(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本開示の一例である低温用ニッケル含有鋼板(以下、「低温用Ni鋼板」とも称する)について説明する。
なお、本開示において、化学組成の各元素の含有量の「%」表示は、「質量%」を意味する。
また、各元素の含有量の%は、特に説明がない場合、質量%を意味する。
また、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、「鋼板の厚さ方向」を「板厚方向」とも称する。
【0013】
本開示の低温用Ni鋼板は、後述する所定の化学組成を有し、表面から厚さ方向に1.5mm位置の残留オーステナイトの体積分率が3.0〜20.0体積%であり、表面から厚さ方向に1.5mm位置の旧オーステナイト粒界上における隣り合う残留オーステナイト間の最大距離が12.5μm以下であり、表面から厚さ方向に厚さの1/4の位置における残留オーステナイトの円相当径が2.5μm以下である。
【0014】
ここで、低温用Ni鋼板は、厚鋼板、又は薄鋼板であってもよく、板形状などの鍛造品であってもよい。低温用Ni鋼板の板厚は、主に6〜80mmとするが、6mm未満(例えば、板厚4.5mm又は3mm)でも、80mm超(例えば100mm)であってもよい。
【0015】
本開示の低温用Ni鋼板は、上記構成により、母材強度および母材靭性を損なうことなく、耐応力腐食割れ特性に優れた鋼板となる。本開示の低温用Ni鋼板は、次の知見により見出された。
【0016】
まず、本発明者らは、低温用Ni鋼板の母材強度および母材靭性を確保しつつ、耐応力腐食割れ性を確保させるために検討を行った。
【0017】
具体的には、本発明者らは、船舶用タンク(例えば、舶舶用LNGタンク)などに使用できる低温用Ni鋼板について検討した。
【0018】
まず、船舶用タンクの建造から運用までの工程を考慮し、腐食環境と作用する応力について整理し、応力腐食割れ発生の原因について検討した。その結果、本発明者らは次の知見を得た。実際に応力腐食割れが発生した事例については建造後約25年という長期間経過してから発生したものである。また、船舶用タンクにおいては定期的(およそ5年に1回)な開放点検が実施される。一方で、開放点検の無い陸上用のタンク(例えばLNGタンク)においてはこのような応力腐食割れの問題が無い。これらのことから、応力腐食割れ発生は、開放点検時に海から飛来する塩分(つまり、塩化物)の付着とタンク内の結露が原因であると考えることができる。
そこで、本発明者らは、溶接部の残留応力を模擬し応力を付加した試験により、塩化物による応力腐食割れ(以下「塩化物応力割れ」とも称する)を再現可能な試験方法を確立し、材料面での対策について検討した。その結果、本発明者らは、以下の(a)〜(c)に示す知見を得た。
(a)表面から厚さ方向に1.5mm位置の残留オーステナイトの体積分率を3.0〜20.0体積%とした場合、上記機械的強度を確保しつつ、塩化物応力腐食割れの発生が著しく抑制される。
(b)表面から厚さ方向に1.5mm位置の旧オーステナイト粒界上における隣り合う残留オーステナイト間の最大距離を12.5μm以下とした場合、上記機械的強度を確保しつつ、塩化物応力腐食割れの発生が著しく抑制される。
(c)表面から厚さ方向に厚さの1/4の位置における残留オーステナイトの円相当径を2.5μm以下とした場合、上記機械的強度を確保しつつ、塩化物応力腐食割れの発生が著しく抑制される。
【0019】
以上の知見により、本開示の低温用Ni鋼板は、母材強度および母材靭性を損なうことなく、耐応力腐食割れ特性(つまり、耐塩化物応力腐食割れ特性)に優れた鋼板となることが見出された。
そして、本開示の低温用Ni鋼板を用いて製作された低温用タンクは、低温用タンクの開放点検時に飛来塩化物の管理ができなかった場合でも、また、タンク内の湿度管理に不備がありタンク内が結露した場合でも、塩化物応力腐食割れを防止することができる。そのため、特に、低温用タンクは、船舶用タンク(例えば、船舶用LNGタンク)に適している。よって、本開示の低温用Ni鋼板は、産業上の貢献が極めて顕著である。
なお、低温用タンクは、少なくとも本開示の低温用Ni鋼板を含む複数の鋼板を溶接して作成される。低温用タンクには、円筒タンク、球状タンク等、種々のタンクが例示できる。
【0020】
以下、本開示の低温用Ni鋼板について詳細に説明する。
【0021】
(A)化学組成
以下、本開示の低温用Ni鋼板の化学組成(以下「本開示の化学組成」とも称する)の限定理由について述べる。
【0022】
C:0.010〜0.150%
