特許第6396041号(P6396041)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6396041
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】車両及び故障検知方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/00 20060101AFI20180913BHJP
   B60H 1/22 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   H05B3/00 320Z
   B60H1/22 611
   B60H1/22 671
   H05B3/00 310A
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-47758(P2014-47758)
(22)【出願日】2014年3月11日
(65)【公開番号】特開2015-173019(P2015-173019A)
(43)【公開日】2015年10月1日
【審査請求日】2017年3月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】516299338
【氏名又は名称】三菱重工サーマルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(72)【発明者】
【氏名】永坂 圭史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 秀隆
(72)【発明者】
【氏名】大崎 智康
【審査官】 根本 徳子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−034141(JP,A)
【文献】 特許第5235847(JP,B2)
【文献】 特開平04−158272(JP,A)
【文献】 特開2012−075262(JP,A)
【文献】 特許第5434388(JP,B2)
【文献】 特開2009−290978(JP,A)
【文献】 特開2008−220058(JP,A)
【文献】 特許第4570859(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/00
B60H 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度に応じて抵抗値が変化する素子に対応して設けられるとともに、前記素子の通電を制御するための第1スイッチング素子のオン故障を検知するためのオン故障検知装置を備えるPTCヒータを含む補機類と、
前記補機類の電源として用いられる蓄電装置と、
前記蓄電装置と前記補機類とを接続する電力線に設けられた第3スイッチング素子と、
車両の制御装置と
を備え、
前記オン故障検知装置は、前記第1スイッチング素子にオフ指令が出力され、前記素子に電力が供給可能な状態において、前記素子の両端電圧に関するパラメータが所定の閾値以上である場合に、前記第1スイッチング素子のオン故障を検知する検知手段を具備し、
前記車両の制御装置は、
車内で異常が検知されて前記第3スイッチング素子が開状態とされた場合に、前記第3スイッチング素子を開状態としたまま、前記蓄電装置の過電流異常であるか否かを判定し、
過電流異常でないと判定した場合に、前記第3スイッチング素子を閉状態として、前記補機類の過電流異常であるか否かを判定し、
前記補機類の過電流異常でないと判定した場合に、前記補機類を構成する各機器の故障検知を実施させる車両。
【請求項2】
前記素子に電力を供給する電源ラインに設けられた第2スイッチング素子を備え、
前記検知手段によりオン故障が検知された場合に、前記第2スイッチング素子をオフ状態とする請求項1に記載の車両
【請求項3】
前記検知手段は、前記第1スイッチング素子のオン故障が検知されなかった場合に、前記第2スイッチング素子に対してオフ指令を出力させるとともに、前記第1スイッチング素子に対してオン指令を出力させ、この状態において、前記素子の両端電圧に関するパラメータが所定の閾値以上である場合に、前記第2スイッチング素子のオン故障を検知する請求項2に記載の車両
【請求項4】
前記検知手段は、
前記素子の高電圧側に接続された第1分圧手段と、
前記素子の低電圧側に接続された第2分圧手段と、
前記第1分圧手段の出力端子と前記第2分圧手段の出力端子とを接続するラインに順方向に接続されたフォトカプラと
