(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複数の半導体レーザ素子のうち、前記速軸方向において隣り合う任意の2個の半導体レーザ素子の中心間距離は20mm以上である、請求項1または2に記載のラインビーム照射装置。
前記複数の半導体レーザ素子のそれぞれの前記発光領域から出射された前記レーザ光は、前記速軸方向にはコリメートされていない、請求項1から3のいずれかに記載のラインビーム照射装置。
前記複数の半導体レーザ素子のそれぞれの前記発光領域から出射された前記レーザ光を、前記遅軸方向にコリメートまたは集束する光学部材を備えている、請求項1から4のいずれかに記載のラインビーム照射装置。
前記レーザダイオード駆動回路は、前記ラインビームの空間的強度分布を変調するように前記複数の半導体レーザ素子を駆動する、請求項8に記載のラインビーム照射装置。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者は、レーザリフトオフに必要なラインビームの光強度分布が、非結晶シリコン膜の溶融再結晶化に用いられているELA装置のラインビームのように高い均一性を持つ必要がないことに着目し、本発明を想到した。本開示のラインビーム光源およびラインビーム照射装置は、半導体レーザ素子から出たレーザ光が回折効果によって異方的に拡がる性質を有効に活用してラインビームを形成する。まず、この回折効果を説明する。
【0020】
<半導体レーザ素子の回折効果>
図1は、ある典型的な半導体レーザ素子の基本構成を模式的に示す斜視図である。図には、互いに直交するX軸、Y軸、およびZ軸から構成される座標軸が記載されている。他の添付図面でも、同様の座標軸が記載され、X軸、Y軸、およびZ軸は、それぞれ、全ての図面で共通の方位を指す。
【0021】
図1に示されている半導体レーザ素子10は、レーザ光を出射する発光領域(エミッタ)24を含む端面(ファセット)26aを持つ半導体積層構造22を有している。この例における半導体積層構造22は、半導体基板20上に支持されており、p側クラッド層22a、活性層22b、およびn側クラッド層22cを含んでいる。半導体積層構造22の上面26bには、ストライプ状のp側電極12が設けられている。半導体基板20の裏面には、n側電極16が設けられている。p側電極12からn側電極16に向かって、閾値を超える大きさの電流が活性層22bの所定領域を流れることにより、レーザ発振が生じる。半導体積層構造22の端面26aは、不図示の反射膜によって覆われている。レーザ光は、発光領域24から反射膜を介して外部に出射される。
【0022】
図1に示される構成は、半導体レーザ素子10の構成の典型的な一例に過ぎず、説明を簡単にするため、単純化されている。この単純化された構成の例は、後に詳しく説明する本開示の実施形態をなんら限定するものではない。なお、他の図面では、簡単のため、n側電極16などの構成要素の記載を省略する場合がある。
【0023】
図1に示される半導体レーザ素子10において、半導体積層構造22の端面26aがXY面に平行であるので、レーザ光は発光領域24からZ軸方向に出射する。レーザ光の光軸はZ軸方向に平行である。発光領域24は、端面26aにおいて、半導体積層構造22の積層方向(Y軸方向)に平行な方向のサイズEyと、積層方向に垂直な方向(X軸方向)のサイズExとを有している。一般にEy<Exの関係が成立する。
【0024】
発光領域24のY軸方向サイズEyは、活性層22bの厚さによって規定される。活性層22bの厚さは、通常、レーザ発振波長の半分程度か、それ以下である。これに対して、発光領域24のX軸方向サイズExは、レーザ発振に寄与する電流または光を水平横方向(X軸方向)に閉じ込める構造、
図1の例ではストライプ状のp側電極12の幅によって規定され得る。一般に、発光領域24のY軸方向サイズEyは0.1μm前後かそれ以下であり、X軸方向サイズExは1μmよりも大きい。光出力を高めるには発光領域24のX軸方向サイズExを拡大することが有効であり、X軸方向サイズExは例えば50μm以上に設定され得る。
【0025】
本明細書において、Ex/Eyを発光領域の「アスペクト比」と称する。高出力半導体レーザ素子におけるアスペクト比(Ex/Ey)は、例えば50以上に設定され得るし、100以上に設定されても良い。本明細書においては、アスペクト比(Ex/Ey)が50以上の半導体レーザ素子をブロードエリア型半導体レーザ素子と称する。ブロードエリア型半導体レーザ素子では、水平横モードがシングルモードではなく、マルチモードで発振することが多い。
【0026】
図2Aは、半導体レーザ素子10の発光領域24から出たレーザ光30の拡がり方(ダイバージェンス)を模式的に示す斜視図である。
図2Bは、レーザ光30の拡がり方を模式的に示す側面図であり、
図2Cは、レーザ光30の拡がり方を模式的に示す上面図である。
図2Bの右側には、参考のため、半導体レーザ素子10をZ軸の正方向から視た正面図も記載されている。
【0027】
レーザ光30の断面におけるY軸方向のサイズは長さFy、X軸方向のサイズは長さFxによって規定される。Fyは、レーザ光30の光軸に交差する平面内において、光軸におけるレーザ光30の光強度を基準とするときのY軸方向における半値全幅(FWHM:Full Width at Half Maximun)である。同様に、Fxは、上記の平面内において、光軸におけるレーザ光30の光強度を基準とするときのX軸方向における半値全幅(FWHM)である。
【0028】
レーザ光30のY軸方向の拡がりは角度θf、X軸方向の拡がりは角度θsによって規定される。θfは、発光領域24の中心から等距離の球面上において、その球面がレーザ光30の光軸に交差する点におけるレーザ光30の光強度を基準とするときのYZ平面内における半値全角である。同様に、θsは、発光領域24の中心から等距離の球面上において、その球面がレーザ光30の光軸に交差する点におけるレーザ光30の光強度を基準とするときのXZ平面内における半値全角である。
【0029】
図2Dは、レーザ光30のY軸方向における拡がりの例を示すグラフであり、
図2Eは、レーザ光30のX軸方向における拡がりの例を示すグラフである。グラフの縦軸は規格化された光強度、横軸は角度である。Z軸に平行な光軸上でレーザ光30の光強度はピーク値を示している。
図2Dからわかるように、レーザ光30の光軸を含むYZ面に平行な面内における光強度は、概略的にガウス分布を示す。これに対し、レーザ光30の光軸を含むXZ面に平行な面内における光強度は、
図2Eに示すように、比較的平坦なトップを持つ狭い分布を示す。この分布には、マルチモード発振に起因する複数のピークが生じることが多い。
【0030】
レーザ光30の断面サイズを規定する長さFy、Fx、および、レーザ光30の拡がりを規定する角度θf、θsには、上記の定義以外の定義が与えられる場合もある。
【0031】
