(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6395005
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】外壁パネル嵌着金具及び外壁パネルの連結構造
(51)【国際特許分類】
E04B 2/90 20060101AFI20180913BHJP
E04B 2/56 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
E04B2/90
E04B2/56 601A
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-246984(P2016-246984)
(22)【出願日】2016年12月20日
(65)【公開番号】特開2018-100530(P2018-100530A)
(43)【公開日】2018年6月28日
【審査請求日】2017年1月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000198787
【氏名又は名称】積水ハウス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080182
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 三彦
(72)【発明者】
【氏名】田嶋 大樹
(72)【発明者】
【氏名】廣畑 俊明
【審査官】
土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】
実開平05−028807(JP,U)
【文献】
特開平11−315605(JP,A)
【文献】
実開昭58−017405(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 2/90
E04B 2/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外壁材の屋内面の両端部に縦材を固定して形成され、ロッキング機構によって面内方向に回転可能な外壁パネル同士を連結する際に、
互いに隣接する前記外壁パネルの前記縦材同士に嵌着する外壁パネル嵌着金具であって、
互いに間隔を空けて隣り合う前記縦材の見付面に跨って当接する当接部と、前記当接部の両側端を折り曲げて形成され、互いに隣接する前記縦材の見込面に外側から嵌着する一対の嵌着部と、を有し、
前記縦材の長手方向へ滑動して前記外壁パネル毎ごとの面内方向の回転移動を許容するとともに、前記嵌着部によって前記縦材の面外方向の移動による不陸を抑制することを特徴とする外壁パネル嵌着金具。
【請求項2】
鋼材で成型されていることを特徴とする請求項1に記載の外壁パネル嵌着金具。
【請求項3】
ロッキング機構によって面内方向に回転可能な外壁パネルの連結構造であって、
外壁材の屋内面の両端部を縦材に固定して形成される前記外壁パネルと、
互いに隣接する前記外壁パネルの前記縦材同士を貫通して連結する綴りボルトと、
請求項1又は2に記載の外壁パネル嵌着金具と、を備え、
前記綴りボルトは、前記縦材の面内方向の回転移動によって破断することを特徴とする外壁パネルの連結構造。
【請求項4】
前記縦材は、互いに隣接する前記縦材に対向するウェブ部と、前記ウェブ部の幅方向の両側端から、隣接する前記縦材と離反する方向に延出する2つのフランジ部と、前記フランジ部の長手方向の側端から、もう一方の前記フランジ部へ向けて延出するリップ部と、を有することを特徴とする請求項3に記載の外壁パネルの連結構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロッキング機構によって面内方向に回転可能な外壁パネル同士を連結する際に使用する外壁パネル嵌着金具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、地震のような大きな揺れが起きた際に、建築物の水平変位に追従するロッキング機構によって外壁パネルを面内方向に回転可能とし、外壁パネルの損壊を防止する工法が使用されている。この工法では、平常時はロッキング機構を作動させず、強い揺れが生じた場合のみロッキング機構が作動するように工夫されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、外壁材と外壁材の裏面に取付けられた枠状フレームからなる外壁パネル同士を、ボルトで連結する発明が提案されている。この発明では、枠状フレームの縦フレーム材同士を、強度の弱いプラスチックで形成されたボルトで連結しており、平常時はロッキング機構が作動しないように外壁パネル同士を連結固定し、大地震が起きた場合にはボルトが破断してロッキング機構を作動させ、外壁パネルを水平変位に追従させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−315605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の発明では、ボルトがプラスチックのような耐火性に劣る樹脂で成型されているため、火災時にボルトが損壊して外壁パネル同士の連結が外れ、外壁パネルの倒壊を起こす危険性が高い。
