特許第6395393号(P6395393)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6395393
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】車両の運転支援装置
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/16 20060101AFI20180913BHJP
   B60R 21/00 20060101ALI20180913BHJP
   B60Q 1/00 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   G08G1/16 C
   B60R21/00 991
   B60Q1/00 G
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-25063(P2014-25063)
(22)【出願日】2014年2月13日
(65)【公開番号】特開2015-153057(P2015-153057A)
(43)【公開日】2015年8月24日
【審査請求日】2017年1月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081433
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 章夫
(72)【発明者】
【氏名】望月 清隆
(72)【発明者】
【氏名】山村 聡志
(72)【発明者】
【氏名】八木 隆之
【審査官】 鎌田 哲生
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−129718(JP,A)
【文献】 特開2007−122578(JP,A)
【文献】 特開2008−213595(JP,A)
【文献】 特開2010−195063(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00−99/00
B60Q 1/00
B60R 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の前方路面または自車両の前方ウインドウに車線ラインを模した支援パターンを投影する投影手段と、前記支援パターンの投影状態を制御するための運転支援制御手段とを備え、前記運転支援制御手段は、自車両が走行する道路の道路情報を検出する道路情報検出手段と、自車両の操舵方向を検出する走行状態検出手段と、前記道路情報と前記自車両の操舵方向に基づいて自車両の適正操舵方向を判定する適正判定手段と、前記適正判定手段の判定に基づいて前記投影する支援パターンを自車両の左右方向に移動させることが可能な投影制御手段とを備え、前記投影制御手段は、自車両の操舵方向が適正操舵方向のときには前記支援パターンを自車両の左右方向における所定位置に投影し、自車両の操舵方向と適正操舵方向とに差が生じたときに、自車両の操舵方向と反対方向に向けて前記支援パターンを移動することを特徴とする運転支援装置。
【請求項2】
前記投影制御手段は、自車両の操舵方向が前記適正操舵方向よりも右方向に向けられているときには前記支援パターンを左方向に移動させ、自車両の操舵方向が前記適正操舵方向よりも左方向に向けられているときには前記支援パターンを右方向に移動させる請求項1に記載の運転支援装置
【請求項3】
前記自車両の操舵方向と適正操舵方向との差が大きくなるほど前記支援パターンの移動する速度を速くする請求項1又は2に記載の運転支援装置。
【請求項4】
前記投影手段は自車両のランプと一体的に配設されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の運転支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車や自動二輪車等の車両における運転を支援するための装置に関し、特に運転者の視認領域に支援パターンを投影して運転者による適切な運転を可能にした運転支援装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の運転を支援するために、運転支援に有効な情報を含む画像を路面に投影描画し、運転者が当該画像を視認して運転を行うようにした技術が提案されている。