特許第6395217号(P6395217)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友電工焼結合金株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6395217-焼結部品の製造方法 図000003
  • 特許6395217-焼結部品の製造方法 図000004
  • 特許6395217-焼結部品の製造方法 図000005
  • 特許6395217-焼結部品の製造方法 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6395217
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】焼結部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/10 20060101AFI20180913BHJP
   B22F 3/02 20060101ALI20180913BHJP
   B22F 1/00 20060101ALN20180913BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20180913BHJP
【FI】
   B22F3/10 B
   B22F3/02 P
   !B22F1/00 S
   !C22C38/00 304
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-252532(P2014-252532)
(22)【出願日】2014年12月12日
(65)【公開番号】特開2016-113658(P2016-113658A)
(43)【公開日】2016年6月23日
【審査請求日】2017年7月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】593016411
【氏名又は名称】住友電工焼結合金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】園田 康則
(72)【発明者】
【氏名】武 亮太
【審査官】 坂口 岳志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−073132(JP,A)
【文献】 特開2012−254501(JP,A)
【文献】 特開平06−246497(JP,A)
【文献】 特開2003−117710(JP,A)
【文献】 特開2000−087107(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00− 8/00
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉末を含む原料粉末をプレス成形して成形体を作製する成形工程と、
前記成形体にローソク型ドリルを用いて穴を形成することで、前記穴の内周面と前記成形体の外側面との間の厚さGtが前記穴の径Gdよりも小さい薄肉部を形成する穴あけ加工工程と、
前記穴あけ加工工程後、前記成形体を焼結する焼結工程とを備える焼結部品の製造方法。
【請求項2】
前記薄肉部の厚さGtは、Gd/5以上Gd/2以下である請求項1に記載の焼結部品の製造方法。
【請求項3】
前記穴の軸方向の長さをGlとするとき、
前記Glは、Gd以上である請求項1又は請求項2に記載の焼結部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結部品の製造方法、及び焼結部品に関する。特に、穴が形成された焼結部品の製造方法であり、亀裂などの疵のない焼結部品を生産性よく製造できると共に、穴の形成に伴う工具寿命の低下を抑制できる焼結部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄粉などの金属粉末の成形体を焼結してなる焼結体(焼結部品)が、自動車用部品や一般機械の部品などに利用されている。機械部品の種類としては、例えば、スプロケット、ローター、ギア、リング、フランジ、プーリー、軸受けなどの自動車用部品が挙げられる。焼結部品の製造は、一般的に、金属粉末を含有する原料粉末をプレス成形して成形体を作製し、この成形体を焼結することで行われる。
【0003】
例えば、自動車用部品に利用される焼結部品には、貫通孔(例、油孔)や貫通していない止まり穴などが形成されたものがある。貫通孔などの穴が形成された焼結部品の製造は、成形体を焼結した後、ドリルで機械加工(穴あけ加工)することで行われる(特許文献1)。
【0004】
穴あけ加工に使用するドリルは、先端部に投影形状がV字状の切れ刃を有するものが代表的である。超硬ドリルの場合、切れ刃の先端角が130°〜140°程度である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−336078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
