特許第6395713号(P6395713)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6395713鉛フリーかつアンチモンフリーの高温信頼性錫はんだ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6395713
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】鉛フリーかつアンチモンフリーの高温信頼性錫はんだ
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/26 20060101AFI20180913BHJP
   C22C 13/00 20060101ALI20180913BHJP
   C22C 13/02 20060101ALI20180913BHJP
   B23K 1/00 20060101ALI20180913BHJP
   B23K 3/06 20060101ALI20180913BHJP
   H05K 3/34 20060101ALI20180913BHJP
   B23K 101/40 20060101ALN20180913BHJP
   B23K 101/42 20060101ALN20180913BHJP
【FI】
   B23K35/26 310A
   C22C13/00
   C22C13/02
   B23K1/00 310B
   B23K1/00 330E
   B23K3/06 G
   H05K3/34 512C
   B23K101:40
   B23K101:42
【請求項の数】14
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-536219(P2015-536219)
(86)(22)【出願日】2013年10月9日
(65)【公表番号】特表2016-500578(P2016-500578A)
(43)【公表日】2016年1月14日
(86)【国際出願番号】GB2013052624
(87)【国際公開番号】WO2014057261
(87)【国際公開日】20140417
【審査請求日】2016年2月8日
(31)【優先権主張番号】61/711,277
(32)【優先日】2012年10月9日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】598085065
【氏名又は名称】アルファ・アセンブリー・ソリューションズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】ALPHA ASSEMBLY SOLUTIONS INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(72)【発明者】
【氏名】プリタ・チョウドゥリー
(72)【発明者】
【氏名】モルガーナ・デ・アビラ・ヒバス
(72)【発明者】
【氏名】スタパ・ムケルジー
(72)【発明者】
【氏名】アニル・クマール
(72)【発明者】
【氏名】シウリ・サーカー
(72)【発明者】
【氏名】ランジット・パンダー
(72)【発明者】
【氏名】ラビ・バトカル
(72)【発明者】
【氏名】バーワ・シン
【審査官】 市川 篤
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−031550(JP,A)
【文献】 特開2005−153007(JP,A)
【文献】 特開2002−224881(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/011392(WO,A1)
【文献】 特開平10−034376(JP,A)
【文献】 特開2002−096191(JP,A)
【文献】 特開2000−015476(JP,A)
【文献】 特開2000−280090(JP,A)
【文献】 特開2006−061914(JP,A)
【文献】 特開2011−005510(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/011341(WO,A1)
【文献】 特開2001−058287(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/00−35/40
C22C 13/00−13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛フリーかつアンチモンフリーのはんだ合金であって、
(a)2.5〜5重量%の銀と、
(b)2〜6重量%のビスマスと、
(c)0.1〜3重量%の銅と、
(d)0.07〜1重量%のニッケルと、
(e)0.005〜1重量%のチタンと、
(f)残部 錫および不可避的不純物と
からなるはんだ合金。
【請求項2】
前記合金が、3〜5重量%の銀を含む請求項に記載のはんだ合金。
【請求項3】
前記合金が、2.5〜5重量%のビスマスを含む請求項1または2のいずれかに記載のはんだ合金。
【請求項4】
前記合金が、0.3〜2重量%の銅を含む請求項1〜のいずれかに記載のはんだ合金。
【請求項5】
前記合金が、0.07〜0.4重量%のニッケルを含む請求項1〜のいずれかに記載のはんだ合金。
【請求項6】
前記合金が、0.007〜0.1重量%のチタンを含む請求項1〜のいずれかに記載のはんだ合金。
【請求項7】
前記合金が、195〜222℃の融点を有する請求項1〜のいずれかに記載のはんだ合金。
【請求項8】
バー、棒、ソリッドワイヤ若しくはフラックスコアードワイヤ、箔若しくはストリップ、または粉末若しくはペースト(粉末とフラックスとの混合)、またはボールグリッドアレイの接合若しくはチップスケールパッケージに用いるはんだ球、またはフラックス入り若しくはフラックス塗布を伴う若しくは伴わない他の予備塗布したはんだ片の形態である請求項1〜のいずれかに記載のはんだ合金。
【請求項9】
請求項1〜のいずれかに記載の合金を含むはんだ接合部。
【請求項10】
(i)接合する2つ以上のワークピースを供給する工程;
(ii)請求項1〜のいずれかに記載のはんだ合金を供給する工程;および
(iii)接合する前記ワークピースの近傍で前記はんだ合金を加熱する工程
を含むはんだ接合部の形成方法。
【請求項11】
ウェーブはんだ付け、表面実装技術(SMT)のはんだ付け、ダイアタッチのはんだ付け、サーマルインターフェースのはんだ付け、手はんだ付け、レーザーはんだ付けおよび高周波誘導はんだ付け、およびリワークはんだ付け、ラミネーションにおける、請求項1〜のいずれかに記載のはんだ合金の使用。
