特許第6395039号(P6395039)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6395039凸版印刷用感光性樹脂組成物及びそれから得られる感光性樹脂凸版用印刷原版
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6395039
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】凸版印刷用感光性樹脂組成物及びそれから得られる感光性樹脂凸版用印刷原版
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/075 20060101AFI20180913BHJP
   G03F 7/037 20060101ALI20180913BHJP
   G03F 7/00 20060101ALI20180913BHJP
   C08G 69/42 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   G03F7/075 521
   G03F7/037
   G03F7/00 502
   C08G69/42
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-198543(P2014-198543)
(22)【出願日】2014年9月29日
(65)【公開番号】特開2016-71044(P2016-71044A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年8月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【弁理士】
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 敏
【審査官】 塚田 剛士
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−134223(JP,A)
【文献】 特開2001−042528(JP,A)
【文献】 特開2003−302756(JP,A)
【文献】 特開平08−123034(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/00 ―7/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも水溶性高分子化合物、光重合性不飽和化合物、及び光重合開始剤を必須成分として含有する凸版印刷用感光性樹脂組成物であって、前記水溶性高分子化合物が、(A)ω−アミノ酸又はそのラクタム、(B)親水性ジアミン、(C)疎水性ジアミン、(D)アミノ変性シリコーン化合物、及び(E)ジカルボン酸の重縮合反応により得られる共重縮合体であること、及び(A)から(E)までの成分の合計量に対する(D)アミノ変性シリコーン化合物の割合が0.1〜20質量%であることを特徴とする凸版印刷用感光性樹脂組成物。
【請求項2】
(D)アミノ変性シリコーン化合物のアミノ基当量が、100g/mol〜10,000g/molの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の凸版印刷用感光性樹脂組成物。
【請求項3】
(D)アミノ変性シリコーン化合物が両末端をアミノ変性したものであり、(A)から(E)までの成分の合計量に対するそれぞれの成分の割合が以下の割合であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の凸版印刷用感光性樹脂組成物。
(A)ω−アミノ酸又はそのラクタム 40〜60質量%
(B)親水性ジアミン 15〜30質量%
(C)疎水性ジアミン 2〜 8質量%
(D)アミノ変性シリコーン化合物 0.1〜20質量%
(E)ジカルボン酸 15〜30質量%
【請求項4】
(B)親水性ジアミンが、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン、及びN,N−ビス(3−アミノプロピル)メチルアミンからなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の凸版印刷用感光性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の凸版印刷用感光性樹脂組成物からなる感光性樹脂層を設けていることを特徴とする凸版印刷用印刷原版。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水現像性感光性樹脂組成物に関するものであり、より詳しくは、インキ絡みの少ない水現像性凸版印刷用感光性樹脂組成物、及びそれから得られる水現像性凸版印刷用印刷原版に関するものである。
【背景技術】
【0002】
