特許第6394855号(P6394855)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6394855制御装置および同装置を備えるステアリング装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6394855
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】制御装置および同装置を備えるステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20180913BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20180913BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20180913BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20180913BHJP
【FI】
   B62D6/00
   B62D101:00
   B62D113:00
   B62D119:00
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-102490(P2014-102490)
(22)【出願日】2014年5月16日
(65)【公開番号】特開2015-217794(P2015-217794A)
(43)【公開日】2015年12月7日
【審査請求日】2017年4月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】田代 崇
【審査官】 森本 康正
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−322557(JP,A)
【文献】 特開2010−058724(JP,A)
【文献】 特開2009−161099(JP,A)
【文献】 特開2006−282023(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/00− 6/10
B62D 101/00−137/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の左前輪および右前輪のそれぞれを独立して転舵可能なアクチュエータを有するステアリング装置の制御装置であって、
前記車両の操舵部材の操舵角に基づいて演算される目標転舵角と前記左前輪および前記右前輪の一方の実際の転舵角との偏差である転舵角偏差量が閾値以上のとき、前記左前輪および前記右前輪の他方を、前記左前輪および前記右前輪の一方のトー角の変化方向と同じ方向に転舵させるために前記アクチュエータを制御する転舵調整部を備え、
前記転舵調整部は、前記左前輪と前記右前輪とのトーイン量を減少させ、かつ、前記トーイン量が「0」よりも大きくなるように前記左前輪および前記右前輪の他方を転舵させるために前記アクチュエータを制御する
ステアリング装置の制御装置。
【請求項2】
車両の左前輪および右前輪のそれぞれを独立して転舵可能なアクチュエータを有するステアリング装置の制御装置であって、
前記車両の操舵部材の操舵角に基づいて演算される目標転舵角と前記左前輪および前記右前輪の一方の実際の転舵角との偏差である転舵角偏差量が閾値以上のとき、前記左前輪および前記右前輪の他方を、前記左前輪および前記右前輪の一方のトー角の変化方向と同じ方向に転舵させるために前記アクチュエータを制御する転舵調整部を備え、
前記ステアリング装置は、前記操舵部材に反力トルクを付与する反力モータを備え、前記左前輪および前記右前輪の転舵角と操舵部材の操舵角とを互いに独立して変化させる構成であり、
当該制御装置は、前記転舵角偏差量が前記閾値以上のとき、前記操舵部材が特定の操舵位置に保持するために前記反力モータを制御する
ステアリング装置の制御装置。
【請求項3】
前記特定の操舵位置は、中立位置である
請求項2に記載のステアリング装置の制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の制御装置を備えるステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置および同装置を備えるステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のステアリング装置の一例として、各転舵輪を転舵させるための転舵アクチュエータが各転舵輪に設けられ、各転舵輪の転舵角を独立して制御することが可能な車両用転舵装置が知られている。この車両用転舵装置は、各転舵輪がラックシャフトおよびタイロッドにより機械的に連結されていない。なお、特許文献1は、従来の車両用転舵装置の一例を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−67260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の車両用転舵装置では、車両走行中において例えば縁石等の障害物に左前輪の車幅方向の外側部が衝突した場合、左前輪および右前輪がラックシャフト等で機械的に連結されていないため、車幅方向の内方に向けて左前輪のトー角が増加する一方、右前輪のトー角が変化しない。このため、トーイン量が大きくなりやすい。そして、このトーイン量が過度に大きくなった場合、左前輪の横力が大きくなり、車両が滑るおそれがある。なお、このような問題は、右前輪が障害物に衝突して右前輪が車幅方向の内方に向けてトー角が増加するときも同様に生じる。
