特許第6395056号(P6395056)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6395056プレキャストコンクリート床版の製作方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6395056
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】プレキャストコンクリート床版の製作方法
(51)【国際特許分類】
   B28B 7/16 20060101AFI20180913BHJP
   E01D 19/12 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   B28B7/16 Z
   E01D19/12
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-177104(P2015-177104)
(22)【出願日】2015年9月8日
(65)【公開番号】特開2017-52160(P2017-52160A)
(43)【公開日】2017年3月16日
【審査請求日】2017年10月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】505398963
【氏名又は名称】西日本高速道路株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】508036743
【氏名又は名称】株式会社横河ブリッジ
(74)【代理人】
【識別番号】100158883
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 哲平
(72)【発明者】
【氏名】緒方 辰男
(72)【発明者】
【氏名】白水 晃生
【審査官】 原 和秀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−240348(JP,A)
【文献】 特開平04−064665(JP,A)
【文献】 特開2009−000952(JP,A)
【文献】 特開昭51−017214(JP,A)
【文献】 実開昭57−041708(JP,U)
【文献】 特開平01−104592(JP,A)
【文献】 実開昭58−151254(JP,U)
【文献】 実開昭60−024507(JP,U)
【文献】 特開平08−020915(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 7/00−7/46
B66C 1/00−1/68
E01D 19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレキャストコンクリート床版を製作する方法において、
使用時とは上下反転する姿勢となるように型枠を組み立てる型枠組立工程と、
前記型枠組立工程で組み立てられた状態の型枠内にコンクリートを打ち込むコンクリート打設工程と、
使用時とは上下反転する姿勢のままでコンクリートを硬化させるコンクリート養生工程と、を備え、
前記型枠組立工程では、ハンチ部のコンクリートを打ち込むための浮き型枠を組み立て、
前記コンクリート打設工程では、床版と地覆又は壁高欄の全部又は一部を一体としてコンクリートが打ち込まれる、ことを特徴とするプレキャストコンクリート床版の製作方法。
【請求項2】
プレキャストコンクリート床版を製作する方法において、
使用時とは上下反転する姿勢となるように型枠を組み立てる型枠組立工程と、
前記型枠組立工程で組み立てられた状態の型枠内にコンクリートを打ち込むコンクリート打設工程と、
使用時とは上下反転する姿勢のままでコンクリートを硬化させるコンクリート養生工程と、
コンクリートが所定強度を発現した後、型枠を取り外す型枠脱型工程と、
型枠が取り外されたプレキャストコンクリート床版の姿勢を上下反転させる姿勢反転工程と、を備え、
前記コンクリート打設工程では、床版と地覆又は壁高欄の全部又は一部を一体としてコンクリートが打ち込まれ、
前記姿勢反転工程では、クレーンで前記プレキャストコンクリート床版を吊上げた状態で該プレキャストコンクリート床版に回転体を固定し、該プレキャストコンクリート床版からクレーンを外したうえで該回転体を回転させることで、該プレキャストコンクリート床版の姿勢を上下反転させる、
ことを特徴とするプレキャストコンクリート床版の製作方法。
【請求項3】
前記姿勢反転工程では、前記プレキャストコンクリート床版の姿勢を上下反転させると、クレーンで前記プレキャストコンクリート床版を吊上げた状態で該プレキャストコンクリート床版から前記回転体を外す
ことを特徴とする請求項2記載のプレキャストコンクリート床版の製作方法。
