特許第6394956号(P6394956)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6394956
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/505 20100101AFI20180913BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20180913BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20180913BHJP
【FI】
   H01M4/505
   H01M4/525
   H01M10/052
【請求項の数】2
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-201579(P2014-201579)
(22)【出願日】2014年9月30日
(65)【公開番号】特開2016-72129(P2016-72129A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年6月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100199691
【弁理士】
【氏名又は名称】吉水 純子
(72)【発明者】
【氏名】菊池 彰文
【審査官】 冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−020715(JP,A)
【文献】 特開2013−125712(JP,A)
【文献】 特開2011−228293(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/081839(WO,A1)
【文献】 特開2013−058451(JP,A)
【文献】 特開2008−270201(JP,A)
【文献】 特開2013−161621(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極と非水電解質を備えた非水電解質二次電池であって、
前記正極は、α−NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含有する正極活物質を有し、
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、遷移金属(Me)に対するリチウム(Li)のモル比Li/Meが1より大きく、前記遷移金属(Me)として、Mn並びに、Ni及び/又はCoを含み、前記遷移金属(Me)に対するMnのモル比Mn/MeがMn/Me≧0.60であり、
サイクリックボルタモグラム(CV)を、走査電位範囲:2.0−4.45V(vs.Li/Li)、走査速度:0.05mV/secで行ったとき、前記正極のCVにおける酸化側に、2つのピークを有し、
前記正極の酸化側のCVにおける3.6V(vs.Li/Li)より高い電位の領域の積分値に対する3.6V(vs.Li/Li)より低い電位の領域の積分値の比が0.37〜0.51の範囲であり、
前記負極の容量に対する前記正極の容量の比が0.86〜0.95の範囲であることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記正極の酸化側のCVにおける前記の積分値の比が0.37〜0.48であることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、非水電解質二次電池であるリチウム二次電池には、正極活物質として、α−NaFeO型結晶構造を有する「LiMeO型」活物質(Meは遷移金属)が検討され、LiCoOが広く実用化されていた。LiCoOを正極活物質として用いたリチウム二次電池は、放電容量が120〜130mAh/g程度であった。
【0003】
充放電サイクル性能の点でも優れる「LiMeO型」活物質が種々提案され、一部実用化されている。例えば、LiNi1/2Mn1/2やLiCo1/3Ni1/3Mn1/3は、150〜180mAh/gの放電容量を有する。
【0004】
前記Meとして、地球資源として豊富なMnを用いることが望まれていた。しかし、Meに対するMnのモル比Mn/Meが0.5を超える「LiMeO型」活物質は、充電に伴いα−NaFeO型からスピネル型へと構造変化が起こり、結晶構造が維持できず、充放電サイクルが著しく劣るという問題があった。
そこで、近年、上記のような「LiMeO型」活物質に対し、遷移金属(Me)に対するマンガン(Mn)のモル比Mn/Meが0.5を超え、充電をしてもα−NaFeO構造を維持できる活物質が提案された。
【0005】
特許文献1には、MeとしてNi,Co及びMnを含み、Meに対するMnのモル比Mn/Meが0.62〜0.72であるリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質に用いた非水電解質二次電池であって、製造工程中に行う初期充放電における充電を4.5〜4.6V(vs.Li/Li)で行い、使用時における充電時の正極の最大到達電位を4.4V(vs.Li/Li)以下や4.3V(vs.Li/Li)以下とする電池について、200mAh/g以上の放電容量が得られることが記載されている。特許文献2にも、同様の正極活物質について、初期充放電の充電を4.6V(vs.Li/Li)で行い、その後の充放電サイクルを4.3V(vs.Li/Li)充電で行い、同様の放電容量を得ることが記載されている。
【0006】
このように、従来の「LiMeO型」正極活物質の場合とは異なり、MeとしてNi,Co及びMnを含み、Meに対するMnのモル比Mn/Meが0.5を超え、充電をしてもα−NaFeO構造を維持できる正極活物質では、初回に、使用時の充電電位より高い電位に至るまで充電(以下、「初回充電」という。)を行うことにより、高い放電容量が得られるという特徴がある。
なお、この材料は、遷移金属(Me)の比率に対するリチウム(Li)の組成比率Li/Meが1より大きく、例えばLi/Meが1.25〜1.6であるように原料を混合して合成されることから、「リチウム過剰型」活物質とも呼ばれ、合成後の組成はLi1+αMe1−α(α>0)と表記できる。ここで、遷移金属(Me)の比率に対するリチウム(Li)の組成比率Li/Meをβとすると、β=(1+α)/(1−α)であるから、例えば、Li/Meが1.5のとき、α=0.2である。
【0007】
特許文献3には、4.3V以上4.8V以下の電位範囲における充電又は充放電を行うことによりスピネル構造に変化する層状構造部位と変化しない層状構造部位とを有する固溶体リチウム含有遷移金属酸化物Aと、4.3V以上4.8V以下の電位範囲における充電又は充放電を行うことによりスピネル構造に変化しない層状構造部位を有するリチウム含有遷移金属酸化物Bとを含有する正極活物質を含む正極を有するリチウムイオン二次電池(段落0010、特許請求の範囲、等)が記載され、「電位を規制した充放電前処理法として、リチウム金属対極に対する所定の電位範囲の最高の電位(リチウム金属またはリチウム金属に換算した充放電の上限電位)が、4.3V(vs.Li/Li)以上4.8V(vs.Li/Li)以下となる条件下で充放電を1〜30サイクル行うことが望ましい。より好ましくは4.4V(vs.Li/Li)以上4.6V(vs.Li/Li)以下となる条件下で充放電を1〜30サイクル行うことが望ましい。」(段落0034)と記載されている。
【0008】
特許文献4には化学式1、aLiMnO−(1−a)LiMOで表される正極活物質を含む正極を有するリチウムイオン二次電池であって、初回充電を4.5V〜4.7Vの範囲内の電圧で行って正極活物質を活性化させた、リチウムイオン二次電池(請求項1)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO2012/091015
【特許文献2】WO2013/084923
【特許文献3】特開2013−187023号公報
【特許文献4】特開2013−214491号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記した従来技術では、使用時の作動電位である例えば4.35Vを超える電位で初回充電を行い、正極活物質から高容量を引き出している。
