特許第6395939号(P6395939)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6395939
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】回転式圧縮機及び冷凍サイクル装置
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/356 20060101AFI20180913BHJP
   F04C 29/02 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   F04C18/356 N
   F04C29/02 A
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-531034(P2017-531034)
(86)(22)【出願日】2016年4月11日
(86)【国際出願番号】JP2016061676
(87)【国際公開番号】WO2017018005
(87)【国際公開日】20170202
【審査請求日】2017年10月13日
(31)【優先権主張番号】特願2015-147077(P2015-147077)
(32)【優先日】2015年7月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505461072
【氏名又は名称】東芝キヤリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 茂喜
(72)【発明者】
【氏名】平山 卓也
【審査官】 冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−258001(JP,A)
【文献】 特開平8−159071(JP,A)
【文献】 実開昭56−159694(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/356
F04C 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油が貯留される容器と、
前記容器内に収納されたシリンダと、
前記シリンダの開口部を閉塞して、前記シリンダとともにシリンダ室を形成する閉塞板と、
前記シリンダ室内で偏心回転するローラと、
前記シリンダに形成されたブレード溝内に設けられ、前記ローラに当接して前記シリンダ室内を分割するとともに、前記ローラの偏心回転に伴い前記シリンダ室内に進退可能とされたブレードと、
前記ブレードのうち、前記閉塞板と対向する対向面に形成され、前記ブレードの移動方向に沿って延びる給油溝と、を備え、
前記給油溝は、第1端部が前記シリンダ室の外側で前記容器内に連通し、第2端部が前記ブレード内で終端し、
前記給油溝の底面における表面粗さは、前記ブレードの外表面のうち前記第1端部寄りに位置する背面の表面粗さよりも小さい、
回転式圧縮機。
【請求項2】
前記給油溝における少なくとも前記第2端部寄りに位置する部分は、前記ブレードの第2端面に向かうに従い断面積が小さくなっている、
請求項1に記載の回転式圧縮機。
【請求項3】
前記給油溝は、前記第1端部から前記第2端部に向かうに従い溝深さが漸次浅くなる円弧状に形成されている、
請求項2に記載の回転式圧縮機。
【請求項4】
前記ブレードは、
前記ブレード溝に面する側面と前記対向面とのなす角部に形成された第1面取り部と、
前記給油溝の内側面と前記対向面とのなす角部に形成された第2面取り部と、を有し、
前記第2面取り部の面取り量は、前記第1面取り部の面取り量よりも大きい、
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の回転式圧縮機。
【請求項5】
前記ブレードは、
前記給油溝の内側面と前記底面との間を接続するとともに、前記内側面と前記底面とのなす角部に対して前記対向面に向けて膨出する接続部と、
前記ブレード溝に面する側面と前記対向面とのなす角部に形成された第1面取り部と、を有し、
