特許第6395244号(P6395244)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6395244
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】植物ストレス耐性誘導剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 35/06 20060101AFI20180913BHJP
   A01P 21/00 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   A01N35/06
   A01P21/00
【請求項の数】10
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2018-528356(P2018-528356)
(86)(22)【出願日】2018年2月9日
(86)【国際出願番号】JP2018004707
【審査請求日】2018年5月31日
(31)【優先権主張番号】特願2017-23466(P2017-23466)
(32)【優先日】2017年2月10日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000138082
【氏名又は名称】株式会社メニコン
(73)【特許権者】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】杉江 稔正
(72)【発明者】
【氏名】加藤 直樹
(72)【発明者】
【氏名】原 正和
【審査官】 早乙女 智美
(56)【参考文献】
【文献】 欧州特許出願公開第02324709(EP,A1)
【文献】 特公昭54−015828(JP,B1)
【文献】 特開平02−221201(JP,A)
【文献】 特開昭47−025327(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0343165(US,A1)
【文献】 特開昭64−061440(JP,A)
【文献】 特表平10−500677(JP,A)
【文献】 特開平11−021262(JP,A)
【文献】 特開平11−151050(JP,A)
【文献】 特表2013−542959(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/151041(WO,A1)
【文献】 特開平10−045574(JP,A)
【文献】 新開泰弘ら,1,4-ナフトキノンは親電子修飾を介して生存シグナル制御に関わるHSF90/HSF1系を活性化する,フォーラム2013:衛生薬学・環境トキシコロジー 講演要旨,社団法人日本約学会,2013年 8月26日,p. 252
【文献】 YOSHIHISA, Y. et al.,Alkannin, HSP70 Inducer, Protects against UVB-Induced Apoptosis in Human Keratinocytes,PLOS ONE,2012年,7(10),e47903,ISSN: 1932-6203
【文献】 原 正和,植物の熱耐性向上物質とその利用,沙漠研究,2016年,25(4),pp. 301-304
【文献】 WESTERHEIDE, Sandy D. et al.,Celastrols as Inducers of the Heat Shock Response and Cytoprotection,JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY,2004年,279(53),pp. 56053-56060,ISSN: 0021-9258
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N35/06
A01P21/00
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)に示されるキノン骨格を有する化合物であって、前記一般式(I)の化合物のうちの2−メチル−1,4−ナフトキノンを除く化合物を有効成分として含有する植物ストレス耐性誘導剤。
【化1】
(式中、R1 は、水素原子、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、メチル基、アルケニル基、アルコキシ基(メトキシ基を除く)、又は−CHR6 −CH2CH=C(CH32 基を示し、
2 は、水素原子、又はハロゲン原子を示し
3 は、水素原子、ヒドロキシル基、又はニトロ基を示し、
4 は、水素原子、ヒドロキシル基、又はニトロ基を示し、
5 は、水素原子、又はニトロ基を示し
6 は、水素原子、又は−OCO−R7 基を示し、
7 は、アルキル基、1つ以上のヒドロキシル基を持つヒドロキシアルキル基、アルケニル基、又は−R8 −OCO−R9 基であり、
さらに、R8 は、−Cn2n−からなる炭化水素(n=2以上)を示し、
9 は、アルキル基を示す。)
【請求項2】
,4−ナフトキノン、5−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、5,8−ジヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、5−ヒドロキシ−2−メチル−1,4−ナフトキノン、2,3−ジクロロ−1,4−ナフトキノン、2,3−ジクロロ−5,8−ジヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、2,3−ジクロロ−5−ニトロ−1,4−ナフトキノン、2,3−ジクロロ−6−ニトロ−1,4−ナフトキノン、2−メトキシ−1,4−ナフトキノン、2−アミノ−3−クロロ−1,4−ナフトキノン、シコニン類、及びアルカニン類から選択される少なくとも1種の化合物を有効成分として含有する植物ストレス耐性誘導剤。
【請求項3】
前記シコニン類が、シコニン、デオキシシコニン、アセチルシコニン、イソブチリルシコニン、α−メチル−n−ブチルシコニン、イソバレリルシコニン、β−ヒドロキシイソバレリルシコニン、β,β−ジメチルアクリルシコニン、β−アセトキシイソバレリルシコニンから選択される少なくとも1種であり、
前記アルカニン類が、アルカニン、デオキシアルカニン、アセチルアルカニン、イソブチリルアルカニン、α−メチル−n−ブチルアルカニン、イソバレリルアルカニン、β−ヒドロキシイソバレリルアルカニン、β,β−ジメチルアクリルアルカニン、及びβ−アセトキシイソバレリルアルカニンから選択される少なくとも1種である請求項に記載の植物ストレス耐性誘導剤。
【請求項4】
前記植物ストレス耐性誘導は、少なくとも熱ショックタンパク質の発現誘導である請求項1〜のいずれか一項に記載の植物ストレス耐性誘導剤。
【請求項5】
前記ストレスが、温度ストレス、浸透圧ストレス、病理ストレス、損傷ストレス、大気ストレス、pHストレス、光ストレス、及び化学的ストレスから選ばれる少なくとも一種である請求項1〜のいずれか一項に記載の植物ストレス耐性誘導剤。
【請求項6】
前記ストレスが、高温ストレス、浸透圧ストレス、及び光ストレスから選ばれる少なくとも一種であって、
前記植物が、熱ショックタンパク質を発現する植物である、請求項に記載の植物ストレス耐性誘導剤。
【請求項7】
前記植物が、アブラナ目植物、マメ目植物、キク目植物、バラ目植物、ナス目植物、ムクロジ目植物、及びイネ目植物から選ばれる少なくとも一種である請求項1〜のいずれか一項に記載の植物ストレス耐性誘導剤。
【請求項8】
前記植物ストレス耐性誘導剤は、米品質低下の低減剤、芝の暑熱緩和生育剤、苗の徒長抑制剤、花きの生育不良抑制剤、果樹の品質劣化低減剤、又は野菜の品質劣化低減剤として用いられる請求項1〜のいずれか一項に記載の植物ストレス耐性誘導剤。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか一項に記載の植物ストレス耐性誘導剤を用いた、米品質低下の低減方法、芝の暑熱緩和生育方法、苗の徒長抑制方法、花きの生育不良抑制方法、果樹の品質劣化低減方法、又は野菜の品質劣化低減方法。
【請求項10】
前記植物ストレス耐性誘導剤は、穂ばらみ期又は出穂期を含む時期に散布される、請求項に記載の米品質低下の低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キノン骨格を有する化合物を有効成分とする植物ストレス耐性誘導剤、米品質低下の低減方法、芝の暑熱緩和生育方法、苗の徒長抑制方法、花きの生育不良抑制方法、果樹の品質劣化低減方法、及び野菜の品質劣化低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、植物は、様々な環境ストレスに曝された場合、ストレス防御反応、例えばストレス応答遺伝子の発現等を示すことが知られている。しかしながら、近年の急激な環境劣化、例えば地球温暖化等の暑熱ストレスにより、植物の生育不良、特に農作物の生産性の低下が国際的な問題となっている。近年の日本においても、酷暑の夏季期間において、農作物が暑熱や乾燥によって、ダメージを受ける事例が多く発生している。例えば、イネ科植物は、酷暑による暑熱と乾燥風により白粒米等の未熟粒の発生が問題となっている。また、生育途中の苗がストレスを受けた場合、徒長が生じ、その後の生育不良、生産性の低下等を招くことがあった。また、キク科植物、バラ科植物等の花きでは、暑熱ストレスにより奇形花・葉枯れの発生、花芽分化の遅延等の生育不良が報告されている。
【0003】
従来より、このような、植物ストレスに対する対策は、種々の検討が重ねられている。例えば、ハウス栽培等の農業資材により、日射を防ぎ、生育環境を制御する方法が知られている。しかしながら、広範囲で大掛かりな施工が必要であり、多大な費用を要するといった問題があった。また、交配育種により、耐熱性植物の作出による方法が、植物自体の耐熱性を高めるための根本的な方法として注目されている。しかしながら、交配には手間と時間がかかり、急激な環境劣化に対応して効率的に目的とする植物を作出することができないという問題があった。
