(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ディスクの両面に対向配置される一対のブレーキパッドのうちの少なくとも一方のブレーキパッドを押圧するピストンが配置されるためのシリンダを有するキャリパボディの製造方法であって、
開口部を有するシリンダ底形成部と前記シリンダの壁部とを備える本体部材の前記開口部の周縁部と、前記開口部に配置される底蓋部材の周縁部とを摩擦攪拌接合により一体に接合して前記シリンダの底部を形成する摩擦攪拌接合時に、前記壁部に冷却液を衝突させることを特徴とするキャリパボディの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
「第1実施形態」
以下、本発明に係る第1実施形態について
図1〜
図5を参照して説明する。
図1および
図2は、実施形態の製造方法で製造されるキャリパボディ10を示すものである。このキャリパボディ10は、
図1に二点鎖線で示す他の部品とともに四輪自動車用のディスクブレーキ11を構成するものである。実施形態の製造方法は、四輪自動車以外の二輪車両等のディスクブレーキのキャリパボディに適用するようにしてもよい。
【0010】
図1に示すように、このキャリパボディ10が設けられるディスクブレーキ11は、図示略の車両の車輪とともに回転するディスク12の回転を制動するものである。このディスクブレーキ11は、車両の非回転部に固定される図示略のキャリアと、ディスク12の両面に対向配置された状態でディスク12の軸線方向に移動可能となるようにキャリアに支持される一対のブレーキパッド14,14と、キャリアにディスク12の軸線方向に移動可能に支持されて一対のブレーキパッド14,14をディスク12に押圧するキャリパ15とを備えている。なお、以下においては、このディスクブレーキ11を構成する状態でのディスク12の半径方向(
図1の上下方向)をディスク半径方向と称し、ディスク12の軸線方向(
図1の左右方向であり
図2の上下方向)をディスク軸線方向と称し、ディスク12の回転方向(
図2の左右方向)をディスク回転方向と称す。
【0011】
キャリパ15は、キャリパボディ10と、キャリパボディ10内に設けられるピストン18とを有している。
【0012】
キャリパボディ10は、ピストン18を支持するピストン支持部21と、ブリッジ部22と、爪部23とが一体的に形成されて構成されている。ピストン支持部21は、ピストン18が挿入されるシリンダ25と、
図2に示すようにシリンダ25からディスク回転方向両側に延出する一対の腕部26,26とを有している。キャリパボディ10は、一対の腕部26,26に形成されたピン取付穴27,27に取り付けられる図示略の一対のピンによって図示略のキャリアにディスク軸線方向に沿って移動可能となるように支持される。
図1に示すように、キャリパボディ10のシリンダ25内に設けられたピストン18は、ディスク12の一面側に対向するように配置されている。ピストン18は、シリンダ25内に導入される液圧によってディスク12との間に配置されたブレーキパッド14をディスク12の方向に押圧する。
【0013】
ピストン支持部21は、ディスク12の一面側であるインナ側(車幅方向車両内側)に配置されることになり、本実施形態においては、ピストン18が挿入されるシリンダ25を一カ所のみ有している。このシリンダ25はディスク12の一面側に向けて開口している。
【0014】
ブリッジ部22は、ピストン支持部21のシリンダ25のディスク半径方向外側からディスク12の外周を越えてディスク軸線方向へ延びて、すなわち、ディスクブレーキ11を車両に取り付けた状態でディスク12を跨ぐように形成されている。ブリッジ部22にはブレーキパッド14,14の状態を目視可能とする
図2に示す二カ所の透孔28,28がディスク半径方向に貫通して形成されている。爪部23は、
図1に示すようにブリッジ部22のピストン支持部21とは反対側からディスク半径方向内方に延出してディスク12の他面側であるアウタ側(車幅方向車両外側)に配置される。なお、透孔28,28は、一カ所でもよく、また、必ずしも設ける必要はない。
