(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
本発明の実施形態では、担体にコバルトとパラジウムとを担持させた排ガス浄化用触媒を、以下の方法により製造する。
【0012】
(1)担体にコバルトを担持させる工程
担体にコバルトを担持させる方法としては、例えば含浸法を利用する。具体的には、担体とコバルトとを含んだ液を攪拌し、この液を蒸発乾固させた後、得られた固体を乾燥及び焼成処理に供する。このようにして、コバルトが担持された担体を調製する。なお、こうすると、原料としてのコバルトの全てが担体に担持される。
【0013】
原料として使用する担体は、典型的には、アルミナ及びベーマイトの少なくとも1種である。担体は、アルミニウム以外の金属元素を含有していてもよい。
【0014】
コバルト源としては、例えば、コバルトを含む塩を使用する。コバルト源は、典型的には、硝酸コバルトである。
コバルトを担持させる量は、担体とコバルトとの合計量に対して2乃至10質量%であることが好ましく、5乃至7質量%であることがより好ましい。コバルトを担持させる量が過度に少ないか又は過度に多い場合、低温域における十分なメタン燃焼活性が得られない可能性がある。
【0015】
(2)コバルトを還元する工程
続いて、焼成によって酸化されたコバルトの還元を行う。これにより、コバルトの少なくとも一部を金属コバルトとする。この還元は、典型的には気相還元である。この気相還元は、例えば、以下のように行う。
【0016】
まず、不活性ガス流通下で、系内を400乃至700℃の還元温度まで昇温する。還元温度は、より好ましくは、600乃至700℃である。還元温度がこの範囲内にある場合、コバルトはシンタリングすることなく、充分還元された金属コバルト状態となる。そして、充分還元された金属コバルト状態となることにより、後述する(3)の工程において、コバルトが液相中のPd
2+イオンと充分に交換され易くなる。即ち、低温域における優れたメタン燃焼活性を達成することができる。
【0017】
上記不活性ガスの種類は、特に限定されないが、例えばN
2を使用する。また、還元温度に到達するまでの昇温速度は、例えば10乃至20℃/minである。
【0018】
系内が還元温度に到達した後、不活性ガスの流通を停止し、H
2の流通を開始する。そして、還元温度を維持したまま、30乃至60分間に亘りコバルトの還元を行う。その後、H
2の流通を停止し、常温まで冷却した後、約10分間に亘り不活性ガスを流通させる。
【0019】
以上説明したコバルトの還元は、液相還元により行ってもよい。コバルトの還元を液相還元で行うことにより、コバルト粒子のシンタリングを抑制することができる。液相還元は、例えばLiAlH
4、NaBH
4又はヒドラジンを還元剤として使用し、エーテルなどを溶媒として使用することにより行う。
【0020】
(3)金属コバルトの一部をパラジウムで置換する工程
次に、担体に担持された金属コバルトの一部を、ガルバニック置換法によりパラジウムで置換する。以後、この置換を、パラジウムの堆積と称することがある。具体的には、例えば、金属コバルトを担持させた担体を水に分散させ、これに、パラジウムイオンを含む水溶液を滴下することにより行う。パラジウム源としては、例えば、パラジウムを含む塩を使用する。パラジウム源は、典型的には、硝酸パラジウムである。
【0021】
ここで使用する硝酸パラジウム水溶液の濃度は、例えば0.022乃至0.027質量%である。また、1分間に滴下される硝酸パラジウム水溶液が含むパラジウム量は、例えば1×10
-6乃至6×10
-4mol/minであり、好ましくは、2×10
-6乃至4×10
-6mol/minである。このパラジウム濃度が過度に濃い場合、パラジウムの担持が不均一になる傾向がある。このパラジウム濃度が過度に薄い場合、溶媒量が多くなり実用的ではなくなる傾向がある。
【0022】
硝酸パラジウム水溶液を滴下する際の系内の温度は、例えば50乃至70℃である。
【0023】
なお、硝酸パラジウム水溶液を滴下する際の系内の温度が高い場合、不均一な触媒ができる傾向がある。硝酸パラジウム水溶液を滴下する際の系内の温度が低い場合、パラジウムの堆積が充分に進行しない可能性がある。
【0024】
