特許第6395275号(P6395275)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6395275
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】X線撮像装置及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/20 20180101AFI20180913BHJP
【FI】
   G01N23/20 400
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-79620(P2017-79620)
(22)【出願日】2017年4月13日
(62)【分割の表示】特願2012-178025(P2012-178025)の分割
【原出願日】2012年8月10日
(65)【公開番号】特開2017-142261(P2017-142261A)
(43)【公開日】2017年8月17日
【審査請求日】2017年4月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】桜井 健次
(72)【発明者】
【氏名】サムソン ヴァレリー アン イニス
(72)【発明者】
【氏名】水沢 多鶴子
【審査官】 越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−092939(JP,A)
【文献】 特表2010−507811(JP,A)
【文献】 特開平06−258259(JP,A)
【文献】 特開平05−196583(JP,A)
【文献】 特開平01−221608(JP,A)
【文献】 特開2012−167985(JP,A)
【文献】 桜井健次 他,Visualな中性子・X線反射率法の技術開発,日本中性子科学会 第9回年会 講演概要集,2009年12月 9日,p.119
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00−23/2276
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の特定深さの電子密度について面内の不均一分布をX線反射率法により取得し画像化する方法であって、
所定厚さで所定幅を有する線状の単色X線ビームを前記試料に照射し、
前記試料から反射された前記X線ビームを、X線検出器の分解能と比較して小さな形状の開口部が所定の符号化規則で配置されたアダマールマスクによって符号化し、
前記アダマールマスクを前記反射されたX線ビームの長手方向と平行な方向に走査し、
前記アダマールマスクの走査によって得た時系列のX線強度プロファイルデータを記憶し、
画像化演算装置に、前記時系列のX線強度プロファイルデータを入力して、前記画像化演算装置が前記符号化規則に対する逆変換を行うと共に、画像再構成演算を行なうX線撮像方法であって、
前記試料が薄膜・多層膜である場合に、コーティングされている貴金属の臨界角に固定した上で、前記試料から反射された前記X線ビームの全反射が生じる現象を利用して、前記貴金属でコーティングされている部分とそうでない部分を高いコントラストで画像化することを特徴とするX線撮像方法。
【請求項2】
試料の特定深さの電子密度について面内の不均一分布をX線反射率法により取得し画像化する方法であって、
連続スペクトルを有する白色X線ビームを前記試料に照射し、
前記試料から反射された前記X線ビームを、X線検出器の分解能と比較して小さな形状の開口部が所定の符号化規則で配置されたアダマールマスクによって符号化し、
前記アダマールマスクを前記反射されたX線ビームの長手方向と平行な方向に走査し、
前記アダマールマスクの走査によって得た時系列のX線強度プロファイルデータを記憶し、
画像化演算装置に、前記時系列のX線強度プロファイルデータを入力して、前記画像化演算装置が前記符号化規則に対する逆変換を行うと共に、画像再構成演算を行なうX線撮像方法であって、
