(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記腎機能パラメーターが,血清クレアチニン,クレアチニンクリアランス,血清シスタチンC,アルブミン,血清および尿中アルブミン,eGFR,尿素窒素,尿たんぱくのいずれか又は複数から選択される請求項2に記載の薬剤監査プログラム。
【背景技術】
【0002】
日本において,処方箋薬は,医師の診断による処方箋に基づき,院内もしくは院外の薬局にて,調剤され処方される。医師による診断・処方箋作成と薬剤師による調剤・処方は,完全に分離されており,医師と薬剤師が共に患者をみるということは,通常,無い。また,医師,薬剤師,それぞれが行う作業は,ともに極めて高い専門性を有する作業であり,膨大な知識と高度な判断を要するものである。
【0003】
診断から処方までの一連の流れの中,薬剤師が患者から,直接,情報を得る機会は極めて限られているのが現状である。
すなわち,患者から処方箋を受け取る際に患者に聞き取りを行う機会はあるものの,通常,多数の処方作業を行う必要があるため,患者からの聞き取りが行える時間も極めて限定的である。また,薬剤師が患者カルテを参照できるわけではなく,また,処方箋に病名の記載がないため,薬剤師が患者の病名を把握できないことも不自然なことではない。結果として,薬局に蓄積されている薬剤履歴情報などの極めて限定的な情報の中,薬剤師は処方箋の妥当性を判断し,調剤・処方を行わなければならない。
【0004】
加えて,処方される薬剤は極めて多数に及び,また,日々,新しい薬剤が上市される中,薬剤名ですら,そのすべてを薬剤師が把握することは困難である。これに加えて,それぞれの薬剤について,薬効薬理や薬物代謝,薬剤の併用禁忌など,種々の留意すべき事項の全てを薬剤師が把握することは,事実上,困難である。
このような事情もあり,調剤する際の調剤過誤を防止するための種々の技術が開示されている(特許文献1から3)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1ないし3に記載されている従来技術では,処方箋により処方された薬剤が正しく処方されているかをチェックするための技術が開示されている。これらの技術は,調剤過誤を防止するという視点から有用な技術であるものの,これに留まるものに過ぎない。すなわち,処方される医薬品とその処方量が,真に適切かどうかを判断する技術ではない。
先行技術に見られるように,ある疾患で使用してはいけない,又は注意が必要な薬剤(疾患禁忌・疾患注意)を検出・警告する機能や,薬物間相互作用により使用できない薬剤同士の組み合わせ(併用禁忌・併用注意)を警告する機能を有する電子薬歴システムは存在した。しかしその一方で,各々の患者の状態と処方薬剤の投与量が適切かを判断するシステムについては,少なくとも本邦において実用化されているものは存在しない。
【0008】
薬剤師は,前述のとおり,極めて高い専門性を有しているにも関わらず,多忙な処方業務と限定的な患者情報のために,その専門性が十分に発揮されているとは必ずしも言えない状況にある。また,患者の病気の症状そのものに変化がないまま,血液検査値などに変化が生じることはよくあることであり,本来ならば,その変化に応じた適切な処方が求められる。
【0009】
発明者らの中には現役の薬剤師が存在し,実際の調剤業務を行っていた経験から,このような状況を改善することを課題として研究に着手したものである。発明者らが特に課題として着目したのが,腎排泄型薬剤についてである。
【0010】
腎排泄型薬剤とは,生体内において腎臓を通じて排泄される化合物を有効成分とする薬剤である。腎排泄型薬剤は,有害事象回避のために,患者個々の腎機能に合わせて投与量を調節することが必要である。
すなわち,腎臓病患者や高齢者等の腎機能低下患者に腎排泄型薬剤を使用する場合,腎機能が正常な人と同じ量を投与しても,“過量な薬物”を投与したことと同じ状態となり,有害作用のリスクが高まってしまう。したがって,腎機能が低下している患者には,適切に投与量を減量することが,有害作用を防ぐために極めて重要である。