図示されるように、発光領域24から出たレーザ光30の拡がり方は異方性を持ち、一般に、θf>θsの関係が成立する。θfが大きくなる理由は、発光領域24のY軸方向サイズEyがレーザ光30の波長以下であるため、Y軸方向に強い回折が生じるからである。これに対して、発光領域24のX軸方向サイズExはレーザ光30の波長よりも十分に長く、X軸方向には回折が生じにくい。
【0032】
図3は、レーザ光30の断面のY軸方向サイズFyおよびX軸方向サイズFxと、発光領域24からの距離(Z軸方向の位置)との関係の例を示すグラフである。
図3からわかるように、レーザ光30の断面は、発光領域24の近傍においては、相対的にX軸方向に長いニアフィールドパターン(NFP)を示すが、発光領域24から充分に遠ざかると、Y軸方向に長く延びたファーフィールドパターン(FFP)を示すようになる。
【0033】
このように、レーザ光30の断面の拡大は、発光領域24から離れるに従って、Y軸方向では「速(fast)」く、X軸方向では「遅(slow)」い。このため、半導体レーザ素子10を座標の基準として、Y軸方向は速軸(fast axis)方向、X軸方向は遅軸(slow axis)方向と称されている。
【0034】
特許文献1および特許文献2に開示されているレーザダイオードアレイでは、速軸方向の光ビームの拡がりを抑制するため、半導体レーザ素子またはレーザバーの発光領域近傍にコリメートレンズが配置されている。このようなコリメートレンズは、速軸コリメートレンズと呼ばれる。
【0035】
図4Aは、Z軸の正方向から視たレーザダイオードアレイ400の構成例を示す正面図である。
図4Bは、速軸コリメートレンズの効果を模式的に示す図である。
【0036】
図4Aに例示されるレーザダイオードアレイ400は、X軸方向に延びる4本のレーザバー410がY軸方向に重ねられた縦型スタックである。各レーザバー410は、8個の発光領域24を有している。例示されるレーザダイオードアレイは、同一面内において4行8列に配列された32個の発光領域24から全体として高い光強度を持つレーザ光が得られる。これらの発光領域24はストライプ状のp側電極12から不図示のn側電極に向かって流れる電流によってレーザ光を同時に出射する。
【0037】
図4Bの例では、各レーザバー410の発光面側に速軸コリメートレンズ50Fが配置されている。各速軸コリメートレンズ50Fは、典型的には、X軸方向に延びる形状を有し、対応するレーザバー410の複数の発光領域24に対向している。速軸コリメートレンズ50Fに入射したレーザ光30は、平行なレーザ光30Cにコリメートされる。多数の光点が矩形領域内に集積され、面状に輝くレーザダイオードアレイから出たレーザ光は、他の光学系を用いて成形されることにより、種々の断面形状を持つ光ビームに変換され得る。レーザバー410のY軸方向ピッチは、例えば、2mmから5mm程度である。限れられた面積内に多数の発光領域24を集積することにより、輝度の高い面状レーザ光源を実現できる。
【0038】
上述のレーザダイオードアレイを用いてラインビームを形成することも可能である。しかし、面光源から出たレーザ光を所望の断面形状を持つラインビームに成形するためには、速軸コリメートレンズ50Fに加えて、他のレンズまたはミラーなどの複雑な光学系が必要である。その結果、装置が大型になり、光学系のアライメントずれなどの問題も生じることになる。
【0039】
本発明者は、
図4Bに示されるような「速軸コリメート」を行った後、更にビーム成形技術を用いてラインビームを形成することによる問題を認識し、その問題を解決することを種々検討した。その結果、本発明者は、「速軸コリメート」を行う代わり、半導体レーザ素子から出た光が回折効果によって速軸方向に拡がる性質を積極的に利用して実用的なラインビームを形成できることを見いだした。更に、半導体レーザ素子の発光領域を、一様に輝く面光源の単なる一部分とするのではなく、他の半導体レーザ素子とは独立して光強度を調整し得る要素として用いることにより、ラインビームの走査に空間的強度分布の変調を付加し得ることを見いだした。特にレーザリフトオフの用途では、非結晶シリコン膜を溶融再結晶化するためのラインビームのように高い光強度均一性が必要ないこともわかった。むしろ、剥離対象の構造に合わせて光強度を空間的に調整することが望ましいこともわかった。
【0040】
(実施形態)
以下、図面を参照しながら、本開示のラインビーム光源およびラインビーム照射装置の実施形態、ならびにレーザリフトオフ方法の実施形態を説明する。必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。本発明者らは、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供する。これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。
【0041】
<ラインビーム光源>
本開示によるラインビーム光源の実施形態は、多数の発光領域が高密度に集積された面光源として機能するものではない。従って、そのような面光源から出射された光ビームを成形してラインビームを形成するための複雑な光学系も必要ない。本開示のラインビーム光源は、半導体レーザ素子が持つ性質、すなわち、光ビームが回折効果によって速軸方向に拡がろうとする性質を有効に利用して、速軸方向に長く延びたラインビームを形成することができる。
【0042】
まず、
図5および
図6を参照する。本発明のラインビーム光源の非限定的で例示的な実施形態は、
図5に示されるように、複数の半導体レーザ素子40と、これらの半導体レーザ素子40を支持する複数の支持体60aとを備える。複数の半導体レーザ素子40は、速軸方向(Y軸方向)に延びる同一ラインに沿って配列されている。半導体レーザ素子40のそれぞれの発光領域24から出射されたレーザ光は、この同一ラインに平行に拡がってラインビームを形成する。
【0043】
図示されている例において、半導体レーザ素子40の個数は4個である。半導体レーザ素子40の個数は、この例に限定されず、3個であってもよし、5個以上であってもよい。大面積領域を照射するための長いラインビームを形成するには、100個を超える半導体レーザ素子40が同一ライン状に配列され得る。例えば一辺が300cm程度の大型ガラス基板を一度の走査で照射する場合、ラインビームの長さを300cm程度に設定する必要がある。この場合において、配列ピッチを20mm(=2cm)に設定すると、150個程度の半導体レーザ素子40が同一ライン状に配列される。
【0044】
各半導体レーザ素子40は、
図6に示されるように、
図1の半導体レーザ素子10と同様の構成を持ち得る。複数の半導体レーザ素子40のそれぞれは、レーザ光を出射する発光領域24を含む端面26aを持つ半導体積層構造22を有する。半導体レーザ素子40の発光領域24は、半導体積層構造22の積層方向に平行な速軸方向(Y軸方向)のサイズEyおよび積層方向に垂直な遅軸方向(X軸方向)のサイズExを有しており、アスペクト比(Ex/Ey)は50以上である。