焼結部品は、焼結前の成形体に比べて、非常に硬い。成形体が、成形により原料粉末を固めただけで、金属粉末の粒子同士が機械的に密着している状態であるのに対して、焼結部品は、金属粉末の粒子同士が焼結により拡散結合ならびに合金化して強固に結合しているからである。そのため、上述のように焼結部品自体に貫通孔などの穴を形成する穴あけ加工を施すと、加工時間が長くなり易い。その結果、生産性の向上が難しい上に、工具の寿命が短くなり易い。焼結部品の加工箇所によっては、焼結部品に亀裂などの疵が形成される虞もある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その目的の一つは、穴が形成された焼結部品の製造方法であり、亀裂などの疵のない焼結部品を生産性よく製造できると共に、穴の形成に伴う工具寿命の低下を抑制できる焼結部品の製造方法を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、生産性に優れる焼結部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る焼結部品の製造方法は、成形工程と、穴あけ加工工程と、焼結工程とを備える。成形工程は、金属粉末を含む原料粉末をプレス成形して成形体を作製する。穴あけ加工工程は、成形体にローソク型ドリルを用いて穴を形成することで、穴の内周面と成形体の外側面との間の厚さGtが穴の径Gdよりも小さい薄肉部を形成する。焼結工程は、穴あけ加工工程後、成形体を焼結する。
【0010】
本発明の一態様に係る焼結部品は、穴が形成された焼結部品であって、穴の内周面と焼結部品の外側面との間の厚さStが穴の径Sdよりも小さい薄肉部を備え、穴の内周面の形状が梨地状である。
【発明の効果】
【0011】
上記焼結部品の製造方法は、亀裂などの疵のない焼結部品を生産性よく製造できると共に、穴の形成に伴う工具寿命の低下を抑制できる。
【0012】
上記焼結部品は、生産性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態1に係る焼結部品の製造方法を説明する工程説明図である。
図2】試験例2で作製した成形体の試料No.2−1の貫通孔を示す顕微鏡写真である。
図3】参考例1で穴の入り口を形成する際に使用したドリルa〜cのスラスト荷重を示すグラフである。
図4】参考例1でドリルa〜cを使用して形成した穴の入り口を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
《本発明の実施形態の説明》
本発明者らは、まず、穴が形成された焼結部品を生産性よく製造でき、かつ穴の形成に伴う工具寿命の低下を抑制できる製造方法を鋭意検討した。その結果、比較的高硬度な焼結部品ではなく、焼結前の比較的低硬度な成形体に対してドリルにより穴あけ加工を施すことで生産性の向上及び工具寿命の低下を抑制できるとの知見を得た。しかし、所定の薄肉部が設けられるように穴を形成した場合には、薄肉部の外側面に亀裂が生じ易いことが判明した。本発明者らは、この亀裂の発生を抑制するべく、更なる検討を行った。その結果、板材などの薄い部材の加工に利用されるローソク型ドリルを用いることで、上述の亀裂が形成されることなく穴を形成し易いとの知見を得た。本発明はこれらの知見に基づくものであり、最初に本発明の実施態様の内容を列記して説明する。
【0015】
(1)本発明の一態様に係る焼結部品の製造方法は、成形工程と、穴あけ加工工程と、焼結工程とを備える。成形工程は、金属粉末を含む原料粉末をプレス成形して成形体を作製する。穴あけ加工工程は、成形体にローソク型ドリルを用いて穴を形成することで、穴の内周面と成形体の外側面との間の厚さGtが穴の径Gdよりも小さい薄肉部を形成する。焼結工程は、穴あけ加工工程後、成形体を焼結する。
【0016】
上記の構成によれば、薄肉部の外側面に亀裂などの疵のない焼結部品が得られる。この理由は、穴あけ加工工程でローソク型ドリルを用いることで薄肉部の外側面に疵のない成形体が得られ、焼結工程でこの成形体を焼結することと、焼結部品の表面性状は成形体の表面性状を実質的に維持することとが挙げられる。
【0017】
穴あけ加工工程で薄肉部の外側面に疵のない成形体が得られる理由は、以下の点が挙げられる。ローソク型ドリルは、その先端部の形状によって、穴を外周側に押し広げるような応力が成形体に作用し難いので、穴を形成し易い。そのため、このローソク型ドリルを用いることで、焼結部品に比べて低硬度な成形体であっても、成形体の薄肉部の外側面に亀裂などの疵が形成されることなく穴を形成し易い。この低硬度な成形体への穴あけ加工であるため、板材などの薄い部材の穴あけ加工に利用されるローソク型ドリルを利用できる。ローソク型ドリルとは、先端部の中央がろうそく形状で、先端部において中央と切れ刃の両外端(外周コーナー)とを結ぶ直線同士の間の角度(ドリル後方側)が所定の角度であり、中央と外端との間に凹部(例えば、円弧状)が形成されているドリルを言う。所定の角度としては、例えば、140°以上220°以下程度が挙げられる。
