(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1に記載のような遮熱コーティングにあっては、耐エロージョン性と、熱伝導率とがトレードオフの関係になることが知られている。これは、遮熱コーティングの気孔率を低下させて緻密に形成すると、耐エロージョン性を向上できるが、緻密に形成した分だけ熱伝導率が上昇してしまうからである。
上記遮熱コーティングの熱サイクル耐久性は、気孔率が低下するほど低くなる傾向であることが知られている。熱サイクル耐久性が低下すると、遮熱コーティングの剥離等が生じる可能性がある。
つまり、上記遮熱コーティングにあっては、耐エロージョン性を向上させるために気孔率を低下させると、熱伝導率が上昇して遮熱性能が低下してしまう。この熱伝導率の上昇分を補うために遮熱コーティングの厚さを増加させると、熱サイクル耐久性が低下することによる強度不足となり、遮熱コーティングが剥離し易くなる。
【0006】
この発明は、十分な遮熱性能、および、強度を確保しつつ耐エロージョン性を向上することができる遮熱コーティング、および、タービン部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の第一態様によれば、遮熱コーティングは、ボンドコート層と、トップコート層とからなる。ボンドコート層は、母材上に積層される金属結合層として設けられる。トップコート層は、前記ボンドコート層の上に積層されてジルコニア系セラミックを含む。前記トップコート層は、その気孔率が9%以下である。前記トップコート層は、その気孔率が9%以下であり、その積層方向と交差する方向に延びる層状欠陥の欠陥密度が250本/mm
2以下であり、
前記層状欠陥は前記トップコート層の全域に形成され、800℃を超える燃焼ガスにより稼動する部位に用いられる。
一般に、トップコート層の熱サイクル耐久性は、セラミックスの気孔率の低下に応じて低下するとされてきた。そのため、遮熱コーティングに用いるセラミックスの気孔率は、10%よりも大きい領域とされてきた。しかし、この発明の発明者らは、鋭意研究の結果、800℃を超えるような高温の燃焼ガスにより稼働するガスタービンと同等の条件において、気孔率が9%以下の領域において、気孔率が低下しているにもかかわらず熱サイクル耐久性が上昇することを突き止めた。つまり、気孔率9%以下とすることで、熱サイクル耐久性を向上できるため、気孔率の低下により耐エロージョン性を向上しつつ、熱サイクル耐久性が向上した分だけトップコート層の厚さを増加させて、遮熱性能の低下を抑制することができる。
その結果、十分な遮熱性能、および、強度を確保しつつ耐エロージョン性を向上することができる
。
さらに、トップコート層が、積層方向と交差する方向に延びる層状欠陥の欠陥密度が250本/mm
2以下であることで、気孔率の低下と層状欠陥の低下とによって、十分な強度を確保することができる。そのため、トップコート層の厚さを増加させて十分な遮熱性能を確保しつつ、更なる耐エロージョン性の向上を図ることができる。
この発明の第二態様によれば、
第一態様に係るトップコート層は
、ZrO
2−16wt%Yb
2O
3または、ZrO2−8wt%Y2O3からなる
ようにしてもよい。
トップコート層が、ZrO
2−16wt%Yb
2O
3または、ZrO2−8wt%Y2O3からなるようにすることで、耐エロージョン性、遮熱性能に優れたトップコート層を容易に得ることができる。
【0008】
この発明の第
三態様によれば、遮熱コーティングは、第一
又は第二態様における気孔率を6%以下としてもよい。
このように構成することで、気孔率が9%の場合よりも、さらに耐エロージョン性を高めるとともに、熱サイクル耐久性を高めてよりトップコート層の厚さを増加させることができる。そのため、エロージョンによりトップコート層が摩耗して母材が高温に晒されるまでの時間を延ばすことができる。言い換えれば、トップコート層により十分な遮熱効果が得られる継続時間を延ばすことができる。その結果、メンテナンスの間隔を長くすることができるため、ユーザの負担を軽減することができる。
