特許第6396037号(P6396037)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6396037
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】データ解析装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   G06T 1/00 20060101AFI20180913BHJP
【FI】
   G06T1/00 315
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-38432(P2014-38432)
(22)【出願日】2014年2月28日
(65)【公開番号】特開2015-162188(P2015-162188A)
(43)【公開日】2015年9月7日
【審査請求日】2017年2月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】松田 崇弘
(72)【発明者】
【氏名】原 晋介
(72)【発明者】
【氏名】滝沢 賢一
(72)【発明者】
【氏名】小野 文枝
【審査官】 井上 宏一
(56)【参考文献】
【文献】 田中利幸,圧縮センシング−基本原理とその応用,電子情報通信学会技術研究報告 WBS2010−21−WBS2010−34 ワイドバンドシステム,社団法人電子情報通信学会,2010年 9月30日,第110巻 第222号,第25−30頁
【文献】 森川良孝,疎信号について,電子情報通信学会技術研究報告 IT2011−10−IT2011−23 情報理論,社団法人電子情報通信学会,2011年 7月14日,第111巻 第142号,第53−58頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
線形写像を表すテンソルAと観測データyとから未知のテンソルXmを推定するデータ解析装置において、
測定対象物に対して、送信機から無線信号を複数に亘り発信する発信手段と、
上記送信機から送信されて上記測定対象物を介して受信機によって取得された上記複数の無線信号の各シャドウイングによる信号電力の減衰量を、観測データyとして検出するセンシング手段と、
上記センシング手段により検出した観測データyと既知のAとを用いて線形制約y=A(X)を満たし、かつランクが最小のXを探索してこれを上記Xmと推定し、更に推定したXmに基づいて上記各無線信号の伝搬経路を推定し、推定した上記伝搬経路に基づいて上記測定対象物の形状情報を再現する推定手段とを備えること
を特徴とするデータ解析装置。
【請求項2】
線形写像を表すテンソルAと観測データyとから未知のテンソルXmを推定するデータ解析装置において、
測定対象物に対して、送信機から無線信号を複数に亘り発信する発信手段と、
上記送信機から送信されて上記測定対象物を介して受信機によって取得された上記複数の無線信号の各シャドウイングによる信号電力の減衰量を、観測データyとして検出するセンシング手段と、
上記センシング手段により検出した観測データyと既知のAとを用いて線形制約y=A(X)を満たし、その特異値の和が最小のXを探索してこれを上記Xmと推定し、更に推定したXmに基づいて上記各無線信号の伝搬経路を推定し、推定した上記伝搬経路に基づいて上記測定対象物の形状情報を再現する推定手段とを備えること
を特徴とするデータ解析装置。
【請求項3】
線形写像を表すテンソルAと観測データyとから未知のテンソルXmを推定するデータ解析装置において、
測定対象物に対して、送信機から無線信号を複数に亘り発信する発信手段と、
上記送信機から送信されて上記測定対象物を介して受信機によって取得された上記複数の無線信号の各シャドウイングによる信号電力の減衰量を、観測データyとして検出するセンシング手段と、
上記センシング手段により検出した観測データyと既知のAとを用いて以下の式に基づき、Xm=
【数0】
を推定する推定手段とを備えること
を特徴とするデータ解析装置。
【数1】
λは正の値を有する定数である。
【請求項4】
線形写像を表すテンソルAと観測データyとから未知のテンソルXmを推定するデータ解析方法において、
測定対象物に対して、送信機から無線信号を複数に亘り発信する発信手段と、