特許文献1には、自車両が走行中の車線を検出し、この検出された車線に対して自車両が逸脱するか否かを判定し、逸脱するおそれがあるときに、車線逸脱の注意を喚起するための情報や画像を自車両の前方の路面上に投影して表示する技術が提案されている。また、特許文献2には、自車両が走行する道路情報と、自車両の車速等の走行情報とに基づいて自車両の好適な車速を認識し、自車両が減速することが好ましいと判断されたときに自車両の遠前方領域の視認性が低下するようにヘッドランプの配光を制御する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−26759号公報
【特許文献2】特開2011−207349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1,2の技術はいずれも自車両の安全走行を確保するために運転者に対して注意喚起を行い、あるいは運転者に警告を行うことを趣旨とするものである。そのため、運転者が自身の運転技術を過信しているような場合、特に運転者が自車両の前方領域を視認しながら自車両が安全走行を行っていると自認しているような場合には、これらの注意喚起や警告を素直に聞き入れることが多く、結果として自車両を危険な状態に落とし込むことになる。例えば、高速道路を走行する際に、前方にばかり注意が行っているため自車両の車速が制限速度を超えているのに気がつかず、減速操作が遅れたときに先行車に追突してしまうことがある。また、車線区分のある道路で、運転者は車線に沿って操舵を行っているつもりでも、車速が意図している車速よりも高速であったために、直後に車線を逸脱してしまうことがある。
【0005】
本発明の目的は、運転者が自車両の前方領域を視認した際に、敢えて運転者に錯覚を生じさせ、運転者がこれに対処する運転操作を行うようにさせることで、自車両の安全走行を確保するようにした車両の運転支援装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の運転支援装置は、自車両の前方路面または自車両の前方ウインドウに所定の支援パターンを投影する投影手段と、前記支援パターンの投影状態を制御するための運転支援制御手段とを備えており、前記運転支援制御手段は、自車両が走行する道路の道路情報を検出する道路情報検出手段と、自車両の車速、操舵方向の少なくとも1つを含む走行状態を検出する走行状態検出手段と、前記道路情報と走行状態とに基づいて自車両の適正車速、適正操舵を判定する適正判定手段と、前記適正判定手段の判定に基づいて前記支援パターンを動画として投影することが可能な投影制御手段とを備えることを特徴とする。ここでの動画とは自車両または自車両の乗員、特に運転者に対して相対的に投影位置が変化して移動する画像のことを意味している。画像の移動は連続的であっても断続的であってもかまわない。
【0007】
本発明において、前記投影制御手段は、支援パターンを自車両の左右方向に移動させる動画として投影するように前記投影手段を制御する。すなわち、投影制御手段は、自車両の操舵方向が適正操舵方向のときには車線を模した支援パターンを自車両の左右方向における所定位置に投影し、自車両の操舵方向と適正操舵方向とに差が生じたときに、自車両の操舵方向と反対方向に向けて当該支援パターンを移動する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、自車両が走行する道路の道路情報と、自車両の走行状態とに基づいて適正判定手段が自車両の走行状態の適正を判定し、この判定に基づいて投影制御手段が投影手段を制御し、自車両の前方路面または前方ウインドウに投影する支援パターンを前後方向または左右方向に移動させる動画として投影する。これにより当該支援パターンを視認する運転者が自車両の車速や操舵方向について錯覚を生じ、これに対処するための車速操作や操舵操作を行うことで安全走行を確保し、あるいは渋滞を未然に防止することが可能になる。
【0009】
本発明によれば、支援パターンを自車両の左右方向に移動する動画として投影することにより、運転者は自車両の操舵方向について錯覚を生じ、操舵方向を変化させる操作を実行し、自車両の適正な走行方向を確保して安全走行が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の運転支援装置を装備した自動車の概略外観斜視図。
