特許第6394792号(P6394792)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6394792
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/08 20060101AFI20180913BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20180913BHJP
   B60K 6/547 20071001ALI20180913BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20180913BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20180913BHJP
   B60W 20/40 20160101ALI20180913BHJP
   B60L 11/14 20060101ALI20180913BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20180913BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   B60W10/08 900
   B60K6/48ZHV
   B60K6/547
   B60W10/06 900
   B60W10/02 900
   B60W20/40
   B60L11/14
   B60L15/20 Y
   B60L15/20 K
   F02D29/02 321B
【請求項の数】8
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2017-510192(P2017-510192)
(86)(22)【出願日】2016年3月31日
(86)【国際出願番号】JP2016060674
(87)【国際公開番号】WO2016159241
(87)【国際公開日】20161006
【審査請求日】2017年7月14日
(31)【優先権主張番号】特願2015-71969(P2015-71969)
(32)【優先日】2015年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000100768
【氏名又は名称】アイシン・エィ・ダブリュ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】津田 耕平
(72)【発明者】
【氏名】吉田 高志
【審査官】 佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/103962(WO,A1)
【文献】 特開2012−086738(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/114472(WO,A1)
【文献】 特開2013−047062(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/08
B60K 6/48
B60K 6/547
B60L 11/14
B60L 15/20
B60W 10/02
B60W 10/06
B60W 20/40
F02D 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と車輪とを結ぶ動力伝達経路に、前記内燃機関の側から順に、第一係合装置、回転電機、及び第二係合装置が設けられた車両用駆動装置を制御対象とする制御装置であって、
前記内燃機関を始動させる始動制御中に、前記第二係合装置を滑り係合状態にすると共に、前記第二係合装置の一対の係合部材間に回転速度差がある状態を維持するように前記回転電機を制御するスリップ制御を行い、
前記第二係合装置の一対の係合部材間に回転速度差がなくなる前記回転電機の回転速度を同期回転速度として、前記スリップ制御では、前記回転電機の回転速度が前記同期回転速度よりも高い状態でアクセル開度が減少した場合に、前記回転電機の回転速度を前記同期回転速度よりも高い回転速度に維持し、
前記第二係合装置を介して前記車輪に伝達されることが要求されるトルクを要求トルクとして、前記スリップ制御を終了した時点での前記要求トルクが負トルクである場合、前記第二係合装置を介して前記車輪に伝達されるトルクを、定められた下降勾配に沿って前記要求トルクに向けて次第に低下させる制御装置。
【請求項2】
内燃機関と車輪とを結ぶ動力伝達経路に、前記内燃機関の側から順に、第一係合装置、回転電機、及び第二係合装置が設けられた車両用駆動装置を制御対象とする制御装置であって、
前記内燃機関を始動させる始動制御中に、前記第二係合装置を滑り係合状態にすると共に、前記第二係合装置の一対の係合部材間に回転速度差がある状態を維持するように前記回転電機を制御するスリップ制御を行い、
前記第二係合装置の一対の係合部材間に回転速度差がなくなる前記回転電機の回転速度を同期回転速度として、前記スリップ制御では、前記回転電機の回転速度が前記同期回転速度よりも高い状態でアクセル開度が減少した場合に、前記回転電機の回転速度を前記同期回転速度よりも高い回転速度に維持し、
前記スリップ制御であって、前記回転電機の回転速度を前記同期回転速度よりも高くする制御を正スリップ制御とし、前記回転電機の回転速度を前記同期回転速度よりも低くする制御を負スリップ制御として、
前記スリップ制御では、前記第二係合装置を介して前記車輪に伝達されることが要求されるトルクである要求トルクの正負に応じて、前記要求トルクが正トルクである場合には前記正スリップ制御を行い、前記要求トルクが負トルクである場合には前記負スリップ制御を行い、
前記回転電機の回転速度が前記同期回転速度よりも高い状態で前記アクセル開度が減少した場合には、前記負スリップ制御を禁止することで前記回転電機の回転速度を前記同期回転速度よりも高い回転速度に維持する制御装置。
【請求項3】
前記アクセル開度が減少したことに応じて前記回転電機の回転速度を前記同期回転速度よりも高い回転速度に維持している間、前記回転電機の回転速度を前記同期回転速度よりも低くしないことを示す信号を、車両全体のトルク分担を制御する車両制御装置に出力する請求項1又は2に記載の制御装置。
【請求項4】
記第二係合装置を係合させる際の本係合前の待機中における係合圧を待機圧として、
前記アクセル開度が減少したことに応じて前記回転電機の回転速度を前記同期回転速度よりも高い回転速度に維持している間、前記要求トルクが負トルクである場合には、前記第二係合装置の係合圧を前記待機圧に制御する請求項1から3のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項5】
内燃機関と車輪とを結ぶ動力伝達経路に、前記内燃機関の側から順に、第一係合装置、回転電機、及び第二係合装置が設けられた車両用駆動装置を制御対象とする制御装置であって、
前記内燃機関を始動させる始動制御中に、前記第二係合装置を滑り係合状態にすると共に、前記第二係合装置の一対の係合部材間に回転速度差がある状態を維持するように前記回転電機を制御するスリップ制御を行い、
前記スリップ制御では、前記第二係合装置の一対の係合部材間に回転速度差がなくなる前記回転電機の回転速度を同期回転速度として、前記第二係合装置を介して前記車輪に伝達されることが要求されるトルクである要求トルクが正トルクである場合には、前記回転電機の回転速度を前記同期回転速度よりも高くし、
前記スリップ制御を行っている間に前記要求トルクが正トルクから負トルクに変化した場合に、前記要求トルクが負トルクである期間において、前記回転電機と前記第二係合装置とを駆動連結する入力部材に対して負トルクが伝達されることを制限する制御装置。
【請求項6】
内燃機関と車輪とを結ぶ動力伝達経路に、前記内燃機関の側から順に、第一係合装置、回転電機、及び第二係合装置が設けられた車両用駆動装置を制御対象とする制御装置であって、
前記内燃機関を始動させる始動制御中に、前記第二係合装置を滑り係合状態にすると共に、前記第二係合装置の一対の係合部材間に回転速度差がある状態を維持するように前記回転電機を制御するスリップ制御を行い、
前記スリップ制御では、前記第二係合装置の一対の係合部材間に回転速度差がなくなる前記回転電機の回転速度を同期回転速度として、前記第二係合装置を介して前記車輪に伝達されることが要求されるトルクである要求トルクが正トルクである場合には、前記回転電機の回転速度を前記同期回転速度よりも高くし、
前記スリップ制御を行っている間に前記要求トルクが正トルクから負トルクに変化した場合に、前記要求トルクが負トルクである期間において、前記回転電機の回転速度を前記同期回転速度よりも高い回転速度に維持する制御装置。
【請求項7】
前記スリップ制御であって、前記回転電機の回転速度を前記同期回転速度よりも高くする制御を正スリップ制御とし、前記回転電機の回転速度を前記同期回転速度よりも低くする制御を負スリップ制御として、
前記スリップ制御では、前記要求トルクの正負に応じて、前記要求トルクが正トルクである場合には前記正スリップ制御を行い、前記要求トルクが負トルクである場合には前記負スリップ制御を行い、
前記スリップ制御を行っている間に前記要求トルクが正トルクから負トルクに変化した場合には、前記負スリップ制御を禁止することで前記回転電機の回転速度を前記同期回転速度よりも高い回転速度に維持する請求項に記載の制御装置。
【請求項8】
記スリップ制御を終了した時点での前記要求トルクが負トルクである場合、前記第二係合装置を介して前記車輪に伝達されるトルクを、定められた下降勾配に沿って前記要求トルクに向けて次第に低下させる請求項5から7のいずれか一項に記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関と車輪とを結ぶ動力伝達経路に、内燃機関の側から順に、第一係合装置、回転電機、及び第二係合装置が設けられた車両用駆動装置を制御対象とする制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような制御装置として、特開2013−47062号公報(特許文献1)に記載されたものが知られている。特許文献1には、回転電機のトルクのみを車輪に伝達させて車両を走行させている状態において、車輪に伝達されるトルクの向きが反転する際のショックを低減するための技術が記載されている。具体的には、車両に要求される走行パワーが閾値以上になったことを条件に内燃機関を始動させる構成において、内燃機関の燃費の観点から最適な値よりも当該閾値を大きく設定することで、内燃機関を始動され難くしている。これにより、車両が減速状態から加速状態に変化する場合において、車輪に伝達されるトルクの向きが反転するタイミングに、車輪に伝達されるトルクの急増を引き起こす内燃機関の始動タイミングが重なることを抑制して、ショックの低減を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−47062号公報(段落0023,0024等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の構成では、内燃機関の始動タイミングが遅くなる問題がある。