図1の半導体レーザ素子10および
図6の半導体レーザ素子40には、対応する構成要素に同一の参照符号が付されている。ここでは、共通する構成要素についての説明を原則として繰り返さない。
【0045】
半導体レーザ素子40は、発振波長および光出力に応じて、種々の半導体材料から形成され、多様な構造およびサイズを有し得る。紫外領域に属する波長(例えば300〜350nm)を持つレーザ光が必要な場合、半導体レーザ素子40の半導体積層構造22は、AlGaN系またはInAlGaN系の窒化物半導体から好適に形成され得る。発光領域24の遅軸方向サイズExを規定するため、p側クラッド層22aにリッジストライプを設けて水平横方向の光閉じ込めを行っても良い。活性層22bは、1個または複数の量子井戸構造を含んでいてもよい。半導体積層構造22は、光ガイド層、バッファ層、およびコンタクト層などの他の半導体層を含んでいても良い。基板20がサファイア基板である場合、n側電極16は、基板20に対してp側電極12が設けられる側に配置される。
【0046】
本実施形態における発光領域24の速軸方向サイズExは例えば10nm〜200nm、遅軸方向サイズEyは例えば50μm〜300μmに設定され、EyはExの100倍を超え得る。その結果、レーザ光30のY軸方向の拡がりを規定する角度θfは、例えば40〜60度、X軸方向の拡がりを規定す角度θsは、例えば5〜15度を示す。半導体レーザ素子40の発振波長は、例えば350nm〜450nmの範囲内に設定され得る。より短い波長領域、例えば深紫外領域で安定したレーザ発振を実現できる半導体レーザ素子が入手できるようになれば、波長が200nm〜350nmのビームレーザを形成できるため、多くの用途でELA装置を代替可能になる。
【0047】
支持体60aは、熱伝導率の高い良導体、例えば銅などの金属や窒化アルミニウムなどのセラミック材料から好適に形成される。半導体レーザ素子40は、不図示のサブマントに搭載された状態で、支持体60aに実装されても良い。この例における支持体60aは、いずれも、筐体60に収容されている。筐体60が例えば不図示の透光性カバーによって塞がれることにより、筐体60の内部は大気雰囲気から遮蔽され得る。筐体60の内部は、例えば、半導体レーザ素子40にとって不活性なガスによって充填される。各半導体レーザ素子40には、不図示の配線(メタルワイヤまたはメタルリボンなど)を介して給電が行われる。動作時における半導体レーザ素子40の昇温を抑制するため、ペルチェ素子などの熱電冷却素子(不図示)を半導体レーザ素子40の近傍に配置してもよい。支持体60aには、水冷のための内部チャネル、および空冷のためのフィンが設けられても良い。
【0048】
各半導体レーザ素子40の出射側における端面26aとは反対の側に位置する端面26cの近傍には、不図示のフォトダイオードが配置されている。この端面26cは相対的に高い反射率を持つ反射膜によって覆われているが、半導体レーザ素子40の内部で発振しているレーザ光の一部は、端面26cから外部に漏れ出てくる。この漏れ出たレーザ光をフォトダイオードで検出することにより、端面26aから出射されるレーザ光の強度をモニタすることができる。フォトダイオードの出力は、後述する半導体レーザ素子40の駆動回路に送られ、パワーコントロールに利用される。
【0049】
図7Aは、
図5に示される4個の半導体レーザ素子40をZ軸の正方向から視た正面図である。速軸方向における半導体レーザ素子40の配列ピッチはPyである。配列ピッチは、発光領域24の中心間距離によって定義される。簡単のため、支持体60aの記載は省略されている。
図7Bは、これらの半導体レーザ素子40によるラインビーム30LをZ軸の正方向から視た正面図である。
図7Cは、これらの半導体レーザ素子40から出射されたレーザ光30がラインビーム30Lを形成する様子を示す側面図である。
【0050】
図7Cからわかるように、速軸(Y軸)方向における半導体レーザ素子40の配列ピッチPyと、端面26aから照射面45まで距離Lzとを調整することにより、照射面45上のラインビーム30Lにおけるレーザ光30の重なりの長さLyを制御できる。
【0051】
図8Aは、4個の半導体レーザ素子40から出たレーザ光30を合成して形成されたラインビーム30Lの、照射面45における光強度分布の一例を模式的に示すグラフである。個々の半導体レーザ素子40から出たレーザ光30は、速軸方向に沿って、近似的にガウス分布を持つと考えることができる。
図8Aからわかるように、隣接するレーザ光30が重なり合うことにより、光強度が均された1本のラインビーム30Lが得られる。レーザ光30のピーク位置は、半導体レーザ素子40の配列ピッチPyの間隔で並んでいる。レーザ光30のピーク位置は、半導体レーザ素子40の端面26aから照射面45までの距離Lzに依存しないが、光強度分布の形状は、この距離Lzに応じて変化する。
【0052】
距離Lzが固定されている場合において、配列ピッチPyを充分に小さく設定すると、同一ライン上において隣接する3個以上の半導体レーザ素子40から出射されたレーザ光30が、照射面45において、相互に重なり合うことも可能である。配列ピッチPyが縮小するほど、ラインビーム30Lが持つ光強度のY軸方向分布は一様に均される。また、長軸方向のサイズ(長さ)が同じラインビームを形成する場合において、配列ピッチPyを縮小すると、同一ラインに沿って配列される半導体レーザ素子の個数密度が増加するため、個々の半導体レーザ素子の出力を最大出力値よりも十分に低く設定しても所望の光照射密度を達成することが可能になる。このことは、半導体レーザ素子の寿命を延ばすことに寄与する。
【0053】
図8Bは、半導体レーザ素子40の端面26aから照射面45までの距離Lzが極めて小さな値に設定された場合の、照射面45における光強度分布の例を示している。この例の照射面45においては、個々の半導体レーザ素子40から出たレーザ光30が実質的に重ならない。
図8Bに示される強度分布では、連続した「ラインビーム」が形成されているとは認めがたい。好ましい実施形態において、ラインビームは、光強度のピーク間に生じる極小値がピーク強度の半分以上の大きさを持つ光強度分布を示す。このような光強度分布は、各半導体レーザ素子40から出たレーザ光30の半値全幅によって規定されるサイズFyが、配列ピッチPy以上の大きさを持つ場合に実現される。
【0054】
ラインビーム30Lの光照射密度(フルエンス、単位はジュール/cm
2)を高めるには、配列ピッチPyを縮小して、半導体レーザ素子40の個数密度を高めることが好ましい。しかし、本開示では、配列ピッチPyを縮小することによって得られる効果よりも、個々の半導体レーザ素子40から出るレーザ光30それ自体が「ラインビーム」として機能し得ることに着目し、その性質を利用する。そのため、本開示の好ましい実施形態において、配列ピッチPyは、