【請求項12】
鉛フリーかつアンチモンフリーのはんだ合金であって、
(a)3〜4.5重量%の銀と、
(b)2.7〜4.5重量%のビスマスと、
(c)0.4〜1重量%の銅と、
(d)0.05〜0.5重量%のニッケルと、
(e)0.01〜0.6重量%のコバルトと、
残部 錫および不可避的不純物と
からなるはんだ合金。
【請求項13】
鉛フリーかつアンチモンフリーのはんだ合金であって、
(a)3〜4.5重量%の銀と、
(b)2.7〜4.5重量%のビスマスと、
(c)0.4〜1重量%の銅と、
(d)0.05〜0.5重量%のニッケルと、
(e)0.005〜1重量%のマンガンと、
残部 錫および不可避的不純物と
からなるはんだ合金。
【請求項14】
鉛フリーかつアンチモンフリーのはんだ合金であって、
(a)3〜4.5重量%の銀と、
(b)2.7〜4.5重量%のビスマスと、
(c)0.4〜1重量%の銅と、
(d)0.05〜0.5重量%のニッケルと、
(e)0.005〜1重量%のゲルマニウムと、
残部 錫および不可避的不純物と
からなるはんだ合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、冶金の分野および合金、とりわけ鉛フリーかつアンチモンフリーのはんだ合金に関する。特に合金は、限定されるものではないが、ウェーブはんだ付け、表面実装技術、ホットエアーレベラおよびボールグリッドアレイ、ランドグリッドアレイ、ボトムターミネートパッケージ(または、ボトムターミネーションパッケージ、bottom terminated package)、LEDおよびチップスケールパッケージのような電子工学のはんだ付け用途における使用に適する。
【背景技術】
【0002】
ウェーブはんだ付け(またはフローはんだ付け)は、大量のはんだ付けによる電子組立の広く用いられる方法である。例えば、それはスルーホール実装回路板に用いられてよく、基板は溶融はんだのウェーブを通過し、ウェーブが基板の下面に接触して包み、接合する金属表面を濡らす。
【0003】
他のはんだ付け技術は、プリント回路板上のはんだ付けパッドへのはんだペーストの印刷を含み、その後配置しリフロー炉を通してアセンブリ全体を送る。リフロー工程の間、はんだが融解し、部品と同様に基板上のはんだ付けする表面を濡らす。
【0004】
他のはんだ付け工程は、銅端子をはんだ付け可能な保護層で被覆するために、プリント配線板を溶融はんだの中に浸漬することを含む。このプロセスは、ホットエアーレベラとして知られている。
【0005】
ボールグリッドアレイ接合またはチップスケールパッケージは、一般的には2つの基材間のはんだ球(または、はんだボール、spheres of solder)を用いて組み立てられる。これらの接合のアレイは回路基板上にチップを実装するために用いられる。
【0006】
ウェーブはんだ付け、ホットエアーレベラ工程およびボールグリッドアレイにおける使用に適するはんだ合金について多くの要件がある。第1に、銅、ニッケル、ニッケルリン(「無電解ニッケル」)のような様々な基材材料に関して、合金は良好な濡れ特性を示さなければならない。そのような基材は、例えば錫合金、金または有機被膜(OSP)の使用により、濡れ性を改善するように被覆されてよい。良好な濡れ性は、溶融はんだの毛管ギャップへの流入、およびプリント配線板中のめっきスルーホールの壁を伝って登る能力も高め、それにより良好なホール充填を達成する。
【0007】
はんだ合金は、基材を溶解し、基材との界面に金属間化合物を形成する傾向がある。例えば、はんだ合金中の錫は、界面で基材と反応し得て、金属間化合物(IMC)層を形成する。基材が銅である場合、その結果CuSnの層が形成し得る。そのような層は、通常は1ミクロンの何分の1から数ミクロンの厚さを有する。この層と銅基材との間の界面において、CuSnのIMCが存在し得る。界面の金属間層は、エージングの間、特に使用がより高温である場合に成長する傾向があるだろうし、成長し得る任意のボイドを伴うより厚い金属間の層はさらに圧力が加わる接合部の早過ぎる破壊の一因となり得る。
【0008】
他の重要な要因は:(i)合金自身の中の金属間化合物の存在(改善された機械的特性をもたらす);(ii)耐酸化性(貯蔵の間または繰り返しリフローの間の劣化が、はんだ付け性能を理想的とはいえないようにし得るはんだ球において重要である);(iii)ドロッシングレート(または、ドロス発生率、ドロス発生速度、drossing rate);および(iv)合金の安定性である。これらの後者の考慮は、合金がタンクまたは浴中で長期間保持される用途、または形成したはんだ接合部が長期間高い動作温度に曝される用途にとって重要である。
【0009】
環境および健康上の理由により、鉛およびアンチモンを含有する従来の合金の鉛フリーかつアンチモンフリー代替品に対する要求が高まっている。多くの従来のはんだ合金は、およそSn−0.7wt.%Cuの錫−銅の共晶組成に基づいている。例えば、錫−銀−銅系は、はんだ材料に対する鉛フリーの代替物として電子産業により受け入れられてきた。ある特定の合金、共晶合金SnAg3.0Cu0.5は、Sn−Pbのはんだ材料と比較して優れた疲労寿命を示すと同時に、比較的低い約217〜219℃の融点を保持する。
【0010】
自動車用、高出力電子機器およびエネルギーのような、例えばLED照明を含むいくつかの分野においては、より高い温度、例えば150℃以上で動作することがはんだ合金に望まれる。SnAg3.0Cu0.5合金はそのような温度では十分に機能しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、先行技術と関連する問題の少なくともいくつかを解決すること、または商業的に受け入れ可能な代替物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
従って、第1の態様において、本発明は鉛フリーかつアンチモンフリーのはんだ合金であって:
(a)10重量%以下の銀と、
(b)10重量%以下のビスマスと、
(c)3重量%以下の銅と、
(d)以下の元素の少なくとも1つと、
1重量%以下のニッケル
1重量%以下のチタン
1重量%以下のコバルト
3.5重量%以下のインジウム
1重量%以下の亜鉛
1重量%以下のヒ素
(e)必要に応じて以下の元素の1つ以上と、
0〜1重量%のマンガン
