特許第6395498号(P6395498)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱重工コンプレッサ株式会社の特許一覧

特許6395498タービンロータディスクの翼溝部の超音波探傷方法及び装置
<>
  • 特許6395498-タービンロータディスクの翼溝部の超音波探傷方法及び装置 図000002
  • 特許6395498-タービンロータディスクの翼溝部の超音波探傷方法及び装置 図000003
  • 特許6395498-タービンロータディスクの翼溝部の超音波探傷方法及び装置 図000004
  • 特許6395498-タービンロータディスクの翼溝部の超音波探傷方法及び装置 図000005
  • 特許6395498-タービンロータディスクの翼溝部の超音波探傷方法及び装置 図000006
  • 特許6395498-タービンロータディスクの翼溝部の超音波探傷方法及び装置 図000007
  • 特許6395498-タービンロータディスクの翼溝部の超音波探傷方法及び装置 図000008
  • 特許6395498-タービンロータディスクの翼溝部の超音波探傷方法及び装置 図000009
  • 特許6395498-タービンロータディスクの翼溝部の超音波探傷方法及び装置 図000010
  • 特許6395498-タービンロータディスクの翼溝部の超音波探傷方法及び装置 図000011
  • 特許6395498-タービンロータディスクの翼溝部の超音波探傷方法及び装置 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6395498
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】タービンロータディスクの翼溝部の超音波探傷方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/04 20060101AFI20180913BHJP
   G01N 29/24 20060101ALI20180913BHJP
   G01N 29/26 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   G01N29/04
   G01N29/24
   G01N29/26
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-164455(P2014-164455)
(22)【出願日】2014年8月12日
(65)【公開番号】特開2016-40529(P2016-40529A)
(43)【公開日】2016年3月24日
【審査請求日】2017年8月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】310010564
【氏名又は名称】三菱重工コンプレッサ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】浦田 幹康
(72)【発明者】
【氏名】川浪 精一
(72)【発明者】
【氏名】青木 清隆
(72)【発明者】
【氏名】山田 義和
(72)【発明者】
【氏名】竹村 大輔
(72)【発明者】
【氏名】中島 充詞
【審査官】 嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−027423(JP,A)
【文献】 特開2009−204368(JP,A)
【文献】 特開平01−299456(JP,A)
【文献】 特開2011−208978(JP,A)
【文献】 米国特許第07428842(US,B1)
【文献】 特開2007−278854(JP,A)
【文献】 特開2004−340809(JP,A)
【文献】 特開2009−244079(JP,A)
【文献】 特公平06−019341(JP,B2)
【文献】 特開2010−185367(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/000793(WO,A1)
【文献】 特開2007−116894(JP,A)
【文献】 特開2007−309771(JP,A)
【文献】 山本優一郎,超音波フェイズドアレイの基本原理,溶接学会誌,日本,一般社団法人 溶接学会,2005年 4月20日,第74巻、第4号,第29頁−32頁,doi: 10.2207/gjjws1943.74.205
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00−29/52