を備え、
前記フォトカプラの出力に基づいてオン故障を検知する請求項1から請求項3のいずれかに記載の車両
【請求項5】
前記補機類の故障検知の際には、通常運転時に供給される電圧よりも低い電圧が前記蓄電装置から供給される請求項1から4のいずれかに記載の車両。
【請求項6】
前記補機類の故障検知の際に用いられる各前記機器の故障判定閾値は、前記車両の制御装置による前記補機類の過電流異常で用いられる判定閾値よりも小さい値に設定されている請求項1から5のいずれかに記載の車両。
【請求項7】
前記オン故障検知装置が前記車両の制御装置に設けられている請求項1から6のいずれかに記載の車両。
【請求項8】
温度に応じて抵抗値が変化する素子に対応して設けられるとともに、前記素子の通電を制御するための第1スイッチング素子のオン故障を検知するためのオン故障検知装置を備えるPTCヒータを含む補機類と、前記補機類の電源として用いられる蓄電装置と、前記蓄電装置と前記補機類とを接続する電力線に設けられた第3スイッチング素子と、車両の制御装置とを備えた車両の故障検知方法であって、
前記第1スイッチング素子にオフ指令が出力され、前記素子に電力が供給可能な状態において、前記素子の両端電圧に関するパラメータが所定の閾値以上である場合に、前記第1スイッチング素子のオン故障を検知する検知工程と、
車内で異常が検知されて前記第3スイッチング素子が開状態とされた場合に、前記第3スイッチング素子を開状態としたまま、前記蓄電装置の過電流異常であるか否かを判定し、過電流異常でないと判定した場合に、前記第3スイッチング素子を閉状態として、前記補機類の過電流異常であるか否かを判定し、前記補機類の過電流異常でないと判定した場合に、前記補機類を構成する各機器の故障検知を実施させる判定工程と、
を含む故障検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、PTC素子等の温度に応じて抵抗が変化する素子の導通制御を行うスイッチング素子のオン故障を検知するオン故障検知装置及びその方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、電気自動車やハイブリッド車等に適用される車両用空調装置では、暖房用の熱源の一つとして、正特性サーミスタ素子(Positive Temperature Coefficient;以下、「PTC素子」という。)を発熱要素とするPTCヒータが知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
PTC素子の通電制御は、IGBT(Insulted Gate Bipolar Transistor)等のスイッチング素子をオンオフすることで行われるが、このスイッチング素子が故障した場合はPTCヒータに電流が流れ続けることになる。したがって、スイッチング素子のオン故障の検出を行う必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−277351号公報
【特許文献2】特開2013−159135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、PTCヒータの通電制御回路には、PTCヒータに流れる電流を検出するための電流センサ(例えば、シャント抵抗、CT(Current Transformer)等)が設けられている。しかしながら、PTC素子の特性は、図7に示すように、温度に対して抵抗値が大きく変化するため、温度が高い場合には流れる電流が小さくなり、電流センサの誤差やオフセット調整シロに埋もれてしまい、検出することができないという問題がある。また、シャント抵抗の抵抗値を大きくすれば、検出は可能となるが、発熱の関係からシャント抵抗の抵抗値には制限がある。
また、スイッチング素子のオン故障時に流れる電流は、通常流れる電流と等しいため、オン故障時における電流と通常時の電流とを切り分けることができず、ヒューズで保護することもできない。