【0018】
また、上記の構成によれば、焼結部品の生産性を向上できる。焼結部品に比べて低硬度な成形体に穴あけ加工することで、焼結部品自体に穴あけ加工する場合に比較して穴を効率的に形成できて穴あけ加工時間を短縮し易いからである。また、焼結部品に比べて低硬度な成形体への穴あけ加工であっても、上述のようにローソク型ドリルは穴の周囲への負荷を低減しつつ加工できることで、加工スピードを早くし易いからである。
【0019】
更に、上記の構成によれば、ドリルの寿命の低下を抑制できる。焼結部品に比べて低硬度な成形体に穴あけ加工することや、上述のように穴あけ加工時間を短縮できることから、ドリルの加工負荷を低減し易いからである。
【0020】
(2)上記焼結部品の製造方法の一形態として、薄肉部の厚さGtは、Gd/5以上Gd/2以下であることが挙げられる。
【0021】
上記の構成によれば、薄肉部の厚さGtが上記範囲であることで、薄肉部の外側面の損傷をより一層抑制できる。
【0022】
(3)上記焼結部品の製造方法の一形態として、穴の軸方向の長さをGlとするとき、Glは、Gd以上であることが挙げられる。
【0023】
穴の径Gd以上のように穴の上記長さGlの長い穴を形成する場合にも、上述した薄肉部の外側面の損傷抑制、生産性の向上、及びドリルの寿命の低下抑制といった効果を奏することができる。焼結部品に比べて低硬度な成形体に穴あけ加工を施すため、ドリル径よりも厚さの薄い板状部材などの穴あけ加工に利用されるローソク型ドリルを利用できるからである。
【0024】
(4)本発明の一態様に係る焼結部品は、穴が形成された焼結部品であって、穴の内周面と焼結部品の外側面との間の厚さStが穴の径Sdよりも小さい薄肉部を備え、穴の内周面の形状が梨地状である。
【0025】
上記の構成によれば、生産性に優れる。上記薄肉部を備える焼結部品であっても、その薄肉部の外側面に亀裂などの損傷が形成されていないからである。焼結前の成形体にドリルで穴あけ加工した場合、金属粉末の粒子同士の結合が弱いため、金属粉末の粒子をドリルで削り落としながら切削し、穴を形成していく。そのため、成形体に形成された穴の内周面は、粒子による凹凸が全体的に形成された梨地状となる。穴の内周面の表面性状は焼結後も実質的に維持されることから、穴が形成された成形体を焼結した焼結部品においても穴の内周面は梨地状となる。つまり、焼結部品に形成された穴の内周面が梨地状であるということは、焼結前の成形体に対してドリルで穴あけ加工したことを表している。したがって、上記焼結部品は、焼結後に穴を形成した従来の焼結部品に比較して、生産性に優れる。
【0026】
(5)上記焼結部品の一形態として、穴の内周面の十点平均粗さRzが、20μm以上であることが挙げられる。
【0027】
焼結前の成形体にドリルで穴を形成して焼結した場合、焼結部品に形成された穴の内周面の十点平均粗さRzは、金属粉末の粒子の形状・サイズにもよるが、例えば20μm以上であることが挙げられる。一方、焼結後にドリルで穴を形成した場合、焼結部品に形成された穴の内周面の十点平均粗さRzは、通常20μm未満である。
【0028】
《本発明の実施形態の詳細》
本発明の実施形態の詳細を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0029】
〔実施形態1〕
実施形態1に係る焼結部品の製造方法は、成形体を作製する成形工程と、成形体に穴を形成する穴あけ加工工程と、穴あけ加工工程後、成形体を焼結する焼結工程とを備える。この焼結部品の製造方法の主たる特徴とするところは、穴あけ加工工程において、所定の位置に穴を形成して所定の薄肉部を形成する際、特定のドリルを用いる点にある。上記穴は、貫通している通し穴(貫通孔)又は貫通していない止まり穴を言う。以下、適宜図1を参照して各工程の詳細を説明する。
【0030】
[成形工程]
成形工程は、金属粉末を含む原料粉末をプレス成形して成形体を作製する。この成形体は、後述の焼結を経て製品化される機械部品の素材である。
【0031】
(原料粉末)
原料粉末は、金属粉末を主体として含有する。金属粉末の材質は、製造する焼結部品の材質に応じて適宜選択でき、代表的には、鉄系材料が挙げられる。鉄系材料とは、鉄や鉄を主成分とする鉄合金のことである。鉄合金としては、例えば、Ni,Cu,Cr,Mo,Mn,C,Si,Al,P,B,N,及びCoから選択される1種以上の添加元素を含有するものが挙げられる。具体的な鉄合金としては、ステンレス鋼、Fe−C系合金,Fe−Cu−Ni−Mo系合金,Fe−Ni−Mo−Mn系合金,Fe−P系合金,Fe−Cu系合金,Fe−Cu−C系合金,Fe−Cu−Mo系合金,Fe−Ni−Mo−Cu−C系合金,Fe−Ni−Cu系合金,Fe−Ni−Mo−C系合金,Fe−Ni−Cr系合金,Fe−Ni−Mo−Cr系合金,Fe−Cr系合金,Fe−Mo−Cr系合金,Fe−Cr−C系合金,Fe−Ni−C系合金,Fe−Mo−Mn−Cr−C系合金などが挙げられる。鉄系材料の粉末を主体とすることで、鉄系焼結部品が得られる。鉄系材料の粉末を主体とする場合、その含有量は、原料粉末を100質量%とするとき、例えば90質量%以上、更に95質量%以上とすることが挙げられる。