Cは、強度確保のために必要な元素であり、残留オーステナイトを安定化させる元素でもある。また、C量が0.010%未満であると、強度が低下し、残留オーステナイトの量が低下し耐塩化物応力腐食割れ特性が低下することがある。よって、C量を0.010%以上とする。好ましくはC量を0.030%以上、0.040%以上又は0.050%以上とする。一方、C量が0.150%を超えると、引張強度が過大となり母材靭性低下が著しくなる。また表層硬度が上昇しやすくなり、耐塩化物応力腐食割れ特性が低下する。よって、C量を0.150%以下とする。好ましくはC量を0.120%以下、0.100%以下又は0.080%以下とする。
【0023】
Si:0.01〜0.60%
Siは、脱酸剤かつ強度確保のための元素である。また、Siは、焼戻工程で、過飽和に固溶しているマルテンサイト中からのセメンタイトへの分解析出反応を抑制する元素である。セメンタイトが抑制されることで、残留オーステナイト中の炭素濃度が上昇し残留オーステナイトが安定化する。その結果、残留オーステナイト量が増加することで耐塩化物応力腐食割れ特性が向上する。よって、Si量を0.01%以上とする。好ましくはSi量を0.02%以上、より好ましくは0.03%以上とする。一方、Si量が0.60%を超えると、引張強度が過大となり母材靭性が低下する。よって、Si量を0.60%以下とする。好ましくはSi量を0.50%以下とする。靱性向上のため、Si量の上限を0.35%、0.25%、0.20%又は0.15%としてもよい。
【0024】
Mn:0.20〜2.00%
Mnは、脱酸剤であり、また、焼入れ性を向上させ強度を確保するために必要な元素である。よって、母材の降伏、引張強度を確保するために、Mn量を0.20%以上とする。好ましくはMn量を0.30%以上、より好ましくは0.50%以上又は0.60%以上とする。一方、Mn量が2.00%を超えると、中心偏析に起因して板厚方向での母材特性が不均一になり、母材靭性が低下する。それに加えて、鋼板中の腐食の起点となるMnSを形成し、耐食性を低下させ、耐塩化物応力腐食割れ特性が低下する。よって、Mn量を2.00%以下とする。好ましくはMn量を1.50%以下、1.20%以下、1.00%以下又は0.90%以下とする。
【0025】
P:0.010%以下
Pは不純物であり、粒界に偏析して母材靭性を低下させる。よって、P量を0.010%以下に制限する。好ましくはP量を0.008%以下又は0.005%以下とする。P量は少ないほど好ましい。P量の下限は0%である。しかし、製造コストの観点から、Pを0.0005%以上又は0.001%以上含有することを許容してもよい。
【0026】
S:0.010%以下
Sは不純物であり、鋼板中の腐食の起点となるMnSを形成し、耐食性を低下させ、耐塩化物応力腐食割れ特性が低下する。また中心偏析を助長したり、脆性破壊の起点となる延伸形状のMnSが生成し、母材靭性が低下する原因となることがある。よって、S量を0.010%以下に制限する。好ましくはS量を0.005%以下又は0.004%以下とする。S量は少ないほど好ましい。S量の下限は0%である。しかし、製造コストの観点から、Sを0.0005%以上又は0.0001%以上含有することを許容してもよい。
【0027】
Ni:5.00〜9.50(好ましくは8.00〜9.50%)%以下
Niは、重要な元素である。Ni量が多いほど低温における靭性は向上する。よって、必要な靭性を確保するために、Ni量を5.00%以とする。好ましくはNi量を5.50%以上、より好ましくは6.00%以上とする。特に、低温用Ni鋼板として安定的に母材靭性を確保するためは、好ましくはNi量を8.00%以上、より好ましくは8.20%以上、さらに好ましくは8.50%以上とする。Ni量が多いほど高い低温靭性が得られるが、コストが高くなるだけでなく塩化物環境下における耐食性が著しく高くなる。一方で、耐食性が高いために局所的な腐食痕(局所ピット)を形成しやすく、局所ピット部での応力集中により塩化物応力腐食割れが発生しやすくなる。よって、Ni量を9.50%以下とする。好ましくはNi量を9.40%以下とする。
【0028】
Al:0.005〜0.100%
Alは脱酸剤であり、脱酸不足によるアルミナ等の介在物増加、母材靭性低下を防ぐ元素である。また、Alは、セメンタイトの生成を抑制する元素でもある。セメンタイトが抑制されることで、残留オーステナイト中の炭素濃度が上昇し残留オーステナイトが安定化する。その結果、残留オーステナイト量が増加することで耐塩化物応力腐食割れ特性が向上する。よって、Al量を0.005%以上とする。好ましくはAl量を0.010%以上、0.015%以上又は0.020%以上とする。一方、Al量が0.100%を超えると、介在物に起因して母材靱性が低下する。よって、Al量を0.100%以下とする。好ましくはAl量を0.070%以下、0.060%以下又は0.050%以下とする。
【0029】
N:0.0010〜0.0100%
