特許第6395812号(P6395812)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6395812-リグニンの脱重合方法 図000011
  • 特許6395812-リグニンの脱重合方法 図000012
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6395812
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】リグニンの脱重合方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 4/00 20060101AFI20180913BHJP
   C07C 15/02 20060101ALI20180913BHJP
   C07C 29/00 20060101ALI20180913BHJP
   C07C 33/18 20060101ALI20180913BHJP
   C07C 37/54 20060101ALI20180913BHJP
   C07C 39/06 20060101ALI20180913BHJP
   C07C 41/01 20060101ALI20180913BHJP
   C07C 43/205 20060101ALI20180913BHJP
   C07C 43/23 20060101ALI20180913BHJP
   C07C 45/51 20060101ALI20180913BHJP
   C07C 47/228 20060101ALI20180913BHJP
   C07C 49/213 20060101ALI20180913BHJP
   C07C 51/00 20060101ALI20180913BHJP
   C07C 65/32 20060101ALI20180913BHJP
   C07C 69/035 20060101ALI20180913BHJP
   C07C 69/92 20060101ALI20180913BHJP
   C07C 67/00 20060101ALI20180913BHJP
   B01J 31/02 20060101ALI20180913BHJP
   B01J 38/00 20060101ALI20180913BHJP
   B01J 38/52 20060101ALI20180913BHJP
   B01J 38/60 20060101ALI20180913BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20180913BHJP
【FI】
   C07C4/00
   C07C15/02
   C07C29/00
   C07C33/18
   C07C37/54
   C07C39/06
   C07C41/01
   C07C43/205 A
   C07C43/23 A
   C07C45/51
   C07C47/228
   C07C49/213
   C07C51/00
   C07C65/32 A
   C07C69/035
   C07C69/92
   C07C67/00
   B01J31/02 103Z
   B01J38/00 301M
   B01J38/52
   B01J38/60
   !C07B61/00 300
【請求項の数】9
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-512484(P2016-512484)
(86)(22)【出願日】2014年5月9日
(65)【公表番号】特表2016-524603(P2016-524603A)
(43)【公表日】2016年8月18日
(86)【国際出願番号】IN2014000320
(87)【国際公開番号】WO2014181360
(87)【国際公開日】20141113
【審査請求日】2017年5月2日
(31)【優先権主張番号】1387/DEL/2013
(32)【優先日】2013年5月9日
(33)【優先権主張国】IN
(73)【特許権者】
【識別番号】508176500
【氏名又は名称】カウンシル オブ サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】パレーシュ・ラクミカント・デペ
(72)【発明者】
【氏名】アシュトーシュ・アナント・ケルカール
(72)【発明者】
【氏名】ババサヘブ・マンスブ・マットサガール
(72)【発明者】
【氏名】サンディップ・クマール・シン
【審査官】 佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−531892(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/002660(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 1/20