また、上記の問題は、PTC素子に限らず、温度に応じて抵抗値が変化する素子において共通に発ずる問題である。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、温度に応じて抵抗値が変化する素子の導通制御を行うスイッチング素子のオン故障を検知することのできるオン故障検知装置及びその方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1態様は、温度に応じて抵抗値が変化する素子に対応して設けられるとともに、前記素子の通電を制御するための第1スイッチング素子のオン故障を検知するためのオン故障検知装置を備えるPTCヒータを含む補機類と、前記補機類の電源として用いられる蓄電装置と、前記蓄電装置と前記補機類とを接続する電力線に設けられた第3スイッチング素子と、車両の制御装置とを備え、前記オン故障検知装置は、前記第1スイッチング素子にオフ指令が出力され、前記素子に電力が供給可能な状態において、前記素子の両端電圧に関するパラメータが所定の閾値以上である場合に、前記第1スイッチング素子のオン故障を検知する検知手段を具備し、前記車両の制御装置は、車内で異常が検知されて前記第3スイッチング素子が開状態とされた場合に、前記第3スイッチング素子を開状態としたまま、前記蓄電装置の過電流異常であるか否かを判定し、過電流異常でないと判定した場合に、前記第3スイッチング素子を閉状態として、前記補機類の過電流異常であるか否かを判定し、前記補機類の過電流異常でないと判定した場合に、前記補機類を構成する各機器の故障検知を実施させる車両である。
【0007】
本態様によれば、前記第1スイッチング素子にオフ指令が出力され、前記素子に電力が供給可能な状態にある場合、第1スイッチング素子がオン故障していなければ、素子の両端電圧はゼロとなる。一方、第1スイッチング素子がオン故障している場合には、オフ指令が出されていたとしてもオン状態が維持されることにより、素子の両端電圧には電圧が検出されることとなる。したがって、素子の両端電圧に関するパラメータに基づいてオン故障を検知することができる。
また、上記素子は温度に応じて抵抗値が変化する特性を有するが、素子の両端電圧は、温度に依存せずに一定の値(印加電圧と同一かほぼ同じ値)をとる。したがって、素子の両端電圧に関するパラメータを用いることにより、素子に流れる電流が小さく、従来のシャント抵抗では検出できない場合であっても、素子に電流が流れているのか否かを容易に検知することができる。
【0008】
上記オン故障検知装置において、前記素子に電力を供給する電源ラインに設けられた第2スイッチング素子を備え、前記検知手段によりオン故障が検知された場合に、前記第2スイッチング素子をオフ状態とすることとしてもよい。
【0009】
これにより、第1スイッチング素子のオン故障が検知された場合には、素子への電力供給を遮断することが可能となる。
【0010】
上記オン故障検知装置において、前記検知手段は、前記第1スイッチング素子のオン故障が検知されなかった場合に、前記第2スイッチング素子に対してオフ指令を出力させるとともに、前記第1スイッチング素子に対してオン指令を出力させ、この状態において、前記素子の両端電圧に関するパラメータが所定の閾値以上である場合に、前記第2スイッチング素子のオン故障を検知することとしてもよい。
【0011】
このように、第2スイッチング素子が設けられている場合には、第1スイッチング素子のオン故障だけでなく、第2スイッチング素子のオン故障も検知することで、安全性を向上させることができる。
【0012】
上記オン故障検知装置において、前記検知手段は、前記素子の高電圧側に接続された第1分圧手段と、前記素子の低電圧側に接続された第2分圧手段と、前記第1分圧手段の出力端子と前記第2分圧手段の出力端子とを接続するラインに順方向に接続されたフォトカプラとを備え、前記フォトカプラの出力に基づいてオン故障を検知することとしてもよい。
【0013】
このような構成によれば、検知手段を簡素かつ廉価な構成とすることが可能となる。
【0015】
上記車両において、前記補機類の故障検知の際には、通常運転時に供給される電圧よりも低い電圧が前記蓄電装置から供給されることとしてもよい。
このように、故障検知の際には、通常運転時よりも小さな電圧を印加することにより、素子の損傷や感電のおそれを低下させることが可能となる。
【0016】
上記車両において、前記補機類の故障検知の際に用いられる各前記機器の故障判定閾値は、前記車両の制御装置による前記補機類の過電流異常で用いられる判定閾値よりも小さい値に設定されていてもよい。
これにより、車両の制御装置によって補機類の過電流異常が検知される前に、各機器の故障判定を終了させることが可能となる。これにより、正常な機器については、継続して電力を供給させることが可能となる。
【0017】
上記車両において、前記オン故障検知装置が前記車両の制御装置に設けられていてもよい。これにより、装置の簡素化を図ることが可能となる。
【0018】
