【実施例】
【0033】
次に、本発明に係る
サーミスタ及びその製造方法並びにフィルム型サーミスタセンサについて、上記実施形態に基づいて作製した実施例により評価した結果を、
図5から
図10を参照して具体的に説明する。
【0034】
<膜評価用素子の作製>
本発明の実施例及び比較例として、
図5に示す膜評価用素子121を次のように作製した。なお、以下の本発明の各実施例では、Si
xTi
y(N
1−wO
w)
zであるサーミスタ用金属窒化物を用いたものを作製した。
まず、上述したRPD法にて、様々な組成比でSi基板Sとなる熱酸化膜付きSiウエハ上に、厚さ500nmの表1に示す様々な組成比で形成され
た薄膜サーミスタ部3を形成した。
【0035】
次に、上記薄膜サーミスタ部3の上に、スパッタ法でCr膜を20nm形成し、さらにAu膜を200nm形成した。さらに、その上にレジスト液をスピンコーターで塗布した後、110℃で1分30秒のプリベークを行い、露光装置で感光後、現像液で不要部分を除去し、150℃で5分のポストベークにてパターニングを行った。その後、不要な電極部分を市販のAuエッチャント及びCrエッチャントによりウェットエッチングを行い、レジスト剥離にて所望の櫛形電極部124aを有するパターン電極124を形成した。そして、これをチップ状にダイシングして、B定数評価用の膜評価用素子121とした。
なお、比較としてSi
xTi
y(N
1−wO
w)
zの組成比が本発明の範囲外であって結晶系が異なる比較例についても同様に作製して評価を行った。
【0036】
<膜の評価>
(1)組成分析
上記RPD法にて成膜した薄膜サーミスタ部3について、X線光電子分光法(XPS)にて元素分析を行った。このXPSでは、Arスパッタにより、最表面から深さ20nmのスパッタ面において、定量分析を実施した。その結果を表1に示す。なお、以下の表中の組成比は「原子%」で示している。一部のサンプルに対して、最表面から深さ100nmのスパッタ面における定量分析を実施し、深さ20nmのスパッタ面と定量精度の範囲内で同じ組成であることを確認している。
【0037】
なお、上記X線光電子分光法(XPS)は、X線源をMgKα(350W)とし、パスエネルギー:58.5eV、測定間隔:0.125eV、試料面に対する光電子取り出し角:45deg、分析エリアを約800μmφの条件下で定量分析を実施した。なお、定量精度について、N/(Si+Ti+N+O)、O/(Si+Ti+N+O)の定量精度は±2%、Si/(Si+Ti)の定量精度は±1%である。
【0038】
(2)XPSによるSiの結合エネルギー評価
本発明の実施例について、XPSによりSi2pのスペクトルを取得し、ピーク位置よりSiの結合エネルギーを測定した結果を表1に示す。なお、一例として本発明の実施例2におけるXPSによるスペクトルのプロファイルを、
図6に示す。また、本実施例の他に比較のため、バルク体のSi,Si
3N
4,SiO
2それぞれのXPSによるスペクトルも
図6に破線で図示している。
【0039】
これらのX線光電子分光分析の結果では、本発明のいずれの実施例も、SiのピークがSi
3N
4よりも低いエネルギー側にピークを有したスペクトルが観察されている。すなわち、XPSで短周期的な構造および原子間の結合状態を分析すると、Si
3N
4結晶構造と同様の結晶構造、結合状態が短周期的に構成されていると共にSi
3N
4の結晶構造におけるSiサイトにTiが入ってスペクトルのピークが低いエネルギー側にシフトしている。したがって、窒化珪素の結晶中にTiが固溶していることがわかる。
また、Ti2pのピークにおいても、Tiよりも高いエネルギー側にシフトしていることも確認しており、Tiは単独元素で存在することなく、窒化珪素の結晶中にTiが固溶していることがわかる。
【0040】
(3)比抵抗測定
上記RPD法にて成膜した薄膜サーミスタ部3について、4端子法にて25℃での比抵抗を測定した。その結果を表1に示す。