【0015】
キャリパボディ10は、ディスク12の一方の面側にピストン支持部21が設けられ、ディスク12の他方の面側に爪部23が設けられ、爪部23とピストン支持部21とを接続するブリッジ部22がディスク12を跨いで設けられるフィスト型形状となっている。なお、本実施形態の製造方法は、上記フィスト型のディスクブレーキ以外に、ディスクを挟んでシリンダが対向して設けられる対向型ディスクブレーキに適用するようにしてもよい。
【0016】
シリンダ25は、爪部23側、すなわち、ディスク12側に向かって開口するようにディスク軸線方向に沿うボア31が形成された有底筒状をなしており、このボア31内にピストン18が配置される。ここで、従来のディスクブレーキのキャリパボディの爪部には、シリンダ25のボア31を切削加工する工具を通過させるため、ディスク半径方向の内端縁部からディスク半径方向外方に向けて凹んでディスク軸線方向に貫通するリセスが設けられているが、このキャリパボディ10の爪部23には、このようなリセスは設けられていない。よって、キャリパボディ10はノンリセス型のキャリパボディとなっている。
【0017】
シリンダ25は、全体的にディスク軸線方向に沿う筒状の壁部33と、全体的にディスク軸線方向に直交して広がる円板状をなして壁部33の爪部23とは反対側を閉塞する底部34と、を有している。シリンダ25は、これら壁部33および底部34によって内側にボア31を形成している。したがって、ボア31は爪部23側に開口している。壁部33の開口側である底部34とは反対側の端面35は、ディスク軸線に対して直交する平面に配置されている。底部34には、そのボア31を形成する径方向の範囲内に摩擦攪拌接合部36が形成されている。
【0018】
壁部33は、ピストン18を摺動可能に嵌合させる一定径の小径内周面37と、小径内周面37よりも底部34側にあって小径内周面37よりも大径の大径内周面38とを有している。小径内周面37におけるボア31の開口側には、シール周溝39およびブーツ周溝40が形成されている。シール周溝39は、ピストン18との隙間をシールする図示略のピストンシールを保持する部分であり、ブーツ周溝40は、ピストン18との間に介装される図示略のブーツの一端側を保持する部分となっている。
【0019】
シリンダ25の底部34は、ボア31の中でディスク軸線方向に最も深さが深く、ディスク軸線方向に対して直交する平面からなる円形状の底面46を有している。この底面46から端面35までの範囲がシリンダ25の壁部33となっている。底面46の外周縁部は、上記した大径内周面38に繋がっている。
【0020】
ピストン18は、略円筒状の筒状部55と、筒状部55の内側を閉塞するように筒状部55の軸線方向の一端位置に形成された略円板状の円板状部56とを有するカップ状に形成されている。
【0021】
ディスクブレーキ11は、キャリパ15のボア31内に導入される液圧によりピストン18をディスク12側に前進させ、ピストン18でインナ側のブレーキパッド14を押圧してディスク12のディスク軸線方向の一面に接触させる。すると、このピストン18の押圧反力で爪部23がアウタ側のブレーキパッド14を押圧してこれをディスク12の他面に接触させる。このようにして、ピストン18と爪部23とで両側のブレーキパッド14,14を挟持してディスク12に押圧して摩擦抵抗を発生させ、制動力を発生させる。
【0022】
図2に示すように、一対の腕部26,26はシリンダ25の壁部33におけるシリンダ軸線方向の中間位置から延出している。底部34のディスク半径方向外側には、ディスク半径方向外側に突出する一対の突出部61,61がディスク回転方向に並んで形成されている。壁部33の一対の突出部61,61よりも爪部23側のディスク回転方向両側には、ディスク軸線方向に沿う一対の側面62,62が形成されている。また、壁部33からブリッジ部22にかかる部位のディスク回転方向の両側には、ディスク軸線方向の爪部23側ほどディスク回転方向外側に位置するように傾斜する一対の側斜面63,63が形成されている。また、ブリッジ部22から爪部23にかかる部位のディスク回転方向の両側には、ディスク軸線方向に沿う一対の側面64,64が形成されている。爪部23のディスク半径方向外側のディスク回転方向の中央位置には、ディスク半径方向内方に凹む凹部65が形成されている。
