特許第6395183号(P6395183)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6395183陰イオン交換能を発現する両性イオン導入樹脂
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  • 特許6395183-陰イオン交換能を発現する両性イオン導入樹脂 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6395183
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】陰イオン交換能を発現する両性イオン導入樹脂
(51)【国際特許分類】
   B01J 43/00 20060101AFI20180913BHJP
   G01N 30/02 20060101ALI20180913BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20180913BHJP
   G01N 30/26 20060101ALI20180913BHJP
   B01D 15/04 20060101ALI20180913BHJP
   B01D 15/08 20060101ALI20180913BHJP
   C08F 265/06 20060101ALI20180913BHJP
   C08F 257/00 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   B01J43/00
   G01N30/02 B
   G01N30/88 H
   G01N30/26 A
   B01D15/04
   B01D15/08
   C08F265/06
   C08F257/00
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-15659(P2015-15659)
(22)【出願日】2015年1月29日
(65)【公開番号】特開2016-140771(P2016-140771A)
(43)【公開日】2016年8月8日
【審査請求日】2017年12月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】509349141
【氏名又は名称】京都府公立大学法人
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100197022
【弁理士】
【氏名又は名称】谷水 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100102635
【弁理士】
【氏名又は名称】浅見 保男
(72)【発明者】
【氏名】細矢 憲
(72)【発明者】
【氏名】山田 智
【審査官】 富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−098676(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0300971(US,A1)
【文献】 特開平10−176021(JP,A)
【文献】 特開2010−071707(JP,A)
【文献】 特開2011−017678(JP,A)
【文献】 特開2001−141710(JP,A)
【文献】 特開2014−118512(JP,A)
【文献】 特開2010−236907(JP,A)
【文献】 特開2005−187456(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 39/00−49/90
B01D 15/04
B01D 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋剤、あるいは、架橋剤および一官能性重合性単量体を重合して得られた基材表面にラジカル重合によって2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンが重合されている両性イオン導入樹脂であって、前記ラジカル重合の重合溶媒として溶解度パラメーターが11.0〜12.0の溶媒を使用して調製される陰イオン交換能を発現する両性イオン導入樹脂。
【請求項2】
前記重合溶媒がイソプロピルアルコールあるいはアセトニトリルである請求項1に記載の両性イオン導入樹脂。
【請求項3】
前記架橋剤がグリセリンジメタクリレートあるいはエチレンジメタクリレートである請求項1または2に記載の両性イオン導入樹脂。
【請求項4】
溶媒を移動相として使用して、請求項1〜3のいずれか1項に記載の両性イオン導入樹脂が充填されたカラムによって極性物質を分離する方法。
