(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6395724
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】医薬化合物
(51)【国際特許分類】
C07F 5/00 20060101AFI20180913BHJP
C07F 15/00 20060101ALI20180913BHJP
A61K 31/28 20060101ALI20180913BHJP
A61K 31/282 20060101ALI20180913BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
C07F5/00 DCSP
C07F5/00 J
C07F15/00 F
A61K31/28
A61K31/282
A61P35/00
【請求項の数】19
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-549346(P2015-549346)
(86)(22)【出願日】2013年12月19日
(65)【公表番号】特表2016-504331(P2016-504331A)
(43)【公表日】2016年2月12日
(86)【国際出願番号】US2013000276
(87)【国際公開番号】WO2014098926
(87)【国際公開日】20140626
【審査請求日】2016年12月19日
(31)【優先権主張番号】61/797,945
(32)【優先日】2012年12月19日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515166761
【氏名又は名称】ロバート・ショア
(73)【特許権者】
【識別番号】515166772
【氏名又は名称】ロバート・ロドリゲス
(73)【特許権者】
【識別番号】515166783
【氏名又は名称】ポール・ビンガム
(73)【特許権者】
【識別番号】515166794
【氏名又は名称】ラクマル・ボテジュ
(73)【特許権者】
【識別番号】515166808
【氏名又は名称】トーマス・クォック
(73)【特許権者】
【識別番号】515166819
【氏名又は名称】ジェームズ・マレセク
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106080
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 晶子
(72)【発明者】
【氏名】ロバート・ショア
(72)【発明者】
【氏名】ロバート・ロドリゲス
(72)【発明者】
【氏名】ポール・ビンガム
(72)【発明者】
【氏名】ラクマル・ボテジュ
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・クォック
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ・マレセク
【審査官】
吉海 周
(56)【参考文献】
【文献】
特表2002−528446(JP,A)
【文献】
特表2011−516473(JP,A)
【文献】
特表2010−524963(JP,A)
【文献】
特表2010−526770(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/005310(WO,A1)
【文献】
国際公開第2004/024139(WO,A1)
【文献】
米国特許第7232919(US,B2)
【文献】
Kono, Yohei et al.,Antiproliferative effects of a new α-lipoic acid derivative, DHL-HisZnNa, in HT29 human colon cancer cells in vitro,Expert Opinion on Therapeutic Targets ,2012年,16(S1),S103-S109.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 5/00
C07F 15/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキル脂肪酸
アナログであって、
前記アナログは、下記一般式IまたはIIを有し、式Iは下記によって表され:
【化1】
(式中、nは
2であり、xは1〜16
であり、
R
1は、
ガドリニウムまたはインジウムであり、
各々は、対イオン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アルキルアリール、ヘテロアリールまたはアルキルヘテロアリールと複合体を形成してもよく、
R
2およびR
3は、
チオエーテルであり、
R
4は、アルキル、アルケニル、アルキニル、アルキルアリール、ヘテロアリール、アルキルヘテロアリール、
−OH、エステル、アミンまたはアミドである)
およびその塩または溶媒和物
であり、
式IIは下記によって表され:
【化2】
およびその塩または溶媒和物である。
【請求項2】
前記アナログは、一般式Iを有する、請求項1に記載のアナログ。
【請求項3】
R1は、対イオンと複合体を形成してもよいガドリニウムであり、
R4は、−OHまたはエステルである、
請求項2に記載のアナログ。
【請求項4】
R1は、対イオンと複合体を形成してもよいインジウムであり、
R4は、−OHまたはエステルである、
請求項2に記載のアナログ。
【請求項5】
前記アナログは、下記
【化3】
である、請求項1に記載の
アナログ。
【請求項6】
前記アナログは、下記
【化4】
である、請求項1に記載のアナログ。
【請求項7】
前記アナログは、一般式IIを有する、請求項1に記載のアナログ。
【請求項8】