【請求項4】
前記回転体は、2以上の分割体が連結される構造であり、
前記姿勢反転工程では、2以上の前記分割体をそれぞれ前記プレキャストコンクリート床版に固定するとともに、該分割体どうしを連結する、ことを特徴とする請求項2又は請求項3記載のプレキャストコンクリート床版の製作方法。
【請求項5】
前記姿勢反転工程では、前記回転体が軌道上を移動しながら回転する、ことを特徴とする請求項2乃至請求項4のいずれかに記載のプレキャストコンクリート床版の製作方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、プレキャストコンクリート床版に関する技術であり、より具体的には、プレキャストコンクリート床版を使用するときの姿勢とは上下反転した状態で製作されるプレキャストコンクリート床版とその製作方法に関する技術である。
【背景技術】
【0002】
我が国は、国土の大半が山間部で占められ、しかも急峻な地形であることから、地方に整備される道路は多くの橋梁に頼っている。一方、都市部では無数の構造物が密集しており、そこへ新たな道路を計画するとなれば、跨道橋、跨線橋、高架橋など、やはり多くの橋梁が必要となる。
【0003】
橋梁は、損壊時における社会的影響を考えるまでもなく極めて重要な構造物であり、そのため古くから「道路橋示方書・同解説」といった設計基準を整備して厳格に設計され、そして高い品質をもって施工されている。また、近年の改定では同時に維持管理の容易さに加え、維持管理の確実性についても求められている。このように高い品質が求められる一方で、社会的要請と技術力の進歩から、維持管理に優れた構造物をより経済的に、より短い工期で、施工されることも求められるようになってきた。
【0004】
橋梁の上部工を構成する床版は、新設時に設置されるのは当然のことながら、既設橋の改修時にも設置されることがある。近年、既設橋の改修工事が頻繁に行われるようになり、これに伴って高付加価値床版に取り換える動きもみられる。前述のとおり橋梁工事は急速施工が要請されるところであり、既設橋の改修工事の場合は特に工期短縮が求められている。例えば高速道路など自動車専用道路の高架橋は、膨大な交通量を確保しており、供用停止による経済的損失を考えると一日でも早く工事を完成することが必要となる。
【0005】
以上のような背景から、橋梁の床版にはプレキャストによるコンクリート床版が多用されるようになってきた。ここで「プレキャスト」とは、工場や製造ヤードなど現場とは異なる場所で、あらかじめ製品や部材を製作しておくことであり、このプレキャストによって製作されたコンクリート床版は「プレキャストコンクリート床版」と呼ばれる。従来から採用されている場所打ちコンクリート工法では、型枠設置からコンクート打設、さらには養生期間と、長い施工期間を必要としていたが、プレキャストコンクリート床版の場合、製作は工場で行われ、しかも容易に設置できるため、現場を占有する期間が極めて短くなる。
【0006】
ここで、一般的なプレキャストコンクリート床版の製作方法について説明する。なお既述のとおり、以下に説明する一連の工程は工場等で行われる。はじめに型枠と所定の鉄筋を組み立てる。そして、型枠内にコンクリートを打ち込み、所定の養生期間を経て型枠を脱型し、プレキャストコンクリート床版が完成する。プレテンション方式とする場合は、所定位置に配置された緊張材を緊張し、その状態でコンクリートを打ち込み、硬化後に緊張材の緊張力を解除する。
【0007】
工場内という比較的良好な作業環境で製作されることから、特段の制約条件もなく、これまではプレキャストコンクリート床版が使用される姿勢(以下、「使用時姿勢」という。)となるように、型枠や鉄筋が組み立てられ、そのままコンクリートを打ち込んで養生していた。例えば、道路橋に設置されるプレキャストコンクリート床版の場合、路面が上面となるように型枠を組み立ててコンクリートを打ち込むわけである。特許文献1でも橋梁用のプレキャストコンクリート床版を製作する方法を示しているが、やはり主桁上に配置する姿勢(つまり、使用時姿勢)で一連の工程を行い、プレキャストコンクリート床版を製作することとしている。ここでは、路面が上面となるようなプレキャストコンクリート床版の用い方をする場合を、「使用時」と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−303273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、高速道路の高架橋をはじめとする道路橋には、通常、路面端部に地覆や壁高欄が設けられる。道路橋の床版を場所打ちする場合は、床版と地覆(あるいは壁高欄)を一体として構築することができるが、プレキャストコンクリート床版とした場合、プレキャストコンクリート床版を主桁上に設置した後、現場で地覆や壁高欄を構築することになる。つまり図7に示すように、プレキャストコンクリート床版と地覆(壁高欄)との間には打継ぎが生じ、ここを「水みち」として路面上の水が橋梁外に流れ出てしまうおそれがある。なお、地覆や壁高欄を工場で構築したとしても、使用時姿勢(つまり、路面が上面となる姿勢)でプレキャストコンクリート床版を製作する限り、型枠が複雑になることからプレキャストコンクリート床版と地覆(壁高欄)は別々にコンクリートが打ち込まれる(いわゆる2度打ち)ことになり、やはり打継ぎが生じることは避けられない。