NはAlと結合し、AlNを形成することにより結晶粒を微細化させ、母材靭性を向上させる元素がある。よって、N量を0.0010%以上とする。好ましくはN量を0.0015%%以上とする。しかし、N量が0.0100%を超えると却って母材靭性が低下する原因となる。よって、N量を0.0100%以下とする。好ましくはN量を0.0080%以下、0.0060%以下又は0.0050%以下とする。
【0030】
本開示の低温用Ni鋼板は、上記の成分のほか、残部がFeと不純物からなるものである。ここで、不純物とは、低温用Ni鋼板を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等のような原料を始めとして、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本開示に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0031】
さらに、本開示の低温用Ni鋼板は、必要に応じて、Cu、Sn、Sb、Cr、Mo、W、V、Nb、Ca、Ti、B、MgおよびREMの1種又は2種以上を含有してもよい。つまり、これら元素は、本開示の低温用Ni鋼板に含有しなくてもよく、これらの元素の含有量の下限は0%である。
【0032】
Cu:0〜1.00%
Cuは、塩化物環境において生成した腐食生成物の保護性を高め、割れが発生した場合、割れの先端における溶解を抑制し、割れの進展を抑制する効果を有する。Cuの効果を安定的に得るには、Cu量は0.01%以上が好ましい。より好ましくはCu量を0.03%以上、さらに好ましくは0.05%以上とする。一方、Cu量が1.00%を超えると効果が飽和し、母材靭性が低下することがある。よって、Cu量を1.00%以下とする。より好ましくはCu含有量を0.80%以下、さらに好ましくは0.60%以下又は0.30%以下とする。
【0033】
Sn:0〜0.80%
Snは、腐食環境において割れが発生した場合、割れの先端においてイオンとして溶出し、インヒビター作用により、溶解反応を抑制することで、割れの進展を著しく抑制する効果を有する元素である。Snを0%超で含有させることによって効果が得られるため、Sn量を0%超としてもよい。一方、Snを0.80%超えで含有させると、母材靭性が著しく低下することがある。よって、Sn量を0.80%以下とする。好ましくはSn量を0.40%以下、より好ましくは0.30%以下、0.10%以下、0.03%以下又は0.003%以下とする。
【0034】
Sb:0〜0.80%
Sbは、Snと同様に、腐食環境において割れが発生した場合、割れの先端においてイオンとして溶出し、インヒビター作用により、溶解反応を抑制することで、割れの進展を著しく抑制する効果を有する元素である。Sbを0%超で含有させることによって効果が得られるため、Sb量を0%超としてもよい。一方、Sbを0.80%超えで含有させると、母材靭性が著しく低下することがある。よって、Sb量を0.80%以下とする。好ましくはSb量を0.40%以下、より好ましくは0.30%以下、0.10%以下、0.03%以下又は0.003%以下とする。
【0035】
Cr:0〜2.00%
Crは、強度を高める作用がある元素である。また、Crは、塩化物が存在する薄膜水環境において鋼板の耐食性を低下させて局所ピットの形成を抑制し、塩化物応力腐食割れの発生を抑制する作用を有する元素でもある。Crの効果を安定的に得るためには、Cr量を0.01%以上にすることが好ましい。Cr量が2.00%を超えると効果が飽和するだけでなく母材靭性が低下することがある。よって、Cr量を2.00%以下とする。好ましくはCr量を1.20%以下、0.50%以下、0.25%以下又は0.10%以下とする。
【0036】
Mo:0〜1.00%
Moは、強度を高める作用がある元素である。また、Moは、腐食環境において溶出したMoがモリブデン酸イオンを形成する。低温用Ni鋼板の塩化物応力腐食割れは割れ先端での鋼板の溶解により割れが進展する。しかし、モリブデン酸イオンがあることによりそのインヒビター作用により割れ先端での溶解が抑制され、割れ抵抗性が大幅に高くなる。Moの効果を安定的に得るためには、Mo量を0.01%以上としてもよい。Mo量を0.20%以上としてもよい。Mo量が1.00%を超えると溶解抑制の効果が飽和するだけでなく母材靭性が著しく低下することがある。よって、Mo量を1.00%以下とする。好ましくはMo量を0.50%以下、0.15%以下又は0.08%以下とする。
【0037】
W:0〜1.00%
WもMoと同様の作用を有する元素である。また、腐食環境において腐食環境において溶出したWがタングステン酸イオンを形成することにより割れ先端での溶解を抑制し、耐塩化物応力腐食割れ特性を向上させる。Wの効果を安定的に得るためには、W量を0.01%以上としてもよい。W量が1.00%を超えると効果が飽和するだけでなく母材靭性が低下することがある。よって、W量を1.00%以下とする。好ましくはW量を0.50%以下、0.10%以下、又は0.02%以下とする。
