(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ステアリング装置は、操舵部材に反力トルクを付与する反力モータを備え、前記左輪および前記右輪の転舵角と前記操舵部材の操舵角とを互いに独立して変化させる構成であり、
前記左輪および前記右輪の一方の空気圧が低下したとき、前記操舵部材を特定の操舵位置に保持するために前記反力モータを制御する
請求項1に記載のステアリング装置の制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1を参照して、車両1の構成について説明する。
車両1は、転舵輪である左前輪80Lおよび右前輪80Rと、駆動輪である左後輪および右後輪を駆動させるエンジン(図示略)と、操舵部材の一例としてのステアリングホイール21の操作により左前輪80Lおよび右前輪80Rを転舵させるステアリング装置10とを備えている。また、車両1は、車速、エンジン回転数等を表示するディスプレイ装置100と、音声により運転者に報知する報知部110とを備えている。本実施形態では、左前輪80Lおよび右前輪80Rがラックシャフト等により互いに機械的に連結されていない。
【0020】
ステアリング装置10は、ステアリングホイール21を含む操舵機構20と、左前輪80Lおよび右前輪80Rを転舵させる転舵機構30と、操舵機構20と転舵機構30とを制御する制御装置40と、車両1の走行時における走行車線を検出する走行車線検出装置90とを有している。ステアリング装置10は、操舵機構20と転舵機構30とが機械的に連結されていないステアバイワイヤ方式である。
【0021】
操舵機構20は、ステアリングホイール21に接続されたステアリングシャフト22、および、ステアリングホイール21の操作に際して操舵反力トルクを付与する反力モータ23を有している。操舵機構20は、ステアリングホイールと転舵機構等とが機械的に結合したステアリング装置である機械式ステアリング装置のステアリングホイールの操作の際に生じる操舵反力を模擬するように反力モータ23による反力トルクを付与することができる。
【0022】
転舵機構30は、左前輪80Lおよび右前輪80Rが独立して転舵可能な機構であり、左前輪80Lを転舵させる左前輪転舵駆動部31L、および、右前輪80Rを転舵させる右前輪転舵駆動部31Rを有している。左前輪転舵駆動部31Lおよび右前輪転舵駆動部31Rは、機械的に分離されている。
【0023】
左前輪転舵駆動部31Lは、左前輪80Lを転舵させる駆動源となる左前輪転舵モータ32L、左前輪80Lにナックルを介して接続されたタイロッド34L、および、左前輪転舵モータ32Lとタイロッド34Lとに連結され、左前輪転舵モータ32Lの回転をタイロッド34Lの長手方向の移動に変換する運動変換機構33Lを有している。右前輪転舵駆動部31Rは、左前輪転舵駆動部31Lと同様に、右前輪転舵モータ32R、タイロッド34R、及び運動変換機構33Rを有している。なお、運動変換機構33L,33Rの一例は、ボールねじ機構である。
【0024】
制御装置40は、車両1に設けられた各種のセンサの検出結果を運転者の要求あるいは走行状態を示す情報として取得し、これら取得される各種の情報に応じて、反力モータ23、左前輪転舵モータ32L、および、右前輪転舵モータ32Rを制御する。各種のセンサとしては、例えば、トルクセンサ71、操舵角センサ72、車速センサ73、ヨーレートセンサ74、転舵角センサ75L,75R、および、空気圧センサ76L,76Rが挙げられる。トルクセンサ71は、ステアリングシャフト22に加えられたトルクである操舵トルクTSを検出する。操舵角センサ72は、ステアリングホイール21の回転角である操舵角θsを検出する。車速センサ73は、車速VSを検出する。ヨーレートセンサ74は、車両1のヨーレートYRを検出する。転舵角センサ75Lは、タイロッド34Lの長手方向の変位量を検出する変位センサであり、検出された変位量に基づいて左前輪80Lの転舵角θwlを検出する。転舵角センサ75Rは、タイロッド34Rの長手方向の変位量を検出する変位センサであり、検出された変位量に基づいて右前輪80Rの転舵角θwrを検出する。空気圧センサ76Lは、左前輪80Lの空気圧Plを検出する。空気圧センサ76Rは、右前輪80Rの空気圧Prを検出する。なお、本実施形態では、操舵角センサ72が検出する操舵角θs、および、転舵角センサ75L,75Rが検出する転舵角θwl,θwrは、中立位置を「0」とし、中立位置から右旋回方向の角度を正とし、中立位置から左旋回方向の角度を負とする。
