特許第6396001号(P6396001)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6396001
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】回路基板およびサーマルプリントヘッド
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/335 20060101AFI20180913BHJP
【FI】
   B41J2/335 101E
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-80516(P2013-80516)
(22)【出願日】2013年4月8日
(65)【公開番号】特開2014-201029(P2014-201029A)
(43)【公開日】2014年10月27日
【審査請求日】2016年2月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】390022471
【氏名又は名称】アオイ電子株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593021459
【氏名又は名称】YAMAKIN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(72)【発明者】
【氏名】米谷 佳浩
(72)【発明者】
【氏名】吉田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】別役 大
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 桂介
(72)【発明者】
【氏名】藤間 研也
【審査官】 大浜 登世子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−201048(JP,A)
【文献】 特開平05−159618(JP,A)
【文献】 特開2012−209148(JP,A)
【文献】 特開平06−103816(JP,A)
【文献】 特開昭62−222601(JP,A)
【文献】 特開平01−198403(JP,A)
【文献】 特開2006−056046(JP,A)
【文献】 特開平04−247968(JP,A)
【文献】 特開2002−067366(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/335
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板上に、パラジウムの被膜が形成された銀粒子からなる導体粒子を含有する導体ペーストを用いて回路が形成されている回路基板であって、導体粒子中の銀およびパラジウムの各成分が銀80〜99.5重量%およびパラジウム0.5〜20重量%であり、
上記の回路基板が、絶縁基板上で共通電極と個別電極との間に発熱抵抗体を形成した回路基板であって、
前記共通電極および前記個別電極は前記導体ペーストを塗布して形成された単層の導体層からなり、
前記共通電極および前記個別電極は絶縁基板上に直接形成され、発熱抵抗体層下層のみにグレーズ層を有することを特徴とする回路基板。
【請求項2】
上記の導体粒子が、パラジウムの被膜が表面積の50〜100%に形成された銀粒子からなる導体粒子である請求項1に記載の回路基板。
【請求項3】
上記の導体粒子が、0.4nm〜0.02μmの厚さのパラジウムの被膜が形成された銀粒子からなる導体粒子である請求項1または2に記載の回路基板。
【請求項4】
上記の導体粒子表面にパラジウムの被膜が形成され銀粒子からなる導体粒子である請求項1から3のいずれかに記載の回路基板。
【請求項5】
上記の導体粒子が、直径30nm〜1μmの導体粒子である請求項1から4のいずれかに記載の回路基板。
【請求項6】
上記の導体層の厚さが1〜6μmである請求項1から5のいずれかに記載の回路基板。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の回路基板を用いたサーマルプリントヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路基板およびサーマルプリントヘッドに関する。
回路基板の製造時における工程数を削減するとともに高価な材料に対する安価な代替品の使用を提案するものであり、製造工程の効率化および材料費の低価格化を達成することにより安価でしかも性能の優れた回路基板を提供するものであり、サーマルプリントヘッドに特に有用である。
【背景技術】
【0002】