【0038】
V:0〜1.00%
VもMoと同様の作用を有する。腐食環境において腐食環境において溶出したVがバナジン酸イオンを形成することにより割れ先端での溶解を抑制し、耐塩化物応力腐食割れ特性を向上させる。Vの効果を安定的に得るためには、V量を0.01%以上としてもよい。V量が1.00%を超えると効果が飽和するだけでなく母材靭性が低下することがある。よって、V量を1.00%以下とする。好ましくはV量を0.50%以下、0.10%以下又は0.02%以下とする。
【0039】
Nb:0〜0.100%
Nbは、組織を微細化して強度や母材靭性を向上させることに加えて、大気中で形成される酸化被膜を強化することにより、塩化物応力腐食割れの発生を抑制する効果を有する元素である。Nbの効果を安定的に得るためには、Nb量を0.001%以上としてもよい。一方、Nbを過剰に添加すると粗大な炭化物又は窒化物を形成し、母材靭性を低下させることがある。よって、Nb量を0.100%以下とする。好ましくはNb量を0.080%以下、0.020%以下又は0.005%以下とする。
【0040】
Ti:0〜0.100%
Tiは、脱酸に利用すると、Al、TiおよびMnからなる酸化物相を形成し、組織を微細化して、母材強度および母材靭性を向上させる効果を有する元素である。それに加えて、鋼板中のSと結合し硫化物を形成することにより腐食の起点となるMnSを著しく減少させ、塩化物応力腐食割れの発生を抑制する効果を有する元素である。よって、Tiの効果を安定的に得るためには、Ti量を0.001%以上としてもよい。
一方、Ti量が0.100%を超えると、Ti酸化物又はTi−Al酸化物が形成されて母材靭性が低下することがある。よって、Ti量を0.100%以下とする。好ましくはTi量を0.080%以下、0.020%以下又は0.010%以下とする。
【0041】
Ca:0〜0.0200%
Caは、鋼中のSと反応して溶鋼中で酸硫化物(オキシサルファイド)を形成する。この酸硫化物は、MnSなどと異なって圧延加工によって圧延方向に伸びることがないので、圧延後も球状である。この球状の酸硫化物は、割れが発生した場合、割れの先端での溶解を抑制し、耐塩化物応力腐食割れ性を向上させる。よって、Caの効果を安定的に得るためには、Ca量を0.0003%以上としてもよい。より好ましくはCa量を0.0005%以上、さらに好ましくは0.0010%以上とする。
一方、Caの含有量が0.0200%を超えると、靭性の劣化を招くことがある。よって、Ca量は0.0200%以下とする。より好ましくはCa量を0.0040%以下、さらに好ましくは0.0030%以下又は0.0020%以下とする。
【0042】
B :0〜0.0500%
Bは、母材の強度を向上させる効果を有する元素である。よって、Bの効果を安定的に得るためには、B量を0.0003%としてもよい。一方、B量が0.0500%を超えると、粗大な硼素化合物の析出を招いて母材靭性を劣化させることがある。よって、B量は0.0500%以下とする。好ましくはB量を0.0400%以下、より好ましくは0.0300%以下又は0.0020%以下とする。
【0043】
Mg:0〜0.0100%
Mgは、微細なMg含有酸化物を生成し、残留オーステナイトの粒径(円相当径)を微細化する効果を有する元素である。よって、Mgの効果を安定的に得るためには、Mg量を0.0002%以上としてもよい。一方、Mg量が0.0100%を超えると、酸化物が多くなりすぎて母材靭性が低下することがある。よって、Mg量を0.0100%以下とする。より好ましくは0.0050%以下又は0.0010%以下とする。
【0044】
REM:0〜0.0200%
REMは、アルミナ、硫化マンガンなどの介在物の形態を制御することで、靱性の向上に有効な元素である。よって、REMの効果を安定的に得るためには、REM量を0.0002%としてもよい。
一方、REMを過剰に含有させると、介在物が形成されて清浄度が低下することがある。よって、REM量を0.0200%以下とする。好ましくはREM量を0.0020%とし、より好ましくは0.0010%とする。
なお、REMとは、ランタノイドの15元素にYおよびScを合わせた17元素の総称である。そして、REM量は、これらの元素の合計含有量を意味する。
【0045】
(B)金属組織
B−1.表面から厚さ方向に1.5mm位置の残留オーステナイトの体積分率(以下「残留オーステナイト量」とも称する)が3.0〜20.0体積%
鋼板中の残留オーステナイトは割れの進展を抑制し、耐塩化物応力腐食割れを著しく向上させる。残留オーステナイトはNiを多く含有するため、塩化物薄膜水環境における溶解が大幅に抑制される。塩化物応力腐食割れは鋼板表面で起こる現象であるため、鋼板表層の残留オーステナイト量が重要である。