治療有効量の少なくとも1種の請求項1に記載のアルキル脂肪酸アナログと少なくとも1種の薬学的に許容されるその担体または賦形剤とを含む医薬製剤。
【請求項9】
少なくとも1種のアルキル脂肪酸アナログが、約0.001mg/m2〜約10g/m2で提供される量で存在する、請求項8に記載の医薬製剤。
【請求項10】
治療有効量の少なくとも1種の請求項2に記載のアルキル脂肪酸アナログと少なくとも1種の薬学的に許容されるその担体または賦形剤とを含む医薬製剤。
【請求項11】
治療有効量の少なくとも1種の請求項3に記載のアルキル脂肪酸アナログと少なくとも1種の薬学的に許容されるその担体または賦形剤とを含む医薬製剤。
【請求項12】
治療有効量の少なくとも1種の請求項4に記載のアルキル脂肪酸アナログと少なくとも1種の薬学的に許容されるその担体または賦形剤とを含む医薬製剤。
【請求項13】
治療有効量の少なくとも1種の請求項5に記載のアルキル脂肪酸アナログと少なくとも1種の薬学的に許容されるその担体または賦形剤とを含む医薬製剤。
【請求項14】
治療有効量の少なくとも1種の請求項6に記載のアルキル脂肪酸アナログと少なくとも1種の薬学的に許容されるその担体または賦形剤とを含む医薬製剤。
【請求項15】
治療有効量の少なくとも1種の請求項7に記載のアルキル脂肪酸アナログと少なくとも1種の薬学的に許容されるその担体または賦形剤とを含む医薬製剤。
【請求項16】
細胞過剰増殖によって特徴づけられる疾患の処置または予防のための請求項8〜15のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項17】
前記疾患が癌である、請求項16に記載の医薬製剤。
【請求項18】
前記疾患が腫瘍、肉腫、リンパ腫、白血病、生殖細胞腫瘍、または芽腫である、請求項16に記載の医薬製剤。
【請求項19】
前記疾患が膵臓癌または肺癌である、請求項16に記載の医薬製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬製剤に関し、より詳細には、アルキル脂肪酸、例えば限定されないがリポ酸の新規アナログおよび誘導体を含む治療剤、その薬学的に許容される製剤、ならびにその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌が発生する正確なメカニズムは依然として集中的な研究対象であり、癌の起源に関する統一した理論は明確でないままである。最近の研究により癌が患者自身の細胞および組織から発生する疾患であることが確認された。実際に個々の患者が複数の腫瘍細胞型を有することがあり、同じ診断を受けた患者でも同一ではなく、また同じ患者でも(疾患の進行がさらに複雑な要因となり)同一でないことがあることが知られる。いずれにしても高度に個別化した疾患の性質は、個別化医薬の要求を推し進める重要な要因である。120万人のアメリカ人が毎年新たに癌と診断され、1000万人のアメリカ人が疾患を抱えながら生活しており、癌が疾患関連死の主因となりうることから、新しい治療アプローチの確立が特に急がれる。
【0003】
増殖の速い腫瘍細胞の大部分は、非変形細胞に対して顕著な遺伝的、生化学的および組織学的差異を示すことが観察されており、例えば起源組織と比較してエネルギー代謝が顕著に変化する。腫瘍細胞において最も高名で周知のエネルギー代謝変化は、高濃度のO
2存在下でも増加した解糖能であり、ワールブルク(Warburg)効果として知られる現象である。その結果として解糖は一般的に固形腫瘍における主要なエネルギー経路と考えられてきた。腫瘍の進行と解糖系酵素ヘキソキナーゼおよびホスホフクルトキナーゼ(PFK:phosphofructokinase)1の活性との間には直接的な相関関係もあり、その活性は増殖の速い腫瘍細胞において大きく増加する。このことから酸化能力の欠乏を示す腫瘍細胞は、活発な酸化的リン酸化を示す腫瘍細胞よりも悪性度が高いと仮定されてきた。低酸素条件下または好気性条件下のいずれであっても、癌組織の解糖に対する依存は、悪性度の増加に関係する。
【0004】
ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(PDH:pyruvate dehydrogenase)複合体はワールブルク効果と関係づけられてきた(例えば、参照により本明細書に組み込まれるMcFate T、Mohyeldin A、Lu H、Thakar J、Henriques J、Halim ND、Wu H、Schell MJ、Tsang TM、Teahan O、Zhou S、Califano JA、Jeoung NH、Harris RA、およびVerma A(2008).Pyruvate dehydrogenase complex activity controls metabolic and malignant phenotype in cancer cells.J Biol Chem 283:22700−8を参照)。従ってワールブルク代謝への移行はPDH複合体の機能停止を要求する。この移行において、癌細胞中の低酸素誘導因子(HIF:hypoxia−inducing factor)によるシグナル伝達(signalling)が増強され、次いでピルビン酸デヒドロゲナーゼキナーゼ(PDK:pyruvate dehydrogenase kinase)1の過剰発現が誘発され、これらが不活性PDH複合体の維持に特に有効となる。しかしながら癌で観察されるPDK1の変化は、その濃度の変化によるだけではなく、ある腫瘍型と別の腫瘍型またはある患者と別の患者の間でさえ活性が変化すること、おそらくはアミノ酸配列が変化することにも起因しうる。さらにPDK1は、示された腫瘍型に依存して、腫瘍に関連する様々な分子と多様な複合体を形成しうる。最近の研究により、癌細胞をより好気的に代謝させることで腫瘍増殖が抑えられることが示唆される。さらに、PDH複合体の活性化は、活性酸素窒素種(RONS:reactive oxygen and nitrogen species)の産生増強に結びつき、これはアポトーシスに結びつく可能性がある。従って、PDKの阻害は腫瘍にアポトーシスを生成させる有望な標的となりうる。しかしながら、現在までに、既知のPDK1阻害剤はこのアイソザイムの阻害を最大で60%引き起こすことしか実証されていない。