上記送信機から送信されて上記測定対象物を介して受信機によって取得された上記複数の無線信号の各シャドウイングによる信号電力の減衰量を、観測データyとして検出するセンシングステップと、
上記センシングステップにおいて検出した観測データyと既知のAとを用いて線形制約y=A(X)を満たし、かつランクが最小のXを探索してこれを上記Xmと推定し、更に推定したXmに基づいて上記各無線信号の伝搬経路を推定し、推定した上記伝搬経路に基づいて上記測定対象物の形状情報を再現する推定ステップとを有すること
を特徴とするデータ解析方法。
【請求項5】
線形写像を表すテンソルAと観測データyとから未知のテンソルXmを推定するデータ解析方法において、
測定対象物に対して、送信機から無線信号を複数に亘り発信する発信手段と、
上記送信機から送信されて上記測定対象物を介して受信機によって取得された上記複数の無線信号の各シャドウイングによる信号電力の減衰量を、観測データyとして検出するセンシングステップと、
上記センシングステップにおいて検出した観測データyと既知のAとを用いて線形制約y=A(X)を満たし、その特異値の和が最小のXを探索してこれを上記Xmと推定し、更に推定したXmに基づいて上記各無線信号の伝搬経路を推定し、推定した上記伝搬経路に基づいて上記測定対象物の形状情報を再現する推定ステップとを有すること
を特徴とするデータ解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、観測データyから画像や動画等に応じた未知のテンソルXmを圧縮センシングに基づいて推定する上で好適なデータ解析装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年において無線トモグラフィとよばれる技術が提案されている。この無線トモグラフィでは、空間の表面上に無線端末を配置し、無線端末間で信号を送受信させる。そして、受信電力と信号の経路から、空間全体の信号の受信状況(シャドウイングによる信号電力の減衰量)及びその時間変動を推定する。特に空間相関、時間相関と強い環境下の測定では、この圧縮センシングを利用することにより、より効率的かつ高精度な推定を行うことが可能となる。このような無線トモグラフィを用いることにより、信号の伝搬路も推定することができ、その伝搬路から観測対象となる物体の形状や位置も推定することができる。このため、無線トモグラフィは、CTスキャンのみならず、建築構造物、土木構造物等の形状推定、位置推定にも活用することが可能となり、或いは直接的に測定することができない位置にある障害物の推定にも利用することが可能となる。
【0003】
この無線トモグラフィでは、受信機側において送信機から受信した無線信号の電力を解析する。一般に、無線信号は、送信機から受信機に到達するまでに電力低下を引き起こす。この電力低下は、送信機と受信機との距離に基づく距離減衰と、マルチパス等に基づくフェージング、更には障害物や狭い領域に電波が入り込むことにより減衰するシャドウイング等に基づいて発生する。
【0004】
このうち、距離減衰は計算に基づいて容易に求めることができる。またフェージングはいわゆるノイズと考えて処理するのが通常である。しかしながら、シャドウイングは、簡単な計算により求めることができない。このため、このシャドウイングによる信号減衰量については、以下に説明する圧縮センシングを用いることにより求める。この圧縮センシングにおける基本的な問題設定は、未知ベクトルを線形観測に基づいて推定するものである。つまり線形観測モデルとしてy=Axを考える。ここでyは観測ベクトルとし、Aは観測行列とし、xは状態ベクトルとする。通常この観測行列Aに基づいて状態ベクトルxからyが求められるが、圧縮センシングにおいては、線形逆問題を問うものであり、観測ベクトルyから逆に状態ベクトルxを推定するものである。
【0005】
ここで観測行列Aを既知としたときに、観測ベクトルyから状態ベクトルxを推定することは、xを変数とする連立一次方程式を解くことに相当する。このとき、観測ベクトルyの数をM、状態ベクトルxの数をNとしたとき、M≧Nであればその連立方程式を解くことができるが、逆にM<Nの場合には、方程式の数よりも変数の数の方が多いこととなってしまい、無数の解が存在する不良設定問題となってしまう。かかる場合に圧縮センシングを用いる。
【0006】