【0006】
そこで、本発明は、上述した課題を鑑みてなされたものであって、ロッキング機構によって面内方向に回転可能な外壁パネル同士を連結する際に、外壁パネルのロッキング機構を保持しつつ、火災時の外壁パネルの倒壊を防止できる外壁パネル嵌着金具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一の外壁パネル嵌着金具は、外壁材の屋内面の両端部に縦材を固定して形成され、ロッキング機構によって面内方向に回転可能な外壁パネル同士を連結する際に、互いに隣接する前記外壁パネルの前記縦材同士に嵌着する外壁パネル嵌着金具であって、互いに
間隔を空けて隣り合う前記縦材の見付面に
跨って当接する当接部と、前記当接部の両側端を折り曲げて形成され、互いに隣接する前記縦材
の見込面に外側から嵌着する
一対の嵌着部と、を有し、前記縦材
の長手方向へ滑動して
前記外壁パネル毎ごとの面内方向の回転移動を許容するとともに、前記嵌着部によって前記縦材の面外方向の移動による不陸を抑制することを特徴としている。
【0008】
本発明の第二の外壁パネル嵌着金具は、鋼材で成型されていることを特徴としている。
【0009】
本発明の外壁パネルの連結構造は、ロッキング機構によって面内方向に回転可能な外壁パネルの連結構造であって、外壁材の屋内面の両端部を縦材に固定して形成される前記外壁パネルと、互いに隣接する前記外壁パネルの前記縦材同士を貫通して連結する綴りボルトと、第一又は第二の外壁パネル嵌着金具と、を備え、前記綴りボルトは、前記縦材の面内方向の回転移動によって破断することを特徴としている。
【0010】
本発明の外壁パネルの連結構造は、前記縦材は、隣接する前記縦材に対向するウェブ部と、前記ウェブ部の幅方向の両側端から、隣接する前記縦材と離反する方向に延出する2つのフランジ部と、前記フランジ部の長手方向の側端から、もう一方の前記フランジに向けて延出するリップ部と、を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の外壁パネル嵌着金具によると、外壁パネルの縦材を滑動して、縦材の面内方向の回転移動を許容するとともに、嵌着部によって縦材の面外方向の移動による外壁パネルの不陸を抑制することができるので、地震時には外壁パネルのロッキング機構を有効に作動させることができるとともに、火災時には、隣接するどちらか一方の縦材が面外方向に移動して外壁パネルに不陸を生じさせることを防止でき、外壁パネルの倒壊を阻止することができる。また、外壁パネル嵌着金具は金属製であるため、火災時においても焼失することはなく、建物の耐火性能を保持することができる。
【0012】
本発明の外壁パネル嵌着金具によると、鋼材で成型されているので、耐火性能をより向上させることができる。
【0013】
本発明の外壁パネルの連結構造によると、綴りボルトが縦材の面内方向の回転移動によって破断し、外壁パネル嵌着金具が外壁パネルの縦材を滑動して、縦材の面内方向の回転移動を許容するので、地震時に外壁パネルのロッキング機構を有効に作動させることができる。また、火災時に綴りボルトが焼失や損壊しても、外壁パネル嵌着金具が縦材の面外方向の移動による不陸を抑制することができるので、外壁パネルの倒壊を防止することができる。また、綴りボルトに耐火性能を保持させる必要がないので、綴りボルトを安価な樹脂製で製作することができ、経済性に優れた連結構造を構築することができる。
【0014】
本発明の外壁パネルの連結構造によると、縦材はリップ部を有しているため、外壁パネル嵌着金具の嵌着部をリップ部に装着することによって、縦材の面外方向の移動による不陸を抑制することができ、外壁パネルの倒壊を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】外壁パネルの連結構造の実施形態1を示す断面図。
【
図4】外壁パネルの連結構造の実施形態2を示す断面図。
【
図6】外壁パネルの梁への設置状況を示す断面斜視図。
【
図8】外壁パネルの連結構造の火災発生時の状況を示す断面図。
【
