特許第6395344号(P6395344)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6395344衝撃緩衝材、靴底用部材、靴、及び、スポーツ用保護具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6395344
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】衝撃緩衝材、靴底用部材、靴、及び、スポーツ用保護具
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/06 20060101AFI20180913BHJP
   F16F 7/00 20060101ALI20180913BHJP
   A43B 13/04 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   C08J9/06CER
   C08J9/06CEZ
   F16F7/00 B
   A43B13/04 A
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-558817(P2017-558817)
(86)(22)【出願日】2015年12月28日
(86)【国際出願番号】JP2015086507
(87)【国際公開番号】WO2017115416
(87)【国際公開日】20170706
【審査請求日】2018年5月29日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000310
【氏名又は名称】株式会社アシックス
(74)【代理人】
【識別番号】100074332
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100114432
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 寛昭
(72)【発明者】
【氏名】立石 純一郎
【審査官】 保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−052106(JP,A)
【文献】 特許第5719980(JP,B1)
【文献】 国際公開第2014/192910(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43B1/00−23/30
A43C1/00−19/00
A43D1/00−999/00
B29D35/00−35/14
C08J9/00−9/42
F16F7/00−7/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー組成物を架橋発泡させることで形成される架橋発泡体によって一部又は全部が形成されている衝撃緩衝材であって、
前記架橋発泡体は、20℃でのパルス法NMR測定で求められるS相の含有割合から40℃でのパルス法NMR測定で求められるS相の含有割合を引いた値が0.10以上である、衝撃緩衝材。
【請求項2】
前記架橋発泡体は、20℃でのパルス法NMR測定で求められるS相の含有割合から40℃でのパルス法NMR測定で求められるS相の含有割合を引いた値が0.15よりも大きい、請求項1に記載の衝撃緩衝材。
【請求項3】
前記ポリマー組成物がスチレン系熱可塑性エラストマーを含有する、請求項1又は2に記載の衝撃緩衝材。
【請求項4】
前記ポリマー組成物がアミド系熱可塑性エラストマーを含有する、請求項1〜3の何れか1項に記載の衝撃緩衝材。
【請求項5】
前記架橋発泡体の比重は、0.40以下であり、
前記架橋発泡体のC硬度は、60以下である、請求項1〜の何れか1項に記載の衝撃緩衝材。
【請求項6】
請求項1〜の何れか1項に記載の衝撃緩衝材を有する靴底用部材。
【請求項7】
請求項に記載の靴底用部材を備える靴。
【請求項8】
請求項1〜の何れか1項に記載の衝撃緩衝材を有するスポーツ用保護具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃緩衝材、靴底用部材、靴、及び、スポーツ用保護具に関する。靴底用部材、及び、靴については、より詳しくは、例えば、インナーソール、ソックライナー、ミッドソール、アウターソール等として用いられる靴底用部材、及び、このような靴底用部材を備えた靴に関する。スポーツ用保護具については、より詳しくは、例えば、グローブ、プロテクター、運動用マット等として用いられるスポーツ用保護具に関する。
【背景技術】
【0002】
各種競技等に使用されるスポーツシューズは、多くの部材から構成されており、例えば、靴底であれば、インナーソール、ソックライナー、ミッドソール、アウターソール等の靴底用部材から構成されている。