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
J−STAGE
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービンのロータディスクに設けられたタービン翼を固定するためのサイドエントリ型の翼溝部をフェイズドアレイ法により検査するためのタービンロータディスクの翼溝部の超音波探傷方法において、
それぞれ超音波を発信可能な複数の振動子を含むフェイズドアレイ探触子を、前記複数の振動子が前記ロータディスクの周方向に沿って並んだ並列状態で前記ロータディスクの端面に配置する配置工程と、
前記並列状態にある前記複数の振動子から、前記複数の振動子の各々の超音波発信時期を第1の発信パターンで制御した状態で超音波を発信させ、該超音波の反射波を受信する第1の送受信工程と、
前記並列状態にある前記複数の振動子から、前記複数の振動子の各々の超音波発信時期を前記第1の発信パターンとは異なる第2の発信パターンで制御した状態で超音波を発信させ、該超音波の反射波を受信する第2の送受信工程と、
を備え、
前記サイドエントリ型の翼溝部は、前記翼溝部がロータディスクの軸方向から逸れて円弧状に延びているカーブドサイドエントリ型の翼溝部として構成される
ことを特徴とするタービンロータディスクの翼溝部の超音波探傷方法。
【請求項2】
前記複数の振動子の各々は、超音波を発信可能な発信面を有し、
前記発信面は、前記複数の振動子の配列方向よりも該配列方向と交差する方向に長く、且つ、該発信面から発信された超音波が1つの焦点に収束するように、前記配列方向と交差する方向にて中央部が凹んだ凹面形状を有する
ことを特徴とする請求項1に記載のタービンロータディスクの翼溝部の超音波探傷方法。
【請求項3】
前記探触子を前記ロータディスクの半径方向に沿って移動させる半径方向移動工程を更に備え、
前記半径方向移動工程の前及び後に、前記第1の送受信工程及び前記第2の送受信工程を実行する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のタービンロータディスクの翼溝部の超音波探傷方法。
【請求項4】
前記翼溝部の大きさ又は形状に応じて、前記フェイズドアレイ探触子に含まれる前記複数の振動子の数を調整する調整工程を更に備えることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載のタービンロータディスクの翼溝部の超音波探傷方法。
【請求項5】
前記複数の振動子の各々は前記超音波の反射波を受信可能である
ことを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載のタービンロータディスクの翼溝部の超音波探傷方法。
【請求項6】
前記超音波の反射波を受信するための複数の受信用振動子を更に備える
ことを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載のタービンロータディスクの翼溝部の超音波探傷方法。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか一項に記載のタービンロータディスクの翼溝部の超音波探傷方法に用いられる、タービンロータディスクの翼溝部の超音波探傷装置において、
前記複数の振動子を含む前記フェイズドアレイ探触子と、
前記フェイズドアレイ探触子を、前記複数の振動子が前記ロータディスクの周方向に沿って並んだ状態で支持するように構成され、且つ、前記フェイズドアレイ探触子を前記ロータディスクの半径方向に沿って移動可能に支持するように構成された探触子支持装置と、
を備えることを特徴とするタービンロータディスクの翼溝部の超音波探傷装置。
【請求項8】
前記ロータディスクを回転可能に支持するロータディスク支持装置を更に備え、
前記探触子支持装置は、
走行可能な台車と、
前記台車に搭載された伸縮可能な支柱と、
前記支柱によって鉛直面内で回動可能に支持された伸縮可能なアームとを含み、
前記フェイズドアレイ探触子は、前記アーム及び支柱を介して前記台車により支持されている
ことを特徴とする請求項7に記載のタービンロータディスクの翼溝部の超音波探傷装置。
【請求項9】
前記フェイズドアレイ探触子と前記アームの先端との間に設けられ、前記フェイズドアレイ探触子を回動可能に支持する枠体と、
前記枠体と前記フェイズドアレイ探触子との間に設けられ、前記フェイズドアレイ探触子を前記ロータディスクの端面に向かって押し付けるための弾性部材とを更に備える