【0005】
本発明の目的は、左前輪および右前輪の一方が障害物に衝突したときに車両が滑ることを抑制することが可能な制御装置および同装置を備えるステアリング装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
〔1〕本ステアリング装置の制御装置の独立した一形態によれば、車両の左前輪および右前輪のそれぞれを独立して転舵可能なアクチュエータを有するステアリング装置の制御装置であって、前記車両の操舵部材の操舵角に基づいて演算される目標転舵角と前記左前輪および前記右前輪の一方の実際の転舵角との偏差である転舵角偏差量が閾値以上のとき、前記左前輪および前記右前輪の他方を、前記左前輪および前記右前輪の一方のトー角の変化方向と同じ方向に転舵させるために前記アクチュエータを制御する転舵調整部を備える。
【0007】
上記構成によれば、左前輪が障害物に衝突することにより左前輪のトー角がトーイン方向に変更される場合、障害物に衝突していない右前輪が左前輪のトー角の変化方向と同じ方向、すなわちトーアウト方向に転舵する。また、右前輪が障害物に衝突することにより右前輪のトー角がトーイン方向に変更される場合、障害物に衝突していない左前輪が右前輪のトー角の変化方向と同じ方向、すなわちトーアウト方向に転舵する。このように、左前輪の転舵角と右前輪の転舵角との差を小さくすることにより過度なトーイン状態となることが抑制される。したがって、左前輪および右前輪のトーイン量が大きいことに起因して車両が滑ることが抑制される。
【0008】
〔2〕前記制御装置に従属した一形態によれば、前記転舵調整部は、前記左前輪と前記右前輪とのトーイン量を減少させ、かつ、前記トーイン量が「0」よりも大きくなるように前記左前輪および前記右前輪の他方を転舵させるために前記アクチュエータを制御する。
【0009】
上記構成によれば、例えば、車両の右旋回時に左前輪が縁石等の障害物に衝突して左前輪および右前輪がトーインとなる場合、転舵調整部により左前輪および右前輪のトーイン量を小さくするものの、トーイン量を「0」よりも大きくすることにより、右前輪が左前輪の外側部を障害物に押し付ける力が車両に作用する。このため、左前輪の外側部を障害物に擦り付けながら車両が走行するため、車両の挙動が安定する。
【0010】
〔3〕前記制御装置に従属した一形態によれば、前記ステアリング装置は、前記操舵部材に反力トルクを付与する反力モータを備え、前記左前輪および前記右前輪の転舵角と操舵部材の操舵角とを互いに独立して変化させる構成であり、当該制御装置は、前記転舵角偏差量が前記閾値以上のとき、前記操舵部材が特定の操舵位置に保持するために前記反力モータを制御する。
【0011】
左前輪および右前輪の一方が縁石等の障害物に衝突したとき、その衝撃により運転者が意図しない方向に操舵部材を操作してしまうおそれがある。
この点、上記制御装置によれば、転舵角偏差量が閾値以上のときに反力モータが操舵部材を特定の操舵位置に保持するため、左前輪および右前輪の一方が障害物に衝突したときに操舵部材が運転者の意図しない操作により操舵部材が動くことが抑制される。このため、運転者に安心感を与えることができる。
【0012】
〔4〕前記制御装置に従属した一形態によれば、前記特定の操舵位置は、中立位置である。
上記制御装置によれば、左前輪および右前輪の一方が縁石等の障害物に衝突した場合に操舵部材が中立位置に固定されるため、運転者が車両のシートに背中を押し付けた姿勢になりやすい。このため、左前輪および右前輪の一方が縁石等の障害物に衝突した場合でも運転者がその衝突による衝撃に耐えやすくなる。
【0013】
〔5〕本ステアリング装置の独立した一形態によれば、前記制御装置を備える。
【発明の効果】
【0014】
本制御装置および本ステアリング装置によれば、左前輪および右前輪の一方が障害物に衝突したときに車両が滑ることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態の車両の構成図。
図2】実施形態の制御装置およびその周辺のブロック図。
図3】(a)、(b)は左前輪および右前輪のトー角、トーイン、および、トーイン量を説明するための平面図。
図4】実施形態の制御装置が実行する選択制御の処理手順を示すフローチャート。
図5】車両の右旋回時の異常時転舵制御の車両の走行状況を示す模式図。
図6】(a)は車両の右旋回時の通常時転舵制御の車両の走行状況を示す模式図、(b)は左前輪およびその周辺の拡大図。
図7】変形例の制御装置の一部のブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1を参照して、車両1の構成について説明する。
