特許第6396043号(P6396043)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6396043シロキサン除去剤及びそれを用いたフィルター
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  • 特許6396043-シロキサン除去剤及びそれを用いたフィルター 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6396043
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】シロキサン除去剤及びそれを用いたフィルター
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/26 20060101AFI20180913BHJP
   B01D 53/02 20060101ALI20180913BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20180913BHJP
   G01N 1/22 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   B01J20/26 A
   B01D53/02
   B01J20/28 Z
   G01N1/22 J
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-50296(P2014-50296)
(22)【出願日】2014年3月13日
(65)【公開番号】特開2015-174006(P2015-174006A)
(43)【公開日】2015年10月5日
【審査請求日】2016年12月7日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(72)【発明者】
【氏名】中島 崇
(72)【発明者】
【氏名】大西 久男
(72)【発明者】
【氏名】野中 篤
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 淳
(72)【発明者】
【氏名】荘所 大策
(72)【発明者】
【氏名】北島 さつき
(72)【発明者】
【氏名】大仲 淳子
【審査官】 高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−241037(JP,A)
【文献】 特開2005−118661(JP,A)
【文献】 特開2014−28943(JP,A)
【文献】 特開2011−212565(JP,A)
【文献】 特表2013−538880(JP,A)
【文献】 特開2010−254743(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/117094(WO,A1)
【文献】 三菱ケミカルのイオン交換樹脂・分離精製用樹脂,URL,http://www.diaion.com/products/synthesis_0201.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00 − 20/34
B01D 53/02 − 53/12
G01N 1/00 − 1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シロキサン類を除去するための架橋構造を有する除去剤であって、1つのビニル基を有する単官能性芳香族ビニル系単量体と、複数のビニル基を有する多官能性芳香族ビニル系単量体との多孔質共重合体で構成され、比表面積500〜1500m/g、細孔容積1〜2.5ml/g、細孔の最頻度半径3〜35nmを有しており、かつ水分含量が5重量%以下である、シロキサン除去剤であって、
前記多孔質共重合体が、C1−6アルキルスチレン−ジビニルベンゼン共重合体含み、かつイオン交換基を有していない、シロキサン除去剤
【請求項2】
多孔質共重合体が、1−4アルキルスチレン−ジビニルベンゼン共重合体であり、かつ比表面積1000〜1500m/g、細孔容積1.5〜2.5ml/g、細孔の最頻度半径6〜12nmを有する請求項1記載の除去剤。
【請求項3】
多孔質共重合体が、エチルスチレン−ジビニルベンゼン共重合体であり、水分含量が2.5重量%以下である請求項1又は2記載の除去剤。
【請求項4】
シロキサン類を含む被処理流体を、請求項1〜のいずれかに記載の除去剤と接触させ、シロキサン類を除去する方法。
【請求項5】
ガスセンサーの上流側に配設されるフィルターであって、請求項1〜のいずれかに記載の除去剤を含むフィルター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シロキサンを効率よく除去するのに有効なシロキサン除去剤(又は吸着剤)及びガスセンサーなどのフィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
