特許第6395305号(P6395305)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6395305アルミニウム合金製ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材およびその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6395305
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】アルミニウム合金製ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21J 1/04 20060101AFI20180913BHJP
   B21J 5/00 20060101ALI20180913BHJP
   B21J 5/02 20060101ALI20180913BHJP
   B21K 3/04 20060101ALI20180913BHJP
   B22D 11/00 20060101ALI20180913BHJP
   C22C 21/16 20060101ALI20180913BHJP
   C22F 1/057 20060101ALI20180913BHJP
   B22D 11/049 20060101ALN20180913BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20180913BHJP
【FI】
   B21J1/04
   B21J5/00 D
   B21J5/02 C
   B21K3/04
   B22D11/00 E
   C22C21/16
   C22F1/057
   !B22D11/049
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 650A
   !C22F1/00 630G
   !C22F1/00 650D
   !C22F1/00 650F
   !C22F1/00 651B
   !C22F1/00 630J
   !C22F1/00 604
   !C22F1/00 630K
   !C22F1/00 681
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 684C
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 692A
   !C22F1/00 692B
   !C22F1/00 694A
   !C22F1/00 694B
【請求項の数】12
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2014-222688(P2014-222688)
(22)【出願日】2014年10月31日
(65)【公開番号】特開2016-87624(P2016-87624A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2017年7月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100146879
【弁理士】
【氏名又は名称】三國 修
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正広
(72)【発明者】
【氏名】藤井 崇史
【審査官】 石川 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−011643(JP,A)
【文献】 特開2000−197943(JP,A)
【文献】 特開昭60−158942(JP,A)
【文献】 特開2013−078770(JP,A)
【文献】 特開平08−144002(JP,A)
【文献】 特開2011−131279(JP,A)
【文献】 特開2006−305629(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21J 5/00
B21K 3/04
B21K 1/36
B21J 1/04
C22C 21/16
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造棒材を素材として、鍛造加圧方向が素材の鋳造方向に沿いかつコンプレッサホイールの回転中心軸線方向に沿うように、密閉型鍛造もしくは半密閉型鍛造により熱間鍛造して得られるアルミニウム合金製ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材であって、
前記素材のアルミニウム合金が、質量%で、Si:0.05〜0.3%、Cu:3.0〜5.5%、Mg:1.1〜2.4%、Fe:0.8〜1.3%、Mn:0.1〜0.4%、Ni:0.7〜2.8%、Zr:0.05〜0.3%、Ti:0.005〜0.06%を含み、残部がAl及び不可避的不純物よりなり、
素形材形状が、コンプレッサホイールの複数の羽根部に相当する部位を含んでコンプレッサホイールの外径形状より大きく、その羽根部相当部位の外面が、前記回転中心軸線に沿った方向の一方の側から他方の側に向けて滑らかに拡径された傾斜面を有する形状とされ、
しかも羽根部相当部位における外径側端部よりも前記回転中心軸線を基準とする半径方向外側に、コンプレッサホイールの最終製品に対する余肉部位となるフランジ部が延出され、且つ前記羽根部相当部位には、前記回転中心軸線の側から前記フランジ部に向かうメタルフローが形成されていることを特徴とするアルミニウム合金製ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材。
【請求項2】
前記傾斜面が、コンプレッサホイールの複数の羽根部のチップエッジ部を含む仮想曲面に対応する面である請求項1に記載のアルミニウム合金製ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材。
【請求項3】
前記羽根部相当部位のメタルフローのうち、少なくとも前記傾斜面直下でのメタルフローが、前記複数の羽根部のチップエッジ部を含む仮想曲面に沿うことを特徴とする請求2に記載のアルミニウム合金製ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材。
【請求項4】
前記素材における前記回転中心の軸線に沿った方向の高さをhとし、鍛造素形材の羽根部相当部位における前記回転中心の軸線に沿った方向の高さが最も高い位置におけるその高さをbとし、
据込率Uを{(h−b)/h}×100(%)とし、
前記据込率Uが、40〜80%の範囲内となるように熱間鍛造されたものであることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかの請求項に記載のアルミニウム合金製ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材。
【請求項5】
鍛造素形材の全体の体積をV1とし、羽根部相当部位の半径方向先端位置よりも外側の、前記フランジ部の全体を含む部位の体積をV2とし、(V2/V1)×100(%)の値を体積比VRとして、その体積比VRが、50%以上、80%未満の範囲内であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかの請求項に記載のアルミニウム合金製ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材。
【請求項6】
前記フランジ部における前記回転中心の軸線に沿った方向の平均の厚みをaとし、前記羽根部相当部位における前記回転中心の軸線に沿った方向の高さが最も高い位置におけるその高さをbとし、絞り高さ比SRを(a/b)×100(%)とし、
前記絞り高さ比SRが25〜75%の範囲内であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかの請求項に記載のアルミニウム合金製ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材。
【請求項7】
質量%で、Si:0.05〜0.3%、Cu:3.0〜5.5%、Mg:1.1〜2.4%、Fe:0.8〜1.3%、Mn:0.1〜0.4%、Ni:0.7〜2.8%、Zr:0.05〜0.3%、Ti:0.005〜0.06%を含み、残部がAl及び不可避的不純物よりなるアルミニウム合金の連続鋳造棒材を素材とし
鍛造加圧方向が、素材の鋳造方向に沿いかつコンプレッサホイールの回転中心軸線方向に沿うように、密閉型鍛造もしくは半密閉型鍛造により前記素材を熱間鍛造し、その鍛造上がり材として、ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材を得る鍛造工程を有し、
前記鍛造工程においては、鍛造上がりの鍛造素形材の形状が、コンプレッサホイールの複数の羽根部に相当する部位を含んでコンプレッサホイールの外径形状より大きい形状であって、その羽根部相当部位の外面が、前記回転中心軸線に沿った方向の一方の側から他方の側に向けて滑らかに拡径された傾斜面を有する形状となるように、しかも羽根部相当部位における外径側端部よりも前記回転中心軸線を基準とする半径方向外側に、コンプレッサホイールの最終製品に対する余肉部位となるフランジ部が延出されるように鍛造し、
前記羽根部相当部位に、前記回転中心軸線の側から前記フランジ部に向かうメタルフローが形成された鍛造上がり材得ることを特徴とするアルミニウム合金製ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材の製造方法。
【請求項8】
前記鍛造工程において、前記羽根部相当部位のメタルフローのうち、少なくとも前記傾斜面直下でのメタルフローが、コンプレッサホイールの複数の羽根部のチップエッジ部を含む仮想曲面に沿うように鍛造することを特徴とする請求項7に記載のアルミニウム合金製ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材の製造方法。
【請求項9】
前記鍛造工程において、前記素材における前記回転中心の軸線に沿った方向の高さをhとし、鍛造素形材の羽根部相当部位における前記回転中心の軸線に沿った方向の高さが最も高い位置におけるその高さをbとし、
据込率Uを{(h−b)/h}×100(%)とし、
前記据込率Uが、40〜80%の範囲内となるように熱間鍛造することを特徴とする請求項7、請求項8のいずれかの請求項に記載のアルミニウム合金製ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材の製造方法。
【請求項10】
前記鍛造工程において、鍛造素形材の全体の体積をVとし、羽根部相当部位の半径方向先端位置よりも外側の、前記フランジ部の全体を含む部位の体積をV2とし、(V2/V1)×100(%)の値を体積比VRとして、その体積比VRが、50%以上、80%未満の範囲内となるように鍛造することを特徴とする請求項7〜請求項9のいずれかの請求項に記載のアルミニウム合金製ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材の製造方法。
【請求項11】
前記鍛造工程において、前記フランジ部における前記回転中心の軸線に沿った方向の平均の厚みをaとし、前記羽根部相当部位における前記回転中心の軸線に沿った方向の高さが最も高い位置におけるその高さをbとし、絞り高さ比SRを(a/b)×100(%)とし、
前記絞り高さ比SRが25〜75%の範囲内となるように鍛造することを特徴とする請求項7〜請求項10のいずれかの請求項に記載のアルミニウム合金製ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材の製造方法。
【請求項12】
