特許第6395252号(P6395252)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6395252医療用具用材料、並びに、それを用いた医療用具、抗血栓性材料及び細胞培養基材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6395252
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】医療用具用材料、並びに、それを用いた医療用具、抗血栓性材料及び細胞培養基材
(51)【国際特許分類】
   C08F 22/02 20060101AFI20180913BHJP
   A61L 33/06 20060101ALI20180913BHJP
   A61F 2/06 20130101ALN20180913BHJP
【FI】
   C08F22/02
   A61L33/06 200
   !A61F2/06
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-157657(P2014-157657)
(22)【出願日】2014年8月1日
(65)【公開番号】特開2016-35000(P2016-35000A)
(43)【公開日】2016年3月17日
【審査請求日】2017年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 賢
(72)【発明者】
【氏名】中田 善知
【審査官】 柳本 航佑
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−203604(JP,A)
【文献】 特開平04−346833(JP,A)
【文献】 特表平01−503072(JP,A)
【文献】 特開平03−223304(JP,A)
【文献】 特表平11−500435(JP,A)
【文献】 特表2015−507047(JP,A)
【文献】 特開2010−065202(JP,A)
【文献】 特開2014−145920(JP,A)
【文献】 特開平10−279528(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 22/00−22/40
A61L 33/06
A61F 2/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体成分又は生体組織と接触して使用される医療用具の、生体成分又は生体組織と接触する部分に使用される材料であって、該材料は、下記式(1);
【化1】
(式中、nは、0〜2の数を表す。X、Yは、それぞれ独立に水素原子、アルカリ金属原子、又は、アンモニウム基を表す。)で表される単量体由来の構造単位を有する重合体(ただし、架橋構造を有するもの、及び、下記一般式
PVG−CONR
[式中、PVGはビニル(CH=CR−)、アクリラド(CH=CRCOO−R−)、アクリルアミド(CH=CRCONR−R−)からなる群から選択される共重合しうるビニル基であり;RはH、−CHCOOR及びC〜Cアルキルの群から選択され;R、R、R、R、R及びRは同一でも異なってもよく且つ置換されていてもいなくてもよく、H、C〜Cアルキル、フェニル及びシクロヘキシルからなる群から選択される]で表されるアミドアクリル由来の繰り返し単位を有するものを除く)を含むことを特徴とする医療用具用材料(歯科用修復材料の封鎖材を除く)
【請求項2】
前記重合体は、全単量体単位100質量%に対して、上記式(1)で表される単量体由来の構造単位を10〜100質量%有することを特徴とする請求項1に記載の医療用具用材料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の医療用具用材料を用いてなる医療用具であって、
該医療用具は、生体成分又は生体組織と接触する部分が前記医療用具用材料を用いて構成されていることを特徴とする医療用具。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の医療用具用材料を用いてなることを特徴とする抗血栓性材料。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の医療用具用材料を用いてなることを特徴とする細胞培養基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用具用材料に関する。より詳しくは、生体成分又は生体組織と接触して使用される医療用具の材料として好適な医療用具用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子化合物は、原料となる単量体を選択することで様々な特性のものを設計することが可能であり、工業製品から日用品まで様々な用途に幅広く用いられている。このような高分子化合物の用途の1つに医療用具用途がある。医療用具は、血液等の生体成分や生体組織と接触する環境下で使用され、医療用具表面と生体成分や生体組織との親和性が低い場合、生体防御機構が活性化され、血液が凝固して血栓が形成される等の不具合が生じる。このため、医療用具は少なくとも生体成分や生体組織と接触する表面が生体適合性の高い材料で形成されていることが必要となる。