【0023】
図1に示すように、壁部33のディスク半径方向外側には、ディスク軸線方向のブリッジ部22側に位置するほどディスク半径方向外側に位置するように傾斜する傾斜面66が形成されている。ブリッジ部22のディスク半径方向外側のディスク軸線方向における壁部33側には、キャリパボディ10において最もディスク半径方向外側に位置する外端面67が、ディスク半径方向に直交するように形成されている。ブリッジ部22のディスク半径方向外側のディスク軸線方向における爪部23側には、外端面67からディスク軸線方向において爪部23側に位置するほどディスク半径方向内側に位置するように傾斜して延出する傾斜面68が形成されている。ブリッジ部22と爪部23との境界位置のディスク半径方向外側には、外端面67と平行な外面69が形成されている。上記した透孔28,28は、ディスク軸線方向に長い長穴形状をなしており、外端面67から傾斜面68を横断して外面69まで延びている。
【0024】
そして、第1実施形態においては、キャリパボディ10が、
図3に示すように、爪部23と、ブリッジ部22と、シリンダ25の壁部33と、シリンダ底形成部101とを有する一体成形品である本体部材102と、本体部材102とは別体の底蓋部材103とから形成される。シリンダ底形成部101は、
図1に示す底部34の一部を形成する部分であり、
図3に示す開口部105が形成されている。本体部材102には、
図2に示す一対の腕部26,26が一体に形成されている。
図3に示す底蓋部材103は、開口部105に対応する円板状をなしており、シリンダ底形成部101の開口部105内に配置されシリンダ底形成部101に接合されてこのシリンダ底形成部101と共にシリンダ25の
図1に示す底部34を形成する。
【0025】
キャリパボディ10は、
図3に示す本体部材102のシリンダ底形成部101の開口部105の周縁部107と底蓋部材103の外周側の周縁部108とを摩擦攪拌接合(FSW)で一体化することにより形成される。これら本体部材102および底蓋部材103は、それぞれアルミニウム合金で個別に鋳造によって一体成形される。したがって、これらを接合したキャリパボディ10もアルミニウム合金で形成されることになる。なお、本体部材102および底蓋部材103は、鋳造に限らず、鍛造や切削加工等の成形方法で成形しても良く、また、それぞれを別の成形方法で成形するようにしてもよい。また、本体部材102および底蓋部材103の材料としては、アルミニウム合金材に限るものではなく、摩擦攪拌接合に用いられる材料、(例えば、鉄材等)であればよい。
【0026】
本体部材102のシリンダ底形成部101の開口部105は、シリンダ軸線に直交する面での断面が一定径の円形状をなしており、シリンダ底形成部101のボア31側には、開口部105よりも径方向外側に、
図1に示す底面46の外径側の一部を構成する
図3に示す底面構成面111が形成されている。
【0027】
底蓋部材103は、周縁部108が、軸直交方向の断面が一定径の円形状をなしており、この周縁部108において開口部105に嵌合する。底蓋部材103は、軸方向の一側に底面構成面112が形成されている。底面構成面112は、
図1に示す底面46の径方向内側の部分を構成する。
図3に示す底蓋部材103は、周縁部108が本体部材102の開口部105に嵌合されることになり、この状態で、周縁部108が開口部105の周縁部107と後述のように摩擦攪拌接合される。なお、
図3は、摩擦攪拌接合前の状態であり、本体部材102と底蓋部材103とを別部材として示しているが、摩擦攪拌接合後は本体部材102と底蓋部材103とは一部材となる。つまり、本体部材102の開口部105および底蓋部材103の周縁部108は、摩擦攪拌接合後に消失する。
【0028】
図1に示すキャリパボディ10を形成する際には、まず、アルミニウム合金で