【0005】
そこで、車輪に伝達されることが要求される要求トルクの向きが反転するタイミングと内燃機関の始動タイミングとをずらすことなく、要求トルクの向きが反転することにより車輪に伝達されるショックを低減することが可能な制御装置の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記に鑑みた、内燃機関と車輪とを結ぶ動力伝達経路に、前記内燃機関の側から順に、第一係合装置、回転電機、及び第二係合装置が設けられた車両用駆動装置を制御対象とする制御装置の第一の特徴構成は、前記内燃機関を始動させる始動制御中に、前記第二係合装置を滑り係合状態にすると共に、前記第二係合装置の一対の係合部材間に回転速度差がある状態を維持するように前記回転電機を制御するスリップ制御を行い、前記第二係合装置の一対の係合部材間に回転速度差がなくなる前記回転電機の回転速度を同期回転速度として、前記スリップ制御では、前記回転電機の回転速度が前記同期回転速度よりも高い状態でアクセル開度が減少した場合に、前記回転電機の回転速度を前記同期回転速度よりも高い回転速度に維持する点にある。
【0007】
上記の特徴構成によれば、内燃機関を始動させる始動制御中にスリップ制御によって第二係合装置が滑り係合状態に維持されるため、内燃機関の出力トルクの変動や第一係合装置の係合の状態の変化により生じたトルク変動が車輪に伝達され難くなり、内燃機関の始動に伴うショックの低減を図ることができる。
その上で、上記の特徴構成によれば、回転電機の回転速度が同期回転速度よりも高い状態でアクセル開度が減少した場合に、回転電機の回転速度が同期回転速度よりも高い回転速度に維持される。ここで、全体的な傾向として、第二係合装置を介して車輪に伝達されることが要求されるトルクである要求トルクは、アクセル開度が小さくなるに従って小さくなるため、回転電機の回転速度が同期回転速度よりも高い状態でアクセル開度が減少した場合には、要求トルクが正トルクから負トルクに変化する可能性がある。そのため、上記のような構成とは異なり、回転電機の回転速度が同期回転速度よりも高い回転速度に維持する制御を、回転電機の回転速度が同期回転速度よりも高い状態でアクセル開度が減少した場合に実行しない場合には、アクセル開度の減少に応じて要求トルクが正トルクから負トルクに変化した場合に、要求トルクの変化に応じて回転電機の回転速度が同期回転速度よりも高い状態から回転電機の回転速度が同期回転速度よりも低い状態に移行する。そして、回転電機の回転速度と同期回転速度との高低関係が入れ替わるタイミングにおいて第二係合装置が伝達するトルクの伝達方向が反転するため、その時点での第二係合装置の伝達トルク容量に応じたショックが発生し得る。これに対して、回転電機の回転速度が同期回転速度よりも高い状態でアクセル開度が減少した場合に回転電機の回転速度を同期回転速度よりも高い回転速度に維持する場合には、第二係合装置が伝達するトルクの伝達方向の反転が生じないため、当該反転に起因するショックを防止することができる。
以上のように、上記の特徴構成によれば、車輪に伝達されることが要求される要求トルクの向きが反転するタイミングと内燃機関の始動タイミングとをずらす必要がないため、早期の内燃機関の始動が可能であり、なおかつ、少なくとも要求トルクが正トルクから負トルクに変化する場合において、要求トルクの向きが反転することにより車輪に伝達されるショックを低減することが可能となる。
【0008】
上記に鑑みた、内燃機関と車輪とを結ぶ動力伝達経路に、前記内燃機関の側から順に、第一係合装置、回転電機、及び第二係合装置が設けられた車両用駆動装置を制御対象とする制御装置の第二の特徴構成は、前記内燃機関を始動させる始動制御中に、前記第二係合装置を滑り係合状態にすると共に、前記第二係合装置の一対の係合部材間に回転速度差がある状態を維持するように前記回転電機を制御するスリップ制御を行い、前記スリップ制御では、前記第二係合装置の一対の係合部材間に回転速度差がなくなる前記回転電機の回転速度を同期回転速度として、前記第二係合装置を介して前記車輪に伝達されることが要求されるトルクである要求トルクが正トルクである場合には、前記回転電機の回転速度を前記同期回転速度よりも高くし、前記要求トルクが正トルクから負トルクに変化した場合に、前記回転電機と前記第二係合装置とを駆動連結する入力部材に対して負トルクが伝達されることを制限する点にある。
【0009】
上記の特徴構成によれば、内燃機関を始動させる始動制御中にスリップ制御によって第二係合装置が滑り係合状態に維持されるため、内燃機関の出力トルクの変動や第一係合装置の係合の状態の変化により生じたトルク変動が車輪に伝達され難くなり、内燃機関の始動に伴うショックの低減を図ることができる。また、内燃機関の始動制御中に要求トルクが正トルクである場合には、回転電機の回転速度を同期回転速度よりも高くして車輪に正トルクを伝達することができる。
その上で、上記の特徴構成によれば、要求トルクが正トルクから負トルクに変化した場合に、回転電機と第二係合装置とを駆動連結する入力部材に対して負トルクが伝達されることを制限することができる。このような構成とは異なり、要求トルクの正トルクから負トルクへの変化に応じて入力部材に対して負トルクが伝達される場合には、入力部材に駆動連結された回転電機の回転速度が低下して、回転電機の回転速度が同期回転速度よりも高い状態から回転電機の回転速度が同期回転速度よりも低い状態に移行する可能性がある。そして、回転電機の回転速度が同期回転速度よりも低くなる場合には、回転電機の回転速度と同期回転速度との高低関係が入れ替わるタイミングにおいて第二係合装置が伝達するトルクの伝達方向が反転するため、その時点での第二係合装置の伝達トルク容量に応じたショックが発生し得る。これに対して、要求トルクが正トルクから負トルクに変化した場合に入力部材に対して負トルクが伝達されることを制限する場合には、回転電機の回転速度を同期回転速度よりも高い回転速度に維持することが可能となる。この結果、第二係合装置が伝達するトルクの伝達方向が反転することを回避して、当該反転に起因するショックを防止することができる。
以上のように、上記の特徴構成によれば、車輪に伝達されることが要求される要求トルクの向きが反転するタイミングと内燃機関の始動タイミングとをずらす必要がないため、早期の内燃機関の始動が可能であり、なおかつ、少なくとも要求トルクが正トルクから負トルクに変化する場合において、要求トルクの向きが反転することにより車輪に伝達されるショックを低減することが可能となる。
【0010】
上記に鑑みた、内燃機関と車輪とを結ぶ動力伝達経路に、前記内燃機関の側から順に、第一係合装置、回転電機、及び第二係合装置が設けられた車両用駆動装置を制御対象とする制御装置の第三の特徴構成は、前記内燃機関を始動させる始動制御中に、前記第二係合装置を滑り係合状態にすると共に、前記第二係合装置の一対の係合部材間に回転速度差がある状態を維持するように前記回転電機を制御するスリップ制御を行い、前記スリップ制御では、前記第二係合装置の一対の係合部材間に回転速度差がなくなる前記回転電機の回転速度を同期回転速度として、前記第二係合装置を介して前記車輪に伝達されることが要求されるトルクである要求トルクが正トルクである場合には、前記回転電機の回転速度を前記同期回転速度よりも高くし、前記要求トルクが正トルクから負トルクに変化した場合に、前記回転電機の回転速度を前記同期回転速度よりも高い回転速度に維持する点にある。
【0011】
上記の特徴構成によれば、内燃機関を始動させる始動制御中にスリップ制御によって第二係合装置が滑り係合状態に維持されるため、内燃機関の出力トルクの変動や第一係合装置の係合の状態の変化により生じたトルク変動が車輪に伝達され難くなり、内燃機関の始動に伴うショックの低減を図ることができる。また、内燃機関の始動制御中に要求トルクが正トルクである場合には、回転電機の回転速度を同期回転速度よりも高くして車輪に正トルクを伝達することができる。
その上で、上記の特徴構成によれば、要求トルクが正トルクから負トルクに変化した場合に、回転電機の回転速度が同期回転速度よりも高い回転速度に維持される。このような構成とは異なり、要求トルクの正トルクから負トルクへの変化に応じて回転電機の回転速度が同期回転速度よりも低くされる場合には、回転電機の回転速度と同期回転速度との高低関係が入れ替わるタイミングにおいて第二係合装置が伝達するトルクの伝達方向が反転するため、その時点での第二係合装置の伝達トルク容量に応じたショックが発生し得る。これに対して、要求トルクが正トルクから負トルクに変化した場合に回転電機の回転速度を同期回転速度よりも高い回転速度に維持する場合には、第二係合装置が伝達するトルクの伝達方向の反転が生じないため、当該反転に起因するショックを防止することができる。
以上のように、上記の特徴構成によれば、車輪に伝達されることが要求される要求トルクの向きが反転するタイミングと内燃機関の始動タイミングとをずらす必要がないため、早期の内燃機関の始動が可能であり、なおかつ、少なくとも要求トルクが正トルクから負トルクに変化する場合において、要求トルクの向きが反転することにより車輪に伝達されるショックを低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態に係る車両用駆動装置及び制御装置の概略構成を示す図である。
図2】実施形態に係る変速装置のスケルトン図である。
図3】実施形態に係る変速装置の作動表である。
図4】実施形態に係る負トルク制限制御の処理手順を示すフローチャートである。
図5】実施形態に係る制御挙動の一例を示すタイムチャートである。
図6】比較例に係る制御挙動の一例を示すタイムチャートである。
図7】その他の実施形態に係る車両用駆動装置の概略構成を示す図である。
図8】その他の実施形態に係る車両用駆動装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
制御装置の実施形態について、図面を参照して説明する。制御装置は、車両用駆動装置を制御対象とする制御装置である。本実施形態では、駆動制御装置30(図1参照)が「制御装置」に相当する。
【0014】
以下の説明では、「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を意味する。この概念には、2つの回転要素が一体回転するように連結された状態や、2つの回転要素が1つ以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態が含まれる。このような伝動部材には、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材(軸、歯車機構、ベルト、チェーン等)が含まれ、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合装置(摩擦係合装置や噛み合い式係合装置等)が含まれてもよい。