前記接続部の膨出量は、前記第1面取り部の面取り量よりも大きい、
請求項1から請求項4の何れか1項に記載の回転式圧縮機。
【請求項6】
請求項1から請求項5の何れか1項に記載の回転式圧縮機と、
前記回転式圧縮機に接続された放熱器と、
前記放熱器に接続された膨張装置と、
前記膨張装置と前記回転式圧縮機との間に接続された蒸発器と、を備えていることを特徴とする冷凍サイクル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、回転式圧縮機及び冷凍サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空気調和装置等の冷凍サイクル装置に使用される回転式圧縮機として、潤滑油が貯留される容器と、容器内に収納された圧縮機構部と、を有する構成が知られている。圧縮機構部は、筒状のシリンダと、シリンダの開口部を閉塞する閉塞板と、シリンダ及び閉塞板で形成されたシリンダ室内で偏心回転するローラと、を備えている。シリンダに形成されたブレード溝内には、シリンダ室内を圧縮室と吸込室とに分割するブレードが配設されている。ブレードは、ローラに当接するとともに、ローラの偏心回転に伴いシリンダ室内を進退移動する。
【0003】
ところで、上述したブレードは、ブレードと閉塞板との間に潤滑油を介在させた状態で、閉塞板に対して摺動することが好ましい。これにより、ブレードと閉塞板との間の摩耗を低減した上で、ブレードと閉塞板との間でのシール性を確保できると考えられる。
【0004】
ブレードと閉塞板との間に潤滑油を介在させるための構成として、ブレードにおける閉塞板との対向面に、ブレードの移動方向に沿って延びる給油溝を形成する構成が考えられる。具体的に、給油溝の第1端部は、シリンダ室の外側で容器内に向けて開放される。給油溝の第2端部は、ブレード内で終端している。この構成によれば、容器内の潤滑油が給油溝内に流入することになるので、ブレードと閉塞板との間に潤滑油が供給され易くなるものと考えられる。
【0005】
しかしながら、上述した回転式圧縮機においては、容器内に存在する摩耗粉等の異物が潤滑油とともに給油溝内に流入し、運転時間の経過に伴い給油溝内に堆積するおそれがある。この場合、給油溝の実容積が減少したり、給油溝の開口部が塞がれたりすることで、ブレードと閉塞板との間に所望量の潤滑油を介在させることが難しくなる可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】日本国特開平4−191491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、長期に亘って動作信頼性を維持することができる回転式圧縮機及び冷凍サイクル装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の回転式圧縮機は、容器と、シリンダと、閉塞板と、ローラと、ブレードと、給油溝と、を持つ。容器は、潤滑油が貯留される。シリンダは、容器内に収納される。閉塞板は、シリンダの開口部を閉塞して、シリンダとともにシリンダ室を形成する。ローラは、シリンダ室内で偏心回転する。ブレードは、シリンダに形成されたブレード溝内に設けられ、ローラに当接してシリンダ室内を分割するとともに、ローラの偏心回転に伴いシリンダ室内に進退可能とされる。給油溝は、ブレードのうち、閉塞板と対向する対向面に形成され、ブレードの移動方向に沿って延びる。給油溝は、第1端部がシリンダ室の外側で容器内に連通し、第2端部がブレード内で終端する。給油溝の底面における表面粗さは、ブレードの外表面のうち第1端部寄りに位置する背面の表面粗さよりも小さい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1の実施形態における回転式圧縮機の断面図を含む、冷凍サイクル装置の概略構成図。
図2図1のII−II線に相当する圧縮機構部の断面図。
図3図2のIII−III線に沿うブレードの断面図。
図4図1のIV部の拡大図。