【0003】
従来の靴底用部材は、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)及び/又はポリエチレンに、ゴム又はエチレン−ブテン共重合体(EBM)をブレンドしたものを架橋発泡させた発泡体で形成されており、中でもエチレン−酢酸ビニル共重合体の架橋発泡体によって形成されたものが広く使用されている(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】日本国特開平11−206406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シューズに対して快適性を発揮させるという観点からは、靴底用部材は、耐衝撃性に優れることが望ましい。
また、靴底用部材は、靴の用途等によって薄肉なものが望まれることがある。
薄肉化させながらも耐衝撃性を満足させるには、発泡倍率を低くすること(比重を小さくすること)が考えられるが、発泡倍率を低下させると靴底用部材の重量が増してしまうという問題がある。
【0006】
また、薄肉化させながらも耐衝撃性を満足させるために、靴底用部材の硬度を高めることも考えられるが、硬度を高めすぎると履き心地が低下するという問題がある。
従って、薄肉化しても快適性に優れる架橋発泡体が望まれうる。
【0007】
また、靴底用部材に限らず、スポーツ用保護具などに用いられる衝撃緩衝材についても、薄肉化しても衝撃緩衝性に優れることが望まれうる。
【0008】
そこで、斯かる要望点に鑑み、本発明は、薄肉化しても衝撃緩衝性に優れる衝撃緩衝材の提供を図り、ひいては、該衝撃緩衝材を有する靴底用部材、及び、該衝撃緩衝材を有するスポーツ用保護具の提供を図り、更には、靴底用部材を薄肉化しても快適性を備えた靴を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討を行い、結晶相などのようにパルス法NMRでの測定においてスピン−スピン緩和時間が短く観察される相(S相)の含有割合に関し、20℃でのパルス法NMR測定で求められるS相の含有割合から40℃でのパルス法NMR測定で求められるS相の含有割合を引いた値が大きい架橋発泡体を用いることで、上記課題を解決し得ることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明に係る衝撃緩衝材は、ポリマー組成物を架橋発泡させることで形成される架橋発泡体によって一部又は全部が形成されている衝撃緩衝材であって、
前記架橋発泡体は、20℃でのパルス法NMR測定で求められるS相の含有割合から40℃でのパルス法NMR測定で求められるS相の含有割合を引いた値が0.10以上である。
【0011】
本発明においては、前記架橋発泡体は、20℃でのパルス法NMR測定で求められるS相の含有割合から40℃でのパルス法NMR測定で求められるS相の含有割合を引いた値が0.15よりも大きいことが好ましい。
【0012】
また、本発明においては、前記ポリマー組成物がスチレン系熱可塑性エラストマーを含有することが好ましい。
【0013】
さらに、本発明においては、前記ポリマー組成物がアミド系熱可塑性エラストマーを含有することが好ましい。
【0014】
また、本発明においては、前記架橋発泡体は、23℃において架橋発泡体の上方50mmの位置から10kgの重りを自由落下させることにより架橋発泡体に衝突させた際に、重りに加わる負の加速度の最大値が、10mmの厚みにおいて20G以下となることが好ましい。
【0015】
また、本発明に係る靴底用部材は、上記衝撃緩衝材を有する。
【0016】
さらに、本発明に係る靴は、上記靴底用部材を備える。
【0017】
さらに、本発明に係るスポーツ用保護具は、上記衝撃緩衝材を有する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、薄肉化しても衝撃緩衝性に優れる衝撃緩衝材の提供を図り、ひいては、該衝撃緩衝材を有する靴底用部材、及び、該衝撃緩衝材を有するスポーツ用保護具の提供を図り、更には、靴底用部材を薄肉化しても快適性を備えた靴を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】靴底用部材を備えた靴の一態様を示した概略側面図。
図2】実施例11の架橋発泡体についてパルス法NMR測定を行った結果を示す図。
図3】比較例3の架橋発泡体についてパルス法NMR測定を行った結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る衝撃緩衝材について、靴底用部材に用いられる衝撃緩衝材を例示しつつ説明する。
