特許第6394907号(P6394907)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6394907
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】電動圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04B 39/06 20060101AFI20180913BHJP
【FI】
   F04B39/06 Q
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-97537(P2015-97537)
(22)【出願日】2015年5月12日
(65)【公開番号】特開2016-211491(P2016-211491A)
(43)【公開日】2016年12月15日
【審査請求日】2017年8月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】大楢 和博
(72)【発明者】
【氏名】菱沼 裕民
(72)【発明者】
【氏名】元浪 博之
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 宗治
【審査官】 谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−009608(JP,A)
【文献】 特開2004−112988(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/035585(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 39/06
F04B 39/12
F04C 29/04
H02K 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、
前記回転軸が回転することにより流体を圧縮する圧縮部と、
前記回転軸を回転させる電動モータと、
前記回転軸、前記圧縮部及び前記電動モータが収容されている筒状のハウジングと、
を備えた電動圧縮機において、
前記電動モータは、筒状のステータコアと当該ステータコアに捲回されたコイルとを有するステータを備え、
前記ステータコアは前記ハウジングに嵌め込まれており、
前記ハウジングは、
前記ステータコアの外周面と当接している内周面と、
前記ステータコアに対して前記圧縮部とは反対側に配置されたものであって、前記流体が吸入される吸入口と、を備え、
前記ハウジング内には、前記回転軸よりも前記吸入口側に設けられ、且つ、前記回転軸の軸線方向に延びたものであって、前記流体が流れるメイン流路が形成され、
前記メイン流路は、前記ハウジング内に形成され且つ前記回転軸の軸線方向に延びたメイン溝と、前記ステータコアの外周面とによって形成されており、
前記メイン流路には、前記コイルに接続されるクラスタブロックが設けられており、
前記メイン流路の最小流路断面積は、前記クラスタブロックの外周面と、前記メイン溝の内壁面及び前記ステータコアの外周面との間に形成される隙間の面積であり、
前記圧縮部に流体を導入する導入孔は、前記ステータコアに対して前記圧縮部側であって、前記回転軸に対して前記メイン流路とは反対側に設けられており、
前記吸入口と前記導入孔とは、前記メイン流路と、前記ステータコアよりも前記圧縮部側に設けられ且つ前記コイルのコイルエンドが配置されたコイルエンド領域と、を介して繋がっており、
前記ハウジングは、前記メイン溝とは別に設けられたものであって、前記ハウジングの内周面から凹み、且つ、前記回転軸の軸線方向に延びたサブ溝を備え、当該サブ溝は、前記ステータコアの外周面と対向する第1部分溝と、前記第1部分溝と連通するとともに前記第1部分溝よりも深い第2部分溝とを有し、
前記サブ溝と前記ステータコアの外周面とによって形成されたサブ流路の最小流路断面積は、前記第1部分溝と前記ステータコアの外周面とによって形成された第1部分流路の流路断面積であり、
前記サブ流路の最小流路断面積は、前記メイン流路の最小流路断面積より小さいことを特徴とする電動圧縮機。
【請求項2】
前記第2部分溝は、前記第1部分溝よりも前記圧縮部側に配置されており、
前記第2部分溝と前記ステータコアの外周面とによって形成された第2部分流路は、前記導入孔と対向している請求項1に記載の電動圧縮機。
【請求項3】
前記ステータコアに対して当該ステータコアの軸線方向の両側には、前記コイルの一部である一対のコイルエンドが配置されており、
前記コイルエンド領域は、前記一対のコイルエンドのうち前記圧縮部側にある第1コイルエンドが配置されている第1コイルエンド領域であり、
前記吸入口は、前記一対のコイルエンドのうち前記第1コイルエンドとは反対側であって前記吸入口側にある第2コイルエンドが配置されている第2コイルエンド領域と対向している請求項1又は請求項2に記載の電動圧縮機。
【請求項4】
記サブ流路は、前記第1コイルエンド領域及び前記第2コイルエンド領域を連通している請求項3に記載の電動圧縮機。
【請求項5】
前記導入孔は第1導入孔であり、
前記電動圧縮機は、前記回転軸よりも前記第1導入孔とは反対側に設けられ、前記流体を前記圧縮部に導入する第2導入孔を備え、
前記第1導入孔は前記第2導入孔よりも広い請求項1〜4のうちいずれか一項に記載の電動圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば回転軸と、回転軸が回転することにより流体を圧縮する圧縮部と、回転軸を回転させる電動モータと、回転軸、圧縮部及び電動モータが収容されているハウジングとを備えている電動圧縮機が知られている(例えば特許文献1参照)。また、特許文献1には、ハウジング内に流入する流体を用いて、電動モータを冷却することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−201108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、電動モータは、例えばステータコアとコイルとを備えている。また、電動モータをハウジング内に収容する際には、焼き嵌め等によって、電動モータのステータコアをハウジングに嵌め込むことが考えられる。この場合、ハウジングからステータコアに対して応力が付与される。当該応力が過度に大きいと、ステータコアの変形等といった不都合が生じ得る。かといって、上記応力を緩和するために、流体による電動モータのコイルの冷却性能が低下することは好ましくない。
【0005】
