特許第6395210号(P6395210)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6395210
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】基板加工方法及び基板
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/53 20140101AFI20180913BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20180913BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   B23K26/53
   B23K26/00 N
   H01L21/304 611Z
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-171525(P2014-171525)
(22)【出願日】2014年8月26日
(65)【公開番号】特開2016-43401(P2016-43401A)
(43)【公開日】2016年4月4日
【審査請求日】2017年6月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】篠塚 信裕
(72)【発明者】
【氏名】松尾 利香
(72)【発明者】
【氏名】池野 順一
【審査官】 奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−224658(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/108055(WO,A1)
【文献】 特開平11−135505(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00−26/70
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶シリコンの基板を加工する基板加工方法であって、
前記基板を支持して回転駆動する工程と、
前記基板の回転軸を基準として、前記回転軸からの距離に応じて前記基板の表面を複数の領域に分割する工程と、
前記複数の領域について、複数のレーザ照射手段にて各領域の表面に向けてレーザ光を照射し、前記基板内部にレーザ光を集光して加工層を形成する工程と、
を含み、
前記加工層を形成する工程は、前記複数の領域のうち最内領域と最外領域について、他の領域より剥離荷重が小さくなるように加工することを特徴とする基板加工方法。
【請求項2】
前記複数のレーザ照射手段は、前記基板の表面に向けて回折光を照射する回折光学素子をそれぞれ含むことを特徴とする請求項1に記載の基板加工方法。
【請求項3】
前記複数のレーザ照射手段は、前記基板の複数の領域ごとにその一つが設けられ、それぞれ基板の径方向に移動可能であることを特徴とする請求項1又は2に記載の基板加工方法。
【請求項4】
前記複数のレーザ照射手段は、前記複数の領域における線速度に応じてレーザ光の照射をそれぞれ調整することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の基板加工方法。
【請求項5】
前記加工層を形成する工程は、前記複数の領域について、前記複数のレーザ照射手段にてレーザ光を照射する加工が終了したものから順に当該領域の加工を終了することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の基板加工方法。
【請求項6】
前記分割する工程は、前記回転軸から所定距離ごとに分割することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の基板加工方法。
【請求項7】
前記加工層を形成する工程は、前記複数の領域のすべての領域の剥離荷重が均等になるように加工することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の基板加工方法。
【請求項8】
前記基板の回転軸は、前記基板の表面の法線方向に延びることを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の基板加工方法。
【請求項9】
前記加工層は、前記基板の表面から所定深さに形成された所定厚みの多結晶構造であることを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の基板加工方法。