ことを特徴とする請求項8に記載のタービンロータディスクの翼溝部の超音波探傷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超音波探傷法の1種であるフェイズドアレイ法を用いて、タービンロータディスクの翼溝部の欠陥を検査する方法及び該方法に用いられる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンや蒸気タービンでは、タービンロータのロータディスク外周面に形成されたタービン翼を固定するための溝部(以下、「翼溝部」とも称する。)に、タービン翼の翼根部(以下、単に「翼根部」とも称する。)が挿入された状態で、タービン翼がロータディスクに固定されている。
タービンロータの翼溝部に発生する亀裂などの欠陥の有無やその大きさを検査する方法としては、磁粉探傷やレプリカ法等の検査方法を用いることができる。しかしながらこれらの方法では、タービン翼の翼根部を翼溝部から抜き取る必要があり、タービン翼の抜き取り及び検査後の再装着等、検査前後の付帯工事に多大な時間と費用を要している。
【0003】
そのため、タービン翼を翼溝部から抜き取ることなく翼溝部を検査可能な非破壊検査技術の開発が望まれている。例えば、特許文献1及び特許文献2には、翼溝部に超音波を照射し、その反射波を受信して波形などを調べることで、翼溝部の欠陥の有無を検査可能な超音波探傷法が提案されている。
これらの超音波探傷法のうち、特許文献1で採用されているフェイズドアレイ法では、多数の振動子を有するフェイズドアレイ探触子が用られる。振動子は、フェイズドアレイ探触子の前後方向に沿って配列され、個々の振動子が超音波を発信するタイミングを独立に制御可能である。個々の振動子から発信された超音波は合成波面を形成するが、個々の振動子の発信タイミングを制御することで、合成波面の照射方向や焦点距離を自由に制御することができる。
【0004】
検査の際、フェイズドアレイ探触子は、検査対象物の表面に沿って前後方向に移動(走査)させられ、これにより検査範囲を変化させることができる。一方、超音波は、フェイズドアレイ探触子の前方斜め下の方向に照射される。フェイズドアレイ探触子の前後方向に対する超音波の傾斜角度は、振動子の発信タイミングを制御することにより電気的に操作可能であり、これによっても検査範囲を変化させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−244079号公報
【特許文献2】特開2013−057681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フェイズドアレイ法によって翼溝部の検査を行う場合、通常、フェイズドアレイ探触子をロータディスクの端面に配置する。そして、フェイズドアレイ探触子をロータディスク端面の半径方向に移動させながら、翼溝部に向けて超音波を繰り返し照射し、翼溝部からの反射波を受信する。この場合、多数の振動子は、フェイズドアレイ探触子の移動方向であるロータディスク端面の半径方向に沿って配置され、振動子の発信タイミングを制御することにより、検査範囲の深さを変更することができる。
【0007】
ここで、タービンロータの翼溝部では、様々な方向に亀裂などの欠陥が発生する。特に、図10に示すように、翼溝部108がロータディスク106の軸方向から逸れて円弧状に曲折しているカーブドサイドエントリ型の場合、翼溝部がロータディスクの軸方向に沿って直線状に延びている通常のサイドエントリ型と比べて、翼溝部108に発生する亀裂などの欠陥は多様な方向に発生する。
超音波探傷法では、超音波の照射方向に対し欠陥の発生方向が異なると、反射波の方向が異なってしまう。例えば、図11を参照すると、フェイズドアレイ探触子100からの超音波uの照射方向が、亀裂cの発生方向に対し直角である場合に、フェイズドアレイ探触子100は反射波eを確実に受信できる。これに対し、同じ位置に欠陥が存在したとしても、超音波の照射方向が、亀裂の発生方向に対し直角から外れると、受信方向での反射波の反射率が低下し、反射波を検出できない場合がある。この結果として、欠陥の検出精度が低下してしまう。
【0008】
このような検出精度の低下は、フェイズドアレイ探触子の方向をロータディスクの周方向にて変化させ、超音波の照射方向と欠陥の発生方向との相対的な関係を変化させることにより防止できると考えられる。
ここで、図11に示すように、従来のフェイズドアレイ法によって翼溝部108の検査を行う場合、フェイズドアレイ探触子100をロータディスク106の端面106aに配置する。この配置では、複数の振動子110は、ロータディスク106の半径方向aに沿って配置される。そして、フェイズドアレイ探触子100をロータディスク106の半径方向aに沿って移動させながら、フェイズドアレイ探触子100から翼溝部108に向けて超音波uを発信し、翼溝部108からの反射波を受信する。
