特許第6394866号(P6394866)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6394866
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】燃料電池システム及びその運転方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04007 20160101AFI20180913BHJP
   H01M 8/04701 20160101ALI20180913BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20180913BHJP
   H01M 8/04858 20160101ALI20180913BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20180913BHJP
【FI】
   H01M8/04007
   H01M8/04701
   H01M8/04 J
   H01M8/04858
   H01M8/12
【請求項の数】13
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-151776(P2014-151776)
(22)【出願日】2014年7月25日
(65)【公開番号】特開2016-29623(P2016-29623A)
(43)【公開日】2016年3月3日
【審査請求日】2017年3月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(72)【発明者】
【氏名】三室 伸
【審査官】 橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−124721(JP,A)
【文献】 特開2011−008990(JP,A)
【文献】 特開平08−037018(JP,A)
【文献】 特開平07−296819(JP,A)
【文献】 特開平07−249413(JP,A)
【文献】 特開2001−176518(JP,A)
【文献】 米国特許第05747184(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M8/00−8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質層を燃料極と空気極とで挟んだ構造を有する単セルを積層して成る燃料電池スタックと、燃料電池スタックに燃料ガスを供給する燃料供給系と、燃料電池スタックに空気を供給するための空気供給系と、これらを制御する制御装置とを備えた燃料電池システムであって、
空気極の酸素分圧を計測する酸素分圧計測手段と、
燃料電池スタックの温度を計測する電池温度計測手段と、
空気極の酸素分圧を調整するための酸素分圧調整手段とを備え、
制御装置が、相対的に高温である第1温度と相対的に低温である第2温度との間で運転温度を昇降させる際に、降温では、燃料電池スタックを冷却してから、空気極の酸素分圧を定格運転時の酸素分圧よりも低減させるように酸素分圧調整手段を制御する機能と、昇温では、制御開始とともに空気極の酸素分圧を定格運転時の酸素分圧よりも低減させるように酸素分圧調整手段を制御する機能と、低減させた空気極の酸素分圧が設定値か否かを判断する機能と、空気極の酸素分圧が設定値である場合に燃料電池スタックの温度が所定値か否かを判断する機能とを有すること特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
酸素分圧調整手段が、空気供給系に配置され且つ燃料電池スタックへの空気の供給量を調整する調整バルブを備えていることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
燃料電池スタックから排出された排出燃料ガス及び排出空気を混合燃焼させる燃焼器を備え、
酸素分圧調整手段が、燃焼器の排気ガスを空気供給系側に還流させる還流経路と、空気供給系に対して還流経路を開閉する還流バルブとを備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
酸素分圧調整手段が、空気供給系に希釈ガスを供給する希釈ガス供給装置を備えていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の燃料電池システムにおいて、燃料電池スタックの運転温度を相対的に高温である第1温度から相対的に低温である第2温度に降温させるに際し、
S1.温度移行を決定する工程と、
S2.燃料電池スタックを降温させる工程と、
S3.空気極の酸素分圧を設定する工程と、
S4.空気極の酸素分圧を定格運転時の酸素分圧よりも低減する工程と、
S5.空気極の酸素分圧が設定値か否かを判断する工程と、
S6.燃料電池スタックの温度を計測する工程と、
S7.燃料電池スタックの温度が所定値か否かを判断する工程とを順に備え、
燃料電池スタックの温度が所定値に到るまで上記S2〜S7の工程を繰り返すことを特徴とする燃料電池システムの運転方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の燃料電池システムにおいて、燃料電池スタックの運転温度を相対的に高温である第1温度から相対的に低温である第2温度に降温させるに際し、
S1.温度移行を決定する工程と、
S2.燃料電池スタックを降温させる工程と、
S3.空気極の酸素分圧を設定する工程と、
S4.空気極の酸素分圧を定格運転時の酸素分圧よりも低減する工程と、
S5.空気極の酸素分圧が設定値か否かを判断する工程と、
S5a.燃料電池スタックの降温を継続する工程と、
S6.燃料電池スタックの温度を計測する工程と、
S7.燃料電池スタックの温度が所定値か否かを判断する工程とを順に備え、
燃料電池スタックの温度が所定値に到るまで上記S5a〜S7の工程を繰り返すことを特徴とする燃料電池システムの運転方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の燃料電池システムにおいて、燃料電池スタックの運転温度を相対的に低温である第2温度から相対的に高温である第1温度に昇温させるに際し、
S11.温度移行を決定する工程と、
S12.空気極の酸素分圧を設定する工程と、
S13.空気極の酸素分圧を定格運転時の酸素分圧よりも低減する工程と、
S14.空気極の酸素分圧が設定値か否かを判断する工程と、
