特許第6395495号(P6395495)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ サンアロマー株式会社の特許一覧

特許6395495ポリプロピレン組成物から得られるフィルムまたはシート
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6395495
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】ポリプロピレン組成物から得られるフィルムまたはシート
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20180913BHJP
   B29C 55/12 20060101ALI20180913BHJP
   C08L 23/14 20060101ALI20180913BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20180913BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20180913BHJP
   C08F 4/654 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   C08J5/18CES
   B29C55/12
   C08L23/14
   C08L23/08
   C08K5/00
   C08F4/654
【請求項の数】9
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-163416(P2014-163416)
(22)【出願日】2014年8月11日
(65)【公開番号】特開2016-37586(P2016-37586A)
(43)【公開日】2016年3月22日
【審査請求日】2017年8月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】597021842
【氏名又は名称】サンアロマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 美奈子
(74)【代理人】
【識別番号】100108899
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 謙
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】栗山 稔
(72)【発明者】
【氏名】別府 隆幸
(72)【発明者】
【氏名】中島 武
【審査官】 久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−278950(JP,A)
【文献】 特表2010−510366(JP,A)
【文献】 特開昭63−153116(JP,A)
【文献】 特表2017−505845(JP,A)
【文献】 特開2012−126829(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00−5/02、5/12−5/22
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
C08C 19/00−19/44
C08F 6/00−246/00、301/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(1)1.0〜5.0重量%のエチレンまたは1種類以上のC4〜C10−α−オレフィンを含むプロピレンの共重合体70〜97重量%;
成分(2)エチレン重合体、およびエチレンと1種類以上のC3〜C10−α−オレフィンとの共重合体からなる群から選択されるエチレン(共)重合体3〜30重量%;および
成分(3)核剤を含み、
メルトマスフローレト(230℃、荷重21.18N)が1.0〜10g/10分、
XSIV(キシレン可溶分の固有粘度)が0.5〜2.0dl/gであるポリプロピレン組成物を、
温度Ts(℃)で二軸延伸する工程を含む方法により得たシートまたはフィルムであって、
前記ポリプロピレン組成物の示差走査熱量計(DSC)でのセカンドスキャンにおいて、成分(1)または(2)由来の最高温側の融点のピークトップ温度をTm(℃)とするとき、
0≦Ts−Tm≦10を満たす、
シートまたはフィルム。
【請求項2】
前記二軸延伸後の成形体の表面状態を維持したまま冷却する工程をさらに含む方法により得た、請求項1記載のシートまたはフィルム。
【請求項3】
前記成分(1)と(2)の合計100重量部に対して、前記核剤を0.05〜1.0重量部含む、請求項1または2記載のシートまたはフィルム。
【請求項4】
前記ポリプロピレン組成物が、成分(1)の原料であるプロピレンとエチレンまたはC4〜C10−α−オレフィン、および成分(2)の原料であるエチレン、またはエチレンとC3〜C10−α−オレフィンとを、2つ以上の反応器を用いて、
(A)マグネシウム、チタン、ハロゲン、および電子供与体化合物としてのジカルボン酸ジエステルを含有する固体触媒、
(B)有機アルミニウム化合物、ならびに
(C)外部電子供与体化合物
を含む触媒を用いて重合する工程を含む方法で製造された組成物である、請求項1〜3のいずれかに記載のシートまたはフィルム。
【請求項5】
前記成分(2)が、エチレンと1種類以上のC4〜C10−α−オレフィンとの共重合体である請求項1〜4のいずれかに記載のシートまたはフィルム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のシートまたはフィルムからなる層を有する成形体。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載のシートまたはフィルムを成形してなる二次成形体。
【請求項8】
成分(1)1.0〜5.0重量%のエチレンまたは1種類以上のC4〜C10−α−オレフィンを含むプロピレンの共重合体70〜97重量%;
成分(2)エチレン重合体、およびエチレンと1種類以上のC3〜C10−α−オレフィンとの共重合体からなる群から選択されるエチレン(共)重合体3〜30重量%;および
成分(3)核剤を含み、
メルトマスフローレト(230℃、荷重21.18N)が1.0〜10g/10分、
