特許第6395135号(P6395135)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6395135
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】ミシン
(51)【国際特許分類】
   D05B 71/00 20060101AFI20180913BHJP
   D05B 27/02 20060101ALI20180913BHJP
   D05B 73/06 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   D05B71/00 Z
   D05B27/02
   D05B73/06
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-83062(P2015-83062)
(22)【出願日】2015年4月15日
(65)【公開番号】特開2016-202207(P2016-202207A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2017年3月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000114868
【氏名又は名称】ヤマトミシン製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074332
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100114432
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 寛昭
(74)【代理人】
【識別番号】100138416
【弁理士】
【氏名又は名称】北田 明
(72)【発明者】
【氏名】徳田 奈穂子
(72)【発明者】
【氏名】木下 竜一郎
(72)【発明者】
【氏名】金川 靖男
【審査官】 ▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−273482(JP,A)
【文献】 特開昭56−083391(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B 1/00−97/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上方に開口した開口部を有するシリンダと、
前記シリンダにおいて縫製がなされる部分に取り付けられた針板と、
前記シリンダに内蔵された1対の棒状体であり、各々が側面視で楕円状の軌跡を描くように運動することで、前記針板上の生地を送ることのできる1対の送り台と、
ミシン内における前記1対の送り台の基端側に対応した位置に設けられ、前記1対の送り台に対して潤滑油を供給する給油部材と、
前記針板と前記給油部材との間の位置で、前記1対の送り台の全周を取り巻いて該1対の送り台の外面に当接するオイルシールと、
前記シリンダの内壁に設けられ、前記オイルシールを支持するシール支持部と、を備え、
前記1対の送り台は、前記シリンダの前記開口部から上方へ移動できるよう構成され、
前記シール支持部は、前記1対の送り台を前記開口部よりも上方に移動させる際、前記シリンダに対して不動のままで、該1対の送り台が上方に移動することを許容する上方開口部を備えるミシン。
【請求項2】
前記オイルシールに対して着脱可能であり、装着時には前記上方開口部に配置されて前記オイルシールの上部を支持するシール上方支持部を備える、請求項1に記載のミシン。
【請求項3】
前記シール支持部は、前記オイルシールにおける、各送り台の長手方向視で右方の側方部と左方の側方部とを支持する側方支持部を備える、請求項1または2に記載のミシン。
【請求項4】
前記シール支持部は、前記シリンダに対して該シール支持部が不動の状態で前記オイルシールを上下方向に抜き差し可能とするスライド支持部を備える、請求項1または2に記載のミシン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生地を送るためにシリンダに内蔵された送り台にオイルシールを備えたミシンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ミシンには、縫製を順次行っていくために生地を送ることを目的として、棒状の送り台が1対、シリンダに内蔵されている。前記1対を構成する一方の送り台と他方の送り台とは(シリンダの長手方向に対して)左右に並列して配置されている。各送り台の先端には、凹凸の送り歯を有する生地送り部が取り付けられている。各送り台は、前記送り歯が針板上面に対して出没するようにして、側面視で楕円状の軌跡を描くように運動する。この各送り台の運動により、針板上に位置する生地が生地送り部に押されて一方向に送られる。
