特許第6395726号(P6395726)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6395726タンパク質凝集を開始させるためのRNA除去の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6395726
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】タンパク質凝集を開始させるためのRNA除去の使用
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/44 20060101AFI20180913BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20180913BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20180913BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   C12Q1/44
   C12Q1/02
   G01N33/50 Z
   G01N33/15 Z
【請求項の数】22
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2015-554247(P2015-554247)
(86)(22)【出願日】2014年1月23日
(65)【公表番号】特表2016-505274(P2016-505274A)
(43)【公表日】2016年2月25日
(86)【国際出願番号】GB2014050177
(87)【国際公開番号】WO2014114937
(87)【国際公開日】20140731
【審査請求日】2016年12月5日
(31)【優先権主張番号】1301233.1
(32)【優先日】2013年1月24日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】515200272
【氏名又は名称】クイーン メアリー ユニバーシティ オブ ロンドン
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100122389
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 栄一
(74)【代理人】
【識別番号】100111741
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 夏夫
(74)【代理人】
【識別番号】100169971
【弁理士】
【氏名又は名称】菊田 尚子
(74)【代理人】
【識別番号】100188271
【弁理士】
【氏名又は名称】塚原 優子
(72)【発明者】
【氏名】アールム,ヨハン
(72)【発明者】
【氏名】シーア,デニース
【審査官】 布川 莉奈
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−526046(JP,A)
【文献】 特表2011−515072(JP,A)
【文献】 G. Scott Pesiridis et al.,A "Two-hit" Hypothesis for Inclusion Formation by Carboxyl-terminal Fragments of TDP-43 Protein Linked to RNA Depletion and Impaired Microtubule-dependent Transport,The Journal of Biological Chemistry,2011年 5月27日,vol.286 no.21,18845-18855
【文献】 Paola Barboro et al.,Unraveling the Organization of the Internal Nuclear Matrix: RNA-Dependent Anchoring of NuMA to a Lamin Scaffold,Experimental Cell Research,2002年,279,202-218
【文献】 Elisa A. Waxman et al.,A novel,high-efficiency cellular of fibrillar α-synuclein inclusions and the examination of mutations that inhibit amyloid formation,Journal of Neurochemistry,2010年,vol.113,374-388
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00− 3/00
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/WPIDS/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞又は細胞溶解物において複数のタンパク質の凝集を開始させるためのRNA除去の使用であって、前記RNAがリボソームRNAを含む、使用
【請求項2】
前記RNAがリボソームRNAである、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
RNAが分解によって除去される、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
RNAが、前記細胞又は細胞溶解物へのRNAリボヌクレアーゼの添加によって分解される、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記リボヌクレアーゼが、RNase A、RNase T1、RNAse V1、及び/又はRNase 1fを含む、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
前記複数のタンパク質中の少なくとも1つのタンパク質が、タンパク質凝集と関連する疾患の発症機序に関与する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
少なくとも1つのタンパク質が、神経変性疾患におけるプラーク形成に関与する、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記疾患が、II型糖尿病、封入体筋炎/ミオパチー、又は神経変性疾患、例えばアルツハイマー病、運動ニューロン疾患(MND)、パーキンソン病、前頭側頭認知症及びプリオン病である、請求項6に記載の使用。
【請求項9】
前記複数のタンパク質が、アミロイド-β、MAPT、α-シヌクレイン(SNCA)、TARDBP、FUS、HTT、PRNP、及びニューロフィラメント(NF-H)のうちの少なくとも1つを含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
前記複数のタンパク質が、アミロイド-β、MAPT及びSNCAであるか、又はアミロイド-β、MAPT及びSNCAを含む、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記複数のタンパク質が、アミロイド-β、MAPT、SNCA、TARDBP、FUS、HTT、PRNP、及びニューロフィラメント(NF-H)を含む、請求項9に記載の使用。
【請求項12】
前記タンパク質の1つがMAPTであり、凝集の開始がMAPTの過剰リン酸化を引き起こす、請求項9に記載の使用。
【請求項13】
前記タンパク質の1つがSNCAであり、凝集の開始がSNCAのリン酸化を引き起こす、請求項9に記載の使用。
【請求項14】
タンパク質凝集を特徴とする疾患のin vitroモデルを作製する方法であって、請求項1〜13のいずれか一項にしたがって、RNA除去を使用して、細胞又は細胞溶解物において複数のタンパク質の凝集を開始させるステップを含み、除去される前記RNAがリボソームRNAを含む、方法。
【請求項15】
潜在的抗タンパク質凝集剤の有効性を決定する方法であって、以下のステップ;
(i) 請求項1〜13のいずれか一項にしたがって、RNA除去を使用して、細胞又は細胞溶解物において複数のタンパク質の凝集を開始させるステップであって、除去される前記RNAがリボソームRNAを含む、ステップ
(ii) RNA除去の前、後又は最中に該細胞又は細胞溶解物を潜在的抗タンパク質凝集剤で処理するステップ、及び
(iii) ステップ(ii)の処理を行った及び行わなかった同等のサンプルにおいてタンパク質凝集を比較するステップ
を含み、ここで、ステップ(ii)の処理に関連するタンパク質凝集の減少により、該潜在的抗タンパク質凝集剤がタンパク質凝集を阻止及び/又は解消するのに有効であることが示される、方法。
【請求項16】
潜在的抗タンパク質凝集剤の有効性を決定する方法であって、以下のステップ;
(i) 請求項1〜13のいずれか一項にしたがって、RNA除去を使用して、細胞又は細胞溶解物において複数のタンパク質の凝集を開始させるステップであって、除去される前記RNAがリボソームRNAを含む、ステップ
(ii) タンパク質凝集体を単離するステップ、
(iii) 単離されたタンパク質凝集体をRNAで処理して、該タンパク質のリフォールディングを誘導し、可溶性画分を形成するステップ、
(iv) RNA除去を使用して、該可溶性画分においてタンパク質の凝集を開始させるステップであって、除去される前記RNAがリボソームRNAを含む、ステップ
(v) ステップ(iv)におけるRNA除去の前、後又は最中に該画分を潜在的抗タンパク質凝集剤で処理するステップ、及び
(vi) ステップ(v)の処理を行った及び行わなかった同等のサンプルにおいてタンパク質凝集を比較するステップ
を含み、ここで、ステップ(v)の処理に関連するタンパク質凝集の減少により、該潜在的抗タンパク質凝集剤がタンパク質凝集を阻止及び/又は解消するのに有効であることが示される、方法。
【請求項17】
前記潜在的抗タンパク質凝集剤が、RNA分解を阻止又は解消する、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
凝集体が単離され、ウエスタンブロット又はELISAによって解析される、請求項15〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
凝集体が、フィルター保持アッセイ、ELISA又は分光分析によって前記細胞又は細胞溶解物内で直接解析される、請求項15〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
請求項15〜19のいずれか一項に記載の方法によって複数の潜在的抗タンパク質凝集剤をスクリーニングする方法であって、タンパク質凝集の最大の減少を引き起こす該剤が、最も有効であると決定される、方法。
【請求項21】
タンパク質凝集のプリオン様拡大を阻止、阻害又は解消するための作用剤の有効性を決定する方法であって、以下のステップ;
(i) 請求項1〜13のいずれか一項にしたがって、RNA除去を使用して、第一の細胞又は細胞溶解物において複数のタンパク質の凝集を開始させるステップであって、除去される前記RNAがリボソームRNAを含む、ステップ
(ii) 第二の細胞又は細胞溶解物をステップ(i)に由来する凝集したタンパク質のサンプルで処理するステップ、
(iii) 凝集したタンパク質のサンプルによる処理の前、最中又は後に該第二の細胞又は細胞溶解物に作用剤を添加するステップ、及び