印刷版に用いられる水現像性感光性樹脂組成物では、一般に、水溶性高分子化合物、光重合性不飽和基含有モノマー、および光重合開始剤が必須成分として含有され、必要に応じて、安定剤、可塑剤等の添加剤が配合されている。水現像性感光性樹脂組成物としては、水現像性ポリアミド、ポリエーテルウレアウレタン、完全鹸化または部分鹸化ポリ酢酸ビニルなどを水現像性ポリマーとして使用するものが提案されており、可溶性ポリアミドやポリエーテルウレアウレタンを使用する感光性樹脂組成物は耐摩耗性に優れるために特に好ましく使用される。
【0003】
凸版印刷用感光性樹脂印刷版を用いた印刷方式は、凹凸のある樹脂凸版の凸部表面に、インキ供給ロールでインキを供給し、次に凸部表面のインキを被印刷体に転移させる方式である。このような印刷においては、長時間にわたっての印刷を行った場合、インキが樹脂版の凸部のショルダー部分に付着してきたり、凹部にインキが入りこんだりすること(以下、インキ絡みと称する)がしばしば発生する。その結果、本来の絵柄でない部分まで印刷されることがあり、印刷品位の低下を起こしていた。
【0004】
特に近年、凸版印刷の高精細印刷への適用が進んでおり、色や濃度の階調を出すため高線数での網点印刷が盛んに行われている。この場合、網点と網点の間隔がより小さくなるために、よりインキが印刷版の網点谷間に詰まりやすくなり、インキ絡みがより厳しい問題として発生する。印刷版の谷間にインキが一定以上たまると、これらは被印刷物へと転移してドット絡みを発生させ、著しい印刷品位の低下をもたらすことになる。したがって、印刷品位向上のためにインキ絡みの少ない印刷版が求められている。
【0005】
それらの要求に対応する従来技術としては、水現像性感光性樹脂組成物に対してシリコーン化合物やフッ素化合物などの撥水剤を配合する方法が検討されてきたが、感光性樹脂組成物とは相溶性の悪いものであった。それゆえ、撥水効果を得るために必要な量を添加すると、感光性樹脂層が不透明になったり、撥水剤が原版保存中にブリードアウトし、印刷版として品位の悪いものしか得られなかった。
【0006】
一方、感光性樹脂組成物との相溶性が悪い撥水剤を使う別の方策として、印刷原版の製造中又は製造後に撥水処理剤で表面処理する方法(特許文献1参照)が提案されている。しかし、特許文献1の製造方法は、撥水剤をアルコール等の溶剤に溶解した処理液と接触させて乾燥し、活性光線を照射するものであった。この方法では、煩雑な作業が必要であり、特別な処理を必要としないインキ絡みの改善方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2005/06441号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような従来技術の事情に鑑みてなされたものであり、高い画像再現性を保持しながら、インキ絡みの少ない高品位な凸版印刷用感光性樹脂組成物、及びそれから得られる凸版用印刷原版を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究した結果、感光性樹脂凸版材において、アミノ変性シリコーン化合物を特定量含有するポリアミドを含む感光性樹脂組成物を用いることにより、得られた印刷原版が高画像再現性を保持しながら優れたインキ絡み性を達成できるとの知見を会得し、該知見に基づいて本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明は、以下の(1)〜(5)の構成を有するものである。
(1)少なくとも水溶性高分子化合物、光重合性不飽和化合物、及び光重合開始剤を必須成分として含有する凸版印刷用感光性樹脂組成物であって、前記水溶性高分子化合物が、(A)ω−アミノ酸又はそのラクタム、(B)親水性ジアミン、(C)疎水性ジアミン、(D)アミノ変性シリコーン化合物、及び(E)ジカルボン酸を重縮合反応により得られる共重縮合体であることを特徴とする凸版印刷用感光性樹脂組成物。
(2)(D)アミノ変性シリコーン化合物のアミノ基当量が、100g/mol〜10,000g/molの範囲であることを特徴とする(1)に記載の凸版印刷用感光性樹脂組成物。
(3)(D)アミノ変性シリコーン化合物が両末端をアミノ変性したものであり、(A)から(E)までの成分の合計量に対するそれぞれの成分の割合が以下の割合であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の凸版印刷用感光性樹脂組成物。
(A)ω−アミノ酸又はそのラクタム 40〜60質量%
(B)親水性ジアミン 15〜30質量%
(C)疎水性ジアミン 2〜 8質量%
(D)アミノ変性シリコーン化合物 0.1〜20質量%
(E)ジカルボン酸 15〜30質量%