【0005】
従来の化学療法は、細胞の分裂および増殖を標的とするが、全ての臨床的に許容される化学療法処置は、正常で増殖性の宿主細胞にも重大な障害を誘発させる大量の薬物を使用する。一方で、固形腫瘍における低酸素領域への薬物送達は、薬物が様々な細胞層を容易に透過できないとき困難となりうる。従って、より選択的な標的化が癌の処置に必要である。化学療法に関連した別の問題点は、多くの腫瘍型において、抗新生物薬剤に対する本来性または獲得性の耐性があるということである。全体として従来の化学療法は、ほとんどの悪性腫瘍に対して長期的な有益性を現在のところあまり与えておらず、生命の長さまたは生活の質を縮小させる有害な副作用と関係することも多い。
【0006】
従って、生活の相当の質を可能にしながら長期的な腫瘍制御を可能にする根本的に新規なアプローチが必要とされる。このような必要性を満たすために、少なくともマイクロモル未満の範囲で代謝阻害定数を有する抗癌剤を設計することが有利であろう。ワールブルク効果を中心的に考えることで、腫瘍と正常細胞との間の物理化学的または生化学的エネルギーの差異に基づき薬物を設計することができ、健常な組織機能には影響を与えずに腫瘍の代謝および増殖のみに選択的に作用する送達および治療戦略を設計することが容易になる。
【0007】
リポ酸(6,8−ジチオオクタン酸)は、金属をキレート化する能力および抗解糖能力を有する硫黄含有酸化防止剤である。リポ酸は、酸化還元対の酸化部分であり、還元されてジヒドロリポ酸(DHLA:dihydrolipoic acid)となることができる。脂質相または水性相のいずれかのみで活性な多くの酸化防止剤と異なり、リポ酸は脂質相および水性相の両方において活性である。リポ酸の抗解糖能力は、その疎水結合能力と組み合わさって、リポ酸が血流中のアルブミンのグリコシル化を抑制することを可能にする。リポ酸は、食事から容易に吸収され、ほとんどの組織においてNADHまたはNADPHによって急速にDHLAに変換される。さらにリポ酸とDHLAの両方が、シグナル伝達(signalling)分子としてRONSを使用する細胞内シグナル伝達経路を調整可能な酸化防止剤である。
【0008】
リポ酸が細胞で産生されるかまたは必須栄養素であるかは明らかになっていないが、その理由は組織型間、ならびに健常細胞と疾患細胞の間、またはさらには同一種の個体間で細胞内濃度に差異が存在することがあるからである。ミトコンドリアのポンプまたは取込機構、例えば結合および輸送シャペロンは、リポ酸のミトコンドリアへの輸送に重要でありうる。リポ酸を利用する酵素の多くを含むサブユニットの発現レベルおよび化学量論は、エネルギー代謝ならびに増殖、発生および分化と関係し、食事および運動ならびに遺伝によって変動することがすでに知られる。健常細胞のPDH複合体について、リポ酸の補因子としての役割がよく研究されてきた。PDH複合体は、中心のE2(ジヒドロリポイルトランスアセチラーゼ)サブユニットコアとそれを囲むE1(ピルビン酸デヒドロゲナーゼ)およびE3(ジヒドロリポイルデヒドロゲナーゼ)サブユニットで複合体を形成しており、アナログのアルファ−ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ(α−KDH:alpha−ketoglutarate dehydrogenase)、アセトインデヒドロゲナーゼ(ADH:acetoin dehydrogenase)および分岐鎖アルファ−ケト酸デヒドロゲナーゼ(BCKADH:branched chain alpha−keto acid dehydrogenase)複合体もリポ酸を補因子として使用する。E1とE3サブユニット間のギャップにおいて、リポイルドメインが中間体を活性部位間で輸送する。リポイルドメイン自体は、フレキシブルリンカーによってE2コアと結合される。ピルベートとチアミンピロホスフェートとの反応によりヘミチオアセタールが形成されると、このアニオンは、リシン残基に結合された酸化リポエート種のS1を攻撃する。その結果、リポエートS2はスルフィドまたはスルフヒドリル部分として置き換えられ、続いて四面体のヘミチオアセタールの分解によりチアゾールが排出され、TPP補因子が放出され、リポエートのS1上にチオアセテートが生成される。この時点で、リポエート−チオエステル機能性はE2活性部位へと移動し、このE2活性部位で、トランスアシル化反応により、アセチルがリポエートの「スイングアーム(swinging arm)」から補酵素Aのチオールへと移送される。これによりアセチル−CoAが生成され、生成されたアセチル−CoAは酵素複合体から放出され、続けてTCAサイクルに入る。複合体のリシン残基に結合されたままのジヒドロリポエートは、その後、E3活性部位に移動し、そこでフラビン介在性の酸化を受けてリポエート休止状態に戻り、FADH
2(最終的にはNADH)が産生され、リポエートが再生されて活性なアシルアクセプタに戻る。
【0009】
Binghamらによる米国特許第6,331,559号および第6,951,887号ならびにBinghamらによる米国特許出願第12/105,096号は、全て参照により本明細書に組み込まれる文献であり、疾患特異的酵素および多酵素複合体の標的化を通して腫瘍細胞と、他の特定の種類の疾患細胞を両方とも選択的に標的化し、殺傷する新しい分類のリポ酸誘導体治療剤を開示する。これらの特許は、さらに治療有効量のそのようなリポ酸誘導体とその薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物およびその使用方法を開示する。