本発明の第態様は、温度に応じて抵抗値が変化する素子に対応して設けられるとともに、前記素子の通電を制御するための第1スイッチング素子のオン故障を検知するためのオン故障検知装置を備えるPTCヒータを含む補機類と、前記補機類の電源として用いられる蓄電装置と、前記蓄電装置と前記補機類とを接続する電力線に設けられた第3スイッチング素子と、車両の制御装置とを備えた車両の故障検知方法であって、前記第1スイッチング素子にオフ指令が出力され、前記素子に電力が供給可能な状態において、前記素子の両端電圧に関するパラメータが所定の閾値以上である場合に、前記第1スイッチング素子のオン故障を検知する検知工程と、車内で異常が検知されて前記第3スイッチング素子が開状態とされた場合に、前記第3スイッチング素子を開状態としたまま、前記蓄電装置の過電流異常であるか否かを判定し、過電流異常でないと判定した場合に、前記第3スイッチング素子を閉状態として、前記補機類の過電流異常であるか否かを判定し、前記補機類の過電流異常でないと判定した場合に、前記補機類を構成する各機器の故障検知を実施させる判定工程と、を含む故障検知方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、温度に応じて抵抗値が変化する素子の導通制御を行うスイッチング素子のオン故障を検知することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1実施形態に係るPTCヒータの概略構成図である。
図2】本発明の第1実施形態に係るオン故障検知装置の概略構成を示した図である。
図3】本発明の第2実施形態に係るオン故障検知装置の概略構成を示した図である。
図4】本発明の第3実施形態に係るオン故障検知装置の概略構成を示した図である。
図5】本発明の一実施形態に係る車両の高圧系統の構成を概略的に示した図である。
図6】機器の故障検知に用いる閾値について説明するための図である。
図7】PTC素子の温度−抵抗特性の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
〔第1実施形態〕
以下に、本発明のオン故障検知装置及びその方法をPTCヒータに適用した場合の一実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明では、温度に応じて抵抗値が変化する素子としてPTC素子を例に挙げて説明するが、本発明はこの例に限定されない。
【0022】
図1は、本発明の第1実施形態に係るPTCヒータの概略構成図である。
図1に示すように、PTCヒータ1は、温度に応じて抵抗値が変化するPTC素子2a、2bと、PTC素子2aの通電制御を行うIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:第1スイッチング素子)3aと、PTC素子2bの通電制御を行うIGBT(第1スイッチング素子)3bと、IGBT3a、3bを制御するための制御信号Sa、Sbを生成して駆動回路4に与える制御装置5と、制御信号Sa、Sbに基づいてIGBT3a、3bを駆動する駆動回路4と、PTC素子2a、2bに流れる電流を検知する電流計測部6と、PTC素子2a、2bの短絡を検知する素子短絡検知部7と、IGBT3bのオン故障を検知するオン故障検知装置10とを主な構成として備えている。
【0023】
ここで、図1では、PTC素子が2つ設けられた場合を例示しているが、PTC素子の設置数は限定されない。また、以下の説明では、便宜上、IGBT3bのオン故障を検知する場合について例示するが、同様の方法により、IGBT3aのオン故障を検知することが可能である。
【0024】
駆動回路4は、IGBT3a、3bのゲート(導通制御端子)に、制御信号Sa、Sbに基づく電圧信号をそれぞれ印加することで、IGBT3a、3bを駆動する。ここで、IGBTに代えて、FET(Field−Effect Transistor)、MOSFET(Metal−Oxide−Semiconductor FET)等の他のパワーデバイスを用いることも可能である。
【0025】
制御装置5は、例えば、マイクロコンピュータであり、補助記憶装置に記録されたプログラムをCPUが主記憶装置に読みだして実行することにより、各種機能(例えば、PTC素子のオンオフ制御や短絡保護機能)を実現する。例えば、通常のPTC素子2a、2bのオンオフ制御については、公知技術を採用することが可能である。
【0026】
電流計測部6は、シャント抵抗14と、シャント抵抗14の両端電圧を増幅して出力するオペアンプ15とを備えている。オペアンプ15の出力は、制御装置5に入力される。