【0003】
高分子化合物が医療分野等で使用可能な生体適合性の高い材料となるためには、高分子化合物を水和した場合の高分子化合物表面に存在する水の状態が重要であると考えられている。一般に高分子化合物に水が水和した場合、高分子化合物の表面には、高分子化合物と強い相互作用を有して凍結しない水(不凍水)と、不凍水よりも高分子化合物の表面から離れて存在し、高分子化合物との相互作用が弱い自由水とが存在するが、高分子化合物の中には、不凍水と自由水との間に、高分子化合物又は不凍水と中間的な相互作用をする水(中間水)を有するものがあることが明らかになってきている。生体成分や生体組織は、血液中や体液中で水和殻を形成して安定しており、この水和殻が異物表面や不凍水に接触して攪乱又は破壊されると生体成分や生体組織が高分子材料表面に吸着し、生体防御機構が活性化されると考えられるが、高分子材料の表面の不凍水層の上に中間水が安定に存在することで、生体成分や生体組織と接触してもタンパク質や細胞表面の水和構造が破壊されにくくなり、これにより高分子化合物が生体適合性の高いものとなることが明らかになってきている。(非特許文献1〜3参照)。即ち、生体適合性の発現に関して、中間水の有無が本質的に重要であるとことが、広く認識されるようになっている。
【0004】
このような医療分野で使用される高分子材料として、含水時の平衡含水率が所定の値であり、示差走査熱量計測定における昇温過程において0℃以下で水の低温結晶化に基づく発熱ピークが観測される状態の水を有することができ、ガラス転移温度が0℃以下である水不溶性の血液適合性高分子(特許文献1参照)が開示され、また、同様の特性が要求される細胞培養基材として、中性水溶液に難溶性であるヒアルロン酸単独で形成されたゲルを含有する細胞培養用基材(特許文献2参照)が開示されている。更に、物質表面への細胞の吸着頻度が当該物質表面の水層の状態に応じて変化し、また、細胞の種類によっても吸着頻度が異なることを見出し、これを利用して特定の細胞を選択的に吸着させて溶液から分離する細胞分離方法(特許文献3参照)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−161954号公報
【特許文献2】特開2000−239304号公報
【特許文献3】特開2012−105579号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】高分子論文集(Kobunshi Ronbunshu),Vol.68,No.4,pp.133−146,(Apr.,2011)
【非特許文献2】高分子論文集(Kobunshi Ronbunshu),Vol.60,No.8,pp.415−427,(Aug.,2003)
【非特許文献3】高分子,53巻, 3月号,2004年,pp.157
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のとおり、生体適合性の高い材料と中間水との関係について研究報告がされており、また、生体適合性材料等の開発も活発に行われている。
医療用用具等に用いることのできる生体適合性の高い材料の需要は高く、このような中間水を含む新たな材料を開発することができれば、医療用用具等に使用可能な高分子材料の選択の幅を広げることができ、今後の医療の発展に資する点からも好ましい。
【0008】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、水和時に中間水を有する新たな高分子化合物を含む医療用具用材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、水和時に中間水を有する新たな高分子化合物について種々検討したところ、構造中にカルボキシル基又はその塩を2つ有する所定の構造のアクリル酸誘導体由来の構造を有する重合体が、水和時に中間水を有し、生体適合性を有する医療用具用材料として使用できることを見いだし、本発明に到達したものである。
ここで、本発明における生体適合性とは、生体に強い悪影響や強い刺激を与えないことから、生体成分、生体組織及び生体由来の物質のいずれか1以上と共存することが可能である属性を意味する。例えば、生体適合性を有する材料は、典型的には、血栓の生成を抑制する性質である抗血栓性、血液の凝固を抑制する性質である抗血液凝固性、補体を活性化させ難い性質、白血球を減少させ難い性質、生体組織に炎症を引き起こし難い性質、腫瘍を形成し難い性質等のいずれか1以上の性質を有する。
【0010】
すなわち本発明は、下記式(1);
【0011】
【化1】
【0012】
(式中、nは、0〜2の数を表す。X、Yは、それぞれ独立に水素原子、アルカリ金属原子、又は、アンモニウム基を表す。)で表される単量体由来の構造単位を有する重合体を含むことを特徴とする医療用具用材料である。
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0013】