【0010】
本発明者は、前述の特許の範囲を越えるさらなるアナログおよび誘導体を見出した。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、下記一般式を有するアルキル脂肪酸、例えば限定されないがリポ酸のアナログまたは誘導体:
【0013】
(式中、nは1〜2であり、xは1〜16であり、生じる炭化水素鎖は飽和または不飽和鎖の混合であってもよく、
R
1は、希土類金属、例えば、限定されないが、ガドリニウム、インジウム、または白金であり、これらの金属は、対イオン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アルキルアリール、ヘテロアリールまたはアルキルヘテロアリールと複合体を形成してもよく、
R
2およびR
3は、独立してチオエーテルまたはチオエステルであり、
R
4は、アルキル、アルケニル、アルキニル、アルキルアリール、ヘテロアリール、アルキルヘテロアリール、アルコール、エステル、アミンまたはアミドである)
およびその塩、プロドラッグまたは溶媒和物に関する。
【0014】
詳細な例を以下に示す。
本発明のさらなる実施形態において、治療有効量の少なくとも1種の本明細書に記載のアルキル脂肪酸アナログまたは誘導体は、少なくとも1種の薬学的に許容される担体または賦形剤と組み合わされて、疾患細胞または組織が上記のようなアルキル脂肪酸アナログまたは誘導体に感受性であるヒトを含む温血動物の疾患の処置、予防、画像化または診断に有用な医薬製剤を形成する。少なくとも1種のアルキル脂肪酸アナログまたは誘導体は、約0.001mg/m
2〜約10g/m
2の量で存在する。さらに、これらのアナログまたは誘導体のいずれかまたは全てが疾患細胞、またはそのミトコンドリアもしくは他の小器官内で代謝されうることから、上記の言及したアナログまたは誘導体の代謝物も本発明の範囲内であることが明確に企図される。さらにそれぞれの一般式において、各特定の化合物の(R)−異性体は(S)−異性体よりも高い生理学的活性を有する。従って、少なくとも1種のアナログまたは誘導体は、(R)−異性体単独、または(R)−異性体と(S)−異性体との混合物のいずれかの形態で投与されるべきである。
【0015】
本発明のさらなる実施形態においては、本明細書に記載のアルキル脂肪酸アナログまたは誘導体の投与に感受性であるヒトを含む温血動物の疾患細胞または組織によって特徴づけられる疾患の処置、予防、画像化または診断方法であって、それを必要とする患者に治療有効量の少なくとも1種の本発明のいずれかの実施形態に記載のアルキル脂肪酸アナログまたは誘導体を投与するステップを含む、方法が提供される。好ましい実施形態では、少なくとも1種のアルキル脂肪酸アナログまたは誘導体は、少なくとも1種の薬学的に許容されるその担体と組み合わされて、医薬製剤を形成する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、下記一般式を有するアルキル脂肪酸、例えば限定されないがリポ酸の新規アナログまたは誘導体:
【0018】
(式中、nは1〜2であり、xは1〜16であり、生じる炭化水素鎖は飽和または不飽和鎖の混合であってもよく、
R
1は、希土類金属、例えば、限定されないが、ガドリニウム、インジウム、または白金であり、これらの金属は、対イオン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アルキルアリール、ヘテロアリールまたはアルキルヘテロアリールと複合体を形成してもよく、
R
2およびR
3は、独立してチオエーテルまたはチオエステルであり、
R
4は、アルキル、アルケニル、アルキニル、アルキルアリール、ヘテロアリール、アルキルヘテロアリール、アルコール、エステル、アミンまたはアミドである)
およびその塩、プロドラッグまたは溶媒和物に関する。
【0019】
特に、一般式(1)のアルキル脂肪酸アナログまたは誘導体としては、
【0021】
が挙げられる。
本明細書で使用するとき、アルキルはC
nH
2n+1として定義され、ここでnは1〜16である。アルキル基は、脂肪族(直鎖または分岐鎖)または脂環式であってもよく、脂環式基はいずれかの炭素において付加または置換を有して複素環を形成してもよい。少なくとも1つのヘテロ原子、例えば、N、OまたはSが、所与のアルキル基、つまり炭素鎖に存在してもよい。アルキル基は、いずれかの炭素において置換されていても、置換されていなくてもよい。
【0022】
本明細書で使用するとき、アルケニルはC
nH
2n−1として定義され、ここでnは1〜16である。アルケニル基は、脂肪族(直鎖または分岐鎖)または脂環式であってもよく、脂環式基はいずれかの炭素において付加または置換を有して複素環を形成してもよい。少なくとも1つのヘテロ原子、例えば、N、OまたはSが、所与のアルケニル基、つまり炭素鎖に存在してもよい。アルケニル基は、いずれかの炭素において置換されていても、置換されていなくてもよい。
【0023】
本明細書で使用するとき、アルキニルはC
mH
2m−3として定義され、ここでmは2〜10である。アルキニル基は、脂肪族(直鎖または分岐鎖)または脂環式であってもよく、脂環式基はいずれかの炭素において付加または置換を有して複素環を形成してもよい。少なくとも1つのヘテロ原子、例えば、N、OまたはSが、所与のアルキニル基、つまり炭素鎖に存在してもよい。アルキニル基は、いずれかの炭素において置換されていても、置換されていなくてもよい。
【0024】