素子短絡検知部7は、PTC素子2a、2bに流れる電流をシャント抵抗14を用いて検出し、検出した電圧が所定の電圧以上であった場合にPTC素子2a、2bの短絡を検知し、短絡検知信号を制御装置5に出力する。制御装置5は、素子短絡検知部7から短絡検知信号が入力されると、駆動回路4に対してPTC素子2a、2bをオフ状態とするための負荷遮断信号を出力する。また、素子短絡検知部7は、短絡が検知された場合における制御装置5の応答遅延を解消するために、ハードウェア的にIGBT3a、3bのゲート電圧をオフとする構成を備えている。このように、PTC素子自体の短絡の場合には、通常時よりも大きな電流が流れることから、シャント抵抗14によって短絡を検出することができる。
【0027】
オン故障検知装置10は、PTC素子2a、2bに電力を供給する電源ラインLに設けられた電源供給用のIGBT(第2スイッチング素子)11と、検知部12とを備えている。IGBT11のオンオフは、例えば、後述する検知部12が備えるマイクロコンピュータにより制御されてもよいし、PTCヒータ1が搭載されている装置の制御装置(上位制御装置)から与えられるオンオフ指令に基づいて制御されることとしてもよい。
【0028】
検知部12は、PTC素子2bの両端電圧に関するパラメータに基づいてIGBT3bのオン故障を検知する。例えば、検知部12は、図2に示すように、PTC素子2bの高圧側に接続された高圧側分圧器21と、PTC素子2bの低圧側に接続された低圧側分圧器22と、高圧側分圧器21の出力及び低圧側分圧器22の出力が入力されるマイクロコンピュータ(以下「マイコン」という。)23とを備えている。マイコン23は、入力情報からPTC素子2bの両端電圧に基づくパラメータ、ここでは、分圧後の両端電圧を演算し、当該電圧が所定の閾値以上である場合に、IGBT3bのオン故障を検知する。
【0029】
例えば、IGBT3bがオン状態である場合には、PTC素子2bに電流が流れ、電流とPTC素子2bの抵抗値とで決まる電圧降下が発生する。この電圧降下は、電源電圧に等しい値となる。このように、PTC素子2bの両端電圧は、PTC素子2bの抵抗値に依存せずに一定となるので、PTC素子2bの抵抗値が高く、電流が小さい場合であっても、PTC素子2bの導通状態、換言すると、IGBT3bがオン状態となっていることを容易に検知することが可能となる。
【0030】
ここで、IGBT3bが導通状態にある場合、マイコン23において演算される電圧(分圧後の両端電圧)は、電源電圧と、高圧側分圧器21の分圧比、及び低圧側分圧器22の分圧比で決定され、この値以上にはならない。また、IGBT3bがオフ状態であれば、PTC素子2bの両端電圧はゼロとなる。従って、マイコン23における所定の閾値は、ゼロよりも大きく、IGBT3bが導通状態の場合にマイコン23において演算される電圧値以下の値に設定すればよい。
【0031】
上記構成を備えるPTCヒータ1において、IGBT3bのオン故障検知及びIGBT11のオン故障検知は、以下の手順で行われる。
まず、IGBT3bはオン状態とし、IGBT3a、3bに与えるゲート電圧をオフ電圧(例えば、0V)とする。すなわち、駆動回路4からIGBT3a、3bのゲートにオフ電圧を与える。この状態において、マイコン23には、高圧側分圧器21の出力と、低圧側分圧器22の出力とが入力され、マイコン23において電位差(分圧後の両端電圧)が演算される。そして、分圧後の両端電圧が所定の閾値以上であれば、IGBT3bがオン故障であると判定し、所定の値未満であれば、正常であると判定する。
【0032】
オン故障であることが検知された場合には、例えば、マイコン23がIGBT11をオフ状態とすることで、PTC素子2a、2bに対する電力供給を遮断する。
【0033】
また、IGBT3bが正常であった場合には、IGBT11のオン故障について判定する。この場合、IGBT11をオフ状態とし、IGBT3bをオン状態としたときに、マイコン23で演算される分圧後の両端電圧が所定の閾値以上であれば、IGBT11がオン故障であると判断する。この場合は、IGBT3a、3bの制御装置5に対してオン故障検知信号を出力し、IGBT3a、3bをオフ状態とさせる。また、上位の電源からPTCヒータ1に電力が供給されている場合には、上位の電源とPTCヒータ1との電力線に設けられたスイッチ(図示略)をオフ状態とすることで、PTCヒータ1への電力供給を遮断することとしてもよい。
【0034】
