(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
車両のインボード側からアウトボード側に向けて順に配置されたモータ部、減速部および車輪用軸受部と、これらを保持したケーシングとを備え、前記モータ部が、前記ケーシングに固定されたステータと、外周にロータを装着したモータ回転軸とを有し、該モータ回転軸が、そのインボード側およびアウトボード側の端部に夫々配置された第1および第2の転がり軸受により前記ケーシングに対して回転自在に支持され、
前記ケーシングが、前記モータ部および前記減速部のそれぞれを収容保持した第1および第2収容室を区分した中空円盤状の隔壁を有し、該隔壁が、インボード側に膨出し、前記第2の転がり軸受の外輪を内周に保持した筒状のボス部を有し、
前記モータ回転軸の回転に伴って、前記モータ回転軸の内部に設けた軸方向油路を流れる潤滑油が前記モータ回転軸の内外径面に開口した径方向油路を介して前記モータ回転軸の外径側に吐出されるインホイールモータ駆動装置において、
前記ケーシングは、モータ回転軸の外径側に吐出された前記潤滑油を、前記第2の転がり軸受のインボード側の開口部に向けて誘導する誘導手段を有し、
前記誘導手段が、前記隔壁のインボード側の端面に突設されて径方向に延び、内径端部が前記ボス部の外径面に繋がった突状部の側面と、前記ボス部の内周側と外周側とを連通させる径方向に延びた連通路とを含んで構成され、該連通路が、前記ボス部のインボード側の端面に形成された径方向溝を有することを特徴とするインホイールモータ駆動装置。
前記減速部は、前記モータ回転軸に連結された減速機入力軸と、この減速機入力軸の偏心部に回転自在に保持され、前記減速機入力軸の回転に伴ってその回転軸心を中心とする公転運動を行う曲線板と、この曲線板の外周部に係合して前記曲線板に自転運動を生じさせる外ピンと、前記曲線板の自転運動を、前記減速機入力軸の回転軸心を中心とする回転運動に変換して減速機出力軸に伝達する運動変換機構とを備える請求項1〜5の何れか一項に記載のインホイールモータ駆動装置。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図11および
図12に基づいてインホイールモータ駆動装置を搭載した電気自動車11の概要を説明する。
図11に示すように、電気自動車11は、シャーシ12と、操舵輪として機能する一対の前輪13と、駆動輪として機能する一対の後輪14と、左右の後輪14のそれぞれを駆動するインホイールモータ駆動装置21とを備える。
図12に示すように、後輪14は、シャーシ12のホイールハウジング12aの内部に収容され、懸架装置(サスペンション)12bを介してシャーシ12の下部に固定されている。
【0020】
懸架装置12bは、左右に延びるサスペンションアームによって後輪14を支持すると共に、コイルスプリングとショックアブソーバとを含むストラットによって、後輪14が路面から受ける振動を吸収してシャーシ12の振動を抑制する。さらに、左右のサスペンションアームの連結部分には、旋回時等の車体の傾きを抑制するスタビライザが設けられる。懸架装置12bは、路面の凹凸に対する追従性を向上し、後輪14の駆動力を効率よく路面に伝達するために、左右の車輪を独立して上下させることができる独立懸架式とするのが望ましい。
【0021】
この電気自動車11では、左右のホイールハウジング12aの内部に、左右の後輪14それぞれを回転駆動させるインホイールモータ駆動装置21が組み込まれるので、シャーシ12上にモータ、ドライブシャフトおよびデファレンシャルギヤ機構等を設ける必要がなくなる。そのため、客室スペースを広く確保でき、しかも、左右の後輪14の回転をそれぞれ制御することができるという利点を備えている。
【0022】
電気自動車11の走行安定性およびNVH特性を向上するためには、ばね下重量を抑える必要がある。また、電気自動車11の客室スペースを拡大するためには、インホイールモータ駆動装置21を小型化する必要がある。そこで、本発明に係るインホイールモータ駆動装置21を採用する。
【0023】
本発明の第1実施形態に係るインホイールモータ駆動装置21を
図1〜
図6に基づいて説明する。
図1に示すように、インホイールモータ駆動装置21は、駆動力を発生させるモータ部Aと、モータ部Aの回転を減速して出力する減速部Bと、減速部Bからの出力を後輪14に伝達する車輪用軸受部Cとを備え、これらは電気自動車11のインボード側(
図1中右側)からアウトボード側(
図1中左側)に向けて順に同軸配置された上でケーシング22に保持されている。詳細は後述するが、このインホイールモータ駆動装置21は、モータ部Aおよび減速部Bの各所に潤滑油を供給する潤滑機構を有する。
【0024】
ケーシング22は、モータ部Aを収容保持した第1収容室71と、減速部Bを収容保持し、第1収容室71に対して着脱可能にボルト止めされた第2収容室72と、第1収容室71のインボード側の開口部を閉塞するカバー74およびセンタープラグ75とを備え、第1収容室71は、そのアウトボード側の端部から内径側に延び、両収容室71,72(の内部空間)を区分する円環状の隔壁73を一体に有する。隔壁73の内径側領域には、インボード側に円錐台状に膨出し、かつ軸方向の両端が開口した筒状のボス部76が一体的に設けられている(