本明細書で使用するとき、アリールは芳香族炭化水素から1個の水素原子を除去することによって得られる任意の1価の有機ラジカルを指す。アリールは、好ましくは5〜10個の炭素原子を有する不飽和環系である。アリールにはフェロセンなどの有機金属アリール基も含まれる。アリール基は、いずれかの炭素において置換されていても、置換されていなくてもよい。
【0025】
本明細書で使用するとき、ヘテロアリールは、ヘテロアリール部分がS、NおよびOからなる群から選択される1〜4個のヘテロ原子を含有する5または6員環である芳香族複素環系(単環式または二環式)を指す。ヘテロアリール基は、いずれかの原子において、特に炭素原子において、置換されていても、置換されていなくてもよい。
【0026】
本明細書で使用するとき、アシルはRC(O)−として定義され、ここでRは、限定されないが、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、アルキルアリール、ヘテロアリールまたはヘテロシクリルであることができ、それらはいずれも置換されていても、置換されていなくてもよい。
【0027】
上述の基の例示的な置換基としては、限定されないが、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アシル、アルコキシカルボニル、アルコキシ、アルコキシアルキル、アルコキシアルコキシ、シアノ、ハロゲン、ヒドロキシ、ニトロ、オキソ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、トリフルオロプロピル、アミノ、アミド、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、ジアルキルアミノアルキル、ヒドロキシアルキル、アルコキシアルキル、アルキルチオ、−SO
3H、−SO
2NH
2、−SO
2NH(アルキル)、−SO
2N(アルキル)
2、−CO
2H、CO
2NH
2、CO
2NH(アルキル)、および−CO
2N(アルキル)
2が挙げられる。さらに、任意の数の置換を上述の基のいずれかにおいて行ってもよく、別言すると、モノ−、ジ−、トリ−などの置換基を有することができ、置換基自体が置換されていてもよい。さらに、その基のいずれも、炭水化物、脂質、核酸、アミノ酸、またはそれらの任意のポリマー、または単鎖もしくは分岐鎖の合成ポリマー(約350〜約40,000の分子量範囲を有する)のいずれかで適切に全体的に置換されていてもよい。
【0028】
アミンは、第一級、第二級、または第三級であってもよい。
チオエステルまたはチオエーテル結合は、酸化されてスルホキシドまたはスルホンを生成してもよく、別原すると、連結における−S−は、−S(O)−または−S(O)
2であってもよい。さらにチオエステルまたはチオエーテル結合は、酸化されてチオスルフィン酸またはチオスルホン酸となりうるジスルフィドをさらに含んでもよく、別言すると、連結における−S−の代わりに、連結は、−S(O)−S−または−S(O)
2−S−であってもよい。
【0029】
治療有効量の少なくとも1種の上述した実施形態のいずれか1つのアルキル脂肪酸アナログまたは誘導体を、温血動物において疾患または症状の処置、予防、診断および/または画像化のために対象に投与することができる。または、本発明の別の実施形態において、治療有効量の少なくとも1種の上述した実施形態のいずれか1つのアルキル脂肪酸アナログまたは誘導体を、少なくとも1種の薬学的に許容されるその担体または賦形剤と組み合わせて温血動物において疾患または症状の処置、予防、診断および/または画像化のために有用な医薬製剤を形成することができる。そのような動物としては、哺乳類、例えば、ヒト、ウマ、ウシ、家庭用動物、例えば、イヌおよびネコなどが含まれる。薬学的に許容される担体の例としては、当該分野で周知のものが挙げられ、例えば、医薬組成物で従来使用されてきた担体、例えば限定されないが、溶媒、希釈剤、界面活性剤、溶解剤、塩、酸化防止剤、バッファー、キレート剤、風味料(flavorants)、着色剤、保存剤、生物学的利用能を増強させる吸収促進剤、抗生剤およびそれらの組み合わせ、場合により他の治療成分との組み合わせが挙げられる。医薬で使用されるとき、塩は薬学的に許容される塩であるべきであるが、薬学的に許容されない塩も、その薬学的に許容される塩を調製するために必要に応じて使用することができ、従って本発明の範囲から除外されない。そのような薬理学的および薬学的に許容される塩としては、限定されないが、塩化水素酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、マレイン酸、酢酸、パリチル(palicylic)酸、p−トルエンスルホン酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、蟻酸、マロン酸、コハク酸、ナフタレン−2−スルホン酸、およびベンゼンスルホン酸から調製される塩が挙げられる。さらに、薬学的に許容される塩は、カルボン酸基のアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩、例えばナトリウム、カリウムまたはカルシウム塩として調製することができる。
【0030】
本明細書での使用に特に適した溶媒としては、ベンジルアルコール、ジメチルアミン、イソプロピルアルコールおよびそれらの組み合わせが挙げられ、当業者は、適切な溶媒中で少なくとも1つのリポ酸誘導体を最初に溶解し、次いで希釈剤を用いて溶液を希釈することが望ましいことを容易に認識するであろう。
【0031】