本発明は、上述した事情を鑑みてなされたものであり、その目的はコイルの冷却性能の低下を抑制しつつ、ステータコアに付与される応力を緩和することができる電動圧縮機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する電動圧縮機は、回転軸と、前記回転軸が回転することにより流体を圧縮する圧縮部と、前記回転軸を回転させる電動モータと、前記回転軸、前記圧縮部及び前記電動モータが収容されている筒状のハウジングと、を備え、前記電動モータは、筒状のステータコアと当該ステータコアに捲回されたコイルとを有するステータを備え、前記ステータコアは前記ハウジングに嵌め込まれており、前記ハウジングは、前記ステータコアの外周面と当接している内周面と、前記ステータコアに対して前記圧縮部とは反対側に配置されたものであって、前記流体が吸入される吸入口と、を備え、前記ハウジング内には、前記回転軸よりも前記吸入口側に設けられ、且つ、前記回転軸の軸線方向に延びたものであって、前記流体が流れるメイン流路が形成され、前記メイン流路は、前記ハウジング内に形成され且つ前記回転軸の軸線方向に延びたメイン溝と、前記ステータコアの外周面とによって形成されており、前記メイン流路には、前記コイルに接続されるクラスタブロックが設けられており、前記メイン流路の最小流路断面積は、前記クラスタブロックの外周面と、前記メイン溝の内壁面及び前記ステータコアの外周面との間に形成される隙間の面積であり、前記圧縮部に流体を導入する導入孔は、前記ステータコアに対して前記圧縮部側であって、前記回転軸に対して前記メイン流路とは反対側に設けられており、前記吸入口と前記導入孔とは、前記メイン流路と、前記ステータコアよりも前記圧縮部側に設けられ且つ前記コイルのコイルエンドが配置されたコイルエンド領域と、を介して繋がっており、前記ハウジングは、前記メイン溝とは別に設けられたものであって、前記ハウジングの内周面から凹み、且つ、前記回転軸の軸線方向に延びたサブ溝を備え、当該サブ溝は、前記ステータコアの外周面と対向する第1部分溝と、前記第1部分溝と連通するとともに前記第1部分溝よりも深い第2部分溝とを有し、前記サブ溝と前記ステータコアの外周面とによって形成されたサブ流路の最小流路断面積は、前記第1部分溝と前記ステータコアの外周面とによって形成された第1部分流路の流路断面積であり、前記サブ流路の最小流路断面積は、前記メイン流路の最小流路断面積より小さいことを特徴とする。
【0007】
かかる構成によれば、吸入口から吸入された流体が、メイン溝とステータコアの外周面とによって形成されたメイン流路及びコイルエンド領域を通って導入孔に流れるため、流体を用いてコイルエンドを冷却させることができる。また、サブ溝が形成されている分だけ、ハウジングからステータコアに付与される応力を緩和することができる。これにより、ステータコアをハウジングに嵌め込むことによって生じ得る不都合、詳細にはステータコアに付与される応力に起因するステータコアの変形等を抑制できる。
【0008】
特に、本構成によれば、サブ溝は、深さの異なる第1部分溝及び第2部分溝を有しており、サブ溝とステータコアの外周面とによって形成されたサブ流路の最小流路断面積は、第1部分溝とステータコアの外周面とによって形成された第1部分流路の流路断面積となっている。そして、サブ流路の最小流路断面積は、メイン流路の最小流路断面積よりも小さいため、流体が、メイン流路よりもサブ流路に優先的に流れることを回避できる。よって、メイン流路を流れる流体の流量が減少することに起因するコイルの冷却性能の低下を抑制できる。そして、第1部分溝よりも深い第2部分溝が設けられている分だけ、より好適に応力緩和を図ることができる。よって、コイルの冷却性能の低下を抑制しつつ、ステータコアに付与される応力を緩和することができる。
【0009】
上記電動圧縮機について、前記第2部分溝は、前記第1部分溝よりも前記圧縮部側に配置されており、前記第2部分溝と前記ステータコアの外周面とによって形成された第2部分流路は、前記導入孔と対向しているとよい。かかる構成によれば、第2部分流路の流体は、導入孔に円滑に流れ込む。これにより、サブ流路を流れる流体が、メイン流路及びコイルエンド領域を通って導入孔に流れ込む流体の流れを阻害することを抑制できる。
【0010】
上記電動圧縮機について、前記ステータコアに対して当該ステータコアの軸線方向の両側には、前記コイルの一部である一対のコイルエンドが配置されており、前記コイルエンド領域は、前記一対のコイルエンドのうち前記圧縮部側にある第1コイルエンドが配置されている第1コイルエンド領域であり、前記吸入口は、前記一対のコイルエンドのうち前記第1コイルエンドとは反対側であって前記吸入口側にある第2コイルエンドが配置されている第2コイルエンド領域と対向しているとよい。かかる構成によれば、吸入口から吸入された流体は、メイン流路又は第2コイルエンド領域に分岐して流れる。これにより、流体は、両コイルエンド領域に流れることとなるため、両コイルエンドを好適に冷却することができる。
【0011】
上記電動圧縮機について、前記サブ流路は、前記第1コイルエンド領域及び前記第2コイルエンド領域を連通しているとよい。かかる構成によれば、第2コイルエンド領域の流体は、サブ流路及び第1コイルエンド領域を通って導入孔に流れる。これにより、第2コイルエンド領域の流体が滞留することを抑制できる。
【0012】
特に、第2コイルエンド領域に液体が溜まっていると、第2コイルエンドが液体に浸かる。この場合、コイルの絶縁抵抗の低下が懸念される。これに対して、本構成によれば、液体がサブ流路を通って導入孔から排出されるため、上記絶縁抵抗の低下を抑制できる。
【0013】
上記電動圧縮機について、前記導入孔は第1導入孔であり、前記電動圧縮機は、前記回転軸よりも前記第1導入孔とは反対側に設けられ、前記流体を前記圧縮部に導入する第2導入孔を備え、前記第1導入孔は前記第2導入孔よりも広いとよい。かかる構成によれば、第2導入孔が設けられているため、吸入口から吸入された流体が圧縮部に導かれ易くなっている。この場合、第1導入孔は第2導入孔よりも広いため、流体は、第2導入孔よりも第1導入孔に向けて優先的に流れる。このため、第2導入孔を設けることによる不都合、詳細には流体によるコイルの冷却性能の低下を抑制できる。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、コイルの冷却性能の低下を抑制しつつ、ステータコアに付与される応力を緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】電動圧縮機の概要を示す模式図。