【0003】
各送り台は、送り台同士の当接部分の潤滑、また、シリンダ内壁と送り台との間の潤滑のために給油がなされる。供給された潤滑油が送り台の表面を伝って、送り台の先端部の生地送り部まで達すると、生地に潤滑油が付着してしまうため問題となる。この問題を防止するため、送り台にオイルシールを設けたミシンが存在する。このミシンは、例えば「送り出し腕型ミシン」として特許文献1に記載されている。
【0004】
特許文献1に記載されたミシンでは、1対の送り台の周囲を取り巻くように四角形板状のオイルシール(特許文献1では「油切り具」)が取り付けられている。このオイルシールはシリンダにねじ固定された支持枠に支持されている。この支持枠も四方が閉鎖された略四角形枠状とされており、送り台に対して周囲を取り巻くように配置されている。
【0005】
特許文献1に記載されたミシンの構造では、支持枠をシリンダ内壁に取り付ける際に、両者間に隙間ができるおそれがあり、この隙間から潤滑油が通り抜けてしまうと、潤滑油が送り台の先端に伝っていく。このためより確実に漏油を防止するため支持枠とシリンダ内壁との間にシール材を施すことになる。このシール剤として例えば、塗布時には液状であって塗布後に固まる材質のものが用いられる。
【0006】
シリンダは上方に開口した開口部を有しており、通常は蓋部で覆われている。各送り台をメンテナンスするには、蓋部を開口部から取り外して、開口部から突出するように1対の送り台を上方に持ち上げる。オイルシール及び支持枠は、1対の送り台の周囲を取り巻くように配置されているため、1対の送り台と共に持ち上げられる。
【0007】
特許文献1に記載された支持枠は送り台の周囲を取り巻くように存在するので、送り台をメンテナンスする際には、支持枠をシリンダに固定していたねじを外し、かつ、支持枠とシリンダ内壁との間に施されていたシール剤を一旦剥がす必要がある。このため、前記メンテナンスの際にオイルシールを交換するか否かにかかわらず、送り台をメンテナンスする度にシール剤を剥がし、メンテナンス終了後には再度シール剤を塗布する必要があった。このように、従来、送り台のメンテナンス作業は煩雑であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第5374069号公報(図5図8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明は前記問題に鑑み、送り台のメンテナンスを簡単に行うことができるミシンを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上方に開口した開口部を有するシリンダと、前記シリンダにおいて縫製がなされる部分に取り付けられた針板と、前記シリンダに内蔵された1対の棒状体であり、各々が側面視で楕円状の軌跡を描くように運動することで、前記針板上の生地を送ることのできる1対の送り台と、ミシン内における前記1対の送り台の基端側に対応した位置に設けられ、前記1対の送り台に対して潤滑油を供給する給油部材と、前記針板と前記給油部材との間の位置で、前記1対の送り台の全周を取り巻いて該1対の送り台の外面に当接するオイルシールと、前記シリンダの内壁に設けられ、前記オイルシールを支持するシール支持部と、を備え、前記1対の送り台は、前記シリンダの前記開口部から上方へ移動できるよう構成され、前記シール支持部は、前記1対の送り台を前記開口部よりも上方に移動させる際、前記シリンダに対して不動のままで、該1対の送り台が上方に移動することを許容する上方開口部を備えるミシンである。
【0011】
この構成によれば、シール支持部がシリンダに対して不動のままで、シール支持部の上方開口部を送り台が通り抜けることで送り台をシリンダから持ち上げることができる。このため、1対の送り台を持ち上げた場合でもシール支持部とシリンダとの間に施されたシール剤を施工し直す必要がない。
【0012】
そして、前記オイルシールに対して着脱可能であり、装着時には前記上方開口部に配置されて前記オイルシールの上部を支持するシール上方支持部を備えることもできる。
【0013】
この構成によれば、シール上方支持部によりオイルシールの上部を支持できるため、オイルシールの上部が撓みにくくなり、オイルシールのシール性を向上できる。
【0014】
そして、前記シール支持部は、前記オイルシールにおける、各送り台の長手方向視で右方の側方部と左方の側方部とを支持する側方支持部を備えることもできる。
【0015】
この構成によれば、側方支持部によりオイルシールが左右側方で支持されることにより、側方のシール性を保ちつつも、シール支持部が1対の送り台を上方に移動させる際の障害とならないようにできる。
【0016】