B01J 31/02
B01J 38/00
B01J 38/52
B01J 38/60
C07C 15/02
C07C 29/00
C07C 33/18
C07C 37/54
C07C 39/06
C07C 41/01
C07C 43/205
C07C 43/23
C07C 45/51
C07C 47/228
C07C 49/213
C07C 51/00
C07C 65/32
C07C 67/00
C07C 69/035
C07C 69/92
C07B 61/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a. 脱アルカリリグニン及び-SO3H基を有するブレンステッドイオン液体を、1:0.25から1:1の範囲で水とメタノールとの混合物に加えて反応混合物を得る工程であって、ここでメタノールの水に対する比が1:5から5:1である、工程;
b. 工程(a)で得られた反応混合物を、100から170℃の温度範囲で、0.5から6時間の期間に亘って撹拌して、95-97%の収率及び90%以上の物質収支で芳香族生成物を得る工程
を含む、リグニンを脱重合して芳香族生成物を得る方法。
【請求項2】
工程(a)で使用される、-SO3H基を有するブレンステッドイオン液体が、(1-メチル-3-(3-スルホプロピル)-1H-イミダゾール-3-イウム4-メチルベンゼンスルホネート)、(1-メチル-3-(3-スルホプロピル)-1H-イミダゾール-3-イウム水素スルフェート)、及び(1-メチル-3-(3-スルホプロピル)-1H-イミダゾール-3-イウムクロライド)から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
-SO3H基を有するブレンステッドイオン液体が、(1-メチル-3-(3-スルホプロピル)-1H-イミダゾール-3-イウム水素スルフェート)である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
芳香族生成物が、100から300の範囲のm/zをもって得られるフェノール性モノマーである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
フェノール性モノマーが、THF溶解性である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
芳香族生成物が、3,5-ジ-ter-ブチル-4-メチルフェノール、2-ter-ブチル-4-メチルフェノール、4-アセチル安息香酸、ブチル-2-(アセチルオキシ)ベンゾエート、4-メトキシ-2-(プロプ-2-エン-イル)フェノール、3,6-ジメチルベンゼン-1,2,4-トリイルトリアセテート、及び(4-ter-ブチルフェニル)メタノールからなる群より選択される、請求項に記載の方法。
【請求項7】
芳香族生成物の単離及びブレンステッドイオン液体の回収の工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
ブレンステッドイオン液体の回収に、芳香族生成物を単離し、この芳香族生成物をTHFで処理してTHF溶解性芳香族生成物を単離し、次いでTHFの不溶性部分を水で処理して別の不溶性生成物からイオン液体を選択的に分離し、その後HClを加えることによって塊を得て、最後にこの塊をエタノールまたはメタノールで処理してイオン液体を単離し、その後エタノールを蒸発させてイオン液体を回収することが含まれる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
イオン液体の回収が、周囲反応条件下で実施される、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグニンを脱重合して、300以下の分子量を有する置換フェノール性モノマーを得る方法であって、酸性イオン液体を穏やかな反応条件下で触媒として使用し、97%までのモノマー全収率を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リグニンは、C-C結合またはC-O-C結合を介して互いに結合した幾つかの芳香環から構成される複合高分子である(図1)。リグニンは、植物種、成長条件などによって異なる量(15〜25%)で、リグノセルロース物質中に存在する。脱重合されると、リグニンは、燃料添加物及び基礎化学品として使用できる、数種類の芳香族モノマーを産生しうる。一般的に、従来技術には、リグニンの化学脱重合が5種類報告されており、それには、(1)塩基触媒、(2)酸触媒、(3)金属触媒、(4)イオン液体補助、及び(5)超臨界流体補助によるリグニン脱重合が含まれる。
【0003】