そして、初回充電後、実際の作動電位で電池を使用すると、図4に模式的に示すような余剰容量が正極に生じ、この余剰容量分を補うために、初回の充放電にしか関与しない過剰容量分の負極材料を必要としていた。
そのため、負極材料を収容するために大きな体積が必要であり、これが、電池の高容量密度化を妨げる要因となっていた。
【0011】
本発明は、このような課題に鑑み、遷移金属中のMnの割合を高めたリチウム遷移金属複合酸化物からなる正極活物質を有する非水電解質二次電池において、体積容量密度が高い電池を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記目的を達成するために、遷移金属中のMnの割合を高めたリチウム遷移金属複合酸化物からなる正極活物質のサイクリックボルタモグラム(CV)において特徴づけられる容量領域に着目した。
【0013】
本発明は、以下の構成を有する。
正極と負極と非水電解質を備えた非水電解質二次電池であって、
前記正極は、α−NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含有する正極活物質を有し、
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、遷移金属(Me)に対するリチウム(Li)のモル比Li/Meが1より大きく、前記遷移金属(Me)として、Mn並びに、Ni及び/又はCoを含み、前記遷移金属(Me)に対するMnのモル比Mn/MeがMn/Me≧0.60であり、
サイクリックボルタモグラム(CV)を、走査電位範囲:2.0−4.45V(vs.Li/Li)、走査速度:0.05mV/secで行ったとき、前記正極のCVにおける酸化側に、電流密度の極小点を挟んで2つのピークが存在し、前記正極の酸化側のCVにおける3.6V(vs.Li/Li)より高い電位の領域の積分値に対する3.6V(vs.Li/Li)より低い電位の領域の積分値の比が0.37〜0.51の範囲であり、
前記負極の容量に対する前記正極の容量の比が0.86〜0.95の範囲である非水電解質二次電池。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、体積当たりの容量密度が高い非水電解質二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る非水電解質二次電池のサイクリックボルタモグラム(CV)
図2】本発明に係る非水電解質電池の外観図
図3】本発明に係る非水電解質電池を集合してなる蓄電装置の概念図
図4】正極の初回充放電によって生じる余剰容量を示す模式図
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のリチウム遷移金属複合酸化物は、遷移金属(Me)に対するMnのモル比Mn/Meを0.6以上とするものである。
モル比Mn/Meが0.6以上のリチウム遷移金属複合酸化物は高容量である。Li/Meが1より大きいことにより、充電してもα−NaFeO構造を維持できるものであるから、充放電サイクル性能にも優れている。
【0017】
図1は、本発明明細書の実施例の欄に詳述するように、モル比Mn/Meが0.6以上であるリチウム遷移金属複合酸化物を含有する正極活物質を有する正極を備えた非水電解質二次電池を組立て、充電電位を4.6V(vs.Li/Li)、4.5V(vs.Li/Li)又は4.45V(vs.Li/Li)に設定して初回充放電を行った後、前記正極を作用極(WE)として、2.0V(vs.Li/Li)〜4.45V(vs.Li/Li)の範囲で電位走査して得られたサイクリックボルタモグラム(CV)である。
図1からわかるように、初回充電電位を4.5V(vs.Li/Li)以上に設定した場合には、3.6V(vs.Li/Li)を挟んで2つのピークが明確に現れることから、3.6V(vs.Li/Li)を挟んでこれらのピークをそれぞれ含む2つの電位領域に分けることができる。そして、初回充電電位を4.45V(vs.Li/Li)に設定した場合との対比により、これらの領域のうち、3.6V(vs.Li/Li)より電位の低い(1)の領域が、初回充電電位を高く設定したことによって容量が大きく増える領域であり、3.6V(vs.Li/Li)より電位の高い(2)の領域が、初回充電電位の設定値によって容量が大きく変化しない領域であることがわかる。
【0018】
本発明者は、(1)の領域における容量発現については、Mnの酸化還元及びOの酸化還元によるものであり、(2)の領域における容量発現については、Ni、Coの酸化還元によるものであると推論し、(1)の領域の積分値と(2)の領域の積分値との比を用いて正極の状態を規定することによって、初回充電電位を高く設定することによる容量増加が適度になされるとともに、初回充放電のみに必要な負極容量分の負極材料を適量に抑えることができ、結果として電池の体積当たりの容量密度を上げることができることを見出した。
したがって、本発明は、モル比Mn/Meが0.6以上であるリチウム遷移金属複合酸化物を活物質とする正極の酸化側のCVにおいて、(2)の領域の積分値に対する(1)の領域の積分値の比(以下、「(1)/(2)」という。)を0.37〜0.51の範囲、好ましくは0.37〜0.48とし、負極に対する正極の容量の比(以下、「正極/負極容量比」という。)を0.86〜0.95とすることを特徴とする。
【0019】
(1)/(2)が0.37を下回る場合は、初回充電電位を高く設定することによる正極の容量密度の増加効果が十分に生かされないから、初回充放電のみに必要な負極容量が小さく、正極/負極容量比を1に近づけることはできるが、体積当たりの容量密度を上げることができない。
(1)/(2)が0.37〜0.51の範囲の場合、初回充電電位を高く設定することによる正極の容量密度の増加効果を生かすことができるとともに、正極の余剰容量に対応する初回充放電のみに必要な負極容量が適度に低減され、正極/負極容量比を1に近い0.86〜0.95とすることができるから、電池の体積当たりの容量密度が改善される。
(1)/(2)が0.51を超えると、初回充電電位を高く設定することにより正極容量密度は増大するが、初回充放電のみに必要な負極容量が増大するため、負極容量分を供給する負極材料の体積が大きくなり、電池の体積当たりの容量が低減する。
また、初回充電電位を高く設定したことによる負極へのMnの析出等の要因により、充放電サイクル性能が優れない傾向となる。
【0020】
特に、(1)/(2)が0.37〜0.48の範囲内であると、充放電サイクル性能が良好となるので、好ましい。これは、(1)/(2)が0.37〜0.48の範囲内では、0.48を上回る範囲と比べ、副反応を抑制できるためであると推測される。(1)の領域では、CV測定によりヒステリシスがみられるから,副反応が起こっていることが推察される。
【0021】
(正極活物質)
本発明に係る非水電解質二次電池におけるリチウム遷移金属複合酸化物の組成は、高い放電容量が得られる点から、遷移金属(Me)がCo、Ni及びMnを含み、モル比Mn/Meが0.6以上である。モル比Mn/Meは0.6〜0.75とすることが好ましい。
【0022】
リチウム遷移金属複合酸化物は、非水電解質二次電池の初期効率及び高率放電性能を向上させるために、遷移金属元素Meに対するCoのモル比Co/Meは、0.05〜0.40とすることが好ましく、0.10〜0.30とすることがより好ましい。
【0023】
リチウム遷移金属複合酸化物は、Mn/Meが高いにも関わらず、充電してもα−NaFeO構造を維持するために、遷移金属Meに対するリチウム(Li)のモル比Li/Meが1より大きいことが好ましい。この特徴は、Li1+αMe1−α((1+α)/(1−α)>1)と表記することができる。
なかでも、初期効率及び高率放電性能が優れた非水電解質二次電池を得るために、遷移金属元素Meに対するLiのモル比Li/Meは、1.2より大きく且つ1.6より小さいこと、すなわち、組成式Li1+αMe1−αにおいて1.2<(1+α)/(1−α)<1.6とすることが好ましい。放電容量が特に大きく、高率放電性能が優れた非水電解質二次電池を得ることができるという観点から、前記Li/Meが1.25〜1.5のものを選択することが好ましい。
【0024】
本発明において、リチウム遷移金属複合酸化物は、典型的には、Li1+α(CoNiMn1−α、但し、α>0、a+b+c=1、a>0、b>0、c≧0.6で表わされるものであり、Li、Co、Ni及びMnからなる複合酸化物であるが、放電容量を向上させるために、Naを1000ppm以上含ませることが好ましい。Naの含有量は、2000〜10000ppmがより好ましい。