図3に示す本体部材102を形成するための鋳物素材を一体成形する。本体部材102の鋳物素材には、鋳造段階で、爪部23と、一対の透孔28,28を有するブリッジ部22と、シリンダ25の壁部33と、シリンダ底形成部101と、
図2に示す一対の腕部26,26とが形成されている。鋳造段階では、
図3に示すシリンダ25については、壁部33にボア31が下穴の状態で形成されており、シリンダ底形成部101に開口部105が下穴の状態で形成されている。
【0029】
そして、鋳物素材の壁部33内の下穴部分を、開口部105の下穴部分を介して爪部23とは反対側から挿入される切削工具により切削加工して、壁部33のボア31側に小径内周面37、シール周溝39およびブーツ周溝40を形成する。また、開口部105の下穴部分は、爪部23とは反対側から切削工具を挿入し切削加工することで、シリンダ底形成部101に開口部105として形成される。このようにして本体部材102は形成される(本体部材形成工程)。ここで、壁部33の大径内周面38は鋳物段階で形成されている。
【0030】
他方で、アルミニウム合金の素材から、円筒面からなる周縁部108を有し、軸方向一側に底面構成面112が形成された底蓋部材103を形成する(底蓋部材形成工程)。
【0031】
そして、上記した本体部材形成工程後の本体部材102の壁部33の内側に、
図4に二点鎖線で示すように中子治具121を挿入し、さらにこの中子治具121を図示略の一体化治具により保持することで、本体部材102と中子治具121とを一体化する。ここで、中子治具121は、
図1に示すピストン18と類似する形状をなしており、軸方向の一端に軸直交面となる基準面122を有している。中子治具121は、本体部材102の壁部33の内側に挿入されると、円筒状の外周面124において本体部材102の小径内周面37に嵌合する。
【0032】
中子治具121は、壁部33の内側に嵌合されると、基準面122がその外径側の一部においてシリンダ底形成部101の底面構成面111に当接する。図示略の一体化治具により中子治具121と一体化された状態の本体部材102を、爪部23が鉛直方向下側になるように、後述する摩擦攪拌接合装置へセットする。続いて、上記の蓋部材形成工程で形成した底蓋部材103を底面構成面112が
図4中下側となるように、その周縁部108において、本体部材102のシリンダ底形成部101の開口部105に嵌合させる。これにより、底蓋部材103はボア31内に臨む一面側に底面構成面112が設けられた状態になる。このとき、中子治具121の一つの同じ基準面122に本体部材102の底面構成面111と底蓋部材103の底面構成面112とが当接して本体部材102および底蓋部材103が互いにディスク軸線方向に位置決めされる。
【0033】
この状態で、本体部材102のシリンダ底形成部101の開口部105の周縁部107に、この開口部105に配置される底蓋部材103の周縁部108を、摩擦攪拌接合により一体に接合して、
図1に示すシリンダ25の底部34が形成される(摩擦攪拌接合工程)。
【0034】
ここで、
図4に示すように、摩擦攪拌接合工程で使用される接合工具131は、略円柱状の大径軸部132と、この大径軸部132よりも小径でこの大径軸部132と同軸の先端軸部133とを有しており、大径軸部132の先端側のショルダ134が略軸直交方向に沿っている。先端軸部133は、先細の切頭円錐状をなしており、その外周部にねじが形成されている。
【0035】
接合工具131は、高速回転で自転しながら、その先端軸部133が、シリンダ底形成部101の開口部105の周縁部107と底蓋部材103の周縁部108との境界位置を移動、つまり、公転することにより、これら周縁部107および周縁部108を摩擦により軟化させて攪拌し接合する。ここで、この摩擦攪拌接合工程において、接合工具131の自転方向と公転方向が逆となるリトリーティングサイドにシリンダ25の開口部105の周縁部107が位置し、接合工具131の自転方向と公転方向が同じとなるアドバンシングサイドに底蓋部材103が位置するように、接合工具131の自転方向と公転方向とが決められている。例えば、上から見て接合工具131を反時計回りに自転させつつ時計回りに公転させる。
