(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記劣化診断部が、前記微分部により生成された前記白熱ランプの微分スペクトルと劣化のない白熱ランプおよび大きく劣化した白熱ランプの各微分スペクトルとの相関性を求め、前記微分部により生成された前記白熱ランプの微分スペクトルが、劣化のない白熱ランプの微分スペクトルよりも大きく劣化した白熱ランプの微分スペクトルの方により相関していれば、劣化診断対象の白熱ランプが劣化していると診断するものである請求項1に記載の白熱ランプ劣化診断装置。
前記劣化診断部が、前記高次微分スペクトルの変動幅が所定値よりも小さければ、前記白熱ランプが劣化していると診断するものである請求項4に記載の白熱ランプ劣化診断装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これまで白熱ランプの劣化診断はフィラメントに通電される電流に基づいて行うのが一般的であった。しかし、このようなフィラメント電流に基づく劣化診断方法では、フィラメントの細線化が相当程度進まないと異常が検出されないため、白熱ランプが劣化していることが診断されてから実際にフィラメントが断線するまでの時間が短いという問題がある。このため、各種検査機器において白熱ランプが劣化していると診断されてからランプ交換の準備をする間もなく白熱ランプが切れることも起こり得る。こうした事態を回避するために、時間的余裕を持って白熱ランプの劣化診断を下すことが求められるところである。
【0007】
上記問題に鑑み、本発明は、白熱ランプの劣化状態を早期に検出することができる白熱ランプ劣化診断装置およびそのような白熱ランプ劣化診断装置を備えた検査機器およびシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一局面に従った白熱ランプ劣化診断装置は、劣化診断対象の白熱ランプの発光を受光する受光部と、前記受光部により受光された光が入射され、当該入射された光の近赤外領域におけるスペクトルを計測する分光器と、前記分光器により計測されたスペクトルを微分および平滑処理して微分スペクトルを生成する微分部と、前記微分部により生成された前記白熱ランプの微分スペクトルに基づいて前記白熱ランプの劣化を診断する劣化診断部とを備えたものである。
【0009】
この構成によれば、白熱ランプの微分スペクトルを使用することで、露光時間の違いや個々の白熱ランプの発光強度などに起因するスペクトル強度の違いに影響されることなく、白熱ランプの劣化状態を反映した特徴的なスペクトル形状を観察することができ、白熱ランプの劣化状態を早期に検出することができる。
【0010】
前記劣化診断部が、前記微分部により生成された前記白熱ランプの微分スペクトルと劣化のない白熱ランプおよび大きく劣化した白熱ランプの各微分スペクトルとの相関性を求め、前記微分部により生成された前記白熱ランプの微分スペクトルが、劣化のない白熱ランプの微分スペクトルよりも大きく劣化した白熱ランプの微分スペクトルの方により相関していれば、劣化診断対象の白熱ランプが劣化していると診断するものであってもよい。この場合、前記微分スペクトルが、元のスペクトルを2回微分した2次微分スペクトルであってもよい。
【0011】
これによると、劣化診断対象の白熱ランプの劣化状態が劣化のない白熱ランプおよび大きく劣化した白熱ランプのいずれに近いかといった相対的な評価により、白熱ランプの劣化状態を早期に検出することができる。また、白熱ランプのスペクトルを2回微分することで、白熱ランプの劣化状態を反映した特徴的なスペクトル形状を観察することができる。
【0012】
前記微分スペクトルが、元のスペクトルを3回以上微分した高次微分スペクトルであってもよく、前記劣化診断部が、前記高次微分スペクトルの特徴のみに基づいて前記白熱ランプの劣化を診断するものであってもよい。
【0013】
これによると、劣化のない白熱ランプおよび大きく劣化した白熱ランプとの相対的な評価を行うことなく、白熱ランプの高次微分スペクトル単独で白熱ランプの劣化状態を早期に検出することができる。
【0014】
前記劣化診断部が、前記高次微分スペクトルの変動幅が所定値よりも小さければ、前記白熱ランプが劣化していると診断するものであってもよい。