(iv) ステップ(iii)の処理を行った及び行わなかった該第二の細胞若しくは細胞溶解物の同等のサンプルにおいてタンパク質凝集を比較するステップ
を含み、ここで、ステップ(iii)の処理に関連するタンパク質凝集の減少により、該作用剤がタンパク質凝集のプリオン様拡大を阻止、阻害及び/又は解消するのに有効であることが示される、方法。
【請求項22】
除去される前記RNAが、リボソームRNAである、請求項14〜21のいずれか一項に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、in vitroで、例えば細胞溶解物において、タンパク質凝集を誘導する方法に関する。本方法は、複数のタンパク質の同時凝集を誘導し、タンパク質凝集を特徴とする病的状態を効果的に再現し得る。この誘導された凝集は、タンパク質凝集を阻止し、低減し、又は解消する能力について潜在的治療化合物をスクリーニングするための有用なモデルである。
【背景技術】
【0002】
不溶性凝集体へのタンパク質の集合は、多くの神経変性疾患、例えばアルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病(HD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)及びプリオン病を含めたいくつかの疾患の特徴である。しかし、タンパク質凝集は、中枢神経系(CNS)に制限されているわけでは決してなく、II型糖尿病及び封入体筋炎/ミオパチーほど多様な疾患においても生じる。
【0003】
関連する神経変性疾患のそれぞれは、特定の脳領域における変性、並びにニューロン、他の細胞における若しくは細胞外における異常タンパク質の沈着を有する、ニューロンの選択的脆弱性を伴う。これらの神経変性疾患が、タンパク質凝集及び封入体形成を含めた共通の細胞性及び分子的機構を有することがますます認識されている。凝集体は、β-シートコンフォメーションを有し得るミスフォールドしたタンパク質を含有する繊維から通常構成され、異常タンパク質が沈着している細胞と変性する細胞との間に完全ではないが部分的な重複がある。
【0004】
各疾患は特定のタンパク質の凝集と主に関連しているが、かなりの重複があり、同じタンパク質が様々な疾患にわたって凝集することが見い出され得る。例えば、ADは凝集したアミロイド-β及びタウ(tau)タンパク質と主に関連し、PDはユビキチンに結合したタンパク質α-シヌクレインを含む凝集体と関連し、HDは変異体ハンチントンと関連する。しかし、α-シヌクレイン凝集体はPDの不変の特徴であるが、それらはADにおいても生じることが報告されている。同様に、TDP-43凝集は、ALS及び前頭側頭認知症と関連しているが、ADの多く(30〜50%)の症例とも関連している。
【0005】
タンパク質凝集体と神経変性疾患との十分に報告された関連にもかかわらず、凝集体の生成をもたらす原因機構はわかっていない。タンパク質凝集体の生成及びそれらが関連するその後の神経変性障害に関与するプロセスの理解が乏しいために、治癒的な治療戦略はない。タンパク質凝集と関連するいずれかの神経変性疾患に対する治癒的な治療はいまのところない。そのため、現在の治療戦略は、緩和ケアに焦点を当てており、できるだけ長く症状の出現を抑制することを目的としている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ほとんどの神経変性障害において、家族性突然変異の発生は極めて稀であり、症例の大部分は家族歴なしに生じる。タンパク質凝集を研究するための現在の方法は、細胞又はモデル生物における、家族性疾患原因突然変異を有することが多い、組換えタンパク質のin vitroでの使用又はタンパク質の強制的発現に大いに依存している。これらの方法は単一タンパク質の研究には十分かもしれないが、それらは、特定の疾患と関連する全てのタンパク質の凝集をほとんど再現しない。例えば、ADのトランスジェニック動物モデル(突然変異したAPP及び/又はPSEN1若しくはPSEN2の導入遺伝子発現)は、アミロイド-β凝集を示すが、タウ凝集を実証せず、したがって、ヒトADの特徴の1つを欠く。現在、タウ凝集を再現するために、ヒトADには見出されていない突然変異をMAPT遺伝子に導入しなければならない。いくつかの薬物、例えばADに対する薬物は、疾患の動物モデルにおいて有効性を実証しているという事実にもかかわらず、神経変性疾患を標的とする薬物の失敗率は高い。したがって、現在のモデルは、それらが対象とするヒト疾患を忠実に表していない可能性が高い。
【0007】
したがって、これらの不都合を伴わないタンパク質凝集の改善されたモデルに対するニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、内因性RNAが、凝集体のない状態で細胞性タンパク質を維持する役割を有し、RNAの除去がタンパク質凝集を引き起こすという重要な知見を見出した。
【0009】
本発明者らは、細胞又は細胞溶解物からRNAを除去又は分解することによっていくつかのタンパク質の凝集を同時に誘導する方法を開発した。細胞溶解物は、例えば脳組織の、組織溶解物であってよい。
【0010】
このアッセイは、タンパク質の凝集を阻害する又はそれらの正常なコンフォメーションを安定化する能力を調べるために、潜在的治療剤、例えば小分子又は生物剤をスクリーニングするのに有用である。
【0011】
特に、PRNPの感染性プリオンへの変換を引き起こす凝集の失敗(missaggregation)がRNAによって増強されることが示されている(Deleault et al (2003) RNA molecules stimulate prion protain conversion. Nature 425(6959): p. 717-20)という事実を考慮すると、RNAの除去がタンパク質凝集を誘発することは驚くべきことである。
【0012】
第一の態様において、本発明は、細胞又は細胞溶解物において複数のタンパク質の凝集を開始させるためのRNA除去の使用を提供する。
【0013】
RNAはリボソームRNAであってよい。
【0014】
RNAは、例えば細胞又は細胞溶解物へのRNAリボヌクレアーゼの添加による、分解によって除去されてよい。
【0015】
リボヌクレアーゼは、RNase A、RNase T1、RNAse V1、及び/又はRNase 1fを含んでよい。
【0016】
複数のタンパク質中の少なくとも1つのタンパク質は、タンパク質凝集と関連する疾患の発症機序に関与してよく、例えば、それは、神経変性疾患におけるプラーク形成に関与してよい。
【0017】
タンパク質の少なくとも1つは、疾患の発症機序に関与してよい。疾患は、例えば、II型糖尿病、封入体筋炎/ミオパチー、神経変性疾患、例えばアルツハイマー病、運動ニューロン疾患(MND)、パーキンソン病、前頭側頭認知症及びプリオン病、あるいはガンであってよい。様々なタンパク質、例えばp53の凝集はガンと関連する(Bom et al., Mutant p53 aggregates into prion-like amyloid oligomers and fibrils: Implications for cancer. Journal of Biological Chemistry, 2012)。
【0018】
複数のタンパク質は、アミロイド-β、MAPT、SCNA、TARDBP、FUS、HTT、PRNP、ニューロフィラメント(NF-H)及びα-シヌクレインのうちの任意の1つ以上を含んでよい。
【0019】
複数のタンパク質は、アミロイド-β、MAPT及びSCNAであってよく、又はアミロイド-β、MAPT及びSCNAを含んでよい。
【0020】
複数のタンパク質は、アミロイド-β、MAPT、SCNA、TARDBP、FUS、HTT、PRNP、ニューロフィラメント(NF-H)及びα-シヌクレインの全てを含んでよい。
【0021】
一実施形態において、タンパク質の1つはMAPTであり、凝集の開始はMAPTの過剰リン酸化を引き起こす。
【0022】
別の実施形態において、タンパク質の1つはSNCAであり、凝集の開始はSNCAのリン酸化を引き起こす。
【0023】
細胞は、例えば、神経細胞(neuronal cell)、Jurkat T細胞又はHeLa細胞であってよい。細胞溶解物はそのような細胞から調製してよい。
【0024】
第二の態様において、本発明は、タンパク質凝集を特徴とする疾患のin vitroモデルを作製する方法であって、本発明の第一の態様にしたがって、RNA除去を使用して、細胞又は細胞溶解物において複数のタンパク質の凝集を開始させるステップを含む、方法を提供する。
【0025】
モデルは、タンパク質凝集のプリオン様拡大を含んでよい。
【0026】
第三の態様において、本発明は、潜在的抗タンパク質凝集剤の有効性を決定する方法であって、以下のステップ;
(i) 本発明の第一の態様にしたがって、RNA除去を使用して、細胞又は細胞溶解物において複数のタンパク質の凝集を開始させるステップ、
(ii) RNA除去の前、後又は最中に該細胞又は細胞溶解物を潜在的抗タンパク質凝集剤で処理するステップ、及び
(iii) ステップ(ii)の処理を行った及び行わなかった同等のサンプルにおいてタンパク質凝集を比較するステップ
を含み、ここで、ステップ(ii)の処理に関連するタンパク質凝集の減少により、該潜在的抗タンパク質凝集剤がタンパク質凝集を阻止及び/又は解消するのに有効であることが示される、方法を提供する。
【0027】
本方法は、以下のステップ;
(i) 本発明の第一の態様にしたがって、RNA除去を使用して、細胞又は細胞溶解物において複数のタンパク質の凝集を開始させるステップ、
(ii) タンパク質凝集体を単離するステップ、
(iii) 単離されたタンパク質凝集体をRNAで処理して、該タンパク質のリフォールディングを誘導し、可溶性画分を形成するステップ、
(iv) RNA除去を使用して、該可溶性画分においてタンパク質の凝集を開始させるステップ、
(v) ステップ(iv)におけるRNA除去の前、後又は最中に該画分を潜在的抗タンパク質凝集剤で処理するステップ、及び
(vi) ステップ(v)の処理を行った及び行わなかった同等のサンプルにおいてタンパク質凝集を比較するステップ
を含んでもよく、ここで、ステップ(v)の処理に関連するタンパク質凝集の減少により、該潜在的抗タンパク質凝集剤がタンパク質凝集を阻止及び/又は解消するのに有効であることが示される。
【0028】
潜在的抗タンパク質凝集剤は、RNA分解を阻止又は解消してよい。
【0029】
凝集体は単離され、例えばウエスタンブロット又はELISAによって解析されてよい。
【0030】
あるいは、凝集体は、細胞又は細胞溶解物内で直接解析されてもよい。これは、例えばフィルター保持アッセイ、ELISA又は分光分析によって実現されてよい。全細胞研究は、免疫染色(例えば免疫蛍光若しくは免疫組織化学)又はアミロイド染料、例えばコンゴレッド及びチオフラビンS若しくはTの使用を含んでよい。
【0031】
本方法は、複数の潜在的抗タンパク質凝集剤をスクリーニングし、どの作用剤がタンパク質凝集の最大の減少を引き起こすかを決定することを含んでよい。この作用剤は最も有効であると決定され、潜在的治療剤として選択され得る。
【0032】
第四の態様において、本発明は、タンパク質凝集のプリオン様拡大を阻止、阻害又は解消するための作用剤の有効性を決定する方法であって、以下のステップ;
(i) 本発明の第一の態様にしたがって、RNA除去を使用して、細胞又は細胞溶解物において複数のタンパク質の凝集を開始させるステップ、
(ii) 第二の細胞又は細胞溶解物をステップ(i)に由来する凝集したタンパク質のサンプルで処理するステップ、