【0036】
そして、第1実施形態においては、上記した摩擦攪拌接合工程が、
図5に示す摩擦攪拌接合装置151を使用して行われる。この摩擦攪拌接合装置151は、
図4に示す中子治具121を支持する中子支持部152と、
図5に示すように一対の腕部26,26を支持する一対の腕支持部153,153とを有しており、一対の腕支持部153,153には、一対のピン取付穴27,27に挿入される一対の凸部154,154が上面から上方に突設されている。本体部材102は、一対のピン取付穴27,27に一対の凸部154,154を挿入させた状態で一対の腕部26,26が一対の腕支持部153,153に載置されるとともに、中子治具121が中子支持部152に支持されることで摩擦攪拌接合装置151にセットされる。摩擦攪拌接合装置151には、これにセットされた本体部材102の上方となる位置に上記した接合工具131を自転、公転および昇降させる工具ヘッド155が設けられている。
【0037】
さらに、摩擦攪拌接合装置151は、これにセットされる本体部材102のディスク回転方向の両側方となる位置に、本体部材102の壁部33およびブリッジ部22に向けて冷却液Lを放出し、壁部33およびブリッジ部22に冷却液Lを衝突させる側部ノズル161,161がそれぞれ設けられている。これら一対の側部ノズル161,161は、摩擦攪拌接合装置151にセットされた本体部材102の壁部33およびブリッジ部22に冷却液Lがかかるように、ディスク回転方向の両外側から冷却液Lを放出する。
【0038】
ここで、一対の側部ノズル161,161は、冷却液Lが本体部材102の壁部33およびブリッジ部22に衝突して、摩擦攪拌接合に伴って伝熱されてくる壁部33およびブリッジ部22の温度上昇を抑制し得るように、冷却液Lの放出方向、その放出方向に直交する断面積、および放出量が設定されている。また、本体部材102の
図4に示すシリンダ底形成部101および底蓋部材103に冷却液Lの液流がかからない、すなわち、冷却液Lが衝突しないように、冷却液Lの放出方向、その放出方向に直交する断面積、および放出量が設定されている。すなわち、一対の側部ノズル161,161による冷却液Lの放出方向、その放出方向に直交する断面積、および放出量は、摩擦攪拌接合時に、本体部材102のシリンダ底形成部101および底蓋部材103には、外側から冷却液Lの液流がかかることがなく、かつ、摩擦攪拌接合に必要な熱量が移動して摩擦攪拌接合の効率を低下させることがないように、冷却液Lの液流がかかる位置、すなわち、本体部材102における衝突位置が設定されている。なお、上記では、一対の側部ノズル161,161からの冷却液Lの放出によって、シリンダ底形成部101および底蓋部材103に冷却液Lの液流がかからないとしているが、摩擦攪拌接合に必要な熱量を維持することができる程度の冷却液Lの飛沫等であれば、シリンダ底形成部101および底蓋部材103にかかってしまってもよい。
【0039】
一対の側部ノズル161,161は、冷却液Lが、本体部材102の壁部33のディスク軸線方向における一対の腕部26,26よりもブリッジ部22側の部分と、ブリッジ部22の壁部33側の部分とに衝突するように、この衝突する位置よりも若干鉛直方向上側から冷却液Lを放出する。つまり、一対の側部ノズル161,161は、側面62,62の側斜面63,63側の一部と、側斜面63,63と側面64,64の側斜面63,63側の一部とにかかるように冷却液Lを放出する。本体部材102の壁部33およびブリッジ部22にかかった冷却液Lはブリッジ部22を伝って爪部23側に流れて本体部材102から落下する。
【0040】
摩擦攪拌接合工程を行う際には、中子治具121を挿入した状態の本体部材102を、爪部23を下側にした状態で摩擦攪拌接合装置151にセットし、本体部材102の開口部105に底蓋部材103をセットする。中子治具121の一つの同じ基準面122に本体部材102の底面構成面111と底蓋部材103の底面構成面112とが当接して本体部材102および底蓋部材103が互いにディスク軸線方向に位置決めされる。