前記鍛造工程において、鍛造時の素材温度を350〜450℃の範囲内とすることを特徴とする請求項7〜請求項11のいずれかの請求項に記載のアルミニウム合金製ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの輸送機器内燃機関に用いられるターボチャージャに使用されるアルミニウム合金製ターボコンプレッサホイール用鍛造上がりの素形材、およびそのターボコンプレッサホイール用鍛造素形材を製造するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
よく知られているように、輸送機器内燃機関に用いられるターボチャージャは、排気ガスの圧力により回転するタービンと連結軸で結合されたコンプレッサホイール(インペラーとも称される)が回転することにより、空気をコンプレッサハウジングに送って空気を圧縮し、この圧縮空気を燃焼室に送り込むことにより内燃機関の燃焼効率を高めて、内燃機関の出力の向上、排気ガスの清浄化をもたらす装置である。このようなターボチャージャでは、通常はタービン側(排気ガス)とコンプレッサ側(吸気側)に分割されていて、その間に断熱ベアリングを配置する構造となっている。コンプレッサ側は、コンプレッサハウジングの中央にコンプレッサホイールが配置されている。
【0003】
このようなターボチャージャ装置のコンプレッサホイールは、通常は円錐状をなす回転軸部の外周側に、空気を掻き込むための複数の曲面状の薄い羽根部(翼部)を放射状にかつ渦巻の一部をなすように配置した構成とするのが一般的である。そして、そのコンプレッサホイールは、かたつむり状の渦巻き管を有するハウジングの中央部に配置される。
【0004】
コンプレッサホイールの代表的な例について、その基本形状の概略の一例を、図1図3に示す。
【0005】
図1図3において、コンプレッサホイール1は、図示しないタービン側ローターと連結されるシャフトを圧入するためのシャフト穴2を有する略円錐状の回転軸部3の外周側に、放射状にかつ渦巻の一部をなすように傾斜した複数の羽根部4を一体に形成した構造となっている。ここで、回転軸部3における小径側の端部は、羽根部4の端部から突出するボス部5とされる。また、回転軸部3の外縁部分(但し、主として回転軸部3の一端側のボス部5の付近を除く)は、羽根部4の基端に連続する羽根付け根部7に相当する。なお図1図3において、白抜き矢印9は、コンプレッサに組み込んだ時の空気の流れ方向を示している。ここで、羽根部4の縁部のうち、空気の吸入側の吸気側の縁部4Bと空気の排出側の縁部4Cとの中間の、捻じれ湾曲状に傾斜(回転中心軸線Oに対して捻じれ状に傾斜)した縁部(エッジ部)4Aは、コンプレッサハウジングとの間で隙間(いわゆるチップクリアランス)を形成するエッジ部であり、そこで本明細書では、その部位4Aを、チップエッジ部と称することとする。
なお実際のコンプレッサホイールにおいては、各部に、より微細な形状が付与されたり、上記以外の細かい凸部や凹部が形成されるのが通常であるが、ここでは基本的な部分のみを示し、細部形状については省略している。なおまた、自動車などの輸送用機器におけるターボチャージャのコンプレッサホイールの場合、その全体的な寸法は、例えば回転軸線Oを基準とする最大外径が30〜150mm程度、回転軸線Oに沿った方向の最大長さが20〜100mm程度のことが多い。
【0006】
ところで、ターボチャージャのコンプレッサホイールは、150℃程度の高温において10000rpmを超える高速回転が与えられるため、高温高強度及び高い剛性を有することが要求されると同時に、エネルギ損失の低減を図るために軽量であることが必要である。また、高速回転に耐えるように、高速回転時の動バランスが良好であること、したがって周方向(回転方向)に均一な密度を有することも要求される。
【0007】
そのほか、コンプレッサホイールにおいては、圧縮空気の高温化による高効率化を図って、タービン側からの熱を圧縮空気に伝えることが有効であり、そのため放熱性(熱伝導性)が良好であることが望まれる。
【0008】
さらに、コンプレッサホイールの各部ごとに考慮すれば、羽根部4は軽量性を確保するために薄肉であること(通常は1mm未満の肉厚であること)が求められる。そのため、高速回転で羽根部4が変形しにくいこと、したがって羽根部4の高温強度が高く、剛性も高いことが要求され、とりわけ羽根部4の内でも特に先端部分、とりわけチップエッジ部は極端に薄肉となるのが通常であり、しかもその先端部分の特に最大径部分には、コンプレッサとしての使用時の高速回転によって著しく大きな遠心力が作用するから、その部分には、高温強度、剛性が十分に高いことが望まれる。一方、羽根付け根部(回転軸部3から羽根部4に連続する部分)7については、回転時に応力が集中する部分であるため、高速回転での連続使用に対しての耐久性、信頼性を満たすために、切欠き疲労強度が高いことが求められる。回転軸部3は、複数の羽根部4を支持する部分であって、しかもターボチャージャの組み立てに当たっては、回転軸部3のシャフト穴2にシャフトが圧入されるのが通常であり、そこで回転軸部3は羽根部よりも格段に肉厚とされ、しかもその回転軸部3の一端側のボス部5は、シャフト圧入時に割れが生じないように、強度と伸びが良好であることが望まれる。
【0009】
このように、コンプレッサホイールにおいては、全体的に高温での高強度、高剛性を有しかつ高速回転時の優れた動バランス、軽量性を有すると同時に、各部分の機能や異なる形状、肉厚などに応じて、各部分ごとに異なる特性を有することが望まれる。
【0010】
なお、従来のターボチャージャのコンプレッサホイールの材料としては、前述のような要求特性のうち、主として軽量性や熱伝導性、更には加工性などの観点から、一般にはアルミニウム合金が使用されている。
【0011】
従来、この種のアルミニウム合金製コンプレッサホイールは、ロストワックス法と称される鋳造法(精密鋳造法とも称される)によってアルミニウム合金溶湯から直接的に素形材を鋳造し、その精密鋳造素形材に、適宜切削加工などの仕上げ加工を施してコンプレッサホイールに仕上げるのが通常であった(例えば、特許文献1など)。
【0012】
また一方、ターボチャージャのコンプレッサホイールなどの回転体を製造する方法としては、アルミニウム合金の押出し材(押出しビレット)を素材とし、その押出しビレットに鍛造加工を加えて鍛造素形材とし、更に切削加工を加えて仕上げる方法も提案されている(例えば特許文献2)。
【0013】
そのほか特許文献3においては、特許文献2の場合と同様に、アルミニウム合金素材から、鍛造加工によってターボチャージャのコンプレッサホイールなどの回転体を得る方法であることを前提とし、その場合において、鍛造工程で全体的に均一に鍛錬し、すなわち3方向に鍛錬して、デッドゾーン部がなく、メタルフロー部がほぼ均一に存在する鍛造素形材を得る方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2005−206927号公報
【特許文献2】特開2006−305629号公報
【特許文献3】特開2000−197943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、ターボチャージャのコンプレッサホイールは、前述のようにシャフト穴周囲の厚肉の部分(回転軸部)と、その厚肉の部分から放射状に延びる薄肉の部分(羽根部)とが混在し、しかも羽根部は、特にその先端部分の肉厚が1mm未満ときわめて薄く、かつ特殊な捻じれた曲面を構成していることから、特許文献1に示されているように精密鋳造法によって製造する場合には、ロストワックス鋳型内にアルミニウム合金溶湯を注入する際に、薄肉部にアルミニウム合金溶湯が充分に廻らず、そのため薄肉部にポロシティや酸化物などの内部欠陥が生じたり、微細な形状部分を正確に形成することができなかったりすることが多い。そのため、薄肉の羽根部や羽根付け根部の寸法精度や強度が低くなり、その結果、コンプレッサホイールとしての高速回転時の動バランスが悪くなったり、良品歩留まりが低くなってしまったりする問題がある。また精密鋳造法によってコンプレッサホイールを製造する場合、素材のアルミニウム合金としては、主に鋳造時の湯流れ性の観点からその成分組成を選択せざるを得ず、そのためコンプレッサホイールに要求される前述の諸特性、特に高温強度や剛性を必ずしも満足させ得ないことが多かった。さらに特許文献1に示されるように精密鋳造法によって製造した場合、全体的に均一な組織となるのが通常であり、そのためコンプレッサホイールの各部に対する異なる要求をすべて満たすことは困難であった。
【0016】
また一方、特許文献2に示されているように、押出し材を素材として鍛造加工によって得られたコンプレッサホイールにおいては、押出材が、その押出し方向に沿って長く延びる繊維状組織を有していて、押出し方向に対して直交する横断面で見れば、半径方向にほぼ均等な組織(半径方向に粒径がほぼ均一な組織)となっており、鍛造後の素形材としても、羽根部を含む最大径部分では、コンプレッサホイール中心回転軸線に直交する横断面で見て、半径方向にほぼ均質な組織となるのが通常である。これは、言い換えれば、コンプレッサホイールの各部ごとに望まれる異なる特性をそれぞれ十分には満足させ得ないことを意味する。
【0017】
さらに特許文献3に示されるように、3方向に鍛造する場合も、全体的に均質な組織となり、そのため、コンプレッサホイールの各部ごとに望まれる異なる特性をそれぞれ十分には満足させることは困難であった。またこの場合、概ね均質な組織が得られるとはいえども、3段階にわたって異なる方向から鍛造する関係上、コンプレッサホイールの回転中心位置を基準としてその周方向に組織が均一となるとは限らず、そのためコンプレッサホイールの高速回転時の動バランスに劣る製品となってしまうおそれがある。
【0018】
本発明は、以上の事情を背景としてなされたもので、全体的に高温強度、剛性に優れると同時に、高速回転時の動バランスに優れ、しかも各部について、それぞれ異なる要求特性、望まれる特性に応じた最適な性能を有するコンプレッサホイールを製造し得るアルミニウム合金製コンプレッサホイール用素形材、とりわけコンプレッサホイールの回転中心軸線に対して直交する面内の直径方向の強度が高くて、羽根部先の先端の強度が高いコンプレッサホイール用素形材を提供し、併せて、そのコンプレッサホイール用素形材を実際に製造し得る方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前述の課題を解決するべく、本発明者等は、アルミニウム合金製ターボコンプレッサホイール用素形材について種々実験、検討を重ねた結果、素材として、連続鋳造による棒材、すなわち急冷凝固の連続鋳造によって得られた鋳造棒材を使用して、熱間鍛造、特に熱間密閉型鍛造もしくは熱間半密閉型鍛造により素形材(鍛造素形材)を得ることとし、しかも素材アルミニウム合金の成分組成を適切に調整すると同時に、素形材(鍛造素形材)の形状として、コンプレッサホイールの羽根部に相当する部位(羽根部相当部位)の外周側に、最終製品のコンプレッサホイールの外形に対して余肉部位となるフランジ部が形成されるように鍛造して、羽根部相当部位に、コンプレッサホイールの回転中心軸線の側から余肉部に向かうメタルフローを形成することが最適であることを見い出した。
そしてこれらの知見から、アルミニウム合金製ターボコンプレッサホイール用の鍛造素形材についての発明、及びその鍛造素形材の製造方法についての発明をなすに至った。
【0020】
したがって本発明の基本的な態様(第1の態様)によるアルミニウム合金製ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材は、
連続鋳造棒材を素材として、鍛造加圧方向が素材の鋳造方向に沿いかつコンプレッサホイールの回転中心軸線方向に沿うように、密閉型鍛造もしくは半密閉型鍛造により熱間鍛造して得られるアルミニウム合金製ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材であって、
前記素材のアルミニウム合金が、質量%で、Si:0.05〜0.3%、Cu:3.0〜5.5%、Mg:1.1〜2.4%、Fe:0.8〜1.3%、Mn:0.1〜0.4%、Ni:0.7〜2.8%、Zr:0.05〜0.3%、Ti:0.005〜0.06%を含み、残部がAl及び不可避的不純物よりなり、