このように腎排泄型薬剤について,腎機能に応じて投与量を調節することの重要性は広く知られており,実際に発明者らの過去の調査(非特許文献1)において,病院薬剤師の91%が,腎排泄型薬剤の処方鑑査および投与量の適正化を実施していた。その一方で,薬局薬剤師による実施率は,50%程度に留まっており,約半数の薬局薬剤師は,腎排泄型薬剤の処方鑑査を実施した経験がないとの回答が得られている。
【0011】
本邦において,慢性腎臓病患者の大多数が外来で管理され,かつ医薬分業率が70%を超える現状を鑑みると,薬局薬剤師による腎排泄型薬剤の処方鑑査および投与量の適正化率が50%程度であるというのは極めて重要な問題であり,せめて病院薬剤師並みに向上させることは,医療安全上,必須である。
【0012】
上記事情を背景として本発明では,薬剤師が処方箋薬を処方・調剤する際に,真に適切な処方がなされているかどうかの判断を補助するための技術の提供を第一の課題とする。
さらに本発明は,腎臓と薬の投与量に精通していない薬剤師であっても,腎排泄型薬剤の腎機能に合わせた投与量の処方監査,ならびに医師への適切な投与量の提案,これらを実施可能な技術の提供を,第二の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者らは,鋭意研究の結果,患者情報の変化等を踏まえて薬剤の処方量を評価しうるシステムに着想し,発明を完成させた。
【0014】
本発明は,以下の構成からなる。
本発明の第一の構成は,患者の生体パラメーター情報をもとに,処方される薬物投与量に関する注意喚起を行うことを特徴とする薬剤監査プログラムである。
【0015】
本発明の第二の構成は,前記生体パラメーターが,少なくとも腎機能パラメーターを含むことを特徴とする第一の構成に記載の薬剤監査プログラムである。
本発明の第三の構成は,前記腎機能パラメーターが,血清クレアチニン,クレアチニンクリアランス,血清シスタチンC,アルブミン,血清および尿中アルブミン,eGFR,尿素窒素,尿たんぱくのいずれか又は複数から選択されることを特徴とする第二の構成に記載の薬剤監査プログラムである。
本発明の第四の構成は,薬物投与量に関する注意喚起が,腎排泄型薬剤に関する適切な薬剤投与量の表記であることを特徴とする第一から第三の構成に記載の薬剤監査プログラムである。
【0016】
本発明の第五の構成は,患者の生体パラメーターを入力する生体パラメーター入力工程と,処方される薬剤情報を入力する処方薬剤情報入力工程と,前記生体パラメーター情報と処方薬剤情報を,薬剤の有効成分名や処方量,生体パラメーターに関する注意情報などが記録されている薬剤データベース情報に照らし合わせ,薬剤の処方もしくは処方量が適切かどうかを判定し注意喚起を行う監査判定工程とを経てなされることを特徴とする第一から第四の構成に記載の薬剤監査プログラムである。
本発明の第六の構成は,前記薬剤データベース情報において,患者の生体パラメーター情報と処方薬剤情報,ならびに有害事象情報がさらに蓄積されていることを特徴とする第五の構成に記載の薬剤監査プログラムである。
本発明の第七の構成は,第一から第六の構成に記載の薬剤監査プログラムを搭載した薬剤監査システムである。
【発明の効果】
【0017】
本発明により,薬剤師が処方箋薬を処方・調剤する際に,真に適切な処方がなされているかどうかの判断を補助するための技術の提供が可能となった。加えて,腎臓と薬の投与量に精通していない薬剤師であっても,腎排泄型薬剤の腎機能に合わせた投与量の処方監査および医師への適切な投与量提案を実施可能な技術の提供が可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下,本発明の薬剤監査プログラム等について説明を行う。
【0020】
本発明にかかる薬剤監査プログラムは,患者の生体パラメーター情報をもとに,処方される薬物投与量の注意喚起を行うことを特徴とする。
【0021】
本発明において,薬剤とは,処方箋により処方されうるあらゆる薬剤として定義される。また本発明の趣旨が,生体パラメーターに応じて薬物投与量を適切に評価し,処方の際,注意喚起を行うものであることに鑑み,薬剤は,いわゆる処方箋薬のみに限定されるものではなく,OTC医薬品などを含むものとして定義される。