図1は、本実施形態の靴底用部材を用いて形成される靴を示したものである。
該靴1は、アッパー材2と靴底用部材3,4とを有している。
該靴1は、前記靴底用部材として、ミッドソール3、及び、アウターソール4を有している。
【0021】
本実施形態の衝撃緩衝材は、ポリマー組成物を架橋発泡させることで形成される架橋発泡体によって一部又は全部が形成されている。
また、本実施形態の架橋発泡体は、20℃でのパルス法NMR測定で求められるS相の含有割合(FS20)から40℃でのパルス法NMR測定で求められるS相の含有割合(FS40)を引いた値が0.10以上である。
言いかえれば、本実施形態の架橋発泡体は、以下の関係式を満たす。
S20 − FS40 ≧ 0.10 (1)
【0022】
また、本実施形態の架橋発泡体は、20℃でのパルス法NMR測定で求められるS相の含有割合(FS20)から40℃でのパルス法NMR測定で求められるS相の含有割合(FS40)を引いた値が0.15よりも大きいことが好ましい。
言いかえれば、本実施形態の架橋発泡体は、以下の関係式を満たすことが好ましい。
S20 − FS40 > 0.15 (2)
【0023】
本実施形態の靴底用部材は、FS20が0.15〜0.80が好ましい。また、本実施形態の靴底用部材は、FS40が0.05〜0.60が好ましい。
【0024】
なお、パルス法NMR測定では、スピン−スピン緩和時間が0.02ms未満である相(S相)、スピン−スピン緩和時間が0.02ms以上0.1ms未満である相(M相)、スピン−スピン緩和時間が0.1ms以上である相(L相)に分けて、それぞれの相の含有割合を求める。
スピン−スピン緩和時間は、例えば、ブルカーオプティクス社製のパルス法NMR測定装置、型名「minispec mq20」を用い、Solid Echo法による測定を実施することなどで求めることができる。
【0025】
パルス法NMRにおいては、パルス磁場を加えた後の経過時間をt(ms)とし、t=0における磁化をM0、時間tにおける磁化をM(t)とすると、スピン−スピン緩和時間(T)は、下記式に基づいて求められる。
なお、下記式中の「W」はワイブル係数を表す。
【0026】
【数1】
【0027】
そして、測定対象をn個の成分に分解した際に、i番目(i<n)の成分に関し、t=0におけるこのi成分の磁化をM0iとし、i成分のワイブル係数をWとするとi成分のスピン−スピン緩和時間(T2i)、及び、i成分の割合Fは、下記式に基づいて求められる。
例えば、ワイブル係数Wは、W=2、W=1、W=1を用いることができる。
このような緩和時間の求め方については、S.Yamasaki et al Polymer48 4793 (2007)などに開示されている。
【0028】
【数2】
【0029】
【数3】
【0030】
なお、一般的なポリマーであればスピン−スピン緩和時間(T2S、T2M、T2L)や各相の含有割合(F、F、F)が、架橋前後において大きく変動することが無い。
そのため、非架橋な状態でパルス法NMR測定を実施して前記の不等式に示した関係を満足するポリマーを調査し、該ポリマーを架橋発泡体を形成させるためのポリマー組成物のポリマーとして採用すれば、前記の不等式に示した関係を満足する架橋発泡体を高い確率で得ることができる。
【0031】
また、一般的なポリマーであれば発泡しているか否かによってスピン−スピン緩和時間や各相の含有割合を大きく異ならせることが無い。
そのため前記の不等式に示した関係を満足する架橋発泡体が得られるか否かをより確実に予測することが必要な場合であれば、ポリマーによる非発泡な架橋体試料を作製し、該試料に対してパルス法NMR測定を実施して前記予測を行えば良い。
【0032】
なお、S相、M相、及び、L相の含有割合については、例えば、結晶性ポリマーであれば、主として結晶相がパルス法NMR測定においてS相となって観測され、主としてアモルファス相がM相やL相となって観測される。
また、ハードセグメントとソフトセグメントとを有するブロック共重合体であれば、主としてハードセグメント部分がパルス法NMR測定においてS相となって観測され、主としてソフトセグメント部分がM相やL相となって観測される。
【0033】
従って、例えば、密度の異なる(結晶化度の異なる)何種類かのポリエチレンについてパルス法NMR測定を実施してスピン−スピン緩和時間と各相の含有割合とについてデータを採取しておけば、当該緩和時間や含有割合が結晶化度によってどのような傾向を示すかを把握することができる。
即ち、架橋発泡体のポリマーをポリエチレンとするような場合には、必ずしも、用いるポリエチレンのパルス法NMR測定を予め実施しなくても、他のポリエチレンについて実施したパルス法NMR測定の結果から架橋発泡体のスピン−スピン緩和時間や各相の含有割合を予測することができる。