サーマルプリントヘッドは、絶縁基板上に形成した金属膜からなる共通電極と個別電極とからなる一対の電極間に発熱体としての抵抗体を電気的に接続して構成し、両電極間に必要とする電圧を印加制御して発熱させ、その熱を感熱記録紙に与えて抵抗体の発熱量に応じて感熱記録を行うものであり、抵抗体に通電する電気回路の形成には、金ペーストを用いて印刷、焼成の繰り返しにより、所望の金による膜を形成し、これをフォトリソ処理することにより配線パターンを形成することが通常行われている。
【0003】
このような厚膜印刷は金属膜の密着性は比較的小さいものの、金属ペーストを基板上に塗布・焼成するだけで製造できるという特徴がある。すなわち、大規模な設備を必要とすることなく、簡便な工程と装置で連続的に成膜できるので、生産性が高く安価であるというメリットがあり、広く活用されている。厚膜印刷は、各種の金属を微粒子にして溶媒に分散させた不均一な粘性液体であるペーストを使用している。このため、基板に塗布して焼成するだけでは、金属粒子が基板に接触した状態の金属膜となり、均一な膜が形成され難いという問題があった。
また、金を使用したペーストは高価であるため金使用量を低減する技術,あるいは金以外の金属を主体としたペーストが提案されてきた。安価で電気伝導性の良好な金属として銀が採用された技術が数多く提案されている。
【0004】
例えば、導体層間の界面抵抗値を低減するとともに、焼結によって抵抗値が上昇することがなく、しかも微細配線パターン形成の可能な導体形成用ペーストにあって、銀の有機化合物とニッケルの有機化合物とを含みこれらを樹脂で混合してペースト状としたレジネートペーストであって、金属元素成分中、銀を95ないし99重量%、ニッケルを1ないし5重量%とした合金が使用されている(特許文献1)。また、従来に比して低抵抗率であってエレクトロマイグレーション、ストレスマイグレーションに対する耐性に優れた銀ペーストおよびその製造方法を提供するにあたり、上記金属粉末は、Agを主成分とし、Pdを0.1wt%以上5.0wt%以下含有し、Al、Au、Pt、Cu、Ta、Cr、Ti、Ni、Co、Siからなる群から選ばれた複数の元素を合計で0.1wt%以上5.0wt%以下含有する金属粉末およびビヒクルからなる銀ペーストが提案されている(特許文献2)。
【0005】
銀−パラジウム合金含有ペーストの場合には、ペーストを塗布した後、約950℃の高温で焼成し、金属微粒子を溶融させることにより均一な金属膜を形成しているが、従来の厚膜印刷では、基板として、例えば、セラミック基板や金属板のような高融点の材料しか使用できないという問題があった。また、銀粒子が多数の微細なパラジウム粒子によって被覆された粉末からなる導電材料を使用して1300℃以上の高温で焼き付けすることが可能な導電材料とすることが提案されている(特許文献3)。しかし、高温で溶融・焼成を行うので、高熱に耐える大型焼成炉と周辺施設、および大きなエネルギーを必要とするという問題があった。
【0006】
また、金ペーストの使用量を必要以上使用しなくても済むボンディングパッドの形成が可能な回路基板として、絶縁基板上にサーマルプリントヘッドを構成する有機金ペーストを印刷焼成して個別電極、共通電極を形成し、さらに発熱抵抗体及び保護膜が形成される。個別電極のボンディングパッドにおいて、有機金ペーストと無機金ペーストとを混合した混合ペーストを個別電極上に積層してボンディングパッドを形成する。このボンディングパッドとドライバーICのボンディングパッドとを金ワイヤで接続すると、ボンディングパッドを1回の印刷焼成回数で必要な膜厚を得ることができ、コストダウンが可能となる(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−89716号公報
【特許文献2】特開2001−307549号公報
【特許文献3】特開昭56―42910号公報
【特許文献4】特開平6−132338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
サーマルプリントヘッドなどに使用される配線パターンを形成するには,従来、金を主体としたペーストが使用されてきた。しかしながら、金ペーストが非常に高価であり、製造コストを押し上げている最大の要因となっている。金ペーストに代替する材料として特性が近い銀を使用した銀ペーストが試験され種々の提案がなされてきたものの、耐熱性が弱く、イオンマイグレーションによるリークの問題があり実用化するには十分な性能が得られなかった。
本発明は、こうした従来の金ペーストあるいは銀ペーストの問題点を解決して実用化に適した導体ペーストを使用した回路基板であり優れた性能を発揮するサーマルプリントヘッドの提供を可能とすることを目的とする。
本発明は、回路基板の製造時における工程数を削減するとともに高価な材料に対する安価な代替品の使用を提案するものであり、製造工程の効率化および材料費の低価格化を達成することにより安価でしかも性能の優れた回路基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、特に、銀粒子の表面にパラジウムの被膜が形成されている導体粒子を含有し、金属元素分が、銀80〜99.5重量%、パラジウム0.5〜20重量%である導体粒子を含有する導体ペーストにより回路基板とし、これをサーマルプリントヘッドに用いることにより従来の導電銀ペーストの欠点を解消したサーマルプリントヘッドを提供することを可能としたものであり、サーマルプリントヘッドに特に有用である。