【0010】
この発明の第四態様によれば、遮熱コーティングは、第一又は第二態様における前記トップコート層の前記層状欠陥の欠陥密度が225本/mm
2以下であってもよい。
層状欠陥の欠陥密度を低下させることができるため、強度を向上できる。そのため、十分な遮熱性能を確保しつつ、更なる耐エロージョン性の向上を図ることができる。
【0011】
この発明の第五態様によれば、遮熱コーティングは、第四態様における前記トップコート層の前記層状欠陥の平均長さが33.8μm以下であってもよい。
層状欠陥の平均長さを低下させることができるため、強度を向上できる。そのため、十分な遮熱性能を確保しつつ、更なる耐エロージョン性の向上を図ることができる。
【0012】
この発明の第六態様によれば、遮熱コーティングは、第四又は第五態様における前記トップコート層の前記層状欠陥の欠陥密度が196本/mm
2以下であってもよい。
層状欠陥の欠陥密度を更に低下させることができるため、より強度を向上できる。そのため、十分な遮熱性能を確保しつつ、更なる耐エロージョン性の向上を図ることができる。
【0013】
この発明の第七態様によれば、遮熱コーティングは、第六態様における前記トップコート層の前記層状欠陥の平均長さが31.7μm以下であってもよい。
層状欠陥の平均長さを低下させることができるため、更なる強度向上を図ることができる。そのため、十分な遮熱性能を確保しつつ、更なる耐エロージョン性の向上を図ることができる。
【0014】
この発明の第八態様によれば、遮熱コーティングは、第四から第七態様の何れか一つの態様における前記気孔率が、8.4%以下であってもよい。
気孔率の低下により、強度向上を図ることができる。そのため、十分な遮熱性能を確保しつつ、更なる耐エロージョン性の向上を図ることができる。
【0015】
この発明の第九態様によれば、遮熱コーティングは、第八態様における前記気孔率が、7.0%以下であってもよい。
気孔率の低下により、更なる強度向上を図ることができる。そのため、十分な遮熱性能を確保しつつ、更なる耐エロージョン性の向上を図ることができる。
【0018】
この発明の第
十態様によれば、タービン部材は、第一又は第
九態様の遮熱コーティングを表面に有している。
このように構成することで、長期間に渡って高温に晒されて損傷することを抑制できる。さらに、メンテナンス周期を延ばすことができるため、ガスタービンを稼働停止させる頻度を低減することができる。
【発明の効果】
【0019】
上記遮熱コーティング、および、タービン部材によれば、熱サイクル耐久性を低下させることなく耐エロージョン性を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
この発明の第一実施形態に係る遮熱コーティング、および、タービン部材を図面に基づき説明する。
図1は、この発明の第一実施形態におけるガスタービンの概略構成図である。
図1に示すように、この第一実施形態におけるガスタービン1は、圧縮機2と、燃焼器3と、タービン本体4と、ロータ5と、を備えている。
圧縮機2は、多量の空気を内部に取り入れて圧縮する。
燃焼器3は、圧縮機2にて圧縮された圧縮空気Aに燃料を混合して燃焼させる。
【0022】
タービン本体4は、燃焼器3から導入された燃焼ガスGの熱エネルギーを回転エネルギーに変換する。このタービン本体4は、ロータ5に設けられた動翼7に燃焼ガスGを吹き付けることで燃焼ガスGの熱エネルギーを機械的な回転エネルギーに変換して動力を発生する。タービン本体4には、ロータ5側の複数の動翼7の他に、タービン本体4のケーシング6に複数の静翼8が設けられる。タービン本体4では、これら動翼7と静翼8とが、ロータ5の軸方向に交互に配列されている。
【0023】