【0004】
そこで、現在では、耐ストレス誘導剤を使用した植物のストレス耐性誘導方法が模索されている。耐ストレス誘導剤としては、例えば特許文献1,2に開示されるような、天然成分を中心に研究がすすめられてきた。特許文献1は、甘草抽出成分を有効成分として含有する農園芸用高温ストレス耐性賦与剤について開示する。特許文献2は、酵母細胞壁酵素分解物を含む環境ストレス耐性を付与するための薬剤組成物について開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−199419号公報
【特許文献2】特開2007−45709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1,2に開示されるように、天然成分を有効成分とする耐ストレス誘導剤は、未だ効果として十分ではないという問題があった。
本発明の目的は、植物に対して優れたストレス耐性誘導作用を発揮する植物ストレス耐性誘導剤、米品質低下の低減方法、芝の暑熱緩和生育方法、苗の徒長抑制方法、花きの生育不良抑制方法、果樹の品質劣化低減方法、及び野菜の品質劣化低減方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、特定のキノン骨格を有する化合物が植物に対して優れたストレス耐性誘導作用を発揮することを見出したことに基づくものである。
上記目的を達成するために本発明の一態様である植物ストレス耐性誘導剤は、下記一般式(I)に示されるキノン骨格を有する化合物であって、前記一般式(I)の化合物のうちの2−メチル−1,4−ナフトキノンを除く化合物を有効成分として含有することを特徴とする。
【0008】
【化1】
(式中、R1 は、水素原子、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、メチル基、アルケニル基、アルコキシ基(メトキシ基を除く)、又は−CHR6 −CH2CH=C(CH32 基を示し、
2 は、水素原子、又はハロゲン原子を示し
3 は、水素原子、ヒドロキシル基、又はニトロ基を示し、
4 は、水素原子、ヒドロキシル基、又はニトロ基を示し、
5 は、水素原子、又はニトロ基を示し
6 は、水素原子、又は−OCO−R7 基を示し、
7 は、アルキル基、1つ以上のヒドロキシル基を持つヒドロキシアルキル基、アルケニル基、又は−R8 −OCO−R9 基であり、
さらに、R8 は、−Cn2n−からなる炭化水素(n=2以上)を示し、
9 は、アルキル基を示す。
【0009】
本発明の別の態様において、植物ストレス耐性誘導剤は、1,4−ナフトキノン、5−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、5,8−ジヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、5−ヒドロキシ−2−メチル−1,4−ナフトキノン、2,3−ジクロロ−1,4−ナフトキノン、2,3−ジクロロ−5,8−ジヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、2,3−ジクロロ−5−ニトロ−1,4−ナフトキノン、2,3−ジクロロ−6−ニトロ−1,4−ナフトキノン、2−メトキシ−1,4−ナフトキノン、2−アミノ−3−クロロ−1,4−ナフトキノン、シコニン類、及びアルカニン類から選択される少なくとも1種の化合物を有効成分として含有する
【0010】
前記シコニン類が、シコニン、デオキシシコニン、アセチルシコニン、イソブチリルシコニン、α−メチル−n−ブチルシコニン、イソバレリルシコニン、β−ヒドロキシイソバレリルシコニン、β,β−ジメチルアクリルシコニン、β−アセトキシイソバレリルシコニンから選択される少なくとも1種であってもよく、
前記アルカニン類が、アルカニン、デオキシアルカニン、アセチルアルカニン、イソブチリルアルカニン、α−メチル−n−ブチルアルカニン、イソバレリルアルカニン、β−ヒドロキシイソバレリルアルカニン、β,β−ジメチルアクリルアルカニン、及びβ−アセトキシイソバレリルアルカニンから選択される少なくとも1種であってもよい。
【0011】
前記植物ストレス耐性誘導は、少なくとも熱ショックタンパク質の発現誘導であってもよい。
前記ストレスが、温度ストレス、浸透圧ストレス、病理ストレス、損傷ストレス、大気ストレス、pHストレス、光ストレス、及び化学的ストレスから選ばれる少なくとも一種であってもよい。
【0012】
前記ストレスが、高温ストレス、浸透圧ストレス、及び光ストレスから選ばれる少なくとも一種であって、前記植物が、熱ショックタンパク質を発現する植物であってもよい。
前記植物が、アブラナ目植物、マメ目植物、キク目植物、バラ目植物、ナス目植物、ムクロジ目植物、及びイネ目植物から選ばれる少なくとも一種であってもよい。
【0013】
前記植物ストレス耐性誘導剤は、米品質低下の低減剤、芝の暑熱緩和生育剤、苗の徒長抑制剤、花きの生育不良抑制剤、果樹の品質劣化低減剤、又は野菜の品質劣化低減剤として用いられてもよい。
【0014】
本発明の別態様である米品質低下の低減方法、芝の暑熱緩和生育方法、苗の徒長抑制方法、花きの生育不良抑制方法、果樹の品質劣化低減方法、又は野菜の品質劣化低減方法は、前記植物ストレス耐性誘導剤を用いることを特徴とする。
【0015】
前記米品質低下の低減方法において、前記植物ストレス耐性誘導剤は、穂ばらみ期又は出穂期を含む時期に散布されてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、植物に対して優れたストレス耐性誘導作用を発揮する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1実施形態)
以下、本発明の植物ストレス耐性誘導剤を具体化した第1実施形態を説明する。本実施形態の植物ストレス耐性誘導剤の有効成分は、下記一般式(I)に示されるキノン骨格を有する化合物を含んでいる。
【0018】
【化2】
(式中、R1 は、水素原子、ヒドロキシル基、アミノ基、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アリール基、又は−CHR6 −CH2CH=C(CH32 基を示し、
2 は、水素原子、ヒドロキシル基、アミノ基、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、又はアリール基を示し、
1 とR2 は、互いに結合してベンゼン環を形成してもよく、
3 は、水素原子、ヒドロキシル基、又はニトロ基を示し、
4 は、水素原子、ヒドロキシル基、又はニトロ基を示し、
5 は、水素原子、ヒドロキシル基、又はニトロ基を示し、
さらに、R6 は、水素原子、ヒドロキシル基、又はエステル結合を含む基を示す。)
一般式(I)で示される化合物により、優れた植物ストレス耐性誘導作用を発揮する。一般式(I)で示される化合物としては、ナフトキノン化合物、又はR1 とR2 が互いに結合してベンゼン環を形成したアントラキノン化合物が挙げられる。置換基を構成するハロゲン原子の具体例として、例えばフッ素、塩素、ヨウ素、臭素等が挙げられる。アミノ基は、−NHで表される1価の基であってもよく、アルキル基等を有する置換アミノ基であってもよい。アルキル基、アルケニル基、又はアルコキシ基を構成する炭素鎖は、直鎖状であっても、分岐状であってもよい。これらの有効成分は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
一般式(I)で示される化合物の具体例としては、例えば1,4−ナフトキノン、5−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、5,8−ジヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、5−ヒドロキシ−2−メチル−1,4−ナフトキノン、2,3−ジクロロ−1,4−ナフトキノン、2,3−ジクロロ−5,8−ジヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、2,3−ジクロロ−5−ニトロ−1,4−ナフトキノン、2,3−ジクロロ−6−ニトロ−1,4−ナフトキノン、2−メトキシ−1,4−ナフトキノン、2−アミノ−3−クロロ−1,4−ナフトキノン、シコニン類、該シコニン類の鏡像異性体であるアルカニン類等が挙げられる。
【0020】
シコニン類の具体例としては、例えばシコニン、デオキシシコニン、アセチルシコニン、イソブチリルシコニン、α−メチル−n−ブチルシコニン、イソバレリルシコニン、β−ヒドロキシイソバレリルシコニン、β,β−ジメチルアクリルシコニン、β−アセトキシイソバレリルシコニン等が挙げられる。シコニン類は、アセチルシコニン等のエステル体の形態でムラサキ科ムラサキの根中に存在する天然の色素成分であるため、かかる植物原料より抽出された粗抽出物又は精製品を使用してもよい。
【0021】
アルカニン類の具体例としては、例えばアルカニン、デオキシアルカニン、アセチルアルカニン、イソブチリルアルカニン、α−メチル−n−ブチルアルカニン、イソバレリルアルカニン、β−ヒドロキシイソバレリルアルカニン、β,β−ジメチルアクリルアルカニン、β−アセトキシイソバレリルアルカニン等が挙げられる。アルカニン類は、ルリジサ中に存在する天然色素であるため、かかる植物原料より抽出された粗抽出物又は精製品を使用してもよい。
【0022】
一般式(I)で示されるキノン骨格を有する化合物は、優れた植物ストレス耐性誘導作用を発揮する観点から、ナフトキノン化合物であることが好ましい。
