(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の詳細を説明するが、以下の説明は、本発明を特定の実施形態に制限する趣旨ではない。
【0013】
[紫外線遮蔽材の層構成]
図1に示した一形態において、紫外線遮蔽材10は、フレーク状ガラス1と、フレーク状ガラス1上にこの順に形成された酸化チタン層2及び酸化鉄層3と、を備えている。より詳しくは、酸化チタン層2及び酸化鉄層3は、フレーク状ガラス1の互いに反対側にある第1主面1a及び第2主面1b上に形成され、さらに側面1s上にも形成されている。言い換えると、酸化チタン層2と酸化鉄層3とからなる酸化物膜は、フレーク状ガラス1の全体を覆っている。酸化鉄層3は、フレーク状ガラス1を被覆する酸化物膜の最外層であって、外部雰囲気、典型的には空気、に接している。ただし、紫外線遮蔽材10は、付加的な層を酸化鉄層3の上に有していてもよい。この付加的な層は、例えば保護層である。付加的な層は、好ましくはその光学膜厚が可視域の波長を超えている。第1主面1a及び第2主面1bは、互いに実質的に平行な一対の面であって、その間隔はフレーク状ガラス1の厚みtに相当する。
【0014】
フレーク状ガラス1の典型的な形状を
図2に示す。
図2に示したように、フレーク状ガラス1は、例えば鱗片状の薄片である。
【0015】
紫外線遮蔽材10は、フレーク状ガラス1の厚みtに沿った方向について、酸化鉄層3/酸化チタン層2/フレーク状ガラス1/酸化チタン層2/酸化鉄層3がこの順に積層している5層構成の光学干渉系を有している。本明細書において、「光学干渉系」とは、光学膜厚が可視域の波長上限である780nm以下にある層が厚み方向に連続して堆積することにより構成された層のユニットを意味する。ただし、厚みが25nm以下の薄い層、特に15nm以下のごく薄い層や、層を構成しない微小な島状の付着物、は、光学的な影響がごく限定されているため、光学干渉系を構成する層から除外して考える。したがって、上述の光学干渉系の層の間に厚みが上述の上限以下の微小な層が介在していたとしても、その光学干渉系の構成は5層のままである。一般に、光学干渉系を構成する層の数が増えるほど、可視域の透過又は反射特性を制御するための光学設計の自由度は高くなる。
【0016】
光学干渉系の各層の厚みを調整することによって、白色系の反射光が得られる。本明細書において、「厚み」は、特に断らない限り、光学膜厚(厚み)ではなく物理膜厚(厚み)を意味する。「白色系」とは、L
*a
*b
*表色系において、a
*及びb
*の絶対値が共に、30以下、好ましくは25以下、より好ましくは20以下、特に好ましくは15以下、であることをいう。
【0017】
光学干渉系の各層の厚みは以下のように調整される。
・フレーク状ガラス:300〜400nm
・酸化チタン層:80〜100nm
・酸化鉄層:30〜50nm
【0018】
上記の範囲の各層の厚みは、紫外線遮蔽材の周囲の物質によらず、輝度が高い白色系の反射光を実現することに適している。
【0019】
紫外線遮蔽材10では、2層構成の膜2、3とフレーク状ガラス1とが全体として1つの5層構成の光学干渉系を形成している。この5層構成の光学干渉系を構成する各層からの反射によって、紫外線遮蔽材10からは白色系の反射光が提供される。より詳しくは、第1主面1a又は第2主面1bに実質的に垂直な方向から入射する光Lについての反射光が白色系(上述のとおりL
*a
*b
*表色系においてa
*及びb
*の絶対値が共に30以下)となる。形成された層は2層であるものの5層構成の光学干渉系を利用できるため、紫外線遮蔽材10は、輝度が高い白色系の反射光を生じさせる観点からは、光学設計上、2層構成の光学干渉系を基材の両側に有する紫外線遮蔽材よりも相対的に有利である。
【0020】
光学膜厚が可視域の波長上限である780nm以下にあるフレーク状ガラスの物理膜厚(物理厚み)は、500nm程度以下である。汎用のフレーク状ガラスの厚みは500nm以上であるが、厚さが500nm未満程度のフレーク状ガラスも知られている。しかし、従来、薄いフレーク状ガラスを含む光学干渉系は、白色系の反射光ではなく、着色された反射光を得るために用いられていた。これに対し、本実施形態による光学干渉系は、白色系の反射光を提供する。
【0021】
本実施形態による5層構成の光学干渉系を利用すれば、光学シミュレーションによって算出される紫外線遮蔽材からの白色系反射光のL
