工程を行い、重合体スラリー(SA−4)を得た。重合工程の全工程を通じて反応液の流動性は良好であり、増粘又はゲル化等の不具合は観察されなかった。重合体スラリー(SA−4)についての流動性を評価し、評価結果を表1に示した。
重合体スラリー(SA−4)を別の容器に移し、実施例1と同様の操作により脱溶剤工程を行い、白色微粉末状のカルボキシル基含有水溶性重合体(PA−4)を得た。重合体(PA−4)を用いて、0.2重量%中和液粘度及び滑らかさの評価を行い、評価結果を表1に示した。
【0072】
実施例5
重合温度を25℃に変更した以外は、実施例1と同様の操作により初期仕込み工程及び重合工程を行い、重合体スラリー(SA−5)を得た。重合工程の全工程を通じて反応液の流動性は良好であり、増粘又はゲル化等の不具合は観察されなかった。重合体スラリー(SA−5)についての流動性を評価し、評価結果を表1に示した。
重合体スラリー(SA−5)を別の容器に移し、実施例1と同様の操作により脱溶剤工程を行い、白色微粉末状のカルボキシル基含有水溶性重合体(PA−5)を得た。重合体(PA−5)を用いて、0.2重量%中和液粘度及び滑らかさの評価を行い、評価結果を表1に示した。
【0073】
実施例6
重合温度を55℃に変更した以外は、実施例1と同様の操作により初期仕込み工程及び重合工程を行い、重合体スラリー(SA−6)を得た。重合工程の全工程を通じて反応液の流動性は良好であり、増粘又はゲル化等の不具合は観察されなかった。重合体スラリー(SA−6)についての流動性を評価し、評価結果を表1に示した。
重合体スラリー(SA−6)を別の容器に移し、実施例1と同様の操作により脱溶剤工程を行い、白色微粉末状のカルボキシル基含有水溶性重合体(PA−6)を得た。重合体(PA−6)を用いて、0.2重量%中和液粘度及び滑らかさの評価を行い、評価結果を表1に示した。
【0074】
実施例7
初期仕込み液及び第2工程で供給する単量体溶液の水分量を750ppm以下に厳密に管理して使用した以外は、実施例1と同様の操作により初期仕込み工程及び重合工程を行い、重合体スラリー(SA−7)を得た。水分量の実測値は、初期仕込み液が672ppmであり、第2工程で供給する単量体溶液が711ppmであった。重合工程の全工程を通じて反応液の流動性は良好であり、増粘又はゲル化等の不具合は観察されなかった。重合体スラリー(SA−7)についての流動性を評価し、評価結果を表1に示した。
重合体スラリー(SA−7)を別の容器に移し、実施例1と同様の操作により脱溶剤工程を行い、白色微粉末状のカルボキシル基含有水溶性重合体(PA−7)を得た。重合体(PA−7)を用いて、0.2重量%中和液粘度及び滑らかさの評価を行い、評価結果を表1に示した。
【0075】
実施例8
初期仕込み液及び第2工程で供給する単量体溶液の水分量を1250ppm以下に厳密に管理して使用した以外は、実施例1と同様の操作により初期仕込み工程及び重合工程を行い、重合体スラリー(SA−8)を得た。水分量の実測値は、初期仕込み液が1070ppmであり、第2工程で供給する単量体溶液が1188ppmであった。重合工程の全工程を通じて反応液の流動性は良好であり、増粘又はゲル化等の不具合は観察されなかった。重合体スラリー(SA−8)についての流動性を評価し、評価結果を表1に示した。
重合体スラリー(SA−8)を別の容器に移し、実施例1と同様の操作により脱溶剤工程を行い、白色微粉末状のカルボキシル基含有水溶性重合体(PA−8)を得た。重合体(PA−8)を用いて、0.2重量%中和液粘度及び滑らかさの評価を行い、評価結果を表1に示した。
【0076】
実施例9
初期仕込みのアクリル酸量を83g、還元剤溶液の使用量を6.05mlへ変更し、還元剤溶液の滴下開始から1.5時間経過後に単量体溶液の滴下を開始することにより第2重合工程に移行した以外は、実施例1と同様の操作により初期仕込み工程及び重合工程を行い、重合体スラリー(SC−9)を得た。実施例9においても、第2重合工程の単量体溶液の滴下完了後、40分経過した時点で還元剤溶液の滴下が完了した。重合工程の全工程を通じて反応液の流動性は良好であり、増粘又はゲル化等の不具合は観察されなかった。重合体スラリー(SC−9)についての流動性を評価し、評価結果を表1に示した。
【0077】
比較例1
実施例1においてマクロモノマーを使用しなかった以外は、実施例1と同様の操作により初期仕込み工程及び重合工程を行い、重合体スラリー(SC−1)を得た。重合工程の全工程を通じて反応液の流動性は良好であり、増粘又はゲル化等の不具合は観察されなかった。重合体スラリー(SC−1)についての流動性を評価し、評価結果を表1に示した。