金属コバルトの一部を置換するパラジウムの量は、最終製品としての排ガス浄化用触媒において、担体、コバルト及びパラジウムの合計量に対して1乃至10質量%となるように、好ましくは3乃至7質量%となるように行う。或いは、コバルトとパラジウムとの合計量に占めるパラジウムの割合が、50乃至16%となるように、好ましくは27乃至22%となるように行う。担体、コバルト及びパラジウムの合計量に対するパラジウムの量が過度に多い場合、パラジウムとコバルトとの界面が少なくなり、活性は被修飾の担持パラジウム触媒と同程度になる可能性がある。担体、コバルト及びパラジウムの合計量に対するパラジウムの量が過度に少ない場合、パラジウムがクラスター化しないことにより、活性が低下する傾向がある。
【0025】
(4)残留パラジウムイオンの除去及び乾燥工程
系内の残留パラジウムイオンの除去は、典型的には脱イオン水を使用した遠心分離を行うことにより行う。残留パラジウムイオンの除去は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などを利用した脱金属処理により行ってもよい。その後、50乃至100℃の温度で約12時間に亘り乾燥する。このようにして、粉末状の触媒を得る。
【0026】
ここで、上記(2)〜(4)の工程は、ガルバニック置換法(以下、GD法と省略することがある)である。ガルバニック置換法とは、2種の金属のイオン化傾向の差を利用した置換反応である。
【0027】
上記工程を経て製造された粉末状の触媒は、以下に説明する構造を有していると推測される。
【0028】
コバルトは、担体上に高度に分散されている。それ故、例えば、Co K−edge EXAFSスペクトルを測定すると、第2配位圏以降ではピークがほとんど存在しない。なお、EXAFSとは、広域X線吸収微細構造を示している。
【0029】
コバルトの粒子径は、典型的には、走査型透過電子顕微鏡(STEM)又はエネルギー分散型X線分光(EDS)を用いた測定では測定限界以下であり、例えば2nm以下である。コバルトの粒子径は小さければ小さいほど良く、このコバルトの分散は、原子レベルでの分散であってもよい。
【0030】
パラジウムの粒子径は、走査型透過電子顕微鏡(STEM)又はエネルギー分散型X線分光(EDS)を用いた測定によると、例えば2乃至10nmである。
【0031】
パラジウムは、コバルトに隣接した状態で担持されている。言い換えれば、ほぼ全てのパラジウム粒子が、その少なくとも一部でコバルトと接触している。従って、担体のみと接触しているパラジウム粒子は殆ど存在しない。
【0032】
上記工程に従って製造された粉末状の排ガス浄化用触媒は、例えば、モノリス触媒又はペレット触媒の形態で使用される。
【0033】
モノリス触媒は、例えば、以上において説明した粉末状の触媒を含むスラリーをモノリス基材にコートし、これを乾燥及び焼成することにより製造される。
【0034】
ペレット触媒の形態で使用する場合、例えば、上記粉末に必要に応じてアルミナ粉等を加え、これを圧縮成形し、成形物を必要に応じて粉砕する。このようにしてペレット型の排ガス浄化用触媒を得る。
【実施例】
【0035】
<例1:触媒C1の製造>
(コバルトが担持された担体の調製)
1.300gのCo(NO
3)
2・6H
2Oと5.000gのAl
2O
3とをビーカーに準備した。これらの粉末が全て浸るように蒸留水を加え、これを2時間に亘り攪拌した。次に、このスラリーをロータリーエバポレーターを用いて、減圧下65℃で蒸発乾固させた。更にこれを80℃の温度で水分が完全に飛ぶまで乾燥させた。この粉末を、焼成炉を用いて、空気下、500℃で3時間に亘り焼成した。このようにしてコバルト担持担体を得た。
【0036】
(コバルト担持担体へのGD法によるパラジウムの担持)
(a)10mlナスフラスコに蒸留水8mlを入れた。別の10mlナスフラスコに、4.5質量%のPdNO
3水溶液を0.2265ml加え、更に8mlの蒸留水を加えた。これら2つのナスフラスコにセプタムを取り付けた後、双方の液体を、常温で10分間に亘りN
2バブリングした。
【0037】
(b)二口ナスフラスコに攪拌子と上記コバルト担持担体500mgとを入れ、セプタムとコックを取り付けた。なお、攪拌子は600℃で溶けるため、二口ナスフラスコの上部にマグネットで固定した。この二口ナスフラスコをN
2置換しながら600℃の還元温度まで昇温し、この温度のもとH
2流通下で30分に亘りコバルト担持担体を還元した。常温まで冷却した後、10分間に亘りN
