(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記インクタンクから前記プリントヘッドに移送されるインクの圧力が所定の第3の値を超えたとき、インクの粘度が高まったと判断して前記インクタンクにインク溶剤を補給する、請求項1ないし3のいずれかに記載のインクジェットプリンタ。
【背景技術】
【0002】
コンティニュアス方式のインクジェットプリンタにおいては、プリントヘッドのノズルから噴射されたインク滴のうち印刷に供されるものは偏向飛行して被印刷物の表面に噴射される。一方、飛行軌道の修正を受けない印字に無関係なインク滴はガターに収容され、回収管を介してインクタンクに回収される。
【0003】
インクタンクに回収されるインクは空気と一緒に運ばれ、そのうち空気はインクタンクから排気される。
【0004】
ところで、インクジェットプリンタで使用されるインクは、一般にメチルエチルケトン等の揮発性の高い溶剤を用いているため、インクタンクに回収される際にかなりの量の溶剤蒸気が大気中に排気され、インクの粘度が高まる。
【0005】
一方、印刷の品質を維持するためには、インクの粘度を一定の範囲内に保持する必要がある。従来は、インク溶剤を収容したタンクをインクタンクとは別に設置し、蒸発により大気中に排気されたインク溶剤を補給することによって、インクの粘度を保持していた(例えば特許文献1参照)。
【0006】
しかし、インク溶剤は比較的高価であるため、溶剤の補給は印刷コストを上昇させる原因となっていた。
【0007】
上述したインク溶剤を補充する方法とは別に、インク溶剤の大気中への排気を抑えるために、インク溶剤の蒸気を液化して回収する方法が提案されている(例えば特許文献2参照)。
【0008】
特許文献2に記載の方法では、インクタンクから排気されたインク溶剤の蒸気を、ペルチェ素子等の熱電気冷却モジュールを用いて液化させた後、インクタンクに戻している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献2に記載の方法によれば、大気中に排気されたインク溶剤蒸気の大半を回収することができる。
【0011】
しかし、熱電気冷却モジュールが高価であるため、プリンタの価格が上昇する原因となり、更に、熱電気冷却モジュールの設置場所を確保する必要があることから、プリンタが大型化する原因ともなっていた。
【0012】
本発明は、このような従来の問題点に鑑みてなされたもので、インク溶剤の消費量を抑え、しかも価格上昇や装置の大型化を最小限に留めることができるインクジェットプリンタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明に係るインクジェットプリンタは、
インクを貯留するインクタンクと、
当該インクタンクから供給されるインクを被印刷物の表面に向けて噴射するプリントヘッドと、
当該プリントヘッドから噴射されたインクのうち印刷に使用されないインクを回収するガターと、
前記インクタンクから前記プリントヘッドへのインクの移送および前記ガターで回収されたインクの前記インクタンクへの移送を行うポンプと、
前記インクタンク内の気圧をインク溶剤の飽和蒸気圧を超える値に保持する溶剤蒸発抑制手段と、を備え
、
前記溶剤蒸発抑制手段は、
前記インクタンクに取り付けられた管と、
当該管の途中に配置され、管内の気圧が所定の第1の値を超えたときに開放される逆止弁とで構成されることを特徴とする。
【0015】
ここで、前記管に、前記逆止弁を迂回するように分岐管を取り付けると共に、当該分岐管に開閉弁を配置し、前記管内の気圧が所定の第2の値を超えた時に前記開閉弁を開いて前記インクタンク内のインク溶剤蒸気を外部に排出することが好ましい。
【0016】
前記インクタンクは、上面が開放された、インクを貯留するタンク本体と、当該タンク本体の上面を密閉した状態で覆う蓋とで構成されることが好ましい。
【0017】
前記インクタンクから前記プリントヘッドに移送されるインクの圧力が所定の第3の値を超えたとき、インクの粘度が高まったと判断して前記インクタンクにインク溶剤を補給することが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るインク溶剤の蒸発抑制手段を用いれば、インクタンク内の気圧をインク溶剤の飽和蒸気圧を越える値に保持することにより、インク溶剤の蒸発を抑制して、溶剤の消費を抑えることができる。
【0019】