【0010】
また、従来のプレキャストコンクリート床版の製作方法は、他の問題も抱えている。使用時姿勢でコンクリートを打ち込むと、プレキャストコンクリート床版のうち下方が密に、上方が粗となる傾向にある。これは、骨材など重い材料が下に沈むとともに、ブリージングによって練混ぜ水が上方に浮くことが原因である。「プレストレスコンクリート技術協会 第20回シンポジウム論文集(2011年10月)−プレキャストPC床版の耐久性向上のための一考察−」では、気中養生された床版状のコンクリート供試体に対して行った簡易透気試験(トレント法)の結果を報告しており、その報告によれば、供試体の上面が0.562×10−16/mという透気係数を示したのに対して、供試体の下面が0.085×10−16/mという透気係数を示している。この結果からも、従来の製法ではプレキャストコンクリート床版は上方より下方が密になっていることが分かる。ここで、「コンクリートが密」とは、必ずしも密度のみならずコンクリートの密実性に関する表現であり、透気性や透水性、水分吸着性といった指標で表されるものである。つまり、空気や水分がコンクリートに浸透しにくいほど密実であり、上述の透気係数の場合、数値が小さいほど空気が浸透しにくいことを示す。近年の研究では、コンクリートの密実性の向上が耐久性の向上につながることがわかっている。
【0011】
道路橋の場合、プレキャストコンクリート床版の上面が通行車両の輪荷重を受けることになるから、当然ながら上方が密になる方がよい。また、雨水等の侵入を考えた場合も、やはり上方が密になる方がよい。ところが従来手法で製作されたプレキャストコンクリート床版は、上方より下方が密になり、その結果プレキャストコンクリート床版が劣化しやすい状況にある。
【0012】
本願発明の課題は、従来の問題を解決することであり、すなわち、プレキャストコンクリート床版と地覆等の間に打継ぎ(つまり、水みち)を形成することなく、しかもプレキャストコンクリート床版のうち下方よりも上方が密となるプレキャストコンクリート床版と、その製作方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明は、使用時姿勢とは上下反転する姿勢でプレキャストコンクリート床版を製作する、というこれまでにない発想に基づいて行われたものである。
【0014】
本願発明のプレキャストコンクリート床版の製作方法は、型枠組立工程と、コンクリート打設工程、コンクリート養生工程を備えた方法である。型枠組立工程では、使用時姿勢とは上下反転する姿勢(以下、「上下反転姿勢」という。)となるように型枠が組み立てられ、コンクリート打設工程では、上下反転姿勢の状態の型枠内にコンクリートが打ち込まれる。そしてコンクリート養生工程では、上下反転姿勢のままコンクリートが養生され硬化するのを待つ。なおコンクリート打設工程では、床版と地覆(又は壁高欄)の全部(又は一部)が一体としてコンクリートが打ち込まれる。
【0015】
本願発明のプレキャストコンクリート床版の製作方法は、型枠脱型工程と姿勢反転工程をさらに備えた方法とすることもできる。型枠脱型工程では、コンクリートの強度発現後に型枠が取り外される。また姿勢反転工程では、回転体が脱型後のプレキャストコンクリート床版に固定され、この回転体を回転させることでレキャストコンクリート床版が上下反転されて上下反転姿勢から使用時姿勢となる。なお回転体を、2以上の分割体が連結された構造とすることもできる。この場合、2以上の分割体をそれぞれプレキャストコンクリート床版に固定し、さらに分割体どうしを連結したうえで回転させる。
【0016】
本願発明のプレキャストコンクリート床版の製作方法は、回転体が軌道上を移動しながら回転する姿勢反転工程を備えた方法とすることもできる。
【0017】
本願発明のプレキャストコンクリート床版は、上下反転姿勢となるように組み立てられた型枠内に、床版と地覆(又は壁高欄)の全部(又は一部)が一体となるようにコンクリートを打ち込み、上下反転姿勢のままでコンクリートを硬化させて製作されたものであり、使用時姿勢では床版の下方よりも上方のコンクリートの方が密実である。
【発明の効果】
【0018】