静脈内投与に適した医薬製剤が所望されるとき、適切な希釈剤が使用される。任意の従来の水性または極性の非プロトン性溶媒が本発明の使用に適する。適切な薬学的に許容される希釈剤としては、限定されないが、食塩水(saline)、砂糖溶液、アルコール、例えば、エチルアルコール、メタノールおよびイソプロピルアルコール、極性非プロトン性溶媒、例えばジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)およびジメチルアセトアミド(DMA)、およびそれらの組み合わせが挙げられる。好ましい薬学的に許容される希釈剤は、ブドウ糖溶液、より好ましくは約2.5重量%〜約10重量%、より好ましくは約5重量%のブドウ糖を含むブドウ糖溶液である。薬学的に許容される希釈剤は、典型的に非ホモリシスな生成量で使用され、当業者は、本発明による医薬製剤の使用に適した希釈剤の量を容易に決定することができる。
【0032】
本明細書で使用するとき、治療有効量は、所望の効果が達成されるアルキル脂肪酸アナログまたは誘導体の投与量または複数回投与量を指す。一般的に、アナログまたは誘導体の有効量は、利用する具体的薬剤の活性、薬剤の作用の代謝安定性または長さ、対象の種、年齢、体重、全身的健康状態、摂食状態、性別および食事、投与様式および時間、排泄速度、あれば併用する薬物、ならびに処置する特定の病態の発現の程度および/または重症度に応じて変動しうる。正確な投与量は、過度の実験を必要とすることなく、当業者が1日あたり1回または複数回の投与において所望の結果が得られるように決定することができ、投与量は、所望の効果を達成するためまたは任意の複雑な状況の場合において、個々の医療従事者によって調整されることができる。
【0033】
本発明のアルキル脂肪酸アナログまたは誘導体は、患者に安全に投与できる最大量までの任意の所望の量で、いかなる様式で送達させてもよい。アナログまたは誘導体の量は、0.01mg/mL未満から1000mg/mL超、好ましくは約50mg/mLまでの範囲でありうる。
【0034】
一般に、本発明のアルキル脂肪酸アナログまたは誘導体は、目的の分子標的に薬剤を送達させるために有効な量を患者に投与するために十分な様式で送達される。従って投与量は約0.001mg/m
2から約10g/m
2、好ましくは約60mg/m
2までの範囲でありうる。投与量は、単回用量でまたは個別に分割された用量の形態で投与することができ、例えば1日あたり1〜4回以上で投与することができる。対象の応答が特定の用量では不十分な場合、さらに高用量(または異なる、より局在化した送達経路による効果的な高用量)を、患者に耐容性がある範囲で用いることができる。
【0035】
これらのアナログまたは誘導体のいずれかまたは全てが患者への投与の際に疾患細胞、またはそのミトコンドリアもしくは他の小器官内で代謝されうることから、上記の言及したアナログおよび誘導体の代謝物も本発明の範囲内であることが明確に企図される。さらにそれぞれの一般式において、各特定の化合物の(R)−異性体は(S)−異性体よりも高い生理学的活性を有する。従って、少なくとも1種のアナログまたは誘導体は、(R)−異性体単独、または(R)−異性体と(S)−異性体との混合物のいずれかの形態で投与されるべきである。
【0036】
本発明の医薬製剤は、従来の製剤化技術に従って調製することができ、当業者によって適切と認識されうる任意の医薬形態をとることができる。適切な医薬形態としては、例えば、固体、半固体、液体、または凍結乾燥製剤、例えば、錠剤、散剤、カプセル、坐剤、懸濁液、リポソーム、乳剤、ナノ乳剤、エアゾール、スプレー、ゲル、ローション、クリーム、軟膏などが挙げられる。そのような製剤が所望される場合、当該分野において周知の他の添加剤を所望の一貫性および他の特性を付与するために製剤に添加することができる。例えば、少なくとも1種のアルキル脂肪酸アナログまたは誘導体の原液を従来技術に従って調製することができ、次いで必要に応じて薬学的に許容される希釈剤で希釈して、滅菌非経口溶液などの液体調製物を形成することができる。
【0037】
本発明の医薬製剤は、医学的に許容されるとともに臨床的に有害な副作用を生じさせずに有効レベルの薬剤を提供する任意の投与形式を使用して投与することができる。非経口投与に特に適した製剤が好ましいが、本発明の医薬製剤は、任意の適切な容器、例えばバイアルまたはアンプルに含有することができ、例えば、限定されないが、吸入、経口、局所、経皮、鼻内、眼内、肺、直腸、経粘膜、静脈内、筋肉内、皮内、皮下、腹腔内、胸郭内、胸膜内、子宮内、腫瘍内、または注入による方法もしくは投与を含む複数の経路の1つを介した投与に適したものでありうる。当業者であれば、本発明のアナログまたは誘導体の投与様式が、処置される疾患または症状の種類に依存することを認識する。同様に、当業者は、特定の薬学的に許容される担体または賦形剤が、1つの投与様式に適切な医薬製剤と他の投与様式に適切な医薬製剤とで変化することも認識する。
【0038】
本発明のさらなる実施形態においては、本発明のアルキル脂肪酸アナログまたは誘導体に感受性の疾患細胞または組織によって特徴づけられる疾患の処置、予防、画像化または診断方法であって、それを必要とする患者に治療有効量の少なくとも1種のそのようなアナログまたは誘導体を投与するステップを含む、方法が提供される。好ましい実施形態においては、少なくとも1種のアルキル脂肪酸アナログまたは誘導体が、本発明による医薬製剤に組み込まれる。
【0039】
本発明のアルキル脂肪酸アナログもしくは誘導体およびその医薬製剤は、細胞性PDH、α−KDH、ADHおよび/またはBCKADH複合体活性の変更または異質化が関与する疾患の処置、予防、画像化または診断に使用することができる。PDH、α−KDH、ADHおよび/またはBCKADH複合体活性が変化したまたは異常な細胞が特定的に標的とされ、従って投与に際し、本発明のアナログまたは誘導体は、選択的および特異的に腫瘍塊に送達されてその中の変形細胞内に取込まれ、それらの細胞のミトコンドリア内に効果的に濃縮されることとなり、健常な細胞および組織は、前記アナログまたは誘導体の作用を免れる。このように本発明の薬剤は、細胞過剰増殖によって特徴づけられる疾患の処置に特に適する。当業者はそのような活性を提示する疾患を容易に同定することができ、またはそのようなアナログもしくは誘導体に感受性の目的の疾患を容易にスクリーニングすることができる。