Blair J. Cox及びJohn G. Ekerdtによる、Bioresource Technology 118 (2012) 584-588の「酸性イオン液体、1-H-3-メチルイミダゾリウムクロライドを溶媒と触媒との両方として使用する、穏やかな条件下でのオーク材リグニンの脱重合」と題する文献(Article titled, "Depolymerization of oak wood lignin under mild conditions using the acidic ionic liquid 1-H-3-methylimidazolium chloride as both solvent and catalyst" by Blair J. Cox, John G. Ekerdt in Bioresource Technology 118 (2012) 584-588)は、イオン液体1-H-3-メチルイミダゾリウムアセテート中への溶解及びこれに次ぐ沈降を利用して木材から分離されたオーク材リグニンの、穏やかな条件(110〜150℃)下にて酸性イオン液体1-H-3-メチルイミダゾリウムクロライド中での脱重合が成功したことを報告している。ゲル浸透クロマトグラフィー結果によれば、110〜150℃の温度上昇は、反応速度を増大させたが、リグニンフラグメントの最終サイズを著しく変化させることはなかった。
【0004】
Elena Reichert、Reiner Wintringer、Dietrich A. Volmerb、及びRolf Hempelmannによる、Phys. Chem. Chem. Phys., 2012, 14, 5214-5221の「プロトン性イオン液体中でのリグニンの電気触媒酸化開裂」と題する文献(Article titled, "Electro-catalytic oxidative cleavage of lignin in a protic ionic liquid" by Elena Reichert, Reiner Wintringer, Dietrich A. Volmerb and Rolf Hempelmann in Phys. Chem. Chem. Phys., 2012, 14, 5214-5221)は、特定のプロトン性イオン液体に溶解したリグニンの、特定の電気触媒活性を有する陽極を使用した電気酸化開裂の新たな試みを報告している。
【0005】
Anthe George、Kim Tran、Trevor J. Morgan、Peter I. Benke、Cesar Berrueco、Esther Lorente、Ben C. Wu、Jay D. Keasling、Blake A. Simmons、及びBradley M. Holmesによる、Green Chem., 2011, 13, 3375-3385の「リグニンの巨大分子構造に対するイオン液体カチオンとアニオンとの組み合わせの効果」と題する文献(Article titled, "The effect of ionic liquid cation and anion combinations on the macromolecular structure of lignins" by Anthe George, Kim Tran, Trevor J. Morgan, Peter I. Benke, Cesar Berrueco, Esther Lorente, Ben C. Wu, Jay D. Keasling, Blake A. Simmons and Bradley M. Holmes in Green Chem., 2011, 13, 3375-3385)は、リグニン中の様々な結合の開裂が様々なアニオンによって引き起こされるとの証拠と共に、リグニン分子量の低減に対する相対的影響に関して、サルフェート>ラクテート>アセテート>クロライド>ホスフェートであることを報告している。研究したイオン液体のうち、サルフェートベースのイオン液体が、最大のリグニン分子を最も包括的に破壊して、1000-3000 u(多糖類のキャリブレーションによる)より大きなフラグメントを生成した。ラクテートアニオンは、最大のリグニン分子を破壊する性能はより低いようでありながら、観察される最小サイズ(2000-500 u)の、かなり大量のフラグメントの生成を引き起こす。
【0006】