素形材形状が、コンプレッサホイールの複数の羽根部に相当する部位を含んでコンプレッサホイールの外径形状より大きく、その羽根部相当部位の外面が、前記回転中心軸線に沿った方向の一方の側から他方の側に向けて滑らかに拡径された傾斜面を有する形状とされ、
しかも羽根部相当部位における外径側端部よりも前記回転中心軸線を基準とする半径方向外側に、コンプレッサホイールの最終製品に対する余肉部位となるフランジ部が延出され、且つ前記羽根部相当部位には、前記回転中心軸線の側から前記フランジ部に向かうメタルフローが形成されていることを特徴とするものである。
【0021】
また本発明の第2の態様によるアルミニウム合金製ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材は、
第1の態様のアルミニウム合金製ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材において、
前記傾斜面が、コンプレッサホイールの複数の羽根部のチップエッジ部を含む仮想曲面に対応する面であることを特徴とする。
【0022】
さらに本発明の第3の態様によるアルミニウム合金製ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材は、
第2の態様のアルミニウム合金製ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材において、
前記羽根部相当部位のメタルフローのうち、少なくとも前記傾斜面直下でのメタルフローが、前記複数の羽根部のチップエッジ部を含む仮想曲面に沿うことを特徴とするものである。
【0023】
さらに本発明の第4の態様によるアルミニウム合金製ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材は、
第1〜第3のいずれかの態様のアルミニウム合金製ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材において、
前記素材における前記回転中心の軸線に沿った方向の高さをhとし、鍛造素形材の羽根部相当部位における前記回転中心の軸線に沿った方向の高さが最も高い位置におけるその高さをbとし、
据込率Uを{(h−b)/h}×100(%)とし、
前記据込率Uが、40〜80%の範囲内となるように熱間鍛造されたものであることを特徴とするものである。
【0024】
さらに本発明の第5の態様のアルミニウム合金製ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材は、
第1〜第4のいずれかの態様のアルミニウム合金製ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材において、
鍛造素形材の全体の体積をV1とし、羽根部相当部位の半径方向先端位置よりも外側の、前記フランジ部の全体を含む部位の体積をV2とし、(V2/V1)×100(%)の値を体積比VRとして、その体積比VRが、50%以上、80%未満の範囲内であることを特徴とする。
【0025】
また本発明の第6の態様のアルミニウム合金製ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材は、
第1〜第5のいずれかの態様のアルミニウム合金製ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材において、
前記フランジ部における前記回転中心の軸線に沿った方向の平均の厚みをaとし、前記羽根部相当部位における前記回転中心の軸線に沿った方向の高さが最も高い位置におけるその高さをbとし、絞り高さ比SRを(a/b)×100(%)とし、
前記絞り高さ比SRが25〜75%の範囲内であることを特徴とするものである。
【0026】
また以下の各態様は、アルミニウム合金製ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材の製造方法についての態様である。
【0027】
すなわち、本発明の第7の態様のアルミニウム合金製ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材の製造方法は、
質量%で、Si:0.05〜0.3%、Cu:3.0〜5.5%、Mg:1.1〜2.4%、Fe:0.8〜1.3%、Mn:0.1〜0.4%、Ni:0.7〜2.8%、Zr:0.05〜0.3%、Ti:0.005〜0.06%を含み、残部がAl及び不可避的不純物よりなるアルミニウム合金の連続鋳造棒材を素材とし
鍛造加圧方向が、素材の鋳造方向に沿いかつコンプレッサホイールの回転中心軸線方向に沿うように、密閉型鍛造もしくは半密閉型鍛造により前記素材を熱間鍛造し、その鍛造上がり材として、ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材を得る鍛造工程を有し、
前記鍛造工程においては、鍛造上がりの鍛造素形材の形状が、コンプレッサホイールの複数の羽根部に相当する部位を含んでコンプレッサホイールの外径形状より大きい形状であって、その羽根部相当部位の外面が、前記回転中心軸線に沿った方向の一方の側から他方の側に向けて滑らかに拡径された傾斜面を有する形状となるように、しかも羽根部相当部位における外径側端部よりも前記回転中心軸線を基準とする半径方向外側に、コンプレッサホイールの最終製品に対する余肉部位となるフランジ部が延出されるように鍛造し、
前記羽根部相当部位に、前記回転中心軸線の側から前記フランジ部に向かうメタルフローが形成された鍛造上がり材得ることを特徴とするものである。
【0028】
また本発明の第8の態様のアルミニウム合金製ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材の製造方法は、
第7の態様のアルミニウム合金製ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材の製造方法において、
前記鍛造工程において、前記羽根部相当部位のメタルフローのうち、少なくとも前記傾斜面直下でのメタルフローが、コンプレッサホイールの複数の羽根部のチップエッジ部を含む仮想曲面に沿うように鍛造することを特徴とする。
【0029】
さらに本発明の第9の態様のアルミニウム合金製ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材の製造方法は、
第7、第8のいずれかの態様のアルミニウム合金製ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材の製造方法において、
前記鍛造工程において、前記素材における前記回転中心の軸線に沿った方向の高さをhとし、鍛造素形材の羽根部相当部位における前記回転中心の軸線に沿った方向の高さが最も高い位置におけるその高さをbとし、
据込率Uを{(h−b)/h}×100(%)とし、
前記据込率Uが、40〜80%の範囲内となるように熱間鍛造することを特徴とするものである。
【0030】
さらに本発明の第10の態様のアルミニウム合金製ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材の製造方法は、
第7〜第9いずれかの態様のアルミニウム合金製ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材の製造方法において、
前記鍛造工程では、鍛造素形材の全体の体積をV1とし、羽根部相当部位の半径方向先端位置よりも外側の、前記フランジ部の全体を含む部位の体積をV2とし、(V2/V1)×100(%)の値を体積比VRとして、その体積比VRが、50%以上、80%未満の範囲内となるように鍛造することを特徴とするものである。
【0031】
さらに本発明の第11の態様のアルミニウム合金製ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材の製造方法は、
第7〜第10のいずれかの態様のアルミニウム合金製ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材の製造方法において、
前記鍛造工程において、前記フランジ部における前記回転中心の軸線に沿った方向の平均の厚みをaとし、前記羽根部相当部位における前記回転中心の軸線に沿った方向の高さが最も高い位置におけるその高さをbとし、絞り高さ比SRを(a/b)×100(%)とし、
前記絞り高さ比SRが25〜75%の範囲内となるように鍛造することを特徴とするものである。
【0032】
さらに本発明の第12の態様のアルミニウム合金製ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材の製造方法は、
第7〜第11のいずれかの態様のアルミニウム合金製ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材の製造方法において、
前記鍛造工程では、鍛造時の素材温度を350〜450℃の範囲内とすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0033】
本発明のアルミニウム合金製ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材は、常温強度、高温強度、剛性に優れ、とりわけコンプレッサホイールの回転中心軸線に沿った方向(L方向)に対して直交する方向(LT方向)の強度が高く、その鍛造素形材を用いてターボチャージャのコンプレッサホイールを製造すれば、全体的に常温強度、高温強度、剛性に優れると同時に、高速回転時の動バランスに優れ、しかも各部分についての、それぞれ異なる要求特性、望まれる特性に応じた最適な性能を有し、特に羽根部の強度、剛性(とりわけ羽根部先端(チップエッジ部)の強度、剛性)が高いコンプレッサホイールコンプレッサホイールを得ることができる。また本発明のターボコンプレッサホイール用鍛造素形材の製造方法によれば、そのような優れた性能を有するコンプレッサホイール用鍛造素形材を実際的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】ターボチャージャ用のコンプレッサホイールの一例を概略的に示す斜視図である。
図2図1に示されるコンプレッサホイールの平面図である。
図3図2におけるIII−III線での縦断面図である。
図4A】本発明によるアルミニウム合金製ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材の一例、特に熱間密閉型鍛造による鍛造上がり材からなる素形材の縦断面形状の一例を、最終製品のコンプレッサホイールの縦断面形状に対応させて示す模式図である。
図4B】本発明によるアルミニウム合金製ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材の他の例、特に熱間半密閉型鍛造による鍛造上がり材からなる素形材の縦断面形状の一例を、最終製品のコンプレッサホイールの縦断面形状に対応させて示す模式図である。
図5】本発明において鍛造用素材として使用される連続鋳造棒材における鋳造方向に沿った縦断面の組織の一例を示す模式図である。
図6】本発明において鍛造用素材として使用される連続鋳造棒材における鋳造方向に対して直交する横断面の組織の一例を示す模式図である。
図7】鍛造用素材として押出し材を用いる従来方法に関して、その鍛造用素材の押出し材における押出し方向に沿った縦断面の組織の一例を示す模式図である。
図8】本発明のターボコンプレッサホイール用鍛造素形材の製造方法を適用して、ターボコンプレッサホイールを製造するプロセスの一例を示すフローチャートである。
図9】本発明のターボコンプレッサホイール用鍛造素形材の断面形状の第1の例を示す略解図である。
図10】本発明のターボコンプレッサホイール用鍛造素形材の断面形状の第2の例を示す略解図である。