0〜1重量%のクロム
0〜1重量%のゲルマニウム
0〜1重量%の鉄
0〜1重量%のアルミニウム
0〜1重量%のリン
0〜1重量%の金
0〜1重量%のガリウム
0〜1重量%のテルリウム
0〜1重量%のセレン
0〜1重量%のカルシウム
0〜1重量%のバナジウム
0〜1重量%のモリブデン
0〜1重量%の白金
0〜1重量%のマグネシウム
0〜1重量%の希土類
(f)残部 錫および不可避的不純物と
を含むはんだ合金を提供する。
【0013】
本発明をさらに説明する。以下の節において、本発明の異なる態様をより詳細に規定する。そのように規定する各態様は、相容れないことが明確に示されない限りは、任意の他の1つの態様または複数の態様と組み合わせてよい。とりわけ、好ましいまたは好都合であるとして示された任意の特徴は、好ましいまたは好都合であるとして示された任意の他の1つの特徴または複数の特徴と組み合わせてよい。
【0014】
本明細書に記載の合金は、改善された高温信頼性を示し、通常は少なくとも150℃の動作温度に耐えることができる。合金は、従来のSnAg3.0Cu0.5合金と比較して、改善された機械的特性および高温での耐クリープ性を示す。
【0015】
合金は鉛フリーかつアンチモンフリーであり、鉛またはアンチモンが意図的に加えられていないことを意味する。従って、鉛およびアンチモンの含有量は、ゼロまたは偶発的な不純物のレベルにすぎない。
【0016】
合金組成は10重量%以下の銀を含み、例えば1〜10重量%である。合金は、好ましくは2.5〜5重量%の銀、より好ましくは3〜5重量%の銀、さらにより好ましくは3〜4.5重量%の銀、最も好ましくは3.5〜4重量%の銀を含む。一定量の銀の存在は、金属間化合物の形成により、機械的特性、例えば強度を改善するよう働き得る。加えて、銀の存在は、銅の溶解の減らすように、また濡れ性および広がり性を改善するように働き得る。
【0017】
合金組成は10重量%以下のビスマスを含み、例えば1〜10重量%である。合金は、好ましくは2〜6重量%のビスマス、より好ましくは2.5〜5重量%のビスマス、さらにより好ましくは2.7〜4.5重量%のビスマス、最も好ましくは2.8〜4重量%のビスマスを含む。一定量のビスマスの存在は、固溶強化により、機械的特性を改善するよう働き得る。ビスマスはまた、耐クリープ性を改善するように働き得る。ビスマスはまた、濡れ性および広がり性を改善し得る。
【0018】
合金組成は3重量%以下の銅を含み、例えば0.1〜3重量%である。合金は、好ましくは0.3〜2重量%の銅、より好ましくは0.4〜1重量%の銅、さらにより好ましくは0.5〜0.9重量%の銅、最も好ましくは0.6〜0.8重量%の銅を含む。一定量の銅の存在は、金属間化合物の形成により、機械的特性、例えば強度を改善するよう働き得る。加えて、銅の存在は、銅の溶解を減らし、また耐クリープ性も改善し得る。
【0019】
合金組成は必要に応じて、0〜1重量%のニッケルを含み、例えば0.01〜1重量%である。ニッケルが存在する場合、合金は、好ましくは0.03〜0.6重量%のニッケル、より好ましくは0.05〜0.5重量%のニッケル、さらにより好ましくは0.07〜0.4重量%のニッケル、最も好ましくは0.1〜0.3重量%のニッケルを含む。一定量のニッケルの存在は、錫との金属間化合物の形成により、機械的特性を改善するよう働き得て、析出強化をもたらすことができる。加えて、ニッケルの存在は、銅の溶解速度を減らすよう働き得る。ニッケルはまた、基材/はんだ界面でのIMCの成長を減らすことにより、耐落下衝撃性を高め得る。
【0020】
合金組成は必要に応じて、0〜1重量%のチタンを含み、例えば0.005〜1重量%である。チタンが存在する場合、合金は、好ましくは0.005〜0.5重量%のチタン、より好ましくは0.007〜0.1重量%のチタン、さらにより好ましくは0.008〜0.06重量%のチタン、最も好ましくは0.01〜0.05重量%のチタンを含む。一定量のチタンの存在は、強度および界面反応を改善するよう働き得る。チタンはまた、落下衝撃性能を改善し得る。
【0021】
合金組成は必要に応じて、0〜1重量%のコバルトを含み、例えば0.01〜1重量%である。コバルトが存在する場合、合金は、好ましくは0.01〜0.6重量%のコバルト、より好ましくは0.02〜0.5重量%のコバルト、さらにより好ましくは0.03〜0.4重量%のコバルト、最も好ましくは0.04〜0.3重量%のコバルトを含む。コバルトの存在は、銅の溶解速度を下げるよう働き得る。コバルトはまた、基材/はんだ界面でのIMCの形成の速度を遅くし、また耐落下衝撃性を高め得る。
【0022】
合金組成は必要に応じて、0〜3.5重量%のインジウムを含み、例えば0.01〜3.5重量%である。インジウムが存在する場合、合金は、好ましくは0.05〜3.5重量%のインジウム、より好ましくは0.1〜3.5重量%のインジウムを含む。インジウムの存在は、固溶強化により、機械的特性を改善するように働き得る。
【0023】
合金組成は必要に応じて、0〜1重量%の亜鉛を含み、例えば0.01〜1重量%である。亜鉛が存在する場合、合金は、好ましくは0.03〜0.6重量%の亜鉛、より好ましくは0.05〜0.5重量%の亜鉛、さらにより好ましくは0.07〜0.4重量%の亜鉛、最も好ましくは0.1〜0.3重量%の亜鉛を含む。亜鉛の存在は、固溶強化により、機械的特性を改善するように働き得る。亜鉛はまた、IMCの成長も遅くするように働き、またボイドの形成を減少し得る。
【0024】
合金組成は必要に応じて、0〜1重量%のヒ素を含み、例えば0.01〜1重量%である。ヒ素が存在する場合、合金は、好ましくは0.03〜0.6重量%のヒ素、より好ましくは0.05〜0.5重量%のヒ素、さらにより好ましくは0.07〜0.4重量%のヒ素、最も好ましくは0.1〜0.3重量%のヒ素を含む。ヒ素の存在は、粒子の分散により、機械的特性を改善するように働き得る。
【0025】
合金はまた必要に応じて、0.005〜1重量%のマンガン、0.005〜1重量%のクロム、0.005〜1重量%のゲルマニウム、0.005〜1重量%の鉄、0.005〜1重量%のアルミニウム、0.005〜1重量%のリン、0.005〜1重量%の金、0.005〜1重量%のガリウム、0.005〜1重量%のテルリウム、0.005〜1重量%のセレン、0.005〜1重量%のカルシウム、0.005〜1重量%のバナジウム、0.005〜1重量%のモリブデン、0.005〜1重量%の白金、0.005〜1重量%のマグネシウムおよび/または0.005〜1重量%の1種または2種以上の希土類元素の1つ以上を含んでもよい。