また、上記一般式(I)において、本発明の効果に優れる観点から、R1 は、水素原子、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、メチル基、アルケニル基、アルコキシ基(メトキシ基を除く)、又は−CHR6 −CH2CH=C(CH32 基を示し、
2 は、水素原子、又はハロゲン原子を示し、
3 は、水素原子、ヒドロキシル基、又はニトロ基を示し、
4 は、水素原子、ヒドロキシル基、又はニトロ基を示し、
5 は、水素原子、又はニトロ基を示し、
6 は、水素原子、又は−OCO−R7 基を示し、
7 は、アルキル基、1つ以上のヒドロキシル基を持つヒドロキシアルキル基、アルケニル基、又は−R8 −OCO−R9 基であり、
さらに、R8 は、−Cn2n−からなる炭化水素(n=2以上)を示し、
9 は、アルキル基を示し、
前記植物ストレス耐性誘導剤は、前記一般式(I)の化合物のうちの2−メチル−1,4−ナフトキノン(ビタミンK)を除く化合物を有効成分として含有することがより好ましい。
【0023】
また、式中におけるR1 ,R3 ,R4 のいずれかにヒドロキシル基を有する化合物、R1 及びR2 のいずれかにハロゲン原子を有する化合物、シコニン類、アルカニン類がさらに好ましい。
【0024】
本実施形態の植物ストレス耐性誘導剤が適用される植物は、特に限定されないが、少なくとも熱ショックタンパク質を発現する植物であることが好ましい。熱ショックタンパク質(HSP:Heat Shock Protein)は、高温ストレスによって発現が誘導されるタンパク質をいい、分子シャペロンと呼ばれる一群のタンパク質として知られている。熱ショックタンパク質は、原核生物から真核生物まで多くの生物種にわたって広くその存在が認められている。また、一部の熱ショックタンパク質は高温耐性以外の環境ストレス、例えば、低温ストレス等の温度ストレス、浸透圧ストレス、病理的ストレス、損傷ストレス、大気ストレス、pHストレス、光ストレス、化学的ストレス等の耐性にも関与していることが知られている。なお、浸透圧ストレスとしては、例えば塩ストレス、乾燥ストレス等が挙げられる。病理的ストレスとしては、例えばウイルス、細菌の感染によるストレス等が挙げられる。損傷ストレスとしては、例えば食害、雹、霜、風等が挙げられる。大気ストレスとしては、例えば酸素・二酸化炭素濃度変化ストレス、大気汚染ストレス等が挙げられる。pHストレスとしては、例えばpH変化ストレス、酸・アルカリストレス等が挙げられる、光ストレスとしては、例えば強光ストレス、紫外線ストレス等が挙げられる。化学的ストレスとしては、例えば農薬、土壌汚染、肥料過多等が挙げられる。本実施形態の植物ストレス耐性誘導剤を植物に適用し、熱ショックタンパク質が発現誘導された場合、高温ストレスに対する耐性のみならず、上記の各ストレスに対する耐性の向上も期待される。なお、熱ショックタンパク質とストレスとの関係は、例えば「High-level overexpression of the Arabidopsis HsfA2 gene confers not only increased themotolerance but also salt/osmotic stress tolerance and enhanced callus growth」(Journal of Experimental Botany, Vol. 58, No. 12, pp. 3373-3383, 2007)、「The role of class A1 heat shock factors (HSFA1s) in response to heat and other stresses in Arabidopsis」(Plant, Cell and Environment (2011) 34, 738-751)等にも記載されている。
【0025】
熱ショックタンパク質としては、植物に存在する熱ショックタンパク質の全てを含み、例えばGenBankアクセッション番号がNM_111731.3、NM_105769.1、NM_128771.2、NM_121241.2、NM_128504.2、NM_127615.2、NM_101471.2、NM_125364.1、NM_119862.2、NM_118906.2、NM_124642.2等の熱ショックタンパク質が挙げられる。
【0026】
熱ショックタンパク質を発現する植物としては、被子植物及び裸子植物のいずれでもよい。具体的には、例えば、ナス目植物、セリ目植物、ナデシコ目植物、キク目植物、マメ目植物、ユリ目植物、バラ目植物、ウリ目植物、ツバキ目植物、マツ目植物、フトモモ目植物、シソ目植物、ムクロジ目植物、ブドウ目植物、イネ目植物、アブラナ目植物、ショウガ目植物等が挙げられる。より具体的には、例えば、トマト、ナス、ピーマン、トウガラシ、ジャガイモ等のナス科植物、ニンジン、セロリ、ミシマサイコ等のセリ科植物、ビート、ホウレンソウ等のアカザ科植物、シュンギク、レタス、ゴボウ、ガーベラ、キク等のキク科植物、ダイズ、エンドウ、カンゾウ、アルファルファ、スイートピー等のマメ科植物、ネギ、タマネギ、ニンニク、チューリップ等のユリ科植物、イチゴ、バラ、リンゴ、モモ、ナシ等のバラ科植物、スイカ、メロン、キュウリ等のウリ科植物、サツマイモ等のヒルガオ科植物、チャ、ツバキ等のツバキ科植物、ユーカリ等のフトモモ科植物、オリーブ等のモクセイ科植物、ウンシュウミカン(温州ミカン)、レモン等のミカン科植物、ブドウ等のブドウ科植物、シソ、バジル、ミント、ローズマリー、セージ等のシソ科植物、イネ、コムギ、オオムギ、カラスムギ、キビ、アワ、ヒエ、ライムギ、タケ、トウモロコシ、シバ、ライグラス、サトウキビ、ハトムギ等のイネ科植物、シロイヌナズナ、ダイコン、コマツナ、チンゲンサイ、ブロッコリー、キャベツ等のアブラナ科植物、バナナ等のバショウ科植物、マンゴー等のウルシ科植物、パパイア科植物、マツ科・ヒノキ科等の常緑樹、ハマミズナ科・キジカクシ科等の常緑多年草、コケ植物、その他の熱帯性植物等が挙げられる。
【0027】
本実施形態の植物ストレス耐性誘導剤の使用方法は、適用植物へ散布、浸漬等することにより行われる。植物ストレス耐性誘導剤の剤型は、固形製剤及び液体製剤のいずれでもよいが、固形製剤は保存安定性に優れ、液体製剤は即効性、散布性に優れるというメリットがある。固形製剤としては、例えば粉体、粒状、顆粒等の剤型が挙げられる。固形製剤が適用される場合には、直接散布するか、水等の溶媒に溶解させ、所定濃度に希釈した後、散布、噴霧、注入、又は灌水等によって施用してもよい。液体製剤には、溶液の他、懸濁液、ゲル状等の剤型も含まれるものとする。植物ストレス耐性誘導剤を液体として調製した場合には、直接散布するか、所定濃度に希釈して散布、噴霧、注入、又は灌水等によって施用してもよい。また、植物ストレス耐性誘導剤の施用は、保護すべき植物の植物器官、例えば花、葉、果実等の実、茎、幹、根等の少なくとも1つに対して行われてもよく、植物体の根元や土壌に対して行われてもよい。
【0028】
液体製剤が適用される場合、溶液中における有効成分としてのキノン化合物の濃度は、有効成分の種類や植物の品種等によって適宜設定することができるが、好ましくは0.001μM〜1000mM、より好ましくは0.01μM〜100mM,さらに好ましくは0.1μM〜10mMである。特に、有効成分がシコニン類又はアルカニン類の場合、好ましくは0.01μM〜1000mM、より好ましくは0.1μM〜100mM,さらに好ましくは1μM〜10mMである。かかる濃度範囲に規定することにより、植物体に対する負担の軽減を図りながら、植物のストレス耐性を向上できる。植物に適用する際、地上部にほぼ均一に散布することが好ましく、その際の散布量は、有効成分の種類や植物の品種等によって適宜設定することができる。
【0029】
本実施形態の植物ストレス耐性誘導剤を植物に適用することにより、植物のストレス耐性を向上できる。ストレスの種類としては、特に限定されないが、例えば上述した高温、低温等の温度ストレス、浸透圧ストレス、病理的ストレス、損傷ストレス、大気ストレス、pHストレス、光ストレス、化学的ストレス等が挙げられる。
【0030】
植物のストレス耐性の誘導とは、例えば熱ストレス耐性の誘導の場合であれば、植物が通常の生育温度よりも高い温度環境において熱ストレスに対する耐性を獲得することをいう。通常の生育温度よりも高い温度環境とは、植物の種類や生息域等によって異なるが、例えば25〜30℃を超える高温、例えば25〜55℃、又は30〜45℃の比較的高温域をいう。熱ストレスの負荷期間は、数時間等の短時間のものや、数日間、数ヶ月間、数年間等の長期間のものも含まれる。また、ストレス耐性の評価は、例えば植物の生育状態によって評価することができる。植物ストレス耐性誘導剤を適用した植物体(植物体の一部を含む)の成長・生育状態が、対照の植物に比べて、良好であれば、ストレス耐性が獲得された個体と評価できる。評価項目として、例えば植物体(植物体の一部を含む)の大きさ、重さ、色等が挙げられ、これらを総合的に判断してもよい。さらに、植物における熱ショックタンパク質遺伝子の発現量の増加又は熱ショックタンパク質量の増加を指標としてもよい。
【0031】
例えば、シロイヌナズナ(アブラナ科)の熱ショックタンパク質であるHSP17.6を指標とする場合、陽性対照として50μMのゲルダナマイシン溶液を作用した際に発現するHSP17.6発現量を1(HSP induction unit)とすると、上述した有効成分のいずれかを同じ植物に投与した際に、0.01以上の量で熱ショックタンパク質が発現することが好ましく、0.1以上の量で発現することがより好ましく、0.25以上の量で発現することがさらに好ましい。尚、かかる場合、有効成分の投与量は、上述した0.01μM〜100mMの範囲が好ましく、より好ましくは0.01μM〜10mM,さらに好ましくは0.1μM〜10mMである。
【0032】