図11】本発明のターボコンプレッサホイール用鍛造素形材の断面形状の第3の例を示す略解図である。
図12】本発明のターボコンプレッサホイール用鍛造素形材の断面形状の第4の例を示す略解図である。
図13】本発明のターボコンプレッサホイール用鍛造素形材の製造に使用される鍛造用素材(連続鋳造棒材)の一例の断面形状を示す略解図である。
図14A図9に示す第1の例の鍛造素形材を熱間密閉型鍛造するための密閉鍛造型の一例を、上型が上死点位置の状態で示す縦断面図である。
図14B図9に示す第1の例の鍛造素形材を熱間密閉型鍛造するための密閉鍛造型の一例を、上型が下死点位置の状態で示す縦断面図である。
図15A図10に示す第2の例の鍛造素形材を熱間半密閉型鍛造するための半密閉鍛造型の一例を、上型が上死点位置の状態で示す縦断面図である。
図15B図10に示す第2の例の鍛造素形材を熱間半密閉型鍛造するための半密閉鍛造型の一例を、上型が下死点位置の状態で示す縦断面図である。
図16図9に示す第1の例についての、熱間での密閉型鍛造によるメタルフローを、鍛造上がり材における縦断面位置で示す模式図である。
図17図10に示す第2の例についての、熱間での半密閉型鍛造によるメタルフローを、鍛造上がり材における縦断面位置で示す模式図である。
図18図11に示す第3の例についての、熱間での密閉型鍛造によるメタルフローを、鍛造上がり材における縦断面位置で示す模式図である。
図19図12に示す第4の例についての、熱間での密閉型鍛造によるメタルフローを、鍛造上がり材における縦断面位置で示す模式図である。
図20】コンプレッサホイール用鍛造素形材を得るための熱間での密閉型鍛造における据込率Uと、鍛造素形材のLT方向の強度との関係を示すグラフである。
図21】本発明との比較のため、押出し材を鍛造なしでコンプレッサホイール用素形材とする場合のメタルフローを、製品のコンプレッサホイールの断面形状と対応させて、縦断面位置で示す模式図である。
図22】本発明との比較のため、単純な円盤状に据込鍛造した場合の鍛造上がり材のメタルフローを、製品のコンプレッサホイールの断面形状と対応させて、縦断面位置で示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明のアルミニウム合金製ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材と、その製造方法の実施形態について、詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態は例示に過ぎず、本発明がこれらの実施形態に限定されないことはもちろんである。
【0036】
先ず本発明において、ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材の素材(鍛造用素材)として用いるアルミニウム合金について説明する。
【0037】
〔素材のアルミニウム合金〕
本発明においては、使用するアルミニウム合金は、基本的にはAl−Cu―Mg系合金であるが、本発明で使用するAl−Cu―Mg系合金は、従来から鍛造に使用することのあるAl−Cu―Mg系合金、すなわちいわゆる2000系の規格合金、例えばA2618合金とは、その成分組成が異なる。
具体的には、質量%で、Si:0.05〜0.3%、Cu:3.0〜5.5%、Mg:1.1〜2.4%、Fe:0.8〜1.3%、Mn:0.1〜0.4%、Ni:0.7〜2.8%、Zr:0.05〜0.3%、Ti:0.005〜0.06%を含み、残部がAl及び不可避的不純物よりなる合金を用いる。またこの合金では、上記の必須の成分元素の他の、必要に応じて添加される成分元素もしくは不純物元素の含有量は、それぞれ0.1%以下、合計で2.0%以下に規制することが望ましい。
【0038】
このような成分組成の合金であれば、後述するように密閉型鍛造もしくは半密閉型鍛造により、積極的に余肉部が形成されるように熱間鍛造することによって、本発明において重要な、所定のメタルフローを有する鍛造素形材を確実に得ることが可能となり、ひいてはコンプレッサホイールの回転中心軸線に対して直交する方向(いわゆるLT方向)の強度が充分に高くて、羽根部の先端部(とりわけチップエッジ部)の強度が高いコンプレッサホイールを得ることが可能となる。また合金の成分組成を上述のように調整すると同時に、連続鋳造棒材を鍛造素材としているため、後に改めて説明するように、その鍛造素材は、連続鋳造での急冷凝固によって組織(ここでは鋳造組織)の微細化が図られている。そのため、室温強度、高温強度、剛性、疲労強度、切欠き感受性などの点でも優れており、これらの点からもコンプレッサホイール用の素形材の材料として優れている。
【0039】
素材アルミニウム合金の成分組成を上述のように規定した理由は次の通りである。
【0040】
Si:
Siは、マトリックス中に共晶Siとして分布し、剛性を向上させ、Mgと共存してMg2Si粒子を析出してアルミニウム合金の強度を向上させる。その効果を得るためには、Siを0.05%以上含むことが必要である。一方、Si量が0.3%を越えれば、伸びが低下して、鍛造性を低下させてしまう。そこでSiは、0.05〜0.3%の範囲内とした。なおSiは、150℃程度での分散強化に貢献する元素であるから、一般的なターボチャージャにおける使用温度(150℃程度)より高温(例えば200℃程度以上の温度)で使用する場合は、0.1〜0.25%の範囲内とすることが望ましく、一方、150℃程度の一般的な使用温度で使用する場合は、0.15〜0.3%の範囲内が好ましい。
【0041】
Cu:
Cuを含有させれば、CuAl粒子を析出させてアルミニウム合金の強度の向上に寄与する。強度向上の効果を充分に得るためには、Cuを3.0%以上添加することが望ましく、一方Cuの含有量が5.5%を越えれば、鍛造性が低下するから、Cuの含有量は3.0〜5.5%の範囲内とした。
【0042】
Mg:
Mgを含有させれば、Siと共存してMgSi粒子を析出させてアルミニウム合金の強度の向上に寄与する。Mg量が1.1%未満では強度向上の効果が小さく、一方Mg量が2.4%を越えれば鍛造性が低下する。したがってMg量は、1.1〜2.4%の範囲内とした。なおMg量は、より好ましくは1.7〜2.3%の範囲内とする。
【0043】
Fe:
Feは、高温強度向上に寄与する成分であり、高温強度の向上には、0.8%未満では、十分な高温強度向上の効果が得られず、1.3%以上では、過剰Feによる脆化が起こり、鍛造時の割れが生じる。したがってFe量は、0.8%〜1.3%の範囲内とした。なお、高温強度の十分な向上のためには、Fe量は1.0%〜1.3%とすることが好ましい。
【0044】
Ni:
Niを含有させれば、Al−Ni化合物の分散強化によって、高温強度、とりわけ200℃付近あるいはそれ以上の温度域での強度向上に効果がある。Ni量が0.7%未満ではNi添加による強度向上の効果が得られず、一方Ni量が2.8%を越えれば、靱性が低下するから、Ni量は0.7〜2.8%の範囲内とした。但し、Niの添加は200℃程度以上での強度向上には効果があるが、Ni量か多くなれば、一般的なターボチャージャの使用温度(150℃程度)では逆に強度が低下するから、一般的なターボチャージャの使用温度(150℃程度)で用いるコンプレッサホイール用素形材の素材としては、Ni含有量を少量に規制することが好ましく、その場合、Ni量は、1.0%以下、より好ましくは0.9%以下に規制することが望ましい。一方、一般的なターボチャージャの使用温度よりも高い200℃程度あるいはそれ以上の使用温度の場合には、Ni量は比較的多量、例えば1.0〜2.5%の範囲内で含有させることが望ましい。
【0045】
Zr:
Zrを添加すれば、熱間塑性加工である熱間鍛造時にZrの金属間化合物が相変化を起こして、分散強化による高温強度向上に寄与する準安定相をメタルフロー方向に形成するから、Zrの添加によって、鍛造メタルフローによるLT方向強度の向上効果を一層顕著に発現させる効果が得られ、そこで本発明ではZrを必須元素として積極的に添加する。Zrが0.05%未満では、上記の効果が小さく、0.3%を越えれば、Zrの晶出物による脆化により鍛造性が低下するから、Zrは0.05〜0.3%の範囲内とした。
【0046】
Mn:
Mnは、耐熱強度を高める元素であり、0.1%以下では、強度の向上の効果が小さく、0.4%以上では、Fe−Mn系の晶出物を生成し、靱性が低下し、鍛造性が低下するので、0.1〜0.4%の範囲で含有させることとした。
【0047】
Ti:
Tiは、鋳造組織を微細化する元素であり、連続鋳造の安定化に貢献するので、0.005%以上添加することによって、連続鋳造の安定化に貢献する。一方、0.06%を越えて過剰にTiを添加すれば、鋳造組織の過度の微細化を招き、粒界すべりによって耐クリープ変形性が劣ってしまうから、Ti量は、0.005〜0.06%の範囲内とした。
【0048】
Al−Cu−Mg系合金におけるSi、Cu、Mg、Fe、Mn、Ni、Zr、Tiの各元素の残部は、基本的にはAlおよび不可避的不純物であれば良いが、上記各元素のほか、さらに、Cr、Vのうちの1種又は2種を、それぞれ0.1%以下、そのほかの不可避的不純物との合計量で2.0%以下含有していても良い。これらの元素を添加すれば、Al−Cr系やAl−Cr−Fe−Si系、Al−V系などの粒子を析出させ、熱間鍛造時に再結晶粒を微細化させて、その後の切削加工(仕上げ加工)において、羽根部などについて薄肉・微細な形状に容易に加工することが可能となる。但し、Cr、Vの過剰な添加は、Fe−Mn−Cr系やFe−Mn−V系等の巨大晶出物を生成させるおそれがあり、そこで、Cr、Vのうちの1種又は2種を添加する場合でも、それぞれ0.1%以下とすることが好ましい。
【0049】
Cu+Ni:
なお、上記のAl−Cu−Mg系合金においては、Cu量及びNi量を、Cu量とNi
量との合計量(Cu+Ni)が、4.5〜8.0%の範囲内となるように調整することが
より好ましい。(Cu+Ni)がこの範囲内であれば、加工性や鍛造性と強度とのバラン
スがより優れた合金とすることができる。
【0050】
さらに、上記の合金においては、B:0.0001〜0.05%(好ましくは0.005〜0.1%)を添加していてもよい。BをTiとともに添加すれば、鋳塊の組織をより微細化して、鋳造時の割れを防止し、ひいては鍛造性を向上させることができる。
【0051】
〔素形材の基本構成の概略〕
本発明のターボコンプレッサホイール用鍛造素形材は、細径の連続鋳造棒材を鍛造用素材として、その鍛造用素材に熱間での密閉型鍛造もしくは半密閉型鍛造を施した鍛造材(鍛造上がり材)からなるものである。
【0052】
鍛造上がり材の全体形状の代表的な2例について、最終製品のコンプレッサホイール(図1図3参照)の回転中心の軸線(以下、単に中心軸線、もしくは回転中心軸線と記す)Oに沿っての縦断面形状を、最終製品のコンプレッサホイールの縦断面形状に対応して、図4A図4Bに示す。なお図4A図4Bは、全体として鍛造上がり材(鍛造素形材)10の断面形状を表しているが、最終的な製品であるコンプレッサホイールに相当する部位のみにハッチングを付し、その余の部位にはハッチングを付していない。逆に言えば、図4A図4Bにおいてハッチングを付した部位は、最終製品のコンプレッサホイールに相当する部位である。さらにそのハッチング部位(コンプレッサホイールに相当する部位)のうち、クロスハッチングを付した部位は、コンプレッサホイールの複数の羽根部4に相当する部位(羽根部相当部位)14である。また鍛造上がり材(鍛造素形材)10において、符号13の部位は、製品のコンプレッサホイールにおける回転軸部3に相当し、特にその一端側の部位13Aは、回転軸部3の一端側の突出部(ボス部)5に相当し、また符号18の部位は、製品のコンプレッサホイールにおける羽根付け根部7に相当する。
なお図4Aは、後述するように密閉型鍛造によって得た鍛造上がり材の一例を示し、図4Bは、半密閉型鍛造によって得た鍛造上がり材の一例を示している。
【0053】