本願発明のプレキャストコンクリート床版の製作方法、及びプレキャストコンクリート床版には、次のような効果がある。
(1)床版と地覆(又は壁高欄)が一体となるようにコンクリートを打ち込むことから、プレキャストコンクリート床版と地覆(壁高欄)との間に打継ぎが生じることがなく、すなわち、ここを水みちとして路面上の水が橋梁外に流れ出てしまうおそれがない。
(2)上下反転姿勢のまま一連の工程を経て製作されることから、製作中の下方、つまり使用時姿勢におけるプレキャストコンクリート床版の上面が密となり、例えば道路橋の場合、通行車両の輪荷重による劣化を抑制することができ、快適な走行環境を比較的長く維持することができ、耐久性の向上が見込める。
(3)上下反転姿勢のまま一連の工程を経て製作されることから、製作中の下方、つまり使用時姿勢におけるプレキャストコンクリート床版の上面が密となり、雨水等が躯体内部に浸透するのを抑えることができるため、鉄筋の腐食を抑制することができる。
(4)これまでの型枠の底板はハンチ部等の製作に工数がかかったが、地覆や壁高欄部を除いて平面とすることができるので型枠製作が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本願発明のプレキャストコンクリート床版を製作する主な流れを示すフロー図。
図2】上下反転姿勢で置かれた本願発明のプレキャストコンクリート床版を示す斜視図。
図3】2つの回転体が固定されたプレキャストコンクリート床版を示す橋軸直角方向の断面図。
図4】(a)は左右に2分割された分割体を示す正面図、(b)は上下に2分割された分割体を示す正面図。
図5】(a)は片方の分割体をプレキャストコンクリート床版に取り付ける工程を示す説明図、(b)は両方の分割体をプレキャストコンクリート床版に取り付ける工程を示す説明図、(c)は両方の分割体を連結する工程を示す説明図。
図6】プレキャストコンクリート床版に固定された回転体がレール上を移動しながら回転する状況を示す説明図。
図7】プレキャストコンクリート床版と地覆との間に生じた打継ぎを示す、従来のプレキャストコンクリート床版の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本願発明のプレキャストコンクリート床版の製作方法、及びプレキャストコンクリート床版の一例を、図に基づいて説明する。
【0021】
1.全体概要
図1は、本願発明のプレキャストコンクリート床版を製作する主な流れを示すフロー図である。なお既述のとおりプレキャストコンクリート床版は、現場とは異なる場所で製作されるもの全般を指すが、ここでは便宜上、工場内で製作される橋梁用床版の場合で説明する。
【0022】
はじめに、工場内の所定スペースを利用してプレキャストコンクリート床版の型枠を組み立てる(Step10)。このとき、プレキャストコンクリート床版の使用時姿勢(つまり、図7に示すように路面が上面となる姿勢)とは上下反転した姿勢(つまり、上下反転姿勢)で型枠は組み立てられる。そして、その状態(上下反転姿勢)のままの型枠内で計画された配筋が行われ、同じく上下反転姿勢のままの型枠内に所定配合のコンクリートが打ち込まれる(Step20)。さらに引き続き、上下反転姿勢のままコンクリートは養生され(Step30)、所定のコンクリート強度が発現すると型枠が取り外される(Step40)。
【0023】
繰り返しの説明となるがここまでの一連の工程はすべて上下反転姿勢のままで行われ、したがって型枠が取り外されたプレキャストコンクリート床版は当然ながら上下反転姿勢である。図2は、上下反転姿勢で置かれた本願発明のプレキャストコンクリート床版100を示す斜視図である。上下反転姿勢のプレキャストコンクリート床版100を輸送車に載せ、そのまま現場へ運び込むこともできるが、現場にて円滑に設置作業を行うためには使用時姿勢としてプレキャストコンクリート床版100を搬入する方が望ましい。
【0024】
そこで、工場内でプレキャストコンクリート床版100を反転して上下反転姿勢から使用時姿勢とするとよい。具体的には、プレキャストコンクリート床版100を工場内のクレーン等で吊り上げ、その状態でリング状(環状)の回転体をプレキャストコンクリート床版100に取り付ける(Step50)。プレキャストコンクリート床版100を回転体に支持させるとクレーンを外し、回転体を略180度回転させることでプレキャストコンクリート床版100の姿勢を反転する(Step60)。再度、クレーンでプレキャストコンクリート床版100を吊り上げ、回転体を外して工場内の所定位置あるいは搬送車の荷台に降ろし、現場への搬出を待つ。
【0025】
以下、本願発明のプレキャストコンクリート床版の製作方法、及びプレキャストコンクリート床版を構成する主な要素ごとに詳しく説明する。
【0026】