【請求項5】
前記溶媒は、水を含まない有機溶媒である請求項4に記載の極性物質を分離する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は担体に対し、両性イオン単量体である2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを重合導入した陰イオン交換能を発現する両性イオン導入樹脂に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体は、その高い生体適合性から医療用のコーティング剤、アイケア製品、化粧品など広範囲な製品に使用されている材料であり、その機能の一端は、生体内の細胞膜と同じ構造であるホスホリルコリン基が電気的に中性な両性イオンであることが大きく関与している。
一方、液体クロマトグラフィーは、液体クロマトグラフィーに用いる担体自身の特性、担体に修飾された官能基の性質および多孔性構造が複合的に作用することにより物質を分離・精製する方法で、低分子医薬品のみならず、抗体医薬などのバイオ医薬品の分離分析・精製に利用されるなど、医学、生物学、その他、環境学分野等に幅広く利用されている技術である。
【0003】
ホスホリルコリン基を有する担体は、液体クロマトグラフィー用担体として利用されており、例えば、資生堂株式会社(登録商標“PC HILIC”)より入手可能である。そのほかホスホリルコリン基を有する担体としては、例えば、特許文献1、2にはホスホリルコリン基が液体クロマトグラフィー用担体に直接化学結合した担体が、特許文献3には、ホスホリルコリン基が担体に直接結合した親水性相互作用クロマトグラフィー担体が開示されている。また、非特許文献1には、シリカゲル担体表面に2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを重合導入した液体クロマトグラフィー担体が開示されている。これらの担体は、ホスホリルコリン基が蛋白質やペプチドの吸着を抑制する機能を有するため、ゲルろ過クロマトグラフィー用担体として、あるいは、ホスホリルコリン基が電気的に中性で高い親水性を有することから、親水性相互作用クロマトグラフィー用担体として利用できることが開示されている。なお、親水性相互作用クロマトグラフィーとは、被分析対象の親水性と固定相に導入された親水基の親水性との相互作用により分離する方法である。
【0004】
ホスホリルコリン基などを担体に導入する方法としては、特許文献1〜3のように、ホスホリルコリン基を直接シリカ担体に導入するほか、非特許文献1のようにシリカ担体をTert−butyl hydroperoxideで活性化後、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを重合導入する方法などが可能である。その他、両性イオンを有する重合性単量体を担体に導入する方法としては、例えば、特許文献4には、アゾ基を導入した担体に両性イオンを有する重合性単量体をグラフト重合させる方法、特許文献5には、担体に両性イオンを有する重合性単量体をラジカル重合させて導入する方法が開示されている。しかしながら、これらの方法は単に両性イオンを担体に導入する製法が開示されているだけであり、導入する両性イオンの中の正電荷と負電荷の偏りに応じた電気的な特性が付与されることはあっても、ホスホリルコリンのような電気的に中性塩の場合、目的の電気的特性を任意に付与できるものではなかった。
【0005】
また、イオン交換クロマトグラフィーは、被分離・分析対象の表面電荷特性を利用して分離する方法で、バイオ医薬品などの生体分子は非常に特有の表面電荷特性を有していることから、微量分析からプロセススケールまで、幅広く利用されている。イオン交換クロマトグラフィー用のイオン交換担体としては、例えば、ジエチルアミノエチル基や4級アンモニウム基が導入された陰イオン交換担体が、例えば、カルボキシメチル基やスルホン酸基が導入された陽イオン交換担体があり、塩基性、酸性が明確な分子が導入されたイオン交換体が固定相として知られている。
【0006】
このように、ホスホリルコリン基は高い生体適合性を示すこと、親水性相互作用クロマトグラフィー用担体として利用可能なこと、イオン交換クロマトグラフィーは生体分子の分離に有効であることが知られているが、ホスホリルコリン基に目的のイオン交換能を付与できることは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−258013号公報
【特許文献2】特開2005−187456号公報
【特許文献3】特開2010−71707号公報
【特許文献4】特開2001−141710号公報