以上説明したように、本実施形態に係るPTCヒータ1及びオン故障検知装置10によれば、PTC素子2bの両端電圧に基づくパラメータ(分圧後の両端電圧)に基づいてオン故障を判定するので、PTC素子2bの温度−抵抗特性(例えば、図7参照)に依存せずに、オン故障を検知することが可能となる。
【0035】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態に係るPTCヒータについて図3を参照して説明する。図3は、本実施形態に係るオン故障検知装置10´の概略構成を示した図である。図3に示すように、本実施形態に係るオン故障検知装置10´は、検知部12´として、PTC素子2bの高電圧側に接続された高圧側分圧器(第1分圧器)21と、PTC素子2bの低電圧側に接続された低圧側分圧器(第2分圧器)22と、高圧側分圧器21の出力端子と低圧側分圧器22の出力端子とを接続するラインL2に順方向に接続されたフォトカプラ25と、フォトカプラ25の出力に応じた信号が入力されるマイコン26とを備えている。
【0036】
このような構成によれば、IGBT3bがオン状態にあり、PTC素子2bに電流が流れている場合には、フォトカプラ25に電流が流れることにより、オン信号がマイコン26に出力される。他方、IGBT3bがオフ状態にある場合には、PTC素子2bに電流が流れないため、フォトカプラ25に電流が流れず、オフ信号がマイコン26に出力される。
マイコン26は、オン信号が入力された場合に、IGBT3bがオン状態であると判定する。例えば、検知部12´は、IGTB3bのゲートに対してオフ電圧が与えられている場合に、マイコン26にオン信号が入力された場合には、IGBT3bのオン故障であると判定する。
【0037】
上述した第1実施形態では、分圧後の電位差をマイコン23において演算することから、マイコン23において2つのA/D変換器(図示略)が必要とされるが、本実施形態では、A/D変換器を用いることなく、フォトカプラ25という簡素な素子によってオン故障の検知を行うことが可能となる。
【0038】
〔第3実施形態〕
次に、本発明の第3実施形態に係るPTCヒータについて図4を参照して説明する。図4は、本実施形態に係るPTCヒータの概略構成を示した図である。本実施形態に係るPTCヒータでは、オン故障検知装置の構成が上述した第1または第2実施形態と異なる。
具体的には、図4に示すように、本実施形態に係るオン故障検知装置30は、上述の検知部12、12´に代えて、シャント抵抗14の両端電圧を計測するオペアンプ31を備えている。ここで、オペアンプ31は、電流計測部6が備えるオペアンプ15よりもハイゲインとされる。このように、精度の高いオペアンプ31を用いてシャント抵抗14の両端電圧を検出することにより、従来は、PTC素子2bの抵抗値が高い場合において、誤差やオフセット調整シロとして埋もれていた電流値を検出することが可能となり、オン故障を検知することが可能となる。オペアンプ31により検出された電圧は、制御装置5に入力される。制御装置5は、IGBT3a、3bに対してオフ指令を出力しているにも関わらず、オペアンプ31によって電圧が検出された場合には、IGBT3a、3bのオン故障であると判断する。
【0039】
次に、上述のPTCヒータを備える車両の一実施形態について図5を参照して説明する。図5は、本発明の一実施形態に係る電気自動車の高圧系統について概略的に示した図である。図5に示すように、電気自動車40は、例えば、上述した第1実施形態に係るPTCヒータ1を含む補機類41と、補機類41の電源として用いられるとともに、走行用モータ42の電源として用いられる蓄電装置43と、蓄電装置43と補機類41とを接続する電力線に設けられたコンタクタ(第3スイッチング素子)44と、車両の制御装置(以下、単に「制御装置」という。)45とを備えている。コンタクタ44は、正極側コンタクタ44aと、負極側コンタクタ44bとを有している。
また、電気自動車40の高圧系統には、過電流が流れた場合の保護手段として、複数のヒューズ46が設けられている。
【0040】
次に、上述した構成を備える電気自動車40において、車内に設けられている種々のセンサ(不図示)によって異常が検知された場合の異常検知手順について説明する。
まず、車内に設けられているセンサによって異常(例えば、電流異常、温度異常、圧力異常等)が検知された場合、安全面からコンタクタ44が開状態とされる。これは、例えば、制御装置23からの指令に基づいて行われてもよいし、保護装置(不図示)が独立して設けられている場合には保護装置からの指令に基づいて行われてもよい。