本実施形態の植物ストレス耐性誘導剤によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態の植物ストレス耐性誘導剤は、有効成分として一般式(I)に示されるキノン化合物を含有する。したがって、対象植物に散布すると、植物に対して優れたストレス耐性を誘導することができる。例えば、近年の急激な環境劣化による干ばつや酷暑等といった環境変化においても、植物の生育や農作物の生産性の低下を抑制することが可能となる。
【0033】
(2)有効成分である一般式(I)に示されるキノン化合物は、化学的に合成したものを使用してもよく、市販品を使用してもよい。また、天然素材から抽出した粗抽出物、又は精製した成分を使用してもよい。したがって、安価に植物ストレス耐性誘導剤を得ることができ、高額な農業資材を要することがなく、低コストでストレス環境適用性を高めることができる。
【0034】
(第2実施形態)
以下、本発明の米品質低下の低減方法を具体化した第2実施形態を詳細に説明する。以下、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
【0035】
本実施形態の米品質低下の低減方法は、上記第1実施形態の有効成分である一般式(I)に示されるキノン骨格を有する化合物が用いられる。これらの化合物は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。一般式(I)に示される化合物のうち、1,4−ナフトキノン、5−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、5,8−ジヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、5−ヒドロキシ−2−メチル−1,4−ナフトキノン、2,3−ジクロロ−1,4−ナフトキノン、2,3−ジクロロ−5,8−ジヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、2,3−ジクロロ−5−ニトロ−1,4−ナフトキノン、2,3−ジクロロ−6−ニトロ−1,4−ナフトキノン、2−メトキシ−1,4−ナフトキノン、2−アミノ−3−クロロ−1,4−ナフトキノン、シコニン、デオキシシコニン、アセチルシコニン、イソブチリルシコニン、α−メチル−n−ブチルシコニン、イソバレリルシコニン、β−ヒドロキシイソバレリルシコニン、β,β−ジメチルアクリルシコニン、β−アセトキシイソバレリルシコニン、アルカニン、デオキシアルカニン、アセチルアルカニン、イソブチリルアルカニン、α−メチル−n−ブチルアルカニン、イソバレリルアルカニン、β−ヒドロキシイソバレリルアルカニン、β,β−ジメチルアクリルアルカニン、及びβ−アセトキシイソバレリルアルカニンから選択される少なくとも1種のナフトキノン骨格を有する化合物が好ましい。かかる化合物をイネ科植物に散布することにより、米の品質の低下を低減させる。特に、高温障害によって発生する割合が高くなる未熟粒の形成を防止する作用を発揮する。高温障害によって発生する未熟粒には、例えば白未熟粒、乳白粒、心白粒、基白粒、背白粒、腹白粒、死粒、胴割粒等が含まれるものとする。米の種類は、特に限定されず、また品質を評価する米は、精米及び玄米のいずれであってもよい。イネ科植物への散布方法は、第1実施形態と同様の方法を採用することができる。また、イネ科植物に散布される有効成分は、植物体、土壌への散布のみならず、水田の水、用水路の水に散布することにより、間接的に投与してもよい。散布時期は、特に限定されないが、未熟粒形成を防止する作用の発揮の観点から、幼穂形成期、穂ばらみ期、出穂期、又は登熟期を含む時期が好ましく、かかる作用の効率的な発揮の観点から穂ばらみ期又は出穂期を含む時期がより好ましい。
【0036】
本実施形態に係る米品質低下の低減方法は、第1実施形態の効果に加えて以下の利点を有する。
(3)本実施形態に係る方法は、上述した一般式(I)に示されるキノン化合物が用いられる。かかる化合物をイネ科植物に散布することにより、特に高温障害によって発生する米の品質の低下を低減させる。例えば、酷暑の夏季期間において、イネ等の穀物は、酷暑による暑熱や乾燥風等の環境ストレスにより白く濁った白粒米等の未熟粒米の発生が問題となっていた。未熟粒の発生を抑制することにより、外観・品質の低下、売価の低下を抑制することができる。
【0037】
(第3実施形態)
以下、本発明の芝の暑熱緩和生育方法を具体化した第3実施形態を詳細に説明する。以下、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
【0038】
本実施形態の芝の暑熱緩和生育方法は、上記第1実施形態の有効成分である一般式(I)に示されるキノン骨格を有する化合物が用いられる。これらの化合物は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。一般式(I)に示される化合物のうち、1,4−ナフトキノン、5−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、5,8−ジヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、5−ヒドロキシ−2−メチル−1,4−ナフトキノン、2,3−ジクロロ−1,4−ナフトキノン、2,3−ジクロロ−5,8−ジヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、2,3−ジクロロ−5−ニトロ−1,4−ナフトキノン、2,3−ジクロロ−6−ニトロ−1,4−ナフトキノン、2−メトキシ−1,4−ナフトキノン、2−アミノ−3−クロロ−1,4−ナフトキノン、シコニン、デオキシシコニン、アセチルシコニン、イソブチリルシコニン、α−メチル−n−ブチルシコニン、イソバレリルシコニン、β−ヒドロキシイソバレリルシコニン、β,β−ジメチルアクリルシコニン、β−アセトキシイソバレリルシコニン、アルカニン、デオキシアルカニン、アセチルアルカニン、イソブチリルアルカニン、α−メチル−n−ブチルアルカニン、イソバレリルアルカニン、β−ヒドロキシイソバレリルアルカニン、β,β−ジメチルアクリルアルカニン、及びβ−アセトキシイソバレリルアルカニンから選択される少なくとも1種のナフトキノン骨格を有する化合物が好ましい。芝への散布方法は、第1実施形態と同様の方法を採用することができる。芝の種類は、特に限定されず、芝に適用される公知のイネ科植物、例えばシバ属等がその例として挙げられる。
【0039】
本実施形態に係る芝の暑熱緩和生育方法は、第1実施形態の効果に加えて以下の利点を有する。
(4)本実施形態に係る方法は、上述した一般式(I)に示されるキノン化合物が用いられる。かかる化合物を芝に散布することにより、優れた暑熱緩和生育作用を発揮する。より具体的には、高温環境下でも芝がよく生育し、根張りを良くすることができる。
【0040】
(第4実施形態)
以下、本発明の苗の徒長抑制方法を具体化した第4実施形態を詳細に説明する。以下、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
【0041】
本実施形態の苗の徒長抑制方法は、上記第1実施形態の有効成分である一般式(I)に示されるキノン骨格を有する化合物が用いられる。これらの化合物は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。一般式(I)に示される化合物のうち、1,4−ナフトキノン、5−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、5,8−ジヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、5−ヒドロキシ−2−メチル−1,4−ナフトキノン、2,3−ジクロロ−1,4−ナフトキノン、2,3−ジクロロ−5,8−ジヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、2,3−ジクロロ−5−ニトロ−1,4−ナフトキノン、2,3−ジクロロ−6−ニトロ−1,4−ナフトキノン、2−メトキシ−1,4−ナフトキノン、2−アミノ−3−クロロ−1,4−ナフトキノン、シコニン、デオキシシコニン、アセチルシコニン、イソブチリルシコニン、α−メチル−n−ブチルシコニン、イソバレリルシコニン、β−ヒドロキシイソバレリルシコニン、β,β−ジメチルアクリルシコニン、β−アセトキシイソバレリルシコニン、アルカニン、デオキシアルカニン、アセチルアルカニン、イソブチリルアルカニン、α−メチル−n−ブチルアルカニン、イソバレリルアルカニン、β−ヒドロキシイソバレリルアルカニン、β,β−ジメチルアクリルアルカニン、及びβ−アセトキシイソバレリルアルカニンから選択される少なくとも1種のナフトキノン骨格を有する化合物が好ましい。かかる化合物を種子、新芽、又は苗に散布することにより、各種ストレス等によって発生する苗の葉、胚軸等の茎、根の徒長を抑制する。苗への散布方法は、第1実施形態と同様の方法を採用することができる。苗の種類は、特に限定されず、第1実施形態において例示した植物に適用することができる。これらの中で徒長による生産性の低下が著しいマメ目植物、イネ目植物に適用されることが好ましい。
【0042】
本実施形態に係る苗の徒長抑制方法は、第1実施形態の効果に加えて以下の利点を有する。
(5)本実施形態に係る方法は、上述した一般式(I)に示されるキノン化合物が用いられる。かかる化合物を種子、新芽、又は苗に散布することにより、優れた苗の徒長抑制作用を発揮する。例えば、高温等のストレス環境下でも苗の徒長を抑制し、生産性の低下を抑制することができる。苗が徒長した場合、収穫物の減少、病気・害虫に対する抵抗力の低下等が生ずることがある。一般式(I)に示されるキノン化合物の徒長抑制効果の発揮により、生産量の増加、植物体の質の向上等が期待される。
【0043】
(第5実施形態)
