(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【実施例1】
【0010】
まず、構成を説明する。
実施例1における自動変速機は、車両の変速装置として、エンジン車やハイブリッド車等に搭載されるものである。以下、実施例1の自動変速機の構成を、「自動変速機の全体構成」、「第4ブレーキ構成」に分けて説明する。
【0011】
[自動変速機の全体構成]
図1は、実施例1の自動変速機を示すスケルトン図である。以下、
図1に基づいて、実施例1の自動変速機の全体構成を説明する。
【0012】
実施例1の自動変速機は、
図1に示すように、遊星歯車として、入力軸INから出力軸OUTに向けて順に、第1遊星歯車PG1と、第2遊星歯車PG2と、第3遊星歯車PG3と、第4遊星歯車PG4と、を備えている。
【0013】
前記第1遊星歯車PG1は、シングルピニオン型遊星歯車であり、第1サンギヤS1と、第1サンギヤS1に噛み合うピニオンを支持する第1キャリアC1と、ピニオンに噛み合う第1リングギヤR1と、を有する。
【0014】
前記第2遊星歯車PG2は、シングルピニオン型遊星歯車であり、第2サンギヤS2と、第2サンギヤS2に噛み合うピニオンを支持する第2キャリアC2と、ピニオンに噛み合う第2リングギヤR2と、を有する。
【0015】
前記第3遊星歯車PG3は、シングルピニオン型遊星歯車であり、第3サンギヤS3と、第3サンギヤS3に噛み合うピニオンを支持する第3キャリアC3と、ピニオンに噛み合う第3リングギヤR3と、を有する。
【0016】
前記第4遊星歯車PG4は、シングルピニオン型遊星歯車であり、第4サンギヤS4と、第4サンギヤS4に噛み合うピニオンを支持する第4キャリアC4と、ピニオンに噛み合う第4リングギヤR4と、を有する。
【0017】
実施例1の自動変速機は、
図1に示すように、入力軸INと、出力軸OUTと、第1連結メンバM1(連結メンバ)と、第2連結メンバM2と、トランスミッションケースTCと、を備えている。そして、摩擦要素として、第1ブレーキB1と、第2ブレーキB2と、第3ブレーキB3と、第1クラッチK1と、第2クラッチK2と、第3クラッチK3と、第4ブレーキB4と、を備えている。
【0018】
前記入力軸INは、駆動源からの回転駆動トルクが入力される軸で、第1サンギヤS1と第4キャリアC4に常時連結している。そして、入力軸INは、第2クラッチK2を介して第1キャリアC1に断接可能に連結している。
【0019】
前記出力軸OUTは、プロペラシャフトやファイナルギヤ等を介して駆動輪へ変速後の駆動トルクを出力する軸で、第3キャリアC3に常時連結している。そして、出力軸OUTは、第1クラッチK1を介して第4リングギヤR4に断接可能に連結している。
【0020】
前記第1連結メンバM1は、第1遊星歯車PG1の第1リングギヤR1と第2遊星歯車PG2の第2キャリアC2を、摩擦要素を介在させることなく常時連結するメンバである。
【0021】
前記第2連結メンバM2は、第2遊星歯車PG2の第2リングギヤR2と第3遊星歯車PG3の第3サンギヤS3と第4遊星歯車PG4の第4サンギヤS4を、摩擦要素を介在させることなく常時連結するメンバである。
【0022】
前記第1ブレーキB1は、第1キャリアC1の回転を、トランスミッションケースTCに対し係止可能な摩擦要素である。
【0023】
前記第2ブレーキB2は、第3リングギヤR3の回転を、トランスミッションケースTCに対し係止可能な摩擦要素である。
【0024】
前記第3ブレーキB3は、第2サンギヤS2の回転を、トランスミッションケースTCに対し係止可能な摩擦要素である。
【0025】
前記第1クラッチK1は、第4リングギヤR4と出力軸OUTの間を選択的に連結する摩擦要素である。
【0026】
前記第2クラッチK2は、入力軸INと第1キャリアC1の間を選択的に連結する摩擦要素である。
【0027】
前記第3クラッチK3は、第1キャリアC1と第2連結メンバM2の間を選択的に連結する摩擦要素である。