【0032】
鉄系材料の粉末、特に鉄粉を主体とする場合、合金成分としてCu,Ni,Moなどの金属粉末を添加してもよい。Cu,Ni,Moは、焼入れ性を向上させる元素であり、その添加量は、原料粉末を100質量%とするとき、例えば0質量%超5質量%以下、更に0.1質量%以上2質量%以下とすることが挙げられる。また、炭素(グラファイト)粉などの非金属無機材料を添加してもよい。Cは、焼結体やその熱処理体の強度を向上させる元素であり、その含有量は、原料粉末を100質量%とするとき、例えば0質量%超2質量%以下、更に0.1質量%以上1質量%以下とすることが挙げられる。
【0033】
原料粉末は、潤滑剤を含有することが好ましい。原料粉末が潤滑剤を含有することで、原料粉末をプレス成形して成形体を作製する際に成形時の潤滑性が高められ、成形性が向上する。よって、プレス成形の圧力を低くしても、緻密な成形体を得易く、成形体の密度を高めることで、高密度の焼結部品を得易い。更に、原料粉末に潤滑剤を混合すると、成形体中に潤滑剤が分散することになるため、後工程で成形体にドリルで穴あけ加工する際にドリルの潤滑剤としても機能する。従って、切削抵抗(スラスト荷重)を低減したり、工具寿命を改善したりできる。
【0034】
潤滑剤は、例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸リチウムなどの金属石鹸、ステアリン酸アミドなどの脂肪酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミドなどの高級脂肪酸アミドなどが挙げられる。潤滑剤は、固体状や粉末状、液体状など形態を問わない。潤滑剤の含有量は、原料粉末を100質量%とするとき、例えば、2質量%以下、更に1質量%以下とすることが挙げられる。潤滑剤の含有量が2質量%以下であれば、成形体に含まれる金属粉末の割合を多くできる。そのため、プレス成形の圧力を低くしても、緻密な成形体を得易い。更に、後工程で成形体を焼結した際に潤滑剤が消失することによる体積収縮を抑制でき、寸法精度が高く、高密度の焼結部品を得易い。潤滑剤の含有量は、潤滑性の向上効果を得る観点から、0.1質量%以上、更に0.5質量%以上が好ましい。
【0035】
原料粉末は、有機バインダーを含有していない。原料粉末に有機バインダーを含有しないことで、成形体に含まれる金属粉末の割合を多くできるため、プレス成形の圧力を低くしても、緻密な成形体を得易い。更に、成形体を後工程で脱脂する必要もない。
【0036】
原料粉末は、上述の金属粉末を主体とし、不可避的不純物を含むことを許容する。
【0037】
上述した金属粉末は、水アトマイズ粉、還元粉、ガスアトマイズ粉などが利用でき、中でも、水アトマイズ粉又は還元粉が好適である。水アトマイズ粉や還元粉は、粒子表面に凹凸が多く形成されていることから、成形時に粒子同士の凹凸が噛み合って、成形体の保形力を高められる。一般に、ガスアトマイズ粉では、表面に凹凸の少ない粒子が得られ易いのに対し、水アトマイズ粉又は還元粉では、表面に凹凸が多い粒子が得られ易い。
【0038】
金属粉末の平均粒径は、例えば20μm以上、50μm以上150μm以下とすることが挙げられる。金属粉末の平均粒径は、レーザ回折式粒度分布測定装置により測定した体積粒度分布における累積体積が50%となる粒径(D50)のことである。金属粉末の平均粒径が上記範囲内であれば、取り扱い易く、プレス成形が行い易い。
【0039】
(プレス成形)
プレス成形は、機械部品の最終形状に沿った形状に成形できる適宜な成形装置(成形用金型)を用いる。機械部品の形状は、中心に円形状の軸孔が形成される円筒状である場合が多い。この円筒状の機械部品の作製は、円筒の軸方向にプレス成形することで行われる。機械部品には、その外周面から軸孔に直交するように貫通する貫通孔(例えば、油孔に利用される)や止まり穴が形成されるものがある。この貫通孔や止まり穴は、成形体の成形時に一体に形成できないことから、後述する穴あけ加工工程により形成される。
【0040】
ここでは、成形体10の形状は、説明の便宜上、図1の上段図及び中段図では円筒状としている。この成形体10は、例えば、成形体10の両端面を形成する円環状のプレス面を有する上下のパンチと、上下パンチの内側に挿通されて、成形体10の内周面を形成する円柱状の内側ダイと、上下パンチの外周を囲み、成形体10の外周面を形成する円形状の挿通孔が形成された外側ダイとを用いて形成できる。この成形体10の軸方向両端面は上下のパンチでプレスされたプレス面、内周面と外周面とはダイとの摺接面であり、軸孔は成形時に一体に形成されている。
【0041】
プレス成形の圧力は、例えば250MPa以上800MPa以下が挙げられる。
【0042】
[穴あけ加工工程]
