(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
〔実施例1〕
まず、構成を説明する。
図1は実施例1のブレーキ液圧制御装置の部分断面図、
図2は
図1のS2-S2断面図である。
実施例1のブレーキ液圧制御装置は、通常制動時には、ブレーキペダルの踏圧に応じてマスターボディからのブレーキ液圧を各車輪のブレーキのホイールボディに作用させ、アンチロック制御時や車両挙動安定化制御時には、電子コントロールユニットからの出力信号に応じて増、減圧弁およびプランジャポンプなどを制御することによってブレーキ液圧を減圧、保持もしくは再増圧制御する機能を有するものである。
プランジャポンプは、ポンプ要素1とポンプ要素1を駆動させる電動モータ(モータ)2とから構成されている。
【0009】
[ポンプ要素]
まず、
図1と
図2に基づいてポンプ要素1の構成を説明する。
ポンプ要素1は、アルミニウム合金製のポンプハウジング(ハウジング)3と、ポンプハウジング3の内部に形成されたカム収容室4と、電動モータ2の出力軸2aの先端側に取り付けられて、カム収容室4内に出力軸2aと共に収容された偏心カム5と、を備えている。さらに、ポンプ要素1は、カム収容室4に対して軸直角方向から対向して配置され、カム収容室4に連通するプランジャ収容室6,6と、各プランジャ収容室6,6内に設けられて、ポンプ作用を行う一対のボディ7,7およびボディ7,7内に摺動自在に収容されたプランジャ8,8と、各ボディ7,7をプランジャ収容室6,6内にそれぞれ保持するためのホルダ9,9と、を備えている。偏心カム5は、出力軸2aの軸心C1に対してαだけ偏心し、カム収容室4内に各プランジャ8,8の軸心C2と直交するように収容配置されている。
【0010】
ボディ7は、ほぼ有底円筒状に形成され、ボディ7およびホルダ9を順にポンプハウジング3の外側面側からプランジャ収容室6内に挿入して、プランジャ収容室6の開口端部外面側に加締め加工を施すことによって、ホルダ9を介してプランジャ収容室6内に保持固定されている。また、ボディ7は、ボディ7内にプランジャ8によって閉塞されるリザーバ室10が形成されていて、リザーバ室10には後述するプランジャ8の通路8aからリザーバ室10側へのみブレーキ液の流入を受容するチェック弁11が設けられていると共に、ボディ7の底部には通路孔7aが形成されている。さらに、ボディ7は、ボディ7とホルダ9との間に圧力室12が形成されていて、圧力室12にも通路孔7aを介してリザーバ室10から圧力室12側へのみブレーキ液の流入を受容するチェック弁13が設けられている。
プランジャ8は、プランジャ収容室6内に収容されたコイルスプリング14によってリテーナを介してボディ7から突出する方向に付勢されていると共に、先端が偏心カム5の外輪外周面5aに圧接し、前記偏心カム5の回転に追従して、軸方向に摺動する。また、プランジャ8は、内部にチェック弁11によって開閉される通路8aが形成され、プランジャ8の外周面には、通路8aと連通する貫通孔8bが形成されている。そして、ポンプハウジング3の内部には、貫通孔8bと連通する吸入ポート14aと、圧力室12と連通する吐出ポート14bが設けられている。したがって、吸入ポート14aから貫通孔8bおよび通路8aを通じてチェック弁11を押し開くことによってリザーバ室10内に送られたブレーキ液は、電動モータ2の駆動力による偏心カム5の回転に伴って各プランジャ8,8が往復運動することによって、チェック弁13を押し開いて圧力室12へと流入して、吐出ポート14bから吐出される。
なお、プランジャ8は、プランジャ収容室6内の開口先端部6aに摺動自在に保持されていることから、開口先端部6aの内周とプランジャ8の外周との間には僅かな隙間Cを有しているため、外周側にOリング15を設けることによって、この隙間Cからのブレーキ液のカム収容室4内への漏出を防止する。
【0011】
ポンプハウジング3のモータ側外側面(一側面)3aには、液溜め室16が形成されている。液溜め16は、ポンプハウジング3の厚み方向に沿ってほぼ水平に設けられて、カム収容室4よりも若干小さな直径に形成されている。また、ポンプハウジング3の底部には、シャフト圧入孔17が設けられている。シャフト圧入孔17は、液溜め室16を貫通し、カム収容室4まで連通している。シャフト圧入孔17には、ポンプハウジング3を車体側のブラケットに固定するためのインシュレータシャフト18が圧入固定されている。インシュレータシャフト18の上端は、液溜め室16の下端縁よりも僅かに低い位置まで圧入されている。
これにより、カム収容室4内にリークしたブレーキ液を、カム収容室4内に受容するだけではなく、液溜め室16および液溜め室16よりも上方のシャフト圧入孔17に受容可能となる。すなわち、シャフト圧入孔17を、インシュレータシャフト18によって下端部を閉塞して有底状の空間とし、ポンプハウジング3にシャフト圧入孔17と連通する液溜め室16を形成したことによって、カム収容室4内にリークしたブレーキ液をシャフト圧入孔17から液溜め室16へ排出できる。
【0012】
[電動モータ]
次に、
図3と
図4を加えて電動モータ2の構成を説明する。
