(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記有機酸がギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、シュウ酸、グリコール酸、安息香酸、サリチル酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、無水酢酸およびアクリル酸から選ばれるうちの1種または2種以上を有する、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のコーティング膜形成用塗料。
前記有機酸がギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、シュウ酸、グリコール酸、安息香酸、サリチル酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、無水酢酸およびアクリル酸から選ばれるうちの1種または2種以上を有する請求項6から請求項8のいずれか1項に記載のコーティング膜の形成方法。
【背景技術】
【0002】
高い絶縁耐力と、高い熱伝導率を有する材料は、パワーデバイス用の絶縁放熱体、高輝度LEDランプの回路基板や反射板のような装置に使用される。これらは、電気回路などの絶縁とあわせて、半導体の過熱を抑えるために必要な部材となる。
【0003】
高い絶縁耐力と高い熱伝導率を併せ持つ材料としては、一般にAlN(窒化アルミニウム)セラミックスが利用されている。AlNは絶縁耐力が十分であり、非常に高い熱伝導率を有する。
【0004】
ところが、AlNは非常に高価である。また、一般的なセラミックスの製造法により製造されるために、形状が限られたり、例えば数10μm〜0.2mm程度と薄く形成するのが困難であったりする。形状については、装置内の部材に表面に構成する場合があるために、セラミックス焼結体では形状的な対応に限界がある。
【0005】
そのために、AlNと比較して十分安価であり、形状が制限されず、ある程度の放熱性を持つ材料として、樹脂に高熱伝導率フィラーを分散した放熱シートやシリコーングリスなどが用いられている。これらの熱伝導率はおよそ1〜7(W/m・K)程度である。
【0006】
これらとあわせて、高熱伝導フィラーを分散したオルガノシラノールオリゴマー(オルガノアルコキシシランを加水分解して得られるオルガノシラノール分子同士を部分的に脱水重合させ、有限の分子量を有する高分子体としたもの。オルガノポリシロキサンの前駆体であり、完全に重合させることでオルガノポリシロキサンとなる。)を主成分とするコーティング膜形成用塗料も用いられている。
【0007】
特許文献1には、一般式R
1mSi(OR
2)
4−mで示されるオルガノアルコキシシランを加水分解し、更に縮合させ、質量平均分子量を例えば800〜4,000としたオルガノシラノールオリゴマーを含有する組成物が提案されている。この組成物にて、保護皮膜形成用組成物を提供することができる。特に、高硬度、高光沢で厚膜を形成させてもクラックが入りにくく、耐沸水性に優れた保護皮膜形成用組成物を提供することができるとの記載がある。
【0008】
しかしながら、上記特許文献1における保護皮膜は、絶縁性はあるものの、熱伝導率が十分ではない。
【0009】
特許文献2にはLEDなどの発熱部と、金属製のヒートシンクを結合した放熱ユニットが示されている。結合にはAl、Mg、Si、Ti、Zr、Beなどの金属アルコキシドが加水分解および脱水重合されて形成される無機材質に、高熱伝導フィラーとして無機物粒子であるAlN、c−BN、h−BN、Al
2O
3、MgO、ダイヤモンドおよびグラファイトが分散した構成を有する中間体が示されている。
【0010】
この文献に中間体として示されているコーティング膜により、ある程度の熱伝導率を有するコーティング膜形成用塗料を得ることができる。
【0011】
しかしながら、用途によってはこのコーティング膜形成用塗料を脱水重合後に得られるコーティング膜でも熱伝導率が十分でないことがある。これは、前述の無機物粒子(AlN、c−BN、h−BN、Al
2O
3、MgO,ダイヤモンドおよびグラファイト)は熱伝導率が十分であるが、その充填量に実質的な限界があるためである。また、絶縁耐力に関する記述はない。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のコーティング膜は、オルガノポリシロキサン相とMg(OH)