本発明では、そのための手段として、密閉されたインクタンクの本体または蓋に管を取り付け、その管に逆止弁を配置するだけで済むため、プリンタのコストアップと装置の大型化を最小限に留めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態に係るインクジェットプリンタについて、図面を参照して説明する。
【0022】
<インクジェットプリンタの構成>
図1に、本実施の形態に係るインクジェットプリンタの配管図を示す。また
図2に、同プリンタの制御系のブロック図を示す。上述したように、本発明はインク溶剤の蒸発抑制を主たる目的としているため、
図1および
図2では、それに関係しない印刷関連の部材は省略している。
【0023】
図1の配管図に示すように、インクジェットプリンタ(以降、「プリンタ」と略す)1は、インクIを貯留するインクタンク2、インクを噴出して被印刷物の表面に印刷を行うプリントヘッド3、インクを送出するポンプ4、これらの部材を連結する管5a〜5j(以降、総称して「管5」ともいう)、管5の途中に配置され、管を開閉する開閉弁61〜66、インクの各種状態を検出するセンサ71〜74、ならびにインクおよび溶剤の補給に用いられるタンク81および82で構成されている。
【0024】
図2に示すように、プリンタ1の動作はコントローラ9によって制御される。そのためコントローラ9の入力側には、
図1に示したセンサ71〜74が接続され、出力側には、ポンプ4を回転駆動するモータ45および管5の開閉を行う開閉弁61〜66が接続されている。以下、各部材について説明する。
【0025】
インクタンク2は、強化プラスチック等で作製され、上面が開放された直方体状のタンク本体21と、同じく強化プラスチック等で作製され、タンク本体21の上面を覆うように設置された平板状の蓋22で構成されている。
【0026】
図1に示すように、蓋22には、複数の管5を通す孔、ならびに温度センサ72および液面検出センサ73を通す孔が形成されている。蓋22に形成されたこれらの孔は、管等との間が封止されている。これらの孔は、タンク本体21および蓋22のいずれに設けてもよいが、本実施の形態では、取扱いの容易さから蓋22に設けている。
【0027】
タンク本体21の開口部と蓋22との間は、パッキンを介した状態(図示せず)で、ボルト・ナット等を用いて締結されており、タンク本体21と蓋22との間が密閉されているため、隙間からインクタンク2内の溶剤の蒸気が外部に漏れることはない。
【0028】
プリントヘッド3の構成と動作について簡単に説明する。インクジェットプリンタは、コンティニュアス方式とオンデマンド方式に大別されるが、本発明では、コンティニュアス方式を採用している。
【0029】
コンティニュアス方式のインクジェットプリンタのプリントヘッドの構造は周知であるため、図面を用いての説明は行わない。この方式では、ポンプ4を用いてインクを加圧し、プリントヘッド3に設けられたノズルからインクを噴射し、噴射したインクがインク滴に分離する位置においてインク滴を帯電させ、更に偏向電極によって帯電したインク滴の軌道を曲げて印刷面の所定の位置に衝突させて、インクドットを形成している。
【0030】
同方式のプリンタにおいては、プリントヘッド3から噴射されたインク滴のうち印刷に使われなかったインクはガター51に回収され、後述するように管5cを通ってインクタンク2に戻され、再利用される。
【0031】
インクタンク2とプリントヘッド3を結ぶ管5aの途中にポンプ4が配置されており、タンク内のインクをプリントヘッド3まで移送している。本実施の形態では、ポンプ4として4つのダイアフラムユニット41〜44が一体化され、これらを1つのモータ45(
図2参照)で回転駆動するダイアフラム式のポンプを用いている。
【0032】
ダイアフラムユニット41は、インクタンク2内のインクをプリントヘッド3に移送するため、またダイアフラムユニット42および43は、ガター51で回収したインクをインクタンク2に移送するために用いられる。
【0033】
またダイアフラムユニット44は、インクを循環させてインクタンク2内のインクを攪拌するため、および補給用タンク81または82に収容されたインクまたは溶剤をインクタンク2に供給する際に用いられる。
【0034】
管5a、5cの途中に設けられたフィルタ52、53および54はインク内の不純物を除去するもの、逆止弁56はインクの逆流を防止するものである。逆止弁56にはバネが内蔵されており、バネの作用によってインクの圧力が所定の値を超えないときはインクの移送を阻止し、所定の値を超えた時にだけインクが移送される。管5には、これ以外にダンパー55および絞り57が取り付けられている。これらの機能については後述する。
【0035】