【請求項10】
前記基板の表面は、鏡面仕上げされていることを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の基板加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン単結晶基板を加工する基板加工方法及びシリコン単結晶基板を加工して得られた基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコン(Si)ウェハに代表される半導体ウェハを製造する場合には、石英るつぼ内に溶融されたシリコン融液から凝固した円柱形のインゴットを適切な長さのブロックに切断して、その周縁部を目標の直径になるよう研削し、その後、ブロック化されたインゴットをワイヤソーによりウェハ形にスライスして半導体ウェハを製造するようにしている。
【0003】
このようにして製造された半導体ウェハは、前工程で回路パターンの形成等、各種の処理が順次施されて後工程に供され、この後工程で裏面がバックグラインド処理されて薄片化が図られることにより、厚さが約750μmから100μm以下、例えば75μmや50μm程度に調整される。
【0004】
また、前記ワイヤソーに代わり、集光レンズでレーザ光の集光点をインゴットの内部に合わせ、そのレーザ光でインゴットを相対的に走査することにより、ブロック化されたインゴットの内部に面状の加工層を形成し、この加工層を剥離面としてインゴットの一部を基板として剥離するスライシングの技術が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−169361号公報
【特許文献2】特開2012−169363号公報
【特許文献3】特開2013−161820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このようなスライシングの技術では、レーザ光の走査による加工層の形成に長時間を要し、加工時間の短縮が求められていた。また、形成された加工層における安定した剥離が求められていた。
【0007】
この発明は、上述の実情に鑑みて提案されるものであって、スライシングの時間を短縮するとともに、安定した剥離を可能にする加工層を形成するような基板加工方法及び基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この出願に係る基板加工方法の発明は、単結晶シリコンの基板を加工する基板加工方法であって、前記基板を支持して回転駆動する工程と、前記基板の回転軸を基準として、前記回転軸からの距離に応じて前記基板の表面を複数の領域に分割する工程と、前記複数の領域について、複数のレーザ照射手段にて各領域の表面に向けてレーザ光を照射し、前記基板内部にレーザ光を集光して加工層を形成する工程と、を含むものである。
【0009】
前記複数のレーザ照射手段は、前記基板の表面に向けて回折光を照射する回折光学素子をそれぞれ含んでもよい。前記複数のレーザ照射手段は、前記基板の複数の領域ごとにその一つが設けられ、それぞれ基板の径方向に移動可能であってもよい。前記複数のレーザ照射手段は、前記複数の領域における線速度に応じてレーザ光の照射をそれぞれ調整してもよい。
【0010】
前記加工層を形成する工程は、前記複数の領域について、前記複数のレーザ照射手段にてレーザ光を照射する加工が終了したものから順に当該領域の加工を終了してもよい。前記分割する工程は、前記回転軸から所定距離ごとに分割してもよい。
【0011】
前記加工層を形成する工程は、前記複数の領域のすべての領域の剥離荷重が均等になるように加工してもよい。前記加工層を形成する工程は、前記複数の領域のうち最内領域と最外領域について、他の領域より剥離荷重が小さくなるように加工してもよい。
【0012】
前記基板の回転軸は、前記基板の表面の法線方向に延びてもよい。前記加工層は、前記基板の表面から所定深さに形成された所定厚みの多結晶構造であってもよい。前記基板の表面は、鏡面仕上げされていてもよい。
【0013】
この出願に係る基板の発明は、単結晶シリコン基板を前述の基板加工方法によって加工することによって得られたものである。
【発明の効果】
【0014】
この発明によると、スライシングに要する時間を短縮するとともに、安定した剥離を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】基板加工方法の一連の工程を示すフローチャートである。
図2】基板加工装置の斜視図である。