図4Aに示しているように、密閉鍛造型を用いての熱間鍛造による鍛造上がり材10の全体形状は、基本的には、製品のコンプレッサホイールの回転中心軸線Oを基準とする軸対象な回転体形状であって、製品のコンプレッサホイールの外形よりも大きい外面形状を有するものであり、しかも、コンプレッサホイールの外形に対応する形状(コンプレッサホイールの外形形状とほぼ相似の形状)でかつその外周方向に、フランジ部12を形成したものである。ここで、鍛造上がり材10は、コンプレッサホイールの羽根部に相当する部位(羽根部相当部位)14を含んでいることはもちろんであるが、その羽根部相当部位14の外面が、中心軸線Oに沿った方向の一方の側(図4Aでは上側)から他方の側(下側)に向けてテーパー状に拡径された傾斜面14Aを有するように作られている。この傾斜面14Aは、コンプレッサホイールの多数の羽根部4のチップエッジ部4Aを含む仮想曲面(各チップエッジ部の先端の曲線を含む、中心軸線Oを回転中心とする仮想的な回転面)に沿うものである。ちなみに前記フランジ部12は、製品のコンプレッサホイールに対しては、不要な部分(鍛造後に切削もしくは切断によって除去される、いわゆる余肉部位)であるが、本発明では、鍛造上がり材において、本来は余肉部位であるフランジ部12を有する形状に鍛造することによって、後に詳細に説明する所定のメタルフローの形成に大きく貢献することができる。
【0054】
また半密閉鍛造型を用いての熱間鍛造による鍛造上がり材10の全体形状は、基本的には、図4Bに示しているように、密閉鍛造型による図4Aの鍛造上がり材のフランジ部12の外周から外側に、さらにバリ部16が延出形状となる。このようにバリ部16が存在する点以外は、密閉鍛造型による図4Aの鍛造上がり材と同様である。
【0055】
なお図4A図4Bに示される鍛造素形材(鍛造上がり材)10の詳細については、後に製造方法の項で詳細に説明する。このような鍛造による素形材(鍛造上がり材)を実際にコンプレッサホイールの形状に仕上げるためには、切削加工などの仕上げ加工を行う。また必要に応じてT6処理などの熱処理を行う。
【0056】
〔鍛造用素材としての細径の連続鋳造棒材の組織〕
細径の連続鋳造棒材からなる鍛造用素材は、その鋳造方向(したがって棒材としての長さ方向)が、最終製品であるコンプレッサホイールの回転中心軸線方向に沿うものである。そしてその鋳造方向に対して直交する横断面で見た円周方向平均粒界横断数が、横断面の中心部で最小となり、外周部で最大となる鋳造組織を有するものであることが望ましい。
【0057】
鍛造用素材に使用される細径の連続鋳造棒材20の断面の組織について、図5図6に模式的に示す。
細径の連続鋳造では、生産性が高いばかりでなく、鋳造組織が微細でかつ偏析も少ない棒材(円柱状ロッド)を得ることが可能となる。しかも連続鋳造で得られる棒材20は、その金属組織(鋳造組織)が、棒材20の円柱軸中心から外径方向に細長く放射状に伸びた等軸晶組織となるから、円周方向には結晶粒界がほぼ均等に分布し、円周方向の粒界密度が均一となる。結晶粒界は、Fe、Ni、Mnなどの遷移金属が偏析する箇所であり、したがって粒界の密度分布(粗密)は、素材の粗密に影響を与え、そのため周方向の重量バランスにも影響を与えるが、連続鋳造棒材は、円周方向に粒界が粒界密度が均一であることによって、製品のコンプレッサホイールに求められる高速回転時の動バランスも優れた素材となる。
ここで、円柱状の棒材における横断面での粒界の密度分布(粗密)は、半径方向の各部位における円周方向平均粒界横断数で評価できる。
【0058】
なお、従来の押出し法によって得られた素形材の場合は、図7に模式的に示しているように、その押出し素形材15の組織が押出し方向に繊維状に長く引き伸ばされたものとなるから、押出し方向とそれに直交する方向との組織の差が極めて大きい。そのため、その押出し材を鍛造した後にも、押出し材の方向による組織差の影響が少なからず残って、機械的特性も方向によってばらついてしまうおそれが強いが、連続鋳造棒材の等軸晶組織では、鋳造方向とそれに直交する方向の組織差が、押出し材と比較して格段に小さく、そのため方向による機械的特性のばらつきも比較的小さく抑えることができる。
【0059】
ここで、急冷凝固による細径の連続鋳造棒材について、より詳細に組織を観察すれば、溶湯がモールド内面に接する外周面側から急速に冷却されて、外周面側から急冷凝固が開始されるため、図5図6に模式的に示しているように、外周部Q3では、粒径が小さい組織(すなわち緻密な組織)となり、凝固が中心に向かって進行するに伴ってやや凝固速度が遅くなるため、中心部Q1では、相対的に粒径が大きい組織(すなわち疎な組織)となる。なお図5図6においては、理解しやすくするため、結晶粒の大きさを実際より誇張して描いている。
【0060】
ここで、鍛造用素材(細径の連続鋳造棒材)20の横断面の中心部Q1とは、鋳造方向に対して直交する横断面において、横断面の中心位置Oから素材半径rの1/3の半径(r/3)の位置P1までの領域Q1を意味する。また外周部とは、例えば素材横断面12の中心位置Oから素材半径rの3/4の半径(3r/4)の位置P2から外周縁位置P3までの領域Q3を意味するものとする。なお領域Q2は、中心部領域Q1と外周部領域Q3との間の領域である。
【0061】
また、素材(細径の連続鋳造棒材)20における円周方向平均粒界横断数(C)とは、素材20の鋳造方向に対して直交する横断面において、その中心位置Oを基準とする円(同心円)を描いたときに、その円周上の所定長さLの部分(円弧)が粒界を横切る箇所の数Nを、その円弧の円周方向長さで割った値(N/L)の、円周上での平均値で定義される。すなわち上記の円上において、等間隔に周長がLとなる複数の視野をとり、その各視野ごとに、円弧が横切る箇所(粒界横断箇所)の数を数え、その数の合計を、合計円弧長さ(4視野では、4L)で除した値が、円周方向平均粒界横断数となる。
すなわちこの例では、円周方向平均粒界横断数(C)は、
C=(N1+N2+N3+N4)/4L
で与えられる。
【0062】
なお、上述のような外周部、中心部の円周方向平均粒界横断数(C)は、前記各領域Q1、Q2、Q3内の代表的な箇所(半径)の位置での円における測定値をもって定めればよく、例えば後述する実施例では、中心から半径2mmの円で測定した値を中心部での値とし、外周面から半径方向内側へ2mmの位置での円における測定値を外周部での値としており、実際上はこのような代表位置での測定で充分である。
【0063】
但し、より正確さを求める場合は、各領域(Q1、Q2、Q3)のそれぞれについて、その領域内において半径方向に等間隔に、複数の同心円(複数のサンプル円;望ましくは3以上のサンプル円)を描き、それぞれの同心円で円周方向平均粒界横断数Cを測定し、それらを各領域ごとに平均した値(単純平均値)をもって、前記の円周方向平均粒界横断数の判定を行ってもよい。例えば、各領域Q1、Q2、Q3内(隣り合う別の領域との境界円位置を含む)に、それぞれ半径方向に等間隔に3個の同心円を描き、それらの3個の同心円における平均円周方向粒界横断数C1〜C3を求め、更にそれらの平均値Cav、すなわち
av=(C1+C2+C3)/3
によって素材(細径の連続鋳造棒材)20の横断面での鋳造組織の粗密状況(粒界の疎密状況)を判断してもよい。
【0064】
実際に円周方向平均粒界横断数、すなわち粒界の疎密状況を測定するに当たっては、細径の連続鋳造棒材の横断面に、金属組織観察用のエッチング処理を施して粒界が観察できるように調整し、金属顕微鏡を用いて観察して横断面の同心円上の円弧が横切る粒界の数を測定したり、あるいは写真撮影などによってエッチング処理後の横断面の画像を取得し、その画像を、必要に応じて2値化処理などし、横断面の同心円上の円弧が横切る粒界の数を測定したりすれば良い。
【0065】
なお、外周部における円周方向平均粒界横断数Noutと、中心部における円周方向平均粒界横断数Ninとの比(Nout/Nin)は、1.3〜10の範囲内が好ましい。上記の比(Nout/Nin)が1.3未満では、横断面半径方向での組織の粗密の差が充分ではなく、そのため前述のようなコンプレッサホイールにおける各部の異なる要求性能を充分には満たし得なくなるおそれがある。一方、本発明で対象としているような径(150mm程度以下)のコンプレッサホイールを製造するための細径の連続鋳造棒材では、比(Nout/Nin)が10を越えることは実際上は少なく、また仮に比(Nout/Nin)が10を越えれば、各部の異なる要求特性は満足し得ても、中心部と外周部との組織差が著しく大きくなる結果、場所によって、強度や加工性あるいは鍛造性、靭性などに悪影響を与えることもある。
【0066】
なお、具体的な円周方向平均横断粒界数の値は、連続鋳造時の鋳造速度、冷却条件、鋳造径、合金の成分組成などによっても異なり、一概には言えないが、150mm/分以上の鋳造速度で、外径が25mm以上、120mm以下の場合、本発明で用いるAl−Cu−Mg合金では1〜30程度が一般的であり、通常はこの程度の範囲内で、連続鋳造棒材の中心部側と外周部側とで円周方向平均横断粒界数に差が生じる。
【0067】
ここで、本発明において鍛造素材となる細径の連続鋳造棒材について、上述のように鋳造方向に対して直交する横断面で見た円周方向平均粒界横断数が、横断面の中心部で最小となり、外周部で最大となる鋳造組織を有するものが好ましいとした理由は次の通りである。
【0068】
すなわち、本発明においては、上記のような連続鋳造棒材に、さらに熱間による密閉型鍛造もしくは半密閉型鍛造を施すが、連続鋳造棒材(鍛造用素材)の段階での横断面半径方向の組織の粗密条件の影響が鍛造上がり材にも残る。したがって、連続鋳造棒材(鍛造用素材)の段階での横断面半径方向の組織の粗密を適切に制御しておくことによって、次に説明するように、コンプレッサホイールの各部に求められる異なる特性を、容易に満たすことが可能となる。
【0069】
鍛造に当たっては、細径の連続鋳造棒材からなる鍛造用素材を、鍛造加圧方向が、素材の鋳造方向に沿いかつコンプレッサホイールの回転中心軸線方向に沿うように密閉型もしくは半密閉型内に配置して鍛造する。
ここで、鍛造上がり材についても、鍛造加圧方向に対して直交する横断面で見た円周方向平均粒界横断数が、中心部で最小となり、外周部で最大となる鍛造組織を有することが望ましい。但しその円周方向平均粒界横断数は鍛造上がり材における軸方向に沿った方向の全高さの2分の1の位置において、鍛造加圧方向に対して直交する横断面で観察したものとすることが適切である。なお円周方向平均粒界横断数自体の定義、測定方法は、既に述べた連続鋳造棒材についてと同様である。
【0070】
このように、鍛造上がり材として、軸方向に沿った方向の全高さの2分の1の位置において、鍛造加圧方向に対して直交する横断面で見た円周方向平均粒界横断数が、中心部で最小となり、外周部で最大となる鍛造組織を有することにより、次のような効果が得られる。
【0071】
鍛造上がり材において、中心部における羽根付け根部に対応する箇所の円周方向平均粒界横断数が少ないこと、すなわち相対的に組織が疎であることは、羽根付け根部の切欠き疲労強度の向上に有効となる。すなわちコンプレッサホイールの高速回転時に応力が集中する羽根付け根部において切欠き疲労破壊の起点となる粒界が少なければ、切欠き疲労強度の向上に寄与する。また、コンプレッサホイールの回転軸部の一端側の箇所は、シャフトが圧入されるボス部となるが、その部分の平均粒界横断数が少ないこと、すなわち相対的に組織が疎であることは、シャフト圧入時に割れを生じにくくすることが可能となる。
一方、鍛造上がり材の外周部における羽根部に対応する箇所の円周方向平均粒界横断数が多いこと、すなわち相対的に組織が密であることは、高速で回転するコンプレッサホイールにおける薄肉の羽根部の強度及び剛性の向上に寄与する。
【0072】
このように、コンプレッサホイール素形材としての鍛造上がり材における前記の高さ位置での横断面の組織が、半径方向に上記で規定されるような粗密条件を満たすことによって、製品のコンプレッサホイールの各部に対する異なる要求性能を満足させることができる。
【0073】
〔ターボコンプレッサホイールの製造方法〕
