【文献】
Journal of Fluorine Chemistry,1992年,Vol. 57,pp. 101-111
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
アルキル基中の水素原子をすべてフッ素に置換したペルフルオロアルキル基を有する界面活性剤は、ハイドロカーボン系では達成できない優れた界面活性能を有することが知られており、これまでに工業的に広く用いられてきた。
【0003】
フッ素系界面活性剤としては、ペルフルオロカルボン酸(RfCOOH)を合成原料とした各種誘導体が挙げられ、なかでもペルフルオロオクタン酸(PFOA)などのアンモニウム塩がフッ素樹脂の乳化重合剤などとしてよく用いられてきた。このペルフルオロカルボン酸の合成方法としては、電解フッ素化反応により合成する方法が知られているが、電解フッ素化反応によるこれらの化合物の製造は、一般的な合成反応に比べ収率が低いことが課題であった。
【0004】
この課題を克服するため、特許文献1には、炭素骨格のみからなるペルフルオロカルボン酸の代わりに窒素を含有するペルフルオロアルキル基を置換せしめた含フッ素カチオン型界面活性剤が開示されている。
【0005】
ところで、従来のペルフルオロカルボン酸よりも電解フッ素化反応による収率が良好なものとして、上記の含窒素ペルフルオロアルキル基を構造に有するフッ素系界面活性剤が知られていたが、界面活性剤の種類としてはカチオン型のみであり、塗料のレベリング性やフッ素樹脂乳化重合剤、めっき液、エッチング液などの添加剤、樹脂改質剤、コーティング添加剤、表面処理剤、洗浄剤、繊維処理剤、消火薬剤、農業用フィルム防霧剤等の広範な用途に対応するためには、アニオン型や両性型、ノニオン型、オリゴマー型などのタイプの界面活性剤が求められていた。
【0006】
また、特許文献1に開示されたフッ素系カチオン型界面活性剤は、酸性や塩基性条件下で添加すると変質してしまって沈殿物が発生し、界面活性能が低下するほか、均一な系で取り扱うことが出来ない等、めっき液添加剤などとして使用する場合には多くの課題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、高い表面張力低下能を有し、界面活性剤として有用な含窒素ペルフルオロアルキル基を有する新規なフッ素系界面活性剤及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の構成を採用した。
[1] 下記式(1)で示されるフッ素系界面活性剤。
【化1】
ここで、上記式(1)中に示されるRf
1,Rf
2及びRf
3は、それぞれ同一または互いに異なる炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基であって、直鎖状又は分岐状であってもよい。また、前記Rf
1及びRf
2は、直接結合し、環状を形成していても良い。さらに、前記Rf
1及びRf
2は、酸素原子又は窒素原子を介して結合し、両者が結合している酸素原子あるいは窒素原子と共に複素環を形成していてもよい。
また、Xは、CO又はSO
2である。
さらに、Yは、NR
1(CH
2)
mCO
2M(MはH,
R2R3R4R5N,H
3O,Li,Na,K,Ca,Mg、mは1〜4の整数、R
1は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基、R
2〜R
5は水素原子またはそれぞれ独立した炭素数1〜20までの直鎖もしくは分岐状のアルキル基)と示されるアニオン型からなる群から選択されるいずれか1つである。
[2] 下記式(1)で示されるフッ素系界面活性剤。
【化2】
ここで、上記式(1)中に示されるRf
1,Rf
2及びRf
3は、それぞれ同一または互いに異なる炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基であって、直鎖状又は分岐状であってもよい。また、前記Rf
1及びRf
2は、直接結合し、環状を形成していても良い。さらに、前記Rf
1及びRf
2は、酸素原子又は窒素原子を介して結合し、両者が結合している酸素原子あるいは窒素原子と共に複素環を形成していてもよい。
また、Xは、CO又はSO
2である。
さらに、Yは、カルボキシベタイン型のNR
6(CH
2)
mN
+R
7R
8(CH
2)
nCO
2−(mは2〜4の整数、nは1〜5の整数、R
6、R
7、R