【0025】
走行車線検出装置90は、車両1の前端部に搭載されたカメラ91と、カメラ91が撮像した画像に基づいて車両1が走行している車線を示す一対の車線境界線(白線)を認識する車線ECU92とを有している。
【0026】
カメラ91は、車両1の前方の路面を撮像し、車線ECU92に出力する。なお、カメラ91の一例は、CCDカメラである。
車線ECU92は、カメラ91からの車道の路面の画像に基づいて、周知の手法で、車両1の前方の車道の路面左右に描かれている白線を認識し、車両1を基準とした運動系で表される白線の位置データを制御装置40に出力する。そして、車線ECU92は、白線の位置データ、車速VS、および、ヨーレートYRに基づいて、周知の手法で、車両1の目標走行路GL(例えば
図6参照)を演算する。なお、目標走行路GLの一例は、
図6に示されるとおり、車道の路面左右の白線WLの左右方向の中央を示す。そして、車線ECU92は、目標走行路GLと車両1の前後方向(
図6の一点鎖線)とに基づいて車両1のヨー角ψyが演算される。このヨー角ψyは、車両1の前後方向(一点鎖線)と、車両1の前端部に対応する目標走行路GL(二点鎖線)における接線(実線)との成す角により規定される。
【0027】
図2を参照して、制御装置40の詳細な構成について説明する。
まず、制御装置40のハードウェア構成について説明する。
制御装置40は、左前輪80Lおよび右前輪80R(ともに
図1参照)の空気圧の低下の検出を行う異常検出部41、左前輪転舵駆動部31Lおよび右前輪転舵駆動部31Rを制御する転舵ECU50、ならびに、反力モータ23を制御する操舵ECU60を有している。なお、異常検出部41は、左前輪80Lおよび右前輪80Rの空気圧の低下として、左前輪80Lおよび右前輪80Rに穴が開くパンク、ならびに、左前輪80Lおよび右前輪80Rの一部のバーストを検出する。
【0028】
異常検出部41は、マイコン(図示略)を有し、記憶部(図示略)に格納された制御プログラムを実行することにより左前輪80Lおよび右前輪80Rの空気圧の低下を検出している。異常検出部41は、予め設定された空気圧の基準値と空気圧センサ76Lにより検出された空気圧Plとの差が閾値以上のとき、左前輪80Lの空気圧が低下していると判定する。また異常検出部41は、右前輪80Rについても同様に、上記基準値と空気圧センサ76Rにより検出された空気圧Prとの差が閾値以上のとき、右前輪80Rの空気圧が低下していると判定する。異常検出部41は、左前輪80Lの空気圧が低下していると判定したとき、左前輪80Lの空気圧が低下している旨の出力信号Clを転舵ECU50、操舵ECU60、ディスプレイ装置100、および、報知部110に送信する。一方、異常検出部41は、右前輪80Rの空気圧が低下していると判定したとき、右前輪80Rの空気圧が低下している旨の出力信号Crを転舵ECU50、操舵ECU60、ディスプレイ装置100、および、報知部110に送信する。
【0029】
転舵ECU50は、左前輪転舵モータ32Lおよび右前輪転舵モータ32Rのそれぞれにモータ駆動信号を出力するマイコン51、左前輪転舵モータ32Lを駆動するモータ駆動回路58L、ならびに、右前輪転舵モータ32Rを駆動するモータ駆動回路58Rを有している。転舵ECU50は、操舵角センサ72、車速センサ73、ヨーレートセンサ74、転舵角センサ75L,75Rの検出結果、および、走行車線検出装置90が演算したヨー角ψyをそれぞれ定められたサンプリング周期で取り込む。
【0030】
操舵ECU60は、反力モータ23にモータ駆動信号を出力するマイコン61、および、反力モータ23を制御するモータ駆動回路66を有している。操舵ECU60は、トルクセンサ71、操舵角センサ72、および、車速センサ73の検出結果をそれぞれ定められたサンプリング周期で取り込む。
【0031】
次に、転舵ECU50のマイコン51の機能的な構成について、マイコン51が実行する転舵制御とともに説明する。
転舵ECU50のマイコン51は、記憶部(図示略)に格納された制御プログラムを実行することによって実現される各種の演算処理部を有している。
【0032】
マイコン51は、演算処理部として、目標転舵角設定部52、電流指令値演算部53、信号出力部としてのモータ駆動信号生成部54、目標ヨー角設定部55、ヨー角偏差量演算部56、および、転舵量演算部57を有している。
【0033】