(iii) 凝集したタンパク質のサンプルによる処理の前、最中又は後に該第二の細胞又は細胞溶解物に作用剤を添加するステップ、及び
(iv) ステップ(iii)の処理を行った及び行わなかった該第二の細胞若しくは細胞溶解物の同等のサンプルにおいてタンパク質凝集を比較するステップ
を含み、ここで、ステップ(iii)の処理に関連するタンパク質凝集の減少により、該作用剤がタンパク質凝集のプリオン様拡大を阻止、阻害及び/又は解消するのに有効であることが示される、方法を提供する。
【0033】
上記方法の全てにおいて、除去されるRNAはリボソームRNAであってよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】RNAse処理後のRNAゲル電気泳動を示す図である。RNAse処理したヒト神経細胞溶解物から単離されたRNAを、アガロースゲルで分離し、臭化エチジウムで染色した。
図2】様々な酵素による処理後のタンパク質凝集を示す図である。ヒトニューロン(A)又はマウス大脳皮質(B)に由来する細胞溶解物を、表示された酵素で37℃で1時間処理した。凝集したタンパク質を遠心分離によって回収し、クマシーSDS-PAGEによって解析した。
図3】選択したタンパク質の凝集に対する、異なるRNaseの作用を示す図である。ヒトニューロンに由来する溶解物を、表示されたリボヌクレアーゼで37℃で1時間処理し、凝集したタンパク質をウエスタンブロット解析に使用した。
図4】タンパク質リフォールディング及び凝集を示す図である。Jurkat細胞溶解物をRNAse A/T1で処理し、凝集したタンパク質を遠心分離によって回収した。ペレット化したタンパク質をグアニジン塩酸塩中で変性させ、全Jurkat RNA(+)又は水(-)と混合した。次いで、混合物をTBSに対して一晩透析した。SDS-PAGEのために各サンプル(全体)から一定分量を取り、凝集したタンパク質を遠心分離によって回収した(ペレット)。次いで、上清(sup)をRNAse A/T1又はビヒクル(Ve-)で処理し、凝集したタンパク質を遠心分離によって回収した(ペレット)。全てのサンプルをSDS-PAGEで分離し、タンパク質をクマシーで染色した。
図5】凝集のプリオン様増殖を示す図である。ハンチントン(HTT)、FUS及びTARDBP凝集のウエスタンブロット解析。Jurkat細胞溶解物を固定化RNAse A(ストレプトアビジン磁気ビーズに結合したビオチン化RNAse A)又はVe-(ストレプトアビジンビーズ)で37℃で15分間処理した。処理後、溶解物の10%を非処理溶解物と混合し、37℃で1時間インキュベートした。凝集したタンパク質を遠心分離によって単離し、SDS中で可溶化し、SDS-PAGEゲルで分離した。ブロットを、表示したタンパク質に対する抗体でプローブした。RNAse処理サンプルに見られる凝集の増加は、凝集の増殖、例えば非処理サンプル中のネイティブタンパク質の動員、に起因する可能性が高い。
図6】RNAの除去がタンパク質沈殿を引き起こすことを示す図である。(a) 一般的実験手順を描写する略図である。細胞を含まない可溶性溶解物をリボヌクレアーゼによって37℃で1時間処理し、次いで、遠心分離して、凝集したタンパク質(ペレット)及び可溶性タンパク質(上清)を分離した。(b、c) SDS-PAGEで分離したタンパク質のクマシー染色。ヒトニューロン(b)又はマウス皮質(c)に由来する細胞溶解物を、増加させた濃度の、RNAse A及びRNAse T1(A/T1)の混合物によって37℃で1時間処理した。凝集したタンパク質を遠心分離によってペレット化し、SDS中で可溶化した。各サンプルに由来する等体積をSDS-PAGEで分離し、タンパク質をクマシー染色で染色した。(d) 異なるリボヌクレアーゼ又はDNAse Iとともにインキュベートした後のタンパク質凝集の解析。(e) RNAse A及びRNAse A阻害剤(RNasin)による細胞溶解物の同時処理後のタンパク質凝集の評価。(f) RNAseによって又はアルカリによって加水分解したRNAの添加後のタンパク質凝集の検討。全てのゲルをクマシーで染色した。各実験は異なる細胞及び組織調製物について少なくとも2回実施し、非常に類似する結果を得た。
図7】RNAseによって沈殿するタンパク質のコンピューター解析を示す図である。(a) 位置(上)又は分子機能(下)による上位5個の遺伝子オントロジークラス。(b) RNAseによって凝集されるタンパク質(赤)又はタンパク質の無作為セット(青)における予測低複雑度領域又は非構造領域(上の図)の割合の累積分布。
図8】RNAの分解が、神経変性疾患と関連するタンパク質の沈殿を誘導することを示す図である。(a) タンパク質凝集のウエスタンブロット検出。ヒト神経細胞溶解物をRNAse A/T1混合物の非存在下(Ve-)又は存在下(RNAse A/T1)で37℃で1時間インキュベートした。凝集したタンパク質を遠心分離によって回収し(ペレット)、可溶性タンパク質を上清に回収した(Sup)。タンパク質をSDS-PAGEによって分離し、メンブレンに転写し、表示した抗体でプローブした。(b) GFP-Aベータ又はGFPを発現するHEK293細胞に由来する溶解物中の可溶性タンパク質及び沈殿したタンパク質のウエスタンブロット解析。(c) RNAse Aの阻害は表示したタンパク質の沈殿を減少させる。1 x 濃度によって示されるRNaseinの量は、添加したRNAse Aの約50%を阻害する(製造業者のデータに基づいて)。(d) マウス皮質から調製した溶解物に由来する、RNAseによって沈殿したタンパク質のウエスタンブロット解析。(e) RNAseによって凝集したタンパク質が6Mグアニジン塩酸塩中で可溶化され、次いで、RNAの存在下又は非存在下でリフォールドされるリフォールディングアッセイの略図。次いで、可溶性タンパク質及び凝集したタンパク質を遠心分離によって分離し、可溶性画分をRNAse A/T1又はビヒクルで処理し、タンパク質再凝集を誘導する。(f) 全RNAの存在(+)又は非存在(-)下でリフォールディング後の可溶性(Sup 1)及び凝集した(Pel 1)タンパク質の全体的タンパク質プロファイルを示すクマシー染色ゲル。凝集したタンパク質の除去後、可溶性画分(Sup 1)をRNAse A/T1(A/T1)又はビヒクル(Ve-)で処理し、タンパク質再凝集(Pel2)を調べた。RNAse又はビヒクルによる処理後に可溶性のままでいるタンパク質は、Sup 2で表示されるレーンに観察される。星印(*)は添加したRNAse Aを示す。(g) 全RNAの存在又は非存在下でリフォールディング後の表示されるタンパク質のウエスタンブロット解析。(h) 全ヒトRNA(hRNA)、全大腸菌(E.coli)RNA、酵母tRNA、ヒトゲノムDNA(gDNA)、又はヘパリンの、RNAseによって凝集したタンパク質をリフォールドさせる能力の評価。全てのサンプルを、表示した核酸又はヘパリンの同量(質量において)で処理した。全ての実験は少なくとも2回実施し、高い再現性を得た。
図9】リボソームRNAが、RNAseによって凝集したタンパク質のin vitroでの可溶化に必要であることを示す図である。(a) プリオンタンパク質(PrP)又は非特異的IgG抗体(IgG)に対する抗体を用いて架橋した細胞から免疫沈降(IP)した後の共沈殿したRNAのゲル電気泳動解析。全RNA(レーン1)を参照としてロードし、様々なリボソームRNA種を右に表示する。(b) 全ヒトRNAの存在下でリフォールドした表示されるタンパク質の免疫沈降後に得られたcDNAクローンのアライメントを描写する図形表示。(c) RNAseによって凝集したタンパク質を可溶化する能力を評価するための、d及びeで使用したRNAサンプル(1μg)のPAGE-尿素ゲル-解析。(d) cに示される様々なRNAサンプルの、ハンチントン(HTT)、ニューロフィラメント重鎖(NF-H)、又はPrPをリフォールドする能力の評価。(e) dと同じ実験であるが、クマシー染色により、リフォールディング後の全体的タンパク質プロファイルを調べた図である。全ての実験は少なくとも2回実施し、高い再現性を得た。
図10】あらかじめ加水分解したRNAの添加後のタンパク質凝集を示す図である。ヒトニューロンに由来する溶解物を、増加させた量の、RNAse A又はNaOHで加水分解したRNAで処理し、凝集したタンパク質をウエスタンブロットによって解析した。
【発明を実施するための形態】
【0035】
RNA除去
本発明は、RNA除去、具体的には、細胞又は細胞溶解物においてタンパク質凝集を開始させるためのRNA除去の使用に関する。
【0036】
用語「RNA除去」は、本明細書で定義される場合、無傷のRNA分子の全体量を低減するか、又は細胞若しくは細胞溶解物サンプル中のネイティブ(変化していない)構造を有するRNAの全体量を低減することを意味する。
【0037】
RNAは一本鎖でも二本鎖でもよい。RNAは細胞に対して内因性であってよく、又は細胞溶解物が調製された細胞に対して内因性であってもよい。あるいは、(例えば、下に記載されるリフォールディングアッセイの場合)、RNAは合成されたものであってよく、又はin vitro転写によって又は他の細胞若しくは組織から調製されたものであってもよい。
【0038】
RNA除去は、他のサンプル成分の完全性を維持しながら、RNAを分離するためにサンプルからRNAを特異的に単離することを含んでよい。
【0039】
本発明においてRNA除去はRNA分解であってよく、又はRNA分解を含んでよい。
【0040】
用語「分解」は、その従来の意味で本明細書において使用され、細胞又は細胞溶解物内でのRNAの破壊に関する。RNAの破壊は、隣接するヌクレオチド間のホスホジエステル結合の切断を介するRNA分子の一次構造の破壊によって実現してよい。
【0041】
本発明におけるRNAの分解は、リボヌクレアーゼの使用によって実現してよい。リボヌクレアーゼ(RNase)は、RNA分子の、より小さな成分への分解を触媒するヌクレアーゼの種類である。RNasesは、具体的な酵素に応じて一本鎖又は二本鎖RNAのいずれかを分解することができ、それらの作用機序によって一般に定義され、エンドリボヌクレアーゼ及びエキソリボヌクレアーゼに分類される。
【0042】
エキソリボヌクレアーゼは、RNA分子の5'末端又は3'末端のいずれかから末端ヌクレオチドを除去することによってRNAを分解する酵素である。5'からヌクレオチドを除去する酵素は5'-3'エキソリボヌクレアーゼと称され、3'からヌクレオチドを除去する酵素は3'-5'エキソリボヌクレアーゼと称される。エキソリボヌクレアーゼの例としては、限定されないが、RNase R、RNase II、Rrp44、RNase D、RNase T、PM/Scl-100、オリゴリボヌクレアーゼ、RNase BN、PNPase、PM/Scl-75、RNase PH、RRP4、エキソリボヌクレアーゼI及びエキソリボヌクレアーゼIIが挙げられる。
【0043】
エンドリボヌクレアーゼは、RNA分子中の隣接するヌクレオチド(該ヌクレオチドのいずれもRNA分子の末端ヌクレオチドではない)の間のホスホジエステル結合を切断する酵素である。エンドリボヌクレアーゼの例としては、限定されないが、RNase III、RNase A、RNase T1、RNase 1f、RNase H、RNase V1が挙げられ、並びにRNase P及びRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)のようなRNAを有するタンパク質の複合体も挙げられる。
【0044】