【0015】
また、摩擦係合装置の係合の状態について、「係合状態」は、摩擦係合装置に伝達トルク容量が生じている状態である。伝達トルク容量は、摩擦係合装置が摩擦により伝達することができる最大のトルクの大きさであり、伝達トルク容量の大きさは、摩擦係合装置の係合圧(入力側係合部材と出力側係合部材とを相互に押し付けあう圧力)に比例して変化する。「係合状態」には、摩擦係合装置の一対の係合部材間(入力側係合部材と出力側係合部材との間)に回転速度差(滑り)がない「直結係合状態」と、摩擦係合装置の一対の係合部材間に回転速度差がある「滑り係合状態」とが含まれる。
【0016】
また、「解放状態」は、摩擦係合装置に伝達トルク容量が生じていない状態である。摩擦係合装置には、制御装置により伝達トルク容量を生じさせる指令が出されていない場合でも、係合部材(摩擦部材)同士の引き摺りによって伝達トルク容量が生じる場合がある。本明細書では、このような引き摺りトルクは係合の状態の分類に際して考慮せず、伝達トルク容量を生じさせる指令が出されていない場合に係合部材同士の引き摺りによって伝達トルク容量が生じている状態も「解放状態」に含める。
【0017】
摩擦係合装置の係合状態では、一対の係合部材間の摩擦により、一対の係合部材間でトルクが伝達される。摩擦係合装置の滑り係合状態では、動摩擦により回転速度の高い方の係合部材から回転速度の低い方の係合部材に伝達トルク容量の大きさのトルク(スリップトルク)が伝達される。一方、摩擦係合装置の直結係合状態では、伝達トルク容量の大きさを上限として、静摩擦により一対の係合部材間に作用するトルクが伝達される。
【0018】
1.車両用駆動装置の構成
本実施形態に係る制御装置(駆動制御装置30)の制御対象となる車両用駆動装置2の構成について説明する。図1に示すように、車両1(ハイブリッド車両)には、内燃機関ENG、車両用駆動装置2、及び車輪Wが備えられている。なお、図1では、駆動力の伝達経路を実線で示し、信号や油圧の伝達経路を一点鎖線で示している。車両用駆動装置2は、内燃機関ENGと車輪Wとを結ぶ動力伝達経路に、内燃機関ENGの側から順に、第一係合装置CL1、回転電機MG、及び第二係合装置CL2を備えている。第一係合装置CL1及び第二係合装置CL2の双方は摩擦係合装置である。ここで、内燃機関は、機関内部における燃料の燃焼により駆動されて動力を取り出す原動機(例えば、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等)である。また、回転電機は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータとしての双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。車両用駆動装置2は、内燃機関ENG及び回転電機MGの少なくとも一方のトルクを車輪Wに伝達させて車両1を走行させる。本明細書では、車両1を前進させる方向のトルク(前進加速方向のトルク)を正トルクとし、それとは反対方向のトルクを負トルクとする。車両用駆動装置2は、内燃機関ENGの出力トルクが正トルクとして車輪Wに伝達されるように構成されている。本実施形態では、車両用駆動装置2は、回転電機MGと車輪Wとの間の動力伝達経路に、変速装置TMを備えている。変速装置TMは、複数の変速用係合装置(図2参照)を備える。本実施形態では、第二係合装置CL2は、当該複数の変速用係合装置(但し、ワンウェイクラッチFを除く。)の中の1つとされる。すなわち、第二係合装置CL2は、クラッチ又はブレーキとされる。
【0019】
車両用駆動装置2は、図1に示すように、入力部材Iと出力部材Oとを備えている。入力部材Iは、第一係合装置CL1と第二係合装置CL2との間の動力伝達経路に設けられる伝動部材である。入力部材Iは、回転電機MGと第二係合装置CL2とを駆動連結する。本実施形態では、入力部材Iは、変速装置TMの入力軸として機能する軸部材である。出力部材Oは、第二係合装置CL2と車輪Wとの間の動力伝達経路に設けられる伝動部材である。本実施形態では、出力部材Oは、変速装置TMの出力軸として機能する軸部材である。出力部材Oと車輪Wとの間の動力伝達経路には出力用差動歯車装置DFが備えられ、出力部材Oの回転は、出力用差動歯車装置DFを介して左右2つの車輪Wに分配されて伝達される。
【0020】
内燃機関ENGの出力軸Eo(例えば、クランクシャフト)は、第一係合装置CL1を介して入力部材Iに駆動連結されている。第一係合装置CL1はクラッチである。本実施形態では、第一係合装置CL1が直結係合した直結係合状態で、出力軸Eoと入力部材Iとが一体回転する。内燃機関ENGを始動する際には、例えば、第一係合装置CL1を介して伝達される回転電機MGのトルクによって、内燃機関ENGの出力軸Eoが回転駆動(クランキング)される。車両1に内燃機関ENGを始動するための専用の回転電機(以下、「スタータモータ」という。)が備えられる場合には、内燃機関ENGを始動する際に、スタータモータのトルクによって内燃機関ENGの出力軸Eoが回転駆動されても良い。
【0021】
回転電機MGは、蓄電装置(図示せず)から電力の供給を受けて力行し、或いは、内燃機関ENGのトルクや車両1の慣性力によって発電(回生)した電力を当該蓄電装置に供給して蓄電させる。図示は省略するが、回転電機MGは、ケース等の非回転部材に固定されるステータと、入力部材Iに駆動連結されるロータとを備える。本実施形態では、回転電機MGのロータは、入力部材Iと一体回転する。よって、第一係合装置CL1が直結係合した直結係合状態で、回転電機MG(ロータ)と内燃機関ENG(出力軸Eo)とが一体回転する。
【0022】
変速装置TMは、入力部材I(変速入力軸)の回転を変速して出力部材O(変速出力軸)に伝達する。本実施形態では、変速装置TMは、変速比の異なる複数の変速段を形成可能な有段の自動変速装置であり、変速装置TMは、入力部材Iの回転を、形成されている変速段に応じた変速比で変速して出力部材Oに伝達する。ここでは、「変速比」を、出力部材Oの回転速度に対する入力部材Iの回転速度の比、すなわち、入力部材Iの回転速度を出力部材Oの回転速度で除算した値とする。変速装置TMは、複数の変速用係合装置を備え、変速用係合装置のそれぞれの係合の状態に応じて、変速比の異なる複数の変速段が形成される。本実施形態では、複数の変速用係合装置のうちの2つ以上(本例では2つ)が係合すると共にそれ以外が解放した状態で、各段の変速段が形成される。
【0023】
具体的には、図2に示すように、変速装置TMは、変速用係合装置として、第一クラッチC1、第二クラッチC2、第三クラッチC3、第一ブレーキB1、第二ブレーキB2、及びワンウェイクラッチF(一方向クラッチ)を備えている。ワンウェイクラッチFを除く変速用係合装置のそれぞれは、摩擦係合装置である。そして、図3の作動表に示すように、複数の変速用係合装置のうちの2つが係合すると共にそれ以外が解放した状態で、各段の変速段が形成される。本例では、変速装置TMは、変速比の異なる6つの前進用変速段(第一段1st、第二段2nd、第三段3rd、第四段4th、第五段5th、第六段6th)、及び1つの後進用変速段(Rev)を形成可能である。前進用の変速段は、第一段から第六段に向かって(すなわち、高速段側に向かって)変速比が段階的に小さくなる。図3の作動表において、「○」は、当該変速用係合装置が係合されることを示し、「無印」は、当該変速用係合装置が解放されることを示している。「(○)」は、内燃機関ENGの回転抵抗を利用した制動(いわゆるエンジンブレーキ)を行う場面等において係合されることを示している。「△」は、ワンウェイクラッチFによる回転規制の対象部材(本例では第二キャリヤCA2)の回転方向が一方の方向である場合には解放され、当該回転方向が他方の方向である場合には係合されることを示している。
【0024】
本実施形態では、変速装置TMは、図2に示すように、第一差動歯車装置PG1及び第二差動歯車装置PG2の2つの差動歯車装置を組み合わせて構成されている。第一差動歯車装置PG1は、3つの回転要素(第一サンギヤS1、第一キャリヤCA1、及び第一リングギヤR1)を有するシングルピニオン型の遊星歯車機構により構成されている。第一キャリヤCA1は、第一サンギヤS1に噛み合うと共に第一リングギヤR1に噛み合う複数の第一ピニオンギヤP1を支持する。第二差動歯車装置PG2は、4つの回転要素(第二サンギヤS2、第三サンギヤS3、第二キャリヤCA2、及び第二リングギヤR2)を有するラビニヨ型の遊星歯車機構により構成されている。第二キャリヤCA2は、第二サンギヤS2に噛み合うと共に第二リングギヤR2に噛み合う複数の第二ピニオンギヤP2(ロングピニオンギヤ)と、第二ピニオンギヤP2に噛み合うと共に第三サンギヤS3に噛み合う複数の第三ピニオンギヤP3(ショートピニオンギヤ)とを支持する。
【0025】
第一リングギヤR1は、入力部材Iに駆動連結され、本例では入力部材Iと一体回転するように連結されている。第二リングギヤR2は、出力部材Oに駆動連結され、本例では出力部材Oと一体回転するように連結されている。第一キャリヤCA1は、第一クラッチC1を介して第三サンギヤS3に駆動連結されていると共に、第三クラッチC3を介して第二サンギヤS2に駆動連結されている。本例では、第一クラッチC1が直結係合した直結係合状態で、第一キャリヤCA1は第三サンギヤS3と一体回転し、第三クラッチC3が直結係合した直結係合状態で、第一キャリヤCA1は第二サンギヤS2と一体回転する。第一リングギヤR1は、第二クラッチC2を介して第二キャリヤCA2に駆動連結されている。本例では、第二クラッチC2が直結係合した直結係合状態で、第一リングギヤR1は第二キャリヤCA2と一体回転する。
【0026】
第一サンギヤS1は、車両用駆動装置2或いは変速装置TMのケース3(非回転部材の一例)に固定されている。第二サンギヤS2は、第一ブレーキB1によりケース3に選択的に固定される。第二キャリヤCA2は、第二ブレーキB2によりケース3に選択的に固定されると共に、ワンウェイクラッチFによりケース3に対する相対回転の方向が一方向のみに制限される。第一段1stにおいて正トルクを入力部材Iから出力部材Oに伝達する場合には、第一クラッチC1が係合されると共にそれ以外の変速用係合装置(但し、ワンウェイクラッチを除く。)が解放される。この場合、第一差動歯車装置PG1を介して入力部材Iから第三サンギヤS3に伝達される正トルクの反力を、ワンウェイクラッチFにより回転が規制された状態の第二キャリヤCA2が受けることで、当該正トルクが第二リングギヤR2を介して出力部材Oに伝達される。一方、第一段1stにおいて負トルクを入力部材Iから出力部材Oに伝達する場合には、第二キャリヤCA2の回転はワンウェイクラッチによって規制されないため、第一クラッチC1に加えて第二ブレーキB2が係合される。
【0027】
2.制御装置の構成