S15.燃料電池スタックを昇温する工程と、
S16.燃料電池スタックの温度を計測する工程と、
S17.燃料電池スタックの温度が所定値か否かを判断する工程とを順に備え、
燃料電池スタックの温度が所定値に到るまで上記S12〜S17の工程を繰り返すことを特徴とする燃料電池システムの運転方法。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の燃料電池システムにおいて、燃料電池スタックの運転温度を相対的に低温である第2温度から相対的に高温である第1温度に昇温させるに際し、
S11.温度移行を決定する工程と、
S12.空気極の酸素分圧を設定する工程と、
S13.空気極の酸素分圧を定格運転時の酸素分圧よりも低減する工程と、
S14.空気極の酸素分圧が設定値か否かを判断する工程と、
S15.燃料電池スタックを昇温する工程と、
S16.燃料電池スタックの温度を計測する工程と、
S17.燃料電池スタックの温度が所定値か否かを判断する工程とを順に備え、
燃料電池スタックの温度が所定値に到るまで上記S15〜S17の工程を繰り返すことを特徴とする燃料電池システムの運転方法。
【請求項9】
空気極の酸素分圧を定格運転時の酸素分圧よりも低減する工程において、空気極の酸素分圧が低減するように燃料電池スタックの出力制御を行うことを特徴とする請求項5〜8のいずれか1項に記載の燃料電池システムの運転方法。
【請求項10】
空気極の酸素分圧を設定する工程において、空気極の酸素空孔と温度、空気極の酸素空孔と酸素分圧、酸素空孔と歪、及び酸素空孔と空気極の応力の関係の少なくとも1つを含む内部データに基づくと共に、燃料電池スタックの運転状況に応じて空気極の酸素分圧を設定することを特徴とする請求項5〜9のいずれか1項に記載の燃料電池システム運転方法。
【請求項11】
空気極の酸素分圧を設定する工程において、予め規定した値を用いて空気極の酸素分圧を設定することを特徴とする請求項5〜9のいずれか1項に記載の燃料電池システム運転方法。
【請求項12】
空気極の酸素分圧を設定する工程において、設定する酸素分圧の下限値が、予め実験で求めた空気極材料の導電性に基づく値であることを特徴とする請求項10又は11に記載の燃料電池システムの運転方法。
【請求項13】
空気極の酸素分圧を設定する工程において、設定する酸素分圧の下限値が、燃料電池システムの運転条件の最低の酸素分圧値であることを特徴とする請求項10又は11に記載の燃料電池システムの運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質型の燃料電池を備えた燃料電池システム及びその運転方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来において、固体電解質型の燃料電池としては、例えば、特許文献1に記載されたものがある。特許文献1に記載の固体電解質型燃料電池は、空気極と燃料極と固体電解質体とを有する少なくとも1つのセルを備えており、空気極の組成比を調整して、熱膨張率を固体電解質体の熱膨張率に近づけることにより、温度変化に伴う熱応力を緩和し固体電解質層との剥離を抑制する空気極、すなわち固体電解質体とのマッチングに優れた空気極を持つものとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−134133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記したような燃料電池では、近年の研究により、空気極や固体電解質体に互いに異なる酸素空孔量の変化が存在し、この酸素空孔量の変化による応力が熱応力と同等若しくはそれ以上であることが判明した。これに対して、上記した対策では、酸素空孔量の変化に伴う空気極と電解質の体積膨張差によって発生する空気極の引張応力を抑制することはできなかった。
【0005】
ここで、酸素空孔とは、酸化物イオンの導電パスで、燃料電池の電極や電解質中に存在し、ドーピングの電荷補償で大気との平衡反応により生じるものである。酸素空孔は、温度や雰囲気により増減して、材料の膨張及び収縮をもたらす。そして、燃料電池では、運転温度の昇降時、一般的な固体電解質材料の酸素空孔量の変化に対し、空気極材料の酸素空孔量の変化が大きい。このため、空気極は、固体電解質に対して大きく収縮し、その収縮を妨げる方向に引張応力がかかる。とくに、空気極のようなセラミックス材料は引張応力に弱いので、固体電解質から剥離し易くなる。
【0006】
本発明は、上記従来の状況に鑑みて成されたものであって、燃料電池の運転温度と酸素空孔量との関係、酸素分圧と酸素空孔量との関係に一定の増減関係があること着目し、運転温度の昇降時に生じる空気極の引張応力を緩和し、固体電解質層からの空気極の剥離を未然に防止することができる燃料電池システム及びその運転方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係わる燃料電池システムは、固体電解質層を燃料極と空気極とで挟んだ構造を有する単セルを積層して成る燃料電池スタックと、燃料電池スタックに燃料ガスを供給する燃料供給系と、燃料電池スタックに空気を供給するための空気供給系と、これらを制御する制御装置とを備えたものである。
【0008】
そして、燃料電池システムは、空気極の酸素分圧を計測する酸素分圧計測手段と、燃料電池スタックの温度を計測する電池温度計測手段と、空気極の酸素分圧を調整するための酸素分圧調整手段とを備え、制御装置が、相対的に高温である第1温度と相対的に低温である第2温度との間で運転温度を昇降させる際に、降温では、燃料電池スタックを冷却してから、空気極の酸素分圧を定格運転時の酸素分圧よりも低減させるように酸素分圧調整手段を制御する機能と、昇温では、制御開始とともに空気極の酸素分圧を定格運転時の酸素分圧よりも低減させるように酸素分圧調整手段を制御する機能と、低減させた空気極の酸素分圧が設定値か否かを判断する機能と、空気極の酸素分圧が設定値である場合に燃料電池スタックの温度が所定値か否かを判断する機能とを有すること特徴としている。
【0009】
本発明に係わる燃料電池システムの運転方法は、上記の燃料電池システムにおいて、燃料電池スタックの運転温度を相対的に高温である第1温度から相対的に低温である第2温度に降温させるに際し、S1.温度移行を決定する工程と、S2.燃料電池スタックを降温させる工程と、S3.空気極の酸素分圧を設定する工程と、S4.空気極の酸素分圧を定格運転時の酸素分圧よりも低減する工程と、S5.空気極の酸素分圧が設定値か否かを判断する工程と、S6.燃料電池スタックの温度を計測する工程と、S7.燃料電池スタックの温度が所定値か否かを判断する工程とを順に備えている。そして、運転方法は、燃料電池スタックの温度が所定値に到るまで上記S2〜S7の工程を繰り返すことを特徴としている。