このような従来の方法では、フェイズドアレイ探触子100の方向をロータディスク端面106aの周方向bにて変化させようとした場合、半径方向aでの位置についてのみならず、周方向についてもフェイズドアレイ探触子100を走査しなければならなくなり、走査が難しくなる。
【0009】
本発明の少なくとも一実施形態は、係る従来技術の課題に鑑み、亀裂等の欠陥を高精度に検出可能なタービンロータディスクの翼溝部の超音波探傷方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係るタービンロータディスクの翼溝部の超音波探傷方法は、
それぞれ超音波を発信可能な複数の振動子を含むフェイズドアレイ探触子を、前記複数の振動子が前記ロータディスクの周方向に沿って並んだ並列状態で前記ロータディスクの端面に配置する配置工程と、
前記並列状態にある前記複数の振動子から、前記複数の振動子の各々の超音波発信時期を第1の発信パターンで制御した状態で超音波を発信させ、該超音波の反射波を受信する第1の送受信工程と、
前記並列状態にある前記複数の振動子から、前記複数の振動子の各々の超音波発信時期を前記第1の発信パターンとは異なる第2の発信パターンで制御した状態で超音波を発信させ、該超音波の反射波を受信する第2の送受信工程と、
を備える。
【0011】
本発明者等は、図11に示すように、多数の振動子110が、ロータディスク端面106aの半径方向(矢印a方向)に沿って並置されたフェイズドアレイ探触子100を用いたとき、超音波の照射方向によってフェイズドアレイ探触子100が受信する反射波eの割合が低下し、欠陥を高精度にて検査できないという知見を得た。そしてこの現象は、特にカーブドサイドエントリ型の翼溝部を検査したとき顕著となることが判明した。これは、本発明者等の知見によれば、カーブドサイドエントリ型の翼溝部の場合、翼溝部がロータディスクの軸方向から外れて湾曲しているため、亀裂等の欠陥の発生方向が多様であるためと考えられる。
このような知見に基づき、本発明者等は、欠陥の検査精度を向上させるために、超音波の照射方向をロータディスクの周方向に変化させることに想到した。しかしながら、従来のように、複数の振動子をロータディスク端面の半径方向に並列に並べて配置し、振動子の発信パターンを制御するのみでは、超音波の照射方向をロータディスクの周方向にて走査することができなかった。
【0012】
この点、上記構成(1)によれば、複数の振動子をロータディスク端面の周方向に沿って並列に配置し、第1の発信パターンと第2の発信パターンで超音波を発信することで、フェイズドアレイ探触子の方向を変化させなくても、超音波の照射方向をロータディスク端面の周方向にて容易に変更することができる。
そして、超音波の照射方向をロータディスク端面の周方向にて変更することにより、例えば、第1の発信パターンでは検出できなかった亀裂等の欠陥を、第2の発信パターンでは検出することが可能になり、この逆も可能になる。
なお、本明細書で「X方向に沿って」と表現するときは、厳密な意味でX方向に沿う場合以外に、X方向から多少外れた方向に沿う場合も含むことを意味する。
【0013】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、
前記複数の振動子の各々は、超音波を発信可能な発信面を有し、
前記発信面は、前記複数の振動子の配列方向よりも該配列方向と交差する方向に長く、且つ、該発信面から発信された超音波が1つの焦点に収束するように、前記配列方向と交差する方向にて中央部が凹んだ凹面形状を有する。
上記構成(2)によれば、発信面から発信された超音波が1つの焦点に収束するので、焦点近傍に存在する欠陥の検出精度を高くすることができる。
【0014】
(3)幾つかの実施形態では、上記構成(1)又は(2)において、
前記探触子を前記ロータディスクの半径方向に沿って移動させる半径方向移動工程を更に備え、
前記半径方向移動工程の前及び後に、前記第1の送受信工程及び前記第2の送受信工程を実行する。
上記構成(3)によれば、半径方向移動工程の前及び後に、第1の送受信工程及び第2の送受信工程を行うことにより、フェイズドアレイ探触子の方向を変えなくても、広い範囲に渡って、欠陥を高精度にて容易に検査することができる。
【0015】
(4)幾つかの実施形態では、上記構成(1)乃至(3)の何れか一つにおいて、
前記翼溝部の大きさ又は形状に応じて、前記フェイズドアレイ探触子に含まれる前記複数の振動子の数を調整する調整工程を更に備える。