また,薬物投与量の注意喚起を行うとは,薬物の適切な投与量を表示すること,もしくは薬物の投与量や投与回数を増減すること,ならびに,薬物の投与自体が不適切な場合は,投与を中止することを含む概念として定義される。
加えて,腎排泄型薬剤とは,生体内において腎臓を通じて排泄される化合物を有効成分とする薬剤として定義される。このような腎排泄型薬剤として有効成分を例に挙げると,例えば,レボフロキサシン,シタフロキサシン,プルリフロキサシン,バラシクロビル,アシクロビル,オセルタミビルなどが挙げられる。
【0022】
本発明において,生体パラメーターとは,薬物の投与可否ないし投与量の判断に有用なあらゆる情報として定義される。典型的には,身長,体重,年齢,性別など一般的に得られる一般情報や,血液検査や尿検査など病院における検査により得られる検査値情報などである。また,薬物の血中濃度に影響しうる薬物代謝酵素の遺伝子多型など,一般的な検査では行われない特殊な検査結果についても生体パラメーターとして扱うことができる。
生体パラメーターとして,腎機能パラメーターを含むことが好ましい。これにより,腎機能の状態や変化を加味した投与量の判定が可能となるため,腎排泄型薬剤の投与量の適切な判断が可能となる。
腎機能パラメーターとしては,腎機能の判断に有用なパラメーターである限り特に限定する必要はなく,例えば,血清クレアチニンやクレアチニンクリアランス,血清シスタチンC,アルブミン,血清および尿中アルブミン,eGFR,尿素窒素,尿たんぱくなどが挙げられる。
【0023】
本発明の薬剤監査プログラムは,
図1に例示されるように,生体パラメーター入力工程(S1),処方薬剤情報入力工程(S2),監査判定工程(S3),これら3つの工程をへてなすことができる。
【0024】
生体パラメーター入力工程(S1)は,一般情報や検査値情報などの生体パラメーターを入力する工程である。入力については,生体パラメーターの入力が可能なかぎり特に限定する必要はなく,種々の手法を採用することができる。
例えば,患者から聞き取りにより一般情報を入力してもよいし,病院等から提供された検査値データについては,紙媒体の場合は手入力やOCRによる自動読取,電子データの場合は記録媒体の読取やネットワークを通じた提供,これらの手段により,入力することができる。また,これらの生体パラメーターの一部又は全部,ないし履歴について,既存のレセプト作成コンピュータから読取を行い,入力を行ってもよい。
【0025】
処方薬剤情報入力工程(S2)は,処方箋により処方される処方薬剤情報を入力する工程である。処方薬剤情報については,処方される薬剤に関する情報である限り特に限定する必要はなく,種々の情報を処方薬剤情報とすることができる。典型的には,薬剤名や投与量,投与回数などが挙げられる。
なお,薬剤名については,通常,処方箋に記載の薬剤名を用いることができ,これの有効成分については,後述する監査判定工程にて,薬剤名と有効成分とを紐づけして,複数の薬剤名に対して判定を行うことができる。
また,処方薬剤情報の入力についても,処方薬剤情報の入力が可能である限り特に限定する必要はなく,紙媒体の場合は手入力やOCRによる自動読取,電子データの場合は記録媒体の読取やネットワークを通じた提供など,種々の手法を採用することができる。
【0026】
監査判定工程(S3)は,生体パラメーター情報と処方薬剤情報を,薬剤の有効成分名や処方量,生体パラメーターに関する注意情報などが記録されている薬剤データベース情報に照らし合わせ,薬剤の処方もしくは処方量が適切かどうかを判定し注意喚起を行う工程である。
監査判定工程については,生体パラメーター情報と処方薬剤情報,ならびに薬剤データベースを照らし合わせ,薬剤の処方ないしその投与量が妥当なものであるかどうか,減量する必要があるかどうかなどの判定をしうる限り特に限定する必要はなく,種々の工程を採用することができる。
【0027】
監査判定工程(S3)について,例を挙げて説明を行う。
図2は,監査判定工程における一連の工程例を示した図である。
【0028】