車両1は、転舵輪である左前輪80Lおよび右前輪80Rと、駆動輪である左後輪および右後輪を駆動させるエンジン(図示略)と、操舵部材の一例としてのステアリングホイール21の操作により左前輪80Lおよび右前輪80Rを転舵させるステアリング装置10とを備えている。また、車両1は、車速、エンジン回転数等を表示するディスプレイ装置90と、音声により運転者に報知する報知部100とを備えている。本実施形態では、左前輪80Lおよび右前輪80Rがラックシャフト等により互いに機械的に連結されていない。
【0017】
ステアリング装置10は、ステアリングホイール21を含む操舵機構20と、左前輪80Lおよび右前輪80Rを転舵させる転舵機構30と、操舵機構20と転舵機構30とを制御する制御装置40とを有している。ステアリング装置10は、操舵機構20と転舵機構30とが機械的に連結されていないステアバイワイヤ方式である。
【0018】
操舵機構20は、ステアリングホイール21に接続されたステアリングシャフト22、および、ステアリングホイール21の操作に際して操舵反力トルクを付与する反力モータ23を有している。操舵機構20は、ステアリングホイールと転舵機構等とが機械的に結合したステアリング装置である機械式ステアリング装置のステアリングホイールの操作の際に生じる操舵反力を模擬するように反力モータ23による反力トルクを付与することができる。
【0019】
転舵機構30は、左前輪80Lおよび右前輪80Rが独立して転舵可能な機構であり、左前輪80Lを転舵させるアクチュエータの一例としての左前輪転舵駆動部31L、および、右前輪80Rを転舵させるアクチュエータの一例としての右前輪転舵駆動部31Rを有している。左前輪転舵駆動部31Lおよび右前輪転舵駆動部31Rは、機械的に分離されている。
【0020】
左前輪転舵駆動部31Lは、左前輪80Lを転舵させる駆動源となる左前輪転舵モータ32L、左前輪80Lにナックルを介して接続されたタイロッド34L、および、左前輪転舵モータ32Lとタイロッド34Lとに連結され、左前輪転舵モータ32Lの回転をタイロッド34Lの長手方向の移動に変換する運動変換機構33Lを有している。また、右前輪転舵駆動部31Rは、左前輪転舵駆動部31Lと同様に、右前輪転舵モータ32R、タイロッド34R、および、運動変換機構33Rを有している。なお、運動変換機構33L,33Rの一例は、ボールねじ機構である。
【0021】
制御装置40は、車両1に設けられた各種のセンサの検出結果を運転者の要求あるいは走行状態を示す情報として取得し、これら取得される各種の情報に応じて、反力モータ23、左前輪転舵モータ32L、および、右前輪転舵モータ32Rを制御する。各種のセンサとしては、例えば、トルクセンサ71、操舵角センサ72、車速センサ73、および、転舵角センサ74L,74Rが挙げられる。トルクセンサ71は、ステアリングシャフト22に加えられたトルクである操舵トルクTSを検出する。操舵角センサ72は、ステアリングホイール21の回転角である操舵角θsを検出する。車速センサ73は、車速VSを検出する。転舵角センサ74Lは、タイロッド34Lの長手方向の変位量を検出する変位センサであり、検出された変位量に基づいて左前輪80Lの転舵角θwlを検出する。転舵角センサ74Rは、タイロッド34Rの長手方向の変位量を検出する変位センサであり、検出された変位量に基づいて右前輪80Rの転舵角θwrを検出する。なお、本実施形態では、操舵角センサ72が検出する操舵角θs、および、転舵角センサ74L,74Rが検出する転舵角θwl,θwrは、中立位置を「0」とし、中立位置から右旋回方向の角度を正とし、中立位置から左旋回方向の角度を負とする。
【0022】
図2を参照して、制御装置40の詳細な構成について説明する。
まず、制御装置40のハードウェア構成について説明する。
制御装置40は、左前輪転舵駆動部31Lと右前輪転舵駆動部31Rとを制御する転舵ECU50、および、反力モータ23を制御する操舵ECU60を有している。
【0023】
転舵ECU50は、左前輪転舵モータ32Lを駆動するモータ駆動回路58L、右前輪転舵モータ32Rを駆動するモータ駆動回路58R、ならびに、モータ駆動回路58L,58Rのそれぞれにモータ駆動信号を出力するマイコン51を有している。転舵ECU50は、操舵角センサ72、車速センサ73、および、転舵角センサ74L,74Rの検出結果をそれぞれ定められたサンプリング周期で取り込む。
【0024】
操舵ECU60は、反力モータ23を駆動するモータ駆動回路66、および、モータ駆動回路66にモータ駆動信号を出力するマイコン61、を有している。操舵ECU60は、トルクセンサ71、操舵角センサ72、および、車速センサ73の検出結果をそれぞれ定められたサンプリング周期で取り込む。
【0025】
次に、転舵ECU50のマイコン51の機能的な構成について、マイコン51が実行する転舵制御とともに説明する。
転舵ECU50のマイコン51は、記憶部(図示略)に格納された制御プログラムを実行することによって実現される各種の演算処理部を有している。
【0026】
マイコン51は、演算処理部として、目標転舵角設定部52、電流指令値演算部53、モータ駆動信号生成部54、転舵角偏差量演算部55、転舵異常検出部56、および、転舵量演算部57を有している。
【0027】