上記構成(4)によれば、ロータディスク及び翼溝部の大きさ及び形状に応じて、振動子の数を調整することで、フェイズドアレイ探触子の小型化を図ることができる。そのため、ロータディスク間の隙間や、翼溝部の間隔が小さいタービンロータでも、高精度にて容易に検査することができる。
【0016】
(5)幾つかの実施形態では、上記構成(1)乃至(4)の何れか一つにおいて
前記複数の振動子の各々は前記超音波の反射波を受信可能である。
上記構成(5)によれば、振動子が超音波発信用振動子と超音波受信用振動子を兼ねているので、簡単な構成にて、欠陥を高精度にて容易に検査することができる。
【0017】
(6)幾つかの実施形態では、上記構成(1)乃至(4)の何れか一つにおいて、
前記超音波の反射波を受信するための複数の受信用振動子を更に備える。
上記構成(6)によれば、超音波を発信するための振動子と受信するための振動子を別々に設けたことにより、ロータディスクの端面近傍で、振動子が発信した超音波(入射波)と反射波の干渉を抑制することができる。この結果、ロータディスクの端面のより表面に近い領域においても、欠陥を高精度にて容易に検査することができる。
【0018】
(7)幾つかの実施形態では、上記構成(1)乃至(6)の何れか一つにおいて、
前記タービンのロータディスクに設けられたタービン翼を固定するための翼溝部は、前記ロータディスクの軸方向から逸れて円弧状に延びている。
上記構成(7)では、翼溝部が円弧状に延びており、欠陥の発生方向が様々であっても、超音波の照射方向を変化させることにより、欠陥を高精度にて容易に検査することができる。
【0019】
(8)本発明の少なくとも一実施形態に係る、上記(1)乃至(6)の一つに記載のタービンロータディスクの翼溝部の超音波探傷方法に用いられる、タービンロータディスクの翼溝部の超音波探傷装置は、
前記複数の振動子を含む前記フェイズドアレイ探触子と、
前記フェイズドアレイ探触子を、前記複数の振動子が前記ロータディスクの半径方向に並んだ状態で支持するように構成され、且つ、前記フェイズドアレイ探触子を前記ロータディスクの周方向に沿って移動可能に支持するように構成された探触子支持装置と、
を備える。
【0020】
上記構成(8)によれば、探触子支持装置により、フェイズドアレイ探触子をロータディスクの半径方向に沿って容易に移動させることができる。このため、1つの翼溝部について広範囲に渡って、欠陥を高精度且つ容易に検査することができる。
【0021】
(9)幾つかの実施形態では、上記構成(8)において、
前記ロータディスクを回転可能に支持するロータディスク支持装置を更に備え、
前記探触子支持装置は、
一の走行方向に走行可能な台車と、
前記台車に搭載された伸縮可能な支柱と、
前記支柱によって前記走行方向を含む鉛直面内で回動可能に支持された伸縮可能なアームとを含み、
前記フェイズドアレイ探触子は、前記アーム及び支柱を介して前記台車により支持されている。
【0022】
上記構成(9)によれば、ロータディスクの回転、台車の移動、支柱の伸縮、アームの伸縮、及びアームの回動により、フェイズドアレイ探触子をロータディスクの端面の任意の位置に容易に配置することができる。このため、複数の翼溝部について広範に渡って、欠陥を高精度且つ容易に検査することができる。
【0023】
(10)幾つかの実施形態では、上記構成(9)において、
前記フェイズドアレイ探触子と前記アームの先端との間に設けられ、前記フェイズドアレイ探触子を回動可能に支持する枠体と、
前記枠体と前記フェイズドアレイ探触子との間に設けられ、前記フェイズドアレイ探触子を前記ロータディスクの端面に向かって押し付けるための弾性部材とを更に備える。
上記構成(10)によれば、弾性部材によってフェイズドアレイ探触子をロータディスクの端面に向かって押し付けることで、フェイズドアレイ探触子を端面に対し常に密着させることができ、高精度な検査を容易且つ安定して行うことができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、亀裂等の欠陥を高精度に検出可能なタービンロータディスクの翼溝部の超音波探傷方法及び装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態に係る超音波探傷装置をロータディスクの一部とともに概略的に示す正面図である。
図2】前記実施形態における探傷方法を示す説明図である。
図3】前記超音波探傷装置のフェイズドアレイ探触子を示す模式図である。
図4】本発明の別な一実施形態に係り、図3中のB方向から視た模式図である。
図5】本発明のさらに別な一実施形態に係るフェイズドアレイ探触子の模式図である。