実際にはl最適化問題として考えることができ、例えば以下の式(1)に示すように、線形制約y=Axを満たす場合において、式(2)に示されるlノルム(状態ベクトルxの要素の絶対値の和)が最小となるものを解とする。
【0007】
【数2】
・・・・・・・・・・・・・(1)
【0008】
【数3】
・・・・・・・・・・・・・・(2)
【0009】
即ち、(1)式から得られる解は、ベクトルの非零要素数が最小となるような解(スパース解)である。ちなみにxがそもそもスパースベクトルである場合には、正しい解が求まる。また、このような最適化問題を解くためのアルゴリズムは、例えば非特許文献1等に開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】K. Hayashi, M. Nagahara, and T. Tanaka, “A User’s Guide to Compressed Sensing for Communications Systems,” IEICE Transactions on Communications, vol. E96-B, no. 3, pp. 685-712, March 2013.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、従来における画像等の2次元データの圧縮センシングでは、その画像を構成する2次元データの相関性の強さにより、これを周波数領域に変換した場合には、図6(a)に示すように、周波数スペクトルは低周波領域に偏る。また高周波領域において周波数スペクトルは僅かとなる。かかる場合には、図6(b)に示すように、その高周波領域の周波数スペクトル成分を0に近似する、いわゆるスパース近似を行う。
【0012】
ここでSを2次元データXの周波数領域表現とし、Fは周波数領域への変換(フーリエ変換)としたとき、Sは、以下の式(3)により表示できる。
【0013】
線形観測モデル:y=Ax=AF−1(S)・・・・・・・・・・・(3)
(ここでsは、行列Sのベクトル表現)
【0014】
ここでAF−1をBとしたとき、(3)式は以下の式(4)に変形できる。
【0015】
y=Bs ・・・・・・・・(4)
【0016】
sは、以下の(5)式に基づいて圧縮センシングにより解が推定される。
【0017】
【数4】
・・・(5)
【0018】
そして、(5)式により求められた解となるベクトルsを再び行列Sに変換する。そして、以下の(6)式に基づいて逆フーリエ変換することにより、Xの推定値を求めることができる。
【0019】
【数5】
・・・・・・・・・・・・・(6)
【0020】
しかしながら、上述した従来における2次元データの圧縮センシングでは、あくまで周波数領域に落とす際に高周波成分についてスパース近似している。このため、図6(c)に示すように再構成された2次元データはかかるスパース近似による歪みが空間全体に広がってしまう。その結果、得られる画像データの空間分解能が低下してしまうという問題点があった。
【0021】
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、観測データyから画像や動画等に応じた未知の行列Xmを圧縮センシングに基づいて推定するデータ解析装置及び方法において、特に得られる行列Xmに基づくデータの空間分解能を向上させることが可能なデータ解析装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明に係るデータ解析装置は、線形写像を表すテンソルAと観測データyとから未知のテンソルXmを推定するデータ解析装置において、測定対象物に対して、送信機から無線信号を複数に亘り発信する発信手段と、上記送信機から送信されて上記測定対象物を介して受信機によって取得された上記複数の無線信号の各シャドウイングによる信号電力の減衰量を、観測データyとして検出するセンシング手段と、上記センシング手段により検出した観測データyと既知のAとを用いて線形制約y=A(X)を満たし、かつランクが最小のXを探索してこれを上記Xmと推定し、更に推定したXmに基づいて上記各無線信号の伝搬経路を推定し、推定した上記伝搬経路に基づいて上記測定対象物の形状情報を再現する推定手段とを備えることを特徴とする。
【0023】