マイコン51は、左前輪80Lおよび右前輪80R(ともに図1参照)に転舵異常が発生していないとき、運転者によるステアリングホイール21(図1参照)の操作および車速VSに応じて、各転舵モータ32L,32Rにより各前輪80L,80Rを互いに同じ転舵方向かつ同じ転舵量で転舵させる通常時転舵制御を実行する。また、マイコン51は、左前輪80Lおよび右前輪80Rの一方に転舵異常が発生しているとき、左前輪80Lおよび右前輪80Rのうちの転舵異常が発生していない他方の転舵角を、左前輪80Lおよび右前輪80Rの一方の転舵異常となる転舵角に合わせるように転舵させる異常時転舵制御を実行する。
【0028】
なお、図3(a)および(b)に示されるように、転舵異常とは、左前輪80Lのトー角θtlが車幅方向の内方(トーイン方向)に向けて増加し、または、右前輪80Rのトー角θtrがトーイン方向に向けて増加し、左前輪80Lと右前輪80Rとがトーインとなる量(以下、「トーイン量」)が過度に大きくなる状態を示す。また、トーインは、図3に示されるように、左前輪80Lの前端部と右前輪80Rの前端部との間の寸法DFが左前輪80Lの後端部と右前輪80Rの後端部との間の寸法DRよりも小さい状態を示す。そして、トーイン量は、寸法DRと寸法DFとの差(DR−DF)にて示される量を示す。なお、トーイン量が過度に大きくなる要因の一例として、左前輪80L(右前輪80R)の車幅方向の外側部81L(81R)が縁石等の障害物に衝突することが挙げられる。
【0029】
マイコン51は、転舵角偏差量演算部55の演算結果に基づいて転舵異常検出部56により左前輪80Lおよび右前輪80Rの一方に転舵異常が発生したか否かを検出する。
転舵角偏差量演算部55は、目標転舵角設定部52により演算された目標転舵角θwtと、転舵角センサ74Lにより検出された転舵角θwlとの偏差である転舵角偏差量ΔWlを演算し、上記目標転舵角θwtと転舵角センサ74Rにより検出された転舵角θwrとの偏差である転舵角偏差量ΔWrを演算する。なお、目標転舵角θwtは、ステアリングホイール21の操作に基づく左前輪80Lおよび右前輪80Rの目標となる転舵角を示す。
【0030】
転舵異常検出部56は、転舵角偏差量演算部55により演算された転舵角偏差量ΔWlの絶対値と予め設定された閾値Thとの比較、および、転舵角偏差量演算部55により演算された転舵角偏差量ΔWrの絶対値と上記閾値Thとの比較に基づいて、左前輪80Lおよび右前輪80Rに転舵異常が発生しているか否かを判定する。なお、閾値Thは、1サンプリング周期における目標転舵角θwtと転舵角θwl(転舵角θwr)との差の絶対値の上限値に安全率を加味した値であり、試験等により予め設定される。閾値Thの一例は、「10°」である。
【0031】
転舵異常検出部56は、転舵角偏差量ΔWlの絶対値が閾値Thよりも大きいとき、左前輪80Lに転舵異常が発生していると判定し、転舵角偏差量ΔWrの絶対値が閾値Thよりも大きいとき、右前輪80Rに転舵異常が発生していると判定する。そして、転舵異常検出部56は、左前輪80Lに転舵異常が発生した旨の出力信号Cl、または、右前輪80Rに転舵異常が発生した旨の出力信号Crを転舵量演算部57、目標転舵角設定部52、操舵ECU60、ディスプレイ装置90、および、報知部100に出力する。
【0032】
(通常時転舵制御)
図2に示されるように、マイコン51は、通常時転舵制御において、目標転舵角設定部52、電流指令値演算部53、および、モータ駆動信号生成部54の順に演算処理することによりモータ駆動信号Swl,Swrを生成する。
【0033】
具体的には、目標転舵角設定部52は、操舵角θsと目標転舵角θwtとの関係を車速VSに応じて規定する三次元マップ(図示略)を用いて車速VSおよび操舵角θsから目標転舵角θwtを設定する。このマップは、操舵角θsが大きくなるにつれて、または、車速VSが小さくなるにつれて目標転舵角θwtが大きくなる関係を有している。
【0034】
次に、電流指令値演算部53は、転舵角センサ74L,74Rにより検出された転舵角θwl,θwrと目標転舵角θwtとの偏差量をそれぞれ演算し、これら演算された偏差量に基づいて左前輪転舵モータ32Lに供給する電流指令値Itl、および、右前輪転舵モータ32Rに供給する電流指令値Itrを演算する。
【0035】
最後に、モータ駆動信号生成部54は、電流指令値Itl、および、モータ駆動回路58Lに設けられた電流センサ59Lにより検出された電流値Ilを取り込み、これら取り込まれる情報に基づいて電流値Ilが電流指令値Itlに追従するように電流のフィードバック制御を行う。そして、モータ駆動信号生成部54は、電流指令値Itlと電流値Ilとの偏差を求め、その偏差をなくすようなモータ駆動信号Swlを生成する。また同様に、モータ駆動信号生成部54は、電流指令値Itr、および、モータ駆動回路58Rに設けられた電流センサ59Rにより検出された電流値Irを取り込み、これら取り込まれる情報に基づいて同様に電流のフィードバック制御を行い、モータ駆動信号Swrを生成する。モータ駆動信号生成部54は、これらモータ駆動信号Swl,Swrをモータ駆動回路58L,58Rに出力する。
【0036】
(異常時転舵制御)
以下では、一例として左前輪80Lに転舵異常が発生した場合について説明する。