すなわち、本発明は以下の(1)ないし(9)の回路基板を要旨とする。
(1)絶縁基板上に、パラジウムの被膜が形成された銀粒子からなる導体粒子を含有する導体ペーストを用いて回路が形成されている回路基板であって、導体粒子中の銀およびパラジウムの各成分が銀80〜99.5重量%およびパラジウム0.5〜20重量%であり、上記の回路基板が、絶縁基板上で共通電極と個別電極との間に発熱抵抗体を形成した回路基板であって、前記共通電極および前記個別電極は前記導体ペーストを塗布して形成された単層の導体層からなり、前記共通電極および前記個別電極は絶縁基板上に直接形成され、発熱抵抗体層下層のみにグレーズ層を有することを特徴とする回路基板。
(2)上記の導体粒子が、パラジウムの被膜が表面積の50〜100%に形成された銀粒子からなる導体粒子である上記(1)に記載の回路基板。
(3)上記の導体粒子が、0.4nm〜0.02μmの厚さのパラジウムの被膜が形成された銀粒子からなる導体粒子である上記(1)または(2)に記載の回路基板。
(4)上記の導体粒子が、メッキ操作により表面にパラジウムの被膜が形成され銀粒子からなる導体粒子である上記(1)から(3)のいずれかに記載の回路基板。
(5)上記の導体粒子が、直径30nm〜1μmの導体粒子である上記(1)から(4)のいずれかに記載の回路基板。
(6)上記の導体層の厚さが1〜6μmである上記(1)から(5)のいずれかに記載の回路基板。
【0010】
また、本発明は以下の()のサーマルプリントヘッドを要旨とする。
)上記(1)から()のいずれかに記載の回路基板を用いたサーマルプリントヘッド。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、製造工程の効率化および材料費の低価格化を達成することにより安価でしかも性能の優れた回路基板、およびそれを用いたサーマルプリントヘッドを提供することができる。
すなわち、本発明により以下の効果が奏される。
1.非常に高価で製造コストを押し上げている金ペーストを使用しなくても特性に優れた銀ペーストによる回路基板およびサーマルプリントヘッドを提供することができる。
2.銀を使用した導電ペーストの弱点であった耐熱性が弱く、イオンマイグレーションによるリークの問題が解決される。
3.銀粒子を耐熱性の高いパラジウムで被覆すること、および従来使用されている金よりも熱伝導性の高い銀を使用することにより、発熱体の耐エネルギー性の向上、発熱体の熱応答性の向上が達成される。
4.印字品位の向上が達成される。
5.共通電極(第2導体層)を設ける必要がなくなることから回路基板あるいはサーマルプリントヘッドの製造工程が削減される。
6.個別電極(第1導体層)の層数が削除できるため製造工程の削減および層形成材料のコストが削減できる。
7.グレーズ層の部分的な削除が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】銀ペーストに含有される銀導体粒子の模式図。(1)および(2)は従来提案されている例、(3)は本発明の例。
図2】本発明のサーマルプリントヘッドの断面構造。
図3】従来のサーマルプリントヘッドの断面構造。
図4】本発明および従来の銀ペーストを用いて形成した回路の対比。
図5】本発明および従来の銀ペーストを用いて形成した回路の焼成工程における変化を示す模式図。
図6】イオンマイグレーション試験の結果。
図7】印加電圧に対する抵抗値ドリフト率の関係を示す。
図8】通電時と、通電停止後の保護膜表面温度を測定したトランジェント試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、銀粒子の表面にパラジウムの被膜が形成されている導体粒子を含有する導電ペーストであって、該導体粒子の金属元素分が、銀80〜99.5重量%,パラジウム0.5〜20重量%である導体ペーストを用いた回路が形成されている回路基板およびサーマルプリントヘッドに関するものである。本発明の導体粒子を使用することにより、サーマルプリントヘッドの製造に当たり、導電層の形成に必要な材料費の低減、製造工程の削減による製造コストの削減、および成膜品位の向上が達成される。
本発明の導体粒子は、銀粒子の表面がパラジウム金属の薄膜により被覆されたものであり、図1(3)でその一例を示すが、その単一の粒子は銀粒子の表面の全面あるいは一部がパラジウムの薄膜により覆われている構造となっている。
従来提案されている銀導体粒子の例を図1(1)および(2)に示す。図1(2)の導体銀粒子は表面にはパラジウムの細粒が多数付着した構造になっている。こうした構造ではパラジウム粒子で覆われていない銀の表面積が広いために導体粒子として満足できる性能を呈することはできない。本発明は図1(3)に示すように、銀粒子の表面にパラジウムの薄膜で覆った構造をしているものである。