監査判定工程が開始すると,処方される薬剤が腎排泄型薬剤かどうかの判定が行われる(腎排泄型薬剤判定工程,S31)。腎排泄型薬剤でない場合(No)は,後述する監査判定結果表示工程(S36)に進み,腎排泄型薬剤でなく,処方に問題がないことを表示して,監査判定工程は終了する。腎排泄型薬剤の場合(Yes),処方薬剤注意情報読込工程(S32)へと進む。
【0029】
処方薬剤注意情報読込工程(S32)は,患者に対して処方予定の薬剤に関する注意情報を,薬剤データベース情報を通じて読み込む工程である。
【0030】
薬剤データベース情報は,薬剤名,有効成分名,用法・用量や効能効果,使用上の注意など処方箋薬に関して必須の情報が網羅されているデータベースとして定義される。このようなデータベースとして,データとしての信頼性と網羅性が担保されている限り特に限定する必要はなく,種々の薬剤データベースを用いることができ,商用で販売されているものや,公的機関からインターネットを通じて提供されているもの,独自に構築したものなど,様々なものを薬剤データベースとして用いることができる。
【0031】
本発明の薬剤データベース情報において,患者の生体パラメーター情報と処方薬剤情報,ならびに有害事象情報(以下,ここではこれらをまとめて「実績情報」という)がさらに蓄積されたデータベースとすることが好ましい。
すなわち,処方箋薬剤は,先発品に対して複数のジェネリック医薬品が存在するなど,1つの有効成分に対して複数の薬剤が存在することもよくあることである。かかる場合,有効成分は同一でも,添加物などが異なり,結果として,薬剤組成が異なることも通常である。このため,先発医薬品とジェネリック医薬品は,生物学的同等性は担保されているとしても,その薬剤組成が患者の薬剤動態に微妙な影響を及ぼす可能性は否定できない。加えて,薬剤の注意情報などは,基本的には先発医薬品の情報を基に作成されており,また,日本人ではない外国人のデータによる場合もある。これらの事情から,実績情報を加味することにより,有効成分ごとではなく,薬剤ごとに適した投与量の判定ができ,また,人種差を補正した投与量の判定についても期待できるという効果を有する。
かかる実績情報については,薬剤データベースに加えたうえで運用を行ってもよいし,これとは別に設けた独自データベースとして運用を行ってもよい。また実績情報としては,信頼性に足りうる実績情報である限り特に限定する必要はなく,実際に処方した患者に関する実績情報でもよいし,論文等において発表された情報でもよい。
【0032】
処方薬剤注意情報工程に続いて,患者生体パラメーター読込工程(S33)により,患者の生体パラメーター情報が読み込まれ,これら処方薬剤注意情報と患者生体パラメーター情報を参照して,注意情報に抵触するかどうかの判定が行われる(注意情報抵触判定工程,S34)。
バラシクロビル錠を例に挙げると,これを有効成分とするバルトレックス(登録商標)錠においては,用法・用量として,下記のとおり,注意書きがなされており,注意情報として読込が行われる。
【0034】
ババラシクロビル錠を処方される患者の疾患が単純疱疹であって,その投与量が「500mgを12時間毎」,「クレアチニンクリアランスが30以上」の場合は,注意情報に抵触しないものとして判定され,「クレアチニンクリアランスが30未満」の場合は,注意情報に抵触するものとして判定される。なお,患者の生体パラメーター情報にクレアチニンクリアランスのデータがなかったり,予測計算ができない場合などは,注意情報に抵触するものとして判定してもよい。
【0035】
注意情報に抵触する場合は,処方薬剤注意情報付記工程(S35)により,必要な注意情報が付記された後,監査判定結果が表示され,監査判定工程が終了する。
【0036】
また,別の例として,注意情報抵触判定(S34)を省略した工程としてもよい(
図3)。この場合は,処方薬剤注意情報読込工程(S32),患者パラメーター読込工程(S33)を経た後,患者パラメーターに即した投与量を処方薬剤注意情報として付記して,監査判定結果の表示を行えばよい。