XSIV(キシレン可溶分の固有粘度)が0.5〜2.0dl/gであるポリプロピレン組成物を準備する工程、
前記ポリプロピレン組成物を温度Ts(℃)で二軸延伸する工程
を含み、
前記ポリプロピレン組成物のDSCでのセカンドスキャンにおいて成分(1)または(2)由来の最高温側の融点のピークトップ温度をTm(℃)とするとき、
0≦Ts−Tm≦10を満たす、
シートまたはフィルムの製造方法。
【請求項9】
前記二軸延伸後の成形体の表面状態を維持したまま冷却する工程をさらに含む、請求項8に記載のシートまたはフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリプロピレン組成物から得られるフィルムまたはシートに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンは、優れた物理的特性を有しかつ衛生面にも優れているため食品容器として有用である。例えば、ポリプロピレンに核剤を混合してシートを得て、これを真空成形して食品容器を製造することが提案されている(特許文献1〜5)。しかし、このようにして得たポリプロピレン容器は低温で使用する場合に耐衝撃性が低下するという問題があった。これを改善するために、例えばエチレン系コポリマーをポリプロピレンに添加することが提案されている(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−334823号
【特許文献2】特開昭59−171625号
【特許文献3】特開2006−193539号
【特許文献4】特開平7−286007号
【特許文献5】特開平10−292074号
【特許文献6】特表2011−513528号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者らは、特許文献に記載された技術について予備的に検討したところ、エチレン系コポリマーを添加すると透明性が低下するので、従来のポリプロピレン系シートは満足の行く透明性および耐寒衝撃性を有していないという知見を得た。かかる事情を鑑み、本発明は、透明性および耐寒衝撃性に優れた、ポリプロピレン組成物から得られるシートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者らは、特定のポリプロピレン組成物を特定の温度条件で二軸延伸することにより、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。すなわち、前記課題は以下の本発明により解決される。
[1]成分(1)1.0〜5.0重量%のエチレンまたは1種類以上のC4〜C10−α−オレフィンを含むプロピレンの共重合体70〜97重量%;
成分(2)エチレン重合体、およびエチレンと1種類以上のC3〜C10−α−オレフィンとの共重合体からなる群から選択されるエチレン(共)重合体3〜30重量%;および
成分(3)核剤を含み、メルトマスフローレト(230℃、荷重21.18N)が1.0〜10g/10分、
XSIV(キシレン可溶分の固有粘度)が0.5〜2.0dl/gであるポリプロピレン組成物を、
温度Ts(℃)で二軸延伸する工程を含む方法により得たシートまたはフィルムであって、
前記ポリプロピレン組成物の示差走査熱量計(DSC)でのセカンドスキャンにおいて、成分(1)または(2)由来の最高温側の融点のピークトップ温度をTm(℃)とするとき、
0≦Ts−Tm≦10を満たす、
シートまたはフィルム。
[2]前記二軸延伸後の成形体の表面状態を維持したまま冷却する工程をさらに含む方法により得た、[1]記載のシートまたはフィルム
[3]前記成分(1)と(2)の合計100重量部に対して、前記核剤を0.05〜1.0重量部含む、[1]または[2]記載のシートまたはフィルム
[4]前記ポリプロピレン組成物が、成分(1)の原料であるプロピレンとエチレンまたはC4〜C10−α−オレフィン、および成分(2)の原料であるエチレン、またはエチレンとC3〜C10−α−オレフィンとを、2つ以上の反応器を用いて、
(A)マグネシウム、チタン、ハロゲン、および電子供与体化合物としてのジカルボン酸ジエステルを含有する固体触媒、
(B)有機アルミニウム化合物、ならびに
(C)外部電子供与体化合物
を含む触媒を用いて重合する工程を含む方法で製造された組成物である、[1]〜[3]のいずれかに記載のシートまたはフィルム。
[5]前記成分(2)が、エチレンと1種類以上のC4〜C10−α−オレフィンとの共重合体である[1]〜[4]のいずれかに記載のシートまたはフィルム。
[6]前記[1]〜[5]のいずれかに記載のシートまたはフィルムからなる層を有する成形体。
[7]前記[1]〜[5]のいずれかに記載のシートまたはフィルムを成形してなる二次成形体。
[8]成分(1)1.0〜5.0重量%のエチレンまたは1種類以上のC4〜C10−α−オレフィンを含むプロピレンの共重合体70〜97重量%;
成分(2)エチレン重合体、およびエチレンと1種類以上のC3〜C10−α−オレフィンとの共重合体からなる群から選択されるエチレン(共)重合体3〜30重量%;および
成分(3)核剤を含み、
メルトマスフローレト(230℃、荷重21.18N)が1.0〜10g/10分、
XSIV(キシレン可溶分の固有粘度)が0.5〜2.0dl/gであるポリプロピレン組成物を準備する工程、
前記ポリプロピレン組成物を温度Ts(℃)で二軸延伸する工程
を含み、
前記ポリプロピレン組成物のDSCでのセカンドスキャンにおいて成分(1)または(2)由来の最高温側の融点のピークトップ温度をTm(℃)とするとき、
0≦Ts−Tm≦10を満たす、
シートまたはフィルムの製造方法。
[9]前記二軸延伸後の成形体の表面状態を維持したまま冷却する工程をさらに含む、[8]に記載のシートまたはフィルムの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明において、シートとは厚みが200μm以上の部材であり、フィルムとは厚みが200μm未満の部材をいう。本発明のシートは特定のポリプロピレン組成物を特定の温度で二軸延伸して得られる。以下、本発明を詳細に説明する。本発明において「X〜Y」は、両端の値すなわちXとYとを含む。
【0007】
1.ポリプロピレン組成物