【0010】
さらに、本発明に係わる燃料電池システムの運転方法は、上記の燃料電池システムにおいて、燃料電池スタックの運転温度を相対的に低温である第2温度から相対的に高温である第1温度に昇温させる場合に際し、S11.温度移行を決定する工程と、S12.空気極の酸素分圧を設定する工程と、S13.空気極の酸素分圧を定格運転時の酸素分圧よりも低減する工程と、S14.空気極の酸素分圧が設定値か否かを判断する工程と、S15.燃料電池スタックを昇温する工程と、S16.燃料電池スタックの温度を計測する工程と、S17.燃料電池スタックの温度が所定値か否かを判断する工程とを順に備えている。そして燃料電池スタックの温度が所定値に到るまで上記S12〜S17の工程を繰り返すことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係わる燃料電池システム及びその運転方法によれば、運転温度の昇降時に空気極の酸素分圧を低減することで空気極の酸素空孔量を増加させ、これにより空気極の引張応力を緩和し、固体電解質層からの空気極の剥離を未然に防止することができる。また、空気極の酸素分圧を低減させるにあたり、降温では、燃料電池スタックを冷却してから、酸素分圧調整手段を制御し、昇温では、制御開始とともに酸素分圧調整手段を制御することにより、効率よく温度の昇降温と空気極の酸素分圧の調整を行うことが可能となり、燃料電池システムの温度昇降時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係わる燃料電池システムの第1実施形態を説明するブロック図(A)、制御装置による制御を説明するフローチャート(B)、図B中における酸素分圧設定の過程を説明するフローチャート(C)、及び図B中における酸素分圧低減の過程を説明するフローチャート(D)である。
図2図1(B)中における酸素分圧判断の過程を説明するフローチャートである。
図3】空気極材料の酸素空孔量の温度依存性を示すグラフ(A)、及び運転温度と空気極の応力との関係を示すグラフ(B)である。
図4】運転温度の昇降時における時間と空気極の応力との関係から本願発明の効果を説明するグラフである。
図5】本発明に係わる燃料電池システムの第2実施形態を説明するブロック図(A)、制御装置による制御を説明するフローチャート(B)、図B中における酸素分圧設定の過程を説明するフローチャート(C)、及び図B中における酸素分圧低減の過程を説明するフローチャート(D)である。
図6】本発明に係わる燃料電池システムの第3実施形態を説明するブロック図(A)、制御装置による制御を説明するフローチャート(B)、図B中における酸素分圧設定の過程を説明するフローチャート(C)、及び図B中における酸素分圧低減の過程を説明するフローチャート(D)である。
図7】本発明に係わる燃料電池システムの第4実施形態を説明するブロック図(A)、制御装置による制御を説明するフローチャート(B)、図B中における酸素分圧設定の過程を説明するフローチャート(C)、及び図B中における酸素分圧低減の過程を説明するフローチャート(D)である。
図8】本発明に係わる燃料電池システムの第5実施形態を説明するブロック図(A)、制御装置による制御を説明するフローチャート(B)、図B中における酸素分圧設定の過程を説明するフローチャート(C)、及び図B中における酸素分圧低減の過程を説明するフローチャート(D)である。
図9】本発明に係わる燃料電池システムの第6実施形態を説明するブロック図(A)、制御装置による制御を説明するフローチャート(B)、図B中における酸素分圧設定の過程を説明するフローチャート(C)、及び図B中における酸素分圧低減の過程を説明するフローチャート(D)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〈第1実施形態〉
図1(A)に示す燃料電池システムは、複数の単セルを積層してなる燃料電池スタック1と、燃料電池スタック1に燃料ガスを供給する燃料供給系と、燃料電池スタック1に空気を供給する空気供給系と、これらを制御する制御装置2を備えている。燃料電池スタック1には、モーター等の外部負荷Eと、バッテリーBが接続してある。
【0014】
燃料電池スタック1を構成する単セルは、詳細な図示を省略したが、固体電解質層を燃料極と空気極とで挟んだ構造を有し、このほか、夫々の電極に対して燃料ガス及び空気(酸化剤ガス)の流路を気密的に形成するセパレータを備えたものである。ここで、材料の一例として、固体電解質層は、Ce0.8Gd0.2(GDC)であり、空気極は、La0.6Sr0.4Co0.8Fe0.23−δ(LSCF)である。また、燃料極は、例えば、ニッケル(Ni)+イットリア安定化ジルコニア(YSZ)のサーメットである。
【0015】
燃料供給系は、燃料供給配管3に、調整バルブ4、ポンプ5、及び改質器6を備えたものであって、例えば炭化水素系燃料を水素含有の燃料ガスに改質し、これを燃料電池スタック1における各単セルの燃料極に供給する。空気供給系は、空気供給配管7に、調整バルブ8、ブロア9、及び予熱器10を備えたものであって、燃料電池スタック1における各単セルの空気極に空気を供給する。本発明では、空気極に空気を供給するとしているが、厳密には、空気極に酸素含有ガス若しくは酸素を供給する。
【0016】
また、図示の燃料電池システムは、燃料電池スタック1の排気側に、各単セルの燃料極から排出した排出燃料ガスを流通させる燃料排出配管11と、各単セルの空気極から排出した排出空気を流通させる空気排出配管12と、排出燃料ガス及び排出空気を混合燃料させる燃焼器13を備えている。排出燃料ガス及び排出空気には、未反応の水素ガス及び酸素ガスが夫々含まれているので、燃焼器13において混合燃焼させることができる。
【0017】
さらに、燃料排出配管11には、三方弁14が配置され、この三方弁14には、燃料供給配管3におけるポンプ4と改質器6との間に排出燃料ガスを還流させる還流経路15が設けてある。さらに、燃焼器13の排気管16には、別の三方弁17が配置され、この三方弁17には、予熱器10を経て外部に到る排出管18が設けてある。これにより、予熱器10は、燃焼器13の排気ガスの熱を利用して空気を予熱する。
【0018】
また、燃料電池システムは、空気極の酸素分圧を計測する酸素分圧計測手段(例えば圧力センサ)Pと、燃料電池スタック1の温度を計測する電池温度計測手段(例えば温度センサ)Tと、空気極の酸素分圧を調整するための酸素分圧調整手段とを備えている。この実施形態の酸素分圧調整手段は、空気供給系に配置され且つ燃料電池スタック1への空気の供給量を調整する調整バルブであり、先述した空気供給系を構成する調整バルブ8である。
【0019】
制御装置2は、燃料電池スタック1、バッテリーB、各調整バルブ4,8、及び三方弁14,17を制御すると共に、酸素分圧計測手段Pや電池温度計測手段Tからの計測データが入力され、相対的に高温である第1温度と相対的に低温である第2温度との間で運転温度を昇降させる際に、空気極の酸素分圧を定格運転時の酸素分圧よりも低減させるように酸素分圧調整手段である調整バルブ8を制御する。
【0020】
また、制御装置2は、酸素分圧調整手段である調整バルブ8を制御するに際し、ソフトウエアとして、燃料電池スタック1を降温させる機能、燃料電池スタック1を昇温させる機能、空気極の酸素分圧を設定する機能、空気極の酸素分圧が設定値か否かを判断する機能、燃料電池スタック1の温度が所定値か否かを判断する機能を含むものである。
【0021】
本発明の燃料電池システム及びその運転方法において、温度昇降とは、外部負荷の出力要求に応じた運転温度の変更である。本発明の燃料電池システムでは、燃料電池スタック1を降温させるには、例えば、温度の低い空気の供給量を増加させるか、温度の高い燃料ガスの供給量を減少させる制御を行う。また、燃料電池スタック1を昇温させるには、降温時と逆に、温度の低い空気の供給量を減少させるか、温度の高い燃料ガスの供給量を増加させる制御を行う。
【0022】
ここで、燃料電池システムの運転方法では、燃料電池スタック1の運転温度を、相対的に高温である第1温度から相対的に低温である第2温度に降温させるには、温度移行を決定した後、先に燃料電池スタック1の降温を行ってから、空気極の酸素分圧を低減させるようにする。これとは逆に、燃料電池スタック1の運転温度を、相対的に低温である第2温度から相対的に温である第1温度に昇温させるには、温度移行を決定した後、先に空気極の酸素分圧を低減させてから、燃料電池スタック1の昇温を行うようにする。
【0023】
燃料電池システムの運転方法では、上述の如く、降温と昇温とで制御の順序が異なっている。すなわち、降温過程では、先ず燃料電池スタック1を冷却する。燃料電池スタック1を冷却するには、低温である空気の供給量を増加させるが、流量が大きいガス(空気)による濃度調整は効率が悪いため、制御開始とともに空気の供給量を増加させて冷却を行い、温度が下がってから酸素分圧を低減させる制御を行う。これに対して、昇温過程では、温度を上げるために低温の空気の供給量を減少させることが可能なため、制御開始とともに空気極の酸素分圧を低減させる制御を行うことができる。こうすることで、効率よく温度の昇温と空気極の酸素分圧の調整を行うことが可能となり、燃料電池システムの温度昇降時間を短縮することができる。
【0024】
以下、図1(B)〜(D)及び図2に示すフローチャートに基づいて、燃料電池システムの運転方法を説明する。この実施形態では、燃料電池スタック1の運転温度を、相対的に高温である第1温度から相対的に低温である第2温度に降温させる場合を説明する。
【0025】
すなわち、燃料電池システムの運転方法は、図1(B)に示すように、温度移行を決定する工程S1と、燃料電池スタック1を降温させる工程S2と、空気極の酸素分圧を設定する工程S3と、空気極の酸素分圧を定格運転時の酸素分圧よりも低減する工程S4とを備えている。また、同運転方法は、空気極の酸素分圧が設定値か否かを判断する工程S5と、燃料電池スタックの温度を計測する工程S6と、燃料電池スタックの温度が所定値か否かを判断する工程S7とを備え、燃料電池スタック1の温度が所定値に到るまで上記工程S2〜S7を繰り返す。
【0026】
図1(B)に示す空気極の酸素分圧を設定する工程S3は、図1(C)に詳細を示すように、酸素分圧の設定を開始する工程S31、酸素分圧計測手段Pにより空気極の酸素分圧を計測する工程S32、電池温度計測手段Tにより燃料電池スタック1の温度を計測する工程S33、内部データを参照する工程S34、空気極の酸素分圧を設定する工程S35を備えている。
【0027】
ここで、空気極の酸素分圧を設定する工程S3において、内部データを参照する工程S34では、空気極の酸素空孔と温度、空気極の酸素空孔と酸素分圧、酸素空孔と歪、酸素空孔と空気極の応力の関係を含む内部データに基づくと共に、燃料電池スタック1の運転状況に応じて空気極の酸素分圧を設定する。このように空気極の酸素分圧を設定することで、温度変化とともに徐々に酸素分圧を変えることが可能になり、空気極にかかる応力を急激に変えることなく制御することができ、空気極への負担を軽減することができる。
【0028】
また、空気極の酸素分圧を設定する工程S3では、より好ましい実施形態として、設定する酸素分圧の下限値が、予め実験で求めた空気極材料の導電性に基づく値(導電性が劣化しない値)であるものとすることができる。これにより、必要以上に還元に振りすぎて空気極を壊さないためのフェールセーフ機能が働くこととなる。
【0029】
さらに、空気極の酸素分圧を設定する工程S3では、より好ましい実施形態として、設定する酸素分圧の下限値が、燃料電池システムの運転条件の最低の酸素分圧値であるものとすることができる。これにより、必要以上に還元に振りすぎてシステム効率が悪化するのを未然に阻止することができる。
【0030】
図1(B)に示す酸素分圧を低減する工程S4は、図1(D)に詳細を示すように、空気極の酸素分圧の低減を開始する工程S41と、酸素分圧調整手段である調整バルブ8の開度を小さくして空気(酸化剤ガス)の供給量を低減させる工程S42と、燃料電池スタック1の出力を調整する工程S43とを備えている。つまり、空気極の酸素分圧の低減は、調整バルブ8による空気の供給量制御、及び燃料電池スタックの出力制御により、空気(酸素)を消費することにより行う。
【0031】
図1(B)に示す空気極の酸素分圧が設定値か否かを判断する工程S5は、図2に詳細を示すように、酸素分圧の判断を開始する工程S51と、酸素分圧計測手段Pにより空気極の酸素分圧を計測する工程S52と、計測した酸素分圧が所定値であるか否かを判断する工程S53と、前工程(S53)で酸素分圧の所定値が現在値よりも小さい場合には酸素分圧を低減する工程S54と、前工程(S53)で酸素分圧の所定値が現在値よりも大きい場合には空気(酸化剤ガス)の供給量を増大させる工程S55とを備えている。