Songyan Jia、Blair J. Cox、Xinwen Guo、Z. Conrad. Zhang、及びJohn G. Ekerdtによる、ChemSusChem 2010, 3, 1078-1084の「酸性イオン液体、1-H-3-メチルイミダゾリウムクロライド中のリグニンモデル化合物の(β-O-4)結合の開裂:リグニンの分解のための任意の戦略」と題する文献(Article titled, "Cleaving the (β-O-4) Bonds of Lignin Model Compounds in an Acidic Ionic Liquid, 1 -H-3-Methylimidazolium Chloride: An Optional Strategy for the Degradation of Lignin" by Songyan Jia, Blair J. Cox, Xinwen Guo, Z. Conrad. Zhang, and John G. Ekerdt in ChemSusChem 2010, 3, 1078-1084)は、酸性イオン液体、1-H-3-メチルイミダゾリウムクロライド中で研究された二つのリグニンモデル化合物におけるβ-O-4結合の加水分解を報告している。グイアアシルグリセロールb-グアイアシルエーテルとベラトリルグリセロール-b-グアイアシルエーテルとの両方のB-O-4結合が、触媒的加水分解を経て、150℃にて、70%超の収率で、主要生成物としてグアイアコールを生成した。
【0007】
Ning Yan、Yuan Yuan、Ryan Dykeman、Yuan Kou、及びPaul J. Dysonによる、Angew. Chem. Int. Ed. 2010, 49, 5549-5553の「ブレンステッド酸性イオン液体と混合したナノ粒子触媒の使用による、リグニン誘導フェノールのアルカンへの水素化脱酸素反応」と題する文献(Article tited, "Hydrodeoxygenation of Lignin-Derived Phenols into Alkanes by Using Nanoparticle Catalysts Combined with Bransted Acidic Ionic Liquids" by Ning Yan, Yuan Yuan, Ryan Dykeman, Yuan Kou, and Paul J. Dyson in Angew. Chem. Int. Ed. 2010, 49, 5549-5553)は、リグニン誘導フェノール化合物からアルカンへの変換が、イオン液体中で達成されることを報告している。触媒系は、非官能化イオン液体中に固定された官能化ブレンステッド酸性イオン液体及び金属NPsを含み、よって水素化反応と脱水反応とが相前後して起こる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】"Depolymerization of oak wood lignin under mild conditions using the acidic ionic liquid 1-H-3-methylimidazolium chloride as both solvent and catalyst" by Blair J. Cox, John G. Ekerdt in Bioresource Technology 118 (2012) 584-588
【非特許文献2】"Electro-catalytic oxidative cleavage of lignin in a protic ionic liquid" by Elena Reichert, Reiner Wintringer, Dietrich A. Volmerb and Rolf Hempelmann in Phys. Chem. Chem. Phys., 2012, 14, 5214-5221
【非特許文献3】"The effect of ionic liquid cation and anion combinations on the macromolecular structure of lignins" by Anthe George, Kim Tran, Trevor J. Morgan, Peter I. Benke, Cesar Berrueco, Esther Lorente, Ben C. Wu, Jay D. Keasling, Blake A. Simmons and Bradley M. Holmes in Green Chem., 2011, 13, 3375-3385
【非特許文献4】"Cleaving the (β-O-4) Bonds of Lignin Model Compounds in an Acidic Ionic Liquid, 1-H-3-Methylimidazolium Chloride: An Optional Strategy for the Degradation of Lignin" by Songyan Jia, Blair J. Cox, Xinwen Guo, Z. Conrad. Zhang, and John G. Ekerdt in ChemSusChem 2010, 3, 1078-1084