(4)()親水性ジアミンが、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン、及びN,N−ビス(3−アミノプロピル)メチルアミンからなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の凸版印刷用感光性樹脂組成物。
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載の凸版印刷用感光性樹脂組成物からなる感光性樹脂層を設けていることを特徴とする凸版印刷用印刷原版。
【発明の効果】
【0011】
本発明の凸版印刷用感光性樹脂組成物は、特定のシリコーン化合物を組成中の水溶性高分子化合物内に共重合することにより、高い画像再現性を保持しながら、インキの離型性に優れ、ロングラン印刷においても、レリーフ壁面への付着が極めて少なく、インキ絡みによる印刷欠点が発現し難い効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の凸版印刷用感光性樹脂組成物は、少なくとも水溶性高分子化合物、光重合性不飽和化合物、及び光重合開始剤を必須成分として含有し、前記水溶性高分子化合物が、(A)ω−アミノ酸又はそのラクタム、(B)親水性ジアミン、(C)疎水性ジアミン、(D)アミノ変性シリコーン化合物、及び(E)ジカルボン酸の重縮合反応で得られる共重縮合体であることを特徴とする。
【0013】
水溶性高分子化合物に用いるω−アミノ酸又はそのラクタム(A)としては、例えばアミノカプロン酸、アミノヘプタン酸、アミノカプリル酸、アミノラウリル酸などのω−アミノ酸、又はそのラクタムを挙げることができる。その中でも特にε−カプロラクタムが好ましい。これらのω−アミノ酸、またはそのラクタムを共重合成分として使用することにより、これらの構造単位をポリアミドに導入することができる。また、本発明は、(A)成分を40〜60質量%含有することでポリアミドの特性である耐磨耗性が良好な印刷版を得ることができる。
【0014】
水溶性高分子化合物に用いる親水性ジアミン(B)としては、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン、N−(2−アミノエチル)ピペラジン、など三級窒素を構造中に含有するジアミン、両末端に実質的にアミノ基を付加させたポリオキシエチレングリコール及びポリオキシエチレングリコールの共重合体、スルホン酸基を有するジアミン等が挙げられる。その中でもN,N’−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン、N−(2−アミノエチル)ピペラジンなど三級窒素を構造中に含有するジアミンが好ましい。
【0015】
水溶性高分子化合物に用いる疎水性ジアミン(C)としては、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、1,3−プロピレンジアミン、1,4−テトラメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、1,6−ヘキサンメチレンジアミン、1,11−ウンデカメチレンジアミン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス−アミノシクロヘキサン、1,3−アミノシクロヘキサン、などが挙げられる。その中でも、シクロヘキサン環を持つものが好ましく、特に1,3−ビス−(アミノメチル)シクロヘキサンが好ましい。
【0016】
水溶性高分子化合物に用いるアミノ変性シリコーン化合物(D)は、分子内に少なくとも1つのアミノ基を持つシリコーン化合物である。アミノ基の位置については、側鎖型、末端型、側鎖と末端のいずれにも存在する側鎖末端型などがある。アミノ基の数については、モノアミン又はジアミンだけでなく、分子内に3個以上有するものがあり、アミノ基の位置との様々な組合せが可能である。具体的には、アミノ変性シリコーン化合物(C)としては、側鎖型モノアミン変性のアミノ変性シリコーン化合物、側鎖型ジアミン変性のアミノ変性シリコーン化合物、片末端型アミン変性のアミノ変性シリコーン化合物、両末端型ジアミン変性のアミノ変性シリコーン化合物、側鎖両末端型アミン変性のアミノ変性シリコーン化合物などが挙げられる。アミノ基は、分子内に2個持つものが好ましく、特に両末端型のジアミノ変性シリコーン化合物が好ましい。アミノ変性シリコーン化合物(C)のアミノ当量は、100g/mol〜10,000g/molの範囲が好ましく、さらに好ましくは100g/mol〜6,000g/molの範囲である。
【0017】