【0032】
そして、燃料電池システムの運転方法は、図1(B)に示す燃料電池スタック1の温度が所定値か否かを判断する工程S7において、燃料電池スタック1の温度が所定値でない場合(NO)には、燃料電池スタック1を降温させる工程S2に戻って、それ以下の工程S3〜S7を繰り返し、燃料電池スタック1の温度が所定値である場合(YES)には、燃料電池スタック1の運転温度が第1温度から第2温度に降温したものとして制御を終了する。
【0033】
ここで、図3(A)には、空気極材料の酸素空孔量の温度依存性を示し、破線の矢印が、第1温度から第2温度への降温を示している。図3中のマークは、菱形(◆)が通常の空気(Air;酸素(O)20%)を示し、四角(■)が酸素10%を示し、三角(▲)が酸素5%を示している。同図により、空気極の酸素分圧が低いほど、酸素空孔量が少ないことがわかる。第1温度及び第2温度のいずれにおいても、酸素分圧が低いほど酸素空孔量が少ない。
【0034】
また、図3(B)には、運転温度と空気極の応力との関係を示し、破線の矢印が、第1温度から第2温度への降温を示している。同図により、空気極の酸素分圧が低いほど、空気極の応力(引張応力)が小さいことがわかる。
【0035】
つまり、上記実施形態の燃料電池システム及びその運転方法では、燃料電池スタック1の運転温度を、相対的に高温である第1温度から相対的に低温である第2温度に降温させる場合に、空気極の酸素分圧を低減することで、空気極の酸素空孔量を増加させる。これにより、固体電解質層に対して、相対的に酸素空孔の変化による収縮の大きい空気極の収縮を小さく抑えることで、空気極にかかる引張応力を緩和し、固体電解質層からの空気極の剥離を未然に防止することができる。
【0036】
具体的な一例を挙げると、第1温度を800℃とし、第2温度を700℃とした場合、温度昇降時に 空気→O2 5%に調整すると、空気極にかかる引張応力を10−20MPa緩和させることができる。
【0037】
また、燃料電池システム及びその運転方法では、運転時の酸素分圧から急激に酸素分圧を低減させると、空気極の応力分布が急激に変化して、空気極が劣化する場合がある。その際、図1(B)中の工程S2〜S7に示すフィードバック制御を行わずに酸素分圧を一気に調整してしまうと、空気極に大きな応力変化が生じるため、固体電解質層から剥離するなどの可能性がある。そこで、上記実施形態の燃料電池システム及びその運転方法では、上記工程S2〜S7に示すフィードバック制御により、温度変化とともに段階的に酸素分圧を決定及び調整を行うことで、空気極の応力変化を抑制し、耐久性を上げることができる。このようなフィードバック制御を行うことは、空気極を保護する観点でより望ましい。
【0038】
ここで、図4は、運転温度の昇降時における時間と空気極の応力との関係から本願発明の効果を説明するグラフである。図4中に破線で示すように、温度移行の間では、定格の酸素分圧が通常の空気のまま変化するのに対して、図4中に実線で示す本実施形態の制御では、空気極にかかる引張応力を時間的に緩和することができる。
【0039】
ただし、温度昇降後に再び運転を開始する場合、最終的には再度通常の空気に戻すことになり、応力が通常の空気の状態と同じになるが、その際、通常の空気に戻す時間は、図4中に破線の矢印Pで示すように、温度昇降の時間スケールに対して小さい。このため、燃料電池スタック1のライフタイムでみると、本実施形態の制御により空気極に引張応力がかかる時間を短縮することができる。とくに、車載用のシステムのように、出力変動で運転温度の昇降を頻繁に繰り返す燃料電池システムでは、空気極が高い引張応力下に曝される時間が短くなり、耐久性が向上する。
【0040】
また、上記の燃料電池システム及びその運転方法では、空気極の酸素分圧を定格運転時の酸素分圧よりも低減する工程において、酸素分圧調整手段である調整バルブ8による空気の供給量制御と、燃料電池スタック1の出力制御とによって空気極の酸素分圧を低減させるので、空気供給系を備えた既存のシステムで実施することができる。
【0041】
以下、図5図9に基づいて、第2〜第6の実施形態を説明する。なお、第2〜第6の実施形態において、第1実施形態と同一の構成部位は、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0042】
〈第2実施形態〉
図5(A)に示す燃料電池システムは、第1実施形態と同等の基本構成を備えたものであるが、空気極の酸素分圧を調整するための酸素分圧調整手段が、燃焼器13の排気ガスを空気供給系側に還流させる還流経路19と、空気供給系に対して還流経路19を開閉する還流バルブ20とを備えている。還流流路19は、第1実施形態の排出管(18)、すなわち燃焼器13の排気管16に設けた三方弁17から、予熱器10を経て外部に到る排出管(18)を利用したものである。そして、還流流路19は、予熱器10の下流側に、空気供給系の空気供給配管7との間を開閉する還流バルブ(三方弁)20を備えている。
【0043】
以下、図5(B)〜(D)に示すフローチャートに基づいて、燃料電池システムの運転方法を説明する。この実施形態では、燃料電池スタック1の運転温度を、相対的に高温である第1温度から相対的に低温である第2温度に降温させる場合を説明する。
【0044】
すなわち、燃料電池システムの運転方法は、図5(B)に示すように、温度移行を決定する工程S1と、燃料電池スタック1を降温させる工程S2と、空気極の酸素分圧を設定する工程S3と、空気極の酸素分圧を定格運転時の酸素分圧よりも低減する工程S4とを備えている。また、同運転方法は、空気極の酸素分圧が設定値か否かを判断する工程S5と、燃料電池スタック1の降温を継続する工程S5aと、燃料電池スタックの温度を計測する工程S6と、燃料電池スタックの温度が所定値か否かを判断する工程S7とを備え、燃料電池スタック1の温度が所定値に到るまで上記工程S5a〜S7を繰り返す。
【0045】
図5(B)に示す空気極の酸素分圧を設定する工程S3は、図5(C)に詳細を示すように、酸素分圧の設定を開始する工程S301、酸素分圧を入力する工程S302を備えている。ここで、空気極の酸素分圧を設定する工程S3において、酸素分圧を入力する工程S302では、予め規定した値を用いて空気極の酸素分圧を設定する。このように、予め規定した値を用いることで、複雑なプログラムが不要になり、シンプルな制御を行うことができる。
【0046】