ロータ5は、タービン本体4の回転する動力の一部を圧縮機2に伝達して圧縮機2を回転させる。
以下、この第一実施形態においては、タービン本体4の動翼7を、この発明のタービン部材の一例として説明する。
【0024】
図2は、この発明の第一実施形態における動翼の概略構成を示す斜視図である。
図2に示すように、動翼7は、動翼本体71と、プラットホーム72と、翼根73と、シュラウド74と、を備えている。動翼本体71は、タービン本体4のケーシング6内の燃焼ガスG流路内に配されている。プラットホーム72は、動翼本体71の基端に設けられている。このプラットホーム72は、動翼本体71の基端側において燃焼ガスGの流路を画成する。翼根73は、プラットホーム72から動翼本体71と反対側へ突出して形成されている。シュラウド74は、動翼本体71の先端に設けられている。このシュラウド74は、動翼本体71の先端側において燃焼ガスGの流路を画成する。
【0025】
図3は、この発明の第一実施形態における動翼の要部を拡大した断面図である。
図3に示すように、動翼7は、母材10と、遮熱コーティング層11とにより構成されている。
母材10は、Ni(ニッケル)基合金等の耐熱合金からなる。
遮熱コーティング層11は、母材10の表面を覆うように形成されている。この遮熱コーティング層11は、ボンドコート層12と、トップコート層13とを備えている。
【0026】
ボンドコート層12は、母材10からトップコート層13が剥離することを抑制する。このボンドコート層12は、耐食性および耐酸化性に優れた金属結合層である。ボンドコート層12は、例えば、溶射材としてMCrAlY合金の金属溶射粉を母材10の表面に対して溶射して形成される。ここで、ボンドコート層12を構成するMCrAlY合金の「M」は、金属元素を示している。この金属元素「M」は、例えば,NiCo(ニッケル−コバルト)、Ni(ニッケル)、Co(コバルト)等の単独の金属元素、又は、これらのうち2種以上の組み合わせからなる。
【0027】
トップコート層13は、ボンドコート層12の表面に積層されている。このトップコート層13は、セラミックを含む溶射材をボンドコート層12の表面に溶射することで形成される。この第一実施形態におけるトップコート層13は、その気孔率(単位体積当たりの気孔の占有率)が、9%以下、より好ましくは6%以下となるように形成されている。トップコート層13を形成する際に用いられる溶射材としては、ジルコニア系セラミックを用いることができる。ジルコニア系セラミックとしては、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、および、酸化イッテルビウム(Yb
2O
3)で部分安定化させたジルコニア(ZrO
2)であるイッテルビア安定化ジルコニア(YbSZ)等が挙げられる。
【0028】
次に、上述した遮熱コーティング層11を母材10の表面に形成するタービン部材の形成方法の一例について説明する。
図4は、この発明の第一実施形態におけるタービンの形成方法のフローチャートである。
図4に示すように、まず、母材形成工程S1として、母材10を目的のタービン部材、例えば、動翼7の形状となるように形成する。この第一実施形態における母材10は、上述したNi基合金を用いて形成する。
【0029】
次いで、遮熱コーティング方法S2として、ボンドコート層積層工程S21と、トップコート層積層工程S22と、表面調整工程S23とを順次行う。
【0030】
ボンドコート層積層工程S21においては、母材10の表面に対してボンドコート層12を形成する。この第一実施形態のボンドコート層積層工程S21においては、例えば、低圧プラズマ溶射法によりMCrAlY合金の金属溶射粉を母材10の表面に溶射する。
【0031】
トップコート層積層工程S22においては、ボンドコート層12上にトップコート層13を積層させる。この第一実施形態のトップコート層積層工程S22においては、例えば、大気圧プラズマ溶射法(Atmospheric pressure Plasma Spray:APS)により、溶射材としてYSZの粉末をボンドコート層12上に溶射する。