マイコン51は、左前輪80Lおよび右前輪80Rの空気圧が低下していないとき、運転者によるステアリングホイール21の操作および車速VSに応じて左前輪80Lおよび右前輪80Rを互いに同じ転舵方向かつ同じ転舵量で転舵させるように、左前輪転舵モータ32Lおよび右前輪転舵モータ32Rを制御する通常時転舵制御を実行する。また、マイコン51は、左前輪80Lおよび右前輪80Rの一方の空気圧が低下しているとき、この空気圧の低下に起因する車両1の挙動が不安定になることを抑制する異常時転舵制御を実行する。マイコン51は、異常時転舵制御において、空気圧が低下していない車輪である左前輪80Lおよび右前輪80Rの他方について転舵制御を行う一方、空気圧が低下した車輪である左前輪80Lおよび右前輪80Rの一方について転舵制御を行わない。
【0034】
(通常時転舵制御)
マイコン51は、通常時転舵制御において、目標転舵角設定部52、電流指令値演算部53、および、モータ駆動信号生成部54の順に演算処理することにより、左前輪転舵モータ32Lおよび右前輪転舵モータ32Rへの電力供給を制御する制御信号であるモータ駆動信号Swl,Swrを生成する。
【0035】
具体的には、目標転舵角設定部52は、操舵角θsと目標転舵角θwtとの関係を車速VSに応じて規定する三次元マップ(図示略)を用いて車速VSおよび操舵角θsから目標転舵角θwtを設定する。このマップは、操舵角θsが大きくなるにつれて、または、車速VSが小さくなるにつれて目標転舵角θwtが大きくなる関係を有している。
【0036】
次に、電流指令値演算部53は、転舵角センサ75L,75Rにより検出された転舵角θwl,θwrと目標転舵角θwtとの偏差量をそれぞれ演算し、これら演算された偏差量に基づいて左前輪転舵モータ32Lに供給する電流指令値Itl、および、右前輪転舵モータ32Rに供給する電流指令値Itrを演算する。
【0037】
最後に、モータ駆動信号生成部54は、電流指令値Itl、および、モータ駆動回路58Lに設けられた電流センサ59Lにより検出された電流値Ilを取り込み、これら取り込まれる情報に基づいて電流値Ilが電流指令値Itlに追従するように電流のフィードバック制御を行う。そして、モータ駆動信号生成部54は、電流指令値Itlと電流値Ilとの偏差を求め、その偏差をなくすようなモータ駆動信号Swlを生成する。また同様に、モータ駆動信号生成部54は、電流指令値Itr、および、モータ駆動回路58Rに設けられた電流センサ59Rにより検出された電流値Irを取り込み、これら取り込まれる情報に基づいて同様に電流のフィードバック制御を行い、モータ駆動信号Swrを生成する。モータ駆動信号生成部54は、これらモータ駆動信号Swl,Swrをモータ駆動回路58L,58Rに出力する。
【0038】
(異常時転舵制御)
マイコン51は、異常時転舵制御において、目標ヨー角設定部55、ヨー角偏差量演算部56、転舵量演算部57、目標転舵角設定部52、電流指令値演算部53、および、モータ駆動信号生成部54の順に演算処理する。
【0039】
なお、以下では、一例として左前輪80Lの空気圧が低下した場合について説明する。この場合、マイコン51は、右前輪転舵モータ32Rへの電力供給を制御する制御信号であるモータ駆動信号Swrpを生成する一方、左前輪転舵モータ32Lへの電力供給を制御する制御信号であるモータ駆動信号Swlpを生成しない。
【0040】
マイコン51は、目標ヨー角設定部55、ヨー角偏差量演算部56、転舵量演算部57、および、目標転舵角設定部52により、左前輪80Lの空気圧の低下に起因する車両1のヨー角ψyの変化が小さくなるような車両1のヨー角にするための転舵量に基づいて右前輪80Rの目標転舵角θwtrpを設定する。
【0041】
まず、目標ヨー角設定部55は、異常検出部41の出力信号Clが入力されたとき、左前輪80Lの空気圧が低下する直前のヨー角ψyを目標ヨー角ψytとして設定する。この左前輪80Lの空気圧が低下する直前のヨー角ψyは、転舵ECU50が通常時転舵制御から異常時転舵制御に変更されたときの通常時転舵制御の最後のサンプリング時刻において転舵ECU50が走行車線検出装置90から取り込んだヨー角ψyを示す。
【0042】
次に、ヨー角偏差量演算部56は、左前輪80Lの空気圧が低下した後で走行車線検出装置90から取り込んだヨー角ψyと目標ヨー角設定部55により設定された目標ヨー角ψytとの偏差量であるヨー角偏差量Δψyを演算する。
【0043】