図4Aおよび
図4Bを参照しながら説明した従来のレーザダイオードアレイにおけるスタック配列ピッチに比べて、大きな値に設定される。具体的には、配列ピッチPyは20mm以上、ある態様では30mm以上、用途によっては40mm以上に設定される。半導体レーザ素子40の端面26aから照射面45までの距離Lzは、照射面45において、レーザ光30が重なりあってラインビーム30Lが形成されるように設定される。このように配列ピッチPyを従来のレーザダイオードアレイに比べて大きく設定することにより、以下に例示する効果が得られる。
(1)与えられた長さを持つラインビーム30Lを、より少ない個数の半導体レーザ素子40によって形成し得る。しかも、レーザリフトオフに必要な光強度分布を持つラインビームが充分に得られる。
(2)隣接する半導体レーザ素子40の間隔が大きくなると、個々の半導体レーザ素子40で発生した熱を外部に散逸させやすい。熱伝導率の高い材料から形成されたヒートシンクによって個々の半導体レーザ素子40の上面および下面の両方に接触させる構成を採用しやすい。
(3)半導体レーザ素子40をチップの状態で支持体60aに搭載する代わりに、パッケージまたはカートリッジに実装された半導体レーザ素子40を支持体60aに搭載する寸法上の余裕が生じる。半導体レーザ素子40が支持体60aに着脱可能に支持される構成によれば、複数の半導体レーザ素子40のうちの1個が故障したとき、その半導体レーザ素子40を選択的に正常な半導体レーザ素子に交換することが可能になる。
【0055】
図9Aは、シリンドリカルレンズ50Sを用いて、ラインビーム30Lを速軸方向にではなく、遅軸方向に集束する構成例を示す図である。
図9Bは、シリンドリカルレンズ50Sによって幅(X軸方向サイズ)が短縮されたラインビーム30Lの断面を模式的に示す図である。本開示のラインビーム光源では、レーザ光を速軸方向にはコリメートしたり、集束したりしないが、遅軸方向には、そのような成形を行うことを排除していない。レンズなどによって遅軸方向におけるラインビーム30Lのサイズ(幅)を短縮する場合、照射面における光照射密度(フルエンス)を向上させることができる。
【0056】
ラインビームの速軸方向における強度分布を調整するため、速軸方向に沿って光透過率、屈性率、または光学厚さが変化する光学部材をラインビーム30Lの光路上に挿入しても良い。このような光学部材は、ラインビームの長さ(速軸方向のサイズ)を実質的に短縮して光照射密度(フルエンス)を高めるものではない。
【0057】
このように本開示のラインビーム光源によれば、半導体レーザ素子が示すレーザ光の異方的な拡がり(ダイバージェンス)を効率よく利用することができる。このため、このラインビーム光源は、従来のレーザダイオードアレイとは異なり、一様化された高輝度を示す面状光源を提供するものではない。
【0058】
<ラインビーム照射装置>
図10を参照する。
図10は、本実施形態におけるラインビーム照射装置1000の構成例を模式的に示す斜視図である。ラインビーム照射装置1000は、ワークステージ200と、ワークステージ200上に置かれたワーク300をラインビーム30Lで照射するラインビーム光源(レーザヘッド)100とを備える。ワーク300の典型例は、製造途中のフレキシブルディスプレイおよび高輝度LEDであるが、これらに限定されない。ワーク300は、ラインビーム30Lの照射によって物理的または化学的な変化を生じさせる対象となり得るものを広く含む。このような物理的または化学的な変化は、剥離のみならず、物体の加工、改質、溶融、結晶化、再結晶化、切断、半導体中の不純物活性化、または殺菌に利用され得る。
【0059】
ラインビーム照射装置1000は、ワーク300上におけるラインビーム30Lの照射位置30Pをラインビーム30Lに交差する方向に移動させるようにワークステージ200およびラインビーム光源100の少なくとも一方を移動させる搬送装置250を備えている。搬送装置250は、例えばモータMなどのアクチュエータを備えている。モータMは、直流モータ、3相交流モータ、ステッピングモータなどの回転電気機械であってもよいし、リニアモータまたは超音波モータであってもよい。超音波モータを使用した場合、その他のモータと比べて高精度な位置決めが可能になる。また、静止時の保持力が大きく、無通電で保持できるため、静止時の発熱が少ない。さらに、超音波モータは、磁石を備えていないため、磁力に敏感なワークに対して特に有効である。
【0060】
搬送装置250は、搬送装置駆動回路90に接続されている。搬送装置駆動回路90により、例えばモータMの回転角度および回転速度が制御され、ラインビーム光源100とワークステージ200との相互配置関係が調節される。以下の例では、簡単のため、固定されたワークステージ200に対してラインビーム光源100が
図10の右向き矢印の方向に移動する例について説明する。しかし、本実施形態におけるラインビーム照射装置1000は、この例に限定されない。ワークステージ200が
図10の左向き矢印の方向に移動し、ラインビーム光源100が固定されていても良い。また、ワークステージ200およびラインビーム光源100の両方が、同一または異なる方向に移動しても良い。ワークステージ200が重量の大きなワーク300を支えて移動する場合、例えばエアースライダなどの軸受が用いられ得る。
【0061】
ラインビーム光源100は、
図5を参照して説明したように、複数の半導体レーザ素子40と、複数の半導体レーザ素子40を支持する支持体60aとを有する。複数の半導体レーザ素子40は、前述した構成を備え、速軸方向に延びる同一ラインに沿って配列されている。ラインビーム光源100における複数の半導体レーザ素子40のそれぞれの発光領域から出射されたレーザ光は、同一ラインに平行に拡がってラインビーム30Lを形成する。
【0062】
ラインビーム光源100の下端からワーク300の上面まで距離(間隔)は、例えば5mmから200mm程度の範囲内に設定され得る。図示されているワーク300の上面は平坦であるが、現実のワーク300の上面は平坦である必要はない。
図10に示される例において、ラインビーム30Lは、ワークス300の上面に対して垂直に入射している。言い換えると、ラインビーム30Lを形成しているレーザ光の光軸はZ軸に平行であり、かつ、ワークステージ200の上面はXY面に平行である。しかし、本発明によるラインビーム照射装置の実施形態は、このような例に限定されない。ワークステージ200の上面は、ラインビーム30Lに対して傾斜していてもよい。また、Z軸は、鉛直方向に一致している必要はなく、鉛直方向に対して傾斜(例えば直交)していてもよい。
【0063】