図5】第2の実施形態におけるブレードの図3に相当する断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態の回転式圧縮機及び冷凍サイクル装置を、図面を参照して説明する。
(第1の実施形態)
始めに、冷凍サイクル装置1について簡単に説明する。図1は、第1の実施形態における回転式圧縮機2の断面図を含む、冷凍サイクル装置1の概略構成図である。
図1に示すように、本実施形態の冷凍サイクル装置1は、回転式圧縮機2と、回転式圧縮機2に接続された放熱器(凝縮器)3と、放熱器3に接続された膨張装置4と、膨張装置4と回転式圧縮機2との間に接続された蒸発器5と、を備えている。
【0011】
回転式圧縮機2は、いわゆるロータリ式の圧縮機である。回転式圧縮機2は、内部に取り込まれる低圧の気体冷媒を圧縮して高温、かつ高圧の気体冷媒とする。なお、回転式圧縮機2の具体的な構成については後述する。
放熱器3は、回転式圧縮機2から送り込まれる高温、かつ高圧の気体冷媒から熱を放熱させ、高温、かつ高圧の気体冷媒を高圧の液体冷媒にする。
【0012】
膨張装置4は、放熱器3から送り込まれる高圧の液体冷媒の圧力を下げ、高圧の液体冷媒を低温、かつ低圧の液体冷媒にする。
蒸発器5は、膨張装置4から送り込まれる低温、かつ低圧の液体冷媒を気化させ、低温、かつ低圧の液体冷媒を低圧の気体冷媒にする。そして、蒸発器5において、低圧の液体冷媒が気化する際に周囲から気化熱を奪い、周囲が冷却される。なお、蒸発器5を通過した低圧の気体冷媒は、上述した回転式圧縮機2内に取り込まれる。
【0013】
このように、本実施形態の冷凍サイクル装置1では、作動流体である冷媒が気体冷媒と液体冷媒とに相変化しながら循環する。
【0014】
次に、上述した回転式圧縮機2について説明する。
本実施形態の回転式圧縮機2は、圧縮機本体11と、アキュムレータ12と、を備えている。
アキュムレータ12は、いわゆる気液分離器である。アキュムレータ12は、上述した蒸発器5と圧縮機本体11との間に設けられている。アキュムレータ12は、吸い込みパイプ21を通して圧縮機本体11に接続されている。アキュムレータ12は、蒸発器5で気化された気体冷媒、及び蒸発器5で気化されなかった液体冷媒のうち、気体冷媒のみを圧縮機本体11に供給する。
【0015】
圧縮機本体11は、回転軸31と、電動機部32と、圧縮機構部33と、これら回転軸31、電動機部32及び圧縮機構部33を収納する密閉容器(容器)34と、を備えている。
密閉容器34は筒状に形成されている。密閉容器34における軸線O方向の両端部は、閉塞されている。密閉容器34内には、潤滑油Jが収容されている。潤滑油Jには、圧縮機構部33の一部が浸漬されている。
【0016】
回転軸31は、密閉容器34の軸線Oに沿って同軸上に配置されている。なお、以下の説明では、軸線Oに沿う方向を単に軸方向といい、軸方向のうち電動機部32寄りを上側、圧縮機構部33寄りを下側という。また、軸方向に直交する方向を径方向、軸線O周りの方向を周方向という。
【0017】
電動機部32は、いわゆるインナーロータ型のDCブラシレスモータである。電動機部32は、筒状の固定子35と、固定子35の内側に配置された円柱状の回転子36と、を備えている。
固定子35は、密閉容器34の内壁面に焼嵌め等により固定されている。回転子36は、回転軸31の上部に固定されている。回転子36は、固定子35の内側に径方向に間隔をあけて配置されている。
【0018】
圧縮機構部33は、筒状のシリンダ41と、シリンダ41の両端開口部を各別に閉塞する主軸受(閉塞板)42及び副軸受(閉塞板)43と、を備えている。
シリンダ41内には、回転軸31が貫通している。主軸受42及び副軸受43は、回転軸31を回転可能に支持している。シリンダ41、主軸受42、及び副軸受43により形成された空間は、シリンダ室46(図2参照)を構成している。
【0019】
上述した回転軸31のうち、シリンダ室46内に位置する部分には、軸線Oに対して径方向に偏心する偏心部51が形成されている。