【0032】
ここで、トップコート層積層工程S22においては、トップコート層13の気孔率を9%以下、より好ましくは6%以下となるようにする。このようにトップコート層13の気孔率を9%以下、より好ましくは6%以下とする方法としては、例えば、上述した溶射材を噴射する溶射装置のノズルの先端(図示せず)と、母材10と、の距離(言い換えれば、溶射距離)を、気孔率が9%よりも高い場合よりも短くする方法が挙げられる。例えば、溶射装置の溶射電流を増加させるなどしてもトップコート層13の気孔率をより低くすることができる。さらに、気孔率を9%以下、より好ましくは6%以下とする場合に、上述した溶射距離と溶射電流の両方を制御することによって所望の気孔率を得るようにしても良い。
【0033】
表面調整工程S23は、遮熱コーティング層11の表面の状態を調整する。具体的には、表面調整工程S23においては、トップコート層13の表面を僅かに削って遮熱コーティング層11の膜厚を調整したり、表面をより滑らかにしたりする。この表面調整工程S23により、例えば、動翼7への熱伝達率を低下させることができる。この第一実施形態の表面調整工程S23においては、トップコート層13を数10μm削ることで、表面を滑らかにするとともに膜厚を調整している。
【0034】
図5は、トップコート層の気孔率に応じた減耗深さを示すグラフである。
図6は、トップコート層の気孔率に応じた熱伝導率を示すグラフである。
図7は、トップコート層の気孔率に応じた熱サイクル耐久性を示すグラフである。
【0035】
図5に示すように、上述したトップコート層13は、気孔率(%)が9%以下の領域において、気孔率が9%よりも大きい領域(特に、10%から15%程度の領域)よりも、減耗深さ(mm)が大幅に低減されている。つまり、気孔率が9%以下の領域において耐エロージョン性が向上している。ここで、減耗深さとは、トップコート層13に対して、一定の条件でエロージョン試験を行った場合にトップコート層13が減耗する深さである。ここで、一定の条件とは、少なくとも、試験温度、エローダント速度、エローダントの種類、エローダントの供給量、および、エローダント衝突角度を変化させずに一定の値とした試験条件である。
エロージョン試験においては、動翼7と同様に母材10の表面に遮熱コーティングが形成された試料を用いる。
【0036】
図6に示すように、トップコート層13は、気孔率(%)が低下するほど、熱伝導率が上昇する。これは、トップコート層13を一定の厚さとした場合に、気孔率が低下するほど遮熱性が低下することを意味する。特に気孔率が9%以下の領域において、気孔率が9%よりも高い領域と比較して、熱伝導率が大きく上昇している。
【0037】
トップコート層13の熱サイクル耐久性は、トップコート層13の気孔率(%)の低下に伴い低下するものとこれまで考えられてきた。しかし、今回、燃焼ガスが800℃を超えるような高温環境で稼働するガスタービンと同条件で試験を行った結果、
図7に示すように、気孔率が9%以下の領域において、熱サイクル耐久性が上昇に転ずるとの知見が得られた。この熱サイクル耐久性の上昇は、気孔率6%以下とすることでより顕著に現れた。つまり、非常に高温な燃焼ガスGを用いるガスタービンの環境においては、気孔率9%以下、より好ましくは6%以下とすることで、熱サイクル耐久性の上昇分だけトップコート層13の厚さを増しても十分な強度を得られることとなる。そのため、この厚さを増した分だけトップコート層13における遮熱性を更に向上できる。
【0038】
図8は、この発明の第一実施形態における熱サイクル試験装置の構成を示す部分断面図である。
図8に示すように、熱サイクル試験装置30は、本体部33上に配設された試料ホルダ32に、母材10上に遮熱コーティング層11が形成された試料31を、遮熱コーティング層11が外側となるように配置し、この試料31に対してCO