【0015】
これによると、劣化が進んだ白熱ランプの高次微分スペクトルは変動幅が小さくなる傾向にあるため、当該変動幅を基準にして白熱ランプの劣化状態を早期に検出することができる。
【0016】
また、本発明の別の一局面に従った検査機器は、白熱ランプと、前記白熱ランプ劣化診断装置と、前記白熱ランプ劣化診断装置の受光部および分光器により受光されて計測された、前記白熱ランプの光が照射された試料からの透過光および/または反射光のスペクトルに基づいて、前記試料に含まれる成分を分析する成分分析部と、前記白熱ランプ劣化診断装置の受光部が前記白熱ランプの光を直接受光するときに前記白熱ランプ劣化診断装置による白熱ランプ劣化診断を実行し、前記白熱ランプ劣化診断装置により前記白熱ランプの劣化が診断された場合にランプ交換を通知する制御部とを備えたものである。
【0017】
これによると、受光部および分光器を白熱ランプの劣化診断用途にも試料の検査用途にも使用することができる。また、試料の検査を実施していない期間に白熱ランプの劣化診断を行うことができる。
【0018】
また、本発明の別の一局面に従ったシステムは、前記検査機器と、前記検査機器およびその他の機器とネットワークを介して接続され、これら機器を一元管理する中央管理装置とを備えたものである。
【0019】
これによると、検査機器がシステムに統合された場合において、検査機器において白熱ランプが劣化していることが診断されたときにランプ交換の必要性を中央管理装置において確認することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、白熱ランプの劣化状態を早期に検出することができる。このため、白熱ランプを備えた検査機器において劣化した白熱ランプを時間的余裕をもって交換することができる。また、推奨交換時期の到達前に予備的に白熱ランプを交換する必要がなくなり、推奨交換時期を過ぎても劣化の診断が下されるまで白熱ランプを使用し続けることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、適宜図面を参照しながら、実施の形態を詳細に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0023】
なお、発明者は、当業者が本発明を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。また、図面に描かれた各部材の寸法、厚み、細部の詳細形状などは実際のものとは異なることがある。
【0024】
≪白熱ランプ劣化診断の原理≫
まず、本発明に至った背景となる白熱ランプ劣化診断の原理について説明する。ここでいう白熱ランプとは、窒素やアルゴンなどの不活性ガスが封入されたガラス球内のフィラメントに通電することでフィラメントから輻射されるジュール熱を発光に利用するランプのことをいう。白熱ランプの代表例としてハロゲンランプが挙げられる。なお、以下で言及する白熱ランプはハロゲンランプのことを想定しているが、本発明の適用範囲はハロゲンランプに限定されずにクリプトンランプなどにも適用可能である。
【0025】
(白熱ランプのスペクトル観察)
図1は、特定の波長領域(例えば、700[nm]〜800[nm])における白熱ランプのスペクトル例を示す図である。
図1に示したように、白熱ランプのスペクトル強度は、白熱ランプが劣化していないときには比較的高いが、劣化が進むにつれ徐々に減少する。特に、白熱ランプのスペクトルの形状は、当初山状形状であったものが白熱ランプの劣化が進むにつれ次第になだらかな形状へと変化する。このように、白熱ランプの劣化の進行は、スペクトル強度の減少および形状の平坦化として観察される。しかし、スペクトル強度は露光時間や白熱ランプの発光強度などに応じて直流成分がオフセットとして加わるため、露光時間の違いおよび個々の発熱ランプの発光強度の違いなどによって計測されるスペクトル強度が違ってくる。したがって、計測されたスペクトル強度から直ちに白熱ランプの劣化を診断することは難しい。
【0026】
(2次微分スペクトルの参照)
図2は、
図1のスペクトルを2回微分および平滑化処理した2次微分スペクトル例を示す図である。