偏心部51にはローラ53が外嵌されている。ローラ53は、回転軸31の回転に伴い、外周面がシリンダ41の内周面に摺接しながら、軸線Oに対して偏心回転可能に構成されている。
【0020】
図2図1のII−II線に相当する圧縮機構部33の断面図である。
図1図2に示すように、シリンダ41における周方向の一部には、径方向の外側に向けて窪むブレード溝54が形成されている。ブレード溝54は、シリンダ41の軸方向の全体に亘って形成されている。ブレード溝54は、径方向の外側端部において、密閉容器34内に連通している。
【0021】
ブレード溝54内には、ブレード55が設けられている。ブレード55は、シリンダ41に対して径方向にスライド移動可能に構成されている。図1に示すように、ブレード55は、径方向の外側端面(以下、背面という。)が付勢部材57により径方向の内側に向けて付勢されている。一方、図2に示すように、ブレード55は、径方向の内側端面(以下、先端面という)がシリンダ室46内においてローラ53の外周面に当接している。これにより、ブレード55は、ローラ53の偏心回転に伴いシリンダ室46内に進退可能に構成されている。なお、軸方向から見た平面視において、ブレード55の先端面は、径方向の内側に向けて凸の円弧状とされている。また、ブレード55の具体的な構成については後述する。
【0022】
シリンダ室46は、ローラ53及びブレード55によって吸込室と圧縮室とに分割されている。そして、圧縮機構部33では、ローラ53の回転動作及びブレード55の進退動作により、シリンダ室46内で圧縮動作が行われる。
【0023】
シリンダ41において、ローラ53の回転方向(図2中の矢印参照)に沿うブレード溝54の奥側(図2中、ブレード溝54の左側)に位置する部分には、シリンダ41を径方向に貫通する吸込孔56が形成されている。吸込孔56には、径方向の外側端部から上述した吸い込みパイプ21(図1参照)が接続される。一方、吸込孔56の径方向の内側端部は、シリンダ室46内に開口している。
シリンダ41の内周面において、ローラ53の回転方向に沿うブレード溝54の手前側(図2中、ブレード溝54の右側)に位置する部分には、吐出溝58が形成されている。吐出溝58は、軸方向から見た平面視で半円形状に形成されている。
【0024】
図1に示すように、主軸受42は、シリンダ41の上端開口部を閉塞している。主軸受42は、回転軸31のうち、シリンダ41よりも上方に位置する部分を回転可能に支持している。具体的に、主軸受42は、回転軸31が挿通された筒部61と、筒部61の下端部から径方向の外側に向けて突設されたフランジ部62と、を備えている。
【0025】
図1図2に示すように、フランジ部62の周方向の一部には、フランジ部62を軸方向に貫通する吐出孔64(図2参照)が形成されている。吐出孔64は、上述した吐出溝58を通してシリンダ室46内に連通している。なお、フランジ部62には、シリンダ室46(圧縮室)内の圧力上昇に伴い吐出孔64を開閉し、シリンダ室46外に冷媒を吐出する図示しない吐出弁機構が配設されている。
【0026】
図1に示すように、主軸受42には、主軸受42を上方から覆うマフラ65が設けられている。マフラ65には、マフラ65の内外を連通する連通孔66が形成されている。上述した吐出孔64を通して吐出される高温、かつ高圧の気体冷媒は、連通孔66を通して密閉容器34内に吐出される。
【0027】
副軸受43は、シリンダ41の下端開口部を閉塞している。副軸受43は、回転軸31のうち、シリンダ41よりも下方に位置する部分を回転可能に支持している。具体的に、副軸受43は、回転軸31が挿通される筒部71と、筒部71の上端部から径方向の外側に向けて突設されたフランジ部72と、を備えている。
【0028】
図1図2に示すように、上述したブレード55は、径方向に沿って延びる直方体形状に形成されている。ブレード55と、ブレード溝54の内壁面や各軸受42,43のフランジ部62,72と、の間には、潤滑油Jが介在している。そのため、ブレード55のうち、ブレード溝54に面する側面(幅方向(周方向)の両側を向く側面)は、ブレード溝54の内壁面に対して油膜を介して摺動可能とされている。また、ブレード55の上端面は、フランジ部62の下面に対して油膜を介して摺動可能とされている。ブレード55の下端面は、フランジ部72の上面に対して油膜を介して摺動可能とされている。すなわち、本実施形態のブレード55は、外表面のうち上述した背面を除く部分(側面、上端面及び下端面)が摺動面として機能する。