そして、前記シール支持部は、前記シリンダに対して該シール支持部が不動の状態で前記オイルシールを上下方向に抜き差し可能とするスライド支持部を備えることもできる。
【0017】
この構成によれば、抜き差しだけでオイルシールをシール支持部に対して着脱できる。このため、1対の送り台をメンテナンスする際の手順を簡略化できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、1対の送り台を持ち上げた場合でもシール支持部とシリンダとの間に施されたシール剤を施工し直す必要がない。このため、送り台のメンテナンスを簡単に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態のミシンを示す斜視図である。
図2】本実施形態のミシンのうちシリンダとシリンダ内の機構とを示し、針板、蓋部、シリンダの手前側半分を除去した状態を示す斜視図である。
図3図2に示す状態からオイルシールユニットを分解して示す斜視図である。
図4】本実施形態のミシンのうちオイルシールユニットを示す斜視図である。
図5】本実施形態のミシンのうちシール支持部を示す、下方から見た斜視図である。
図6】本実施形態のミシンのうちシリンダの内壁を示す、要部拡大の縦断面斜視図である。
図7図2に示す状態からシール上方支持部を除去した状態を示す、要部拡大の縦断面斜視図である。
図8図7に示す状態からシール支持部を縦断面表示した、要部拡大の縦断面斜視図である。
図9図2に示す状態からシール上方支持部を取り外して送り台を上昇させた状態を示す斜視図である。
図10図9に示す状態からオイルシールを取り外した状態を示す斜視図である。
図11】(A)(B)とも、オイルシールユニットの他の実施形態を概略的に示す斜視図である。
図12】(A)(B)とも、オイルシールユニットの他の実施形態を概略的に示す斜視図である。
図13】オイルシールユニットの他の実施形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に本発明につき、一実施形態を取り上げて説明を行う。なお、以下における方向の表現は、各構成部品がミシン1に組み込まれた状態での方向を指す。また、「側方」とはシリンダ3の長手方向視における側方である。また、「左右」とは、シリンダ3の長手方向視であってシリンダ3の先端側から基端側を見た場合の左右方向を示す。また、「前後」とは、シリンダ3の先端方向(生地搬送先方向)を後方とし、シリンダ3の基端方向(生地搬送元方向)を前方とした方向を示す。
【0021】
本実施形態のミシン1は送り出し腕型ミシンであり、肌着やTシャツ等の袖閉じ縫い、ブリーフやショーツの股合わせ縫いなどのように、生地を筒形に縫い合わせながらシリンダに沿って平行に送り出す作業などに用いられる。図1に示すように、このミシン1は上方に位置するミシンアーム2と、ミシンアーム2の下方に位置し、ミシンアーム2の長手方向に対して斜めに延びるシリンダ3とを備える。なお、縫製作業者は、ミシンアーム2及びシリンダ3の前方に位置し、ミシン1を抱え込むようにして縫製作業を行う。
【0022】
このミシン1は、ミシンアーム2内に内蔵された針駆動機構により上下方向へ往復運動する、左右方向に並列した複数本の針を備える(図示しない)。そして、縫製しようとする生地を上方から押さえる生地押え21と、針の下方に位置し、シリンダ3の後方上面に固定される針板32を備える。この針板32は、上下方向へ往復運動する針が通過できる孔(針落ち部)を有する。また、針板32における針落ち部の周囲には生地送り機構4が設けられている。この生地送り機構4は、図2に示すように、シリンダ3に内蔵されて左右に並列して配置された1対の送り台41と、各送り台41a,41bの先端に取り付けられる1組の生地送り部42とを備える。各生地送り部42a,42bは、針板32に対して移動する複数個の凹凸からなる送り歯421を有しており、送り歯421が針板32の上面に対して出没することで、生地押え21により上方から押さえられた生地を一方向へ間欠的に送ることができる。
【0023】
図2及び図3に示すように、シリンダ3は上方に開口した開口部31を有する。そして、図1に示すように、シリンダ3の開口部31における後方領域の、縫製がなされる部分(針の下方部分)に前記針板32が取り付けられている。開口部31において針板32の位置する領域よりも前方領域には、開口部32を上方から覆うシリンダ蓋33が取り付けられている。これら針板32とシリンダ蓋33とにより開口部31が塞がれている。
【0024】