【非特許文献5】"Hydrodeoxygenation of Lignin-Derived Phenols into Alkanes by Using Nanoparticle Catalysts Combined with Bransted Acidic Ionic Liquids" by Ning Yan, Yuan Yuan, Ryan Dykeman, Yuan Kou, and Paul J. Dyson in Angew. Chem. Int. Ed. 2010, 49, 5549-5553
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
リグニンの脱重合は、気体(CO、H2、CH4、アルカン類など)または置換フェノール性モノマー化合物などの生成物をもたらす。可溶性塩基(NaOH、KOH、CsOHなど)を使用する、また超臨界水を用いるリグニンの脱重合が既知である。しかしながら、これらの方法は、環境にとって無害なものではなく、エネルギーを消費する。しかるに、可溶性塩基を使用せず、より穏やかな反応条件で動作し、かつ、環境にとって無害な方法の開発が求められている。イオン液体の中にはリグニン溶解/脱重合に適当な溶媒があるという事実にも関わらず、イオン液体の高いコストが、大量のリグニン脱重合反応へのその応用を制限していた。したがって、当該技術分野には、イオン液体の再生/回収に対する要求が存在する。しかしながら、イオン液体と芳香族部分との間のΠ-Π相互作用のため、イオン液体をリグニン誘導分子と分離することは困難であると報告されている。また、従来技術では、イオン液体の再生/回収の効果的な方法が教示されていない。
【0010】
本発明の主題は、穏やかな反応条件下で酸性イオン液体を触媒として用いて、高収率で300未満の分子量を有する置換フェノール化合物をもたらす、リグニンの脱重合のための、環境に無害な方法を提供することである。
【0011】
本発明の別の主題は、リグニン脱重合の反応物質からイオン液体を回収/再生することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
したがって、本発明は、
a. 脱アルカリリグニン及び-SO3H基を有するブレンステッドイオン液体を、1:0.25から1:1の範囲で水とメタノールとの混合物に加えて反応混合物を得る工程であって、ここでメタノールの水に対する比が0:1から5:1である、工程;
b. 工程(a)で得られた反応混合物を、100から170℃の温度範囲で、0.5から6時間の期間に亘って撹拌して、95-97%の収率及び90%以上の物質収支で芳香族生成物を得る工程
を含む、リグニンを脱重合して芳香族生成物を得る方法を提供する。
【0013】
本発明の一実施態様においては、工程(a)で使用される、-SO3H基を有するブレンステッドイオン液体は、(1-メチル-3-(3-スルホプロピル)-1H-イミダゾール-3-イウム4-メチルベンゼンスルホネート)、(1-メチル-3-(3-スルホプロピル)-1H-イミダゾール-3-イウム水素スルフェート)、(1-メチル-3-(3-スルホプロピル)-1H-イミダゾール-3-イウムクロライド)から選択される。
【0014】
本発明の実施態様において使用される、-SO3H基を有するブレンステッドイオン液体は、(1-メチル-3-(3-スルホプロピル)-1H-イミダゾール-3-イウム水素スルフェート)である。
【0015】
本発明の別の実施態様では、芳香族生成物は、100から300の範囲のm/zをもって得られるフェノール性モノマーである。
【0016】
本発明のさらに別の実施態様では、フェノール性モノマーは、THF溶解性である。
【0017】
本発明のさらに別の実施態様では、フェノール性モノマーは、3,5-ジ-ter-ブチル-4-メチルフェノール、2-ter-ブチル-4-メチルフェノール、4-アセチル安息香酸、ブチル-2-(アセチルオキシ)ベンゾエート、4-メトキシ-2-(プロプ-2-エン-イル)フェノール、3,6-ジメチルベンゼン-1,2,4-トリイルトリアセテート、及び(4-ter-ブチルフェニル)メタノールからなる群より選択される。
【0018】
本発明のさらに別の実施態様では、前記方法は、芳香族生成物を単離し、ブレンステッドイオン液体を再生する工程を含む。
【0019】
本発明のさらに別の実施態様では、ブレンステッドイオン液体の回収には、芳香族生成物を単離し、この芳香族生成物をTHFで処理してTHF溶解性芳香族生成物を単離し、次いでTHFの不溶性部分を水で処理して別の不溶性生成物からイオン液体を選択的に分離し(dissolve)、その後HClを加えることによって塊を得て、最後にこの塊をエタノールまたはメタノールで処理してイオン液体を単離し、その後エタノールを蒸発させてイオン液体を回収することが含まれる。
【0020】
本発明のさらに別の実施態様では、イオン液体の回収は、周囲反応条件にて実施される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、様々なイオン液体のIRである。