前記試料が薄膜・多層膜である場合に、コーティングされている貴金属の臨界角に固定した上で、前記試料から反射された前記X線ビームの全反射が生じる現象を利用して、前記貴金属でコーティングされている部分とそうでない部分を高いコントラストで画像化することを特徴とするX線撮像方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のX線撮像方法において、さらに、前記試料を前記単色X線ビーム又は白色X線ビームに対して所定ピッチの角度で回転し、
前記X線強度プロファイルデータは、前記試料の回転した角度毎に記憶されることを特徴とするX線撮像方法。
【請求項4】
試料の特定深さの電子密度について面内の不均一分布をX線反射率法により取得し画像化するX線撮像装置であって、
前記試料が載せられる面内回転ステージと、
所定厚さで所定幅を有する線状の単色X線ビームに対する前記面内回転ステージの傾斜角度を調整して、前記X線ビームが前記試料上で反射するように調整する傾斜角調整部と、
前記反射したX線ビームの前記幅方向の強度プロファイルを測定するX線検出器と、
前記X線検出器の入射側に設けられると共に、前記試料からの反射X線を符号化して前記X線検出器に出射するために、前記X線検出器の分解能と比較して小さな形状の開口部が前記符号化の規則で配置されたアダマールマスクと、
前記アダマールマスクを前記反射されたX線ビームの長手方向と平行な方向に走査するマスク走査部と、
前記強度プロファイルの集積されたデータを入力して、前記符号化に対する逆変換を行うと共に、画像再構成演算を行う画像化演算装置と、
を備えるX線撮像装置であって、
前記試料が薄膜・多層膜である場合に、コーティングされている貴金属の臨界角に固定した上で、前記試料から反射された前記X線ビームの全反射が生じる現象を利用して、前記貴金属でコーティングされている部分とそうでない部分を高いコントラストで画像化することを特徴とするX線撮像装置。
【請求項5】
請求項4に記載のX線撮像装置において、さらに所定厚さで所定幅を有する線状の単色X線ビームを供給する単色X線源を有することを特徴とするX線撮像装置。
【請求項6】
請求項5に記載のX線撮像装置において、前記単色X線源は一点と見なせる微小なX線源から単色X線ビームを発散させることを特徴とするX線撮像装置。
【請求項7】
試料の特定深さの電子密度について面内の不均一分布をX線反射率法により取得し画像化するX線撮像装置であって、
前記試料が載せられる面内回転ステージと、
連続スペクトルを有する白色X線ビームに対する前記面内回転ステージの傾斜角度を調整して、前記X線ビームが前記試料上で反射するように調整する傾斜角調整部と、
前記反射したX線ビームの前記幅方向の強度プロファイルを測定するX線検出器と、
前記X線検出器の入射側に設けられると共に、前記試料からの反射X線を符号化して前記X線検出器に出射するために、前記X線検出器の分解能と比較して小さな形状の開口部が前記符号化の規則で配置されたアダマールマスクと、
前記アダマールマスクを前記反射されたX線ビームの長手方向と平行な方向に走査するマスク走査部と、
前記強度プロファイルの集積されたデータを入力して、前記符号化に対する逆変換を行うと共に、画像再構成演算を行う画像化演算装置と、
を備えるX線撮像装置であって、
前記試料が薄膜・多層膜である場合に、コーティングされている貴金属の臨界角に固定した上で、前記試料から反射された前記X線ビームの全反射が生じる現象を利用して、前記貴金属でコーティングされている部分とそうでない部分を高いコントラストで画像化することを特徴とするX線撮像装置。
【請求項8】
請求項4乃至7の何れか1項に記載のX線撮像装置において、さらに前記アダマールマスクの入射側に設けられると共に、前記試料からの反射方向以外のX線ビームを遮断するソーラースリットが設けられていることを特徴とするX線撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射X線の1次元プロファイル形状を迅速かつ正確に計測するX線撮像装置に関し、特に加速器からの白色パルスX線を用いる場合のように、空間分解能を持たない検出器を用いる場合の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