図2参照)。
【0025】
モータ部Aは、ケーシング22(の第1収容室71)に固定されているステータ23aと、ステータ23aの内側に径方向の隙間を介して対向配置されるロータ23bと、外周にロータ23bを装着した外側円筒部24cを一体に有し、全体として中空構造をなしたモータ回転軸24とを備えるラジアルギャップモータである。モータ回転軸24は15000min
-1程度の回転数で回転可能とされている。詳細は後述するが、モータ回転軸24の中空部は、潤滑機構を構成する軸方向油路24aとして機能する。
【0026】
モータ回転軸24は、そのインボード側およびアウトボード側の端部にそれぞれ配置された第1および第2の転がり軸受36a,36bによってケーシング22に対して回転自在に支持されている。第2の転がり軸受36bは、いわゆる深溝玉軸受であって、
図2に拡大して示すように、ケーシング22(隔壁73の内周)に保持された外輪36b1と、モータ回転軸24の外径面に嵌合固定された内輪36b2と、外輪36b1と内輪36b2との間に配置された複数のボール36b3と、複数のボール36b3を周方向に離間した状態で保持する図示外の保持器とを備える。詳細な説明は省略するが、第1の転がり軸受36aも、第2の転がり軸受36bと同様の深溝玉軸受である。
【0027】
転がり軸受36a,36bを構成するボールとしては、金属製のボールではなくセラミックボールを採用するのが好ましい。セラミックボールは、金属製のボールよりも軽量であることから、モータ回転軸24の高速回転に伴う摩擦モーメント(発熱量)の増大を効果的に抑制し得ることに加え、転がり軸受36a,36b、ひいてはインホイールモータ駆動装置21の軽量化を図る上で有利となるからである。また、セラミックボールを採用することにより、モータ部A(インホイールモータ駆動装置21)のような電気機器に使用する転がり軸受36a,36bで問題となる磁界による損傷モードに対する耐性が向上する。
【0028】
図1に示すように、減速部Bは、モータ回転軸24により回転駆動される減速機入力軸25と、減速機入力軸25と同軸に配置された減速機出力軸28と、減速機入力軸25の回転を減速した上で減速機出力軸28に伝達する減速機構とを備え、減速機出力軸28は、減速機構により減速された減速機入力軸25の回転を車輪用軸受部Cに伝達する。
【0029】
減速機入力軸25は、その軸方向二箇所に離間して配置された転がり軸受37a,37bによって減速機出力軸28に対して回転自在に支持されている。減速機入力軸25の軸方向二箇所には、軸心が減速機入力軸25の回転軸心に対して偏心した偏心部25a,25bが設けられており、これら2つの偏心部25a,25bは、偏心運動による遠心力を互いに打ち消し合うために、位相を180°異ならせて設けられている。
【0030】
減速機入力軸25は、そのインボード側の端部外周に形成したスプライン(セレーションを含む。以下同じ。)を、モータ回転軸24のアウトボード側の端部内周に形成したスプラインに嵌合する、いわゆるスプライン嵌合によってモータ回転軸24と連結されている。かかる態様で減速機入力軸25とモータ回転軸24とが連結されていることから、モータ部Aの駆動時には、減速機入力軸25もモータ回転軸24と同様に15000min
-1程度で高速回転する。このとき、減速機入力軸25と転がり軸受37a,37bの内輪との嵌め合いがすきま嵌めであると、モータ回転軸24の回転時に無視できないような異音・振動が生じ、電気自動車11のNVH特性に悪影響が及ぶおそれがある。そのため、減速機入力軸25と転がり軸受37a,37bの内輪との嵌め合いはしまり嵌めとするのが好ましい。
【0031】
減速機出力軸28は、軸部28bと、軸部28bのインボード側の端部から径方向外向きに延びたフランジ部28aとを有する。フランジ部28aは、減速機出力軸28の回転軸心を中心とする円周上に等間隔で形成された複数の孔部(図示例は貫通孔)を有し、各孔部には、後述する内ピン31のアウトボード側の端部が嵌合固定される。軸部28bは、車輪用軸受部Cを構成する中空構造のハブ輪32にスプライン嵌合によって連結されている。
【0032】
減速機構は、減速機入力軸25の偏心部25a,25bに回転自在に保持され、減速機入力軸25の回転に伴ってその回転軸心を中心とする公転運動を行う曲線板26a,26bと、ケーシング22上の固定位置に保持され、(公転運動中の)曲線板26a,26bの外周部と係合して曲線板26a,26bに自転運動を生じさせる複数の外ピン27と、曲線板26a,26bの自転運動を減速機出力軸28の回転運動に変換する運動変換機構とを主な構成とする。
【0033】
図3に示すように、曲線板26aは、その外周部にエピトロコイド等のトロコイド系曲線で構成される複数の波形を有すると共に、その両端面に開口する軸方向の貫通孔30a,30bを有する。貫通孔30aは、曲線板26aの自転軸心を中心とする円周上に等間隔で複数設けられており、後述する内ピン31を1本ずつ受け入れる。貫通孔30bは、曲線板26aの中心に設けられており、減速機入力軸25の偏心部25aを受け入れる。
【0034】