【0028】
前記第4ブレーキB4は、第1連結メンバM1の回転を、トランスミッションケースTCに対し係止可能な摩擦要素である。
【0029】
図2は、実施例1の自動変速機において6つの摩擦要素のうち三つの同時締結の組み合わせにより前進11速及び後退1速を達成する締結表を示す図である。以下、
図2に基づいて、実施例1の自動変速機の各変速段を成立させる変速構成を説明する。
【0030】
第1速段(1st)は、
図2に示すように、第2ブレーキB2と第3クラッチK3と第4ブレーキB4の同時締結により達成する。第2速段(2nd)は、
図2に示すように、第2ブレーキB2と第3ブレーキB3と第3クラッチK3の同時締結により達成する。第3速段(3rd)は、
図2に示すように、第2ブレーキB2と第2クラッチK2と第3クラッチK3の同時締結により達成する。第4速段(4th)は、
図2に示すように、第2ブレーキB2と第3ブレーキB3と第2クラッチK2の同時締結により達成する。第5速段(5th)は、
図2に示すように、第2ブレーキB2と第3ブレーキB3と第1クラッチK1の同時締結により達成する。第6速段(6th)は、
図2に示すように、第3ブレーキB3と第1クラッチK1と第2クラッチK2の同時締結により達成する。以上の第1速段〜第6速段が、ギヤ比が1を超えている減速ギヤ比によるアンダードライブ変速段である。
【0031】
第7速段(7th)は、
図2に示すように、第1クラッチK1と第2クラッチK2と第3クラッチK3の同時締結により達成する。第8速段(8th)は、
図2に示すように、第3ブレーキB3と第1クラッチK1と第3クラッチK3の同時締結により達成する。第9速段(9th)は、
図2に示すように、第1クラッチK1と第3クラッチK3と第4ブレーキB4の同時締結により達成する。第10速段(10th)は、
図2に示すように、第1ブレーキB1と第1クラッチK1と第3クラッチK3の同時締結により達成する。第11速段(11th)は、
図2に示すように、第1ブレーキB1と第3ブレーキB3と第1クラッチK1の同時締結により達成する。後退速段(Rev)は、
図2に示すように、第1ブレーキB1と第2ブレーキB2と第3ブレーキB3の同時締結により達成する。以上の第7速段〜第11速段のうち、第7速段がギヤ比=1の直結段であり、第8速段〜第11速段が、ギヤ比が1未満の増速ギヤ比によるオーバードライブ変速段である。
【0032】
さらに、第1速段から第11速段までの変速段のうち、隣接する変速段へのアップ変速を行う際、或いは、ダウン変速を行う際、
図2に示すように、架け替え変速により行う構成としている。即ち、隣接する変速段への変速の際、三つの摩擦要素のうち、二つの摩擦要素の締結は維持したままで、一つの摩擦要素の解放と一つの摩擦要素の締結を行う。
【0033】
[第4ブレーキ構成]
図3は、実施例1の自動変速機において新たに追加される第4ブレーキB4の取り付け状態を示し、
図4は、第4ブレーキB4のドライブプレートがスプライン嵌合されるスプライン嵌合溝を形成した第1連結メンバM1を示す。以下、
図3及び
図4に基づき、第4ブレーキ構成を説明する。
【0034】
前記第1連結メンバM1は、
図3に示すように、第1遊星歯車PG1と第3クラッチK3と第2遊星歯車PG2の外周側を覆うように配置される円筒ドラム部材であり、
図4に示すように、大径外周面10と小径外周面11による段差を持つ円筒ドラム形状とされる。この第1連結メンバM1の大径外周面10には、後述する第4ブレーキB4のドライブプレート40をスプライン嵌合により取り付けるスプライン嵌合溝12を形成している。さらに、大径外周面10の開口端部の内面には、第1リングギヤR1へ延長する第1連結プレート13をスプライン嵌合により取り付けるスプライン嵌合溝14を形成している。また、小径外周面11の開口端部の内面には、第2キャリアC2へ延長する第1連結部材15をスプライン嵌合により取り付けるスプライン嵌合溝16を形成している。そして、第1連結メンバM1には、大径外周面10のスプライン溝部に貫通する第4ブレーキ冷却油穴17が開口され、小径外周面11のスプライン溝部に貫通する第4ブレーキ冷却油穴18が開口される。なお、第1連結メンバM1の小径外周面11と対向するトランスミッションケースTCの内周面との間には、