次に、転舵量演算部57は、車両1のヨー角ψyを目標ヨー角ψytに一致させるための右前輪転舵モータ32Rの目標転舵量Wtを演算する。詳細には、転舵量演算部57は、ヨー角偏差量演算部56により演算されたヨー角偏差量Δψyに基づいて、右前輪80Rの目標転舵量Wtを演算する。この目標転舵量Wtは、ヨー角偏差量Δψyを「0」にするために、右前輪転舵モータ32Rが右前輪80Rを転舵させる転舵量であり、角度で表示される。
【0044】
図3に示されるように、転舵量演算部57は、ヨー角偏差量Δψyと目標転舵量Wtとの関係を車速VSに応じて規定する三次元マップであるマップMPを用いてヨー角偏差量Δψyおよび車速VSから目標転舵量Wtを演算する。このマップMPは、ヨー角偏差量Δψyが大きくなるにつれて目標転舵量Wtが大きくなり、車速VSが小さくなるにつれて目標転舵量Wtが大きくなる関係を示す。
【0045】
そして、目標転舵角設定部52は、異常検出部41の出力信号Clが入力されたとき、目標転舵量Wtに基づいて右前輪80Rの目標転舵角θwtrpを設定する。詳細には、目標転舵角設定部52は、転舵角センサ75Rにより検出された転舵角θwrに目標転舵量Wtを加算した値を目標転舵角θwtrpとして設定する。この転舵角θwrに目標転舵量Wtを加算する理由は、次のとおりである。例えば、左前輪80Lの空気圧が低下したとき、車両1が左旋回方向に旋回しようとする。このような車両1の左旋回に対して車両1のヨー角ψyの変化を抑えるため、右旋回方向すなわち右転舵方向に右前輪80Rを転舵させる。本実施形態では、右転舵方向は正であるため、転舵角θwrに目標転舵量Wtを加算する。
【0046】
そして、電流指令値演算部53は、目標転舵角θwtrpから電流指令値Itrpを演算する。そして、モータ駆動信号生成部54は、モータ駆動回路58Rの電流センサ59Rにより検出された電流値Irと電流指令値Itrpとの偏差をなくすようなモータ駆動信号Swrpを生成し、モータ駆動回路58Rに出力する。
【0047】
上述のとおり、左前輪80Lの空気圧が低下したときの異常時転舵制御について説明したが、右前輪80Rの空気圧が低下したときの異常時転舵制御についても同様の処理手順で左前輪転舵モータ32Lのモータ駆動信号Swlpを生成する。すなわち、マイコン51は、左前輪転舵モータ32Lが左前輪80Lを転舵させるための目標転舵角θwtlpを設定し、目標転舵角θwtlpから電流指令値Itlpを演算してモータ駆動信号Swlpを生成する。
【0048】
なお、右前輪80Rの空気圧が低下したときには、目標転舵角設定部52による目標転舵角θwtlpの設定方法が異なる。例えば、右前輪80Rの空気圧が低下したとき、車両1が右旋回方向に旋回する。これにより、車両1のヨー角ψyの変化を抑えるためには、左転舵方向に左前輪80Lを左転舵方向に転舵させる必要がある。このため、目標転舵角設定部52は、転舵角θwlに目標転舵量Wtを減算した値を目標転舵角θwtlpとして設定する。
【0049】
次に、操舵ECU60のマイコン61の機能的な構成について、マイコン61が実行する操舵制御とともに説明する。
操舵ECU60のマイコン61は、記憶部(図示略)に格納された制御プログラムを実行することによって実現される各種の演算処理部を有している。
【0050】
マイコン61は、演算処理部として、目標モータトルク演算部62、電流指令値演算部63、モータ駆動信号生成部64、および、操舵量演算部65を有している。
マイコン61は、左前輪80Lおよび右前輪80Rの空気圧が低下していないとき、操舵角θsおよび車速VSに基づいて、ステアリングホイール21の操作に適切な操舵反力トルクがステアリングホイール21に付与されるように反力モータ23を制御する通常時操舵制御を実行する。また、マイコン61は、左前輪80Lおよび右前輪80Rの一方の空気圧が低下しているとき、ステアリングホイール21を中立位置に操作し、ステアリングホイール21を中立位置に保持するように反力モータ23を制御する異常時操舵制御を実行する。
【0051】
(通常時操舵制御)
マイコン61は、通常時操舵制御において、目標モータトルク演算部62、電流指令値演算部63、および、モータ駆動信号生成部64の順に演算処理することにより、反力モータ23を制御するモータ駆動信号を生成する。
【0052】
具体的には、目標モータトルク演算部62は、操舵角θsと目標モータトルクTctとの関係を車速VSに応じて規定する三次元マップを用いて目標モータトルクTctを演算する。なお、三次元マップは、操舵角θsおよび車速VSが大きくなるにつれて目標モータトルクTctが大きくなる関係を示している。
【0053】