【0041】
この状態で、摩擦攪拌接合装置151は、工具ヘッド155に設けられた接合工具131で、上述したように本体部材102のシリンダ底形成部101の開口部105の周縁部107に底蓋部材103の周縁部108を摩擦攪拌接合により一体に接合させてシリンダ25の底部34を形成する摩擦攪拌接合工程を行うことになる。この摩擦攪拌接合工程において、摩擦攪拌接合装置151は、接合工具131が本体部材102および底蓋部材103に接触する前に、一対の側部ノズル161,161から本体部材102の壁部33のブリッジ部22側とブリッジ部22の壁部33側とにかかるように冷却液Lを放出する。つまり、摩擦攪拌接合工程において、少なくともシリンダ底形成部101の開口部105の周縁部107に底蓋部材103の周縁部108を摩擦攪拌接合により一体に接合する摩擦攪拌接合中に、本体部材102の壁部33およびブリッジ部22に冷却液Lの液流をかける。これにより、本体部材102の摩擦攪拌接合時の摩擦攪拌接合位置以外の部分の温度上昇を抑制する。
【0042】
ここで、上記したように、一対の側部ノズル161,161は、本体部材102のシリンダ底形成部101および底蓋部材103には冷却液の液流をかけない、すなわち、冷却液を衝突させないように放出方向および放出量が設定されている。つまり、摩擦攪拌接合時に、本体部材102のシリンダ底形成部101および底蓋部材103へ冷却液Lの液流がかかる、すなわち、冷却液Lが衝突することがなく、摩擦攪拌接合の効率を低下させるような冷却を行うことがないように冷却液Lの液流がかかる位置、すなわち、冷却液Lの衝突位置が設定されている。
【0043】
そして、摩擦攪拌接合工程後、つまり、工具ヘッド155に設けられた接合工具131がキャリパボディ10の底部34から離れた後も、一対の側部ノズル161,161からの冷却液Lの放出状態を所定時間維持する冷却工程を行う。なお、摩擦攪拌接合工程後のキャリパボディ10が取扱い可能な温度であれば、上記摩擦攪拌接合工程後の冷却工程を省略してもよい。上記の取扱い可能な温度とは、次工程に支障が出ない温度であり、例えば、作業者がキャリパボディ10を把持して移動させることができる温度のことを示している。
【0044】
これにより、冷却液Lの液流が本体部材102の壁部33およびブリッジ部22にかかり続けることになる。よって、キャリパボディ10の摩擦攪拌接合時に生じた熱が冷やされ、摩擦攪拌接合工程終了時点から、冷却工程の次工程開始時点までの待機時間を抑制することになる。冷却工程の次工程は、シリンダ25の底部34のボア31とは反対側の外面を切削加工により平坦面に仕上げる底部外面仕上げ工程となっている。この底部外面仕上げ工程はフライス加工装置により行われる。なお、底部外面仕上げ工程がない場合等は摩擦攪拌接合工程後の冷却工程を省いてもよい。
【0045】
上記した特許文献2には、水槽の温水中にワークを浸漬させた状態で摩擦攪拌によりワーク表面を溶融させることなく改質する表面処理を行う点が開示されている。この場合、ワークをその保持治具を含めて浸漬できる大きさの水槽を準備しなければならないため、設備が大型化してしまう。
【0046】
これに対し、第1実施形態は、開口部105を有するシリンダ底形成部101と壁部33とを備える本体部材102の開口部105の周縁部107と、開口部105に配置される底蓋部材103の周縁部108とを摩擦攪拌接合により一体に接合してシリンダ25の底部34を形成する摩擦攪拌接合時に、本体部材102におけるシリンダ底形成部101よりも鉛直方向下側となる壁部33およびブリッジ部22に冷却液Lの液流をかけて、すなわち、冷却液Lを衝突させて冷却を行うようにしている。つまり、第1実施形態は、摩擦攪拌接合工程において、摩擦攪拌により底部34に生じる熱のうち壁部33側に伝わってきた余熱を冷却液Lに移すことで、キャリパボディ10における摩擦攪拌接合部36以外の部分の摩擦攪拌による温度上昇を抑制する。
【0047】