図1に示すように、本実施形態では、車両1の状態(走行状態等)を制御するための制御装置として、駆動制御装置30の他に、車両制御装置34、内燃機関制御装置31、及びブレーキ制御装置32が設けられている。以下では、駆動制御装置30、車両制御装置34、内燃機関制御装置31、及びブレーキ制御装置32に共通の構成について述べる場合には、これらを総称して制御装置という。制御装置は、CPU等の演算処理装置を中核として備えると共に、RAMやROM等の記憶装置を備える。ROM等の記憶装置に記憶されたソフトウェア(プログラム)又は別途設けられた演算回路等のハードウェア、或いはそれらの両方により、制御装置が実行する各機能が実現される。制御装置が備える演算処理装置は、各プログラムを実行するコンピュータとして動作する。駆動制御装置30、車両制御装置34、内燃機関制御装置31、及びブレーキ制御装置32は、互いに通信可能に構成されており、センサの検出情報及び制御パラメータ等の各種情報を共有すると共に、各種制御信号をやりとりすることで協調制御を行うように構成されている。1つの制御装置が、互いに通信可能な複数のハードウェア(複数の分離したハードウェア)の集合によって構成されても良い。また、駆動制御装置30、車両制御装置34、内燃機関制御装置31、及びブレーキ制御装置32のうちの一部又は全ての制御装置が、共通のハードウェアに備えられる構成とすることもできる。
【0028】
車両1には各種センサが備えられており、制御装置は、当該各種センサの検出情報を取得可能に構成されている。図1には、車両1に備えられるセンサの例として、入力回転速度センサSe1、出力回転速度センサSe2、機関回転速度センサSe3、アクセル開度センサSe4、ブレーキ操作センサSe5、シフト位置センサSe6、蓄電状態センサSe7を示している。入力回転速度センサSe1は、入力部材Iの回転速度、又は入力部材Iと同期回転する部材の回転速度を検出する。なお、同期回転とは、一体回転すること、又は比例した回転速度で回転することを意味する。出力回転速度センサSe2は、出力部材Oの回転速度、又は出力部材Oと同期回転する部材の回転速度を検出する。機関回転速度センサSe3は、内燃機関ENG(出力軸Eo)の回転速度、又は内燃機関ENG(出力軸Eo)と同期回転する部材の回転速度を検出する。制御装置は、入力回転速度センサSe1の検出情報に基づき入力部材Iや回転電機MG(ロータ)の回転速度を取得し、出力回転速度センサSe2の検出情報に基づき出力部材Oの回転速度や車速を取得し、機関回転速度センサSe3の検出情報に基づき内燃機関ENG(出力軸Eo)の回転速度を取得する。
【0029】
アクセル開度センサSe4は、運転者のアクセルペダルの踏み込み量に応じたアクセル開度を検出する。ブレーキ操作センサSe5は、運転者のブレーキペダルの踏み込み量に応じたブレーキ操作量を検出する。シフト位置センサSe6は、シフトレバーの選択位置を検出する。なお、シフトレバーは、複数の走行レンジの中から1つの走行レンジを選択するために運転者が操作するレバーであり、シフトレバーの選択位置(シフト位置)には、前進走行レンジ(Dレンジ)を選択するための位置、後進走行レンジ(Rレンジ)を選択するための位置、ニュートラルレンジ(Nレンジ)を選択するための位置、パーキングレンジ(Pレンジ)を選択するための位置等が含まれる。蓄電状態センサSe7は、回転電機MGに電力を供給する蓄電装置の充電状態又は蓄電量を取得する。車両制御装置34は、アクセル開度、車速、シフト位置、蓄電装置の充電状態等のセンサ検出情報に基づいて、車輪Wに伝達されることが要求されるトルクである車両要求トルクを導出すると共に、車両1の走行モードや変速装置TMに形成させる目標変速段等を決定する。決定された走行モードや目標変速段に応じて、第一係合装置CL1及び第二係合装置CL2を含む各係合装置の係合の状態が、駆動制御装置30(後述する係合制御部42)によって制御される。なお、走行モードには、回転電機MGのトルクのみを車輪Wに伝達させて車両1を走行させる電動走行モード、内燃機関ENGのトルクのみを車輪Wに伝達させて車両1を走行させるエンジン走行モード、及び、回転電機MG及び内燃機関ENGの双方のトルクを車輪Wに伝達させて車両1を走行させるハイブリッド走行モード(パラレル走行モード)等が含まれる。電動走行モードでは第一係合装置CL1は解放状態に制御され、エンジン走行モード及びハイブリッド走行モードでは第一係合装置CL1は係合状態に制御される。
【0030】
車両制御装置34は、内燃機関ENG及び車両用駆動装置2に対して行われる各種の制御(トルク制御、係合制御等)を車両全体として統合する制御を行う。車両制御装置34は、車両全体のトルク分担を制御する機能を有する。具体的には、車両制御装置34は、内燃機関ENG及び回転電機MGのそれぞれのトルク分担割合を考慮して、内燃機関要求トルク及び回転電機要求トルクを決定する。内燃機関要求トルクは、内燃機関ENGが出力するトルクとして当該内燃機関ENGに要求されるトルクであり、回転電機要求トルクは、回転電機MGが出力するトルクとして当該回転電機MGに要求されるトルクである。回転電機MGに発電を行わせる場合には、回転電機要求トルクは負トルクに設定される。基本的に、内燃機関要求トルクと回転電機要求トルクとの和が車両要求トルクに等しくなるように、内燃機関要求トルク及び回転電機要求トルクのそれぞれが決定される。
【0031】
内燃機関制御装置31は、内燃機関ENGの動作制御を行う。内燃機関制御装置31は、車両制御装置34から内燃機関要求トルクが指令されている場合には、当該内燃機関要求トルクを出力するように内燃機関ENGを制御する。また、内燃機関制御装置31は、車両制御装置34から内燃機関ENGの始動要求があった場合には、内燃機関ENGへの燃料供給や点火を開始する等して内燃機関ENGを始動させ、車両制御装置34から内燃機関ENGの停止要求があった場合には、内燃機関ENGへの燃料供給や点火を停止する等して内燃機関ENGを停止させる。
【0032】
ブレーキ制御装置32は、ブレーキ装置90が車輪Wに作用させる制動力を制御する。ブレーキ装置90は、例えば、摩擦によって車輪Wに制動力を作用させる装置(ディスクブレーキ装置等)とされる。車両制御装置34は、ブレーキ操作量に基づきブレーキ装置90が車輪Wに作用させるべき制動力である第一制動力を決定し、ブレーキ制御装置32は、車両制御装置34から指令される第一制動力が車輪Wに作用するようにブレーキ装置90を制御する。車両制御装置34は、回転電機MGの回生による制動力である第二制動力(回生制動力)を車輪Wに作用させる場合には、第一制動力と第二制動力との和がブレーキ操作量に応じた制動力となるように、第一制動力及び第二制動力のそれぞれを決定する。
【0033】
駆動制御装置30は、第一係合装置CL1及び第二係合装置CL2のそれぞれの係合の状態を制御すると共に、回転電機MGの動作制御を行う。駆動制御装置30は、回転電機MGの動作制御を行う回転電機制御部41と、各係合装置の係合の状態を制御する係合制御部42とを、互いに通信可能に備えている。回転電機制御部41及び係合制御部42のそれぞれは、記憶装置に記憶されたソフトウェア(プログラム)又は別途設けられた演算回路等のハードウェア、或いはそれらの両方により構成される。回転電機制御部41は、車両制御装置34から回転電機要求トルクが指令されている場合には、当該回転電機要求トルクを出力するように回転電機MGを制御する。具体的には、回転電機制御部41は、蓄電装置の直流電圧を交流電圧に変換して回転電機MGに供給するインバータを制御することで、回転電機MGの出力トルクを制御する。係合制御部42は、車両用駆動装置2に備えられる各係合装置(第一係合装置CL1及び第二係合装置CL2を含む。)の係合の状態を、車両制御装置34が決定した状態となるように制御する。本実施形態では、係合制御部42の制御対象の係合装置には、変速装置TMの変速用係合装置が含まれる。係合制御部42は、車両制御装置34が決定した走行モードを実現するように且つ車両制御装置34が決定した目標変速段を形成するように、各係合装置の係合の状態を制御する。
【0034】
本実施形態では、係合制御部42の制御対象の係合装置は、油圧駆動式の摩擦係合装置である。係合制御部42は、係合装置のそれぞれに供給される油圧を、油圧制御装置PCを介して制御することで、係合装置のそれぞれの係合の状態を制御する。各係合装置の係合圧は、当該係合装置に供給されている油圧の大きさに比例して変化する。すなわち、係合装置に生じる伝達トルク容量の大きさは、当該係合装置に供給されている油圧の大きさに比例して変化する。そして、各係合装置の係合の状態は、供給されている油圧に応じて、直結係合状態、滑り係合状態、及び解放状態のいずれかに制御される。詳細は省略するが、油圧制御装置PCは、オイルポンプ(図示せず)から供給される作動油の油圧を調整するための油圧制御弁(リニアソレノイド弁等)を備えている。オイルポンプは、例えば、出力軸Eoや出力部材O等の車両用駆動装置2に備えられる回転部材によって駆動される機械式ポンプや、専用の回転電機により駆動される電動ポンプ等とされる。油圧制御装置PCは、係合制御部42からの油圧指令に応じて油圧制御弁の開度を調整することで、当該油圧指令に応じた油圧の作動油を各係合装置へ供給する。
【0035】
駆動制御装置30は、第二係合装置CL2を滑り係合状態にすると共に、第二係合装置CL2の一対の係合部材間に回転速度差がある状態を維持するように回転電機MGを制御するスリップ制御を行う。駆動制御装置30は、内燃機関ENGを始動させる始動制御中に、このスリップ制御を行う。車両制御装置34は、内燃機関ENGを始動させる条件である内燃機関始動条件が成立した場合に、内燃機関ENGの始動要求があったと判定し、内燃機関制御装置31及び駆動制御装置30との協働により内燃機関ENGの始動制御を行う。内燃機関始動条件は、車両1が内燃機関ENGのトルクを必要とする状況となった場合に成立する。例えば、車両1の停車中や電動走行モードでの走行中に運転者がアクセルペダルを強く踏み込む等して、回転電機MGのみでは車両要求トルクが得られない状態となった場合に、内燃機関始動条件が成立する。また、内燃機関ENGを始動させて蓄電装置を充電することが必要になった場合にも、内燃機関始動条件が成立する。
【0036】