管5a、5d、5e、5fおよび5gの途中には、上述した部材以外に開閉弁61〜65およびインク排出弁67が配置されている。開閉弁61〜65は電磁弁で構成されており、
図2のコントローラの指示に従って管5を開閉してインクを移送し、または移送を停止する。インク排出弁67は、プリンタ1の保守点検の際に、管5aに残っているインクを排出するものであり、手動で開閉される。
【0036】
管5aに接続された圧力センサ71は、管5aを流れるインクの圧力を検出すものである。またインクタンク2の蓋22に取り付けられた温度センサ72は、インクタンク2内のインクの温度を検出するものである。インクタンク2の蓋22に取り付けられた液面検出センサ73は、長さの異なる導電性の複数の棒を用い、それらの電気的な導通の有無によってインクの液面の高さを検出するものである。
【0037】
インクタンクの蓋22には、溶剤蒸発抑制手段10を構成する管5j、逆止弁58および開閉弁66が取り付けられている。逆止弁58の機能は逆止弁56と変わらず、また開閉弁66の機能は開閉弁61〜65と変わらない。
【0038】
管5iに取り付けられた圧力センサ74は、インクタンク2内の気圧を測定する。また管5iの先端には凝集タンク83が設置されており、管5iを通って放出されたインク溶剤蒸気を収集し、それを凝集・液化させてインク溶剤を回収する。
【0039】
図2のコントローラ9は、圧力センサ71、74、温度センサ72および液面検出センサ73の出力信号に基づいて、ポンプ4を回転駆動するモータ45
および開閉弁61〜66の動作を制御する。
【0040】
図2に示すように、コントローラ9は、CPU91、ROM92、RAM93、入力・表示パネル94、外部記憶装置95およびバスライン96で構成されている。
【0041】
CPU91は、プリンタ1の各部の動作を制御するのに必要な指示信号を作成する。ROM92には、CPU91が動作するのに必要なプログラムが記憶されている。RAM93は、プログラムの実行中に必要となるデータを一時的に記憶する、
【0042】
外部記憶装置95は、ハードディスクドライバやフラッシュメモリ等で構成され、プリンタ1の制御に必要なデータを記憶する。入力・表示パネル94は液晶ディプレイ等で構成され、印刷の内容や設定値等を入力すると共に、入力されたデータや印刷内容等を表示する。バスライン96は、CPU91のデータ信号、アドレス信号およびコントロール信号を伝送する。
【0043】
<インクの流れ>
次に、前述の
図1に基づいてプリンタ1におけるインクの流れを説明する。
図1において管5に沿って表示した矢印は、インクIの流れる方向を示している。
【0044】
インクタンク2に収容されたインクIは、ダイアフラムユニット41によって吸引され、管5aを通ってプリントヘッド3まで移送される。管5aのダイアフラムユニット41の下流にはダンパ−55と逆止弁56が配置され、更にその手前で管5aから管5bが分岐し、先端がインクタンク2に接続されている。
【0045】
ダイアフラムユニット41から送り出されたインクIはダンパー55で脈流が取り除かれた後、逆止弁56に到達する。逆止弁56は、プリントヘッド3に供給されるインクの圧力を一定の値に保持するもので、ダンパー55を通過し、脈流が取り除かれたインクの圧力が、バネの弾性力によって定まる値を下回る場合、逆止弁56は閉じたままであるため、インクは分岐管5bを通ってインクタンクに戻る。分岐管5bの途中に設けられた絞り57は、インクタンク2に回収されるインクの流量を調整するものである。
【0046】
逆止弁56の下流側の管5aに取り付けられた圧力センサ71は、プリントヘッド3に供給されるインクの圧力を検出するものである。圧力センサ71で検出されたインク圧力は、インクの粘度を調節するために用いられる。
【0047】
プリンタ1を用いて印刷される画像等の品質を一定にするためには、プリントヘッド3から噴射されるインク滴の速度を一定の値に保持する必要があるため、プリントヘッド3には速度センサ(図示せず)が内蔵されている。
【0048】
管
5aを移送されるインクの圧力とインク滴の速度は比例関係にあり、速度を維持するための圧力が高まった場合、インクの粘度が高まったと判断して、補給タンク82から溶剤の補給が行われる。
【0049】
管5aの途中に設けられた開閉弁61は、ポンプ4を駆動してプリンタによる印刷を開始する際に管5aの流路を開き、印刷が終了してポンプ4の動作を停止する際に管5aの流路を閉じるものである。
【0050】
プリントヘッド3から噴射されたインク滴の一部は印刷に供され、その他のインク滴はガター51に回収される。ガター51に回収されたインクは、ダイアフラムユニット42および43によって管5cを通って移送され、インクタンク2に戻る。