これにより、摩擦攪拌接合工程後に放熱が必要となる、残留熱量を低く抑えることができ、キャリパボディ10の温度を必要な温度まで短時間で低下させることができる。よって、例えば、摩擦攪拌接合工程後、キャリパボディ10を作業者が把持して移動させる等の後工程に向けての作業を行う場合、この後工程への移行を早めることができ、キャリパボディ10の製造効率を向上させることができる。具体的には、本体部材102の壁部33およびブリッジ部22に冷却液Lの液流をかけなければ、摩擦攪拌直後におけるキャリパボディ10の温度は高温(例えば、300℃程度)となり、これを取扱い可能な温度(例えば、50℃程度)まで空冷で冷却するためには、待機時間(例えば、30分程度)が発生するが、第1実施形態によれば、この待機時間を大幅に短縮することができる。ここでいう高温とは、次工程に支障が生じる温度であり、例えば、作業者がキャリパボディ10を把持して移動させることができない温度、すなわち、上述の取扱い可能な温度よりも高い温度のことを示している。
【0048】
また、第1実施形態は、本体部材102の壁部33に冷却液Lの液流をかけて冷却を行うことから、本体部材102をその保持治具を含めて浸漬できる大きさの浴槽を準備する必要がなくなり、設備の大型化を抑制することができる。
【0049】
加えて、中子治具121に冷却液を流して本体部材102の壁部33を冷却する場合には、配管のために中子治具121を固定する必要があり、中子治具121の設計自由度が低くなる上、本体部材102の壁部33内への中子治具121の挿入作業が繁雑になってしまうことになる。第1実施形態は、本体部材102の壁部33およびブリッジ部22に外側から冷却液Lの液流をかけて冷却を行うことから、中子治具121の設計自由度が高く、中子治具121の挿入作業も容易となる。
【0050】
また、第1実施形態は、摩擦攪拌接合時に、本体部材102のシリンダ底形成部101および底蓋部材103には冷却液Lの液流をかけないことから、摩擦攪拌接合に必要な熱量まで移動させて効率を低下させてしまうことや、冷却液L中の成分等によりキャリパボディ10の底部34の品質が低下してしまうことを抑制できる。
【0051】
「第2実施形態」
次に、第2実施形態を主に
図6に基づいて第1実施形態との相違部分を中心に説明する。なお、第1実施形態と共通する部位については、同一称呼、同一の符号で表す。
【0052】
第2実施形態では、
図6に示す冷却ヘッド171が設けられている。冷却ヘッド171には、その
図6中下側に、腕支持部153,153に支持された本体部材102の底部34の鉛直方向上方に位置する上部ノズル172が設けられており、この上部ノズル172からは下方に向けて冷却液Lを放出することが可能となっている。なお、冷却ヘッド171は、
図5に示す工具ヘッド155と入れ替わり可能に設けるようにしてもよい。
【0053】
そして、第2実施形態においては、第1実施形態と同様に、摩擦攪拌接合工程を行う際に一対の側部ノズル161,161により本体部材102の壁部33およびブリッジ部22に冷却液Lの液流をかける、すなわち、冷却液Lを衝突させる。そして、摩擦攪拌接合工程の終了後、つまり、工具ヘッド155に設けられた接合工具131がキャリパボディ10の底部34から離れた後も、一対の側部ノズル161,161からの冷却液Lの放出状態を所定時間維持する冷却工程を行う。これに加えて、第2実施形態の摩擦攪拌接合装置151は、摩擦攪拌接合後、シリンダ25の底部34の上方に配置される上部ノズル172からシリンダ25の底部34に向けて冷却液Lを所定時間放出して、冷却液Lを底部34にかける。すると、上部ノズル172から放出された冷却液Lの液流がシリンダ25の底部34にディスク軸線方向の外側からかかることになる。すなわち、上部ノズル172から放出された冷却液Lがシリンダ25の底部34にディスク軸線方向の外側から衝突することになる。
【0054】