【0026】
希土類元素は、広がり性と濡れ性を改善するように働き得る。セリウムはこの点において特に効果的であることが見出されている。アルミニウム、カルシウム、ガリウム、ゲルマニウム、マグネシウム、リンおよびバナジウムは、脱酸素剤(または、還元剤、deoxidizer)として働き得るし、濡れ性およびはんだ接合強度も改善し得る。金、クロム、鉄、マンガン、モリブデン、白金、セレンおよびテリウムのような他の元素添加は、強度および界面反応を改善するように働き得る。
【0027】
本明細書に用いられる用語「希土類元素」とは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選択される1つ以上の元素を意味する。
【0028】
合金は、一般的には少なくとも88重量%の錫、より一般的には少なくとも90重量%の錫、さらにより一般的には少なくとも91重量%の錫を含む。
【0029】
さらなる態様において、3〜5重量%の銀と、2〜5重量%のビスマスと、0.3〜1.5重量%の銅と、0.05〜0.4重量%のニッケルと、必要に応じて、0.008〜0.06重量%のチタンと、必要に応じて、0.005〜0.2の希土類元素(好ましくはセリウム)と、必要に応じて、3〜4重量%のインジウムと、必要に応じて、1重量%以下のゲルマニウムと、必要に応じて、1重量%以下のマンガンと、必要に応じて、0.01〜0.1重量%のコバルトと、残部 錫および不可避的不純物とを含む合金が提供される。
【0030】
1つの実施形態において、3〜4.5重量%の銀と、3〜4.5重量%のビスマスと、0.5〜1.5重量%の銅と、0.05〜0.25重量%のニッケルと、残部 錫および不可避的不純物とを含む合金が提供される。そのような合金は、207.2〜215.9℃の溶融範囲を有し、従来のSnAg3.0Cu0.5合金の共晶温度付近よりも低い。そのような合金は、SnAg3.0Cu0.5の硬度の高さの約2倍の硬度を有する。この実施形態の1つの具体例において、合金は、約3.63重量%の銀と、約3.92重量%のビスマスと、約0.76重量%の銅と、約0.18重量%のニッケルと、残部 錫および不可避的不純物とを含む。
【0031】
他の実施形態において、3〜4.5重量%の銀と、3〜4.5重量%のビスマスと、0.5〜1.5重量%の銅と、0.05〜0.25重量%のニッケルと、0.005〜0.05重量%の希土類元素、例えばセリウムと、残部 錫および不可避的不純物とを含む合金が提供される。そのような合金は、208.8〜219.4℃の溶融範囲、およびSnAg3.0Cu0.5の硬度の高さの約2倍の硬度を有する。この実施形態の1つの具体例において、合金は、約3.81重量%の銀と、約3.94重量%のビスマスと、約0.8重量%の銅と、約0.25重量%のニッケルと、約0.04重量%のセリウムと、残部 錫および不可避的不純物とを含む。
【0032】
他の実施形態において、3〜4.5重量%の銀と、2〜4重量%のビスマスと、0.5〜1.5重量%の銅と、0.05〜0.25重量%のニッケルと、0.005〜0.05重量%のチタンと、残部 錫および不可避的不純物とを含む合金が提供される。そのような合金は、210.4〜215.9℃の溶融範囲、およびSnAg3.0Cu0.5の硬度の高さの約2倍の硬度を有する。この実施形態の1つの具体例において、合金は、約3.8重量%の銀と、約2.98重量%のビスマスと、約0.7重量%の銅と、約0.1重量%のニッケルと、約0.01重量%のチタンと、残部 錫および不可避的不純物とを含む。
【0033】
他の実施形態において、3〜4.5重量%の銀と、3〜5重量%のビスマスと、0.4〜1.5重量%の銅と、0.1〜0.3重量%のニッケルと、0.01〜0.2重量%の1種または2種以上の希土類元素(好ましくはセリウム)と、残部 錫および不可避的不純物とを含む合金が提供される。そのような合金は、209.0〜220.4℃の溶融範囲を有する。この実施形態の1つの具体例において、合金は、約3.85重量%の銀と、約3.93重量%のビスマスと、約0.68重量%の銅と、約0.22重量%のニッケルと、約0.08重量%のセリウムと、残部 錫および不可避的不純物とを含む。
【0034】
他の実施形態において、3〜4.5重量%の銀と、3〜5重量%のビスマスと、0.3〜1.2重量%の銅と、0.05〜0.3重量%のニッケルと、0.01〜0.1重量%のチタンと、残部 錫および不可避的不純物とを含む合金が提供される。そのような合金は、209.3〜220.6℃の溶融範囲を有する。この実施形態の1つの具体例において、合金は、約3.86重量%の銀と、約3.99重量%のビスマスと、約0.63重量%の銅と、約0.16重量%のニッケルと、約0.043重量%のチタンと、残部 錫および不可避的不純物とを含む。
【0035】
他の実施形態において、3〜4.5重量%の銀と、3〜5重量%のビスマスと、0.3〜1.2重量%の銅と、0.05〜0.3重量%のニッケルと、0.01〜0.1重量%のコバルトと、残部 錫および不可避的不純物とを含む合金が提供される。そのような合金は、209.1〜216.1℃の溶融範囲を有する。この実施形態の1つの具体例において、合金は、約3.82重量%の銀と、約3.96重量%のビスマスと、約0.6重量%の銅と、約0.16重量%のニッケルと、約0.042重量%のコバルトと、残部 錫および不可避的不純物とを含む。
【0036】
他の実施形態において、3〜4.5重量%の銀と、2〜4重量%のビスマスと、0.3〜1.2重量%の銅と、0.05〜0.25重量%のニッケルと、0.001〜0.01重量%のマンガンと、残部 錫および不可避的不純物とを含む合金が提供される。そのような合金は、209.2〜216.8℃の溶融範囲を有する。この実施形態の1つの具体例において、合金は、約3.9重量%の銀と、約3重量%のビスマスと、約0.6重量%の銅と、約0.12重量%のニッケルと、約0.006重量%のMnと、残部 錫および不可避的不純物とを含む。
【0037】
他の実施形態において、3〜4.5重量%の銀と、2〜4重量%のビスマスと、0.3〜1.2重量%の銅と、0.05〜0.3重量%のニッケルと、0.001〜0.01重量%のゲルマニウムと、残部 錫および不可避的不純物とを含む合金が提供される。そのような合金は、208.2〜218.6℃の溶融範囲を有する。この実施形態の1つの具体例において、合金は、約3.85重量%の銀と、約3.93重量%のビスマスと、約0.63重量%の銅と、約0.15重量%のニッケルと、約0.006重量%のゲルマニウムと、残部 錫および不可避的不純物とを含む。