2を流通させた。
【0038】
(c)この二口ナスフラスコを50℃の水浴に浸し、(a)でN
2バブリングした蒸留水8mlを、シリンジで入れ、このスラリーを攪拌子により攪拌した。更に、(a)で準備した硝酸パラジウム溶液全量(8.2265ml)をガスタイトシリンジにて吸い上げ、シリンジポンプ(As One社製)を使用して、0.194ml/minの速度で、この溶液の全量を上記スラリーに滴下した。
【0039】
(d)これを30分攪拌した後、脱イオン水を使用して、遠心分離機(3500rpm、10min)で3回洗浄した。その後、これを80℃で12時間に亘り乾燥させ、粉末状の触媒を得た。
【0040】
<例2〜12:触媒C2〜C12の製造>
下記表1に示す組成となるように製造したことを除いて、触媒C1について説明したのと同様の方法により触媒C2〜C12を製造した。表1で示している組成の数値は、質量部を示している。
【0041】
また、表1では各触媒の調製法を示している。ここで、触媒C10に係る逐次含浸法は、コバルトとパラジウムとをこの順で担持させたことを示している。
【0042】
表1中の「還元温度」は、ガルバニック置換法において、担体に担持された金属を還元する際の温度を示している。表1中の「置換温度」は、ガルバニック置換法において、担体に担持された金属の一部をパラジウムで置換する際の系内の温度を示している。表1中の「滴下速度」は、ガルバニック置換法において使用した硝酸パラジウム水溶液の滴下速度を示している。
【表1】
【0043】
<触媒活性評価>
触媒C1〜C12のそれぞれについて、常圧固定床流通式反応装置(反応管;内径4mm、外径6mm、長さ120mm パイレックス(登録商標)製 U字管、電気炉;アサヒ理科製作所製ARF−60KC)を使用し、評価ガス(CH
4=4000ppm Ar希釈、O
2=10%、N
2=80%)流通下で触媒活性評価を行った。1時間当たりの空間速度は、約30000/hとした。常温から50℃刻みで昇温し、それぞれの温度でガス濃度が定常となった時点において、触媒活性を評価した。
【0044】
触媒C1〜C12について、CH
4浄化率が50%となった温度をCH
4浄化温度T
50(℃)とし、それぞれの触媒の組成と併せて下記表2に示す。
【表2】
【0045】
<広域X線吸収微細構造(EXAFS)の測定>
触媒活性評価前後の触媒C1、C9、C10及びC12並びにCoO、Co
3O
4及びCo箔について、Co K−edgeEXAFSスペクトルを測定した。触媒活性評価前の結果を
図1に示す。また、触媒活性評価後の結果を
図2に示す。なお、
図1及び
図2において、横軸は隣接原子のCoからの距離、縦軸はEXAFS振幅を示している。
【0046】
図1の枠I内を参照すると明らかなように、ガルバニック置換法で製造した触媒C1は、共含浸法で製造した触媒C9及び逐次含浸法で製造した触媒C10などと比較して、第2配位圏以降のピークが小さい。同様のことが、
図2の枠II内を参照してもわかる。即ち、触媒活性評価前においても、触媒活性評価後においても、ガルバニック置換法で製造した触媒C1は、Coが高分散な状態であり、メタン燃焼後もこの状態を維持していることがわかる。
【0047】
<触媒の還元性評価>
触媒C1、C9及びC12について、水素昇温還元法(H
2−TPR)により、それぞれの触媒の還元性を測定した。触媒の還元性を測定することにより、翻ってメタンの燃焼活性を評価することができる。
【0048】
水素昇温還元法では、触媒50mgを石英管に充填し、前処理として100%酸素気流中で450℃、30minに亘り触媒を処理して高酸化状態とした。次いで、不活性ガスのアルゴン中で50℃まで温度を下げた後、流通ガスを4%H
2/Arに切り替え、50℃から600℃まで5℃/minで昇温し、その際の出口ガスの組成変化を熱伝導度検出器で測定した。なお、ガスの流速は全て40mL/minとした。この結果を
図3に示す。
【0049】
図3を参照すると、コバルトのみを担持させた触媒C12や、共含浸法によりコバルト及びパラジウムを担持させた触媒C9と比較して、ガルバニック置換法によりコバルト及びパラジウムを担持させた触媒C1は、より低温で還元を生じていることがわかる。
【0050】
即ち、触媒C1は、触媒C9又は触媒C12と比較して、より低温でメタンを酸化させる能力があると考えられる。