【0025】
Naを含有させるために、水酸化物前駆体又は炭酸塩前駆体を作製する工程において、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム等のナトリウム化合物を中和剤として使用し、洗浄工程でNaを残存させるか、及び、その後の焼成工程において炭酸ナトリウム等のナトリウム化合物を添加する方法を採用することができる。
【0026】
また、リチウム遷移金属複合酸化物は、本発明の効果を損なわない範囲で、Na以外のアルカリ金属、Mg,Ca等のアルカリ土類金属、Fe,Zn等の3d遷移金属に代表される遷移金属など少量の他の金属を含有することができる。
【0027】
リチウム遷移金属複合酸化物は、炭酸塩前駆体、又は水酸化物前駆体から作製される。
炭酸塩前駆体から作製されるリチウム繊維金属複合酸化物粒子は、2次粒子の粒度分布における累積体積が50%となる粒子径であるD50が、5μm以上であることが好ましく、5〜18μmであることがより好ましい。また、水酸化物前駆体から作製されるリチウム遷移金属複合酸化物粒子は、D50が、8μm以下であることが好ましく、8〜1μmであることがより好ましい。
【0028】
本発明において、初期効率及び充放電サイクル性能が優れた非水電解質二次電池用正極活物質を得るために、炭酸塩前駆体から作製されるリチウム遷移金属複合酸化物は、窒素ガス吸着法を用いた吸着等温線からBJH法で求めた微分細孔容積が最大値を示す細孔径が30〜40nmの範囲で、ピーク微分細孔容積が0.75mm/(g・nm)以上であることが好ましい(特許文献2参照)。
【0029】
また、本発明に係る正極活物質のタップ密度は、充放電サイクル性能及び高率放電性能が優れた非水電解質二次電池を得るために、1.25g/cc以上が好ましく、1.7g/cc以上がより好ましい。
【0030】
(正極活物質の製造方法)
次に、リチウム遷移金属複合酸化物を製造する方法について説明する。
リチウム遷移金属複合酸化物は、基本的に、リチウム遷移金属複合酸化物を構成する金属元素(Li,Mn,Co,Ni)を目的とする組成通りに含有する原料を調整し、これを焼成することによって得ることができる。但し、Li原料の量については、焼成中にLi原料の一部が消失することを見込んで、1〜5%程度過剰に仕込むことが好ましい。
目的とする組成の酸化物を作製するにあたり、Li,Co,Ni,Mnのそれぞれの塩を混合・焼成するいわゆる「固相法」や、あらかじめCo,Ni,Mnを一粒子中に存在させた共沈前駆体を作製しておき、これにLi塩を混合・焼成する「共沈法」が知られている。「固相法」による合成過程では、特にMnはCo,Niに対して均一に固溶しにくいため、各元素が一粒子中に均一に分布した試料を得ることは困難である。これまで文献などにおいては固相法によってNiやCoの一部にMnを固溶(LiNi1−xMnなど)しようという試みが多数なされているが、「共沈法」を選択する方が原子レベルで均一相を得ることが容易である。そこで、後述する実施例で用いるリチウム遷移金属複合酸化物は、「共沈法」を採用して作製した。
【0031】
共沈前駆体を作製するにあたって、Co,Ni,MnのうちMnは酸化されやすく、Co,Ni,Mnが2価の状態で均一に分布した共沈前駆体を作製することが容易ではないため、Co,Ni,Mnの原子レベルでの均一な混合は不十分なものとなりやすい。特に本発明の組成範囲においては、Mn比率がCo,Ni比率に比べて高いので、水溶液中の溶存酸素を除去することが特に重要である。溶存酸素を除去する方法としては、酸素を含まないガスをバブリングする方法が挙げられる。酸素を含まないガスとしては、限定されるものではないが、窒素ガス、アルゴンガス、二酸化炭素(CO)等を用いることができる。なかでも、共沈炭酸塩前駆体を作製する場合には、酸素を含まないガスとして二酸化炭素を採用すると、炭酸塩がより生成しやすい環境が与えられるため、好ましい。
【0032】
溶液中でCo、Ni及びMnを含有する化合物を共沈させて前駆体を製造する工程におけるpHは限定されるものではないが、前記共沈前駆体を共沈水酸化物前駆体として作製しようとする場合には、10〜14とすることができ、前記共沈前駆体を共沈炭酸塩前駆体として作製しようとする場合には、7.5〜11とすることができる。タップ密度を大きくするためには、pHを制御することが好ましい。共沈炭酸塩前駆体については、pHを9.4以下とすることにより、タップ密度を1.25g/cc以上とすることができ、高率放電性能を向上させることができる。さらに、pHを8.0以下とすることにより、粒子成長速度を促進できるので、原料水溶液滴下終了後の撹拌継続時間を短縮できる。
【0033】
前記共沈前駆体は、MnとNiとCoとが均一に混合された化合物であることが好ましい。また、錯化剤を用いた晶析反応等を用いることによって、より嵩密度の大きな前駆体を作製することもできる。その際、Li源と混合・焼成することでより高密度の活物質を得ることができるので電極面積あたりのエネルギー密度を向上させることができる。
【0034】
前記共沈前駆体の原料は、Mn化合物としては酸化マンガン、炭酸マンガン、硫酸マンガン、硝酸マンガン、酢酸マンガン等を、Ni化合物としては、水酸化ニッケル、炭酸ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、酢酸ニッケル等を、Co化合物としては、硫酸コバルト、硝酸コバルト、酢酸コバルト等を一例として挙げることができる。
【0035】
本発明においては、アルカリ性を保った反応槽に前記共沈前駆体の原料水溶液を連続的に滴下供給して共沈前駆体を得る反応晶析法を採用する。ここで、中和剤として、リチウム化合物、ナトリウム化合物、カリウム化合物等を使用することができるが、前記共沈前駆体を共沈水酸化物前駆体として作製する場合には、水酸化ナトリウム、水酸化ナトリウムと水酸化リチウム、又は、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムの混合物を使用することが好ましく、また、前記共沈前駆体を共沈炭酸塩前駆体として作製する場合には、炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウムと炭酸リチウム、又は、炭酸ナトリウムと炭酸カリウムの混合物を使用することが好ましい。Naを1000ppm以上残存させるために、炭酸ナトリウム(水酸化ナトリウム)と炭酸リチウム(水酸化リチウム)のモル比であるNa/Li、又は、炭酸ナトリウム(水酸化ナトリウム)と炭酸カリウム(水酸化カリウム)のモル比であるNa/Kは、1/1[M]以上とすることが好ましい。Na/Li又はNa/Kを1/1[M]以上とすることにより、引き続く洗浄工程でNaが除去されすぎて1000ppm未満となってしまう虞を低減できる。
【0036】
前記原料水溶液の滴下速度は、生成する共沈前駆体の1粒子内における元素分布の均一性に大きく影響を与える。特にMnは、CoやNiと均一な元素分布を形成しにくいので注意が必要である。好ましい滴下速度については、反応槽の大きさ、攪拌条件、pH、反応温度等にも影響されるが、30ml/min以下が好ましい。放電容量を向上させるためには、滴下速度は10ml/min以下がより好ましく、5ml/min以下が最も好ましい。
【0037】
また、反応槽内に錯化剤が存在し、かつ一定の対流条件を適用した場合、前記原料水溶液の滴下終了後、さらに攪拌を続けることにより、粒子の自転および攪拌槽内における公転が促進され、この過程で、粒子同士が衝突しつつ、粒子が段階的に同心円球状に成長する。即ち、共沈前駆体は、反応槽内に原料水溶液が滴下された際の金属錯体形成反応、及び、前記金属錯体が反応槽内の滞留中に生じる沈殿形成反応という2段階での反応を経て形成される。従って、前記原料水溶液の滴下終了後、さらに攪拌を続ける時間を適切に選択することにより、目的とする粒子径を備えた共沈前駆体を得ることができる。
【0038】
原料水溶液滴下終了後の好ましい攪拌継続時間については、反応槽の大きさ、攪拌条件、pH、反応温度等にも影響されるが、粒子を均一な球状粒子として成長させるために0.5h以上が好ましく、1h以上がより好ましい。また、粒子径が大きくなりすぎることで電池の低SOC領域における出力性能が充分でないものとなる虞を低減させるため、30h以下が好ましく、25h以下がより好ましく、20h以下が最も好ましい。