【特許文献5】特開2014−118512号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Wen Jiangら,Journal of Chromatography A,2006年,vol.1127,p.82−91
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明の課題は、生体適合性高く、電気的に中性であるホスホリルコリン基が導入されている担体でありながら、陰イオン交換能を発現する担体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、驚くべきことに、架橋剤、あるいは、架橋剤および一官能性重合性単量体を重合して得られた基材表面に、特定の溶媒下で、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンをラジカル重合反応させて導入することにより、目的の電気的特性を有する両性イオン導入樹脂を製造できることを見出し、本発明を完成した。
また、本発明者らは、本発明の両性イオン導入樹脂を用いることにより、極性物質を効果的に分離できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、次の[1]〜[5]である。
【0011】
[1]架橋剤、あるいは、架橋剤および一官能性重合性単量体を重合して得られた基材表面にラジカル重合によって2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンが重合されている両性イオン導入樹脂であって、前記ラジカル重合の重合溶媒として溶解度パラメーターが11.0〜12.0の溶媒を使用して調製される陰イオン交換能を発現する両性イオン導入樹脂。
[2]前記重合溶媒がイソプロピルアルコールあるいはアセトニトリルである[1]に記載の両性イオン導入樹脂。
[3]前記架橋剤がグリセリンジメタクリレートあるいはエチレンジメタクリレートである[1]または[2]に記載の両性イオン導入樹脂。
および
[4]溶媒を移動相として使用して、[1]〜[3]のいずれかに記載の両性イオン導入樹脂が充填されたカラムによって極性物質を分離する方法。
[5]前記溶媒は、水を含まない有機溶媒である[4]に記載の極性物質を分離する方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、架橋剤、あるいは、架橋剤および一官能性重合性単量体を重合して得られた基材表面に特定の溶媒下で2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを重合導入することで、ホスホリルコリン基に由来する生体適合性を有し、かつ、陰イオン交換能を発現する両性イオン導入樹脂を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン重合物導入樹脂(実施例1、比較例1−1)、及び、ポリスチレン骨格グリセリンジメタクリレートポリマー担体(比較例1−2)の赤外吸収スペクトルを表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明において、「(メタ)アクリ」とは、「アクリ」または「メタクリ」を意味する。
【0015】
本発明によれば、架橋剤、あるいは、架橋剤および一官能性重合性単量体を重合して得られた基材表面に、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを特定の溶媒下でラジカル重合反応させて導入することにより、目的の電気的特性を有する、すなわち、陰イオン交換能を発現する両性イオン導入樹脂を製造できる。
【0016】
[基材樹脂]
本発明の基材は、架橋剤、あるいは、架橋剤および一官能性重合性単量体を重合して得られる樹脂成分により構成される。樹脂成分としては、例えば、ポリスチレン系樹脂、ポリメタクリレート系樹脂、ポリアクリルアミド系樹脂などがあげられる。好ましくは、ポリスチレン系樹脂、ポリメタクリレート系樹脂である。
【0017】