本発明で使用するポリプロピレン組成物は、(1)1.0〜5.0重量%のエチレンまたは1種類以上のC4〜C10−α−オレフィンを含むプロピレンの共重合体70〜97重量%、(2)エチレン重合体、およびエチレンと1種類以上のC3〜C10−α−オレフィンとの共重合体から選択されるエチレン(共)重合体3〜30重量%、および(3)核剤を含む。1.0重量%のエチレンを含むプロピレンの共重合体とは、エチレン由来のユニットとプロピレン由来のユニットとの重量比が1.0:99.0である共重合体である。他の共重合体についても同様である。
【0008】
(1)プロピレンの共重合体
プロピレンの共重合体は、ポリプロピレンと、エチレンまたはC4〜C10−α−オレフィン(以下「コモノマー」ともいう)を含む。コノモマーの含有量は1.0〜5.0重量%である。コモノマー含有量が下限値未満であると、得られるシート等の透明性が低下する。一方、コモノマー含有量が上限値を超えると、剛性と延伸加工性が低下する。これらの観点からコモノマー含有量は1.5〜3.5重量%がより好ましい。また、コモノマーとしては、入手容易性等からエチレンまたはC4〜C6−α−オレフィンが好ましく、エチレンがより好ましい。
【0009】
(2)エチレン(共)重合体
エチレン(共)重合体におけるエチレンの含有量は限定されないが、50〜100重量%が好ましい。エチレンの含有量が100重量%であるとき、エチレン(共)重合体はエチレン単独重合体である。特に、エチレン共重合体である場合、エチレンの含有量は50〜99重量%がより好ましく、70〜90重量%がより好ましい。C3〜C10−α−オレフィンとしては、入手容易性等からC3−α−オレフィンまたはC4−α−オレフィンが好ましい。
【0010】
(3)核剤
本発明に用いる核剤とは、樹脂中の結晶成分のサイズを小さく制御して透明性を高めるために用いられる添加剤である。核剤は特に限定されず、当該分野で通常使用されるものを使用してよいが、ノニトール系核剤、ソルビトール系核剤、リン酸エステル系核剤、トリアミノベンゼン誘導体核剤、カルボン酸金属塩核剤、およびキシリトール系核剤から選択されることが好ましい。ノニトール系核剤として、例えば、1,2,3―トリデオキシ−4,6:5,7−ビス−[(4−プロピルフェニル)メチレン]−ノニトールが挙げられる。
【0011】
キシリトール系核剤として、例えば、ビス−1,3:2,4−(5’,6’,7’,8’−テトラヒドロ−2−ナフトアルデヒドベンジリデン)1−アリルキシリトール、ビス−1,3:2,4−(3’,4’−ジメチルベンジリデン)1−プロピルキシリトールが挙げられる。
【0012】
ソルビトール系核剤として、例えば、ビス−1,3:2,4−(4’−エチルベンジリデン)1−アリルソルビトール、ビス−1,3:2,4−(3’−メチル−4’−フルオロ−ベンジリデン)1−プロピルソルビトール、ビス−1,3:2,4−(3’,4’−ジメチルベンジリデン)1’−メチル−2’−プロペニルソルビトール、ビス−1,3,2,4−ジベンジリデン2’,3’−ジブロモプロピルソルビトール、ビス−1,3,2,4−ジベンジリデン2’−ブロモ−3’−ヒドロキシプロピルソルビトール、ビス−1,3:2,4−(3’−ブロモ−4’−エチルベンジリデン)−1−アリルソルビトール、モノ2,4−(3’−ブロモ−4’−エチルベンジリデン)−1−アリルソルビトール、ビス−1,3:2,4−(4’−エチルベンジリデン)1−アリルソルビトール、ビス−1,3:2,4−(3’,4’−ジメチルベンジリデン)1−メチルソルビトール、ビス(p−メチルベンジリデン)ソルビトール、1,3:2,4−ビス−o−(4−メチルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−o−(ベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−o−(3,4−ジメチルベンジリデン)−D−ソルビトール等が挙げられる。
【0013】
このうち、市販の核剤としては、ノニトール系では例えば1,2,3―トリデオキシ−4,6:5,7−ビス−[(4−プロピルフェニル)メチレン]−ノニトールを含むMillad NX8000、NX8000K、NX8000J(以上ミリケンジャパン株式会社製)、ソルビトール系ではRiKAFAST R−1(新日本理化株式会社製)、Millad 3988(ミリケンジャパン株式会社製)、ゲルオールE−200(新日本理化株式会社製)、ゲルオールMD(新日本理化株式会社製)等が挙げられる。
【0014】
リン酸エステル系核剤として、アルミニウム−ビス(4,4’,6,6’−テトラ−tert−ブチル−2,2’−メチレンジフェニル−ホスファート)−ヒドロキシド、リン酸−2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)リチウム塩系化合物等が挙げられる。市販のリン酸エステル系核剤として、例えばアデカスタブNA−21(株式会社ADEKA製)、アデカスタブNA−71(株式会社ADEKA製)などが挙げられる。
【0015】
トリアミノベンゼン誘導体核剤として、例えば、1,3,5−トリス(2,2−ジメチルプロパンアミド)ベンゼン等が挙げられる。市販のトリアミノベンゼン誘導体核剤として、例えばIRGACLEAR XT386(BASFジャパン株式会社製)などが挙げられる。
【0016】
カルボン酸金属塩核剤として、1,2−シクロヘキサンジカルボキシル酸カルシウム塩等が挙げられる。市販のカルボン酸金属塩核剤として、例えばHyperform HPN−20E(ミリケンジャパン株式会社製)などが挙げられる。特に加熱することを含む二次成形後の透明性を維持するためには、ノニトール系核剤またはソルビトール系核剤の使用が好ましい。ここで二次成形とは、一次成形品であるフィルムやシートにコンプレッション成形や真空成形等を施して別の形状を持った成形品に加工したり、フィルムやシート同士を融着させて接合したりすることであり、得られた成形体を二次成形体と呼ぶ。
【0017】
(4)配合比
成分(1)と(2)の配合比は、重量比で(1):(2)=70〜97:3〜30である。成分(2)の量が、この上限を超えると得られるシート等の剛性が低下し、下限未満であると得られるシート等の耐寒衝撃性が低下する。この観点から、成分(1)と(2)の配合比は、好ましくは、80〜96:4〜20である。
【0018】
核剤の配合量は、成分(1)と(2)の合計100重量部に対して、0.05〜1.0重量部が好ましい。核剤の量が、この上限を超えるとコストが嵩み、この下限未満であると得られるシート等の透明性が低下することがある。この観点から、核剤の配合比は、成分(1)と(2)の合計100重量部に対して、より好ましくは0.1〜1.0、さらに好ましくは0.2〜0.7重量部である。