図6】本発明のさらに別な一実施形態に係るフェイズドアレイ探触子の模式図である。
図7図6中のC矢視図である。
図8】超音波発信部と超音波受信部とが分離している場合に不感帯の発生を示す模式図である。
図9】(A)〜(D)はフェイズドアレイ探触子を用いた各種スキャン法を示す説明図である。
図10】カーブドサイドエントリ型の翼溝部を示す斜視図である。
図11】従来のフェイズドアレイ法による検査方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載され又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一つの構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0027】
本発明の一実施形態を図1図3に基づいて説明する。
図1は本実施形態に係る超音波探傷装置10の構成を示している。フェイズドアレイ探触子12は直方体形状の外形を有し、四角形の枠体14の内側に形成された空間に収容され、その状態でボルトなどの固定手段で枠体14に固定される。
枠体14は一体に形成された回動軸14aを有している。枠体14は一辺が開放された四角形の支持枠16の内部に挿入され、回動軸14aは支持枠16に形成された孔に回動
可能に嵌合されている。これによって、枠体14は回動軸14aを中心に支持枠16に回動可能に支持される。
【0028】
枠体14に対面した支持枠16の底辺に2個のバネ18が設けられている。バネ18は枠体14を回動軸14aを中心に一方の方向、即ち、フェイズドアレイ探触子12がロータディスク端面106aに配置されたとき、フェイズドアレイ探触子12をロータディスク端面106aへ密着させる方向へ回動させるバネ力を付加している。
なお、図1では、ロータディスク106の外周面106bに装着されたタービン翼及び翼溝部の図示を省略している。
【0029】
支持フレーム20は、一辺が開放された四角形の支持枠20aと、支持枠20aに結合した主軸20bとで構成されている。支持枠16は支持枠20aにボルト22によって固定されている。
枠体14及び支持枠16は、片面(ロータディスク端面106aに対面する側の面)の4隅に夫々4個のボール24を有している。ボール24は枠体14又は支持枠16に転動自在に装着されている。ボール24によって、枠体14及び支持枠16がロータディスク106の端面106aに接した状態で容易に滑動できる。
【0030】
探触子支持装置26は、4個の車輪36を有し、一の走行方向に走行可能な台車34と、台車34に搭載され固定された支柱38と、支柱38によって前記走行方向を含む鉛直面内で回動可能に支持されたアーム31とを含んでいる。支柱38は高さ調整部28を有し、高さ調整部28は支柱38に対して高さ方向にスライド可能に支持されている。
アーム31は高さ調整部28に対して軸30を介して一平面内で回動可能に支持されている。アーム31は走査位置調整部32を有し、走査位置調整部32は支持フレーム20の主軸20bを前記平面内で主軸20bの軸方向にスライド可能に支持している。
超音波探傷装置10は、前記平面がロータディスク端面106aと平行となるように置かれたとき、フェイズドアレイ探触子12をロータディスク端面106aの任意の位置に配置できる。
【0031】
フェイズドアレイ探触子12の超音波を発信する側の面は枠体14及び支持枠16とほぼ同一高さとなるように枠体14に固定されている。フェイズドアレイ探触子12にはケーブル40が接続されている。ケーブル40を介して、フェイズドアレイ探触子12に制御信号が入力され、検出信号がフェイズドアレイ探触子12から出力される。
【0032】
超音波探傷装置10の検査対象は、例えば、図10に示すカーブドサイドエントリ型の翼溝部108である。超音波探傷装置10をロータディスク106まで移動させ、フェイズドアレイ探触子12をロータディスク端面106aに配置する。この際、軸30がロータディスク端面106aと直交するように配置することで、アーム31が回動する平面をロータディスク端面106aと平行にすることができ、走査位置調整部32によって、フェイズドアレイ探触子12をロータディスク106の半径方向へ移動させることができる。
【0033】
ロータディスク106はロータディスク支持装置39で回転可能に支持しておき、フェイズドアレイ探触子12をロータディスク106の半径方向に沿って移動させる半径方向移動工程を実施する。
この間、ロータディスク端面106aに配置された状態でフェイズドアレイ探触子12から翼溝部108に向けて超音波を発信し、翼溝部108で反射した反射波をフェイズドアレイ探触子12で受信する。この反射波の波形を調べることで、亀裂などの欠陥の有無や寸法を検査する。