本発明に係るデータ解析装置は、線形写像を表すテンソルAと観測データyとから未知のテンソルXmを推定するデータ解析装置において、測定対象物に対して、送信機から無線信号を複数に亘り発信する発信手段と、上記送信機から送信されて上記測定対象物を介して受信機によって取得された上記複数の無線信号の各シャドウイングによる信号電力の減衰量を、観測データyとして検出するセンシング手段と、上記センシング手段により検出した観測データyと既知のAとを用いて線形制約y=A(X)を満たし、その特異値の和が最小のXを探索してこれを上記Xmと推定し、更に推定したXmに基づいて上記各無線信号の伝搬経路を推定し、推定した上記伝搬経路に基づいて上記測定対象物の形状情報を再現する推定手段とを備えることを特徴とする。
【0024】
本発明に係るデータ解析方法は、線形写像を表すテンソルAと観測データyとから未知のテンソルXmを推定するデータ解析方法において、測定対象物に対して、送信機から無線信号を複数に亘り発信する発信手段と、上記送信機から送信されて上記測定対象物を介して受信機によって取得された上記複数の無線信号の各シャドウイングによる信号電力の減衰量を、観測データyとして検出するセンシングステップと、上記センシングステップにおいて検出した観測データyと既知のAとを用いて線形制約y=A(X)を満たし、かつランクが最小のXを探索してこれを上記Xmと推定し、更に推定したXmに基づいて上記各無線信号の伝搬経路を推定し、推定した上記伝搬経路に基づいて上記測定対象物の形状情報を再現する推定ステップとを有することを特徴とする。
【0025】
本発明に係るデータ解析方法は、線形写像を表すテンソルAと観測データyとから未知のテンソルXmを推定するデータ解析方法において、測定対象物に対して、送信機から無線信号を複数に亘り発信する発信手段と、上記送信機から送信されて上記測定対象物を介して受信機によって取得された上記複数の無線信号の各シャドウイングによる信号電力の減衰量を、観測データyとして検出するセンシングステップと、上記センシングステップにおいて検出した観測データyと既知のAとを用いて線形制約y=A(X)を満たし、その特異値の和が最小のXを探索してこれを上記Xmと推定し、更に推定したXmに基づいて上記各無線信号の伝搬経路を推定し、推定した上記伝搬経路に基づいて上記測定対象物の形状情報を再現する推定ステップとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明を適用したデータ解析装置及び方法では、上述したように特異値の和が最小となるようなXmを選択することで、特異値を要素とするベクトルがスパースなXmを探索することが可能となる。その結果、ある行(列)は、他の行(列)との線形和で表現でき、行(列)間の相関を強くすることができる。つまり、似ている行(列)が存在しており、線形独立な行(列)が少ない場合、大部分の特異値が0となる。特異値の和(核ノルム)を最小とするXを探索することで、このような空間相関の最も強い行列Xmを探索することができる。そして、この空間相関の最も強い行列Xmからデータを再現することで、より空間分解能の高いデータ情報を取得することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明を適用したデータ解析装置の構成図である。
図2】本発明を適用したデータ解析装置によりデータ解析を行うためのフローチャートである。
図3】解探索の方法について説明するための図である。
図4】3次元データを2次元データに分割してテンソル再構成を行う場合について説明するための図である。
図5】本発明を適用したデータ解析装置の作用効果について説明するための図である。
図6】従来における画像等の2次元データの圧縮センシングの問題点について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を適用したデータ解析装置を実施するための形態について詳細に説明をする。
【0029】
本発明を適用したデータ解析装置は、無線トモグラフィによるデータ解析に用いられる。データ解析装置10を無線トモグラフィに使用する場合、図1(a)に示すように、測定対象においてそれぞれ送信機2と受信機3を互いに空間的に配置する。これら送信機2は無線信号の送信機能のみならずその受信機能を有するものであってもよいし、受信機3は無線信号の受信機能のみならずその送信機能を有するものであってもよいが、以下の説明では、送信機2から送信された無線信号を受信機3により受信する場合を例にとり説明をする。