曲線板26aは、転がり軸受41によって偏心部25aに対して回転自在に支持されている。転がり軸受41は、外径面に内側軌道面42aを有し、偏心部25aの外径面に嵌合した内輪42と、曲線板26aの貫通孔30bの内径面に直接形成された外側軌道面43と、内側軌道面42aと外側軌道面43の間に配置される複数の円筒ころ44と、円筒ころ44を保持する保持器(図示せず)とを備える円筒ころ軸受である。内輪42は、内側軌道面42aの軸方向両端部から径方向外側に突出する鍔部42bを有し、鍔部42bは円筒ころ44の軸方向移動を規制する。本実施形態の転がり軸受41では、偏心部25aとは別体に設けた内輪42に内側軌道面42aを形成しているが、偏心部25aの外径面に内側軌道面を直接形成することで内輪42を省略してもよい。
【0035】
詳細な図示および説明は省略するが、曲線板26bは、曲線板26aと同様の構造を有しており、曲線板26aを支持する転がり軸受41と同様の構造を有する転がり軸受によって偏心部25bに対して回転自在に支持されている。
【0036】
図3に示すように、外ピン27は、減速機入力軸25の回転軸心を中心とする円周上に等間隔に配置されている。曲線板26a,26bが公転運動すると、曲線板26a,26bの外周部に形成した曲線形状の波形と外ピン27とが周方向で係合し、曲線板26a,26bに自転運動を生じさせる。各外ピン27は、
図1に示すように、その軸方向両端部に配された一対の転がり軸受(針状ころ軸受)61,61、および針状ころ軸受61,61を内周に保持した外ピンハウジング60を介してケーシング22に対して回転自在に支持されている。かかる構成により、外ピン27と曲線板26a,26bとの間の接触抵抗が低減される。
【0037】
詳細な図示は省略しているが、外ピンハウジング60は、弾性支持機能を有する回り止め手段(図示せず)によってケーシング22に対してフローティング状態に支持されている。これは、車両の旋回や急加減速等によって生じる大きなラジアル荷重やモーメント荷重を吸収して、曲線板26a,26bの自転運動を減速機出力軸28の回転運動に変換する運動変換機構の構成部品の破損を防止するためである。
【0038】
図1に示すように、減速部Bは、偏心部25a,25bの軸方向外側にそれぞれ隣接配置されたカウンタウェイト29をさらに備える。カウンタウェイト29は、例えば略扇形状とされ、減速機入力軸25の外周に嵌合固定されている。各カウンタウェイト29は、曲線板26a,26bの回転によって生じる不釣合い慣性偶力を打ち消すために、軸方向に隣接する偏心部25a(25b)と180°位相を変えて配置される。
【0039】
図1および
図3に示すように、運動変換機構は、主に、曲線板26a,26bに設けられた複数の貫通孔30aと、各貫通孔30aに一本ずつ挿通された複数の内ピン31とを含んで構成され、本実施形態の運動変換機構は、さらに、各貫通孔30aの内周に配置された針状ころ軸受31aを含んでいる。かかる態様で針状ころ軸受31aが設けられていることにより、内ピン31と貫通孔30aの内壁面との摩擦抵抗が低減される。内ピン31は、減速機出力軸28の回転軸心を中心とする円周上に等間隔で配置されており、そのアウトボード側の端部が減速機出力軸28のフランジ部28aに設けた孔部に嵌合固定されている。貫通孔30aの内径寸法は、内ピン31の外径寸法(「針状ころ軸受31aを含む最大外径」を指す。以下同じ。)よりも所定寸法大きく設定されている。
【0040】
図1に示すように、減速部Bは、スタビライザ31bをさらに有する。スタビライザ31bは、円環部31cと、円環部31cの内径面から軸方向に延びる円筒部31dとを一体に有し、各内ピン31のインボード側の端部は、円環部31cに固定されている。これにより、曲線板26a,26bから一部の内ピン31に負荷される荷重はスタビライザ31bを介して全ての内ピン31によって支持されるため、内ピン31に作用する応力が低減され、耐久性が向上する。
【0041】
ここで、モータ部Aの駆動時に曲線板26a、26bに作用する荷重の状態を
図5に基づいて説明する。
【0042】
減速機入力軸25に設けられた偏心部25aの軸心O
2は、減速機入力軸25の軸心Oから偏心量eだけ偏心している。偏心部25aの外周には曲線板26aが取り付けられ、偏心部25aは曲線板26aを回転自在に支持するので、軸心O
2は曲線板26aの軸心でもある。曲線板26aの外周部は波形曲線で形成され、径方向に窪んだ凹部34を周方向等間隔に有する。曲線板26aの周囲には、凹部34と係合する外ピン27が、軸心Oを中心として周方向に複数配設されている。
【0043】
図5において、減速機入力軸25が紙面上で反時計周りに回転すると、偏心部25aは軸心Oを中心とする公転運動を行うので、曲線板26aの凹部34が外ピン27と周方向に順次当接する。この結果、曲線板26aは、複数の外ピン27から図中矢印で示すような荷重Fiを受けて、時計回りに自転する。
【0044】
また、曲線板26aには貫通孔30aが軸心O
2を中心として周方向に複数配設されている。各貫通孔30aには、軸心Oと同軸に配置された減速機出力軸28と結合する内ピン31が挿通されている。貫通孔30aの内径は内ピン31の外径よりも所定寸法大きいため、内ピン31は、曲線板26aの公転運動の障害とはならず、曲線板26aの自転運動を取り出して減速機出力軸28を回転させる。このとき、減速機出力軸28は、減速機入力軸25よりも高トルクかつ低回転数になり、曲線板26aは、複数の内ピン31から図中矢印で示すような荷重Fjを受ける。これらの複数の荷重Fi、Fjの合力Fsが減速機入力軸25にかかる。