次に、タービンロータを人手又は駆動モータで回し、もう一度半径方向移動工程を実施する。これを繰り返すことで、ロータディスク外周面106bの全周に装着されたすべての翼溝部108に対して超音波を照射でき、すべての翼溝部108を検査できる。
【0034】
図2は超音波探傷装置10の超音波発信領域を示す図であり、図3はフェイズドアレイ探触子12を示す拡大図である。
図3に示すように、フェイズドアレイ探触子12は多数の振動子42を有している。振動子42は断面が四角形の棒状を有し、ロータディスク106の周方向(矢印b方向)に並べて配置されている。ケーブル40は、振動子42に電気パルスを送り、振動子42を励振させる。また、振動子42が照射した超音波が翼溝部108で反射し、その反射波を振動子42が受信したとき、ケーブル40は受信した反射波を処理部(不図示)に送る。
【0035】
図2に示すように、フェイズドアレイ探触子12からスキュー角Aで翼溝部108に超音波を照射する。なお、図2に示したように、ロータディスク106の半径方向aに対する、フェイズドアレイ探触子100の超音波照射方向又は前後方向の角度をスキュー角Aと定義する。
【0036】
ここで、図9(A)〜(D)はフェイズドアレイ法による各種スキャン法を模式的に説明している。フェイズドアレイ探触子12は並列に並べられた多数の振動子42を有し、各振動子42に付加するパルス電圧のタイミングを制御することで、振動子42毎の励振時間を制御し、超音波発信時期(発信パターン)を制御することができる。これによって、各振動子42から発信された超音波uの波面が合成して形成される合成波面(各超音波uの包絡面)sの照射方向や、合成波面sが線焦点f1や点焦点f2を結ぶ焦点距離を自由に変えることができる。
【0037】
各振動子42相互の励振タイミングは、例えば図9(B)及び(C)に示すスキャンが可能なように制御されている。例えば、図9(B)に示す発信パターンが第1の送受信工程で採用され、図9(C)に示す発信パターンが第2の送受信工程で採用される。
これによって、各振動子42から発信される超音波の照射方向をスキュー角Aで規定される方向のみならず、ロータディスク106の周方向bに変化させることができる。そのため、超音波の走査範囲tを扇形状に広範囲に広げることができる。なお、発信パターンは、第1の発信パターン及び第2の発信パターンに限定されない。例えば、多数の発信パターンを採用して超音波の照射方向を電気的且つ連続的に走査することで、走査範囲tを細かく分析することができる。
【0038】
本実施形態によれば、複数の振動子42をロータディスク端面106aの周方向bに沿って並列に配置し、第1の発信パターンと第2の発信パターンで超音波を発信することで、フェイズドアレイ探触子12の方向を変化させなくても、超音波の照射方向をロータディスク端面106aの周方向bにて容易に変更することができる。
そして、超音波の照射方向をロータディスク端面106aの周方向bにて変更することにより、例えば、第1の発信パターンでは検出できなかった亀裂等の欠陥を、第2の発信パターンでは検出することが可能になり、この逆も可能になる。
従って、翼溝部108が、サイドエントリ型より複雑多岐な方向へ欠陥が形成されるカーブドサイドエントリ型であっても、広範囲かつ高精度な欠陥検出が可能になる。
【0039】
また、半径方向移動工程の前及び後に、第1の送受信工程及び第2の送受信工程を行うことにより、フェイズドアレイ探触子12の方向を変えなくても、広い範囲に渡って、欠陥を高精度にて容易に検査することができる。
【0040】
また、振動子42が超音波発信用振動子と超音波受信用振動子を兼ねていることにより、簡単な構成にて、欠陥を高精度にて容易に検査することができる。
【0041】
また、超音波探傷装置10はロータディスク支持装置39を有しており、フェイズドアレイ探触子12をロータディスク106の半径方向に沿って容易に移動させることができる。このため、1つの翼溝部108について広範に渡って、欠陥を高精度且つ容易に検査することができる。
【0042】
また、ロータディスク106の回転、台車34の移動、支柱38の伸縮、アーム31の伸縮、及びアーム31の回動により、フェイズドアレイ探触子12をロータディスク端面106aの任意の位置に容易に配置することができる。このため、複数の翼溝部108について広範に渡って、欠陥を高精度且つ容易に検査することができる。
【0043】
また、バネ18の弾性力でフェイズドアレイ探触子12をロータディスク端面106aに密着できるので、欠陥の検出精度をさらに向上できる。
【0044】