次に、電流指令値演算部63は、トルクセンサ71により検出された操舵トルクTSと目標モータトルクTctとの偏差量を演算し、この演算された偏差量に基づいて反力モータ23に供給する電流指令値Itcを演算する。
【0054】
最後に、モータ駆動信号生成部64は、電流指令値Itc、および、モータ駆動回路66に設けられた電流センサ67により検出された電流値Icを取り込み、これら取り込まれる情報に基づいて電流値Icが電流指令値Itcに追従するように電流のフィードバック制御を行う。そして、モータ駆動信号生成部64は、電流指令値Itcと電流値Icとの偏差を求め、その偏差をなくすようにモータ駆動信号Scを生成し、モータ駆動回路66に出力する。
【0055】
(異常時操舵制御)
マイコン61は、異常時操舵制御の自動操舵制御において、操舵量演算部65、電流指令値演算部63、および、モータ駆動信号生成部64の順に演算処理することにより、反力モータ23のモータ駆動信号Scpを生成する。このモータ駆動信号Scpにより反力モータ23が制御されるため、反力モータ23によりステアリングホイール21が回転して中立位置に移動する。
【0056】
具体的には、操舵量演算部65は、ステアリングホイール21が中立位置までに位置するまでの操舵量を演算する。詳細には、操舵量演算部65は、操舵角センサ72により検出された操舵角θsと中立位置に対応する操舵角との偏差を演算し、これを目標操舵量Stとして電流指令値演算部63に出力する。
【0057】
次に、電流指令値演算部63は、目標操舵量Stと電流指令値Itpとの関係を示すマップを用いて、目標操舵量Stから電流指令値Itpを演算する。このマップは、操舵量が大きくなるにつれて電流指令値Itpが大きくなる関係を示している。
【0058】
そして、モータ駆動信号生成部64は、モータ駆動回路66の電流値Icと電流指令値Itpとの電流のフィードバック制御によりモータ駆動信号Scpを生成し、モータ駆動回路66に出力する。これにより、反力モータ23は、モータ駆動信号Scpによりモータ駆動回路66が動作することによりステアリングホイール21を中立位置に向けて動作させる。このため、自動操舵制御においては、運転者がステアリングホイール21の操作によらず、ステアリングホイール21が中立位置に操舵される。
【0059】
また、マイコン61は、自動操舵制御によりステアリングホイール21が中立位置に位置したとき、保舵制御を実行する。マイコン61は、保舵制御において、通常時操舵制御と同様に、目標モータトルク演算部62、電流指令値演算部63、および、モータ駆動信号生成部64の順に演算処理する。一方、保舵制御は、通常時操舵制御に対して目標モータトルク演算部62による目標モータトルクの演算方法が異なる。
【0060】
すなわち、通常時操舵制御においては、運転者がステアリングホイール21を操作するときに適切な操舵反力トルクが付与されるように目標モータトルクTctを演算する。一方、保舵制御においては、運転者がステアリングホイール21を操作するとき、その操作に対してステアリングホイール21が中立位置に保持可能な目標モータトルクTckを演算する。
【0061】
具体的には、目標モータトルク演算部62は、運転者がステアリングホイール21を操作することによりステアリングシャフト22に入力した操舵トルクTSに応じて、この操舵トルクTSとは反対方向の操舵トルクとなるように目標モータトルクTckを演算する。そして、マイコン61は、電流指令値演算部63によりこの目標モータトルクTckに基づいて電流指令値Itkを演算し、モータ駆動信号生成部64により電流指令値Itkと電流センサ67により検出されたモータ駆動回路66の電流値Icとの偏差をなくすようなモータ駆動信号Schを生成する。これにより、操舵トルクTSを打ち消すようなトルクを反力モータ23がステアリングシャフト22に付与することによりステアリングホイール21が中立位置に保持される。
【0062】
上記のように構成された制御装置40は、通常時操舵制御および通常時転舵制御の組み合わせと、異常時操舵制御および異常時転舵制御の組み合わせとを左前輪80Lおよび右前輪80Rの一方の空気圧が低下している否かに基づいて変更する選択制御を実行する。
【0063】
図4を参照して、選択制御の詳細な内容について説明する。なお、以降の説明において、符号が付された車両1の各構成要素は、
図1および
図2に記載された車両1の各構成要素を示す。
【0064】
制御装置40は、まずステップS1において、異常検出部41により左前輪80Lおよび右前輪80Rの一方の空気圧が低下したか否かを判定する。