【0019】
(5)特性
1)メルトマスフローレ
ポリプロピレン組成物の230℃、荷重21.18Nにおけるメルトマスフローレト(以下「MFR」ともいう)は1.0〜10g/10分である。メルトマスフローレトの値が、この上限値を超えると加工時の耐ドローダウン性が低下し、下限値未満であると加工時のトルクが上昇する。この観点から、メルトマスフローレトは好ましくは1.5〜7.0g/10分である。
【0020】
2)XSIV
XSIVはポリプロピレン組成物のキシレン可溶分の固有粘度であり、当該組成物における結晶性を持たない成分の分子量の指標でもある。XSIVは25℃のキシレンに可溶な成分を得て、当該成分の固有粘度を定法にて測定することで求められる。本発明においてXSIVは0.5〜2.0dl/gである。XSIVが2.0dl/gを超えると得られるシート等の透明性が低下する。XSIVが0.5dl/g未満であると製造が困難となる。
【0021】
(6)他の成分
さらに本発明のポリプロピレン樹脂組成物には、酸化防止剤、塩酸吸収剤、耐熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、内部滑剤、外部滑剤、帯電防止剤、難燃剤、分散剤、銅害防止剤、中和剤、可塑剤、気泡防止剤、架橋剤、過酸化物、油展および他の有機および無機顔料などのオレフィン重合体に通常用いられる慣用の添加剤を添加してもよい。
【0022】
2.二軸延伸
本発明の二軸延伸シートまたはフィルムは、上記ポリプロピレン組成物からなる層を少なくとも1層有する。二軸延伸シートまたはフィルムが、上記ポリプロピレン組成物以外の層を有する場合、その他の層は特に限定されないが、プロピレンの単独重合体、ランダム共重合体、ブロック共重合体、または、これらのいずれかの重合体を主成分とし、ポリプロピレン以外の樹脂を含有する組成物などが挙げられる。
【0023】
本発明の二軸延伸シートまたはフィルムは、上記ポリプロピレン組成物から予めシート(予備シート)を作製し、当該予備シートの幅方向および流れ方向に延伸することによって得ることが好ましい。幅方向および流れ方向への延伸は、同時であってもよく、後述するように時間差を付けて行ってもよい。通常の二軸延伸ポリプロピレンフィルムの製造方法は、まず、ポリプロピレン組成物を押出機で溶融した後、Tダイよりシート状に押出成形して予備シートを調製し、これを冷却ロールで冷却固化する。次いで、得られたシートを多数の加熱ロールに通して縦方向に延伸する(縦延伸)。続いて、予熱部、延伸部および熱処理部から構成された加熱炉に通して横方向に延伸する(横延伸)。二次成形の手法としても用いられるコンプレッション成形や真空成形等では、予め得られた予備シートを二軸延伸することにより、目的の厚みや形状に賦形する。本発明のシート等が上記ポリプロピレン組成物以外の層を有する場合は、上記ポリプロピレン組成物の層とこれ以外の層が積層された予備シートを調製し、これを上記のように延伸することで、本発明の二軸延伸シート等を製造できる。
【0024】
本発明の二軸延伸シートまたはフィルムは、カレンダー成形やインフレーション成形の様に、ポリプロピレン組成物を押出機で溶融した後、ダイより押出された溶融樹脂が固化する段階で二軸延伸して得ることも可能である。
【0025】
本発明においては、ポリプロピレン組成物を特定の温度Tsで二軸延伸する工程を含む方法によりシートまたはフィルムを得る。上記縦延伸と横延伸の様に二軸延伸する工程が複数の段階から構成される場合は、少なくとも最も後の段階においてTsで延伸する。当該温度Tsは示差走査熱量計(DSC)により決定される。具体的にTsは、前記組成物を、DSCを用いてセカンドスキャンして、成分(1)および(2)由来の融点を得て、これらにより以下のように決定される。
【0026】
セカンドスキャンとは、DSCを用いてポリプロピレン組成物を、融解後、結晶化し、室温で5分間保持した後に、DSCを用いて熱分析することをいう。具体的には、1)ポリプロピレン組成物を融解温度(230℃)まで加熱し、当該温度で5分保持し、10℃/分の降温速度で30℃まで冷却して5分間保持した後、2)10℃/分の昇温速度で230℃まで加熱して熱分析を行う。
【0027】
本発明のポリプロピレン組成物は、当該熱分析によって成分(1)または(2)に由来する融点ピークが得られることが必要である。前記ポリプロピレン組成物のDSCでのセカンドスキャンにおいて成分(1)または(2)由来の最高温側の融点のピークトップ温度をTm(℃)とするとき、Tsは0≦Ts−Tm≦10を満足するように決定される。成分(1)または(2)、あるいは双方が複数のピークを有する場合は、その中で最も高温側にあるピークトップ温度がTmである。
【0028】
前記Tsの温度範囲は、ポリプロピレン組成物の成分(1)と(2)に由来する結晶の大部分が共に融解している状態であってかつシート形状を維持できる状態である。したがって、二軸延伸時の温度が前記上限を超えると二軸延伸が困難となり、前記下限未満となると得られるシート等の透明性が低下する。最終的に得られるシート等の透明性の悪化は、延伸時に成分(1)または(2)の一方に高融点の結晶を含む未溶融成分が多く存在すると、未溶融成分に対して融解している成分が陥没した状態で延伸される結果、表面に凹凸が生じるためと思われる。本発明では、ポリプロピレン組成物を前記Tsで延伸するため透明性に優れたシート等を得られると考えられる。ただしこの理論に限定されない。Ts−Tmの下限は0以上であるが、2以上が好ましく、3以上がより好ましい。またTs−Tmの上限は10以下であるが、9以下がより好ましい。
【0029】
3.冷却
前記の温度範囲で二軸延伸して得られた成形体は、成分(1)と(2)がいずれも融解状態で延伸された結果、表面が平滑で高い透明性を有する。本工程ではこの平滑な表面状態を維持したまま冷却し、シート等の透明性を維持することが好ましい。サイズの大きな結晶は表面荒れの要因となるので、平滑性を維持するため、二軸延伸後の冷却時に生じる結晶が、成長しない温度に冷却することが好ましい。その具体的な値は限定されないが、冷却温度は80℃以下が好ましく、50℃以下がより好ましい。冷却の方法は特に限定されず、例えば、二軸延伸して得られた成形体を水冷または空冷することができる。さらに二軸延伸して得られた成形体を80℃超かつTm以下の温度、例えば100〜140℃の温度で一旦保持してから冷却してもよい。しかし、作業効率や透明性等の観点からは、この様な工程は設けないことが好ましい。