【0051】
管
5cによるインクの移送に2つのダイアフラムユニット42および43を用いるのは、ダイアフラムユニットのインク移送能力を考慮したものであり、ダイアフラムユニットの移送能力が大きい場合は、1つのダイアフラムユニットを用いてインクを移送してもよい。
【0052】
プリントヘッド3の下部から取り出された管とインクタンク2との間が管5dによって接続され、途中に開閉弁62が配置されている。この管5dは、プリンタの電源をオンにした際にプリントヘッド3内に残っている空気を抜くためのものであり、開閉弁62を開くことによって空気を含んだインクが移送され、インクタンク2に戻される。
【0053】
インク補給用タンク81から取り出されたインクを、ダイアフラムユニット44を用いてインクタンク2に移送する管5eおよび5hが設けられており、管5eの途中に開閉弁63が取り付けられている。
【0054】
同様に、溶剤補給用タンク82から取り出された溶剤を、ダイアフラムユニット44を用いてインクタンク2に移送する管5fおよび5hが設けられており、管5fの途中に開閉弁64が取り付けられている。
【0055】
更に、インクタンク2から取り出されたインクを、ダイアフラムユニット44を用いてインクタンク2に戻す管5gおよび5hが設けられており、管5gの途中に開閉弁65が取り付けられている。この管5gは、前述したようにインクタンク2内のインクを攪拌するために用いられる。
【0056】
前述した3つの管5e、5fおよび5gは、インク移送用のダイアフラムユニット44を兼用しており、このため、管5e、5fおよび5gは合流して管5hに連結されている。
【0057】
インクタンク2にインクを補給する場合、コントローラ9の指示に従って、開閉弁63を開ける共に、開閉弁64および65を閉じ、ダイアフラムユニット44を駆動して補給用タンク81内のインクをインクタンク2に移送する。
【0058】
インクタンク2に溶剤を補給する場合、コントローラ9の指示に従って、開閉弁64を開けると共に、開閉弁63および65を閉じ、ダイアフラムユニット44を駆動して補給用タンク82内の溶剤をインクタンク2に移送する。
【0059】
インクの成分のうち顔料は、時間の経過と共に沈下して下部に溜まる傾向があるため、インクタンク2内のインクを常時攪拌する必要がある。インクを攪拌する場合、コントローラ9の指示に従って開閉弁65を開けると共に、開閉弁63および64を閉じ、ダイアフラムユニット44を駆動してインクタンク2内のインクを管5gで吸引し、管5h内のインクをインクタンク2に放出する。
【0060】
<溶剤蒸発抑制手段の働き>
本実施の形態では、インクタンク2内のインク溶剤の蒸発を抑制する溶剤蒸発抑制手段10をインクタンクの蓋22に取り付けている。溶剤蒸発抑制手段10は、蓋22に取り付けられた管5iと、管5iの途中に並列に配置された逆止弁58および開閉弁66で構成されている。以下、
図3に基づいて、インク溶剤蒸発抑制の原理を説明する。
【0061】
図3に、インクの溶剤としてよく使われるエタノールの飽和蒸気圧曲線を示す。図において、横軸は溶剤の温度、縦軸は蒸気圧を示す。
【0062】
エタノールの蒸気圧が、蒸気圧曲線の右側の領域にある場合、エタノールは気体となり、蒸気圧曲線の左側の領域にある場合、エタノールは液体となる。従って、例えばプリンタが室温25℃の部屋に設置されている場合、エタノールの蒸気圧が約8kPaを超えると液体になる。
【0063】
プリンタの通常の使用環境では、外気に対して開放されたインクタンク2内が飽和蒸気圧まで上昇することはありえないため、インクタンク内の溶剤は蒸発して外気中に放出される。このため、ガター51で回収し、インクタンク2に戻されたインクの溶剤は、時間の経過と共に蒸発して大気中に放出され、インクの粘度が高まるため、溶剤を補給する必要がある。
【0064】
これに対し、溶剤蒸発抑制手段10を用いてインクタンク2を密閉した場合、ガター51で回収したインクがタンク内に戻されると、蒸気圧が上昇して飽和蒸気圧約8kPaに到達する。引き続きインクがタンクに戻され、タンク内の
気圧が飽和蒸気圧を超えると、凝縮する溶剤の分子の数が蒸発する分子の数を上回るため、インク溶剤の蒸発が抑制される。
【0065】
本発明は上述した原理を利用したもので、インクタンクに接続された管5iの逆止弁58が開放される気圧を、飽和蒸気圧を超える値に設定することによって、インク溶剤の蒸発を抑制するものである。逆止弁58が開放される気圧は、逆止弁に内蔵されるバネの弾性力によって調整できる。本実施の形態では、20kPaまたは50kPaのいずれかに設定した。