X線又は中性子の反射率測定法は、X線または中性子を微小角で薄膜・多層膜試料の表面に入射させた時の反射強度を測定し、そのプロファイルから薄膜・多層膜の深さ方向の構造(膜厚、それぞれの膜の密度、表面および界面のラフネス等、別の言い方では、深さ方向の電子密度分布または核散乱長密度分布)を精密に決定する技術であり、半導体の層間絶縁膜やハードディスク等の磁性材料の多層膜、表示デバイスの多層膜等、多くの産業分野で活用されている。
【0003】
X線又は中性子の反射率測定法は、X線または中性子の照射する領域全体が均一であることを前提としているが、その面積は、X線で1〜数cm2程度、中性子では10〜数10cm2程度と広い場合が多い。もっと微小な試料を評価したい、さらには、同じ試料のなかの薄膜・多層膜の深さ方向の構造の違いを画像化したいというニーズは以前からあり、ナノテクノロジー全盛のいま、更にその要求は高まっている。この課題を解決するためのもっとも単純明快な方法は、微小ビームを用い、試料上の各点を走査する方法である。出願人は、実際にこの課題に取り組み、公益財団法人高輝度光科学研究センターが運転管理を行う大型放射光施設(SPring−8)の高エネルギー放射光を用いることで、当該手法を確立した。
【0004】
しかし、産業分野で広く応用するためには、大型放射光施設のような特殊な高性能X線源ではなく、微小ビームが容易には得られない小型・普及型のX線源でも実施可能な技術も必要である。また中性子では、もともと線源強度が弱いため、微小ビームの作製・利用はきわめて難しいので、微小ビームによらない他の技術が必要である。
【0005】
本発明者らは、特許文献1でX線撮像装置を提案しており、また特許文献2でX線反射率測定装置を提案し、特許文献3で不均一な結晶構造を有する試料の局所構造情報を得るためのX線回折分析装置を提案している。そして、同じ試料のなかの薄膜・多層膜の構造の違いを画像化することを目的として、反射X線または反射中性子線の1次元プロファイル形状を測定し、画像再構成の数学的処理を用いる方法を開発し、非特許文献1に発表していると共に、特願2011−28432号にて特許出願もしている。また、非特許文献2、3で、薄膜・多層膜の深さ方向の構造の違いを非破壊的に解析するという課題の認識を開示している。
【0006】
しかし、非特許文献1および特願2011−28432号の方法では、位置分解能のあるX線または中性子検出器により反射強度の場所依存性を測定し、次に投影切断面定理を適用しているため、十分な空間分解能が得られる検出器が利用できない場合、検出器の有する位置分解能以上の空間分解能を得ることはできないという制約があった。位置分解能があるとされる検出器でも、それが1〜数ミリ程度にとどまるのであれば、実際の応用に必要と考えられる数〜数100ミクロンの分解能での画像化を行うことができない。更には、強度情報しか得られない通常のX線又は中性子の検出器によっては、同じ試料のなかの薄膜・多層膜の構造の違いを画像化できないという課題があった。また、非特許文献2、3では、課題の存在を指摘しているが、解決手段については開示がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3663439号公報
【特許文献2】特許第3903184号公報
【特許文献3】特許第4581126号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Vallerie Ann Innis-Samson, Mari Mizusawa, and Kenji Sakurai; X-ray Reflection Tomography: A New Tool for Surface Imaging, Anal. Chem., 2011, 83 (20), pp 7600-7602
【非特許文献2】桜井健次著、「埋もれた層・界面のvisualizationを実現するための技術開発について」、日本中性子科学会第8回年会・2008年12月
【非特許文献3】桜井健次他、「ヴィジュアルな中性子反射率法の開発」、独立行政法人日本原子力研究開発機構、平成21年度実施報告・中性子ビーム利用