駆動制御装置30は、スリップ制御では、要求トルクの正負に応じて、要求トルクが正トルクである場合には回転電機MGの回転速度を同期回転速度よりも高くする正スリップ制御を行い、要求トルクが負トルクである場合には回転電機MGの回転速度を同期回転速度よりも低くする負スリップ制御を行う。すなわち、駆動制御装置30は、スリップ制御では、要求トルクが正トルクである場合には、回転電機MGの回転速度を同期回転速度よりも高くする。ここで、要求トルクは、第二係合装置CL2を介して車輪Wに伝達されることが要求されるトルクであり、上述した車両要求トルクと同様に、車両制御装置34によって決定される。本実施形態では、この要求トルクは、車両要求トルクと基本的に一致する。例えば、第二係合装置CL2と車輪Wとの間の動力伝達経路に内燃機関ENGや回転電機MGとは別の駆動力源(車輪Wの駆動力源)が備えられる場合には、基本的に、ここでの要求トルクと当該別の駆動力源に要求されるトルクとの和が、車両要求トルクに等しくなる。また、同期回転速度は、第二係合装置CL2の一対の係合部材間に回転速度差がなくなる回転電機MGの回転速度である。本実施形態では、第二係合装置CL2は、スリップ制御を開始する時点で変速段を形成するために係合されている変速用係合装置のいずれか1つとされる。そのため、同期回転速度は、当該変速段を形成するために係合される全ての変速用係合装置が直結係合状態である場合の入力部材Iの回転速度であり、出力部材Oの回転速度と当該変速段の変速比との積に一致する。なお、スリップ制御中に目標変速段が変更される可能性があることを考慮して、スリップ制御を開始する時点での変速段と、当該変速段に対して低速段側又は高速段側に隣接する変速段との間で、共通となる変速用係合装置(いずれの変速段でも係合される変速用係合装置)以外の変速用係合装置を、第二係合装置CL2として選択することができる。本実施形態では、例えば、スリップ制御を開始する時点での変速段が第二段2ndである場合には、第一ブレーキB1を第二係合装置CL2とし、スリップ制御を開始する時点での変速段が第三段3rdである場合には、第三クラッチC3を第二係合装置CL2とすることができる。なお、スリップ制御を開始する時点での変速段が第一段1stである場合には、基本的に、第一クラッチC1を第二係合装置CL2とする。
【0037】
正スリップ制御では、回転電機MGの回転速度が同期回転速度よりも高くされることで、第二係合装置CL2の入力側係合部材の回転速度が出力側係合部材の回転速度よりも高くなる。この結果、第二係合装置CL2の係合圧(伝達トルク容量)に応じた正トルクが、第二係合装置CL2を介して車輪Wに伝達される。正スリップ制御では、第二係合装置CL2の係合圧が、要求トルクと同じ大きさの正トルクが車輪Wに伝達される大きさに設定される。一方、負スリップ制御では、回転電機MGの回転速度が同期回転速度よりも低くされることで、第二係合装置CL2の入力側係合部材の回転速度が出力側係合部材の回転速度よりも低くなる。この結果、第二係合装置CL2の係合圧(伝達トルク容量)に応じた負トルクが、第二係合装置CL2を介して車輪Wに伝達される。負スリップ制御では、第二係合装置CL2の係合圧が、要求トルクと同じ大きさの負トルクが車輪Wに伝達される大きさに設定される。なお、第二係合装置CL2の入力側係合部材は、第二係合装置CL2の一対の係合部材のうちの他方の係合部材を介さずに回転電機MGに駆動連結される係合部材であり、第二係合装置CL2の出力側係合部材は、第二係合装置CL2の一対の係合部材のうちの他方の係合部材を介さずに車輪Wに駆動連結される係合部材である。本実施形態では、図2に示すように、第二係合装置CL2の入力側係合部材は、入力部材Iと一体回転するように連結されている。
【0038】
そして、駆動制御装置30は、スリップ制御を行っている間に要求トルクが正トルクから負トルクに変化した場合に、負スリップ制御を禁止する。すなわち、駆動制御装置30は、スリップ制御を行っている間、要求トルクが正トルクである場合には、回転電機MGの回転速度を同期回転速度よりも高くすると共に、要求トルクが正トルクから負トルクに変化した場合に、回転電機MGの回転速度を同期回転速度よりも高い回転速度に維持する。よって、駆動制御装置30は、要求トルクが正トルクから負トルクに変化した後もスリップ制御を継続して行う場合には、正スリップ制御を継続して行う(後に参照する図5の例ではT03〜T04の期間)。要求トルクが正トルクから負トルクに変化した場合に負スリップ制御が禁止されるため、駆動制御装置30によって負スリップ制御が行われるのは、スリップ制御の開始時に要求トルクが負トルクである場合に限られる。一方、本実施形態では、駆動制御装置30は、スリップ制御を行っている間に要求トルクが負トルクから正トルクに変化した場合に正スリップ制御を許容する。よって、駆動制御装置30は、要求トルクが負トルクから正トルクに変化した後もスリップ制御を継続して行う場合には、負スリップ制御から正スリップ制御に切り替えてスリップ制御を継続して行う。
【0039】
ところで、上述したように、車両要求トルク(基本的に、要求トルクと一致)は、アクセル開度(本実施形態では、アクセル開度センサSe4により検出されるアクセル開度)に加えて蓄電装置の蓄電状態等の他の情報にも基づいて導出される。そのため、要求トルクの正負はアクセル開度の増減と必ずしも一意には対応しないが、全体的な傾向として、アクセル開度が小さくなるに従って要求トルクも小さくなる(要求トルクが負の領域では絶対値が大きくなる)。よって、正スリップ制御の実行中にアクセル開度が減少した場合には、要求トルクが正トルクから負トルクに変化する可能性がある。この点に鑑みて、本実施形態では、駆動制御装置30は、スリップ制御では、回転電機MGの回転速度が同期回転速度よりも高い状態でアクセル開度が減少した場合に、回転電機MGの回転速度を同期回転速度よりも高い回転速度に維持するように構成されている。なお、「アクセル開度が減少した場合」は、アクセル開度が減少中の状態と、アクセル開度の減少後にアクセル開度が一定値(例えば、ゼロ)に維持されている状態との双方を含む。以下では、回転電機MGの回転速度を同期回転速度よりも高い回転速度に維持する制御を「維持制御」という。回転電機MGの回転速度が同期回転速度よりも高い状態でアクセル開度が減少した場合に、要求トルクが必ずしも正トルクから負トルクに変化するとは限らないが、アクセル開度が減少したことに応じて維持制御を実行することで、アクセル開度の減少に応じて要求トルクが正トルクから負トルクに変化した場合に負スリップ制御を禁止することができる。すなわち、本実施形態では、回転電機MGの回転速度が同期回転速度よりも高い状態でアクセル開度が減少した場合に維持制御を実行する構成とすることで、スリップ制御を行っている間に要求トルクが正トルクから負トルクに変化した場合にも維持制御が実行されることとなり、負スリップ制御が禁止されるように構成されている。なお、アクセル開度の減少後の要求トルクが正トルクである間(図5の例ではT02〜T03の期間)は、正スリップ制御の実行により回転電機MGの回転速度が同期回転速度よりも高い回転速度に維持される。すなわち、要求トルクが正トルクである間は、正スリップ制御に付随して維持制御が実行される。
【0040】
上記のように、駆動制御装置30は、スリップ制御を行っている間に要求トルクが正トルクから負トルクに変化した場合に、負スリップ制御を禁止することで回転電機MGの回転速度を同期回転速度よりも高い回転速度に維持する。そして、本実施形態では、駆動制御装置30は、負スリップ制御の禁止中に、負スリップ制御を禁止していることを示す信号(負スリップ禁止信号)を、車両全体のトルク分担を制御する車両制御装置34に出力する。負スリップ禁止信号は、回転電機MGの回転速度を同期回転速度よりも低くしないことを示す信号である。この信号は、要求トルクが負トルクであって回転電機MGの回転速度を同期回転速度よりも高い回転速度に維持している間に、車両制御装置34に出力される。これにより、第二係合装置CL2を介して負トルクを車輪Wに伝達することができないことを、車両全体のトルク分担を制御する車両制御装置34に通知することができる。
【0041】
本実施形態では、駆動制御装置30は、負スリップ制御の禁止中だけでなく、将来負スリップ制御を禁止する可能性がある場合にも、負スリップ禁止信号を車両制御装置34に出力する。なお、要求トルクが負トルクである状態では、要求トルクが正トルクから負トルクに変化することはないが、要求トルクが正トルクである状態では、その後に要求トルクが正トルクから負トルクに変化する可能性がある。この点に鑑みて、本実施形態では、駆動制御装置30は、内燃機関ENGの始動制御を開始する時点(図5の例では時刻T01)で要求トルクが正トルクである場合には、その時点からスリップ制御が終了する時点(図5の例では時刻T04)までの間、負スリップ禁止信号を車両制御装置34に出力する。また、駆動制御装置30は、内燃機関ENGの始動制御を開始した時点よりも後の時点で要求トルクが負トルクから正トルクに変化した場合には、その変化があった時点からスリップ制御が終了する時点までの間、負スリップ禁止信号を車両制御装置34に出力する。なお、要求トルクが正トルクであることに代えて、アクセル開度が減少したことに応じて回転電機MGの回転速度を同期回転速度よりも高い回転速度に維持していることを条件に、駆動制御装置30が負スリップ禁止信号を車両制御装置34に出力する構成とすることもできる。この場合は、駆動制御装置30は、アクセル開度が減少したことに応じて回転電機MGの回転速度を同期回転速度よりも高い回転速度に維持している間(図5の例ではT02〜T04の期間)、負スリップ禁止信号を車両制御装置34に出力する構成となる。
【0042】
本実施形態では、駆動制御装置30は、負スリップ禁止信号を車両制御装置34に出力している間は、入力部材Iに対して負トルクが伝達されることを制限する負トルク制限制御を行うことで、負スリップ制御が行われないようにする。すなわち、負トルク制限を行っている間は、要求トルクが正トルクから負トルクに変化した場合に入力部材Iに対して負トルクが伝達されることを制限することで、回転電機MGの回転速度を同期回転速度よりも高い回転速度に維持する。すなわち、正スリップ制御において負トルク制限を行っている間は、アクセル開度が減少した場合であっても、回転電機MGの回転速度が同期回転速度よりも高い回転速度に維持される。なお、入力部材Iには内燃機関ENG及び回転電機MGの双方の出力トルクが伝達されるが、内燃機関ENGの出力トルクや燃焼停止状態でのフリクショントルク(負トルク)を無視すると、負トルク制限制御は、回転電機MGが負トルク(回生トルク)を出力することを制限する制御となる。負トルク制限が行われている間は、内燃機関要求トルクや回転電機要求トルクが、入力部材Iに対して負トルクが伝達されないという制約下で決定される。本実施形態では、車両制御装置34は、負スリップ禁止信号が駆動制御装置30から出力されている状態で車両要求トルクが負トルクである状況下では、当該負トルクに応じた制動力を車輪Wに作用させるように、ブレーキ制御装置32に対して指令を出す。なお、第二係合装置CL2と車輪Wとの間の動力伝達経路に回転電機MGとは別の追加回転電機が備えられている場合や、回転電機MGが第二係合装置CL2を介して駆動連結される車輪Wとは別の車輪(例えば、車輪Wが後輪である場合の前輪)に駆動連結される追加回転電機が備えられている場合には、車両要求トルク応じた制動力の少なくとも一部を当該追加回転電機の回生により発生させても良い。
【0043】