住環境を含め、環境中には、微量のシロキサン類(環状シロキサン類)が含まれており、種々の弊害をもたらす。例えば、シロキサン類は燃焼して微粒子状の酸化ケイ素を生成し、ガスタービンやガスエンジンに付着して発電障害をもたらす。
【0003】
特開2013−103153号公報(特許文献1)、特開2013−103154号公報(特許文献2)には、スルホン酸基修飾金属酸化物ゾルを多孔質材料に添着し、シロキサン類を吸着させることが記載されている。
【0004】
特許第3776904号公報(特許文献3)には、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体からなる樹脂吸着剤を充填した複数の吸着塔を設け、少なくとも一つの吸着塔に水分を含む被処理ガスを流通してシロキサンを吸着除去し、同時に他の少なくとも一つの吸着塔に室温以上150℃以下の再生用ガスを通気してシロキサンの脱離により樹脂吸着剤を再生して、被処理ガスと再生用ガスの通気を切替えて前記吸着処理と前記再生処理を交換してシロキサンを連続除去するシロキサン除去方法が開示されている。この文献には、スチレン・ジビニルベンゼン共重合体系合成吸着剤として、「ダイヤイオンHP20」、「HP21」、「セパビーズSP850」(三菱化学(株)製)などが例示され、実施例では「セパビーズSP850」が使用されている。
【0005】
特開2012−241037号公報(特許文献4)には、単官能性芳香族ビニル系単量体と、多官能性芳香族ビニル系単量体との共重合体の凝集体を、シロキサン類を吸着して除去する除去剤として用いることが記載されている。この文献の比較例には、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体(「セパビーズSP850」「セパビーズSP825L」「セパビーズSP700」,三菱化学(株)製)が使用されている。
【0006】
しかし、特許文献4に、前記スチレン−ジビニルベンゼン共重合体はシロキサン類に対する吸着能が小さいことが記載されているように、これらのスチレン−ジビニルベンゼン共重合体を用いても、シロキサン類を有効に除去できない場合がある。そのため、ガスセンサーの表面が、シロキサン類によるシリカ皮膜で覆われ、センサーがガスに対して鋭敏化し、誤警報を発する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013−103153号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2013−103154号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特許第3776904号公報(特許請求の範囲、[0026]、実施例)
【特許文献4】特開2012−241037号公報(特許請求の範囲、実施例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、シロキサン類を効率よく除去するのに有用なシロキサン除去剤(又は吸着剤)、並びにシロキサン類を除去するのに有用なフィルター(若しくはこのフィルターを備えたガスセンサー)を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、シロキサン類を選択的に長期間に亘り除去可能なシロキサン除去剤(又は吸着剤)、並びにシロキサン類を除去するのに有用なフィルター(若しくはこのフィルターを備えたガスセンサー)を提供することにある。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、ガスセンサーにおいて、被検知成分に対する検知応答性を低下させることなく、被毒成分であるシロキサン類の通過又は透過を長期間に亘り抑制できる共重合体又はシロキサン除去剤(又は吸着剤)、並びにフィルターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、水分含有量が、シロキサン類に対する架橋構造を有する多孔質共重合体の吸着能に著しく影響すること、水分含有量の小さな乾燥状態では、多孔質共重合体によりシロキサン類を効率よく吸着して除去できることを見いだし、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、シロキサン類を除去するための本発明の除去剤は、架橋構造を有しており、1つのビニル基を有する単官能性芳香族ビニル系単量体と、複数のビニル基を有する多官能性芳香族ビニル系単量体との多孔質共重合体で構成されている。この多孔質共重合体は、比表面積500〜1500m/g、細孔容積1〜2.5ml/g、細孔の最頻度半径3〜35nmを有しており、かつ水分含量が5重量%以下(例えば、2.5重量%以下)である。
【0013】
前記多孔質共重合体は、アルキルスチレン−ジビニルベンゼン共重合体(エチルスチレン−ジビニルベンゼン共重合体など)であってもよく、比表面積1000〜1500m/g、細孔容積1.5〜2.5ml/g、細孔の最頻度半径6〜12nmを有していてもよい。さらに、多孔質共重合体は、イオン交換基を有していなくてもよい。
【0014】