【0039】
また、共沈水酸化物前駆体から作製するリチウム遷移金属複合酸化物の50%粒子径(D50)を1〜8μmとするための好ましい攪拌継続時間、共沈炭酸塩前駆体から作製するリチウム遷移金属複合酸化物の50%粒子径(D50)を5〜18μmとするための好ましい攪拌継続時間は、制御するpHによって異なる。例えば、共沈水酸化物前駆体については、pHを10〜12に制御した場合には、撹拌継続時間は1〜10hが好ましく、pHを12〜14に制御した場合には、撹拌継続時間は3〜20hが好ましい。共沈炭酸塩前駆体については、pHを7.5〜8.2に制御した場合には、撹拌継続時間は1〜20hが好ましく、pHを8.3〜9.4に制御した場合には、撹拌継続時間は3〜24hが好ましい。
【0040】
共沈前駆体の粒子を、中和剤として水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム等のナトリウム化合物を使用して作製した場合、その後の洗浄工程において粒子に付着しているナトリウムイオンを洗浄除去するが、本発明においては、Naが1000ppm以上残存するような条件で洗浄除去することが好ましい。例えば、作製した共沈前駆体を吸引ろ過して取り出す際に、イオン交換水200mlによる洗浄回数を5回とするような条件を採用することができる。
【0041】
本発明において、リチウム遷移金属複合酸化物は、前記水酸化物前駆体又は炭酸塩前駆体とLi化合物とを混合した後、熱処理することで好適に作製することができる。Li化合物としては、水酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム等を用いることで好適に製造することができる。但し、Li化合物の量については、焼成中にLi化合物の一部が消失することを見込んで、1〜5%程度過剰に仕込むことが好ましい。
【0042】
リチウム遷移金属複合酸化物中のNaの含有量を1000ppm以上とするために、前記水酸化物前駆体又は炭酸塩前駆体に含まれるNaが1000ppm以下であっても、焼成工程においてLi化合物と共にNa化合物を、前記水酸化物前駆体又は炭酸塩前駆体と混合することで活物質中に含まれるNa量を1000ppm以上とすることができる。Na化合物としては炭酸ナトリウムが好ましい。
【0043】
焼成温度は、活物質の可逆容量に影響を与える。
焼成温度が高すぎると、得られた活物質が酸素放出反応を伴って崩壊すると共に、主相の六方晶に加えて単斜晶のLi[Li1/3Mn2/3]O型に規定される相が、固溶相としてではなく、分相して観察される傾向がある。このような分相が多く含まれすぎると、活物質の可逆容量の減少を導くので好ましくない。このような材料では、X線回折図上35°付近及び45°付近に不純物ピークが観察される。従って、焼成温度は、活物質の酸素放出反応の影響する温度未満とすることが好ましい。活物質の酸素放出温度は、本発明に係る組成範囲においては、概ね1000℃以上であるが、活物質の組成によって酸素放出温度に若干の差があるので、あらかじめ活物質の酸素放出温度を確認しておくことが好ましい。特に試料に含まれるCo量が多いほど前駆体の酸素放出温度は低温側にシフトすることが確認されているので注意が必要である。活物質の酸素放出温度を確認する方法としては、焼成反応過程をシミュレートするために、共沈前駆体とリチウム化合物を混合したものを熱重量分析(DTA−TG測定)に供してもよいが、この方法では測定機器の試料室に用いている白金が揮発したLi成分により腐食されて機器を痛めるおそれがあるので、あらかじめ500℃程度の焼成温度を採用してある程度結晶化を進行させた組成物を熱重量分析に供するのが良い。
【0044】
一方、焼成温度が低すぎると、結晶化が十分に進まず、電極特性が低下する傾向がある。本発明において、共沈水酸化物を前駆体として用いたときには焼成温度は少なくとも700℃以上とすることが好ましい。また、共沈炭酸塩を前駆体として用いたときには焼成温度は少なくとも800℃以上とすることが好ましい。特に、前駆体が共沈炭酸塩である場合の最適な焼成温度は、前駆体に含まれるCo量が多いほど、より低い温度となる傾向がある。このように一次粒子を構成する結晶子を十分に結晶化させることにより、結晶粒界の抵抗を軽減し、円滑なリチウムイオン輸送を促すことができる。
本発明者らは、本発明活物質の回折ピークの半値幅を詳細に解析することにより、前駆体が共沈水酸化物である場合においては、焼成温度が650℃未満の温度で合成した試料においては格子内にひずみが残存しており、650℃以上の温度で合成することで顕著にひずみを除去することができること、及び、前駆体が共沈炭酸塩である場合においては、焼成温度が750℃未満の温度で合成した試料においては格子内にひずみが残存しており、750℃以上の温度で合成することで顕著にひずみを除去することができることを確認した。また、結晶子のサイズは合成温度が上昇するに比例して大きくなるものであった。よって、本発明活物質の組成においても、系内に格子のひずみがほとんどなく、かつ結晶子サイズが十分成長した粒子を志向することで良好な放電容量を得られるものであった。具体的には、格子定数に及ぼすひずみ量が2%以下、かつ結晶子サイズが50nm以上に成長しているような合成温度(焼成温度)及びLi/Me比組成を採用することが好ましいことがわかった。これらを電極として成型して充放電をおこなうことで膨張収縮による変化も見られるが、充放電過程においても結晶子サイズは30nm以上を保っていることが得られる効果として好ましい。
【0045】
上記のように、焼成温度は、活物質の酸素放出温度に関係するが、活物質から酸素が放出される焼成温度に至らずとも、900℃以上において一次粒子が大きく成長することによる結晶化現象が見られる。これは、焼成後の活物質を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより確認できる。900℃を超えた合成温度を経て合成した活物質は一次粒子が0.5μm以上に成長しており、充放電反応中における活物質中のLi移動に不利な状態となり、高率放電性能が低下する。一次粒子の大きさは0.5μm未満であることが好ましく、0.3μm以下であることがより好ましい。
【0046】
以上のことからみて、リチウム遷移金属複合酸化物において、Li/Meのモル比(1+α)/(1−α)が1.2<(1+α)/(1−α)<1.6である場合、焼成温度は、750〜900℃とすることが好ましく、800〜900℃とすることがより好ましい。
【0047】
以上の工程により、例えば以下のリチウム遷移金属複合酸化物が作製される。
Li1.18Co0.10Ni0.17Mn0.55
(Li/Me=1.44、Mn/Me=0.67)
Li1.13Co0.21Ni0.17Mn0.49
(Li/Me=1.30、Mn/Me=0.56)
Li1.18Co0.17Ni0.17Mn0.49
(Li/Me=1.44、Mn/Me=0.60)
Li1.20Co0.10Ni0.15Mn0.55
(Li/Me=1.50、Mn/Me=0.69)
【0048】
(負極材料)
負極材料としては、限定されるものではなく、リチウムイオンを放出あるいは吸蔵することのできる形態のものであればどれを選択してもよい。例えば、Li[Li1/3Ti5/3]Oに代表されるスピネル型結晶構造を有するチタン酸リチウム等のチタン系材料、SiやSb,Sn系などの合金系材料リチウム金属、リチウム合金(リチウム−シリコン、リチウム−アルミニウム,リチウム−鉛,リチウム−スズ,リチウム−アルミニウム−スズ,リチウム−ガリウム,及びウッド合金等のリチウム金属含有合金)、リチウム複合酸化物(リチウム−チタン)、酸化珪素の他、リチウムを吸蔵・放出可能な合金、炭素材料(例えばグラファイト、ハードカーボン、低温焼成炭素、非晶質カーボン等)等が挙げられる。
【0049】
(正極板・負極板)
前記正極活物質、及び負極材料が本発明の正極及び負極の主要成分であるが、前記正極及び負極には、前記主要構成成分の他に、導電剤、結着剤、増粘剤、フィラー等が、他の構成成分として含有されてもよい。
【0050】