【0034】
さらに、前記ポリマー組成物に複数のポリマーを含有させる場合においては、個々のポリマーについてスピン−スピン緩和時間(T2S、T2M、T2L)と各層の含有割合(F、F、F)とを測定し、ポリマー組成物における配合割合に応じたこれらの加重平均値を算出することにより架橋発泡体のスピン−スピン緩和時間と割合とを予測することができる。
【0035】
衝撃緩衝材は、架橋発泡体の[FS20 − FS40]が大きいほど、薄肉化させながらも耐衝撃性に優れたものとなりやすくなる。
すなわち、本実施形態に係る衝撃緩衝材は、架橋発泡体が以下の関係式を満たすことで、薄肉化させながらも耐衝撃性に優れたものとなる。
S20 − FS40 ≧ 0.10 (1)
【0036】
また、本実施形態において、前記架橋発泡体は、23℃において架橋発泡体の上方50mmの位置から10kgの重りを自由落下させることにより架橋発泡体に衝突させた際に、重りに加わる負の加速度の最大値が、10mmの厚みにおいて20G以下となることが好ましい。
この負の加速度の最大値(A10)は以下のようにして測定することができる。
まず、水平な台(材質:鉄)の上に50mm(縦)×50mm(横)×10mm(厚み)の架橋発泡体を載置する。
そして、23℃において架橋発泡体の上方50mmの位置から重り(質量:10kg、材質:鉄、圧子先端部分形状:直径50mm円柱、圧子先端面形状:直径50mm円)を自由落下させることにより架橋発泡体に衝突させた際の重りに加わる負の加速度の最大値(A10)を測定する。
なお、より詳しい測定方法は、「スポーツ産業学研究,Vol.9,No.1(1999),1〜7. 西脇,奈迫」や「ジョイント・シンポジウムジョイント・シンポジウム2009 スポーツ工学シンポジウム シンポジウム:ヒューマン・ダイナミクス(2009)457−460. 立石,原野,森,西脇」に記載されている。
【0037】
本実施形態において、前記架橋発泡体の比重は、0.10〜0.40であることが好ましい。
なお、架橋発泡体の比重とは、JIS K7112のA法「水中置換法」によって、23℃の温度条件下において測定される値を意味する。
【0038】
本実施形態において、衝撃緩衝材を軟質性に優れたものにするという観点から、前記架橋発泡体のC硬度は、70以下であることが好ましく、60以下であることがより好ましく、55以下であることが特に好ましい。
ただし、靴底用部材は、過度に低硬度な架橋発泡体で形成されると、当該靴底用部材を備えたシューズの履き心地を低下させるおそれを有する。
従って、前記架橋発泡体のC硬度は、10以上であることが好ましい。
なお、架橋発泡体のC硬度とは、23℃において高分子計器株式会社製アスカーゴム硬度計C型)によって測定した際の,加圧後5秒後の値を意味する。
より具体的には、C硬度は、例えば、型内発泡成形などによって所定形状とされた架橋発泡体から表皮部分を除去して10mm以上の厚みを有する板状の測定試料を作製し、該測定試料に対して上述の硬度計を用いて測定することで求めることができる。
【0039】
本実施形態において、前記架橋発泡体は、下記式の条件を満足する架橋発泡体であることが好ましい。
E100/E1≧2.0
前記架橋発泡体は、上記式の条件を満足することにより、衝撃が生じた際に高剛性化し、その結果、過度な変形が抑制されるという利点を有する。
ここで、上記式は、動的粘弾性測定(温度:23℃、ひずみ:0.025%、昇温速度:2℃/min)で架橋発泡体の複素弾性率を測定することにより求められるものである。そして、上記式の「E100」は、周波数100Hzでの複素弾性率を表している。また、上記式「E1」は、周波数1Hzでの複素弾性率を表している。
なお、複素弾性率は、JIS K7244−4:1999「プラスチック−動的機械特性の試験方法−第4部:引張振動−非共振法」に従って測定したものを意味する。
【0040】
該ポリマー組成物の主成分たるポリマーは、本実施形態においては、特に限定が加えられるものではなく、従来の衝撃緩衝材の形成(例えば、従来の靴底用部材やスポーツ用保護具の形成)に利用されているポリマーと同様のものとすることができる。
【0041】