2相とからなり、オルガノポリシロキサン相とMg(OH)
2相がその界面において「Si−O−Mg結合」にて化学結合したコーティング膜である。高熱伝導フィラーは引用文献2と同様にAlN、c−BN、h−BN、Al
2O
3、MgOやダイヤモンド等を用いることができる。また、この製法によって製造されたコーティング膜形成用塗料を用いてコーティング膜を得ることができる。
【0020】
本発明のコーティング膜形成用塗料を用いたコーティング膜の模式図を
図1に示す。また、高熱伝導フィラーをコーティング膜形成用塗料中に添加した場合に得られるコーティング膜の模式図を
図2に示す。
【0021】
図1に示すように、本発明のコーティング膜は、母相としてオルガノポリシロキサン相と、Mg(OH)
2相とが混合した、混合相組織を有している。コーティング膜母相は、従来技術では単一相であった。
【0022】
オルガノポリシロキサン相の熱伝導率は0.15〜0.3(W/m・K)程度と低い。一方Mg(OH)
2相は約8(W/m・K)と十分に高い。このオルガノポリシロキサン相とMg(OH)
2相の混合相とすることにより熱伝導率を上げることができるが、さらにオルガノポリシロキサン相とMg(OH)
2相の界面において化学結合を形成させ、絶縁耐力を高く保ったまま混合相を形成することを可能とした。なおこの化学結合は、オルガノポリシロキサンの前駆体であるオルガノシラノールオリゴマー中の「−OH基」と、Mg(OH)
2の「−OH基」とを脱水重合反応させることにより形成可能な「Si−O−Mg結合」である。以後、明細書中において、「化学結合(または「化学的に結合」)」とはオルガノシラノールオリゴマー中の「−OH基」と、Mg(OH)
2の「−OH基」とを脱水重合反応させることにより形成される「Si−O−Mg結合」を示す。
【0023】
さらに
図2に示すように、この母相部分に加えて、高熱伝導フィラーを有すことで、高い絶縁耐力に加えてさらに高い熱伝導率を有することができ、従来技術と比較して、同等の熱伝導率と、従来技術を上回る絶縁耐力を確保することができた。
【0024】
従来技術では高熱伝導フィラー成分の量はコーティング膜の74体積%以上に高めることは難しく、これを超えると、コーティング膜が脆くなり、絶縁耐力が大きく低下する。そのために、良好な高熱伝導コーティング膜を形成することが難しい。一方、高い絶縁耐力の得られない従来のコーティング膜では、十分な耐電圧を得るために必要な厚さが厚くなってしまう(耐電圧とは、絶縁破壊することなくその部材にかけられる最大の電圧を指す。絶縁耐力と厚みの積が耐電圧に相当するので、必要な耐電圧値を得る場合、絶縁耐力が高いほど厚みを薄くできる)。コーティング膜が厚くなると、熱抵抗が上がるために、コーティング膜の熱伝導率を高くしても、放熱性はさほど高くできないという問題が生じる。
【0025】
そのために、コーティング膜の熱伝導率を更に上げることと、コーティング膜の厚さを厚くしないこととの両立は、従来技術のような高熱伝導フィラーの種類や量の変更によっては困難である。
【0026】
そこで、本発明では、高熱伝導フィラーとは別にMg(OH)
2を用い、高熱伝導フィラー部分以外の絶縁耐力を高く保ったまま、熱伝導率を向上することにより、コーティング膜を薄く形成させ、相対的に放熱性を向上する。
【0027】
以下に本発明を実施する方法を述べる。
【0028】
本発明のコーティング膜は、オルガノポリシロキサン相とMg(OH)
2相との混合相を有し、オルガノポリシロキサン相とMg(OH)
2相がその界面において化学的に結合していることを特徴とする。化学的な結合は、オルガノポリシロキサン相とMg(OH)
2相の界面の一部のみに有していてもよいが、界面の全面に有していることがより望ましい。オルガノポリシロキサン相の熱伝導率は0.15〜0.3(W/m・K)程度であり、Mg(OH)
2相は約8(W/m・K)であるため、これらの混合相とすることにより、コーティング相の熱伝導率を上げることができる。さらにオルガノポリシロキサン相とMg(OH)
2相とがその界面において化学的に結合することにより、混合による絶縁耐力の低下を抑えることができる。また、
【0029】
また本発明のコーティング膜では、Mg(OH)