図2図1の2−2線断面図。
図3図2における第1溝周辺の拡大図。
図4図2の4−4線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、電動圧縮機の一実施形態について説明する。本実施形態の電動圧縮機は例えば車両に搭載され、車両用空調装置に用いられる。すなわち、本実施形態における電動圧縮機の圧縮対象の流体は冷媒である。
【0017】
図1に示すように、電動圧縮機10は、車両用空調装置を構成する外部冷媒回路から冷媒が吸入される吸入口11aが形成されたハウジング11と、ハウジング11に収容された回転軸12、圧縮部13及び電動モータ14とを備えている。なお、吸入口11aから吸入される冷媒は気体である。
【0018】
ハウジング11は、全体として筒状(詳細には円筒状)である。ハウジング11は、例えば熱膨張する材料、詳細にはアルミニウム等で構成されている。ハウジング11は、吸入口11aが形成されたものであって一方に開口した有底筒形状の吸入ハウジング21と、冷媒が吐出される吐出口11bが形成された有底筒形状の吐出ハウジング22とを有している。吸入ハウジング21と吐出ハウジング22とは、互いに開口端同士が突き合わさった状態で組み付けられている。
【0019】
吸入口11aは、吸入ハウジング21の側壁部21aにおいて、側壁部21aの開口端よりも底部21b寄りの部分に形成されている。吐出口11bは、外部冷媒回路に接続されている。なお、説明の便宜上、以降の説明において、吸入口11aが形成されている側を単に鉛直方向上方とも言い、吸入口11aが形成されている側とは反対側を単に鉛直方向下方とも言う。
【0020】
回転軸12は、回転可能な状態でハウジング11内に収容されている。詳細には、ハウジング11内には、回転軸12を軸支する軸支部材31が設けられている。軸支部材31は、例えば圧縮部13と電動モータ14との間の位置にてハウジング11に固定されている。軸支部材31は、吸入ハウジング21の底部21bと対向しており、軸支部材31の側面31aと吸入ハウジング21の内周面21cとは当接している。
【0021】
軸支部材31には、回転軸12が挿通可能な挿通孔32が形成されており、当該挿通孔32の内面と回転軸12との間には、回転軸12を回転可能に支持する第1軸受33が設けられている。また、吸入ハウジング21の底部21bには、回転軸12が挿入された軸受凹部34が形成されており、当該軸受凹部34の側面と回転軸12との間には、回転軸12を回転可能に支持する第2軸受35が設けられている。回転軸12は、両軸受33,35によって回転可能な状態で軸支されている。
【0022】
圧縮部13は、ハウジング11内において、吸入口11aよりも吐出口11b側に配置されている。圧縮部13は、回転軸12が回転することによって、吸入口11aからハウジング11内に吸入された冷媒を圧縮し、その圧縮された冷媒を吐出口11bから吐出させるものである。
【0023】
詳細には、圧縮部13は、ハウジング11に固定された固定スクロール41と、固定スクロール41に対して公転運動が可能な可動スクロール42とを備えている。
固定スクロール41は、回転軸12の軸線Lと一致する中心軸を有する円板状の固定側基板41aと、固定側基板41aから起立した固定側渦巻壁41bとを有する。同様に、可動スクロール42は、円板状であって固定側基板41aと対向する可動側基板42aと、可動側基板42aから固定側基板41aに向けて起立した可動側渦巻壁42bとを備えている。
【0024】
固定スクロール41と可動スクロール42とは互いに噛み合っている。詳細には、固定側渦巻壁41bと可動側渦巻壁42bとは互いに噛み合っている。そして、固定スクロール41と可動スクロール42とによって圧縮室43が形成されている。
【0025】
可動スクロール42は、回転軸12の回転に伴って公転運動するように構成されている。詳細には、回転軸12の一部は、軸支部材31の挿通孔32を介して圧縮部13に向けて突出している。そして、回転軸12における圧縮部13側の端面のうち回転軸12の軸線Lに対して偏心した位置には、偏心軸44が設けられている。そして、偏心軸44にはブッシュ45が設けられている。ブッシュ45と可動スクロール42(詳細には可動側基板42a)とは軸受46を介して連結されている。
【0026】
また、図1に示すように、電動圧縮機10は、吸入口11aから吸入された冷媒を圧縮部13の圧縮室43に導入する導入孔51,52を備えている。両導入孔51,52は、例えば軸支部材31と吸入ハウジング21との間に形成された隙間である。詳細には、吸入ハウジング21における軸支部材31と回転軸12の径方向Rに対向する部分のうち第1導入孔51に対応する部分が回転軸12の径方向R外側に突出しており、その突出部分の内面と軸支部材31の側面31aとによって第1導入孔51が区画されている。また、第2導入孔52は、軸支部材31の側面31aにおける第2導入孔52に対応する部分が凹むことによって形成されている。なお、これに限られず、両導入孔51,52は、軸支部材31に形成された貫通孔でもよい。
【0027】
ちなみに、本実施形態では、両導入孔51,52の大きさは異なっている。詳細には、第1導入孔51は、第2導入孔52よりも広く形成されている。換言すれば、第1導入孔51の流路断面積は、第2導入孔52の流路断面積よりも大きく設定されている。
【0028】
また、第1導入孔51は、回転軸12に対して第2導入孔52とは反対側に配置されている。詳細には、第2導入孔52は、回転軸12よりも吸入口11a側、詳細には回転軸12よりも鉛直方向上方に配置されており、第1導入孔51は、回転軸12に対して吸入口11a側とは反対側、詳細には回転軸12よりも鉛直方向下方に配置されている。両導入孔51,52は、圧縮室43における吸入側の開口部43aと連通している。なお、本実施形態では、第1導入孔51が「導入孔」に対応する。
【0029】
かかる構成によれば、回転軸12が回転すると、可動スクロール42の公転運動が行われる。これにより、圧縮室43の容積が減少するため、導入孔51,52を介して圧縮室43に吸入された冷媒が圧縮される。圧縮された冷媒は、吐出口11bから吐出される。
【0030】
電動モータ14は、ハウジング11内において、圧縮部13よりも吸入口11a側に配置されている。電動モータ14は、回転軸12を回転させることにより、可動スクロール42を公転運動させるものである。
【0031】