一方、残留オーステナイト量が多いほど耐塩化物応力腐食割れ特性が向上するが、多すぎると強度が低下するため必要な強度が確保できない。
そのため、表面から厚さ方向に1.5mm位置の残留オーステナイトの体積分率を3.0〜20.0体積%とする。
残量オーステナイト量は、耐耐塩化物応力腐食割れを向上する観点から、好ましくは4.0体積%以上とし、より好ましくは5.0体積%以上とすることがよい。一方、残留オーステナイト量は、強度の低下抑制の観点から、20.0体積%以下とする。好ましくは15体積%以下とし、より好ましくは12.0体積%以下、10.0体積%以下又は8.0体積%以下としてもよい。
【0046】
残留オーステナイト量(体積分率)は、次の方法により測定する。
鋼板の表面から板厚方向に1.5mmの位置を観察面とする試験片(板厚方向1.5mm×幅方向25mm×長手圧延方向25mmとし、観察面は25mm角の面とする)を採取する。試験片について、X線回折測定にてBCC構造α相の(110)(200)(211)面とFCC構造γ相の(111)(200)(220)面の積分強度から残留オーステナイト相の体積分率を定量して求める。
【0047】
B−2.表面から厚さ方向に1.5mm位置の旧オーステナイト粒界上における隣り合う残留オーステナイト間の最大距離が12.5μm以下
塩化物応力腐食割れのき裂は、旧オーステナイト粒界を優先的に進行する。残留オーステナイトはき裂進展の抵抗となるため、旧オーステナイト粒界に密に存在する、すなわち隣接する残留オーステナイト間の距離を縮めることにより耐塩化物応力腐食割れ特性を高めることができる。
具体的には、旧オーステナイト粒界に隣接する残留オーステナイト間の最大距離を12.5μm以下とした場合、塩化物応力腐食割れが抑制される。そして、塩化物応力腐食割れは鋼板表面で起こる現象であるため、鋼板表層の残留オーステナイト間の最大距離が重要となる。
結晶粒が細かくなり粒界が増加すれば、進展経路が増加し、き裂進展が容易になることから、平均旧オーステナイト粒径(EBSD(電子線後方散乱回折法)測定で観察した旧オーステナイト粒の円相当径の平均値)を8μm超、9μm以上、又は10μm以上としてもよい。一方、低温靱性の向上のためことから、平均旧オーステナイト粒径を50m以下、40μm以下、又は30μm以下としてもよい。
同様な理由で、有効結晶粒径(EBSD(電子線後方散乱回折法)測定において、方位差15°以上の大角粒界で囲まれる組織単位の円相当径の平均値)を5.5μm超、6.0μm以上、又は7.0μm以上としてもよい。一方、低温靱性の向上のため、有効結晶粒径を40μm以下、30m以下、又は20μm以下としてもよい。
【0048】
ここで、
図1に、表面から厚さ方向に1.5mm位置の旧オーステナイト粒界上における隣り合う残留オーステナイト間の最大距離と応力腐食割れ(図中、「SCC」と表記)発生の有無との関係を示す。
図1に示すように、隣り合う残留オーステナイト間の最大距離が12.5μm以下であると応力腐食割れの発生が無くなる。
【0049】
そのため、表面から厚さ方向に1.5mm位置の旧オーステナイト粒界上における隣り合う残留オーステナイト間の最大距離を12.5μm以下とする。
耐応力腐食割れを向上する観点から、残留オーステナイト間の最大距離は、好ましくは10.0μm以下とし、より好ましくは9.0μm以下、8.0μm以下又は7.0μm以下とする。
ただし、残留オーステナイト同士が連結し粗大化し、母材靭性の低下を抑制する観点から、残留オーステナイト間の最大距離の下限は0μmであるが、0μmとなる場合は少ない。必要に応じて、その下限を1.0μm、2.0μm、3.0μm又は4.0μmとしてもよい。
【0050】
残留オーステナイト間の最大距離は、次の方法により測定する。
表面から板厚方向に1.5mm位置の鋼板における「圧延方向及び厚さ方向に垂直な断面」に対し、EBSD(電子線後方散乱回折法)測定により、旧オーステナイト粒界における残留γを観察した。旧オーステナイトの方位とフェライト相の方位間にはKurdjumov−Sachsの関係が成立しており、フェライト相の結晶方位を解析することによって変態前のオーステナイト相の結晶方位を求め、それらから旧オーステナイト粒界を識別した。その旧オーステナイト粒界上の各々の残留オーステナイトの中心間距離(旧オーステナイト粒の粒界を通る経路での距離)を算出した。観察視野は、150μm角で、20視野以上とした。
そして、20視野以上で、旧オーステナイト粒を観察し、隣接する各々の残留オーステナイトの中心間距離を測定し、その最大値を最大距離(つまり、測定した残留オーステナイト間の距離の最大値)を求める。
【0051】