【0038】
他の実施形態において、4〜5重量%の銀と、3〜5重量%のビスマスと、0.3〜1.2重量%の銅と、0.05〜0.3重量%のニッケルと、3〜4重量%のインジウムと、残部 錫および不可避的不純物とを含む合金が提供される。そのような合金は、195.6〜210.7℃の溶融範囲を有する。この実施形態の1つの具体例において、合金は、約4.24重量%の銀と、約3.99重量%のビスマスと、約0.63重量%の銅と、約0.18重量%のニッケルと、約3.22重量%のインジウムと、残部 錫および不可避的不純物とを含む。
【0039】
他の実施形態において、3.5〜5重量%の銀と、2〜5重量%のビスマスと、0.4〜1.3重量%の銅と、0.05〜0.3重量%のニッケルと、0.01〜0.1重量%のセリウムと、残部 錫および不可避的不純物とを含む合金が提供される。そのような合金は、209.8〜217.0℃の溶融範囲を有する。この実施形態の1つの具体例において、合金は、約3.91重量%の銀と、約2.9重量%のビスマスと、約0.72重量%の銅と、約0.2重量%のニッケルと、約0.04重量%のセリウムと、残部 錫および不可避的不純物とを含む。
【0040】
他の実施形態において、3.5〜5重量%の銀と、2〜5重量%のビスマスと、0.3〜1.2重量%の銅と、0.05〜0.3重量%のニッケルと、0.01〜0.08重量%のランタンと、残部 錫および不可避的不純物とを含む合金が提供される。そのような合金は、210.96〜220.8℃の溶融範囲を有する。この実施形態の1つの具体例において、合金は、約3.87重量%の銀と、約3.02重量%のビスマスと、約0.61重量%の銅と、約0.14重量%のニッケルと、約0.038重量%のランタンと、残部 錫および不可避的不純物とを含む。
【0041】
他の実施形態において、3.5〜5重量%の銀と、3〜5重量%のビスマスと、0.3〜1.2重量%の銅と、0.05〜0.3重量%のニッケルと、0.01〜0.08重量%のネオジムと、残部 錫および不可避的不純物とを含む合金が提供される。そのような合金は、207.8〜219.5℃の溶融範囲を有する。この実施形態の1つの具体例において、合金は、約3.86重量%の銀と、約3.99重量%のビスマスと、約0.64重量%の銅と、約0.14重量%のニッケルと、約0.044重量%のネオジムと、残部 錫および不可避的不純物とを含む。
【0042】
他の実施形態において、3.5〜5重量%の銀と、3〜5重量%のビスマスと、0.3〜1.2重量%の銅と、0.05〜0.3重量%のニッケルと、0.01〜0.08重量%のコバルトと、残部 錫および不可避的不純物とを含む合金が提供される。そのような合金は、209〜217℃の溶融範囲を有する。この実施形態の1つの具体例において、合金は、約3.94重量%の銀と、約3.92重量%のビスマスと、約0.7重量%の銅と、約0.12重量%のニッケルと、約0.023重量%のコバルトと、残部 錫および不可避的不純物とを含む。
【0043】
本明細書に記載の合金は、不可避的不純物を含有し得るが、これらは全体で組成の1重量%を超えそうもないということは、認識されるであろう。合金は、好ましくは組成の0.5重量%以下の量で不純物を含有し、より好ましくは組成の0.3重量%以下であり、さらにより好ましくは組成の0.1重量%以下であり、さらにより好ましくは組成の0.05重量%以下であり、最も好ましくは組成の0.02重量%以下である。
【0044】
本明細書に記載の合金は、本質的には列挙した元素からなり得る。それ故に、必須であるそれらの元素(すなわち、Sn、Ag、Bi、Cu、並びにNi、Ti、Co、In、Znおよび/またはAsの少なくとも1つ)に加えて、組成物の本質的な特性が他の不特定の元素の存在により実質的に影響を及ぼされないという条件で、組成物中に他の不特定の元素が存在してよいことは認識されるであろう。
【0045】
1つの実施形態において、合金は比較的低い融点を示し、一般的には約195〜約222℃(より一般的には約209〜約218℃)である。このことは約230〜約240℃のリフローピーク温度を可能にするため好都合である。
【0046】
他の実施形態において、合金は、従来のSnAg3.0Cu0.5合金より高いか等しい熱伝導率および/または電気伝導率を示す。このことは、例えば発光ダイオード(LED)、ソーラーエレクトロニクス、パワーエレクトロニクスのようなエネルギー関連用途において好都合である。
【0047】
本発明の合金は、例えば、バー、棒、ソリッドワイヤ若しくはフラックスコアードワイヤ、箔若しくはストリップ、皮膜、プリフォーム、または粉末若しくはペースト(粉末とフラックスとの混合)、またはボールグリッドアレイの接合部に用いるはんだ球、またはプリフォームはんだ片若しくはリフローしたはんだ接合部若しくは凝固した(または、固化した、solidified)はんだ接合部、または光起電力用途若しくは任意の型のプリント回路板に用いる銅リボンのような任意のはんだ付け可能な材料への予備塗布(または、予備はんだ、pre−applied)の形態であってよい。
【0048】
他の態様において、本発明は、
(i)接合する2つ以上のワークピース(または被加工部品、work piece)
を供給する工程;
(ii)請求項1〜10のいずれかに記載のはんだ合金を供給する工程;および
(iii)接合するワークピースの近傍ではんだ合金を加熱する工程
を含むはんだ接合部の形成方法を提供する。
【0049】
他の態様において、本発明は、はんだ付け方法における本明細書に記載の合金の使用を提供する。そのようなはんだ付け方法としては、限定されないが、例えば、ウェーブはんだ付け、表面実装技術(SMT)のはんだ付け、ダイアタッチのはんだ付け、サーマルインターフェースはんだ付け(thermal interface soldering)、手はんだ付け(または、ハンドソルダリング、hand soldering)、レーザーはんだ付けおよび高周波誘導はんだ付け(または、RF誘導はんだ付け、RF induction soldering)、およびリワークはんだ付け、ラミネーション(または、ラミネート、lamination)が挙げられる。
【0050】