8は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基)、またはスルホベタイン型のNR
6(CH
2)
mN
+R
7R
8(CH
2)
nSO
3−(mは2〜4の整数、nは1〜5の整数、R
6、R
7、R
8は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基)、またはアミンオキシド型のNR
6(CH
2)
mN
+R
7R
8O
−(mは2〜4の整数、R
6、R
7、R
8は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基)と示される両性型からなる群から選択されるいずれか1つである。
[3] 下記式(1)で示されるフッ素系界面活性剤。
【化3】
ここで、上記式(1)中に示されるRf
1,Rf
2及びRf
3は、それぞれ同一または互いに異なる炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基であって、直鎖状又は分岐状であってもよい。また、前記Rf
1及びRf
2は、直接結合し、環状を形成していても良い。さらに、前記Rf
1及びRf
2は、酸素原子又は窒素原子を介して結合し、両者が結合している酸素原子あるいは窒素原子と共に複素環を形成していてもよい。
また、Xは、CO又はSO
2である。
さらに、Yは、O(CH
2CH
2O)
a(CH(CH
3)CH
2O)
b(CH
2CH
2O)
cH(a,b,cは、いずれも整数であり、少なくとも一つが1以上である)、またはNR
9R
10OH(R
9は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基、R
10は炭素数1〜30のアルキレン基またはオキシアルキレン基)と示されるノニオン型からなる群から選択されるいずれか1つである。
[4] 前項1乃至3のいずれか一項に記載のフッ素系界面活性剤の製造方法であって、
下記式(38)で示される含窒素ペルフルオロアルキル基を有するカルボン酸ハロゲン化物又はスルホン酸ハロゲン化物を原料とする、フッ素系界面活性剤の製造方法。
【化4】
ここで、上記式(38)中に示されるRf
1,Rf
2及びRf
3は、それぞれ同一又は互いに異なる炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基であって、直鎖状又は分岐状であってもよい。また、前記Rf
1及びRf
2は、直接結合し、環状を形成していても良い。さらに、前記Rf
1及びRf
2は、酸素原子又は窒素原子を介して結合し、両者が結合している酸素原子あるいは窒素原子と共に複素環を形成していてもよい。
また、Xは、CO又はSO
2である。
さらに、Zは、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素からなる群から選択されるいずれか1のハロゲン原子である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のフッ素系界面活性剤は、含窒素ペルフルオロアルキル基含有化合物に、酸や塩基に対して安定なカチオン型以外の各種溶媒可溶化基が導入されているため、高い表面張力低下能を有しつつ、酸性下あるいは塩基性下での沈殿物の発生を抑えることができる。
【0011】
本発明のフッ素系界面活性剤の製造方法は、含窒素ペルフルオロアルキル基を持つカルボン酸またはスルホン酸ハロゲン化物を原料とすることを特徴とし、各種誘導体の合成を容易に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を適用した一実施形態であるフッ素系界面活性剤について、その製造方法とともに詳細に説明する。
【0013】
<フッ素系界面活性剤>
先ず、本実施形態のフッ素系界面活性剤の構成について説明する。
本実施形態のフッ素系界面活性剤は、下記式(1)に示される含窒素ペルフルオロアルキル基含有化合物に、カチオン型以外の各種溶媒可溶化基を導入したものである。
【化39】
【0014】
ここで、上記式(1)中に示されるRf
1,Rf
2及びRf
3は、それぞれ炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基であり、それらは同一であっても良いし、互いに異なっていてもよい。また、Rf
1,Rf
2及びRf