次に、前述のような鍛造用素材(連続鋳造棒材)を得る過程から、ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材を製造する過程を経て、さらに最終製品のターボコンプレッサホイールに仕上げるまでの全体的なプロセスの好ましい態様、好ましい条件について説明する。
【0074】
<全体的なプロセスの概要>
本発明のターボコンプレッサホイール用鍛造素形材は、細径の連続鋳造棒材に熱間での密閉型鍛造もしくは半密閉型鍛造を施して得られた鍛造上がり材である。本発明の鍛造素形材製造方法を適用しながら、素材からコンプレッサホイールを製造する全体的なプロセスの一例を図8に示す。
この例では、連続鋳造工程S1によって得られた細径の連続鋳造棒材を鍛造用素材とし、それに、熱間による密閉型鍛造もしくは半密閉型鍛造(鍛造工程S6)を施し、得られた鍛造上がり材について、必要に応じて、フランジ部を除去(半密閉型鍛造でフランジ部の周囲にバリ部が存在する場合はそのバリ部も含めてフランジ部を除去)し(フランジ部除去工程S7)、さらに、必要に応じてT6処理などの熱処理(熱処理工程S8)を施して、コンプレッサホイール用素形材とし、更に切削加工などの機械加工によって最終製品(コンプレッサホイール)の形状、寸法に仕上げる仕上げ加工(仕上げ加工工程S9)を施し、コンプレッサホイール製品に仕上げる。
【0075】
<連続鋳造工程S1>
素材の製造方法としては、細径の棒材に連続的に鋳造する連続鋳造法を適用する。すなわち、所定の成分組成に調整したアルミニウム合金溶湯を、連続鋳造法によって細径(ロッド状:円柱棒状)に鋳造する。ここで、連続鋳造の具体的態様は、高速で鋳造で鋳造できる連続鋳造法であれば(したがって凝固速度が速い連続鋳造法であれば)、特に限定されないが、水平連続鋳造、竪型連続鋳造のいずれでもよく、また気体加圧式ホットトップ連続鋳造法などを好適に適用することができる。
このような連続鋳造法を適用することによって、生産性が向上するばかりでなく、鋳造組織が微細でかつ偏析も少ない鋳造棒材を得ることが可能となる。しかも連続鋳造で得られる棒材(円柱状ロッド)は、既に述べたようにほぼ等軸晶組織となり、そのため製品のコンプレッサホイールに求められる動バランスも優れた素材となる。しかも連続鋳造棒材の等軸晶組織では、鋳造方向とそれに直交する方向の組織差が、押出し材と比較して格段に小さく、そのため方向による機械的特性のばらつきも比較的小さく抑えることができる。
【0076】
ここで、連続鋳造は、150mm/分以上の鋳造速度で、外径が25mm以上、120mm以下となるように鋳造することが望ましい。鋳造速度が150mm/分以上で120mm以下の細径に鋳造することによって、横断面半径方向の組織がさほど大きくは変化しない等軸晶の微細な組織ではあるが、既に述べたように、円周方向平均粒界横断数が、中心部で最小となり、外周部で最大となる組織、すなわち中心部の組織が相対的に粗く、外周部の組織が相対的に密な組織を得ることができる。なお、より好ましくは、鋳造速度が200mm/分以上でかつ外径が25mm〜80mmとなるように鋳造することが望ましい。さらに好ましくは、鋳造速度が250mm/分以上でかつ外径が25mm〜60mmとなるように鋳造することが望ましい。
また、連続鋳造法のうちでも、特に水平連続鋳造法を適用すれば、鋳造速度は、平均で900mm/分以上の高速とすることができ、その場合は、著しい急冷効果によって、全体的に、より微細な組織を得ることが可能となる。
【0077】
<均質化処理工程S2>
上述のようにして得られた細径の連続鋳造棒材に対しては、必要に応じて均質化処理を施す。均質化処理を施せば、鋳造時の偏析を均質化する効果が得られ、再結晶核となる遷移金属元素の粗大化が起こらず、粗大再結晶防止の点から好ましい。この均質化処理の条件は特に限定されないが、本発明で用いるAl−Cu−Mg系合金では、470〜520℃に、8〜24時間加熱することが好ましい。
【0078】
<ロール矯正工程S3〜ピーリング工程S4>
均質化処理後は、必要に応じてロールにより連続鋳造棒材の曲りを矯正するためのロール矯正を行い、更に表面の鋳造欠陥部分や凹凸を除去するためのピーリング(面削)を行う。
【0079】
<切断工程S5>
ロール矯正工程、ピーリング工程の後には、連続鋳造棒材を所定の長さの短尺丸棒材に切断する。すなわち、その後の工程や最終製品の1個のコンプレッサホイールの軸線方向長さなどに応じた適切な長さに切断する。
【0080】
<鍛造工程(熱間での密閉型鍛造もしくは半密閉型鍛造S6>
切断工程S5を経て所定の短尺に切断した細径の連続鋳造棒材に対して、熱間での密閉型鍛造もしくは半密閉型鍛造を施す。その際には、鍛造用素材(細径の連続鋳造棒材短尺材)の中心軸線が、得るべきコンプレッサホイール製品の回転中心軸線に一致するように鍛造型のキャビティ(例えば、下型に、鍛造用素材の中心軸を金型の中心軸線に一致させるための段差が形成されている)内に挿入し、鍛造加圧方向が鍛造用素材の連続鋳造時の鋳造方向に沿うように、一方向加圧によって鍛造し、例えば図4Aもしくは図4Bに示しているような鍛造上がり材(鍛造素形材)10を得る。このような鍛造上がり材(鍛造素形材)10において、符号13の部位は、製品のコンプレッサホイールにおける回転軸部3に相当し、特にその一端側の部位13Aは、回転軸部3の一端側の突出部(ボス部)5に相当し、更に符号14の部位は、製品のコンプレッサホイールにおける羽根部4に相当し、また符号18の部位は、製品のコンプレッサホイールにおける羽根付け根部7に相当する。
そして本発明の場合、コンプレッサホイールにおける羽根部に相当する部位の半径方向外側延出するフランジ部12が形成されるように鍛造する。また半密閉型鍛造を適用する場合は、フランジ部12の外側にさらに半径方向外側に延出するバリ部16が形成される。
【0081】
このように型鍛造を施すことによって、組織を緻密化して、全体として強度、剛性の向上を図ることが可能となるばかりでなく、鍛造時の材料の流れ挙動(メタルフロー)を有効に利用して、コンプレッサホイールにおける各部の望ましい特性に応じた組織状態を得ることが可能となる。特にフランジ部への大きなメタルフローによって羽根部の円周方向への繊維強化を図れる。
なお、この鍛造工程S6の具体的条件等については、後に項を改めて詳細に説明する。
<フランジ部除去工程S7>
鍛造上がり材10については、その後の熱処理工程S8の前に、製品のコンプレッサホイールに対する余肉部位である、フランジ部16を除去することが望ましい。このように熱処理の前にフランジ部16を除去しておくことによって、熱処理工程S8における熱エネルギを低減して、エネルギコストの増加を抑えることができる。なお半密閉鍛造型による鍛造上がり材の場合には、フランジ部の外周側のバリ部16も同時に除去することはもちろんである。具体的なフランジ部除去工程としては、トリミング加工や、あるいは切削加工などを含んでコンプレッサホイールの粗形状に加工する、いわゆる粗加工を適用すればよい。
【0082】
<熱処理工程(例えばT6処理)S8>
上述のようにして必要に応じてフランジ部除去工程S7を実施した後には、鍛造上がり材に対して、例えば、溶体化処理後、人工時効処理を施すT6処理を施すことが好ましい。なおここで、T6処理には、溶体化処理における加熱後の冷却(焼入れ)を温水焼入れによって行う、いわゆるT61処理も含むものとする。
【0083】
熱処理の具体的条件は特に限定されないが、例えば480℃以上でかつ使用合金の固相線以下の温度で0.5〜4時間の加熱保持(溶体化処理)した後、20℃〜75℃の水温に焼入れし、その後、170℃〜230℃×2時間〜24時間の人工時効処理もしくは安定化処理を行うことが好ましい。
このようにT6処理を施すことによって、より強度向上を図ることができる。
【0084】
<仕上げ加工工程S9>
熱処理工程後には、最終製品のコンプレッサホイールの形状、寸法に仕上げるために、外径部分の羽根部形成のための切削加工や、シャフト穴部分の穴あけ加工(ドリル加工)などの仕上げ加工を施す。なお、前述のようなフランジ部除去工程S7を熱処理工程S8の前に実施していない場合は、仕上げ加工前に、フランジ部16を除去(半密閉鍛造型による鍛造上がり材の場合には、フランジ部の外周側のバリ部16も同時に除去)するため、トリミング加工や、あるいは切削加工などを含んでコンプレッサホイールの粗形状に加工する、いわゆる粗加工を施す。もちろんフランジ部(さらにはバリ部)の除去を、仕上げ加工と同時に行ってもよい。
ここで、仕上げ加工は、一般的な機械加工を適用すればよい。なお、仕上げ加工における切削加工などの機械加工は、複数工程を有する機械加工とすることもできる。
【0085】
このようにして細径の連続鋳造棒材を素材としての熱間での密閉型鍛造もしくは半密閉型鍛造を経て、最終的に製品のコンプレッサホイールを得ることができる。
次に鍛造工程の詳細について図9以降の各図を参照して説明する。
【0086】
〔鍛造工程S6の詳細〕
図9図12には、それぞれ図13に示すような鍛造素材(連続鋳造棒材)20を用いての熱間での密閉型鍛造もしくは半密閉型鍛造により得られた鍛造上がり材(鍛造素形材)10の代表的な形状・寸法の4例を示す。
すなわち図9には、鍛造上がり材(鍛造素形材)の第1の例として、密閉型鍛造により得られる鍛造上がり材の形状例を示し、図10には、鍛造上がり材(鍛造素形材)の第2の例として、半密閉型鍛造により得られる鍛造上がり材の形状例を示す。さらに図11図12には、それぞれ鍛造上がり材(鍛造素形材)の第3の例、第4の例として、密閉型鍛造により得られる鍛造上がり材の形状例を示す。なお図9図13において、各部の寸法及び曲率半径Rについての数値は、mmの単位で示している。
【0087】
図9図12に示す各例の鍛造上がり材10は、いずれも、既に述べたように羽根部相当部位14の外面が、中心軸線Oに沿った方向の一方の側(図では上側)から他方の側(下側)に向けてテーパー状に拡径された傾斜面14Aを有する。さらに、羽根部相当部位14の先端(外周側先端部分)から、半径方向外側に延出するフランジ部12を有している。そしてこれらの各例のうち、半密閉型鍛造による第2の例(図10)では、フランジ部12の外周から外側に、さらにバリ部16が延出する形状となっている。ちなみに、密閉型鍛造による第1の例(図9)、第3の例(図11)、第4の例(図9)では、密閉型での鍛造であるためこのようなバリ部は形成されない。なお第1の例(図9)、第3の例(図11)、第4の例(図12)の相違点は、各部の寸法比を変えて、後に説明するように、据込率U、体積比VR、絞り高さ比SRのいずれか1以上を異ならせたことである。
【0088】
一方、図14Aには、金型として密閉型を用いて、例えば図13に示すような鍛造素材(連続鋳造棒材)を熱間鍛造するための金型(密閉型鍛造用の金型)30の一例を、上型の上死点で示し、図14Bには同じ密閉型鍛造用金型30についての下死点で示す。すなわち図14A図14Bに示す金型30は、図9に示す第1の例、もしくは図11に示す第3の例の鍛造素形材、あるいは図12に示す第4の例の鍛造素形材を得るための密閉金型である。
また、図15Aには、金型として半密閉型を用いて、例えば図13に示すような鍛造素材(連続鋳造棒材)を熱間鍛造するための金型(半密閉型鍛造用の金型)32の一例を、上型の上死点で示し、図15Bには同じ半密閉型鍛造用金型32についての下死点で示す。すなわち図15A図15Bに示す金型32は、図10に示す第2の例の鍛造素形材を得るための半密閉金型である。
【0089】
ここで、いずれの金型も、鍛造用素材(細径の連続鋳造棒材短尺材)が挿入されるキャビティ(段差部)を有する下型30Bと、その下型30Bに向って降下してキャビティ内の鍛造用素材40を押圧する上型34Aと、鍛造後の材料(鍛造上がり材10)をキャビティから排出するためのエジェクターアウトピン35、上型への鍛造品貼り付きを防止するパンチノックアウトピン36とによって構成されている。なおプレス機、金型を装着するダイセット、上型上部のプレート類、下型下部のプレート類は、従来のものと同様であればよいから、これらの図には示していない。