ここで、隣接する残留オーステナイト間の最大距離の例示を
図6に示す。例えば、
図6に示すように、隣り合う残留オーステナイト間における旧オーステナイト粒の粒界が直線状の場合、距離Aを隣接する残留オーステナイト間の最大距離とする。また、隣り合う残留オーステナイト間における旧オーステナイト粒の粒界が屈曲している場合、距離Bと距離Cとの合計を隣接する残留オーステナイト間の最大距離とする。
図6中、100は残留オーステナイトを示し、102は旧オーステナイト粒の粒界を示している。
【0052】
なお、旧オーステナイト粒界の識別は、具体的には、文献(畑顕吾等著、「鋼のオーステナイト組織の再構築法の高精度化に向けた検討」、新日鉄住金技報、第404号、p24−30、(2016年))に記載された方法に従って実施する。
【0053】
A−3.表面から厚さ方向に厚さの1/4の位置における残留オーステナイトの円相当径が2.5μm以下
上述のように、残留オーステナイトはき裂進展の抵抗となるため、旧オーステナイト粒界に密に存在することは望ましい。しかし、密に存在しすぎた場合、残留オーステナイト同士が連結し粗大化しやすくなる。粗大な残留オーステナイトは不安定であり、靱性に悪影響である。
【0054】
ここで、
図2に、表面から厚さ方向に厚さの1/4の位置における残留オーステナイトの円相当径と−196℃でのシャルピー衝撃吸収エネルギー(図中「vE
−196」と表記)との関係を示す。
図2に示すように、残留オーステナイトの円相当径が2.5μm以下であると、シャルピー衝撃吸収エネルギー(3個の試験片の平均値)が150J以上となり、母材靭性が高まる。
【0055】
そのため、表面から厚さ方向に厚さの1/4の位置における残留オーステナイトの円相当径(平均円相当径)は、2.5μm以下とする。
母材靭性の低下を抑制する観点から、残留オーステナイトの円相当径は、好ましくは2.2μm以下とし、より好ましくは2.0μm以下又は1.8μm以下とする。
靱性向上のためには残留オーステナイトは微細な方が好ましいが、実際の円相当径から、残留オーステナイトの円相当径の下限を0.1μmとしてもよい。必要に応じて、残留オーステナイトの円相当径の下限を0.2μm、0.4μm又は0.5μmとしてもよい。
【0056】
残留オーステナイトの円相当径は、次の方法により測定する。なお、円相当径とは、測定対象物(残留オーステナイト)を円と見做し、対象物の面積から算出される円の直径である。
表面から板厚方向に1.5mm位置の鋼板における「圧延方向及び厚さ方向に垂直な断面」に対し、EBSD測定により、残留オーステナイトを観察し、各残留オーステナイトの円相当径を求める。観察視野は、150μm角で、20視野以上とした。そして、20視野以上観察した各々の残留オーステナイトの円相当径の平均値を求める。
【0057】
ここで、低温用タンクが、船舶上における揺れ又は巨大地震に対して十分な耐破壊特性を有するために、本開示の低温用鋼板は、母材強度(降伏強度が590〜800MPa、引張強度が690〜830MPa)、母材靭性(−196℃でのシャルピー衝撃吸収エネルギー(3個の試験片の平均値)が150J以上)を有することが好ましい。以上のような化学組成、金属組織を有する本開示の低温用Ni鋼板は、−60℃以下の低温領域、特に、−165℃付近の低温環境での靱性に優れ、さらには耐塩化物応力腐割れ特性に優れ、LPG、LNGなどの液化ガスを低温域で貯蔵する用途にも好適である。
【0058】
本開示の低温用Ni鋼板の降伏強度は、6000〜700MPaが好ましい。
本開示の低温用Ni鋼板の引張強度は、710〜800MPaが好ましい。
本開示の低温用Ni鋼板の「−196℃でのシャルピー衝撃吸収エネルギー」は、150J以上が好ましく、より好ましくは200J以上である。その上限を特に定める必要はないは、400J以下としてもよい。ただし、「−196℃でのシャルピー衝撃吸収エネルギー」は、3個の試験片によるシャルピー衝撃吸収エネルギーの平均値である。
【0059】
なお、降伏強度(YS)および引張強度(TS)は、次の通り測定する。鋼板幅方向一端からの距離が板幅の1/4である鋼板の位置からJIS Z2241(2011)附属書Dに定める4号試験片(板厚20mm超の場合)又は5号試験片(板厚20mm以下の場合)を採取する。採取した試験片を用いて、JIS Z2241(2011)に準拠して、降伏強度(YS)および引張強度(TS)を測定する。降伏強度(YS)および引張強度(TS)は、常温(25℃)で試験片2本を測定した平均値とする。
−196℃でのシャルピー衝撃吸収エネルギーは、次の通り測定する。鋼板幅方向一端からの距離が板幅の1/4である鋼板の位置からJIS Z2224(2005)のVノッチ試験片を3個採取する。採取した3個の試験片を用いて、JIS Z2224(2005)に準じて、−196℃の温度条件で、シャルピー衝撃試験を実施する。そして、その3個のシャルピー衝撃吸収エネルギーの平均値を、試験結果とする。