本発明によって提供されるRNA除去は、細胞若しくは細胞溶解物にリボヌクレアーゼを添加すること、又は細胞若しくは細胞サンプル中のリボヌクレアーゼの発現及び/若しくは活性を引き起こす若しくは上方制御することを含んでよい。リボヌクレアーゼはRNase A、RNase T1及び/又はRNase 1fであってよい。
【0045】
あるいは、RNA除去はRNAの構造を変化させることを含んでよい。これは、タンパク質を可溶化するRNAの能力を低減する。RNAの構造は、例えば加熱することによって、又はRNAフォールディングに重要な二価イオン、例えばMg2+を除去することによって変化させてもよい。EDTAなどの作用剤を使用して、二価イオンを除去し、リボソームを解離させるためにあらかじめ使用することができる。
【0046】
リボソームRNA
リボソームリボ核酸(rRNA)はリボソームのRNA成分であり、全ての生物におけるタンパク質合成に不可欠である。それは、約60質量%のrRNA及び40質量%のタンパク質であるリボソーム内の主要な材料を構成する。リボソームは、2種の主なrRNA及び50種以上のタンパク質を含有する。大リボソームサブユニット中のrRNAは、リボザイムとして作用し、ペプチド結合形成を触媒する。
【0047】
大部分の真核生物は、小リボソームサブユニット中に18S rRNAを含み、一方、大リボソームサブユニットは、3つのrRNA種(5S、5.8S及び28S)を含有する。
【0048】
リボソームRNA又はrRNAという用語は、他の種類の転写産物に見られるrRNA様配列を含む。多くの真核生物mRNAは、センス及びアンチセンスの両配向に存在する28S及び18S rRNAのセグメントに類似する配列を含有する(Mauro and Edelman (1997) Proc. Natl. Acad. Sci. 94:422-427)。
【0049】
本発明において、RNAは、タンパク質の凝集を開始させるために除去される。
【0050】
除去されるRNAは、リボソームRNAであってよく、リボソームRNAを含んでよく、又はリボソームRNAから実質的に構成されていてよい。
【0051】
除去されるリボソームRNAは、18S及び/又は28S rRNAであってよく、18S及び/又は28S rRNAを含んでよく、あるいは18S及び/又は28S rRNAから実質的に構成されていてよい。
【0052】
除去されるRNAは、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%のリボソームRNAを含んでよい。RNAはrRNAからなる(すなわち、有効に100%のrRNAである)。
【0053】
タンパク質
用語「タンパク質」は、通常の意味で使用され、典型的には隣接するアミノ酸のα-アミノ基とカルボキシル基の間のペプチド結合によって、互いに接続された一連の残基、典型的にはL-アミノ酸を意味する。
【0054】
タンパク質は野生型タンパク質であってよい。野生型タンパク質は、一般集団においてよく見られるアミノ酸配列の非突然変異型であるアミノ酸の配列を含むタンパク質を指す。
【0055】
凝集体を形成するタンパク質の傾向に影響を与えないアミノ酸置換もこの定義に含まれてよい。したがって、野生型タンパク質は、本明細書で言及される場合、そのアミノ酸配列の差異に起因して、凝集体を形成する傾向の増加を示さないタンパク質に関する。
【0056】
タンパク質は、以下から選択してよい: アミロイド-β、MAPT、SCNA、TARDBP、FUS、HTT、PRNP、ニューロフィラメント(NF-H)及びα-シヌクレイン。
【0057】
アミロイド-β(アミロイド-ベータ、Aβ又はAベータ)は、アミロイド前駆体タンパク質(APP)から一連の連続した切断反応を介して処理された36〜43アミノ酸のペプチドである。APPは、様々な組織にわたって発現するが、その発現はニューロンに集中している。その機能は分かっていないが、それは、シナプス形成、神経可塑性及び鉄エクスポートの制御因子として意味付けられる。アミロイド-βは、APPに対するβ及びγ-セクレターゼの連続的作用によって生成されることが知られており、それは、キナーゼ酵素の活性化、酸化的ストレスに対する防御、コレステロール輸送の制御、転写因子及び抗微生物活性としての機能を含めた、様々なin vivoの非病態生理学的機能を有する。アミロイド-βペプチドのサイズは、付番システムによって記載され、例えば、Aβ40及びAβ42は、それぞれ、40及び42アミノ酸のアミロイド-βペプチドを指す。
【0058】
タウタンパク質は、ヒトにおいてMAPTと称される単一遺伝子に由来する選択的スプライシングの生成物である。6個のタウアイソフォームがヒト脳組織に存在し、それらが含有するチューブリン結合ドメインの数によって区別される。タウタンパク質は、チューブリンと相互作用することによって機能して、微小管を安定化し、かつ、微小管へのチューブリン集合を促進する。それらは、ニューロンに多く存在するが、アストロサイト及びオリゴデンドロサイトにおいても発現する。タウは、リンタンパク質であり、79箇所の潜在的セリン及びトレオニンリン酸化部位を最長のタウアイソフォーム上に有し、正常タウタンパク質におけるこれらの潜在的部位の約30箇所にリン酸化が報告されている。タウのリン酸化は、いくつかのキナーゼによって制御される。
【0059】
α-シヌクレインは、ヒトにおいてSNCA遺伝子によってコードされるタンパク質である。それは、新皮質、海馬、黒質、視床及び小脳において主に発現し、主にニューロンタンパク質であるが、それはまた神経膠細胞(neuroglial cell)においても検出できる。α-シヌクレインについて明確な知られたin vivo機能はないが、それは、獲得に関連したシナプス再構成の間に、脳のシナプス前終末の個別の集団において上方制御されることが示されている。α-シヌクレインの提唱されている機能は、潜在的微小管結合タンパク質としてチューブリンと相互作用すること、SNARE複合体の形成において分子シャペロンとして作用し、それによって、ニューロンのゴルジ装置及び小胞輸送に影響を及ぼし、膜組成及び代謝回転に潜在的に関与することを含む。
【0060】
TAR DNA結合タンパク質43(TDP-43)は、ヒトにおいてTARDBP遺伝子によってコードされる細胞性タンパク質であり、広範な組織及び細胞種にわたって発現する。それは、DNAとRNAの両方に結合し、転写抑制、pre-mRNAスプライシング及び翻訳抑制における複数の機能を有することが示されている。
【0061】
FUS(Fused in Sarcoma(肉腫において融合される))は、ヒトにおいてFUS遺伝子によってコードされるRNA結合タンパク質であり、広範な組織及び細胞種にわたって発現する。FUSのN末端は転写活性化に関与と思われ、一方、C末端はタンパク質及びRNA結合に関与する。加えて、転写因子AP2、GCF及びSp1に対するの認識部位がFUSにおいて同定されており、一方、それは様々な核受容体と相互作用することも示されている。
【0062】
ハンチントンタンパク質(Htt)は、HTT遺伝子(HD又はIT15としても知られている)によってコードされる。Httは、可変構造を有し、かつ、該タンパク質に存在するグルタミン残基の数の変更をもたらす様々な多型を含み得る。その野生型形態では、Httは、ポリグルタミン鎖に6〜35個のグルタミン残基を含有する。しかし、ハンチントン病に罹患した個体では、ポリグルタミン鎖は、36個を超えるグルタミン残基を含有する場合があり、この形態では、変異体Htt(mHtt)と称される。Httの正確な機能は分かっていないが、それは様々な組織において発現され、ニューロンにおいて最も高レベルの発現を有する。Httは、シグナル伝達、細胞間輸送、タンパク質結合及びおそらくはアポトーシスに関与し得る。
【0063】
主要なプリオンタンパク質(Prp、プリオンタンパク質又はプロテアーゼ抵抗性タンパク質、CD230)はプリオンタンパク質である。ヒトにおいて、それはPRNP遺伝子によってコードされ、様々な組織において発現するが、主に脳に見られる。Prpの正確な機能は分かっていないが、それは、銅イオンの細胞への輸送、細胞シグナル伝達又はシナプスの形成におそらく関与する。Prpの正常な細胞性アイソフォームはPRPcと称され、一方、スクレイピー関連アイソフォームはPRPScと称される。
【0064】
ニューロフィラメント(NF)は、ニューロンに見られる10ナノメートル又は中間径フィラメントである。それらは、ニューロンの細胞骨格の主要成分であり、軸索に対する構造的支持を提供し、軸索直径を制御するために主に機能すると考えられている。ニューロフィラメントは、上皮に特異的に発現する10nmフィラメントを作製する、ケラチンサブユニットなどの他の組織の中間径フィラメントと同じタンパク質ファミリーに属するポリペプチド鎖又はサブユニットから構成される。3種の主要なニューロフィラメントサブユニットが軸索輸送研究から発見された。タンパク質は細胞体内で合成され、したがって、それらは最終目的地に到達するために軸索に沿って移動しなければならない。3種の主要なニューロフィラメントサブユニットに与えられた名称は、 SDS-PAGEにおける哺乳動物サブユニットの見かけ上の分子量に基づく:
軽い分子又は最小(NF-L)は68〜70kDaに移動し、
中間の分子又は中間(NF-M)は約145〜160kDaに移動し、
重い分子又は最高(NF-H)は200〜220kDaに移動する。
【0065】
複数
本発明は、細胞又は細胞溶解物において複数のタンパク質の凝集を開始させるためのRNA除去の使用に関する。RNA除去は、複数のタンパク質の同時凝集を引き起こし得る。複数のタンパク質は、一緒に凝集し、複数のタンパク質の種類からなる凝集体を形成してよい。
【0066】
「複数」は、RNA除去が、少なくとも2個のタンパク質、例えば、3、4、5、6、7、8又は9個のタンパク質の凝集を引き起こすことを示す。
【0067】
複数は、以下のタンパク質: アミロイド-β、MAPT、SCNA、TARDBP、FUS、HTT、PRNP、ニューロフィラメント(NF-H)及びα-シヌクレインのうちの2、3、4、5、6、7、8個又は全てを含んでよい。
【0068】
タンパク質凝集
用語「タンパク質凝集」は、ミスフォールドしたタンパク質が、細胞内又は細胞外のいずれかで、蓄積して一緒に塊になる生物学的現象を指す。ミスフォールドしたタンパク質は、フォールドしていないタンパク質の露出した疎水性部分が、他のフォールドしていない又はミスフォールドしたタンパク質の露出した疎水性パッチと相互作用し、自発的にタンパク質凝集をもたらすため、凝集体を形成し得る。ミスフォールドしたタンパク質の凝集体への形成は、プラーク形成と呼ばれ得る。
【0069】
本発明は、細胞又は細胞溶解物においてタンパク質凝集を開始させるためのRNA除去の使用を提供し、したがって、そのネイティブな三次構造の維持にRNAの存在を必要とするタンパク質を少なくとも一部に含むタンパク質凝集体の形成を可能とする。
【0070】
いくつかの突然変異は、ミスフォールディング及び凝集に特に感受性のあるタンパク質をもたらす。本発明の方法において、タンパク質は、1つ以上のそのような誘因となる突然変異を含んでもよく、含まなくてもよい。
【0071】
タンパク質の1つ以上は、凝集後にユビキチン化されてよい。タンパク質のユビキチン化は、次の節に記載される疾患のうちのいくつかの特徴である。
【0072】
疾患
成熟タンパク質凝集体及び未成熟タンパク質凝集体の両方は、細胞に対して毒性であり得る。未成熟凝集体の疎水性パッチは、細胞の他の成分と相互作用し、それらを損傷し得るが、一方、成熟凝集体は細胞膜を破壊し、それらが透過性になることを引き起こし得る。
【0073】
タンパク質凝集体の形成は様々な疾患と関連し、タンパク質凝集体のその後の毒性は疾患の発症機序に機構的に関与し得る。