【0030】
受信機3には推定装置1が接続されている。この推定装置1には、例えばパーソナルコンピュータ等の電子機器等で構成され、受信機3により受信された無線信号及びその電力に関するデータが送られる。推定装置1では、送信機2および受信機3の位置に基づき無線信号の経路を推定する。そして、推定した経路に基づいて、後述する圧縮センシングを利用して解析を行い、観測対象となる物体の形状推定や位置推定等を行う。その結果、図1(b)に示すような、伝搬経路環境を推定することが可能となる。
【0031】
一般に、無線信号は、送信機から受信機に到達するまでに電力低下を引き起こす。この電力低下は、送信機と受信機との距離に基づく距離減衰と、マルチパス等に基づくフェージング、更には障害物や狭い領域に電波が入り込むことにより減衰するシャドウイング等に基づいて発生する。
【0032】
時刻t において、送信機2における位置v1 ∈ V から送信電力Ptx で送信された信号が、受信機3の位置v2 ∈ V /{v1} に到達したときの信号の受信電力を式(11)に示すPv1;v2 (t) とする。
【0033】
Pv1;v2 (t) = P(1)v1;v2 (dist(v1, v2))P(2)v1;v2 (t)w(t)・・・・・・・・・(11)
【0034】
送信機2と受信機3との距離に基づく距離減衰が以下の式(12)によって表され、マルチパス等に基づくフェージングがwとされ、シャドウイングによる減衰成分が式(13)によって表される。
【0035】
P(1)v1;v2 (dv1;v2 ) =βPtx/dist_(v1, v2) ・・・・・・・・・(12)
P(2)v1;v2 (t) = exp(-hv1;v2 (t)) ・・・・・・・・・(13)
ここで、送信機2、受信機3の位置であるノード全体の集合Vとし、ノードv1, v2 ∈ V に対し,ノード間のユークリッド距離をdist(v1, v2) としている。距離減衰は,ノード間の距離のみに依存すると仮定する。シャドウイングおよびマルチパスフェージングは、共に時間依存するが、シャドウイングによる時間変動は、実際にはマルチパスフェージングの時間変動より大きくて緩やかである場合を考える。
【0036】
Pv1;v2 の対数をとると、
log Pv1;v2 = log β + log Ptx - α log dist(v1, v2) -hv1;v2 - wdB・・・・(14)
ただし,wdB= -log w である。
【0037】
座標をr = (x, y, z) とし、g(r) を、ある時刻t において信号がr 上でうけるシャドウイングによる減衰係数とする。このときhv1;v2 は、g(r) のpath(v1, v2) 上での線積分を用いて式(15)で与えられる。
【0038】
【数6】
・・・・・・・・(15)
【0039】
小領域Vnx;ny;nz において,g(r) (r ∈ Vnx;ny;nz ) は、Vnx;ny;nz内の座標に依存しない一定値g(nx, ny, nz) をとるものと仮定する。このとき、(15)式は、以下の(16)式のように表される。
【0040】
hv1;v2 =Σnx;ny;nz d(Vnx;ny;nz , path(v1, v2))g(nx, ny, nz)・・・・・・(16)
【0041】
式(14)より、時刻ntにおけるノードv1〜v2間の信号の減衰量は以下の式(17)で表される。
【0042】
【数7】
・・・・・・・・・・・・・・・・・・(17)
【0043】
yが受信機3により観測される、シャドウイングによる信号減衰量のデータの集合であり、全部でM個の受信機3により観測される。また、Xは、伝搬路を示している。
【0044】
【数8】
X={g(nx,ny,nz)}
【0045】
これらの各データは、理論的には、上述した(17)式に基づいて計算されるデータが並べられている。また、求めようとする行列Xは、3次のテンソルで表されるものとする。
【0046】
この圧縮センシングにおける基本的な問題設定は、未知ベクトルを線形観測に基づいて推定するものである。上述したyとXとは、互いに線形関係にあり、y=A(X)+wで表されるものとする。このwは、上述したフェージングに基づく減衰であり、Aは、線形写像を表すテンソルであり、いわば観測行列であり、この無線トモグラフィでは、信号の経路を示している。