図2からわかるように、特定の波長領域において、劣化のない白熱ランプおよびわずかに劣化した白熱ランプの2次微分スペクトルは極大点および極小点を持つ変化をするのに対して、大きく劣化した白熱ランプの2次微分スペクトルはほぼ単調に増大する。すなわち、白熱ランプの2次微分スペクトルの形状は、当初極大点および極小点をもつ曲線であったものが白熱ランプの劣化が進むにつれて極大点および極小点がなくなってほぼ単調増加する形状へと変化する。
【0027】
すなわち、白熱ランプのスペクトルを2回微分することで、白熱ランプの劣化状態を反映した特徴的なスペクトル形状を観察することができる。また、スペクトルを微分することで、露光時間の大小や白熱ランプの発光強度などに起因する直流成分を排除することができるという利点がある。そこで、劣化診断対象の白熱ランプの2次微分スペクトルが、劣化のない白熱ランプの2次微分スペクトルおよび大きく劣化した白熱ランプの2次微分スペクトルのどちらに近似しているかを評価することで、当該劣化診断対象の白熱ランプの劣化を診断することができる。
【0028】
図3は、劣化診断対象の白熱ランプの2次微分スペクトルと劣化のない白熱ランプの2次微分スペクトルおよび大きく劣化した白熱ランプの2次微分スペクトルのそれぞれとの相関性の時間変化を示す説明する図である。劣化診断対象の白熱ランプの劣化がほとんど進んでいない初期段階では(
図3上段の「劣化:なし」)、劣化診断対象の白熱ランプの2次微分スペクトルと劣化のない白熱ランプの2次微分スペクトルとの相関性Aは、劣化診断対象の白熱ランプの2次微分スペクトルと大きく劣化した白熱ランプの2次微分スペクトルとの相関性Bに勝っている。劣化診断対象の白熱ランプの劣化が進むと(
図3中段の「劣化:中」)相関性Aと相関性Bとがほぼ等しくり、さらに劣化診断対象の白熱ランプの劣化が進むと(
図3下段の「劣化:大」)相関性Bが相関性Aに勝るようになる。
【0029】
したがって、劣化のない白熱ランプの2次微分スペクトルおよび大きく劣化した白熱ランプの2次微分スペクトルをサンプルデータとしてあらかじめ用意しておき、劣化診断対象の白熱ランプの2次微分スペクトルとこれらサンプルデータとの相関性A,Bを求め、さらにこれら相関性A,Bを互いに比較することで、当該劣化診断対象の白熱ランプの劣化状態を診断することができる。
【0030】
(高次微分スペクトルの参照)
白熱ランプのスペクトルのさらに高次の微分スペクトルからはまた別の特徴が観察される。
図4は、
図1のスペクトルを3回微分および平滑化処理した高次微分スペクトル例を示す図である。
図4からわかるように、特定の波長領域において、劣化のない白熱ランプの3次微分スペクトルおよびわずかに劣化した白熱ランプの3次微分スペクトルはいずれも比較的大きく変動するのに対して、大きく劣化した白熱ランプの3次微分スペクトルの変動幅は小さい。すなわち、白熱ランプの3次微分スペクトルの形状は、当初山状形状であったものが白熱ランプの劣化が進むにつれて平坦な形状へと変化する。
【0031】
図5は、
図1のスペクトルを4回微分および平滑化処理した高次微分スペクトル例を示す図である。
図5からわかるように、特定の波長領域において、劣化のない白熱ランプの4次微分スペクトルおよびわずかに劣化した白熱ランプの4次微分スペクトルはいずれも正値の極大点および負値の極小点を持つ変化をするのに対して、大きく劣化した白熱ランプの4次微分スペクトルはほとんど変動せずにほぼゼロになる。すなわち、白熱ランプの4次微分スペクトルの形状は、当初正値の極大点および負値の極小点をもつ曲線であったものが白熱ランプの劣化が進むにつれて極大点および極小点がなくなってほぼゼロに収束する。
【0032】
すなわち、白熱ランプのスペクトルを3回以上微分した高次微分スペクトルを使用することで、劣化診断対象の白熱ランプの高次微分スペクトルと劣化のない白熱ランプおよび大きく劣化した白熱ランプの各高次微分スペクトルとの相関性を評価することなく、劣化診断対象の白熱ランプの高次微分スペクトルのみに基づいて、当該劣化診断対象の白熱ランプの劣化状態を診断することができる。
【0033】
以下、上述の白熱ランプ劣化診断を実施する白熱ランプ劣化診断装置について詳細に説明する。