前記ポリマーとしては、オレフィン系のものであれば、例えば、ポリエチレン(例えば、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE))、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−1−ヘキセン共重合体、プロピレン−4−メチル−1−ペンテン共重合体、プロピレン−1−ブテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−4−メチル−ペンテン共重合体、エチレン−ブテン共重合体(EBM)、1−ブテン−1−ヘキセン共重合体、1−ブテン−4−メチル−ペンテン、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸ブチル共重合体、エチレン−メチルアクリレート共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−ブチルアクリレート共重合体、プロピレン−メタクリル酸共重合体、プロピレン−メタクリル酸メチル共重合体、プロピレン−メタクリル酸エチル共重合体、プロピレン−メタクリル酸ブチル共重合体、プロピレン−メチルアクリレート共重合体、プロピレン−エチルアクリレート共重合体、プロピレン−ブチルアクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、プロピレン−酢酸ビニル共重合体、エチレンとα−オレフィン(炭素数:3〜10)との共重合体等から選択される1種又は2種以上を採用することができる。
【0042】
また、オレフィン系以外のものであれば、前記ポリマーとしては、エステル系ポリウレタン、エーテル系ポリウレタン等のウレタン系ポリマー;スチレン−エチレン−ブチレン共重合体(SEB)、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)、SBSの水素添加物(スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS))、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SIS)、SISの水素添加物(スチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体(SEPS))、スチレン−イソブチレン−スチレン共重合体(SIBS)、スチレン−ブタジエン−スチレン−ブタジエン(SBSB)、スチレン−ブタジエン−スチレン−ブタジエン−スチレン(SBSBS)、ポリスチレン、アクリロニトリルスチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS樹脂)、スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)等のスチレン系ポリマー等から選択される1種又は2種以上を採用することができる。
また、前記ポリマーとしてその他には、エステル系熱可塑性エラストマー(TPEE)、アミド系熱可塑性エラストマー(TPA)等も採用することもできる。
【0043】
さらに、本実施形態において前記ポリマーとして採用可能なポリマーを挙げると、例えば、フッ素樹脂やフッ素ゴムなどのフッ素系ポリマー;ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6,6、ポリアミド610などのポリアミド系樹脂やポリアミド系エラストマーといったポリアミド系ポリマー;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂;ポリ塩化ビニル系樹脂;ポリメタクリル酸メチルなどのアクリル系樹脂;シリコーン系エラストマー;ブタジエンゴム(BR);イソプレンゴム(IR);クロロプレン(CR);天然ゴム(NR);スチレンブタジエンゴム(SBR);アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR);ブチルゴム(IIR)などが挙げられる。
【0044】
また、前記ポリマー組成物は、スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)を含有することが好ましい。
前記ポリマーは、スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)を含有する場合には、スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)を、10〜100質量%含有することが好ましく、20〜70質量%含有することが特に好ましい。
【0045】
さらに、前記ポリマー組成物は、成形収縮を抑制するという観点から、アミド系熱可塑性エラストマー(TPA)を含有することが好ましい。
前記ポリマーは、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPA)を含有する場合には、アミド系熱可塑性エラストマー(TPA)を、2〜30質量%含有することが好ましく、4〜20質量%含有することが特に好ましい。
【0046】