【0045】
合力Fsの方向は、曲線板26aの波形形状や凹部34の数などの幾何学的条件の他、遠心力の影響により変化する。具体的には、自転軸心O
2と軸心Oとを結ぶ直線Yと直角であって自転軸心O
2を通過する基準線Xと、合力Fsとの角度αは概ね30°〜60°で変動する。上記の複数の荷重Fi、Fjは、減速機入力軸25が1回転する間に荷重の方向や大きさが変化し、その結果、減速機入力軸25に作用する合力Fsも荷重の方向や大きさが変動する。そして、減速機入力軸25が1回転すると、曲線板26aの凹部34が減速されて1ピッチ時計回りに回転し、
図5の状態になり、これを繰り返す。
【0046】
図1に示すように、車輪用軸受部Cは、減速機出力軸28に連結されたハブ輪32と、ハブ輪32をケーシング22に対して回転自在に支持する車輪用軸受33とを備える。ハブ輪32は、円筒状の中空部32aとフランジ部32bとを有する。フランジ部32bにはボルト32cによって後輪14(
図11,12参照)が連結固定される。減速機出力軸28の軸部28bとハブ輪32の中空部32aとはスプライン嵌合により連結され、これにより、減速機出力軸28の出力がハブ輪32に伝達される。
【0047】
車輪用軸受33は、ハブ輪32の外径面に直接形成された内側軌道面33fおよび外径面の小径段部に嵌合された内輪33aを有する内方部材と、ケーシング22の内径面に嵌合固定された外輪33bと、内方部材と外輪33bの間に配置された複数の転動体(ボール)33cと、ボール33cを周方向に離間した状態で保持する保持器33dと、車輪用軸受33の軸方向両端部を密封するシール部材33eとを備えた複列アンギュラ玉軸受である。
【0048】
次に潤滑機構を説明する。潤滑機構は、モータ部Aおよび減速部Bの各所に潤滑油を供給するものであって、
図1に示すように、モータ回転軸24に設けた軸方向油路24aおよび径方向油路24bと、減速機入力軸25に設けた軸方向油路25c,25eおよび径方向油路25dと、スタビライザ31bに設けた潤滑油路31eと、内ピン31に設けた潤滑油路31fと、ケーシング22に設けた潤滑油排出口22b、潤滑油貯留部22d、潤滑油路22eおよび潤滑油路45(45a〜45c)と、回転ポンプ51とを主な構成とする。
図1中に示した白抜き矢印は潤滑油の流れる方向を示している。
【0049】
軸方向油路24aは、モータ回転軸24の内部を軸方向に沿って延びており、この軸方向油路24aのアウトボード側の端部には、減速機入力軸25の内部を軸方向に沿って延びた軸方向油路25cが接続されている。減速機入力軸25の軸方向油路25eは、軸方向油路25cのアウトボード側の端部および減速機入力軸25の外端面に開口している。減速機入力軸25に設けるべき径方向油路25dの形成位置は任意であるが、本実施形態では、減速機入力軸25の外径面のうち、偏心部25a,25bの形成位置と転がり軸受37aの近傍位置とに開口するように、減速機入力軸25の軸方向三箇所に径方向油路25dを設けている(以下、3つの径方向油路25dを区別して述べる際には、最もインボード側に配置されたものを「第1の径方向油路25d」と称し、以降、アウトボード側に向けて「第2の径方向油路25d」および「第3の径方向油路25d」と称す)。
【0050】
ケーシング22に設けられた潤滑油排出口22bは、減速部B内部の潤滑油を排出するものであって、減速部Bの位置におけるケーシング22の少なくとも1箇所に設けられている。潤滑油排出口22bとモータ回転軸24の軸方向油路24aとは、潤滑油貯留部22d、潤滑油路22eおよび潤滑油路45を介して接続されている。そのため、潤滑油排出口22bから排出された潤滑油は、潤滑油路22eや循環油路45等を経由してモータ回転軸24の軸方向油路24aに流入する。なお、潤滑油排出口22bと循環油路22eとの間に設けられた潤滑油貯留部22dは、潤滑油を一時的に貯留する機能を有する。
【0051】
図1に示すように、ケーシング22に設けた循環油路45は、ケーシング22(第1収容室71)の内部を軸方向に延びる軸方向油路45aと、軸方向油路45aのインボード側の端部に接続されて径方向に延びる径方向油路45cと、軸方向油路45aのアウトボード側の端部に接続されて径方向に延びる径方向油路45bとで構成される。径方向油路45bは回転ポンプ51から圧送された潤滑油を軸方向油路45aに供給し、軸方向油路45aに供給された潤滑油は径方向油路45cを介してモータ回転軸24の軸方向油路24a、さらには減速機入力軸25の軸方向油路25cに供給される。
【0052】
回転ポンプ51は、潤滑油貯留部22dの下流側に接続された潤滑油路22eとケーシング22の循環油路45との間に設けられており、潤滑油を強制的に循環させている。回転ポンプ51をケーシング22内に配置することによって、インホイールモータ駆動装置21全体としての大型化を防止することができる。
【0053】