【0074】
本発明は、複数のタンパク質の凝集を開始させるためのRNA除去の使用に関する。タンパク質の1つ、いくつか又は全ては、タンパク質凝集と関連する疾患の発症機序に関与し得る。
【0075】
いくつかの疾患はタンパク質凝集体の形成と関連しており、それらとしては、限定されないが、様々な神経変性疾患、例えばアルツハイマー病(AD)、運動ニューロン疾患(MND)、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病(HD)、前頭側頭認知症及びプリオン病が挙げられる。さらに、タンパク質凝集は、II型糖尿病及び封入体筋炎/ミオパチーほど多様な他の疾患において生じ得る。
【0076】
神経変性疾患は、ニューロンの死を含めた、ニューロンの構造又は機能の進行性喪失を特徴とする疾患を指す。多くの同定された病態生理学的特徴、特にタンパク質凝集体の出現及びニューロンの死は、神経変性疾患の間で類似し得る。
【0077】
本発明は、神経細胞、又は神経細胞から調製された細胞溶解物において、タンパク質凝集を開始させるためのRNA除去の使用を含み得る。用語「神経細胞」は、中枢神経系の細胞を指す。特に、神経細胞は、変性が神経変性疾患において生じる中枢神経系の領域と関連し得る。
【0078】
ADは、認知症の最もよくある形態であり、65歳を超える人に一般に診断されるが、より一般的ではない早発型ADはずっと早期に生じ得る。ADは、大脳皮質及び特定の皮質下領域におけるニューロン及びシナプスの喪失を特徴とする。この喪失は、側頭葉及び頭頂葉、並びに前頭皮質及び帯状回の部分における変性を含めた、罹患領域の全体的萎縮をもたらす。ベータ-アミロイドペプチド及び他の細胞性物質を含むアミロイドプラークは、ニューロンの外側及び周囲に存在し得るが、一方、過剰リン酸化された微小管結合タンパク質タウの凝集体を含む神経原線維変化は、細胞内に存在し得る。レビー小体もADにおいて生じ得る。ADの症例の大部分は散発性であり、このことは、それらが遺伝的に受け継がれないことを意味するが、いくつかの遺伝子は危険因子として作用し得る。一方、症例の約0.1%は、常染色体優性遺伝の家族性形態であり、通常65歳より以前に発症する。疾患のこの形態は早発型家族性ADとして知られている。
【0079】
ADのin vitroモデルを作製するため、本発明によるRNA除去の使用は、Aベータ、MAPT及びSNCAの同時凝集を引き起こし得る。
【0080】
RNA除去は、MAPT凝集を開始させ、また、MAPTの過剰リン酸化を引き起こし得る。MAPTの過剰リン酸化は、AD及び他のタウパチー(taupathy)の特徴である。
【0081】
MNDは、急速に進行性の衰弱(weakness)、筋萎縮及び線維束性攣縮及び筋肉の痙性を特徴とする。MNDの病態生理学的特徴は、脳、脳幹及び脊髄の運動皮質における上位運動ニューロン及び下位運動ニューロンの両方の喪失を含み得る。それらの破壊の前に、運動ニューロンは、それらの細胞体及び軸索中にタンパク質凝集体を発達させ、それはユビキチンを含有し、一般に、ALS関連タンパク質: SOD1、TAR DNA結合タンパク質(TARDBP)又はFUSのうちの1つを取り込み得る。MND症例の約5%のみが該疾患の家族歴と関連するが、いくつかの遺伝子における突然変異が様々な種類のMNDと関連している。これらの遺伝子の例としては、限定されないが、SOD1、ALS2、FUS、ANG及びTARDBPが挙げられる。
【0082】
PDは、黒質、より具体的には中脳の緻密部の前側部分におけるドーパミン生成細胞の喪失を特徴とする。該疾患の経過の初期には、最も明らかな症状は運動に関連しており、震え、硬直、運動の緩慢、及び歩行困難を含む。その後、認知及び行動の問題が生じ、認知症が該疾患の進行期に一般的に生じ得る。他の症状としては、感覚、睡眠及び感情の問題がある。ドーパミン生成細胞の喪失は、ニューロン中に蓄積し、レビー小体を形成する、ユビキチンに結合したα-シヌクレインを含むタンパク質凝集体の形成に起因して生じ得る。病理学的知見に基づく該疾患の分類であるBraak病期分類によれば、レビー小体は、最初に嗅球, 延髄及び橋被蓋に現れ、この段階の個体は無症候性である。疾患が進行するにつれ、その後、レビー小体は黒質、中脳及び基底前脳の領域において発達し、最終段階では新皮質において発達する。
【0083】
RNA除去は、SNCAの凝集を引き起こし、SNCAのリン酸化をもたらし得る。SNCAのリン酸化はPDと関連している。
【0084】
HDは、筋肉の協調性に影響を及ぼし、認知低下及び精神医学的兆候をもたらす。該疾患は、CAGトリヌクレオチド反復が閾値レベルを超えて拡大するようになる、ハンチントン(HTT)遺伝子における常染色体優性突然変異によって引き起こされる。CAG反復は成熟ハンチントン(Htt)タンパク質においてポリグルタミン鎖をコードし、この鎖は個体間で長さが異なり得る。しかし、ポリグルタミン鎖がある長さを超えて伸長すると、それは、必要に応じてフォールドすることができない変異体ハンチントン(mHtt)タンパク質の形成を引き起こす。このミスフォールディングは、ミスフォールドしたmHttを含むタンパク質凝集体の形成をもたらす。
【0085】
前頭側頭認知症は、時間とともに側頭葉の変性へと進行し得る、脳の前頭葉の進行性悪化に起因し得る。前頭側頭認知症は、罹患細胞に対して細胞内又は細胞外におけるタンパク質凝集体の形成と関連し得る。タンパク質凝集体は、タウ、TARDBP及びFUSを含み得る。
【0086】
プリオン病は、主要なタンパク質タンパク質(PRP)などのプリオンタンパク質によって伝播する感染性疾患のクラスであり、クロイツフェルト・ヤコブ病、新たな変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(nvCJD)、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群、致死性家族性不眠症及びクールーを含む。それらは、凝集体へと形成するミスフォールドしたプリオンタンパク質によって引き起こされ、脳細胞の喪失をもたらす。該疾患は、健常動物が該疾患を保有する動物に由来する組織を摂取した場合に伝播する。
【0087】
II型糖尿病は、インスリン抵抗性及び相対的インスリン欠乏の関連における高血糖を特徴とする代謝障害である。それは、心血管疾患のリスクの増加、下肢切断の必要性の増加、失明、腎不全及び認知症を含めた、いくつかの合併症と関連する。II型糖尿病は、膵臓細胞の喪失及びインスリン生産のレベルの低下をもたらす、膵臓における膵島アミロイドポリペプチド(IAPP)からなるアミロイドタンパク質凝集体の形成と関連し得る。
【0088】
封入体ミオパチーは炎症性筋疾患であり、腕及び肢の筋肉において最も明らかな、遠位筋及び近位筋の両方のゆっくり進行する衰弱及び萎縮を特徴とする。それは、アミロイド-ベータ、リン酸化タウタンパク質、及びAD患者の脳に蓄積される少なくとも20種の他のタンパク質を含む、筋線維におけるタンパク質凝集体の形成と関連し得る。
【0089】
凝集のIN VITROモデル
用語「in vitro」は、凝集が、培養における細胞中で、又は細胞溶解物中で引き起こされることを示すために使用される。細胞は、被験体内のin vivoではない。
【0090】
細胞又は細胞溶解物からRNAの除去後に凝集体を形成するタンパク質の決定は、当業者に周知のいくつかの技術を用いて実施することができる。これらとしては、限定されないが、ウエスタンブロット、ELISA、フィルター保持アッセイ及び分光分析が挙げられる。全細胞研究は、免疫染色(例えば免疫蛍光若しくは免疫組織化学)又はアミロイド染料、例えばコンゴレッド及びチオフラビンS若しくはTの使用を含んでよい。
【0091】
本明細書に記載されるRNA除去の使用は、タンパク質凝集を特徴とする疾患のin vitroモデルを作製する方法において使用してよい。
【0092】
タンパク質凝集を特徴とする疾患の現在のモデルは、細胞又はモデル生物における、家族性疾患原因突然変異を有することが多い、組換えタンパク質のin vitroでの使用又はタンパク質の強制的発現に大いに依存している。大部分の神経変性障害及び他のタンパク質凝集関連疾患において、家族性突然変異の発生は極めて稀であり、症例の大部分は家族歴なしに生じる。したがって、本発明は、組換えタンパク質の使用又は疾患原因突然変異の強制的発現を必要としない、タンパク質凝集を特徴とする疾患のin vitroモデルを作製する方法を提供する。この方法は、 凝集する傾向を増加させる所定の突然変異を含有しないタンパク質の凝集を開始させるのに有用であり得る。したがって、非突然変異含有タンパク質を含む凝集体の形成は、特定の家族性突然変異と関連しない、タンパク質凝集を特徴とする疾患の症例を再現し得る。
【0093】
さらに、タンパク質凝集関連疾患の研究についての現在の方法は、特定のタンパク質の凝集を主に促進し、特定の疾患と関連する全てのタンパク質の凝集をほとんど再現しない。本発明によって提供されるように、細胞又は細胞溶解物からのRNAの除去によって誘導されるタンパク質の凝集は、それらのネイティブな三次構造の維持にRNAを必要とするサンプル内の複数のタンパク質の凝集を促進する。したがって、本発明は、タンパク質凝集関連疾患のin vitroモデルを作製する方法であって、該疾患の凝集体と関連する複数のタンパク質が凝集する、方法を提供する。
【0094】
抗凝集剤
本発明は、潜在的抗タンパク質凝集剤の有効性を決定する方法であって、以下のステップ; RNA除去を使用して、細胞又は細胞溶解物においてタンパク質(複数可)の凝集を開始させるステップ、RNA除去の前、最中又は後に該細胞又は細胞溶解物を潜在的抗タンパク質凝集剤で処理するステップ、並びに該抗タンパク質凝集剤で処理された又はされていない同等のサンプルにおいてタンパク質凝集を比較するステップを含み、ここで、該潜在的抗タンパク質凝集剤で処理したサンプルにおけるタンパク質凝集の減少により、該潜在的抗タンパク質凝集剤がタンパク質凝集を低減するのに有効であることが示される、方法を提供する。
【0095】
抗タンパク質凝集剤は、タンパク質凝集を阻止及び/又は解消する能力を有し得る実体を指す。
【0096】
抗タンパク質凝集剤は、小有機分子又は生物剤、例えば抗体、RNA分子(siRNA、miRNA、shRNA、mRNA、rRNA、合成RNA、構造模倣体)、ペプチド又は他のタンパク質であってよい。
【0097】
本発明はまた、潜在的抗タンパク質凝集剤の有効性を決定する方法であって、以下のステップ; RNA除去を使用して、細胞又は細胞溶解物においてタンパク質(複数可)の凝集を開始させるステップ、タンパク質凝集体を単離するステップ、単離されたタンパク質凝集体をRNAで処理して、該タンパク質のリフォールディングを誘導し、可溶性画分を形成するステップ、RNA除去を使用して、該可溶性画分においてタンパク質(複数可)の凝集を開始させるステップ、RNA除去の前、後又は最中に該画分を潜在的抗タンパク質凝集剤で処理するステップ、並びに該潜在的抗タンパク質凝集剤による処理が行われた又は行われなかった同等のサンプルにおいてタンパク質凝集を比較するステップを含む、方法を提供する。ここで、該潜在的抗タンパク質凝集剤で処理したサンプルにおけるタンパク質凝集の減少により、該抗タンパク質凝集剤がタンパク質凝集を低減するのに有効であることが示される。
【0098】
プリオン様拡大