図8Aに示される光強度分布をラインビームの長手方向(Y軸方向)に沿って更に均すため、ラインビーム照射中に、ラインビーム30Lの長手方向(Y軸方向)に沿って半導体レーザ素子40を振動または移動させてもよい。そのような振動または移動は、不図示のアクチュエータによってラインビーム光源100そのものを駆動することによって実現することもできる。あるいは、ラインビーム光源100内において個々の半導体レーザ素子40を速軸方向に振動または移動させることによっても実現できる。
【0064】
ラインビーム光源100における個々の半導体レーザ素子40(
図5参照)は、レーザダイオード駆動回路(LD駆動回路)80に接続されている。LD駆動回路80は、前述したモニタ用フォトダイオードから出力された電気信号を受け取り、半導体レーザ素子40(
図5参照)の光出力を所定レベルに調整するオートマティックパワーコントロール(APC)回路を含んでいても良い。また、LD駆動回路80は、半導体レーザ素子40(
図5参照)を流れる電流(駆動電流)の大きさを所定レベルに調整するオートマティックカレントコントロール(ACC)回路を含んでいても良い。LD駆動回路80は、公知の回路構成を採用し得る。なお、ワークに対する厳密な光照射制御が不要な場合は、モニタ用フォトダイオードを省略した半導体レーザ素子を使用してもよい。この場合、前述のACC回路が好適に適用される。
【0065】
図11は、ラインビーム照射装置1000における信号、データ、および指令の流れを模式的に示すブロック図である。
【0066】
図示されている構成例において、コントローラ70は、典型的にはコンピュータである。コントローラ70の一部または全部は、汎用的または専用的なコンピュータシステムであり得る。コンピュータシステムとは、OS(オペレーティングシステム)および、必要に応じて周辺機器等のハードウェアを含むものとする。コントローラ70は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体であるメモリ74に接続されている。メモリ74には、ラインビーム照射装置1000の動作を規定するプログラムが格納されている。
図11では、簡単のため、単数のメモリが記載されているが、現実のメモリ74は、複数の同一または異なる種類の記録装置であり得る。メモリ74の一部は、不揮発性メモリであり、他の一部はランダムアクセスメモリであってもよい。メモリ74の一部または全体は、着脱容易な光ディスクおよび固体記録素子であってもよいし、ネットワーク上にあるクラウド型の記憶装置であってもよい。
【0067】
コントローラ70は、温度センサおよびイメージセンサなどのセンサ76に接続されている。このようなセンサ76によって、ワーク300上におけるラインビーム30Lの照射位置30P(
図10)を検知したり、照射によってワーク300上に現れた物理的または化学的変化を観察したりすることができる。センサ76が赤外線イメージセンサである場合、ラインビーム30Lの照射によって加熱されたワーク300の温度分布を検知することも可能である。センサ76が可視光イメージセンサである場合、ラインビーム30Lの照射によってワーク300に現れた物理的または化学的変化の面内分布を検知することも可能である。従って、本実施形態のラインビーム照射装置1000を用いて例えばレーザリフトオフを行うときは、剥離不良が生じたか否か、および、剥離不良が生じた場所をセンサ76によって検知することも可能である。イメージセンサが3次元画像を取得するように構成されていれば、ラインビーム30Lの照射によってワーク300に現れた物理的または化学的変化の3次元的な分布を検知することも可能である。また、照射前に、ワーク300の構造を把握して照射条件の調整に利用することも可能である。
【0068】
コントローラ70は、メモリ74に保持されているプログラムに従い、必要に応じてセンサ76の出力に基づいて、適切な指令をLD駆動回路80および搬送装置駆動回路90に対して発する。LD駆動回路80は、コントローラ70の指令に従って、ラインビーム光源100から出るラインビーム30Lの光強度を調整する。搬送装置駆動回路90は、コントローラ70の指令に従って、搬送装置250の動作を調整する。
【0069】
図12は、
図10に示されるラインビーム照射装置1000をYZ面に直交する方向から視た図である。
図12の上部は、照射前の状態を示し、下部は、照射中の状態を示している。この例では、ラインビーム30Lの長さ(長軸方向サイズ)がワーク300の一辺の長さを超えている。このため、一度の走査により、ワーク300の全体に対するラインビーム照射を完了することが可能である。ラインビーム30Lの長さがワーク300の一辺の長さの半分である場合は、2回の走査が必要になる。この場合、走査方向は、往路と復路とで反転してもよい。本実施形態のラインビーム照射装置1000では、ビームエキスパンダーまたはレンズなどの光学素子を用いてラインビーム30Lを長軸方向に伸縮することは行っていない。このため、ラインビーム30Lの長さは、ラインビーム光源100における半導体レーザ素子40(
図5)の配列の全長と同程度である。なお、ラインビーム30Lの両端部分が光照射に不要であれば、ラインビーム光源100とワーク300との間に挿入された遮蔽部材によってラインビーム30Lの両端部分をカットしても良い。
【0070】
図13は、ラインビーム30Lでワーク300を走査している工程(始め、途中、終わりの3段階)中のラインビーム照射装置1000をXZ面に直交する方向から視た図である。この例では、固定されているワーク300に対し、ラインビーム光源100をX軸方向に移動させることにより、ラインビーム30Lの走査を実行している。前述したように、ラインビーム30Lの走査は、ラインビーム光源100とワークステージ200との相対的位置関係を変化させることにより実現できる。
【0071】
ラインビーム30Lは、連続波(CW)であっても良いし、パルス波であってもよい。
図11のLD駆動回路80によって、個々の半導体レーザ素子40の発光を自在に変調することができる。
図13に示されるように、ラインビーム30Lの照射位置が移動している途中において、ラインビーム30Lの光強度を時間的空間的に変化させることができる。
【0072】
図14は、ラインビーム光源100の位置とラインビーム30Lの光強度変化(光出力波形)との関係の一例を示すグラフである。このグラフに示されている右肩上がりの直線は、ラインビーム照射工程開始後の経過時間とラインビーム光源100の位置(ワークに対する相対位置)との関係を示している。ラインビーム光源100の位置を、便宜上、x座標で示す。グラフの上部には、ラインビーム30Lの光出力波形の例が示されている。
図14の例では、ラインビーム光源100の点灯後、ラインビーム30Lの光強度は一定に維持されている。ラインビーム光源100の位置は、一定の走査速度で移動している。この場合の「一定の走査速度」とは、厳密な意味での連続的な移動による一定の速度に限定されない。例えば、ステッピングモータによってラインビーム光源100またはワークステージ200を数十μm単位のステップで移動させる場合を含むものとする。そのような微視的なステップ移動は、実質的に連続的な移動と同一視され得る。