図6に示すように、回転ポンプ51は、減速機出力軸28の回転を利用して回転するインナーロータ52と、インナーロータ52の回転に伴って従動回転するアウターロータ53と、両ロータ52,53間の空間に設けられた複数のポンプ室54と、潤滑油路22eに連通する吸入口55と、循環油路45の径方向油路45bに連通する吐出口56とを備えるサイクロイドポンプである。
【0054】
インナーロータ52は、回転中心c
1を中心として回転し、アウターロータ53は、インナーロータ52の回転中心c
1と異なる回転中心c
2を中心として回転する。このように、インナーロータ52およびアウターロータ53はそれぞれ異なる回転中心c
1、c
2を中心として回転するので、ポンプ室54の容積は連続的に変化する。これにより、吸入口55からポンプ室54に流入した潤滑油は吐出口56から径方向油路45bに圧送される。
【0055】
潤滑機構は、主に以上の構成を有しており、以下のようにしてモータ部Aおよび減速部Bの各所に潤滑油を供給することにより、モータ部Aおよび減速部Bの各所を潤滑する。
【0056】
図1を参照しながら説明すると、まず、モータ回転軸24が回転すると、モータ回転軸24の軸方向油路24aを流動する潤滑油に遠心力および回転ポンプ51の圧力が作用し、軸方向油路24aを流動する潤滑油の一部が径方向油路24bを介してモータ回転軸24の外径側に吐出される。この吐出された潤滑油により、ロータ23b、さらにはその外径側に配置されたステータ23aが潤滑される。また、モータ回転軸24を支持する一対の転がり軸受36a,36bのうち、第1の転がり軸受36aは、主に、循環油路45を流れる潤滑油の一部がケーシング22を構成するセンタープラグ75とモータ回転軸24との間から滲み出ることにより潤滑され、第2の転がり軸受36bは、主に、径方向油路24bを介して吐出され、ケーシング22を構成する隔壁73のインボード側の内壁面(端面)を伝い落ちてきた潤滑油により潤滑される。
【0057】
次に、モータ回転軸24の軸方向油路24aを経由して減速機入力軸25の軸方向油路25cに流入した潤滑油は、減速機入力軸25の回転に伴う遠心力および圧力の影響を受けて径方向油路25dおよび軸方向油路25eを介して減速部Bの内部(減速機構)に吐出され、吐出された潤滑油は、主に遠心力により減速部B内の各所に供給されて減速部B内の各所を潤滑・冷却する。
【0058】
より詳細には、減速機入力軸25に設けた第1の径方向油路25d、および軸方向油路25eを介して吐出された潤滑油は、遠心力の作用により、減速機入力軸25を支持する転がり軸受37a,37bに供給される。さらに、第1の径方向油路25dを介して吐出された潤滑油は、スタビライザ31b内の潤滑油路31eを介して内ピン31内の潤滑油路31fへ至り、この潤滑油路31fから内ピン31を支持する転がり軸受(針状ころ軸受)31aに供給される。さらに、遠心力により、曲線板26a,26bと内ピン31との当接部分、曲線板26a,26bと外ピン27との当接部分、外ピン27を支持する転がり軸受61、減速機出力軸28を支持する転がり軸受46などを潤滑しながら径方向外側に移動する。
【0059】
一方、減速機入力軸25に設けた第2および第3の径方向油路25dの開口部から吐出された潤滑油は、曲線板26a,26bを支持する転がり軸受41(
図3を併せて参照)に供給される。さらに、第1の径方向油路25dや軸方向油路25eから吐出された潤滑油と同様に、遠心力および回転ポンプ51の圧力により、曲線板26a,26bと内ピン31との当接部分や、曲線板26a,26bと外ピン27との当接部分等を潤滑しながら径方向外側に移動する。
【0060】
以上のような潤滑油の流れによって、減速部B内の各所が潤滑される。そして、ケーシング22のうち、第2収容室72の内周壁面に到達した潤滑油は、潤滑油排出口22bから排出されて潤滑油貯留部22dに貯留される。このように、潤滑油排出口22bと回転ポンプ51に接続された潤滑油路22eとの間に潤滑油貯留部22dが設けられているので、特に高速回転時などに回転ポンプ51によって排出しきれない潤滑油が一時的に発生しても、その潤滑油を潤滑油貯留部22dに貯留しておくことができる。その結果、減速部Bの各所における発熱やトルク損失の増加を防止することができる。一方、特に低速回転時などには、潤滑油排出口22bに到達する潤滑油量が少なくなるが、このような場合であっても、潤滑油貯留部22dに貯留されている潤滑油を、循環油路45を介してモータ回転軸24の軸方向油路24a、さらには減速機入力軸25の軸方向油路25cに還流することができるので、モータ部Aおよび減速部Bに安定して潤滑油を供給することができる。
【0061】
なお、減速部B内部の潤滑油は、遠心力に加え、重力によっても移動する。したがって、このインホイールモータ駆動装置21は、潤滑油貯留部22dがインホイールモータ駆動装置21の下部に位置するように、電気自動車11に取り付けるのが望ましい。
【0062】
インホイールモータ駆動装置21の全体構造は前述したとおりであり、本発明に係るインホイールモータ駆動装置21は、モータ回転軸24のアウトボード側の端部を支持する第2の転がり軸受36bを効率良く潤滑・冷却することを可能にした点に主たる特徴がある。以下、第2の転がり軸受36bを効率良く潤滑することを可能にするために本実施形態で採用した技術手段について詳細に説明するが、それに先立って、本発明に係る技術手段(本発明の構成)を採用しない場合の問題点を、