2相の分散している個別の平均径を80nm〜50μmの範囲内とすることがより望ましい。個別の平均径が80nm未満になると化学的に結合している界面におけるフォノン散乱による熱伝導率の低下が大きくなってしまう。また個別の平均径が50μmを超えると、熱的な特性自体に問題はないものの、コーティング膜の表面粗さが悪くなり、回路基板形成や絶縁放熱モジュールの形成において製造精度の悪化などを生じてしまい、工業利用上望ましくない。
【0030】
また本発明のフィラー分散コーティング膜は、前記コーティング膜中に熱伝導率が20(W/m・K)以上の絶縁性の粒子を高熱伝導フィラーとして分散させた構成を有する。その物性を有する絶縁性の粒子の例としてはAlN、c−BN、h−BN、Al
2O
3、MgO、ダイヤモンド等が挙げられる。このような絶縁性の粒子を高熱伝導フィラーとしてコーティング膜中に分散させることで、フィラー分散コーティング膜の熱伝導率と絶縁耐力の設計の幅を広げることを可能とする。
【0031】
また本発明のコーティング膜形成用塗料は、オルガノシラノールオリゴマー、Mg(OH)
2粒子、有機溶剤、有機酸が混合したスラリーからなり、このコーティング膜形成用塗料を塗布対象物に塗布し、220〜350℃にて熱処理することで、前記コーティング膜を形成することができる。
【0032】
また本発明のコーティング膜形成用塗料は、前記Mg(OH)
2の質量を100質量部とした際に、前記オルガノシラノールオリゴマーの質量は30〜1000質量部である。オルガノシラノールオリゴマーの質量が、Mg(OH)
2の質量を100質量部に対して50質量部未満になるとコーティング膜が脆くなり、また、1000質量部より多くなるとMg(OH)
2相の熱伝導率向上効果がほとんど得られない。そのために、オルガノシラノールオリゴマーの質量は、Mg(OH)
2の質量を100質量部に対して30〜1000質量部とする必要がある。
【0033】
また本発明のフィラー分散コーティング膜形成用塗料は、以上に述べたコーティング膜中に熱伝導率が20(W/m・K)以上である高熱伝導フィラーを分散した組織を有する。この高熱伝導フィラーの材質は特に限定するものではないが、熱伝導率が20(W/m・K)のものから選べばよい。一例としてAlN、c−BN(立方晶窒化硼素)、h−BN(六方晶窒化硼素)、Al
2O
3、MgO、ダイヤモンドが挙げられる。高熱伝導フィラーから少なくとも1種または2種以上の粒子から選択できる。このフィラー分散コーティング膜形成用塗料を塗布対象物に塗布し、220〜350℃にて熱処理することで、請求項3に記載のフィラー分散コーティング膜を得ることができる。
【0034】
以下に本発明のコーティング膜の製造方法を述べる。
【0035】
Mg(OH)
2の粉末100質量部に対し、有機溶剤120質量部以上、有機酸5質量部以上を秤量し、混合して第1混合体を得る。そしてさらに第1混合体にオルガノシラノールオリゴマー30〜1000質量部を混合して第2混合体を得る。有機溶剤を120質量部以上とすることは、塗料としての塗布性を向上させ、塗布しやすくする効果を有する。有機酸を5質量部以上とすることは、オルガノシラノールオリゴマー混合時のゲル化を防止する効果を有する。
【0036】
有機溶剤は炭素原子数1〜10の脂肪族アルコール、ケトン、エーテルおよびエステルの1種または2種以上から選択できる。100質量部のMg(OH)
2に対して混合が容易な量は、有機溶剤が120質量部以上である。120質量部未満であると、Mg(OH)
2の粉末を均一に分散したスラリー状とすることが困難になる。また、有機溶剤質量の上限は特に限定するものではないが、1000質量部を超えた場合は、後述の乾燥工程で要する時間が長くなり、工業利用上に利用しにくくなる。有機溶剤は、後述の乾燥工程にて全て気化して、コーティング膜の中には残留しない。
【0037】
有機酸の添加理由は大きく2つある。1点目は、Mg(OH)
2と有機溶剤の混合液は、そのままではアルカリ性を示し、オルガノシラノールオリゴマーを添加すると固まってゲル状となるために混合および、その後コーティング膜形成用塗料となった後の塗布が困難になる。有機酸を一定量以上添加することにより、混合液は酸性を示し、固まることなく混合およびその後コーティング膜形成用塗料となった後の塗布が容易となる。有機酸の量はMg(OH)