一官能性重合性単量体は、一つの不飽和二重結合を有する単量体であり、例えば、スチレン、α/o/m/p−メチルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、メトキシスチレン、p−フェニススチレン等のスチレン誘導体、塩化ビニル、塩化ビニリデン、等のハロゲン化ビニル類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類、(メタ)アクリロニトリル等の不飽和ニトリル類、(メタ)アクリルアミド等のアクリルアミド誘導体、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル酸等の(メタ)アクリル酸誘導体、ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン類、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルイソブチルエーテル等のビニルエーテル類、ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトン、メチルイソプロペニルケトン類、N−ビニルピロール、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドール、マレイン酸、フマル酸、N−ビニルピロリドン、ビニルナフタレン塩があげられる。好ましくは、スチレン誘導体、メタクリル酸誘導体、アクリルアミド誘導体であり、より好ましくは、スチレン、メタクリル酸メチルである。これらの重合性単量体は、各種官能基を有していても良く、また、単独で用いても、二種以上を混合併用しても良い。
【0018】
架橋剤は、2つ以上の不飽和二重結合を有する多官能性単量体であり、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールトリメタクリレート、グリセリンジメタクリレート、エチレンジメタクリレートなどがあげられる。適度な親水性を付与できることからエチレンジメタクリレート、グリセリンジメタクリレートが望ましい。
【0019】
架橋剤を添加することにより、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを基材表面に重合させるための不飽和二重結合を付加することができる。
基材樹脂1g中に含まれる不飽和二重結合は、1×10-5〜1×10-2molであり、好ましくは、1×10-4〜8×10-3molであり、さらに好ましくは、1×10-3〜5×10-3molである。1×10-5mol未満の場合、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを重合する量が低下してしまう。なお、基材樹脂表面に存在する不飽和二重結合量は、臭素の付加反応を利用して測定することができる。
【0020】
本発明による基材樹脂を得るための重合条件は特に限定されず、従来公知の重合条件に従えば良く、例えば、いわゆるシード重合法や多段階膨潤重合法等により基材樹脂を得ることができるが、任意の単量体を重合した後、上記の架橋剤、あるいは、架橋剤および一官能性重合性単量体を吸収、膨潤後、重合させて調製しても良い。核となる種粒子はポリスチレン、膨潤助剤としてフタル酸ジブチル、希釈剤としてシクロヘキサノ−ルあるいはトルエンなどを用いると良く、ドデシル硫酸ナトリウム、ポリビニルアルコールなどを添加物として使用しても良い。最終的に、遠心分離やデカンテーション等により精製することもできる。
【0021】
基材樹脂の形状は特に限定されず、球状、板状、直方体、立方体等のいずれでもよい。
なお、基材樹脂は、多孔質状であることが好ましい。多孔質状とすることにより、表面積が大きくなるため、基材表面に付加する不飽和二重結合の量を増加することができる。多孔質状の基材樹脂は、ポリスチレン等の種粒子を用いた膨潤重合法等により得ることができる。
【0022】
[両性イオン導入樹脂]
本発明の両性イオン導入樹脂は、上記の架橋剤、あるいは、架橋剤および一官能性重合性単量体を重合して得られた基材樹脂に2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンが重合反応により導入されたものであり、さらには、陰イオン交換能を有するものである。
両性イオン導入樹脂の形状、大きさ等に制限はなく、上記の基材樹脂の形状に応じて適宜設計される。カラム等への均一な充填性を得るという観点から、球状の粒子、あるいはモノリス型の構造であることが好ましい。
【0023】
基材樹脂に2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを重合導入する場合、基材樹脂表面の不飽和二重結合を利用して2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンをラジカル重合反応により導入することができる。ラジカル重合反応を利用することにより、簡単に、再現性良く2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを基材樹脂表面に重合導入できるからである。
【0024】