アミノ変性シリコーン化合物(D)は、例えば以下の製品を市場から入手することができる。例えば、側鎖型のモノアミンタイプとしては、信越化学工業製のKF−868、KF−864などが挙げられ、側鎖型ジアミンタイプとしては、信越化学工業製のKF−859、KF−393、KF−860、KF−880、KF−8004、KF−867、KF−869、KF−861などが挙げられる。両末端型のジアミンタイプとしては、信越化学工業製のPAM−E、KF−8010、X−22−161A、X−22−161B、KF−8008などが挙げられる。側鎖両末端型アミン変性のアミノ変性シリコーン化合物としては、信越化学工業製のKF−862などが挙げられる。上記のアミノ変性シリコーン化合物の中でも、ジアミン成分としてポリマーに重合する観点からアミノ基の位置が末端であることが好ましく、さらに官能基数が分子中に二個含有する両末端型ジアミノ変性シリコーン化合物が好ましい。両末端型ジアミノ変性シリコーンをジアミン成分として用いることにより、水溶性高分子化合物中に導入することが可能となり、その結果、シリコーン化合物が紙やインキに移動することもなく、長期に効果を持続できる。また、シリコーン化合物が相分離しににくくなるため、光散乱による光重合阻害も起こりにくく、シリコーン化合物の配合割合を多くすることができる。
【0018】
水溶性高分子化合物に用いるジカルボン酸(E)は、得られる高分子化合物の分子量を大きくするために(B)〜(D)成分のジアミンの合計モル数に対して当モル量で存在させることが好ましい。又、得られる高分子化合物の分子量をコントロールするために、ジアミノ量又はカルボン酸量を僅かに過剰にして重合しても良い。具体的なジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、グルタル酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸を挙げることができるが、特にアジピン酸が好ましい。
【0019】
本発明では、(A)、(B)、(C)、(D)、及び(E)成分の合計量に対するそれぞれの成分の割合は、以下の割合であることが好ましい。
(A)ω−アミノ酸又はそのラクタム 40〜60質量%
(B)親水性ジアミン 15〜30質量%
(C)疎水性ジアミン 2〜 8質量%
(D)アミノ変性シリコーン化合物 0.1〜20質量%
(好ましくは両末端型ジアミノ変性シリコーン化合物)
(E)ジカルボン酸 15〜30質量%
さらに好ましくは、(D)アミノ変性シリコーンの配合量は0.5〜10質量%である。
【0020】
(A)成分が40重量%未満ではポリマーの結晶性が低下し、樹脂組成物の成形性に支障をきたし、また、光硬化部の機械的強度が充分に高められなくなるおそれがある。また、60重量%より多い場合はポリマーの親水性が低下して水現像性が低下するおそれがある。(B)成分が15重量%未満ではポリマーの親水性が低下して水現像性に支障をきたし、30重量%より多い場合はポリマーの親水性が高くなりすぎ、現像後の光硬化部の機械的強度が不十分となるおそれがある。また、(C)成分が2重量%未満では露光時の光散乱を十分に低減し得なくなり、8重量%より多い場合はポリマーの結晶性や親水性の低下が起こるおそれがある。
【0021】
本発明で使用する光重合性不飽和化合物は、分子内に光重合可能な不飽和基を1個以上含有する化合物であり、従来公知のものが使用できる。このような化合物としては、(メタ)アクリル酸、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、N,N’−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、脂肪族カルボン酸(無水物)類と2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの反応によって得られるモノエステルカルボン酸、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、グリシジル(メタ)アクリレートとモノアルコールとの開環付加反応物、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等の1個の不飽和結合を有する化合物、或いはエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−プロパンジオールジメタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンジ(メタ)アクリレート多価アルコールのポリグリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との開環付加反応生成物、例えば(ポリ)エチレングリコールジグシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、(ポリ)プロピレングリコールのジグリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、1,6−ヘキサメチレングリコールのジグリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、グリセリンジグリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、その他の活性水素化合物とグリシジル(メタ)アクリレートとの開環付加反応生成物、例えば(ポリ)エチレングリコールとグリシジル(メタ)アクリレートとの反応生成物、(ポリ)プロピレングリコールとグリシジル(メタ)アクリレートとの反応生成物、グリセリンとグリシジル(メタ)アクリレートとの反応生成物、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとグリシジル(メタ)アクリレートとの反応生成物、トリメチロールエタンとグリシジル(メタ)アクリレートとの反応生成物、トリメチロールプロパンとグリシジル(メタ)アクリレートとの反応生成物、(メタ)アクリル酸とグリシジル(メタ)アクリレートとの反応生成物、脂肪族多価カルボン酸とグリシジル(メタ)アクリレートとの反応生成物、第1級または第2級アミノ基を有する化合物とグリシジル(メタ)アクリレートとの反応によって得られる2個以上の不飽和基を有する化合物、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、N,N’−エチレンビス(メタ)アクリルアミド、5−メチル,5エチルヒダントインなどの不飽和結合を2個以上有する化合物が挙げられる。
【0022】
前記光重合性不飽和化合物は単独で使用しても良いが、2種以上を併用してもよい。光重合性不飽和化合物の使用量は組成物中の水溶性高分子化合物100質量部に対して、好ましくは10〜150質量部、特に好ましくは30〜100質量部である。光重合性不飽和化合物の使用量が10質量部未満であると、露光部の溶剤に対する耐性が充分でないために画像再現性が悪く、また150質量部を超えると、露光後の組成物の機械的強度低下や現像性低下が起こるおそれがある。
【0023】
本発明で使用する光重合開始剤としては、従来公知のものが使用可能であり、具体的には、例えば、ベンゾフェノン類、ベンゾイン類、アセトフェノン類、ベンジル類、ベンゾインアルキルエーテル類、ベンジルアルキルケタール類、アンスラキノン類、チオキサントン類などが使用できる。好適な具体例としては、ベンゾフェノン、ベンゾイン、アセトフェノン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、アンスラキノン、2−クロロアンスラキノン、チオキサントン、2−クロロチオキサントンなどが挙げられる。これらは感光性樹脂組成物中に0.05〜5質量%含有させるのが好ましい。0.05質量%より少ないと、光重合開始能力に支障をきたし、5質量%より多いと、印刷用レリーフを作成する場合の生版の厚み方向の光硬化性が低下し、画像の欠けが起こりやすくなる。
【0024】
また、必要により公知の熱重合禁止剤を添加してもよい。熱重合禁止剤は、感光性樹脂凸版組成物の調合、製造、成形加工時などの加熱による予定外の熱重合、あるいは該組成物の保存中の暗反応を防止するために添加する。このような化合物の例としては、ハイドロキノン、モノ−tert−ブチルハイドロキノン、2,5 −ジ−tert−ブチルハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテルなどのハイドロキノン類、ベンゾキノン、2,5−ジフェニル−p−ベンゾキノンなどのベンゾキノン類、フェノール類、カテコール、p−tert−ブチルカテコールなどのカテコール類、芳香族アミン化合物類、ピクリン酸類、フェノチアジン、α−ナフトキノン類、アンスラキノン類、ニトロ化合物類、イオウ化合物類などが挙げられる。熱重合禁止剤の使用量は全組成物中、好ましくは0.001〜2質量%、特に好ましくは0.005〜1質量%である。これらの化合物は2種以上併用してもよい。
【0025】
本発明の感光性樹脂組成物は、印刷用レリーフ版を得る場合の溶融成形法の他、例えば、熱プレス、注型、或いは、溶融押出し、溶液キャストなど公知の任意の方法により目的の製品に応じた所望の形状物に成形できる。
【0026】
印刷用レリーフ版を得る場合はシート状に成形した成形物(生版)を公知の接着剤を介して、或いは、介さずに支持体に積層して使用することができる。支持体としては、スチール、アルミニウム、ガラス、ポリエステルフィルムなどのプラスチックフィルム、金属蒸着したフィルムなど任意のものが使用できる。シート状成形物(生版)を支持体上に積層した積層体にして供給する場合にはシート状成形物(生版)に接して保護層がさらに積層される。保護層は、フィルム状のプラスチック、例えば、ポリエステルの125μm厚みのフィルムに粘着性のない透明で現像液に分散又は溶解する高分子を1〜3μmの厚みで塗布したものが用いられる。この薄い高分子の皮膜を有する保護層をシート状成形物(生版)に接することによって、シート状成形物(生版)の表面粘着性が強い場合であっても次の露光操作時に行う保護層の剥離を容易に行うことができる。