図9】従来の外壁パネルの連結構造の火災発生時の状況を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、外壁パネル嵌着金具1の最良実施形態について各図を参照しつつ説明する。なお、本願において、見付とは、正面から見える部材の見掛かり部分を指し、見込とは、見付に対して部材の奥行き部分を指す。また、屋内方向に位置している見付面を屋内側見付面とする。
【0017】
本実施形態の外壁パネル嵌着金具1は、
図1に示すように、外壁材2aの屋内面の両端部に縦材21を固定して形成され、ロッキング機構3によって面内方向に回転可能な外壁パネル2同士を連結する際に、互いに隣接する外壁パネル2の縦材21同士に嵌着する金属製の金具である。外壁パネル嵌着金具1は、
図1〜
図3に示すように、互いに隣接する縦材21の屋内側見付面に当接する矩形状の当接部1aと、当接部1aの両側端を折り曲げ、互いに隣接する縦材21の見込面に外側から嵌着する嵌着部1bと、を有している。
【0018】
嵌着部1bは、当接部1aの両側端を折り曲げて形成される挟持部1cと、挟持部1cの当接部1aと連続している端部に対向する側端部を折り曲げて形成され、縦材21に嵌合する鍔部1dを備えている。挟持部1c間の間隔は、
図2に示すように、突出する方向に漸次狭くなっており、挟持部1cの先端が互いに近接するように形成されている。また、鍔部1dは、当接部1aに対して平行に形成され、縦材21に嵌合させた際に外壁パネル2の面外方向への移動を抑制する嵌合部11と、嵌合部11の挟着部1cと連続している端部に対向する側端部を折り曲げて形成され、縦材21に押し込まれるガイド部12を備えている。ガイド部12の先端は互いに離反するように形成されているため、容易に外壁パネル嵌着金具1を縦材21に押し込むことができる。
【0019】
なお、ここでは
図1に示すように縦材21をリップ溝形鋼と想定した外壁パネル嵌着金具1を説明しているが、縦材21がリップの付いていない溝形鋼である場合は、
図4に示すように、一方の挟持部1cを省略してもよく、また鍔部1dの形状を変形させてもよい。
【0020】
外壁パネル嵌着金具1の材質は炭素鋼のように耐火性に優れたものを想定している。材質は特に限定されることはないが、建築基準法に定められる1時間の耐火性能を有していることが望ましい。また、縦材21に嵌め込むことができる程度の弾性を備えていることが好ましい。
【0021】
次に、外壁パネル嵌着金具1を用いた外壁パネルの連結構造4について説明する。外壁パネルの連結構造4は、ロッキング機構3によって面内方向に回転可能な外壁パネル2の連結構造であって、
図1に示すように、外壁材2aの屋内面の両端部を縦材21に固定して形成される外壁パネル2と、互いに隣接する外壁パネル2の縦材21同士を貫通して連結する綴りボルト5と、外壁パネル嵌着金具1と、を備えている。
【0022】
外壁パネル2は、
図3に示すように、矩形状の外壁材2aの屋内面の端部に枠材2bを固定して形成されている。枠材2bは溝形鋼からなるものであって、左右一対の縦材21と上下一対の横材22とで構成されている。また、縦材21及び横材22は、
図1及び
図5に示すように、リップ溝形鋼の開放されている面をそれぞれ対向させるように設置されている。縦材21のウェブ部23には、予め綴りボルト5を挿通するための挿通孔21aが設けられている。この挿通孔21aは、外壁パネル2を設置した際に隣接する縦材21の挿通孔21aと整合する位置に形成されており、縦材21の長手方向に所定の間隔で設けられている。なお、ここでは枠材2bがリップ溝形鋼である場合について説明しているが、リップのついていない溝形鋼でもよい。その場合は、外壁パネル嵌着金具1を
図4のように変形させることができる。
【0023】
ロッキング機構3は、建物に生じる水平変位3aに対する追従性を確保するために、外壁パネル2を可動させる機能である。具体的には、
図5及び
図6に示すように、上部の横材22を建物内部の梁6に吊り下げ、下部の横材22を梁6に仮止めし、外壁パネル2を上下方向に移動可能とさせる。このように外壁パネル2を設置することにより、
図7に示すように、水平力が建物に作用した場合に外壁パネル2を回転させることができ、外壁パネル2を建物の水平変位3aに追従させることができる。
【0024】
綴りボルト5は、
図2に示すように、左右に隣接する外壁パネル2の縦材21同士を貫通し、ナットと螺合させて連結することができる。綴りボルト5は、地震時に所定以上の水平力が外壁パネル2に作用すると破断するように想定されており、樹脂で形成される。また、綴りボルト5は、200℃〜300℃程度までその機能を有効に発揮することができる。
【0025】
外壁パネルの連結構造3の施工手順について説明する。まず、事前に外壁パネル2を取付金物7を使用して建物内部の梁6に設置し、ロッキング機構3を形成する。
図5及び