図1に示すように、電動モータ14は、回転軸12と一体的に回転するロータ61と、ロータ61を取り囲むステータ62とを備えている。ロータ61は、筒状であり、回転軸12に固定されている。ロータ61は、例えば複数の電磁鋼板が回転軸12の軸線方向Zに積層されることによって構成された筒状のロータコア61aと永久磁石61bとを有している。
【0032】
ステータ62は、筒状(詳細には円筒状)のステータコア63と、ステータコア63に捲回されたコイル64とを備えている。ステータコア63は、複数の電磁鋼板が回転軸12の軸線方向Zに積層されることによって構成されている。ロータ61とステータコア63とは、回転軸12の径方向Rに対向配置されており、ステータコア63の内側にロータ61が配置されている。ロータコア61aの軸線及びステータコア63の軸線は、回転軸12の軸線Lと一致している。
【0033】
ステータコア63は、ハウジング11に嵌め込まれている。詳細には、図2に示すように、ステータコア63の外周面63aは、回転軸12の軸線方向Zから見て円形である。そして、吸入ハウジング21の内周面21cは、ステータコア63の外周面63aと当接している。当該内周面21cは、後述する凸部70,80a,80bが形成されている箇所を除いて、回転軸12の軸線方向Zから見て全体として円形となっている。ステータコア63は、当該外周面63aが吸入ハウジング21の内周面21cに当接した状態で、吸入ハウジング21に嵌め込まれている。これにより、ステータコア63がハウジング11に対して固定されている。
【0034】
なお、ステータコア63を嵌め込むための具体的な構成としては、例えば予め加熱することにより熱膨張させておいた吸入ハウジング21に対して、ステータコア63を挿入し、その後吸入ハウジング21を冷却させる所謂焼き嵌めといった手法が考えられる。これにより、吸入ハウジング21の冷却に伴う熱収縮によって、ステータコア63が吸入ハウジング21に固定される。
【0035】
コイル64は、ステータコア63に形成されたスロット(図示略)に捲回されている。ステータコア63に対して当該ステータコア63の軸線方向(換言すれば回転軸12の軸線方向Z)の両側には、コイル64の一部である一対のコイルエンド64a,64bが設けられている。コイルエンド64a,64bは、ステータコア63における軸線方向の端面63b,63cから突出している。なお、説明の便宜上、一対のコイルエンド64a,64bのうち圧縮部13側に配置されているものを第1コイルエンド64aとし、第1コイルエンド64aとは反対側に配置されるものを第2コイルエンド64bとする。
【0036】
第1コイルエンド64aは、ステータコア63における軸線方向の両端面63b,63cのうち軸支部材31と対向している第1端面63bと軸支部材31との間の領域である第1コイルエンド領域A1に配置されている。第1コイルエンド領域A1は、ステータコア63よりも圧縮部13側に設けられた領域である。
【0037】
第2コイルエンド64bは、ステータコア63における第1端面63bとは反対側の第2端面63cと吸入ハウジング21の底部21bとの間の領域である第2コイルエンド領域A2に配置されている。
【0038】
ちなみに、導入孔51,52は、ステータコア63に対して圧縮部13側に配置されている。両導入孔51,52と第1コイルエンド領域A1とは繋がっている。第1コイルエンド領域A1にある冷媒は両導入孔51,52のいずれかを通って圧縮室43に流れ込む。
【0039】
また、吸入口11aと第2コイルエンド領域A2とは繋がっている。詳細には、吸入口11aは、ハウジング11の側壁部21aにおけるステータコア63に対して圧縮部13とは反対側に配置されており、第2コイルエンド領域A2に対して回転軸12の径方向Rに対向している。換言すれば、吸入口11aは、一対のコイルエンド64a,64bのうち第1コイルエンド64aよりも第2コイルエンド64b側に配置されている。
【0040】
図1に示すように、電動圧縮機10は、電動モータ14を駆動させる駆動回路としてのインバータ65を備えている。インバータ65は、ハウジング11、詳細には吸入ハウジング21の底部21bに取り付けられた円筒形状のカバー部材66内に収容されている。コイル64とインバータ65とは電気的に接続されている。
【0041】
ここで、ステータコア63がハウジング11に嵌め込まれている関係上、ステータコア63には応力が付与されている。特に、ステータコア63が焼き嵌めによって取り付けられている構成においては、上記応力が大きくなり易い。
【0042】
これに対して、本実施形態の電動圧縮機10は、電動モータ14(特に両コイルエンド64a,64b)を冷却させつつ、上記応力を緩和するための構成を備えている。当該構成について、コイル64とインバータ65との電気的接続に係る構成と合わせて以下に詳細に説明する。
【0043】
図1及び図2に示すように、吸入ハウジング21の内周面21cのうち回転軸12よりも吸入口11a側の部位には、回転軸12の径方向R外側に突出した凸部70が形成されている。凸部70は、回転軸12の軸線方向Zに延びている。凸部70によって、吸入ハウジング21内には、回転軸12の軸線方向Zに延びたメイン溝71が形成されている。そして、メイン溝71と、ステータコア63の外周面63aとによって、ハウジング11内には、冷媒が流れるメイン流路72が形成されている。換言すれば、凸部70(メイン溝71)は、ステータコア63の外周面63aと協働して、冷媒が流れるメイン流路72を構成している。なお、図2に示すように、吸入ハウジング21の側壁部21aにおける凸部70に対応する部分は鉛直方向上方に突出している。
【0044】
図1に示すように、メイン流路72は、回転軸12よりも吸入口11a側に配置されており、回転軸12に対して第1導入孔51とは反対側に配置されている。メイン流路72は、回転軸12の軸線方向Zに開口しており、第1コイルエンド64aが配置されている第1コイルエンド領域A1と、第2コイルエンド64bが配置されている第2コイルエンド領域A2とを連通している。
【0045】
吸入口11aは、メイン流路72よりも圧縮部13とは反対側である吸入ハウジング21の底部21b側に配置されている。吸入口11aとメイン流路72とは繋がっている。このため、吸入口11aと第1導入孔51とは、メイン流路72及び第1コイルエンド領域A1を介して繋がっている。
【0046】
メイン流路72には、コイル64とインバータ65とを電気的に接続するのに用いられる接続部としてのクラスタブロック73が設けられている。クラスタブロック73は箱形状であって絶縁性を有する材料で構成されている。クラスタブロック73内には、一端がコイル64に接続された接続端子74が設けられている。接続端子74の他端は、吸入ハウジング21の底部21bに設けられた気密端子75の一端に接続されており、当該気密端子75の他端はインバータ65に接続されている。これにより、コイル64とインバータ65とは、接続端子74及び気密端子75を介して電気的に接続されている。クラスタブロック73は、ステータコア63より回転軸12の径方向R外側に配置されている。