以下、本発明の花きの生育不良抑制方法を具体化した第5実施形態を詳細に説明する。以下、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
【0044】
本実施形態の花きの生育不良抑制方法は、上記第1実施形態の有効成分である一般式(I)に示されるキノン骨格を有する化合物が用いられる。これらの化合物は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。一般式(I)に示される化合物のうち、1,4−ナフトキノン、5−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、5,8−ジヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、5−ヒドロキシ−2−メチル−1,4−ナフトキノン、2,3−ジクロロ−1,4−ナフトキノン、2,3−ジクロロ−5,8−ジヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、2,3−ジクロロ−5−ニトロ−1,4−ナフトキノン、2,3−ジクロロ−6−ニトロ−1,4−ナフトキノン、2−メトキシ−1,4−ナフトキノン、2−アミノ−3−クロロ−1,4−ナフトキノン、シコニン、デオキシシコニン、アセチルシコニン、イソブチリルシコニン、α−メチル−n−ブチルシコニン、イソバレリルシコニン、β−ヒドロキシイソバレリルシコニン、β,β−ジメチルアクリルシコニン、β−アセトキシイソバレリルシコニン、アルカニン、デオキシアルカニン、アセチルアルカニン、イソブチリルアルカニン、α−メチル−n−ブチルアルカニン、イソバレリルアルカニン、β−ヒドロキシイソバレリルアルカニン、β,β−ジメチルアクリルアルカニン、及びβ−アセトキシイソバレリルアルカニンから選択される少なくとも1種のナフトキノン骨格を有する化合物が好ましい。花きへの散布方法は、第1実施形態と同様の方法を採用することができる。花きの種類は、特に限定されず、キク科植物、バラ科植物等がその例として挙げられる。
【0045】
本実施形態に係る花きの生育不良抑制方法は、第1実施形態の効果に加えて以下の利点を有する。
(6)本実施形態に係る方法は、上述した一般式(I)に示されるキノン化合物が用いられる。かかる化合物を花きに散布することにより、生育不良抑制効果を発揮する。より具体的には、高温等により十分な草丈を確保できずに着花することを回避することができる。例えば、草丈を確保することができれば、花きの取引価格の低下回避等が期待できる。
【0046】
(第6実施形態)
以下、本発明の果樹の品質劣化低減方法を具体化した第6実施形態を詳細に説明する。以下、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
【0047】
本実施形態の果樹の品質劣化低減方法は、上記第1実施形態の有効成分である一般式(I)に示されるキノン骨格を有する化合物が用いられる。これらの化合物は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。一般式(I)に示される化合物のうち、1,4−ナフトキノン、5−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、5,8−ジヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、5−ヒドロキシ−2−メチル−1,4−ナフトキノン、2,3−ジクロロ−1,4−ナフトキノン、2,3−ジクロロ−5,8−ジヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、2,3−ジクロロ−5−ニトロ−1,4−ナフトキノン、2,3−ジクロロ−6−ニトロ−1,4−ナフトキノン、2−メトキシ−1,4−ナフトキノン、2−アミノ−3−クロロ−1,4−ナフトキノン、シコニン、デオキシシコニン、アセチルシコニン、イソブチリルシコニン、α−メチル−n−ブチルシコニン、イソバレリルシコニン、β−ヒドロキシイソバレリルシコニン、β,β−ジメチルアクリルシコニン、β−アセトキシイソバレリルシコニン、アルカニン、デオキシアルカニン、アセチルアルカニン、イソブチリルアルカニン、α−メチル−n−ブチルアルカニン、イソバレリルアルカニン、β−ヒドロキシイソバレリルアルカニン、β,β−ジメチルアクリルアルカニン、及びβ−アセトキシイソバレリルアルカニンから選択される少なくとも1種のナフトキノン骨格を有する化合物が好ましい。果実(樹木)への散布方法は、第1実施形態と同様の方法を採用することができる。果実の種類は、特に限定されず、ナス科植物、バラ科植物、ウリ科植物、ミカン科植物、ブドウ科植物、バショウ科植物、ウルシ科植物、パパイア科植物等がその例として挙げられる。
【0048】
本実施形態に係る果樹の品質劣化低減方法は、第1実施形態の効果に加えて以下の利点を有する。
(7)本実施形態に係る方法は、上述した一般式(I)に示されるキノン化合物が用いられる。かかる化合物を果樹又は果実に散布することにより、果樹の品質劣化低減効果を発揮する。より具体的には、果実の変色、コルクの発生、品質の低下を低減することができる。
【0049】
(第7実施形態)
以下、本発明の野菜の品質劣化低減方法を具体化した第7実施形態を詳細に説明する。以下、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
【0050】
本実施形態の野菜の品質劣化低減方法は、上記第1実施形態の有効成分である一般式(I)に示されるキノン骨格を有する化合物が用いられる。これらの化合物は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。一般式(I)に示される化合物のうち、1,4−ナフトキノン、5−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、5,8−ジヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、5−ヒドロキシ−2−メチル−1,4−ナフトキノン、2,3−ジクロロ−1,4−ナフトキノン、2,3−ジクロロ−5,8−ジヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、2,3−ジクロロ−5−ニトロ−1,4−ナフトキノン、2,3−ジクロロ−6−ニトロ−1,4−ナフトキノン、2−メトキシ−1,4−ナフトキノン、2−アミノ−3−クロロ−1,4−ナフトキノン、シコニン、デオキシシコニン、アセチルシコニン、イソブチリルシコニン、α−メチル−n−ブチルシコニン、イソバレリルシコニン、β−ヒドロキシイソバレリルシコニン、β,β−ジメチルアクリルシコニン、β−アセトキシイソバレリルシコニン、アルカニン、デオキシアルカニン、アセチルアルカニン、イソブチリルアルカニン、α−メチル−n−ブチルアルカニン、イソバレリルアルカニン、β−ヒドロキシイソバレリルアルカニン、β,β−ジメチルアクリルアルカニン、及びβ−アセトキシイソバレリルアルカニンから選択される少なくとも1種のナフトキノン骨格を有する化合物が好ましい。野菜への散布方法は、第1実施形態と同様の方法を採用することができる。野菜の種類は、特に限定されず、ナス科植物、セリ科植物、アカザ科植物、キク科植物、マメ科植物、ユリ科植物、バラ科植物、ウリ科植物、シソ科植物、イネ科植物、アブラナ科植物等がその例として挙げられる。
【0051】
本実施形態に係る野菜の品質劣化低減方法は、第1実施形態の効果に加えて以下の利点を有する。
(8)本実施形態に係る方法は、上述した一般式(I)に示されるキノン化合物が用いられる。かかる化合物を野菜に散布することにより、野菜の品質劣化低減効果を発揮する。より具体的には、野菜の変色、成長不良、品質の低下を低減することができる。
【0052】
なお、上記各実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記各実施形態において、上記有効成分以外に、溶解性、安定性、散布性、各種効能等を向上させるために公知の添加剤、及び溶媒等を併用してもよい。公知の添加剤として、例えば界面活性剤、水溶性高分子、滑沢剤、酸化防止剤、防腐剤、結合剤、増量剤、農薬活性成分等が挙げられる。
【0053】
・上記各実施形態において、上記有効成分以外に、従来の植物生長調節剤、植物環境ストレス耐性剤、殺虫剤、抗植物ウイルス剤、殺ダニ剤、肥料等と組み合わせて施用してもよい。
【0054】
・上記実施形態の植物ストレス耐性誘導剤は、米品質低下の低減剤、芝の暑熱緩和生育剤、苗の徒長抑制剤、花きの生育不良抑制剤、果樹の品質劣化低減剤、又は野菜の品質劣化低減剤として構成してもよい。
実施例
次に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態を更に具体的に説明する。尚、本発明は、実施例欄記載の構成に限定されるものではない。
【0055】
(試験例1:キノン化合物によるHSPの発現試験1)
植物体としてシロイヌナズナ及びキノン化合物としてナフトキノン化合物を使用してHSPの発現作用について試験した。
【0056】
まず、シロイヌナズナ(アブラナ科)のHSP17.6C-C1の上流1kbにβ−グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子を連結したコンストラクトを導入した変異株を作製した。DMSOに溶解した表1に示されるナフトキノン化合物を終濃度が1μM,10μM,100μM,1000μMになるように脱イオン水で希釈し、各実施例の試験溶液を調製した(DMSOの最終濃度は1.0vol%)。陽性対照として50μMのゲルダナマイシン溶液を同様に調製した。
【0057】