図2】本発明の運転支援装置のブロック構成図。
図3】本発明の支援パターンの投影例の平面図。
図4】高速状態での適正車速制御での支援パターンの投影状態を示す平面図。
図5】低速状態での適正車速制御での支援パターンの投影状態を示す平面図。
図6】適正操舵制御での支援パターンの投影状態を示す平面図。
図7】適正操舵制御での異なる支援パターンの投影状態を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は本発明の運転支援装置を装備した自動車CARの概略外観斜視図である。自動車CARの左右のヘッドランプL−HL,R−HLのうち一方、ここでは右ヘッドランプR−HL内に本発明の投影手段としてのプロジェクタ1が内装されている。このプロジェクタ1は本発明の運転支援制御手段としての運転支援ECU(電子制御ユニット)2に接続されており、この運転支援ECU2での制御によって自動車CARの前方領域の路面に所要の支援パターンを投影することが可能とされている。
【0012】
図2は前記運転支援装置のブロック構成図であり、プロジェクタ1は前記右ヘッドランプR−HLのランプユニット11とは独立してランプハウジング10内に配設されており、当該ランプユニット11での点灯、非点灯の状態にかかわらず任意のタイミングで支援パターンの投影が可能とされている。このプロジェクタ1は既存のプロジェクタを利用することが可能であるので、ここでは詳細な説明は省略するが、夜間にかかわらず昼間時でも投影した支援パターンが運転者によって視認できる程度の光度で画像を投影することが可能に構成されている。
【0013】
前記運転支援ECU2には、自動車(以下、自車両と称することもある)CARのフロントガラスに臨む位置に配設されて自車両の前方領域を撮像する撮像カメラCAMと、自車両に装備されているナビゲーション装置NAVと、自車両が走行する道路に配設された各種道路設備との間でいわゆる路車間通信を行って道路情報を取得するための路車間通信装置TRが接続されている。また、自車両の車速を検出する車速センサーSvと、運転者が操作するハンドルの操舵角を検出する操舵角センサーSθが接続されている。
【0014】
前記運転支援ECU2は、前記撮像カメラCAMで撮像した前方領域の画像から、自車両が走行する道路の情報、特に坂道、トンネル、曲路または直線路等の道路情報と、当該道路に存在する道路標識や路面に描かれている車線ライン等の道路情報を検出する道路情報検出部21を備えている。また、この道路情報検出部21は、前記撮像カメラCAMで撮像した画像から、自車両の周囲に存在する他車、すなわち先行車や並走車さらには対向車を道路情報の一部として検出するようになっている。
【0015】
また、前記運転支援ECU2は、前記操舵角センサーSθの出力から自車両の操舵方向、すなわち進行方向を検出し、かつ前記車速センサーSvの出力から自車両の現在の車速を検出する等して、自車両の走行状態を検出する走行状態検出部22を備えている。
【0016】
さらに、前記運転支援ECU2は、前記道路情報検出部21で検出した道路情報と、前記走行状態検出部22で検出した自車両の走行状態とに基づいて自車両の適正な車速と適正な操舵方向を判定する適正車速判定部23と適正操舵判定部24を備えている。前者の適正車速判定部23は、道路情報検出部21で検出した道路情報に基づいて、自車両が走行する道路の適正車速を検出する。例えば、道路情報に含まれる道路標識やその他の情報から得た道路の制限速度、あるいは他車認識部で認識した先行車との車間距離、自車両が走行する道路が高速道路、坂道、トンネル、曲路等のいずれであるか、等から適正車速を検出する。その上で、この適正車速を走行状態検出部22で検出した自車両の車速と比較し、現在の自車両の車速が適正であるか否かを判定する。
【0017】
後者の適正操舵判定部24は、道路情報検出部21で検出した道路に描かれた車線ラインと、当該道路情報検出部21で検出した対向車や並走車と、走行状態検出部22で検出した自車両の操舵方向(走行方向)に基づいて、自車両の現在の走行方向が路面に描かれている車線ラインを左右に超えて自車両の車線を逸脱することなく並走車との接触や対向車との衝突を未然に回避することができる適正な操舵方向であるか否かを判定する。