*a
*b
*表色系におけるL
*値を、例えば66以上、好ましくは69以上、より好ましくは70以上、さらに好ましくは72以上、特に好ましくは74以上、にまで高くすることが可能となる。このL
*値は紫外線遮蔽材1枚からの反射光であるから、複数枚の紫外線遮蔽材から光が反射する実際の塗膜等からは、これよりも相対的に大きい、例えば80以上、さらには82以上、特に85以上程度のL
*値が得られることもある。なお、この段落で記述しているL
*値は、紫外線遮蔽材が単体として存在する場合、言い換えると塗膜等の固体又は液体マトリックスに囲まれず周囲の雰囲気を空気としている状態での値である。
【0022】
本実施形態による5層構成の光学干渉系を利用すれば、光学シミュレーションによって算出される紫外線遮蔽材1枚についての入射光Lの波長550nmにおける反射率Rを、35%以上、さらに37%以上、特に40%以上、場合によっては44%以上にまで高くすることが可能となる。ここで、「波長550nm」は視感度が高い波長として選択されている。なお、この段落以降の段落において、特に断らない限り、光学シミュレーションによって算出される紫外線遮蔽材1枚についての入射光Lの特定の波長における反射率及び透過率は、紫外線遮蔽材が単体として存在する場合、言い換えると塗膜等のマトリックスに囲まれず周囲の雰囲気を空気としている状態での値を記述している。
【0023】
本実施形態による5層構成の光学干渉系を利用すれば、光学シミュレーションによって算出される紫外線遮蔽材1枚についての入射光Lの波長305nmにおける反射率を30%以上、さらに32%以上、特に36%以上にまで高くすることが可能となる。また、本実施形態による5層構成の光学干渉系を利用すれば、光学シミュレーションによって算出される紫外線遮蔽材1枚についての入射光Lの波長305nmにおける透過率を2%以下又は0%にまで低くすることが可能になる。ここで、「波長305nm」はUVBの指標となる波長として選択されている。
【0024】
本実施形態による5層構成の光学干渉系を利用すれば、光学シミュレーションによって算出される紫外線遮蔽材1枚についての入射光Lの波長380nmにおける反射率を12%以上、さらに25%以上、特に39%以上、場合によっては42%以上にまで高くすることが可能となる。本実施形態による5層構成の光学干渉系を利用すれば、光学シミュレーションによって算出される紫外線遮蔽材1枚についての入射光Lの波長380nmにおける透過率を7%以下、さらに6%以下、特に4%以下、場合によっては1%以下にまで低くすることが可能になる。ここで、「波長380nm」はUVAの指標となる波長として選択されている。
【0025】
本実施形態による5層構成の光学干渉系は、周囲の雰囲気が空気である場合のみならず周囲が樹脂等の固形物又は流動物である場合、言い換えると化粧料、樹脂等のマトリックス中に分散している場合も考慮して、各層の膜厚が設計されている。そのため、本実施形態による5層構成の光学干渉系は、幅広い用途で輝度が高い白色系の反射光を提供することができる。
【0026】
[フレーク状ガラス]
フレーク状ガラスは、量産されているために入手が容易であって、安定した酸化物により構成されている。フレーク状ガラスは、鱗片状ガラス等とも呼ばれる微細な板状のガラス基体である。フレーク状ガラスを構成するガラス組成物は、特に制限はないが、通常、二酸化珪素を主成分とし、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、酸化ナトリウム等その他の金属酸化物成分をさらに含むものが用いられる。なお、ここでは、「主成分」を質量基準で含有率が最大となる成分を意味する用語として用いている。用い得るガラス組成物としては、ソーダライムガラス、Aガラス、Cガラス、Eガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸ガラス等を例示できる。これらのガラス組成物の屈折率は、その主成分が同一(二酸化ケイ素)であることから、多少の相違はあるが概ね1.50〜1.60の範囲内にある。ガラス組成物としては、ソーダライムガラス、Cガラス、Eガラス、ホウケイ酸ガラスが好ましく、これらの屈折率は1.52〜1.58の範囲内にある。
【0027】