上記式(1)で表される単量体由来の構造単位を有する重合体は、構造中に2つのカルボキシル基又はその塩を有するが、このような構造中に複数のカルボキシル基又はその塩を有する重合体で中間水を多く保持することができるものはこれまでには知られていない。
本発明の構造の重合体が中間水を保持するメカニズムについては明らかではないが、2つのカルボキシル基が、適度な空間的配置をとることにより、カルボニル酸素への強い水和が弱められることに起因すると考えられる。
また、この重合体は、不凍水量に対して中間水量を比較的、多く吸着し得ることも特徴の1つである。
本発明の医療用具用材料は、上記式(1)で表される単量体由来の構造単位を有する重合体を含む限り、その他の材料を含んでいてもよい。
また、上記式(1)で表される単量体由来の構造単位を有する重合体を1種含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
なお、上記式(1)で表される単量体由来の構造単位とは、上記式(1)で表される単量体の炭素−炭素二重結合が単結合になった構造単位であり、具体的には、下記式(2)で表すことができる。なお、上記式(1)で表される単量体由来の構造単位は、下記式(2)で表される構造であれば、式(1)で表される単量体を重合する以外の方法で形成された構造単位であっても良い。
【0014】
【化2】
【0015】
(式(2)中、n、X及びYは、式(1)と同じである。)
【0016】
上記式(1)において、X、Yは、それぞれ独立に水素原子、アルカリ金属原子、又は、アンモニウム基を表すが、アルカリ金属原子としては、ナトリウム又はカリウムが好ましい。より好ましくは、ナトリウムである。
上記式(1)において、nは、0〜2の数を表すが、好ましくは、1又は2である。より好ましくは2である。
【0017】
上記式(1)で表される単量体由来の構造単位を有する重合体は、式(1)で表される単量体のみを原料として得られる重合体であってもよく、式(1)で表される単量体とその他の単量体とを含む単量体成分を原料として得られる共重合体であってもよい。
式(1)で表される単量体由来の構造単位を有する重合体が共重合体である場合、ランダム重合、ブロック重合、交互重合のいずれの形態のものであってもよい。
【0018】
上記式(1)で表される単量体由来の構造単位を有する重合体は、全単量体単位100質量%に対して、上記式(1)で表される単量体由来の構造単位を10〜100質量%有することが好ましい。このような割合で含むことで、得られる重合体が医療用具用材料としてより好適なものとなる。より好ましくは、上記式(1)で表される単量体由来の構造単位を20〜100質量%有することであり、更に好ましくは、30〜100質量%有することである。
【0019】
上記式(1)で表される単量体由来の構造単位を有する重合体が、上記式(1)で表される単量体由来の構造単位以外のその他の構造単位を有する場合、当該その他の構造単位を形成する単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸s−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−アミル、(メタ)アクリル酸s−アミル、(メタ)アクリル酸t−アミル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸トリシクロデカニル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸β−メチルグリシジル、(メタ)アクリル酸β−エチルグリシジル、(メタ)アクリル酸(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチル、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル、α−ヒドロキシメチルアクリル酸メチル、α−ヒドロキシメチルアクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸エステル類;スチレン、α−メチルスチレン、α−クロロスチレン、p−t−ブチルスチレン、p−メチルスチレン、p−クロロスチレン、o−クロロスチレン、2,5−ジクロロスチレン、3,4−ジクロロスチレン、ビニルトルエン、メトキシスチレン等の芳香族ビニル類;メチルマレイミド、エチルマレイミド、イソプロピルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド、フェニルマレイミド、ベンジルマレイミド、ナフチルマレイミドなどのN置換マレイミド類が挙げられる。これらの共重合可能な他の単量体は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸エステル類が好ましい。より好ましくは、(メタ)アクリル酸アルキルエステルであり、更に好ましくは、アルキルエステルのアルキル基の炭素数が1〜8の(メタ)アクリル酸アルキルエステルであり、特に好ましくは、(メタ)アクリル酸n−ブチルである。
【0020】