【0047】
ここで、図2に示すように、クラスタブロック73は、回転軸12の軸線方向Zから見てメイン流路72(換言すればメイン溝71)よりも一回り小さく形成されている。このため、クラスタブロック73の外周面73aと、メイン溝71の内壁面及びステータコア63の外周面63aとの間には隙間76が形成されている。メイン流路72におけるクラスタブロック73が設けられている箇所においては、冷媒は隙間76を流れる。すなわち、隙間76の面積が、メイン流路72の最小流路断面積となる。
【0048】
ちなみに、凸部70は、吸入ハウジング21の底部21bから、ステータコア63の第1端面63bよりも圧縮部13側の部分まで形成されている。凸部70の一部は、第2コイルエンド64bと対向している。吸入口11aは、吸入ハウジング21の側壁部21aにおける凸部70に対応する部分のうち第2コイルエンド64bと対向している部分に形成されている。そして、クラスタブロック73は、吸入口11aと第2コイルエンド64bとの間の領域と、メイン流路72との双方に跨って配置されている。
【0049】
図2に示すように、吸入ハウジング21は、凸部70とは別に、当該吸入ハウジング21の内周面21cから回転軸12の径方向R外側に突出した凸部80a,80bを備えている。両凸部80a,80bは同一形状であって回転軸12の軸線方向Zに延びている。凸部80a,80bは、凸部70に対して周方向に所定の間隔だけずれた位置に設けられている。詳細には、凸部70,80a,80bは、回転軸12の周方向に120度ずつずれた位置に配置されている。
【0050】
図4に示すように、第1凸部80aは、吸入ハウジング21におけるステータコア63の外周面63aと対向する部分のうち回転軸12の軸線方向Zの途中位置から突出しており、圧縮部13に向かうに従って段階的(詳細には2段階)に回転軸12の径方向R外側に突出している。
【0051】
図2に示すように、吸入ハウジング21は、吸入ハウジング21の内周面21cから凹んだ溝81,82を備えている。本実施形態では、溝81,82の大部分は凸部80a,80bにより形成されている。溝81,82は、回転軸12の軸線方向Zに延びている。
【0052】
図4に示すように、段階的に突出している第1凸部80aによって、第1溝81の深さは、段階的に異なっている。詳細には、第1溝81は、ステータコア63の外周面63aと対向する第1部分溝91と、第1部分溝91と連通するとともに当該第1部分溝91よりも深い第2部分溝92とを備えている。第1部分溝91は、吸入ハウジング21の底部21b側、換言すれば第2コイルエンド64b側に配置されており、第2部分溝92は、第1部分溝91よりも圧縮部13側、換言すれば第1部分溝91よりも第1コイルエンド64a側に配置されている。
【0053】
第1部分溝91の軸線方向Zの第1端部91aは、回転軸12の軸線方向Zにおいてステータコア63の第2端面63cよりも底部21b側に配置されている。第1部分溝91の軸線方向Zの第2端部91bと第2部分溝92の軸線方向Zの第1端部92aとは、第1段差部94aを介して連続している。つまり、第1部分溝91と第2部分溝92とは、底部21b側から第1部分溝91、第2部分溝92の順に回転軸12の軸線方向Zに並んで配設されている。第1段差部94aは、第1溝81におけるステータコア63の外周面63aと対向する部分のうちステータコア63の第1端面63bよりも第2端面63c側に配置されている。
【0054】
第1部分溝91は、第2コイルエンド64bとステータコア63の外周面63aとの双方と対向するように、ステータコア63の第2端面63cに対して軸線方向Zの両側に跨って配置されている。そして、第2部分溝92は、第1部分溝91よりも圧縮部13側に配置されており、ステータコア63の外周面63aと回転軸12の径方向Rに対向している。第2部分溝92における回転軸12の軸線方向Zの長さは、第1部分溝91における回転軸12の軸線方向Zの長さよりも長い。
【0055】
第1溝81は、第2部分溝92よりも深い第3部分溝93を備えている。第2部分溝92と第3部分溝93とは連通している。第3部分溝93は、第2部分溝92よりも第1部分溝91とは反対側、詳細には圧縮部13側に配置されている。第3部分溝93の軸線方向Zの第1端部93aと、第2部分溝92の軸線方向Zの第2端部92bとは、第2段差部94bを介して連続している。つまり、第1部分溝91、第2部分溝92及び第3部分溝93は、底部21b側から第1部分溝91、第2部分溝92、第3部分溝93の順に回転軸12の軸線方向Zに並んで配設されている。第2段差部94bは、回転軸12の軸線方向Zにおいてステータコア63の第1端面63bよりも底部21b側に配置されている。
【0056】
第3部分溝93は、ステータコア63の外周面63a及び第1コイルエンド64aの双方と回転軸12の径方向Rに対向している。第3部分溝93の軸線方向Zの第2端部93bは第1導入孔51と連通している。すなわち、第1溝81は、第1導入孔51と回転軸12の軸線方向Zに対向する位置に設けられている。
【0057】
ここで、第1溝81の延設方向の一端部を構成する第1部分溝91の第1端部91aはステータコア63の第2端面63cよりも吸入ハウジング21の底部21b側に配置され、第1溝81の延設方向の他端部を構成する第3部分溝93の第2端部93bはステータコア63の第1端面63bよりも圧縮部13側に配置されている。すなわち、第1溝81は、その延設方向の両端部がステータコア63の両端面63b,63cからはみ出した状態で、ステータコア63の外周面63aと回転軸12の径方向Rに対向している。換言すれば、第1溝81は、第1コイルエンド領域A1と第2コイルエンド領域A2とに跨って形成されていると言える。
【0058】
ちなみに、図4に示すように、第1溝81の底面は、底部21bから圧縮部13に向かうに従って、回転軸12の径方向R外側に段階的に離間するように段差状となっている。そして、第3部分溝93の底面が、吸入ハウジング21のうち第1導入孔51を形成している突出部分の内面と連続している。また、第1凸部80aと吸入ハウジング21のうち第1導入孔51を形成している突出部分とが連続している。
【0059】