前記多孔質共重合体(除去剤)は、シロキサン類を吸着又は吸収して除去するのに有用である。そのため、本発明は、シロキサン類を含む被処理流体(ガス)を、前記除去剤と接触させ、シロキサン類を除去する方法;ガスセンサーの上流側に配設されるフィルターも包含する。このフィルターは、前記シロキサン除去剤を包含する。
【0015】
なお、本明細書中、アクリル系単量体とメタクリル系単量体とを(メタ)アクリル系単量体と総称する。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、多孔質共重合体が所定の細孔特性を有するとともに、水分含量が少ないため、被毒成分としてのシロキサン類を効率よく吸着して除去できる。しかも、VOC成分(例えば、低揮発性有機化合物)は吸着することなく、シロキサン類を選択的に長期間に亘り除去できる。さらに、ガスセンサーにおいては、被検知成分に対する検知応答性を低下させることなく、シロキサン類の通過又は透過を長期間に亘り抑制できる。そのため、多孔質樹脂(多孔質共重合体)で構成されたシロキサン除去剤(又は吸着剤)は、シロキサン類を除去するためのフィルター(若しくはこのフィルターを備えたガスセンサー)として利用するのに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は実施例及び比較例の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[多孔質共重合体及びシロキサン除去剤]
本発明の除去剤を構成する共重合体は、架橋構造及び多孔質構造を有する多孔質樹脂で形成されている。この多孔質共重合体は、1つのビニル基を有する単官能性芳香族ビニル系単量体と、複数のビニル基を有する多官能性芳香族ビニル系単量体との多孔質共重合体で構成されている。
【0019】
単官能性芳香族ビニル系単量体としては、例えば、スチレン;ビニルトルエン、p−エチルスチレン、m−エチルスチレン、o−エチルスチレン、p−ブチルスチレン、p−t−ブチルスチレンなどのアルキルスチレン(好ましくはC1−6アルキルスチレン、さらに好ましくはC1−4アルキルスチレン);ビニルキシレンなどのジアルキルスチレン(好ましくはジC1−6アルキルスチレン、さらに好ましくはジC1−4アルキルスチレン);α−メチルスチレンなどが例示できる。これらの単官能性単量体は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの単官能性芳香族ビニル系単量体のうち、スチレン及びモノ又はジアルキルスチレン(例えば、C1−4アルキルスチレン)、特にアルキル基を有するスチレン、例えば、C1−3アルキルスチレン(エチルスチレンなど)などが好ましい。
【0020】
多官能性芳香族ビニル系単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン;ジビニルトルエンジビニルキシレンなどのジビニルC1−6アルキルベンゼンなどが例示できる。これらの多官能性単量体は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。好ましい多官能性単量体は、2つのビニル基を有する多官能性芳香族ビニル系単量体を含んでおり、通常、ジビニルベンゼン、ジビニルトルエンが利用される。
【0021】
単官能性芳香族ビニル系単量体と多官能性芳香族ビニル系単量体との割合(モル比)は、シロキサン類の分子サイズに応じて、例えば、前者/後者=95/5〜10/90程度の範囲から選択でき、80/20〜20/80(例えば、75/25〜25/75)、好ましくは70/30〜30/70(例えば、60/40〜40/60)程度であってもよい。
【0022】
なお、前記単官能性芳香族ビニル系単量体及び多官能性芳香族ビニル系単量体は、他の共重合性単量体(単官能性又は多官能性単量体)と共重合させてもよい。単官能性共重合性単量体としては、(メタ)アクリル系単量体[例えば、(メタ)アクリル酸;例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルなどの(メタ)アクリル酸直鎖状又は分岐鎖状C1−16アルキルエステル;(メタ)アクリル酸シクロへキシル;(メタ)アクリル酸フェニル;(メタ)アクリル酸ベンジル;(メタ)アクリル酸グリシジル;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシC2−4アルキルエステルなど]、脂肪酸ビニルエステル系単量体(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなど)、オレフィン類(エチレン、プロピレンなどのα−C2−6オレフィンなど)、塩化ビニルなどのハロゲン含有ビニル系単量体、不飽和多価カルボン酸又はその酸無水物(例えば、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸又はその酸無水物など)、イミド系単量体[例えば、マレイミド;N−C1−4アルキルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミドなど)などのN−置換マレイミド]、スチレンスルホン酸などのスルホン酸基を有する単量体などが例示できる。