図2及び図3に示すように、1対の送り台41は、シリンダ3に長手方向に沿って内蔵された1対の棒状体であり、シリンダ3の後方から前方を長手方向に沿って見た場合で左側に位置する後送り台(「主送り台」とも言う)41aと同右側に位置する前送り台(「差動送り台」とも言う)41bとから構成されている。この1対の送り台41には送り台支持軸43が左右方向に貫通している。送り台支持軸43は1対の送り台41が前後方向及び回動方向に移動することを所定範囲で許容するように支持している。このため、各送り台41a,41bは、側面視で送り台支持軸43により支持されつつ、送り台支持軸43の周囲にて、前後に往復動しつつ回動するように運動する。そして各送り台41a,41bは、1組の生地送り部42が取り付けられる先端(後端)部分で、楕円状の軌跡を描くように運動することで、針板32上の生地を一方向へ送ることができる。なお、各送り台41a,41bを前記楕円状の軌跡を描くように運動させるための構成としては公知の構成を採用できる。また、後送り台41aと前送り台41bとは特に前後方向において異なる軌跡を描くように運動させることもでき、これにより、各生地送り部42a,42bを前後方向で差動(生地の前後方向への送り寸法に差をつけること)させることができる。もちろん、前記差動をさせないこと(生地の前後方向への送り寸法に差をつけないこと)もできる。そして、1対の送り台41は、メンテナンス時等に、図9及び図10に示すようにシリンダ3の開口部31から上方へ移動できるよう構成されている。
【0025】
本実施形態のミシン1は、1対の送り台41に潤滑油を供給するための給油部材5を備える。給油部材5の具体的な構成は図示しないが、ミシン1内(より詳しくはミシンアーム2内)にて、1対の送り台41の基端側に対応した位置に設けられている。この給油部材5は、潤滑油を落下させ、ミシンアーム2及びシリンダ3の内部機構に当てて噴霧状にすることにより、当該内部機構に付着させるよう構成されており、この噴霧状の潤滑油が1対の送り台41の表面にも付着することで潤滑がなされる。
【0026】
1対の送り台41にはオイルシールユニット6が取り付けられる。これにより、針板32と給油部材5との間の位置で、1対の送り台41の全周を取り巻いて該1対の送り台41の外面にオイルシール61,61が当接する。オイルシールユニット6の取り付け位置は、より具体的には、1対の送り台41の円滑な運動のために給油部材5により供給された潤滑油が移動することを阻止しない位置であって、かつ、この供給された潤滑油が針板32(より詳しくは針板32にて送り歯421が出没するよう形成された孔)に至ることを阻止できる位置である。
【0027】
図3及び図4に示すように、このオイルシールユニット6は、2枚のオイルシール61,61、シール支持部62、シール上方支持部63から構成されている。
【0028】
図8に示すように、各オイルシール61は軟質の樹脂からなる平板状体であり、本実施形態では、同一形状であるオイルシール61が厚み方向の2枚重ねで使用される。各オイルシール61は外形が平面視長方形状であり、中央に平面視長方形状の貫通孔611を備える。この貫通孔611を1対の送り台41が貫通している。貫通孔611は、1対の送り台41においてオイルシール61が当接する部分の縦断面視形状よりもやや小さく形成されており、貫通孔611の開口縁と1対の送り台41の外面との間に、潤滑油が通り抜ける隙間が生じないようにされている。ただしこの貫通孔611は、1対の送り台41の前後方向の移動による摺動を許容するように、1対の送り台41を貫通させている。
【0029】
なお前述のように、1対の送り台41は楕円状の軌跡を描くように運動する。この運動のうち上下方向成分について、各オイルシール61は全体で追随する。なお、1対の送り台41が楕円状の軌跡を描くように運動することに伴い、オイルシール61,61における平面方向(かつ上下方向)に対して1対の送り台41は傾斜することになる。この1対の送り台41に対し、2枚重ねのオイルシール61,61同士は前記平面方向にずれることにより、各オイルシール61のシール性を保ちつつ前記傾斜に対応できる。また、前記運動のうち前後方向成分については、シール支持部62に支持された状態の各オイルシール61の貫通孔611にて1対の送り台41が摺動する。この摺動に伴い、1対の送り台41の表面に存在する潤滑油が貫通孔611の内縁により擦り取られることになる。なお、貫通孔611の内縁面611aは、貫通孔611の開口方向に対して傾斜した傾斜面として形成されている(図4参照)。このため、貫通孔611の内縁は前記傾斜面の頂部にて、1対の送り台41の表面に対しほぼ線接触の状態となることから、前記1対の送り台41の傾斜、また、前記1対の送り台41の前後方向の移動に対し、各オイルシール61における貫通孔611の周囲部分の撓み発生を抑制しつつ対応できる。
【0030】
図3及び図4に示すように、オイルシール61において、貫通孔611を挟んで左右側方に位置する側方部612,612及び貫通孔611の直下に位置する下方部613はシール支持部62に、1対の送り台41の運動に伴う上下方向への移動を許容されつつ支持される。また、オイルシール61において、貫通孔611の直上に位置する上方部614はシール支持部62の上方開口部625に位置するため(図7参照)、シール支持部62には支持されず、シール支持部62に取り付けられたシール上方支持部63に、1対の送り台41の運動に伴う上下方向への移動を許容されつつ支持される。
