【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フェイズドアレイ法によって翼溝部の検査を行う場合、通常、フェイズドアレイ探触子をロータディスクの端面に配置する。そして、フェイズドアレイ探触子をロータディスク端面の半径方向に移動させながら、翼溝部に向けて超音波を繰り返し照射し、翼溝部からの反射波を受信する。この場合、多数の振動子は、フェイズドアレイ探触子の移動方向であるロータディスク端面の半径方向に沿って配置され、振動子の発信タイミングを制御することにより、検査範囲の深さを変更することができる。
【0007】
ここで、タービンロータの翼溝部では、様々な方向に亀裂などの欠陥が発生する。特に、
図10に示すように、翼溝部108がロータディスク106の軸方向から逸れて円弧状に曲折しているカーブドサイドエントリ型の場合、翼溝部がロータディスクの軸方向に沿って直線状に延びている通常のサイドエントリ型と比べて、翼溝部108に発生する亀裂などの欠陥は多様な方向に発生する。
超音波探傷法では、超音波の照射方向に対し欠陥の発生方向が異なると、反射波の方向が異なってしまう。例えば、
図11を参照すると、フェイズドアレイ探触子100からの超音波uの照射方向が、亀裂cの発生方向に対し直角である場合に、フェイズドアレイ探触子100は反射波eを確実に受信できる。これに対し、同じ位置に欠陥が存在したとしても、超音波の照射方向が、亀裂の発生方向に対し直角から外れると、受信方向での反射波の反射率が低下し、反射波を検出できない場合がある。この結果として、欠陥の検出精度が低下してしまう。
【0008】
このような検出精度の低下は、フェイズドアレイ探触子の方向をロータディスクの周方向にて変化させ、超音波の照射方向と欠陥の発生方向との相対的な関係を変化させることにより防止できると考えられる。
ここで、
図11に示すように、従来のフェイズドアレイ法によって翼溝部108の検査を行う場合、フェイズドアレイ探触子100をロータディスク106の端面106aに配置する。この配置では、複数の振動子110は、ロータディスク106の半径方向aに沿って配置される。そして、フェイズドアレイ探触子100をロータディスク106の半径方向aに沿って移動させながら、フェイズドアレイ探触子100から翼溝部108に向けて超音波uを発信し、翼溝部108からの反射波を受信する。
このような従来の方法では、フェイズドアレイ探触子100の方向をロータディスク端面106aの周方向bにて変化させようとした場合、半径方向aでの位置についてのみならず、周方向についてもフェイズドアレイ探触子100を走査しなければならなくなり、走査が難しくなる。
【0009】
本発明の少なくとも一実施形態は、係る従来技術の課題に鑑み、亀裂等の欠陥を高精度に検出可能なタービンロータディスクの翼溝部の超音波探傷方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係るタービンロータディスクの翼溝部の超音波探傷方法は、
それぞれ超音波を発信可能な複数の振動子を含むフェイズドアレイ探触子を、前記複数の振動子が前記ロータディスクの周方向に沿って並んだ並列状態で前記ロータディスクの端面に配置する配置工程と、
前記並列状態にある前記複数の振動子から、前記複数の振動子の各々の超音波発信時期を第1の発信パターンで制御した状態で超音波を発信させ、該超音波の反射波を受信する第1の送受信工程と、
前記並列状態にある前記複数の振動子から、前記複数の振動子の各々の超音波発信時期を前記第1の発信パターンとは異なる第2の発信パターンで制御した状態で超音波を発信させ、該超音波の反射波を受信する第2の送受信工程と、
を備える。
【0011】
本発明者等は、
図11に示すように、多数の振動子110が、ロータディスク端面106aの半径方向(矢印a方向)に沿って並置されたフェイズドアレイ探触子100を用いたとき、超音波の照射方向によってフェイズドアレイ探触子100が受信する反射波eの割合が低下し、欠陥を高精度にて検査できないという知見を得た。そしてこの現象は、特にカーブドサイドエントリ型の翼溝部を検査したとき顕著となることが判明した。これは、本発明者等の知見によれば、カーブドサイドエントリ型の翼溝部の場合、翼溝部がロータディスクの軸方向から外れて湾曲しているため、亀裂等の欠陥の発生方向が多様であるためと考えられる。
このような知見に基づき、本発明者等は、欠陥の検査精度を向上させるために、超音波の照射方向をロータディスクの周方向に変化させることに想到した。しかしながら、従来のように、複数の振動子をロータディスク端面の半径方向に並列に並べて配置し、振動子の発信パターンを制御するのみでは、超音波の照射方向をロータディスクの周方向にて走査することができなかった。
【0012】
この点、上記構成(1)によれば、複数の振動子をロータディスク端面の周方向に沿って並列に配置し、第1の発信パターンと第2の発信パターンで超音波を発信することで、フェイズドアレイ探触子の方向を変化させなくても、超音波の照射方向をロータディスク端面の周方向にて容易に変更することができる。
そして、超音波の照射方向をロータディスク端面の周方向にて変更することにより、例えば、第1の発信パターンでは検出できなかった亀裂等の欠陥を、第2の発信パターンでは検出することが可能になり、この逆も可能になる。