【0034】
≪第1の実施形態≫
図6は、第1の実施形態に係る白熱ランプ劣化診断装置のブロック図である。第1の実施形態に係る白熱ランプ劣化診断装置10は、白熱ランプ100のスペクトルを2回微分した2次微分スペクトルを参照して白熱ランプ100の劣化状態を診断する装置である。
【0035】
図6に示したように、白熱ランプ劣化診断装置10は、受光部11と、分光器12と、制御ユニット110とを備えている。制御ユニット110は、制御部111、微分部112、劣化診断部113を備えている。具体的には、制御ユニット110は、図略のCPU、ハードディスクドライブ、メモリ、A/D変換ボードなどを備えており、これら構成要素から制御部111、微分部112、劣化診断部113が構成される。例えば、制御部111、微分部112、劣化診断部113はコンピュータプログラムとしてメモリに記憶されており、CPUがメモリから当該コンピュータプログラムを読み出して実行することで制御部111、微分部112、劣化診断部113が実現される。あるいは、制御部111、微分部112、劣化診断部113は専用のハード回路またはハード回路とソフトウェアの組み合わせであってもよい。
【0036】
受光部11は、白熱ランプ100の光101を受光する。受光部11により受光された光101は、図略の光ファイバーを通じて分光器12に入射される。なお、受光部11において適当な箇所に、白熱ランプ10から受光した光101の近赤外領域の光を透過させてそれ以外の領域の光を減衰させる光学フィルターを設けるとよい。
【0037】
分光器12は、受光部11より入射された光102の近赤外領域におけるスペクトル103を計測する。より詳細には、分光器12は、図略のスリット、コリメーティングミラー、分光素子(具体的にはプリズムまたはグレーティング)、アレイ検出器(具体的にはCMOSセンサーまたはリニアCCDアレイ)、電子回路などを備える。このうち、アレイ検出器は、分光素子により分光された光を電気信号に変換する。スペクトル103は当該電気信号により表される。
【0038】
制御部111は、白熱ランプ劣化診断装置10の全体の制御を司る。例えば、制御部111は、分光器12に制御信号104を送って分光器12の露光時間などを調整する。
【0039】
微分部112は、分光器12からスペクトル103を表す電気信号を受け、当該スペクトル103を2回微分して2次微分スペクトルを生成する。なお、微分部112は、微分演算の後に平滑化処理を行ってもよい。これにより、2次微分スペクトルに含まれる高周波ノイズを除去することができる。
【0040】
劣化診断部113は、微分部112により生成された白熱ランプ100の2次微分スペクトルに基づいて白熱ランプ100の劣化を診断する。より詳細には、劣化診断部113は、サンプルデータとして劣化のない白熱ランプの2次微分スペクトル105および大きく劣化した白熱ランプの2次微分スペクトル106を参照して、微分部112により生成された2次微分スペクトルとこれらサンプルデータとの相関性を求め、微分部112により生成された2次微分スペクトルが、劣化のない白熱ランプの2次微分スペクトルよりも大きく劣化した白熱ランプの2次微分スペクトルの方により相関していれば(
図3中の「劣化:大」の状態)、白熱ランプ100が劣化していると診断する。
【0041】
なお、上記サンプルデータは、白熱ランプ劣化診断装置10に実装された図略の不揮発性メモリなどに書き換え可能に記憶しておいてもよいし、白熱ランプ劣化診断装置10がネットワークに接続可能な場合にはネットワーク上のサーバーなどから都度取得するようにしてもよい。
【0042】
次に、第1の実施形態に係る白熱ランプ劣化診断装置10による白熱ランプ劣化診断処理について説明する。
図7は、第1の実施形態に係る白熱ランプ劣化診断装置10による白熱ランプ劣化診断処理のフローチャートである。
【0043】
ステップS1:受光部11が白熱ランプ100の光101を受光し、分光器12が受光部11から入射された光102のスペクトルを計測する。
【0044】
ステップS2:微分部112が分光器12から受けたスペクトル103を2回微分して2次微分スペクトルを生成する。
【0045】