重合体スラリー(SC−1)を別の容器に移し、実施例1と同様の操作により脱溶剤工程を行い、白色微粉末状のカルボキシル基含有水溶性重合体(PC−1)を得た。重合体(PC−1)を用いて、0.2重量%中和液粘度及び滑らかさの評価を行い、評価結果を表1に示した。
【0078】
比較例2
マクロモノマー1に代えてポリエチレングリコールモノラウレート(花王社製、商品名「エマノーン1112」)を使用した以外は、実施例1と同様の操作により初期仕込み工程及び重合工程を行い、重合体スラリー(SC−2)を得た。重合工程の全工程を通じて反応液の流動性は良好であり、増粘又はゲル化等の不具合は観察されなかった。重合体スラリー(SC−2)についての流動性を評価し、評価結果を表1に示した。
重合体スラリー(SC−2)を別の容器に移し、実施例1と同様の操作により脱溶剤工程を行い、白色微粉末状のカルボキシル基含有水溶性重合体(PC−2)を得た。重合体(PC−2)を用いて、0.2重量%中和液粘度及び滑らかさの評価を行い、評価結果を表1に示した。
【0079】
比較例3
初期仕込みのアクリル酸を83g使用した以外は、実施例1と同様の操作により初期仕込み工程及び重合工程を行い、重合体スラリー(SC−3)を得た。重合工程の全工程を通じて反応液の流動性は良好であり、増粘又はゲル化等の不具合は観察されなかった。重合体スラリー(SC−3)についての流動性を評価し、評価結果を表1に示した。
重合体スラリー(SC−3)を別の容器に移し、実施例1と同様の操作により脱溶剤工程を行い、白色微粉末状のカルボキシル基含有水溶性重合体(PC−3)を得た。重合体(PC−3)を用いて、0.2重量%中和液粘度及び滑らかさの評価を行い、評価結果を表1に示した。
【0080】
比較例4
実施例1の第1重合工程において、還元剤溶液の使用量を5.28mlへ変更し還元剤溶液の滴下開始から20分経過後に単量体溶液の滴下を開始することにより第2重合工程に移行した以外は、実施例1と同様の操作により初期仕込み工程及び重合工程を行い、重合体スラリー(SC−4)を得た。比較例4においても、第2重合工程の単量体溶液の滴下完了後、40分経過した時点で還元剤溶液の滴下が完了した。重合工程の全工程を通じて反応液の流動性は良好であり、増粘又はゲル化等の不具合は観察されなかった。重合体スラリー(SC−4)についての流動性を評価し、評価結果を表1に示した。
重合体スラリー(SC−4)を別の容器に移し、実施例1と同様の操作により脱溶剤工程を行い、白色微粉末状のカルボキシル基含有水溶性重合体(PC−4)を得た。重合体(PC−4)を用いて、0.2重量%中和液粘度及び滑らかさの評価を行い、評価結果を表1に示した。
【0081】
比較例5
初期仕込みのアクリル酸を135g、還元剤溶液の使用量を6.38mlへ変更し還元剤溶液の滴下開始から120分経過後に単量体溶液の滴下を開始して第2重合工程に移行した以外は、実施例1と同様の操作により初期仕込み工程及び重合工程を行い、重合体スラリー(SC−5)を得た。比較例5においても、第2重合工程の単量体溶液の滴下完了後、40分経過した時点で還元剤溶液の滴下が完了した。重合工程の全工程を通じて反応液の流動性は良好であり、増粘又はゲル化等の不具合は観察されなかった。重合体スラリー(SC−5)についての流動性を評価し、評価結果を表1に示した。
重合体スラリー(SC−5)を別の容器に移し、実施例1と同様の操作により脱溶剤工程を行い、白色微粉末状のカルボキシル基含有水溶性重合体(PC−5)を得た。重合体(PC−5)を用いて、0.2重量%中和液粘度及び滑らかさの評価を行い、評価結果を表1に示した。
【0082】
【表1】
【0083】
実施例1〜9は、本発明の製造方法により得られた水溶性重合体の例である。いずれも35重量%という高い濃度の水溶性重合体スラリーが、増粘又はゲル化等を生じることなく安定に得られるとともに、その流動性も良好であった。各水溶性重合体の増粘性は十分高く、良好な滑らかさを有する増粘液が得られた。実施例1、3及び4は、重合温度が30〜50℃の範囲で行ったものであるが、この範囲を外れる重合温度で重合を行った実施例5及び6よりも、水溶性重合体スラリーの流動性の点でより良好であった。また、実施例1、7及び8の結果から、反応液中の水分量を低く制御した方が流動性に優れる水溶性重合体スラリーが得られる結果が示された。
【0084】
比較例1及び2は、マクロモノマーを用いずに水溶性重合体の製造を行った例である。製造に際して増粘又はゲル化等の不具合は観察されなかったものの、得られた水溶性重合体スラリーの流動性は低く、増粘液の滑らかさも十分なものではなかった。比較例3及び4は反応液中の未反応単量体濃度が7重量%を超える例であり、比較例5は初期仕込み液中の単量体濃度が20重量%を超える例であるが、いずれも得られた水溶性重合体スラリーの流動性及び増粘液の滑らかさに劣るものであった。