本実施形態では、駆動制御装置30は、図4に示す手順に沿って、負トルク制限制御を行う。駆動制御装置30は、内燃機関ENGの始動制御が開始されると(ステップ#01:Yes)、その時点での要求トルクが正トルクであるか否かの判定を行う(ステップ#02)。要求トルクが正トルクである場合には(ステップ#02:Yes)、駆動制御装置30は負トルク制限を開始すると共に(ステップ#03)、スリップ制御を開始する(ステップ#04)。なお、スリップ制御は、負トルク制限制御と同時期に開始する必要はなく、図5に示す例では、負トルク制限の開始時点(時刻T01)よりも所定時間経過後の時点(時刻T02)でスリップ制御が開始されている。駆動制御装置30は、負トルク制限を、スリップ制御が終了するまでの間(ステップ#05:No)、継続して行う。そして、駆動制御装置30は、スリップ制御が終了すると(ステップ#05:Yes)、負トルク制限を終了して(ステップ#06)、処理は終了する。
【0044】
一方、駆動制御装置30は、内燃機関ENGの始動制御が開始された時点での要求トルクが正トルクでない場合には(ステップ#02:No)、負トルク制限を開始することなくスリップ制御を開始する(ステップ#07)。そして、駆動制御装置30は、スリップ制御が終了するまでの間(ステップ#10:No)、要求トルクが正トルクになっていないか否かの判定を繰り返し行う(ステップ#08)。スリップ制御が終了するまでの間に要求トルクが正トルクになると(ステップ#08:Yes)、駆動制御装置30は、負トルク制限を開始する(ステップ#09)。その後は、駆動制御装置30は、負トルク制限を、スリップ制御が終了するまでの間(ステップ#05:No)、継続して行う。そして、駆動制御装置30は、スリップ制御が終了すると(ステップ#05:Yes)、負トルク制限を終了して(ステップ#06)、処理は終了する。また、要求トルクが正トルクになることなくスリップ制御が終了した場合には(ステップ#10:Yes)、負トルク制限が行われることなく処理が終了する。
【0045】
負トルク制限制御の具体的内容について、図5に示す例を参照して説明する。図5に示す例は、第一係合装置CL1を介して伝達される回転電機MGのトルクによって内燃機関ENG(出力軸Eo)を回転させて内燃機関ENGを始動させる場合の例である。時刻T01までは、走行モードは電動走行モードに設定されており、第一係合装置CL1が解放状態に制御されると共に第二係合装置CL2が直結係合状態に制御されている。また、内燃機関ENGの回転は停止しており、回転電機MGは要求トルク(車両要求トルク)に応じた正トルクを出力している。なお、図5において、“入力トルク”は、入力部材Iに伝達されるトルクであり、“目標”は、入力部材Iでのトルクに換算した要求トルクを表し、“実”は、入力部材Iに伝達される実際のトルクを表している。また、“出力トルク”は、出力部材Oに伝達される実際のトルクを表している。本実施形態では、“入力トルク”は、変速装置TMに内燃機関ENG側から入力されるトルクに等しく、“出力トルク”は、変速装置TMから車輪W側に出力されるトルクに等しい。
【0046】
時刻T01において内燃機関始動条件が成立すると、車両制御装置34、駆動制御装置30、及び内燃機関制御装置31の協調制御により、内燃機関ENGの始動制御が開始される。本例では、内燃機関ENGの始動制御が開始された時点(時刻T01)での要求トルクが正トルクであるため、時刻T01において負トルク制限が開始される。なお、図5において“負トルク制限”を表す破線は、“入力トルク”が、当該破線が示す値以上に制限されることを示している。すなわち、T01〜T04の期間では、実際の“入力トルク”は負トルクとはなり得ない。なお、時刻T01以前では負トルク制限が行われていないが、図5では、負トルク制限が行われていないことを、負の大きな値を示す破線によって表している。図5に示すように、本例では、時刻T01を含む期間においてアクセル開度が増加しており、時刻T02における正スリップ制御の開始直後から、アクセル開度がゼロに向かって減少し始めている。そして、時刻T03よりも前の時点でアクセル開度がゼロになった後は、アクセル開度がゼロの状態が時刻T04以降まで維持されている。
【0047】
内燃機関ENGの始動制御が開始されると、係合制御部42は、第一係合装置CL1の油圧指令をゼロから増加させて、第一係合装置CL1を解放状態から滑り係合状態に移行させる。これにより、第一係合装置CL1を介して回転電機MG側から内燃機関ENG側にトルクが伝達され、内燃機関ENGの回転速度が上昇し始める。本例では、第二係合装置CL2が直結係合状態から滑り係合状態に移行する前に(時刻T02以前に)、内燃機関ENGの回転速度が上昇し始める。また、係合制御部42は、第二係合装置CL2の油圧指令を低下させて、第二係合装置CL2を直結係合状態から滑り係合状態に移行させる。図5に示す例では、時刻T02において第二係合装置CL2が直結係合状態から滑り係合状態に移行したと判定され、その後、回転電機制御部41によるスリップ制御が開始される。このスリップ制御では、回転電機MGの出力トルクを制御して回転電機MGの回転速度を目標回転速度(図5において“目標”で示す破線)に近づける制御(回転速度制御)を行う。なお、時刻T02以前及び時刻T04以降では、回転電機MGの出力トルクを目標トルクに近づける制御(トルク制御)が行われるため、目標回転速度は設定されないが、図5では目標回転速度が設定されていないことを、正の大きな値を示す破線によって表している。
【0048】
時刻T02での要求トルクは正トルクであるため、時刻T02において回転電機制御部41による正スリップ制御が開始される。よって、図5に示すように、回転電機MGの目標回転速度は同期回転速度(図5において“同期”で示す一点鎖線)よりも高く設定される。そして、内燃機関ENGの回転速度が回転電機MGの回転速度(或いはその近傍の回転速度)まで上昇すると、第一係合装置CL1の油圧指令を完全係合圧まで上昇させて、第一係合装置CL1を滑り係合状態から直結係合状態に移行させる。ここで、完全係合圧とは、第一係合装置CL1に伝達されるトルクが変動しても滑りのない係合状態(直結係合状態)を維持できる係合圧である。なお、内燃機関ENGの燃焼は、内燃機関ENGの回転速度が燃焼可能な回転速度を上回った後に開始される。
【0049】
時刻T02以降に設定される第二係合装置CL2の係合圧は、要求トルクと同じ大きさの正トルクが車輪Wに伝達される大きさに設定される。図5に示す例では、時刻T02以降に要求トルクの低下に合わせて、第二係合装置CL2の係合圧が低下している。そして、時刻T03において要求トルクがゼロとなり、時刻T03以降は要求トルクが負トルクとなっている。例えば、内燃機関始動条件の成立後に運転者によりブレーキ操作がなされた場合に、このような状況が起こり得る。本例では、時刻T02における正スリップ制御の開始直後にアクセル開度がゼロに向かって減少し始めることで、アクセル開度の減少に応じて要求トルクが低下している。そして、アクセル開度が減少したことに応じて、駆動制御装置30は回転電機MGの回転速度を同期回転速度よりも高い回転速度に維持する維持制御を実行する。なお要求トルクが正トルクである間(T02〜T03の期間)では、時刻T02で開始した正スリップ制御を継続して実行することで、回転電機MGの回転速度が同期回転速度よりも高い回転速度に維持される。
【0050】
ここで、図6に示す比較例のように、負トルク制限が行われない場合、すなわち、要求トルクが正トルクから負トルクに変化した場合に負スリップ制御が禁止されない場合には、要求トルクが負トルクとなることに応じて負スリップ制御が行われる。この結果、図6に示すように、要求トルクが正トルクから負トルクに変化した時点(時刻T13)以降に、回転電機MGの回転速度が同期回転速度よりも高い状態から、回転電機MGの回転速度が同期回転速度よりも低い状態に変化する。なお、図6での時刻T11、時刻T12、及び時刻T13は、それぞれ、図5での時刻T01、時刻T02、及び時刻T03に対応する。
【0051】
回転電機MGの回転速度が同期回転速度よりも高い状態から、回転電機MGの回転速度が同期回転速度よりも低い状態に変化すると、第二係合装置CL2を介して正トルクが車輪Wに伝達されている状態から、第二係合装置CL2を介して負トルクが車輪Wに伝達されている状態に変化する。すなわち、第二係合装置CL2が伝達する正トルクの伝達方向が反転し、これによって図6に示すように出力部材Oにショックが伝達される場合がある。なぜなら、第二係合装置CL2の係合圧は、要求トルクの低下に合わせて比較的低い圧(例えば、ストロークエンド圧)に抑えられているが、第二係合装置CL2には、当該低い圧に応じた伝達トルク容量が生じている。よって、第二係合装置CL2に伝達トルク容量が生じている状態で、第二係合装置CL2が伝達する正トルクの伝達方向が反転するため、当該伝達トルク容量に応じたショックが発生し得る。なお、ストロークエンド圧は、ピストンをストロークエンド位置に位置させるための係合圧(油圧)である。伝達トルク容量は、係合圧がストロークエンド圧を上回った後、係合圧の増加に比例して増加するが、一般に、係合圧がストロークエンド圧である場合でも、伝達トルク容量はゼロとはならない。
【0052】
これに対し、図5に示す本実施形態に係る例では、要求トルクが正トルクから負トルクに変化した場合に負スリップ制御が禁止される。すなわち、要求トルクが正トルクから負トルクに変化した場合に、回転電機MGの回転速度が同期回転速度よりも高い回転速度に維持される。本実施形態では、回転電機MGの回転速度が同期回転速度よりも高い状態でアクセル開度が減少したことに応じて維持制御が時刻T02以降実行されていることで、要求トルクが正トルクから負トルクに変化した場合にも回転電機MGの回転速度が同期回転速度よりも高い回転速度に維持される。よって、第二係合装置CL2が伝達する正トルクの伝達方向が反転することはなく、出力部材Oに伝達されるショックを低減することが可能となっている。なお、図5に示す例では、要求トルクが正トルクから負トルクに変化した時点(時刻T03)以降に、回転電機MGの目標回転速度を同期回転速度に向けて漸減させ、回転電機MGの回転速度が同期回転速度(或いはその近傍の回転速度)まで低下すると、第二係合装置CL2の油圧指令を完全係合圧まで上昇させて、第二係合装置CL2を滑り係合状態から直結係合状態に移行させている。また、図5に示す例では、負スリップ制御の禁止中(T03〜T04の期間)における第二係合装置CL2の係合圧を、待機圧に制御している。すなわち、要求トルクが負トルクであって回転電機MGの回転速度を同期回転速度よりも高い回転速度に維持している間、第二係合装置CL2の係合圧を待機圧に制御している。言い換えれば、アクセル開度が減少したことに応じて回転電機MGの回転速度を同期回転速度よりも高い回転速度に維持している間、要求トルクが負トルクである場合には、第二係合装置CL2の係合圧が待機圧に制御される。すなわち、アクセル開度が減少したことに応じて回転電機MGの回転速度を同期回転速度よりも高い回転速度に維持している期間(T02〜T04の期間)のうちの、要求トルクが負トルクである期間(T03〜T04の期間)において、第二係合装置CL2の係合圧が待機圧に制御される。ここで、待機圧とは、第二係合装置CL2を係合させる際の本係合前の待機中における係合圧であり、ゼロよりも大きな値に設定される。例えば、待機圧を、ストロークエンド圧や、ストロークエンド圧より所定圧だけ低い係合圧に設定することができる。