アミド系熱可塑性エラストマーを含有する本実施形態に係る架橋発泡体は、2次形成体である場合には、成形収縮率が4.0%以下であることが好ましい。
成形収縮率は、実施例に記載の成形収縮率を意味する。
【0047】
このようなポリマーを架橋発泡させる手法は特に限定されず、一般的な架橋発泡体の形成に利用されている架橋剤、及び、発泡剤を本実施形態においても用いることができる。
該架橋剤としては、例えば、有機過酸化物、マレイミド系架橋剤、硫黄、フェノール系架橋剤、オキシム類、ポリアミン等を採用することが可能であるが、なかでも有機過酸化物が好ましい。また、電子線を用いて架橋構造を形成させることも可能であり、電子線架橋を実施する場合には、電子線架橋剤を用いることもできる。
【0048】
該有機過酸化物としては、例えば、ジクミルペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(t−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3、1,3−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルペルオキシ)バレレート、ベンゾイルペルオキシド、p−クロロベンゾイルペルオキシド、2,4−ジクロロベンゾイルペルオキシド、t−ブチルペルオキシベンゾエート、t−ブチルペルベンゾエート、t−ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、ジアセチルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド等から選択される1種又は2種以上を採用することができる。
【0049】
前記有機過酸化物は、本実施形態のポリマー組成物中に含有されるポリマーの合計100質量部に対して0.01質量部以上10質量部以下となる割合で架橋発泡体の形成に使用されることが好ましい。
【0050】
また、前記架橋発泡体は、前記架橋剤とともに架橋助剤を併用して架橋密度を調整させることができる。
この架橋助剤としては、例えば、ジビニルベンゼン、トリメチロールプロパントリメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールメタクリレート、1,9−ノナンジオールジメタクリレート、1,10−デカンジオールジメタクリレート、トリメリット酸トリアリルエステル、トリアリルイソシアネート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸トリアリルエステル、トリシクロデカンジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート等から選択される1種又は2種以上を採用することができる。
【0051】
また、前記架橋発泡体は、クレー、タルク、シリカ、カーボンブラックといった表面エネルギーの高い無機物粒子をポリマー組成物にブレンドし、当該無機物粒子によってポリマー組成物中に擬似架橋点を形成させるようにしてもよい。
【0052】
ポリマーを発泡させる手法は特に限定されず、有機系や無機系の化学発泡剤を用いた化学発泡法や、物理発泡剤を用いた物理発泡法により、発泡成形することができる。
前記発泡剤としては、例えば、アゾジカルボンアミド(ADCA)、1,1’−アゾビス(1−アセトキシ−1−フェニルエタン)、ジメチル−2,2’−アゾビスブチレート、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチル−プロピオンアミジン]等のアゾ化合物;N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)等のニトロソ化合物;4,4’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホニルヒドラジド等のヒドラジン誘導体;p−トルエンスルホニルセミカルバジド等のセミカルバジド化合物;トリヒドラジノトリアジンなどの有機系熱分解型発泡剤から選択される1種又は2種以上を採用することができる。
【0053】
また、前記発泡剤としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム等の重炭酸塩、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム等の炭酸塩;亜硝酸アンモニウム等の亜硝酸塩、水素化合物などの無機系熱分解型発泡剤から選択される1種又は2種以上を採用することができる。
【0054】