次に、図5(B)に示す酸素分圧を低減する工程S4は、図5(D)に詳細を示すように、空気極の酸素分圧の低減を開始する工程S401と、酸素分圧調整手段により空気(酸化剤ガス)の供給量を低減させる工程S402と、排気ガスを導入する工程S403とを備えている。この実施形態では、排気ガスを導入する工程S403において、酸素分圧調整手段である還流流路19及び還流バルブ20により、空気供給系に燃焼器13の排気ガスを還流させて導入する。これにより、燃料電池スタック1に供給する空気に排気ガスを混合させることで酸素分圧を低減させる。
【0047】
空気極の酸素分圧が設定値か否かを判断する工程S5では、第1実施形態の図2に示す工程を用いることができる。そして、この実施形態では、燃料電池スタック1に排気ガスを含む空気を導入し続けることで、燃料電池スタック1の降温を継続する(工程S5a)。そして、図5(B)に示す燃料電池スタック1の温度判断の工程S7において、燃料電池スタック1の温度が所定値でない場合(NO)には、燃料電池スタック1の降温を継続し(工程S5a)、燃料電池スタック1の温度が所定値である場合(YES)には、燃料電池スタック1の運転温度が第2温度に達したものとして制御を終了する。
【0048】
上記実施形態の燃料電池システム及びその運転方法によれば、先の実施形態と同様に、燃料電池スタック1の運転温度を降温させる場合に、空気極の酸素分圧を低減して酸素空孔量を増加させ、空気極の引張応力を緩和して固体電解質層からの剥離を未然に防止することができる。また、上記の運転方法によれば、燃料電池スタック1の運転温度が第2温度に達するまで空気極の降温を継続させれば良いので、制御がシンプルなものになる。
【0049】
〈第3実施形態〉
図6(A)に示す燃料電池システムは、第1実施形態と同等の基本構成を備えたものであるが、空気極の酸素分圧を調整するための酸素分圧調整手段が、空気供給系に希釈ガスを供給する希釈ガス供給装置21を備えている。希釈ガス供給装置21は、希釈ガスボンベ22と、希釈ガスボンベ22から空気供給配管7に到る希釈ガス配管23と、希釈ガス配管23の中間を開閉する開閉バルブ24を備えている。希釈ガスは、とくに限定されないが、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスであることがより望ましい。
【0050】
以下、図6(B)〜(D)に示すフローチャートに基づいて、燃料電池システムの運転方法を説明する。この実施形態では、燃料電池スタック1の運転温度を、相対的に高温である第1温度から相対的に低温である第2温度に降温させる場合を説明する。
【0051】
すなわち、燃料電池システムの運転方法は、第1実施形態(図1参照)と同様に、図6(B)に示すように、温度移行を決定する工程S1と、燃料電池スタック1を降温させる工程S2と、空気極の酸素分圧を設定する工程S3と、空気極の酸素分圧を定格運転時の酸素分圧よりも低減する工程S4とを備えている。また、同運転方法は、空気極の酸素分圧が設定値か否かを判断する工程S5と、燃料電池スタックの温度を計測する工程S6と、燃料電池スタックの温度が所定値か否かを判断する工程S7とを備え、燃料電池スタック1の温度が所定値に到るまで上記工程S2〜S7を繰り返す。
【0052】
図6(B)に示す空気極の酸素分圧を設定する工程S3は、図6(C)に詳細を示すように、酸素分圧の設定を開始する工程S301、酸素分圧を入力する工程S302を備えている。酸素分圧を入力する工程S302では、予め規定した値を用いて空気極の酸素分圧を設定し、予め規定した値を用いることで制御をシンプルにしている。
【0053】
次に、図6(B)に示す酸素分圧を低減する工程S4は、図6(D)に詳細を示すように、空気極の酸素分圧の低減を開始する工程S401と、酸素分圧調整手段により空気(酸化剤ガス)の供給量を低減させる工程S402と、希釈ガスを導入する工程S413とを備えている。この実施形態では、希釈ガスを導入する工程S413において、酸素分圧調整手段である希釈ガス供給手段20により、空気供給系に希釈ガスを導入する。これにより、燃料電池スタック1に供給する空気に希釈ガスを混合させることで酸素分圧を低減させる。
【0054】
空気極の酸素分圧が設定値か否かを判断する工程S5では、第1実施形態の図2に示す工程を用いることができる。そして、この実施形態では、図6(B)に示す燃料電池スタック1の温度判断の工程S7において、燃料電池スタック1の温度が所定値でない場合(NO)には、燃料電池スタック1を降温させる工程S2に戻って、それ以下の工程S3〜S7を繰り返し、燃料電池スタック1の温度が所定値である場合(YES)には、燃料電池スタック1の運転温度が第2温度に降温したものとして制御を終了する。
【0055】
上記実施形態の燃料電池システム及びその運転方法によれば、先の実施形態と同様に、燃料電池スタック1の運転温度を降温させる場合に、空気極の酸素分圧を低減して酸素空孔量を増加させ、空気極の引張応力を緩和して固体電解質層からの剥離を未然に防止することができる。また、この実施形態の燃料電池システムの運転方法では、上記工程S2〜S7に示すフィードバック制御により、温度変化とともに段階的に酸素分圧を決定及び調整を行うことで、空気極の応力変化を抑制し、耐久性を上げることができる。
【0056】
〈第4実施形態〉
図7(A)に示す燃料電池システムは、第1実施形態(図1参照)に示すものと同様であり、空気極の酸素分圧を調整するための酸素分圧調整手段として、空気供給系に配置され且つ燃料電池スタック1への空気の供給量を調整する調整バルブ8を備えている。
【0057】
以下、図7(B)〜(D)に示すフローチャートに基づいて、燃料電池システムの運転方法を説明する。第1〜第3の実施形態では、燃料電池スタック1の運転温度を降温させる場合を例示したが、この実施形態では、燃料電池スタック1の運転温度を、相対的に低温である第2温度から相対的に高温である第1温度に昇温させる場合を説明する。
【0058】
すなわち、燃料電池システムの運転方法は、図7(B)に示すように、温度移行を決定する工程S11と、空気極の酸素分圧を設定する工程S12と、空気極の酸素分圧を定格運転時の酸素分圧よりも低減する工程S13と、空気極の酸素分圧が設定値か否かを判断する工程S14とを備えている。そして、運転方法は、燃料電池スタック1を昇温する工程S15と、燃料電池スタック1の温度を計測する工程S16と、燃料電池スタック1の温度が所定値か否かを判断する工程S17とを備え、燃料電池スタック1の温度が所定値に到るまで上記S12〜S17の工程を繰り返す。
【0059】