プリオンは、ミスフォールドしたタンパク質状態を伝播することによって増殖する。プリオンが健常生物に入ると、それは、存在している適切にフォールドされたタンパク質を、疾患関連のプリオン形態へと変換するように誘導する; プリオンは、より多くのタンパク質のプリオン形態へのミスフォールディングを導くための鋳型として作用する。次いで、これらの新たに形成されたプリオンは、それ自体で、より多くのタンパク質を変換できるようになる; これは、大量のプリオン形態を生産する連鎖反応を誘発する。公地のプリオンは全て、タンパク質が、密に詰め込まれたベータシートからなる凝集体へと重合する、アミロイドフォールドの形成を誘導する。この変化した構造は、極めて安定であり、感染組織に蓄積し、組織損傷及び細胞死を引き起こす。
【0099】
上述のとおり、タンパク質ミスフォールディングは、アルツハイマー病及びパーキンソン病を含めた大部分の神経変性疾患に共通している。ミスフォールドしたタンパク質凝集体は、病的タンパク質集合の増幅及び拡大をもたらすプリオン様の自己永続的プロセスを誘導できると現在考えられている(Polymenidou and Cleveland (2011) Cell 147:498-508及び(2012) JEM 5:889-893; King et al (2102) Brain. Res. 1462:61-80; Cushman et al (2010) J. cell Sci. 123:1191-1201)。
【0100】
本発明によりタンパク質凝集が開始される場合、非処理サンプルの凝集も増加することが示されており、これはプリオン様拡大機構を示唆している。
【0101】
したがって、本発明はプリオン様拡大のモデルを提供し、これを使用して、当該プロセスを阻止又は阻害する能力について作用剤をスクリーニングすることができる。
【0102】
本発明はまた、タンパク質凝集のプリオン様拡大を阻止、阻害又は解消するための作用剤の有効性を決定する方法であって、以下のステップ;
(i) RNA除去を使用して、第一の細胞又は細胞溶解物において複数のタンパク質の凝集を開始させるステップ、
(ii) 第二の細胞又は細胞溶解物をステップ(i)に由来する凝集したタンパク質のサンプルで処理するステップ、
(iii) 凝集したタンパク質のサンプルによる処理の前、最中又は後に該第二の細胞又は細胞溶解物に作用剤を添加するステップ、及び
(iv) ステップ(iii)の処理を行った及び行わなかった該第二の細胞若しくは細胞溶解物の同等のサンプルにおいてタンパク質凝集を比較するステップ
を含み、ここで、ステップ(iii)の処理に関連するタンパク質凝集の減少により、該作用剤がタンパク質凝集のプリオン様拡大を阻止、阻害及び/又は解消するのに有効であることが示される、方法を提供する。
【実施例】
【0103】
本発明は、実施例によってここにさらに記載されるが、それは、当業者が本発明を実施するのを補助するために役立つことが意図され、本発明の範囲を限定することは決して意図されない。
【0104】
[実施例1]
タンパク質のRNase媒介沈殿
ヒトニューロン及びマウス大脳皮質から調製された溶解物をRNAse A及びT1で処理し、沈殿したタンパク質を解析した。RNase処理は、ヒトニューロン及びマウス脳の両方からいくつかのタンパク質の濃度依存的沈殿を引き起こした(図6b及びc)。インプット、及びRNaseによって沈殿したサンプルから同量のタンパク質のタンパク質プロファイルを比較することによって、沈殿したタンパク質の多くが、インプットと比較して濃縮(enrich)されたことが示された。インプット及び上清の間で検出可能な差異は観察されなかった。さらに、RNase媒介消化の完了時のRNAの解析により、回収されたRNAの量及びサイズの分布が、RNase濃度の増加とともに減少したことが示された(図1)。
【0105】
[実施例2]
RNaseの供給源の影響の決定
様々な異なるRNaseを用いて凝集作用を試験した。一本鎖特異的RNaseの供給源はタンパク質沈殿の全体的効率に重要ではないことが示され、RNase A、RNase T1及びRNase 1fのそれぞれが、RNase/T1混合物と類似の効率を示した(図2及び6d)。しかし、二本鎖RNAに特異的なRNase V1、又はDNase Iでの消化は、タンパク質沈殿を引き起こすことができなかった(図2)。EDTAを緩衝液から除き、Mg2+で置き換えた場合にのみ、RNAse V1はタンパク質沈殿を引き起こし(図6d)、RNAse V1の二価イオンに対する要求性と一致した。しかし、DNAse Iは両条件下でタンパク質沈殿を引き起こすことができなかった(図6d)。リボヌクレアーゼ阻害剤をRNAse Aと一緒に溶解物に添加した場合に、バックグラウンドを超えたタンパク質は沈殿しなかった(図6e)。さらに、リボヌクレアーゼ分解産物がタンパク質沈殿に関与していないことを確実にするために、単離したRNAを固定化したRNAse Aで又はアルカリ加水分解によって消化し、次いで、消化物(RNAse Aを含まない)を細胞溶解物に添加した。酵素的又は化学的に分解したRNAの添加によって、バックグラウンドを超えたタンパク質は沈殿しなかった(図6f)。まとめると、これらの実験は、沈殿したタンパク質の溶解性が、無傷の細胞性RNAに依存することを示す。
【0106】
[実施例3]
RNA除去によって沈殿したタンパク質の同定
ヒトニューロンにおいてRNA除去によって沈殿されるタンパク質を同定するために、 沈殿したタンパク質を、SDS-PAGEによって2つの独立した実験から分離し、その後、タンデム質量分析(LC-MS/MS)解析を行った。両サンプルに共通した1600種を超えるタンパク質が同定され、75%を超える重複を示した(図7a)。データセットの遺伝子オントロジー解析により、第一に、サイトゾルタンパク質及びリボ核タンパク質複合体の過剰提示、並びに第二に、タンパク質-タンパク質相互作用(60%、982)、ヌクレオチド結合(26%、438)、RNA結合(13%、214)、及び構造リボソームタンパク質(95)に関与するタンパク質の顕著な過剰提示が示される(図7b)。沈殿したタンパク質の間に明らかな配列又は構造類似性はない。いくつかのRNA結合タンパク質における非構造化、低複雑度領域は、タンパク質凝集を媒介し、ストレス顆粒への動員に必要であることが以前に示唆されている(Kato et al (2012) Cell 149, 753-767)。これらの研究において同定されたタンパク質のいくつかはまた、RNA除去後に凝集するが(以下の表1を参照)、非構造(US)領域及び低複雑度(LC)領域の両方は、データセット中に有意に不十分に提示され(under-represented)(図2c、USについてp=2.9x10-18及びLCについてp=7.2x10-5)、このことは、タンパク質の大部分が球状であることを示し、この知見は、球状タンパク質がより凝集しやすい領域を有するという考えと一致している。
【0107】
【表1】
【0108】
[実施例4]
神経変性疾患に関連したタンパク質の沈殿の決定
ハンチントン(HTT)、TDP-43、hnRNPA2B1及びhnRNPA1を含めた、神経変性疾患と関連するいくつかの凝集しやすいタンパク質が、沈殿したタンパク質のリストにあったので、ウエスタンブロットを使用して、これらの障害と関連する他の凝集しやすいタンパク質の溶解性を調べた。アミロイド-β、タウ(MAPT)、α-シヌクレイン(SNCA)、TARDBP(TDP-43)、FUS、HTT、プリオンタンパク質PRNP(PrP)、HNRNPA1、アクチン(いくつかの神経変性疾患において平野小体中に凝集して見出される)、及びニューロフィラメント重鎖(NF-H)を含めた、調べた全てのタンパク質は、ヒトニューロン溶解物のRNAse A/T1処理時に選択的に沈殿した(図8a)。例えばPRNP、α-シヌクレイン、HTT及びアミロイド-βは全て、RNase処理後の可溶性画分中に検出されなかった(図8a)。
【0109】
本発明者らはまた、ヒトニューロン由来の、RNAse処理した溶解物のペレット中の約40kDaのAβ免疫反応性バンドを検出した(図8a)。このバンドの分子量は予想より大きいため(Aβ単量体はおよそ4kDaに移動する)、GFPに融合したAβを発現するHEK293細胞から調製した細胞溶解物中のA□の凝集も調べた。内因性Aβと類似して(図8a)、GFPタグ化AβはRNAの除去時にのみ凝集した(図8b)。GFP自体について凝集は観察されなかった(図8b)。次いで、神経変性に直接関係しないがRNAse処理によって沈殿する2種のタンパク質の溶解性を調べた; リボソームタンパク質RPL7及びヘテロ核リボヌクレオタンパク質D(HNRNPD)、並びに対照としてポリA結合タンパク質(PABP、豊富なタンパク質であるが質量分析によって同定されない)。これらのうち、RLP7及びHNRNPDはRNA消化によって沈殿したが、PABPの溶解性は影響を受けなかった(図8a)。類似の結果が、マウス皮質から調製した組織溶解物を用いて得られた(図8c)。添加したRNAse活性をRNasinで阻害することにより、HTT、NF-H、TDP-43、及びPrPの沈殿がなくなり(図8d)、全体的タンパク質プロファイルについて観察された阻害を裏付けた(図6eを参照)。同様に、in vitroで分解されたRNAの添加は、HTT、NF-H、FUS、TDP-43、及びPrPの沈殿を引き起こさなかった(図10)。まとめると、これらの実験は、神経変性障害と関連する多くのタンパク質が、細胞を含まない溶解物中のそれらの溶解性についてRNAに依存することを示す。
【0110】
[実施例5]
RNase A又はRNase T1のいずれかで処理した後に沈殿したタンパク質の特徴付け
RNase A又はT1のいずれかで消化後のタンパク質の凝集を解析した。これらのRNaseの両者は一本鎖RNAを切断するが、特異性が異なり、RNase AはC及びUの後で切断し、一方、RNase T1はGの後で切断する。TARDBP、HTT及びPRNPはRNase Aによって最も効率的に沈殿したが、FUSはRNase T1によって最も効率的に沈殿した(図3)。
【0111】
[実施例6]
RNA媒介タンパク質リフォールデイング
RNA媒介タンパク質リフォールディングを調べるために、RNA除去後に形成された凝集タンパク質を、変性させ、次いで、RNAで処理してリフォールディングを誘導した(図8e)。これらのデータは、RNAの除去後に凝集するタンパク質が、in vitroで効率的にリフォールドすることができるが、RNAの存在下でのみできることを示す(図4及び8f及びg)。しかし、RNAはそれらの最初のフォールディングに必要であるだけでなく、継続的溶解性にも必要である。なぜならば、リフォールディング後のRNAの分解は、プロセスに逆に作用し、タンパク質の再凝集を引き起こしたからである(図4、8f及び8g)。
【0112】
[実施例7]
リフォールドしたタンパク質に対する他のポリアニオンの能力の調査
タンパク質をリフォールドさせる能力がヒトRNAに特異的であるのか、又は他のポリアニオン、例えば全大腸菌RNA、酵母tRNA、ヒトゲノムDNA(gDNA)及びヘパリンの共通の特性であるのかを調べた。大腸菌RNAはタンパク質凝集を効率的に阻止したが、酵母tRNAもヘパリンも、全ヒトRNAの可溶化能力の代わりになることはできなかった(図8h)。驚くべきことに、ヒトゲノムDNAの添加は、タンパク質の可溶化において全ヒトRNAとほとんど同じくらい効率的であった(図8h)。しかし、hRNA又は大腸菌RNAの存在下でリフォールドしたタンパク質のみがRNAse処理時に再凝集した(図8h、Pel 2)。上記実験は、細胞溶解物中のタンパク質が、凝集体のない状態についてRNAに依存し、DNAに依存しないことを明らかに示していることから(図6d)、ゲノムDNAの、リフォールディングを促進する能力は予想外である。
【0113】
[実施例8]
どの種類のRNAがタンパク質溶解性の維持に関与したかの調査