【0027】
このような組成物からなる層単独、もしくはこの層と支持体とからなる感光性樹脂凸版印刷原版は、感光性樹脂層に透明画像部を有するネガフィルムまたはポジフィルムを密着して重ね合わせ、その上方から活性光線を照射して露光を行なうと、露光部のみが不溶化ならびに硬化する。活性光線は、通常300〜450nmの波長を中心とする高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノン灯、ケミカルランプなどの光源を用いる。
【0028】
次いで、適当な溶剤により非露光部分を溶解除去することによって、鮮明な画像部を有する凸版を得る。このためには、スプレー式現像装置、ブラシ式現像装置などを用いる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例および比較例により本発明の効果をさらに詳しく実証する。以下の実施例および比較例中の部数は質量部を表わす。なお、インキ絡みの評価、画像再現性の評価及びブリードアウトの評価は以下の方法により行なった。
【0030】
「インキ絡みの評価」
インキ絡みは、輪転印刷機(三条機械製作所製、P−20)を用い、インキは紫外線硬化型インキ(T&K TOKA社製、UV161 藍S)を用いて評価した。被印刷体には、コート紙(リンテック株式会社製、グロスPW8K)を用いた。印刷速度は30m/分で行った。上記条件で、まず1000m印刷を行い、印刷サンプルを採取した。引き続き1000m印刷を行い、合計2000m印刷した後のサンプルを得た。評価する網点は、125,150,175LPIで1,5,10,20%の網点でインキ絡みを評価した。インキ絡みが皆無の場合“A”、インキ絡みが網点最端部のみできた場合“B”、インキ絡みが網点端部付近で発生した場合“C”、インキ絡みが網点全面に発生した場合“D”とした。
【0031】
「画像再現性の評価」
画像再現性は、175線ハイライト最小網点(%)及び最小細線(μm)で評価した。
175線ハイライト最小網点(%)は、ネガフィルム175線1〜5%の網点が保持されているかをニコン社製の万能投影機を用いて判定した。再現している面積が90%以上あれば網点が保持されていると判定し、その最小網点(%)で表示した。
最小細線(μm)は、ネガフィルムで30〜100μm幅の細線が再現できているかを20倍のルーペを用いて細線にヨレ(曲がり)が無いかで判定した。判定した細線の中でヨレが発生していない最も狭い幅の細線を再現した最小細線の幅(μm)で表示した。
【0032】
「シリコーン化合物ブリードアウトの評価」
シリコーン化合物ブリードアウトは、製版後の感光性樹脂凸版表面に平滑な表面を有するPETフィルムを押し当て、PETフィルムへの付着物の有無を評価した。
【0033】
(実施例1)
(A)成分のε−カプロラクタム52.2部、(B)成分のN,N’−ビスアミノ(3−アミノプロピル)ピペラジン〔以下、BAPPと略す〕23.0部、(C)成分の1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン〔以下、1,3−BACと略す〕3.7部、(D)成分のアミノ変性シリコーン化合物(信越化学工業株式会社、KF−8008、アミノ基当量5,700g/mol)0.5部、(E)成分としてアジピン酸20.6部、及び水100部を反応器に加え、充分な窒素置換を行った後に、密閉して徐々に加熱し、内圧が10kg/cmに達した時点から反応器内の水を徐々に留出させて1時間で常圧に戻し、その後0.5時間常圧で反応させた。最高重合温度は210℃で比粘度1.84のポリアミドを得た。
【0034】
得られたポリアミド55.0部、N−メチルトルエンスルホン酸アミドを7.7部、1,4−ナフトキノンを0.03部、メタノール50.0部、及び水10部を攪拌機付き加熱溶解釜中で60℃2時間混合してポリマーを完全に溶解してから、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテルのアクリル酸付加物を30.1部、メタクリル酸を3.1部、ハイドロキノンモノメチルエーテル0.1部、ベンジルジメチルケタール1.0部を加え、30分間攪拌した。次に徐々に昇温してメタノールと水を留出させて、釜内の温度が110℃になるまで濃縮した。この段階で、流動性のある粘調な感光性樹脂組成物が得られた。
【0035】
次いで、厚み250μmのポリエステルフィルムに接着剤を20μmコートして得た支持体フィルムの接着剤塗布面側と、厚み125μmのポリエステルフィルムに厚み2μmのポリビニルアルコール(AH−24、日本合成化学(株)製)の保護被膜をコートしたカバーフィルムの被膜側で感光性樹脂組成物をはさみこみ、100℃で加熱プレスして全厚み1080μmの凸版印刷用印刷原版を得た。
【0036】