【0073】
個々の半導体レーザ素子40の光出力が1ワット(W)である例を考える。1個の半導体レーザ素子40によるワーク300上における光照射領域が2.0cm×0.5cmのサイズを有していると仮定する。光照射領域の面積は1cm
2である。この場合、1個の半導体レーザ素子40によるレーザ光の照射を1秒間行うと、フルエンスは1ジュール/cm
2(=1000ミリジュール/cm
2)に等しくなる。ラインビーム30Lの幅が0.5cmであるので、毎秒0.5cmの速度でラインビーム30Lに直交する方向に走査を行うと、ワーク300に1000ミリジュール/cm
2のレーザ光照射を行うことになる。毎秒2.0cmの速度でラインビーム30Lに直交する方向に走査を行うと、ワーク300に250ミリジュール/cm
2のレーザ光照射を行うことができる。なお、個々の半導体レーザ素子40から出たレーザ光は部分的に重なり合うので、ラインビーム30Lによるフルエンスは、重なりの分だけ増加する。半導体レーザ素子40の光出力を高めると、走査速度を更に高めることも可能になる。半導体レーザ素子40の光出力を高めるには、発光領域24の遅軸方向サイズExを拡大することが有効である。Exは、例えば100μm以上または200μm以上に設定され得る。後述するレーザリフトオフ方法の実施形態では、ガラス基板からポリイミド層を剥離するとき、250ミリジュール/cm
2程度、または、それ以上の光照射密度の実現が望まれる。半導体レーザ素子40の光出力が相対的に低い場合でも、照射時間を長くすれば、必要な光照射密度を達成できる。また、ラインビームの短軸方向におけるサイズ(幅)を0.5cmよりも短くすることによっても必要な光照射強度を達成できる。そのためのレンズまたはミラーなどの光学系を各半導体レーザ素子40に結合させても良い。短軸方向におけるラインビームのサイズは、0.1cm程度あれば十分である。
【0074】
本発明によるラインビーム照射装置の実施形態によれば、ELA装置に比べて1台あたりの装置価格を低くすることが可能である。このため、複数台のラインビーム照射装置を用意し、個々のラインビーム照射装置を用いて各ワークを照射するようにすれば、量産効率を高めるために走査速度を限界レベルに高める必要は無くなる。すなわち、本発明によるラインビーム照射装置の実施形態によれば、ラインビームの走査速度を長く設定することが経済的に許容されるため、個々の半導体レーザ素子の光出力を低く設定して光源寿命を長くすることができる。
【0075】
図15は、ラインビーム光源100の位置と光出力波形との関係の他の例を示すグラフである。
図15の例では、ラインビーム光源100の点灯後、ラインビームの光強度は一定の短い周期で振動している。ラインビーム光源100の位置は、相対的に低い一定の速度で移動している。この例では、ラインビーム光源100は、点灯状態と非点灯状態とを周期的に繰り返しており、1周期における点灯状態の時間割合はデューティ比として定義される。デューティ比をパラメータとしてフルエンスを調整することができる。光強度の振動周波数(変調周波数)は、例えば1ヘルツ(Hz)から数キロヘルツ(kHz)の範囲内に設定され得る。光照射を受けるワーク300の各部位が少なくとも1回のラインビーム照射を受けるように、ラインビーム30Lの幅(照射面におけるX方向サイズ)、変調周波数、および走査速度が設定される。
【0076】
図16は、ラインビーム光源100の位置と光出力波形との関係の更に他の例を示すグラフである。
図16の例では、ラインビーム30Lの走査中に、デューティ比が変調されている。
【0077】
図17は、ラインビーム光源100の位置と光出力波形との関係の更に他の例を示すグラフである。
図17の例では、走査速度が一定ではなく、ラインビーム光源100の位置は一定の時間間隔で移動と停止とを繰り返している。この例におけるラインビーム30Lの照射は、ワークステージ200に対するラインビーム光源100の移動が停止しているときに実行されている。ラインビーム光源100のX軸方向における位置が固定されてラインビーム30Lの照射が行われている最中に、前述したようにラインビーム30Lを速軸(Y軸)方向に振動または移動させてもよい。それによって、ワーク300の各部位における光照射密度の速軸(Y軸)方向の分布が均一化される。
【0078】
このようにラインビーム30Lの光強度には、種々の変調を加えることが可能であり、変調の態様を時間また照射位置に応じて変化させることも可能である。光照射位置の移動のパターンと光強度変調のパターンとの組み合わせは、多様であり、
図14から
図17に示す例に限定されない。
【0079】
上記の実施形態において、ラインビーム光源100とワーク300との距離は、走査中、一定に保持されるが、この距離を変調させてもよい。これらの実施形態において、ラインビーム光源100の半導体レーザ素子40から出たレーザ光は、少なくとも速軸方向にコリメートも集束もされないで、ワーク300に入射する。前述したように、ラインビーム光源100にはラインビーム30Lを遅軸方向に集束させるためのレンズが付加されていても良い。また、ラインビーム30Lの長さを調整するため、レンズ、ミラーなどの光学素子を用いてラインビーム30Lを速軸方向に集束したり、エクスパンドしたりしてもよい。
【0080】
<レーザリフトオフ方法>
図18A、
図18B、および
図18Cは、本発明によるレーザリフトオフ方法の実施形態を説明するための工程断面図である。これらの図面は、いずれも、ワーク300の一部を拡大して模式的に示す断面図である。図示されているワーク300の寸法は、現実のワーク300が有する寸法のスケール比率を反映していない。
【0081】
図18Aに示されるように、このワーク300は、ガラス基板(キャリア)32と、ガラス基板32に固着しているポリイミド層34と、ポリイミド層34上に形成された複数のデバイス36と備えている。複数のデバイス36のそれぞれは、この例において、同一の構成を有している。個々のデバイス36は、ポリイミド層34がガラス基板32から剥離された後、フレキシブルな電子装置、例えばフレキシブルディスプレイとして動作する構造を備えている。デバイス36の典型例は、薄膜トランジスタ層、OLED層、電極層、および配線層を有する電子デバイスである。薄膜トランジスタは、非晶質シリコン、多結晶シリコン、その他の無機半導体層、または有機半導体から形成され得る。多結晶シリコンの形成は、ガラス基板32上に堆積した非結晶シリコン層に対して、従来のELA装置による溶融再結晶化によって行うことができる。各デバイス36は水分およびガスに対するバリアフィルムによって封止されている。
【0082】