重合条件は従来公知の条件に従えば良く、溶媒中に基材樹脂を分散し、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを添加して重合反応を行うことができる。重合条件のうち、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの使用量としては、基材樹脂重量1重量部に対し0.01〜5重量部、好ましくは0.1〜1重量部の比で用いることができる。少なすぎると目的の効果を十分発揮できないし、多すぎると樹脂が軟質ゲル状となり取扱いにくい。
【0025】
重合開始剤としては、系中にラジカルを発生することができれば特に制限はなく、公知のものを利用することができ、反応に応じて適宜選択すればよい。例えば、ペルオキソ二硫酸ジカリウム等、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酸化ラウロイルなどの有機過酸化物、アゾイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)などのアゾ系重合開始剤などがあげられる。重合温度は用いる基材樹脂、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとの反応性と重合開始剤の特性から決定すると良いが、通常は25℃〜100℃、好ましくは重合反応の速やかな進行、基材樹脂の変質を避けるため、50℃〜85℃が選択される。
【0026】
本発明の両性イオン導入樹脂を製造する場合、重合溶媒は非常に重要であり、溶解度パラメーター(SP値)が11.0〜12.0の溶媒を用いるのが好ましく、例えば、イソプロピルアルコールやアセトニトリルを例示できる。なお、溶解度パラメーター(δ;(cal/cm31/2)はHildebrandによって導入された正則溶液論によって定義された値で、下式により計算される。

δ={(ΔH−RT)/V}1/2
(ΔH:モル蒸発潜熱、R:ガス定数、T:温度、V:モル体積)

このような溶媒の性質としては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンは溶解するがその重合物は溶解しない、あるいは溶解しにくい溶媒であることがわかっている。
このように、本発明によれば、基材樹脂に2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを特定の溶媒下でラジカル重合反応させて導入することにより、目的の電気的特性を有する、すなわち、陰イオン交換能を発現する両性イオン導入樹脂の製造が可能となる。しかも、操作性が簡単で、量産、再現性に優れた製造方法を提供することができる。
【0027】
[極性物質を分離する方法]
本発明の極性物質を分離する方法とは、上記両性イオン導入樹脂を充填したカラムを用いたカラムクロマトグラフィーである。移動相としては、水、あるいは、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、アセトニトリル、ベンゼン等の有機溶媒、又はこれらの混合溶媒を用いることができ、水を含まない有機溶媒を利用することもできる。ここで、「水を含まない」とは、水が1質量%以下であることを意味する。
カラムクロマトグラフィーは、オープンカラムクロマトグラフィーのように重力落下により移動相を送液する方法でも、高速液体クロマトグラフィーのようにポンプにより移動相を送液する方法でもよい。
【実施例】
【0028】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明する。
〔重合溶媒の特性確認方法〕
本発明で用いる溶解度パラメーター(SP値)が11.0〜12.0の溶媒は、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(以下、「MPC」という。)は溶解するが、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン重合物(以下、「MPC重合物」という。)は溶解しない、あるいは溶解しにくい溶媒であった。その確認は下記の方法に従って実施した。
【0029】
[MPCの溶解性]
なす型フラスコに溶媒25mLを入れ、MPC 0.75gを分散した。この分散液を3000rpmで遠心分離し、上澄み液を得た。用いたMPC重量、上澄み液量およびその上澄み液を乾燥して得られた重量を秤量し、MPCの溶媒への溶解性を下式により算出した。

MPCの溶解性(%)={上澄み液を乾燥して得られた重量(g)/上澄み液の回収量(mL)×25(mL)}/0.75(g)×100

[MPC重合物の溶解性の確認]