【0060】
また、本開示の低温用Ni鋼板の板厚は、4.5〜80mm以下が好ましく、6〜50mmがより好ましく、12〜30mmがさらに好ましい。
【0061】
本開示の低温用Ni鋼板の製造方法の一例ついて以下に説明する。鋼片には、鋳造後、均質化熱処理を施す。その後、鋼片を再加熱し熱間圧延を施したのち、所定の温度で熱処理し製造することができる(下記、工程1〜5参照)。以下、詳細に説明する。尚、熱間圧延に供する鋼片については、本開示の成分範囲であれば、格別にその鋳造条件を規定するものではなく、造塊−分塊スラブを鋼塊として用いてもよいし、連続鋳造スラブを用いてもよい。製造効率、歩留り及び省エネルギーの観点からは、連続鋳造スラブを用いることが好ましい。
【0062】
均質化熱処理工程(工程1)
鋼片を分塊圧延前に均質化のため加熱する。1200〜1350℃で10時間以上加熱することが好ましい。鋼片中の不純物元素が少なく、母材靭性が十分に確保できる場合には省略してもよい。
【0063】
熱間圧延前加熱処理工程(工程2)
鋼片を1000〜1250℃に加熱する。これにより組織粗大化を抑制しつつ圧延ロール負荷を低減させることができる。
【0064】
熱間圧延工程(工程3)
熱間圧延では、鋼片を粗圧延した後、仕上圧延する。粗圧延は、省略することもできる。熱間圧延の総圧下率は50%以上が好ましい。
熱間圧延は、600〜850℃の仕上圧延温度で終了することが好ましい。これにより変形抵抗を抑制しつつ、変形帯を積極的に組織中に導入し、組織を微細化させることができる。なお、仕上圧延温度とは、仕上圧延直後の鋼板の表面温度を指す。
【0065】
特に、仕上圧延の最終3パスにおいて歪を導入することにより、その後の熱処理工程において微細な残留オーステナイトを多量に析出できる。
仕上圧延最終3パスでの面圧(圧延時の反力)が重要となり、仕上圧延最終3パスにおける各パスの面圧から算出されるS(以下「最終面圧S」とも称する)が0.045tonf/mm以上のとき、残留オーステナイトを密に生成させることができる。
【0066】
ここで、
図3に、最終面圧Sと表面から厚さ方向に1.5mm位置の旧オーステナイト粒界上における隣り合う残留オーステナイト間の最大距離との関係を示す。
図3に示すように、最終面圧Sが0.045tonf/mm以上であると、隣り合う残留オーステナイト間の最大距離が12.5μm以下となる。その結果、耐塩化物応力腐食割れ特性を向上させることができる。
【0067】
よって、最終面圧Sは、0.045tonf/mm以上とする。一方、最終面圧Sが0.300を超える場合、圧延機の負荷荷重が高くなりすぎる。よって、最終面圧Sは0.300以下が好ましい。
【0068】
ここで、最終面圧Sは、式:S=S3+(1.2×S2)+(1.5×S1)から求められる。
式中、S3は最終パスから数えて3つ前のパスの面圧、S2は最終パスから2つ前のパスの面圧、S1は最終パスの面圧を示す。パスの面圧は、圧延時の荷重を鋼板幅で割った値(単位はtonf/mm)である。
【0069】
焼入処理工程(工程4)
仕上圧延後には、鋼板を冷却し焼入れ処理を行う。好ましくは、熱間圧延後に3℃/s以上の冷却速度で200℃以下まで冷却する工程、又は熱間圧延後に一旦150℃以下まで冷却して720℃点以上に再加熱してから、3℃/sec以上の冷却速度で200℃以下まで冷却する。これにより、焼入組織を得ながら、粗大炭化物の生成を抑制する。それに加え、微細な組織となり、表面から厚さ方向に1.5mm位置の残留オーステナイトを3.0体積%以上20.0体積%以下とすることができる。その結果、母材靭性が向上する。
冷却速度は、好ましくは5℃/sec以上である。また、冷却は、鋼板の表面及び裏面に水を噴射して実施することが好ましい。
【0070】
焼戻処理工程(工程5)
焼入処理後は、鋼板の焼戻処理を行う。焼戻処理では、好ましくは鋼板を640℃以下に加熱した後、1℃/sec以上の冷却速度で200℃以下まで冷却する。これにより母材靭性が向上する。
そして、焼戻時の昇温速度を大きくすることで微細な残留オーステナイトを多量に生成することができる。
【0071】
ここで、
図4に、焼戻時の昇温速度と表面から厚さ方向に厚さの1/4の位置における残留オーステナイトの円相当径との関係を示す。
図4に示すように、焼戻時の昇温速度を0.15℃/s以上とすると、残留オーステナイトの円相当径を2.5μm以下となる。その結果、耐塩化物応力腐食割れ特性を向上させることができる。
【0072】
よって、焼戻時の昇温速度は、0.15℃/s以上とする。一方、焼戻時の昇温速度が2℃/sを超える場合、残留オーステナイトが増加し、要求される引張強度下限の690MPaを確保できなくなる。よって、焼戻時の昇温速度は2℃/s以下とすることが好ましい。