制御装置40は、左前輪80Lおよび右前輪80Rの空気圧が低下していないと判定したとき(ステップS1:NO)、ステップS2において操舵ECU60が通常時操舵制御を実行し、ステップS3において転舵ECU50が通常時転舵制御を実行する。
【0065】
一方、制御装置40は、左前輪80Lおよび右前輪80Rの一方の空気圧が低下したと判定したとき(ステップS1:YES)、ステップS4において操舵ECU60が異常時操舵制御を実行し、ステップS5において転舵ECU50が異常時転舵制御を実行する。
【0066】
また、左前輪80Lおよび右前輪80Rの一方の空気圧が低下したとき、左前輪80Lおよび右前輪80Rの一方の空気圧が低下した旨を運転者に認識させる必要がある。
そこで、制御装置40は、ステップS6において、異常検出部41の出力信号Cl,Crをディスプレイ装置100および報知部110に送信する。これにより、ディスプレイ装置100は、出力信号Cl,Crに基づいて、ウォーニングインジケータランプ(図示略)を点灯することにより左前輪80Lおよび右前輪80Rの空気圧が低下したことを運転者に報知する。また報知部110は、異常時操舵制御により、運転者の操作とは関係なくステアリングホイール21が制御される自動操舵制御になる旨をブザーまたは音声案内により運転者に報知する。また報知部110は、音声案内にて運転者にブレーキ操作を行うように指示する。
【0067】
このように、異常時操舵制御および異常時転舵制御が実行されているとき、運転者は、車両1に異常が発生していることを認識し、さらに報知部110でブレーキ操作が指示されるため、車両1を停止するためにブレーキ操作を行う。そして、車両1が停止したとき、異常時操舵制御および異常時転舵制御を解除する。
【0068】
すなわち、制御装置40は、ステップS7において、車速VSが「0」か否か、すなわち車両1が停車したか否かを判定する。制御装置40は、ステップS7において、車速VSが「0」のとき、すなわち車両1が停車したと判定したとき(ステップS7:YES)、ステップS8において、異常時転舵制御および異常時操舵制御から通常時転舵制御および通常時操舵制御に変更する。一方、制御装置40は、ステップS7において、車速VSが「0」ではないとき、すなわち車両1が走行を維持していると判定したとき(ステップS7:NO)、ステップS4に移行する。これにより、車速VSが「0」になるまで異常時転舵制御および異常時操舵制御が維持される。
【0069】
図5および
図6を参照して、一例として、車両1の左前輪80Lがパンクしたときの車両1の挙動についてその作用とともに説明する。
図5に示されるように、車両1の直進走行時に左前輪80Lがパンクしたとき、そしてこのときに通常時転舵制御および通常時操舵制御が維持されたとした場合、パンクにより左前輪80Lのタイヤ外径が右前輪80Rのタイヤ外径よりも小さくなるため、図中の破線の車両1により示されるように車両1は左旋回する。そして、運転者のブレーキ操作により停車する。
【0070】
また
図6に示されるように、車両1の右旋回時に左前輪80Lがパンクしたとき、そしてこのときに転舵ECU50が通常時転舵制御を維持し、操舵ECU60が通常時操舵制御を維持したとした場合も同様に、図中の破線の車両1により示されるように車両1は左旋回し、運転者のブレーキ操作により停車する。
【0071】
一方、本実施形態の車両1は、左前輪80Lがパンクしたとき、転舵ECU50により異常時転舵制御が実行される。これにより、左前輪80Lがパンクする直前の車両1のヨー角ψyを維持するように右前輪80Rが転舵される。具体的には、
図5の実線の車両1により示されるように、車両1の直進走行時においては左前輪80Lがパンクする直前のヨー角ψyは「0°」であるため、右前輪80Rは、ヨー角ψyが「0°」となるように右旋回方向に転舵する。これにより、車両1は、左旋回することが抑制されて直線走行車線に沿って走行する。また、
図6の実線の車両1により示されるように、車両1の右旋回時においては左前輪80Lがパンクする直前のヨー角ψykであり、右前輪80Rは、左前輪80Lがパンクした後の車両1のヨー角ψyがヨー角ψykとなるように右旋回方向に転舵する。そして、右前輪80Rは、異常時転舵制御の実行期間において、ヨー角ψyがヨー角ψykとなるように転舵する。これにより、車両1は、停車するまでの期間において左旋回することが抑制されて右旋回方向に湾曲した車道に沿って走行する。したがって、左前輪80Lがパンクしてから車両1が停止するまでの期間において、車両1が走行車線(白線WL)から逸脱することが抑制される。