【0030】
4.ポリプロピレン組成物の製造方法
ポリプロピレン組成物は任意の方法で製造してよいが、本発明においては(A)マグネシウム、チタン、ハロゲン、および電子供与体化合物としてのジカルボン酸ジエステルを含有する固体触媒、(B)有機アルミニウム化合物、ならびに(C)外部電子供与体化合物を含む触媒を用いて製造することが好ましい。
【0031】
(1)成分(A):固体触媒
成分(A)は、公知の方法、例えばマグネシウム化合物とチタン化合物と電子供与体化合物を相互接触させることにより調製できる。
【0032】
成分(A)の調製に用いられるチタン化合物として、一般式:Ti(OR)4−gで表される4価のチタン化合物が好適である。式中、Rは炭化水素基、Xはハロゲン、0≦g≦4である。チタン化合物として、より具体的にはTiCl、TiBr、TiIなどのテトラハロゲン化チタン;Ti(OCH)Cl、Ti(OC)Cl、Ti(O−C)Cl、Ti(OC)Br、Ti(OisoC)Brなどのトリハロゲン化アルコキシチタン;Ti(OCHCl、Ti(OCCl、Ti(O−CCl、Ti(OCBrなどのジハロゲン化アルコキシチタン;Ti(OCHCl、Ti(OCCl、Ti(O−CCl、Ti(OCBrなどのモノハロゲン化トリアルコキシチタン;Ti(OCH、Ti(OC、Ti(O−Cなどのテトラアルコキシチタンなどが挙げられる。これらの中で好ましいものはハロゲン含有チタン化合物、特にテトラハロゲン化チタンであり、より特に好ましいものは、四塩化チタンである。
【0033】
成分(A)の調製に用いられるマグネシウム化合物としては、マグネシウム−炭素結合やマグネシウム−水素結合を有するマグネシウム化合物、例えばジメチルマグネシウム、ジエチルマグネシウム、ジプロピルマグネシウム、ジブチルマグネシウム、ジアミルマグネシウム、ジヘキシルマグネシウム、ジデシルマグネシウム、エチル塩化マグネシウム、プロピル塩化マグネシウム、ブチル塩化マグネシウム、ヘキシル塩化マグネシウム、アミル塩化マグネシウム、ブチルエトキシマグネシウム、エチルブチルマグネシウム、ブチルマグネシウムハイドライドなどが挙げられる。これらのマグネシウム化合物は、例えば有機アルミニウム等との錯化合物の形で用いることもでき、また、液状であっても固体状であってもよい。さらに好適なマグネシウム化合物として、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、沃化マグネシウム、弗化マグネシウムのようなハロゲン化マグネシウム;メトキシ塩化マグネシウム、エトキシ塩化マグネシウム、イソプロポキシ塩化マグネシウム、ブトキシ塩化マグネシウム、オクトキシ塩化マグネシウムのようなアルコキシマグネシウムハライド;フェノキシ塩化マグネシウム、メチルフェノキシ塩化マグネシウムのようなアリロキシマグネシウムハライド;エトキシマグネシウム、イソプロポキシマグネシウム、ブトキシマグネシウム、n−オクトキシマグネシウム、2−エチルヘキソキシマグネシウムのようなアルコキシマグネシウム;フェノキシマグネシウム、ジメチルフェノキシマグネシウムのようなアリロキシマグネシウム;ラウリン酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウムのようなマグネシウムのカルボン酸塩などを挙げることができる。
【0034】
成分(A)の調製に用いられる電子供与体化合物は、一般には「内部電子供与体」と称される。本発明において電子供与体化合物はジカルボン酸ジエステルが好ましい。
【0035】
ジカルボン酸とは2つのカルボキシル基を有する化合物である。ジカルボン酸ジエステルの中でコハク酸、置換コハク酸、フタル酸、マレイン酸、置換マロン酸のジエステルがより好ましく、フタル酸ジエステル等の芳香族ジカルボン酸ジエステルが特に好ましい。エステルの原料となるアルコールは炭素数2以上のアルコールが好ましい。
【0036】
(2)成分(B):有機アルミニウム化合物
成分(B)の有機アルミニウム化合物としては以下が挙げられる。
トリエチルアルミニウム、トリブチルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム;
トリイソプレニルアルミニウムのようなトリアルケニルアルミニウム:
ジエチルアルミニウムエトキシド、ジブチルアルミニウムブトキシドなどのジアルキルアルミニウムアルコキシド;
エチルアルミニウムセスキエトキシド、ブチルアルミニウムセスキブトキシドなどのアルキルアルミニウムセスキアルコキシド;
【0037】
エチルアルミニウムジクロリド、プロピルアルミニウムジクロリド、ブチルアルミニウムジブロミドなどのようなアルキルアルミニウムジハロゲニドなどの部分的にハロゲン化されたアルキルアルミニウム;
ジエチルアルミニウムヒドリド、ジブチルアルミニウムヒドリドなどのジアルキルアルミニウムヒドリド;
エチルアルミニウムジヒドリド、プロピルアルミニウムジヒドリドなどのアルキルアルミニウムジヒドリドなどの部分的に水素化されたアルキルアルミニウム;
エチルアルミニウムエトキシクロリド、ブチルアルミニウムブトキシクロリド、エチルアルミニウムエトキシブロミドなどの部分的にアルコキシ化およびハロゲン化されたアルキルアルミニウム。
【0038】
(3)成分(C):電子供与体化合物
成分(C)の電子供与体化合物は、一般に「外部電子供与体」と称される。このような電子供与体化合物としては有機ケイ素化合物が好ましい。好ましい有機ケイ素化合物として以下が挙げられる。
【0039】
トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、t−ブチルメチルジメトキシシラン、t−ブチルメチルジエトキシシラン、t−アミルメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ビスo−トリルジメトキシシラン、ビスm−トリルジメトキシシラン、ビスp−トリルジメトキシシラン、ビスp−トリルジエトキシシラン、ビスエチルフェニルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、ジシクロヘキシルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、γ−クロルプロピルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、t−ブチルトリエトキシシラン、テキシルトリメトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、iso−ブチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、クロルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、2−ノルボルナントリメトキシシラン、2−ノルボルナントリエトキシシラン、2−ノルボルナンメチルジメトキシシラン、ケイ酸エチル、ケイ酸ブチル、トリメチルフエノキシシラン、メチルトリアリルオキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシシラン)、ビニルトリアセトキシシラン、ジメチルテトラエトキシジシロキサン。
【0040】
中でも、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、t−ブチルトリエトキシシラン、t−ブチルメチルジメトキシシラン、t−ブチルメチルジエトキシシラン、t−ブチルエチルジメトキシシラン、t−ブチルプロピルジメトキシシラン、t−ブチルt−ブトキシジメトキシシラン、t−ブチルトリメトキシシラン、i−ブチルトリメトキシシラン、イソブチルメチルジメトキシシラン、i−ブチルセク−ブチルジメトキシシラン、エチル(パーヒドロイソキノリン2−イル)ジメトキシシラン、ビス(デカヒドロイソキノリン−2−イル)ジメトキシシラン、トリ(イソプロペニロキシ)フェニルシラン、テキシルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、ジイソブチルジメトキシシラン、i−ブチルi−プロピルジメトキシシラン、シクロペンチルt−ブトキシジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、シクロヘキシルi−ブチルジメトキシシラン、シクロペンチルi−ブチルジメトキシシラン、シクロペンチルイソプロピルジメトキシシラン、ジ−sec−ブチルジメトキシシラン、ジエチルアミノトリエトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、フェニルトリエトキシラン、ビスp−トリルジメトキシシラン、p−トリルメチルジメトキシシラン、ジシクロヘキシルジメトキシシラン、シクロヘキシルエチルジメトキシシラン、2−ノルボルナントリエトキシシラン、2−ノルボルナンメチルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチル(3、3、3−トリフルオロプロピル)ジメトキシシラン、ケイ酸エチルなどが好ましい。
【0041】
(4)重合
成分(1)の原料であるプロピレンとエチレンまたはC4〜C10−α−オレフィン、および成分(2)の原料であるエチレンとC3〜C10−α−オレフィンとを、2つ以上の反応器を用いて重合してポリプロピレン組成物を製造することが好ましい。
【0042】
重合は、液相中、気相中または液−気相中で実施してよい。重合圧力は、液相中で行われる場合には好ましくは33〜45barの範囲であり、気相中で行われる場合には5〜30barの範囲である。連鎖移動剤(たとえば、水素又はZnEt)などの当該分野で公知の慣用の分子量調節剤を用いてもよい。
【0043】
また、本発明のポリプロピレン組成物を得る方法として、モノマー濃度や重合条件の勾配を有する重合器を用いて行う方法が挙げられる。このような重合器では、例えば、少なくとも2つの重合領域が接続されたものを使用し、気相重合でモノマーを重合することができる。具体的には、触媒の存在下、上昇管からなる重合領域にてモノマーを供給して重合し、上昇管に接続された下降管にてモノマーを供給して重合し、上昇管と下降管とを循環しながら、ポリマー生成物を回収する。この方法は、上昇管中に存在する気体混合物が下降管に入るのを全面的または部分的に防止する手段を備える。また、上昇管中に存在する気体混合物とは異なる組成を有する気体および/または液体混合物を下降管中に導入する。上記の重合方法として、例えば、特表2002−520426号公報に記載された方法を適用することができる。
【0044】
成分(1)または成分(2)は、原料のモノマーを、メタロセン触媒又はハーフメタロセン触媒を用いて、公知の方法(例えば、国際公開第2006/102155号に記載の方法)で重合することによっても製造できる。
【0045】
核剤の添加は、例えば、重合により得られた重合体と核剤を酸化防止剤とともにヘンシェルミキサー、ブラベンダー等で撹拌した後、押出機を用いて180℃から280℃で溶融ブレンドして行うことができる。核剤や酸化防止剤の添加は、重合、残留モノマー除去、乾燥工程を経た後、重合装置に連結された押出機を用いて行ってもよい。
【0046】
特に、本発明においては、重合パウダーと核剤とを溶融混練して両者を混合してもよい。重合パウダーとは、重合後、残留モノマー除去、乾燥工程を経た後に得られた粉末状のポリプロピレンである。重合パウダーは50〜5,000μmの平均粒径(光散乱法による)を有する。表面積の大きい重合パウダーと核剤とを混合することで核剤の分散が良好となり、得られるシートの透明性がより向上する。また、本発明においては、高濃度の核剤をポリプロピレンと溶融混練した、いわゆるマスターバッチをシート成形時にポリプロピレン樹脂に混合してもよい。
【0047】
5.用途
本発明のシートまたはフィルムは所望の形状に成形されて、種々の用途に使用できる。例えば、本発明のシート等は包装材料、容器用材料、特に食品容器として有用である。例えば、真空成形等によりシート等を容器へ成形できる。得られた容器は、透明性および耐寒衝撃性に優れるので、氷や氷菓用の容器、冷却飲料の容器として有用である。
【実施例】
【0048】
以下に実施例を挙げ本発明についてさらに説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されない。
1.重合体の調製
(1)固体触媒