【0018】
さらに、前記運転支援ECU2は、前記適正車速判定部23および前記適正操舵判定部24の判定結果に基づいて前記プロジェクタ1で投影する支援パターンを制御するための本発明の投影制御手段としてのプロジェクタ制御部25を備えている。このプロジェクタ制御部25は前記プロジェクタ1を制御することにより所定の支援パターンを静止画として、あるいは動画として投影することが可能に構成されている。ここで、静止画と動画は、自車両に対して、あるいは自車両の乗員、特に運転者に対する相対位置が静止した画像と相対位置が変化する画像を意味している。なお、相対値の変化は連続的変化であると断続的変化のいずれであってもよい。また、このプロジェクタ制御部25は、本発明の支援パターンとして、適正車速支援に適した支援パターンと適正操舵支援に適した支援パターンが投影可能とされている。
【0019】
図3はこれら支援パターンの一例を示す図であり、ここでは各支援パターンは自車両CARの前方領域の路面に配列状態に投影した複数の支援パターンとして構成される。適正車速支援に適した支援パターンの例としては、図3(a)のように、自車両CARが走行する車線領域の前後方向に沿って所要の間隔で配列された左右方向に延びる3本の横バー状のパターンP1である。あるいは、図3(b)のように進行方向に頂点を向けて配列された3つの三角パターンP2、また図3(c)のように進行方向に先端を向けて配列された3つの三角矢印パターンP3である。一方、適正操舵支援に適した支援パターンの例としては、図3(d)のように、自車両CARの前方領域の路面に車線ラインRLを模したように自車両の前方の左右両側位置において前後方向に延びる2本の縦バー状のパターンである。
【0020】
以上の運転支援装置による適正車速支援について説明する。運転者が車速支援を必要としたときには、運転支援ECU2を適正車速支援モードに設定する。これを受けて、運転支援ECU2は自車両CARの走行に伴って、図4(a)に示すように、自車両の前方路面にプロジェクタ1により適正車速支援に適した支援パターンP1を投影する。ここでは、図3(a)に示した横バー状の支援パターンP1を投影しており、この支援パターンP1は運転者の前方視界に入り、運転者によって視認される。
【0021】
運転支援ECU2は適正車速判定部23において、適正車速と現在の自車両の車速との車速差を演算し、この車速差から自車両の車速が適正車速であるか否か判定する。この判定に際しては、予め適正車速として所定の車速幅の許容範囲を設定しておき、前記車速差がこの許容範囲にあるときには適正車速状態であると判定し、車速差が許容範囲よりも高速度側にあるときには高速状態であると判定し、低速度側にあるときには低速状態であると判定する。
【0022】
この適正車速判定部23での判定結果に基づいてプロジェクタ制御部25はプロジェクタ1での支援パターンの投影を制御する。現在の自車両の車速が適正車速状態であると判定した場合には、自車両CARの前方の所定距離の位置に支援パターンを投影する。ここでは図4(a)に示したように支援パターンP1を投影しているが、自車両CARの前方の所定距離L1を最短距離とする位置に投影する。この所定距離L1は固定的に設定されている距離であり、したがって支援パターンP1は静止画として自車両の前方の路面に投影される。
【0023】
このように、支援パターンP1を自車両CARの車速状態に基づいて投影すると、適正車速状態のときには、支援パターンP1は自車両CARの前方の所定距離L1の位置に投影されるので、自車両CARの走行時には運転者は支援パターンP1が自車両の前方を自車両CARとともに移動しているように視認されるので、運転者に自車両CARの車速の錯覚を生じさせることはなく、運転者が認識している車速のまま自車両は走行されることになる。このときの車速は適正車速の許容範囲内であるので安全走行が確保されることは言うまでもない。
【0024】