ステップS3:劣化診断部113が、微分部112により生成された白熱ランプ100の2次微分スペクトルと劣化のない白熱ランプの2次微分スペクトル105との相関性A、および微分部112により生成された白熱ランプ100の2次微分スペクトルと大きく劣化した白熱ランプの2次微分スペクトル106との相関性Bを求める。
【0046】
ステップS4:劣化診断部113が、相関性Aと相関性Bとを比較する。
【0047】
ステップS5:相関性Aが相関性Bよりも小さい場合、ステップS6へ進む。逆に相関性Bが相関性Aよりも大きい場合、ステップS7へ進む。
【0048】
ステップS6:劣化診断部113が、白熱ランプ100が劣化していると診断する。例えば、劣化診断部113は、白熱ランプ100の交換を促すメッセージを適当な形態で表示する。
【0049】
ステップS7:劣化診断部113が、白熱ランプ100が劣化していないと診断する。すなわち、白熱ランプ100に交換の必要性がないため、劣化診断部113はこれ以上何もすることなく白熱ランプ劣化診断処理が終了する。
【0050】
なお、ステップS3において、劣化診断部113は回帰分析を行って相関係数を計算して相関性A,Bを求める必要はない。例えば、劣化診断部113は、微分部112により生成された白熱ランプ100の2次微分スペクトルとサンプルデータとの誤差二乗和または誤差絶対値和を計算し、その値を相関性A,Bとして用いるようにしてもよい。これにより、相関性算出に要する計算量を削減することができる。なお、誤差二乗和または誤差絶対値和を用いる場合、
図3に示した例とは逆に値が小さいほど相関性が高くなるため、ステップS5のYESおよびNOの分岐が入れ替わる点に注意すべきである。
【0051】
以上のように、第1の実施形態によると、白熱ランプ100の2次微分スペクトルを使用することで、露光時間の違いや個々の白熱ランプの発光強度などに起因するスペクトル強度の違いに影響されることなく、白熱ランプ100の劣化状態を早期に診断することができる。また、劣化診断対象の白熱ランプ100の劣化状態が劣化のない白熱ランプおよび大きく劣化した白熱ランプのいずれに近いかといった相対的な評価により、白熱ランプ100の劣化状態を早期に診断することができる。
【0052】
≪第2の実施形態≫
図8は、第2の実施形態に係る白熱ランプ劣化診断装置のブロック図である。第2の実施形態に係る白熱ランプ劣化診断装置10は、白熱ランプ100のスペクトルを3回以上微分した高次微分スペクトルを参照して白熱ランプ100の劣化状態を診断する装置である。装置構成は第1の実施形態とほぼ同じであるため、以下では第1の実施形態と異なる点を重点的に説明する。
【0053】
微分部112は、分光器12からスペクトル103を表す電気信号を受け、当該スペクトル103を3回以上微分して高次微分スペクトルを生成する。なお、微分部112は、微分演算の後に平滑化処理を行ってもよい。これにより、高次微分スペクトルに含まれる高周波ノイズを除去することができる。
【0054】
劣化診断部113は、微分部112により生成された白熱ランプ100の高次微分スペクトルのみに基づいて白熱ランプ100の劣化を診断する。より詳細には、劣化診断部113は、微分部112により生成された高次微分スペクトルの変動幅が所定値よりも小さければ、白熱ランプ100が劣化していると診断する。すなわち、第2の実施形態では、劣化診断部113は、劣化のない白熱ランプの高次微分スペクトルおよび大きく劣化した白熱ランプの高次微分スペクトルといったサンプルデータを参照する必要がない。
【0055】
次に、第2の実施形態に係る白熱ランプ劣化診断装置10による白熱ランプ劣化診断処理について説明する。
図9は、第2の実施形態に係る白熱ランプ劣化診断装置10による白熱ランプ劣化診断処理のフローチャートである。
【0056】
ステップS11:受光部11が白熱ランプ100の光101を受光し、分光器12が受光部11から入射された光102のスペクトルを計測する。
【0057】
ステップS12:微分部112が分光器12から受けたスペクトル103を3回以上微分して高次微分スペクトルを生成する。
【0058】
ステップS13:劣化診断部113が、微分部112により生成された白熱ランプ100の高次微分スペクトルの変動幅を求める。当該変動幅は、特定の波長領域における高次微分スペクトルの最大値と最小値との差として計算することができる。