重合に用いる固体触媒を、以下の方法により調製した。当該固体触媒は、MgCl上にTiと内部ドナーとしてのジイソブチルフタレートを担持させたものである。
固体触媒A:欧州特許第728769号公報の実施例5に記載された方法により調製した。
固体触媒B:欧州特許第674991号公報の実施例1に記載された方法により調製した。
【0049】
(2)重合体A
上記固体触媒Aと、有機アルミニウム化合物としてトリエチルアルミニウム(TEAL)と、外部電子供与体化合物としてジシクロペンチルジメトキシシラン(DCPMS)を用い、固体触媒に対するTEALの重量比が20、TEAL/DCPMSの重量比が10となるような量で、12℃において24分間接触させた。得られた触媒系を、液体プロピレン中において懸濁状態で20℃において5分間保持することによって予備重合を行った。得られた予備重合物を、二段の重合反応器を直列に備える重合装置の一段目の重合反応器に導入してプロピレン−エチレン共重合体を製造し、二段目の重合反応器でエチレン−1−ブテン共重合体を製造した。これは、当該エチレン−1−ブテン共重合体と一段目からのプロピレン−エチレン共重合体とを混合(重合ブレンド)したことに相当する。重合中は、温度と圧力を調整し、水素を分子量調整剤として用いた。また、一段目と二段目の滞留時間分布を調整することにより、各段で得られる重合体の割合を制御した。
【0050】
重合温度と反応物のモル比は、一段目の反応器では、重合温度、水素濃度、エチレン濃度が、それぞれ70℃、0.10モル%、0.84モル%、二段目の反応器では、重合温度、H2/C2、C4/(C2+C4)が、それぞれ85℃、0.27モル比、0.48モル比であった。前記重合ブレンドによって得た重合体は、以下の成分(1)と成分(2)からなるポリプロピレン組成物である。
成分(1):3.2重量%のエチレンを含むプロピレン−エチレン共重合体 82重量%
成分(2):23重量%の1−ブテンを含むエチレン−1−ブテン共重合体 18重量%
【0051】
さらに、当該重合体のパウダー100重量部に、核剤としてアデカスタブNA−71(リン酸エステル系、株式会社ADEKA製)を0.25重量部添加し、酸化防止剤としてBASF社製B225を0.2重量部、中和剤として淡南化学社製カルシウムステアレートを0.05重量部添加し、ヘンシェルミキサーで1分間攪拌して混合した。この混合物をナカタニ機械株式会社製NVCφ50mm単軸押出機を用いて、シリンダ温度230℃で押出し、ストランドを水中で冷却した後、ペレタイザーでカットしペレット状のプロピレン樹脂組成物を得て、重合体Aとした。重合体Aは核剤を含むポリプロピレン組成物である。
【0052】
(3)重合体B1
上記固体触媒Bと、トリエチルアルミニウム(TEAL)およびジイソプロピルジメトキシシラン(DIPMS)を、固体触媒に対するTEALの重量比が11、TEAL/DIPMSの重量比が3.2となるような量で、−5℃で5分間接触させた。得られた触媒系を、液体プロピレン中において懸濁状態で20℃において5分間保持することによって予備重合を行った。
【0053】
得られた予備重合物を重合反応器に導入した後、水素とプロピレン、エチレンをフィードし、重合温度、水素濃度、エチレン濃度を、それぞれ75℃、0.12モル%、0.45モル%とし、圧力を調整することよって、プロピレン−エチレン共重合体を製造した。当該重合体は成分(1)であり、1.7重量%のエチレンを含むポリプロピレンの共重合体である。当該重合体のパウダー100重量部に、核剤としてMillad 3988(ソルビトール系、ミリケンジャパン株式会社製)0.25重量部を添加した以外は、重合体Aと同様にして重合体B1を得た。重合体B1は、成分(1)に核剤を添加した組成物である。
【0054】
(4)重合体B2
重合体B2は、重合体B1と同じ1.7重量%のエチレンを含むポリプロピレンの共重合体からなり、核剤を含まない組成物である。核剤を添加しなかった以外は、重合体B1と同様に、当該重合体のパウダーを用いて作製した。
【0055】
(5)重合体C
日本ポリエチレン株式会社製カーネルKF370を用いた。カーネルKF370はメタロセン触媒を用い、高圧法で製造されたエチレンの単独重合体であり成分(2)に該当する。
【0056】
(6)重合体D
外部電子供与体として、DIPMSの代わりにDCPMSを用いた以外は、重合体B1およびB2の重合で使用した予備重合物と同様の方法で調製した予備重合物を用いて、成分(1)ポリプロピレン単独重合体と成分(2)エチレン−プロピレン共重合体を多段重合し、重合ブレンドを製造した。一段目の反応器では重合温度、水素濃度を、それぞれ70℃、0.10モル%、二段目の反応器では重合温度、水素濃度、C2/(C2+C3)を、それぞれ85℃、1.13モル%、0.48モル比とすると共に、重合圧力を調整した。また、一段目と二段目の滞留時間分布を調整することにより、各段で得られる重合体の割合を制御した。当該重合ブレンドによって得た重合体Dは、以下の成分(1)と成分(2)からなるポリプロピレン組成物である。重合体Aと同様に、当該重合体のパウダーを用いて作製した。
成分(1):プロピレンの単独重合体 80重量%
成分(2):51.5重量%のプロピレンを含むエチレン−プロピレンの共重合体 20重量%
このようにして準備した重合体の組成を表1にまとめた。
【0057】
【表1】
【0058】
2.シートの製造
ポリプロピレン組成物をプレス成形(230℃で5分間予熱、0〜60MPa間で加圧減圧を繰り返す脱気操作を30秒間実施後に60MPaの条件下で3分間保持した後、30℃の冷却プレスで3分間保持)して1.5mm厚の板を得た。この板を10.5cm×10.5cmの大きさに切削し、Bruckner社製フィルム延伸装置(KARO)を用いて、表2に示す温度で120秒加熱し、延伸速度350mm/秒の速度で同時に二方向へ延伸させて、2.3倍×2.3倍の二軸延伸を行った。延伸後、冷却してシートを得た。
【0059】
3.分析および評価
(1)MFR
JIS K 7210に準じ、温度230℃、荷重21.18Nの条件下で測定した。
(2)XSIV
サンプル2.5gを、o−キシレン(溶媒)を250ml入れたフラスコに入れ、ホットプレートおよび還流装置を用いて、135℃で、窒素パージを行いながら、30分間、撹拌し、サンプルを完全溶解した。その後、溶液を25℃で1時間冷却した。濾紙を用いて得られた溶液を濾過し、濾液を100ml採取し、アルミカップ等に移し、窒素パージを行いながら、150℃で蒸発乾固を行い、室温で30分間静置してキシレン可溶分を得た。ウベローデ型粘度計を用いて、当該キシレン可溶分の135℃テトラヒドロナフタレン中で固有粘度を測定し、XSIV(dl/g)を得た。