次に、カバーフィルムを剥がした凸版印刷用印刷原版に、画像として網点175線−1%〜95%のネガフィルムを真空密着させ、25W/mのケミカルランプを用いて感光性樹脂表面より高さ5cmの距離から露光した。次にブラシ式ウォッシャー(120μmφナイロンブラシ、日本電子精機(株)制作JW−A2−PD型)で25℃の水道水を現像液にして現像を行い、更に60℃で10分間、温風乾燥した後に25W/mのケミカルランプで5分間露光して目的の印刷版を得た。水溶性高分子化合物の詳細と評価結果を表1に示す。
【0037】
(実施例2)
ε−カプロラクタム50.8部、BAPP22.4部、1,3−BAC3.6部、アミノ変性シリコーン化合物(信越化学工業株式会社、X−22−161B、アミノ基当量1500g/mol)3.0部、アジピン酸20.2部とした以外は実施例1と同様にして目的の印刷版を得た。水溶性高分子化合物の詳細と評価結果を表1に示す。
【0038】
(実施例3)
ε−カプロラクタム49.6部、BAPP21.9部、1,3−BAC3.5部、アミノ変性シリコーン化合物(信越化学工業株式会社、X−22−161A、アミノ基当量800g/mol)5.0部、アジピン酸20.0部とした以外は実施例1と同様にして目的の印刷版を得た。水溶性高分子化合物の詳細と評価結果を表1に示す。
【0039】
(実施例4)
ε−カプロラクタム43.3部、BAPP19.1部、1,3−BAC3.0部、アミノ変性シリコーン化合物(信越化学工業株式会社、KF−8010、アミノ基当量430g/mol)15.0部、アジピン酸19.6部とした以外は実施例1と同様にして目的の印刷版を得た。水溶性高分子化合物の詳細と評価結果を表1に示す。
【0040】
(実施例5)
ε−カプロラクタム44.3部、BAPP19.5部、1,3−BAC3.1部、アミノ変性シリコーン化合物(信越化学工業株式会社、PAM−E、アミノ基当量130g/mol)10.0部、アジピン酸23.1部とした以外は実施例1と同様にして目的の印刷版を得た。水溶性高分子化合物の詳細と評価結果を表1に示す。
【0041】
(実施例6)
ε−カプロラクタム49.7部、BAPP21.9部、1,3−BAC3.5部、アミノ変性シリコーン化合物(信越化学工業株式会社、KF−8004、アミノ基当量1500g/mol)5.0部、アジピン酸19.8部とした以外は実施例1と同様にして目的の印刷版を得た。水溶性高分子化合物の詳細と評価結果を表1に示す。
【0042】
(実施例7)
ε−カプロラクタム49.8部、BAPP21.9部、1,3−BAC3.5部、アミノ変性シリコーン化合物(信越化学工業株式会社、KF−864、アミノ基当量3800g/mol)5.0部、アジピン酸19.8部とした以外は実施例1と同様にして目的の印刷版を得た。水溶性高分子化合物の詳細と評価結果を表1に示す。
【0043】
(実施例8)
ε−カプロラクタム43.1部、数平均分子量400のポリエチレングリコールの両末端にアクリロニトリルを付加し、これを水素還元して得たα,ω−ジアミノポリオキシエチレン29.8部、1,3−BAC7.7部、アミノ変性シリコーン化合物(信越化学工業株式会社、X−22−161B、アミノ基当量1500g/mol)3.0部、アジピ
ン酸16.5部とした以外は実施例1と同様にして目的の印刷版を得た。水溶性高分子化合物の詳細と評価結果を表1に示す。
【0044】
(比較例1)
ε−カプロラクタム52.5部、BAPP23.1部、1,3−BAC3.7部、アミノ変性シリコーン化合物は加えず、アジピン酸20.7部とした以外は実施例1と同様にして目的の印刷版を得た。水溶性高分子化合物の詳細と評価結果を表1に示す。
【0045】
(比較例2)
ε−カプロラクタム49.5部、BAPP23.1部、1,3−BAC3.7部、シリコーン化合物(信越化学工業株式会社、KF−96−100CS、アミノ未変性)3.0部、アジピン酸20.7部とした以外は実施例1と同様にして目的の印刷版を得た。水溶性高分子化合物の詳細と評価結果を表1に示す。
【0046】
(比較例3)
ε−カプロラクタム40.9部、BAPP16.5部、1,3−BAC2.6部、アミノ変性シリコーン化合物(信越化学工業株式会社、KF−8008、アミノ基当量5700g/mol)25.0部、アジピン酸15.0部とした以外は実施例1と同様にして目的の印刷版を得た。水溶性高分子化合物の詳細と評価結果を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表1から明らかなように、本発明の範囲の凸版印刷用感光性樹脂組成物(実施例1〜7)は、良好な画像再現性を維持しながら、印刷時のインキ絡みが発生しにくいという評価結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の凸版印刷用感光性樹脂組成物によれば、持続性に優れるインキ絡み防止効果を印刷版に付与することができる。これにより、長期間安定して高品位の印刷を行うことが可能となり、産業上に寄与すること大である。