3は、直鎖状であってもよいし、分鎖状であってもよい。
【0015】
また、上記Rf
1及びRf
2は、直接結合し、環状を形成していても良い。さらに、Rf
1及びRf
2は、酸素原子又は窒素原子を介して結合し、両者が結合している酸素原子あるいは窒素原子と共に複素環を形成していてもよい。
【0016】
また、上記式(1)中に示されるXは、CO及びSO
2のいずれか一方である。
【0017】
上記式(1)中の上記Xまで含む構造の具体例としては、下記式(2)〜(37)の構造が挙げられる。
【化40】
【化41】
【化42】
【化43】
【化44】
【化45】
【化46】
【化47】
【化48】
【化49】
【化50】
【化51】
【化52】
【化53】
【化54】
【化55】
【化56】
【化57】
【化58】
【化59】
【化60】
【化61】
【化62】
【化63】
【化64】
【化65】
【化66】
【化67】
【化68】
【化69】
【化70】
【化71】
【化72】
【化73】
【化74】
【化75】
【0018】
上記式(1)中に示されるYは、アニオン型、両性型、ノニオン型及びオリゴマー型からなる群から選択されるいずれか1の各種溶媒可溶化基である。ここで、各種溶媒の例としては、水(水溶液)の他、メタノールやエタノールなどのアルコール、酢酸エチル等のエステル系溶媒、アセトン等のケトン系溶媒、トルエン等の芳香族炭化水素系溶媒、ヘキサン等の炭化水素系溶媒が挙げられ、溶媒可溶化基とはこれらの溶媒への溶解性を高める効果を有する基を意味する。すなわち、例えば水溶液系であれば、親水性の極性基であり、アニオンや両性のイオン構造、あるいはポリオキシアルキレン基のようなノニオン構造が好適である。また、有機溶媒系や樹脂などにおいては、オリゴマー系などが好適である。溶媒との相溶性については、溶解度パラメータなどを考慮して可溶化基を選択しても良い。
【0019】
具体的には、上記Yがアニオン型である場合には、OM、またはNR
1(CH
2)
mCO
2M(MはH,
R2R3R4R5N,H
3O,Li,Na,K,Ca,Mg、mは1〜4の整数、R
1は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基、R
2〜R
5は水素原子またはそれぞれ独立した炭素数1〜20までの直鎖もしくは分岐状のアルキル基)と示される。
【0020】
ここで、第4級アンモニウム塩(
R2R3R4R5N)としては、R
2〜R
5が水素原子またはそれぞれ独立した炭素数1〜20までの直鎖もしくは分岐状のアルキル基であれば、特に限定されるものではない。より具体的には、R
2R
3R
4R
5が全て同じ化合物としては、例えば、
(CH3)4N、
(C2H5)4N、
(C3H7)4N、
(C4H9)4N、
(C5H11)4N、
(C6H13)4N、
(C7H15)4N、
(C8H17)4N、
(C9H19)4N、
(C10H21)4N等が挙げられる。また、R
2R
3R
4が全てメチル基の場合としては、例えば、R
5が(C
2H
5)、(C
6H
13)、(C
8H
17)、(C
9H
19)、(C
10H
21)、(C
12H
25)、(C
14H
29)、(C
16H
33)、(C
18H
37)等の化合物が挙げられる。さらに、R
2R
3が全てメチル基の場合としては、例えば、R
4R
5が全て(C
8H
17)、(C
10H
21)、(C
12H
25)、(C
14H
29)、(C
16H
33)、(C
18H
37)等の化合物が挙げられる。更にまた、R
2がメチル基の場合としては、例えば、R
3R
4R
5が全て(C
4H
9)、(C
8H
17)等の化合物が挙げられる。
【0021】
さらに、本実施形態のフッ素系界面活性剤は、上記式(1)中に示されるXがCOであって、上記式(1)中に示されるYがアニオン型である場合、上記Yは、OM
1(M
1はLi,K,Ca,Mg)であることが好ましい。
一方、上記式(1)中に示されるXがSO
2であって、上記式(1)中に示されるYがアニオン型である場合、上記Yは、OM
2、またはNR
1(CH
2)
mCO
2M
2(M
2はH,
R2R3R4R5N,H
3O,Li,Na,K,Ca,Mg、mは1〜4の整数、R
1は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基、R
2〜R
5は水素原子またはそれぞれ独立した炭素数1〜20までの直鎖もしくは分岐状のアルキル基)であることが好ましい。