【0066】
図4に、インクタンクを開放した場合と密閉した場合の、インク溶剤の消費量を比較して示す。
図4において、横軸は大気圧に加える圧力の値、縦軸は溶剤の濃度を一定値に保持するために消費される溶剤の量を示す。なお、グラフに●印で示した値は、複数回測定した値の平均値である。
【0067】
図4(a)(b)は、インク溶剤にメチルエチルケトンを用いた場合のインク溶剤の消費量を示した図で、
図4(a)は補給タンクにカートリッジを用いた場合、
図4(b)は補給タンクにつぎ足しタンクを用いた場合を示す。タンクの構造の違いにより測定値に若干の差が生じている。
【0068】
図4(a)(b)から明らかなように、加圧0すなわちインクタンクが大気に開放されている場合に比較し、インクタンク内を飽和蒸気圧以上に加圧した場合、インク溶剤の消費量が明らかに減少している。
【0069】
図4(c)は、インク溶剤にエタノールを用いた場合のインク溶剤の消費量を示した図で、図から明らかなように、メチルエチルケトンを用いた場合と同様、インクタンクが大気に開放されている場合に比較し、インクタンク内を飽和蒸気圧以上に加圧した場合、インク溶剤の消費量が明らかに減少している。
【0070】
図5(a)は、インク溶剤にメチルエチルケトンを用いた場合の環境温度と溶剤消費量との関係を示したグラフで、横軸はプリンタ設置場所の環境温度、縦軸は溶剤消費量を示す。図中、○印で示したグラフは、加圧0すなわちインクタンクが大気に開放されている場合の溶剤消費量を示し、●印で示したグラフは、インクタンクを50kPaで加圧した状態の溶剤消費量を示している。
【0071】
図5(b)は、
図5(a)のグラフにおいて、インクタンクが大気に開放されている場合の溶剤消費量を0としたときの、インクタンクを50kPaで加圧した状態の溶剤消費量の低減率を示したものである。
【0072】
図5(b)のグラフから明らかなように、インクタンクを密閉してインク溶剤の飽和蒸気圧以上に保持した場合、インクタンクを大気に開放した場合に比較し、溶剤消費量を50%から80%近くまで減少させることができる。
【0073】
ちなみに、溶剤としてメチルエチルケトンを使用したインクの組成は、メチルエチルケトン(70〜90%)に、黒色の染料としてクロム錯塩(5〜10%)を加え、これに若干のシクロヘキサン(5〜10%)とイソプロピルアルコール(0.1〜1%)を添加したものである。
【0074】
一方、溶剤としてエタノールを使用したインクの組成は、エタノール(70〜80%)に、黒色の染料としてクロム錯塩(5〜15%)を加え、これに若干のイソプロピルアルコール(5%未満)とn−プロピルアルコール(5〜15%)を添加したものである。
【0075】
図1の説明に戻り、本実施の形態では、管5iに、逆止弁58を迂回するように分岐管5jを取り付け、分岐管5jに開閉弁66を配置している。コントローラ9は、圧力センサ74によって測定した管5i内の圧力が所定の値を超えた時に、開閉弁66を開く。逆止弁58が何らかの理由で故障して開放されなかったときに、開閉弁66を開くことにより、インクタンク2内の気圧を下げて、タンクが変形したり破壊されたりするのを防止できる。
【0076】
開閉弁66は、プリンタ1の保守点検の際にも使用され、インクタンク2の蓋22を開いてタンク内を掃除する際に、タンク内の気圧を下げることによって、インクの噴出し等を防止できる。
【0077】
なお、
図1では、圧力センサ74を管5iの途中に配置したが、インクタンク2内の気圧を測定するものであるため、蓋22の下面等に取り付けてもよい。
【0078】
上述したように、溶剤蒸発抑制手段によって、インクタンク内をインク溶剤の飽和蒸気圧を超える値に保持することにより、インク溶剤の蒸発を抑制してその消費量を大幅に削減できる。これにより、印刷にかかるランニングコストの大幅な削減が可能となる。
【0079】
なお、上述した実施の形態では、インク溶剤としてメチルエチルケトンおよびエタノールを使用した場合の効果についてのみ説明したが、本発明の溶剤蒸発抑制手段は、他の溶剤を用いた場合にも、同様に効果を得られることは云うまでもない。
【解決手段】本発明では、インクタンク2内の気圧をインク溶剤の飽和蒸気圧を超える値に保持する溶剤蒸発抑制手段10を備えている。溶剤蒸発抑制手段10は、インクタンク2の本体21または蓋22に取り付けられた管5iと、当該管5iの途中に配置され、管内の気圧が所定の値を超えたときに開放される逆止弁58とで構成されており、インクタンク2内の気圧をインク溶剤の飽和蒸気圧を超える値に保持することにより、インク溶剤蒸気が大気中へ排出されるのを抑えている。