導電剤としては、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば限定されないが、通常、天然黒鉛(鱗状黒鉛,鱗片状黒鉛,土状黒鉛等)、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウイスカー、炭素繊維、金属(銅,ニッケル,アルミニウム,銀,金等)粉、金属繊維、導電性セラミックス材料等の導電性材料を1種またはそれらの混合物として含ませることができる。
【0051】
これらの中で、導電剤としては、電子伝導性及び塗工性の観点よりアセチレンブラックが望ましい。導電剤の添加量は、正極または負極の総質量に対して0.1質量%〜50質量%が好ましく、特に0.5質量%〜30質量%が好ましい。特にアセチレンブラックを0.1〜0.5μmの超微粒子に粉砕して用いると必要炭素量を削減できるため望ましい。これらの混合方法は、物理的な混合であり、その理想とするところは均一混合である。そのため、V型混合機、S型混合機、擂かい機、ボールミル、遊星ボールミルといったような粉体混合機を乾式、あるいは湿式で混合することが可能である。
【0052】
前記結着剤としては、通常、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),ポリフッ化ビニリデン(PVDF),ポリエチレン,ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM),スルホン化EPDM,スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のゴム弾性を有するポリマーを1種または2種以上の混合物として用いることができる。結着剤の添加量は、正極または負極の総質量に対して1〜50質量%が好ましく、特に2〜30質量%が好ましい。
【0053】
フィラーとしては、電池性能に悪影響を及ぼさない材料であれば何でも良い。通常、ポリプロピレン,ポリエチレン等のオレフィン系ポリマー、無定形シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス、炭素等が用いられる。フィラーの添加量は、正極または負極の総質量に対して添加量は30質量%以下が好ましい。
【0054】
正極及び負極は、前記主要構成成分(正極においては正極活物質、負極においては負極材料)、およびその他の材料を混練して正極合材及び負極合材とし、N−メチルピロリドン,トルエン等の有機溶媒又は水に混合させた後、得られた混合液を集電体の上に塗布し、または圧着して50℃〜250℃程度の温度で、2時間程度加熱処理することにより好適に作製される。前記塗布方法については、例えば、アプリケーターロールなどのローラーコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレード方式、スピンコーティング、バーコータ等の手段を用いて任意の厚さ及び任意の形状に塗布することが望ましいが、これらに限定されるものではない。
集電体としては、アルミニウム箔、銅箔等の集電箔を用いることができる。正極の集電箔としてはアルミニウム箔が好ましい。集電箔の厚みは10〜30μmが好ましい。また、合材層の厚みはプレス後において、40〜150μm(集電箔厚みを除く)が好ましい。
【0055】
(非水電解質)
本発明に係る非水電解質二次電池に用いる非水電解質は、限定されるものではなく、一般にリチウム電池等への使用が提案されているものが使用可能である。非水電解質に用いる非水溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状炭酸エステル類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状エステル類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酪酸メチル等の鎖状エステル類;テトラヒドロフランまたはその誘導体;1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジブトキシエタン、メチルジグライム等のエーテル類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジオキソランまたはその誘導体;エチレンスルフィド、スルホラン、スルトンまたはその誘導体等の単独またはそれら2種以上の混合物等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0056】
非水電解質に用いる電解質塩としては、例えば、LiClO,LiBF,LiAsF,LiPF,LiSCN,LiBr,LiI,LiSO,Li10Cl10,NaClO,NaI,NaSCN,NaBr,KClO,KSCN等のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)の1種を含む無機イオン塩、LiCFSO,LiN(CFSO,LiN(CSO,LiN(CFSO)(CSO),LiC(CFSO,LiC(CSO,(CHNBF,(CHNBr,(CNClO,(CNI,(CNBr,(n−CNClO,(n−CNI,(CN−maleate,(CN−benzoate,(CN−phthalate、ステアリルスルホン酸リチウム、オクチルスルホン酸リチウム、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム等の有機イオン塩等が挙げられ、これらのイオン性化合物を単独、あるいは2種類以上混合して用いることが可能である。
【0057】
さらに、LiPF又はLiBFと、LiN(CSOのようなパーフルオロアルキル基を有するリチウム塩とを混合して用いることにより、さらに電解質の粘度を下げることができるので、低温特性をさらに高めることができ、また、自己放電を抑制することができ、より望ましい。
【0058】
また、非水電解質として常温溶融塩やイオン液体を用いてもよい。
【0059】
非水電解質における電解質塩の濃度としては、高い電池特性を有する非水電解質電池を確実に得るために、0.1mol/l〜5mol/Lが好ましく、さらに好ましくは、0.5mol/l〜2.5mol/Lである。
【0060】
(セパレータ)
セパレータとしては、優れた高率放電性能を示す多孔膜や不織布等を、単独あるいは併用することが好ましい。非水電解質電池用セパレータを構成する材料としては、例えばポリエチレン,ポリプロピレン等に代表されるポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート等に代表されるポリエステル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−フルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロアセトン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン共重合体、フッ化ビニリデン−プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等を挙げることができる。
【0061】
セパレータの空孔率は強度の観点から98体積%以下が好ましい。また、充放電特性の観点から空孔率は20体積%以上が好ましい。
【0062】
また、セパレータは、例えばアクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタアクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等のポリマーと電解質とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。非水電解質を上記のようにゲル状態で用いると、漏液を防止する効果がある点で好ましい。
【0063】
さらに、セパレータは、上述したような多孔膜や不織布等とポリマーゲルを併用して用いると、電解質の保液性が向上するため望ましい。即ち、ポリエチレン微孔膜の表面及び微孔壁面に厚さ数μm以下の親溶媒性ポリマーを被覆したフィルムを形成し、前記フィルムの微孔内に電解質を保持させることで、前記親溶媒性ポリマーがゲル化する。
【0064】
前記親溶媒性ポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデンの他、エチレンオキシド基やエステル基等を有するアクリレートモノマー、エポキシモノマー、イソシアナート基を有するモノマー等が架橋したポリマー等が挙げられる。該モノマーは、ラジカル開始剤を併用して加熱や紫外線(UV)を用いたり、電子線(EB)等の活性光線等を用いて架橋反応を行わせることが可能である。