【0059】
ステップS14:劣化診断部113が、白熱ランプ100の高次微分スペクトルの変動幅と所定値とを比較する。
【0060】
ステップS15:変動幅が所定値よりも小さい場合、ステップS16へ進む。逆に変動幅が所定値よりも大きい場合、ステップS17へ進む。
【0061】
ステップS16:劣化診断部113が、白熱ランプ100が劣化していると診断する。例えば、劣化診断部113は、白熱ランプ100の交換を促すメッセージを適当な形態で表示する。
【0062】
ステップS17:劣化診断部113が、白熱ランプ100が劣化していないと診断する。すなわち、白熱ランプ100に交換の必要性がないため、劣化診断部113はこれ以上何もすることなく白熱ランプ劣化診断処理が終了する。
【0063】
以上のように、第2の実施形態によると、劣化のない白熱ランプおよび大きく劣化した白熱ランプのサンプルデータが不要であり、白熱ランプ100の高次微分スペクトル単独で白熱ランプ100の劣化状態を早期に検出することができる。
【0064】
≪第3の実施形態≫
白熱ランプの光を用いた分光分析により各種検査を行う検査機器に第1の実施形態または第2の実施形態に係る白熱ランプ劣化診断装置10を組み込むことで、当該検査機器において白熱ランプの劣化診断を行うことができるようになる。
【0065】
図10は、第3の実施形態に係る検査機器のブロック図である。第3の実施形態に係る検査機器は、ボトル、ビン、缶などの容器に入った液体物(試料の一例)を容器に入ったままで検査する液体検査装置である。より詳しくは、第3の実施形態に係る液体検査装置20は、容器内の液体物に関して、エタノールやガソリンなどの可燃性液体、爆発物原料、不正薬物などの含有状況を検査する装置である。
【0066】
液体検査装置20は、白熱ランプ100と、受光部11と、分光器12と、制御ユニット210と、表示部21、通信インターフェイス22とを備えている。制御ユニット210は、制御部211、成分分析部212、微分部112、劣化診断部113を備えている。具体的には、制御ユニット210は、図略のCPU、ハードディスクドライブ、メモリ、A/D変換ボードなどを備えており、これら構成要素から制御部211、成分分析部212、微分部112、劣化診断部113が構成される。例えば、制御部211、成分分析部212、微分部112、劣化診断部113はコンピュータプログラムとしてメモリに記憶されており、CPUがメモリから当該コンピュータプログラムを読み出して実行することで制御部211、成分分析部212、微分部112、劣化診断部113が実現される。あるいは、制御部211、成分分析部212、微分部112、劣化診断部113は専用のハード回路またはハード回路とソフトウェアの組み合わせであってもよい。
【0067】
上記構成の液体検査装置20において、受光部11、分光器12、微分部112、劣化診断部113は上記の白熱ランプ劣化診断装置10の構成要素でもある。すなわち、白熱ランプ劣化診断装置10と液体検査装置20とで受光部11および分光器12が共用される。
【0068】
受光部11は、白熱ランプ100の光101が照射された容器200内の液体物201からの透過光および/または反射光101Aを受光する。分光器12は、受光部11より入射された光102の近赤外領域におけるスペクトルを計測する。
【0069】
成分分析部212は、分光器12からスペクトルを取得して分析し、容器200内の液体物201に関して、エタノールやガソリンなどの可燃性液体、爆発物原料、不正薬物などの含有状況を検査する。すなわち、成分分析部212は、検査対象の液体物201の吸収スペクトルを分析することにより液体物201に含まれる各種成分を特定する。なお、具体的な検査方法は特許第5207462や特開2016−80403号公報に開示されているのでそちらを参照されたい。
【0070】
制御部211は、液体検査装置20の全体の制御を司る。特に、制御部211は、液体検査と白熱ランプ劣化診断を適宜切り替える。例えば、受光部11により受光される光量が減少することで、制御部211は、検査対象の存在を認識して自動的に液体検査を開始し、検査結果を表示部21に表示させる。