図3に示すように、第3ブレーキB3が配置される。
【0035】
前記第4ブレーキB4は、
図3に示すように、ドライブプレート40とドリブンプレート41を複数枚組み合わせ、油圧作動の第4ブレーキピストン42により締結/解放される多板ブレーキである。この第4ブレーキB4は、第1連結メンバM1の大径外周面10と対向するトランスミッションケースTCの内周面との間に介装される。トランスミッションケースTCの内周面には、第4ブレーキB4のドリブンプレート41をスプライン嵌合により取り付けるスプライン嵌合溝50を形成している。つまり、第4ブレーキB4のドライブプレート40は、第1連結メンバM1の外周側に形成されたスプライン嵌合溝12に取り付けられ、ドリブンプレート41は、トランスミッションケースTCの内周側に形成されたスプライン嵌合溝50に取り付けられる。
【0036】
次に、作用を説明する。
実施例1の自動変速機における作用を、「新たに追加された変速段での変速作用」、「比較例と実施例1のギヤ比と段間比の対比作用」、「実施例1の自動変速機における特徴作用」に分けて説明する。
【0037】
[新たに追加された変速段での変速作用]
まず、本発明者等は、特許第5492217号公報に記載の4遊星・6摩擦要素の構成で、三つの同時締結の組み合わせにより前進9速の変速段を達成する自動変速機に対し、一つの摩擦要素を追加することで、新しいギヤ比を作ることが可能である点に着目した。
【0038】
そして、構造をなるべく簡単にし、設計変更が少ないようにするため、ブレーキを一つ追加することを検討したとき、第1連結メンバM1に第4ブレーキB4を追加することが好適であるという結論に到達した。なぜなら、他のメンバにブレーキを追加する他のパターンについても検討したが、既存ギヤ比となるかインターロックとなるため、メリットがないことが分かった。
【0039】
そして、第4ブレーキB4を追加し、これを締結する変速段を想定したとき、ギヤ比が形成可能なパターンとして、下記の4つのパターンを導き出し、4つのパターンのそれぞれについてギヤ比を確認した。
(a)第1クラッチK1と第3クラッチK3と第4ブレーキB4を締結する変速パターン
(b)第3ブレーキB3と第1クラッチK1と第4ブレーキB4を締結する変速パターン
(c)第2ブレーキB2と第3クラッチK3と第4ブレーキB4を締結する変速パターン
(d)第2ブレーキB2と第1クラッチK1と第4ブレーキB4を締結する変速パターン
上記(a)〜(d)のうち、(b)の変速パターンは、前進9速の変速段を達成する自動変速機の第8速段と同じギヤ比になる。(d)の変速パターンは、前進9速の変速段を達成する自動変速機の第4速段と同じギヤ比になる。つまり、(a),(c)の二つの変速パターンが、新たなギヤ比による変速段となり得ることが判明した。
【0040】
上記(a),(c)の二つの変速パターンを共に新たな変速段とし、前進11速の変速段を達成するようにしたのが、実施例1の自動変速機である。このうち、(c)の変速パターンにより追加されたのが第1速段であり、この第1速段は、前進9速における第1速段よりさらにロー側の超ローギヤ比変速段である。また、(a)の変速パターンにより追加されたのが第9速段であり、この第9速段は、前進9速における第7速段のギヤ比と第8速段のギヤ比の間のギヤ比によるハイギヤ比変速段である。以下、第1速段での変速作用と第9速段での変速作用を説明する。
【0041】
(第1速段での変速作用)
図5は、実施例1の自動変速機において新たに追加された第1速段での摩擦要素の締結状態を示し、
図6は、新たに追加された第1速段での6つの回転メンバに対する回転速度関係を示す。以下、
図5及び
図6に基づき、第1速段での変速作用を説明する。