一方、適正車速判定部23が高速状態であると判定した場合には、プロジェクタ制御部25は支援パターンP1の投影位置が時間の経過とともに徐々に自車両CARに近づいてくるように投影する。すなわち、図4(b),(c)に示すように、プロジェクタ制御部25は自車両CARの前方における前記した所定距離L1をL2,L3(L1>L2>L3)と徐々に短くする。換言すれば、運転者が視認したときに支援パターンP1が遠前方から自車両に向けて図示Mのように徐々に近づいてくる動画として投影する。このとき、例えば、3本の支援パターンP1のうち自車両CARの直前まで移動されてきた1本の支援パターンについては投影を停止し、新たに遠前方に別の1本の支援パターンを投影するように、すなわち3本の支援パターンP1が遠前方から直前まで継続して移動して来るように投影を行うことが好ましい。また、この支援パターンP1の移動速度は、現在の自車両CARの車速と適正車速との車速差の値に応じた移動速度とする。すなわち車速差の値が大きくなるほど支援パターンP1が自車両に近づいてくる際の移動速度を速くし、車速差の値が小さくなるほど移動速度を遅くする。
【0025】
このように、自車両CARの現在の車速が適正車速よりも高速の高速状態のときには、運転者は支援パターンP1が自車両CARの遠前方位置から直前位置まで移動しながら近づいてくるように視認されるため、運転者の感覚としては自車両CARが実際の車速よりも高速で走行しているような錯覚に陥ることになる。したがって、運転者は必然的にアクセルの踏み込みを止め、あるいはブレーキ操作を行って自車両を減速させる。車速差が大きいほど支援パターンP1が近づいて来る速度が速いため、運転者による減速操作はより迅速に行われる。このことは支援パターンP1が自車両に向けて移動している間は継続され、支援パターンP1の移動が停止されるまで行われるので、結果として自車両は適正車速となる。
【0026】
反対に、適正車速判定部23が低速状態であると判定した場合には、図5(a)の状態(これは図4(a)と同じである)から、図5(b),(c)に示すように、プロジェクタ制御部25は支援パターンP1の投影位置が時間の経過とともに遠くになるように、つまり自車両CARの前方の所定距離L1が所定距離L4,L5(L1<L4<L5)と徐々に大きくなるようにする。換言すれば、運転者が支援パターンP1を視認したときに、図示Mのように支援パターンP1が自車両CARの直前から徐々に遠前方に向けて離れて行くように支援パターンP1を動画として投影する。このとき、3本の支援パターンP1のうち、自車両の遠前方まで移動された1本の支援パターンは投影が停止され、新たに自車両の直前に別の1本の支援パターンを投影するように、すなわち支援パターンP1が自車両の直前から遠前方まで継続して移動して行くように投影を行うことが好ましい。この場合においても、支援パターンP1の移動速度は、現在の車速と適正車速との車速差の値に応じた移動速度とする。すなわち車速差の値が大きくなるほど支援パターンP1が遠ざかる際の移動速度を速くし、車速差の値が小さくなるほど移動速度を遅くする。
【0027】
このように、自車両CARの現在の車速が適正車速よりも低速の低速状態のときには、運転者は支援パターンP1が直前位置から遠前方位置まで離れて行くように移動することが視認されるため、運転者の感覚としては自車両CARが実際の車速よりも低速で走行しているような錯覚に陥り、必然的にブレーキ操作を止め、あるいはアクセル操作を行って自車両を加速させる。車速差が大きいほど支援パターンP1が遠前方に行く速度が速いため、運転者による加速操作はより迅速に行われる。このことは支援パターンP1が遠方に移動している間は継続され、支援パターンP1の移動が停止されるまで行われるので、結果として自車両は適正車速となる。
【0028】
以上のように、自車両CARが適正車速の許容範囲を超えた車速で走行している場合に支援パターンP1を動画として投影することで、運転者が錯覚を生じ、この錯覚に対処する操作を行うことで自車両CARを適正車速とすることができる。したがって、運転支援ECU2において、先行車との車間距離と車速との関係に基づいて支援パターンP1の投影を制御すれば、自車両CARの車速を先行者との間に適正な車間距離を保つ車速とすることができ、先行車に対する追突を未然に防止することができる。あるいは、トンネルや坂道の走行時に車速が低下したことを運転者が気がつかないときに、運転支援ECU2において車速を加速させるように支援パターンP1の投影を制御することで適正な車速にまで加速して自然渋滞や後続車による追突を未然に防止することができる。