銀、金、パラジウムの各金属の融点および熱伝導率を対比すると、融点については銀が961℃、金が1064℃、パラジウムが1555℃であり、融点の低い銀の表面を融点の高いパラジウムで被覆して粒子全体の融点を高めることができる。また、熱伝導率に関しては、銀が429w/mk、金が318w/mk、パラジウムが71.8w/mkであり、銀を使用することにより生成した導体層全体の熱伝導は金粒子に比べ実質的に向上する。導体層の熱伝導率の向上により発熱体の熱応答性の向上がなされ、それにより印字品位の向上が得られる。
【0014】
[導電粒子の構造・組成]
本発明の導体粒子は、その粒直径が30nm〜1μmの範囲であることが好ましい。さらには0.2〜0.6μmであることが好ましく、粒直径がこの範囲を下回るとブリスタの発生により、絶縁基板との密着性が低下し、上回るとポーラスの発生により、成膜性が低下し、導電ペーストとしての機能が低下する。
導体粒子は、その金属元素が、銀80〜99.5重量%、パラジウム0.5〜20重量%であることが好ましく、さらにはパラジウムが0.5〜3重量%であることが好ましい。パラジウムの量がこれより少なくなると導電粒子の熱的特性や電気的特性が低下することとなり、大きくなるとこれらの特性がさらに改善されることはなく、また価格の大きい材料が増えるため好ましくはない。
本発明の銀粒子の表面の50〜100%がパラジウムで被覆されていることが好ましく、さらには、80〜100%がパラジウムで被覆されていることが好ましく、これらの範囲が好ましいのは耐熱性、耐マイグレーション性が良好である理由による。
また、パラジウムによる被覆は0.4nm〜0.02μmの厚みがあることが本発明のサーマルプリントヘッドを製造するに適している。さらには、0.4nm〜3.0nmのパラジウム膜厚であることが好ましく、これらの範囲が好ましいのは前述の耐熱性、耐マイグレーション性が良好である理由による。
【0015】
熱伝導率の関係からみると銀粒子は純銀であることが好ましいが、銀の合金であってもよく、例えば、銀中にニッケル(Ni)、金(Au)、プラチナ(Pt)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、アンチモン(Sb)、アルミニウム(Al)などを含ませても良い。
【0016】
[実施例]
従来のサーマルプリントヘッドの構造は図3に示すように、セラミックスなどの絶縁基板上にグレーズ層を設け、その上に個別電極となる第1導体層が設けられる。例えば、第1導体層は金を含有するペーストにより印刷され焼成されて形成された4層からなる。第1導体層の端部には別工程で形成された共通電極が設けられている。個別電極と共通電極上には個別に通電制御が可能な発熱抵抗体が設けられている。
これに対し、本発明のサーマルプリントヘッドの構造は図2に示すように、セラミックスなどの絶縁基板上の一部にグレーズ層を設け、絶縁基板上に直接個別電極となる第1導体層と共通電極となる第2導体層を設けられる。第1導体層はパラジウムの被膜を有する銀を含有するペーストが印刷され焼成されて形成された単層からなる。
本発明における第1導体層の厚さは1〜6μmの範囲であり、さらに好ましくは2〜4μmの範囲である。この範囲の層厚とすることにより本発明の目的が容易に達成される。
また、本発明では従来第1導体層である金と絶縁基板との密着力向上のため、絶縁基板の全面に設けられていたグレーズ層は、発熱体層下層の部分にのみ設けることで良くなる。これは絶縁基板と第1導体層の密着力が高い為グレーズを必要としないという理由による。
本発明のサーマルプリントヘッドが簡便な工程で製造できることは、本発明の導体粒子が、熱伝導性に優れると同時に厚膜の導体層を形成することができることに由来する。
【0017】
[材料コストの低減]
本発明の回路基板またはサーマルプリントヘッドの製造では、製造工程の減縮および使用材料の低減を行うことができる。従来のサーマルプリントヘッドは、例えば、金ペーストを使用して4層からなる第1導体層が設けられる。これらの導体層はスクリーン印刷により金ペーストが印刷されこれを焼成炉により焼成することにより複数工程を必要としていた。これに対して、本発明では、1重量%のパラジウム膜を被覆した銀マイクロ粒子を使用することにより1層からなる導体層を形成することで十分となり、製造工程数を激減させることが可能となる。焼成温度、時間は両者ともに770から820℃前後で60分間と同じ程度である。本発明と従来の工法において使用した材料の使用量と単価より計算した原価試算では、本発明は従来工法より材料原価を大幅に削減できる。
【0018】
[耐熱性試験]