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記課題を解決するもので、十分な空間分解能が得られる検出器が利用できない場合にも対応する為に、強度情報しか得られない通常のX線の検出器によっても、同じ試料のなかの薄膜・多層膜の構造の違いを画像化できるX線の撮像装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明のX線撮像方法は、例えば図1図2に示すように、試料の特定深さの電子密度について面内の不均一分布をX線反射率法により取得し画像化するX線撮像方法であって、所定厚さで所定幅を有する線状の単色X線ビームまたは連続スペクトルを有する白色X線ビームを試料2に照射し、試料2から反射されたX線ビームを、X線検出器3の分解能と比較して小さな形状の開口部が所定の符号化規則で配置されたアダマールマスク10によって符号化し、アダマールマスク10を反射されたX線ビームの長手方向と平行な方向に走査し、アダマールマスク10の走査によって得た時系列のX線強度プロファイルデータを記憶し、画像化演算装置に、前記時系列のX線強度プロファイルデータを入力して、画像化演算装置が符号化規則に対する逆変換を行うと共に、画像再構成演算を行なうX線撮像方法であって、前記試料が薄膜・多層膜である場合に、コーティングされている貴金属の臨界角に固定した上で、前記試料から反射された前記X線ビームの全反射が生じる現象を利用して、前記貴金属でコーティングされている部分とそうでない部分を高いコントラストで画像化することを特徴とする。
【0011】
このように構成されたX線撮像方法によれば、試料2から反射された単色X線ビームまたは連続スペクトルを有する白色X線ビームを、X線検出器3の分解能と比較して小さな形状の開口部が所定の符号化規則で配置されたアダマールマスク10によって符号化しているので、X線検出器3の分解能よりも高分解能の1次元X線強度プロファイルデータとして取得できる。アダマールマスク10は、反射されたX線ビームの長手方向と平行な方向に走査するので、試料のX線強度プロファイルデータが正確に得られる。
【0012】
本発明のX線撮像方法において、好ましくは、さらに、試料をX線ビームに対して所定ピッチの角度で回転し、X線強度プロファイルデータは、前記試料の回転した角度毎に記憶されるとよい。
このような方法によると、X線強度プロファイルは、試料の面内回転に応じて取得されるので、試料を所定ピッチの角度で回転することで、全ての試料の面内回転角度に応じたX線強度プロファイルデータが取得できる。この取得されたX線強度プロファイルデータは、画像化演算装置により符号化規則に対する逆変換を行うと共に、画像再構成演算される。
【0016】
上記課題を解決する本発明のX線撮像装置は、例えば図1図2に示すように、試料の特定深さの電子密度について面内の不均一分布をX線反射率法により取得し画像化するX線撮像装置であって、試料2が載せられる面内回転ステージ4と、所定厚さで所定幅を有する線状の単色X線ビームまたは連続スペクトルを有する白色X線ビームに対する面内回転ステージ4の傾斜角度を調整して、この単色X線ビームを試料2上で反射するように調整される傾斜角調整部(7、8)と、反射したX線ビームの前記幅方向の強度プロファイルを測定するX線検出器3と、X線検出器3の入射側に設けられると共に、試料2からの反射X線を符号化してX線検出器3に出射するために、X線検出器3の分解能と比較して小さな形状の開口部が符号化の規則で配置されたアダマールマスク10と、アダマールマスク10を試料2の走査方向に走査するマスク走査部と、強度プロファイルの集積されたデータとマスク走査部の走査状態を入力して、符号化に対する逆変換を行うと共に、画像再構成演算を行う画像化演算装置とを備えるX線撮像装置であって、前記試料が薄膜・多層膜である場合に、コーティングされている貴金属の臨界角に固定した上で、前記試料から反射された前記X線ビームの全反射が生じる現象を利用して、前記貴金属でコーティングされている部分とそうでない部分を高いコントラストで画像化するものである。
【0017】
好ましくは、本発明のX線撮像装置において、さらに所定厚さで所定幅を有する線状の単色X線ビームを供給する単色X線源5を有するとよい。