図6に示すように、上部の横材22は、取付金物7に設置されたボルトによって梁6の上フランジに吊り下げられる。梁6の上フランジと上部の横材22の上面との間には間隙が設けられており、上部の横材22は、この間隙を上下方向に移動可能に支持されている。下部の横材22は、
図6に示すように、取付金物7のスライドホール7aに設置されたボルトによって仮止めされている。このスライドホール7aは、ボルトが上下方向へ移動可能となるよう縦長のスリット状に形成されており、外壁パネル2は、面外方向へ移動不能に仮止めされている。したがって、地震等の大きな揺れが生じた場合には、
図8に示すように、外壁パネル2は、面内方向に回転可能なロッキング機構3を作動させることができる。
【0026】
続いて、
図1に示すように、綴りボルト5を互いに隣接する縦材21の挿通孔21a同士に貫通させ、挿通孔21aから突出した綴りボルト5をナット8で締付固定する。このとき、外壁パネル2は綴りボルト5によって面内方向の上下動が拘束されるため、通常時にロッキング機構3が作用することはない。
【0027】
そして、外壁パネル嵌着金具1のガイド部12を隣接する縦材21同士のフランジ部24の屋内側見付面から縦材21に押し込み、
図1に示すように、鍔部1dの嵌合部11を縦材21のリップ部25に嵌合させる。鍔部1dがリップ部25に嵌合することにより、隣接するどちらか一方の縦材21が面外方向へ移動することを防ぐことができ、外壁パネル2の面外方向の不陸を防止することができる。また、前述したように、挟着部1c間の間隔は、突出する方向へ向けて漸次狭くなっているため、挟持部1cは、弾性的に縦材21のリップ部25を外側から挟持することができる。外壁パネル嵌着金具1は、縦材21の長手方向に所定の間隔で設置される。そして最後に外壁パネル2間の隙間をコーキング材9で閉塞する。
【0028】
地震時に、所定以上の水平力が外壁パネル2に作用した場合、強度の弱い樹脂製の綴りボルト5は破断し、連結された外壁パネル2は面内方向の上下動の拘束が解かれることになる。したがって、
図7に示すように、外壁パネル2は、ロッキング機構3を作動させて面内方向に回転可能となる。このとき、外壁パネル嵌着金具1は、外壁パネル2の面外方向の不陸を抑制しているだけであるので、ロッキング機構3を阻害することはない。また、所定以上の水平力が外壁パネル2に作用して、外壁パネル2の面内方向への回転移動が大きくなると、外壁パネル嵌着金具1は、縦材21の長手方向に滑動することができる。
【0029】
一方、建物外部で火災が発生した際、外壁パネル嵌着金具1を縦材21に装着していない場合には、
図9に示すように、鋼材で形成された縦材21は火炎などの高温部10へ向かって膨張し、面外方向に移動しようとする。このとき、縦材21は、高温部10の位置や周辺環境によって膨張する方向や長さがそれぞれ異なるため、外壁パネル2は面外方向に不陸を生じることになる。また、先述したように綴りボルト5は、地震時を想定して強度の弱い樹脂製で形成されているため、火災時には焼失もしくは損壊する可能性が高く、縦材21の面外方向への移動は制御不能となる。こうして外壁パネル2に面外方向の不陸が生じると、コーキング9が破断し、外壁パネル2間から熱気が流入して建物の耐火性能を保持することが困難となる。
【0030】
しかし、外壁パネル嵌着金具1を縦材21に装着している場合は、
図8に示すように鍔部1dの嵌合部11がリップ部25に嵌合しているため、隣接するどちらか一方の縦材21が高温部10へ向かって面外方向に移動することを防ぐことができ、外壁パネル2の面外方向への不陸を防止することができる。したがって、火災時に綴りボルト5が焼失、破損したとしても、外壁パネル2が倒壊することはなく、二次災害を防止することができ、建物の安全性を向上させることができる。
【0031】
このように、外壁パネル2の縦材21を外壁パネル嵌着金具1と綴りボルト5とで連結することにより、地震時だけではなく火災時においても外壁パネル2の倒壊を防止することができ、建物の耐火性能を大きく向上させることが可能となる。
【0032】
また、本発明の実施の形態は上述の形態に限ることなく、本発明の思想の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することができることは云うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0033】
この発明は、ロッキング機構によって面内方向に回転可能な外壁パネル同士を連結する際に好適に使用することが出来る。
【符号の説明】
【0034】
1 外壁パネル嵌着金具
2 外壁パネル
2a 外壁材
21 縦材
23 ウェブ部
24 フランジ部
25 リップ部
3 ロッキング機構
4 外壁パネルの連結構造
5 綴りボルト