図2図2は、様々なブレンステッド酸性イオン液(IL)の合成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
上記の通り、本発明は、酸性イオン液を触媒として使用して、高収率で置換フェノール化合物をもたらす、リグニンの脱重合方法を提供する。
【0023】
本発明は、
a. 脱アルカリリグニン及び-SO3H基を有するブレンステッドイオン液体を、水とメタノールとの混合物に加えて、反応混合物を得る工程;
b. 工程(a)で得られた反応混合物を、100から170℃の範囲の温度で、0.5から6時間の期間に亘って撹拌して、高収率で芳香族生成物を得る工程
を含む、リグニンの脱重合方法を提供する。
【0024】
-SO3H基を有するブレンステッドイオン液体は、(1-メチル-3-(3-スルホプロピル)-1H-イミダゾール-3-イウム4-メチルベンゼンスルホネート)[C3SC1IM][PTSA]、(1-メチル-3-(3-スルホプロピル)-1H-イミダゾール-3-イウム水素スルフェート)[C3SC1IM][HSO4]、(1-メチル-3-(3-スルホプロピル)-1H-イミダゾール-3-イウムクロライド)[C3SC1IM][Cl]から選択される。
【0025】
本発明による、-SO3H基を有する好ましいブレンステッドイオン液体は、(1-メチル-3-(3-スルホプロピル)-1H-イミダゾール-3-イウム水素スルフェート)である。リグニン脱重合は、任意に、1-ブチル,3-メチルイミダゾリウムクロライドなどの酸性イオン液体の存在下で実施される。
【0026】
リグニンの脱重合は、以下の条件を用いて実施される。
リグニン(0.5g)、[C3SC1IM][HSO4](0.5g)、メタノール及び水(30mL、5:1比)、120℃、1時間
第一回操作:97%(THF溶解性フェノール性モノマー)
回収の際のIL[C3SC1IM][HSO4]の喪失により、第二回操作においては、リグニンの触媒に対する同等の比を維持するために、以下の条件を適用する。
リグニン(0.5g)、[C3SC1IM][HSO4](0.5g)、メタノール及び水(15mL、5:1比)、120℃、1時間
第二回操作:95%(THF溶解性フェノール性モノマー)
【0027】
本発明は、J. Mater, Chem., 2012, 22, 17140により、
a. 1-メチルイミダゾールと1,3-プロパンスルトンとの等モル混合物をトルエン中で一晩還流させて白色析出物(双性イオン)を得る工程
b. 工程(a)で得られた白色析出物を、ブレンステッド酸の等モル溶液に溶媒なしで曝して所望の酸性イオン液体を得る工程
を含む、酸性イオン液体の合成方法を提供する。
【0028】
酸性イオン液体の合成に使用されるブレンステッド酸は、HCl、硫酸、またはパラ-トルエンスルホン酸一水和物から選択される。
【0029】
本発明は、以下:
【化1】
に示される、3,5-ジ-ter-ブチル-4-メチルフェノール、2-ter-ブチル-4-メチルフェノール、4-アセチル安息香酸、ブチル-2-(アセチルオキシ)ベンゾエート、4-メトキシ-2-(プロプ-2-エン-イル)フェノール、3,6-ジメチルベンゼン-1,2,4-トリイルトリアセテート、及び(4-ter-ブチルフェニル)メタノールからなる群より選択される、リグニンの脱重合によって生成されるフェノール性モノマーを提供する。
【0030】
本発明は、
a) 水とメタノールとの混合物を、反応混合物から除去して固形物を得て、次いで前記固形物をTHFで処理してTHF溶解性芳香族生成物を単離する工程;
b) THFの不溶性部分を水で処理して、別の不溶性生成物からイオン液体を選択的に分離し、その後HClを加えることによって、Na汚染物質をこれもまたイオン液体と共に水に溶解性であるNaClとする工程;
c) 最後にこの塊をエタノール/メタノールで処理してNaCl汚染物質(溶媒中に不溶性)からイオン液体(溶媒中に溶解性)を単離し、次いでイオン液体を含む溶媒を単離し、その後エタノールを蒸発させてイオン液体を回収する工程;
を含む、イオン液体を、ブレンステッド酸性をもって回収する方法を提供する
【0031】
回収は、実質的に周囲条件下で実施してよい。
【0032】
上記方法により、反応の完了後、溶媒混合物、水、及びメタノールを、反応混合物から回転式エバポレーターで除去して固形物を得た。この固形物に、THFを添加して(リグニン脱重合から得られた)有機化合物を除去した。イオン液体(IL)はTHFに溶解性ではなく、丸底フラスコに粘着することから、THFをデカントし、これによってILをTHF溶解性有機化合物から分離した。THFの不溶性部分(IL及び別の不溶性部分を含む)に、水を加えて、イオン液体を選択的に分離し、水溶性イオン液体を濾過してこれを他の有機化合物から分離した。この溶液に、HClを添加してIL中のNa汚染物質からNaClを生成させた(リグニンはppmレベルのNaを含有するため)。この溶液を室温で2時間に亘って攪拌した。その後、回転式エバポレーターにかけてNaClと共にイオン液体を得た。これがエタノール/メタノールに溶解性でないことから、NaClからILを選択的に単離するために、この粘性の準固形物にエタノール/メタノールを添加し、濾過してILを分離した。エタノール中に溶解したILは、回転式エバポレーターでエタノールを除去した後に回収され、次の反応に使用された。ILの回収は、NMR、CHNS分析、及びTGAなどにより確認された。