【0072】
また、例えば左前輪80Lのパンク、特に左前輪80Lがバーストした状態で車両1が走行すると、左前輪80Lが歪な形状となった状態で回転するため、車体(図示略)に振動が加えられる。この車体の振動にともないステアリングホイール21(
図1参照)が運転者の意図しない方向に回転するおそれがある。また、車体の振動が運転者にも伝わるため、運転者は、ステアリングホイール21を把持しているとき、意図しない方向にステアリングホイール21を操作してしまうおそれがある。
【0073】
そこで、本実施形態の操舵ECU60は、異常時操舵制御を実行することにより、ステアリングホイール21が中立位置に移動し、その位置にてステアリングホイール21が保持される。このため、車体の振動に起因してステアリングホイール21が回転することが抑制される。また、運転者がステアリングホイール21を操作しようとしても反力モータ23がその操作する力に抗してステアリングホイール21を中立位置に維持させる。このため、車体の振動に起因して運転者が意図しない方向にステアリングホイール21を操作してしまうことが抑制される。
【0074】
本実施形態の車両1は、以下の効果を奏する。
(1)左前輪80Lおよび右前輪80Rが機械的に連結されていないため、例えば、左前輪80Lの空気圧が低下したときに左前輪80Lの転舵が右前輪80Rの転舵に与える影響が小さい。このため、左前輪および右前輪がラックシャフト等により機械的に連結された構成と比較して、右前輪80Rが転舵するとき、左前輪80Lが右前輪80Rの転舵を妨げにくい。
【0075】
また、左前輪80Lの空気圧が低下した場合に左前輪80Lおよび右前輪80Rを含めて制御する場合、左前輪80Lの空気圧が低下した状態で転舵したときの挙動、およびその挙動が右前輪80Rに与える影響を考慮して、右前輪80Rを転舵制御する必要があり、制御構成が複雑化する。そして、空気圧が低下した左前輪80Lが転舵することにより左前輪80Lの挙動が不安定となり、左前輪80Lの転舵が右前輪80Rの転舵の妨げになるおそれもある。
【0076】
この点、転舵機構30が左前輪80Lおよび右前輪80Rをそれぞれ独立して転舵可能であるため、左前輪80Lの空気圧が低下した場合、制御装置40は、左前輪80Lの空気圧が低下したとき、左前輪80Lの転舵制御を行わず、右前輪80Rの転舵制御のみを行う。これにより、右前輪80Rの転舵制御は、左前輪80Lおよび右前輪80Rの両方を転舵制御する場合よりも制御構成が簡略化される。そして、左前輪80Lを転舵させないことにより、左前輪80Lの転舵が右前輪80Rの転舵の妨げになるおそれを低減できる。
【0077】
このように左前輪80Lの空気圧が低下した場合に右前輪80Rのみを転舵制御することにより、左前輪80Lの転舵が右前輪80Rに与える影響が小さい状態で右前輪80Rを転舵させることができる。これにより、右前輪80Rを目標転舵角θwtrpに向けて転舵させやすい。このため、制御装置40は、ヨー角ψyを目標ヨー角ψytに速やかに近づけることができる。したがって、車両1の挙動を速やかに安定させることができる。
【0078】
(2)左前輪80Lおよび右前輪80Rの一方の空気圧が低下したとき、反力モータ23によりステアリングホイール21が保持される。したがって、ステアリングホイール21が運転者の意図とは関係なく動くことが抑制されるため、運転者に安心感を与えることができる。
【0079】
(3)操舵ECU60は、異常時操舵制御において、ステアリングホイール21を中立位置で保持する。これにより、運転者が車両のシート(図示略)に背中を押し付けられた姿勢になりやすくなる。このため、左前輪80Lおよび右前輪80Rの一方の空気圧が低下したときに車両1の車体に振動が加えられたとしても、背中がシートにより支持されているため、車体の振動に起因して運転者がシートに対して動くことが抑制される。したがって、運転者の姿勢が安定する。
【0080】
(4)左前輪80Lおよび右前輪80Rの一方に空気圧の低下が発生する直前のサンプリング時刻に取り込まれたヨー角ψyは、左前輪80Lおよび右前輪80Rの一方に空気圧の低下が発生する前において車両1の最新の進行方向となる。すなわち、左前輪80Lおよび右前輪80Rの一方に空気圧の低下が発生する前において最新の走行車線の情報を反映した車両1の進行方向となる。そして、左前輪80Lおよび右前輪80Rの一方に空気圧の低下が発生してから車両1が停車するまでの距離において、このような車両1の進行方向を維持して走行すれば、車両1が走行車線から逸脱する可能性が低いと予測される。