2レーザ装置34からレーザ光Lを照射することで試料31を、遮熱コーティング層11側から加熱するようになっている。CO
2レーザ装置34による加熱と同時に本体部33を貫通して本体部33の内部の試料31裏面側と対向する位置に配置された冷却ガスノズル35の先端から吐出されるガス流Fにより試料31をその裏面側から冷却するようになっている。
【0039】
以上の構成の熱サイクル試験装置によれば、容易に試料31内部に温度勾配を形成することができ、ガスタービン部材などの高温部品に適用された場合の使用環境に即した評価を行うことができる。
【0040】
図9は、
図8に示す装置により熱サイクル試験に供された試料の温度変化を模式的に示すグラフである。
図10は、
図9の熱サイクル試験に供された試料の温度測定点を示す図である。
図9に示す曲線A〜Cは、それぞれ
図10に示す試料31における温度測定点A〜Cに対応している。
【0041】
図9に示すように、
図8に示す熱サイクル試験装置によれば試料31の遮熱コーティング層11表面(A)、遮熱コーティング層11と母材10との界面(B)、母材10の裏面側(C)の順に温度が低くなるように加熱することができる。そのため、例えば、遮熱コーティング層11の表面を1200℃以上の高温とし、遮熱コーティング層11と母材10との界面の温度を800〜900℃とすることで、実機ガスタービンと同様の温度条件とすることができる。この熱サイクル試験装置による加熱温度と温度勾配は、CO
2レーザ装置34の出力とガス流Fとを調整することで、容易に所望の温度条件とすることができる。
【0042】
ここで、上述した
図7に示すグラフにおいて、縦軸に示す熱サイクル耐久性試験温度(℃)は、1000サイクルの繰り返し加熱を行った際に、遮熱コーティング層11に剥離が生じる温度である。この第一実施形態における熱サイクル試験は、最高表面温度(遮熱コーティング層11表面の最高温度)を1300℃とし、最高界面温度(遮熱コーティング層11と母材10との界面の最高温度)を950℃とする繰り返しの加熱を行った。その際、加熱時間3分、冷却時間3分の繰り返しとした(冷却時の表面温度は100℃以下になるように設定した)。
【0043】
したがって、上述した第一実施形態の遮熱コーティング層11によれば、トップコート層13の気孔率を9%以下とすることで、熱サイクル耐久性を向上できる。そのため、気孔率の低下により耐エロージョン性を向上しつつ、熱サイクル耐久性が向上した分だけトップコート層13の厚さを増加させて、遮熱性能の低下を抑制することができる。その結果、十分な遮熱性能、および、強度を確保しつつ耐エロージョン性を向上することができる。
【0044】
さらに、気孔率を6%以下とした場合には、気孔率が9%の場合よりも、トップコート層13の耐エロージョン性を更に高めるとともに、熱サイクル耐久性を高めてトップコート層13の厚さをより一層増加させることができる。そのため、エロージョンによりトップコート層13が摩耗して母材10が高温に晒されるまでの時間を延ばすことができる。言い換えれば、トップコート層13により十分な遮熱効果が得られる継続時間を延ばすことができる。その結果、メンテナンスの間隔を長くすることができるため、ユーザの負担を軽減することができる。
【0045】
さらに、上述した第一実施形態におけるタービン部材である動翼7によれば、長期間に渡って高温に晒されて損傷することを抑制できる。さらに、メンテナンス周期を延ばすことができるため、ガスタービンを稼働停止させる頻度を低減することができる。
【0046】
(第一実施形態の変形例)
この発明は、上述した第一実施形態に限定されるものではなく、この発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した第一実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、第一実施形態で挙げた具体的な形状や構成等は一例にすぎず、適宜変更が可能である。