さらに、メタノール、エタノール、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン等の各種脂肪族炭化水素類などの有機系発泡剤、空気、二酸化炭素、窒素、アルゴン、水などの無機系発泡剤も前記架橋発泡体を形成させる際の発泡剤として用いることができる。
【0055】
前記架橋発泡体に含有させるその他の添加剤としては、分散剤、加工助剤、耐侯剤、難燃剤、顔料、離型剤、帯電防止剤、抗菌剤、消臭剤等が挙げられる。
【0056】
このような架橋発泡体を形成させる方法としては、特に限定されることなく、従来公知の方法を採用することができる。
【0057】
本実施形態に係る靴底用部材は、本実施形態に係る衝撃緩衝材を有する。また、本実施形態に係る靴は、本実施形態に係る靴底用部材を備えている。
【0058】
また、本実施形態に係る衝撃緩衝材は、使用者を保護するスポーツ用保護具に用いられてもよい。言い換えれば、本実施形態に係るスポーツ用保護具は、本実施形態に係る衝撃緩衝材を有する。
該スポーツ用保護具としては、壁や床に備えられて使用者を保護する運動用マット、使用者が装着して使用されるグローブやプロテクターが挙げられる。
さらに、本実施形態に係る衝撃緩衝材は、運動用マットに限らず、他の目的で用いられるマットに用いられてもよい。
また、本実施形態に係る衝撃緩衝材は、運動時の衝撃を緩衝する目的で、壁や床の内部に設けられる芯材や下地として用いられてもよい。
【0059】
なお、本発明に係る衝撃緩衝材、靴底用部材、靴、及び、スポーツ用保護具は、上記実施形態に限定されるものではない。また、本発明に係る衝撃緩衝材、靴底用部材、靴、及び、スポーツ用保護具は、上記した作用効果に限定されるものでもない。本発明に係る衝撃緩衝材、靴底用部材、靴、及び、スポーツ用保護具は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、本発明の衝撃緩衝材は、上記のような架橋発泡体のみによって形成させてもよく、或いは、本発明の効果が損なわれない範囲内において布帛や樹脂シート等の他の素材を併用して形成させてもよい。
【実施例1】
【0060】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0061】
(予備検討1)
ハードセグメントとソフトセグメントとを有するスチレン系熱可塑性エラストマー(以下「TPS−A」ともいう)、3種類のオレフィン系熱可塑性樹脂(以下「TPO−A」、「TPO−B」、「TPO−C」ともいう)、及び、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(以下「EVA−A」ともいう)を用意し、非架橋な状態でパルス法NMRを用いて25℃におけるスピン−スピン緩和時間(T2S、T2M、T2L)と各相(S相、M相、L相)の含有割合(F、F、F)とを測定した。
また、これらのポリマーを使って作製した架橋発泡体についてもパルス法NMRでスピン−スピン緩和時間と各相の含有割合とを測定した。
結果を、下記表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
(予備検討2)
前記予備検討1のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS−A)と1番目のオレフィン系熱可塑性樹脂(TPO−A)とを質量比(「TPS−A」/「TPO−A」)で、それぞれ「80/20」、「70/30」、「60/40」となる割合でブレンドした混合樹脂で架橋発泡体を作製した。
そして、この架橋発泡体をパルス法NMRで測定し、25℃におけるスピン−スピン緩和時間(T2S、T2M、T2L)及び各相(S相、M相、L相)の割合(F、F、F)を求めた。
また、この混合樹脂による架橋発泡体をパルス法NMRで測定した結果を予測すべく、表1の架橋発泡体のデータ(No.1−2、No.2−2)に基づいた加重平均値を計算により求めた。
即ち、「80/20」の架橋発泡体の「T2L」の値は、表1における「TPS−A」の「T2L」の値が「0.245」で、「TPO−A」の「T2L」の値が「0.220」であることから、「(0.245×80+0.220×20)/100」の式を計算して「0.240」となるものと予測した。
また、その他のスピン−スピン緩和時間(T2S、T2M)や各相の割合(F、F、F)の予測値についても同様に加重平均値を計算により求めた。
この加重平均による予測値と架橋発泡体を実測した値とを下記表2に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
また、非架橋な状態でスピン−スピン緩和時間(T2S、T2M、T2L)、及び、各相の割合(F、F、F)が下記表3に記載の値となるスチレン系熱可塑性エラストマー(以下「TPS−B」ともいう)と、先のオレフィン系熱可塑性樹脂(TPO−A)とを質量比(「TPS−B」/「TPO−A」)で「80/20」となる割合でブレンドした混合樹脂で架橋発泡体を作製した。