上記式(1)で表される単量体由来の構造単位を有する重合体は、重量平均分子量が1,000〜1,000,000であることが好ましい。重量平均分子量がこのような範囲であると、耐久性や機械強度に優れた材料となり好ましい。重量平均分子量は、より好ましくは、5,000〜500,000であり、更に好ましくは、10,000〜300,000である。
重合体の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、実施例に記載の測定条件で測定することができる。
【0021】
上記式(1)で表される単量体由来の構造単位を有する重合体は、ガラス転移温度が40〜200℃であることが好ましい。重合体がこのようなガラス転移温度を有することで、表面のベタツキを抑えることができる。ガラス転移温度は、より好ましくは、50〜170℃であり、更に好ましくは、60〜150℃である。
ガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)により測定することができる。
【0022】
上記式(1)で表される単量体由来の構造単位を有する重合体は、中間水量が重合体100質量%に対して、1質量%以上とできることが好ましい。中間水量は、より好ましくは、2質量%以上であり、更に好ましくは、3質量%以上である。中間水量を上記範囲とすることで、血小板のような小さな浮遊系の細胞や、血漿タンパク質の吸着を有効に回避することができる。中間水量の上限は、医療用具用材料をどのような目的で使用するかによって異なるため、一概に述べることはできないが、例えば、がん細胞や肝細胞を変質することなく選択的に吸着する目的で使用する場合は30質量%以下とすることが好ましい。
【0023】
また、一般に、医療用具用材料としては、不凍水量に対する中間水量の割合(中間水量/不凍水量)が大きな値で水を保持しうる材料が好ましく、上記式(1)で表される単量体由来の構造単位を有する重合体においても不凍水量に対する中間水量(中間水量/不凍水量)を0.1以上とできることが好ましい。また、0.2以上とできることがより好ましい。
所定量の水を含水した重合体を一旦充分に冷却した後、ゆっくりした速度で昇温させながら吸熱、発熱量を観察してゆくと、0℃以下の特定の温度域で発熱が観察され、0℃付近の温度で吸熱が観察される。0℃以下の特定の温度域で発熱は、過冷却により準安定な状態で凝固していた中間水が加熱により規則化(コールドクリスタリゼーション)を生じたことによるものと考えられる。また、0℃付近の温度での吸熱のうち、0℃以下の温度域での吸熱は中間水の低温融解によるものであり、0℃での吸熱は自由水の融解によるものである。したがって、0℃以下の特定の温度域で発熱量、0℃付近の温度で吸熱量、及び、全含水量から中間水、自由水、不凍水の量を求めることができる。
中間水の存在、並びに、中間水や不凍水の量は、示差走査熱量計(DSC)測定を用いて実施例に記載の方法で確認することができる。
【0024】
本発明の医療用具用材料に含まれる重合体は、上記式(1)で表される単量体と、必要に応じてその他の単量体とを含む単量体成分を原料とした重合反応により製造することができる。
重合反応は、重合開始剤の存在下で重合反応を行うことが好ましい。重合開始剤としては、例えば、過酸化水素;過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)等のアゾ系化合物;過酸化ベンゾイル、過酢酸、ジ−t−ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物等が好適である。これらの重合開始剤は、単独で使用されてもよく、2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
重合開始剤の使用量としては、単量体の使用量1モルに対して、0.1g以上、25g以下であることが好ましく、0.1g以上、10g以下であることがより好ましい。
【0025】
上記重合反応は、溶媒を使用せずに行っても良いが、溶媒を使用することが好ましい。溶媒としては、水;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等の低級ケトン類;ジメチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類;ジメチルホルムアルデヒド等のアミド類;酢酸エチル、酢酸ブチル等の低級エステル類;トルエン、キシレン等の芳香族類などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
溶媒の使用量としては、単量体100質量%に対して40〜250質量%が好ましい。
【0026】
上記重合反応は、通常、0℃以上で行われることが好ましく、また、150℃以下で行われることが好ましい。より好ましくは、40℃以上であり、更に好ましくは、60℃以上であり、特に好ましくは、80℃以上である。また、より好ましくは、120℃以下であり、更に好ましくは、110℃以下である。上記重合温度は、重合反応において、常にほぼ一定に保持する必要はなく、一度または二度以上変動(加温または冷却)しても良い。
【0027】