図4は、幾つかの実施形態に係る振動子42を、図3中のB方向から視た図である。幾つかの実施形態では、各振動子42の超音波発信面44は、振動子42の配列方向よりも該配列方向と交差する方向に長く、且つ、超音波発信面44から発信された超音波が1つの焦点に収束するように、前記配列方向と交差する方向にて翼溝部108に対して中央部が凹んだ凹面形状を有している。
この構成によれば、各振動子42の超音波発信面44から発信された超音波uの合成波面sは1つの焦点に収束するので、焦点近傍に存在する欠陥の検出精度を高くすることができる。
なお、幾つかの実施形態では、フェイズドアレイ探触子12において、ロータディスク端面106aに対し超音波が斜めに入射するように、各振動子42の長手方向がロータディスク端面106aに対し傾斜した状態で各振動子42が配置されている。
【0045】
図5は、小型のタービンロータに適用した本発明の別な実施形態に係るフェイズドアレイ探触子12を概略的に示している。本実施形態では、ロータディスク106及び翼溝部108が小型化しているため、フェイズドアレイ探触子12も小型化し、振動子42の数は前記実施形態と比べて半減している。例えば、前記実施形態の振動子42の数が32個であるのに対して、本実施形態では振動子42を16個配置する。
このように、ロータディスク106及び翼溝部108の大きさ及び形状に応じて、振動子42の数を調整することで、フェイズドアレイ探触子12の小型化を図ることができる。そのため、ロータディスク間の隙間や、翼溝部の間隔が小さいタービンロータでも、高精度にて容易に検査することができる。
【0046】
次に、本発明のさらに別な実施形態を図6図8に基づいて説明する。図6及び図7に示すように、本実施形態は、夫々振動子42で構成された超音波発信部46と超音波受信部48とを別個に構成している。超音波発信部46と超音波受信部48とはフェイズドアレイ探触子12の内部で異なる位置に配置されている。超音波発信部46の発信面と超音波受信部48の受信面とは互いに向き合う方向に傾斜している。
超音波発信部46で超音波uを翼溝部108に向けて発信し、翼溝部108から反射した反射波eを超音波受信部48で受信し、反射波eの波形などを調べることで、欠陥の有無や寸法を検出する。その他の構成は前記実施形態と同一である。
【0047】
図8に示すように、超音波発信部46と超音波受信部48とが同一の振動子で構成されていると、入射波と反射波とが干渉し、ロータディスク端面106aの表面に面して不感帯nが発現する。
本実施形態では、超音波発信部46と超音波受信部48とを別々に設けたことにより、ロータディスク端面106a近傍で、振動子42が発信した超音波(入射波)と反射波の干渉を抑制することができる。この結果、ロータディスク端面106aの表面に発現する不感帯nを低減でき、ロータディスク端面106aのより表面に近い領域においても、欠陥を高精度にて容易に検査することができる。
【0048】
幾つかの実施形態では、超音波発信部46と超音波受信部48は、フェイズドアレイ探触子12の幅方向に並んでおり、超音波発信部46の複数の振動子、及び、超音波受信部48も、フェイズドアレイ探触子12の幅方向に並んでいる。そして、超音波発信部46の複数の振動子の発信面、及び、超音波受信部48の振動子の受信面は、ロータディスクの端面に対して傾斜しており、具体的には、発信面の法線と振動子の法線がロータディスク側で交わるように傾斜している。
本発明は上記した実施形態に限定されることはなく、上記した実施形態に変更を加えた形態や、これら実施形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、タービンのロータディスクに設けられたタービン動翼を固定するための翼溝部に対し、亀裂などの欠陥を高精度にて容易に検査可能である。
【符号の説明】
【0050】
10 超音波探傷装置
12,100 フェイズドアレイ探触子
14 枠体
14a 回動軸
16 支持枠
18 バネ
20 支持フレーム
20a 支持枠
20b 主軸
22 ボルト
24 ボール
26 探触子支持装置
28 高さ調整部
30 軸
31 アーム
32 走査位置調整部
34 台車
36 車輪
38 支柱
40 ケーブル
42、110 振動子
44 超音波発信面
46 超音波発信部
48 超音波受信部
102 タービン翼
104 翼根部
106 ロータディスク
106a 端面
106b 外周面
108 翼溝部
A スキュー角
c 亀裂
e 反射波
n 不感帯
s 合成波面
t 走査範囲
u 超音波
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11