【0073】
焼戻工程において、昇温速度を速くするには、例えば、熱処理炉の加熱帯での設定温度を上げる熱処理、又は誘導加熱装置を使った熱処理を採用することができる。このような方法で昇温速度を早くすることができるが、所定の温度を超えてはいない。このため、単にこのような方法を適用するだけではよくなく、昇温過程で鋼板の温度を厳密に制御する必要がある。
【0074】
なお、前述の工程4と工程5の間に、中間熱処理工程を実施してもよい。中間熱処理工程では、例えば、550〜720℃に、鋼板を加熱し、3℃/sec以上の冷却速度で200℃以下まで冷却する。これにより母材靭性が向上する。但し、工程5で十分な焼戻ができる場合は軟化し十分な母材靭性を確保できているため、中間熱処理工程は省略してもよい。
【実施例】
【0075】
以下、実施例により、本開示を更に詳しく説明する。
【0076】
表1に化学組成を示す43種類の鋼板を溶解し、表2に記載の製造条件にて、均質化熱処理(表中「均質化」と表記)、熱間圧延前加熱処理(表中「圧延前加熱」と表記)、熱間圧延(表中「熱延」と表記)、焼入処理(表中「焼入」と表記)、中間熱処理(表中「中間加熱」と表記)、焼戻処理(表中「焼戻」と表記)を行い、表2に示す板厚6〜80mmの鋼板を作製した。
ここで、均質化熱処理を実施する場合、均質化処理時間は、10〜49時間とした。
熱間圧延は、総圧下率65〜95%で実施した。なお、熱間圧延前のスラブ厚は240mmであり、総圧下率はスラブ厚と表2に示す板厚とから算出される。
表2中、「−」の表記は、処理を実施しないことを意味している。
【0077】
得られた鋼板について、既述の方法に従って、1)表面から厚さ方向に1.5mm位置の残留オーステナイトの体積分率(表中「残留γ体積分率」と表記)、2)表面から厚さ方向に1.5mm位置の旧オーステナイト粒界上における隣り合う残留オーステナイト間の最大距離(表中「残留γ間最大距離」と表記)、3)表面から厚さ方向に厚さの1/4の位置における残留オーステナイトの円相当径(表中「残留γ円相当径」と表記)を測定した。
【0078】
また、得られた鋼板の機械的特性を表3に示す。評価において、降伏強度(YS)は590MPa未満もしくは800MPaを超える場合、引張強度(TS)は690MPa未満もしくは830MPaを超える場合、−196℃でのシャルピー衝撃吸収エネルギー(vE−196)は、3本測定し、平均値が150J未満の場合を不合格とした。
なお、各鋼板の機械的特性は、既述の方法に従って測定した。
【0079】
得られた鋼板の最表面より、幅10mm、長さ75mm、厚さ1.5mmの応力腐食割れ試験片を採取した。試験片を研磨紙600番まで研磨し、
図5に示すような、4本のセラミック棒による四点曲げ試験治具にセットし590MPaの応力を付加した。
なお、試験面は鋼板の表面側の面である。次に試験面に単位面積あたりの付着塩分量が5g/m
2となるように塩化ナトリウム水溶液を塗布し、温度60℃、相対湿度80%RHの環境で腐食させた。試験期間は1000時間である。なお、この方法は、タンク内に塩が付着し鋼板表面に薄膜水が形成される環境を模擬した塩化物応力腐食割れ試験である。試験片表面に水溶液を塗布し、試験期間高温高湿炉で保持した。試験後の試験片より腐食生成物を物理的手法および化学的手法により除去し、腐食部断面を顕微鏡観察することにより割れ有無の評価をおこなった。
なお、ナイタールエッチングした500倍の光学顕微鏡写真(270μm×350μm)を20視野観察し、腐食による凹凸を考慮し、表面より50μm以上深さ方向に進展したものを割れ「あり」として不合格(表3中「NG」と表記)とし、表面より50μm以上深さ方向に進展したものを割れ「なし」とし合格(表3中「OK」と表記)とした。
ここで、
図5中、10は試験治具、12はセラミック棒、14は付着塩分、16は試験片を示す。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
【表3】
【0083】
表1〜3で、本開示例に係る低温用Ni鋼板は、母材強度、母材靭性、耐応力腐食割れ特性に優れており、低温材料として優れていることが分かる。
【0084】
これに対して、本開示で規定する条件を満足しない比較例では、母材強度、母材靭性、耐応力腐食割れ性において目的とする特性が得られないことが分かる。
所定の化学組成を有し、表面から厚さ方向に1.5mm位置の残留オーステナイトの体積分率が3.0〜20.0体積%であり、表面から厚さ方向に1.5mm位置の旧オーステナイト粒界上における隣り合う残留オーステナイト間の最大距離が12.5μm以下であり、表面から厚さ方向に厚さの1/4の位置における残留オーステナイトの円相当径が2.5μm以下である低温用ニッケル含有鋼板およびそれを用いた低温用タンク。