なお、図3に示すように、各部分溝91〜93の幅、換言すれば各部分溝91〜93の回転軸12の周方向の長さは、同一に設定されている。但し、これに限られず、各部分溝91〜93の幅は、例えば第1部分溝91>第2部分溝92>第3部分溝93となっていてもよいし、その逆でもよい。また、各部分溝91〜93のうち1つの部分溝のみが他の部分溝の幅と異なる構成でもよい。ちなみに、各部分溝91〜93の深さは、回転軸12の径方向Rにおけるステータコア63の外周面63aからの長さとも言える。
【0060】
図4に示すように、ハウジング11内には、第1溝81とステータコア63の外周面63aとによって形成され、且つ、冷媒が流れる第1サブ流路100が設けられている。第1サブ流路100は、第1コイルエンド領域A1と第2コイルエンド領域A2とを連通している。
【0061】
第1溝81が深さの異なる部分溝91〜93で構成されているため、第1サブ流路100の流路断面積は、回転軸12の軸線方向Zに応じて異なっている。詳細には、第1サブ流路100における第1部分溝91とステータコア63の外周面63aとによって形成された第1部分流路101は、第1サブ流路100における第2部分溝92とステータコア63の外周面63aとによって形成された第2部分流路102よりも狭い。そして、第1サブ流路100における第3部分溝93とステータコア63の外周面63aとによって形成された第3部分流路103は、第2部分流路102よりも広い。すなわち、流路断面積は、第1部分流路101<第2部分流路102<第3部分流路103となっている。このため、第1サブ流路100の最小流路断面積は、第1部分流路101の流路断面積となっている。
【0062】
ちなみに、本実施形態では、第2部分流路102は、第1導入孔51に対して回転軸12の軸線方向Zに対向しており、第3部分流路103は第1導入孔51と連通している。ステータコア63の外周面63a及び第1コイルエンド64aの双方と対向している第3部分溝93は、第3部分流路103を構成している。
【0063】
図2及び図3に示すように、第1サブ流路100の流路断面積は、メイン流路72の流路断面積よりも小さく設定されている。詳細には、第1サブ流路100の最小流路断面積である第1部分流路101の流路断面積は隙間76の面積よりも小さく設定されている。
【0064】
なお、本実施形態では、第2部分流路102の流路断面積も上記隙間76の面積よりも小さく設定されている。
なお、第1溝81と同様に、ハウジング11内には、第2凸部80bによって構成された第2溝82とステータコア63の外周面63aとによって、第2サブ流路104が形成されている(図2参照)。当該第2サブ流路104は、第1サブ流路100に対して回転軸12の周方向に120度ずれている点を除いて、第1サブ流路100と同様である。
【0065】
図1及び図2に示すように、ハウジング11(詳細には吸入ハウジング21)には、メイン溝71や両溝81,82とは別に、補助溝105が形成されている。本実施形態では、補助溝105は複数(詳細には3つ)設けられている。図2に示すように、複数の補助溝105は、メイン溝71及び両溝81,82と干渉しないように、メイン溝71及び両溝81,82に対して回転軸12の周方向にずれた位置に配置されている。複数の補助溝105は、所定の間隔(例えば120度)ずれた位置に形成されている。
【0066】
図1に示すように、補助溝105は、回転軸12の軸線方向Zに延びており、その延設方向の長さは、ステータコア63の軸線方向の長さよりも長く設定されている。補助溝105は、その延設方向の両端部がステータコア63の両端面63b,63cからはみ出した状態で、ステータコア63の外周面63aと回転軸12の径方向Rに対向している。すなわち、補助溝105は、第1コイルエンド領域A1と第2コイルエンド領域A2とに跨って配置されている。補助溝105の深さは、回転軸12の軸線方向Zの位置に関わらず一定となっている。
【0067】
吸入ハウジング21内には、補助溝105とステータコア63の外周面63aとによって、冷媒が流れる補助流路106が形成されている。補助流路106は、第1コイルエンド領域A1と第2コイルエンド領域A2とを連通している。補助流路106の流路断面積は、回転軸12の軸線方向Zの位置に関わらず一定であり、当該流路断面積はメイン流路72の最小流路断面積よりも小さく設定されている。特に、本実施形態では、補助流路106の流路断面積は、第1部分流路101の流路断面積よりも小さく設定されている。
【0068】
ちなみに、本実施形態では、メイン流路72の最小流路断面積は、両サブ流路100,104の最小流路断面積、及び、複数の補助流路106の流路断面積を全て加算した値よりも大きく設定されている。
【0069】
なお、吸入ハウジング21の内周面21cには、第1溝81の長手方向の一端部(詳細には第1部分溝91の第1端部91a)と連通し、且つ、吸入ハウジング21の周方向に延びたリング溝107が形成されている。リング溝107は、ステータコア63の外周面63aと第1端面63bとのエッジ部分と、回転軸12の径方向Rに対向する位置に設けられている。当該リング溝107によって、上記エッジ部分と吸入ハウジング21とが接触しないようになっている。これにより、上記エッジ部分と吸入ハウジング21とが接触することに起因する電磁鋼板の剥離が抑制されている。
【0070】
次に本実施形態の作用について説明する。
ステータコア63がハウジング11に嵌め込まれていることに起因してステータコア63に付与される応力は、メイン溝71、溝81,82及び補助溝105によって緩和される。詳細には、メイン溝71、溝81,82及び補助溝105を構成する壁部が変形することによって、ステータコア63に付与される応力が軽減されている。この場合、複数の溝81,82及び補助溝105が形成されているため、ハウジング11内には、メイン流路72の他に、サブ流路100,104及び補助流路106が形成されている。
【0071】
ここで、吸入口11aから吸入された冷媒は、第2コイルエンド領域A2又はメイン流路72を流れる。メイン流路72を流れた冷媒は、第1コイルエンド領域A1を通って、両導入孔51,52のいずれかに流れ込み、圧縮部13の圧縮室43に流れる。この場合、第1導入孔51の方が第2導入孔52よりも広いため、メイン流路72を通った冷媒は、第2導入孔52よりも、回転軸12に対してメイン流路72とは反対側に配置されている第1導入孔51に優先的に流れる。
【0072】