フレーク状ガラスの好ましい平均粒径は、1〜1000μm、さらに3〜500μm、特に5〜200μmである。なお、フレーク状ガラスの平均粒径は、レーザ回折法により測定した光散乱相当径の粒度分布において、粒径が小さい側からの体積累積が50%に相当する粒径(D50)により定めることとする。
【0028】
フレーク状ガラスの厚みは、汎用品については0.5〜5μm程度である。しかし、酸化チタン層と酸化鉄層との積層膜との組み合わせにおいて輝度が高い白色系の反射光を得るために、フレーク状ガラスの厚みは上述したごく狭い範囲(300〜400nm)に設定される。この範囲の厚みを有するフレーク状ガラスは、従来から知られている方法、例えばブロー法、ロータリー法により、製造することができる。
【0029】
図3に、ブロー法によりフレーク状ガラスを製造するための装置の一例を示す。この製造装置は、耐火窯槽12、ブローノズル15及び押圧ロール17を備えている。耐火窯槽12(溶解槽)で溶融されたガラス素地11は、ブローノズル15に送り込まれたガスによって、風船状に膨らまされ、中空状ガラス膜16となる。中空状ガラス膜16を押圧ロール17により粉砕することにより、フレーク状ガラス1が得られる。中空状ガラス膜16の引張速度、ブローノズル15から送り込むガスの流量等を調節することにより、フレーク状ガラス1の厚みを制御できる。
【0030】
図4に、ロータリー法によりフレーク状ガラスを製造するための装置の一例を示す。この装置は、回転カップ22、1組の環状プレート23及び環状サイクロン型捕集機24を備えている。溶融ガラス素地11は、回転カップ22に流し込まれ、遠心力によって回転カップ22の上縁部から放射状に流出し、環状プレート23の間を通って空気流で吸引され、環状サイクロン型捕集機24に導入される。環状プレート23を通過する間に、ガラスが薄膜の形で冷却及び固化し、さらに微小片に破砕されることにより、フレーク状ガラス1が得られる。環状プレート23の間隔、空気流の速度等を調節することによって、フレーク状ガラス1の厚みを制御できる。
【0031】
[酸化チタン層と酸化鉄層との積層膜]
フレーク状ガラス上には酸化チタン層と酸化鉄層とがこの順に積層される。これらの層は、それぞれ上述した厚みとなるように形成される。これらの層の成膜技術は既に確立されており、所望の膜厚となるように形成することそれ自体は容易である。
【0032】
酸化チタン層は、ルチル型酸化チタンにより構成されていることが好ましい。酸化チタンの結晶形態としてはアナターゼ型も知られている。しかし、アナターゼ型の酸化チタンは光触媒としての活性が高く、周囲の有機物を分解することがある。光学干渉ユニットを構成する酸化チタン層には、相対的に安定な結晶形態であって屈折率が高いルチル型が適している。
【0033】
ルチル型酸化チタン層は、アナターゼ型酸化チタンを800℃程度以上の高温に加熱してルチル型へと転移させることにより形成することができる。また、酸化チタン層を形成するべき表面にスズ化合物を付着させて酸化チタンを析出させることにより、高温での加熱を要することなく、ルチル型酸化チタン層を形成することができる。後者の方法の詳細は、特表2006−510797号公報、特開2001−31421号公報等に開示されている。
【0034】
なお、酸化チタン層が表面に形成されたフレーク状ガラスは、酸化チタン層による光干渉により、酸化チタン層の厚みに応じた色調に発色する。フレーク状ガラス上に成膜した酸化チタンの単層膜は、例えば、厚み100nm程度で黄色を、厚み130nm程度で赤色を、厚み160nm程度で青色を、厚み175nm程度で緑色をそれぞれ呈する。ただし、成膜条件その他によっては、酸化チタン膜の膜厚が同じであっても色調が微妙に異なることはある。
【0035】
酸化鉄層は、三価の酸化鉄(Fe
2O
3)により構成されていることが好ましい。Fe
2O
3は、二価の酸化鉄(FeO)に比べて、紫外線の遮蔽能に優れている。
【0036】
酸化鉄層は、酸化鉄層を形成するべき表面にFe
2O
3のコロイド溶液を塗布し、乾燥することにより形成することができる。また、酸化鉄層を形成するべき表面を有する基材を塩化鉄(FeCl
3)水溶液に分散させ、塩基存在下で塩化鉄水溶液を加熱処理することにより酸化鉄層を形成することもできる。Fe
2O
3のコロイド溶液の詳細は、特許文献2等に開示されている。後者の方法の詳細は、特表2009−516035号公報、特表平11−510552号公報等に開示されている。
【0037】
[紫外線遮蔽材を配合した組成物及び塗装体]