好ましくは、本発明のX線撮像装置において、単色X線源5は一点と見なせる微小なX線源から単色X線ビームを発散させるものであるとよい。
好ましくは、本発明のX線撮像装置において、さらにアダマールマスク10の入射側に設けられると共に、試料2からの反射方向以外のX線を遮断するソーラースリット9が設けられているとよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明のX線撮像装置では、X線検出器の空間分解能が低い場合でも、アダマールマスクにより得られる高分解能の反射したX線ビームの強度プロファイルを、画像化演算装置によって符号化に対する逆変換を行って画像を再構成するので、高分解能の反射したX線ビームの画像が得られる。そこで、X線検出器の空間分解能が低い場合でも、同じ試料のなかの薄膜・多層膜の構造の違いを画像化できるX線撮像装置及び方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は本発明の第1の実施形態を説明するX線撮像装置の構成図で、水平回転軸の場合を示している。
図2図2は本発明の第2の実施形態を説明するX線撮像装置の構成図で、垂直回転軸の場合を示している。
図3図3図1及び図2のX線撮像装置に用いられるアダマールマスクの一例を示す構成図である。
図4図4はデコーディングの演算処理の一例を示す構成図である。
図5図5はアダマールマスクによる符号化と、演算処理による逆変換の一例を示す構成図である。
図6図6は本発明のX線撮像方法によるイメージング法の実施例を示す説明図である。
図7図7は本発明の第3の実施形態を説明するX線撮像装置の構成図で、水平回転軸の場合を示している。
図8図8は本発明の第4の実施形態を説明するX線撮像装置の構成図で、垂直回転軸の場合を示している。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を用いて本発明を説明する。
図1は本発明の第1の実施形態を説明するX線撮像装置の構成図で、水平回転軸の場合を示している。図2は本発明の第2の実施形態を説明するX線撮像装置の構成図で、垂直回転軸の場合を示している。図において、X線1は、所定厚さで所定幅を有する線状のX線で、平行ビームの場合を示している。試料2は、薄膜・多層膜の深さ方向の構造を精密に測定する対象となる試料で、例えば半導体の層間絶縁膜やハードディスク等の磁性材料の多層膜、表示デバイスの多層膜等を含む。
試料2からの反射X線の持つ1次元の強度プロファイルを測定して情報を得ようとする際、X線ビーム1の角度分散(図1では水平方向、つまりX線ビームの長手方向)により生じるぼけが、最終的に得られる画像の空間分解能を制約する。従って、できるだけ水平方向の角度分散の少ない平行なビームを用い、かつ試料2と検出器3の間の距離を短くすることが必要になる。なお、ぼけの量は、簡単な近似では、水平方向の角度分散と試料2と検出器3の間の距離の積になる。
【0024】
X線検出器3は、例えば反射X線の強度の測定ができる検出器で、従来のX線の反射率測定用と同様に、特段の位置分解能を持たない検出器で足りる。ガスフロー型比例係数管、シンチレーション検出器、半導体検出器、フォトダイオード等を用いることができる。もちろん、X線検出器として、1次元または2次元の位置分解能を持つ検出器であるX線フォトダイオードアレイ、X線CCDカメラ、X線CMOSカメラ、X線ピクセル検出器、X線イメージングプレート等を使用し、その総積分強度を主に用いつつ、画素ごとに得られる強度を参考情報とするのも有望である。連続スペクトルを有する白色X線を使用する場合は、X線検出器3は、半導体検出器とし、白色X線をスペクトルとして分析するだけのエネルギー分解能を備えており、マルチチャンネルアナライザーもしくはデジタルスペクトロメータ等の信号処理回路を含むものとする。
面内回転ステージ4は、試料の面内回転を行うもので、自動回転ステージ等を用いて行う。面内回転ステージ4は、1/100度程度の精度を持ち、偏心の小さい、ステッピングモータ駆動の自動回転ステージ等の使用が望ましい。走査範囲は0度から180度まで、角度刻みは1度から5度程度である。
【0025】