図13も参照しながら説明する。なお、
図13は、
図4と同様の断面図で本発明の構成を採用しない場合を示している。
【0063】
まず、上述したように、モータ部A等を保持したケーシング22は、第1収容室71および第2収容室72を区分する円環状の隔壁73を有し、隔壁73の内径側領域には、インボード側に円錐台状に膨出し、内周(内径面76b)に第2の転がり軸受36bの外輪36b1を保持した筒状のボス部76が設けられている(
図1および
図2を参照)。つまり、ケーシング22を構成する隔壁73は、その外径側領域と内径側領域とで軸方向の厚さが異なっている。このような構成を採用したのは、モータ部Aの軸方向寸法を短くしてインホイールモータ駆動装置21を全体として軸方向にコンパクト化しつつ、隔壁73とステータ23aとの干渉を回避するためである。
【0064】
そして、上述したように、モータ部Aのうち、ロータ23bおよびステータ23aの潤滑は、モータ回転軸24の回転に伴って径方向油路24bを介してモータ回転軸24の外径側に吐出された潤滑油により行われ、また、モータ回転軸24のアウトボード側の端部を支持する第2の転がり軸受36bの潤滑は、主に、モータ回転軸24の外径側に吐出された後、第1収容室71の内周壁面まで到達した潤滑油が、隔壁73のインボード側の内壁面(端面)を伝い落ちることにより行われることを想定していた。しかしながら、隔壁73の内径部に上記のようなボス部76が設けられている関係上、何ら対策を講じなければ、隔壁73のアウトボード側の端面を伝い落ちてきた潤滑油の大半は、ボス部76の基端部やボス部76の外径面(テーパ状外径面)76aを周方向に伝って鉛直下方に落下する(
図13中の黒塗り矢印を参照)ため、隔壁73(ボス部76)の内周に保持された第2の転がり軸受36bに十分量の潤滑油を供給することができず、第2の転がり軸受36bが大きく発熱し易いことが判明した。
【0065】
上述の問題は、例えば、モータ回転軸24に、外径端部が第2の転がり軸受36bの近傍位置に開口した径方向油路を追加的に設けることで解消できるとも考えられる。しかしながら、本実施形態のインホイールモータ駆動装置21では、モータ回転軸24のうち、第2の転がり軸受36bの内輪36b2が嵌合固定された部分の内径側にスプラインが設けられていることや(
図2参照)、モータ回転軸24が外周にロータ23bを装着した外側円筒部24cを一体に有すること、などの理由により、上記のような径方向油路を追加することは難しい。
【0066】
そこで、本発明に係るインホイールモータ駆動装置21では、
図2および
図4に示すように、モータ回転軸24の外径側に吐出された潤滑油を、第2の転がり軸受36bに向けて誘導する誘導手段Fを設けた。本実施形態の誘導手段Fは、隔壁73のインボード側の端面に突設され、外径端部および内径端部のそれぞれが第1収容室71の内周壁面およびボス部76の外径面76aに滑らかに繋がるように径方向に延びた複数の突状部77と、ボス部76の内周側と外周側とを連通させる複数の連通路80とを含む。連通路80は、ボス部76の端面(インボード側の端面)76cに形成されて径方向に延び、外径端部および内径端部のそれぞれがボス部76の外径面76aおよび内径面76bに開口した径方向溝76dで構成されている。また、連通路80(径方向溝76d)は、各突状部77の内径端部の周方向両側に設けられている。
【0067】
このような構成により、モータ回転軸24の外径側に吐出され、ケーシング22の第1収容室71の内周壁面に到達した潤滑油を、
図4中に黒塗り矢印で示すように、突状部77の側面、さらには連通路80(径方向溝76d)に沿って径方向内側に誘導案内し、第2の転がり軸受36dに供給することができる。従って、第2の転がり軸受36bが過剰に発熱して焼き付き等の致命的な不具合が発生するのを効果的に防止し、耐久性および信頼性に優れたインホイールモータ駆動装置21を実現することができる。
【0068】
なお、モータ回転軸24の外径側に吐出され、第1収容室71の内周壁面に到達した潤滑油は、主に重力によって案内手段Fに沿って内径側(第2の転がり軸受36b)に向けて誘導される。そのため、誘導手段Fを構成する突状部77は、隔壁73のうち、モータ回転軸24の鉛直方向上側に配置される周方向領域に形成されていれば足りるが、本実施形態では、
図4に示すように、突状部77を隔壁73の全周に亘って周方向等間隔に複数(図示例は8本)形成している。これにより、ケーシング22の剛性を高めることができる。すなわち、突状部77は、ケーシング22の剛性を高める補強リブとしても機能させることができる。
【0069】
以上の構成を有するインホイールモータ駆動装置21の全体的な作動原理を、
図1および
図3を参照しながら説明する。
【0070】
モータ部Aでは、例えば、ステータ23aのコイルに交流電流を供給することによって生じる電磁力を受けて、永久磁石又は磁性体によって構成されるロータ23bが回転する。これに伴って、モータ回転軸24に連結された減速機入力軸25が回転すると、曲線板26a、26bは減速機入力軸25の回転軸心を中心として公転運動する。このとき、外ピン27は、曲線板26a,26bの外周部に設けられた曲線形状の波形と係合し、曲線板26a、26bを減速機入力軸25の回転とは逆向きに自転回転させる。