本発明による紫外線遮蔽材は、各種組成物に配合されることにより鮮やかな白色系の発色を示す。本発明は、その別の側面から、本発明による紫外線遮蔽材を含む組成物を提供する。組成物は、化粧料、塗料、インキ及び樹脂組成物から選ばれる少なくとも1つであってもよい。組成物としては、化粧料が好適である。化粧料としては、紫外線遮蔽材と共に、油性成分を含むものを例示できる。化粧料は、顔料、pH調整剤、保湿剤、増粘剤、界面活性剤、分散剤、安定化剤、着色剤、防腐剤、酸化防止剤、香料等をさらに含んでいてもよい。化粧料は、ファンデーションであってもよい。樹脂組成物としては、紫外線遮蔽材と共に、PMMA等の樹脂を含むものを例示できる。樹脂組成物は、人造大理石成型品であってもよい。
【0038】
本実施形態による紫外線遮蔽材を含む化粧料によれば、SPF値を40以上、さらに50以上(50+)にまで高くすることができる。また、本実施形態による紫外線遮蔽材を含む化粧料によれば、PFA値を16以上にまで高くすることができる。なお、SPF値は、UVBを遮蔽する効果の程度を表す指標である。PFA値は、UVAを遮蔽する効果の程度を表す指標である。
【0039】
また、本発明は、さらに別の側面から、基材と、本発明による紫外線遮蔽材を含む、基材上に形成された塗膜とを備えた塗装体を提供する。塗装体は塗装紙であってもよい。この場合の基材は紙であるが、基材は紙に限られるわけでなく、金属、樹脂、セラミックスその他であってもよい。塗膜は、本発明による組成物から構成されていてもよく、本発明による組成物を基材上に塗布することによって形成されていてもよい。
【0040】
本実施形態による紫外線遮蔽材では、フレーク状ガラスの厚みが薄いため、フレーク状ガラスの重量に対する酸化鉄層の重量の比率が高い。そのため、組成物又は塗膜における紫外線遮蔽材の含有率が従来に比べて低い値であっても、十分に紫外線を遮蔽する効果が得られる。例えば、紫外線遮蔽材が厚み400nmのフレーク状ガラスを含み、かつ、基材の表面1cm
2に対して2mgの組成物又は塗膜を配置する場合、組成物又は塗膜における紫外線遮蔽材の含有率が5重量%以上であれば、基材の表面全体を紫外線遮蔽材によって被覆できる。紫外線遮蔽材が厚み300nmのフレーク状ガラスを含み、かつ、基材の表面1cm
2に対して2mgの組成物又は塗膜を配置する場合、組成物又は塗膜における紫外線遮蔽材の含有率が4重量%以上であれば、基材の表面全体を紫外線遮蔽材で被覆できる。このように、フレーク状ガラスの厚みが薄いほど、組成物又は塗膜における紫外線遮蔽材の含有率を低くすることができる。組成物又は塗膜における本実施形態の紫外線遮蔽材の含有率は、15重量%以下、さらには10重量%以下、特に8重量%以下であってもよい。組成物又は塗膜における紫外線遮蔽材の含有率を低下させる観点から、フレーク状ガラスの厚みは、300nm以上350nm以下であってもよい。
【0041】
[光学シミュレーション]
フレーク状ガラス上に酸化チタン層と酸化鉄(Fe
2O
3)層とがこの順に形成され、フレーク状ガラスと共に光学干渉系を構成している紫外線遮蔽材におけるフレーク状ガラス及び層の厚みと反射特性との関係を計算した。反射特性を含む光学特性は、よく知られているとおり、積層構造(フレーク状ガラス及び層)を構成する材料の各波長における屈折率(n)及び消衰係数(k)と厚みとから、光の直進性と反射や屈折(スネル)の法則とに基づいて計算することができる。幾何光学の理論により計算される反射特性が実際の製品の特性に高いレベルで一致することは周知である。酸化鉄層/酸化チタン層/フレーク状ガラス/酸化チタン層/酸化鉄層の構成においても、シミュレーションの結果が実際の製品によく一致することは実験により確認されている。
【0042】
今回の計算に用いた構成のモデルは、周囲(外部環境)/Fe
2O
3/TiO
2/フレーク状ガラス/TiO
2/Fe
2O
3/周囲(外部環境)である。フレーク状ガラスとしてはソーダライムガラスを想定した。酸化チタン層はルチル型とした。周囲は、空気(屈折率1.0)又は樹脂とした。樹脂としては、代表的な透明樹脂であるPMMA(ポリメチルメタクリレート;屈折率1.49)を想定した。想定した光源はD65光源であり、想定した光の入射角は5度であり、想定した反射光の測定位置は反射角5度の方向である。反射光学特性及び紫外線遮蔽特性についての計算結果を表1〜6に示す。Rは波長550nmにおける反射率(%)であり、L
*、a
*及びb