X線源5としては、例えば真空容器内に陰極である電子源と金属板である陽極からなり、電子を加速して金属板に衝突させて得られるX線を利用する封入式もしくは組立式のX線管が利用される。また超パルスレーザーを金属ターゲットに照射して得られるレーザープラズマX線源や、赤外線レーザーと電子線を衝突させて得られる逆コンプトン散乱X線源、さらにはテーブルトップのシンクロトロン放射X線源を用いることもできる。低出力で小型、可搬型のもので、X線強度があまり高くないものであっても、本願発明の技術を用いることができる。X線源5に含まれるスペクトル成分のうち、連続スペクトルを有する白色X線ではなく単色X線を使用する場合は、X線源5は、結晶モノクロメータ、多層膜ミラー、フィルター等、単色化を行うための手段を含む必要がある。結晶モノクロメータは、結晶のブラッグ反射の条件を利用し、特定の単色X線のみを取り出す分光器である。結晶の代わりに人工的に周期構造を積層して作成される多層膜ミラーでも同じ目的を達成できる。X線源としてX線管を用い、そのなかの特性X線のKα線を用いる場合は、管電圧を下げて白色の高エネルギーX線成分を大幅に減少させた上で、金属箔のフィルターによって特性X線のうちのKβ線を除去することにすると、単純な構造ながら、結晶モノクロメータや多層膜ミラーによって単色化させるのに近い効果が得られる。
【0026】
入射スリット6は、X線源5から放射されるX線をビームにする細長い一定幅の窓で、X線を透過しない材料で製作される。入射スリット6の開口部の厚さにより、X線の厚さが定まる。典型的なサイズとしては、長手方向が3〜15ミリ(実験室系で最も多いのは10ミリ前後)、短手方向が0.02〜0.1ミリ程度である。
なお、入射スリット6の形状は、図示してあるような矩形のものに限定されず、縦だけ制限するものと横だけ制限するもの、あるいは4象限スリット(XYスリット)で一方向ずつの刃で制限するものでもよい。更には、入射スリットを2つ以上、複数用いて、ビームの品質を多少なりとも向上させてもよい。更に、入射スリットと同じ大きさ程度のスリットを反射側に置いてもよい。ほとんどの反射率測定装置では、受光スリットと呼ばれる名称のスリットをX線検出器3の直前に設けている。本実施例では、アダマールマスク10をX線検出器3の直前に用いているので、受光スリットを入れるとすれば、その少し上流側か、ソーラースリット9の更に上流の位置になる。本実施例では、アダマールマスク10を、スリットの短手方向の大きさと同じ程度にすると、受光スリットは省略してもよい。アダマールマスク10がスリットの短手方向の大きさと同じ程度であっても、受光スリットを設けて差し支えない。この場合、受光スリットは水平、垂直を分けたり、4象限スリット(XYスリット)を用いてもよく、さらには複数設けてもよい。
【0027】
傾斜角調整部としてのθ回転ステージ7と2θ回転ステージ8は、ゴニオメータを二台組み合わせたものである。ゴニオメータとは、ステージ面上のある高さに位置する軸を中心に、光学部品の回転(ティルト)を行うものをいう。ゴニオメータは、回転軸がマウント面に直交する標準の回転ステージとは異なり、ゴニオメータの回転軸はマウント面に対して平行であるため、光学部品の配置が容易となる利点がある。θ回転ステージ7と2θ回転ステージ8は、θ/2θ走査、すなわち、視射角と脱出角がともにθとなるような条件で、θを非常に浅い角度範囲で変化させることができる。これにより、傾斜角調整部は単色X線ビームに対する面内回転ステージ4の傾斜角度を精密に調整できる。
【0028】
ソーラースリット9は、薄い金属板を互いに接近して平行に重ねて作られたスリットで,試料2からの反射方向以外のX線を遮断するために用いられる。ソーラースリット9は、平行性を高める目的で使用され、多くの回折装置、反射率測定装置に実際に採用されている。実施例では、反射側に設けてあるが、入射側に設けてもよく、更には入射、反射の両方に設けてもよい。ソーラースリットでX線の平行性が決まり、測定の1次元の強度プロファイルの空間分解能(ぼけ)は、X線の平行性に左右される。なお、ソーラースリットよりももっとよい平行性を得るためには、結晶やミラーなどの光学素子を用いるとよい。
【0029】