【0047】
ボンドコート層12やトップコート層13は、上述した第一実施形態以外の方法で形成されてもよい。例えば、大気圧プラズマ溶射以外の電気式溶射として減圧プラズマ溶射を用いてもよく、ガス式溶射として、フレーム溶射法、高速フレーム溶射を用いてよい。また、溶射法以外の方法で形成してもよく、例えば、電子ビーム物理蒸着法を用いてもよい。
【0048】
さらに、上述した構成においては、タービン部材として動翼7を一例にして説明したが、他のタービン部材、例えば、ガスタービン1の静翼8や燃焼器3を構成するノズルや筒体等の部材にこの発明を適用してもよい。
【0049】
上述した第一実施形態におけるトップコート層13を形成する際に、溶射距離を徐々に短くすることとなるが、その際に、
図11に示すような、いわゆる縦割れが形成されても良い。このように縦割れが形成された場合、トップコート層13のヤング率が低くなり熱応力が低下するため、熱サイクル耐久性をさらに向上することができる。
【0050】
(第二実施形態)
次に、この発明の第二実施形態の遮熱コーティング、及び、タービン部材を図面に基づき説明する。この第二実施形態は、第一実施形態に対して層状欠陥の条件を加えている点で異なる。そのため、第一実施形態と同一部分に同一符号を付して説明するとともに、重複する説明を省略する。
【0051】
第二実施形態のガスタービン1は、圧縮機2と、燃焼器3、タービン本体4と、ロータ5と、を備えている。動翼7は、動翼本体71と、プラットホーム72と、翼根73と、シュラウド74と、を備えている。
動翼7は、母材10と、遮熱コーティング層11とにより構成されている。遮熱コーティング層11は、ボンドコート層12と、トップコート層13とを備えている。
【0052】
次に、第二実施形態の遮熱コーティング層11を母材10の表面に形成するタービン部材の形成方法について説明する。この第二実施形態におけるタービン部材の形成方法の説明においては、第一実施形態の
図4を援用して説明する。
図4に示すように、まず、母材形成工程S1として、母材10を目的のタービン部材、例えば、動翼7の形状となるように形成する。この第二実施形態における母材10は、第一実施形態と同様に、上述したNi(ニッケル)基合金を用いて形成する。
【0053】
次いで、遮熱コーティング方法S2として、ボンドコート層積層工程S21と、トップコート層積層工程S22と、表面調整工程S23とを順次行う。
【0054】
ボンドコート層積層工程S21においては、母材10の表面に対してボンドコート層12を形成する。この第二実施形態のボンドコート層積層工程S21は、例えば、低圧プラズマ溶射法によりMCrAlY合金の金属溶射粉を母材10の表面に溶射する。
【0055】
トップコート層積層工程S22は、ボンドコート層12上にトップコート層13を積層させる。この第二実施形態のトップコート層積層工程S22は、例えば、大気圧プラズマ溶射法(Atmospheric pressure Plasma Spray:APS)により、溶射材としてYSZ(イットリア安定化ジルコニア)の粉末をボンドコート層12上に溶射する。ここで、この第二実施形態におけるYSZとしては、部分安定化ジルコニアであるZrO
2−8wt%Y
2O
3、又は、ZrO
2−16wt%Yb
2O
3を用いることができる。
【0056】
ここで、トップコート層積層工程S22は、トップコート層13の層状欠陥密度を、250本/mm
2以下とする。この実施形態においては、層状欠陥密度は、225本/mm
2以下、より好ましくは196本/mm
2となるようにする。
トップコート層工程S22は、トップコート層13の気孔率を9%以下とする。この実施形態においては、気孔率を8.4%以下、より好ましくは7.0%以下となるようにする。
【0057】
トップコート層13の気孔率を9%以下とし、且つ、トップコート層13の層状欠陥密度を250本/mm