【0033】
以下は、本発明をさらに詳説するために与えられる実施例であり、本発明の範囲を制限すると解されるべきではない。
【実施例】
【0034】
(実施例1:酸性イオン液体の合成)
酸性イオン液体の合成は、二工程の反応で実施される。第一の工程では、1-メチルイミダゾールと1,3-プロパンスルトンとの等モル混合物が、トルエン中で一晩16時間に亘り115℃で還流されて、白色析出物(双性イオン)をもたらした。第二工程反応では、前記白色析出物をHClの等モル溶液と溶媒なしに反応させ、16時間に亘り105℃にて、酸性イオン液体1-メチル-3-(3-スルホプロピル)-1H-イミダゾール-3-イウムクロライドが生じた。同様に、別の酸性イオン液体が、双性イオンと、硫酸とパラ-トルエンスルホン酸一水和物との等モル溶液との反応によって合成される。
【0035】
(実施例2:触媒の特徴付け)
A) (1-メチル-3-(3-スルホプロピル)-1H-イミダゾール-3-イウム4-メチルベンゼンスルホネート)
1HNMR(200MHz, D20) δ 8.59(s, 1H), 7.55(d, 2H), 7.36(s, 1H), 7.30(s, 1H), 7.27(d, 2H), 4.11(t, 2H), 3.76(s, 3H), 2.83(t, 2H) 2.28(s, 3H), 1.90(m, 2H)
13CNMR 142.42, 139.43, 136.09, 129.40, 125.31, 123.72, 122.14, 47.69, 47.17, 35.66, 25.05, 20.44
微量分析:微量分析による元素のおよその%は、C(43)、H(5.3)、N(7.5)、及びS(15)。

B) (1-メチル-3-(3-スルホプロピル)-1H-イミダゾール-3-イウム水素スルフェート) [C3SC1IM][HSO4]
1HNMR(200MHz, D20) δ 8.66(s, 1 H), 7.42(s, 1 H), 7.35(s, 1 H), 4.26(t, 2H), 3.79(s, 3H), 2.82(t, 2H), 2.21(m, 2H)
13CNMR 136.16, 123.74, 122, 47.69, 47.19, 35.66, 25
微量分析:微量分析による元素のおよその%は、C(30.56)、H(7.31 )、N(11 .63)、及びS (23.89)。

C) 1-メチル-3-(3-スルホプロピル)-1H-イミダゾール-3-イウムクロライド
1HNMR(200MHz, D2O) δ 8.63(s, 1 H), 7.40(s, 1 H), 7.32(s, 1 H), 4.24(t,2H), 3.77(s, 3H), 2.80(t,2H), 2.19(m,2H)
13CNMR 136.19, 123.76, 122.18, 47.72, 47.18, 35.7, 25.08
微量分析:微量分析による元素のおよその%は、C(35.10)、H (6.02)、N (13.16)、及びS (14.25)。

D) 1-ブチル- 3-メチルイミダゾリウムクロライド
1HNMR(200MHz, D20) δ 8.82(s, 1 H), 7.67(s, 1 H), 7.61(s, 1 H), 4.35(t,3H), 4(s, 3H), 1.91(m, 2H), 1.40(m, 2H), 0.94 (t, 3H)
13CNMR 123.76, 122.18, 49.32, 35.7, 31.2, 19.12,及び12.34
微量分析:微量分析による元素のおよその%は、C(55)、H (9)、及びN (16)。
【0036】
(実施例3:以下の条件を用いるリグニンの脱重合)
脱アルカリリグニン(0.5g)、[C3SC1IM][HSO4](0.5g)をメタノール及び水(30mL、5:1比)中に入れ、反応混合物を120℃の温度で1時間に亘って攪拌し、反応生成物を、THF溶解性フェノール性モノマーについて分析する。
収率:97%(THF溶解性フェノール性モノマー)
【0037】
【表1】
【0038】
触媒反応結果を、以下の表にまとめる。
【0039】
【化2】
【0040】
溶媒比研究:
メタノールの水に対する比を変化させ、結果を以下の表1に表す。
【0041】
【表2】
【0042】