図7(B)に示す空気極の酸素分圧を設定する工程S12は、第1実施形態(図1(C)参照)と同様である。すなわち、図7(C)に詳細を示すように、酸素分圧の設定を開始する工程S31、酸素分圧計測手段Pにより空気極の酸素分圧を計測する工程S32、電池温度計測手段Tにより燃料電池スタック1の温度を計測する工程S33、内部データを参照する工程S34、空気極の酸素分圧を設定する工程S35を備えている。
【0060】
内部データを参照する工程S34では、空気極の酸素空孔と温度、空気極の酸素空孔と酸素分圧、酸素空孔と歪、酸素空孔と空気極の応力の関係を含む内部データに基づくと共に、燃料電池スタック1の運転状況に応じて空気極の酸素分圧を設定する。このように空気極の酸素分圧を設定することで、温度変化とともに徐々に酸素分圧を変えることが可能になり、空気極にかかる応力を急激に変えることなく制御することができ、空気極への負担を軽減することができる。
【0061】
図7(B)に示す酸素分圧を低減する工程S13は、第1実施形態(図1(D)参照)と同様である。すなわち、図7(D)に詳細を示すように、空気極の酸素分圧の低減を開始する工程S41と、酸素分圧調整手段である調整バルブ8の開度を小さくして空気(酸化剤ガス)の供給量を低減させる工程S42と、燃料電池スタック1の出力を調整する工程S43とを備えている。
【0062】
つまり、空気極の酸素分圧の低減は、調整バルブ8による空気の供給量制御、及び燃料電池スタックの出力制御により、空気(酸素)を消費することにより行う。図7(B)に示す空気極の酸素分圧が設定値か否かを判断する工程S14は、第1実施形態の図2に示す工程を用いることができる。
【0063】
そして、燃料電池システムの運転方法は、燃料電池スタック1を昇温する工程S15、及び燃料電池スタック1の温度を計測する工程S16を経たのち、燃料電池スタック1の温度を判断する工程S17において、燃料電池スタック1の温度が所定値でない場合(NO)には、酸素分圧を設定する工程S12に戻って、それ以下の工程S13〜S17を繰り返し、燃料電池スタック1の温度が所定値である場合(YES)には、燃料電池スタック1の運転温度が第2温度から第1温度に昇温したものとして制御を終了する。
【0064】
ここで、第1実施形態で説明した図3(A)では、実線の矢印が、第2温度から第1温度への昇温を示している。空気極材料の酸素空孔量の温度依存性は、第1温度及び第2温度のいずれにおいても、酸素分圧が低いほど酸素空孔量が少ない。また、図3(B)では、実線の矢印が、第2温度から第1温度への昇温を示している。運転温度と空気極の応力との関係は、空気極の酸素分圧が低いほど、空気極の応力(引張応力)が小さい。
【0065】
つまり、上記実施形態の燃料電池システム及びその運転方法では、燃料電池スタック1の運転温度を、相対的に低温である第2温度から相対的に高温である第1温度に昇温させる場合でも、降温時同様に、空気極の酸素分圧を低減することで、空気極の酸素空孔量を増加させる。これにより固体電解質層に対して、相対的に酸素空孔の変化による収縮の大きい空気極の収縮を小さく抑えることで、空気極にかかる引張応力を緩和し、固体電解質層からの空気極の剥離を未然に防止することができる。
【0066】
また、上記の燃料電池システム及びその運転方法では、第1実施形態と同様に、空気極の酸素分圧を定格運転時の酸素分圧よりも低減する工程において、酸素分圧調整手段である調整バルブ8による空気の供給量制御と、燃料電池スタック1の出力制御とによって空気極の酸素分圧を低減させるので、空気供給系を備えた既存のシステムで実施することができる。
【0067】
さらに、この実施形態のように、燃料電池スタック1の運転温度を第2温度から第1温度に昇温させる場合には、発電に伴う発熱で昇温のエネルギーが得られ、これにより昇温時間が短縮できるため、空気供給量を制御した後に燃料電池スタック1の出力調整を行うことが望ましい。
【0068】
なお、発熱量を稼ぐために大出力で発電する場合には、酸素消費の増大とともに酸素分圧が急激に下がり易いので、酸素分圧の下限値を設けておくと良い。この酸素分圧の下限値は、第1実施形態で説明したように、予め実験で求めた空気極材料の導電性に基づく値(導電性が劣化しない値)や、燃料電池システムの運転条件の最低の酸素分圧値とするのが望ましい。
【0069】
さらに、上記実施形態の燃料電池システム及びその運転方法によれば、第1実施形態と同様に、上記工程S12〜S17に示すフィードバック制御により、温度変化とともに段階的に酸素分圧を決定及び調整を行うことで、空気極の応力変化を抑制し、耐久性を上げることができる。
【0070】
〈第5実施形態〉
図8(A)に示す燃料電池システムは、第2実施形態と同等の基本構成を備えたものであり、空気極の酸素分圧を調整するための酸素分圧調整手段が、燃焼器13の排気ガスを空気供給系側に還流させる還流経路19と、空気供給系に対して還流経路19を開閉する還流バルブ20とを備えている。
【0071】
以下、図8(B)〜(D)に示すフローチャートに基づいて、燃料電池システムの運転方法を説明する。この実施形態では、燃料電池スタック1の運転温度を、相対的に低温である第2温度から相対的に高温である第2温度に昇温させる場合を説明する。
【0072】
この実施形態の燃料電池システムの運転方法は、基本的に第4実施形態(図7(B)参照)と同様である。すなわち、燃料電池システムの運転方法は、図8(B)に示すように、温度移行を決定する工程S11と、空気極の酸素分圧を設定する工程S12と、空気極の酸素分圧を定格運転時の酸素分圧よりも低減する工程S13と、空気極の酸素分圧が設定値か否かを判断する工程S14とを備えている。そして、運転方法は、燃料電池スタック1を昇温する工程S15と、燃料電池スタック1の温度を計測する工程S16と、燃料電池スタック1の温度が所定値か否かを判断する工程S17とを備え、第4実施形態とは異なる構成として、燃料電池スタック1の温度が所定値に到るまで上記S15〜S17の工程を繰り返す。
【0073】
図8(B)に示す空気極の酸素分圧を設定する工程S12は、第2実施形態(図5(C)参照)と同様である。すなわち、図8(C)に詳細を示すように、酸素分圧の設定を開始する工程S301、酸素分圧を入力する工程S302を備えている。ここで、酸素分圧を入力する工程S302では、予め規定した値を用いて空気極の酸素分圧を設定する。このように、予め規定した値を用いることで、複雑なプログラムが不要になり、シンプルな制御を行うことができる。
【0074】