【0031】
図4に示すように、シール支持部62における側方部621,621の内側縁に対して貫通孔611の側縁はわずか内方に位置しているのに対し、シール支持部62における下方部622の上端縁と貫通孔611の下縁との間は上下方向に(前記側縁に比べて相対的に大きく)離れており、同じく、シール上方支持部63におけるシール支持片632の下端縁と貫通孔611の上縁との間も上下方向に離れている。よって、シール支持部62及びシール上方支持部63に係合した状態の各オイルシール61は、シール支持部62及びシール上方支持部63により囲まれた空間に、下方部613の一部と上方部614の一部とが露出している。1対の送り台41の運動に伴うオイルシール61,61の上下方向の移動は、下方部613の一部と上方部614の一部が前記露出した部分の上下寸法の範囲内でなされ、シール支持部62における下方部622の上端縁、及び、シール上方支持部63におけるシール支持片632の下端縁に1対の送り台41が衝突しないように構成されている。
【0032】
シール支持部62は、シリンダ3の内壁に設けられて1対の送り台41が貫通した状態(図7図8参照)のオイルシール61,61を上下方向への移動を許容しつつ支持する。このシール支持部62は、図5に示すように、オイルシール61,61の側方部612,612を側方から支持する側方支持部としての側方部621,621、二つの側方部621,621の下端を連結する下方部622を備え、シリンダ3の長手方向視で略コ字状に形成されている。側方部621,621の内面の間隔は1対の送り台41の幅寸法よりも大きく形成されている。側方部621,621によりオイルシール61,61が左右側方で支持されることにより、オイルシール61,61の側方におけるシール性を保ちつつも、シール支持部62が1組の送り台41を上方に移動させる際の障害とならないようにできる。
【0033】
そして、側方部621,621及び下方部622の内周部には、オイルシール61,61をシール支持部62に係合させるためのオイルシール取付溝623が形成されている。図5に示すように(オイルシール取付溝623の左側部分のみ、破線で側方部621内の位置を表示)、側方部621,621におけるオイルシール取付溝623は、幅寸法(前後寸法)につき2枚重ね状態のオイルシール61,61の厚み寸法よりも大きく、かつ上下方向に均一の深さで形成されており、ここにオイルシール61の側方部612,612が位置する。よって、側方部621,621はスライド支持部として、シール支持部62がシリンダ3に対して不動のままでオイルシール61,61が上下方向に抜き差し可能に支持される。この構成により、1対の送り台41の運動に伴うオイルシール61,61の上下動(スライド移動)が許容される。そして、抜き差しだけでオイルシール61,61をシール支持部62に対して着脱でき、図9に示す状態とできる。このため、1対の送り台41をメンテナンスする際の手順を簡略化できる。
【0034】
また、下方部622におけるオイルシール取付溝623は左右方向に形成されており、オイルシール61の下方部613が位置する。この下方部622におけるオイルシール取付溝623は、下方部622の下端において油抜き孔623aとして開口しており、オイルシール取付溝623に入った潤滑油は油抜き孔623aから下方に排出される。なお、図6に示すように、シリンダ3のシール支持部取付溝34には切欠部341が形成されているので、油抜き孔623aの下方は空間になっている。このため、前記排出された潤滑油はシリンダ3の底部まで落下する。
【0035】
また、シール支持部62の側方部621,621の上端から前方にシリンダ固定部624,624が形成されている。各シリンダ固定部624はシール支持部62をシリンダ3に取り付けるためのねじが通る貫通孔624aと、シール上方支持部63をシリンダ3に取り付けるためのねじが通る貫通孔624bとを備える。
【0036】
また、シール支持部62は、1対の送り台41をシリンダ3の開口部31よりも上方に移動させる際、シリンダ3に対して不動のままで、1対の送り台41が上方に移動することを許容する空間を有する上方開口部625を備える。本実施形態の上方開口部625は、側方部621,621の上端部に挟まれた部分である。
【0037】