【0042】
第1速段(1st)では、
図5のハッチングに示すように、第2ブレーキB2と第3クラッチK3と第4ブレーキB4が同時締結される。他の摩擦要素は解放状態である。
【0043】
第4ブレーキB4の締結により、
図6に示すように、第1リングギヤR1と第2キャリアC2がトランスミッションケースTCに固定される。第3クラッチK3の締結により、
図6に示すように、第1キャリアC1と第2リングギヤR2と第3サンギヤS3と第4サンギヤS4が入力軸INの入力回転を減速した回転になる。第2ブレーキB2の締結により、
図6に示すように、第3リングギヤR3がトランスミッションケースTCに固定される。
【0044】
したがって、第3リングギヤR3が固定された第3遊星歯車PG3において、第3サンギヤS3に入力軸INの入力回転を減速した回転が入力されると、残る第3キャリアC3が、第3サンギヤS3の回転をさらに減速した回転となり、この減速回転がそのまま出力軸OUTに伝達され、第1速の変速段が達成される。
【0045】
(第9速段での変速作用)
図7は、実施例1の自動変速機において新たに追加された第9速段での摩擦要素の締結状態を示し、
図8は、新たに追加された第9速段での6つの回転メンバに対する回転速度関係を示す。以下、
図7及び
図8に基づき、第9速段での変速作用を説明する。
【0046】
第9速段(9th)では、
図7のハッチングに示すように、第1クラッチK1と第3クラッチK3と第4ブレーキB4が同時締結される。他の摩擦要素は解放状態である。
【0047】
第4ブレーキB4の締結により、
図8に示すように、第1リングギヤR1と第2キャリアC2がトランスミッションケースTCに固定される。第3クラッチK3の締結により、
図8に示すように、第1キャリアC1と第2リングギヤR2と第3サンギヤS3と第4サンギヤS4が入力軸INの入力回転を減速した回転になる。第1クラッチK1の締結により、
図8に示すように、第3キャリアC3と第4リングギヤR4が出力軸OUTの回転になる。
【0048】
したがって、第4遊星歯車PG4において、第4サンギヤS4に入力軸INの入力回転を減速した回転が入力され、第4キャリアC4に入力軸INの回転が入力されると、残る第4リングギヤR4は、入力軸INからの回転数を増速した回転となり、この増速回転がそのまま出力軸OUTに伝達され、第9速の変速段が達成される。
【0049】
[比較例と実施例1のギヤ比と段間比の対比作用]
図9は、比較例の自動変速機における各変速段でのギヤ比表と段間比表の一例を示し、
図10は、比較例での減速比特性を示し、
図11は、比較例での段間比特性を示す。以下、
図9〜
図11に基づき、比較例でのギヤ比と段間比について説明する。なお、第1遊星歯車PG1〜第4遊星歯車PG4のサンギヤ歯数とリングギヤ歯数の歯数比をそれぞれα1、α2、α3、α4としたとき、α1=0.4688、α2=0.4505、α3=0.4419、α4=0.4022とした場合を一例とする。
【0050】
ここで、特許第5492217号公報に記載されているように、4遊星・6摩擦要素の構成であり、6摩擦要素のうち、三つの同時締結の組み合わせにより前進9速の変速段を達成する自動変速機を比較例とする。比較例の場合、
図9に示すように、1速ギヤ比=5.425、2速ギヤ比=3.263、3速ギヤ比=2.250、4速ギヤ比=1.649、5速ギヤ比=1.221、6速ギヤ比=1.000、7速ギヤ比=0.862、8速ギヤ比=0.713、9速ギヤ比=0.597である。これをグラフに表したのが
図10であり、最ロー変速比である1速ギヤ比(=5.425)については、通常走行に自動変速機を使いたい場合は問題ない。しかし、悪路走行に変速機を使いたい場合、
図10の点線Aで示す領域の超ロー変速段がとれない。
【0051】
比較例の場合、
図9に示すように、1-2段間比=1.663、2-3段間比=1.451、3-4段間比=1.364、4-5段間比=1.350、5-6段間比=1.221、6-7段間比=1.160、7-8段間比=1.208、8-9段間比=1.195である。これをグラフに表したのが