【0029】
ここで、この適正車速支援については、支援パターンP1に限られるものではなく、図3(b),(c)に示した支援パターンP2,P3を採用してもよい。あるいは、図3には例示していない他のパターンで構成される支援パターンであってもよい。
【0030】
次に、適正操舵支援について説明する。運転者が運転支援ECU2を適正操舵支援モードに設定すると、運転支援ECU2はプロジェクタ1により自車両の前方路面に方向支援パターンを投影する。すなわち、運転支援ECU2は、適正操舵判定部24において、道路情報検出部21で検出した車線、対向車、並走車と、走行状態検出部22で検出した自車両の操舵方向(走行方向)に基づいて、自車両の現在の操舵方向では車線を逸脱することなく並走車との接触や対向車との衝突を未然に回避することができる方向であるか否かを判定する。車線を逸脱するおそれがないときには適正操舵判定部24は適正操舵であると判定し、車線を右側に超える操舵方向のときには右方向状態と判定し、車線を左側に超える操舵方向であるときには左方向状態と判定する。
【0031】
この適正操舵判定部24での判定結果に基づいてプロジェクタ制御部25は支援パターンの投影を制御する。ここでは図3(d)に示した支援パターンP4を自車両CARの前方の路面に投影する。現在の自車両の操舵方向が適正であると判定した場合には、図6(b)に示すように、自車両CARの前方の所定方向の位置に支援パターンP4を投影する。この所定方向の位置は予め設定している方向であり、ここでは2本の支援パターンP2は自車両CARに対して静止画として投影されており、自車両CARの左右に車線ラインRLが描かれている道路を走行している際には、左右の2本の支援パターンP4はこれら車線ラインRLに重なる位置に投影される。
【0032】
このように支援パターンP4を車線ラインRLと自車両CARの操舵角とに基づいて投影すると、適正操舵状態のときには、支援パターンP4は自車両CARの前方の車線ラインRLに重なる左右所定方向位置に静止画として投影されるので、運転者は支援パターンP4が車線ラインRLの一部として視認でき、運転者に自車両の操舵方向の錯覚を生じさせることはない。したがって、運転者が認識している操舵角のまま自車両は走行されることになり、車線を左右に逸脱することなく安全走行が確保される。
【0033】
適正操舵判定部24において自車両CARの操舵方向が左方向状態と判定した場合には、プロジェクタ制御部25は支援パターンP4を時間の経過とともに徐々に左から右に移動するように投影する。すなわち、図6(c)に示すように、運転者が前方を視認したときに支援パターンP4が車線ラインRLに対して側に移動しながらその変位寸法W2が徐々に大きくなるような動画として投影する。このように運転者において支援パターンP4が左側から右側に移動することが視認されると、運転者は左側の車線ラインRLが自車両CARに寄ってきたような感覚、すなわち自車両が実際の操舵方向よりも左方向に操舵されているような錯覚に陥り、この錯覚に基づいてこれに対処すべく必然的に右方向に操舵を操作して自車両CARの操舵方向を右方向に向けることになる。このことは支援パターンP4が左側から右側に移動されている間は継続され、支援パターンの移動が停止されるまで行われるので、結果として自車両は適正操舵となる。
【0034】
反対に、適正操舵判定部24において自車両CARの操舵方向が右方向状態であると判定した場合には、プロジェクタ制御部25は支援パターンP4を時間の経過とともに徐々に右から左に移動するように投影する。すなわち、図6(a)に示すように、運転者が前方を視認したときに支援パターンP4が車線ラインRLに対して側に移動されその変位寸法W1が徐々に大きくなるように動画として投影する。このように運転者において支援パターンP4が右側から左側に移動することが視認されると、運転者は右側の車線ラインRLが自車両CARに寄ってきたような感覚、すなわち自車両が実際の操舵方向よりも右方向に操舵されているように錯覚し、この錯覚に基づいてこれに対処すべく必然的に左方向に操舵を操作して自車両の走行方向を左方向に向けることになる。このことは支援パターンP4が右側から左側に移動されている間は継続され、支援パターンP4の移動が停止されるまで行われるので、結果として自車両は適正操舵となる。