ここで、シール支持部62を取り付けるため、図6に示すように、シリンダ3の内壁にはシール支持部取付溝34が形成され、シリンダ3の上端面には凹部であるシール支持部固定部35が形成されている。本実施形態では、シール支持部固定部35はシール支持部取付溝34の上端より前方に形成されている。シール支持部62は、上方からシール支持部取付溝34に嵌め込まれ(図7図8参照)、嵌め込み後にシール支持部固定部35にシリンダ固定部624がねじ(図示しない)で固定される。このため、シール支持部固定部35にはねじ孔351,352が開口している。このねじ孔として、シール支持部62の固定用のねじ孔351が前方に形成され、シール上方支持部63の固定用のねじ孔352が後方に形成されている。シール支持部62とシール支持部取付溝34との間には、前記嵌め込み及びねじ固定後にシール材が施されることで、潤滑油がシール支持部62よりも後方(生地送り機構4の側)に漏れないようにされる。なお、前記嵌め込み及びねじ固定前にあらかじめシール材を施しておくこともできる。
【0038】
図4に示すように、シール上方支持部63は、シール支持部62への装着時には上方開口部625に配置されてオイルシール61,61の上部を支持する。このシール上方支持部63は、シール支持部62の側方部621,621及び上方開口部625を上方から覆う蓋部631と、蓋部631の下方に突出し、各オイルシール61の上方部614に対して着脱可能であり、装着時にはオイルシール61,61を前後から挟むように配置されるシール支持片632と、シリンダ3への取り付けのためのシリンダ固定部633,633を備える。各シリンダ固定部633はシール上方支持部63をシリンダ3に取り付けるためのねじが通る貫通孔633aを備える。
【0039】
シール支持部62への装着時に、シール支持部62の下方部622とシール上方支持部63におけるシール支持片632との間隔は、1対の送り台41の上下動範囲よりも大きく形成されている。また、各シリンダ固定部633は、シリンダ3への取り付け時にシール支持部62の各シリンダ固定部624の上方に、貫通孔633aが各シリンダ固定部624の貫通孔624bと一致するように重ねられる。
【0040】
このシール上方支持部63によりオイルシール61,61の上部(上方部614)を支持できるため、各オイルシール61の上部が撓みにくくなり、各オイルシール61のシール性を向上できる。
【0041】
次に、前述のように構成されたオイルシールユニット6がシリンダ3の内部に形成された本実施形態のミシン1において、1対の送り台41をメンテナンスする要領について説明する。
【0042】
メンテナンスに当たり、針及び生地押え21をミシンアーム2から取り外し、針板32、シリンダ蓋33をシリンダ3から取り外しておく。次に、図7に示すように、シール上方支持部63をシリンダ3及びシール支持部62から取り外し、1対の送り台41から送り台支持軸43を取り外す。そして、図9に示すように、1対の送り台41が持ち上げられて開口部31から脱出する。この持ち上げの際、1対の送り台41はシール支持部62の上方開口部625が有する空間を通り抜けて上方に移動する。この際、オイルシール61,61はシール支持部62の側方部621,621におけるオイルシール取付溝623に沿って上方に抜けるように移動する。このようにして持ち上げられた1対の送り台41は、図示のように、先端側が高く、基端側が低くなる。なお、図9では、1対の送り台41に1組の生地送り部42が取り付けられた状態を示しているが、持ち上げ前に1組の生地送り部42を1対の送り台41から取り外しておいてもよい。このようにして、1対の送り台41のうちオイルシール61,61をシリンダ3の開口部31上に位置させることができる。
【0043】
そして図9に示した状態では、1対の送り台41の先端部がシリンダ3の開口部31上に位置している。このため、オイルシール61,61を交換するには、1対の送り台41から1組の生地送り部42を取り外し、図10に示すように、オイルシール61,61を先端側に移動(スライド移動)させることで1対の送り台41から外すことができる。
【0044】
オイルシール61,61を交換して所定位置にセットした後、または、目視点検等でオイルシール61,61を1対の送り台41に対して移動させなかった場合にはそのままの状態で、前述の持ち上げと逆の手順で1対の送り台41を下ろしてシリンダ3内に収納する。
【0045】
ここで従来、例えば特許文献1に記載されたオイルシール(油切り具)の支持枠は、シリンダの長手方向視で略ロ字状に形成されていた。このため、1対の送り台をシリンダの開口部よりも上方に移動させる際、支持枠は1対の送り台と共に移動し、支持枠がシリンダに対して不動のままで、1対の送り台を上方に移動させることは不可能であった。これに対し、本実施形態のシール支持部62はシリンダ3の長手方向視で略コ字状に形成され上方開口部625を備えるため、シール支持部62がシリンダ3に対して不動のままで、1対の送り台41が上方に移動することを許容する。このため、送り台41を持ち上げた場合でも、シール支持部62をシリンダ3に残存させられるため、シール支持部62とシリンダ3との間に施されたシール剤を施工し直す必要がない。また、基本的にはシリンダ3からシール支持部62が取り外されることがないため、工場出荷時の状態を維持できる。このため、ユーザー側におけるメンテナンス時の組み付けミス等の発生を抑制できる。このように、本実施形態のシール支持部62を備えたミシン1の構成は、従来に比べメリットが大きいものである。