図3】基板加工装置の正面図である。
図4】基板に照射される分岐したビームのプロファイルである。
図5】加工された基板表面の顕微鏡写真である。
図6】複数の領域に分割された基板の表面を示す図である。
図7】回折光学素子により形成された集光点を示す図である。
図8】レーザ光の走査による加工層の形成を説明する正面図である。
図9】レーザ光の集光による加工層の形成を説明する断面図である。
図10】多数の変質部からなる加工層を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0017】
又、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の実施の形態は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の実施の形態は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0018】
図1に示すように、本実施の形態の基板加工方法は、基板を回転駆動する工程(S11)、基板の表面を複数の領域に分割する工程(S12)及び基板の内部を加工する工程(S13)を含む一連の工程から構成されている。これらの一連の工程は、基板加工装置によって実施される。以下では、これらの各工程について順に説明する。
【0019】
(基板の回転駆動)
最初の工程S11においては、基板を回転駆動する。本実施の形態では、基板加工装置が加工する基板には、シリコン単結晶の基板を使用する。この基板は、シリコン単結晶のインゴットを適切な長さに切断したブロックを使用してもよい。
【0020】
図2は基板加工装置100の構成を示す斜視図であり、図3は基板加工装置の正面図である。基板加工装置100は、垂直方向に延びる回転軸について略水平面内で回転可能なステージ110と、ステージ110上に配置され、略円板状の基板10を固定する基板固定具120とを有している。ステージ110は、軸方向についても上下動可能に構成されている。
【0021】
基板加工装置100は、略円板状の基板10の表面20tの略中心を回転軸が通り、基板10の表面20tの法線が回転軸方向になるように、基板固定具120によってステージ110上に基板10を固定して支持する。そして、ステージ110とともに、ステージ110上に固定した基板10を所定の回転速度で回転駆動する。
【0022】
また、基板加工装置100は、第1のレーザ照射部150、第2のレーザ照射部150、第3のレーザ照射部150及び第4のレーザ照射部150を有している。第1〜第4のレーザ照射部1501〜4は、レーザ光を基板10の鏡面仕上げされた表面20tに向けて照射する。
【0023】
第1〜第4のレーザ照射部1501〜4は、第1〜第4の回折光学素子(DOE)1601〜4を備え、図示しないパルスレーザ光を発生する第1〜第4のレーザ発振器から供給されたパルスレーザ光を第1〜第4の回折光学素子1601〜4により回折光に分岐させて第1〜第4のレーザ集光部1701〜4に提供している。第1〜第4のレーザ集光部1701〜4は、第1〜第4の回折光学素子1601〜4から提供された回折光を集光し、基板10の表面20tに向けて分岐ビームを提供している。なお、第1〜第4の回折光学素子1601〜4と第1〜第4のレーザ集光部1701〜4との間に回折光の拡がりを抑えて第1〜第4のレーザ集光部1701〜4に送るための第1〜第4の光路調整部1801〜4を設けてもよい。
【0024】
これら第1〜第4のレーザ照射部1501〜4は、回転駆動されるステージ110と基板10の径方向に個別に移動可能に制御されている。また、第1〜第4のレーザ照射部1501〜4が照射するレーザ光の強度も、個別に制御されている。第1〜第4のレーザ照射部1501〜4は、同一の構成とすることができる。
【0025】
(回折光学素子の構成)
本実施の形態では、第1〜第4のレーザ照射部1501〜4にそれぞれ備えられる第1〜第4の回折光学素子(DOE)1601〜4は、基板10の表面に向けて照射する分岐ビーム光の分岐ビーム数に応じて光学的に設計される。
【0026】
この第1〜第4の回折光学素子1601〜4の分岐数は、多いほど加工効率は高くなるものの、安定した剥離を可能にする加工層を形成するレーザ加工条件に対応するためのレーザ出力との関係において、分岐ビーム数が多いと分岐前の入射ビームの出力を高くする必要が生じ、第1〜第4のレーザ集光部1701〜4への熱によるダメージを与える恐れがある。
【0027】