【0029】
ブレード55の上下端面(フランジ部62,72との対向面)において、ブレード幅方向の中央部には、軸方向の内側に窪む給油溝81が径方向に延設されている。図2に示すように、給油溝81は、軸方向から見た平面視で径方向(ブレード55の移動方向)に沿って延びる直線状とされている。給油溝81の溝幅Hは、径方向の全体に亘って一様とされている。なお、給油溝81は、円板状のカッター等を用いた切削加工により形成することができる。また、給油溝81の容積は、ブレード55がシリンダ室46内に最も突出した下死点からシリンダ室46から最も後退した上死点に移行する運転領域(以下、圧縮行程後半という。)に必要な潤滑油Jの容量に合わせて設定されていることが好ましい。
【0030】
図1に示すように、給油溝81は、径方向の外側端部(第1端部)寄りに位置する直線延在部82と、直線延在部82における径方向の内側端部(第2端部)に連なる傾斜部83と、を有している。
【0031】
直線延在部82は、軸方向の溝深さが径方向の全体に亘って一様とされている。直線延在部82は、径方向の外側端部がブレード55の背面上で開口している。これにより、直線延在部82における径方向の外側端部は、ブレード溝54を通してシリンダ室46の外側で密閉容器34内に連通している。給油溝81内には、密閉容器34内に貯留された潤滑油Jがブレード溝54を通して流入する。本実施形態において、給油溝81は、その最大溝深さE(本実施形態では直線延在部82の深さ)が溝幅H(図2参照)よりも深くなっている。
傾斜部83は、径方向の内側に向かうに従い溝深さが漸次浅くなっている。具体的に、傾斜部83は、その底面がブレード幅方向から見た側面視で軸方向の内側に向けて凸の円弧状に形成されている。傾斜部83における径方向の内側端部は、ブレード55の先端面(第2端面)に近接した状態で、ブレード55内で終端している。すなわち、給油溝81は、ブレード55の先端面には到達しておらず、シリンダ室46内とは連通していない。なお、給油溝81は、ブレード55がシリンダ室46内に最も突出したときに、少なくとも傾斜部83がシリンダ室46内に位置するように形成されている。
【0032】
図3は、図2のIII−III線に相当するブレード55の断面図である。
図3に示すように、ブレード55の各側面と上下端面とのなす角部には、第1面取り部75が各別に形成されている。なお、図3に示す例において、各第1面取り部75は、ブレード55における径方向の全長に亘って形成されている。但し、ブレード55における径方向の一部に第1面取り部75を形成しても構わない。
【0033】
一方、ブレード55の上下端面と各給油溝81の内側面とのなす角部には、第2面取り部76が各別に形成されている。第2面取り部76の面取り量L2(ブレード55の上下端面からの軸方向の深さ)は、第1面取り部75の面取り量L1よりも大きくなっている。なお、図示の例において、第2面取り部76は、給油溝81における径方向の全長に亘って形成されている。但し、給油溝81における径方向の一部に第2面取り部76を形成しても構わない。なお、各面取り部75,76は、ブレード55の上下端面に対する俯角が45°の角面取り(C面取り)となっている。但し、各面取り部75,76におけるブレード55の上下端面に対する俯角は、適宜変更が可能である。また、各面取り部75,76は、角面取りに限らず、丸面取り(R面取り)等であっても構わない。
【0034】