本発明の医療用具用材料に含まれる重合体の製造方法は、上記重合反応工程以外の他の工程を含んでいてもよい。例えば、熟成工程、中和工程、重合開始剤や連鎖移動剤の失活工程、希釈工程、乾燥工程、濃縮工程、精製工程等が挙げられる。
また、上記重合反応工程の代わりに、例えば上記式(1)で表される単量体のエステルと、必要に応じてその他の単量体を重合する工程の後に、得られた重合体を加水分解することにより、本発明の医療用具用材料に含まれる重合体を製造しても良い。
【0028】
本発明の医療用具用材料は、上記のような中間水を含む重合体を含むものであって、生体成分や生体組織との親和性が高いことから、血液と接触しても血栓を生じにくい抗血栓性材料として好適に使用することができ、各種医療用具の生体成分又は生体組織と接触する部分を構成する材料としても好適に使用することができる。更に、本発明の医療用具用材料は、細胞培養基材としても好適に使用することができる。
このような、本発明の医療用具用材料を用いてなる医療用具であって、該医療用具は、生体成分又は生体組織と接触する部分が前記医療用具用材料を用いて構成される医療用具もまた、本発明の1つであり、本発明の医療用具用材料を用いてなる抗血栓性材料や細胞培養基材もまた、本発明の1つである。
本発明の医療用具用材料を用いてなる医療用具は、医療用具の生体成分又は生体組織と接触する部分を本発明の医療用具用材料で表面処理し、本発明の医療用具用材料を保持させる方法を用いて製造することができる。このように、本発明の医療用具用材料は、医療用具の表面処理剤として用いることができる。
【0029】
各種医療用具の生体成分又は生体組織と接触する部分に本発明の医療用具用材料を保持させる方法としては、医療用具の表面を医療用具用材料でコーティングする方法、放射線、電子線、紫外線等の活性エネルギー線によるグラフト重合を利用して医療用具の表面と医療用具用材料とを結合させる方法、医療用具の表面の官能基と医療用具用材料とを反応させて結合させる方法等、種々の方法を用いることができる。コーティング法を用いる場合、医療用具用材料をコーティングする方法として、塗布法、スプレー法、ディップ法等のいずれの方法を用いてもよい。
【0030】
本発明の医療用具用材料を保持させる医療用具の材質は特に制限されず、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ハロゲン化ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアミド、アクリル樹脂、スチロール樹脂等のいずれの材質のものであってもよい。
【0031】
本発明の医療用具用材料を細胞培養基材として使用する場合、医療用具用材料をそのまま用いてもよく、所定の基材上にコーティングして用いてもよい。
基材の材質は特に制限されず、木綿、麻等の天然高分子、ポリエステル、ナイロン、オレフィン、ポリアミド、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリ(メタ)アクリレート等の合成高分子等を用いることができる。
基材の形態も特に制限されず、成形体、繊維、不織布、多孔質体、粒子、フィルム、シート、チューブ、中空糸や粉末等のいずれの形態でもよい。
【0032】
本発明の医療用具用材料は、人工血管や人工臓器等の人工生体組織用や、血液フィルター、各種カテーテル、若しくは各種ステント等;生体組織と接触する用具用の部材として、また、細胞培養基材、血液透析装置用の部材、血液若しくは組織検査用器具の部材等;生体由来成分(細胞や血液等)と接触する用具用の部材として適用することができる。
すなわち、本発明における医療用具には、生体組織と接触する用具、生体由来成分(細胞や血液等)と接触する用具等が含まれる。
すなわち、本発明における医療用具用材料は、生体組織や生体由来成分(細胞や血液等)と接触する医療用具、細胞培養基材、抗血栓性材料に用いられる物を言う。
【発明の効果】
【0033】
本発明の医療用具用材料は、上述の構成よりなり、水和時に中間水を含む重合体を含むものであり、医療用具、抗血栓性材料や細胞培養基材等に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】合成例2で合成した重合体のH−NMRチャートを示した図である。
図2】合成例2で合成した重合体の各含水率での示差走査熱量測定チャートを示した図である。
図3】合成例2で合成した重合体、及び、ポリビニルピロリドンの中間水量と中間水量/不凍水量比との関係を示した図である。
図4】合成例3で合成した重合体のDSC測定結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0036】
合成例2で製造された重合体の重量平均分子量、ガラス転移温度は、以下の装置、条件で測定した。
<重量平均分子量>
重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ(GPCシステム、東ソー社製)を用いて、ポリアクリル酸換算により求めた。
<ガラス転移温度>