*の数値はL
*a
*b
*表色系に基づく。紫外線遮蔽特性としては、波長305nmにおける反射率及び透過率と、波長380nmにおける反射率及び透過率とを算出した。
【0043】
表1〜6のSPF値は、次のようにして計算した。市販の化粧料について、波長305nmにおける透過率とSPF値とを測定した。市販の化粧料は、紫外線遮蔽材として酸化チタン及び酸化亜鉛を含んでいた。市販の化粧料における酸化チタン及び酸化亜鉛のそれぞれの含有率を変え、波長305nmにおける透過率とSPF値とを再度測定した。この操作を繰り返し、得られた複数のデータに基づいて、波長305nmにおける透過率とSPF値との相関を求めたところ、以下の関係式(1)が得られた。関係式(1)に、光学シミュレーションで得られた紫外線遮蔽材の波長305nmにおける透過率を代入することによって、表1〜6のSPF値を計算した。
y=74.049x
-0.888 (1)
ここで、関係式(1)において、yはSPF値を示しており、xは波長305nmにおける透過率(%)を示している。
【0044】
表1〜6のPFA値は、次のようにして計算した。市販の化粧料について、波長380nmにおける透過率とPFA値とを測定した。市販の化粧料における酸化チタン及び酸化亜鉛のそれぞれの含有率を変え、波長380nmにおける透過率とPFA値とを再度測定した。この操作を繰り返し、得られた複数のデータに基づいて、波長380nmにおける透過率とPFA値との相関を求めたところ、以下の関係式(2)が得られた。関係式(2)に、光学シミュレーションで得られた紫外線遮蔽材の波長380nmにおける透過率を代入することによって、表1〜6のPFA値を計算した。
y=208.17x
-1.062 (2)
ここで、関係式(2)において、yはPFA値を示しており、xは波長380nmにおける透過率(%)を示している。
【0046】
表1からわかるとおり、酸化チタン層を有さない場合には、周囲が空気であっても透明樹脂であっても、紫外線遮蔽材からa
*及びb
*の絶対値が30以下である反射光を得ることは容易でない。また、表1より、酸化鉄層の厚みが30nm以上であれば、十分に高いSPF値及びPFA値が得られることが確認できる。
【0051】
表2〜5より、周囲が空気であっても透明樹脂であっても、a
*及びb
*の絶対値が30以下である反射光が得られるフレーク状ガラス及び各層の厚みは以下の範囲が適切であることが確認できる。
・フレーク状ガラス:300nm以上400nm以下
・酸化チタン層:80nm以上100nm以下
・酸化鉄層:30nm以上50nm以下
【0053】
表6に示すように、周囲が空気である場合、酸化鉄層の厚みが50nmより厚くても、酸化チタン層の厚みを調節することによって、a
*及びb
*の絶対値が30以下である反射光を得ることは可能である。しかし、酸化鉄層の厚みを50nmより厚くすると、反射光のL
*値が大幅に低下する。例えば、厚み300nmのフレーク状ガラス、及び、厚み80nmの酸化チタン層の組み合わせにおいて、酸化鉄層の厚みが30nmであるときに反射光のL
*値は72であり、酸化鉄層の厚みが50nmであるときに反射光のL
*値は71である(表2参照)。これに対して、表6からわかるとおり、上記の厚みのフレーク状ガラス及び酸化チタン層の組み合わせにおいて、酸化鉄層の厚みが90nmであるときには、反射光のL
*値は56まで低下する。このように、酸化鉄層の厚みが50nm以下であることによって、輝度が高い反射光を提供することができる。
【0054】
以上の光学シミュレーションではすべて紫外線遮蔽材1枚からの反射光の特性が算出されることになる。しかし、実際の塗膜等には紫外線遮蔽材が光線の透過方向に複数枚存在するため、反射光の輝度がこれよりも高く観察される。塗膜中では3〜6枚程度の紫外線遮蔽材からの反射光が観察されることはよく経験される。
本発明は、輝度が高い白色系の反射光の提供に適した新たな紫外線遮蔽材を提供する。本発明による紫外線遮蔽材10は、フレーク状ガラス1と、フレーク状ガラス1上にこの順に形成された酸化チタン層2及び酸化鉄層3と、を備え、フレーク状ガラス1の厚みが300nm以上400nm以下であり、酸化チタン層2の厚みが80nm以上100nm以下であり、酸化鉄層3の厚みが30nm以上50nm以下である。例えば、酸化チタン層2及び酸化鉄層3は、フレーク状ガラス1の互いに反対側にある第1主面1a上及び第2主面1b上に形成されている。