これらの合金のわずかの非限定的な実施例およびそれらの性能の概要により、以下の図面を参照して、本発明をさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1図1は、(a)鋳造状態(または、鋳造後、as cast)の合金Aおよび(b)150℃での熱処理後の合金Aの微細構造の電子顕微鏡像を示す。金属間化合物は、SEM−EDXにより同定した。
図2図2は、(a)鋳造状態の合金B、および(b)150℃での熱処理後の合金Bの微細構造の電子顕微鏡像を示す。金属間化合物はSEM−EDXにより同定した。
図3図3は、(a)鋳造状態の合金Cおよび(b)150℃での熱処理後の合金Cの微細構造の電子顕微鏡像を示す。金属間化合物はSEM−EDXにより同定した。
図4図4は、(a)鋳造状態の合金Dおよび(b)150℃での熱処理後の合金Dの微細構造の電子顕微鏡像を示す。金属間化合物はSEM−EDXにより同定した。
図5図5は、SnAg3.0Cu0.5および本発明に係る合金についての室温における(a)最大引張強さおよび(b)降伏強さの比較を示す。
図6図6は、SnAg3.0Cu0.5および本発明に係る合金についての150℃における(a)最大引張強さおよび(b)降伏強さの比較を示す。
図7図7は、SnAg3.0Cu0.5および本発明に係る合金の150℃における(a)クリープ破断時間、および(b)破断が測定されたときのクリープ伸びの比較を示す。
図8図8は、SnAg3.0Cu0.5および本発明に係る合金のゼロ濡れ時間(または、ゼロクロス時間、ゼロクロスタイム、zerо wetting time)をそれらのはんだ付け性の測定として示す。
図9図9は、落下衝撃試験の間のBGAの故障率を表すワイブル分布曲線を示す。
図10図10は、温度サイクル試験の間のBGAの故障率を表すワイブル分布曲線を示す。
図11図11は、温度サイクル試験前後のBGAの断面の電子顕微鏡像を示す。
図12図12は、温度サイクル試験前後に測定したチップ抵抗器の部品のせん断力を示す。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下の非限定的な実施例に関連して本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0053】
実施例1−合金A
合金Aは、3.63重量%の銀と、3.92重量%のビスマスと、0.76重量%の銅と、0.18重量%のニッケルと、残部 錫および不可避的不純物とを含む。
【0054】
この合金の鋳造状態の断面は、BiSn、AgSnおよびCuSnを含む微細構造を示している(図1(a)参照)。AgSnは錫マトリックス中に分散されているが、針状の析出物のようにも見える。他の金属間化合物Sn−BiおよびSn−Cuの析出物は、マトリックス中に不均一に分散している。約150℃で約200時間の熱処理の後、針状のAgSnの著しい減少が観察され、より均一な微細構造を示している。また熱処理の後、微細構造は、Sn−マトリックス中においてより均一な析出物の分散、およびNi、Cu−Snの析出物の存在を示す(図1(b)参照)。
【0055】
そのような微細構造、すなわち、より均一なマトリックスおよび微細に分布した金属間化合物の析出物の存在は、固溶硬化と析出硬化との両方が合金の強度および改善された機械的特性の原因であることを示唆する。クリープ現象は、そのような微細構造により減少することが予測される。
【0056】
合金Aは、207.2〜215.9℃の溶融範囲;19.6の熱膨張率CTE(μm/mK)(30〜100℃);31のビッカース硬さ(HV−1)を有する。比較目的のためであるが、従来の合金のSnAg3.0Cu0.5は、216.6〜219.7℃の溶融範囲;22.4の熱膨張率CTE(μm/mK)(30〜100℃);15のビッカース硬さ(HV−0.5)を有する。
【0057】
実施例2−合金B
合金Bは、3.81重量%の銀と、3.94重量%のビスマスと、0.8重量%の銅と、0.25重量%のニッケルと、0.04重量%のセリウムと、残部 錫および不可避的不純物とを含む。合金Bもまた、BiSn、AgSnおよびCuSnを含む微細構造を示している(図2(a)参照)。合金Aと同様に、AgSnは錫マトリックス中に分散しているが針状の析出物のようにも見え、またSn−Cuの析出物はマトリックス中に不均一に分散している。約150℃で約200時間の熱処理の後、共晶Ag−Snを明らかに見ることができ、針状のAgSnの著しい減少も観察され、より均一な微細構造を示す(図2(b)参照)。合金Aのように、熱処理後、Ni、Cu−Snの析出物がマトリックス中に確認される。そのような析出物をX線回折分析によりNiSn析出物と同定した。
【0058】
合金Bは、208.8〜219.4℃の溶融範囲;22.8の熱膨張率CTE(μm/mK)(30〜100℃);28のビッカース硬さ(HV−1)を有する。
【0059】
実施例3−合金C
合金Cは、3.8重量%の銀と、2.98重量%のビスマスと、0.7重量%の銅と、0.1重量%のニッケルと、0.01重量%のチタンと、残部 錫および不可避的不純物とを含む。鋳造状態の微細構造(図3(a)参照)は、粒界に沿って分散した高濃度の微細なAgSnの析出物から構成され、クリープの間の粒界滑りを防ぐことが予測され、従って合金の耐クリープ性を改善する。 150℃で約200時間のエージング後、析出物の著しい成長が観察される(図3(b)参照)。
【0060】
合金Cは、210.4〜215.9℃の溶融範囲;23.8の熱膨張率CTE(μm/mK)(30〜100℃);28のビッカース硬さ(HV−1)を有する。
【0061】
実施例4−合金D
合金Dは、3.85%の銀と、3.93%のビスマスと、0.68%の銅と、0.22%のニッケルと、0.078%のセリウムと、残部 錫および不可避的不純物とを含む。この合金の微細構造(図4(a)参照)は、CuSnの析出物と共に長い針状のAgSnを示している。
【0062】
合金Dは、209.0〜220.4℃の溶融範囲;22の熱膨張率CTE(μm/mK)(30〜100℃);29のビッカース硬さ(HV−1)を有する。
【0063】
実施例5−合金E
合金Eは、3.86%の銀と、3.99%のビスマスと、0.63%の銅と、0.16%のニッケルと、0.043%のチタンと、残部 錫および不可避的不純物とを含む。合金Eは、209.3〜220.6℃の溶融範囲;30のビッカース硬さ(HV−1)を有する。
【0064】
実施例6−合金F
合金Fは、3.82%の銀と、3.96%のビスマスと、0.6%の銅と、0.16%のニッケルと、0.042%のコバルトと、残部 錫および不可避的不純物とを含む。合金Fは、209.1〜216.1℃の溶融範囲;22.4の熱膨張率CTE(μm/mK)(30〜100℃)を有する。