【0047】
無線トモグラフィの問題では、このようなy=A(X)+wにおいて、測定したシャドウイングによる減衰量yから、全小領域での減衰量Xを推定するものである。以下の例では、wをノイズとして取り扱うことで、y=A(X)であるものと仮定する。
【0048】
本発明では、従来のように、周波数領域に変換してベクトルがスパースになるように最適化するものではなく、ベクトル化しないいわゆるテンソル(行列)の状態で圧縮センシグを行う、テンソル再構成を行う。
【0049】
図2は、本発明を適用したデータ解析方法のフローチャートを示している。
【0050】
先ずステップS11において、y=(y、y、・・・・・・・、y)を送信機2、受信機3を介して測定する。このy(m=1、2、3、・・・・・・・、M)はm番目の送信機2、受信機3の対で得られた受信信号の減衰量を示している。つまり、送信機2と受信機3の対がM個あれば、M個分のyが得られることとなる。受信機3は、取得した受信信号の減衰量を、推定装置1へ送信する。
【0051】
次にステップS12へ移行し、推定装置1は、以下の式(18)に基づいて推定値
【数9】
(以下“Xm”という場合がある。)を求める。
【0052】
【数10】
・・・・・・・・・・・・(18)
【0053】
なお、式(18)の代替として、以下に示す式(19)に基づいてXmを求めるようにしてもよい。
【0054】
【数11】
・・・・・・・・・・・・(19)
【0055】
λは正の値を有する定数である。但し、//X//は、D次テンソル特異値の和を表し,行列(D=2)の場合は、以下の(20)式で表される。ここでσは、そのXにおける特異値である。
【0056】
【数12】
・・・・・・・・・・・・(20)
【0057】
高次テンソル (D>2)の場合、例えば以下のように設定する。
【0058】
【数13】
・・・・・・・・・・・・(21)
【0059】
但し、X[n]は、Xを行列化したときの一つの行列を表す。(21)式よりn=1〜Dに至るまでD種類ある。また//X//は、//X[n]//の特異値の和を表す。即ち、(21)式に基づいてD種類のX[n]の各特異値の総和が求められる。XをN×N×Nの3次テンソルとした場合、図4に示すように3次元データを2次元データに分割する。X[n]は各2次元データに相当する。即ち、式(18),(19)から得られる解は、テンソルXの特異値の和が最小となるような解である。これはXのランクが最小となることと等価である.ちなみにXがそもそも低ランクテンソルである場合には、正しい解が求まる。また、このような最適化問題を解くためのアルゴリズムは、例えば(S. Gandy, B. Recht, and I. Yamada, “Tensor Completion and Low-n-rank Tensor Recovery via Convex Optimization,”Inverse Problems, vol. 27, no. 2, Feb. 2011, doi:10.1088/0266-5611/27/2/025010.)等に開示されている。
【0060】
ちなみに、このステップS12において、推定装置1は、あくまでy=A(X)を満たしつつ、(18)、(19)に基づいてXmを探索していく。ステップS11の計測は1回のみ行うものとしたとき、得られたy=(y、y、・・・・・・・、y)は固定し、線形写像を表すテンソルAは、既知のものとして予め入力されているものとしたとき、y=A(X)において唯一操作できる変数(行列)はXである。y=A(X)を満たすXについて当初は初期値を適当に代入し、(18)式に基づいて探索を行う場合には、//X//がより小さくなるように、Xを修正する。(19)式に基づいて探索を行う場合には、{ }の中の数式の値がより小さくなるように、Xを修正する。この修正するXについても同様にy=A(X)を満たすようにすることは勿論である。
【0061】
次に(18)、(19)に基づいて、最小のXmを特定する動作を行う。その結果、図3に示すように横軸をX、縦軸を(18)式に基づいて探索を行う場合には、y=A(X)の拘束条件の下での//X//、(19)式に基づいて探索を行う場合には{ }の中の数式の値としたとき、Xが修正される都度、図中にプロットが増加していく。これらを繰り返し実行していくことで、縦軸が最小となるときのXmを探索する。