【0040】
本発明のアルキル脂肪酸アナログまたは誘導体およびその医薬製剤は、
腫瘍、肉腫、リンパ腫および白血病、生殖細胞腫瘍および芽腫などの一般的な癌に有用であることが期待される。より詳細には、本発明の医薬組成物は、限定されないが、原発性および転移性のメラノーマ、肺癌、肝臓癌、ホジキンおよび非ホジキンリンパ腫、子宮癌、子宮頸癌、膀胱癌、腎臓癌、結腸癌、ならびに乳癌、前立腺癌、卵巣癌および膵臓癌のような腺癌に有用であると考えられる。本発明の薬剤により処置しうる細胞過剰増殖によって特徴づけられる他の疾患の非限定的な例としては、加齢黄斑変性症、クローン病、肝硬変、慢性炎症性関連障害、糖尿病性網膜症もしくはニューロパシー、肉芽腫、臓器移植もしくは組織移植に関連した免疫過剰反応、免疫過剰疾患もしくは障害(例えば、炎症性腸疾患、乾癬、関節リウマチもしくは全身性エリテマトーデス)、網膜低酸素症に続く血管過剰増殖、または脈管炎が挙げられる。
【0041】
本明細書に記載の方法を適用することによって、本発明のアルキル脂肪酸アナログまたは誘導体およびその医薬製剤は、細胞過剰増殖によって特徴づけられる疾患以外の疾患の処置、予防、画像化または診断にも使用することができる。例えば、ヒトおよび他の動物の真核生物病原体は、一般に細菌性病原体よりも処置が非常に困難であるが、その理由は、真核細胞が細菌細胞よりもはるかに動物細胞によく類似するためである。そのような真核生物病原体としては、原生動物、例えばマラリアを引き起こす原生動物、ならびに菌類および藻類の病原体が挙げられる。本発明のアルキル脂肪酸アナログまたは誘導体は形質転換していないヒトおよび動物細胞に対する毒性が非常に低いために、ならびに多くの真核生物病原体がライフサイクルにおいてそのようなアナログまたは誘導体にPDH、α−KDH、ADH、および/またはBCKADH複合体が感受性になる段階を経る可能性があるために、本発明のアルキル脂肪酸アナログまたは誘導体およびその医薬製剤は、殺菌剤として使用することができる。
【0042】
本発明の詳細な実施形態を、以下の実施例を参照して示す。これらの実施例は、単に本発明の例証として開示され、いかなる意味でも本発明の範囲を制限するものではないことが理解されるべきである。
【実施例1】
【0043】
癌細胞の細胞殺傷活性についてのアナログのスクリーニング
目的
この試験の目的は、BXPC3ヒト膵臓癌、H460非小細胞肺癌(non small lung carcinoma)およびSF539ヒト神経膠肉腫の癌細胞におけるリポ酸のアナログのインビトロ細胞殺傷活性を評価することであった。
【0044】
材料および方法
材料
材料は全て下記製造業者から正規の販布経路を通して得た。
【0045】
Costar不透明壁プレート、Corning Costar Corporation、ケンブリッジ、マサチューセッツ州、カタログ番号3917、Fisher Scientificカタログ番号07−200−628
FLUOstar OPTIMA、BMG LABTECH、オッフェンブルグ、ドイツ
CellTiter Glo(登録商標)(CTG)Luminescent Cell Viability Assay、Promega、Fisher Scientificカタログ番号PR−G7573
RPMI 1640組織培養培地、Mediatech、Fisher Scientificカタログ番号MT−10040−CV
ウシ胎児血清(FBS)、Fisher Scientificカタログ番号MTT35011CV
ペニシリンおよびストレプトマイシン、Fisher Scientificカタログ番号MT30−009−CI
腫瘍細胞株
BXPC3ヒト膵臓癌、H460非小細胞肺癌、およびSF539ヒト神経膠肉腫の3種のヒト腫瘍細胞をこの試験で使用した。BXPC3およびH460細胞は、初めに米国培養細胞系統保存機関(ATCC:American Type Cell Culture)から取得した。SF539細胞は、初めにNCIエイズ・癌検体バンク(ACSB:AIDS and Cancer Specimen Bank)から取得した。全ての腫瘍細胞は、2mMのL−グルタミン、10%のFBSおよび1%のペニシリンおよびストレプトマイシン(100IU/mLのペニシリンおよび100μg/mLのストレプトマイシン)を含有する20mLのロズウェル・パーク・メモリアル・インスティチュート(RPMI:Roswell Park Memorial Institute)1640の20mLを含むT75組織培養フラスコ中で湿性5%CO
2雰囲気下、37℃で維持した。腫瘍細胞を、4〜5日ごとにトリプシン処置によって1:5の比率で分割し、新しいフラスコ中の新鮮培地に再懸濁した。細胞は70〜90%のコンフルエンシーで実験のために回収した。
【0046】
試験物質
各アナログの原液を200および100mMの濃度でDMSO溶液として調製した。5μLのこの溶液を、10.0mLの0.5%血清含有RPMI培地で希釈して、所望の100μMおよび50μMの0.05%DMSO溶液を得た。
【0047】
試験手順
試験概要
癌細胞を、H460細胞については4000細胞/ウェルで、BXPC3細胞およびSF539細胞については6000細胞/ウェルで播種し、24時間インキュベートした。アナログの殺傷活性は、50μMおよび100μMの濃度で分析した。腫瘍細胞を試験物質で24時間処置し、処置から24時間後に、生腫瘍細胞数を、CTG分析を使用して決定した。
【0048】
実験のための細胞播種