本発明の導体ペーストを使用して形成したドットパターンの形状を、銀粒子ペースト(銀化合物によるレジネートペースト)、銀粒子とパラジウム粒子の混合ペースト、パラジウム膜被覆銀粒子ペーストを対比した。ドットパターンは図4に示す幅25μmとして、スクリーン印刷、焼成後フォトリソ処理によりパターンを形成した。フォトリソ処理により絶縁体上に設けられた皮膜が焼成により如何に変化するかを模式的に示したのが図5である。銀ペーストあるいは銀粒子にパラジウム粒子を混合したペーストを用いて絶縁基板上に設けられたパターンでは、焼成によって粒子間に無秩序な間隙の発生、あるいは粒子の溶融による粒子間の合体が発生してパターンが均質なものとはなり難いため、パターンのエッジ部分がシャープにはならない。
本発明による微細パターンを従来例と対比すると、図4に示すように、パターンのエッジ部分のシャープさは本発明が大きく優れていることが明らかに認められる。
【0019】
[イオンマイグレーション]
本発明の回路を用いて、イオンマイグレーション試験を行い短絡の発生する時間を測定してイオンマイグレーションの程度を推定した。イオンマイグレーションとは金属の電気化学的な移動現象であり、これが発生すると電圧を印加すると電気分解作用により銀が樹枝状に移動成長し、電極間の絶縁抵抗が低下したり短絡する問題点があることが一般に知られている。
この試験には、粒径0.6μmの銀粒子にパラジウム5ないし10重量%を電解メッキにより4.5nm〜9.0nmの膜厚を被覆した導体粒子を含有するペーストを使用した。比較例として、銀粒子粒径0.6μmに粒径0.2μmのパラジウム微粒子を5、10重量%混合し付着させた導体を使用し、脱イオン水滴下法(試験条件 電源電圧:1.00V、滴下量:3.0μl、測定ラインL/S=150/150μm)にてイオンマイグレーションの試験を実施しその結果を図6に示した。短絡時間(定義:通電にパターン間の抵抗値が1MΩ以下に到達する時間)が長いほど耐マイグレーション性が向上していることとなり、この導体を実際に使用するにあたっては銀を使いながらイオンマイグレーションが生じない利点があることになる。
試験の結果、パラジウムを被覆または混合することにより短絡時間が長くなる傾向を示すが、本発明のパラジウム皮膜を形成した銀粒子が耐マイグレーション性においては圧倒的に優れていることが図6から明らかである。
【0020】
[耐パルス性]
パルス耐性について第1導体層材料としてパラジウム被覆銀(銀粒径0.5μm、パラジウム添加率1重量%、パラジウム膜厚0.9nm、1層構造)を使用して評価試験を行った。相対比較として、第1導体層材料として有機金(3層構造)を使用した試料を用意した。試験方法として発熱抵抗体にパルス電圧を印加し段階的に印加電圧を上げて、印加電圧毎の抵抗値を測定した。図7には、印加電圧に対する抵抗値ドリフト率の関係を、表1にパルス耐性試験の結果を示す。
パラジウム被覆銀は現行に比べて抵抗値が上昇しにくい(パルス耐性が高い)傾向がある。これは第1導体層の膜厚が5倍もあり、熱伝導性が向上したためと考えられる。パラジウム被覆銀は導体抵抗値が0.03Ω・mm/μmであり、現行の導体抵抗値0.70Ω・mm/μmの約1/20以下に低くなるため、コモン電流通電時に生じる電圧降下対策としての共通電極層(第2導体層)を必要としない。
【0021】
[発色性]
本実施例では、トランジェント試験を行った。試験を行った試料は第1導体層材料としてパラジウム被覆銀(銀粒径0.5μm、パラジウム添加率1重量%、パラジウム膜厚0.9nm、1層構造)を使用して評価試験を行った。相対比較として、第1導体層材料として有機金(3層構造)を使用した現行品を用意した。トランジェント試験は通電時と、通電停止後の保護膜表面温度を測定した結果を図8に示す。
試験の結果トランジェントの波形より、パラジウム被覆銀は現行品と比べて通電停止時間中の温度下降速度が大きい。これはパラジウム被覆銀の熱伝導性が良いために、第1導体層からの放熱が大きくなったためと考えられる。また、パラジウム被覆銀は現行品と比べてピーク温度とボトム温度の差が大きい。これも熱伝導性の向上が影響していると考えられる。
【0022】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の回路基板およびサーマルプリントヘッドは、絶縁基板上に形成した金属膜からなる共通電極と個別電極とからなる一対の電極間に発熱体としての抵抗体を電気的に接続して構成し、両電極間に必要とする電圧を印可制御して発熱させ、その熱を感熱記録紙に与えて抵抗体の発熱量に応じて感熱記録を行うものであるが、金属膜からなる電極が安価な銀粒子を主体とするペーストにより作製することができ、しかも、回路基板あるいはサーマルプリントヘッドとしての性能に優れていることから、安価で性能のより優れたサーマルプリントヘッドの供給が可能となり、高価で産出量の少ない金の消費を抑えることができることは産業上大きな貢献をするものということができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8