【0022】
また、上記Yが両性型である場合には、カルボキシベタイン型のNR
6(CH
2)
mN
+R
7R
8(CH
2)
nCO
2−(mは2〜4の整数、nは1〜5の整数、R
6、R
7、R
8は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基)、またはスルホベタイン型のNR
6(CH
2)
mN
+R
7R
8(CH
2)
nSO
3−(mは2〜4の整数、nは1〜5の整数、R
6、R
7、R
8は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基)、またはアミンオキシド型のNR
6(CH
2)
mN
+R
7R
8O
−(mは2〜4の整数、R
6、R
7、R
8は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基)と示される。
【0023】
また、上記Yがノニオン型である場合には、O(CH
2CH
2O)
a(CH(CH
3)CH
2O)
b(CH
2CH
2O)
cH(a,b,cは、いずれも整数であり、少なくとも一つが1以上である)、またはNR
9R
10OH(R
9は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基、R
10は炭素数1〜30のアルキレン基またはオキシアルキレン基)と示される。
【0024】
また、上記Yがオリゴマー型である場合には、当該Yは、アルキル基またはポリオキシアルキル基を有するアクリレートの重合体である。
【0025】
本実施形態のフッ素系界面活性剤は、水性溶媒や有機溶媒が用いられている塗料やインキ、床ワックスのレベリング性を得るためのレベリング剤や、フッ素樹脂の乳化重合剤、又は通常酸性であるめっき液やエッチング液の添加剤、高分散性による樹脂特性を向上させるための樹脂改質剤、離型性や帯電防止性能、防汚、防錆、殺菌機能を付与するためのコーティング添加剤や表面処理剤、高い浸透性による洗浄剤や繊維処理剤、消火薬剤、農業用フィルム防霧剤などの用途に好適に使用することができる。
【0026】
なお、上記用途に用いる際、フッ素系界面活性剤の使用可能な溶媒については特に限定されるものではなく、水溶液の他、有機溶媒であってもよい。有機溶媒の例としてはメタノールやエタノールなどのアルコール、酢酸エチル等のエステル系溶媒、アセトン等のケトン系溶媒、トルエン等の芳香族炭化水素系溶媒、ヘキサン等の炭化水素系溶媒が挙げられる。また、水溶液についてもpHが酸性、中性及び塩基性のいずれの範囲であっても優れた界面活性能を発揮することが可能である。
【0027】
また、上記用途に用いる際、本実施形態のフッ素系界面活性剤は、1種で使用してもよいし、2種以上で併用してもよい。さらには、フッ素系界面活性剤以外の成分との混合物として用いてもよい。
【0028】
<フッ素系界面活性剤の製造方法>
次に、本実施形態のフッ素系界面活性剤の製造方法について説明する。
本実施形態のフッ素系界面活性剤の製造方法は、下記式(38)で示される含窒素ペルフルオロアルキル基を有するカルボン酸ハロゲン化物又はスルホン酸ハロゲン化物を原料とすることを特徴としている。
【化76】
【0029】
ここで、上記式(38)中に示されるRf
1,Rf
2及びRf
3は、それぞれ同一又は互いに異なる炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基であって、直鎖状又は分岐状であってもよい。
また、Xは、CO又はSO
2である。
さらに、Zは、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素からなる群から選択されるいずれか1のハロゲン原子である。
【0030】
なお、本実施形態のフッ素系界面活性剤の製造方法は、上記式(1)中に示すYの種類により異なる製造方法となる。以下に、場合分けして説明する。
【0031】
(アニオン型の場合)
上記式(38)に示す原料のうち、XがCOの場合(カルボン酸系の場合)は水溶液化したMOH(MはLi,K,CaOH,MgOH等)へ、XがSO
2の場合(スルホン酸系の場合)は水溶液化したMOH(MはLi,Na,K,
R2R3R4R5N,CaOH,MgOH等、R
2〜R
5は水素原子またはそれぞれ独立した炭素数1〜20までの直鎖もしくは分岐状のアルキル基)へ、それぞれ滴下して中和反応させた後に乾固し、目的物が可溶かつ副生するMZまたはMZ