2.コンクリート打設工程
コンクリート打設工程(Step20)では、プレキャストコンクリート床版100と地覆200(図2)が一体としてコンクリートが打ち込まれる。既述のとおり使用時姿勢で製作する場合、プレキャストコンクリート床版100と地覆200とは別にコンクリートが打ち込まれることから、その間には打継ぎが生じる。仮に使用時姿勢でプレキャストコンクリート床版100と地覆200を一体に製作するとしても、地覆200部分は浮き型枠形式とするなど著しく複雑な型枠構造となるため、作業が煩雑となるばかりでなく、コンクリートが型枠内に確実に充填されないなど十分な品質が得られないおそれがある。
【0027】
上下反転姿勢とした場合、地覆200の型枠の組み立てが容易となり、しかもコンクリートは円滑に型枠内に充填されることから、プレキャストコンクリート床版100と地覆200を一体としたコンクリートの打ち込みを行っても特段問題がない。その結果、図7と比較して分かるように、図2に示す本願発明のプレキャストコンクリート床版100には打継ぎ(水みち)が生じない。なおここでは、地覆200が設置されるプレキャストコンクリート床版100の場合で説明したが、壁高欄が設置されるプレキャストコンクリート床版100も同様に、プレキャストコンクリート床版100と壁高欄を一体としたコンクリートの打ち込みが可能である。また、壁高欄(あるいは地覆200)の全部をプレキャストコンクリート床版100と一体にする場合に限らず、壁高欄(あるいは地覆200)の一部とプレキャストコンクリート床版100を一体としてコンクリートの打ち込みを行ってもよい。なお図2に示すプレキャストコンクリート床版100のハンチ部110は、浮き型枠を組み立ててコンクリートを打ち込むことができる。
【0028】
図2に示すように、コンクリート打ち込み時におけるプレキャストコンクリート床版100は上下反転姿勢であり、したがって使用時姿勢の上方が製作時では下方となり、使用時姿勢の下方が製作時では上方となる。既述のとおり、コンクリートを打ち込むと下方が密(密度が大)になり上方が粗(密度が小)となることから、使用時姿勢の上方が密なコンクリートとなり、使用時姿勢の下方が粗なコンクリートとなる。換言すれば、本願発明のプレキャストコンクリート床版は、路面付近が密なコンクリートによって形成される床版であり、輪荷重等による摩耗を抑制するとともに、雨水等の内部浸透を抑えることができる床版である。
【0029】
3.姿勢反転工程
既述のとおり、工場内でプレキャストコンクリート床版100を反転(上下反転姿勢から使用時姿勢)する場合、回転体が利用される。回転体は、例えば鋼製のリング状のものであり、通常は一つのプレキャストコンクリート床版100に対して2以上の回転体が取り付けられる。図3は、2つの回転体300が固定されたプレキャストコンクリート床版100を示す橋軸直角方向の断面図である。この図に示すように、プレキャストコンクリート床版100を把持する左右の回転体300が車輪のように回転することで、プレキャストコンクリート床版100も回転するわけである。
【0030】
回転体300は、不分割の一体形式とすることもできるし、2以上の分割体を組み立てる組立て形式とすることもできる。一体形式の回転体300を利用する場合は、プレキャストコンクリート床版100の側方(橋軸直角方向の外側)から回転体300を移動させて、プレキャストコンクリート床版100に嵌め込み固定する。一方、組立て形式の回転体300を利用する場合は、分割体を組み立てながらプレキャストコンクリート床版100に回転体300を固定する。以下、組立て形式の回転体300について説明する。
【0031】
図4は、回転体300を構成する2つの分割体300aを示す正面図であり、(a)は左右に2分割された分割体300aを示し、(b)は上下に2分割された分割体300aを示している。この図に示す回転体300は、左右2分割された分割体300aを組み立てることで完成するものであるが、もちろんこれらの場合に限らず、左右と上部の3分割とするなど分割数や分割形状は任意に設計することができる。
【0032】
図4に示す床版支持部310は、プレキャストコンクリート床版100を挟持して固定するものであり、左右の分割体300aそれぞれに設けられる。一体形式の回転体300の場合も、やはり左右2か所に床版支持部310を設けるとよい。なお図4に示す床版支持部310は、プレキャストコンクリート床版100の床版厚とほぼ同等の(床版厚より若干広い)隙間をあけて設置された上下2つの板状部材で構成されているが、プレキャストコンクリート床版100を固定することができれば、ボルトや他の治具など従来から用いられている技術を利用して床版支持部310を構成することができる。
【0033】