マイコン51は、異常時転舵制御において、転舵角偏差量演算部55、転舵量演算部57、目標転舵角設定部52、電流指令値演算部53、および、モータ駆動信号生成部54の順に演算処理することにより、転舵異常が発生していない右前輪80Rを転舵させる右前輪転舵モータ32Rのモータ駆動信号Swrbを生成する。一方、マイコン51は、異常時転舵制御において、左前輪80Lに転舵異常が発生したときの転舵角(以下、「異常転舵角θwlb」)に維持するように、左前輪80Lを転舵させる左前輪転舵モータ32Lのモータ駆動信号Swlbを生成する。なお、マイコン51が異常時転舵制御を実行するとき、転舵角偏差量演算部55、転舵量演算部57、目標転舵角設定部52、電流指令値演算部53、および、モータ駆動信号生成部54が「転舵調整部」に相当する。
【0037】
転舵量演算部57は、転舵異常検出部56の出力信号Clが入力されたとき、転舵角偏差量ΔWlおよび転舵角偏差量ΔWrに基づいて、目標転舵量Wtを演算する。この目標転舵量Wtは、左前輪80Lと右前輪80Rとを僅かにトーインとするものであり、そのトーイン量を「0」よりも僅かに大きい規定値Wcにするための転舵量であり、角度で表示される。目標転舵量Wtは、転舵角偏差量ΔWlと転舵角偏差量ΔWrとの差と、規定値Wcとの差(Wc−ΔWl+ΔWr)として演算される。そして転舵量演算部57は、目標転舵量Wtを目標転舵角設定部52に出力する。なお、規定値Wcは、左前輪80Lと右前輪80Rとを僅かにトーインさせるための値である。規定値Wcの一例は、「1°」である。すなわち、規定値Wcは、左前輪80Lのトー角θtlと右前輪80Rのトー角θtrとの合計がトーイン方向において「1°」となる値である。
【0038】
次に、目標転舵角設定部52は、転舵異常検出部56の出力信号Clが入力されたとき、右前輪80Rの転舵角θwrに目標転舵量Wtを加算することにより目標転舵角θwtrbを設定する。上記転舵角θwrに目標転舵量Wtを加算する理由は、次のとおりである。すなわち、左前輪80Lが転舵異常となるとき、左前輪80Lは車幅方向の内方すなわち右旋回方向に転舵した状態となる。このため、右前輪80Rも同様に右旋回方向すなわち右前輪80Rが車幅方向の外方となるように転舵させる必要がある。このため、右旋回方向の転舵角は正の値となるため、目標転舵量Wtは正の値となる。したがって、右前輪80Rの転舵角θwrに目標転舵量Wtを加算することで目標転舵角θwtrbが設定される。
【0039】
また、目標転舵角設定部52は、異常転舵角θwlbを目標転舵角θwtlbとして設定する。
そして、電流指令値演算部53は、目標転舵角θwtrbおよび転舵角θwrに基づいて電流指令値Itrbを演算し、転舵角θwlおよび目標転舵角θwtlbに基づいて転舵角θwlを目標転舵角θwtlbに維持するための電流指令値Itlbを演算する。そして、モータ駆動信号生成部54は、モータ駆動回路58Rの電流センサ59Rにより検出された電流値Irと電流指令値Itrbとの偏差をなくすようなモータ駆動信号Swrbを生成し、モータ駆動回路58Rに出力する。またモータ駆動信号生成部54は、モータ駆動回路58Lの電流センサ59Lにより検出された電流値Ilと電流指令値Itlbとの偏差をなくすようなモータ駆動信号Swlbを生成し、モータ駆動回路58Lに出力する。
【0040】
上述のとおり、左前輪80Lに転舵異常が発生したときの異常時転舵制御について説明したが、右前輪80Rに転舵異常が発生したときの異常時転舵制御についても同様の処理手順で左前輪転舵モータ32Lのモータ駆動信号Swlbを生成する。すなわち、マイコン51は、左前輪転舵モータ32Lが左前輪80Lを転舵させるための目標転舵角θwtlbを設定し、目標転舵角θwtlbおよび転舵角θwlから電流指令値Itlbを演算してモータ駆動信号Swlbを生成する。また、マイコン51は、右前輪80Rに転舵異常が発生したときの転舵角である異常転舵角θwrbを目標転舵角θwtrbとして設定し、転舵角θwrおよび目標転舵角θwtrbから転舵角θwrを目標転舵角θwtrbに維持するための電流指令値Itrbを演算してモータ駆動信号Swrbを生成する。
【0041】
次に、操舵ECU60のマイコン61の機能的な構成について、マイコン61が実行する操舵制御とともに説明する。
操舵ECU60のマイコン61は、記憶部(図示略)に格納された制御プログラムを実行することによって実現される各種の演算処理部を有している。
【0042】
マイコン61は、演算処理部として、目標モータトルク演算部62、電流指令値演算部63、モータ駆動信号生成部64、および、操舵量演算部65を有している。
マイコン61は、左前輪80Lおよび右前輪80Rに転舵異常が発生していないとき、操舵角θsおよび車速VSに基づいて、ステアリングホイール21(図1参照)の操作に適切な操舵反力トルクがステアリングホイール21に付与されるように反力モータ23を制御する通常時操舵制御を実行する。また、マイコン61は、左前輪80Lおよび右前輪80Rの一方に転舵異常が発生しているとき、ステアリングホイール21を中立位置に操作し、ステアリングホイール21を中立位置に保持するように反力モータ23を制御する異常時操舵制御を実行する。
【0043】
(通常時操舵制御)
マイコン61は、通常時操舵制御において、目標モータトルク演算部62、電流指令値演算部63、および、モータ駆動信号生成部64の順に演算処理することにより、反力モータ23を制御するモータ駆動信号Scを生成する。