【0060】
(3)延伸性
延伸時に破断等の問題が生じない場合を良、問題が生じる場合を不良と評価した。
(4)透明性
ISO 14782に準拠して、株式会社村上色彩技術研究所製、HM−150を使用し、前述のとおりにして得たシートのヘーズ測定を行い、透明性を評価した。同時に成形および冷却条件に由来するシート表面の凹凸の影響を除外するため、シートの両面に流動パラフィン(関東化学株式会社製、Liquid Paraffin Cat. No.32033−00)を刷毛にて塗布し、同様にヘーズ測定を行った。前者を「全ヘーズ」、後者を「内部ヘーズ」と定義した。またシート表面の寄与を見るため、「外部ヘーズ」(「全ヘーズ」−「内部ヘーズ」)を定義した。
【0061】
(5)耐寒衝撃性
JIS K7152で規定するタイプD2小形角板を準備した。次いでこの板を打ち抜き加工してJIS K7216で規定するA形試験片を準備した。当該試験片を用いて、JIS K7216に準拠して脆化温度を測定し、耐寒衝撃性を評価した。脆化温度が低いほど耐寒衝撃性に優れる。
【0062】
(6)重合体または重合体の各成分のエチレン含有量
1,2,4−トリクロロベンゼン/重水素化ベンゼンの混合溶媒に溶解した試料について、日本電子株式会社製JNM LA−400(13C共鳴周波数100MHz)を用い、13C−NMR法で測定した値から算出した。
(7)示差走査熱量測定(DSC)
パーキンエルマー社製ダイヤモンドDSCを用いて、前記のとおり定義したセカンドスキャンを行い測定した。
【0063】
[実施例1]
重合体Aを25重量%および重合体B1を75重量%の割合で混合し、サーモプラスチック工業株式会社製15mmφ単軸押出機を用いて混練し(混練温度200℃)、ポリプロピレン組成物のペレットを得た。得られたペレットをプレス成形して10.5cm×10.5cm×1.5mmt(厚み)の板を製造した。板の切片をパーキンエルマー社製ダイヤモンドDSCを用いて窒素雰囲気下、10℃/分で昇温して230℃にて5分保持した。次いで、10℃/分で30℃まで降温した。30℃で5分間保持した後、引き続き、10℃/分で昇温してセカンドスキャンを行い、成分(1)成分(2)に由来する最高温側の融点Tmを測定した。Tmは152℃であった。この値から、二軸延伸時の温度Tsを157℃とした。このTsは、0≦Ts−Tm≦10を満足する。前述のように157℃でポリプロピレン組成物の平板を二軸延伸した後、氷水に浸して急冷してシートを得た。このシートについて評価を行い、表2に示すとおり優れた透明性と耐寒衝撃性を有していることを確認した。
【0064】
[実施例2]
ポリプロピレン組成物として重合体Aを35重量%および重合体B1を65%の割合で混合し、以下、実施例1と同様のプロセスで二軸延伸してシートを得た。実施例1と同様に優れた透明性と耐寒衝撃性を有していることを確認した。
【0065】
[実施例3]
ポリプロピレン組成物として重合体Aを45重量%および重合体B1を55重量%の割合で混合し、以下、実施例1と同様のプロセスで二軸延伸してシートを得た。実施例1と同様に優れた透明性と耐寒衝撃性を有していることを確認した。
【0066】
[実施例4]
ポリプロピレン組成物として重合体Aを85重量%および重合体B1を15重量%の割合で混合し、以下、実施例1と同様のプロセスで二軸延伸してシートを得た。実施例1と同様に優れた透明性と耐寒衝撃性を有していることを確認した。
【0067】
[実施例5]
ポリプロピレン組成物として重合体Aを単独で使用し、プレス成形により10.5cm×10.5cm×1.5mmt(厚み)の板を作製した。以下、実施例1と同様のプロセスで二軸延伸してシートを得た。実施例1と同様に優れた透明性と耐寒衝撃性を有していることを確認した。
【0068】
[実施例6]
重合体B2と重合体Cのペレットを重量比88:12で混合し、さらに核剤としてMillad NX8000J(ノニトール系、ミリケンジャパン株式会社製)を重合体B2と重合体Cの100重量部に対して0.5重量部添加して混合し、ポリプロピレン組成物を調製した。実施例1と同様にしてシートを得て評価した。表2に示すとおり、優れた透明性と耐寒衝撃性を有していることを確認した。
【0069】
[実施例7]
二軸延伸した後、空冷により室温(23℃)まで冷却した以外は実施例1と同様にしてシートを製造し、評価した。平滑な表面状態が維持されており、表2に示すとおり、優れた透明性と耐寒衝撃性を有していることを確認した。
【0070】
[実施例8]
二軸延伸した後、130℃で2分間保持した後に室温まで空冷した以外は実施例1と同様にしてシートを製造し、評価した。表2に示すとおり、氷水に浸して急冷した実施例1に比較した場合、外部ヘーズが大きくなった結果、得られたシートの透明性は相対的に劣っていたが、許容範囲であった。本例で得たシートは耐寒衝撃性を有していることを確認した。
【0071】
[比較例1]
ポリプロピレン組成物を150℃で二軸延伸してシートを得た以外は、実施例1と同様にしてシートを製造し、評価した。得られたシートは透明性が著しく劣っていた。
【0072】
[比較例2]
ポリプロピレン組成物を150℃で二軸延伸してシートを得た以外は、実施例6と同様にしてシートを製造し、評価した。得られたシートは透明性が著しく劣っていた。
【0073】
[比較例3]
成分(1)と核剤の混合物である重合体B1を157℃で二軸延伸してシートを製造し、評価した。得られたシートは耐寒衝撃性が劣っていた。
【0074】
[比較例4]
重合体Dを162℃(Ts−Tm=−4)で二軸延伸してシートを得た以外は、実施例1と同様にしてシートを製造し、評価した。得られたシートは透明性が著しく劣っていた。
【0075】
[比較例5]
重合体Dを168℃(Ts−Tm=2)で二軸延伸してシートを得た以外は、実施例1と同様にしてシートを製造し、評価した。得られたシートは透明性が著しく劣っていた。
【0076】
[比較例6]
実施例1と同じポリプロピレン組成物を164℃(Ts−Tm=12)で二軸延伸したが、延伸できなかった。
【0077】
【表2】
【0078】
以上から、本発明のシートは透明性および耐寒衝撃性に優れることが明らかである。