2の100質量部に対して5質量部以上である。5質量部未満であれば、オルガノシラノールオリゴマーのゲル化防止の効果が十分に得られない。有機酸も、有機溶剤同様、後述の乾燥工程にて気化するために、コーティング膜の中には残留しない。また、有機酸の上限量は特に限定するものではないが、1000質量部を超える量添加すると、揮発させるのに時間を要し、工業利用上望ましくない。
【0038】
有機酸はギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、シュウ酸、グリコール酸、安息香酸、サリチル酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、無水酢酸、アクリル酸の中から選択できる。特に望ましいのは、220℃以下で揮発性の高い酸であり、一例を上げると酢酸、ギ酸、安息香酸、サリチル酸などが上げられる。揮発性の高い酸を用いると、生産性がより向上する。
【0039】
これらの混合には、混練機、攪拌機、各種ミキサー類など公知の混合法にて行えばよい。Mg(OH)
2、有機溶剤、有機酸を混合したスラリーを第1混合体と呼ぶ。混合時間は特に限定するものではないが、十分に混合するためには30分以上の混合が好ましい。
【0040】
続いて、得られた第1混合体にオルガノシラノールオリゴマーを混合する。オルガノシラノールオリゴマーは、連続した「−Si−O−」の結合により主鎖を形成するオルガノポリシロキサンの前駆体である。
【0041】
オルガノシラノールオリゴマーの混合量は、Mg(OH)
2の100質量部に対して30〜1000質量部である。この配合により、コーティング膜中のオルガノシラノールオリゴマーとMg(OH)
2の合計量に対するMg(OH)
2の体積分率をおおよそ5〜70体積%とすることができる。
【0042】
これらの混合も、混練機、攪拌機、各種ミキサー類など公知の混合法にて行えばよい。第1混合体とオルガノシラノールオリゴマーとを混合したスラリーを第2混合体と呼ぶ。混合時間は特に限定するものではないが、十分に混合するためには30分以上の混合が好ましい。
【0043】
以上の工程にて得られた第2混合体が、本発明の製造方法により得られるコーティング膜形成用塗料の一つの形態である。
【0044】
ここで、高熱伝導フィラーを分散したフィラー分散コーティング膜形成用塗料を製造する場合の製法について追記する。
【0045】
高熱伝導フィラーを投入するには、前述の第1混合または第2混合体を混合する際に、粒子状の高熱伝導フィラーを添加し、併せて混合することにより得られる。高熱伝導フィラーは、Mg(OH)
2やオルガノシラノールオリゴマーと反応しないために、添加したものそのものがコーティング膜中にそのまま残る。
【0046】
高熱伝導フィラーの投入量は、高熱伝導フィラーの密度により異なるが、フィラー分散コーティング膜となった後の(オルガノシラノールオリゴマーの体積+Mg(OH)
2の体積+高熱伝導フィラーの体積)の20〜69体積%を占めるように調整すればよい。
【0047】
高熱伝導フィラーの平均粒子径は0.1〜3μmが適当であり、この範囲であれば塗料の中で凝集することなく分散できる。
【0048】
高熱伝導フィラーの種類としては、AlN、c−BN、h−BN、Al
2O
3、MgO、ダイヤモンドのような、熱伝導率が20(W/m・K)以上と大きく、絶縁性の物質から選択できる。
【0049】
このようにして得られたスラリーを、第3混合体とする。この第3混合体が、本発明の製造方法により得られるフィラー分散コーティング膜形成用塗料の一つの形態である。
【0050】
次にコーティング膜の製法について述べる。
【0051】
上述のようにして得られた第2混合体または第3混合体を塗布対象物である基材に塗布する。塗布は、刷毛やブラシによる塗布、スプレーによる塗布、ノズルによる塗布など、公知の方法で行なうことができる。
【0052】
塗布する厚さについては、放熱性をより重視する場合には、後述の熱処理後の厚さが例えば0.02〜0.2mm程度と薄くなるように、耐電圧を重視する場合には例えば0.05〜0.5mm程度と厚くなるように設定すればよい。
【0053】
塗布対象物は特に限定するものではないが、後述の熱処理において溶融や変形しない材質がよい。一例を挙げると金属類、セラミック類、カーボン材などに塗布することができる。
【0055】
熱処理はヒーターを用いて220〜350℃の範囲で、最低でも10分間行う。熱処理の雰囲気は特に限定されない。空気中で行ってもよいし、不活性ガス中、水素ガス中、窒素ガス中で行ってもよい。