【0023】
多官能性共重合性単量体としては、多官能性(メタ)アクリル系単量体、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートなどのC2−10アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート;ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート;ビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加体のヒドロキシル基が(メタ)アクリル酸でエステル化されたビスフェノール系ジ(メタ)アクリレート(2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルエトキシフェニル)プロパンなど)などが例示できる。これらの単官能性単量体及び多官能性単量体は、それぞれ、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。なお、必要により、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどの3以上のアクリロイル基を有する多官能性単量体を併用してもよい。
【0024】
なお、これらの共重合性単量体の使用量は、全単量体に対して0〜20モル%程度の範囲から選択してもよい。好ましい共重合性単量体は非イオン性単量体である。
【0025】
架橋構造を有する多孔質共重合体は、カルボキシル基、スルホン酸基などの酸性基、置換アミノ基などの塩基性基を有していてもよいが、これらのイオン交換性基を有していないのが好ましい。すなわち、共重合体は、少なくともスチレン及びジビニルベンゼンを単量体とする共重合体、特に、少なくともアルキルスチレン(例えば、エチルスチレン)及びジビニルベンゼンを単量体とする共重合体であるのが好ましく、これらの共重合体は非イオン性単量体(メタクリル酸メチルなど)との共重合体であってもよい。好ましい多孔質共重合体は、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体、アルキルスチレン−ジビニルベンゼン共重合体(エチルスチレン−ジビニルベンゼン共重合体など)であり、前者に比べて後者(アルキルスチレン−ジビニルベンゼン共重合体)はシロキサン類に対する除去能がさらに高い。
【0026】
本発明の多孔質共重合体は、多孔質構造を有し、シロキサン類が吸着可能な細孔及び細孔容積を有している。多孔質共重合体の比表面積は、例えば、500〜1500m/g(例えば、750〜1500m/g)、好ましくは1000〜1500m/g(例えば、1100〜1500m/g)程度であってもよく、多孔質共重合体は、通常、大きな比表面積、例えば、1050〜1500m/g(例えば、1100〜1400m/g、好ましくは1100〜1300m/g)程度の比表面積を有している。多孔質共重合体は大きな比表面積を有するのが好ましく、シロキサン類の吸着及び重合に有用である。
【0027】
多孔質共重合体の細孔容積は、例えば、1〜2.5ml/g(例えば、1.5〜2.5ml/g)、好ましくは1.7〜2.5ml/g(例えば、1.8〜2.3ml/g)程度であってもよく、2〜2.3ml/g程度であってもよい。シロキサン類の吸着/吸収及び重合には、多孔質共重合体は大きな細孔容積を有するのが好ましい。
【0028】
さらに、細孔の最頻度半径は、3〜35nm(例えば、5〜25nm)程度の範囲から選択でき、通常、6〜20nm(例えば、7〜15nm)、好ましくは7〜12nm(例えば、8〜12nm)程度であってもよい。好ましい多孔質共重合体は中程度の細孔径[例えば、6〜12nm(例えば、7〜11nm)]を有している。
【0029】
なお、細孔容積、細孔の最頻度半径は、分析装置(マイクロメリティックス製ASAP−2400)を用い、100℃で真空脱気処理した試料について、窒素ガス吸着法にて測定でき、比表面積はBET法で算出できる。
【0030】
前記多孔質共重合体は、通常、球状の形態を有しており、慣用の方法、例えば、乳化重合又は懸濁重合などの方法で調製してもよく、市販品を用いてもよい。前記多孔質共重合体は、例えば、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体(「ダイヤイオンHP20」(三菱化学(株)製)、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体(「セパビーズSP850」(三菱化学(株)製)、エチルスチレン−ジビニルベンゼン共重合体(「セパビーズSP700」(三菱化学(株)製)などとして入手できる。なお、これらの市販品は、通常、水分含量45〜70%程度の含水状態で市販されている。
【0031】