【0053】
図5に示す例では、時刻T04においてスリップ制御が終了される。本実施形態では、駆動制御装置30は、スリップ制御を終了した時点での要求トルクが負トルクである場合、第二係合装置CL2を介して車輪Wに伝達されるトルクを、定められた下降勾配に沿って要求トルクに向けて次第に低下させる。そのため、図5に示す例では、T03〜T04の期間では要求トルクとは異なり入力部材Iに伝達されるトルクは負トルクとなることを制限されているが、時刻T04以降において、入力部材Iに伝達されるトルクが、負の要求トルクに向かって定められた下降勾配に沿って低下している。そして、入力部材Iに伝達されるトルクが要求トルクに到達した後は、要求トルクに応じた大きさの負トルクが入力部材Iに伝達される。なお、下降勾配は、例えば、要求トルク(負トルク)の大きさ、車両モード(トルクの応答性の設定)、変速装置TMにより形成されている変速段等に応じて定められる。本例では、下降勾配は、一定の傾きの直線状に設定されている。下降勾配を曲線状としたり、傾きが時間の経過と共に変化(例えば、傾きが大きくなった後に小さくなるように変化)するように下降勾配を設定しても良い。また、駆動制御装置30が、スリップ制御を終了した時点での要求トルクが負トルクである場合に、第二係合装置CL2を介して車輪Wに伝達されるトルクを、要求トルクにステップ的に変化させる構成とすることも可能である。
【0054】
ここでは、図5を参照して、第一係合装置CL1を介して伝達される回転電機MGのトルクによって内燃機関ENG(出力軸Eo)を回転させて内燃機関ENGを始動させる場合の例について説明したが、スタータモータのトルクによって内燃機関ENG(出力軸Eo)を回転させて内燃機関ENGを始動させる場合にも、図5に示す例と同様の制御を行うことができる。詳細は省略するが、その場合には、図5に示す例とは異なり、第一係合装置CL1を解放状態から係合状態に移行させるタイミングが、内燃機関ENGの燃焼が開始された時点よりも後に設定される。
【0055】
3.その他の実施形態
制御装置のその他の実施形態について説明する。なお、以下のそれぞれの実施形態で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0056】
(1)上記の実施形態では、変速装置TMが備える複数の変速用係合装置の中の1つが第二係合装置CL2として選択される構成を例として説明したが、変速用係合装置以外の係合装置(変速装置TMとは別に備えられる係合装置)を第二係合装置CL2として選択することもできる。例えば、図7及び図8に示す例のように、回転電機MGと変速装置TMとの間の動力伝達経路に係合装置が備えられる場合に、当該係合装置を第二係合装置CL2として選択することができる。なお、図7に示す例では、第二係合装置CL2は、入力部材Iと変速装置TMの入力軸として機能する中間軸Mとを選択的に連結する係合装置であり、図8に示す例では、第二係合装置CL2は、回転電機MGと変速装置TMとの間の動力伝達経路に設けられたトルクコンバータTCのロックアップクラッチ(直結クラッチ)である。なお、図7図8に示す構成においても、変速装置TMが備える複数の変速用係合装置の中の1つを第二係合装置CL2として選択しても良い。また、変速装置TMが、いわゆるDCTと呼ばれるデュアルクラッチ式変速装置である場合に、奇数段と偶数段の2つの動力伝達系統を切り替えるための2つの係合装置のうちの、現在係合されている係合装置を第二係合装置CL2として選択しても良い。
【0057】
(2)上記の実施形態では、駆動制御装置30が、負スリップ制御の禁止中(すなわち、要求トルクが負トルクであって回転電機MGの回転速度を同期回転速度よりも高い回転速度に維持している間)だけでなく、将来負スリップ制御を禁止する可能性がある場合にも、負スリップ禁止信号を車両制御装置34に出力する構成を例として説明したが、駆動制御装置30が、実際に負スリップ制御を禁止している間のみ(要求トルクが負トルクである期間のみ)、負スリップ禁止信号を車両制御装置34に出力する構成とすることもできる。また、駆動制御装置30が、アクセル開度が減少したことに応じて回転電機MGの回転速度を同期回転速度よりも高い回転速度に維持している間のみ、負スリップ禁止信号を車両制御装置34に出力する構成とすることもできる。なお、駆動制御装置30が、負スリップ禁止信号を車両制御装置34に出力しない構成とすることもできる。
【0058】
(3)上記の実施形態では、駆動制御装置30が、スリップ制御を行っている間に要求トルクが負トルクから正トルクに変化した場合に、正スリップ制御を許容する構成を例として説明したが、駆動制御装置30が、スリップ制御を行っている間に要求トルクが負トルクから正トルクに変化した場合に、正スリップ制御を禁止する構成とすることもできる。すなわち、駆動制御装置30が、スリップ制御を行っている間に要求トルクが負トルクから正トルクに変化した場合に、回転電機MGの回転速度を同期回転速度よりも低い回転速度に維持する構成とすることができる。
【0059】
(4)上記の実施形態では、第一係合装置CL1及び第二係合装置CL2の双方が、油圧駆動式の係合装置である場合を例として説明したが、第一係合装置CL1及び第二係合装置CL2の一方又は双方が、油圧以外の駆動力、例えば、電磁石の駆動力、サーボモータの駆動力等により制御される係合装置であってもよい。
【0060】
(5)上記の実施形態では、第一係合装置CL1及び第二係合装置CL2の双方が、供給油圧(油圧指令)を減少させることで伝達トルク容量(係合圧)が減少するノーマルオープン式の係合装置である場合を例として説明したが、第一係合装置CL1及び第二係合装置CL2の一方又は双方が、バネ圧等により係合され、供給油圧(油圧指令)を増加させることで伝達トルク容量(係合圧)が減少するノーマルクローズ式の係合装置であっても良い。
【0061】
(6)上記の実施形態では、各段の変速段が、複数の変速用係合装置のうちの2つを係合状態に制御することで形成される構成を例として説明したが、各段の変速段が、複数の変速用係合装置のうちの3つ以上を係合状態に制御することで形成される構成とすることもできる。
【0062】
(7)上記の実施形態では、変速装置TMが、前進用の変速段として、変速比の異なる6つの変速段を形成可能に構成される場合を例として説明したが、変速装置TMが形成可能な前進用の変速段の数が“6”以外(例えば“8”)である構成とすることもできる。
【0063】
(8)上記の実施形態で説明した駆動制御装置30における機能部の割り当ては単なる一例であり、複数の機能部を組み合わせたり、1つの機能部を更に区分けしたりすることも可能である。
【0064】
(9)その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で単なる例示に過ぎないと理解されるべきである。従って、当業者は、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜、種々の改変を行うことが可能である。
【0065】
4.上記実施形態の概要
以下、上記において説明した制御装置の概要について説明する。
【0066】
内燃機関(ENG)と車輪(W)とを結ぶ動力伝達経路に、前記内燃機関(ENG)の側から順に、第一係合装置(CL1)、回転電機(MG)、及び第二係合装置(CL2)が設けられた車両用駆動装置(2)を制御対象とする制御装置(30)であって、前記内燃機関(ENG)を始動させる始動制御中に、前記第二係合装置(CL2)を滑り係合状態にすると共に、前記第二係合装置(CL2)の一対の係合部材間に回転速度差がある状態を維持するように前記回転電機(MG)を制御するスリップ制御を行い、前記第二係合装置(CL2)の一対の係合部材間に回転速度差がなくなる前記回転電機(MG)の回転速度を同期回転速度として、前記スリップ制御では、前記回転電機(MG)の回転速度が前記同期回転速度よりも高い状態でアクセル開度が減少した場合に、前記回転電機(MG)の回転速度を前記同期回転速度よりも高い回転速度に維持する。
【0067】
このような構成によれば、内燃機関(ENG)を始動させる始動制御中にスリップ制御によって第二係合装置(CL2)が滑り係合状態に維持されるため、内燃機関(ENG)の出力トルクの変動や第一係合装置(CL1)の係合の状態の変化により生じたトルク変動が車輪(W)に伝達され難くなり、内燃機関(ENG)の始動に伴うショックの低減を図ることができる。
その上で、上記の構成によれば、回転電機(MG)の回転速度が同期回転速度よりも高い状態でアクセル開度が減少した場合に、回転電機(MG)の回転速度が同期回転速度よりも高い回転速度に維持される。ここで、全体的な傾向として、第二係合装置(CL2)を介して車輪(W)に伝達されることが要求されるトルクである要求トルクは、アクセル開度が小さくなるに従って小さくなるため、回転電機(MG)の回転速度が同期回転速度よりも高い状態でアクセル開度が減少した場合には、要求トルクが正トルクから負トルクに変化する可能性がある。そのため、上記のような構成とは異なり、回転電機(MG)の回転速度が同期回転速度よりも高い回転速度に維持する制御を、回転電機(MG)の回転速度が同期回転速度よりも高い状態でアクセル開度が減少した場合に実行しない場合には、アクセル開度の減少に応じて要求トルクが正トルクから負トルクに変化した場合に、要求トルクの変化に応じて回転電機(MG)の回転速度が同期回転速度よりも高い状態から回転電機(MG)の回転速度が同期回転速度よりも低い状態に移行する。そして、回転電機(MG)の回転速度と同期回転速度との高低関係が入れ替わるタイミングにおいて第二係合装置(CL2)が伝達するトルクの伝達方向が反転するため、その時点での第二係合装置(CL2)の伝達トルク容量に応じたショックが発生し得る。これに対して、回転電機(MG)の回転速度が同期回転速度よりも高い状態でアクセル開度が減少した場合に回転電機(MG)の回転速度を同期回転速度よりも高い回転速度に維持する場合には、第二係合装置(CL2)が伝達するトルクの伝達方向の反転が生じないため、当該反転に起因するショックを防止することができる。
以上のように、上記の構成によれば、車輪(W)に伝達されることが要求される要求トルクの向きが反転するタイミングと内燃機関(ENG)の始動タイミングとをずらす必要がないため、早期の内燃機関の始動が可能であり、なおかつ、少なくとも要求トルクが正トルクから負トルクに変化する場合において、要求トルクの向きが反転することにより車輪(W)に伝達されるショックを低減することが可能となる。
【0068】
また、前記アクセル開度が減少したことに応じて前記回転電機(MG)の回転速度を前記同期回転速度よりも高い回転速度に維持している間、前記回転電機(MG)の回転速度を前記同期回転速度よりも低くしないことを示す信号を、車両全体のトルク分担を制御する車両制御装置(34)に出力すると好適である。