一方、第2コイルエンド領域A2に流れ込んだ冷媒は、サブ流路100,104及び補助流路106を通って、第1コイルエンド領域A1に流れ込み、両導入孔51,52のいずれか一方を通って圧縮室43に流れ込む。この場合、サブ流路100,104及び補助流路106の流路断面積は、メイン流路72の流路断面積よりも小さいため、サブ流路100,104及び補助流路106を通過する冷媒の流量は、メイン流路72を通過する冷媒の流量よりも小さい。
【0073】
以上詳述した本実施形態によれば以下の効果を奏する。
(1)電動圧縮機10は、回転軸12と、回転軸12が回転することにより冷媒を圧縮する圧縮部13と、回転軸12を回転させる電動モータ14と、回転軸12、圧縮部13及び電動モータ14が収容されたハウジング11とを備えている。電動モータ14は、筒状のステータコア63と当該ステータコア63に捲回されたコイル64とを有するステータ62を備え、ステータコア63はハウジング11に嵌め込まれている。ハウジング11(詳細には吸入ハウジング21)は、ステータコア63の外周面63aと当接している内周面21cと、吸入ハウジング21の側壁部21aのうちステータコア63に対して圧縮部13とは反対側に配置されたものであって冷媒が吸入される吸入口11aとを備えている。
【0074】
ハウジング11内には、回転軸12よりも吸入口11a側に設けられ、且つ、回転軸12の軸線方向Zに延びたものであって、冷媒が流れるメイン流路72が形成されている。そして、電動圧縮機10は、吸入口11aから吸入された冷媒を圧縮部13(詳細には圧縮室43)に導入する第1導入孔51を備えている。第1導入孔51は、ステータコア63に対して圧縮部13側であって、回転軸12に対してメイン流路72とは反対側に配置されている。吸入口11aと第1導入孔51とは、メイン流路72と、ステータコア63よりも圧縮部13側に設けられ且つ第1コイルエンド64aが配置された第1コイルエンド領域A1とを介して、繋がっている。これにより、吸入口11aからハウジング11内に流入した冷媒は、メイン流路72及び第1コイルエンド領域A1を通って第1導入孔51に向かう。この場合、第1導入孔51が回転軸12に対してメイン流路72とは反対側に配置されているため、第1コイルエンド領域A1を流れる冷媒の流路長が長くなり易い。したがって、第1コイルエンド64aが冷媒によって冷却され易い。よって、冷媒を用いて、ハウジング11内に収容されている電動モータ14のコイル64を好適に冷却することができる。
【0075】
かかる構成において、ハウジング11は、ステータコア63の外周面63aと当接している内周面21cから凹み、且つ、回転軸12の軸線方向Zに延びた第1溝81を備えている。第1溝81は、ステータコア63の外周面63aと回転軸12の径方向Rに対向する第1部分溝91と、第1部分溝91と連通するとともに第1部分溝91よりも深い第2部分溝92とを有し、第1部分溝91とステータコア63の外周面63aとによって形成された第1部分流路101の流路断面積は、メイン流路72の流路断面積よりも小さい。
【0076】
かかる構成によれば、第1溝81が形成されている分だけ、ハウジング11からステータコア63に付与される応力を緩和することができる。これにより、ステータコア63をハウジング11に嵌め込むことによって生じ得る不都合、詳細にはステータコア63に付与される応力に起因するステータコア63の変形等を抑制できる。
【0077】
ここで、応力緩和の観点に着目すれば、第1溝81の深さは深い方が好ましい。しかしながら、第1溝81の深さを深くすると、第1溝81とステータコア63の外周面63aとによって形成された第1サブ流路100の流路断面積が大きくなり、冷媒がメイン流路72よりも第1サブ流路100に優先的に流れることとなる。すると、メイン流路72を流れる冷媒の流量が減少するため、第1コイルエンド64aが冷却されにくくなり、コイル64の冷却性能が低下する。
【0078】
これに対して、本実施形態によれば、第1溝81は、深さの異なる第1部分溝91及び第2部分溝92を有している。これにより、第1溝81を流れる冷媒の流量は、第1部分溝91に律速される。そして、第1部分溝91とステータコア63の外周面63aとによって形成された第1部分流路101の流路断面積は、メイン流路72の流路断面積よりも小さいため、冷媒が、メイン流路72よりも、第1溝81とステータコア63の外周面63aとによって形成された第1サブ流路100に優先的に流れることを抑制できる。したがって、メイン流路72を流れる冷媒の流量が減少することに起因するコイル64の冷却性能の低下を抑制できる。そして、第1部分溝91よりも深い第2部分溝92が設けられている分だけ、より好適に応力緩和を図ることができる。よって、コイル64の冷却性能の低下を抑制しつつ、ステータコア63に付与される応力を緩和することができる。
【0079】
(2)第2部分溝92は、第1部分溝91よりも圧縮部13側に配置されており、第2部分溝92とステータコア63の外周面63aとによって形成された第2部分流路102と第1導入孔51とは、回転軸12の軸線方向Zに対向している。これにより、第1サブ流路100を流れた冷媒は、第1導入孔51に円滑に流れ込む。したがって、第1サブ流路100を流れる冷媒が、メイン流路72及び第1コイルエンド領域A1を通って第1導入孔51に流れ込む冷媒の流れを阻害することを抑制できる。よって、第1導入孔51に向けて安定して冷媒を供給することができる。
【0080】
(3)ステータコア63に対して当該ステータコア63の軸線方向の両側には、コイル64の一部である一対のコイルエンド64a,64bが配置されている。そして、吸入口11aと第1導入孔51とは、メイン流路72、及び、両コイルエンド64a,64bのうち圧縮部13側にある第1コイルエンド64aが配置されている第1コイルエンド領域A1を介して繋がっている。さらに、吸入口11aと、一対のコイルエンド64a,64bのうち第1コイルエンド64aとは反対側にある第2コイルエンド64bが配置されている第2コイルエンド領域A2とは対向している。これにより、吸入口11aから吸入された冷媒は、分岐して、両コイルエンド領域A1,A2を流れるため、両コイルエンド64a,64bを好適に冷却することができる。
【0081】
(4)第1溝81とステータコア63の外周面63aとによって形成された第1サブ流路100は、両コイルエンド領域A1,A2を連通している。これにより、第2コイルエンド領域A2の冷媒は、第1サブ流路100及び第1コイルエンド領域A1を通って、第1導入孔51に流れ込む。よって、第2コイルエンド領域A2の冷媒が滞留することを抑制できる。
【0082】