細胞を70〜90%コンフルエントまで増殖させ、培地を除去し、細胞の単層を5mLのリン酸緩衝食塩水(PBS)を添加して軽く洗浄し、次いで吸引した。トリプシン−エチレンジアミン四酢酸(EDTA)(4mL)を各フラスコに添加し、フラスコを組織培養インキュベータ内に5分間置いた。血清含有培地(10mL)を添加して酵素反応を停止させ、細胞を血清学的ピペットで繰り返し再懸濁して分解させた。細胞含有培地(20μL)を、20μLの0.4%トリパンブルー溶液に添加し、混合し、10μLのこの細胞含有混合物を血球計数器のチャンバー内に置いた。生細胞数を、血球計数器のチャンバーの4角で倍率100倍にて生細胞(トリパンブルーを排除した細胞)の数を計数して測定し、現存細胞の平均数を得た。必要細胞体積(volume of cells needed)は以下の式によって計算した:
必要細胞体積 =
分析に要した細胞数(mL)
計数した細胞数(mL)
式中、計数した細胞数(mL)=血球計数器での細胞平均数×2(希釈係数)×10
4。
【0049】
試験で標的化した細胞数は、100μLの培地中で、H460細胞についてはウェルあたり4×10
3であり、BXPC3およびSF539細胞についてはウェルあたり6×10
3である。細胞の実数を計数し、96ウェルプレートのウェル中に播種した。細胞をおよそ24時間インキュベートした後に試験物質を添加した。
【0050】
試験物質を用いた処置
プレート中の培地を吸引により除去し、100μLの試験物質を最終濃度50μMまたは100μMで細胞に添加した。試験物質に24時間曝露させた後、各ウェル中の生細胞数を測定し、コントロール(試験物質無し)に対する生細胞のパーセントを計算した。さらに、1セットのウェルを細胞不在の細胞培地で処置し、バックグラウンドの発光値を得た。別個の細胞セットを、透明な96ウェルプレートに同時に播種し、試験物質の添加後24時間、顕微鏡下で観察し、処置後に存在する細胞量を見積もった。
【0051】
CTG分析による生細胞数の決定
生細胞数を、CTG分析を使用して決定した。詳細には、Promega,Inc.(マディソン、ウィスコンシン州)の指示書に従って試薬を混合し、室温にさせた。細胞プレートを細胞培養インキュベータから取り出し、室温に達するまで、30分間ベンチ上で放置した。ウェルあたり100μLのCTG試薬を、12チャネルのエッペンドルフピペッタを用いて添加した。細胞をシェーカー中で2分間プレートを振ることによって溶解した。細胞を室温で10分間維持し、発光シグナルを安定化させた。発光は、FLUOstar OPTIMAプレートリーダー(BMG Labtech,Inc.、ダラム、ノースカロライナ州)を使用して測定した。
【0052】
細胞殺傷活性の計算
読み取った発光データをEXCELシートに写し、未処置細胞に対する細胞増殖を、以下の式を使用して計算した:
NTに対する増殖% =
試験物質の発光平均 × 100%
未処置の発光平均
結果および結論
試験結果を表1にまとめる。
【0053】
【表1】
【0054】
表1から明らかなように、本発明の各アナログは、試験した癌細胞株の少なくとも1種に対して50μM濃度、100μM濃度またはその両方のいずれかでインビトロの細胞殺傷活性を実証した。
【0055】
本発明の態様
態様1
下記一般式を有するアルキル脂肪酸アナログまたは誘導体:
【化5】
(式中、nは1〜2であり、xは1〜16であり、生じる炭化水素鎖は飽和または不飽和鎖の混合であってもよく、
R1は、希土類金属、例えば、限定されないが、ガドリニウム、インジウム、または白金であり、これらの金属は、対イオン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アルキルアリール、ヘテロアリールまたはアルキルヘテロアリールと複合体を形成してもよく、
R2およびR3は、独立してチオエーテルまたはチオエステルであり、
R4は、アルキル、アルケニル、アルキニル、アルキルアリール、ヘテロアリール、アルキルヘテロアリール、アルコール、エステル、アミンまたはアミドである)
およびその塩、プロドラッグまたは溶媒和物。
態様2
以下からなる群:
【化6】
から選択される、態様1に記載のアナログまたは誘導体。
態様3
治療有効量の少なくとも1種の態様1に記載のアルキル脂肪酸アナログまたは誘導体と少なくとも1種の薬学的に許容されるその担体または賦形剤とを含む医薬製剤。
態様4
少なくとも1種のアルキル脂肪酸アナログまたは誘導体が、約0.001mg/m2〜約10g/m2で提供される量で存在する、態様3に記載の医薬製剤。
態様5
アルキル脂肪酸アナログまたは誘導体に感受性の疾患細胞または組織によって特徴づけられる疾患の処置、予防、画像化または診断方法であって、それを必要とする患者に治療有効量の少なくとも1種の態様1に記載のアルキル脂肪酸アナログまたは誘導体を投与するステップを含む、方法。
態様6
少なくとも1種のアルキル脂肪酸アナログまたは誘導体が、少なくとも1種の薬学的に許容される添加剤をさらに含む医薬製剤中にある、態様5に記載の方法。
上述の議論は、本発明の単なる例示である実施形態を開示し、記述する。当業者は、上記のような議論および添付の特許請求の範囲から、添付の特許請求の範囲に定義される本発明の趣旨および範囲を逸脱することなく、様々な変化、修飾および変更が為されうることを容易に認識する。さらに、例示的な実施形態を本明細書に示すが、当該分野で実施される他の実施形態も本発明の他の設計または使用と認識されうる。従って、本発明はその例示的な実施形態に関連させて記述されたが、設計と使用の両方において多くの変更が当業者に明らかであり、本出願はそのような任意の適応および変形を包含することが企図されることが理解されよう。従って、本発明は特許請求の範囲およびその均等物によってのみ制限されることが明白に企図される。さらに本明細書で引用される特許出願、特許および他の文献は、全て参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。