そのため、本実施の形態における第1〜第4の回折光学素子1601〜4の分岐ビーム数は3〜15、好ましくは5〜9が好ましい。第1〜第4の回折光学素子1601〜4の分岐数は上記範囲が好ましいが、第1〜第4の回折光学素子1601〜4の各々の分岐数は同じでも異なっていてもよい。加工時間を短縮するために各レーザ照射部1501〜4に対応するブロックの照射面積に適合する分岐数を選択してもよい。なお、図2においては、便宜上、分岐ビーム数を3として示している。
【0028】
ここで、表1に、分岐ビームの数と加工時間との関係を示す。また、レーザ照射部150の数との関係も併せて示す。図2及び図3の基板加工装置においては、第1〜第4のレーザ照射部1501〜4を示したが、ここではレーザ照射部150の数を1〜4に変化させた。
【0029】
レーザの繰返し周波数は100kHzとし、分岐ビームは径方向に直列に配置されているものとした。また、加工ピット2μm、加工オフセット2μmとした。同一の加工直径300mmの基板10について見積もりを行ったところ、分岐ビーム数及びレーザ照射部の数が増加すると、加工時間が著しく短縮された。
【0030】
【表1】
【0031】
さらに、第1〜第4の回折光学素子1601〜4では、レーザ発振器から提供される入射ビームの99.6%以上を利用できるように設計されたものが好ましく、特に0次光も含めて上記の利用効率であることが好ましい。この利用効率が99.6%を下回ると分岐ビーム以外のビームが生じてしまい、レーザ出力を高くすると、このビームが意図しない位置に不安定な加工層を形成してしまう。
【0032】
また、分岐ビームの出力は、分岐数に関わらず±5%、好ましくは±3%の範囲に調整されることが好ましい。この範囲を超えると、分岐ビーム毎により形成される加工層の状態が異なってしまい、安定した剥離を得られなくなる。
【0033】
第1〜第4の回折光学素子1601〜4により直列に分岐された分岐ビームの配列すなわち集光点は、第1〜第4の回折光学素子1601〜4からの分岐ビーム拡がり角により決まる。例えば、広がり角を0.5度として設計した場合、分岐ビームによって基板10の内部に形成される加工痕の間隔が20μmとなることが実験的に分かっていて、広がり角を0.6度とすると加工痕の間隔はわずかに拡がり22μmとなることも分かっている。
【0034】
図4には、基板に照射される間隔が22μmの分岐ビームのプロファイルが示されている。図4中の縦軸は、分岐ビームの強度(任意単位)である。図5の基板表面の顕微鏡写真においては、間隔が22μmの加工痕が示されている。
【0035】
加工ピッチおよびオフセットの値は、上記のように各分岐ビームで形成される加工痕を配列して加工層を形成するように決められ、図示しない制御装置に所望の加工条件がプログラミングにより設定される。
【0036】
加工ピッチ間隔および加工オフセット間隔は、それぞれ1μm〜10μm、好ましくは3μm〜6μmであることが加工効率と安定した剥離が得られる加工層を形成する点において選択される。さらに、この値はレーザ発振器の繰返し周波数と基板10の回転速度との関係で設定されるものであり、一定の値で加工することは必要なく許容範囲として与えられる。
【0037】
加工ピッチおよび加工オフセットが1μm未満では加工時間短縮には適さず、また加工が密になりすぎ剥離できなくなる。一方、10μmを超えると加工層が連続して形成されず面加工状態が得られないため、剥離不能となる可能性が高い。
【0038】
(基板の表面の複数の領域への分割)
ステップS11で回転駆動された基板10は、次のステップS12において表面20tを複数の領域に分割される。図6は、表面20tを第1〜第4の領域として第1〜第4のブロック201〜4に分割された基板10を示す図である。
【0039】
基板10の表面20tは、回転駆動される基板10の中心の回転軸から径方向に略所定距離ごとに領域に分割され、基板10外周側から回転軸に向かって順に、第1のブロック20、第2のブロック20、第3のブロック20及び第4のブロック20とされている。
【0040】
これら第1〜第4のブロック201〜4は、第1〜第4のレーザ照射部1501〜4の走査範囲に対応している。第1〜第4のブロック201〜4は、第1〜第4のレーザ照射部1501〜4によって供給されるレーザ光のビーム数、ビーム配置、加工層を剥離可能な加工状態にするようなビーム照射間隔の許容範囲などを考慮して設定される。この設定は、基板加工装置100の図示しない制御部によって行われ、設定された第1〜第4のブロック201〜4の範囲は制御部に格納される。
【0041】