反応条件:リグニン(0.5g)、[C3SC1IM][HSO4](0.5g)、メタノール+水(30mL)、120℃、1時間
【0043】
上記より、メタノール/水の比が5であるとより優れた生成物収率が得られることが明らかである。
リグニンの脱重合に対する酸性イオン液体の効果は、表2に示される。
【0044】
【表3】
【0045】
リグニン(0.2g)、触媒(0.05g)、溶媒(水+MeOH=2+10mL)
混合溶媒:THF+EtOAc
【0046】
上記より、イオン液体の使用により、フェノール性モノマーの収率が改善されることは明らかである。
リグニンの脱重合に対する触媒量の効果は、表3に示される。
【0047】
【表4】
【0048】
リグニン(0.2g)、温度(150℃)、溶媒(水+MeOH=2+10mL)
混合溶媒:THF+EtOAc
【0049】
上記より、リグニンの触媒に対する比が1:1であるとよりよい収率が得られることは明らかである。
リグニンの脱重合に対する時間の効果は、表4に示される。
【0050】
【表5】
【0051】
リグニン(0.2g)、触媒(0.2g)、溶媒(水+MeOH=2+10mL)
混合溶媒:THF+EtOAc
【0052】
上記の表より、6時間の長い反応時間と比較すると、よりよい結果を得るためには2時間の反応時間で十分であることが明らかである。
収率の低下は、おそらくは生成物の分解または生成物の再重合に由来し得る。
リグニンの脱重合に対する反応温度の効果は、表5に示される。
【0053】
【表6】
【0054】
リグニン(0.2g)、触媒(0.2g)、溶媒(水+MeOH=2+10mL)
混合溶媒:THF+EtOAc
【0055】
上記の研究より明らかな通り、反応が100℃の温度でさえも滞りなく進行して60%もの収率を得るとはいえ、温度の上昇に伴って、収率は83%にまで改善される。
リグニンの脱重合に対するILの効果は、表6に示される。
【0056】
【表7】
【0057】
リグニン(0.2g)、触媒(0.2g)、溶媒(水+MeOH=2+10mL)
混合溶媒:THF+EtOAc
【0058】
上記の表からは、反応が(1-メチル-3-(3-スルホプロピル)-1H-イミダゾール-3-イウムの様々なアニオンを用いて滞りなく進行するとはいえ、最良の結果は(1-メチル-3-(3-スルホプロピル)-1H-イミダゾール-3-イウムの(HSO4)アニオンを用いて達成されることが明らかである。(-SO3H基を有する)ブレンステッドイオン液体、すなわち、SO3H基を有する(1-メチル-3-(3-スルホプロピル)-1H-イミダゾール-3-イウムを使用すると、97%の収率でフェノール性モノマーが得られる。触媒反応混合物を、GC及びGCMSで分析してフェノール性モノマー生成物の収率(%)を評価した。
酸性イオン液体の特徴付けを、1H及び13C NMR、CHNS分析、IR、及びTGAで行った。
【0059】
(実施例4)
再生触媒を第二回操作において使用した。回収過程でIL[C3SC1IM][HSO4]の損失があるため、リグニンの触媒に対する比を同等に維持するために、更なる量のリグニン(0.25g)及びIL触媒[C3SC1IM][HSO4](0.25g)を、5:1の比を維持するためにメタノール及び水(15mL)に添加した。反応物質を120℃の温度で1時間に亘り攪拌し、反応物質をTHF溶解性フラクションについて分析した。
収率:76%(THF溶解性フェノール性モノマー)
【0060】
(実施例5:触媒の再生方法)
反応後、反応混合物から、溶媒(水+メタノール)を回転式エバポレーターで除去して固形物を得た。この固形物に、THFを添加してあらゆる有機化合物(リグニン脱重合により得られた)を除去した。イオン液体(IL)がTHFに溶解性でなく、非常にべたつくため、これは丸底フラスコに粘着した。その後、THFをデカントし、かくしてILをTHF溶解物から分離した。THFの不溶性部分(IL及び別の不溶性部分を含む)に、水を加えた。ILは水に溶解するが、他の有機化合物は溶解しない。濾過の後に、水溶性ILを分離した。NaがIL中の汚染物質であることから(リグニンはppmレベルのNaを含有する)、この溶液にHClを加えてNaClを生成させた。この溶液を室温で2時間に亘って攪拌した後、回転式エバポレーターにかけてNaClと共にILを得た。この粘性の準固形物にエタノールを添加した。NaClがエタノールに溶解性でない一方でILはエタノールに溶解性であることから、NaClとILとの分離は濾過を用いて行った。エタノールに溶解したILは、回転式エバポレーターによりエタノールを除去した後に回収された。このILは、次の反応に使用された。ILの回収は、NMR、CHNS分析、IR、及びTGAなどにより確認された。
【0061】
a. 穏やかな条件下でのリグニン化合物の脱重合。
b. 300以下の分子量を有する芳香族モノマーが得られた。
c. モノマー生成の収率は97%にもなる。
図1
図2