穴あけ加工工程は、成形体10にローソク型ドリル2を用いて穴12Gを形成することで薄肉部11Gを形成する(図1中段図)。穴12Gは、貫通孔又は止まり穴であり、ここでは貫通孔としている。薄肉部11Gとは、穴12Gの内周面12Giと成形体10の外側面(端面)との間に形成される部位で、穴12Gの内周面12Giと成形体10の外側面(端面)との間の厚さGtが穴12Gの径Gd(ローソク型ドリルの径Dd)よりも小さい箇所である(図1中段右の断面図)。即ち、この穴あけ加工工程では、穴12Gの形成により形成される薄肉部11Gの厚さGtが、穴12Gの径Gdよりも小さくなる箇所に穴12Gを形成する。図1中段図に示す成形体10は、薄肉部11G及び穴12Gの形成前の円筒体であり、薄肉部11G及び穴12Gを二点鎖線で示している。図1中段右の成形体10の断面図は、同中段左の全体斜視図の(b)−(b)切断線で切断した断面図である。
【0043】
ローソク型ドリル2を用いることで、薄肉部11Gの外側面11Gfの損傷を抑制し易い。ローソク型ドリル2は、その先端部の形状により、穴12Gを外周側に押し広げるような応力を成形体10に作用させ難く、穴あけ加工を行い易いからである。焼結部品1に比べて低硬度な成形体10に穴あけ加工を施すため、板材などの薄い部材の穴あけ加工に利用されるローソク型ドリル2を利用できる。この点は、貫通孔だけでなく止まり穴においても同じである。ローソク型ドリル2とは、先端部の中央がろうそく形状で、先端部において中央と切れ刃の両外端(外周コーナー)とを結ぶ直線同士の間の角度(ドリル後方側)が所定の角度であり、中央と外端との間に凹部(例えば、円弧状)が形成されているドリルを言う。所定の角度としては、例えば、140°以上220°以下程度が挙げられる。ローソク型ドリル2は、公知のものを利用できる。薄肉部11Gの外側面11Gfとは、成形体10の端面における成形体10の軸方向の穴12Gの投影領域(図1中段左の全体斜視図においてハッチングで示す)を言う。
【0044】
また、焼結部品1の生産性を向上できる。焼結部品1に比べて低硬度な成形体10に穴あけ加工することで、焼結部品1自体に穴あけ加工する場合に比較して穴12Gを効率的に形成できて穴あけ加工時間を短縮し易いからである。また、焼結部品1に比べて低硬度な成形体10への穴あけ加工であっても、上述のようにローソク型ドリル2は穴12Gの周囲への負荷を低減しつつ加工できることで、加工スピードを早くし易いからである。更に、ドリルの寿命の低下を抑制できる。焼結部品1に比べて低硬度な成形体10に穴あけ加工することや、上述のように穴あけ加工時間を短縮できることから、ドリルの加工負荷を低減し易いからである。
【0045】
薄肉部11Gの厚さGtは、Gd/5以上Gd/2以下(Dd/5以上Dd/2以下)とすることが好ましい。薄肉部11Gの厚さGtが上記範囲であることで、薄肉部11Gの外側面11Gfの損傷をより一層抑制できる。薄肉部11Gの厚さGtは、穴12Gの径Gdにもよるが、例えば、0.01mm以上10mm以下、更には0.5mm以上10mm以下が挙げられる。
【0046】
薄肉部11Gの外側面11Gfの表面性状は、プレス成形直後の状態が実質的に維持される。成形体10に穴あけ加工を施しても、上述したように薄肉部11Gの外側面11Gfの損傷を抑制し易いからである。外側面11Gfの表面性状は、後述の焼結後も実施的に維持される。
【0047】
穴12Gの径Gd(ローソク型ドリルの径Dd)は、成形体10の焼結により焼結部品1(図1下段図)のサイズが成形体10よりも縮小することを考慮した上で、焼結部品1の穴12Sの径Sdが所定の範囲となるように適宜選択すればよい。穴12Gの径Gd(ローソク型ドリルの径Dd)は、例えば、0.2mm以上50mm以下が挙げられる。
【0048】
穴12Gの軸方向の長さGlは、穴12Gの径Gd(ローソク型ドリル2の径Dd)以上とすることができる。そうすれば、穴12Gの径Gd(ローソク型ドリル2の径Dd)以上のように穴12Gの上記長さGlの長い穴12Gを形成する場合にも、上述した薄肉部11Gの外側面11Gfの損傷抑制、生産性の向上、及びドリルの寿命の低下抑制といった効果を奏することができる。焼結部品1に比べて低硬度な成形体10に穴あけ加工を施すため、ドリル径よりも厚さの薄い板状部材などの穴あけ加工に利用されるローソク型ドリル2を利用できるからである。穴12Gの上記長さGlは、更に2Gd(2Dd)以上とすることができ、特に3Gd(3Dd)以上とすることができる。穴12Gの上記の長さGlは、凡そ15Gd(15Dd)以下が挙げられる。
【0049】
穴12Gの内周面12Giは、梨地状に形成される。焼結前の成形体10は、金属粉末の粒子同士の結合が弱い。その成形体10にドリル2で穴あけ加工すると、金属粉末の粒子をドリル2で削り落としながら切削して穴12Gを形成していく。そのため、成形体10に形成された穴12Gの内周面12Giは、粒子による凹凸が全体的に形成される。この梨地状の内周面12Giは、焼結後も実施的に維持される。
【0050】
(加工条件)