本発明において、多孔質共重合体の水分含量はシロキサン類の除去効率に著しい影響を及ぼし、乾燥により水分含量を低下させることにより、特異的にシロキサン類を吸着して重合する。多孔質共重合体の水分含量は、5重量%以下(例えば、0〜3重量%)、好ましくは2.5重量%以下(例えば、0〜2重量%)、さらに好ましくは1.5重量%以下(例えば、0〜1重量%)であり、通常、水分含量は2重量%(例えば、0〜1.5重量%)である場合が多い。このような水分含量の多孔質共重合体は、含水状態の多孔質共重合体を、例えば、必要により過剰水を脱水し、常圧又は減圧下、50〜100℃(例えば、60〜80℃)程度の温度で乾燥させることにより容易に得ることができる。
【0032】
前記多孔質共重合体は、シロキサン類を効率よく吸着又は吸収するため、シロキサン除去剤として有用である。前記シロキサン類(環状シロキサン類)としては、シロキサンの環状2量体(又は4員環シロキサン)[(CHSiO](D2)、環状3量体(又は6員環シロキサン)[(CHSiO](D3)、環状4量体(又は8員環シロキサン)[(CHSiO](D4)、環状5量体(又は10員環シロキサン)[(CHSiO](D5)、環状6量体(D6)などが例示される。本発明の除去剤は、これらのシロキサン類のうち単独のシロキサン又は複数のシロキサン類を吸着又は吸収できる。なお、環境中(例えば、大気中)のシロキサン類のうち主たる成分は、環状3量体(D3)、環状4量体(D4)及び環状5量体(D5)、特に環状3量体(D3)及び環状4量体(D4)である。
【0033】
シロキサン除去剤(又は吸着剤)は、前記多孔質共重合体(第一の吸着剤)単独で構成してもよく、第一の吸着剤と第2の吸着剤(例えば、活性炭、ゼオライト、シリカ、アルミナなど)とを併用してもよい。第2の吸着剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。好ましい第2の吸着剤(特に粉粒状又は顆粒状の形態の第二の吸着剤)は活性炭である。第二の吸着剤の比表面積は、例えば、500〜2500m/g(例えば、600〜2000m/g)、好ましくは700〜1750m/g(例えば、750〜1500m/g)程度であってもよい。また、平均細孔径は、例えば、1〜20nm(例えば、2〜17nm)、好ましくは3〜15nm(例えば、5〜15nm)程度であってもよく、1〜10nm(例えば、1〜5nm)程度であってもよい。さらに、細孔容積は、0.2〜5ml/g(例えば、0.3〜3ml/g)、好ましくは0.5〜2.5ml/g(例えば、0.6〜2.2ml/g)程度であってもよい。
【0034】
第一の吸着剤と第二の吸着剤とは混合して使用してもよく、互いに分離した充填形態で使用してもよい。例えば、第一の吸着剤及び第二の吸着剤の一方の吸着剤を含む層(充填部)を上流側に位置させ、下流側に他方の吸着剤を含む層(充填部)を位置させてもよい。
【0035】
第一の吸着剤と第二の吸着剤との割合は、前者/後者(重量比)=100/0〜30/70、好ましくは100/0〜40/60、さらに好ましくは100/0〜50/50程度であってもよい。
【0036】
[シロキサン類の除去方法およびフィルター]
シロキサン類を含む被処理流体を、前記除去剤(又は多孔質共重合体を含む除去剤)と接触させることにより、シロキサン類を除去できる。被処理流体は、液体(水溶液、有機溶媒溶液など)であってもよいが、通常、気体(ガス)である。被処理流体中のシロキサン類の濃度は、例えば、1ppb〜20ppm(例えば、1ppb〜5ppm)、好ましくは1ppb〜1ppm、さらに好ましくは1ppb〜100ppb程度である。なお、被処理流体(特に被処理ガス)は、水分、一酸化炭素、二酸化炭素、一酸化窒素、二酸化窒素、炭化水素(メタン、エタン、プロパン、ブタン、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素、シクロヘキサンなどの脂環族炭化水素、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素など)、ハロゲン化炭化水素類(トリクロロエチレンなど)、エーテル類(ジメチルエーテル、ジエチルエーテルなど)などを含んでいてもよい。さらに、被処理ガスは、シロキサン類を含む空気であってもよい。
【0037】
被処理流体(又は被処理ガス)は、バッチ式、セミバッチ式又は連続式で前記除去剤(又は多孔質共重合体を含む除去剤)と接触させることができる。連続式に被処理流体(又は被処理ガス)を処理する場合、被処理流体(又は被処理ガス)の流量は、前記多孔質共重合体(又は多孔質共重合体を含む除去剤)100gに対して、常温常圧(温度20〜25℃、圧力1気圧)で、100mL〜200L/分、好ましくは1〜100L/分、さらに好ましくは1〜60L/分(例えば、5〜50L/分)程度であってもよい。被処理流体(又は被処理ガス)の空間速度(SV)は、例えば、100〜50000h−1、好ましくは1000〜30000h−1、さらに好ましくは5000〜20000h−1程度であってもよい。
【0038】
被処理流体(又は被処理ガス)は、加圧して前記除去剤(又は吸着剤)と接触させてもよいが、通常、被処理流体(又は被処理ガス)の処理は常圧で行われる。吸着処理は、例えば、温度0〜100℃(好ましくは10〜50℃、さらに好ましくは15〜35℃)程度で行うことができる。