なお、本明細書で「X方向に沿って」と表現するときは、厳密な意味でX方向に沿う場合以外に、X方向から多少外れた方向に沿う場合も含むことを意味する。
【0013】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、
前記複数の振動子の各々は、超音波を発信可能な発信面を有し、
前記発信面は、前記複数の振動子の配列方向よりも該配列方向と交差する方向に長く、且つ、該発信面から発信された超音波が1つの焦点に収束するように、前記配列方向と交差する方向にて中央部が凹んだ凹面形状を有する。
上記構成(2)によれば、発信面から発信された超音波が1つの焦点に収束するので、焦点近傍に存在する欠陥の検出精度を高くすることができる。
【0014】
(3)幾つかの実施形態では、上記構成(1)又は(2)において、
前記探触子を前記ロータディスクの半径方向に沿って移動させる半径方向移動工程を更に備え、
前記半径方向移動工程の前及び後に、前記第1の送受信工程及び前記第2の送受信工程を実行する。
上記構成(3)によれば、半径方向移動工程の前及び後に、第1の送受信工程及び第2の送受信工程を行うことにより、フェイズドアレイ探触子の方向を変えなくても、広い範囲に渡って、欠陥を高精度にて容易に検査することができる。
【0015】
(4)幾つかの実施形態では、上記構成(1)乃至(3)の何れか一つにおいて、
前記翼溝部の大きさ又は形状に応じて、前記フェイズドアレイ探触子に含まれる前記複数の振動子の数を調整する調整工程を更に備える。
上記構成(4)によれば、ロータディスク及び翼溝部の大きさ及び形状に応じて、振動子の数を調整することで、フェイズドアレイ探触子の小型化を図ることができる。そのため、ロータディスク間の隙間や、翼溝部の間隔が小さいタービンロータでも、高精度にて容易に検査することができる。
【0016】
(5)幾つかの実施形態では、上記構成(1)乃至(4)の何れか一つにおいて
前記複数の振動子の各々は前記超音波の反射波を受信可能である。
上記構成(5)によれば、振動子が超音波発信用振動子と超音波受信用振動子を兼ねているので、簡単な構成にて、欠陥を高精度にて容易に検査することができる。
【0017】
(6)幾つかの実施形態では、上記構成(1)乃至(4)の何れか一つにおいて、
前記超音波の反射波を受信するための複数の受信用振動子を更に備える。
上記構成(6)によれば、超音波を発信するための振動子と受信するための振動子を別々に設けたことにより、ロータディスクの端面近傍で、振動子が発信した超音波(入射波)と反射波の干渉を抑制することができる。この結果、ロータディスクの端面のより表面に近い領域においても、欠陥を高精度にて容易に検査することができる。
【0018】
(7)幾つかの実施形態では、上記構成(1)乃至(6)の何れか一つにおいて、
前記タービンのロータディスクに設けられたタービン翼を固定するための翼溝部は、前記ロータディスクの軸方向から逸れて円弧状に延びている。
上記構成(7)では、翼溝部が円弧状に延びており、欠陥の発生方向が様々であっても、超音波の照射方向を変化させることにより、欠陥を高精度にて容易に検査することができる。
【0019】
(8)本発明の少なくとも一実施形態に係る、上記(1)乃至(6)の一つに記載のタービンロータディスクの翼溝部の超音波探傷方法に用いられる、タービンロータディスクの翼溝部の超音波探傷装置は、
前記複数の振動子を含む前記フェイズドアレイ探触子と、
前記フェイズドアレイ探触子を、前記複数の振動子が前記ロータディスクの半径方向に並んだ状態で支持するように構成され、且つ、前記フェイズドアレイ探触子を前記ロータディスクの周方向に沿って移動可能に支持するように構成された探触子支持装置と、
を備える。
【0020】
上記構成(8)によれば、探触子支持装置により、フェイズドアレイ探触子をロータディスクの半径方向に沿って容易に移動させることができる。このため、1つの翼溝部について広範囲に渡って、欠陥を高精度且つ容易に検査することができる。
【0021】
(9)幾つかの実施形態では、上記構成(8)において、
前記ロータディスクを回転可能に支持するロータディスク支持装置を更に備え、
前記探触子支持装置は、
一の走行方向に走行可能な台車と、
前記台車に搭載された伸縮可能な支柱と、
前記支柱によって前記走行方向を含む鉛直面内で回動可能に支持された伸縮可能なアームとを含み、
前記フェイズドアレイ探触子は、前記アーム及び支柱を介して前記台車により支持されている。
【0022】
上記構成(9)によれば、ロータディスクの回転、台車の移動、支柱の伸縮、アームの伸縮、及びアームの回動により、フェイズドアレイ探触子をロータディスクの端面の任意の位置に容易に配置することができる。このため、複数の翼溝部について広範に渡って、欠陥を高精度且つ容易に検査することができる。
【0023】
(10)幾つかの実施形態では、上記構成(9)において、
前記フェイズドアレイ探触子と前記アームの先端との間に設けられ、前記フェイズドアレイ探触子を回動可能に支持する枠体と、
前記枠体と前記フェイズドアレイ探触子との間に設けられ、前記フェイズドアレイ探触子を前記ロータディスクの端面に向かって押し付けるための弾性部材とを更に備える。
上記構成(10)によれば、弾性部材によってフェイズドアレイ探触子をロータディスクの端面に向かって押し付けることで、フェイズドアレイ探触子を端面に対し常に密着させることができ、高精度な検査を容易且つ安定して行うことができる。