また、吸入口11aから吸入された冷媒が何らかの要因によって、気体から液体に変化した場合、当該液体が第2コイルエンド領域A2に滞留し得る。すると、第2コイルエンド64bが液体の冷媒に浸かるため、コイル64の絶縁抵抗の低下という不都合が懸念される。これに対して、本実施形態では、液体の冷媒が第1サブ流路100を通って第1導入孔51から排出されるため、上記不都合を抑制できる。
【0083】
(5)電動圧縮機10は、回転軸12よりも第1導入孔51とは反対側に設けられ、冷媒を圧縮部13に導入する第2導入孔52を備えている。そして、第1導入孔51は、第2導入孔52よりも広い。かかる構成によれば、第2導入孔52が設けられているため、吸入口11aから吸入された冷媒が圧縮部13に導かれ易くなっている。但し、第1導入孔51は第2導入孔52よりも広いため、冷媒は、第2導入孔52よりも第1導入孔51に向けて優先的に流れる。このため、第2導入孔52を設けることによる不都合、詳細には第1コイルエンド64aが冷却されにくくなることを抑制できる。
【0084】
(6)ハウジング11は、両溝81,82とは別に、流路断面積が一定であって当該流路断面積がメイン流路72の流路断面積よりも小さい補助流路106を形成する補助溝105を備えている。これにより、ステータコア63に付与される応力の更なる軽減を図ることができる。
【0085】
特に、回転軸12の軸線方向Zに応じて深さが異なる溝81,82は、深さを異ならせる関係上、吸入ハウジング21の一部を径方向R外側に突出させることによって形成されている。このため、吸入ハウジング21の体格が大きくなり易い。これに対して、深さが一定であって流路断面積がメイン流路72よりも小さい補助流路106を形成する補助溝105は、吸入ハウジング21を突出させることなく、吸入ハウジング21の内周面21cを凹ませることによって形成することができる。これにより、溝81,82と補助溝105とを組み合わせることにより、ハウジング11の大型化の抑制と、ステータコア63の応力軽減との両立を図ることができる。
【0086】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
○ 実施形態では、2つの溝81,82が設けられていたが、これに限られず、3つ以上設けられていてもよい。また、両溝81,82のいずれか一方を省略してもよい。
【0087】
○ 補助溝105を省略してもよい。
○ 第1溝81における第3部分溝93を省略して、その分だけ第2部分溝92を延ばしてもよい。また、第2部分溝92を省略して、その分だけ第1部分溝91又は第3部分溝93を延ばしてもよい。この場合、第3部分溝93が「第2部分溝」に対応する。
【0088】
さらに、第1部分溝91を省略して、その分だけ第2部分溝92を延ばしてもよい。この場合、第2部分溝92が「第1部分溝」に対応し、第3部分溝93が「第2部分溝」に対応する。
【0089】
○ 第2段差部94bは、ステータコア63の第1端面63bよりも圧縮部13側に配置されてもよい。この場合、第3部分流路103が省略される。
○ 第2導入孔52を省略してもよい。
【0090】
○ ステータコア63は、焼き嵌め以外の手法によってハウジング11に嵌め込まれていてもよい。
○ メイン流路72内に、クラスタブロック73が設けられていたが、メイン流路72以外の箇所にクラスタブロック73が設けられていてもよい。また、クラスタブロック73を省略してもよい。要は、電動モータ14とインバータ65との電気的接続に係る構成は任意である。
【0091】
○ メイン流路72は、凸部70によって形成されたメイン溝71で構成されていたが、これに限られず、ステータコア63の一部を凹ませることによって形成されていてもよい。この場合、ハウジング11の小型化を図ることができる。
【0092】
○ 凸部80a,80bが形成されていなくてもよい。この場合、吸入ハウジング21の側壁部21aの厚さを異ならせることにより、両溝81,82が形成されてもよい。
○ メイン流路72は、回転軸12の軸線方向Zの位置に関わらず一定の流路断面積を有する流路でもよい。要は、メイン流路は、回転軸12の軸線方向Zの位置に関わらず一定の流路断面積を有する流路でもよいし、回転軸12の軸線方向Zの位置に応じて流路断面積が変動する流路でもよい。
【0093】
○ 第1溝81は、両コイルエンド領域A1,A2を連通していなくてもよい。例えば、第1溝81は、ステータコア63の外周面63aと対向する部分の途中位置に端部を有する構成でもよい。
【0094】
○ 第1導入孔51とメイン流路72とは、ハウジング11の周方向において180度ずれた位置に設けられていてもよい。要は、第1導入孔51とメイン流路72とは、回転軸12を挟んで、互いに反対側に配置されていればよく、詳細には第1導入孔51と回転軸12の軸線Lとを結ぶ回転軸12の径方向Rに延びた直線と、メイン流路72と回転軸12の軸線Lとを結ぶ回転軸12の径方向Rに延びた直線との内角が90度よりも大きければよい。
【0095】
○ 圧縮部13の具体的な構成は、スクロール型に限られず、任意である。
○ 電動圧縮機10の搭載対象は、車両に限られず任意である。
○ 電動圧縮機10は、車両用空調装置に用いられていたが、これに限られず、他の装置に用いられてもよい。例えば、車両が燃料電池を搭載した燃料電池車両(FCV)である場合には、当該電動圧縮機10は、上記燃料電池に空気を供給する供給装置に用いられてもよい。要は、圧縮対象の流体は、任意であり、冷媒であってもよいし空気などであってもよい。
【0096】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる好適な一例について以下に記載する。
(イ)前記ハウジングは、前記メイン溝及び前記サブ溝とは別に、流路断面積が一定であって当該流路断面積が前記メイン流路の最小流路断面積よりも小さい補助流路を形成する補助溝を備えている請求項1〜5のうちいずれか一項に記載の電動圧縮機。
【符号の説明】
【0097】
10…電動圧縮機、11…ハウジング、11a…吸入口、12…回転軸、13…圧縮部、14…電動モータ、21…吸入ハウジング、21a…吸入ハウジングの側壁部、21b…吸入ハウジングの底部、21c…吸入ハウジングの内周面、43…圧縮室、51…第1導入孔、52…第2導入孔、62…ステータ、63…ステータコア、63a…ステータコアの外周面、64…コイル、64a…第1コイルエンド、64b…第2コイルエンド、72…メイン流路、81,82…溝、91…第1部分溝、92…第2部分溝、93…第3部分溝、100,104…サブ流路、101…第1部分流路、102…第2部分流路、103…第3部分流路、105…補助溝、A1…第1コイルエンド領域、A2…第2コイルエンド領域。
図1
図2
図3
図4