ローソク型ドリル2の回転数や送り速度は、薄肉部11Gの厚さGt及び穴12Gのサイズ(径Gd、長さGl)に応じて適宜設定すればよい。ローソク型ドリル2の回転数や送り速度は、量産に適した程度に早くできる。ローソク型ドリル2の回転数は、例えば、4000rpm以上、更には6000rpm以上、特に10000rpm以上とすることができる。ローソク型ドリル2の送り速度は、例えば、800mm/min以上、更には1600mm/min以上、特に2000mm/min以上とすることができる。焼結部品の穴あけ加工に利用される通常のドリルであれば、回転数を上げるほど、送り速度を早くするほど、成形体10に加工した場合には薄肉部11Gの外側面に亀裂が生じ易くなる。通常のドリルとは、例えば、先端部の先端角を1段とするドリル(V字型ドリルということがある)や、先端部の先端角を2段とするドリル(ダブルアングルドリルということがある)などを言う。これに対して、ローソク型ドリル2は穴12Gを外周側に押し広げるような応力を成形体10に作用させ難くしつつ穴あけ加工を行い易いため、上述のような早さの回転数や送り速度で加工できる。そのため、生産性を高め易く、工具寿命の低下を抑制し易い。
【0051】
[焼結工程]
焼結工程では、上述の穴あけ加工した成形体10を焼結する。この焼結により、詳しくは後述する焼結部品1が得られる(図1下図)。この焼結には、適当な焼結炉(図示略)を用いることが挙げられる。焼結の温度は、成形体10の材質に応じて焼結に必要な温度を適宜選択することができ、例えば、1000℃以上、更に1100℃以上、特に1200℃以上が挙げられる。焼結時間は、凡そ20分以上150分以下が挙げられる。
【0052】
[焼結部品]
焼結部品1は、穴12Sが形成され、穴12Sの内周面12Siと焼結部品1の外側面(端面)との間の厚さStが穴12Sの径Sdよりも小さい薄肉部11Sを備える(図1下図)。図1下段右の焼結部品1の断面図は、同下段左の全体斜視図の(c)−(c)切断線で切断した断面図である。
【0053】
焼結部品1のサイズは焼結により成形体10に比較して縮小するが、焼結部品1の薄肉部11Sの厚さSt、穴12Sの径Sd、及び穴12Sの軸方向の長さSlの関係は、成形体10の薄肉部11Gの厚さGt、成形体10の穴12Gの径Gd、及び穴12Gの軸方向の長さGlの関係と同様である。焼結部品1の薄肉部11Sの厚さSt、穴12Sの径Sd、及び穴12Sの軸方向の長さSlはそれぞれ、成形体10の薄肉部11Gの厚さGt、成形体10の穴12Gの径Gd、及び穴12Gの軸方向の長さGlに依存するからである。
【0054】
薄肉部11Sの外側面11Sfには、亀裂などの損傷が生じていない。外側面11Sfは、図1下段左の全体斜視図においてハッチングで示す。上述したように、焼結部品1の表面性状などは、成形体10の表面性状が実質的に維持されるからである。この焼結部品1は、外側面11Gf自体に亀裂などが生じていない上述の成形体10を焼結して得られる。即ち、上述のように成形体10にドリル2で穴あけ加工した場合、成形体10の薄肉部11Gの外側面11Gfは亀裂が生じていないため、この成形体10を焼結した焼結部品1においても、薄肉部11Sの外側面11Sfは亀裂などの損傷が生じていない。
【0055】
穴12Sの内周面12Siの形状は、梨地状である。上述したように、穴12Gの内周面12Giの表面性状は焼結後も実質的に維持されるからである。上述のように成形体10にドリル2で穴あけ加工した場合、成形体10の穴12Gの内周面12Giは梨地状となるため、この成形体10を焼結した焼結部品1においても穴12Sの内周面12Siは梨地状となる。一方、焼結後の焼結部品にドリルで穴を形成した場合、焼結部品に形成された穴の内周面の形状は、全体的に凹凸の少ない平滑状であり、光沢(鏡面)状態となる。
【0056】
穴12Sの内周面12Siの十点平均粗さRzは、金属粉末の粒子の形状・サイズにもよるが、例えば、20μm以上が挙げられる。穴12iの内周面の十点平均粗さRzの上限は、例えば150μm以下が挙げられる。一方、焼結後の焼結部品にドリルで穴を形成した場合、焼結部品に形成された穴の内周面の十点平均粗さRzは、通常20μm未満、更には15μm以下である。
【0057】
〔作用効果〕
以上説明した実施形態1によれば、以下の効果を奏することができる。
【0058】
(1)薄肉部11Sの外側面11Sfに亀裂などの疵のない焼結部品1が得られる。この理由は、穴あけ加工工程でローソク型ドリル2を用いることで薄肉部11Gの外側面11Gfに疵のない成形体10が得られ、焼結工程でこの成形体10を焼結することと、焼結部品1の表面性状は成形体10の表面性状を実質的に維持することとが挙げられる。穴あけ加工工程で薄肉部11Gの外側面11Gfに疵のない成形体10が得られる理由は、以下の点が挙げられる。ローソク型ドリル2は、その先端部の形状によって、穴12Gを外周側に押し広げるような応力が成形体10に作用し難い。そのため、ローソク型ドリル2を用いることで、焼結部品1に比べて低硬度な成形体10であっても、成形体10の薄肉部11Gの外側面11Gfに亀裂などの疵が形成されることなく穴12Gを形成し易い。この低硬度な成形体10への穴あけ加工であるため、板材などの薄い部材の穴あけ加工に利用されるローソク型ドリル2を利用できる。