【0090】
細径の連続鋳造棒材(切断工程5を経て所定の短尺に切断したもの)に対して、熱間での密閉型鍛造を施す際には、鍛造用素材(細径の連続鋳造棒材短尺材)の製造時の連続鋳造方向が、得るべきコンプレッサホイール製品の回転中心軸線方向に一致するように鍛造型のキャビティ内に挿入し、鍛造加圧方向が鍛造用素材の連続鋳造時の鋳造方向(連続鋳造棒材の長さ方向)に沿うように、一方向加圧によって鍛造し、鍛造上がり材(素形材)10を得る。
【0091】
ここで、鍛造時の鍛造型のキャビティと鍛造用素材との関係は、キャビティの内周面もしくは内周縁(通常は下型の内周面もしくは内周縁)によって鍛造用素材が位置決めされて、鍛造用素材の中心軸線(鋳造方向に沿った方向における中心軸線)が、キャビティ(通常は下型)の中心軸線と一致するように、したがって製品のコンプレッサホイールの回転軸線と一致するように芯出しして、鍛造することが好ましい。ここで、図14A図14Bに示した密閉型の例、図15A図15Bに示した半密閉型の例のいずれの場合も、鍛造用素材40を下型34Bのキャビティに挿入するだけで、その鍛造用素材の中心軸線が、ほぼキャビティ(通常は下型内)の中心軸線と一致するように、したって製品のコンプレッサホイールの回転軸線とほぼ一致するように芯出しすることができ、しかもその芯出し状態を維持したまま、鍛造することができる。
なお、密閉鍛造の場合は、上型が下型キャビティに嵌合してから鍛造成形がスタートするように取り合いを設計しているから、上型と下型の中心軸線もほぼ一致する。一方半密閉鍛造の場合、図示していないが、上下型の位置ズレ防止のガイドなどを設けて、上型と下型の中心軸線のズレを防止することが好ましい。
【0092】
そして、このような鍛造型を用いて、フランジ部12が形成されるように熱間で密閉型鍛造もしくは半密閉型鍛造を行うことによって、単に鍛造による組織緻密化の効果が得られるだけではなく、羽根部相当部位14において回転中心軸線の側からからフランジ部12へ向かう大きなメタルフローが生じて、コンプレッサホイールの羽根部の半径方向に沿っての繊維強化効果を得ることができる。すなわち、回転中心軸線に沿った方向(L方向)に対して直交する方向(LT方向)の強度の大幅な向上を図ることができる。とりわけ、羽根部相当部位14の傾斜面14Aの直下の位置において、製品コンプレッサホイールの多数の羽根部のチップエッジ部の先端曲線が並ぶ仮想曲面に沿ったメタルフローが生じることによって、チップエッジ部の強度向上を図ることができる。これらのメタルフローについては、次に詳細に説明する。
【0093】
図16図19には、上記の第1の例(図9)〜第4の例(図12)について、鍛造によるメタルフローを模式的に示す。
図16に示す第1の例(図9に対応する密閉型鍛造の一例)では、鍛造時の材料のメタルフローは、図16に示す鍛造上がり材10の内部に細線矢印で示したような流れとなる。すなわち、コンプレッサホイールにおける羽根部4となるべき羽根部相当部位14では、概略的には中心軸線Oの側からフランジ部12に流れ込む大きなメタルフローが生じる。そのため、メタルフローによる繊維強化効果によって、薄肉でかつ大きな遠心力が作用する羽根部の強度向上を図ることができる。とりわけ、羽根部相当部位14の傾斜面14Aの直下の位置においては、製品コンプレッサホイールの多数の羽根部のチップエッジ部の先端曲線が並ぶ仮想曲面に沿ったメタルフローとなり、最も薄肉でかつ大きな遠心力が作用する羽根部先端部分(チップエッジ部)の剛性の向上を図ることができる。
【0094】
一方、鍛造上がり材10においてその内部の中心部分(但し、ボス部5からは下方に離れた側の中心部分;コンプレッサホイールの回転軸部3における羽根取付け部7を含む部分)は、材料の流れがフランジ部に比べ疎な部分(デッドメタル部分)DMとなる。すなわち、製品の回転軸部3に相当する部位13及びその周縁の羽根付け根部7に相当する部位17は、鍛造時のメタルフローがないデッドメタル部分DMであるため、鍛造用素材である連続鋳造棒材の組織が実質的に引き継がれ、外周部と比較して密度が疎の組織が残される。そのため、コンプレッサホイールの高速回転時に応力が集中する羽根付け根部において切欠き疲労破壊の起点となる粒界が少なくなって、切欠き疲労強度の向上に寄与する。
【0095】
なお本発明との比較のため、従来の一般的な押出し材を素形材として、本発明で規定するような鍛造を適用せずにコンプレッサホイールを製造する場合における、押出し素形材50のメタルフローFM´を、製品のコンプレッサホイールの形状に対応させて図21に示す。このような押出し素形材50のメタルフローFM´は、一般には図21に矢印で示しているように、コンプレッサホイールの回転中心軸線Oと平行となる。すなわち、本発明の場合のような、羽根部相当部位において半径方向外側に向かうメタルフローFMは形成されない。したがって、LT方向の強度は低くならざるを得ない。
【0096】
また、本発明のようにフランジ部12を形成せず、且つ傾斜面14Aも有さない形状の鍛造上がり材を得る従来の単純据込鍛造の場合の鍛造上がり材(単純円盤状)60のメタルフローFM´´を、製品のコンプレッサホイールの形状に対応させて図22に示す。このような単純据込鍛造上がり材60のメタルフローFM´´は、一般には図22に矢印で示しているように、コンプレッサホイールの回転中心軸線Oに対して直交する方向となる。この場合、羽根部相当部位のメタルフロー、とりわけ製品のコンプレッサホイールの多数の羽根部のチップエッジ部の曲線が連なる仮想曲面付近のメタルフローは、その仮想曲面に沿わないことになる。そのため、コンプレッサホイールの羽根部のチップエッジ部の強化を充分に図ることができない。
【0097】
さらに、特許文献3に示されているように、素材を3方向に鍛造する従来技術の場合は、鍛造上がり材が全体的に均質な組織となり、本発明の場合のような羽根部相当部位において半径方向外側に向かうメタルフローは形成されない。
【0098】
したがってこれらのメタルフローに関する考察から、従来技術に対する本発明の技術の優位性が明らかである。
【0099】
ここで、羽根部相当部位においてフランジ部へ向かう適切なメタルフローを形成してLT方向の強度向上を確実に図るためには、鍛造による塑性加工の程度についての指標及び鍛造温度(鍛造時の素材温度)に関して、次のような諸条件を満足させて鍛造することが望ましい。
【0100】
第1には、鍛造素材(連続鋳造棒材)20における前記回転中心軸線Oに沿った方向の高さをh(図13参照)とし、鍛造素形材の羽根部相当部位14Aにおける前記回転中心軸線Oに沿った方向の高さが最も高い位置(言い換えれば、羽根部の最も厚肉な部分に相当する位置、また羽根部におけるその付け根部に最も近い位置)におけるその高さをb(図4A図4B図9図12参照)とし、据込率Uを、
U={(h−b)/h}×100(%)
と定義すれば、据込率Uが、40〜80%の範囲内となるように熱間鍛造することが望ましい。
【0101】
据込率Uが40%未満では、鍛造での塑性加工が不十分で、組織の緻密化が充分に図れなくなるとともに、羽根部相当部位からフランジ部に向かうメタルフローも充分ではなくなり、そのため強度向上が不充分となるおそれがある。そこで、本発明者等が、据込率Uと強度(常温引張強度及び0.2%耐力)との関係を調べたところ、図20に示す結果が得られている。図20に示しているように、据込率Uが0%(すなわち鍛造なし)から大きくなるにつれて強度は向上し、とりわけ据込率Uが40%付近で強度が急激に向上し、その後は据込率Uが大きくなっても強度向上効果は実質的に飽和する。このような本発明等の実験結果から、据込率Uは40%以上が好ましいことが分かる。
一方据込率Uが80%を越えれば、鍛造時に座屈や割れが発生しやすくなるから、据込率Uは、40〜80%の範囲内とすることが好ましい。なお、40〜80%の範囲内でも特に50〜75%の範囲内が好ましい。
【0102】
なおここで、鍛造用素材(連続鋳造棒材)20の回転中心軸線Oに沿った方向の高さh(図13参照)と、その鍛造用素材(連続鋳造棒材)20の半径r(図13参照)との比(h/r)は、2以下とすることが好ましい。上記の比(h/r)が2を越えれば鍛造時に素材が座屈してしまうおそれがある。
【0103】
第2には、主としてフランジ部の体積に関する値として、鍛造素形材の全体の体積をV1とし、羽根部相当部位の半径方向先端位置よりも外側の、前記フランジ部の全体を含む部位(製品とはならず余肉部位となる部分)の体積をV2とし、体積比VRを、
VR=(V2/V1)×100(%)
と定義した時に、体積比VRの値が、50%以上、80%未満の範囲内となるように鍛造することが好ましい。
【0104】
体積比VRが50%未満では、鍛造時において羽根部相当部位からフランジ部に流れ込むメタルフローが充分ではなくなり、そのため強度向上が不充分となるおそれがある。一方体積比VRが80%を越えれば、鍛造時に座屈や割れが発生しやすくなる。なお体積比VRは、50〜80%の範囲内でも、特に65%以上、75%未満の範囲内が好ましく、さらには70%以上、75%未満の範囲内がより好ましい。
【0105】
第3には、羽根部相当部位に対するフランジ部の厚みの比(回転中心軸線に沿った方向の高さの比)に関する指標として、フランジ部における前記回転中心軸線に沿った方向の平均の厚みをa((図4A図4B図9図12参照)とし、また前記と同様に羽根部相当部位における前記回転中心に沿った方向の高さが最も高い位置における前述の高さをb(図4A図4B図9図12参照)とし、絞り高さ比SRを
SR=(a/b)×100(%)
と定義すれば、絞り高さ比SRが25〜75%の範囲内の範囲内となるように鍛造することが好ましい。
【0106】
絞り高さ比SRが75%を越える大きな値となれば、コンプレッサホイールにおける多数の羽根部のチップエッジ部がなす仮想曲面に沿ったメタルフローが不十分となり、特にチップエッジ部の剛性の向上効果が充分ではなくなるおそれがある。一方、絞り高さ比SRが25%より小さければ、フランジ部の厚みが小さくなって、前述の体積比VRを充分に確保することが困難となる。なお、絞り高さ比SRが小さくても、フランジ部の幅(羽根部相当部位からのフランジ部の延出長さ)を大きくすれば、ある程度体積比VRを高めることは可能であるが、その場合は、フランジ部へのメタルフローが阻害されて、整然としたメタルフローを羽根部相当部位に形成することが困難となるから、絞り高さ比SRは25%以上が好ましい。なお絞り高さ比SRは、上記範囲内でも、特に37.5〜62.5%の範囲内とすることが、より好ましい。
【0107】
なお上記の塑性加工の程度に関する第1〜第3の指標(据込率U、体積比VR、絞り高さ比SR)の各条件は、すべてを同時に満足させることが望ましいが、必ずしもすべての指標条件を同時に満たすことは必須ではない。但し、少なくとも1以上の指標条件は満足させることが望ましい。
【0108】
第4には、鍛造工程において、鍛造時の素材温度を350〜450℃の範囲内とすることが好ましい。この鍛造温度域350〜450℃は、従来の一般的なAl−Cu―Mg系合金に適用されている鍛造温度より高めの熱間鍛造温度域である。このように鍛造温度を高めとしている理由は、例えば鍛造上がり材に対してT6処理などの熱処理を施して製品のコンプレッサホイールに仕上げる場合において、鍛造上がりによって得られた適切なメタルフローおよび組織を、製品のコンプレッサホイールまで引き継がせ、これによって羽根部の強度向上効果を製品まで維持させるためである。
すなわち、鍛造温度を350〜450℃の範囲内と比較的高めとしておけば、鍛造中から鍛造直後の段階において沙材料の回復が生じやすくなる。このように回復が生じて歪みが解消されれば、その後のT6処理などの熱処理時において粗大な再結晶が生じにくくなり、そのため鍛造上がりでのメタルフローを維持することが可能となる。T6処理などの熱処理時において、再結晶核となる歪みが多量に存在していれば、再結晶により鍛造上がり状態での組織が粗くなってしまい、その結果、前述のようなメタルフローによる効果が製品段階で期待できなくなるおそれがある。