【0069】
この構成では、車両制御装置(34)が、車輪(W)のブレーキ装置による制動力や回転電機(MG)とは別に設けられた追加回転電機の回生による制動力等を制御して、回転電機(MG)の回転速度を同期回転速度よりも低くしないことにより不足する負トルクを賄う構成とすることが可能となり、回転電機(MG)の回転速度を同期回転速度よりも低くしない場合であっても運転者のフィーリングを適切に確保することが可能となる。
【0070】
また、前記第二係合装置(CL2)を介して前記車輪(W)に伝達されることが要求されるトルクを要求トルクとして、前記スリップ制御を終了した時点での前記要求トルクが負トルクである場合、前記第二係合装置(CL2)を介して前記車輪(W)に伝達されるトルクを、定められた下降勾配に沿って前記要求トルクに向けて次第に低下させると好適である。
【0071】
この構成では、スリップ制御を終了した時点で、第二係合装置(CL2)を介して車輪(W)に伝達されるトルクを負の要求トルクにステップ的に変化させる場合に比べて、スリップ制御の終了時に発生し得るショックを低減することが容易となる。
【0072】
また、前記第二係合装置(CL2)を介して前記車輪(W)に伝達されることが要求されるトルクを要求トルクとし、前記第二係合装置(CL2)を係合させる際の本係合前の待機中における係合圧を待機圧として、前記アクセル開度が減少したことに応じて前記回転電機(MG)の回転速度を前記同期回転速度よりも高い回転速度に維持している間、前記要求トルクが負トルクである場合には、前記第二係合装置(CL2)の係合圧を前記待機圧に制御すると好適である。
【0073】
この構成では、アクセル開度が減少したことに応じて回転電機(MG)の回転速度を同期回転速度よりも高い回転速度に維持している間に、要求トルクが負トルクであれば第二係合装置(CL2)の係合圧がゼロに制御される場合に比べて、スリップ制御の終了後に第二係合装置(CL2)を直結係合させる際の応答性の向上を図ることができる。
【0074】
また、前記スリップ制御であって、前記回転電機(MG)の回転速度を前記同期回転速度よりも高くする制御を正スリップ制御とし、前記回転電機(MG)の回転速度を前記同期回転速度よりも低くする制御を負スリップ制御として、前記スリップ制御では、前記第二係合装置(CL2)を介して前記車輪(W)に伝達されることが要求されるトルクである要求トルクの正負に応じて、前記要求トルクが正トルクである場合には前記正スリップ制御を行い、前記要求トルクが負トルクである場合には前記負スリップ制御を行い、前記回転電機(MG)の回転速度が前記同期回転速度よりも高い状態で前記アクセル開度が減少した場合には、前記負スリップ制御を禁止することで前記回転電機(MG)の回転速度を前記同期回転速度よりも高い回転速度に維持すると好適である。
【0075】
この構成では、要求トルクの正負に応じて、要求トルクが正トルクである場合には正スリップ制御により車輪(W)に正トルクを伝達することができ、要求トルクが負トルクである場合には負スリップ制御により車輪(W)に負トルクを伝達することができ、内燃機関(ENG)の始動制御中においても、基本的に、要求トルクに応じたトルクを車輪(W)に伝達させることができる。その上で、回転電機(MG)の回転速度が同期回転速度よりも高い状態でアクセル開度が減少した場合には負スリップ制御を禁止することで、仮に要求トルクが正トルクから負トルクに変化した場合であっても回転電機(MG)の回転速度を同期回転速度よりも高い回転速度に維持することができる。
【0076】
また、別の実施形態に係る制御装置(30)は、内燃機関(ENG)と車輪(W)とを結ぶ動力伝達経路に、前記内燃機関(ENG)の側から順に、第一係合装置(CL1)、回転電機(MG)、及び第二係合装置(CL2)が設けられた車両用駆動装置(2)を制御対象とする制御装置(30)であって、前記内燃機関(ENG)を始動させる始動制御中に、前記第二係合装置(CL2)を滑り係合状態にすると共に、前記第二係合装置(CL2)の一対の係合部材間に回転速度差がある状態を維持するように前記回転電機(MG)を制御するスリップ制御を行い、前記スリップ制御では、前記第二係合装置(CL2)の一対の係合部材間に回転速度差がなくなる前記回転電機(MG)の回転速度を同期回転速度として、前記第二係合装置(CL2)を介して前記車輪(W)に伝達されることが要求されるトルクである要求トルクが正トルクである場合には、前記回転電機(MG)の回転速度を前記同期回転速度よりも高くし、前記要求トルクが正トルクから負トルクに変化した場合に、前記回転電機(MG)と前記第二係合装置(CL2)とを駆動連結する入力部材(I)に対して負トルクが伝達されることを制限する。
【0077】
このような構成によれば、内燃機関(ENG)を始動させる始動制御中にスリップ制御によって第二係合装置(CL2)が滑り係合状態に維持されるため、内燃機関(ENG)の出力トルクの変動や第一係合装置(CL1)の係合の状態の変化により生じたトルク変動が車輪(W)に伝達され難くなり、内燃機関(ENG)の始動に伴うショックの低減を図ることができる。また、内燃機関(ENG)の始動制御中に要求トルクが正トルクである場合には、回転電機(MG)の回転速度を同期回転速度よりも高くして車輪(W)に正トルクを伝達することができる。
その上で、上記の構成によれば、要求トルクが正トルクから負トルクに変化した場合に、回転電機(MG)と第二係合装置(CL2)とを駆動連結する入力部材(I)に対して負トルクが伝達されることを制限することができる。このような構成とは異なり、要求トルクの正トルクから負トルクへの変化に応じて入力部材(I)に対して負トルクが伝達される場合には、入力部材(I)に駆動連結された回転電機(MG)の回転速度が低下して、回転電機(MG)の回転速度が同期回転速度よりも高い状態から回転電機(MG)の回転速度が同期回転速度よりも低い状態に移行する可能性がある。そして、回転電機の回転速度が同期回転速度よりも低くなる場合には、回転電機(MG)の回転速度と同期回転速度との高低関係が入れ替わるタイミングにおいて第二係合装置(CL2)が伝達するトルクの伝達方向が反転するため、その時点での第二係合装置(CL2)の伝達トルク容量に応じたショックが発生し得る。これに対して、要求トルクが正トルクから負トルクに変化した場合に入力部材(I)に対して負トルクが伝達されることを制限する場合には、回転電機(MG)の回転速度を同期回転速度よりも高い回転速度に維持することが可能となる。この結果、第二係合装置(CL2)が伝達するトルクの伝達方向が反転することを回避して、当該反転に起因するショックを防止することができる。
以上のように、上記の構成によれば、車輪(W)に伝達されることが要求される要求トルクの向きが反転するタイミングと内燃機関(ENG)の始動タイミングとをずらす必要がないため、早期の内燃機関の始動が可能であり、なおかつ、少なくとも要求トルクが正トルクから負トルクに変化する場合において、要求トルクの向きが反転することにより車輪(W)に伝達されるショックを低減することが可能となる。
【0078】
また、更に別の実施形態に係る制御装置(30)は、内燃機関(ENG)と車輪(W)とを結ぶ動力伝達経路に、前記内燃機関(ENG)の側から順に、第一係合装置(CL1)、回転電機(MG)、及び第二係合装置(CL2)が設けられた車両用駆動装置(2)を制御対象とする制御装置(30)であって、前記内燃機関(ENG)を始動させる始動制御中に、前記第二係合装置(CL2)を滑り係合状態にすると共に、前記第二係合装置(CL2)の一対の係合部材間に回転速度差がある状態を維持するように前記回転電機(MG)を制御するスリップ制御を行い、前記スリップ制御では、前記第二係合装置(CL2)の一対の係合部材間に回転速度差がなくなる前記回転電機(MG)の回転速度を同期回転速度として、前記第二係合装置(CL2)を介して前記車輪(W)に伝達されることが要求されるトルクである要求トルクが正トルクである場合には、前記回転電機(MG)の回転速度を前記同期回転速度よりも高くし、前記要求トルクが正トルクから負トルクに変化した場合に、前記回転電機(MG)の回転速度を前記同期回転速度よりも高い回転速度に維持する。
【0079】
このような構成によれば、内燃機関(ENG)を始動させる始動制御中にスリップ制御によって第二係合装置(CL2)が滑り係合状態に維持されるため、内燃機関(ENG)の出力トルクの変動や第一係合装置(CL1)の係合の状態の変化により生じたトルク変動が車輪(W)に伝達され難くなり、内燃機関(ENG)の始動に伴うショックの低減を図ることができる。また、内燃機関(ENG)の始動制御中に要求トルクが正トルクである場合には、回転電機(MG)の回転速度を同期回転速度よりも高くして車輪(W)に正トルクを伝達することができる。
その上で、上記の構成によれば、要求トルクが正トルクから負トルクに変化した場合に、回転電機(MG)の回転速度が同期回転速度よりも高い回転速度に維持される。このような構成とは異なり、要求トルクの正トルクから負トルクへの変化に応じて回転電機(MG)の回転速度が同期回転速度よりも低くされる場合には、回転電機(MG)の回転速度と同期回転速度との高低関係が入れ替わるタイミングにおいて第二係合装置(CL2)が伝達するトルクの伝達方向が反転するため、その時点での第二係合装置(CL2)の伝達トルク容量に応じたショックが発生し得る。これに対して、要求トルクが正トルクから負トルクに変化した場合に回転電機(MG)の回転速度を同期回転速度よりも高い回転速度に維持する場合には、第二係合装置(CL2)が伝達するトルクの伝達方向の反転が生じないため、当該反転に起因するショックを防止することができる。
以上のように、上記の構成によれば、車輪(W)に伝達されることが要求される要求トルクの向きが反転するタイミングと内燃機関(ENG)の始動タイミングとをずらす必要がないため、早期の内燃機関の始動が可能であり、なおかつ、少なくとも要求トルクが正トルクから負トルクに変化する場合において、要求トルクの向きが反転することにより車輪(W)に伝達されるショックを低減することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本開示に係る技術は、内燃機関と車輪とを結ぶ動力伝達経路に、内燃機関の側から順に、第一係合装置、回転電機、及び第二係合装置が設けられた車両用駆動装置を制御対象とする制御装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0081】
1:車両
2:車両用駆動装置
30:駆動制御装置(制御装置)
34:車両制御装置
CL1:第一係合装置
CL2:第二係合装置
ENG:内燃機関
I:入力部材
MG:回転電機
W:車輪
図1
図2
図3
図4
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図7
図8