【0035】
この形態においても、適正操舵方向と現在の操舵方向との操舵角の差の大きさに追従して前記した変位寸法W1,W2の変化速度を相違させることで、運転者による迅速な適正操舵の修正が可能になる。
【0036】
以上のように、自車両が車線を逸脱しない方向に操舵されているときには支援パターンを静止画として固定位置に投影することにより、その操舵状態を保持することに有効となる。また、自車両が車線を右または左に逸脱する方向に向けられているときには、支援パターンを左右に移動する動画として投影して運転者に錯覚を生じさせることで、逸脱方向と反対方向に操舵させることになる。これにより、車線を逸脱して対向車に衝突することが防止でき、あるいは並走車に接触することが防止でき、安全走行が確保される。
【0037】
以上の実施形態では、適正車速支援と適正操舵支援をそれぞれ独立して行うように構成した例を示したが、適正車速支援と適正操舵支援を同時に行うように構成してもよい。例えば、自車両の車速が適正車速よりも高速で、かつ操舵角が車線に対して右方向に向けられている場合には、支援パターンが右遠前方から自車の左直前に向けて近づいてくるように投影する。これにより、運転者は自車両が速度超過でかつ右側に車線を逸脱する方向に走行していると錯覚し対応した操作を行うことで安全走行を確保することが可能になる。車速が適正車速よりも高速で操舵が左方向に向けられている場合、あるいは車速が適正車速よりも低速で操舵が右方向または左方向に向けられている場合についても同様に適用することができる。このような運転支援の場合には、支援パターンP4を利用することが好ましいが、他の支援パターンP1〜P3を利用することも可能である。
【0038】
ここで実施形態ではプロジェクタ1を右ヘッドランプR−HLに一体的に配設しているが、左ヘッドランプL−HLに配設してもよい。また、自動車の前方領域の路面に支援パターンを投影することが可能であれば、フォグランプ等の他のランプに一体に設けてもよい。あるいは、ランプとは独立して車両に配設してしてもよい。
【0039】
さらに、本発明におけるプロジェクタはヘッドランプのランプユニットの一部として構成してもよい。すなわち、図3(a)〜(d)の破線は前記ランプユニット11で照明する配光領域を示しており、この配光の一部として支援パターンを投影するように構成してもよい。例えば、図示は省略するが、ランプユニットが高分解能LEDアレイで構成されている場合には、当該LEDアレイの一部の光度を他と異なる光度に制御することにより当該ランプユニットで照明する配光領域内に、それよりも高輝度あるいは低輝度の支援パターンを投影するようにする。そして、支援パターンを動画として移動させる際には、当該支援パターンを投影するためのLEDを切り換えるようにすればよい。このようにランプユニットをLEDアレイで構成した場合にはランプユニットの構造が複雑になることなく本発明が適用できるので、運転支援ECUの制御プログラムを変更するのみでよい。
【0040】
あるいは、図示は省略するが、光源光の一部を遮光することによって所要の配光を得るシェード遮光方式のランプユニットの場合には、当該照明光のさらに一部をサブシェード等によって部分的に減光して低輝度の支援パターンを投影する。このサブシェード等をランプユニットにおいて上下または左右に移動させることにより、支援パターンを当該ランプユニットによる配光における前後方向あるいは左右方向に移動させることができる。このシェード遮光方式のランプユニットの場合には、サブシェードを移動させる機構が必要になるためランプユニットの構造が幾分複雑になるが、独立したプロジェクタを配設する場合に比較してヘッドランプの小型化が実現できる。
【0041】
このように支援パターンをランプユニットの配光の一部として投影する場合には、夜間時にヘッドランプを点灯しているときには、支援が必要とされた場合にのみ当該ヘッドランプの配光中に支援パターンを投影するようにすればよい。また、昼間時のヘッドランプを点灯していないときには、支援が必要とされたときにヘッドランプを点灯し、同時に支援パターンを投影すればよい。
【0042】