【0065】
実施例7−合金G
合金Gは、3.9%の銀と、3%のビスマスと、0.6%の銅と、0.12%のニッケルと、0.006%のマンガンと、残部 錫および不可避的不純物とを含む。合金Gは、209.2〜216.8℃の溶融範囲;28のビッカース硬さ(HV−1)を有する。
【0066】
実施例8−合金H
合金Hは、3.83%の銀と、3.93%のビスマスと、0.63%の銅と、0.15%のニッケルと、0.006%のゲルマニウムと、残部 錫および不可避的不純物とを含む。合金Hは、208.2〜218.6℃の溶融範囲;21.7の熱膨張率CTE(μm/mK)(30〜100℃);29のビッカース硬さ(HV−1)を有する。
【0067】
実施例9−合金I
合金Iは、4.20%の銀と、3.99%のビスマスと、0.63%の銅と、0.18%のニッケルと、3.22%のインジウムと、残部 錫および不可避的不純物とを含む。合金Iは、195.6〜210.7℃の溶融範囲を有する。
【0068】
実施例10−合金J
合金Jは、3.91%の銀と、2.9%のビスマスと、0.72%の銅と、0.2%のニッケルと、0.04%のセリウムと、残部 錫および不可避的不純物とを含む。合金Jは、209.8〜217.0℃の溶融範囲;22.7の熱膨張率CTE(μm/mK)(30〜100℃);27のビッカース硬さ(HV−1)を有する。
【0069】
実施例11−合金K
合金Kは、3.87%の銀と、3.02%のビスマスと、0.61%の銅と、0.14%のニッケルと、0.038%のランタンと、残部 錫および不可避的不純物とを含む。合金Kは、210.96〜220.8℃の溶融範囲;29のビッカース硬さ(HV−1)を有する。
【0070】
実施例12−合金L
合金Lは、3.86%の銀と、3.99%のビスマスと、0.64%の銅と、0.14%のニッケルと、0.044%のネオジムと、残部 錫および不可避的不純物とを含む。合金Lは、207.8〜219.5℃の溶融範囲;29のビッカース硬さ(HV−1)を有する。
【0071】
実施例13−合金M
合金Mは、3.94%の銀と、3.92%のビスマスと、0.7%の銅と、0.12%のニッケルと、0.023%のコバルトと、残部 錫および不可避的不純物とを含む。合金Mは、209〜217℃の溶融範囲;22.6の熱膨張率CTE(μm/mK)(30〜100℃)を有する。
【0072】
表1は、SnAg3.0Cu0.5および合金A〜Mの固相温度および液相温度を示す。合金A〜M全てについて、固相温度は従来のSnAg3.0Cu0.5合金の共晶温度付近より低い。合金A〜Mおよび従来のSnAg3.0Cu0.5合金の液相温度は大体同じである。
【0073】
【表1】
【0074】
図5は、SnAg3.0Cu0.5および本発明に係る合金についての室温における(a)最大引張強さ、および(b)降伏強さの比較を示す(引張測定の試験方法については、ASTM E8/E8M−09参照)。室温における引張特性は著しい改善を示す。とりわけ、合金A、B、C、D、E、F、I、J、KおよびLについての室温における最大引張強さは、SnAg3.0Cu0.5よりも60%〜110%高い。降伏強さはこれらの合金の強度と同様の増加を示し、SnAg3.0Cu0.5を上回って40%〜81%の改善を示す。
【0075】
図6は、SnAg3.0Cu0.5および本発明に係る合金についての150℃における(a)最大引張強さ、および(b)降伏強さの比較を示す(引張測定の試験方法については、ASTM E8/E8M−09を参照)。最大引張強さおよび降伏強さは150℃において減少する。しかし、SnAg3.0Cu0.5を上回る合金A、BおよびCの優れた特性を維持する。SnAg3.0Cu0.5と比較した場合、両方の特性が約30〜43%の改善を示す。
【0076】
クリープ特性の試験は、比較的長時間に渡って、変形(弾性および塑性)の変化を評価する。高温クリープの場合、微細構造の強化の現象は、微細構造のアニーリングに起因して引き起こされる応力緩和と交互に起こる。
【0077】
図7は、SnAg3.0Cu0.5および本発明に係る合金の150℃における(a)クリープ破断時間、および(b)破断が測定されたときのクリープ伸びの比較を示す(クリープ測定の試験方法については、ASTM E139を参照)。本発明の合金は、SnAg3.0Cu0.5よりも著しく高いクリープ強度(クリープ破断時間およびクリープ全塑性変形により与えられる)を有する。例えば、150℃における合金Cのクリープ強度は、SnAg3.0Cu0.5よりも141%高い。同様の傾向が破断のときのクリープ伸びについて観察され、合金CについてはSnAg3.0Cu0.5よりも76%大きい。
【0078】
図8は、SnAg3.0Cu0.5および新規の合金のゼロ濡れ時間を、それらのはんだ付け性および濡れ性の測定として示す(ウェッティングバランス法の試験方法については、JIS Z 3198−4を参照)。本発明に係る合金の濡れ性は、従来のSnAg3.0Cu0.5合金と同等である。
【0079】
本発明に係る合金中において合金添加に起因する金属間化合物の形成は、バルク合金およびはんだ接合部の付加的強度をもたらす。ここまで、引張測定、硬度測定およびクリープ測定により本明細書に例示した。次に、本発明に係る合金の落下衝撃性能および温度サイクル性能を基準のSnAg3.0Cu0.5と比較する。
【0080】
図9は、落下衝撃試験の間のBGAの故障率を表すワイブル分布曲線を示す(落下衝撃試験の試験方法については、JESD22−B111を参照)。合金A、BおよびCは、SnAg3.0Cu0.5を上回って、約37%、約23%および約43%の落下衝撃の特性寿命の改善を有する(すなわち、63%の故障率の水準のとき)。
【0081】
図10は、温度サイクル試験の間のBGAの故障率を説明するワイブル分布曲線を示す。温度サイクルのプロファイルは、各温度において30分の滞留時間で−40℃から+150℃を用いた(温度サイクル測定の試験方法については、IPC−9701を参照)。この試験を全2000サイクルについて実行して、新規の合金の熱機械的な耐疲労性を評価した。引例の合金は円で表され、合金Aは四角、および合金Cはダイヤ記号で表される。2000サイクルの完了前に、SnAg3.0Cu0.5のBGAとはんだペーストとの組立部品の100%が故障した。しかし、合金AのBGAとはんだペーストとの組立部品の32%、および合金CのBGAとはんだペーストとの組立部品の40%は温度サイクル試験を乗り切った。全体として、SnAg3.0Cu0.5を上回ったかなりの特性寿命の改善(すなわち、63%の故障率の水準のとき)が合金Cについて観察された。