【0056】
熱処理によりオルガノシラノールオリゴマーが最終的な重合状態であるオルガノポリシロキサンとなる。この際に、同時にMg(OH)
2表面にてオルガノシラノールオリゴマーとMg(OH)
2が化学反応(脱水重合反応)を起こし、オルガノポリシロキサン相とMg(OH)
2相とがその界面において化学結合を形成したコーティング相を形成する。なお、前記化学反応を起こすためには220〜350℃の熱処理が必要となる。そして、オルガノポリシロキサン相とMg(OH)
2相とがその界面において化学結合を形成したコーティング相は、高電圧負荷時のコーティング膜内部に発生する電束密度のムラを最小限に抑える効果があり、絶縁耐力の低下を最小限に抑える効果をもたらす。
【0057】
さらに高熱伝導フィラーを添加している場合は、母相(オルガノポリシロキサン相+Mg(OH)
2相)に加えて、高熱伝導フィラーの相を有する。高熱伝導フィラーを添加することにより絶縁耐力は低下するが、Mg(OH)
2を混合しない場合と比べて、絶縁耐力の低下は小さい。そのため従来コーティング膜と比較し、同一熱伝導率において絶縁耐力の高いコーティング膜を得ることができる。
【0058】
高熱伝導フィラーを添加していない母相(オルガノポリシロキサン相+Mg(OH)
2相)のみのコーティング膜の模式図を
図1に、高熱伝導フィラーを添加したフィラー分散コーティング膜の模式図を
図2に示す。また、比較のために、特許文献2に示したオルガノポリシロキサン中に高熱伝導フィラーを添加したコーティング膜の模式図を
図3に示す。
【0059】
図1に示すように、本発明の製造方法にて作製されたコーティング膜形成用塗料を塗布し、熱処理して得られるコーティング膜は、母相であるオルガノシラノールオリゴマーの重合相(オルガノポリシロキサン相)とMg(OH)
2相を有し、さらにオルガノポリシロキサン相とMg(OH)
2相がその界面にて化学的に結合している。この結合界面を有することで、それがない場合と比較して、コーティング膜の絶縁耐力の低下幅が小さい。
【0060】
図2には高熱伝導フィラーを添加し、本発明の製造方法にて作製されたコーティング膜形成用塗料を、熱処理して得られたコーティング膜の模式図を示す。
【0061】
高熱伝導フィラーによる熱伝導率向上効果により、それを加えていないコーティング膜と比較して、熱伝導性を向上できる。また、オルガノシラノールオリゴマーの重合相(オルガノポリシロキサン相)とMg(OH)
2相を有し、さらにオルガノポリシロキサン相とMg(OH)
2相がその界面にて化学的に結合している。この結合界面を有することで、それがない場合と比較して、コーティング膜の絶縁耐力の低下幅が小さい。
【0062】
そのために、ある熱伝導率値でコーティング膜組成を設計した場合、本発明のコーティング膜(または、フィラー分散コーティング膜)は、従来のコーティング膜と比較して絶縁耐力が高くなり、その結果必要な耐電圧を得るための厚みを薄くすることができる。コーティング膜を薄くすることで、熱の伝わりにくさを示す熱抵抗値(=厚さ/熱伝導率)を厚さに比例して低くすることが可能となる結果、放熱性に優れるコーティング膜(または、フィラー分散コーティング膜)とすることができる。
【0063】
図3は従来のコーティング膜の模式図である。熱伝導率の高い高熱伝導フィラーを分散しているが、高熱伝導フィラーの充填量は高くてもコーティング膜の40〜74体積%程度であり、そのほかは熱伝導率の低いオルガノポリシロキサンの重合物で構成されている。そのために、絶縁耐力を上げるのは困難である。
【実施例】
【0064】
出発原料として平均粒子径が1μmのMg(OH)
2粉末と、エステル系有機溶剤であるジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルアセテート、有機酸である酢酸と、オルガノシラノールオリゴマーであるメチルトリシラノールオリゴマーと、平均粒子径が1μmであるAlN(窒化アルミ)粉末とを準備した。
【0065】
Mg(OH)
2粉末100質量部、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルアセテート150質量部、酢酸30質量部をビーカーに投入し、攪拌羽にて2時間混合し、第1混合体を得た。第1混合体は酸性を示し、流動性が攪拌に十分であった。
【0066】