【0041】
次に、制御装置45は、コンタクタ44の開状態を維持したまま、蓄電装置43の過電流異常であるか否かを判定する。この結果、過電流異常である場合には、コンタクタ44の開状態が維持される。一方、過電流異常でない場合には、コンタクタ44を閉状態とし、補機類41の過電流異常か否かを判定する。この結果、補機類41の過電流異常であると判定された場合には、コンタクタ44が再度開状態とされ、この状態が維持される。一方、補機類41の過電流異常でないと判定された場合には、補機類41の各機器における故障判定が実施される。
【0042】
これにより、例えば、PTCヒータ1においては、上述したように、オン故障検知装置10によるオン故障の検知が行われ、その結果が制御装置45に通知される。また、他の機器についても同様にそれぞれの故障診断が行われ、その結果が制御装置45に通知される。なお、この故障診断の場合には、蓄電装置44から各機器に供給される電圧を下げることとしてもよい。例えば、通常運転時においては、300V程度の電圧が印加されていたとすると、この1/5程度、例えば、60Vの電圧としてもよい。このように、電圧を下げることにより、素子破壊や感電の可能性を低下させることが可能となる。
【0043】
そして、例えば、PTCヒータ1においてオン故障が検知された場合には、制御装置45からIGBT11(図1参照)をオフ状態とする指令が出力され、IGBT11のオフ状態が維持される。これにより、PTCヒータ1と蓄電装置43との接続が遮断される。また、このようにして、PTCヒータ1におけるIGBT11を開状態とすることで、故障が検知された機器(例えば、PTCヒータ1)のみを蓄電装置43と切り離すことができ、他の正常である機器に対しては蓄電装置43からの電力供給を継続して行うことが可能となる。
【0044】
本実施形態においては、制御装置45と、PTCヒータ1のオン故障検知装置10とを個別に設けたが、これに代えて、オン故障検知装置10の機能を制御装置45に搭載することとしてもよい。これにより、PTCヒータ1の構成の簡素化を図ることができる。
【0045】
また、上記実施形態において、例えば、補機類41の過電流異常を判定した場合に、いずれかの機器において過電流異常が検出された場合には、コンタクタ44がオフ状態とされてしまい、正常な機器への電力供給も遮断されてしまう。この状態を回避するために、例えば、図6に示すように、制御装置45におけるシステムレベルでの過電流異常の閾値よりも小さい値に、各機器(例えば、PTCヒータ1)におけるオン故障の閾値を小さく設定することとしてもよい。このように、オン故障の閾値を、システムレベルでの過電流異常の閾値よりも小さい値に設定することで、補機類41の過電流異常が検出される前に、PTCヒータ1等のオン故障の検知を終了させることが可能となる。これにより、正常であると判定された機器に対しては、継続して電力供給を行うことが可能となる。
【0046】
また、本実施形態においては、第1実施形態に係るPTCヒータ1を電気自動車40に搭載する場合について例示したが、これに代えて、第2または第3実施形態に係るPTCヒータを搭載することとしてもよい。
また、制御装置45は、高圧系統側に設けられることが好ましく、また、制御装置45の電源は低圧側(例えば、12V系)から供給することが好ましい。これにより、高電圧系の入力電圧が低くても電圧・電流を安価に測定することが可能となる。
また、本実施形態では、電気自動車を例に挙げて説明したが、電気自動車に限定されず、他の車両、例えば、ハイブリッド車両、高圧バッテリを搭載しない純エンジン車両でもよい。
【0047】
本発明は、上述の実施形態のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において、例えば、上述した各実施形態を部分的または全体的に組み合わせる等して、種々変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 PTCヒータ
2a、2b PTC素子
3a、3b、11 IGBT
4 駆動回路
5 制御装置
10、10´、30 オン故障検知装置
12、12´ 検知部
14 シャント抵抗
21 高圧側分圧器
22 低圧側分圧器
23、26 マイコン
25 フォトカプラ
31 オペアンプ
40 電気自動車
41 補機類
43 蓄電装置
44 コンタクタ
45 制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7