図11であり、6-7段間比=1.160であり、8-9段間比=1.195であるのに対し、
図11の矢印Bで示すように、7-8段間比=1.208が少し大きい。このため、オーバードライブ変速段(第7速段〜第9速段)を用いる高速巡航時にエンジン効率を最適化できない。
【0052】
上記比較例の自動変速機に対し、超ロー変速段の設定機能と、高速巡航時におけるエンジン効率の最適化機能と、を共に付加したのが実施例1の自動変速機である。実施例1において、第4ブレーキB4の締結により追加される第1速段は、前進9速における第1速段よりさらにロー側の超ローギヤ比変速段である(
図12の☆1)。そして、第4ブレーキB4の締結により追加される第9速段は、前進9速における第7速段のギヤ比と第8速段のギヤ比の間のギヤ比によるハイギヤ比変速段である(
図12の☆2)。
【0053】
図12は、実施例1の自動変速機における各変速段でのギヤ比表と段間比表の一例を示し、
図13は、減速比特性を示し、
図14は、段間比特性を示す。以下、
図12〜
図14に基づき、実施例1でのギヤ比と段間比について説明する。なお、比較例と同様に、第1遊星歯車PG1〜第4遊星歯車PG4のサンギヤ歯数とリングギヤ歯数の歯数比をそれぞれα1、α2、α3、α4としたとき、α1=0.4688、α2=0.4505、α3=0.4419、α4=0.4022とした場合を一例とする。
【0054】
実施例1の自動変速機は、4遊星・7摩擦要素の構成であり、7摩擦要素のうち、三つの同時締結の組み合わせにより前進11速の変速段を達成する。実施例1の場合、
図12に示すように、1速ギヤ比=10.225、2速ギヤ比=5.425、3速ギヤ比=3.263、4速ギヤ比=2.250、5速ギヤ比=1.649、6速ギヤ比=1.221、7速ギヤ比=1.000、8速ギヤ比=0.862、9速ギヤ比=0.785、10速ギヤ比=0.713、11速ギヤ比=0.597である。これをグラフに表したのが
図13であり、
図13の点線A’で示すように、1速ギヤ比(=10.225)がオフロード用の超ローギヤ比になるため、悪路走行に変速機を使いたいという要求に応えることができる。
【0055】
実施例1の場合、
図12に示すように、1-2段間比=1.885、2-3段間比=1.663、3-4段間比=1.451、4-5段間比=1.364、5-6段間比=1.350、6-7段間比=1.221、7-8段間比=1.160、8-9段間比=1.098、9-10段間比=1.101、10-11段間比=1.195である。これをグラフに表したのが
図14であり、新たに追加した第9速段を挟んだ段間比である8-9段間比が1.098であり、9-10段間比が1.101であり、
図14の矢印B’で示すように、第8速段から第10速段までの段間比が小さく抑えられた。このため、オーバードライブ変速段(第8速段〜第11速段)を用いる高速巡航時にエンジン効率を最適化できる。
【0056】
ここで、オーバードライブ変速段で段間比が小さく抑えることで、高速巡航時にエンジン効率を最適化できる理由を、
図15に基づき説明する。
まず、エンジン回転数とエンジン出力トルクの関係特性において、
図15の細実線特性に示すように、複数の円形状特性により等燃費線特性が描かれ、この等燃費線特性の中心に向かうほど燃費が良く、中心領域(目玉領域)が最適燃費領域となる。これに対し、エンジン回転数とエンジン出力トルクによる動作点が、
図15の太実線に示すように移動するのがエンジン効率を最適化する意味では理想である。
【0057】
これに対し、比較例の場合、段間比が少し大きいため、
図15の点線特性に示すように、シフトチェンジに伴うエンジン回転変動も大きくなる。しかし、実施例1の場合、段間比が小さく抑えられるため、