この架橋発泡体をパルス法NMRで測定し、25℃におけるスピン−スピン緩和時間(T2S、T2M、T2L)及び各相の割合(F、F、F)を求めた。
また、この架橋発泡体をパルス法NMRで測定した結果を予測すべく、表1におけるオレフィン系熱可塑性樹脂(TPO−A)の非架橋な状態でのデータ(No.2−1)と、下記表3に示したスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS−B)の非架橋な状態でのデータ(No.6−1)に基づいた加重平均値を計算により求めた。
この予測値を架橋発泡体の実測値とともに表3に併せて示す。
【0066】
【表3】
【0067】
上記の表に示された結果からも、架橋前のポリマーなどに対してパルス法NMRでスピン−スピン緩和時間や各相の割合を測定することで、当該ポリマーを用いて架橋発泡体を作成した際に、この架橋発泡体のスピン−スピン緩和時間や各相の含有割合がどのような値となるかを予測することが容易になることがわかる。
即ち、上記表に示された結果から、架橋発泡体が下記不等式を満たすか否かを事前に予測することが容易であることがわかる。

S20 − FS40 ≧ 0.10 (1)
【0068】
(実施例、比較例及び参考例)
ポリマーとして、スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS1、TPS2、TPS3、TPS4)、オレフィン系樹脂(PE1、PE2、PE3、PE4)、及び、アミド系熱可塑性エラストマー(TPA)を用意した。また、その他の成分として、ステアリン酸、酸化亜鉛、化学発泡剤、架橋剤、及び、架橋助剤を用意した。
そして、下記表5〜7に示すような配合のポリマー100質量部、ステアリン酸1質量部、架橋剤0.5質量部、架橋助剤0.15質量部、酸化亜鉛、及び、化学発泡剤を混練することにより混練物を得、該混練物を165℃で15分加熱することにより1次発泡体を得た。
次に、1次発泡体を250mm(縦)(A)×250mm(横)(B)×12mm(高さ)に切り出し、切り出した1次発泡体を高さが8mmとなるように23℃下で圧縮させた。そして、圧縮させたまま160℃で5分間加熱した後、圧縮状態を維持したまま常温(23℃)になるまで冷却プレス成形することで2次発泡体を得た。
そして、この2次発泡体を、実施例及び比較例の架橋発泡体とした。
また、2次発泡体を得た後、室温下に2週間静置した後、2次発泡体の縦の長さ(A’)及び横の長さ(B’)を測定した。
そして、下記式により、成形収縮率(S)を算出した。
S = ((A−A’)×100/A +(B−B’)×100/B)/2
なお、化学発泡剤及び酸化亜鉛の配合割合を変えることにより、得られる架橋発泡体の比重を変化させた。実施例及び比較例においては、具体的には、ポリマー100質量部に対して、化学発泡剤を0.5〜10質量部の範囲内にし、酸化亜鉛を0.25〜5質量部の範囲内にした。
また、下記表4に示すような配合の参考例のポリマーを作製した。
なお、比較例1では架橋発泡体が得られなかった。
【0069】
実施例及び比較例の架橋発泡体について、落錘試験における最大加速度、比重、複素弾性率、硬度、及び、成形収縮率を測定した。また、参考例のポリマーについて、比重、複素弾性率、及び硬度を測定した。これらの結果を表4〜7に示す。
また、実施例及び比較例の架橋発泡体、並びに、参考例のポリマーのパルス法NMRによる測定を行った。この結果を表4〜7に示す。また、図2は、実施例11の架橋発泡体についてパルス法NMR測定を行った結果を示す。さらに、図3には、比較例3の架橋発泡体についてパルス法NMR測定を行った結果を示す。
なお、硬度については、数値の前に“A”、“C”、“D”を記載しているものがあるが、数値の前に“A”と記載しているものは、A硬度を意味し、数値の前に“C”と記載しているものは、C硬度を意味し、数値の前に“D”と記載しているものは、D硬度を意味する。
A硬度とは、JIS K7312のタイプAによるスプリング硬さ試験を23℃において実施した際の瞬時値を意味する。また、D硬度とは、JIS K7312のタイプDによるスプリング硬さ試験を23℃において実施した際の瞬時値を意味する。
【0070】
【表4】
【0071】
【表5】
【0072】
【表6】
【0073】
【表7】
【0074】
表5〜7に示すように、実施例の架橋発泡体は、比重及び硬度が同程度の比較例の架橋発泡体に比べて、A10の値が小さかった。
【符号の説明】
【0075】
1:靴、2:アッパー材、3:ミッドソール、4:アウターソール
図1
図2
図3