2以下とする方法としては、例えば、溶射装置の溶射電流を増加させる方法が挙げられる。この場合、第一実施形態と同様に、上述した溶射材を噴射する溶射装置のノズルの先端(図示せず)と、母材10と、の距離(言い換えれば、溶射距離)を、層状欠陥密度が250本/mm
2より高い場合よりも短くしてもよい。
【0058】
表面調整工程S23は、遮熱コーティング層11の表面の状態を調整する。具体的には、表面調整工程S23においては、トップコート層13の表面を僅かに削って遮熱コーティング層11の膜厚を調整したり、表面をより滑らかにしたりする。この表面調整工程S23により、例えば、動翼7への熱伝達率を低下させることができる。この第二実施形態の表面調整工程S23においては、第一実施形態と同様に、トップコート層13を数10μm削ることで、表面を滑らかにするとともに膜厚を調整している。
【0059】
図12は、トップコート層の気孔率に応じた減耗深さを示すグラフである。
図13は、トップコート層の気孔率に応じた熱伝導率を示すグラフである。
図14は、トップコート層の気孔率に応じた熱サイクル耐久性を示すグラフである。
【0060】
この第二実施形態において、
図12から
図14において、気孔率は、「4.5%」、「6.5%」、「7.0%」、「8.4%」、「11.4%」、「12.9%」、「14.9%」の場合を示している。
ここで、気孔率が8.4%の場合、層状欠陥密度(本/mm
2)は225本/mm
2となり、層状欠陥平均長さ(μm)は33.8μmとなっている。気孔率が7.0%の場合、層状欠陥密度(本/mm
2)は196本/mm
2となり、層状欠陥平均長さ(μm)は31.7μmとなっている。
さらに、気孔率が12.9%の場合、層状欠陥密度(本/mm
2)は556本/mm
2となり、層状欠陥平均長さ(μm)は、37.9μmとなっている。
【0061】
図15Aは、第一実施例における気孔率8.4%且つ層状欠陥密度225本/mm
2の場合の断面写真であり、
図15Bは、
図15Aの層状欠陥をトレースした図面である。
図16Aは、第二実施例における気孔率7.0%且つ層状欠陥密度196本/mm
2のときの断面写真であり、
図16Bは、
図16Aの層状欠陥をトレースした図面である。
図17Aは、比較例における気孔率12.9%且つ層状欠陥密度556本/mm
2のときの断面写真であり、
図17Bは、
図17Aの層状欠陥をトレースした図面である。
【0062】
トップコート層13に形成される層状欠陥は、気孔とは異なる。層状欠陥は、主に、トップコート層13の積層方向に交差する横方向に延びる微細な亀裂のように形成される。層状欠陥は、トップコート層13の全域に形成されている。これら層状欠陥の単位面積当たりの本数が「層状欠陥密度」であり、これら層状欠陥の横方向への長さの平均値が「層状欠陥平均長さ」である。
【0063】
図12に示すように、上述したトップコート層13は、気孔率(%)が9%以下である気孔率8.4%、6.5%、7.0%、4.5%の場合に、気孔率11.4%、12.9%、14.9%の場合よりも減耗深さ(mm)が大幅に低減されている。これは、溶射粒子の溶融状態を改善することで、気孔率の低減に加えて、溶射粒子間の密着力を高め、被膜中の微細な剥離方向(横方向)の割れ(層状欠陥)を極めて低いレベルに低減した効果によると考えられる。
【0064】
つまり、気孔率が9%以下、具体的には8.4%以下の領域において耐エロージョン性が向上している。減耗深さは、第一実施形態と同様に、トップコート層13に対して、一定の条件でエロージョン試験を行った場合にトップコート層13が減耗する深さである。一定の条件は、少なくとも、試験温度、エローダント速度、エローダントの種類、エローダントの供給量、および、エローダント衝突角度を変化させずに一定の値とした試験条件である。エロージョン試験においては、動翼7と同様に母材10の表面に遮熱コーティングが形成された試料を用いている。
