【実施例】
【0028】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明する。
〔重合溶媒の特性確認方法〕
本発明で用いる溶解度パラメーター(SP値)が12.0〜15.0の溶媒は、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(以下、「MPC」という。)、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン重合物(以下、「MPC重合物」という。)を共に溶解する溶媒であった。その確認は下記の方法に従って実施した。
【0029】
[MPCの溶解性]
なす型フラスコに溶媒25mLを入れ、MPC 0.75gを分散した。この分散液を3000rpmで遠心分離し、上澄み液を得た。用いたMPC重量、上澄み液量およびその上澄み液を乾燥して得られた重量を秤量し、MPCの溶媒への溶解性を下式により算出した。
MPCの溶解性(%)={上澄み液を乾燥して得られた重量(g)/上澄み液の回収量(mL)×25(mL)}/0.75(g)×100
[MPC重合物の溶解性の確認]
なす型フラスコに溶媒25mLを入れ、MPC 0.75gおよび重合開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(以下、「ADVN」という。) 0.03gを分散し、24時間還流重合した。還流重合後の液を3000rpmで遠心分離し、上澄み液を得た。用いたMPC重量、上澄み液量およびその上澄み液を乾燥して得られた重量を秤量し、MPC重合物の溶媒への溶解性を下式にて算出した。
MPC重合物の溶解性(%)={上澄み液を乾燥して得られた重量(g)/上澄み液の回収量(mL)×25(mL)}/0.75(g)×100
【0030】
(参考例1)
上記〔重合溶媒の特性確認方法〕にて、溶媒をメタノールとして試験を実施した。結果を表1に示した。なお、メタノールのSP値は14.5−14.8である。
(参考例2)
上記〔重合溶媒の特性確認方法〕にて、溶媒をエタノールとして試験を実施した。結果を表1に示した。なお、エタノールのSP値は12.7である。
(比較参考例1)
上記〔重合溶媒の特性確認方法〕にて、溶媒をイソプロピルアルコールとして試験を実施した。結果を表1に示した。なお、イソプロピルアルコールのSP値は11.5である。
(比較参考例2)
上記〔重合溶媒の特性確認方法〕にて、溶媒をアセトニトリルとして試験を実施した。結果を表1に示した。なお、アセトニトリルのSP値は11.9である。
【0031】
【表1】
【0032】
〔実施例1〕
〈ポリスチレンシード粒子の調製〉
[スチレンの洗浄]
最初に、100mLの分液漏斗にスチレン 80mLを入れ、亜硫酸水素ナトリウム飽和水溶液 60mLで洗浄、次に5%の水酸化ナトリウム水溶液 60mLを用いて洗浄、最後に塩化ナトリウム飽和水溶液 60mLを用いて洗浄した。その後塩化カルシウムを1g加え、15分間脱水を行った。脱水後、蒸留して洗浄スチレンを得た。
[精製水の脱気]
三角フラスコに精製水500mLと攪拌子を入れ、アルゴンガスをバブリングしながらホットスターラーを用いて精製水を沸騰させた。沸騰開始後、40分間加熱し、その後アルゴンガスをバブリングしたまま放冷し、脱気精製水を得た。
[ポリスチレンシード粒子の重合]
ポリスチレンシード粒子は、ソープフリー乳化重合により調製した。
セパラブルフラスコに脱気した精製水 320mLと塩化ナトリウム 0.4gを入れ、攪拌しながら70℃に加温した。アルゴンガスで装置内を置換後、洗浄スチレン 6mLを加え、30mLの精製水に溶解したペルオキソ二硫酸ジカリウム(重合開始剤)0.27gを加えた。1時間毎に7回洗浄スチレンを6mLずつ加え(計42mL)、その後70℃で24時間攪拌して、ポリスチレン粒子分散液を得た。
放冷後、ポリスチレン粒子分散液を3000rpmで30分間遠心分離し、上澄みを除去した。水を加えて再分散後、再び同様に遠心分離を行い、上澄みが透き通るまで繰り返してポリスチレンシード粒子を調製した。なお、ポリスチレンシード粒子の濃度は乾燥重量により測定したところ、0.53mg/mLであった。
【0033】
〈ポリスチレン骨格グリセリンジメタクリレートポリマー担体の調製〉
[1次膨潤]
ビーカーにドデシル硫酸ナトリウム(以下、「SDS」という。) 0.025g、フタル酸ジブチル 0.41mL、精製水 10mLを入れ、氷冷しながら超音波ホモジナイザーUD−200(株式会社トミー精工、東京、日本)を用いて分散した。分散液をポリスチレンシード粒子0.27mLに加え、マグネチックスターラーを用いて室温下125rpmで一晩攪拌した。膨潤の完結は光学顕微鏡BH2・BHS(オリンパス株式会社)を用いて微分散液滴の消失により判断した。
[2次膨潤]
ビーカーにADVN 0.15g、トルエン 5mLを加えた。ADVNを溶解後、SDS 0.025g、精製水5mL、3%ポリビニルアルコール(重合度約2000、ケン化度98%)水溶液(以下、「PVA水溶液」という。) 20mLを加え、氷冷しながら超音波ホモジナイザーを用いて分散した。これを1次膨潤が終了した混合液に加え、マグネチックスターラーを用いて室温下125rpmで一晩攪拌した。膨潤の完結は上記光学顕微鏡を用いて微分散液滴の消失により判断した。