【0065】
(非水電解質二次電池の構成)
本発明の非水電解質二次電池の構成については特に限定されるものではなく、正極、負極及びロール状のセパレータを有する円筒型電池、角型電池、扁平型電池等が一例として挙げられる。
図2に角型電池の一例を示す。セパレータを挟んで巻回された正極及び負極よりなる電極群2が角型の電池容器3に収納され、正極リード4’を介して正極端子4が、負極リード5’を介して負極端子5が電池容器外に導出されている。
【0066】
(蓄電装置の構成)
本発明の非水電解質二次電池は、特に電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)などの自動車用電源として用いる場合に、複数の非水電解質二次電池を集合して構成した蓄電装置(バッテリーモジュール)として搭載することができる。
図3に、非水電解質二次電池1が集合した蓄電ユニット20をさらに集合した蓄電装置30の一例を示す。
【実施例】
【0067】
(実施例1)
<正極活物質の合成>
硫酸コバルト7水和物14.08g、硫酸ニッケル6水和物21.00g及び硫酸マンガン5水和物65.27gを秤量し、これらの全量をイオン交換水200mlに溶解させ、Co:Ni:Mnのモル比が10:17:55となる2.0Mの硫酸塩水溶液を作製した。一方、2Lの反応槽に750mlのイオン交換水を注ぎ、COガスを30minバブリングさせることにより、イオン交換水中にCOを溶解させた。反応槽の温度を50℃(±2℃)に設定し、攪拌モーターを備えたパドル翼を用いて反応槽内を700rpmの回転速度で攪拌しながら、前記硫酸塩水溶液を3ml/minの速度で滴下した。ここで、滴下の開始から終了までの間、2.0Mの炭酸ナトリウム、及び0.4Mのアンモニアを含有する水溶液を適宜滴下することにより、反応槽中のpHが常に7.9(±0.05)を保つように制御した。滴下終了後、反応槽内の攪拌をさらに5h継続した。攪拌の停止後、12h以上静置した。
【0068】
次に、吸引ろ過装置を用いて、反応槽内に生成した共沈炭酸塩の粒子を分離し、さらにイオン交換水を用いて粒子に付着しているナトリウムイオンを洗浄除去し、電気炉を用いて、空気雰囲気中、常圧下、100℃にて20h乾燥させた。その後、粒径を揃えるために、瑪瑙製自動乳鉢で数分間粉砕した。このようにして、共沈炭酸塩前駆体を作製した。
【0069】
前記共沈炭酸塩前駆体2.278gに、炭酸リチウムをLi:(Co,Ni,Mn)のモル比が1.44:1となるように加え、瑪瑙製自動乳鉢を用いてよく混合し、混合粉体を調製した。ペレット成型機を用いて、6MPaの圧力で成型し、直径25mmのペレットとした。ペレット成型に供した混合粉体の量は、想定する最終生成物の質量が2gとなるように換算して決定した。前記ペレット1個を全長約100mmのアルミナ製ボートに載置し、箱型電気炉(型番:AMF20)に設置し、空気雰囲気中、常圧下、常温から900℃の温度まで10時間かけて昇温し、昇温後温度で10h焼成した。前記箱型電気炉の内部寸法は、縦10cm、幅20cm、奥行き30cmであり、幅方向20cm間隔に電熱線が入っている。焼成後、ヒーターのスイッチを切り、アルミナ製ボートを炉内に置いたまま自然放冷した。この結果、炉の温度は5時間後には約200℃程度にまで低下するが、その後の降温速度はやや緩やかである。一昼夜経過後、炉の温度が100℃以下となっていることを確認してから、ペレットを取り出し、粒径を揃えるために、瑪瑙製自動乳鉢で数分間粉砕した。このようにして、Naを2100ppm含み、D50が13μmであるリチウム遷移金属複合酸化物A:Li1.18Co0.10Ni0.17Mn0.55(Li/Me=1.44、Mn/Me=0.67)を作製した。
【0070】
<正極板の作製>
N−メチルピロリドンを分散媒とし、正極活物質として上記のリチウム遷移金属複合酸化物A、アセチレンブラック(AB)及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)が92.5:5:2.5の質量比率で含有している塗布用ペーストを作製した。該塗布ペーストを厚さ15μmのアルミニウム箔集電体の片方の面に塗布した。なお、塗布面積は12cmであり、単位面積当たりに塗布されている活物質の質量を15mg/cmとした。次に、ロールプレスを用いて電極の多孔度が35%となるようにプレスを行い,100℃で真空乾燥を実施した。このようにして正極板を作製した。
得られた正極板の正極合材密度は2.434g/ccであり、正極合材質量は0.200gであった。
【0071】
<正極単極試験用電池の作製>
正極の単極挙動を正確に確認する目的のため、対極、すなわち負極には金属リチウムをニッケル集電体に密着させて試験電池を作製した。
試験電池においては、非水電解質二次電池の容量が負極によって制限されないよう、負極には十分な量の金属リチウムを配置した。
非水電解質として、エチレンカーボネート(EC)/エチルメチルカーボネート(EMC)の体積比が3:7である混合溶媒に濃度が1mol/LとなるようにLiPFを溶解させた溶液を用いた。セパレータとして、ポリアクリレートで表面改質したポリプロピレン製の微孔膜を用いた。外装体には、ポリエチレンテレフタレート(15μm)/アルミニウム箔(50μm)/金属接着性ポリプロピレンフィルム(50μm)からなる金属樹脂複合フィルムを用い、正極端子、負極端子の開放端部が外部露出するように電極を収納し、前記金属樹脂複合フィルムの内面同士が向かい合った融着代を注液孔となる部分を除いて気密封止し、前記電解液を注液後、注液孔を封止した。
【0072】
<初回充放電>
試験電池の初回充放電を、25℃で、4.50V(vs.Li/Li)まで0.1CmAの定電流で、その後、0.02CmAになるまで定電圧で充電し、0.1CmAの定電流で2.0Vまで放電することにより行った。なお、1CmAは40mA(3.33mA/cm)であった。
【0073】
<正極容量>
続いて、以下の充放電条件により正極容量を確認したところ、41.9mAhであった。
温度:25℃
充電:0.1CmAの定電流(CC)で、4.45V(vs.Li/Li)まで、その後、定電圧(CV)で0.02CmAになるまで
放電:0.1CmAの定電流CCで2.・0Vまで
1CmA=40mA(200mA/g)
【0074】
<充放電サイクル試験>
正極容量を確認した試験電池を、以下の条件で初回容量確認試験及び充放電サイクル試験を行ったところ、サイクル後の容量維持率は98%であった。
まず、初回放電容量確認試験を行い、このときの放電容量を「初回放電容量」とする。
温度:25℃
充電:0.1CmAの定電流で4.45V(vs.Li/Li)まで、その後、定電圧で0.02CmAになるまで
放電:1.0CmAの定電流で2.0Vまで
1CmAは40mA(200mA/g)
さらに、充放電サイクル試験を行い、10サイクル目の放電容量を「サイクル後の放電容量」とした。
充電:1.0CmAの定電流でそれぞれ4.45V(vs.Li/Li)まで、その後、定電圧で0.05CmAになるまで
放電:1.0CmAの定電流で2.0Vまで
サイクル後の容量維持率は、初回放電容量に対するサイクル後の放電容量比で算出する。
【0075】
<サイクリックボルタモグラム(CV)>
以下の測定装置を用い、以下の条件で電位走査を行うことにより、CV測定を行った。なお、CV測定には、サイクル試験を行った後の上記試験電池を解体せずそのまま用いた。即ち、測定装置の作用極(WE)ケーブルは電池の正極端子に、対極(CE)ケーブル及び参照極(RE)ケーブル電池の負極端子に接続した。
装置名: Solartron社製、マルチスタット1470E型
走査電位範囲: 2.0−4.45V(vs.Li/Li
走査速度: 0.05mV/sec
サイクル: 3サイクル
試験温度: 25℃
極板面積(作用極): 12cm
極板面積(対極): 12.6cm
【0076】
CV測定により得られた3サイクル目の酸化側の走査曲線に対して、2.0Vから3.6V(vs.Li/Li)までの電位範囲について(1)の領域の積分値を求め、3.6Vから4.45V(vs.Li/Li)までの電位範囲について(2)の領域の積分値を求める。還元側の走査曲線は積分値の計算に考慮しない。