【0065】
本エロージョン試験は、実機を模擬した高温・高速エロージョン試験装置にて評価を行っている。これは、三菱重工技報Vol.52 No.2(2015)で示された特殊装置である。この高温・高速エロージョン試験装置は、実機のガスタービンの遮熱コーティング(TBC;Thermal Barrier Coating)の作動環境に極めて近い環境が再現可能であり、本装置でなければ遮熱コーティングを正しく評価することは難しい。一般に、エロージョン試験は、室温で行われることが多く、また、本装置のような高速のガス流速は、高温環境下でも得られないことが多い。
【0066】
図13に示すように、トップコート層13は、第一実施形態でも説明したように、気孔率(%)が低下するほど、熱伝導率が上昇する。これは、トップコート層13を一定の厚さとした場合に、気孔率が低下し、且つ、層状欠陥密度が低下するほど遮熱性が低下することを意味する。
気孔率が9%以下である8.4%、7.0%、6.5%、4.5%のそれぞれの場合に、気孔率が8.4%よりも高い場合(層状欠陥密度225本/mm
2よりも高く、層状欠陥平均長さ33.8μmよりも長い場合)である比較例よりも、熱伝導率が大きく上昇している。これは溶射中の粒子の溶融が進み、気孔率の低下、及び、溶射被膜特融の横方向の欠陥である層状欠陥が極めて少なくなっていることによると考えられる。
【0067】
トップコート層13の熱サイクル耐久性は、トップコート層13の気孔率(%)の低下に伴い低下するものとこれまで考えられてきた。しかし、今回、燃焼ガスが800℃を超え、且つ、実機と同様の100m/s以上のガス流速の高温環境で稼働するガスタービンと同条件で試験を行った結果、
図14に示すように、気孔率が9%以下の領域、より具体的には、気孔率が8.4%以下(層状欠陥密度225本/mm
2以下、層状欠陥平均長さ33.8μm以下)の場合に、熱サイクル耐久性が上昇に転ずるとの知見が得られた。
【0068】
この熱サイクル耐久性の上昇は、気孔率7.0%(層状欠陥密度196本/mm
2以下、層状欠陥平均長さ31.7μm以下)とすることでより顕著に現れた。つまり、非常に高温な燃焼ガスGを用いるガスタービンの環境においては、気孔率8.4%以下、より好ましくは7.0%以下として、層状欠陥密度を低く、層状欠陥平均長さを短くすることで、熱サイクル耐久性を上昇させることができる。そのため、この熱サイクル耐久性の上昇分だけトップコート層13の厚さを増しても十分な強度を得られることとなる。
【0069】
これは溶射中の粒子の溶融が進み、気孔率の低下と層状欠陥が極めて少なくなっていることによると考えられる。
気孔率の低減、層状欠陥の低減は、膜厚の増加に極めて有効で、熱伝導率上昇分以上に膜厚を大幅に増加させても、十分な耐久性を有すること、および、耐エロージョンに対して極めて有効であるであることを見出すことができた。
【0070】
したがって、第二実施形態によれば、トップコート層13の気孔率を9%以下、且つ、層状欠陥密度を250本/mm
2以下とすることで、トップコート層13における遮熱性を向上できる。さらに、気孔率を8.4%以下、より好ましくは7.0%とし、層状欠陥密度を225本/mm
2、より好ましくは196本/mm
2以下とすることで、遮熱性を向上できる。
さらに、気孔率を8.4%以下、より好ましくは7.0%とし、層状欠陥平均長さを33.8μm以下、より好ましくは31.7μm以下とすることで、遮熱性を向上できる。
さらに、気孔率の低減、層状欠陥の低減により、膜厚を増加させることができる。その結果、気孔率の低減、層状欠陥の低減による熱伝導率上昇分以上の熱伝導率とするべく、膜厚を大幅に増加させても十分な耐久性を確保できる。
耐エロージョン性の改善に加えてトップコート層13の膜厚を増加させて熱伝導性を改善できる。そのため、これら耐エロージョン性、熱伝導性の両方の効果によって、長期間に渡って信頼性を向上できる。