図2に示すように、ブレード55の上下端面において、給油溝81及び面取り部75,76以外の部分は、シール面として機能する。シール面は、径方向の外側を除く三方から給油溝81を取り囲んでいる。シール面は、油膜を介してフランジ部62,72それぞれと対向する。この場合、ブレード55のシール面とフランジ部62,72との間を通した圧縮室内及び吸込室内間の連通が、油膜によって遮断されている。本実施形態では、シール面のうち、給油溝81に対してブレード幅方向の両側に位置する部分のシール幅S1,S2、及び給油溝81における径方向の内側端縁とブレード55の先端面との間の径方向に沿うシール幅S3はそれぞれ同等とされている。なお、給油溝81の溝幅Hは、シール面の最小幅よりも狭くなっている。
【0035】
ここで、給油溝81の底面における表面粗さは、ブレード55の背面の表面粗さよりも小さくなっている。本実施形態において、表面粗さとはJIS B 0601に規格化されている十点平均粗さRzjisの値である。本実施形態では、給油溝81の内側面における表面粗さについても、ブレード55の背面の表面粗さよりも小さくなっていることが好ましい。なお、給油溝81の底面における表面粗さは、給油溝81の内側面における表面粗さと同等、若しくは給油溝81の内側面における表面粗さよりも小さいことが好ましい。
【0036】
次に、上述した回転式圧縮機2の作用について説明する。
図1に示すように電動機部32の固定子35に電力が供給されると、回転軸31が回転子36とともに軸線O周りに回転する。そして、回転軸31の回転に伴い、偏心部51及びローラ53がシリンダ室46内で偏心回転する。このとき、ローラ53がシリンダ41の内周面にそれぞれ摺接する。これにより、吸込みパイプ21を通してシリンダ室46内に気体冷媒が取り込まれるとともに、シリンダ室46内に取り込まれた気体冷媒が圧縮される。
【0037】
具体的には、シリンダ室46のうち、吸込室内に吸込孔56を通して気体冷媒が吸い込まれるとともに、圧縮室にて先に吸込孔56から吸い込まれた気体冷媒が圧縮される。圧縮された気体冷媒は、主軸受42の吐出孔64を通してシリンダ室46の外側(マフラ65内)に吐出され、その後マフラ65の連通孔66を通して密閉容器34内に吐出される。なお、密閉容器34内に吐出された気体冷媒は、上述したように放熱器3に送り込まれる。
【0038】
ここで、ブレード55の給油溝81内は、ブレード溝54を通して密閉容器34内に連通しているため、潤滑油Jで満たされている。給油溝81内の潤滑油Jは、シール面と各フランジ部62,72との間に流れ込み、両者間に油膜を形成する。したがって、ブレード55は、フランジ部62,72との直接の接触を抑制した状態で、ローラ53の偏心回転に伴いシリンダ室46に対して径方向に進退移動する。
【0039】
図4は、図1のIV部の拡大図である。
図4に示すように、ブレード55が進退移動する過程において、ブレード55及びフランジ部62,72間に介在する潤滑油Jにはブレード55側とフランジ部62,72側とで速度差が生じる。この速度差が生じると、潤滑油Jには粘性に伴うせん断力が作用する。特に、給油溝81における径方向の内側端部に傾斜部83が形成されているので、圧縮行程後半ではブレード55の移動方向(図4中の矢印Q1)の後方に向かうに従いブレード55とフランジ部62,72間の隙間が狭くなる。そのため、潤滑油Jの粘性作用と傾斜部83の傾きとによって、給油溝81内の潤滑油Jが径方向の内側に引きずり込まれる(いわゆる、くさび効果(図4中の矢印Q2))。これにより、潤滑油Jがブレード55の上下端面とフランジ部62,72との間を、ブレード55の先端面側まで入り込んでいくことで、ブレード55とフランジ部62,72との間に潤滑油Jを効果的に供給できる。
【0040】
一方、給油溝81における径方向の外側端部は、直線延在部82を通して開放されているため、ブレード55が上死点から下死点に移行する運転領域(以下、圧縮行程前半という)では、上述したくさび効果は発生し難い。そのため、圧縮行程前半では、圧縮行程後半に比べて径方向の内側に潤滑油Jが流れ難い。これにより、圧縮行程前半において、給油溝81内の潤滑油Jがブレード55の先端面側に大量に流れ込むのを抑制できる。これにより、ブレード55及びフランジ部62,72間に介在する余剰の潤滑油Jがシリンダ室46内に流入したり、潤滑油Jとともに冷媒がシリンダ室46内に流入したりするのを抑制し、圧縮性能の低下を抑制できる。