(4)B定数測定
膜評価用素子121の25℃及び50℃の抵抗値を恒温槽内で測定し、25℃と50℃との抵抗値よりB定数を算出した。その結果を表1に示す。また、25℃と50℃との抵抗値より負の温度特性をもつサーミスタであることを確認している。
【0041】
なお、本発明におけるB定数算出方法は、上述したように25℃と50℃とのそれぞれの抵抗値から以下の式によって求めている。
B定数(K)=ln(R25/R50)/(1/T25−1/T50)
R25(Ω):25℃における抵抗値
R50(Ω):50℃における抵抗値
T25(K):298.15K 25℃を絶対温度表示
T50(K):323.15K 50℃を絶対温度表示
【0042】
これらの結果からわかるように、Si
xTi
y(N
1−wO
w)
zの組成比が
図1に示す3元系の三角図において、点A,B,C,Dで囲まれる領域内、すなわち、「0.70≦x/(x+y)≦0.98、0.45≦z≦0.58、x+y+z=1、0<w<0.30」となる領域内の実施例全てで、抵抗率:100Ωcm以上、B定数:1700K以上のサーミスタ特性が達成されている。
【0043】
上記結果から25℃での抵抗率とB定数との関係を示したグラフを、
図7に示す。また、Si/(Si+Ti)比とB定数との関係を示したグラフを、
図8に示す。これらのグラフから、Si/(Si+Ti)=0.7〜0.98の領域であって、XPS分析でSi
3N
4よりも低いエネルギー側にピークを有したスペクトルであるものは、25℃における比抵抗値が100Ωcm以上、B定数が1700K以上の高抵抗かつ高B定数の領域が実現できている。なお、
図8のデータにおいて、同じSi/(Si+Ti)比に対して、B定数がばらついているのは、結晶中の窒素量及び酸素量が異なる、もしくは窒素欠陥、酸素欠陥等の格子欠陥量が異なるためである。
【0044】
表1に示す比較例1は、N/(Si+Ti+N+O)が45%に満たない領域であり、金属が窒化不足の結晶状態になっている。この比較例では、B定数及び抵抗値が共に非常に小さく、金属的振舞いに近いことがわかった。また、表1に示す比較例2,3は、Si/(Si+Ti)<0.70の領域であり、25℃における比抵抗値が100Ωcm未満、B定数が1000K未満であり、低抵抗かつ低B定数の領域であった。
【0045】
(5)薄膜X線回折(結晶相の同定)
上記RPD法にて成膜した薄膜サーミスタ部3について、結晶相の同定を行うため、視斜角入射X線回折(Grazing Incidence X-ray Diffraction)による分析を実施した。
なお、この薄膜X線回折は、微小角X線回折実験であり、管球をCuとし、入射角を1度とすると共に2θ=20〜130度の範囲で測定した。
【0046】
この分析の結果、
図9にXRDプロファイルの一例を示すように、基板に由来するピーク(
図9中(*)のピーク)以外に特定の結晶相を示すピークが得られなかった。すなわち、XRDで長周期的に分析すると、本発明の実施例は、非晶質的な組織構造を有していることがわかる。このように、本発明の
サーミスタは、XPSによる短周期的な分析では窒化珪素の結晶中にTiが固溶した構造であるが、XRDによる長周期的な分析では非晶質的な組織構造を有している。
【0047】
【表1】
【0048】
(6)結晶形態の評価
次に、薄膜サーミスタ部3の断面における結晶形態を示す一例として、熱酸化膜付きSi基板S上に140nm程度成膜された実施例3の薄膜サーミスタ部3における断面SEM写真を、
図10に示す。
この実施例のサンプルは、Si基板Sをへき開破断したものを用いている。また、45°の角度で傾斜観察した写真である。
この写真からわかるように、本発明の実施例は緻密な組織であるが、柱状結晶等の形成は観測されていない。
【0049】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。