次に、図8(B)に示す酸素分圧を低減する工程S13は、第2実施形態(図5(D)参照)と同様である。すなわち、図8(D)に詳細を示すように、空気極の酸素分圧の低減を開始する工程S401と、酸素分圧調整手段により空気(酸化剤ガス)の供給量を低減させる工程S402と、排気ガスを導入する工程S403とを備えている。
【0075】
この実施形態では、排気ガスを導入する工程S403において、酸素分圧調整手段である還流流路19及び還流バルブ20により、空気供給系に燃焼器13の排気ガスを還流させて導入する。これにより、燃料電池スタック1に供給する空気に排気ガスを混合させることで酸素分圧を低減させる。
【0076】
空気極の酸素分圧が設定値か否かを判断する工程S14では、第1実施形態の図2に示す工程を用いることができる。
【0077】
そして、燃料電池システムの運転方法は、燃料電池スタック1を昇温する工程S15、及び燃料電池スタック1の温度を計測する工程S16を経たのち、燃料電池スタック1の温度を判断する工程S17において、燃料電池スタック1の温度が所定値でない場合(NO)には、燃料電池スタック1を昇温する工程S15に戻り、燃料電池スタック1の温度が所定値である場合(YES)には、燃料電池スタック1の運転温度が第2温度から第1温度に昇温したものとして制御を終了する。
【0078】
上記実施形態の燃料電池システム及びその運転方法によれば、先の実施形態と同様に、燃料電池スタック1の運転温度を昇温させる場合に、空気極の酸素分圧を低減して酸素空孔量を増加させ、空気極の引張応力を緩和して固体電解質層からの剥離を未然に防止することができる。また、上記の運転方法によれば、燃料電池スタック1の運転温度が第1温度に達するまで空気極の昇温を継続させれば良いので、複雑なプログラムが不要であり、制御がシンプルなものになる。
【0079】
〈第6実施形態〉
図9(A)に示す燃料電池システムは、第3実施形態と同等の基本構成を備えたものであるが、空気極の酸素分圧を調整するための酸素分圧調整手段が、空気供給系に希釈ガスを供給する希釈ガス供給装置21を備えている。希釈ガス供給装置21は、希釈ガスボンベ22と、希釈ガスボンベ22から空気供給配管7に到る希釈ガス配管23と、希釈ガス配管23の中間を開閉する開閉バルブ24を備えている。
【0080】
以下、図9(B)〜(D)に示すフローチャートに基づいて、燃料電池システムの運転方法を説明する。この実施形態では、燃料電池スタック1の運転温度を、相対的に低温である第2温度から相対的に高温である第1温度に昇温させる場合を説明する。
【0081】
すなわち、燃料電池システムの運転方法は、第4実施形態と同様である。すなわち、図9(B)に示すように、温度移行を決定する工程S11と、空気極の酸素分圧を設定する工程S12と、空気極の酸素分圧を定格運転時の酸素分圧よりも低減する工程S13と、空気極の酸素分圧が設定値か否かを判断する工程S14とを備えている。そして、運転方法は、燃料電池スタック1を昇温する工程S15と、燃料電池スタック1の温度を計測する工程S16と、燃料電池スタック1の温度が所定値か否かを判断する工程S17とを備え、燃料電池スタック1の温度が所定値に到るまで上記S12〜S17の工程を繰り返す。
【0082】
図9(B)に示す空気極の酸素分圧を設定する工程S12は、第3実施形態(図6(C)参照)と同様である。すなわち、図9(C)に詳細を示すように、酸素分圧の設定を開始する工程S301、酸素分圧を入力する工程S302を備えている。酸素分圧を入力する工程S302では、予め規定した値を用いて空気極の酸素分圧を設定し、予め規定した値を用いることで制御をシンプルにしている。
【0083】
図9(B)に示す酸素分圧を低減する工程S11は、第3実施形態(図6(D)参照)と同様である。すなわち、 図9(D)に詳細を示すように、空気極の酸素分圧の低減を開始する工程S401と、酸素分圧調整手段により空気(酸化剤ガス)の供給量を低減させる工程S402と、希釈ガスを導入する工程S413とを備えている。この実施形態では、希釈ガスを導入する工程S413において、酸素分圧調整手段である希釈ガス供給手段20により、空気供給系に希釈ガスを導入する。これにより、燃料電池スタック1に供給する空気に希釈ガスを混合させることで酸素分圧を低減させる。
【0084】
そして、燃料電池システムの運転方法は、燃料電池スタック1を昇温する工程S15、及び燃料電池スタック1の温度を計測する工程S16を経たのち、燃料電池スタック1の温度を判断する工程S17において、燃料電池スタック1の温度が所定値でない場合(NO)には、酸素分圧を設定する工程S12に戻って、それ以下の工程S13〜S17を繰り返し、燃料電池スタック1の温度が所定値である場合(YES)には、燃料電池スタック1の運転温度が第2温度から第1温度に昇温したものとして制御を終了する。
【0085】
上記実施形態の燃料電池システム及びその運転方法によれば、先の実施形態と同様に、燃料電池スタック1の運転温度を昇温させる場合に、空気極の酸素分圧を低減して酸素空孔量を増加させ、空気極の引張応力を緩和して固体電解質層からの剥離を未然に防止することができる。また、この実施形態の燃料電池システムの運転方法では、上記工程S12〜S17に示すフィードバック制御により、温度変化とともに段階的に酸素分圧を決定及び調整を行うことで、空気極の応力変化を抑制し、耐久性を上げることができる。
【0086】
本発明に係わる燃料電池システム及びその運転方法は、詳細な構成が上記各実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成を適宜変更することが可能である。
【0087】
とくに、酸素分圧調整手段としては、空気供給系に配置され且つ燃料電池スタック1への空気の供給量を調整する調整バルブ8を備えた構成(第1,4実施形態)、燃焼器の排気ガスを空気供給系側に還流させる還流経路と、空気供給系に対して還流経路を開閉する還流バルブとを備えた構成(第2,5実施形態)、空気供給系に希釈ガスを供給する希釈ガス供給装置を備えた構成(第3,6実施形態)を説明したが、これらの構成適宜組み合わせることも可能であり、これにより酸素分圧の調整をより迅速に行うことができる。
【符号の説明】
【0088】
1 燃料電池スタック
2 制御装置
8 調整バルブ(酸素分圧調整手段)
13 燃焼器
19 還流経路
20 還流バルブ(酸素分圧調整手段)
21 希釈ガス供給装置(酸素分圧調整手段)
P 酸素分圧計測手段
T 電池温度計測手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9