なす型フラスコに溶媒25mLを入れ、MPC 0.75gおよび重合開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(以下、「ADVN」という。) 0.03gを分散し、24時間還流重合した。還流重合後の液を3000rpmで遠心分離し、上澄み液を得た。用いたMPC重量、上澄み液量およびその上澄み液を乾燥して得られた重量を秤量し、MPC重合物の溶媒への溶解性を下式にて算出した。

MPC重合物の溶解性(%)={上澄み液を乾燥して得られた重量(g)/上澄み液の回収量(mL)×25(mL)}/0.75(g)×100
【0030】
(参考例1)
上記〔重合溶媒の特性確認方法〕にて、溶媒をイソプロピルアルコールとして試験を実施した。結果を表1に示した。なお、イソプロピルアルコールのSP値は11.5である。
(参考例2)
上記〔重合溶媒の特性確認方法〕にて、溶媒をアセトニトリルとして試験を実施した。結果を表1に示した。なお、アセトニトリルのSP値は11.9である。
(比較参考例1)
上記〔重合溶媒の特性確認方法〕にて、溶媒をメタノールとして試験を実施した。結果を表1に示した。なお、メタノールのSP値は14.5−14.8である。
(比較参考例2)
上記〔重合溶媒の特性確認方法〕にて、溶媒をエタノールとして試験を実施した。結果を表1に示した。なお、エタノールのSP値は12.7である。
【0031】
【表1】
【0032】
〔実施例1〕
〈ポリスチレンシード粒子の調製〉
[スチレンの洗浄]
最初に、100mLの分液漏斗にスチレン 80mLを入れ、亜硫酸水素ナトリウム飽和水溶液 60mLで洗浄、次に5%の水酸化ナトリウム水溶液 60mLを用いて洗浄、最後に塩化ナトリウム飽和水溶液 60mLを用いて洗浄した。その後塩化カルシウムを1g加え、15分間脱水を行った。脱水後、蒸留して洗浄スチレンを得た。
[精製水の脱気]
三角フラスコに精製水500mLと攪拌子を入れ、アルゴンガスをバブリングしながらホットスターラーを用いて精製水を沸騰させた。沸騰開始後、40分間加熱し、その後アルゴンガスをバブリングしたまま放冷し、脱気精製水を得た。
[ポリスチレンシード粒子の重合]
ポリスチレンシード粒子は、ソープフリー乳化重合により調製した。
セパラブルフラスコに脱気した精製水 320mLと塩化ナトリウム 0.4gを入れ、攪拌しながら70℃に加温した。アルゴンガスで装置内を置換後、洗浄スチレン 6mLを加え、30mLの精製水に溶解したペルオキソ二硫酸ジカリウム(重合開始剤)0.27gを加えた。1時間毎に7回洗浄スチレンを6mLずつ加え(計42mL)、その後70℃で24時間攪拌して、ポリスチレン粒子分散液を得た。
放冷後、ポリスチレン粒子分散液を3000rpmで30分間遠心分離し、上澄みを除去した。水を加えて再分散後、再び同様に遠心分離を行い、上澄みが透き通るまで繰り返してポリスチレンシード粒子を調製した。なお、ポリスチレンシード粒子の濃度は乾燥重量により測定したところ、0.53mg/mLであった。
【0033】
〈ポリスチレン骨格グリセリンジメタクリレートポリマー担体の調製〉
[1次膨潤]
ビーカーにドデシル硫酸ナトリウム(以下、「SDS」という。) 0.025g、フタル酸ジブチル 0.41mL、精製水 10mLを入れ、氷冷しながら超音波ホモジナイザーUD−200(株式会社トミー精工、東京、日本)を用いて分散した。分散液をポリスチレンシード粒子0.27mLに加え、マグネチックスターラーを用いて室温下125rpmで一晩攪拌した。膨潤の完結は光学顕微鏡BH2・BHS(オリンパス株式会社)を用いて微分散液滴の消失により判断した。
[2次膨潤]
ビーカーにADVN 0.15g、トルエン 5mLを加えた。ADVNを溶解後、SDS 0.025g、精製水5mL、3%ポリビニルアルコール(重合度約2000、ケン化度98%)水溶液(以下、「PVA水溶液」という。) 20mLを加え、氷冷しながら超音波ホモジナイザーを用いて分散した。これを1次膨潤が終了した混合液に加え、マグネチックスターラーを用いて室温下125rpmで一晩攪拌した。膨潤の完結は上記光学顕微鏡を用いて微分散液滴の消失により判断した。
続いてビーカーにSDS 0.025g、精製水 15mL、3%PVA水溶液 20mL、グリセリンジメタクリレート 5mLを順に加え,氷冷しながら超音波ホモジナイザーを用いて分散した。これを上記の2次膨潤前半が終了した混合液に加え、マグネチックスターラーを用いて室温下125rpmで一晩攪拌した。膨潤の完結は上記光学顕微鏡を用いて微分散液滴の消失により判断した。
[重合]
2次膨潤が終了した混合液を300mLのなす型フラスコに入れ、アルゴン雰囲気下で75℃、24時間加熱した。攪拌は重合初期にのみ穏やかに行い、その後は静置した。重合後の溶液は水に分散し、その後、デカンテーションを3回行った。同様にメタノール、テトラヒドロフランを用いて洗浄し乾燥させ、多孔質状のポリスチレン骨格グリセリンジメタクリレートポリマー担体(以下、「GDMA担体」という。)を得た。なお、GDMA担体表面に存在するビニル基量をビニル基と臭素の付加反応を利用して測定し、GDMA担体1g中に重合可能なビニル基が1.97×10-3mol存在することを確認した。