(1)の領域の積分値は12.7mJ/g、(2)の領域の積分値は26.3mJ/gであったので、酸化側のCVにおける(1)/(2)は0.48であった。
【0077】
<負極板の作製>
プラネタリーミキサーを用いて、水を分散媒とし、黒鉛質炭素材料、スチレンブタジエンゴム及びカルボキシメチルセルロースを97:2:1の質量比率で含有している負極ペーストを作製した。この負極ペーストをCu箔の片面に塗布し、乾燥およびプレスを実施して、負極板を作製した。負極ペーストの塗布量は、負極合剤質量が正極との関係で表1に示す所定の各質量比となるように調整した。実施例1においては、得られた負極板の合材密度は1.517g/ccであり、負極合材質量は0.133gであった。
【0078】
<負極容量>
前記試験電池の正極板に代えて前記負極板を用い、対極には金属リチウムをニッケル集電体に密着させて試験電池を作製した以外は、前記の正極単極試験用電池と同様の手順で試験電池を作製し、以下の充放電条件により負極容量を確認したところ、45.4mAhであった。
温度:25℃
充電:0.1CmAの定電流で、それぞれ0.02V(vs.Li/Li)まで、その後、定電圧で0.02CmAになるまで
放電:0.1CmAの定電流で2.0Vまで
1CmA=40mA(200mA/g)
【0079】
<電池容量>
実際に正極及び負極が備えられた非水電解質二次電池を作製する場合は、改めて作製した前記正極板と改めて作製した負極板とを組み合わせ(正極/負極質量比:1.50、正極/負極容量比:0.92)、それ以外は前記の正極単極試験用電池と同様の手順で電池を作成し、初回充放電を、25℃で、電圧4.40Vまで0.1CmAの定電流で、その後、0.02CmAになるまで定電圧で充電し、0.1CmAの定電流で電圧2.0Vまで放電することにより行う。続いて、以下の条件で測定した1CmAでの電池容量は、38.2mAhである。なお、電圧4.40Vは4.50V(vs.Li/Li)の電位を想定したものである。
充電:電流1CmA、電圧4.35Vの定電流定電圧充電、電流値が1/6に減衰した時点で充電終止
放電:電流1CmA、終止電圧2.0Vの定電流放電
【0080】
<体積当たりの容量密度>
以下の式により求めた前記の非水電解質二次電池の体積当たりの容量密度は、225mAh/ccである。
体積当たりの容量密度=電池の容量/(正極の体積+負極の体積)
正極の体積=正極合材質量/正極合剤密度
負極の体積=負極合材質量/負極合材密度
【0081】
(実施例2)
正極活物質として前記リチウム遷移金属複合酸化物Aを用い、合材質量が0.188g、容量が42.6mAhの正極板と、合材質量が0.141g、容量48.0mAhの負極板とを組み合わせ、正極/負極質量比を1.33、正極/負極容量比を0.89とした以外は、実施例1と同様の電池を作製し、初回充放電の充電電圧を4.45V(4.55V(vs.Li/Li)の電位を想定)としたことを除いては、実施例1と同様の試験を行う。この非水電解質二次電池の体積当たりの容量密度は、226mAh/ccである。
なお、以下の実施例において、正極板の容量及び負極板の容量は、実施例1と同様に改めて作製した正極及び負極を用いて正極単極試験及び負極単極試験を行って求めた。正極単極試験における初回充放電時の充電電位は、それぞれの実施例で採用した初回充放電の充電電位と同じとした。
実施例2で用いた正極単極試験の結果、サイクル後の容量維持率は94%であり、CVにおける(1)/(2)が0.51であった。
【0082】
(実施例3)
合材質量が0.203g、容量が42.5mAh/gの正極板と、合材質量が0.132g、容量が44.8mAh/gの負極板とを、正極/負極容量比が0.95となるように組み合わせた以外は、実施例1と同様の電池を作製し、初回充放電の充電電圧を4.40V(4.50V(vs.Li/Li)の電位を想定)としたことを除いては、実施例1と同様の試験を行う。この非水電解質二次電池の体積当たりの容量密度は、227mAh/ccである。
正極単極試験の結果、CVにおける(1)/(2)が0.48であった。
【0083】
(比較例1)
合材質量が0.250g、容量が34.2mAhの正極板と、合材質量が0.103g、容量が34.9mAh/gの負極板とを、正極/負極容量比が0.98となるように組み合わせた以外は、実施例1と同様の電池を作製し、初回充放電の充電電圧を4.35V(4.45V(vs.Li/Li)の電位を想定)としたことを除いては、実施例1と同様の試験を行う。この非水電解質二次電池の体積当たりの容量密度は、177mAh/ccである。
正極単極試験の結果、サイクル後の容量維持率は107%であり、CVにおける(1)/(2)が0.24であった。
【0084】
(比較例2)
合材質量が0.183g、容量が38.2mAhの正極板と、合材質量が0.144g、容量が49.1mAhの負極板とを組み合わせ、正極/負極質量比を1.27、正極/負極容量比を0.78とした以外は、実施例1と同様の電池を作製し、初回充放電の充電電圧を4.40V(4.50V(vs.Li/Li)の電位を想定)としたことを除いては、実施例1と同様の試験を行う。この非水電解質二次電池の体積当たりの容量密度は、203mAh/ccである。
正極単極試験の結果、CVにおける(1)/(2)が0.48であった。
【0085】
(比較例3)
比較例2と同じ合剤重量の正極板と負極板とを、正極の容量が41.4mAh、正極/負極容量比が0.84となるように組み合わせた以外は、実施例1と同様の電池を作製し、初回充放電の充電電圧を4.45V(4.55V(vs.Li/Li)の電位を想定)としたことを除いては、実施例1と同様の試験を行う。この非水電解質二次電池の体積当たりの容量密度は、220mAh/ccである。
正極単極試験の結果、CVにおける(1)/(2)が0.51であった。
【0086】
(比較例4)
比較例2と同じ合剤重量の正極板と負極板とを、正極の容量が49.1mAh、正極/負極容量比が0.86となるように組み合わせた以外は、実施例1と同様の電池を作製し、初回充放電の充電電圧を4.50V(4.60V(vs.Li/Li)の電位を想定)としたことを除いては、実施例1と同様の試験を行う。この非水電解質二次電池の体積当たりの容量密度は、223mAh/ccである。
正極単極試験の結果、サイクル後の容量維持率は94%であり、CVにおける(1)/(2)が0.52であった。
【0087】
(実施例4)
硫酸コバルト7水和物、硫酸ニッケル6水和物及び硫酸マンガン5水和物をCo:Ni:Mnのモル比が17:17:49となる硫酸塩水溶液から共沈炭酸塩前駆体を作製し、これに炭酸リチウムをLi:(Co,Ni,Mn)のモル比が1.44:1となるように加え、実施例1と同様の方法により、リチウム遷移金属複合酸化物B:Li1.18Co0.17Ni0.17Mn0.49(Mn/Me=0.60)を作製した。
合材質量が0.202g、容量が40.5mAhの正極板を作成し、この正極板と、合材質量が0.132g、容量が45.1mAhの負極板とを組み合わせ、正極/負極質量比を1.52、正極/負極容量比を0.90とした以外は、実施例1と同様の電池を作製し、初回充放電の充電電圧を4.40V(4.50V(vs.Li/Li)の電位を想定)としたことを除いては、実施例1と同様の試験を行う。この非水電解質二次電池の体積当たりの容量密度は、213mAh/ccである。
正極単極試験の結果、サイクル後の容量維持率は100%であり、CVにおける(1)/(2)が0.37であった。
【0088】
(実施例5)
正極活物質として前記リチウム遷移金属複合酸化物Bを用い、合材質量が0.191g、容量が40.9mAhの正極板と、合材質量が0.139g、容量47.4mAhの負極板とを組み合わせ、正極/負極質量比を1.37、正極/負極容量比を0.86とした以外は、実施例1と同様の電池を作製し、初回充放電の充電電圧を4.45V(4.55V(vs.Li/Li)の電位を想定)としたことを除いては、実施例1と同様の試験を行う。この非水電解質二次電池の体積当たりの容量密度は、212mAh/ccである。
正極単極試験の結果、サイクル後の容量維持率は98%であり、CVにおける(1)/(2)が0.41であった。
【0089】
(比較例5)
正極活物質として前記リチウム遷移金属複合酸化物Bを用い、合材質量が0.236g、容量が38.0mAhである正極板と、合材質量が0.111g、容量が37.9mAhの負極板とを組み合わせ、正極/負極質量比を2.12、正極/負極容量比を1.00とした以外は、実施例1と同様の電池を作製し、初回充放電の充電電圧を4.35V(4.45V(vs.Li/Li)の電位を想定)としたことを除いては、実施例1と同様の試験を行う。この非水電解質二次電池の体積当たりの容量密度は、192mAh/ccである。