アダマールマスク10は、マイクロコードマスクとも呼ばれるもので、入射される信号に対してアダマール(Hadamart)変換による符号化変調を行うもので、例えば1周期のスロット数が所定数(M)個のものが所定数(N)の周期分設けられている。アダマールマスク10には、アダマールマスク10を試料2の走査方向に走査する位置走査機構を設けてある。位置走査機構によるアダマールマスクの移動走査方向は、反射X線の長手方向に平行な方向であり、例えば、図1の水平回転軸の場合には左右に見える方向、図2の垂直回転軸の場合には上下に見える方向である。
【0030】
このように構成された装置において、試料が均一であれば、反射X線のプロファイルを調べたとしても一定値であり、従って、検出器には空間分解能は特に必要ではなく、反射X線の強度だけを測定すればよい。
従って、試料2の極一部の領域のみを照射する狭い幅の線状のX線が用いられ、照射される領域内は均一であるという前提のもとに、θ/2θ走査、すなわち、視射角と脱出角がともにθとなるような条件で、θを非常に浅い角度範囲で変化させる。従って、所定厚さで所定幅を有する線状のX線とは、試料2の極一部の領域のみを照射するに足りる幅と厚みであればよい。そして、当該X線の反射プロファイルを解析することにより、薄膜・多層膜の膜面垂直方向の構造に関する情報を得ることができる。
【0031】
試料が均一ではなく、分布があり、あるいはパターン化されていたものである場合は、試料2から反射された単色X線ビームを、X線検出器3の分解能と比較して小さな形状の開口部が所定の符号化規則で配置されたアダマールマスク10によって符号化して、X線検出器3の分解能よりも高分解能のX線強度プロファイルデータが得られる。アダマールマスク10を試料2の走査方向に走査しているので、試料2の全表面のX線強度プロファイルデータが得られる。
X線反射率法は、X線が平坦、平滑な表面で全反射が生じるという現象を利用する技術である。ただ、全反射の意味はほぼ100%の反射で、臨界角より浅い領域で生じるものに限られ、X線反射率法は、全反射領域も含めた広範囲の角度領域で、反射強度が10の−6乗とか、−8乗とかの反射まで測定している。
【0032】
単色X線の場合は、通常のX線反射率測定で行うθ/2θ角度走査を行わないで、そのなかの特定の注目する角度にて、その角度における反射率の画像化を画像化演算装置により行うとよい。薄膜・多層膜では、例えば、金などの貴金属がコーティングされている箇所とコーティングのない箇所では、その臨界角等に注目して、反射強度が大きく異なる。そこで、貴金属の臨界角に固定した上で、本願発明を適用すると、コーティングされている部分とそうでない部分を高いコントラストで画像化できる。
【0033】
これに対して、連続スペクトルを有する白色X線ビームを用いる場合は、エネルギー分解能(波長分解能)を有する検出器を用いて測定するので、θ/2θ角度走査を行うことなく固定角度のままで、上述の単色X線の場合にθ/2θ角度走査して得られる全情報を含んでいる。具体的には、アダマールマスクの1次元走査によって得られる強度プロファイルも、単色X線の場合には1つだけであるが、連続スペクトルを有する白色X線の場合は、そのエネルギー(波長)ごとに得ているので、例えば1024個の異なる内容の1次元データを一度に取得したことに相当する。面内回転を繰り返して、例えば、5度ステップで合計37の1次元強度プロファイルを得る場合にも、それが37セット、37X1024個のデータとなる。
【0034】
図3図1及び図2のX線撮像装置に用いられるアダマールマスクの一例を示す構成図である。
アダマールマスクは、図3に示すように、決まったサイズの開口をある規則で配列したものであり、X線は、その開口部分だけ通過して検出器に到達し、それ以外の部分は通らない。ピンホールのように開口が1つしかない場合は、その開口の位置走査によってプロファイルを得ることができる。しかし、ピンホールは強度損失が大きいため、超小型、可搬・携帯型のX線装置では採用することが実質的に難しい。
【0035】