ここで、鍛造温度が350℃未満の低温では回復が生じにくく、一方450℃を越えれば、局所融解のおそれがある。なお鍛造温度は、350〜450℃の範囲内でも、特に400〜450℃の範囲内が好ましい。
なお鍛造型に鍛造用素材を挿入する直前に、加熱炉によって鍛造用素材を加熱して、素材内部まで均一に上記の鍛造温度となるようにするのが通常であり、この場合の加熱時間は特に限定されないが、通常は30〜60分程度とすればよい。
また、鍛造後の製品温度を高く維持するため、金型温度を250℃〜350℃程度に加熱保持した状態で鍛造することが好ましい。
【0109】
以上のところでは、密閉型鍛造による第1の例(図9)における鍛造による図16に示すメタルフローを参照して、本発明によるメタルフロー、及び好ましい鍛造諸条件について説明したが、半密閉型鍛造による第2の例(図10)の場合のメタルフローを図17に模式的に示す。
この場合のメタルフローは、第1の例(図9)の場合の鍛造時の材料のメタルフロー(図16)とは若干異なるが、フランジ部12からさらにバリ部16へ向かうメタルフローがある点を除き、概略的には同様となる。すなわち、コンプレッサホイールにおける羽根部4の少なくとも先端部分となるべき外周部分は、フランジ部へ流れ込む大きなフローがある部分FMとなり、一方、鍛造上がり材10内部の中心部分(但し、ボス部5からは下方に離れた側の中心部分;コンプレッサホイールの回転軸部3における羽根取付け部7を含む部分)は、材料の流れがフランジ部12に比べ疎な部分DMとなる。
このように、前記と同様、鍛造上がり材10において製品の羽根付け根部7に相当する部位は、鍛造時のメタルフローが疎な部分DMとなるため、鍛造用素材である連続鋳造棒材の組織が実質的に引き継がれ、外周部と比較して密度が疎の組織が残され、コンプレッサホイールの高速回転時に応力が集中する羽根付け根部において切欠き疲労破壊の起点となる粒界が少なくなり、切欠き疲労強度の向上に寄与する。
また、外周部における羽根部の少なくとも先端部分に対応する箇所では、大きなメタルフローが生じて、そのメタルフローの方向性と鍛造による鍛錬効果とが相俟って、高速で回転するコンプレッサホイールにおける薄肉の羽根部の先端部分の強度及び剛性の向上に寄与する。
【0110】
図18には、密閉型鍛造による第3の例(図11)における鍛造でのメタルフローを示し、図19には、密閉型鍛造による第4の例(図12)における鍛造でのメタルフローを示す。
これらの第3の例(図11図18)、第4の例(図12図19)は、いずれも第1の例(図9図17)と同様に密閉型鍛造によるものであり、また鍛造素材の寸法、最終的な製品のコンプレッサホイールの形状・寸法も第1の例と同じであるから、基本的には、第1の例と大きくは相違しないメタルフローが形成される。但し、据込率U、体積比VR、及び絞り高さ比SRのうちの1以上の条件が、第1の例とは異なり、そのためメタルフローも、第1の例とは異なっている。
ここで、第1の例〜第4の例の各例における、据込率U、体積比VR、及び絞り高さ比SRと、メタルフローの状況(滑らかさ及び強さ)を評価した結果を、表1に示す。なおいずれの例も、素材アルミニウム合金としては、後述する実施例の表2に示す、本発明成分組成範囲内の合金Aを用いた。
ここでメタルフローの状況の評価としては、「滑らかさ」は、羽根部相当部位14のうち、傾斜面14Aの直下の部位のメタルフローが滑らかであるか否か(段差の有無など)によって評価し、「強さ」は、羽根部相当部位からフランジ部に向かうメタルフローの強さによって評価した。
【0111】
【表1】
【0112】
表1に示しているように、密閉型鍛造による第1の例(図16のメタルフロー)、及び半密閉型鍛造による第2の例(図17のメタルフロー)は、据込率U、体積比VR、及び絞り高さ比SRが同等で、かつ前述の好ましい条件範囲内である。これらの場合、図16図17中に示しているように、羽根部相当部位14におけるフランジ部12に向かうメタルフローの強さが充分に高く、且つ羽根部相当部位14のうちの傾斜面14Aの直下の部位のメタルフローの滑らかさも十分に確保された。
これに対して、密閉型鍛造による第3の例(図18のメタルフロー)の場合、絞り高さ比SRが比較的大きいため、羽根部相当部位14におけるフランジ部12に向かうメタルフローの強さが若干劣っていた。
さらに密閉型鍛造による第4の例(図19のメタルフロー)の場合、据込率U及び体積比VRが相対的に小さく、この場合は、羽根部相当部位14のうちの傾斜面14Aの直下の部位のメタルフローに段差が生じて滑らかさに若干劣り、また羽根部相当部位14においてフランジ部12に向かうメタルフローの強さも若干小さくなった。
但し、第3の例及び第4の例は、コンプレッサホイール用鍛造素形材として全く不適当というものではなく、コンプレッサホイールの使用条件、使用態様によっては実用することが可能である。
【0113】
以下に本発明の実施例を記す。なお以下の実施例は、本発明の作用、効果を明確化するためのものであって、実施例に記載された条件が本発明の技術的範囲を限定するものでないことはもちろんである。
【実施例】
【0114】
〔実施例1〕
この実施例1は、図13に示す寸法の連続鋳造棒材を鍛造用素材とし、熱間での密閉型鍛造を施し、ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材とした例である。なおこの実施例1では、鍛造上がり材は、図9に示した第1の例の形状のものとし、密閉鍛造型と鍛造用素材との寸法関係は、図14A、得14Bに示す通りとした。
鍛造用素材としての連続鋳造棒材を製造するにあたっては、アルミ地金に添加元素を加えて溶解し、表2に示すAl−Cu―Mg系の合金Aに成分調整し、気体加圧式ホットトップ連続鋳造法により、内径φ59mmのモールドを使用して鋳造速度300mm/分にて外径58mmの丸棒状に連続鋳造し、連続鋳造棒材を得た。連続鋳造棒材に490℃で12時間保持後に空冷する均質化処理を施し、鋳造肌除去の面削(ピーリング)をして、φ54mmのアルミ合金棒材を得た。この棒材を鋸切断機により切断し、長さ64mmの円柱状の素材(鍛造用素材)を作成した。
この円柱状素材を鍛造用素材として、450℃に加熱昇温し、図14A図14Bに示した密閉鍛造金型により図9に示す形状のフランジ付ベル型の鍛造素形材に、鍛造温度450℃で熱間鍛造成形した。鍛造上がり材(鍛造素形材)を495℃に昇温し、2時間保持後に80℃の温水に焼入れし(いわゆる溶体化処理)、続いて200℃に昇温し、10時間保持(いわゆる時効処理)した後、空冷した。なお熱間鍛造における据込率Uは、約75%である。
【0115】
〔実施例2、実施例3〕
鍛造温度を、実施例2では400℃、実施例3では350℃とした点以外は、実施例1と同様な条件、プロセスで鍛造素形材を得た。そして前記と同様に引張試験およびメタルフローの観察を行った。
【0116】
〔実施例4〕
この実施例4は、熱間鍛造における据込率Uを、実施例1の75%から50%に変更した点以外は実施例1と実質的に同様な条件、プロセスで鍛造素形材を製造した。
【0117】
〔実施例5〕
この実施例5は、熱間鍛造において、半密閉型鍛造を適用した点以外は、実施例1とほぼ同様な条件、プロセスで鍛造素形材を製造した。なおこの実施例5では、鍛造上がり材は、図10に示した第2の例の形状のものとし、半密閉鍛造型と鍛造用素材との寸法関係は、図15A、得15Bに示す通りとした。
【0118】
〔比較例1〕
素材のアルミニウム合金として、本発明で用いる合金の成分組成範囲から外れる表2のA2618合金を用いた点以外は、実施例1と実質的に同様なプロセス、条件で鍛造素形材を製造した。なお熱間鍛造についても、実施例1と同様に密閉型鍛造とした。
【0119】
〔比較例2〕
この比較例2は、実施例1で使用した合金Aと同じ成分組成の合金からなる押出し材をコンプレッサホイール用素形材とした例である。すなわち、合金Aを用い、気体加圧ホットトップ連続鋳造法によって得られたビレット(φ210mm)の鋳肌を面削により除去してφ200mmとし、ビレットヒーターにより約420℃に加熱し、押し出し機コンテナに装填して、熱間押出しにて押し比1/20でφ45mmの丸棒に押出し、コンプレッサホイール用素形材とした。
【0120】
〔比較例3〕
この比較例3は、実施例1で使用した合金Aと同じ成分組成の合金からなる連続鋳造棒材を、熱間鍛造を施すことなく、そのままコンプレッサホイール用素形材とした例である。この場合の連続鋳造棒材の製造プロセス、条件は、実施例1と同じである。
【0121】
〔参考例1〕
この参考例1では、熱間での密閉型鍛造を行うにあたって、据込率Uを比較的低い25%とした点以外は、実施例1と同様なプロセス、条件で鍛造素形材を製造した。
【0122】
〔参考例2〕
この参考例2では、熱間での密閉型鍛造を行うにあたって、鍛造温度を比較的低い300℃とした点以外は、実施例1と同様なプロセス、条件で鍛造素形材を製造した。
【0123】
以上の各実施例1〜5、比較例1〜3、参考例1,2によって製造されたコンプレッサホイール用素形材における、中心軸線に沿った方向(L方向)に対して直交する方向(LT方向)でかつ羽根部相当部位を含む位置から引張試験片を作成し、引張試験を実施した。また、横断面を金属組織観察に適するエッチング処理を行い、メタルフローの観察を行った。これらの結果を表3に示す。
なお表3において、LT方向の引張強度については、450MPa以上の場合をLT方向の強度が充分と判定して○印を付し、450MPa未満の場合をLT方向の強度が不充分と判定して×印を付した。
またLT方向とL方向の強度比(方向による強度比)の評価については、LT方向の強度が450MPa以上でかつLT方向とL方向の強度比の値(LT方向強度/L方向強度)が、0.9以上の場合を良好と判断して○印を付し、LT方向の強度が450MPa未満でかつLT方向とL方向の強度比の値が、0.9未満の場合を不良と判断して×印を付し、さらにLT方向とL方向の強度比の値は0.9以上であるがLT方向の強度が450MPa未満の場合に△印を付した。なおLT方向とL方向の強度比に関して、L方向の強度については、上記の各例により得られた素形材では、L方向の寸法が小さすぎて、L方向の試験片を切出すのが困難であったため、各例よりも大きい寸法の素材を用いて、実質的に各例と同様なプロセス、条件で得た材料について測定したL方向強度の値を用いた。
【0124】
【表2】
【0125】
【表3】
【0126】
表3に示すように、実施例1〜5では、いずれもLT方向の強度が450MPa以上の高い値を示し、且つLT方向とL方向の強度比も0.9以上と高いことが確認された。
一方、本発明で規定する合金成分組成条件を満たさない合金(A2618合金)を用いた比較例1では、LT方向強度が充分ではなかった。
さらに押出し材を素形材とした比較例2、鋳造ままの材料を素形材とした比較例3では、LT方向強度が低いことが判明した。
なお据込率Uが比較的小さい参考例1でも、LT方向強度が比較的低かった。
さらに、鍛造温度が比較的低かった参考例2では、鍛造時に割れが発生してしまった。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明のアルミニウム合金製ターボコンプレッサホイール用鍛造素形材は、自動車その他の各種輸送機器内燃機関に用いられるターボチャージャに使用されるコンプレッサホイール(インペラー)を製造するための素形材に適用することができる。
【符号の説明】
【0128】
1…コンプレッサホイール、 3…回転軸部、 4…羽根部、 7…羽根付け根部、 10…鍛造素形材(鍛造上がり材)、 12…フランジ部 14…羽根部相当部位 14A…傾斜面、 20…連続鋳造棒材(鍛造用素材)、 30…鍛造用の金型。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
図15A
図15B
図16
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図18
図19
図20
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図22