【0071】
貫通孔30aに挿通された内ピン31は、曲線板26a,26bの自転運動に伴って貫通孔30aの内壁面と当接する。これにより、曲線板26a,26bの公転運動が内ピン31に伝わらず、曲線板26a,26bの自転運動のみが減速機出力軸28を介して車輪用軸受部Cに伝達される。このとき、減速機入力軸25の回転が減速部Bによって減速されて減速機出力軸28に伝達されるので、低トルク、高回転型のモータ部Aを採用した場合でも、駆動輪(後輪)14に必要なトルクを伝達することが可能となる。
【0072】
上記構成の減速部Bの減速比は、外ピン27の数をZ
A、曲線板26a,26bの外周部に設けた波形の数をZ
Bとすると、(Z
A−Z
B)/Z
Bで算出される。
図2に示す実施形態では、Z
A=12、Z
B=11であるので、減速比は1/11と非常に大きな減速比を得ることができる。
【0073】
このように、多段構成とすることなく大きな減速比を得ることができる減速部Bを採用することにより、コンパクトで高減速比のインホイールモータ駆動装置21を得ることができる。また、外ピン27および内ピン31を回転自在に支持する転がり軸受(針状ころ軸受)61,31aを設けたことにより、曲線板26a,26bと外ピン27および内ピン31との間の摩擦抵抗が低減されるので、減速部Bの伝達効率が向上する。
【0074】
以上の構成により、軽量・コンパクトでありながら、静粛性(NVH特性)や耐久性に優れたインホイールモータ駆動装置21を実現することができる。従って、本実施形態のインホイールモータ装置21を電気自動車11に搭載すれば、ばね下重量を抑えることができる。その結果、走行安定性およびNVH特性に優れた電気自動車11を実現することができる。
【0075】
以上、本発明の第1実施形態に係るインホイールモータ駆動装置21について説明を行ったが、本発明の実施の形態はこれに限られない。以下、本発明の他の実施形態に係るインホイールモータ駆動装置21について説明を行うが、以下では、第1実施形態と異なる点についてのみ詳細に説明する。
【0076】
図7に本発明の第2実施形態に係るインホイールモータ駆動装置21の部分拡大図を示す。この実施形態のインホイールモータ駆動装置21が第1実施形態に係るインホイールモータ駆動装置21と異なる主な点は、隔壁73(厳密には、隔壁73に設けたボス部76)との間に、第2の転がり軸受36b(の外輪36b1)を軸方向に挟持固定する中空円盤状の押え部材78を備える点、および誘導手段Fを構成する連通路80を、ボス部76と押え部材78の協働で形成した点にある。
【0077】
より詳細に述べると、押え部材78は、ボルト等の締結部材によって、そのアウトボード側の端面78a(
図8(b)参照)をボス部76のインボード側の端面76cに当接させた状態でボス部76に固定されている。これにより、第2の転がり軸受36bの外輪36b1は、隔壁73のボス部76に一体的に設けられた鍔部76eと押え部材78とで軸方向に挟持固定される。このようにすれば、モータ回転軸24の回転に伴って第2の転がり軸受36bで生じる可能性がある異音や振動を効果的に抑えることができる。また、ボス部76の内周側と外周側とを連通させる連通路80は、
図8(b)にも示すように、ボス部76の端面76cに形成した径方向溝76dと、押え部材78のアウトボード側の端面78aに設けられ、外径端部および内径端部が押え部材78の外径面および内径面に開口した径方向溝78bとで形成される。
図7からも明らかなように、押え部材78は、第2の転がり軸受36bの外輪36b1の内径面を超える位置まで内径側に延びている。
【0078】
以上の構成により、第1実施形態に係るインホイールモータ駆動装置21と同様に、モータ回転軸24の外径側に吐出され、ケーシング22の第1収容室71の内周壁面に到達した潤滑油を、
図8(a)中に黒塗り矢印で示すように、突状部77の側面、さらには連通路80に沿って径方向内側に誘導案内し、第2の転がり軸受36bに供給することができる。特に、本実施形態では、押え部材78(連通路80を構成する径方向溝78b)が第2の転がり軸受36bの外輪36b1の内径面を超える位置まで内径側に延びているので、第2の転がり軸受36bのうち、ボール36b3と外輪36b1および内輪36b2との摺動部に効率良く潤滑油を供給することができる。そのため、第2の転がり軸受36bを一層効率良く潤滑・冷却することができる。この場合、連通路80は、押え部材78のアウトボード側の端面78aに設けた径方向溝78bのみで構成することも可能である。すなわち、ボス部76の端面76cに形成した径方向溝76dは省略しても構わない。
【0079】
なお、押え部材78は、例えば金属板等の板材で形成するのが好ましい。板材であれば、板厚を変えることで押し付け力を簡単に変化させることができることに加え、形状変更の要請にも容易に対応できる。押え部材78の板厚は、0.5〜5mmが好ましい。板厚が0.5mm以下では押し付け力が小さく、第2の転がり軸受36bの保持力が小さくなるため不適であり、一方、板厚が5mm以上では、インホイールモータ駆動装置21に対する軸方向のコンパクト化の要請に対応することが難しくなる。