【0034】
〈GDMA担体へのMPCの重合〉
なす型フラスコにイソプロピルアルコール 25mLを入れ、MPC 0.75gおよび重合開始剤としてADVN 0.03g、GDMA担体 2.5gを分散し、24時間還流重合した。還流重合終了後の溶液を水に分散し、その後、デカンテーションを3回行った。同様にメタノールを用いて洗浄を行った後乾燥し、MPC重合物導入樹脂を得た。
【0035】
〈MPC重合物導入樹脂の特性確認〉
[赤外吸収スペクトルの測定]
フーリエ変換赤外分光光度計(Fourier Transform Infrared Spectroscopy、FT−IR)FT/IR−4200(日本分光株式会社)を用い、KBr錠剤法により、作製したMPC重合物導入樹脂の透過スペクトルを積算回数は16回として測定した。結果を図1に示した。
【0036】
[窒素吸着法による比表面積の測定]
自動比表面積測定装置 Gemini 2360(マイクロメリティックス)を用い、作製したMPC重合物導入樹脂の比表面積および全細孔容量の測定を行った。結果を表2に示した。
【0037】
〔比較例1−1〕
〈GDMA担体へのMPCの重合〉で、イソプロピルアルコールをメタノールとする以外は実施例1と同様にしてMPC重合物導入樹脂を得、担体の特性を確認した。赤外吸収スペクトルの結果を図1に示し、比表面積および全細孔容量を表2に示した。
【0038】
〔比較例1−2〕
MPC未導入の、単なるGDMA担体を用いる以外は実施例1と同様にして特性を確認した。赤外吸収スペクトルの結果を図1に示し、比表面積および全細孔容量を表2に示した。
【0039】
【表2】
【0040】
〔実施例2〕
〈MPC重合物導入樹脂の表面特性の確認〉
実施例1で得られたMPC重合物導入樹脂の表面特性を確認するために、HPLC用のステンレスカラムに充てんし、ベンゼン(benzene)、トルエン(toluene)、フェノール(phenol)、安息香酸(benzoic acid)、ピリジン(pyridine)の分離を行った。なお、カラムサイズは長さ150mm×内径4.6mm、移動相はアセトニトリル、流速0.8mL/分、カラム温度35℃として分析した。各被試験物質の分離特性の結果を表3に示した。なお、表中の相対保持因子κとは、被試験物質のカラムへの相互作用の指標で、下式により計算した。

相対保持因子κ=(TR−T0)/T0

(式中、相互作用のないと考えられるアセトンの溶出時間をT0、被試験物質の溶出時間をTRとする。)
【0041】
〔比較例2−1〕
実施例1で得られた樹脂の代わりに、比較例1−1で得られたMPC重合物導入樹脂を用いた以外は実施例と同様にMPC重合物導入樹脂の表面特性を確認した。結果を表3に示した。
【0042】
〔比較例2−2〕
実施例1で得られた樹脂の代わりに、比較例1−2のMPC未導入の担体を用いた以外は実施例と同様に担体の表面特性を確認した。結果を表3に示した。
【0043】
【表3】
【0044】
表1において、イソプロピルアルコール、アセトニトリルはともにMPCは溶解するが、MPC重合物は溶解しない、あるいは溶解しにくい溶媒であり、メタノール、エタノールは、MPC、MPC重合物を共に溶解する溶媒であり、SP値によりMPC、MPC重合物の溶解性が異なることが示された。
表2において、実施例1の重合溶媒をSP値11.5のイソプロピルアルコールとして調製したMPC重合物導入樹脂は、比較重合例1−2のMPC未導入の担体と比較して、比表面積、細孔容量ともに小さくなっており、MPCが導入されたことが示され、また、図1の赤外吸収スペクトルの結果からも、実施例1の重合溶媒をイソプロピルアルコールとして調製したMPC重合物導入樹脂は、比較例1−2のMPC未導入の担体と比較して、−N+(CH33由来の960cm-1の吸収が増大していることからもMPCが重合導入されたことが示された。
また、表3の結果より明らかなように、実施例1のように、イソプロピルアルコールを重合溶媒として調製したMPC重合物導入樹脂は、比較例1−2のMPC未導入の担体と比較して、安息香酸の相対保持能が高くなっており、陰イオン交換能が発現されることが示された。なお、SP値が14.5−14.8であるメタノールを重合溶媒として調製したMPC重合物導入樹脂は、比較例1−2のMPC未導入の担体と比較して、ピリジンの相対保持性能が高くなっており、MPC重合物を導入するだけでは陰イオン交換能が発現されないことは明らかである。
図1