次に、1/5MS培地で育てた7日齢の変異株シロイヌナズナ各2個体を各実施例及び陽性対照の試験溶液300μLに22℃、6時間浸漬した。脱イオン水でシロイヌナズナを洗浄した後、200μLの界面活性剤を含む4-Methylumbelliferyl-β-D-glucuronide hydrate溶液に浸漬し、遮光して22℃、16時間インキュベートした。上清の蛍光強度を測定し、1植物体あたりの4-Methylumbelliferone(4-MU)生成量を算出した。算出した4-MUの値を、陽性対照の4-MUの値で除して、対陽性対照比を算出した。数値が高いほど、HSPが多く発現していることを示す。結果を下記表1に示す。
【0058】
【表1】
表1に示されるように、各実施例のナフトキノン化合物は、有意にHSP遺伝子の発現を誘導することが確認された。HSPは、原核生物から真核生物まで多くの生物種にわたって広くその存在が認められているため、HSPを有する他の植物においても、同様の作用効果の発現が期待される。
【0059】
(試験例2:キノン化合物によるHSPの発現試験2)
植物体としてシロイヌナズナ及びキノン化合物としてシコニン類及びアルカニン類を使用してHSPの発現作用について試験した。
【0060】
DMSOに溶解した表2に示されるシコニン類及びアルカニン類を終濃度が1μM,10μM,100μM,1000μMになるように脱イオン水で希釈し、各実施例の試験溶液を調製した(DMSOの最終濃度は1.0vol%)。陽性対照として50μMのゲルダナマイシン溶液を同様に調製した。その他の試験方法は、試験例1と同様に行った。算出した4-MUの値を、陽性対照の4-MUの値で除して、対陽性対照比を算出した。結果を下記表2に示す。
【0061】
【表2】
表2に示されるように、各実施例のシコニン類及びアルカニン類は、陽性対照と同等のHSPの発現量が得られることが確認された。キノン化合物としてシコニン類及びアルカニン類を適用した場合であっても、HSPの誘導作用を発揮することが示された。
【0062】
(試験例3:キノン化合物による耐熱性誘導試験1)
植物体としてシロイヌナズナ及びキノン化合物としてナフトキノン化合物を使用してクロロフィル濃度に基づく耐熱性誘導試験を行った。
【0063】
6穴プレートに1/5MS培地を作製し、その上にろ紙を載せて、1穴あたり12個のwild株シロイヌナズナを播種し、植物インキュベーター内において、22℃、昼16時間、夜8時間の条件で7日間育てた。次に、1/5MS培地にDMSOに溶解した表3に示される各実施例のナフトキノン化合物を添加し、終濃度が50μMとなる各培地を6穴プレートに作製した(DMSOの最終濃度は1.0vol%)。比較対照(コントロール)として、1.0vol%のDMSOを含む培地を使用した。
【0064】
この化合物を含む培地に6穴プレートで7日間育てたシロイヌナズナをろ紙ごと移植し、植物インキュベーターで1日培養した。プレートをポリ袋に入れてウォーターバスで44℃、1時間の熱処理を行った。熱処理後、植物インキュベーターで3日間培養した。4個体のシロイヌナズナの葉を切り取り、エタノール300μLでクロロフィルを抽出した。各抽出液について、649nm、665nmの吸光度を測定し、クロロフィル濃度(mg/L)を算出した。クロロフィル濃度が高いほど耐熱性が向上していることを示す。結果を下記表3に示す。
【0065】
【表3】
表3に示されるように、ナフトキノン化合物を使用する各実施例は、コントロールに比べてクロロフィル濃度が大きく増加した。クロロフィル濃度に基づく試験方法においてもナフトキノン化合物による優れた耐熱性誘導作用が確認された。
【0066】
(試験例4:キノン化合物による耐熱性誘導試験2)
植物体としてシロイヌナズナ及びキノン化合物としてシコニン類を使用してクロロフィル濃度に基づく耐熱性誘導試験を行った。
【0067】
1/5MS培地にDMSOに溶解した表4に示される各実施例のシコニン類を添加し、終濃度が50μMとなる各培地を6穴プレートに作製した(DMSOの最終濃度は1.0vol%)。比較対照(コントロール)として、1.0vol%のDMSOを含む培地を使用した。その他の試験方法は、試験例3と同様に行った。得られたクロロフィル濃度の結果を下記表4に示す。
【0068】
【表4】
表4に示されるように、シコニン類を使用する各実施例は、コントロールに比べてクロロフィル濃度が大きく増加した。キノン化合物としてシコニン類を適用した場合であっても、クロロフィル濃度に基づく耐熱性誘導作用が確認された。
【0069】
(試験例5:ナフトキノン化合物による耐熱性誘導試験3)
植物体としてシロイヌナズナ及びナフトキノン化合物としてシコニン類を含有するシコンエキスを使用してクロロフィル濃度に基づく耐熱性誘導試験を行った。
【0070】
シコンエキスとしては、ムラサキ根エキスを含む、商品名シコニックスリキッド(BG)(一丸ファルコス社製)を使用した。シコニックスリキッドには、シコニン類としてアセチルシコニン、β−ヒドロキシイソバレリルシコニン、及びイソブチリルシコニンを主成分として含有する。また、その他少量成分としてα−メチル−n−ブチルシコニン、β,β−ジメチルアクリルシコニン、イソバレリルシコニン、及びシコニンを含有する。
【0071】
1/5MS培地にシコニックスリキッド(BG)が150倍希釈となるように添加した。比較対照(コントロール)として、同量の水を添加した。また、陽性対照(参考例)としてサーモザイム(富士見工業社製)が150倍希釈となるように添加した。その他の試験方法は、試験例3と同様に行った。得られたクロロフィル濃度の結果を下記表5に示す。
【0072】
【表5】
表5に示されるように、キノン化合物として天然由来のシコンエキスを使用する上記実施例は、コントロールに比べてクロロフィル濃度が大きく増加した。クロロフィル濃度に基づく試験方法においてもシコンエキスによる優れた耐熱性誘導作用が確認された。また、サーモザイム(陽性対照)と比べてもクロロフィル濃度は増加した。
【0073】
(試験例6:ナフトキノン化合物による苗の徒長抑制試験)
苗として発芽したアルファルファ及びキノン化合物としてナフトキノン化合物を使用して徒長抑制試験を行った。まず、発芽したばかりのアルファルファ(マメ科ムラサキウマゴヤシ)をバーミキュライトが入ったプラスチックカップに移植した。DMSOに溶解した表5に示されるナフトキノン化合物を、終濃度が100μM,1000μMとなるように脱イオン水で希釈して、各実施例の試験溶液を調製した(DMSOの最終濃度は1.0vol%)。比較対照(コントロール)として、1.0vol%のDMSOを含む水溶液を試験溶液として使用した。プラスチックカップのアルファルファ1個体に対して50μLの試験溶液を散布した。その後、25℃のインキュベーターで10日間栽培した後、胚軸長を測定した。結果を下記表6に示す。
【0074】
【表6】
表6に示されるように、ナフトキノン化合物を使用する各実施例は、コントロールに比べて胚軸長を抑制する効果が示された。ナフトキノン化合物の徒長抑制効果の発揮により、生産量の増加等が期待される。
【0075】
(試験例7:ナフトキノン化合物によるHSPの発現試験3)
植物体としてシロイヌナズナ及びナフトキノン化合物としてシコニン類を含有するシコンエキスを使用してHSPの発現作用について試験した。
【0076】
シコンエキスとしては、ムラサキ根エキスを含む、商品名シコニックスリキッド(BG)(一丸ファルコス社製)を使用した。かかるシコニックスリキッド(BG)を、水を用いて表7に示される各希釈濃度で希釈して各実施例の試験溶液とした。陽性対照として50μMのゲルダナマイシン溶液を同様に調製した。その他の試験方法は、試験例1と同様に行った。算出した4-MUの値を、陽性対照の4-MUの値で除して、対陽性対照比を算出した。結果を下記表7に示す。
【0077】
【表7】
表7に示されるように、シコンエキスは、濃度依存的にHSPの発現量が増加する傾向を示すことが確認された。キノン化合物として天然由来のシコンエキスを適用した場合であっても、HSPの誘導作用を発揮することが示された。
【0078】
(試験例8:ナフトキノン化合物によるイネの米品質低下の低減試験)
植物体としてイネ及びナフトキノン化合物としてシコニン類を含有するシコンエキスを使用して、米品質低下の低減作用について試験した。シコンエキスとしてシコニックスリキッド(BG)(一丸ファルコス社製)を使用した。
【0079】
まず、1/5000aのワグネルポットにイネ(品種:コシヒカリ)を3本植えで3箇所に移植した。基肥に化成肥料(N:P:K=12:16:14)をN:4kg/10aで使用した。試験は2反復で行った。なお、比較対照(コントロール)は4反復で行った。
【0080】
上記シコニックスリキッド(BG)を水で600倍、1800倍にそれぞれ希釈した各水溶液を各実施例の試験溶液とした。コントロールは水を使用した。穂ばらみ期に試験溶液を7mL/株の散布量でイネに葉面散布した。陽性対照(参考例)としてサーモザイム(富士見工業社製)を1000倍希釈して、35mL/株の散布量でイネに葉面散布した。サーモザイムの希釈倍率と散布量は商品設計を基に設定した。散布後、温度を28.5℃に設定した人工気象室にワグネルポットを移し、栽培を継続した。収穫後、脱穀、塩水選、籾摺りを行った後、目視により白未熟粒(乳白粒、基白粒、背腹白粒の合計)を識別して、その比率を算出した。また、籾摺り時の割れ米をカウントし、その割合を算出した。結果を下記表8に示す。
【0081】
【表8】
表8に示されるように、シコンエキスを使用する上記実施例は、コントロールに比べて白未熟粒及び割れ米の割合を減少させる効果に優れることが確認された。シコンエキスは、米の品質低下を抑制する作用を発揮することが示された。
【0082】
(試験例9:ナフトキノン化合物による芝の暑熱緩和試験)