このような基板10の表面20tの第1〜第4のブロック201〜4への分割は、ステップS11にて回転駆動された基板10の径を図示しないセンサにて測定し、測定した径に基づいて設定してもよい。また、予め回転軸を基準として分割する境界を定めておいてもよい。
【0042】
(基板の内部加工)
ステップS12で表面20tが第1〜第4のブロック201〜4に分割された基板10は、ステップS13において第1〜第4のレーザ照射部1501〜4によって個別にレーザ光が照射され、基板10の内部に加工層が形成される。
【0043】
図1及び図2に示す基板加工装置100において、第1〜第4のレーザ照射部1501〜4は、図6に示す基板10の表面20tの第1〜第4のブロック201〜4の上部にそれぞれ配置され、対応する第1〜第4のブロック201〜4にレーザ光を照射する。
【0044】
本実施の形態においては、第1〜第4のレーザ照射部1501〜4によって第1〜第4のブロック201〜4ごとに個別にレーザ照射をするので、基板10の内部加工の効率を向上させ、加工時間を短縮することができる。
【0045】
ここで、第1〜第4のレーザ照射部1501〜4は、第1〜第4の回折光学素子1601〜4を含んでいる。図7には、第1〜第4のレーザ集光部1701〜4によって集光されるレーザ光が3行3列(3×3)の回折光となって基板10の表面20tに照射される場合を示している
【0046】
図7(a)に示すように、この回折光は間隔dの3本の平行な直線上に配置されるものであってもよい。また、図7(b)に示すように、略間隔dであるが一方に間隔が次第に広がるような3本の平行でない直線上に配置されるものであってもよい。
【0047】
回折光の配置は、第1〜第4のレーザ集光部1701〜4がレーザ光で走査する軌跡の曲率に応じて適切に設定することができる。例えば、図7(b)に示す回折光を配置する3本の直線がすべて走査する軌跡に直交するようにすることができる。この場合、レーザ光のビーム配列の間隙をより密に埋めることができる。
【0048】
図8は、基板10の表面20tを走査する第1〜第4のレーザ照射部1501〜4によるレーサ光の軌跡の一部を示す図である。第1〜第4のレーザ照射部1501〜4は、略同心円状の軌跡を描きつつ、次第に走査する軌跡の径を変化させて第1〜第4のブロック201〜4の範囲を走査する。この動作は、基板加工装置100の制御部に格納された第1〜第4のブロック201〜4の範囲に基づいて実行される。
【0049】
第1〜第4のブロック201〜4における第1〜第4のレーザ照射部1501〜4によるレーザ光の照射は、それぞれ外周側から回転軸の方向に向かうものであっても、回転軸側から外周の方向に向かうものであってもよい。
【0050】
基板10に集光して照射されるレーザ光の集光点は、基板10内部において、表面20tから所定の深さの領域に軌跡を形成することで、表面20tに水平方向に2次元状の加工層を形成することができる。この加工層は、レーザ光が集光され溶融した部分が後に急速に冷却されてなる応力ひずみを有する多結晶構造を含み、他の単結晶の部分と比べて脆弱な構造になっている。
【0051】
図8において、第1〜第4のレーザ照射部1501〜4によって集光されたレーザ光は、集光部分の単結晶部材を変質(改質)させつつ、レーザ集光部と基板10とを相対的に移動させることで、基板10内部に、表面20tから任意の深さで水平方向に延在する加工層21を形成する。集光点は、基板10の表面20tから任意の深さ位置で水平方向において、走査方向に所定のピッチにて断続して照射されつつ移動し、基板10が一回転するごとに径方向をオフセット方向として所定のオフセットだけ進められる。
【0052】
図9は、レーザ光Bの照射により基板10の内部に加工層21を形成することを説明する模式的な断面図である。本実施の形態で加工する基板10は、パルスレーザ光Bをシリコン単結晶からなる基板10の鏡面仕上げされた表面20tから集光することで、この表面20tと離間しかつこの表面20tから任意の深さで水平方向に延びる加工層21を形成する。その結果、この基板10は、加工層21と、この加工層21の両面側にそれぞれ隣接する非加工層22とからなるようになる。
【0053】
図10は、多数の変質部からなる加工層21を示す基板10の拡大断面図である。加工層21には、レーザ光Bの走査方向Sに沿って形成された多結晶構造の変質部21cが、互いにピッチpを有して配列されている。
【0054】
ここで、第1〜第4のレーザ照射部1501〜4のレーザ集光部1701〜4が照射するレーザ光は、複数の回折光からなる分岐ビームであり、複数の回折スポットについて同時に所定範囲の領域に加工層21を形成することができる。したがって、オフセットを増加させ、加工層21の形成の効率を向上させ、加工時間を短縮することができる。