図18Bは、ワーク300に対してラインビーム30Lの照射が行われている途中の状態を示している。この例では、ラインビーム30Lの照射により、ガラス基板32とポリイミド層34との間に空隙34aが発生している。ラインビーム30Lの波長は、ラインビーム30Lの大部分がガラス基板32を透過し、かつ、ポリイミド層34に吸収されるように選択される。例えば5〜200μm程度の厚さを持つポリイミド層34は、例えば250〜450nmの波長を持つラインビームの照射(例えば100〜300ミリジュール/cm
2)を受けると、ガラス基板32から剥離することができる。現在実用化されている最も短波長の半導体レーザ素子の発振波長は、350nm程度であるが、今後、この波長は更に短縮され、かつ光出力の増大することが予想される。
【0083】
ポリイミドの分光吸収率およびガラスの分光透過率は、それぞれ、ポリイミドの種類およびガラスの種類に依存する。このため、剥離が効率的に進行するように、これらの材料および厚さ、ラインビーム30Lの波長および光強度が決定される。
【0084】
図18Cは、ワーク300に対するラインビーム30Lの照射が完了した状態を示している。図示されているように、ポリイミド層34に支持された状態の複数のデバイス36がガラス基板32からリフトオフして、剥離している。複数のデバイス36が1枚の連続したポリイミド層34によって支持されている場合は、レーザリフトオフ工程の後、ポリイミド層34が分割され、複数のデバイス36がそれぞれ分離される。こうして得られたデバイス36は、ガラス基板32のように高い剛性を持つ部材を有していないため、柔軟性を持つ。
【0085】
上記の例では、ガラス基板32にポリイミド層34が接触しているワーク300が使用されているが、本発明によるレーザリフトオフ方法の適用は、このような例に限定されない。ガラス基板32とポリイミド層34との間にレーザ光を吸収して剥離を促進する犠牲層が設けられていても良い。また、ポリイミド以外の材料から形成された層がフレキシブルデバイスのベースとして用いられても良い。更に、ガラス基板32の代わりに他の材料から形成されたキャリアが用いられても良い。
【0086】
上記の例では、フレキシブルディスプレイのガラス基板からの剥離が行われているが、本発明によるレーザリフトオフ方法の適用は、このような例に限定されない。本発明のレーザリフトオフ方法は、サファイア基板などの結晶成長用基板からLEDを剥離するためにも用いられ得る。このようなレーザリフトオフの工程を含む電子デバイスの製造方法によれば、キャリアと、キャリアに固定されている各種の電子デバイスとを含むワークを用意して、そのようなワークをラインビームで照射することにより、キャリアから剥離された電子デバイスを得ることができる。
【0087】
図19は、ワーク300上におけるラインビーム30Lの照射領域(破線部)を模式的に示す平面図である。照射領域内に示す黒い点は、ラインビーム光源100(不図示)における半導体レーザ素子40の発光領域24の位置をワーク300上に投影した図である。この例では、12個の半導体レーザ素子40から出たレーザ光がラインビーム30Lを形成している。
【0088】
図19に示されるように、12個の半導体レーザ素子40の発光領域24の投影位置に応じて、ワーク300が持つ構造は一様ではない。すなわち、ワーク300は、デバイス36が存在しない領域と、デバイス36が存在する領域とを有している。これらの領域の間には、デバイス36の有無に応じて熱容量の差異が存在する。そのため、同じ光強度のレーザ光が照射された場合、剥離の程度に差異が生じることがある。ラインビーム照射装置1000によれば、同一ライン上においても、例えば、ワーク300の熱容量の大きな部分には相対的に高い光強度の照射を行い、熱容量の小さな部分には相対的に低い強い光強度の照射を行うことが可能である。
【0089】
図20は、ラインビーム30Lの光強度分布をワーク300の位置に応じて空間的に変調した例を示す模式断面図である。
図20の上部に示される曲線は、12個の半導体レーザ素子40から出射されたレーザ光の強度分布を示している。破線は合成されたラインビーム30Lの光強度分布を示している。この例では、12個の半導体レーザ素子40が位置に応じて異なる出力(光強度)のレーザ光を出射している。
図10および
図11のLD駆動回路80は、個々の半導体レーザ素子40の光出力を独立して制御できる。
【0090】
図15から
図17を参照して説明したように、本実施形態によれば時間的な光強度変調を行うことができ、更に、
図20に示すように空間的な光強度変調を行うことも可能である。ワーク300上の照射位置に応じて、ラインビーム30Lの光強度分布を変化させる方法には、大きく分けて以下の2通りある。
【0091】
第1の方法は、ワーク300の構造に合わせて予め複数の半導体レーザ素子の光強度をプログラムしておく方法である。第2の方法は、ワーク300の構造または状態をイメージセンサで観察しながら、リアルタイムで複数の半導体レーザ素子40の光強度を調整また補正する方法である。前者の方法に後者の方法を組み合わせても良い。第2の方法を実行するときは、例えば、イメージセンサによってワーク300の構造または状態をリアルタイムで検出し、画像処理によって照射対象エリアを複数のセルに区分する。そして、セルごとに光強度の目標値を設定し、個々の半導体レーザ素子の光強度を調整すればよい。
【0092】
ワーク300に対するラインビーム30Lの走査を実行しているとき、例えばイメージセンサを用いて、剥離の程度が不完全な部位(剥離不良領域)を検出することも可能である。そのような剥離不良領域を検知した際、その領域の位置座標をメモリ74内に記憶する。そして、そのワーク300に対する2度目の走査を実行することができる。この2度目の走査では、剥離不良領域のみに対するレーザ光の照射を行えば良い。極端な例において、2度目の走査は、1個の半導体レーザ素子40からのレーザ光を1個の剥離不良領域にあてるだけで完了し得る。
【0093】
ラインビーム照射装置1000が2個のラインビーム光源100を備えていても良い。第1の先行して照射を行うラインビーム光源100によって生じた剥離不良領域をイメージセンサが検知した場合、後行する第2のラインビーム光源100の対応する半導体レーザ素子40が選択的に発光する。このようにして、レーザ光の照射を補充的に行うことにより、不良のリペアを同一工程で実現できる。
【0094】
また、1個のラインビーム光源が半導体レーザ素子40の2組の列を備えていても良い。
図21Aは、中心間距離Pxだけ離れた2列の半導体レーザ素子40を示している。Pxは、例えば10mm以上200mm以下の範囲に設定され得る。先行して照射を行う第1列はY軸方向にピッチPy1で配列された複数の半導体レーザ素子40を含み、後行する列はY軸方向にピッチPy2で配列された複数の半導体レーザ素子40を含む。図示されている例では、Py1=Py2であるが、この例に限定されない。
図21Bは、このような半導体レーザ素子40を備えるラインビーム光源100の構成例を示す斜視図である。
図21Cは、2列の半導体レーザ素子40の発光領域24をワーク300上に投影した位置を模式的に示している。