ガラス転移温度(Tg)は、JIS K7121の規定に準拠して求めた。具体的には、示差走査熱量計(リガク製、Thermo plus EVO DSC−8230)を用い、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを常温から200℃まで昇温(昇温速度20℃/分)して得られたDSC曲線から、始点法により評価した。リファレンスにはα−アルミナを用いた。
【0037】
(合成例1)
温度計、滴下装置、冷却管、撹拌装置を備えた反応容器にアクリル酸メチル1500重量部(メトキノンを300ppm含む)、トルエン1480重量部を加え、撹拌しながら内温が85℃になるまで加熱する。これにトルエン20重量部に溶解させたトリス(ジエチルアミノ)ホスフィン1.5重量部を滴下後、撹拌しながら4時間反応させた。続いて、得られた反応液を200Torrで蒸留し、始めに未反応のアクリル酸メチルと溶媒のトルエンを留去し、その後、15Torrまで圧力を下げ、2−メチレングルタル酸ジメチルを得た。
次に、得られた2−メチレングルタル酸ジメチル100重量部、硫酸7.7重量部、水100重量部を温度計、メタノール留出管、撹拌装置を備えた反応容器に仕込んで攪拌した。上記反応液の内温を110℃に保ち、メタノールを留出させながら6時間反応させた。反応後、撹拌しながら冷却し、白色結晶を析出させ、ろ過、乾燥を行い、2−メチレングルタル酸の白色結晶を得た。
【0038】
(合成例2)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応装置に、合成例1で得られたメチレングルタル酸(MGA)50重量部と、イオン交換水50重量部とを仕込み、これに窒素を通じつつ、80℃まで昇温させた後、重合開始剤として 過硫酸カリウム0.18重量部を加えた。更に3時間毎に過硫酸カリウム0.18重量部を3回加え、12時間にわたり重合を行なった。得られた重合体溶液をアセトンにより再沈及び洗浄し、減圧で乾燥することにより、淡黄色の固体の重合体(p−MGA)を得た。得られた重合体のH−NMRチャート(溶媒;重水)を図1に示す。得られた重合体の重量平均分子量は26,000であり、ガラス転移温度は、125℃であった。
【0039】
(合成例3)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応装置に、市販の試薬特級イタコン酸(ItA)50重量部と、イオン交換水50重量部とを仕込み、これに窒素を通じつつ、80℃まで昇温させた後、重合開始剤として 過硫酸カリウム0.18重量部を加えた。更に3時間毎に過硫酸カリウム0.18重量部を3回加え、12時間にわたり重合を行なった。得られた重合体溶液をアセトンにより再沈及び洗浄し、減圧で乾燥することにより、淡黄色の固体の重合体(p−ItA)を得た。得られた重合体の重量平均分子量は20,000であった。
【0040】
(実施例1及び比較例1)
上記合成例2で合成した重合体の中間水量を以下の方法により測定した。比較例1として、生体適合性に優れた重合体として広く認められているポリビニルピロリドン(和光純薬工業社製試薬 K−30)についても同様の測定を行った。結果を表1に示す。
合成例2で合成した重合体の各含水率での示差走査熱量測定チャートを図2に示し、表1に示した、合成例2で合成した重合体及びポリビニルピロリドンの中間水量と中間水量/不凍水量比との関係を図にしたものを図3に示す。
<中間水量の測定>
試料となる重合体をメタノールに溶解した0.2重量%溶液をPET製の円板上にキャストし、スピンコーターを用いて2回コーティングを行った。含湿雰囲気への暴露により飽和含水を与える方法により適量の水を含水させた。含水後の各試料の所定量を取り、あらかじめ重量を測定した酸化アルミパンの底に薄く広げた。示差走査熱量計(DSC−8230、リガク社製)を用いて、室温から−100℃まで冷却し、ついで10分間保持した後、昇温速度2.5℃/min.で−100℃から50℃まで加熱を行う過程での吸発熱量の測定を行った。なお、予め各試料の基材に用いたPET基板は有意な量の含水を生じないことを確認した。
各試料について、DSC測定後にアルミパンにピンホールをあけて真空乾燥後、その重量減少分を含水量として求めた。含水量(WC)は、基材に用いたPET基板の質量を除外した上で、以下の式(I)で求めた。
含水量(WC)=(W1−W0)/W0 (I)
(W0:試料の乾燥重量(g)、W1:試料の含水重量(g))
次に、各含水量におけるコールドクリスタリゼーションに伴う発熱量と0℃付近の吸熱量の関係から、不凍水と中間水の最大量を求めてW0で除することにより、それぞれの試料における不凍水量と中間水量とした。
【0041】
【表1】
【0042】
(実施例2)
合成例3で合成したp−ItAのDSC測定を行い、p−ItAが中間水を保持することを確認した。図4にDSCの測定結果を示す。0℃以下に融解ピークがあり、中間水の存在が確認された。
【0043】
実施例1、2の結果から、ポリメチレングルタル酸(p−MGA)及びポリイタコン酸(p−ItA)は、含水時に中間水を有する重合体であり、医療用具用材料として使用できる重合体であることが確認された。また、ポリメチレングルタル酸は、同じ中間水量で比較すると、ポリビニルピロリドンよりも不凍水に対する中間水の割合が大きいことも確認された。

図1
図2
図3
図4