図15の実線特性に示すように、高速巡航に用いるオーバードライブ変速段において、シフトチェンジに伴うエンジン回転変動が小さくなる。よって、オーバードライブ変速段でエンジン回転変動を小さく抑えた分、理想の特性への近似性が高まり、エンジン効率を最適化できる。
【0058】
[実施例1の自動変速機における特徴作用]
実施例1では、摩擦要素として、第1ブレーキB1と第2ブレーキB2と第3ブレーキB3と第1クラッチK1と第2クラッチK2と第3クラッチK3による6摩擦要素に、第4ブレーキB4を追加した。そして、7つの摩擦要素のうち、第4ブレーキB4の締結を含む三つの同時締結の組み合わせによって少なくとも一つの変速段を追加し、前進10速以上の変速段を達成する構成とした。
即ち、4遊星・6摩擦要素により前進9速の変速段を達成する自動変速機に、一つの第4ブレーキB4を追加するだけの簡単な構成変更でありながら、前進9速の変速段に新たな変速段(例えば、第1速段と第9速段の少なくとも一つの変速段)が追加される。
従って、前進10速以上の変速段によって、ギヤ比の選択自由度が高められ、性能要求への対応性が向上し、目指す機能を実現することが可能になる。
【0059】
実施例1では、7つの摩擦要素のうち、三つの同時締結の組み合わせによって前進11速の変速段が達成される。前進11速の変速段のうち、第4ブレーキB4の締結により追加される第1速段を、前進9速における第1速段よりさらにロー側の超ローギヤ比変速段とする構成とした。加えて、第4ブレーキB4の締結により追加される第9速段を、前進9速における第7速段のギヤ比と第8速段のギヤ比の間のギヤ比によるハイギヤ比変速段とする構成とした。
即ち、オフロード走行を実現するために超ローギヤ比を設定したい要求に対しては、前進9速における第1速段よりさらにロー側の超ローギヤ比変速段である第1速段により、悪路走破要求に応えることができる。また、高速巡航時の燃費性能を向上させるために全ての段間比をバランス良く小さくしたい要求に対しては、前進9速における第7速段のギヤ比と第8速段のギヤ比の間のギヤ比によるハイギヤ比変速段である第9変速段により、燃費性能向上要求に応えることができる。
従って、第4ブレーキB4を追加するだけで新たに二つの変速段が追加され、悪路走破要求と燃費性能向上要求に応えることができる。
【0060】
実施例1では、第1連結メンバM1を、第1遊星歯車PG1と第2遊星歯車PG2の外周側を覆うように配置される円筒ドラム部材とした。そして、第4ブレーキB4は、第1連結メンバM1の外周面と対向するトランスミッションケースTCの内周面との間に介装する構成とした。
即ち、新たに追加設定する第4ブレーキB4が、第1遊星歯車PG1と第2遊星歯車PG2の外周側であって、トランスミッションケースTCの内周面に臨む位置への配置となる。このため、他の部品のレイアウト位置変更等を要することなく、既存の部品レイアウトのままで第4ブレーキB4が容易に追加設定される。
従って、6つの摩擦要素のうち、三つの同時締結の組み合わせによって前進9速の変速段を達成する自動変速機に対し、容易に第4ブレーキB4を追加設定することができる。
【0061】
実施例1では、第4ブレーキB4を、ドライブプレート40とドリブンプレート41を複数枚組み合わせた多板ブレーキとした。そして、第1連結メンバM1の外周側に、ドライブプレート40を取り付けるスプライン嵌合溝12を形成し、トランスミッションケースTCの内周側に、ドリブンプレート41を取り付けるスプライン嵌合溝50を形成する構成とした。
即ち、第1連結メンバM1の外周側にスプライン嵌合溝12を形成し、トランスミッションケースTCの内周側にスプライン嵌合溝50を形成する。これだけで、ドライブプレート40とドリブンプレート41を複数枚組み合わせた多板ブレーキ構造の第4ブレーキB4が追加して設けられる。
従って、第1連結メンバM1とトランスミッションケースTCの対向面にスプライン嵌合溝12,50を形成するだけで、多板ブレーキ構造の第4ブレーキB4を追加して設けることができる。
【0062】
次に、効果を説明する。
実施例1の自動変速機にあっては、下記に列挙する効果を得られる。