【0044】
具体的には、目標モータトルク演算部62は、操舵角θsと目標モータトルクTctとの関係を車速VSに応じて規定する三次元マップを用いて目標モータトルクTctを演算する。なお、三次元マップは、操舵角θsおよび車速VSが大きくなるにつれて目標モータトルクTctが大きくなる関係を示している。
【0045】
次に、電流指令値演算部63は、トルクセンサ71により検出された操舵トルクTSと目標モータトルクTctとの偏差量を演算し、この演算された偏差量に基づいて反力モータ23に供給する電流指令値Itcを演算する。
【0046】
最後に、モータ駆動信号生成部64は、電流指令値Itc、および、モータ駆動回路66に設けられた電流センサ67により検出された電流値Icを取り込み、これら取り込まれる情報に基づいて電流値Icが電流指令値Itcに追従するように電流のフィードバック制御を行う。そして、モータ駆動信号生成部64は、電流指令値Itcと電流値Icとの偏差を求め、その偏差をなくすようにモータ駆動信号Scを生成し、モータ駆動回路66に出力する。
【0047】
(異常時操舵制御)
マイコン61は、転舵異常検出部56の出力信号Cl,Crの一方が入力されたとき、異常時操舵制御を実行する。
【0048】
マイコン61は、異常時操舵制御において、操舵量演算部65、電流指令値演算部63、および、モータ駆動信号生成部64の順に演算処理することにより、反力モータ23のモータ駆動信号Scbを生成する。このモータ駆動信号Scbにより反力モータ23が制御されるため、反力モータ23によりステアリングホイール21が回転して中立位置に移動する。
【0049】
具体的には、操舵量演算部65は、ステアリングホイール21が中立位置までに位置するまでの操舵量を演算する。詳細には、操舵量演算部65は、操舵角センサ72により検出された操舵角θsと中立位置に対応する操舵角との偏差を演算し、これを目標操舵量Stとして電流指令値演算部63に出力する。
【0050】
次に、電流指令値演算部63は、目標操舵量Stと、目標操舵量Stに対して反力モータ23に供給する電流指令値Itbとの関係を示すマップを用いて、目標操舵量Stから電流指令値Itbを演算する。このマップは、目標操舵量Stが大きくなるにつれて電流指令値Itbが大きくなる関係を示している。
【0051】
そして、モータ駆動信号生成部64は、モータ駆動回路66の電流値Icと電流指令値Itbとの電流のフィードバック制御によりモータ駆動信号Scbを生成し、モータ駆動回路66に出力する。これにより、反力モータ23は、モータ駆動信号Scbによりモータ駆動回路66が動作することによりステアリングホイール21を中立位置に向けて動作させる。このため、運転者がステアリングホイール21の操作によらず、ステアリングホイール21が中立位置に操舵される。
【0052】
そして、マイコン61は、反力モータ23によりステアリングホイール21が中立位置に位置したとき、保舵するために必要な目標モータトルクを演算する。マイコン61は、通常時操舵制御と同様に、目標モータトルク演算部62、電流指令値演算部63、および、モータ駆動信号生成部64の順に演算処理する。一方、マイコン61は、通常時操舵制御に対して目標モータトルク演算部62による目標モータトルクの演算方法が異なる。
【0053】
すなわち、通常時操舵制御においては、運転者がステアリングホイール21を操作するときに適切な操舵反力トルクが付与されるように目標モータトルクTctを演算する。一方、異常時操舵制御においては、運転者がステアリングホイール21を操作するとき、その操作に対してステアリングホイール21が中立位置に保持可能な目標モータトルクTckを演算する。
【0054】
具体的には、目標モータトルク演算部62は、運転者がステアリングホイール21を操作することによりステアリングシャフト22に入力した操舵トルクTSに応じて、この操舵トルクTSとは反対方向の操舵トルクとなるように目標モータトルクTckを演算する。そして、マイコン61は、電流指令値演算部63によりこの目標モータトルクTckに基づいて電流指令値Itkを演算し、モータ駆動信号生成部64により電流指令値Itkと電流センサ67により検出されたモータ駆動回路66の電流値Icとの偏差をなくすようなモータ駆動信号Sckを生成する。これにより、操舵トルクTSを打ち消すようなトルクを反力モータ23がステアリングシャフト22に付与することによりステアリングホイール21が中立位置に保持される。
【0055】
上記のように構成された制御装置40は、車両1の走行中において、通常時操舵制御および通常時転舵制御の組み合わせと、異常時操舵制御および異常時転舵制御の組み合わせとを選択する選択制御を実行する。
【0056】
図4を参照して、選択制御の処理手順について説明する。なお、以降の説明において、符号が付された車両1の各構成要素は、図1および図2に記載された車両1の各構成要素を示す。
【0057】
制御装置40は、まずステップS1において、転舵異常検出部56により左前輪80Lおよび右前輪80Rの一方に転舵異常が発生しているか否かを判定する。