続いて、第1混合体に、熱処理後のMg(OH)
2相とメチルポリシロキサン相の体積比が1:1となるようにメチルトリシラノールオリゴマーを投入し、更に4時間混合して、第2混合体を得た。
【0067】
更に、熱処理後のMg(OH)
2相とメチルポリシロキサン相とAlN相の体積比が1:1:2となるようにAlNの粉末を第2混合体に投入し、更に4時間混合することで第3混合体を得た。この第3混合体が、本発明のフィラー分散コーティング膜形成用塗料である。
【0068】
第3混合体を塗布対象物であるアルミニウム板にスクリーン印刷にて塗布を行った。この際の厚さはおよそ50(μm)とした。
【0069】
第3混合体を塗ったアルミニウム板を大気雰囲気オーブンの中に投入し、最高温度260(℃)、保持時間30(分間)にて熱処理を行なった。この処理により、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルアセテートおよび酢酸は気化し、メチルトリシラノールオリゴマーは、重合してメチルポリシロキサンとなった。またAlNフィラーは変化しない。そのために、熱処理後の第3混合体は、メチルポリシロキサン中に、Mg(OH)
2とAlNが分散した状態のフィラー分散コーティング膜となった。また、その厚さはおよそ25(μm)であった。Mg(OH)
2相とメチルポリシロキサン相とAlN相の体積比は、SEM画像による解析により1:1:2となっていることを確認した。更にコーティング膜を破断し、破断面を観察したところ、AlN粒子の脱粒組織、およびメチルポリシロキサン相と一体化しているMg(OH)
2粒子が観察された。
【0070】
このフィラー分散コーティング膜の絶縁耐力を、耐電圧測定装置で測定したところ、平均値が70(kV/mm)であった。
【0071】
また、このフィラー分散コーティング膜の熱伝導率を熱伝導率測定装置で測定したところ、7.3(W/m・K)であった。
【0072】
また比較例として、出発原料のMg(OH)
2粉末の表面に1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザンを反応させて、トリメチルシリル基によるエンドキャッピング構造を形成し、メチルシラノールオリゴマーとの化学反応を阻害する加工を行った粉末を用意した。
【0073】
このMg(OH)
2粉末を用い、前記実施例と同一の工程により比較例のフィラー分散コーティング膜を得た。このフィラー分散コーティング膜を破断し、破断面を観察したところ、AlN粒子およびMg(OH)
2粒子の脱粒が観察され、Mg(OH)
2相とメチルポリシロキサン相が化学結合を起こしていないことが確認された。
【0074】
比較例のフィラー分散コーティング膜は絶縁性であり、絶縁耐力を耐電圧測定装置で測定したところ、平均値は34(kV/mm)と、実施例と比べ大きく劣った。
【0075】
また、このフィラー分散コーティング膜の熱伝導率を測定したところ、7.3(W/m・K)と、実施例とほぼ同等であった。
【0076】
以上の実施例、比較例から得られた数値を基に、一例として耐電圧5(kV)となるコーティング膜を形成した場合の熱の伝わりにくさを示す熱抵抗値(=厚さ/熱伝導率)を計算にて求めた。
【0077】
実施例のフィラー分散コーティング膜は、耐電圧5(kV)となる厚さを絶縁耐力値より計算で求めると71μmとなる。熱伝導率は7.3(W/m・K)であるため、厚さ/熱伝導率で算出される熱抵抗値を計算すると9.8×10
−6(m
2・K/W)となった。
【0078】
一方、比較例のフィラー分散コーティング膜は、耐電圧5(kV)となる厚さを同様に求めると147μmとなった。熱伝導率は7.3(W/m・K)であるため、同様に 厚さ/熱伝導率 で算出される熱抵抗値を計算すると20.1×10
−6(m
2・K/W)となり、実施例と比較して倍以上の熱抵抗値を示した。
【0079】
本発明のフィラー分散コーティング膜は、オルガノポリシロキサン相とMg(OH)
2相がその界面にて化学的に結合しているため、絶縁耐力を従来の膜よりも高くできる。そのため化学結合をしていないフィラー分散コーティング膜と比較して、一定の耐電圧を確保するための厚さを薄くでき、その結果熱抵抗値を低くすることができ、放熱性が優れていることが導かれた。
【0080】
以上のように本発明において、高い絶縁耐力を維持しつつ、熱伝導率も高い、コーティング膜が得られた。