【0071】
一方、制御部211は、受光部11により受光される光量に基づいて、受光部11が白熱ランプ100の光を直接受光している、すなわち、検査対象が存在しないと判断すると、微分部112および劣化診断部113を動作させて白熱ランプ100の劣化診断を実行する。白熱ランプ100が劣化していると診断された場合、制御部211は、表示部21にランプ交換のメッセージを表示する。また、制御部211は、通信インターフェイス22を介してランプ交換の通知を外部装置へ送信する。
【0072】
以上のように、第3の実施形態によると、受光部11および分光器12を白熱ランプ100の劣化診断用途にも液体物201の検査用途にも使用することができる。また、液体検査を実施していない期間に白熱ランプ100の劣化診断を行うことができる。
【0073】
なお、液体検査装置20が複数の白熱ランプ100を備える場合、制御部211は、白熱ランプの劣化診断時に1個ずつ白熱ランプ100を点灯させるようにしてもよい。これにより、個々の白熱ランプ100の劣化状態を診断することができる。
【0074】
≪第4の実施形態≫
図11は、第4の実施形態に係るシステムのブロック図である。第4の実施形態に係るシステムは統合セキュリティシステム30である。統合セキュリティシステム30において、上記の液体検査装置20、入退室管理装置31、セキュリティゲート管理装置32、収納庫管理装置33、録画監視装置34、中央管理装置35がネットワーク36により互いに接続されている。ネットワーク36はLANに限られずインターネットをも含み得る。
【0075】
入退室管理装置31にはICカード認証や生体認証などの認証機310が接続されている。入退室管理装置31は、認証機310により本人認証に成功した利用者の入退室を可能にする。
【0076】
セキュリティゲート管理装置32にはセキュリティゲート320が接続されている。セキュリティゲート管理装置32は、セキュリティゲート320により本人認証に成功した利用者のゲート通過を可能にする。
【0077】
収納庫管理装置33には電気施錠が可能な収納庫330が接続されている。収納庫管理装置33は、収納庫330により本人認証に成功した利用者による扉の解錠を可能にする。
【0078】
録画監視装置34にはカメラ340が接続されている。録画監視装置34は、カメラ340により撮像された監視映像を記録する。
【0079】
中央管理装置35は、液体検査装置20、入退室管理装置31、セキュリティゲート管理装置32、収納庫管理装置33、録画監視装置34などの配下の機器と通信してこれら機器から各種情報を収集してこれら機器を一元管理する。例えば、中央管理装置35は、入退室管理装置31から入退室者のID、入退室場所、入退室時間などの情報を取得して蓄積する。
【0080】
また、中央管理装置35は、配下の機器からアラーム情報を受けて、問題が発生した機器、当該機器の配置場所、トラブル内容などを図略のモニターに表示して監視員に知らせる。例えば、液体検査装置20において白熱ランプ100が劣化していると診断された場合、液体検査装置20から中央管理装置35へランプ交換の通知が送信される。中央管理装置35は、液体検査装置20からランプ交換の通知を受けて、当該液体検査装置20の配置場所、ランプ交換のメッセージなどを図略のモニターに表示して監視員に知らせる。
【0081】
以上のように、第4の実施形態によると、液体検査装置20が統合セキュリティシステム20に統合された場合において、液体検査装置20において白熱ランプ100が劣化していることが診断されたときにランプ交換の必要性を中央管理装置31において確認することができる。
【0082】
以上、本発明における技術の例示として、実施の形態を説明した。そのために、添付図面および詳細な説明を提供した。
【0083】
したがって、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、上記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
【0084】
また、上述の実施の形態は、本発明における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。