【0063】
(1) 遊星歯車として、第1遊星歯車PG1と第2遊星歯車PG2と第3遊星歯車PG3と第4遊星歯車PG4を備え、
摩擦要素として、第1ブレーキB1と第2ブレーキB2と第3ブレーキB3と第1クラッチK1と第2クラッチK2と第3クラッチK3を備え、
6つの摩擦要素のうち、三つの同時締結の組み合わせにより前進9速の変速段を達成する自動変速機において、
第1遊星歯車PG1の第1リングギヤR1と第2遊星歯車PG2の第2キャリアC2とを連結する連結メンバ(第1連結メンバM1)を、トランスミッションケースTCに対して固定可能な第4ブレーキB4を追加し、
7つの摩擦要素のうち、第4ブレーキB4の締結を含む三つの同時締結の組み合わせによって少なくとも一つの変速段を追加し、前進10速以上の変速段を達成する。
このため、簡単な構成変更でギヤ比の選択自由度を高めることで、目指す機能を実現する性能要求への対応性を向上することができる。
【0064】
(2) 6つの摩擦要素のうち、
図2に示すように、三つの同時締結の組み合わせによって前進11速の変速段が達成され、
第4ブレーキB4の締結により追加される第1速段を、前進9速における第1速段よりさらにロー側の超ローギヤ比変速段とし、
第4ブレーキB4の締結により追加される第9速段を、前記前進9速における第7速段のギヤ比と第8速段のギヤ比の間のギヤ比によるハイギヤ比変速段とする。
このため、(1)の効果に加え、第4ブレーキB4を追加するだけで新たに二つの変速段が追加され、悪路走破要求と燃費性能向上要求に応えることができる。加えて、隣接段への変速を、一つの摩擦要素の締結と一つの摩擦要素の解放による架け替え変速により達成することができる。
【0065】
(3) 連結メンバ(第1連結メンバM1)を、第1遊星歯車PG1と第2遊星歯車PG2の外周側を覆うように配置される円筒ドラム部材とし、
第4ブレーキB4は、連結メンバ(第1連結メンバM1)の外周面と対向するトランスミッションケースTCの内周面との間に介装する。
このため、(1)又は(2)の効果に加え、6つの摩擦要素のうち、三つの同時締結の組み合わせによって前進9速の変速段を達成する自動変速機に対し、容易に第4ブレーキB4を追加設定することができる。
【0066】
(4) 第4ブレーキBを、ドライブプレート40とドリブンプレート41を複数枚組み合わせた多板ブレーキとし、
連結メンバ(第1連結メンバM1)の外周側に、ドライブプレート40を取り付けるスプライン嵌合溝12を形成し、
トランスミッションケースTCの内周側に、ドリブンプレート41を取り付けるスプライン嵌合溝50を形成する。
このため、(3)の効果に加え、第1連結メンバM1とトランスミッションケースTCの対向面にスプライン嵌合溝12,50を形成するだけで、多板ブレーキ構造の第4ブレーキB4を追加して設けることができる。
【0067】
以上、本発明の自動変速機を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0068】
実施例1では、第4ブレーキB4の追加によって新たなギヤ比による二つの変速段を追加し、前進11速後退1速とする例を示した。しかし、第4ブレーキB4の追加によって新たなギヤ比による二つの変速段のうち、何れか一つの変速段のみを追加する例としても良い。
【0069】
実施例1では、走行中において、例えば、変速マップにしたがって前進11速後退1速の変速が行われる自動変速機の例を示した。しかし、通常走行モードと悪路走行モードを切り替える選択スイッチ等を設け、通常走行モードの選択時は、第1速段を除いた前進10速後退1速の変速が行われる自動変速機とし、悪路走行モードの選択時には、第1速段を含むアンダードライブ側の変速段による変速を行う自動変速機としても良い。
【0070】
実施例1では、エンジン車やハイブリッド車に適用される自動変速機の例を示したが、これらの車両に限らず、電気自動車や燃料電池車等の電費性能の向上を目指す自動変速機としても適用することが可能である。