【0041】
ここで、本実施形態では、給油溝81の底面における表面粗さが、ブレード55の背面の表面粗さよりも小さくなっている構成とした。
この構成によれば、潤滑油J中に浮遊する摩耗粉等の異物が給油溝81における底面の凹凸に引っ掛かる等して給油溝81内に堆積するのを抑制できる。また、本実施形態では、給油溝81のうち径方向の内側端部がブレード55内で終端し、径方向の外側端部がシリンダ室46の外部に開放されている。そのため、仮に潤滑油Jとともに異物が給油溝81内に進入したとしても、例えば圧縮行程後半において、ブレード55の径方向の外側への移動に伴い、給油溝81内の異物が潤滑油Jとともに給油溝81における径方向の外側端部を通して排出され易くなる。これにより、異物によって給油溝81の実容積が減少したり、給油溝81が塞がれたりするのを抑制できる。したがって、所望量の潤滑油Jを給油溝81内で保持し続けることができるので、ブレード55及びフランジ部62,72間で油膜が破断されるのを抑制できる。その結果、ブレード55とフランジ部62,72とが直接接触するのを抑制し、両者間の摩耗を低減できるので、長期に亘って動作信頼性を維持できる。
【0042】
しかも、本実施形態では、給油溝81における径方向の内側端部に、円弧状の傾斜部83が形成されているので、圧縮行程後半で上述したくさび効果が発生し易くなる。これにより、ブレード55(シール面)とフランジ部62,72との間において、潤滑油Jが先端面に近接する部分まで効果的に供給されることになる。そのため、ブレード55及びフランジ部62,72間の油膜が破断されるのを抑制し、動作信頼性の更なる向上を図ることができる。
【0043】
また、本実施形態では、ブレード55の上下端面とブレード55の側面とのなす角部、及びブレード55の上下端面と各給油溝81の内側面とのなす角部にそれぞれ面取り部75,76が形成されている構成とした。
この構成によれば、ブレード55とフランジ部62,72との接触による摩耗粉等の発生を抑制できる。しかも、第2面取り部76の面取り量L2が第1面取り部75の面取り量L1よりも大きくなっているので、ブレード55の上下端面と給油溝81の内側面とのなす角部と、フランジ部62,72と、の接触を確実に抑制できる。
一方で、第1面取り部75の面取り量L1が第2面取り部76の面取り量よりも小さくなるので、第1面取り部75とフランジ部62,72との間の隙間を通してシリンダ室46の外部に位置する潤滑油J(吐出圧力の潤滑油J)がシリンダ室46内に流入するのを抑制できる。これにより、圧縮性能の低下を抑制できる。
【0044】
そして、本実施形態の冷凍サイクル装置1においては、上述した回転式圧縮機2を備えているため、高性能で信頼性に優れた冷凍サイクル装置1を提供できる。
【0045】
(第2の実施形態)
図5は第2の実施形態におけるブレード155の図3に相当する断面図である。
図5に示すブレード155において、給油溝181には内側面と底面とを接続する接続部101が形成されている。接続部101は、給油溝181の内側面の内面形状に倣って延びる第1仮想線K1と、底面の内面形状に倣って延びる第2仮想線K2と、の接続点P(内側面と底面とのなす角部)よりも軸方向の外側に膨出している。具体的に、接続部101は、軸方向に沿う縦断面視において、軸方向の内側に向けて凸の円弧状に形成されている。接続部101は、給油溝181における径方向の全長に亘って曲率半径が一様に形成されている。但し、接続部101は、給油溝181における径方向の一部に形成されていてもよい。また、接続部101は、径方向の位置に応じて曲率半径を異ならせても構わない。
【0046】
給油溝181の底面からの接続部101の膨出量は、上述した第1面取り部75の面取り量L1よりも大きくなっている。なお、接続部101は、ブレード幅方向において、給油溝181の底面に平坦面が少なくとも一部残っていれば、その寸法(曲率半径や底面からの膨出量等)は適宜変更が可能である。また、接続部101における軸方向に沿う縦断面視形状は、円弧状に限らず直線状であっても構わない。
【0047】