【0082】
図11は、温度サイクル試験前後のBGAの断面の電子顕微鏡像を示す。SnAg3.0Cu0.5におけるクラック発生が500回の温度サイクルの後に観察された。合金AおよびCについて、1000回の温度サイクルをして初めてクラックが観察された。1500サイクルの後、SnAg3.0Cu0.5のBGAとはんだペースト部品との組立品を用いる部品において広範囲にわたるクラックが観察された。
【0083】
図12は、温度サイクル試験前後に測定したチップ抵抗器の部品のせん断力を示す(せん断力測定の試験方法については、JIS Z3198−7を参照)。1000回の温度サイクルの後、合金AまたはCを用いるPCBに接合した1206チップ抵抗器をせん断するために必要な力は、SnAg3.0Cu0.5合金を用いるものよりも70%大きい。これらの結果は、新規の合金の優れた温度サイクル性能を裏付ける。
【0084】
従って、合金組成は、従来の合金であるSnAg3.0Cu0.5と比べて改善された室温の機械的特性およびまた高温の機械的特性を示す。これらの合金組成はまた、SnAg3.0Cu0.5と同等のはんだ付け性および濡れ性を実証している。さらに、これらの合金組成は、従来のSnAg3.0Cu0.5合金と比べて改善された耐落下衝撃性および優れた熱機械的信頼性を示している。
【0085】
以上の詳細にわたる記述は、説明および図を手段として提供されており、添付の特許請求の範囲を限定することを意図しない。本明細書に説明した現在の好ましい実施形態の多くのバリエーションは当業者にとって明確であろうし、添付の特許請求の範囲およびそれらの均等物の範囲内にある。

本明細書の開示内容は、以下の態様を含む。
態様1:
鉛フリーかつアンチモンフリーのはんだ合金であって、
(a)10重量%以下の銀と、
(b)10重量%以下のビスマスと、
(c)3重量%以下の銅と、
(d)以下の元素の少なくとも1つと、
1重量%以下のニッケル
1重量%以下のチタン
1重量%以下のコバルト
3.5重量%以下のインジウム
1重量%以下の亜鉛
1重量%以下のヒ素
(e)必要に応じて以下の元素の1つ以上と、
0〜1重量%のマンガン
0〜1重量%のクロム
0〜1重量%のゲルマニウム
0〜1重量%の鉄
0〜1重量%のアルミニウム
0〜1重量%のリン
0〜1重量%の金
0〜1重量%のガリウム
0〜1重量%のテルリウム
0〜1重量%のセレン
0〜1重量%のカルシウム
0〜1重量%のバナジウム
0〜1重量%のモリブデン
0〜1重量%の白金
0〜1重量%のマグネシウム
0〜1重量%の希土類元素
(f)残部 錫および不可避的不純物と
を含むはんだ合金。

態様2:
前記合金が、2.5〜5重量%の銀、好ましくは3〜5重量%の銀、より好ましくは3〜4.5重量%の銀を含む態様1に記載のはんだ合金。

態様3:
前記合金が、2〜6重量%のビスマス、好ましくは2.5〜5重量%のビスマス、より好ましくは2.8〜4.5重量%のビスマスを含む態様1または2に記載のはんだ合金。

態様4:
前記合金が、0.3〜2重量%の銅、好ましくは0.4〜1重量%の銅、より好ましくは0.5〜0.9重量%の銅、さらにより好ましくは0.6〜0.9重量%の銅を含む態様1〜3のいずれかに記載のはんだ合金。

態様5:
前記合金が、0.01〜1重量%のニッケル、好ましくは0.03〜0.6重量%のニッケル、より好ましくは0.05〜0.5重量%のニッケルを含む態様1〜4のいずれかに記載のはんだ合金。

態様6:
前記合金が、0.005〜0.5重量%のチタン、好ましくは0.007〜0.1重量%のチタン、より好ましくは0.008〜0.05重量%のチタンを含む態様1〜5のいずれかに記載のはんだ合金。

態様7:
前記合金が、3〜5重量%の銀と、2〜5重量%のビスマスと、0.3〜1.5重量%の銅と、0.05〜0.4重量%のニッケルと、必要に応じて、0.008〜0.06重量%のチタンと、必要に応じて、0.005〜0.2の希土類元素(好ましくはセリウム)と、必要に応じて、3〜4重量%のインジウムと、必要に応じて、1重量%以下のゲルマニウムと、必要に応じて、1重量%以下のマンガンと、必要に応じて、0.01〜0.1重量%のコバルトと残部 錫および不可避的不純物とを含む態様1に記載のはんだ合金。

態様8:
前記合金が:3.5〜4.5重量%の銀;2.8〜4.2重量%のビスマス、好ましくは2.8〜4重量%のビスマス;0.5〜0.9重量%の銅、好ましくは0.6〜0.9重量%の銅;0.1〜0.3重量%のニッケル;必要に応じて、0.008〜0.02重量%のチタン;必要に応じて、0.01〜0.08の希土類元素、好ましくはセリウム;必要に応じて、0.002〜0.01重量%のマンガン;および必要に応じて、0.002〜0.01重量%のゲルマニウムを含む態様7に記載のはんだ合金。

態様9:
前記合金が、195〜222℃、好ましくは207〜220℃、より好ましくは209〜218℃の融点を有する態様1〜8のいずれかに記載のはんだ合金。

態様10:
バー、棒、ソリッドワイヤ若しくはフラックスコアードワイヤ、箔若しくはストリップ、または粉末若しくはペースト(粉末とフラックスとの混合)、またはボールグリッドアレイの接合若しくはチップスケールパッケージに用いるはんだ球、またはフラックス入り若しくはフラックス塗布を伴う若しくは伴わない他の予備塗布したはんだ片の形態である態様1〜9のいずれかに記載のはんだ合金。

態様11:
態様1〜10のいずれかに記載の合金を含む接合部。

態様12:
(i)接合する2つ以上のワークピースを供給する工程;
(ii)態様1〜10のいずれかに記載のはんだ合金を供給する工程;および
(iii)接合する前記ワークピースの近傍で前記はんだ合金を加熱する工程
を含むはんだ接合部の形成方法。

態様13:
ウェーブはんだ付け、表面実装技術(SMT)のはんだ付け、ダイアタッチのはんだ付け、サーマルインターフェースのはんだ付け、手はんだ付け、レーザーはんだ付けおよび高周波誘導はんだ付け、およびリワークはんだ付け、ラミネーションのようなはんだ付け方法における、態様1〜10のいずれかに記載の合金組成物の使用。
図1(a)】
図1(b)】
図2(a)】
図2(b)】
図3(a)】
図3(b)】
図4(a)】
図4(b)】
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12