冷却工程において、一対の側部ノズル161,161からシリンダ25の壁部33への冷却液Lの放出に加えて、上部ノズル172からキャリパボディ10のシリンダ25の底部34に向けて冷却液Lを放出することで、キャリパボディ10の摩擦攪拌接合時に生じた熱が冷やされ、摩擦攪拌接合工程の終了時点から、冷却工程の次工程開始時点までの待機時間をさらに抑制することができる。ここで、摩擦攪拌接合装置151は、一対の側部ノズル161,161からの冷却液Lの放出と上部ノズル172からの冷却液Lの放出とを同じタイミングで終了する。この冷却工程の次工程は、第1実施形態と同様の底部外面仕上げ工程となる。なお、冷却工程終了の時期は任意でよく、上述した取扱い可能な温度までキャリパボディ10が冷却できていればよい。
【0055】
第2実施形態では、第1実施形態と同様に、摩擦攪拌接合工程の後に冷却工程を設け、シリンダ25の壁部33および底部34の両方に冷却液Lの液流をかけるようにしているが、これに限らず、摩擦攪拌接合工程の後に、シリンダ25の壁部33への冷却液Lの液流をかけずに、上部ノズル172によって底部34側のみに冷却液Lの液流をかけるようにしてもよい。
【0056】
以上の実施形態の冷却液Lは、油性切削油や、油を溶剤によって水に溶かした水溶性切削油である。なお、冷却液Lとして水を使用することも可能であるが、設備の防錆のため、冷却液の飛散を抑制する囲い等が必要となることから、油性切削油や水溶性切削油を用いる方がよい。また、以上の実施形態では、摩擦攪拌接合工程の後工程が切削工程であることからも、冷却液Lとして水を使用するよりも後工程の切削工程に影響が少ない油性切削油や水溶性切削油を用いる方がよい。
【0057】
以上の実施形態においては、一つのシリンダ25を有するピストン支持部21がディスク12の一面側のみに配置され、ディスク12の他面側には爪部23が形成され、液圧によりディスク12の一面側のみに設けられた一つのピストン18でブレーキパッド14を押圧するフィスト型のキャリパ15のキャリパボディ10に本発明を適用する場合を例にとり説明した。しかしながら、他の種々のキャリパボディに本発明を適用することが可能である。
【0058】
例えば、一つのシリンダを有するピストン支持部がディスクの両面側に配置される対向型のキャリパにも適用可能である。このように対向型のキャリパに適用する場合には、対向する一対のシリンダのうち一方のシリンダに摩擦攪拌接合を適用すればよく、必要があれば、両側のシリンダに摩擦攪拌接合を適用してもよい。また、ディスクの一面側のピストン支持部に2つ以上のシリンダを有し2つ以上のピストンを設けたフィスト型のキャリパや対向型のキャリパにも適用可能である。さらに、上記実施形態においては、ディスク12の両面側に一対のブレーキパッド14を設けるようにしているが、二対または一対以上のブレーキパッドを設けたディスクブレーキにも適用が可能である。
【0059】
上記実施形態は、ディスクの両面に対向配置される一対のブレーキパッドのうちの少なくとも一方のブレーキパッドを押圧するピストンが配置されるためのシリンダを有するキャリパボディの製造方法であって、開口部を有するシリンダ底形成部と前記シリンダの壁部とを備える本体部材の前記開口部の周縁部と、前記開口部に配置される底蓋部材の周縁部とを摩擦攪拌接合により一体に接合して前記シリンダの底部を形成する摩擦攪拌接合時に、前記本体部材における前記シリンダの底部よりも下側となる前記シリンダの前記壁部に冷却液を衝突させる。これにより、摩擦攪拌接合時にシリンダの壁部から冷却液に熱量が移動する、すなわち、摩擦攪拌接合により発生する熱が冷却液に伝熱することになる。よって、摩擦攪拌接合工程後の放熱が必要となる残留熱量を減らすことができ、キャリパボディの温度を短時間で必要な温度まで低下させることができる。また、シリンダの壁部に冷却液の液流を衝突させるため、大きな浴槽が不要となり設備の大型化を抑制することができる。
【0060】
また、前記摩擦攪拌接合時に、前記本体部材の前記シリンダ底形成部および前記底蓋部材には冷却液の液流を衝突させない。これにより、摩擦攪拌接合時に冷却液が摩擦攪拌接合の効率や品質を低下させてしまうことを抑制できる。
【0061】
また、前記摩擦攪拌接合の後に、前記シリンダの底部に冷却液の液流を衝突させる。これにより、摩擦攪拌接合後にはシリンダの底部から冷却液に直接熱量が移動することになる。よって、摩擦攪拌接合工程後の後工程への移行を早めることができる。