【0039】
本発明のシロキサン除去剤は、センサーの被毒成分又は鋭敏化成分であるシロキサン類を選択的に吸着する。そのため、除去剤は、センサー(例えば、工業用又は家庭用ガス警報器のセンサー)の上流側に配設されるフィルター材料として適している。より詳細には、所定の検知成分を検知するためのセンサ(ガスセンサーなど)は、通常、流入口と排出口とを備えた中空筒体と、この筒体の上流側(流入口側)の筒体内に配設され、夾雑成分(センサの被毒成分など)を除去するためのフィルターと、このフィルターの下流側の筒体に配設されたセンサーとを備えている。センサーからの検出値は基準値と比較され、検出値が基準値を越えると、警報により有毒成分又は可燃成分の濃度が高くなったことを報知している。
【0040】
このようなセンサーによる検知成分は、センサーの用途に応じて選択できるが、前記多孔質共重合体(又は除去剤)は、検知成分[一酸化炭素、VOC成分(例えば、メタンなどの低揮発性有機化合物)など]を吸着することなく、シロキサン類を選択的に効率よく吸着して除去する。そのため、センサーのフィルターを前記シロキサン除去剤で構成すると、シロキサン類の通過又は透過を長期間に亘り抑制でき、被検知成分に対する検知応答性を低下させることなく、誤警報の発生を防止できる。なお、センサーとしては、被検知成分の種類に応じて選択でき、一酸化炭素では、慣用のセンサー(例えば、接触燃焼式、半導体式、電気化学式センサー)、メタンなどの可燃性成分では、慣用のセンサー(例えば、接触燃焼式、半導体式センサー)などが利用できる。
【実施例】
【0041】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0042】
比較例1〜2
比較例1〜2は、特許文献4の比較例に相当する。すなわち、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体(「セパビーズSP850」(比較例1,三菱化学(株)製、水分含量約50重量%)、エチルスチレン−ジビニルベンゼン共重合体(「セパビーズSP700」(比較例2,三菱化学(株)製、水分含量約70重量%)を、容器から取出し、常温常圧の大気雰囲気下で2時間放置した。
【0043】
カールフィッシャ水分計で水分含量を算出したところ、比較例1の共重合体の水分含量は50重量%、比較例2の共重合体の水分含量は69重量%であった。
【0044】
実施例1並びに参考例1及び2
比較例1〜3で用いたスチレン−ジビニルベンゼン共重合体(「ダイヤイオンHP20」(参考例1)、「セパビーズSP850」(参考例2)、及びエチルスチレン−ジビニルベンゼン共重合体(「セパビーズSP700」(実施例))を、それぞれトレイに入れ、60℃の温風乾燥機で24時間乾燥した後、常温常圧の大気雰囲気下で24時間放置した。
【0045】
カールフィッシャ水分計で水分含量を算出したところ、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体(「ダイヤイオンHP20」、参考例1)の水分含量は1重量%、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体(「セパビーズSP850」、参考例2)の水分含量は2重量%、エチルスチレン−ジビニルベンゼン共重合体(「セパビーズSP700」、実施例)の水分含量は1重量%であった。
【0046】
[吸着試験]
セパラブルフラスコの底部に、シロキサン類(D4)を収容したシャーレと、水を収容したシャーレとを配置し、実施例及び比較例並びに参考例で用いた多孔質共重合体を、アルミニウム容器に入れて精秤(小数点以下4桁まで精秤)してセパラブルフラスコに配置した網製架台の上に置いて密閉し、温度16〜19℃で14日に亘り多孔質共重合体にシロキサン類(D4)を吸着させた。なお、所定の時間ごとに取り出して秤量し、熱分析(TG−DTA:N300ml/分、25℃から250℃へ10℃/分の昇温速度で昇温)により重量増加を測定した。
【0047】
実施例及び比較例並びに参考例で用いた多孔質共重合体の比表面積、細孔容積、細孔の最頻度半径(前記方法で測定した)とともに、結果を、表1及び図1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
表1及び図1から明らかなように、乾燥して水分含量を低減することにより、実施例では、比較例に比べシロキサン類を特異的に効率よく吸着して除去できる。特に、実施例で用いたエチルスチレン−ジビニルベンゼン共重合体(「セパビーズSP700」)はさらに顕著にシロキサン類を除去した。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明では、シロキサン類を効率よくかつ選択的に吸着して除去又は分離できる。そのため、種々に分野、例えば、工業的にシロキサン類を分離するだけでなく、環境中のシロキサン類を分離するのに有用である。また、被毒成分であるシロキサン類を分離除去して、被検知成分(一酸化炭素、メタンなど)を検知するガスセンサーのフィルターなどとして有用である。
図1