正極単極試験の結果、サイクル後の容量維持率は105%であり、CVにおける(1)/(2)が0.23であった。
【0090】
(比較例6)
正極活物質として前記リチウム遷移金属複合酸化物Bを用い、合材質量が0.185g、容量が40.8mAhである正極板と、合材質量が0.143g、容量が48.6mAhの負極板とを組み合わせ、正極/負極質量比を1.30、正極/負極容量比を0.84とした以外は、実施例1と同様の電池を作製し、初回充放電の充電電圧を4.50V(4.60V(vs.Li/Li)の電位を想定)としたことを除いては、実施例1と同様の試験を行う。
この非水電解質二次電池の体積当たりの容量密度は、211mAh/ccである。
正極単極試験の結果、サイクル後の容量維持率は98%であり、CVにおける(1)/(2)が0.42であった。
【0091】
(比較例7)
硫酸コバルト7水和物、硫酸ニッケル6水和物及び硫酸マンガン5水和物をCo:Ni:Mnのモル比が21:17:49となる硫酸塩水溶液から共沈炭酸塩前駆体を作製し、これに炭酸リチウムをLi:(Co,Ni,Mn)のモル比が1.30:1となるように加え、実施例1と同様の方法により、リチウム遷移金属複合酸化物C:Li1.13Co0.21Ni0.17Mn0.49(Mn/Me=0.56)を作製した。
合材質量が0.243g、容量が35.5mAhの正極板を作成し、この正極板と、合材質量が0.107g、容量が36.4mAhの前記の負極板とを組み合わせ、正極/負極質量比を2.27、正極/負極容量比を0.98とした電池を作製し、初回充放電の充電電圧を4.35V(4.45V(vs.Li/Li)の電位を想定)としたことを除いては、実施例1と同様の試験を行う。この非水電解質二次電池の体積当たりの容量密度は、174mAh/ccである。
正極単極試験の結果、サイクル後の容量維持率は100%であり、CVにおける(1)/(2)が0.17であった。
【0092】
(比較例8)
正極活物質として前記リチウム遷移金属複合酸化物Cを用い、合材質量が0.211g、容量が38.6mAhの正極板と、合材質量が0.127g、容量が43.2mAhの負極板とを組み合わせ、正極/負極質量比を1.66、正極/負極容量比0.89としたとした以外は、実施例1と同様の電池を作製し、初回充放電の充電電圧を4.40V(4.50V(vs.Li/Li)の電位を想定)としたことを除いては、実施例1と同様の試験を行う。
この非水電解質二次電池の体積当たりの容量密度は、190mAh/ccである。
正極単極試験の結果、サイクル後の容量維持率は99%であり、CVにおける(1)/(2)が0.28であった。
【0093】
(比較例9)
正極活物質として前記リチウム遷移金属複合酸化物Cを用い、合材質量が0.203g、容量が39.3mAhの正極板と、合材質量が0.131g、容量が44.8mAhの負極板とを組み合わせ、正極/負極質量比を1.55、正極/負極容量比0.88としたとした以外は、実施例1と同様の電池を作製し、初回充放電の充電電圧を4.425V(4.525V(vs.Li/Li)の電位を想定)としたことを除いては、実施例1と同様の試験を行う。この非水電解質二次電池の体積当たりの容量密度は、193mAh/ccである。
正極単極試験の結果、サイクル後の容量維持率は98%であり、CVにおける(1)/(2)が0.31であった。
【0094】
(比較例10)
正極活物質として前記リチウム遷移金属複合酸化物Cを用い、合材質量が0.199g、容量が39.0mAhの正極板と、合材質量が0.134g、容量が45.7mAhの前記の負極板とを組み合わせ、正極/負極質量比を1.48、正極/負極容量比を0.85とした以外は、実施例1と同様の電池を作製し、初回充放電の充電電圧を4.45V(4.55V(vs.Li/Li)の電位を想定)としたことを除いては、実施例1と同様の試験を行う。この非水電解質二次電池の体積当たりの容量密度は、192mAh/ccである。
正極単極試験の結果、サイクル後の容量維持率は97%であり、CVにおける(1)/(2)が0.33であった。
【0095】
(比較例11)
正極活物質として前記リチウム遷移金属複合酸化物Cを用い、合材質量が0.193g、容量が39.0mAhの正極板と、合材質量が0.138g、容量が47.0mAhの前記の負極板とを組み合わせ、正極/負極質量比を1.40、正極/負極容量比を0.83とした以外は、実施例1と同様の電池を作製し、初回充放電の充電電圧を4.50V(4.60V(vs.Li/Li)の電位を想定)としたことを除いては、実施例1と同様の試験を行う。この非水電解質二次電池の体積当たりの容量密度は、190mAh/ccである。
正極単極試験の結果、サイクル後の容量維持率は96%であり、CVにおける(1)/(2)が0.36であった。
【0096】
表1は、以上の結果をまとめたものである。実施例1〜5、比較例1〜11の電池について、体積当たりの容量密度、10サイクル後の正極容量維持率を以下の表1に示す。
【0097】
【表1】
【0098】
実施例1〜5は、Mn/Meが0.60以上のリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質とし、初回充電電位を4.50V、4.55Vと適度に高くすることによって、(1)/(2)が0.37から0.51の範囲とし正極の容量密度の増加が大きい。それとともに、正極/負極容量比が0.86から0.95の範囲に設定することによって、初回充放電のみに必要な負極容量が適量であるから、電池の体積当たりの容量密度を高めることができた。
【0099】
比較例1,5は、Mn/Meが0.6以上の前記リチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質としているが、初回充電電位が4.45Vであって、(1)/(2)が小さく、正極容量密度の増加効果が小さい。したがって、初回充放電のみに必要な負極容量が小さく、正極/負極容量比を1に近づけることはできるが、電池の体積あたりの容量密度は小さかった。
【0100】
比較例2,3は、Mn/Meが0.6以上の前記リチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質とし、初回充電電位が4.50V、4.55Vと適度に高く、(1)/(2)が大きいから、正極容量密度の増加効果が大きい。しかし、初回充放電のみに必要な負極容量を超える量の負極材料を含む(正極/負極容量比が小さい)ため、負極体積が大きい。したがって、電池の体積当たりの容量密度が小さかった。
【0101】
比較例4,6は、Mn/Meが0.6以上の前記リチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質とし、初回充電電位が4.60Vであって、(1)/(2)が大きいから、初回充電電位を高く設定することによる正極容量密度の増加効果が大きい。しかし、この増加に対応して初回充放電のみに必要な負極容量も増やす必要がある。したがって、この容量を供給する負極材料の体積が大きくなり、電池の体積当たりの容量密度が小さかった。
【0102】
比較例7〜11の電池は、Mn/Meが0.60未満の前記リチウム遷移金属複合酸化物Cを正極活物質として用いているので、初回充電電位を高く設定しても(1)/(2)が小さく、正極容量密度の増加が相対的に小さい。したがって、正極/負極容量比を1に近づけたとしても、電池の体積当たりの容量密度は低い。
【0103】
なお、実施例の中でも、初回充電電位が低く、(1)/(2)が0.37〜0.48の範囲であると、サイクル後容量維持率が高かった。
【0104】
(符号の説明)
1 非水電解質二次電池
2 電極群
3 電池容器
4 正極端子
4’正極リード
5 負極端子
5’負極リード
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明によれば、初回充電で生じる正極の余剰容量を適正化し、正極容量と負極容量のバランスが取れた体積容量密度が高い非水電解質二次電池を提供することができるから、携帯機器用はもちろんのこと、ハイブリッド自動車用、電気自動車用として利用が可能である。
図1
図2
図3
図4