前述のバラシクロビル錠を例に挙げると,単純疱疹患者のクレアチニンクリアランスが15であった場合は,「患者様の適切な投与量は,500mgを24時間毎になります」などを薬剤注意情報として付記すればよい。
【0037】
処方薬剤注意情報付記工程において表示される注意情報は,注意情報抵触判定の結果を適切に踏まえた注意情報である限り特に限定する必要はなく,例えば,「バラシクロビル錠の投与量が多すぎる可能性があります」や「必要なクレアチニンクリアランス情報が不足しています」,「クレアチニンクリアランス情報から適切な投与量は500mgを12時間毎になりますので,確認してください」など,文字で表示してもよいし,これらを簡略したようなアイコンなどを組み合わせて表示してもよい。
注意情報に抵触しない場合は,注意情報の付記を行うことなく,監査判定結果が表示され,監査判定工程が終了する。
【0038】
本発明の薬物監査プログラムは,これを備えた薬物監査システムとして構成することができる。また,これら薬物監査プログラム等については,専用のプログラムとして単独で用いることもできるし,既存のレセプトシステムにモジュール的に組み込んで用いることもできる。さらには,病院と薬局等をネットワークで結んだうえで,システムとして構築することもできる。
【実施例】
【0039】
<<検証例1>>
1.本発明の効果を検証すべく,守秘義務の下,
図3に示すタイプの薬剤監査プログラムの導入を行い,検証を行った。なお,検証例2以降でも,同様に,
図3に示すタイプの薬剤監査プログラムを守秘義務の下,用いていた。
2.対象とする腎排泄薬剤は,下記に限定して行った。
[対象薬剤]
抗ヘルペスウイルス薬:バラシクロビル,アシクロビル
抗インフルエンザ薬:オセルタミビル
フルオロキノロン抗菌薬:レボフロキサシン,シタフロキサシン
【0040】
3.結果を
図4,および
図5に示す。
(1) プログラム導入前において処方監査実施率が約10%程度であった一方,プログラム導入後は,約63%と6倍ほど増加していた(
図4A)。
(2) 医師への疑義照会実施率についても,プログラム導入前は約6%弱であった一方,導入後は,約25%と5倍ほど増加していた(
図4B)。
(3) プログラム導入後における処方変更率は,およそ70%にも及び,また,この変更による医療費削減効果が約6万6千円であった(
図5C)。
(4) さらに,導入前において,腎機能に関する情報を入手できた割合が約3.7%であった一方,導入後においては約50%にまで伸びていた(
図5D)。プログラムの導入により,薬剤師の意識の向上が,もたらしたものと考えられる。
4.これらの結果から,本発明の導入により,処方監査や疑義照会の実施率が有意に向上し,さらに不必要な過量投与を回避することで薬剤費の削減が実現可能なことが分かった。加えて,導入後において,腎機能に関する情報を積極的に入手するようになったことから,薬剤師の腎排泄型薬剤に対する意識が向上したものと考えられた。
【0041】
<<検証例2>>
1.監査システムを使用することで,薬剤師の腎機能に関する処方監査業務に与える影響を評価することを目的に検証を行った。
2.方法については,
図6Eに示すクロスオーバー試験により行った。
(1) 投与量が不適切なものを含む処方箋を含む10枚の処方箋について,現役の薬剤師が50分を制限時間として監査を行い,不適切な場合は,所定の様式により,監査・処方の修正を行うことを一連の作業とした。
(2) この作業について,A群,B群の2群に分け,それぞれ,1日以上のウォッシュアウト時間をおいて,システムの有無により,処方監査の結果を調べた。
3.結果を,
図6Fならびに
図6Gに示す。
(1) 処方監査に要する時間については,本プログラムを用いたシステムがある場合が約15分程度,ない場合が約35分程度であった。この結果から,本プログラムにより,有意な監査時間の短縮効果が確認された。
(2) 処方監査の正確性については,本プログラムを用いたシステムがある場合が約9例正答,ない場合が約8例正答であった。有意な差ではなかったものの,システムがある場合の方が正解数が多い傾向にあった。
4.これらの結果から,本発明の導入により,監査精度が向上傾向であること,および監査に要する時間が短縮されることが分かった。