図3は電動モータ2の正面図、
図4は
図3のS4-S4断面図である。
電動モータ2は、鉄製のモータケーシング19を介してポンプハウジング3に取り付けられている。モータケーシング19は、一方に底部19a、他方に開口部19bを備えた有底部材であって、内部に出力軸2aや図外のマグネット、アーマチュアなどを備え、電子コントロールユニットからの出力信号に応じてポンプ要素1を駆動させる。
モータケーシング19は、フロントプレート(蓋部材)20と、フランジ部(鍔部)21と、環状凹部22とを備える。
フロントプレート20は、略ドーナツ状に形成され、モータケーシング19の開口部19bを閉塞する。フロントプレート20は、筒状部20aと平坦部20bと固定部20cとを有する。筒状部20aは、フロントプレート20の内周に形成され、軸方向に延在している。筒状部20aは、ポンプハウジング3のカム収容室4の開口縁4aに嵌挿されている。筒状部20aの内周には、出力軸2aを回転可能に支持するボールベアリング2bの外環が圧入固定されている。平坦部20bは、筒状部20aの外周側に位置し、ポンプハウジング3のモータ側外側面3aと平行に設けられている。固定部20cは、平坦部20bの外周縁に設けられ、モータケーシング19の底部19a側に凹んだ環状に形成されている。フロントプレート20の平坦部20bおよび固定部20cは、ポンプハウジング3のモータ側外側面3aと離間して配置されている。このため、ポンプハウジング3とフロントプレート20との間には、環状の空間Aが形成されている。空間Aは、液溜め室16と連通している。
【0013】
フランジ部21は、環状に形成され、開口部19bの外周縁に設けられている。フランジ部21は、環状に形成され、
図3に示すように、周方向等間隔に3箇所のボルト挿通孔21aが設けられている。モータケーシング19は、ボルト挿通孔21aを介して図外のボルトによってポンプハウジング3に固定される。
環状凹部22は、フランジ部21の内周側であって、開口部19bの開口縁に沿って形成されている。環状凹部22には、フロントプレート20の固定部20cが載置されている。
図4に示すように、フロントプレート20の固定部20cは、環状凹部22の底面22aに当接し、開口部19bの開口縁に形成された加締め固定部23によって加締め固定部23と環状凹部22との間に挟持されている。加締め固定部23は、
図3に示すように、周方向に等間隔で8箇所設けられている。加締め固定部23の個数は適宜設定することができる。
【0014】
[液体ガスケット]
図1に戻り、ポンプハウジング3のモータ側外側面3aとフランジ部21のポンプハウジング側面21bとの間には、ガスケットとして、液体ガスケット24が設けられている。液体ガスケット24は、常温で流動性のある物質で、接合部分に塗布すると、一定時間の後に乾燥または均一化し、弾性皮膜あるいは粘着性の薄層を形成するものであって、例えば、FIPG(Formed In Place Gasket)とする。液体ガスケット24により、ポンプハウジング3とフロントプレート20との間に形成された空間Aは、モータケーシング19の内外(内部および外部)と液密・気密に区画されている。
液体ガスケット24は、モータケーシング19をポンプハウジング3にボルト締結する前にモータ側外側面3aとポンプハウジング側面21bとの接合部分に塗布され、ボルト締結時にその一部がフランジ部21の径方向内側および径方向外側に押し出されることで、内側食み出し部24aと外側食み出し部24bとが形成されている。内側食み出し部24aは、径方向内側およびモータケーシング19の底部19a側に膨出し、フロントプレート20の固定部20cに充填されている。外側食み出し部24bは、径方向外側およびモータケーシング19の底部19a側に膨出し、フランジ部21の先端を覆っている。
【0015】
次に、作用を説明する。
[ブレーキ液貯留容積拡大]
近年、車間距離制御などの自動ブレーキを搭載した車両においては、ポンプを備えたブレーキ液圧制御装置によりブレーキ液圧制御を行っており、ブレーキ液圧制御装置の作動頻度が増加する傾向にある。ブレーキ液圧制御装置は、プランジャ収容室6の開口先端部6aとプランジャ8との隙間CがOリング15によってシールされているものの、このOリング15が繰り返しの摺動による経時的な摩耗劣化や熱による変形をしてしまった場合には、ブレーキ液が隙間Cを介してカム収容室4内へとリークしてしまう。リークしたブレーキ液は、シャフト圧入孔17から液溜め室16へと流入し、液溜め室16内およびポンプハウジング3とフロントプレート20との間の空間A内に貯留されて、カム収容室4内におけるオーバーフローが防止される。
さらに実施例1では、ポンプハウジング3とフロントプレート20との間の空間Aをモータケーシング19内外と液密に区画する液体ガスケット24を設け、空間Aにカム収容室4からモータケーシング19内に流入しようとするブレーキ液を貯留する。すなわち、従来はデッドスペースであったポンプハウジング3とフロントプレート20との間の空間Aをブレーキ液貯留容積として活用できるため、ブレーキ液の十分な貯留量を確保することができる。ブレーキ液のリークはプランジャ8の摺動距離に比例し、摺動距離は使用頻度に比例するため、空間Aを活用したブレーキ液貯留容積の拡大は、ブレーキ液圧制御装置の寿命延長の観点から顕著な効果を奏する。