【0062】
次にステップS13に移行し、このようにして求められたXmに基づいて、送信機2、受信機3を介して測定したy=(y、y、・・・・・・・、y)からの情報を再現する。上述したようにy=A(X)は、取得した上記複数の無線信号の各シャドウイングによる減衰量を上記観測データyとして取得し、推定したXmに基づいて各無線信号の伝搬経路を推定し、推定した伝搬経路に基づいて測定対象物に関する形状情報を再現する。再現する形状情報としては、測定対象物の2次元画像、3次元画像のみならず、時系列的要素をも取り入れた4次元情報を再現するようにしてもよい。
【0063】
本発明を適用したデータ解析装置では、上述したように特異値の和が最小となるようなXmを選択することで、特異値を要素とするベクトルがスパースなXmを探索することが可能となる。その結果、ある行(列)は、他の行(列)との線形和で表現でき、行(列)間の相関を強くすることができる。つまり、似ている行(列)が存在しており、線形独立な行(列)が少ない場合、大部分の特異値が0となる。特異値の和(核ノルム)を最小とするXを探索することで、このような空間相関の最も強い行列Xmを探索することができる。そして、この空間相関の最も強い行列Xmからデータを再現することで、より空間分解能の高いデータ情報を取得することが可能となる。
【0064】
また、空間相関が強いということはテンソルのランクがより低いことを意味している。このため、本発明を適用したデータ解析装置で求められたXmはランクが最小となっている。従って、特異値の和が最小となるようなXmを探索する代替として、ランクが最小となるXを探索するようにしてもよい。かかる場合には、線形制約y=A(X)を満たす行列Xのランクを求める。次に、このXのランクがより低くなるように修正し、さらにそのランクを求める。これらの操作を繰り返し実行していくことで最終的に最小のランクとなるXをXmとして特定する。
【0065】
本発明を適用したデータ解析装置では、D次元のデータを、相関特性を考慮して直接スパース近似することができ、従来技術のように周波数領域に変換することなく実現できることから、得られる行列Xmに基づくデータの空間分解能を向上させることが可能となる。
【0066】
また、テンソル再構成を行うことにより、すべての次元(2次元から4次元)に対する相関が利用できることから、従来技術と比較して少ない観測データ数で推定ができ、高効率となる。
【0067】
なお、本発明によれば、線形観測で得られた3次元データの推定方法においても適用可能である。
【0068】
また本発明は、上述した無線トモグラフィに適用される場合以外に、他のいかなるデータ解析にも適用することが可能となる。その適用可能なデータ解析の例としては、線形制約y=A(X)を満たし、得られるデータXについて相関性の高いもの(例えば、自然画像等)であれば、いかなるデータ解析に適用するようにしてもよい。
【実施例1】
【0069】
以下、本発明の効果を確認する上で行った実験について説明をする。
【0070】
このシミュレーションでは、平面視で図5(a)に示すようなx−y座標で示される矩形状の測定対象物を実際に無線トモグラフィにより測定する。図5(b)は、本発明によるテンソル再構成を利用した圧縮センシングを用いて各無線信号の伝搬経路を推定し、これに基づいて測定対象物の形状推定を行ったものである。図5(c)は、従来の周波数領域に落とす際に高周波成分についてスパース近似する例である。
【0071】
これらの結果から、本発明によれば、従来例と比較して、測定対象物の形状を明確に再現することができ、より空間分解能を向上させることができることが示されている。
【産業上の利用可能性】
【0072】
テンソル再構成を利用した圧縮センシングを行うことができ、逐次的な処理を行うことができることから、例えば電波を利用した内部構造推定を行う場合には、測定用の受信機3を配置した検査用車両をトンネル内で走行させる。これにより、トンネル壁面内部のクラックの画像についても上述した方法に基づいて推定することが可能となる。
【符号の説明】
【0073】
1 推定装置
2 送信機
3 受信機
10 データ解析装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6