制御装置40は、左前輪80Lおよび右前輪80Rの一方に転舵異常が発生していないと判定したとき(ステップS1:NO)、ステップS2において、操舵ECU60が通常時操舵制御を実行し、ステップS3において、転舵ECU50が通常時転舵制御を実行する。
【0058】
一方、制御装置40は、左前輪80Lおよび右前輪80Rの一方に転舵異常が発生したと判定したとき(ステップS1:YES)、ステップS4において、操舵ECU60が異常時操舵制御を実行し、ステップS5において、転舵ECU50が異常時転舵制御を実行する。
【0059】
また、左前輪80Lおよび右前輪80Rの一方に転舵異常が発生したとき、左前輪80Lおよび右前輪80Rの一方に転舵異常が発生した旨を運転者に認識させる必要がある。
そこで、制御装置40は、ステップS6において、転舵異常検出部56の出力信号Cl,Crをディスプレイ装置90および報知部100に出力する。これにより、ディスプレイ装置90は、出力信号Cl,Crに基づいて、ウォーニングインジケータランプ(図示略)を点灯することにより左前輪80Lおよび右前輪80Rに転舵異常が発生したことを運転者に報知する。また報知部100は、出力信号Cl,Crに基づいて、運転者の操作とは関係なくステアリングホイール21が制御される自動操舵になる旨をブザーまたは音声案内により運転者に報知する。また報知部100は、音声案内にて運転者にブレーキ操作を行うように指示する。
【0060】
このように、異常時操舵制御および異常時転舵制御が実行されているとき、運転者は車両1に異常が発生していることを認識し、さらに報知部100でブレーキ操作が指示されるため、車両1を停止するためにブレーキ操作を行う。そして、車両1が停止したとき、異常時操舵制御および異常時転舵制御を解除する。
【0061】
すなわち、制御装置40は、ステップS7において、車速VSが「0」か否か、すなわち車両1が停車したか否かを判定する。制御装置40は、ステップS7において、車速VSが「0」のとき、すなわち車両1が停車したと判定したとき(ステップS7:YES)、ステップS8において、異常時転舵制御および異常時操舵制御から通常時転舵制御および通常時操舵制御に変更する。一方、制御装置40は、ステップS7において、車速VSが「0」ではないとき、すなわち車両1が走行を維持していると判定したとき(ステップS7:NO)、ステップS4に移行する。これにより、車速VSが「0」となるまで異常時転舵制御および異常時操舵制御が維持される。
【0062】
図5および図6を参照して、車両1の左前輪80Lに転舵異常が発生したときの車両1の挙動についてその作用効果とともに説明する。なお、車両1の左前輪80Lの転舵異常は、車両1が右旋回しているときに左前輪80Lが車道と歩道とを区画する縁石CBに衝突したことに起因して発生したとする。
【0063】
図6(a)に示されるように、車両1の右旋回時に左前輪80Lの外側部81Lが縁石CBに衝突したときに転舵ECU50が通常時転舵制御を維持し、操舵ECU60が通常時操舵制御を維持したとした場合、左前輪80Lが車幅方向の内方(トーイン方向)に向けてトー角θtl(図6(b)参照)が増加するように変更してしまう。一方、右前輪80Rのトー角θtl(図6では図示略)は増加しない、すなわち右前輪80Rは転舵角θwrが維持されている。このため、左前輪80Lおよび右前輪80Rのトーイン量が過度に増加し、左前輪80Lに横力が作用して車両1が図中の一点鎖線の矢印により示される左旋回方向に滑る(スピンする)場合がある。
【0064】
これに対して、本実施形態の車両1は、図5に示されるように、左前輪80Lの外側部81Lが縁石CBに衝突したとき、転舵ECU50により異常時転舵制御が実行される。これにより、右前輪80Rが右旋回方向となる車幅方向の外方(トーアウト方向)に転舵する、すなわち右前輪80Rが転舵角θwrから目標転舵角θwtrbとなるように転舵するため、左前輪80Lと右前輪80Rとのトーイン量が減少する。このため、車両1に左旋回方向へ回転しようとする力が小さくなる。したがって、車両1は、図中の一点鎖線の矢印により示されるように、左旋回方向に車両1が滑ることが抑制されて右旋回方向に湾曲した走行路に沿って走行する。
【0065】
また、異常時転舵制御により、左前輪80Lおよび右前輪80Rのトーイン量は減少するものの、左前輪80Lおよび右前輪80Rのトーイン量が「0」よりも僅かに大きい。このため、右前輪80Rが車両1を左旋回させる力が車両1に僅かに作用することにより、車両1は、左前輪80Lの外側部81Lを縁石CBに押し付けながら走行する。このため、車両1の挙動が安定しやすい。
【0066】
また、例えば左前輪80Lの外側部81Lが縁石に衝突するときに車体に加えられる衝撃によりステアリングホイール21が運転者の意図しない方向に回転するおそれがある。また、車体加えられた衝撃が運転者にも伝わるため、運転者は、ステアリングホイール21を把持しているとき、意図しない方向にステアリングホイール21を操作してしまうおそれがある。
【0067】