【0046】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えることができる。
【0047】
例えば、本発明の適用対象であるミシンの形式は送り出し腕型ミシンに限定されず、送り込み腕型ミシン等、種々の形式のミシンとできる。
【0048】
また、オイルシールユニット6の構成についても、前記実施形態に限定されず、種々に変更できる。例えば、シール上方支持部63を省略し、上方開口部625が露出した状態でシール支持部62のみがオイルシール61,61を支持することもできる。この場合、例えば、図11(A)に示すように、各オイルシール61の側方部612,612の幅寸法を前記実施形態よりも拡大し、シール支持部62の側方部621,621の幅寸法も同じく拡大することができる。このように構成することで、オイルシール61及びシール支持部62の幅寸法に対し、上方開口部625の幅寸法が相対的に小さくなるため、1対の送り台41の運動に伴う、オイルシール61の上方部614の撓みを生じにくくできるので、シール上方支持部63を省略してもシール性の低下を抑制できる。
【0049】
また、同じくシール上方支持部63を省略する場合、図11(B)に示すように、オイルシール61の上方部614の上下寸法を前記実施形態よりも拡大し、シール支持部62の側方部621,621の上下寸法も同じく拡大することができる。このように構成することで、シール支持部62の側方部621,621が拡大された分、オイルシール61の側方支持を強化できるため、1対の送り台41の運動に伴う、オイルシール61の上方部614の撓みを生じにくくできるので、シール上方支持部63を省略してもシール性の低下を抑制できる。
【0050】
また、図12(A)に示すように、シール支持部62において下方部622を省略し、左右の2部材から構成することもできる。また、図12(B)に示すように、オイルシール取付溝623をシリンダ3の内壁に直接形成することで、シール支持部62を省略することもできる。この構成は、例えばシリンダ3をオイルシールユニット6の取り付け位置の前後で分割することにより実現できる。また、図示はしないが、シール支持部62がシリンダ3とは別体であるものの、着脱不能にシリンダ3に取り付けられることもできる。
【0051】
また、シール支持部62の上方開口部625は、前記実施形態では側方部621,621の上端部に挟まれた部分とされていたが、これに限定されない。例えば、図13に示すように(なお、図13ではシリンダ固定部624を省略して示している)、側方部621,621の上端部から内方に突出した突出部材626,626を形成し、この突出部材626,626の内面間を上方開口部625とすることもできる。オイルシール取付溝623は各突出部材626にも形成される。この構成では、突出部材626,626の寸法設定により各オイルシール61の上方部614を支持することが可能であるから、場合によってシール上方支持部63を省略してもよい。
【0052】
また、前記実施形態ではシール支持部62に形成されたオイルシール取付溝623に平板状のオイルシール61,61が係合する、つまり、オイルシール取付溝623が凹形状でオイルシール61,61が凸形状の関係にあったがこれに限られない。例えば、前記実施形態とは逆に、例えば、シール支持部62に形成された凸条と、オイルシール61の端縁に形成された溝とが係合するよう構成することもできる。
【0053】
また、前記実施形態では同一形状である2枚のオイルシール61,61を重ね合わせていたが、オイルシール61は1枚であっても、3枚以上であってもよい。また、複数のオイルシール61を用いる場合、全てが同一形状ではなく、異なる形状のものや異なる板厚のものが組み合わされてもよい。また、オイルシール61は平板状体に限定されず、例えば蛇腹状とすることもできる。
【0054】
また、シール上方支持部63のシール支持片632と同一形状のものをシリンダ蓋33の下面に形成することで、シリンダ蓋33がシール上方支持部63を兼ねるように構成することもできる。
【符号の説明】
【0055】
1 ミシン
3 シリンダ
31 開口部
32 針板
4 生地送り機構
41 1対の送り台
5 給油部材
6 オイルシールユニット
61 オイルシール
614 オイルシールの上部、上方部
612 側方支持部、スライド支持部、側方部
62 シール支持部
625 上方開口部
63 シール上方支持部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13