植物体として芝及びナフトキノン化合物としてシコニン類を含有するシコンエキスを使用して、暑熱緩和作用について試験した。シコンエキスとしてシコニックスリキッド(BG)(一丸ファルコス社製)を使用した。シコニックスリキッド(BG)を水で200倍、1000倍、5000倍にそれぞれ希釈した水溶液を各実施例の試験溶液とした。陽性対照(参考例)としてサーモザイム(富士見工業社製)を1000倍希釈し試験溶液とした。試験は5月〜10月に実施した。まず、ベントグラス(品種:ペンクロス)を1×2mに区切り、各試験溶液を100mL/mの量で月に1回(計6回)散布した。試験溶液を散布しない区画をコントロールとした。なお、芝は2週間に1回程度の芝刈りを実施した。11月に試験区分毎に小型ホールカッターで抜き取って、砂を洗い落とした後、根の長さ(根長)を測定した。また、根を切り取って80℃で24時間乾燥し、重量(根重)を測定した。結果を下記表9に示す。
【0083】
【表9】
表9に示されるように、シコンエキスを使用する上記実施例は、コントロールに比べて根の伸長が誘導されていることが確認された。シコンエキスは、芝の暑熱緩和作用を発揮することが示された。
【0084】
(試験例10:ナフトキノン化合物によるキクの生育不良抑制試験)
花きとしてキク及びナフトキノン化合物としてシコニン類を含有するシコンエキスを使用して、生育不良抑制作用について試験した。シコンエキスとしてシコニックスリキッド(BG)(一丸ファルコス社製)を使用した。シコニックスリキッド(BG)を水で1000倍に希釈した水溶液を実施例の試験溶液とした。試験は温室内で7月〜10月に実施した(株の定植は7月)。まず、キク(品種:スプレー愛知夏1号)を16株/区、2反復で区切り、試験溶液を3mL/株の量で月に2回散布した。試験溶液を散布しない区画をコントロールとした。10月の開花時に草丈と切り花全重を測定した。表10に草丈と切り花全重の平均値を示す。
【0085】
【表10】
表10に示されるように、シコンエキスを使用する上記実施例は、コントロールに比べて草丈と切り花全重が増加していることが確認された。シコンエキスは、キクの生育不良抑制作用を発揮することが示された。
【0086】
(試験例11:ナフトキノン化合物によるバラの生育不良抑制試験)
花きとしてバラ及びナフトキノン化合物としてシコニン類を含有するシコンエキスを使用して、生育不良抑制作用について試験した。シコンエキスとしてシコニックスリキッド(BG)(一丸ファルコス社製)を使用した。シコニックスリキッド(BG)を水で1000倍に希釈した水溶液を実施例の試験溶液とした。試験は温室内で6月〜10月に実施した。バラ(品種名:サムライ08)を24株/区で区切り、試験溶液を20mL/株の量で月に2回散布した。試験溶液を散布しない区画をコントロールとした。8月の開花時に切り取り、切り花長(cm)を測定した。表11に切り花長の平均値を示す。
【0087】
【表11】
表11に示されるように、シコンエキスを使用する上記実施例は、コントロールに比べて切り花長が長くなっていることが確認された。シコンエキスは、バラの生育不良抑制作用を発揮することが示された。
【0088】
(試験例12:ナフトキノン化合物によるコマツナの乾燥耐性向上試験)
植物体としてコマツナ及びナフトキノン化合物としてシコニン類を含有するシコンエキスを使用して、乾燥耐性向上作用について試験した。
【0089】
128穴セルトレイを16穴(4×4)に2枚切りだし、種まき培土を入れて加水して、コマツナの種子を1穴あたり3粒播種した。人工気象器で温度を20℃に設定し、昼16時間、夜8時間で栽培を行った。出芽後、一方のセルトレイにシコンエキスとしてシコニックスリキッド(BG)(一丸ファルコス社製)を500倍希釈してスプレーで葉面散布した。散布量は1mL/穴とした。もう一方のセルトレイには同量の水を散布してコントロールとした。散布後、水を一切与えずに栽培を継続した。散布から12日後、培土への加水を行った。加水後4日目にコマツナの生存数をカウントし、初期生育数で除して生存割合(%)を算出した。結果を下記表12に示す。
【0090】
【表12】
表12に示されるように、シコンエキスを使用する上記実施例は、コントロールに比べて生存割合が高くなっていることが確認された。シコンエキスは、コマツナに対して乾燥耐性向上作用を発揮することが示された。
【0091】
(試験例13:ナフトキノン化合物によるトウモロコシの乾燥耐性向上試験1)
植物体としてトウモロコシ及びナフトキノン化合物としてシコニン類を含有するシコンエキスを使用して、乾燥耐性向上作用について試験した。
【0092】
72穴セルトレイを9穴(3×3)に2枚切りだし、種まき培土を入れて加水して、トウモロコシの種子を1穴あたり4粒播種した。人工気象器で温度を20℃に設定し、昼16時間、夜8時間で栽培を行った。出芽後、一方のセルトレイにシコンエキスとしてシコニックスリキッド(BG)(一丸ファルコス社製)を500倍希釈してスプレーで葉面散布した。散布量は2mL/穴とした。もう一方のセルトレイには同量の水を散布してコントロールとした。散布後、水を一切与えずに栽培を継続した。散布から19日後、培土への加水を行った。加水後10日目にトウモロコシの生存数をカウントし、初期生育数で除して生存割合(%)を算出した。結果を下記表13に示す。
【0093】
【表13】
表13に示されるように、シコンエキスを使用する上記実施例は、コントロールに比べて生存割合が高くなっていることが確認された。シコンエキスは、トウモロコシに対して乾燥耐性向上作用を発揮することが示された。
【0094】
(試験例14:ナフトキノン化合物によるトウモロコシの乾燥耐性向上試験2)
植物体としてトウモロコシ及びナフトキノン化合物として5,8−ジヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、2,3−ジクロロ−1,4−ナフトキノン、2,3−ジクロロ−5,8−ジヒドロキシ−1,4−ナフトキノンを使用して、乾燥耐性向上作用について試験した。
【0095】
72穴セルトレイを9穴(3×3)に4枚切りだし、種まき培土を入れて加水して、トウモロコシの種子を1穴あたり4粒播種した。人工気象器で温度を20℃に設定し、昼16時間、夜8時間で栽培を行った。出芽後、DMSOに溶解した上記ナフトキノン化合物を終濃度が10μMになるように脱イオン水で希釈し、各実施例の試験溶液を調製した(DMSOの最終濃度は1.0vol%)。3枚のセルトレイに各試験溶液をそれぞれスプレーで葉面散布した。散布量は2mL/穴とした。コントロールのセルトレイには同量の水を散布した。散布後、水を一切与えずに栽培を継続した。散布から19日後、培土への加水を行った。加水後5日目にトウモロコシの生存数をカウントし、初期生育数で除して生存割合(%)を算出した。結果を下記表14に示す。
【0096】
【表14】
表14に示されるように、ナフトキノン化合物を使用する上記実施例は、コントロールに比べて生存割合が高くなっていることが確認された。ナフトキノン化合物は、トウモロコシに対して乾燥耐性向上作用を発揮することが示された。
【0097】
(試験例15:ナフトキノン化合物によるアルファルファの乾燥耐性向上試験)
植物体としてアルファルファ及びナフトキノン化合物としてシコニン類を含有するシコンエキスを使用して、乾燥耐性向上作用について試験した。
【0098】
128穴セルトレイを16穴(4×4)に2枚切りだし、種まき培土を入れて加水して、アルファルファの種子を1穴あたり4粒播種した。人工気象器で温度を20℃に設定し、昼16時間、夜8時間で栽培を行った。出芽後、一方のセルトレイにシコンエキスとしてシコニックスリキッド(BG)(一丸ファルコス社製)を500倍希釈してスプレーで葉面散布した。散布量は1mL/穴とした。もう一方のセルトレイには同量の水を散布してコントロールとした。散布後、水を一切与えずに栽培を継続した。散布から9日後、培土への加水を行った。加水後14日目にアルファルファの生存数をカウントし、初期生育数で除して生存割合(%)を算出した。結果を下記表15に示す。
【0099】
【表15】
表15に示されるように、シコンエキスを使用する上記実施例は、コントロールに比べて生存割合が高くなっていることが確認された。シコンエキスは、アルファルファに対して乾燥耐性向上作用を発揮することが示された。
【0100】
(試験例16:ナフトキノン化合物によるトウモロコシの耐塩性向上試験1)
植物体としてトウモロコシ及びナフトキノン化合物としてシコニン類を含有するシコンエキスを使用して、耐塩性向上作用について試験した。
【0101】
72穴セルトレイを9穴(3×3)に2枚切りだし、種まき培土を入れて加水して、トウモロコシの種子を1穴あたり4粒播種した。人工気象器で温度を20℃に設定し、昼16時間、夜8時間で栽培を行った。出芽後、一方のセルトレイにシコンエキスとしてシコニックスリキッド(BG)(一丸ファルコス社製)を500倍希釈してスプレーで葉面散布した。散布量は2mL/穴とした。もう一方のセルトレイには同量の水を散布してコントロールとした。2日後、1.0%のNaCl溶液を調製し、セルトレイの下面から吸水させた。1日おきに5回NaCl溶液処理を行った。地上部を切断して新鮮重量を測定し、平均値(g/株)を算出した。結果を下記表16に示す。
【0102】
【表16】
表16に示されるように、シコンエキスを使用する上記実施例は、コントロールに比べて地上部の重量が多くなっていることが確認された。シコンエキスは、トウモロコシに対して耐塩性向上作用を発揮することが示された。
【0103】
(試験例17:ナフトキノン化合物によるトウモロコシの耐塩性向上試験2)
植物体としてトウモロコシ及びナフトキノン化合物として5,8−ジヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、2,3−ジクロロ−1,4−ナフトキノン、2,3−ジクロロ−5,8−ジヒドロキシ−1,4−ナフトキノンを使用して、乾燥耐性向上作用について試験した。
【0104】