【0016】
[シール性向上]
液体ガスケット24の内側食み出し部24aは、フロントプレート20の固定部20cに充填されている。つまり、固定部20cと環状凹部22との間の隙間はポンプハウジング3側から液体ガスケット24によってシールされている。これにより、空間Aおよび液溜め室16とモータケーシング19の内部とを確実に隔離することができる。よって、空間Aに貯留されたブレーキ液が固定部20cと環状凹部22との間の隙間からモータケーシング19の内部に流入するのを抑制できる。
[変形抑制]
ポンプハウジング3はアルミニウム合金製であり、モータケーシング19は鉄製である。アルミニウムは鉄よりも線膨張係数が大きいため、熱膨張率の違いにより接合部分であるフランジ部21に生じる応力によってフランジ部21にせん断変位が発生するおそれがある。これに対し、実施例1では、フランジ部21とポンプハウジング3との間に液体ガスケット24を介装しているため、液体ガスケット24が弾性変形することでポンプハウジング3とモータケーシング19との変形量の差を吸収できる。これにより、フランジ部21に発生するせん断変位を抑制することができる。
[電食抑制]
上述したように、ポンプハウジング3とモータケーシング19とは異種金属であるため、両者を直接接合した場合、接合部分に異種金属接触腐食(電食)が生じやすく、特にアルミニウム合金製であるポンプハウジング3の腐食が促進されてしまう。実施例1では、フランジ部21とポンプハウジング3との間に液体ガスケット24を介装すると共に、フランジ部21の先端を液体ガスケット24の外側食み出し部24bで覆ったため、ポンプハウジング3とモータケーシング19との沿面距離を十分に確保でき、アルミニウムと鉄との電位差に起因した電食の発生を抑制することができる。
【0017】
次に、効果を説明する。
実施例1にあっては、以下に列挙する効果を奏する。
(1) ポンプハウジング3の一側面(モータ側外側面3a)にモータケーシング19を介して取り付けられた電動モータ2と、ポンプハウジング3の内部に形成されたカム収容室4と、電動モータ2の出力軸2aに取り付けられ、カム収容室4に収容配置された偏心カム5と、カム収容室4に対して軸直角方向から対向して配置され、カム収容室4に連通したプランジャ収容室6と、プランジャ収容室6に収容され、偏心カム5の回転駆動により往復運動してポンプ作用を行うプランジャ8と、を有するブレーキ液圧制御装置であって、ポンプハウジング3とフロントプレート20との間に空間Aを形成し、空間Aをモータケーシング19内外と液密に区画するガスケット24を設け、液密に区画された空間Aにカム収容室4から電動モータ2内(モータケーシング19内)に流入しようとするブレーキ液を貯留する。
よって、従来はデッドスペースであった空間Aをブレーキ液貯留容積として活用できるため、ブレーキ液の十分な貯留量を確保することができる。
(2) ガスケット24は液体ガスケットであって、ポンプハウジング3はアルミニウム合金製であり、モータケーシング19は鉄製である。
よって、ポンプハウジング3とモータケーシング19との変形量の差(応力)を液体ガスケット24の弾性変形によって吸収でき、フランジ部21に発生するせん断変位を抑制することができる。
また、液体ガスケット24によってポンプハウジング3とモータケーシング19との沿面距離を十分に確保でき、アルミニウムと鉄との電位差に起因した電食の発生を抑制することができる。
(3) モータケーシング19は開口部19bを備えた有底部材であって、開口部19bを閉塞するフロントプレート20と、開口部19bの外周縁に設けられモータケーシング19をポンプハウジング3に固定するための環状のフランジ部21と、フランジ部21の内周側であって、開口部19bの開口縁に沿って形成され、フロントプレート20が載置される環状凹部22と、を備え、フロントプレート20の外周縁は環状凹部22の底面22aに当接し、モータケーシング19の底部側に凹んだ環状の固定部20cを有し、フロントプレート20は開口縁に形成した加締め固定部23によって環状凹部22との間に挟持され、液体ガスケット24は固定部20cに充填されている。
よって、液体ガスケット24により空間Aとモータケーシング19の内部とを確実に隔離することができ、空間Aに貯留されたブレーキ液が固定部20cと環状凹部22との間の隙間からモータケーシング19の内部に流入するのを抑制できる。
【0018】
〔他の実施例〕
以上、本発明を実施するための形態を実施例に基づいて説明したが、本発明の具体的な構成は実施例に示した構成に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明に含まれる。
例えば、ポンプハウジング3とフロントプレート20との間の空間Aは、カム収容室4から電動モータ2内に流入しようとするブレーキ液が貯留される構成であれば、必ずしも液溜め室16と連通していなくてもよい。
また、液溜め室16の形状は任意である。