2が不溶の溶媒を用いて乾固して得た個体から目的物を抽出し、さらにこの抽出溶媒を乾固することにより、目的物を得ることができる。必要に応じて、この塩を硫酸等の酸を用いてカルボン酸またはスルホン酸に変換し、蒸留した後に再度MOHで所望の塩にすることで、高純度化することも可能である。
また、上記式(1)中に示されるYが、NR
1(CH
2)
mCO
2M
2(M
2はH,
R2R3R4R5N,H
3O,Li,Na,K,Ca,Mg、mは1〜4の整数、R
1は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基、R
2〜R
5は水素原子またはそれぞれ独立した炭素数1〜20までの直鎖もしくは分岐状のアルキル基)の化合物は、上記式(38)に示す原料を、NR
1H
2で示されるアルキルアミンと反応することによってアミド化し、さらに、例えばクロロ酢酸塩のようなハロゲン化アルキルカルボン酸塩と反応することによって製造可能である。
【0032】
(両性型の場合)
上記式(38)に示す原料と、R
7R
8N(CH
2)
mNR
6Hで表されるN,N−ジアルキルアルキレンアミン(mは2〜4の整数、R
6、R
7、R
8は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基)とを反応させて得ることが可能である。例えば、上記式(38)に示す原料と、(CH
3)
2N(CH
2)
mNRHで表されるN,N−ジメチルアルキレンアミンを反応させることにより、下記式(39)で示される生成物を得る。
【化77】
【0033】
なお、上記式(39)中に示されるRf
1,Rf
2及びRf
3、並びにXは、上記式(38)と同様である。
【0034】
両性型のうち、カルボキシベタインタイプの場合は、得られた上記式(39)とγ―ブチロラクトン等に代表されるカルボニル基を有する環状エステル化合物とを反応させることにより得ることができる。また、スルホベタインタイプの場合は、得られた上記式(39)と1,3−プロパンスルトン等に代表される環状スルホン酸エステル化合物とを反応させることにより得ることができる。一方、アミンオキシドタイプの場合は、上記式(39)の生成物と過酸化水素とを反応させることにより得ることができる。
【0035】
(ノニオン型の場合)
上記アニオン型と同様の方法で得られた上記式(1)中に示される含窒素ペルフルオロアルキル基を有するカルボン酸塩またはスルホン酸塩に濃硫酸等の酸を投入した後、蒸留を行うことで、上記式(1)中に示される含窒素ペルフルオロアルキル基を有するカルボン酸またはスルホン酸を得る。得られた生成物とHO(CH
2CH
2O)
a(CH(CH
3)CH
2O)
b(CH
2CH
2O)
cH(a,b,cは整数で少なくとも一つは1以上)とを反応させることにより生成物として得ることが出来る。HO(CH
2CH
2O)
a(CH(CH
3)CH
2O)
b(CH
2CH
2O)
cH(a,b,cは整数で少なくとも一つは1以上)で示される化合物は、例えば市販されているBASF社の商品名プルロニックを使用しても良い。
また、上記式(1)中に示されるYが、NR
9R
10OH(R
9は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基、R
10は炭素数1〜30のアルキレン基またはオキシアルキレン基)と示される化合物は、上記式(38)に示す原料を、NR
9H
2で示されるアルキルアミンとの反応によってアミド化した後、例えば炭酸エチレンのような炭酸エステル類やエチレンオキシド、またはハロゲン化アルキルアルコールを反応させることで、R
10にアルキレン基を有し、末端に水酸基を有する化合物を合成することができる。さらにこれとエチレンオキシドやプロピレンオキシドを反応することにより、R
10にオキシアルキレン基を有し、末端に水酸基を有する化合物を製造することができる。
【0036】
(オリゴマー型の場合)
上記式(38)に示す原料のうち、XがCOの化合物(カルボン酸系)を、水素化アルミニウムリチウム(LiAlH
4)や水素化ホウ素ナトリウム(NaBH
4)等に代表される還元剤を溶解または分散させた有機溶媒中に滴下し、還元反応によりアルコールを得る。次いで、得られたアルコールとアクリル酸とを反応させてモノマーを合成し、これを単独で重合するか、またはポリオキシアルキル基を有するアクリレートと共重合させることにより、生成物を得ることができる。