どの種類のRNAがタンパク質溶解性の維持に関与したかを同定するために、ホルムアルデヒド架橋細胞に由来するPrPのRNA免疫沈降を使用した。従来のRNA結合ドメインを欠いているために、PrPを選択した。PrPによって沈殿したRNAのゲル電気泳動解析は、リボソームRNA(rRNA、28S及び18S)に由来する頑強なシグナルを示し、一方、非特異的IgG抗体によってどのサイズのRNAも沈殿しなかった(図9a)。このことは、PrPが細胞中でrRNAと結合していることを示唆する。この相互作用を確かめるために、全RNAの存在下でリフォールドしたPrPの可溶性画分について免疫沈降を繰り返した。なぜならば、この画分中のいずれのRNAもPrP可溶化に必要なRNA(複数可)を含有するはずだからである。cDNAへの変換及びクローニング後、20個のPrPクローンのうち18個がrRNAに由来したが、対照的に、20個のうち4個のクローンのみ(20%)がIgGサンプルにおいてrRNAに由来した(図9b)。したがって、可溶性PrPはin vivo及びin vitroの両方でrRNAと結合する。リフォールディング後にNF-Hと結合するRNAも免疫沈降し、PrPと類似して、配列決定したクローンの45%(9/20)がrRNAに由来した(図9b)。全てのサンプルについて、rRNAに由来しないクローンは固有の転写産物であり、したがって、濃縮は示されなかった(データ示さず)。
【0114】
rRNAがPrP及びNF-Hの可溶性状態を維持できることを確かめるために、次に、凝集したタンパク質を、rRNAに富むRNAの存在下、又はrRNAを部分的に枯渇させたRNAの存在下でリフォールドさせた(図9c)。リボソームRNAに対する要求性と一致して、rRNAは、PrP及びNF-Hを効率的に再可溶化したが、rRNAを枯渇させた同量のRNAで処理したPrP及びNF-Hは沈殿した(図9d)。さらに、リフォールディング前の、rRNAの限定的化学的断片化(図9c)は、PrP及びNF-Hの可溶化を効率的に阻止した(図9d)。まとめると、これらの知見は、無傷のrRNAが、これらのタンパク質の効率的再可溶化に必要であることを示す。興味深いことに、rRNAに富むRNAの存在下でのリフォールディング後には、遠心分離後に目に見えるペレットは検出できなかった(データ示さず)。このことは、いくつかのタンパク質が、rRNAと結合することによって可溶性状態で維持されたことを示唆した。このことを確かめるために、実験を繰り返し、全体的タンパク質プロファイルをゲル電気泳動によって解析した。PrP及びNF-Hと類似して(図9e)、RNAseによって沈殿したタンパク質の大部分は、HTTを含めて、rRNAの存在下で効率的にリフォールドしたが、重要なことに、断片化したrRNA、又はrRNAを枯渇させたRNAサンプルでリフォールドさせた場合には、効率的にリフォールドしなかった(図9d、e)。RNAの限定的断片化がタンパク質の可溶化を阻止するという事実は、それらが特定のRNA配列と主に結合しないことを示唆している。なぜならば、断片化したrRNA中に同じ配列が、無傷のrRNAと同様のレベルで存在するからである(図9c)。むしろ、そのことは、rRNAの構造がタンパク質の可溶化に重要であることを示唆しており、この考えは、二本鎖RNAに特異的なリボヌクレアーゼであるRNAse V1による、細胞溶解物に由来するタンパク質の効率的沈殿によっても支持される(図6d)。この構造的要件はまた、ゲノムDNAによる凝集タンパク質の効率的可溶化を説明でき(図8h)、このゲノムDNAは、A-フォームにおいて二本鎖RNAと構造的に類似している。
【0115】
[実施例9]
プリオン様拡大
上に説明したように、最近の証拠は、神経変性疾患におけるタンパク質凝集体が、プリオン様機構によって自己増殖(すなわち拡大)する能力を有することを示唆している。このことを試験するため、タンパク質凝集をRNA除去によってサンプルにおいて開始させ、次いで、このサンプルの画分を非処理溶解物と混合した。凝集タンパク質を遠心分離によって単離し、SDS中で可溶化し、SDS-PAGEゲルで分離し、抗体によってプローブした。結果を図5に示す。凝集の増加がRNAse処理サンプルにおいて見られ、これは、凝集の増殖、例えば非処理サンプル中のネイティブなタンパク質の動員に起因すると考えられる。
【0116】
材料及び方法
酵素
RNAse T1、RNAse V1、RNAse A/T1カクテル、及びDNAse IはLife Technologyから入手した。RNAse AはSigmaから入手した。
【0117】
細胞培養
ニューロンは、塩基性FGFを6日間除去することによってヒト神経幹細胞から分化させた。細胞の大部分(>95%)は、Map2-及びβ III-チューブリン-陽性細胞へと6日以内に分化する。Jurkat T細胞を10%FCS(Life Technologies)及び1 x Pen/Strep(Life Technologies)を補充したRPMI(Life Technologies)中で維持した。
【0118】
ニューロン及びマウス皮質に由来する、細胞を含まない溶解物
分化させた神経幹細胞をトリプシン(0.5% Life Technologies)によって剥離させ、10%FCS(Life Technology)を有するRPMI培地中に回収した。細胞を遠心分離によってペレット化し、氷冷したPBS中で2回洗浄し、その後、溶解緩衝液1[20mM Tris-HCl pH7.5、150mM NaCl、3mM EDTA, 1% Triton X-100、0.5% Na-デオキシコール酸塩、1X プロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche)、1mM DTT]又は溶解緩衝液2[20mM Tris-HCl pH7.5、150mM NaCl、1.5mM MgCl2、1% Triton X-100、0.5%Na-デオキシコール酸塩、1X プロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche)、1mM DTT]のいずれかの、細胞ペレットの4容量中で溶解させた。ほとんどの実験を溶解緩衝液1で実施し、但し、RNAse V1処理を行った場合(図1e)には、溶解緩衝液2を使用した。溶解した細胞を、氷上で5秒間最大設定で超音波処理し(Bioruptor、Diagenode)、+4℃にて30分間、21,000 x gで遠心分離した。上清を新しいチューブに移し、タンパク質濃度をBCAキット(Thermo Fisher)を用いて製造業者の説明書にしたがって決定した。溶解物を溶解緩衝液1又は2中で2〜4μg/μlに希釈し、以下に記載されるように処理した。
【0119】
16〜21日齢のC56BLマウスに由来する皮質を、室温で切断し、ろ紙上で転がして、大部分の髄膜を取り除き、ドライアイス上ですぐに凍結し、使用するまで-80℃で保存した。組織を氷上で解凍し、1mlピペットチップを用いて冷PBS中で破壊した。破壊した組織を、PBS中で3回洗浄し、その後、溶解緩衝液1中で溶解し、ヒトニューロンについて記載されたように調製した。
【0120】
リボヌクレアーゼ処理及び沈殿したタンパク質の単離
典型的には、2〜4μg/μlの細胞溶解物200〜400μgを、表示した量のリボヌクレアーゼ、DNAse I、又はビヒクル(20mM Tris-HCl pH7.5中の50% グリセロール)と混合し、37℃にて1時間インキュベートした。次いで、サンプルを+4℃にて15分間、21,000 x gで遠心分離し、上清を取り出し、解析のために取っておいた。ペレットを室温にて500μl RIPA緩衝液(50mM Tris-HCl pH8.0、150mM NaCl、0.5% Na-デオキシコール酸塩、0.1% SDS、1% Triton X-100)中で2回洗浄し、室温にて5分間の超音波処理(Bioruptor、Diagenode)によって20mM Tris-HCl pH7.5、2% SDS、8M 尿素中で溶解させた。SDS-PAGE解析用のサンプルを、DTTを最終濃度100mMまで補充した4X LDSローディング緩衝液(Life Technologies)と混合し、70℃にて10分間加熱し、その後、SDS-PAGEゲル(Life Technologies)にロードした。
【0121】
RNAse Aの固定化
1μg/μlのRNAse A 100μgを、トシル基活性化磁気ビーズ(Life Technologies)と、製造業者の説明書にしたがって37℃にて20時間カップリングさせた。クエンチング及び洗浄後、カップリングしたRNAse Aを、PBS中の0.1% BSAに再懸濁し、使用するまで+4℃で保存した。RiboGreenキット(Life Technologies)を用いて酵母tRNAに対して決定したところ、約50%の活性がカップリング後に残っていた。
【0122】
RNAse Aの阻害及びあらかじめ加水分解したRNAの添加
RNAse A阻害: 200μgの溶解物を、0.1μlのRNAse A(およそ3mg/ml)、及び表示のように濃度を増加させたRNasin(Promega)と混合した。RNAの加水分解: TE緩衝液(10mM Tris-HCl pH7.5、1mM EDTA)中の40μgの全RNAを、10μlの固定化RNAse Aと37℃にて1時間インキュベートした。RNAse Aを磁気分離によって除去し、加水分解したRNAを120U RNasein(Promega)と混合し、使用するまで氷上で維持した。あるいは、0.1M NaOH中の40μgの全RNAを、85℃にて1時間インキュベートし、次いで、1M Tris-HCl pH 7.0を用いてpH7.5に調整した。次いで、RNAse Aによって消化されたRNA及びNaOHによって加水分解されたRNAを、上に記載したように調製した200μgのニューロン溶解物に添加し、37℃にて1時間インキュベートした。沈殿したタンパク質及び可溶性タンパク質を以前のように回収し、SDS-PAGEによって解析した。
【0123】
Aβのクローニング及び沈殿
ヒトAβ1〜40を、全長APP(Origen、#RC209575)からPCR増幅し、pEGFP-C3(Clontech)のXho I及びBam HI部位にクローニングし、GFPのC末端にインフレームで融合したAβを作製した。24ウェルプレート中にウェル1つあたり細胞0.2x106個の密度で播種したHEK293細胞を、Fugene HD(Promega)を用いてAβ-GFP又は空ベクターでトランスフェクトした。各ウェルについて、本発明者らは、30μlのOptiMEM(Life Technologies)の全量中に0.6μgのDNA及び2μlのFugene HDを使用した。細胞をトランスフェクションの48時間後に回収し、PBS中で洗浄し、次いで、-80℃で保存するか、又は直接使用した。解凍した又は新鮮な細胞を、上に記載したように80μlの溶解緩衝液1中で溶解させ、RNAse A/T1で処理した。凝集したタンパク質を遠心分離によって回収し、サンプルを、上に記載したように処理し、SDS-PAGEによって解析した。
【0124】
RNA媒介リフォールディング