そこで、本実施形態の操舵ECU60は、異常時操舵制御を実行することにより、ステアリングホイール21が中立位置に移動し、その位置にてステアリングホイール21が保持される。このため、車体の振動に起因してステアリングホイール21が回転することが抑制される。また、運転者がステアリングホイール21を操作しようとしても反力モータ23がその操作する力に抗してステアリングホイール21を中立位置に維持させる。このため、運転者の意図しない方向に操作されること、および車体の振動に起因して運転者が意図しない方向にステアリングホイール21を操作してしまうことが抑制される。また、ステアリングホイール21が中立位置に保持されるため、左前輪80Lおよび右前輪80Rの一方に転舵異常が発生したときに車両1の車体に振動が加えられたとき、運転者が車両のシート(図示略)に背中を押し付けられた姿勢になりやすい。このため、車体の振動に対して運転者がシートにより支持されているため、車体の振動に起因して運転者がシートに対して動くことが抑制される。したがって、運転者に安心感を与えることができる。
【0068】
なお、本制御装置および本ステアリング装置が取り得る具体的形態は、上記実施形態に示された内容に限定されない。本制御装置および本ステアリング装置は、例えば、以下に示される上記実施形態の変形例の形態を取り得る。
【0069】
・変形例の操舵ECU60は、異常時操舵制御において、左前輪80Lおよび右前輪80Rの一方に転舵異常が発生したとき、中立位置以外の特定の操舵位置でステアリングホイール21を保持する。
【0070】
・変形例の操舵ECU60は、異常時操舵制御において、ステアリングシャフト22の回転を機械的に規制するステアリングロック装置によりステアリングホイール21を中立位置または特定の操舵位置で保持する。
【0071】
・変形例の操舵ECU60は、異常時操舵制御において、ステアリングホイール21を保持するために反力モータ23に供給される電流指令値Itcに上限値を設ける。これにより、電流指令値Itcにより反力モータ23が発生させる操舵反力トルクよりも大きい操舵トルクTSを運転者がステアリングホイール21を介してステアリングシャフト22に付与したときに限り、ステアリングホイール21が回転する。これにともない、変形例の転舵ECU50は、例えば左前輪80Lが転舵異常のとき、ステアリングホイール21の回転に基づいて右前輪80Rを転舵させるために右前輪転舵駆動部31Rを制御する。これにともない、変形例の転舵ECU50は、右前輪80Rの転舵方向と同じ方向に左前輪80Lを転舵させるために左前輪転舵駆動部31Lを制御する。このため、運転者が路肩に車両1を停車させるようにステアリングホイール21を操作することができる。
【0072】
・変形例の転舵ECU50の転舵量演算部57は、左前輪80Lと右前輪80Rとのトーイン量が「0」となるように、すなわち左前輪80Lの転舵角θwlと右前輪80Rの転舵角θwrとが一致するように目標転舵量Wtを演算する。
【0073】
・変形例の転舵ECU50は、目標転舵角θwtlb(θwtrb)と転舵角θwl(θwr)との偏差が大きくなるにつれて、左前輪80Lおよび右前輪80Rの転舵速度を大きくしてもよい。
【0074】
・変形例のステアリング装置10は、図7に示されるように、車両1の前方の車道の路面を撮像するCCDカメラを含む走行車線検出装置110を備えていてもよい。走行車線検出装置110は、CCDカメラにより撮像された画像に基づいて、周知の手法により車両1のヨー角ψyを演算することができる。そして、走行車線検出装置110は、車両1のヨー角を制御装置40に出力する。一方、変形例の制御装置40は、車両1のヨー角ψyに対応する左前輪80Lおよび右前輪80Rの転舵角である対応転舵角θwld(θwrd)を演算する対応転舵角演算部120を有している。対応転舵角演算部120は、車両1のヨー角ψyと対応転舵角θwld(θwrd)との関係を示すマップ(図示略)を用いて、ヨー角ψyに対応する対応転舵角θwld(θwrd)を演算し、転舵角偏差量演算部55に出力する。転舵角偏差量演算部55は、転舵角θwlと対応転舵角θwldとの偏差である転舵角偏差量ΔWl、および転舵角θwrと対応転舵角θwrdとの偏差である転舵角偏差量ΔWrを演算し、転舵異常検出部56に出力する。転舵異常検出部56は、これら転舵角偏差量ΔWl,ΔWrの一方が閾値Th以上か否かを判定する。これにより、左前輪80Lおよび右前輪80Rの一方が縁石に衝突したか否かを判定することができる。
【0075】
・上記変形例の車両1において、左前輪80Lおよび右前輪80Rの一方が縁石に衝突する直前のヨー角ψyを取得し、左前輪80Lおよび右前輪80Rの一方が縁石に衝突後、上記衝突する直前のヨー角ψyを目標ヨー角として、車両1のヨー角ψyが目標ヨー角に近づくように左前輪80Lおよび右前輪80Rの他方を転舵制御してもよい。
【0076】
・上記変形例の車両1において、走行車線検出装置に代えて、GPSに基づいて、周知の手法によりヨー角を演算してもよい。
【符号の説明】
【0077】
1…車両、10…ステアリング装置、21…ステアリングホイール(操舵部材)、23…反力モータ、31L…左前輪駆動装置(アクチュエータ)、31R…右前輪駆動装置(アクチュエータ)、40…制御装置、80L…左前輪、80R…右前輪、θs…操舵角、θwl,θwr…転舵角(実際の転舵角)、θwt…目標転舵角、θtl,θtr…トー角、ΔWl,ΔWr…転舵角偏差量、Th…閾値。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7