図5は、組立て形式の回転体300を利用してプレキャストコンクリート床版100を上下反転する工程を示す説明図であり、(a)は片方の分割体300aをプレキャストコンクリート床版100に取り付ける工程を、(b)は両方の分割体300aをプレキャストコンクリート床版100に取り付ける工程を、(c)は両方の分割体300aを連結する工程を示している。
【0034】
図5に示すように、まずはプレキャストコンクリート床版100を工場内のクレーン等で吊り上げる。このとき、あらかじめプレキャストコンクリート床版100に吊り治具(例えば、アイボルトやデーハーアンカー等)を埋設しておくとよい。もちろん、プレキャストコンクリート床版100を吊り上げたときに吊り治具が抜けないよう、十分なコンクリート強度(吊り上げに必要な強度であって、必ずしも最終強度である必要はない)が発現するのを待って吊り上げることとする。
【0035】
プレキャストコンクリート床版100をクレーンで吊り上げた状態で、床版支持部310をプレキャストコンクリート床版100に嵌め込みながら、一方(図では左側)の分割体300aをプレキャストコンクリート床版100に固定する(図5(a))。引き続きプレキャストコンクリート床版100をクレーンで吊り上げた状態で、同様に床版支持部310を嵌め込みながら、他方(図では右側)の分割体300aもプレキャストコンクリート床版100に固定する(図5(b))。
【0036】
左右の分割体300aがプレキャストコンクリート床版100に固定されると、連結治具320を利用して左右の分割体300aを連結し、回転体300を完成させる(図5(c))。そして、プレキャストコンクリート床版100の支持が回転体300に預けられたことを確認したうえで、プレキャストコンクリート床版100からクレーンの吊りワイヤを取り外す。なお図5に示す連結治具320は、添接版を両面から当ててボルト固定するもので、この場合上下2箇所に設けている。もちろん、隣接する分割体300aどうしを堅固に連結することができれば、従来から用いられている種々の技術を用いた連結治具320とすることもできる。
【0037】
プレキャストコンクリート床版100に回転体300が固定されると、プレキャストコンクリート床版100の姿勢が反転するまで、つまり上下反転姿勢から使用時姿勢となるまで回転体300を回転させる。通常は、回転体300を180度回転させると、プレキャストコンクリート床版100の姿勢は反転する。プレキャストコンクリート床版100の姿勢が使用時姿勢になれば、再びプレキャストコンクリート床版100をクレーンで吊り上げて支持する。その状態で連結治具320を取り外し、左右の分割体300aをプレキャストコンクリート床版100から引き抜き、そして所定位置でプレキャストコンクリート床版100を吊り降ろす。
【0038】
回転体300は、接地位置(床との接触位置)にローラー等を配置することで、その場で回転させることもできるし、敷設されたレール上を転がりながら回転させることもできる。図6は、プレキャストコンクリート床版100に固定された回転体300がレール400上を移動しながら回転する状況を示す説明図である。この場合、あらかじめ敷設されたレール400の上方でプレキャストコンクリート床版100はクレーンで支持され、そしてそれぞれの分割体300aがレール400上に載置されたうえで回転体300は組み立てられる。なお図3に示すように、回転体300の円周方向に溝部を設け、この溝部がレール400に嵌合するように回転体300を載置してもよい。レール400上で、回転体300がプレキャストコンクリート床版100に固定されると、レール400に沿って移動しながら回転体300を略180度回転させて、プレキャストコンクリート床版100の姿勢を使用時姿勢にする。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本願発明のコンクリート床版構造、及びプレキャストコンクリート床版は、道路橋、鉄道橋、管路橋といったあらゆる用途の橋梁に利用でき、河川橋、跨道橋、跨線橋など種々のものを越える橋梁に利用することができる。また、新設橋梁に使用する場合に限らず、既設橋梁の床版架け替え工事にも採用することができる。本願発明が、高品質の橋梁材料を提供し、その結果、安全かつ快適な交通環境を提供することを考えれば、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明といえる。
【符号の説明】
【0040】
100 プレキャストコンクリート床版
110 (プレキャストコンクリート床版の)ハンチ部
200 地覆
300 回転体
300a (回転体の)分割体
310 (回転体の)床版支持部
320 (回転体の)連結治具
400 レール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7