続いてビーカーにSDS 0.025g、精製水 15mL、3%PVA水溶液 20mL、グリセリンジメタクリレート 5mLを順に加え,氷冷しながら超音波ホモジナイザーを用いて分散した。これを上記の2次膨潤前半が終了した混合液に加え、マグネチックスターラーを用いて室温下125rpmで一晩攪拌した。膨潤の完結は上記光学顕微鏡を用いて微分散液滴の消失により判断した。
[重合]
2次膨潤が終了した混合液を300mLのなす型フラスコに入れ、アルゴン雰囲気下で75℃、24時間加熱した。攪拌は重合初期にのみ穏やかに行い、その後は静置した。重合後の溶液は水に分散し、その後、デカンテーションを3回行った。同様にメタノール、テトラヒドロフランを用いて洗浄し乾燥させ、多孔質状のポリスチレン骨格グリセリンジメタクリレートポリマー担体(以下、「GDMA担体」という。)を得た。なお、GDMA担体表面に存在するビニル基量をビニル基と臭素の付加反応を利用して測定し、GDMA担体1g中に重合可能なビニル基が1.97×10
-3mol存在することを確認した。
【0034】
〈GDMA担体へのMPCの重合〉
なす型フラスコにメタノール 25mLを入れ、MPC 0.75gおよび重合開始剤としてADVN 0.03g、GDMA担体 2.5gを分散し、24時間還流重合した。還流重合終了後の溶液を水に分散し、その後、デカンテーションを3回行った。同様にメタノールを用いて洗浄を行った後乾燥し、MPC重合物導入樹脂を得た。
【0035】
〈MPC重合物導入樹脂の特性確認〉
[赤外吸収スペクトルの測定]
フーリエ変換赤外分光光度計(Fourier Transform Infrared Spectroscopy、FT−IR)FT/IR−4200(日本分光株式会社)を用い、KBr錠剤法により、作製したMPC重合物導入樹脂の透過スペクトルを積算回数は16回として測定した。結果を
図1に示した。
【0036】
[窒素吸着法による比表面積の測定]
自動比表面積測定装置 Gemini 2360(マイクロメリティックス)を用い、作製したMPC重合物導入樹脂の比表面積および全細孔容量の測定を行った。結果を表2に示した。
【0037】
〔比較例1−1〕
〈GDMA担体へのMPCの重合〉で、メタノールをイソプロピルアルコールとする以外は実施例1と同様にしてMPC重合物導入樹脂を得、担体の特性を確認した。赤外吸収スペクトルの結果を
図1に示し、比表面積および全細孔容量を表2に示した。
【0038】
〔比較例1−2〕
MPC未導入の、単なるGDMA担体を用いる以外は実施例1と同様にして特性を確認した。赤外吸収スペクトルの結果を
図1に示し、比表面積および全細孔容量を表2に示した。
【0039】
【表2】
【0040】
〔実施例2〕
〈MPC重合物導入樹脂の表面特性の確認〉
実施例1で得られたMPC重合物導入樹脂の表面特性を確認するために、HPLC用のステンレスカラムに充てんし、ベンゼン(benzene)、トルエン(toluene)、フェノール(phenol)、安息香酸(benzoic acid)、ピリジン(pyridine)の分離を行った。なお、カラムサイズは長さ150mm×内径4.6mm、移動相はアセトニトリル、流速0.8mL/分、カラム温度35℃として分析した。各被試験物質の分離特性の結果を表3に示した。なお、表中の相対保持因子κとは、被試験物質のカラムへの相互作用の指標で、下式により計算した。
相対保持因子κ=(T
R−T
0)/T
0
(式中、相互作用のないと考えられるアセトンの溶出時間をT
0、被試験物質の溶出時間をT
Rとする。)
【0041】
〔比較例2−1〕
実施例1で得られた樹脂の代わりに、比較例1−1で得られたMPC重合物導入樹脂を用いた以外は実施例と同様にMPC重合物導入樹脂の表面特性を確認した。結果を表3に示した。
【0042】
〔比較例2−2〕
実施例1で得られた樹脂の代わりに、比較例1−2のMPC未導入の担体を用いた以外は実施例と同様に担体の表面特性を確認した。結果を表3に示した。
【0043】
【表3】
【0044】
表1において、メタノール、エタノールはともにMPC、MPC重合物を溶解する溶媒であり、イソプロピルアルコール、アセトニトリルは、MPCは溶解するものの、MPC重合物は溶解しにくい溶媒であり、SP値によりMPC、MPC重合物の溶解性が異なることが示された。
表2において、実施例1の重合溶媒をSP値14.5−14.8のメタノールとして調製したMPC重合物導入樹脂は、比較例1−2のMPC未導入の担体と比較して、比表面積、細孔容量ともに小さくなっており、MPCが導入されたことが示され、また、
図1の赤外吸収スペクトルの結果からも、実施例1の重合溶媒をメタノールとして調製したMPC重合物導入樹脂は、比較例1−2のMPC未導入の担体と比較して、−N
+(CH
3)
3由来の960cm
-1の吸収が増大していることからもMPCが重合導入されたことが示された。
また、表3の結果より明らかなように、実施例1のように、メタノールを重合溶媒として調製したMPC重合物導入樹脂は、比較例1−2のMPC未導入の担体と比較して、ピリジンの相対保持能が高くなっており、陽イオン交換能が発現されることが示された。なお、SP値が12未満であるイソプロピルアルコールを重合溶媒として調製したMPC重合物導入樹脂は、比較例1−2のMPC未導入の担体と比較して、安息香酸の相対保持性能が高くなっており、MPC重合物を導入するだけでは陽イオン交換能が発現されないことは明らかである。