そこで、多数の開口を作ることにより、ある程度統計的に恵まれた条件下での強度測定を可能にする。このアダマールマスクを動かしながら、強度測定を繰り返すと「コード化されたプロファイル」が得られる。この時空間分解能は、アダマールマスクの開口サイズによってほぼ決まる。例えば、10〜100ミクロン程度の大きさの開口のあるアダマールマスクを作成すれば、そのサイズに見合った空間分解能でプロファイルを測定することができる。
【0036】
図4はデコーディングの演算処理の一例を示す構成図である。得られたデータは、アダマールマスクによる符号化に対して、その逆変換に相当するデコーディング演算を行うことで、本来の強度プロファイルを再生できる。
【0037】
図5はアダマールマスクによる符号化と、演算処理による逆変換の一例を示す構成図である。コーディング、デコーディングを経て、元のプロファイルが再生されていることが確認できる。
【0038】
図6は本発明のX線撮像方法によるイメージング法の実施例を示す説明図である。すなわち、試料を面内回転させ、各回転角度で、反射X線の強度プロファイルを収集する。この強度プロファイルの収集は、空間分解能を持たないX線検出器3を用いながら、アダマールマスク10の位置走査を行って得られる「コード化されたプロファイル」をデコーディングする。デコーディングされた強度プロファイルを面内回転角度ごとに集め、画像再構成の演算によって、試料のイメージを取得する。
【0039】
図7は本発明の第3の実施形態を説明するX線撮像装置の構成図で、水平回転軸の場合を示している。図8は本発明の第4の実施形態を説明するX線撮像装置の構成図で、垂直回転軸の場合を示している。
上記第3と第4の実施形態では、X線ビーム1を平行ビームとせず、発散ビームを利用していると共に、ソーラースリットを設けない。これらの実施形態では、X線源5aが微小焦点である場合に該当する。なお、非破壊検査用のX線CT装置では、透過と反射の違いを別にすれば、図7図8の構成が取られている。空間分解能は、平行性とか、試料2−検出器3の間の距離で決まるのではなく、X線源1の大きさおよびアダマールマスク10の1つのチャンネルの大きさの大きい方で決まる。X線源5aとして、5〜50ミクロン程度の微小焦点のX線源は市販されているので、これら実施形態では、当該構成をとることで、X線源5aと同程度の空間分解能の画像が得られる。
【0045】
なお、上記の実施例においては、傾斜角調整部としてθ/2θゴニオメータを使用している場合を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、事実上θ/2θ走査と同等の機能の走査が行える機構であればよい。
【0046】
また、上記の実施例においては、X線検出器分解能として、X線検出器位置分解能を使用している場合を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、X線検出器分解能はX線角度分解能や他の特性に関するものでも良い。
さらに、上記の実施例においては、試料の回転した角度として、試料の面内回転した角度を使用している場合を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、試料の回転した角度には面外回転の角度が含まれていても良い。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本願発明のX線撮像装置を使用することにより、半導体集積回路デバイス、磁気デバイス、表示デバイス等に用いられるパターン化された薄膜・多層膜の製品の検査・評価技術としての応用が期待される。密度、膜厚、表面・界面ラフネスの場所による違いを画像化することにより、製品が設計通りであるかどうかを確認し、あるいは性能が不良である場合の原因を検討することにより、製品の品質向上に役立てることができる。
【符号の説明】
【0048】
1 X線
試料
3 X線検出器
面内回転ステージ
5 X線源(単色X線又は連続スペクトルを有する白色X線)
5a 微小焦点のX線源(単色X線又は連続スペクトルを有する白色X線)
入射スリット
θ回転ステージ、傾斜角調整部
2θ回転ステージ、傾斜角調整部
ソーラースリット
10 アマダールマスク、マイクロコードマスク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8