この実施形態のように支援パターンをランプユニットの配光の一部として投影する場合には、支援パターンは自車両と一体のものとして認識され易いので、支援パターンを動画して投影する際の移動方向を前記実施形態とは反対方向に制御することが考えられる。例えば、図7(b)に示す支援パターンP5は、図3(d)に示した車線ラインを模したパターンとは異なり、自車両CARの直前領域の左右方向中央位置に投影される矢印パターンとして形成されている。この支援パターンP5を適正操舵支援に適用して投影したときには、運転者はこの支援パターンP5を視認しながらある程度の時間継続して走行すると、当該支援パターンP5は自車両CARとともに前方に向けて移動しているように視認されるため、この支援パターンP5は自車両CARと一体のものであると認識するようになる。
【0043】
そのため、図7(a)のように、運転支援ECU2によって当該支援パターンP5を中央位置から左側に移動させると、運転者は自車両CARが左方向に操舵されていると錯覚し、これを修正すべく右方向に操舵を行うことになる。したがって、運転支援ECU2は、自車両が車線ラインRLに対して左側に逸脱する方向を向いているときには、当該支援パターンP5を左右中央位置から自車両が向いている左方向に移動させるようにすることで、運転者は右方向に操舵を行い、車線からの逸脱が防止できる。反対に、自車両が車線ラインRLに対して右側に逸脱する方向を向いているときには、図7(c)のように支援パターンP5を左右中央位置から自車両CARが向いている右側に向けて移動させるようにすることで、運転者は左方向に操舵を行い、車線からの逸脱が防止できる。
【0044】
なお、このような支援パターンの投影による運転支援は、適正車速支援においても理論的には同様な制御が可能であると言えるが、適正車速支援では支援パターンを自車両の前後方向に移動させて投影するので、運転者に対して支援パターンを自車両の一部として認識させることは難しい。そのため、適正車速支援では図4,5に示したような実施形態で支援パターンを投影することが好ましい。
【0045】
ここで、前記したシェード遮光方式のランプユニットにおいて支援パターンを前後、左右に移動させるための構成として、ランプユニットを水平方向(配光における左右方向)に偏向するスイブル装置や、鉛直方向(配光における前後方向)に偏向するためのレベリング装置を利用してもよい。例えば、支援パターンを自車両の手前方向に向けて移動させる際には、レベリング装置によりランプユニットの光軸を高速で上下に繰り返し偏向するとともに、当該光軸を上方に向けて偏向するときには支援パターンを投影せず、下方に偏向するときに支援パターンを投影すればよい。支援パターンを遠方方向に向けて移動させる際には、これと逆にすればよい。支援パターンを左右に移動させる場合にはスイブル装置により同様な趣旨で行えばよい。
【0046】
本発明において適用される支援パターンは実施形態に記載したパターンに限られるものではなく、自車両の前方領域に投影し、かつ前後方向あるいは左右方向に移動する動画として投影したときに運転者が自車両の車速や操舵方向を錯覚することが可能なパターンであれば適用できる。また、支援パターンは自車両の前方路面に限られず、自車両の乗員、特に運転者が視認可能であれば自車両の前方ウインドウ(ヘッドアップディスプレイ)に支援パターンを投影するように構成してもよい。さらに、本発明は二輪車への適用も可能である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は自動車等の運転者が自車両の前方領域の路面を視認しながら、あるいは前方ウインドウを透して前方領域を視認しながら操舵操作、車速操作を行って走行する車両に採用することが可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 プロジェクタ(投影手段)
2 運転支援ECU(運転支援制御手段)
21 道路情報検出部(道路情報検出手段)
22 走行状態検出部(走行状態検出手段)
23 適正車速判定部(適正判定手段)
24 適正操舵判定部(適正判定手段)
25 プロジェクタ制御部(投影制御手段)
CAR 自動車(自車両)
CAM 撮像カメラ
NAV ナビゲーション装置
TR 路車間通信装置
Sv 車速センサー
Sθ 操舵センサー

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7