【0037】
以上説明したように、本実施形態のフッ素系界面活性剤は、含窒素ペルフルオロアルキル基含有化合物に、酸や塩基に安定なカチオン型以外の各種溶媒可溶化基が導入されているため、高い表面張力低下能を有しつつ、酸性下あるいは塩基性下での沈殿を抑えることができる。
【0038】
また、本実施形態のフッ素系界面活性剤の製造方法は、含窒素ペルフルオロアルキル基を持つカルボン酸またはスルホン酸ハロゲン化物を原料とすることを特徴とし、各種誘導体の合成を容易に行うことができる。
【0039】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【実施例】
【0040】
以下、実施例によって本発明の効果をさらに詳細に説明する。なお、本発明は実施例によって、なんら限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
「(C
4F
9)
2NCF
2CF
2CO
2Kの合成」
(C
4H
9)
2NCH
2CH
2CO
2CH
3の電解フッ素化により得られた(C
4F
9)
2NCF
2CF
2COF(47.8g)を、12.5%の水酸化ナトリウム水溶液(51.1g)に滴下した。室温で1時間攪拌した後、反応液に酢酸エチル100mlを投入して抽出を行い、酢酸エチル層を留去することで粗生成物として(C
4F
9)
2NCF
2CF
2CO
2Na(38.8g)を得た。
【0042】
次に、得られた(C
4F
9)
2NCF
2CF
2CO
2Na(38.8g)に、濃硫酸(95.7%、75.0g)を投入した後、110℃で2時間加熱し、続いて減圧蒸留を行って、(C
4F
9)
2NCF
2CF
2CO
2H(27.7g)を得た。
【0043】
さらに、得られた(C
4F
9)
2NCF
2CF
2CO
2H(27.7g)とイオン交換水(28.0g)とを混合し、12.5%のKOH水溶液(20.9g)を15℃以下に冷却しながら滴下した。室温で1時間反応させた後、水を減圧留去させ、乾固させることにより、(C
4F
9)
2NCF
2CF
2CO
2K(28.9g)を得た。
【0044】
(実施例2)
「(C
4F
9)
2NCF
2CF
2CO
2N(CH
3)
4の合成」
実施例1と同様にして合成して得られた(C
4F
9)
2NCF
2CF
2CO
2H(27.7g)とイオン交換水(64.6g)とを混合し、25%の水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液(16.9g)を45℃に加熱しながら滴下した。室温で1時間反応させた後、水を減圧留去させ、乾固させることにより、(C
4F
9)
2NCF
2CF
2CO
2N(CH
3)
4(30.9g)を得た。
【0045】
(実施例3)
「O(C
4F
8)NCF
2CF(CF
3)CONHC
3H
6N
+(CH
3)
2C
3H
6SO
3−の合成」
O(C
4H
8)NCH
2CH(CH
3)CO
2CH
3の電解フッ素化により得られたO(C
4F
8)NCF
2CF(CF
3)COF(50.0g)を、(CH
3)
2NC
3H
6NH
2(23.9g)をIPE溶媒250mlに溶解した溶液に、氷浴下滴下した。室温で1時間攪拌した後に、ろ過を行い、ろ液のIPE層をNaHCO
3水溶液で1回、NaCl水溶液で1回洗浄処理し、分液した後に水洗を行った後、IPEを留去したところ、粗生成物としてO(C
4F
8)NCF
2CF(CF
3)CONHC
3H
6N(CH
3)
2(50.9g)を得た。
【0046】
次に、得られた上記粗生成物(50.0g)と1,3−プロパンスルトン(12.6g)とを、CH
2Cl
2溶媒250mlに溶解した系にて還流下12時間反応させた。その後、CH
2Cl
2を留去させ乾固することによりO(C
4F
8)NCF
2CF(CF
3)CONHC
3H
6N
+(CH
3)
2C
3H
6SO
3−(60.9g)を得た。
【0047】
(実施例4)
「O(C
4F
8)NCF
2CF(CF
3)CONHC
3H
6N
+(CH
3)
2O
−の合成」
実施例2と同様にして合成した粗生成物O(C
4F
8)NCF
2CF(CF
3)CONHC
3H
6N(CH
3)
2(50.0g)を、エタノール溶媒50mlに溶解した系で、70℃にて、過酸化水素(H
2O