【0059】
(2)焼結部品1の生産性を向上できる。焼結部品1に比べて低硬度な成形体10に穴あけ加工することで、焼結部品1自体に穴あけ加工する場合に比較して穴12Gを効率的に形成できて穴あけ加工時間を短縮し易いからである。また、焼結部品1に比べて低硬度な成形体10への穴あけ加工であっても、上述のようにローソク型ドリル2は穴12Gの周囲への負荷を低減しつつ加工できることで、加工スピードを早くし易いからである。
【0060】
(3)ドリルの寿命の低下を抑制できる。焼結部品1に比べて低硬度な成形体10に穴あけ加工することや、上述のように穴あけ加工時間を短縮できることから、ドリルの加工負荷を低減し易いからである。
【0061】
(4)焼結部品1は、薄肉部11Sを備える場合であっても、その薄肉部の11Sの外側面11Sfに亀裂などの損傷が形成されていないため、生産性に優れる。
【0062】
《試験例1》
実施形態1に係る焼結部品の製造方法で説明した成形工程、穴あけ加工工程を経て、貫通孔が形成されることで薄肉部が形成された成形体を作製し、成形体の薄肉部の外側面への亀裂などの疵の有無を確認した。
【0063】
[成形工程]
原料粉末として、水アトマイズ鉄粉(D50:100μm)と、銅粉(D50:30μm)と、炭素粉(D50:20μm)と、エチレンビスステアリン酸アミドとを混合した混合粉末を準備した。
【0064】
続いて、原料粉末を図1に示すような円筒状の成形体が得られる所定の成形用金型に充填し、600MPaのプレス圧力でプレス成形して、厚さ:7mm(内径:20mm、外径:34mm)、軸方向の長さ20mmの成形体を作製した。この成形体の密度は、6.9g/cmであった。この密度は、サイズと質量から算出した見かけ密度とした。
【0065】
[穴あけ加工工程]
次に、成形体にドリルを用いて貫通孔を形成することで、薄肉部を形成した。ドリルには、ローソク型ドリル(菱高精機株式会社製 ZH342−ViO φ:4mm)と、ダブルアングルドリル(φ4mm、第一先端角:135°、第二先端角:60°)とを用いた。ダブルアングルドリルは、スーパーマルチドリル(住友電工ハードメタル株式会社製 MDW0400HGS)の先端部の両外端(外周コーナー)を研磨加工して上記角度の第二先端角を形成したものを用いた。
【0066】
各ドリルの回転数は、10000rpmとした。各ドリルの送り速度は、入り口近傍(成形体の外周面から3mm削るまで)は800mm/minとし、それ以降出口が開口するまで表1に示す送り速度(mm/min)とした。貫通孔(Gd:4mm、Gl:7mm(図1))の形成は、成形体の外周面から成形体の中心軸に向かって穴あけ加工することで行った。その際、形成する3つの貫通孔の隣接する貫通孔同士の間の略中央をチャックで維持して行った。貫通孔の形成箇所は、成形体の外周面の周方向に3等分する箇所で、表1に示す薄肉部の厚さGt(mm)が得られる箇所とした。ローソク型ドリルを用いて穴あけ加工した成形体を試料No.1−1〜1−12とし、ダブルアングルドリルを用いて穴あけ加工した成形体を試料No.1−101〜1−112とした。
【0067】
各貫通孔を形成することで形成された各薄肉部の外側面の表面を観察し、亀裂の有無を確認した。その結果を表1に示す。表1の「有」は、3箇所の外側面のうち、1箇所でも亀裂が形成されていたことを示し、表1の「無」は、3箇所の外側面の全てに亀裂が形成されていないことを示す。
【0068】
【表1】
【0069】
表1に示すように、ローソク型ドリルを用いて穴あけ加工した試料No.1−1〜1−12は、いずれも亀裂が無かった。一方、ダブルアングルドリルを用いて穴あけ加工した試料No.1−101、1−105,1−109は、亀裂が無かったものの、試料No.1−102〜1−104、1−106〜1−108、1−110〜1−112は、亀裂が形成されていた。
【0070】
《試験例2》
実施形態1に係る焼結部品の製造方法で説明した成形工程、穴あけ加工工程を経た成形体と、その成形体に更に焼結工程を経た焼結部品とをそれぞれ製造し、成形体の貫通孔の内周面と、焼結部品の貫通孔の内周面とをそれぞれ観察した。
【0071】
ここでは、成形工程及び穴あけ加工工程は、ローソク型ドリルの径φを3mmとした点を除き、試験例1の試料No.1−7と同様にした。焼結工程では、穴あけ加工工程を経て作製された成形体を、1130℃×20分で焼結して焼結部品の試料No.2−1を作製した。
【0072】
成形体の貫通孔の軸方向に沿った縦断面をとり、貫通孔の内周面を光学顕微鏡により観察した。その断面写真を図2に示す。図2の中央に示す左右に連続する帯状部分が貫通孔の内周面である。この図に示すように、貫通孔の内周面の形状は、梨地状である。この内周面の十点平均粗さRzを測定したところ、40μmであった。十点平均粗さRzの測定は、「製品の幾何特性仕様(GPS)−表面性状:輪郭曲線方式−用語、定義及び表面性状パラメータ JIS B 0601(2013)」に準拠した。
【0073】
