(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6396052
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】溶湯給湯時のラドル制御システム
(51)【国際特許分類】
B22D 17/30 20060101AFI20180913BHJP
B22D 35/00 20060101ALI20180913BHJP
B22D 17/32 20060101ALI20180913BHJP
B22D 41/06 20060101ALI20180913BHJP
B22D 43/00 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
B22D17/30 A
B22D35/00 Z
B22D17/32 Z
B22D41/06
B22D43/00 A
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-65164(P2014-65164)
(22)【出願日】2014年3月27日
(65)【公開番号】特開2015-186821(P2015-186821A)
(43)【公開日】2015年10月29日
【審査請求日】2017年2月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100791
【氏名又は名称】アイシン軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】福武 直人
(72)【発明者】
【氏名】浅井 真一
(72)【発明者】
【氏名】南 俊博
【審査官】
越本 秀幸
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−254156(JP,A)
【文献】
特開2006−055897(JP,A)
【文献】
特開昭48−005636(JP,A)
【文献】
実開平02−016257(JP,U)
【文献】
実開平06−077963(JP,U)
【文献】
特開2011−194460(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 17/30
B22D 41/04
B22D 41/06
B22D 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラドルを用いた溶湯の給湯方法であって、
鋳造準備指令により炉上待機状態からラドルが傾動及び中間下降し、湯面高さに合せて中間停止するステップと、
給湯動作指令にて前記中間停止していたラドルがノロカキをするステップと、
湯面から所定の深さ下降及び所定の計量角を経て湯汲みするステップとを有し、
前記ラドルが中間停止する位置は前回溶湯給湯時の湯面高さ情報に基づいて次のノロカキを行う湯面上に中間停止することを特徴とするラドルによる給湯方法。
【請求項2】
前記ラドルを所定の計量角に傾ける際に、一旦所定の計量角以上に傾動させた後に当該所定の計量角に戻すことを特徴とする請求項1記載のラドルによる給湯方法。
【請求項3】
湯面高さに合せて計量角度を補正する計量角補正手段を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のラドルによる給湯方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイカストマシン等の各種鋳造機を用いて鋳物を鋳造する際にダイカストマシンの射出スリーブや金型のキャビティに溶湯保持炉から所定量の溶湯を汲み上げて給湯するラドルの制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ダイカストマシンにてアルミニウム合金鋳物を鋳造する場合に、ラドルにて溶湯を射出スリーブ内に給湯している間は、ダイカストマシンが停止していることになるため、生産性向上のためにはラドルの動きのムダをできるだけ少なくする必要がある。
また、ラドルによる溶湯の湯汲み量にバラツキがあると、鋳造品への品質に影響が生じる恐れがあり、必要以上に湯汲み量が多いと原材料及びエネルギー消費にムダが生じる。
【0003】
特許文献1〜3には、溶湯の湯面高さを検知してラドルの動きを制御することが開示され、特に特許文献3にはラドルの傾斜角度を演算制御する例を開示する。
しかし、これらのラドルの制御は溶湯表面のノロの影響を考慮したものではなく、またラドルの支持機構のガタやバラツキを考慮したものではない。
【0004】
図2に従来のラドルの動きを示す。
溶湯保持炉の上で炉上待機(1)していたラドル1は、所定の計量角(2)に傾動し、下降する(3)。
この際に溶湯の湯面の検知(4)し、湯面から所定の深さ下降し、湯汲み(5)動作にはいる。
次に、ラドル1は上昇(6)し、所定の位置,所定時間湯切り(7)をした後に水平(8)になる。
その後はダイカストマシンの射出スリーブに移動し、この射出スリーブの湯口に注湯する。
図3(a)に、保持炉溶湯の湯面高さを、ラドルを支持及び移動制御するリンク機構の位置を走行軸差(deg)で表現したときのこれに対するラドルの計量角(注湯軸差deg)バラツキを調査した結果を示す。
この結果から、ラドルの計量角を一定に設定しても実際の計量時にはラドルの注湯軸差にバラツキが発生していることが判明した。