2)30%水溶液(53.0g)を滴下した。1時間反応させた後、活性炭(10.0g)で処理を行った後にろ過を行った。次いで、ろ液よりエタノールを留去させ乾固することにより、O(C
4F
8)NCF
2CF(CF
3)CONHC
3H
6N
+(CH
3)
2O
−(46.3g)を得た。
【0048】
(実施例5)
「O(C
4F
8)NCF
2CF(CF
3)COO(CH
2CH
2O)
10(CH(CH
3)CH
2O)
22(CH
2CH
2O)
10Hの合成」
実施例1と同様にして合成して得たO(C
4F
8)NCF
2CF(CF
3)COOH(10.0g)と、HO(CH
2CH
2O)
10(CH(CH
3)CH
2O)
22(CH
2CH
2O)
10H(51.8g)とを、ベンゼン溶媒100mlに溶解させ、p−トルエンスルホン酸(CH
3(C
6H
4)SO
3H・H
2O、1.0g)の存在下、還流にて6時間反応させた。得られた反応液に水酸化カルシウム(Ca(OH)
2、1.9g)を添加し、室温にて1時間攪拌した。その後、ろ過を行い、ろ液からベンゼンを留去することによって、O(C
4F
8)NCF
2CF(CF
3)COO(CH
2CH
2O)
10(CH(CH
3)CH
2O)
22(CH
2CH
2O)
10H(58.9g)を得た。
【0049】
(実施例6)
「O(C
4F
8)NCF
2CF(CF
3)骨格を含むオリゴマー型フッ素系界面活性剤の合成」
O(C
4H
8)NCH
2CH(CH
3)CO
2CH
3の電解フッ素化により得られたO(C
4F
8)NCF
2CF(CF
3)COF(100g)をテトラヒドロフラン100mlに混和させ、窒素雰囲気下にて水素化ホウ素ナトリウム(5.3g)を氷浴下にて添加し、3時間攪拌させた後に、水を添加した。さらに、1mol/Lの塩酸を添加し、水層を除去した後に2回水洗を行い、炭酸カリウム2%水溶液にて洗浄を行った。得られた処理液からテトラヒドロフランを留去した後に、減圧蒸留を行うことにより、O(C
4F
8)NCF
2CF(CF
3)CH
2OH(81.7g)を得た。
【0050】
得られた上記生成物(10.0g)を、ヘプタン15mlを溶媒とし、ハイドロキノン(10.0mg)、CF
3SO
3H(0.1g)存在下、CH
2=CHCOOH(2.1g)と還流下にて8時間反応させた。得られた反応液に炭酸水素ナトリウム水溶液とクロロホルムとを添加した後、分液した。得られた有機層から有機溶媒を留去した後、減圧蒸留を行うことにより、O(C
4F
8)NCF
2CF(CF
3)CH
2OCOCH=CH
2(5.1g)を得た。
【0051】
続いて得られた上記生成物(1.0g)に、CH
2=CHCOO(CH
2CH
2O)
10(CH(CH
3)CH
2O)
22(CH
2CH
2O)
10COCH=CH
2(3.0g)、C
8H
17SH(0.2g)、アゾビスイソブチロニトリル(40.0mg)および酢酸エチル(5.0g)を添加し、70℃、窒素雰囲気下にて16時間反応させた。得られた反応液を減圧乾固することにより、O(C
4F
8)NCF
2CF(CF
3)骨格を含むオリゴマー型フッ素系界面活性剤(3.8g)を得た。
【0052】
(検証試験1)
「フッ素系界面活性剤の界面活性能評価」
上記実施例1〜6にて合成したフッ素系界面活性剤の界面活性能評価を行うため、水溶液中での表面張力測定を行った。また、沈殿の有無については10%硫酸溶液へ1000ppm添加した系にて25℃、1週間放置した後の結果である。なお、表面張力測定は、協和界面科学社製自動表面張力計CBVP−Z型を用い、Wilhelmy法により測定を行った。また、比較例として、ペルフルオロオクタン酸(PFOA)のアンモニウム塩であるC
7F
15CO
2NH
4(比較例1)と、カチオン型界面活性剤であるO(C
4F
8)NCF
2CF(CF
3)CONHC
3H
6N
+(CH
3)
3・I
−(比較例2)と、についても測定を行った。評価結果を下記表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
表1に示すように、実施例1〜6のフッ素系界面活性剤は、従来のペルフルオロオクタン酸(PFOA)のアンモニウム塩である比較例1やカチオン型界面活性剤である比較例2と比較して、同添加量で優れた界面活性能を持ちながら、沈殿物の発生が起きない均一な系で扱うことが可能なフッ素系界面活性剤であることがわかった。