成形体の貫通孔の内周面と同様にして、焼結部品の貫通孔の内周面を観察し、内周面の十点平均粗さRzを測定した。その結果、焼結部品の貫通孔における内周面の形状は、成形体と同様に梨地状であり、その内周面の十点平均粗さRzは、成形体と同等であった。
【0074】
これに対して、図示は省略しているが、焼結後の焼結部品に対して試験例1に示すダブルアングルドリルで貫通孔を形成し、同様に貫通孔の内周面を観察した。この貫通孔の内周面の形状は略平坦状で鏡面状態となっており、その十点平均粗さRzは11μmであった。
【0075】
《付記》
以上説明した本発明の実施形態に関連して、更に以下の付記を開示する。
【0076】
[付記1]
金属粉末を含む原料粉末をプレス成形して成形体を作製する成形工程と、
前記成形体にローソク型ドリルを用いて穴の入り口を形成する入り口穴あけ加工工程と、
前記入り口穴あけ加工工程後、前記成形体を焼結する焼結工程とを備える焼結部品の製造方法。
【0077】
上記付記1の焼結部品の製造方法によれば、穴の入り口の周縁にコバ欠けの少ない焼結部品が得られ易い。ローソク型ドリルは、焼結部品の穴あけ加工に利用される従来の一般的なドリルに比べて先端角が小さく入り口側では切屑量が少なくなり易いため、穴の入り口側でのスラスト荷重が小さくかつスラスト荷重の推移が小さいからだと考えられる。また、この焼結部品の製造方法によれば、穴の入り口側をローソク型ドリルで形成し、穴の出口側はローソク型ドリル以外のドリルを用いることも可能である。そして、入り口だけが形成され、穴底を有して貫通していない焼結部品を製造するのに好適である。
【0078】
《参考例1》
試験例1と同様の成形工程を経て作製した成形体に、試験例1で用いたローソク型ドリル及びダブルアングルドリルに加えて、V字型ドリル(先端角:135°)を用いて穴の入り口を形成する入り口穴あけ加工を施し、各ドリルにおけるスラスト荷重(N)の推移を測定した。
【0079】
ここでは、成形体のサイズは、厚さ18mm(内径17mm、外径53mm)、軸方向の長さ:20mmとした。入り口穴あけ加工は、成形体の外周面から5mmまで送り速度を800mm/minで行い、5mm以降、所定の深さに至るまで送り速度を1600mm/minで行った。
【0080】
このとき、外周面から所定の深さに至るまでのスラスト荷重の推移を測定した。スラスト荷重の推移の測定には、切削動力計(日本キスラー株式会社製、型番9272)を使用した。送り速度が800mm/minのときの最大スラスト荷重と、送り速度が1600mm/minのときの最大スラスト荷重とを図3のグラフに示す。図3のaはV字型ドリルの最大スラスト荷重、bはダブルアングルドリルの最大スラスト荷重、cはローソク型ドリルの最大スラスト荷重である。各ドリルa〜cの左側が、送り速度を800mm/minでの最大スラスト荷重であり、右側が送り速度が1600mm/minのときの最大スラスト荷重である。
【0081】
図3のグラフに示すように、ローソク型ドリルcは、V字型ドリルa及びダブルアングルドリルbに比較して、入口側での最大スラスト荷重が小さいことが分かる。また、ローソク型ドリルcは、入り口側とそれ以降とで最大スラスト荷重の差が非常に小さいことがわかる。これに対して、V字型ドリルa及びダブルアングルドリルbは、入り口側とそれ以降とで最大スラスト荷重の差が非常に大きい。
【0082】
各ドリルa〜cで入り口穴あけ加工した際の穴の入り口の光学顕微鏡写真を図4に示す。図4に示すように、ローソク型ドリルcで形成した穴の入り口は、その周縁のコバ欠けが非常に少ないことが分かる。これに対して、V字型ドリルa及びダブルアングルドリルbで形成した穴の入り口は、その周縁のコバ欠けが非常に多いことが分かる。
【0083】
図3及び図4から、穴の入り口側でのスラスト荷重が小さくかつスラスト荷重の推移が小さいことで、入り口の周縁のコバ欠けを少なくし易いことが分かる。このような結果となったは、ローソク型ドリルが、V字型ドリルやダブルアングルドリルなどの焼結部品の穴あけ加工に利用される一般的なドリルに比較して、先端角が小さいため、入り口側では切屑量が少なくなり易いからだと考えられる。切屑量が少ないことで切屑が排出される際に穴の周縁に接触する量を低減できて損傷させ難くできるからだと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の一態様に係る焼結部品の製造方法は、各種の一般構造用部品(スプロケット、ローター、ギア、リング、フランジ、プーリー、軸受けなどの機械部品などの焼結部品)の製造に好適に利用できる。本発明の一態様に係る焼結部品は、各種の一般構造用部品(スプロケット、ローター、ギア、リング、フランジ、プーリー、軸受けなどの機械部品などの焼結部品)に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0085】
1 焼結部品
10 成形体
11G、11S 薄肉部 11Gf、11Sf 外側面
12G、12S 穴 12Gi、12Si 内周面
2 ローソク型ドリル
図1
図2
図3
図4