その原因を調査したところ、給湯機のリンク機構はスプロケットとチェーンとの組み合せによるが、湯面高さによりスプロケットの停止位置が変化する。
この際にスプロケットとチェーンとの間にはガタがあり、スプロケットを回転させてラドルを所定の計量角に傾動させる時に湯面高さによりスプロケットの歯の山に対するチェーンのかかりに差が生じ、所定の計量角にラドルを傾動し、そのまま湯汲みするとラドル及び湯の重さによりチェーンのかかりガタの分だけラドルの傾きが変化するためであった。
図3(b)に溶湯保持炉の湯面高さを給湯機のリンク機構の走行軸位置(deg)で表した場合の湯汲み後に所定の位置まで上昇する際の走行軸変化量(deg)の調査結果を示す。
この結果から、湯面高さが低くなると、それに比例してラドルが所定の位置まで上昇するのに要する時間が増すことが確認でき、その分だけ湯切り時間が長くなりラドルが同じ計量角に傾動していても汲み上げた湯量が少なくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2934289号公報
【特許文献2】特許第2945888号公報
【特許文献3】特許第2680444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、鋳造時のラドルによる給湯量のバラツキが少なく、鋳物品質の向上、生産性向上に有効なラドル制御システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るラドル制御システムは、溶湯給湯時におけるラドルの動きを制御するラドル制御システムであって、炉上待機状態からラドルが傾動及び中間下降し、湯面高さに合せて中間停止するステップと、ラドルにてノロカキをするステップと、湯面から所定の深さ下降及び所定の計量角を経て湯汲みするステップとを有することを特徴とする。
ここで、ノロとは保持炉の溶湯の表面に発生する酸化膜の層をいう。
ノロカキ後にラドルで湯汲みすると、ラドル内にノロが混入するのを抑える。
【0008】
本発明において、前回溶湯給湯時の湯面高さ情報に基づいて次のノロカキ
を行う湯面高さに合わせて中間停止させるのが好ましい。
これにより、湯汲みから射出スリーブ内への給湯までの時間を短縮できる。
【0009】
本発明において、ラドルを所定の計量角に傾ける際に、一旦所定の計量角以上に傾動させた後に当該所定の計量角に戻すのが好ましい。
このようにすると、ラドルを所定の計量角まで回転するときのチェーンのスプロケットへのかかり方向と、ラドル及び汲み上げた湯によるチェーンのスプロケットへのかかり方向が一致するので、チェーンとスプロケットとのガタによるラドルの傾き,バラツキを抑えることができる。
また、ラドル内に溶湯を乱すことなく入れることができ、溶湯の清浄度も確保しやすい。
本発明において、湯面高さに合せて計量角度を補正する計量角補正手段を有するのが好ましい。
なお、本発明に係るラドル制御システムはノロカキのステップを省略し、ラドルの傾きガタ防止及び湯面高さ補正手段のみ採用することもできる。
【発明の効果】
【0010】
本発明においては、ラドルにて湯汲みする前にノロカキを行うのでラドル内にノロが混入するのを抑え、鋳物品質が向上する。
また、湯面高さによりラドルの中間停止位置を変化させると、ダイカストマシンの射出スリーブ内への給湯までの時間を短縮できる。
ラドルを一旦、計量角以上に回転させた後に計量角まで戻したり、湯面高さによる湯切り時間,変化に合せて計量角を補正する手段を有すると、溶湯の計量バラツキを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係るラドル制御システムによるラドルの動きの例を示す。
【
図3】(a)は計量時の走行軸位置と注湯軸変化量の調査結果を示す。(b)は計量湯切時の走行軸変化量の調査結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るラドル制御システムによるラドルの動きの例を
図1に示す。
ダイカストマシンの射出スリーブ内に給湯する給湯機に設けたリンク機構により、支持及び移動制御されたラドルの動きを模式的に示したものである。
溶湯保持炉の湯面高さ2から所定の高さだけ上に炉上待機(S
1)していたラドル1は、鋳造準備指令によりラドルが傾動(S
2)し、湯面上まで中間下降(S
3)する。
この位置は、その後にノロカキするのに最適な位置であり、前回の湯面高さ検知情報による。
ラドル1は、この位置で中間停止(S
4)し、給湯動作指令を待つ。
給湯動作指令がでると、ラドル1はノロカキ動作(S
5)を行い、続けて湯面高さから所定の深さまで下降(S
6)し、湯面高さによる計量角補正手段にて得られた情報に基づいて所定の計量角まで傾く(S
7)。
湯汲み(S
8)後に上昇(S
9)及び湯切り(S
10)した後にラドル1は、水平(S
11)になり、射出スリーブまで移動し給湯する。
その後、中間停止(S
4)の状態でラドルは待機し、次の給湯動作指令を待つ。
【符号の説明】
【0013】
1 ラドル
2 湯面高さ
S
1 炉上待機
S
2 ラドル傾動
S
3 中間下降
S
4 中間停止
S
5 ノロカキ
S
6 下降
S
7 計量角
S
8 湯汲み
S
9 上昇
S
10 湯切り
S
11 水平