この構成によれば、上述した実施形態と同様の作用効果を奏することに加え、給油溝181の内側面と底面とが滑らかに連なることになるので、内側面と底面とのなす角部に異物が堆積するのを抑制できる。
【0048】
なお、上述した実施形態では、閉塞板として主軸受42及び副軸受43を用いた場合について説明したが、これに限られない。例えば、シリンダ41の上端開口部を閉塞するとともに、回転軸31が挿通された軸受部と、シリンダ41の下端開口部を閉塞して、回転軸31の軸方向の下端面を摺動可能に支持するシリンダプレートと、を閉塞板として用いても構わない。
【0049】
また、上述した実施形態では、シリンダ室46が1つの構成について説明したが、これに限らず、シリンダ室46を複数設けても構わない。
また、上述した実施形態では、軸方向を上下方向に一致させた場合について説明したが、これに限らず、軸方向を水平方向に一致させても構わない。
さらに、上述した実施形態では、ローラ53とブレードとを別体で形成した場合について説明したが、これに限らず、ローラ53とブレードとを一体で形成しても構わない。
【0050】
また、上述した実施形態では、ブレードの上下端面に給油溝を各別に形成した場合について説明したが、これに限らず、少なくとも一方の端面に給油溝が形成された構成でも構わない。
さらに、上述した実施形態では、ブレードの端面に対して給油溝を1列形成した場合について説明したが、これに限らず、複数列の給油溝を形成しても構わない。
【0051】
また、上述した実施形態では、給油溝における径方向の内側端部が円弧状に形成された場合について説明したが、これに限らず、給油溝の形状は適宜設計変更が可能である。この場合、給油溝の断面積がブレードの先端面に向かうに従い漸次小さくなる構成として、例えば給油溝における径方向の内側端部を直線状や階段状に形成してもよい。また、給油溝における径方向の全体がブレードの先端面に向かうに従い漸次浅くなっていても構わない。さらに、給油溝の溝幅がブレードの先端面に向かうに従い漸次狭くなるような構成であっても構わない。
また、給油溝の断面積が径方向の全体に亘って一様であっても構わない。
【0052】
また、上述した実施形態では、軸方向から見た平面視で給油溝がブレードの移動方向(径方向)に沿って延びる直線状とした場合について説明したが、これに限られない。例えば、ブレードの移動方向に沿って延びていれば、給油溝は例えば波形にしたり、移動方向に対して傾斜したりしていても構わない。
【0053】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、給油溝の底面における表面粗さが、ブレードの背面の表面粗さよりも小さくなっているため、潤滑油中に浮遊する摩耗粉等の異物が給油溝における底面の凹凸に引っ掛かる等して給油溝内に堆積するのを抑制できる。また、給油溝における第2端部がブレード内で終端しているため、仮に潤滑油とともに異物が給油溝内に進入したとしても、例えば圧縮行程後半において、ブレードの径方向の外側への移動に伴い、給油溝内の異物が潤滑油とともに給油溝における第1端部を通して排出され易くなる。これにより、異物によって給油溝の実容積が減少したり、給油溝が塞がれたりするのを抑制できる。したがって、所望量の潤滑油を給油溝内で保持し続けることができるので、ブレード及びフランジ部間で油膜が破断されるのを抑制できる。その結果、ブレードとフランジ部とが直接接触するのを抑制し、両者間の摩耗を低減できるので、長期に亘って動作信頼性を維持できる。
【0054】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0055】
1…冷凍サイクル装置、2…回転式圧縮機、3…放熱器、4…膨張装置、5…蒸発器、34…密閉容器(容器)、41…シリンダ、42…主軸受(閉塞板)、43…副軸受(閉塞板)、46…シリンダ室、53…ローラ、55,155…ブレード、75…第1面取り部、76…第2面取り部、81,181…給油溝、101…接続部、L1…第1面取り量、L2…第2面取り量
図1
図2
図3
図4
図5