図21Cの例では、各列に12個の半導体レーザ素子40が配列されたラインビーム光源が形成するラインビーム30Lでワーク300を照射している。
【0095】
このような例によれば、走査中に先行する最初の列に属する複数の半導体レーザ素子40が形成するラインビーム30Lの照射によって剥離が完成しなかった領域に対して、後行する列に属する複数の半導体レーザ素子40の1個または複数個を発光させ、必要なリペアを行うことができる。2列目の半導体レーザ素子40は、第2の同一ライン状に配列されており、補助半導体レーザ素子して機能する。
図21Bに示されるように、ラインビーム光源100の1列目の半導体レーザ素子40と2列目の半導体レーザ素子40との間に、剥離状況をモニタするためのイメージセンサ76aを配置しても良い。さらには、
図21Dに示すように、2列目の半導体レーザ素子40の走査方向後方側に、剥離状況をモニタするための他のイメージセンサ76bを配置しても良い。また、ラインビーム光源100の移動方向が反転して往復動作する場合は、
図21Eに示すように、1列目の半導体レーザ素子40の前方側に、更に他のイメージセンサ76cを配置しておいても良い。
図21Eの構成を採用すれば、走査方向が反転しても、イメージセンサ76b、76cのいずれか一方が常に走査方向の後方側に位置するため、剥離状況をモニターできる。
【0096】
2列の半導体レーザ素子40を10mm以下の距離に近接させてもよい。先行する1列目の半導体レーザ素子40でワークの「予熱」を行い、後行する2列目の半導体レーザ素子40によって「剥離」を達成するようにしてもよい。1列目の半導体レーザ素子40によるラインビームの光強度と、2列目の半導体レーザ素子40によるラインビームの光強度とを変えることにより、ワーク300に対する多様なラインビーム照射を行うことができる。列の本数も2個に限定されない。また、各列によって半導体レーザ素子40から出射されるレーザ光の波長が異なっていても良い。最初に波長が相対的に長いラインビームを照射し、それに引き続いて相対的に波長が短いラインビームを照射してもよい。あるいは逆に、最初に波長が相対的に短いラインビームを照射し、それに引き続いて相対的に波長が長いラインビームを照射してもよい。
【0097】
図22Aは、ラインビーム光源100における半導体レーザ素子40の他の配置例を示す図である。
図22Bは、このような半導体レーザ素子40を備えるラインビーム光源100の構成例を示す斜視図である。
図22Cは、2列の半導体レーザ素子40における発光領域24をワーク300上に投影した位置を模式的に示している。この例において、2列の半導体レーザ素子40は、スタッガパターン(千鳥配列)を有している。2列の中心間距離を短縮することにより、全体として1本のラインビームを形成することも可能である。更に、第1の列に属する半導体レーザ素子40の光軸と、第2の列に属する半導体レーザ素子40の光軸とがワーク300上で交差するように半導体レーザ素子40の方位を調整すれば、実質的に1本のラインビームを形成することができる。このようにして形成されたラインビームの光強度は、速軸方向においてより均一化されている。
【0098】
図23は、隣接する半導体レーザ素子40の中心間距離が位置に応じて異なる半導体レーザ素子40の発光領域24をワーク300上に投影した位置を模式的に示す平面図である。
図24は、このような配列を有する半導体レーザ素子40によって形成されたラインビーム30Lの光強度分布を模式的に示す図である。
図25は、
図24に示す光強度分布を実現するラインビーム光源100の構成例を示す斜視図である。ワーク300の構造が既知である場合、前もって、半導体レーザ素子40の配列をワーク300の構造に合わせておくこともできる。同一の構造を有する大量のワーク300に対してリフトオフ工程を実行する用途では、ワーク300に合わせて半導体レーザ素子40の配列を決定すればよい。
【0099】
以上説明してきたように、本発明によるラインビーム光源およびラインビーム照射装置の実施形態は、用途またはワークの構造に合わせて多様な構成をとりえる。
【0100】
本発明によるラインビーム光源およびラインビーム照射装置の上記実施形態では、ラインビームの光強度またはフルエンスをラインビームの長手方向に沿って一定にするための複雑な光学系が不要になる。しかも、半導体レーザ素子の価格はエキシマレーザ装置の価格に比べて極めて低い。従って、本発明の実施形態によれば、ラインビーム照射装置およびレーザリフトオフ法のコストを下げ、様々な用途にラインビーム照射を適用する道を開く。また、エキシマレーザ装置では、装置稼働中は継続してレーザ発振させ続ける必要があるのに対し、半導体レーザ素子の発振状態は簡単にオン・オフすることができる。このため、本発明の実施形態によれば、光照射領域の走査中において、剥離に必要な光照射を実行する期間のみ選択的にレーザ発振を行うことができ、光源の長寿命化、および電気料金などのランニングコストの節約が可能となる。更に、本発明のラインビーム照射装置は、パルス波ではなく連続波のレーザ光を出射できるので、従来のELA装置およびYAGレーザ装置のレーザ光照射に比べて、相対的に低い強度のレーザ光を相対的に長い時間にわたって照射できる。その結果、光照射密度の均一性が低くても、ワークの熱分布を均一化しやすい。このため、従来の高価なELA装置およびYAGレーザ装置を代替して半導体層の溶融再結晶に用いることも可能である。
図21Aから
図25を参照して説明したラインビーム光源100の改変例は、レーザリフトオフ法以外の用途にも適用可能である。
【0101】
なお、添付の図面では、簡単のため、ベアチップ状態の半導体レーザ素子が記載されているが、前述したように、半導体レーザ素子は、パッケージまたはカートリッジに実装された状態で支持体60aに搭載されてもよい。その場合、支持体にはパッケージまたはカートリッジを保持する接続装置が設けられる。このような接続装置は、個々のパッケージまたはカートリッジを自在に脱着できる機構を備えておれば、任意の構成を採用し得る。
【0102】
本開示において図示されている半導体レーザ素子は、いずれも、1個の発光領域を持つシングルエミッタ構造の半導体レーザ素子であるが、本発明はこれに限定されない。各半導体レーザ素子が2個以上の発光領域を含み、それらの発光領域が1本または複数本のラインビームを形成するのであれば、マルチエミッタ構造の半導体レーザ素子を用いても良い。
【0103】
なお、
図7Bからわかるように、各半導体レーザ素子40の位置が遅軸方向に僅かにシフトしても、実用上は支障のないラインビーム30Lが形成される。半導体レーザ素子40の遅軸方向におけるアライメントずれの許容範囲は、照射面上において連続するラインビーム30Lを形成するように決定され得る。半導体レーザ素子40の遅軸方向におけるアライメントずれは、例えば、発光領域24の遅軸方向サイズExの大きさ以下に設定される。