【0081】
そこで、制御装置40は、左前輪80Lおよび右前輪80Rの一方に空気圧の低下が発生する直前のサンプリング時刻に取り込まれたヨー角ψyを目標ヨー角ψytとして設定し、この目標ヨー角ψytを車両1が停止するまで維持する。このため、左前輪80Lおよび右前輪80Rの一方が発生する直前の車両1の旋回動作となり、車両1が走行車線に対して逸脱することが抑制される。
【0082】
なお、本制御装置および本ステアリング装置が取り得る具体的形態は、上記実施形態に示された内容に限定されない。本制御装置および本ステアリング装置は、例えば、以下に示される上記実施形態の変形例の形態を取り得る。
【0083】
・変形例の異常検出部41は、空気圧センサを用いずに、車速センサの左前輪80Lおよび右前輪80Rの車輪速に基づいて空気圧を推定し、この推定した空気圧に基づいて左前輪80Lおよび右前輪80Rの空気圧の低下の判定を行ってもよい。左前輪80Lおよび右前輪80Rの車輪速に基づく空気圧の推定は、例えば、特開2002−205517号公報に記載の間接式検出システムと同様の方法により行われる。
【0084】
・変形例の異常検出部41は、ディスプレイ装置100へウォーニングインジケータランプの点灯に代えて、またはウォーニングインジケータの点灯に加えて、報知部110により、ブザー等の音声で左前輪80Lおよび右前輪80Rの一方の空気圧が低下した旨を運転者に報知する。
【0085】
・変形例の操舵ECU60は、異常時操舵制御において、左前輪80Lおよび右前輪80Rの一方の空気圧が低下したとき、中立位置以外の特定の操舵位置でステアリングホイール21を保持する。
【0086】
・変形例の操舵ECU60は、異常時操舵制御において、ステアリングシャフト22の回転を機械的に規制するステアリングロック装置によりステアリングホイール21を中立位置または特定の操舵位置で保持する。
【0087】
・変形例の操舵ECU60は、異常時操舵制御において、ステアリングホイール21を保持する反力モータ23に供給するための電流指令値Itcに上限値を設ける。これにより、電流指令値Itcの上限値により反力モータ23がステアリングシャフト22に付与する操舵反力トルクの上限値よりも大きい操舵トルクを運転者がステアリングホイール21を介してステアリングシャフト22に付与したとき、ステアリングホイール21が回転する。このため、例えば、運転者が路肩に車両1を停車させるようにステアリングホイール21を操作することができる。
【0088】
・変形例の転舵ECU50は、異常時転舵制御の実行開始直前の最後のサンプリング時刻よりも数周期前のサンプリング時刻で取り込んだヨー角ψyを目標ヨー角ψytとして設定する。要するに、左前輪80Lおよび右前輪80Rの一方の空気圧が低下する直前の車両1の挙動になるように目標ヨー角ψytが設定できればよい。
【0089】
・変形例の転舵ECU50は、異常時転舵制御の実行開始後の最初のサンプリング時刻で取り込んだヨー角ψyを目標ヨー角ψytとして設定する。この構成によれば、サンプリング周期が数十μ秒のような非常に短い周期であれば、異常時転舵制御の実行開始後からヨー角ψyを最初に取り込むまでの間に車両1のヨー角ψyが大きく変化する可能性は低いと考えられる。このため、異常時転舵制御の実行開始後の最初のサンプリング時刻で取り込んだヨー角ψyを目標ヨー角ψytとして設定された場合でも、左前輪80Lおよび右前輪80Rの一方の空気圧が低下した後の車両1の挙動が左前輪80Lおよび右前輪80Rの一方の空気圧が低下する直前の車両1の挙動と大きく異なることが抑制される。
【0090】
・変形例の転舵ECU50は、異常時転舵制御において、左前輪80Lおよび右前輪80Rの一方の空気圧が低下する直前のヨー角ψykに基づく転舵制御に代えて、車両1が旋回中であっても、目標ヨー角ψytを「0」に設定する。
【0091】
・変形例のステアリング装置10の制御装置40は、ヨーレートYRおよび車速VSに基づいて目標走行路GLを演算する。そして制御装置40は、目標走行路GLに基づいてヨー角を演算する。この場合、変形例のステアリング装置10は、走行車線検出装置90を有していなくてもよい。
【0092】
・変形例のステアリング装置10は、左後輪および右後輪を転舵軸として、左前輪転舵駆動部31Lに相当する左後輪転舵駆動部および右前輪転舵駆動部31Rに相当する左後輪転舵駆動部を備える後輪転舵機構である。