タンパク質を、RNAse A/T1処理及び遠心分離によってニューロン溶解物から単離した。ペレット化したタンパク質を、50μlの変性緩衝液(20mM Tris-HCl pH7.5、6M グアニジン塩酸塩、1%Triton X-100、20mM DTT)中で溶解させ、室温にて5分間超音波処理した。タンパク質濃度をBCAキット(ThermoFisher)を用いて決定し、変性緩衝液中で0.4μg/μlに希釈した。20〜50μgの可溶化タンパク質を、TE緩衝液中の、0.5X(μgにおいて)のRNAと混合し、6〜8.000kDaカットオフメンブレン(Spectrum Lab)を備えた透析チューブ(以下を参照)に移した。透析を、600mlのPBS緩衝液に対して4℃にて一晩実施し、その後、PBSを新鮮なPBS(400ml)と交換し、容器を水浴中に置き、37℃にて1時間維持した。透析したサンプルを1.5mlチューブに移し、体積をPBSで100〜200μlに調整した。この7.5〜10%をインプットとして取った。沈殿したタンパク質(Pel 1)を、+4℃にて10分間、21,000 x gでの遠心分離によってペレット化し、RIPA緩衝液中で2回洗浄し、以前のようにSDS-PAGE用に処理した。上清の7.5〜10%を取っておき(Sup 1)、残りを、0.5μlのビヒクル若しくは0.5μlのRNAse A/T1を補充した2本の新しいチューブに分けるか、又は全サンプルを1本のチューブに入れ、0.5μlのRNAse A/T1で処理した。全てのサンプルを37℃にて1時間インキュベートし、以前のように遠心分離した。ペレット化したタンパク質(P2)を以前のように洗浄し、SDS/尿素中に溶解させ、超音波処理した。各画分の等体積をSDS-PAGEゲルで分離し、次いで、クマシーで染色するか、又はウエスタンブロット解析用にメンブレンに転写した。
【0125】
透析チューブ
透析チューブを、1.5ml微小遠心チューブ(Crystal Clear、StarLab)の蓋に3mmの穴を開けることによって作製した。次いで、チューブを上端から1cmで切断し、新しい無傷の蓋を底に挿入した。サンプル添加後、チューブを透析膜で密封し、穴を開けた蓋をかぶせた。これにより、一端が、膜によって隔てられた周囲の溶液と接触している、透析チューブが作製される。穴の開いた方を下に向けて、チューブを透析溶液中に置いた。
【0126】
SDS-PAGE及びウエスタンブロット解析
加熱したサンプルを、MOPS又はMES緩衝液中、4〜12% Bis-Trisゲル(Life Technology)で分離し、0.2μmニトロセルロース若しくは0.45μm PVDFメンブレン(両者ともGE Healthcare)に、氷上で45Vにて2時間転写するか、あるいは、製造業者のプロトコールにしたがって、クマシー(ProtoBlue、National Diagnostics)染色のために直接使用した。転写後、ウエスタンブロット用のメンブレンを、TBS-T(50mM Tris-HCl pH7.5、150mM NaCl、0.05% Tween-20)中の5%ミルク中で室温にて1時間ブロッキングし、同じ溶液又はTBS-T/5% BSA中の一次抗体と+4℃にて一晩インキュベートした。次いで、メンブレンをTBS-T中で4 x 5分洗浄し、5%ミルク/TBS-T中のHRPコンジュゲート二次抗体とRTにて1時間インキュベートした。次いで、メンブレンを以前のように洗浄し、ECL Prime(GE Healthcare)中で5分間インキュベートし、その後、フィルム(ThermoFisher)に露出させた。使用した一次抗体: TDP-43(New England Biolabs、NEB、#G400)、HTT(NEB、#D7F7)、FUS(SantaCruz、#sc-47711)、SNCA(NEB、#D37A6)、MAPT(NEB、#Tau46)、PrP(Proteintech、#12555-1-AP)、NF-H(Covance、#SMI-32R)、A□6E10(Covance、#SIG-39320)、ACTB(Sigma、#A2228)、RPL7(Abcam、#ab72550)、PABP(Abcam、#ab21060)。PrP(1:2000)、ACTB(1:4000)、NF-H(1:4000)、FUS(1:100)及びRPL7(1:2000)を除いて、全ての一次抗体は1:1000希釈で使用した。二次抗体として、本発明者らは、ロバ抗ウサギHRP(#NA934V)又はヒツジ抗マウスHRP(#NXA931)を両者ともGE Healthcareから入手し、5% milk-TBS-T中に1:50,000希釈して使用した。
【0127】
RNA単離及び解析
RNAを、細胞溶解物及び精製したリボソームからTrizol LS(Life Technologies)を用いて製造業者の説明書にしたがって単離した。リボソームをJurkat T細胞から単離した。rRNAを枯渇させたRNAを、上清の上部3分の2から酸フェノール(Life Technologies)を用いて単離し(リボソームのペレット化及び水中の5倍希釈後)、その後、EtOH沈殿を行った。無傷細胞からのRNAを、Isol-RNA溶解試薬(5 PRIME)を用いて製造業者の説明書にしたがって単離した。全てのRNAサンプルをTE(10mM Tris-HCl pH8.0、1mM EDTA)中に溶解させた。RNAを1.5% アガロース又は6% PAGE/8M 尿素ゲル電気泳動によって解析し、臭化エチジウムで可視化した。rRNAを断片化するために、10mM ZnCl2、10mM Tris-HCl pH7.0中の50〜100μgのRNAを、7分間70℃にてインキュベートし、1:50容量の0.5M EDTAと混合し、次いで、EtOH沈殿させた。全てのリフォールディング実験を、ヒトニューロン又はJurkat T細胞から新たに調製したRNAを用いて実施した。可溶化タンパク質との混合前に、RNAサンプルを65℃にて5分間加熱し、次いで、少なくとも3時間氷上で冷却し、その後使用した。
【0128】
質量分析解析
100mM DTTを補充した1 x LDSローディング緩衝液(Life Technologies)中の、RNAseによって沈殿したタンパク質30μgを、MOPSランニング緩衝液中の4〜12% Bis-Trisゲルで分離した。クマシー染色後、各ゲルレーンを10個の等しいゲルスライスに分割し、1mmの立方体に切断した。ゲルバンドを脱染し、5mM TCEP(Pierce)で還元し、50mM クロロアセトアミド(Sigma)でアルキル化し、次いで、トリプシン(Promega)で16時間消化した。サンプルを自家製C18カラムを用いて脱塩し、次いで、Central Proteomics Facility(University of Oxford, UK)にてQExactive質量分析計(Thermo、Hemel Hempstead)を用いて解析した。データをMascot(MatrixScience、London)を用いて解析し、検索をUniProtヒトデータベースに対して実施した。60以上のMascotスコアを有し、2つの固有のペプチド配列を有するタンパク質は、確信を持って同定されたとみなした。
【0129】
RNAseによって沈殿したタンパク質のコンピューター解析
それぞれMascotスコア≧60を有する、両MSサンプルに共通のタンパク質を、リストにまとめて、さらなる解析に使用した。30個以上の連続アミノ酸の低複雑度領域を、以下のパラメーター: [30][3.2][3.55]を使用したSEG(REF)を用いて同定した。非構造領域を、以下のパラメーター: AAウィンドウ30、ジョイン(join)2、閾値1.75を使用したDisEMBL(REF)を用いて同定した。結果を、順列(permutation)分析によって得られた結果と比較した。一回の分析あたり合計で1,000個の順列を実施した。ヒトタンパク質の完全なセット(2013年7月にアクセスしたhttp://www.uniprot.org/downloads)から取り出したタンパク質(n=1,603)の無作為セットからなる順列を、全てSEG及びDisEMBLを用いて解析した。低複雑度領域及び非構造領域の割合の累積分布を、RNAseによって沈殿したタンパク質から得られた結果と比較した。
【0130】
RNA免疫沈降及び配列決定
14 x106個のJurkat T細胞の分子架橋を、PBS中の0.1% ホルムアルデヒドを用いて室温にて10分間で実現した。反応を1:10容量の1.5M グリシンの添加によって停止し、その後、氷上で10分間インキュベートした。架橋された細胞を冷PBS中で2回洗浄し、50mM Tris-HCl pH7.5、250mM スクロース、250mM KCl、5mM MgCl2、0.7% NP-40中で氷上で15分間溶解させた。核を遠心分離(800 x g、+4℃にて10分間)によってペレット化し、廃棄した。次いで、上清を+4℃にて20分間、21,000 x gでさらに遠心分離し、次いで、新しいチューブに移した。上清を0.5M KClに調整し、免疫沈降に使用した。溶解物を、0.3μgのPrP(Proteintech、#12555-1-AP)又はウサギIgG(Sigma)抗体と+4℃にて一晩回転させながらインキュベートし、次いで、5μlのあらかじめ洗浄したプロテインAダイナビーズ(Life Technologies)と混合し、室温にて30分間インキュベートした。ビーズをPBSで5回洗浄し、最終濃度0.5MまでNaClを補充したPBSで2回洗浄した。サンプルを、50μlの20mM Tris-HCl、300mM NaCl、1% SDS中で5分間65℃にて溶出させ、上清を、1μlのプロテイナーゼK(Merck)を補充した20mM Tris-HCl pH7.0、300mM NaClで300□lに希釈した。サンプルを65℃にて20分間インキュベートすることによって、架橋を解消させ、RNAを酸フェノール pH4.5(Life Technologies)中での抽出によって単離し、エタノール沈殿させた。沈殿したRNAをTE中で溶解させ、6% PAGE/8M 尿素ゲルで解析し、臭化エチジウムで可視化した。クローニング用のRNA-IPを、抗PrP(Proteintech、#12555-1-AP)、NF-H(Covance、#SMI-32)又はウサギIgG(Sigma)を用いて上に記載したように全RNAの存在下でリフォールドしたタンパク質について実施した。サンプルを+4℃にて2時間回転させながらインキュベートし、次いで、5μlの洗浄したプロテインAビーズ(PrP)又は5μlのヤギ-抗マウスIgG磁気ビーズ(Life Technologies)(NF-H及びIgG)のいずれかと混合し、室温にて30分間回転させた。ビーズをPBS中で5回洗浄し、0.5MまでNaClを補充したPBS中で1回洗浄した。サンプルを1% SDS中で溶出させ、上に記載したように、RNAを酸フェノールで抽出し、エタノール沈殿させた。沈殿したRNAを二本鎖cDNAに変換し、Illumina TrueSeqキットを用いて、最初の断片化を行わなかったことを除いて製造業者の説明書にしたがってPCR増幅した。増幅したcDNAをSma I切断pUC 19ベクター(NEB)に平滑末端ライゲーションし、大腸菌(NEB、DHA5a)に形質転換し、配列決定用に単一コロニー由来のプラスミドを調製した。配列決定したクローンをBLATソフトウェアを用いてマッピングした。96超の同一性のパーセンテージを有する最長マッチのみを各クローンについて考慮した。
【0131】
上の明細書中に記載された全ての文献は参照により本明細書に組み込まれる。本発明の範囲及び精神から逸脱せずに、記載された本発明の方法及び系の様々な改変及び変更が当業者には明らかである。本発明は特定の好ましい実施形態に関連して記載されているが、特許請求の範囲に記載した発明は、そのような特定の実施形態に過度に限定されるべきではないことが理解されるべきである。実際、分子生物学、タンパク質凝集又は関連分野の当業者に明らかな本発明を実施するための記載された様式の様々な改変が、以下の特許請求の範囲の範囲内にあることが意図される。
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