72穴セルトレイを9穴(3×3)に4枚切りだし、種まき培土を入れて加水して、トウモロコシの種子を1穴あたり4粒播種した。人工気象器で温度を20℃に設定し、昼16時間、夜8時間で栽培を行った。出芽後、DMSOに溶解した上記ナフトキノン化合物を終濃度が10μMになるように脱イオン水で希釈し、各実施例の試験溶液を調製した(DMSOの最終濃度は1.0vol%)。3枚のセルトレイに各試験溶液をそれぞれスプレーで葉面散布した。散布量は2mL/穴とした。コントロールのセルトレイには同量の水を散布した。2日後、1.0%のNaCl溶液を調製し、セルトレイの下面から吸水させた。1日おきに5回NaCl溶液処理を行った。地上部を切断して新鮮重量を測定し、平均値(g/株)を算出した。結果を下記表17に示す。
【0105】
【表17】
表17に示されるように、ナフトキノン化合物を使用する上記実施例は、コントロールに比べて地上部の重量が多くなっていることが確認された。ナフトキノン化合物は、トウモロコシに対して耐塩性向上作用を発揮することが示された。
【0106】
(試験例18:ナフトキノン化合物によるライムギの耐塩性向上試験)
植物体としてライムギ及びナフトキノン化合物としてシコニン類を含有するシコンエキスを使用して、耐塩性向上作用について試験した。
【0107】
72穴セルトレイを4穴(2×2)に2枚切りだし、種まき培土を入れて加水して、ライムギの種子を1穴あたり5粒播種した。人工気象器で温度を20℃に設定し、昼16時間、夜8時間で栽培を行った。出芽後、一方のセルトレイにシコンエキスとしてシコニックスリキッド(BG)(一丸ファルコス社製)を500倍希釈してスプレーで葉面散布した。散布量は2mL/穴とした。もう一方のセルトレイには同量の水を散布してコントロールとした。2日後、1.5%のNaCl溶液を調製し、セルトレイの下面から吸水させた。1日おきに8回NaCl溶液処理を行った。地上部を切断して新鮮重量を測定し、平均値(g/株)を算出した。結果を下記表18に示す。
【0108】
【表18】
表18に示されるように、シコンエキスを使用する上記実施例は、コントロールに比べて地上部の重量が多くなっていることが確認された。シコンエキスは、ライムギに対して耐塩性向上作用を発揮することが示された。
【0109】
(試験例19:ナフトキノン化合物によるアルファルファの耐塩性向上試験)
植物体としてアルファルファ及びナフトキノン化合物としてシコニン類を含有するシコンエキスを使用して、耐塩性向上作用について試験した。
【0110】
72穴セルトレイを9穴(3×3)に2枚切りだし、種まき培土を入れて加水して、アルファルファの種子を1穴あたり12粒播種した。人工気象器で温度を20℃に設定し、昼16時間、夜8時間で栽培を行った。出芽後、一方のセルトレイにシコンエキスとしてシコニックスリキッド(BG)(一丸ファルコス社製)を500倍希釈してスプレーで葉面散布した。散布量は2mL/穴とした。もう一方のセルトレイには同量の水を散布してコントロールとした。2日後、0.7%のNaCl溶液を調製し、セルトレイの下面から吸水させた。1日おきに3回NaCl溶液処理を行った。地上部を切断して新鮮重量を測定し、平均値(mg/株)を算出した。結果を下記表19に示す。
【0111】
【表19】
表19に示されるように、シコンエキスを使用する上記実施例は、コントロールに比べて地上部の重量が多くなっていることが確認された。シコンエキスは、アルファルファに対して耐塩性向上作用を発揮することが示された。
【0112】
(試験例20:ナフトキノン化合物によるダイコンの耐塩性向上試験)
植物体としてダイコン及びナフトキノン化合物としてシコニン類を含有するシコンエキスを使用して、耐塩性向上作用について試験した。
【0113】
72穴セルトレイを4穴(2×2)に2枚切りだし、種まき培土を入れて加水して、ダイコンの種子を1穴あたり8粒播種した。人工気象器で温度を20℃に設定し、昼16時間、夜8時間で栽培を行った。出芽後、一方のセルトレイにシコンエキスとしてシコニックスリキッド(BG)(一丸ファルコス社製)を500倍希釈してスプレーで葉面散布した。散布量は2mL/穴とした。もう一方のセルトレイには同量の水を散布してコントロールとした。2日後、1.0%のNaCl溶液を調製し、セルトレイの下面から吸水させた。1日おきに2回NaCl溶液処理を行った。地上部を切断して新鮮重量を測定し、平均値(g/株)を算出した。結果を下記表20に示す。
【0114】
【表20】
表20に示されるように、シコンエキスを使用する上記実施例は、コントロールに比べて地上部の重量が多くなっていることが確認された。シコンエキスは、ダイコンに対して耐塩性向上作用を発揮することが示された。
【0115】
(試験例21:ナフトキノン化合物によるトマトの耐塩性向上試験)
植物体としてミニトマト及びナフトキノン化合物としてシコニン類を含有するシコンエキスを使用して、耐塩性向上作用について試験した。
【0116】
72穴セルトレイを4穴(2×2)に2枚切りだし、種まき培土を入れて加水して、トマトの種子を1穴あたり8粒播種した。人工気象器で温度を20℃に設定し、昼16時間、夜8時間で栽培を行った。出芽後、一方のセルトレイにシコンエキスとしてシコニックスリキッド(BG)(一丸ファルコス社製)を500倍希釈してスプレーで葉面散布した。散布量は2mL/穴とした。もう一方のセルトレイには同量の水を散布してコントロールとした。2日後、1.0%のNaCl溶液を調製し、セルトレイの下面から吸水させた。1日おきに7回NaCl溶液処理を行った。根を切断して根を洗い、乾燥させて重量を測定し、平均値(mg/株)を算出した。結果を下記表21に示す。
【0117】
【表21】
表21に示されるように、シコンエキスを使用する上記実施例は、コントロールに比べて根の重量が多くなっていることが確認された。シコンエキスは、トマトに対して耐塩性向上作用を発揮することが示された。
【0118】
(試験例22:ナフトキノン化合物による温州ミカンの日焼け低減試験)
植物体(果実)として温州ミカン及びナフトキノン化合物としてシコニン類を含有するシコンエキスを使用して、日焼け低減作用について試験した。
【0119】
梅雨明け直後、極早生温州の果実20果にシコンエキスとしてシコニックスリキッド(BG)(一丸ファルコス社製)を200倍希釈してスプレー散布した。散布量は果実が十分に濡れる程度とした。別の20果を何も散布しないコントロールとした。9月上旬に果皮の日焼け程度を評価した。評価は4段階で無(0)、軽(1)、中(2)、甚(3)とした。発生程度を数値化するために、果数と括弧内数値の積を合計し、総果数で割った。日焼けの発生程度が少ないと数字は小さくなる。結果を下記表22に示す。
【0120】
【表22】
表22に示されるように、シコンエキスを使用する上記実施例は、コントロールに比べて日焼けの発生程度が少ないことが確認された。シコンエキスは、ミカンに対して日焼けの発生低減作用を発揮することが示された。
【0121】
(試験例23:ナフトキノン化合物によるナシの品質劣化抑制試験)
植物体(果実)としてナシ及びナフトキノン化合物としてシコニン類を含有するシコンエキスを使用して、品質劣化抑制作用について試験した。
【0122】
シコンエキスとしてシコニックスリキッド(BG)(一丸ファルコス社製)を使用した。シコニックスリキッド(BG)を水で200倍に希釈した水溶液を実施例の試験溶液とした。試験は圃場内で7月〜10月に実施した。ナシ(品種名:にっこり)を主枝1本×2樹、試験溶液を1L/主枝1本の量で7/15、7/28、8/18に3回散布した。試験溶液を散布しない区画をコントロールとした。10月中旬から下旬にかけて果実を収穫し、果実の生理障害(褐変、コルク)の程度を検査した。障害の程度は、0〜3の4段階で評価し、その総数を果実の個体数で割った値を求めた。結果を下記表23に示す。
【0123】
【表23】
表23に示されるように、シコンエキスを使用する上記実施例は、コントロールに比べて生理障害が明確に抑制されていることが確認された。シコンエキスは、ナシの品質劣化抑制作用を発揮することが示された。
【0124】
(試験例24:ナフトキノン化合物によるトマトの品質劣化抑制試験)
野菜としてトマト及びナフトキノン化合物としてシコニン類を含有するシコンエキスを使用して、品質劣化抑制作用について試験した。
【0125】
シコンエキスとしてシコニックスリキッド(BG)(一丸ファルコス社製)を使用した。シコニックスリキッド(BG)を水で1000倍に希釈した水溶液を実施例の試験溶液とした。試験は圃場内で5月〜10月に実施した。トマト(品種名:りんか409)を1区10株、6/27〜8/29まで2週間に1回(計6回)、試験溶液を葉面に十分量散布した。試験溶液を散布しない区画をコントロールとした。8/14から10/9まで収穫検査した。トマト表面における生理障害(同心円状裂果)が生じている割合(%)を求めた。また、トマトの品質を「秀」、「優」、「秀・優以外」の3段階で評価した。結果を下記表24に示す。
【0126】
【表24】
表24に示されるように、シコンエキスを使用する上記実施例は、コントロールに比べて「秀」と「優」の評価が多くなり、生理障害が明確に抑制されていることが確認された。シコンエキスは、トマトの品質劣化抑制作用を発揮することが示された。
【要約】
植物に対して優れたストレス耐性誘導作用を発揮する植物ストレス耐性誘導剤、米品質低下の低減方法、芝の暑熱緩和生育方法、苗の徒長抑制方法、花きの生育不良抑制方法、果樹の品質劣化低減方法、及び野菜の品質劣化低減方法を提供する。本発明の植物ストレス耐性誘導剤は、下記一般式(I)に示されるキノン骨格を有する化合物を有効成分として含有する。
(式中、R1 は、水素原子、ヒドロキシル基、アミノ基、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アリール基、又は−CHR6 −CH2CH=C(CH32 基を示し、R2 は、水素原子等を示し、R1 とR2 は、互いに結合してベンゼン環を形成してもよく、R3 は、水素原子等を示し、R4 は、水素原子等を示し、R5 は、水素原子等を示し、さらに、R6 は、水素原子、ヒドロキシル基、又はエステル結合を含む基を示す。)