【0080】
図9に、本発明の第3実施形態に係るインホイールモータ駆動装置21の横断面図を示す。この実施形態のインホイールモータ駆動装置21は、
図7および
図8(a)(b)を参照して説明した第2実施形態に係るインホイールモータ駆動装置21の変形例であり、誘導手段Fを構成する連通路80の形成態様が異なっている。具体的には、ボス部76の端面76cに形成した径方向溝76dと、径方向溝76dの形成位置で押え部材78の両端面に開口した切欠き78cとで連通路80を構成している。すなわち、詳細な図示は省略しているが、押え部材78のアウトボード側の端面78aは、径方向溝78bが省略された平滑面に形成されている。
【0081】
このような構成であっても、第1実施形態に係るインホイールモータ駆動装置21と同様に、モータ回転軸24の外径側に吐出され、ケーシング22の第1収容室71の内周壁面に到達した潤滑油を、
図9中に黒塗り矢印で示すように、突状部77の側面、さらには連通路80に沿って径方向内側に誘導し、第2の転がり軸受36bに供給することができる。
【0082】
押え部材78の変形例を
図10に示す。この押え部材78は、アウトボード側の端面78aに、アウトボード側(軸方向)に突出し、外輪36b1の端面と当接する複数の突出部78d(同図中に斜線ハッチングを示す)を有する。このような構成の押え部材78であれば、複数の突出部78dが個々に押し付け力を付与するので、外輪36b1の端面に対する追従性がよく、安定した押し付け力を与えることができる。なお、このような押え部材78を使用する場合、誘導手段Fを構成する連通路80は、
図9に示した第3実施形態と同様に、周方向で隣り合う2つの突出部78d,78d間に形成された切欠き部(径方向外側に後退した部分)と、ボス部76の端面76cに形成した径方向溝76dとで形成することができる。つまり、
図9に示した押え部材78のアウトボード側の端面78aにも、
図10に示すような突出部78dを設けることができる(図示省略)。
【0083】
以上、本発明の実施形態に係るインホイールモータ駆動装置21について説明を行ったが、インホイールモータ駆動装置21には、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を施すことが可能である。
【0084】
例えば、以上では、回転ポンプ51としてサイクロイドポンプを採用したが、これに限ることなく、減速機出力軸28の回転を利用して駆動するあらゆる回転型ポンプを採用することができる。さらには、回転ポンプ51を省略して、遠心力のみによって潤滑油を循環させるようにしてもよい。
【0085】
また、以上では、減速機入力軸25の軸方向二箇所に偏心部25a,25bを設けたが、偏心部の設置個数は任意に設定することができる。例えば、偏心部は、減速機入力軸25の軸方向三箇所に設けることができ、この場合、各偏心部は、減速機入力軸25の回転に伴って生じる遠心力を打ち消し合うように120°位相を変えて設けるのが好ましい。また、減速部Bには、サイクロイド減速機に限らず、遊星歯車減速機などの他の減速機を採用してもよい。
【0086】
また、以上では、減速機出力軸28に固定した内ピン31と、曲線板26a,26bに設けた貫通孔30aとで運動変換機構を構成したが、運動変換機構は、減速部Bの回転をハブ輪32に伝達可能な任意の構成とすることができる。
【0087】
以上で説明した実施形態における作動の説明は、各部材の回転に着目して行ったが、実際にはトルクを含む動力がモータ部Aから後輪14に伝達される。したがって、上述のように減速された動力は高トルクに変換されたものとなっている。
【0088】
また、モータ部Aに電力を供給してモータ部を駆動させ、モータ部Aからの動力を後輪14に伝達させる場合を示したが、これとは逆に、車両が減速したり坂を下ったりするようなときは、後輪14側からの動力を減速部Bで高回転低トルクの回転に変換してモータ部Aに伝達し、モータ部Aで発電してもよい。さらに、ここで発電した電力は、バッテリーに蓄電しておき、モータ部Aの駆動用電力や、車両に備えられた他の電動機器の作動用電力として活用することもできる。
【0089】
また、以上では、モータ部Aにラジアルギャップモータを採用した構成に本発明を適用したが、本発明は、モータ部Aに、ステータとロータとを軸方向の隙間を介して対向させるアキシャルギャップモータを採用した場合にも好ましく適用できる。
【0090】
さらに、本発明に係るインホイールモータ駆動装置は、後輪14を駆動輪とした後輪駆動タイプの電気自動車11のみならず、前輪13を駆動輪とした前輪駆動タイプの電気自動車や、前輪13および後輪14を駆動輪とした4輪駆動タイプの電気自動車に適用することもできる。なお、本明細書中で「電気自動車」とは、電力から駆動力を得る全ての自動車を含む概念であり、例えば、ハイブリッドカー等をも含む。
【0091】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々の形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。