【0055】
第1〜第4のレーザ照射部1501〜4は、適切な加工層21が形成されるように、レーザ光が走査する線速度に応じて第1〜第4の集光部1701〜4から照射するレーザ光の強度を調整することができる。このことによって、基板10の径方向の位置に係らず均一な加工層21を形成することができる。この場合、第1〜第4のブロック201〜4の剥離荷重は均等になり、加工層21における基板10の剥離が容易になる。
【0056】
また、第1〜第4のレーザ照射部1501〜4は、基板10の径方向の位置に応じてレーザ光の強度を調整するようにすることができる。例えば、最外ブロックである第1のブロック20と最内ブロックである第4のブロック20の剥離荷重が、他の第2及び第3のブロック202〜3の85〜95%以下にすることができる。このことによって、加工層21における基板10の剥離がより容易になる。
【0057】
第1〜第4のレーザ照射部1501〜4は、それぞれの分担する第1〜第4のブロック201〜4の走査を終えたものからレーザ光の照射を停止する。第1〜第4のブロック201〜4には、いずれも所望の加工層21が形成される。
【0058】
上述のように、本実施の形態によると、第1〜第4のレーザ照射部1501〜4を備え、第1〜第4のレーザ照射部1501〜4が第1〜第4の回折光学素子1601〜4を有することにより、レーザ光による加工層の形成の効率を向上させ、加工時間を短縮することができる。
【0059】
また、本実施の形態においては、第1〜第4のレーザ照射部1501〜4は、レーザ光が走査する線速度に応じて第1〜第4の集光部1701〜4から照射するレーザ光の強度を調整することにより、剥離荷重が均等となる均一な加工層21を形成し、加工層21における基板10の安定した剥離を実現することができる。
【0060】
さらに、本実施の形態においては、第1〜第4のレーザ照射部1501〜4は、最外周の第1のブロック20と最内周の第4のブロック20の剥離荷重を他の第2及び第3のブロック202〜3の85〜95%以下にすることにより、加工層21における基板10の剥離をより容易にしている。
【0061】
なお、本実施の形態において、基板加工装置100は第1〜第4のレーザ照射部1501〜4を備えたが、レーザ照射部は4個に限らず2個以上であればよい。また、ステップS12にて基板10の表面20tを第1〜第4のブロック201〜4に分割したが、ブロックの数は4個に限らず2個以上であればよい。また、レーザ照射部の数に対応するものであってもよい。第1〜第4のレーザ集光部1701〜4の備える第1〜第4の回折光学素子1601〜4では3×3の回折光を生成したが、これに限らず複数の回折光を生成するものであればよい。
【実施例】
【0062】
次に、本実施の形態の基板加工方法を適用した実施例について説明する。この実施例において、第1〜第4のレーザ照射部1501〜4に備えられる第1〜第4の回折光学素子(DOE)1601〜4には、分岐数5、分岐ビーム拡がり角0.6度のものを採用した。分岐ビームの出力差はビームプロファイラにて調べた。
【0063】
第1〜第4のレーザ照射部1501〜4の備えられるレーザ発振器には、パルス幅120nmのマルチモードファイバーレーザを用い、繰返し周波数300kHzとした。第1〜第4の回折光学素子1601〜4により分岐された5分岐ビームの出力は、第1〜第4のレーザ集光部1701〜4の通過後の合計で、それぞれ6.5Wであった。
【0064】
基板10には、径300mm、厚さ775μm、面方位(100)の単結晶シリコンウエーハを使用した。加工ピッチは2.0μm〜3.0μmとなるように設定し、加工オフセットは3μm〜5μmとなるように設定した。そして、基板10の表面20tから300μmの深さに加工層が形成されるようにレーザ照射深さを設定した。
【0065】
上記の条件で加工を行い、およそ5分で基板10の加工を終えることができた。また、加工した基板10は加工層において剥離できることを確認した。
【符号の説明】
【0066】
10 基板
201〜4 第1〜第4のブロック
20t 表面
21 加工層
100 基板加工装置
1501〜4 第1〜第4のレーザ照射部
1601〜4 第1〜第4の回折光学素子
1701〜4 第1〜第4のレーザ集光部
1801〜4 第1〜第4の光路調整部
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